(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】消化器サンプリングのためのカプセル
(51)【国際特許分類】
A61B 10/02 20060101AFI20241015BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A61B10/02 160
A61B10/00 500
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024025070
(22)【出願日】2024-02-22
(62)【分割の表示】P 2022536805の分割
【原出願日】2020-12-16
【審査請求日】2024-03-04
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ネジャティ,シーナ
(72)【発明者】
【氏名】ラヒミ,ラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ベルマ,モヒト シン
(72)【発明者】
【氏名】ワイミン,ホセ フェルナンド エイ/ケイ/エイ ホセ フェルナンド ワイミン アルメンダレス
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジアンシャン
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特許第7444991(JP,B2)
【文献】特表2019-528117(JP,A)
【文献】国際公開第2019/081539(WO,A1)
【文献】特開2019-150587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00-10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスを製造する方法であって、
カプセルハウジングの、サンプリング開口部を有する第1のハウジング部分、および、第2のハウジング部分を提供することであって、これらのハウジング部分は組み合わせられるように構成されて空洞を有する前記カプセルハウジングを形成し、前記サンプリング開口部が、前記空洞と前記カプセルハウジングの外部との間の流体連絡を提供する、提供すること、
ポリマーを溶液に溶解すること、
前記サンプリング開口部を遮断するホルダー上に第1のハウジング部分を配置して、前記溶液が前記開口部を通過するのを防ぎながら、前記溶液を第1のハウジング部分の上に堆積させること、
および、
前記溶液を乾燥させて、前記サンプリング開口部上に腸溶コーティングを形成すること
、
を含む、方法。
【請求項2】
前記腸溶コーティングが、前記カプセルハウジングの一部分のみに形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腸溶コーティングが、平面として形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記空洞内にサンプリングヒドロゲルを提供することをさらに含み、サンプル流体に曝されると、前記サンプリングヒドロゲルが、前記サンプル流体を吸収し、前記空洞内で膨張し、その後の分析のために前記サンプル流体を貯蔵するように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
腸溶コーティングが、円形である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ホルダーが、シリコーンホルダーである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のハウジング部分および前記第2のハウジング部分が、スクリューインターフェース、スナップフィットまたは締まりばめのうちの少なくとも1つによって互いに取り付けられるように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
サンプリングヒドロゲルを前記第1のハウジング部分および前記第2のハウジング部分のうちの少なくとも1つの中に配置し、次いで、前記サンプリングヒドロゲルが前記空洞内に位置するように、前記第1のハウジング部分を前記第2のハウジング部分に取り付けることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のハウジング部分を前記第2のハウジング部分に取り付ける前に、前記サンプリングヒドロゲルと前記サンプリング開口部との間に密封膜を配置することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記腸溶コーティングが、生分解性であり、当該生分解性コーティングの分解によって前記サンプリング開口部が曝露され、前記空洞への流体の流入が可能になるように形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生分解性コーティングが、消化管内の所定の位置で分解するように構成されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のハウジング部分の外面および前記第2のハウジング部分の外面をプラズマ処理して親水性コーティングを形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示された実施形態は、非侵襲的消化器サンプリングのためのカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの研究が、人間の健康を支配する病態生理学において腸内細菌叢が重要な役割を果たしていることを見出した。これらの研究の多くは、人間の代謝、栄養摂取、経口投与された治療法の有効性、ならびに免疫系および神経系の機能に対する腸内細菌叢の影響を特定した。例えば、多くの研究は、細菌叢の不均衡(腸内毒素症)と、米国で約3000万人が罹患している疾患である糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームなどの種々の疾患との間に相関関係があることを見出した。同様に、腸内細菌が神経系の発達および維持に影響を与え得る考えられる方法に関する最近の洞察は、腸内細菌叢の組成と、不安、うつ病などの精神神経障害、および腸内毒素症の調節との関連を示唆している。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態では、消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスは、空洞の境界を示すカプセルハウジングと、カプセルハウジング内に形成され、空洞とカプセルハウジングの外部との間の流体連絡を提供するサンプリング開口部と、空洞内に位置するサンプリングヒドロゲルと、を含む。サンプル流体に曝されると、サンプリングヒドロゲルは、サンプル流体を吸収し、空洞内で膨張し、その後の分析のためにサンプル流体を貯蔵するように構成されている。このデバイスは、サンプリングヒドロゲルとサンプリング開口部との間の空洞内に位置する密封部材をさらに含む。空洞内のサンプリングヒドロゲルの膨張は、密封部材を加圧してサンプリング開口部と係合させて、空洞を密封する。
【0004】
別の実施形態では、患者の消化管のパッシブサンプリングのための方法は、患者に摂取可能なデバイスを投与することを含む。摂取可能なデバイスは、空洞の境界を示すカプセルハウジングと、カプセルハウジング内に形成され、空洞とカプセルハウジングの外部との間の流体連絡を提供するサンプリング開口部と、空洞内に位置するサンプリングヒドロゲル、サンプリングヒドロゲルとサンプリング開口部との間の空洞内に位置する密封部材と、を含む。この方法はまた、サンプリングヒドロゲルを、患者の消化管内のサンプル流体に曝露することと、サンプル流体をサンプリングヒドロゲルに吸収させることと、サンプル流体の吸収を介して、空洞内のサンプリングヒドロゲルを膨張させることと、サンプリングヒドロゲルの膨張を介して密封部材を加圧してサンプリング開口部に係合させることにより、空洞を密封することと、を含む。この方法は、デバイスが患者の消化管を通過した後、デバイスを回収することと、デバイスを回収した後に、サンプリングヒドロゲルからサンプル流体を回収することと、をさらに含む。
【0005】
別の実施形態では、消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスは、空洞の境界を示すカプセルハウジングと、カプセルハウジング内に形成され、空洞とカプセルハウジングの外部との間の流体連絡を提供するサンプリング開口部と、を含む。溶液キャストされた腸溶コーティングがサンプリング開口部を覆い、腸溶コーティングの分解が、サンプリング開口部を曝露させて、空洞への流れを可能にする。
【0006】
別の実施形態では、消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスを製造する方法は、空洞およびサンプリング開口部を有するカプセルハウジングを提供することを含み、サンプリング開口部は、空洞とカプセルハウジングの外部との間の流体連絡を提供する。この方法は、溶液キャスティング技術を用いてサンプリング開口部上に腸溶コーティングを形成して、サンプリング開口部を覆うことをさらに含む。
【0007】
前述の概念および以下で検討される追加の概念は、任意の適切な組み合わせで構成され得ることが認められるべきである。なぜなら、本開示はこの点で限定されないからである。さらに、本開示の他の利点および新規の特徴は、添付の図面に関連して考慮されるとき、様々な非限定的な実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
添付の図面は、縮尺どおりに描かれていることは意図されていない。図面において、様々な図に図示される同一またはほぼ同一の各構成要素は、同様の番号で表され得る。明確にするために、すべての図面においてすべての構成要素に符号が付けられているわけではないことがある。図面では、
【0009】
【
図1】いくつかの実施形態による、消化管を通って移動するカプセルを示す概略図である。
【
図1A】消化管の第1の位置にあるカプセルを示す
図1の拡大図である。
【
図1B】消化管の第2の位置にあるカプセルを示す
図1の別の拡大図である。
【
図2A】いくつかの実施形態による、カプセルの分解図である。
【
図2B】いくつかの実施形態による、カプセルの分解図である。
【
図3】一実施例による、カプセルの構成要素の写真である。
【
図4】カプセルに組み立てた
図3の部品の写真である。
【
図5】一実施例による、ヒドロゲル膨潤実験の写真を示す。
【
図6】一実施例による、異なるAA/AM比で作製されたヒドロゲルの経時的な膨潤比を示すプロットである。
【
図7】一実施例による、ヒドロゲル膨張力実験の写真を示す。
【
図8】一実施例による、ヒドロゲルの膨潤中に発生する力のプロファイルを示すプロットである。
【
図10】一実施例による、異なる表面処理の経時的な接触角を示すプロットである。
【
図11】一実施例による、漏れ試験の概略図である。
【
図12】
図11の漏れ試験における伝導率の経時変化を示すプロットである。
【
図13】別の実施例による、漏れ試験の実験セットアップの概略図である。
【
図14】
図13の漏れ試験からのUV分光測定のプロットである。
【
図15A】一実施例による、脱イオン水に曝された後のヒドロゲルのSEM画像である。
【
図15C】一実施例による、TSB/PBS溶液への曝露後のヒドロゲルのSEM画像である。
【
図15D】上記のSEM画像の拡大図を示すSEM画像である。
【
図16】一実施例による、異なる溶液に曝露されたヒドロゲルおよび密封されたカプセルのCFU数を有するTSB/寒天プレートの写真を示す。
【
図17】
図16のヒドロゲルのCFU/ml数を示す棒グラフである。
【
図18】[
図18A]pH1.2の緩衝液中の異なる腸溶性コーティングポリマーの染料放出を示すプロットである。 [
図18B]pH3.0の緩衝液中の腸溶性コーティングポリマーの染料放出を示すプロットである。 [
図18C]pH6.8の緩衝液中での腸溶コーティングポリマーの染料放出を示すプロットである。
【
図19A】乾燥ヒドロゲルおよび4時間膨潤したヒドロゲルの写真である。
【
図19B】pH6.8および7.4の緩衝液中のヒドロゲルの経時的な膨潤比を示すプロットである。
【
図19C】ヒドロゲルの経時的な伸びを示すプロットである。
【
図19D】ヒドロゲルがPDMS膜に接触したときのヒドロゲルの圧縮力プロファイルを示すプロットである。
【
図20A】緑色蛍光タンパク質(GFP)および脱イオン水(DI)で満たされた2つのマイクロ遠心機、ならびに溶液に2時間曝された対応するヒドロゲルを示す写真である。
【
図20B】脱イオン水に曝された対照サンプルの拡大図を示す画像である。
【
図20C】GFPに曝されたサンプルの拡大図を示す画像である。
【
図20D】経時的なGFPの抽出プロファイルを示すプロットである。
【
図21A】562nmに吸光度のピークを有する、1:10に希釈した試験環境濃度のUV-Vis吸収を示すプロットである。
【
図21B】ウシ血清アルブミン(BSA)の検量線を示すプロットである。
【
図21C】試験環境濃度と比較した2時間後の抽出されたBSAの濃度を示すプロットである。
【
図21D】カルプロテクチンの標準曲線を示すプロットである。
【
図21E】試験環境濃度と比較した2時間後のカルプロテクチンの抽出濃度を示すプロットである。
【
図22-1】[
図22A]異なる色の染料を用いて、消化管に沿ったpH変化をシミュレートする種々のpH緩衝液を含む4つのフラスコの写真であり、左から右へ、唾液pH7、胃pH3、小腸pH6.8、および結腸pH7.4(脱イオン水)である。 [
図22B]胃の中で2時間後に取り出して開いたカプセルの写真である(pH3緩衝液)。 [
図22C]小腸(pH6.8緩衝液)中で2時間後に取り出して開封したカプセルの写真である。
【
図22-2】[
図22D]カプセルを保持する前後のpH3媒体のUV-Vis吸光度のプロットである。 [
図22E]カプセルを保持する前後のpH6.8媒体のUV-Vis吸光度のプロットである。 [
図22F]カプセルを保持する前後の脱イオン水媒体のUV-Vis吸光度のプロットである。
【
図23A】インビトロでの抽出されたBSAの濃度を示す棒グラフである。
【
図23B】インビトロでの抽出されたカルプロテクチンの濃度を示す棒グラフである。
【
図24A】内部に2つのサンプリングカプセルを有するカルプロテクチンを装填した腸液で満たされた小腸の一部の写真である。
【
図24B】腸からのカプセルの回収を示す写真である。
【
図24C】採取した腸液をTris緩衝液中で2時間抽出した分解カプセルの写真である。
【
図24D】2つの試験環境濃度の抽出濃度を示す棒グラフである。1つは低濃度のカルプロテクチン、もう1つは高濃度のカルプロテクチンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ヒト微生物叢のサンプリングは、微生物叢-薬物相互作用のメカニズム、ならびにこの複雑な相互作用が薬効およびバイオアベイラビリティに影響を与え得る程度を理解する上で不可欠な側面になりつつある。ヒト腸内微生物叢の構造および機能に関して知られていることの多くは、糞便サンプル由来の細菌の生息域外培養および/または配列決定から確認されてきた。しかしながら、利用可能でありかつ糞便サンプルから培養可能であるのは腸内細菌の小さな画分にすぎないので、消化(GI)管からの微生物の直接サンプリングを可能にするであろうツールを開発するための努力が払われてきた。例えば、結腸内視鏡検査および/または胃内視鏡検査法が現在使用されているが、これらの方法は消化管全体の特定のセクションでのサンプリングに限定されており、患者に不快感を与え、コンプライアンスの低下につながり得る侵襲的アプローチである。他のアプローチは、消化管内の種々の標的位置でサンプルを収集する機能を備えたスマート機能カプセルを用いてきたが、これらの方法は、従来の結腸内視鏡検査および胃内視鏡検査に関連するいくつかの制限に対処し得る。さらに、カプセルベースのデバイスは、臨床現場で投与される必要なしに、患者の快適さを向上させ得る。例えば、PillCam(商標)カプセル内視鏡検査(CE)技術は、消化管全体の到達困難な領域から画像を収集して、不明瞭な消化器出血、腫瘍、クローン病、血管形成異常、セリアック病、およびポリポーシスなどの小腸に関連する疾患を診断するために使用される。ただし、この技術には、消化管を通過するときにサンプルを収集して保存する機能がない。
【0011】
腸内細菌叢をサンプリングするための異なる方法で新しいカプセルを開発する取り組みは、アクティブデバイスおよびパッシブデバイスの2つの主要なカテゴリに分類され得る。アクティブデバイスでは、作動およびサンプリングのメカニズムは、カプセル内にサンプルを収集して保存する様々なプランジャー、ピストン、生検鉗子などを作動させるために必要なエネルギーを提供するオンボードバッテリーを使用することによってしばしば実現される。しかしながら、このようなデバイスでは、バッテリーがしばしばカプセルの体積の大部分を占め、このことにより、サンプルを保管できるスペースが制限され得、また、アクティブデバイスは通常、故障のリスクが高く、重度の腐食性傷害および液化壊死を引き起こし得る腐食性電解質の漏れの可能性がある。アクティブデバイスに関連するこれらおよび他の欠点を回避するために、種々のパッシブ作動サンプリングメカニズムアプローチが活用されてきたが、それによって、カプセルをよりコンパクトで経済的に実行可能にし、安全関連の問題を少なくすることが可能になる。このような設計では、カプセルは平均速度1~2cm/分で蠕動運動を介して消化管内を移動し、サンプルは毛細管現象または圧力差力などの単純なパッシブ作動によって収集される。しかしながら、本発明者らは、既存のパッシブデバイスによってまだ対処されていない多くの重要な設計上の考慮事項があることを認識しかつ評価してきた。例えば、いくつかの既存のアプローチは、カプセル内に十分に密閉された真空チャンバーを必要とするカプセルアセンブリに依存するが、このことは、デバイスの複雑さを大幅に増加させる。他のアプローチは、消化管の上流に伸びるストリングを介したサンプリングデバイスの回収に依存してきたが、これは患者に不快感を引き起こし得る。さらに、ほとんどの既存のパッシブサンプリングデバイスには、ターゲット位置でのサンプリングが完了した後、収集されたサンプルを密封および保護する機能がないため、そのようなデバイスは、消化管の特定の部分から局在化したサンプルを提供することが不可能である。
【0012】
上記を考慮して、本発明者らは、単純な構造を提供し、かつ、サンプルが消化管の所望の部分から収集されるとカプセルの密封を可能にするパッシブサンプリング消化器デバイスに関連する多くの利点を認識および評価してきた。例えば、いくつかの実施形態では、パッシブサンプリングデバイスは、カプセルが消化管を通って移動するように、患者によって摂取され得るカプセルを含み得る。カプセルは、空洞を規定するカプセルハウジングと、空洞内に位置する吸収剤サンプリングヒドロゲルとを含み得る。カプセルハウジングは、消化管からの流体(例えば、微生物またはカルプロテクチンなどのタンパク質を含む流体)が空洞に流れ込み、そこでサンプリングヒドロゲルによって吸収されることを可能にするサンプリング開口部を含み得る。流体を吸収すると、サンプリングヒドロゲルは空洞内で膨張し、開口部とヒドロゲル材料との間の空洞に位置する密封部材(例えば、密封膜)を加圧して開口部と係合させて開口部を密封し、それによって後続の流体がカプセルに出入りすることを制限し得る。このように、本明細書に開示されるデバイスは、カプセル内に微生物サンプルを保存するための媒体として、またサンプリングが完了したらカプセルを密封するためのパッシブ機械的作動を提供する手段として、サンプリングヒドロゲルを利用し得る。さらに、本発明者らは、カプセルが密封された後、カプセル内の水和サンプリングヒドロゲルが、カプセルを回収する前にサンプリングされた細菌が生き残るための栄養素を備えた理想的な生活環境を提供し得ることを評価した。さらに、いくつかの態様によれば、カプセルの密封は、カプセル内で収集されたサンプルを消化管内に位置する過酷な環境から保護するのに役立ち、それによって、その後の分析のためにサンプリングヒドロゲルサンプル中に貯蔵された細菌サンプルを保存する。
【0013】
いくつかの実施形態では、カプセルは、カプセルハウジングの少なくとも一部分の上に生分解性コーティングを含み得る。例えば、生分解性コーティングは、消化管の長さに沿った所望の標的位置で溶解するように構成されている腸溶コーティングであり得る。一実施形態では、生分解性コーティングは、開口部が形成されるカプセルハウジングの一部分の上に提供される。したがって、生分解性コーティングは、カプセルが標的位置に到達するまで開口部を密封し、その後分解して、腸液が開口部を通ってカプセル空洞に入ることを許容し得る。当業者によって理解されるように、本開示によるカプセルは、任意の適切な生分解性腸溶コーティングを含み得ることを理解されたい。例えば、適切なコーティング材料には、ポリメタクリル酸-コ-エチルアクリレート(EDURAGIT L100-55)、ポリメタクリル酸-コ-メチルメタクリレート(EUDRAGIT L100)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP-55)、ヒプロメロースフタレート(HPMCP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、およびポリビニルアセテートフタレート(PVAP)などのpH感受性高分子材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
いくつかの実施形態において、腸溶コーティングは、溶液キャスティング技術を用いて形成される。このような技術では、ポリマーを溶液に溶解し、溶液をキャップのサンプリング開口部にコーティングする。いくつかの実施形態では、サンプリングカプセルのキャップは、腸溶コーティングがキャップ上に堆積されて腸溶コーティングが開口部を通過するのを防ぐ間、キャップの開口部を遮断するシリコーン(例えば、PDMS)ホルダー上に配置される。溶液は高い粘度を有し得、また、すぐに乾き得る。コーティングが乾いた後、キャップは、ホルダーから持ち上げられ得る。溶液はシリコンホルダーから簡単に分離され得て、コーティングがキャップに残り、キャップの開口部を覆うことを許容する。いくつかの実施形態では、コーティングは、衝突時に広がって表面を濡らす制御されたサイズおよび運動量を有する大きな液滴を放出することを含むドロップキャスティングによって形成され得る。いくつかの実施形態では、ドクターブレードを用いて、均一な厚さのフィルムを作成することができる。ナイフコーティングまたはブレードコーティングとしても知られるドクターブレーディングは、表面上でブレードを動かす(またはブレードの下の表面を動かす)ことを含む。ブレードと基板との間の小さなギャップは、ブレードが通過するときにどのくらいの溶液が通過し得るかを決定し、溶液を基板全体に均一に広げる。ドロップキャスティングおよびドクターブレードプロセスの両方で、腸溶コーティングがカプセルキャップのサンプリング開口部を覆い、消化管全体に目的とする溶解を提供して、目的の活性化およびサンプリングを可能にする。
【0015】
上記のように、カプセルは、サンプリングヒドロゲルが腸液サンプルを吸収し、カプセルの空洞内で膨張した後、サンプリングヒドロゲルによって加圧されてカプセルのサンプリング開口部と係合させられ得る密封部材を含み得る。いくつかの態様によれば、密封部材は、カプセルの空洞と外部環境との間に所望のガス透過性を提供するように構成され得る。例えば、いくつかの実施形態では、密封部材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)膜として形成され得、これは、消化管とカプセルの内部(すなわち、空洞)との間の天然ガス交換を許容するガス透過性を提供し得、これは、サンプリングされた細菌の自然な代謝を維持し、カプセルが密封された後のそれらの生存を促進するのに役立ち得る。密封部材に適した他の材料には、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリルオレフィンコポリマー(COC)、およびパーフルオロポリエーテル(PFPE)が含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
特定の実施形態に応じて、本明細書に記載のカプセルは、カプセルが密封部材を介して密封された後、その後の分析のために生存細菌を長期間生存可能に維持することが可能であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、サンプリングヒドロゲルおよび/または密封部材は、サンプリング流体が分析のために回収される前に、10時間、少なくとも20時間、または少なくとも24時間以上前に、サンプル流体中の生存細菌を少なくとも1時間、少なくとも5時間生存可能に維持する(すなわち、生存細菌を生き続ける)ように構築および配置され得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、デバイスは、体内の状態を調査するためにタンパク質または他のバイオマーカーを収集するために使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、デバイスを用いて、炎症性腸疾患(IBD)を診断するために消化管内のカルプロテクチンを収集し得る。カルプロテクチンは、消化管に炎症があるときに好中球により放出されるタンパク質である。
【0018】
消化管を通過した後、密封されたカプセルは、患者によって排泄され、その後、そこに含まれる腸内微生物叢サンプルを分析するために回収され得る。いくつかの態様によれば、カプセルは、回収された後の容易な分解を可能にするように構築および配置され得、それによって、サンプルを含むサンプリングヒドロゲルの容易な回収を可能にする。例えば、いくつかの実施形態では、カプセルハウジングは、カプセルの空洞へのアクセスを可能にするために互いに取り外し可能に固定され得る2つ以上のハウジング部分から形成され得る。1つの例示的な実施形態では、カプセルハウジングは、ねじ山付きインターフェースを介して互いに付着する2つのカプセル部分から形成され得、これにより、カプセルに含まれる細菌サンプルの将来の培養および分析のためにカプセル内のサンプリングヒドロゲルが除去され得るように、排泄によって回収された後、カプセルを容易に分解することが許容され得る。他の適切なインターフェースには、スナップフィットインターフェース、および摩擦または締まりばめインターフェースが含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
いくつかの態様によれば、カプセルハウジングの様々な構成要素を組み立てる前に、構成要素を処理して、カプセルハウジングに親水性コーティングを提供し得る。本発明者らは、そのような処理が、サンプリング開口部を通って、サンプリング流体がそこに含まれるヒドロゲル材料によって吸収され得る空洞の内部へのサンプル流体の流れを促進するのに役立ち得ることを認識し、評価した。特に、カプセルハウジングの表面上の親水性コーティングは、腸からカプセルの狭いサンプリング開口部への流体の連続的な引き込みを提供するのを助けることができる。例えば、いくつかの実施形態では、親水性表面修飾は、以下でより詳細に説明するように、空気プラズマ処理、それに続くポリエチレングリコール(PEG)処理を用いて、ハウジング構成要素の表面を活性化することによって実行され得る。
【0020】
本明細書に開示されるヒドロゲル材料は、それらの構造を維持しながら大量の水を吸収することができる親水性ポリマーネットワークから構成され得る。これらのポリマーネットワークは、典型的には、共有結合、水素結合、ファンデルワールス相互作用、および/または物理的絡み合いを介して架橋される。本明細書に開示されるデバイスは、吸収能力、ならびにヒドロゲルの機械的特性の両方を利用して、消化管に沿った標的位置からサンプルを受動的に抽出および確保できる非侵襲的サンプリングデバイスを提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、カプセル内のサンプリングヒドロゲルは、アクリル酸(AA)およびアクリルアミド(AM)モノマーの組み合わせから合成され得る。本開示は、ヒドロゲル材料を形成するためのこれらのモノマーの特定の比率に限定されないことを理解されたい。例えば、これらのモノマーの適切な比率には、10%AA/90%AM、30%AA/70%AM、50%AA/50%AM、70%AA/30%AM、または90%AA/10%AMが含まれ得るが、これらに限定されない。以下でより詳細に説明するように、ヒドロゲル材料は、これらのモノマーを、脱イオン(DI)水、ならびに架橋剤としてのメチレンビス-アクリルアミド(MBA)および開始剤としての過硫酸アンモニウム(AP)と混合することによって形成することができる。特定のヒドロゲル材料が本明細書に記載されているが、他のヒドロゲル材料、例えば他のアクリルポリマーに基づくヒドロゲル(例えば、アクリル酸、アクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、および/もしくはN,N-ジエチルアクリルアミド)ならびに/または非アクリルポリマーの組み合わせが適切であり得ることを理解するべきである。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、アクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)の組み合わせから合成され得る。
【0022】
本開示によるカプセルハウジングは、任意の適切な生体適合性材料から作製され得ることが評価されるべきである。例えば、いくつかの実施形態では、カプセルハウジングは、メタクリレートポリマーなどの生体適合性ポリマー材料から形成され得る。他の適切な材料には、Dental LT Clear、MED625FLX、およびMED610などの市販の生体適合性ポリマー、ならびに/または生体適合性を提供するためにPEGで処理された他のポリマー材料が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本開示は、カプセルハウジングを形成するための特定の方法に限定されないことを理解されたい。例えば、以下でより詳細に説明されるいくつかの実施形態は、3D印刷プロセスによって形成されたカプセルハウジングを利用する。他の適切な製造方法には、キャスティング方法、成形方法(例えば、射出成形)、または当業者によって理解されるであろう他の方法が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0023】
特定の実施形態に応じて、カプセルは任意の適切な寸法を有し得る。例えば、円筒形カプセルは、約9mm~約23mmの長さ、および約4.5mm~約10mmの直径を有し得る。例えば、一実施形態では、カプセルは、約9mmの直径および約15mmの長さを有し得、これは、標準的な000サイズのゼラチンカプセル(9.97×26.14mmの寸法を有する)よりも小さい。さらに、カプセルハウジングに形成されたサンプリング開口部は、カプセル内に含まれる密封部材のサイズに基づいて選択された直径を有し得る。例えば、いくつかの実施形態では、サンプリング開口部の直径は、密封部材の直径よりも少なくとも1mm小さくなるように選択することができ、これは、密封部材によるカプセルの適切な密封を確実にするのを助けることができる。例示的な一実施形態では、サンプリング開口部は、約5mmの直径を有し得る。
【0024】
図面を参照すると、特定の非限定的な実施形態がさらに詳細に説明されている。本開示は本明細書に説明された特定の実施形態のみに限定されないため、これらの実施形態に関して説明される様々なシステム、構成要素、特徴、および方法は、個別におよび/または任意の所望の組み合わせで使用され得ることを理解されたい。
【0025】
図1は、消化管100内のサンプリングカプセル102の概略図である。
図1Aに示されるように、カプセル102は、カプセルのサンプリング開口部108を密封する生分解性コーティング106(例えば、腸溶コーティング)を含む。このようにして、生分解性コーティングは、サンプリングヒドロゲル110および密封部材112を含む、カプセルの空洞104内の構成要素を保護し、カプセルが消化管内の標的位置に到達するまでサンプリングを遅らせる。図示の実施形態では、生分解性コーティングは、サンプリング開口部108を覆うように、カプセル102の一部分のみを覆う。しかしながら、生分解性コーティングが最初にカプセル102の大部分、またはカプセル102の外部全体を取り囲む配置など、他の配置が適切であり得ることを理解すべきである。
図1Bに示されるように、カプセル102が目的位置に到達すると、コーティング106は分解し、細菌114を含む消化器流体がカプセルに入り、そこで流体がサンプリングヒドロゲル110によって吸収されることを許容する。流体を吸収すると、サンプリングヒドロゲルは、空洞104内で膨張および膨張し、空洞の実質的に全容積を満たす。さらに、サンプリングヒドロゲルの膨張は、密封部材112をサンプリング開口部と接触させるように加圧し、それによって膨潤したヒドロゲルにより加えられる機械的力を介してサンプリング開口部を密封する。図示のように、サンプリングヒドロゲルによって吸収された流体は、消化管内由来の細菌114を含み得る。カプセルが排泄された後、カプセルを分解して、サンプリングヒドロゲルおよびそこに含まれる細菌サンプルの回収を許容し、細菌が将来の培養および分析に供され得るようにし得る。
【0026】
例えば、患者が生分解性ポリマー腸溶コーティングを施したサンプリングデバイスを飲み込むと、デバイスはpH7の唾液に1分未満曝され得る。デバイスが胃に向かって移動すると、pHは約3に低下する。ポリマーは胃の酸性pH環境中でイオン化されないままであるため、デバイスは活性化されないままになり得る。デバイスが消化管をさらに下に移動するにつれて、平均pHが6.8および最大pHが7.5の小腸に到達すると、pHが上昇する。pHが腸溶コーティングの溶解閾値を超えると、ポリマーはイオン化を開始し、ポリマーの溶解を開始する。溶解すると、腸液は空洞104に入り、ヒドロゲルは、空洞内の密封部材をサンプリング開口部に向かって押しながら腸液を吸収することによって膨潤し始め得る。その後、カプセルが回盲弁に近づくとpHが低下し、結腸を通過し続けると、pHがわずかに上昇する。デバイスの開口部が密封部材で密封されているため、デバイスは流体交換なしで結腸内を移動し得る。
【0027】
デバイスが小腸を通過するのに、約4~6時間かかり得る。デバイスの意図された用途に応じて、腸溶コーティングの溶解および/またはヒドロゲルの伸長は、小腸内の所望の目的位置に調整され得る。例えば、いくつかの実施形態では、腸溶コーティングは、デバイスが小腸に入ってから1時間で完全に溶解するように構成され得、その後、ヒドロゲルは、1時間で伸長するように構成され得、最後に、デバイスは、0.4時間で密封部材によって密封されるように構成され得る。これらの時間目標時間間隔は、デバイスが結腸に到達する前に1.6時間以上の安全マージンを許容し得る。排泄後、カプセルを回収して分解し、サンプルを分析してさらに調査し得る。
【0028】
図2Aおよび2Bは、消化管のパッシブサンプリングのためのカプセル200、200’の2つの実施形態の概略分解図である。カプセル200、200’は、第1のハウジング部分204、204’(本明細書ではキャップとも呼ばれる)および第2のハウジング部分206、206’を含むカプセルハウジング202、202’を含む。第1のハウジング部分は、カプセルの外部とカプセルハウジング202、202’内に形成された空洞210、210’との間の流体連絡を提供するためのサンプリング開口部208、208’を含む。生分解性コーティング212、212’(例えば、上記のような腸溶コーティング)は、カプセル200、200’が消化管内の所望の位置に到達するまでサンプリング開口部208、208’を密封するためにカプセルハウジングの少なくとも一部分の周りに提供される。サンプリングヒドロゲル214、21’および密封部材216、216’は、空洞210、210’内に位置し、図示のように、密封部材216、216’は、サンプリングヒドロゲル214、214’とサンプリング開口部208、208’との間に位置する。上記のように、いくつかの実施形態では、密封部材は、PDMS膜などの可撓性膜であり得、密封部材が空洞を密封した後、空洞210、210’とカプセル200、200’の外部との間にガス透過性を提供し得る。さらに、第1および第2のハウジング部分204、204’および206、206’は、サンプルが収集された後にヒドロゲル材料を回収するためにカプセルハウジングが容易に分解されることを許容する取り付けインターフェース218、218’を含む。図示の実施形態では、取り付けインターフェース218、218’は、協力してスクリューインターフェースを形成する第1および第2のハウジング部分に形成された対応するねじ山付きの特徴を備える。しかしながら、上記のように、スナップフィットまたは締まりばめなどの他の取り付け構成は、他の実施形態において適切であり得る。
【0029】
生分解性コーティングは、異なる形状を有し得る。例えば、生分解性コーティングは、それぞれ
図2A、
図2Bに示される、円形コーティング212、212’などの円形であり得る。他の実施形態では、生分解性コーティングは、正方形、長方形、楕円形、または任意の他の適切な形状であり得る。いくつかの実施形態では、生分解性コーティングは、
図2Aに示される湾曲した外面213を備えた生分解性コーティング212などの湾曲した外面を有し得る。いくつかの実施形態では、生分解性コーティングは、平坦な外面213’を有する
図2Bに示される生分解性コーティング212’などの、平坦な外面を有し得る。いくつかの実施形態では、生分解性コーティングは、平坦な外面213’および平坦な内面215’を有する
図2Bに示される平坦なディスクのように、平坦な外面および平坦な内面を有し得る。生分解性コーティングは、カプセル200、200’のサンプリング開口部208、208’を密封する任意の形状であり得る。いくつかの実施形態では、生分解性コーティングは、カプセルハウジング202、202’の部分的部分のみを横切って延び得る。いくつかの実施形態では、生分解性コーティングは、カプセルハウジングの外部全体を取り囲み得る。
【実施例】
【0030】
研究I
デバイスの設計および組み立て
一実施例では、消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスが、3D印刷を用いて製造された。このデバイスは、生分解性腸溶コーティング、第1のハウジング部分およびキャップを含む3D印刷されたハウジング、サンプリングヒドロゲル、ならびにガス透過性PDMS膜の4つの構成要素からなった。3D印刷されたハウジングは、SolidWorks(Dassault Systemes)で設計され、PreFormソフトウェアパッケージ(FormLabs)を介し、Form 2 3Dプリンターを用い、ステレオリソグラフィーを介して生体適合性のメタクリレート光硬化性ポリマーで印刷された。カプセルの最終的な外径と長さは、それぞれ9mmおよび15mmであった。内径と内径はそれぞれ7mmおよび14mmであった。各カプセルを、サンプリングヒドロゲルと、ヒドロゲルとキャップに形成されたサンプリング開口部との間に配置された厚さ1mmのPDMS膜とを含むように設計した。特に、
図3は、組み立て前の種々の成分の写真を示す。カプセルのキャップのサンプリング開口部(直径5mm)は、カプセルへの液体の容易な流れを許容するように設計された。
【0031】
この例では、高吸収性ヒドロゲルは、脱イオン(DI)水、モノマーとしてのアクリル酸(AA)およびアクリルアミド(AM)、架橋剤としてのメチレンビス-アクリルアミド(MBA)、ならびに開始剤としての過硫酸アンモニウム(AP)の混合物を用いて合成された。架橋ヒドロゲルを円筒形のサンプルに切断し、完全に乾燥させてからカプセルに入れた。PDMS膜は、標準的な1:10の比率の硬化剤-シリコーンベース(Dow Corning)を用い、80℃で3時間硬化させた後、Class 4CO2 Laser(Universal Laser System)を用いて、直径6.5mmの円形膜をレーザー切断することにより作製した。
【0032】
デバイスを組み立てる前に、3D印刷されたハウジングの表面に親水性の表面改質を施して、カプセルの開口部を通ってカプセルの空洞に流入するサンプリング流体を確保および促進した。表面改質を、空気プラズマ処理とそれに続くポリエチレングリコール(PEG)処理を用いて実行した。プラズマ処理は、Tegal Corp Plasma Etcherを480mTorrで2分間用い、続いてPEG溶液に18時間浸すことにより達成した。ハウジングを溶液から取り出し、脱イオン水でよくすすぎ、24時間風乾させた。ハウジングおよびヒドロゲルの両方が完全に乾燥した後、乾燥したヒドロゲルを、3Dプリントされたハウジングの下半分に配置することによって、デバイスを組み立てた。PDMS膜は、ヒドロゲルおよびデバイスキャップの間に配置された。
図4は、直径9mmおよび長さ15mmの最終的に組み立てられたカプセルの写真を示す。これは、標準の000サイズのゼラチンカプセル(9.97mm×26.14mm)よりも小さいものである。
【0033】
ヒドロゲルの合成および特性評価
一実施例では、AA対AMの4つの比率を用いて、どの比率が最も速い吸収および最も高い圧縮力をもたらしたかを決定した:10%AA/90%AM、30%AA/70%AM、50%AA/50%AM、70%AA/30%AM、および90%AA/10%AM。モノマー混合物の総濃度は、溶液の総重量の35wt%であった。脱イオン水は総重量の60wt%を占め、MBAおよびAPはそれぞれ総重量の1wt%および4wt%を占めた。AA/AMの異なる混合物を、20mLのシンチレーションバイアルで脱イオン水と混合した。VWR Digital Vortex Systemを用いて溶液を3分間ボルテックスすることにより、MBAを完全に溶解した。MBAが完全に溶解すると、重合を阻害し得る酸素分子を除去するために、溶液を窒素ガスで30分間バブリングし、続いて開始剤を添加した。溶液を、室温で3時間重合させた。完全に重合した後、直径5mmおよび長さ12mmのシリンダーを切断し、等温オーブンで80℃で一晩乾燥させた。ヒドロゲルが完全に乾燥すると、それらは試験の準備ができているとみなされた。
【0034】
次に、異なるAA/AM比のヒドロゲルの膨潤能力を決定した。各AA/AM比について、乾燥したサンプルを秤量し、Sigma Aldrichから購入した1:10リン酸緩衝液(PBS)、および脱イオン水の溶液に5時間浸した。溶液からサンプルを取り出し、1時間ごとに秤量して、吸収された水の量を測定した。10%AA/90%AM、30%AA/70%AM、50%AA/50%AM、70%AA/30%AM、および90%AA/10%AMの異なるモノマー比のヒドロゲルの膨潤応答を
図5-6に示す。特に、
図5は、完全に乾燥した(左)および完全に膨潤した(右)ヒドロゲルの写真を示す。応答は、水没後の重量および乾燥サンプルの初期重量(Gt-G0)の差を初期重量(G0)で割って計算された重量比で表される。
図6に示す一般的な傾向は、AA対AMの比率が高くなると、ヒドロゲルの膨潤の可能性が低下することを示す。特に、
図6は、10%AA/90%AM(602)、30%AA/70%AM(604)、50%AA/50%AM(606)、70%AA/30%AM(608)、および90%AA/10%AM(610)の比率のプロットを示す。10%AA/90%AMの比率のサンプルは、最も速くかつ最大の膨潤力を有し、5時間以内に初期乾燥重量の2.2倍に達することがわかった。この傾向の唯一の例外は、90%AA/10%AMの比率のサンプルに見られる。これらのサンプルは、10%AA/90%AM比のサンプルと同様に、最初は急速な吸収を示す。しかし、初期反応が速いにもかかわらず、膨潤率は最初の1時間以内に横ばいになる。
【0035】
ヒドロゲルが消化器圧力に打ち勝ち、カプセルを効率的に密封するのに十分な力を発揮し得るかどうかを判断するために、膨潤時の各ヒドロゲルの圧縮力を、Admet Tensile Testerを用いて測定した。乾燥したヒドロゲルを、10mLのシンチレーションバイアルに入れ、張力計のステージに垂直に固定した。カプセルにPDMS膜を用いたプローブを10Nロードセルに取り付け、脱水した各ヒドロゲルブロックの表面から1mm離して配置した。次に、バイアルに1:10PBS/脱イオン水溶液を充填し、ヒドロゲルが時間の経過とともに膨潤してプローブを加圧するにつれて各サンプルにより生成された圧縮力を測定して記録した。
【0036】
人間の結腸の内腔内の通常のベースライン圧力は、12mmHg~20mmHgであると報告されており、便秘のある患者の食事後も最大26mmHg(3466.38N/m2)に達する可能性がある。力と圧力の関係を使用すると、カプセル内のPDMS膜上の小腸の管腔内圧によって加えられ得る推定極度の背部力は、0.46Nに等しくなる。したがって、サンプリング/アクティブ化後の完全な密封のためには、サンプリングカプセルのPDMS膜バルブが0.46Nを超える逆力に耐える必要があった。
【0037】
図7は、フォースプローブに対する乾燥および膨潤したヒドロゲルの2つの写真を示し、
図8は、時間の関数として異なるAA/AM比で作成されたヒドロゲルサンプルの水和プロセス中に記録された力プロファイルを示す。特に、
図8は、10%AA/90%AM(802)、30%AA/70%AM(804)、50%AA/50%AM(806)、70%AA/30%AM(808)、および90%AA/10%AM(810)の比率のプロットを示す。これらの結果は、AA/AM比が低いサンプルでは、PDMS膜にかかる力が比較的速く増加することを示す。90%AA/10%AMモノマー比で作られたヒドロゲルを除いて、他のすべてのヒドロゲルは、消化管の内腔内の推定背圧を克服する5時間の水和および膨潤期間中に必要な力を提供することができた(>0.46N)。10%AA/90%AMで作られたサンプルは、最も速い増加を示し、水分補給および膨潤から1時間以内に必要な力を満たす。異なるAA/AM比で発生する力の観察された遅延は、対応する膨潤プロファイルと直接相関させられ得る。
図7に示すように、ドライヒドロゲルを、フォースプローブから1mm離れた場所に配置した。これは、カプセルを密閉するためにヒドロゲルが膨潤する必要がある全長であるためである。より速い吸収速度は、ヒドロゲルがより容易にプローブに到達するときに生成される力のより速い検出に変換される。これらの結果を考慮すると、モノマー比が10%AA/90%AMの架橋ヒドロゲルは、最高の吸収特性と力生成特性の両方を提供し、それゆえにサンプリングカプセルの最終組み立ておよびさらなる特性評価のために使用されたため、最適な作動およびサンプリング機能を備えていた。
【0038】
表面湿潤性
一実施例では、腸からカプセルの狭いサンプリング開口部への流体の連続的な引き込みを確実にするために、カプセルのポリマー表面は、上記で論じたように、長持ちする親水性コーティングで修飾された。表面改質を評価するために、Rame-Hart Model290 F1 Advanced Goniometerを用いて、未処理サンプル、プラズマ処理サンプル、およびプラズマ+PEG処理サンプルで表面接触角の測定を行いた。初期ならびに後退接触角の測定は、周囲温度で、約10μLの水滴を、異なる表面改質の前後の3D印刷された表面上に置くことにより実施した。
【0039】
図9~10は、プラズマ処理のみおよびPEGコーティングが後に続くプラズマ処理の異なる表面改質手順の前後の3D印刷されたカプセルケーシング上での接触角測定の結果およびその経時的な安定性を示す。特に、
図9は、これらの種々の表面上の水滴の写真を示し、
図10は、時間の経過に伴う接触角のプロットを示す。プロット1002に示すように、未処理の3D印刷された表面は、80°の角度で相対性の高い水接触角を示した。プロット1004に示すように、プラズマ処理されたサンプルの結果は、プラズマ活性化直後の水接触角が80°から33°に減少したことを示し、このことは、親水性表面の生成を意味する。しかしながら、親水性の最初の増加にもかかわらず、結果は、表面修飾が不安定であり、接触角が5日後に33°から60°に増加したことを示した。一方、プラズマ処理とそれに続くPEGコーティングは、プロット1006に示すように、7日の全期間にわたって、接触角がほぼ0°の超親水性表面特性を示した。接触角の大幅な減少および経時的なその高い安定性は、血漿+ PEG表面改質処理の堅牢性が、腸液がサンプリング開口部を容易に吸い上げて流れることを保証するのに役立ち得ることを示す。
【0040】
漏れ試験
一実施例では、カプセルの密封メカニズムは、2つの独立した漏れ試験で試験された。
図11に概略的に示されている最初の試験では、電気伝導率(EC)の経時変化を調べて、膨潤したヒドロゲルで活性化および密封した後のカプセルからの起こり得る漏れを検出した。この試験のために、完全に組み立てたカプセルおよびむき出しのヒドロゲルを、塩化ナトリウムおよび脱イオン水の1M溶液に18時間沈めて、両方の設定でヒドロゲルが完全に膨潤するようにした。次に、それらを新鮮な脱イオン水の別々の20mL溶液に導入し、Gw Instek LCR-821メーターを用いて電気抵抗率の変化を8時間測定した。脱イオン水の導電率が低い(0.05μS/cm)ことを考えると、導電率の大幅な増加は、脱イオン水および塩を注入したヒドロゲルの間の流体の交換に起因していた。
図12は、乱されていない脱イオン水(1202)の溶液、むき出しのヒドロゲルに曝された後の脱イオン水(1204)、および密封されたカプセルに曝された後の脱イオン水(1206)の伝導率の変化のプロットを示す。図示するように、線1202および1206は互いに重なり合っている。溶液中にイオンが不足しているため、脱イオン水のベースライン伝導率は0.5μSに近くなる。むき出しのヒドロゲルが導入されると、媒体の伝導率は、ヒドロゲルと環境との間の流体の迅速な交換のために急速に増加する。このシナリオは、遊離のナトリウムイオンおよび塩化物イオンが新鮮な媒体に放出されてシステムの伝導率が増加する、密封メカニズムの完全な故障をシミュレートする。カプセル内のヒドロゲルの結果は、8時間にわたって伝導率の増加がないことを示し、カプセルから新鮮な媒体への漏れがないことを示唆している。
【0041】
2番目の試験では、完全に組み立てられたカプセルとむき出しのヒドロゲルを、赤色の食用色素を含む脱イオン水溶液に18時間入れて、両方のヒドロゲルへの食用色素の完全な膨潤および吸収を確保した。次に、それらを取り出し、密封されたカプセルを開かずに、脱イオン水を入れた別の容器に入れた。この試験の実験設定を、
図13に模式的に示す。左から右に、フラスコ1302は、脱イオン水中のむき出しのヒドロゲル1304を含み、フラスコ1306は、脱イオン水中の密封されたカプセル1308を含み、フラスコ1310は、普通の脱イオン水を含み、フラスコ1312は、脱イオン水を赤色食品着色染料とともに含んだ。フラスコ1302の溶液と1306の溶液とを比較すると、むき出しのヒドロゲルと密封されたカプセルとの違いが明らかになる。むき出しのヒドロゲルがその内容物を溶液に放出するにつれて、フラスコ1302中でわずかに目に見える色の変化が観察された。フラスコ1306中に密封されたカプセルを含む溶液は、密封機構が漏れを防止したので、視覚的には普通の脱イオン水と類似していた。
【0042】
さらに、UV-Visible分光測定を、両方の条件から1時間ごとに収集された100μLのサンプルで実行し、510nmでのそれらの吸光度ピークを、BioTek Epoch(商標)2マイクロプレート分光光度計を用いて検出した。この試験は、むき出しの膨潤したヒドロゲルならびに活性化および密封されたカプセルからの吸収/サンプリングされた食品着色料の漏出率を評価および比較するために用いた。
図14に示すこの試験の結果は、密封機構が8時間以内に漏れを防ぐことを確認している。むき出しのヒドロゲル(プロット1404)を有する脱イオン水の吸収強度は、食品着色料が環境に放出されるにつれて、時間の経過とともに増加する。5時間後の劇的な増加は、染料の存在を確認する。密封されたカプセル(プロット1406)および純粋な脱イオン水(プロット1404)を有する脱イオン水の吸収強度は同等であり、長期間安定し続け、密封されたカプセル内のヒドロゲルと環境との間で流体が交換されないことが確認される。密封されたカプセルプロット1406で観察された小さなピークは、本実施例で用いたUV分光計の検出限界によるノイズを反映する。
【0043】
細菌のサンプリングと生存評価
密封メカニズムの有効性を試験することに加えて、ヒドロゲルが細菌を収集する能力を評価し、回収された細菌の培養が達成可能かどうかを判断することが重要であった。このデバイスの最も関連性の高い応用には、消化管の現在アクセス不可能な領域にアクセスして、その後の培養のために生存細菌サンプルを収集する機能が挙げられる。摂取するとさらに液体交換が起こるかどうかを判断するだけでなく、収集した後に細菌が生存し得るかどうかを判断することも重要である。
【0044】
一実施例では、細菌のサンプリングの有効性を判断し、ヒドロゲルが微生物を収集し得るメカニズムを理解するために、断面SEM画像をヒドロゲルから取得した。特に、生成されたヒドロゲルの微細構造ネットワークとその多孔質マトリックス内の細菌を捕捉する能力を、Au/Pdスパッタリング後に日立S-4800電界放出走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価した。SEMイメージングは、むき出しのヒドロゲルサンプルおよび細菌を捕捉したヒドロゲルサンプルで実行した。最初のヒドロゲルサンプルを、PBSの溶液に8時間入れ、2番目のヒドロゲルを、E.coliを接種した100%TSBの溶液に入れた。両方のヒドロゲルサンプルは、SEMイメージングを実行する前に、SP ScientificのLyoStar3凍結乾燥機を用いて18時間凍結乾燥した。
【0045】
図15A~15Dは、脱イオン水の溶液に沈めた凍結乾燥ヒドロゲル(15Aおよび15B)ならびにE.coliを接種された100%TSBに沈めたヒドロゲル(15Cおよび15D)の断面形態のSEM画像を示す。低倍率(15Aおよび15C)の画像は、直径10μm~50μmの細孔を有する、架橋されたAAおよびAMモノマーの密なネットワークを示す。
図15Bは、脱イオン水で膨潤させた後のヒドロゲルの清浄な表面を示す。
図15Cは、細菌溶液に沈められたヒドロゲルの表面上の細菌の存在を示す。これらの画像は、E.coliがヒドロゲルの固体ポリマーネットワークに付着し得たことを確認している。開発された超吸収性ヒドロゲルの高い多孔性は、細菌を含む流体がそのマトリックスを通って流れることを許容するだけでなく、ヒドロゲル内の結合された流体内に容易に閉じ込めることを許容する。
【0046】
別の実施例では、消化器環境で腸内細菌叢をシミュレートするためにデバイスを培養溶液に導入することにより、デバイスが細菌を有効にサンプリングする能力を検証した。活性化および密封後にサンプリングされた細菌を保護するカプセルの能力を、直接接触した場合に細菌の増殖および生存率に直接影響する異なる極端な環境で試験した。この試験では、3つの完全に組み立てられた(しかしまだ活性化/密封されていない)カプセルおよび3つのむき出しのヒドロゲルサンプルを、Escherichia coliを含む100% Tryptic Soy Broth(TSB、Sigma Aldrich)の溶液に浸し、37℃で8時間インキュベートした。インキュベーション期間中、培養培地内の細菌を、カプセル内の水和ヒドロゲルマトリックスおよびむき出しのヒドロゲルサンプル内に捕捉した。次に、1つの活性化した/密封したカプセルおよび1つのむき出しのヒドロゲルサンプルを細菌培養溶液から取り出し、PBSを含む最初の溶液に浸した。別の活性化した/密封したカプセルおよび1つのむき出しのヒドロゲルサンプルを細菌培養溶液から取り出し、PBS中で調製した1000μg/mLのトブラマイシン(抗生物質)を含む2番目の溶液に浸した。3番目の活性化した/密封したカプセルおよびむき出しのヒドロゲルサンプルを細菌培養溶液から取り出し、脱イオン水で1:10の比率に希釈した漂白剤の3番目の溶液に浸した。PBSを、生体適合性媒体および対照実験として用いた。トブラマイシンおよび漂白剤の溶液を用いて、サンプリングされた細菌を極端な敵対的環境から保護する際の活性化カプセルの密封メカニズムの有効性を検証した。捕捉された細菌を含むむき出しのヒドロゲルサンプルを、3つの条件に直接曝したときのサンプリングされた細菌の生存率を評価するための対照として用いた。カプセルおよびむき出しのヒドロゲルのペアを、3つの試験溶液のそれぞれに1時間保持し、その後、サンプルを溶液から取り出し、各条件の生存細菌数を評価した。捕捉された細菌を、カプセルの2つの部品を緩め、滅菌白金耳を用いて装填したヒドロゲルを除去して10mLの100%TSB溶液に入れることによって、抽出した。細菌が捕捉されたむき出しのヒドロゲルサンプルもまた、TSB溶液の別の10mLバイアルに直接移した。すべてのヒドロゲルサンプル内に捕捉された細菌を、機械的攪拌下で37℃で20分間インキュベートすることにより、TSB溶液に抽出した。ヒドロゲルサンプル内の生存細菌数を、抽出した溶液をトリプチケースソイ寒天プレート上にプレーティングし、コロニー形成単位(CFU)の数を数えることによって決定した。
【0047】
図16は、異なる溶液でむき出しのヒドロゲルおよび密封されたカプセルから収集された細菌コロニーを有するTSB/寒天プレートの写真を示す。異なる実験に用いたストック溶液の細菌濃度を、左側に示す。各条件の実際のCFU数を、
図17に示す。このプロットでは、一方のバーは、曝露後のむき出しのヒドロゲルのCFU/mLを表し、他方のバーは、密封されたカプセル内のヒドロゲルのCFU/mLを表す。むき出しのヒドロゲルから細菌を接種した溶液は、すべての条件にわたって、密封カプセル内のヒドロゲルからの溶液よりも低い濃度を有する。PBSに沈められたヒドロゲルについては、むき出しのヒドロゲルと密封されたカプセル内のヒドロゲルとを比較すると、CFU/mLの数は3桁低下する。PBSは、その生体適合性および防腐性により、細菌を長期保存するための培地として一般的に用いられている。この結果に基づくと、むき出しのヒドロゲルは、それが異なる溶液に導入されると、それで収集された最初のサンプルの希釈により、細菌濃度の低下がある。希釈による減少にもかかわらず、トブラマイシンおよび漂白剤を含む溶液に浸したヒドロゲルの細菌濃度は、より明白に減少する。トブラマイシンに導入すると、CFU/mLの数は、PBS中での減少の2倍である6桁減少する。アミノグリコシド系抗生物質であるトブラマイシンは、6.25μg/mLという低い濃度で、E.coli株の92%を阻害し得る。トブラマイシンの阻害能力に基づき、細菌濃度の急激な低下が予想される。同時に、密封されたカプセル内のヒドロゲルからの細菌の濃度がより高いことは、密封メカニズムがヒドロゲルを抗生物質との相互作用から保護したこと、ならびにヒドロゲルが細菌濃度を長期間維持するための快適な環境を提供することを示唆する。
【0048】
漂白剤中のヒドロゲルの結果は、密封の有効性およびヒドロゲルの生体適合性をさらに確認する。漂白剤は強力な殺菌剤であり、曝露から10分以内にほとんどの細菌株を完全に殺すことが可能である。漂白剤の強力な抗菌特性が、培養プレート上にコロニーが形成されなくなる時点まで微生物の増殖を阻害したので(
図16、中央の画像)、
図17では、漂白剤に浸したむき出しのヒドロゲルについてのバーは示されていない。密封されたカプセル内の細菌がそのような過酷な環境に耐えることが可能であるという事実は、消化管内のそれほど過酷でない環境でヒドロゲル内に保持されたサンプルを保護するカプセルの能力を示す。
【0049】
消化管からサンプルを容易に収集し、マトリックス内の微生物サンプルを保護することが可能であることにより、高速吸収ヒドロゲルを用いてこのデバイスに効果的なサンプリング剤が証明される。シンプルな設計およびパッシブサンプリング/密封メカニズムにより、低コストの製造と簡単な再現性が許容される。このことにより、消化管の現在アクセスできないセクションをサンプリングするためのアクセス可能なツールが結果として生じたが、このことは、腸内細菌叢を健康の指標としてどのように用い得るのかについての我々の理解をさらに発展させるであろう。
【0050】
研究II
デバイスの設計および組み立て
一実施例では、カルプロテクチンのための消化管のパッシブサンプリングのためのデバイスが、3D印刷を用いて製造された。このデバイスは、生分解性腸溶コーティング、最初のハウジング部分およびキャップを含む3D印刷されたハウジング、サンプリングヒドロゲル、ならびにガス透過性ポリジメチルシロキサン(PDMS)膜の4つの成分からなった(
図2-3を参照)。3D印刷されたハウジングを、SolidWorks(Dassault Systemes)で設計し、Form 2プリンター(FormLabs)を用いて、光造形法により、50μmの厚みで、Formlabsから購入した生体適合性樹脂(EN-ISO 10993-1:2009/AC:2010、USP Class VI)を用いて印刷した。3D印刷後、モデルを、99%純粋なイソプロピルアルコール(IPA)中で15分間すすいで残留物をすべて除去し、その後、UV光硬化デバイス(Formlabs Inc.)で60分間後硬化して、重合を完了させた。カプセルの最終的な外径および長さは、それぞれ9mmおよび15mmであった。内径および内径は、それぞれ5.6mmおよび13mmであった。各カプセルを、サンプリングヒドロゲルと、ヒドロゲルとキャップ中に形成されたサンプリング開口部との間に配置されたPDMS膜と、を含むように設計した。サンプリング開口部は、直径4mmであった。
【0051】
PDMS膜を、硬化剤とシリコーンベース(Dow Corning)の標準的な1:10の比率を用いて製造し、70℃で4時間硬化させた。コンピューター制御CO2レーザー(波長10.6μm)切断彫刻システム(PLS6MW、Universal Laser,Inc.、Scottsdale,AZ)を用いて、ディスク(直径5.5mm、高さ2mm)を切断した。
【0052】
pH感受性ポリマー腸溶コーティング
消化管のpHは、一般的に、1から7.5まで変化する。本発明者らは、カルボキシル基を含むアニオン性ポリマーは、胃の低pHでは不溶性であるが、腸の中性pHでは可溶性であるので、消化管を介した選択的サンプリングを作動させるためのサンプリングデバイスの腸溶コーティングとして使用し得ることを認識した。
【0053】
異なるpH溶液内での5つのpH感受性ポリマーの溶解挙動を分析した:(1)ポリメタクリル酸-コ-エチルアクリレート(Eudragit(登録商標)L100-55、Evonik、New Jersey)(「L100-55」)、(2)ポリメタクリル酸-コ-メチルメタクリレート(Eudragit(登録商標)L100、Evonik、New Jersey)(「L100」)、(3)ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP-55)ポリマー(G.M.Chemie Pvt.Ltd、India)(「Chemie」)、(4)第2のHP-55ポリマー(Shin-Etsu Chemical Co.、Japan)(「Shinetsu」)、および(5)酢酸フタル酸セルロース(CAP)(G.M.Chemie Pvt.Ltd、India)(「CAP」)。L100-55、ChemieおよびShinetsuは、5.5の溶解pH閾値を有するが、L100は6の溶解pH閾値を有する。
【0054】
ポリマーフィルムを、溶液コーティング技術を用いて製造した。L100-55およびL100ポリマーの場合、EUDRAGIT(登録商標)粉末(3.8g)をイソプロピルアルコール(IPA)(9.5g)およびアセトン(6.32g)に溶解し、10分間ボルテックスした後、1時間水浴超音波処理した(Model 2510、Branson、Danbury,CT)。粉末が完全に溶解したら、クエン酸トリエチル(TEC)(0.38g;Sigma-Aldrich)を可塑剤として添加し、溶液を2分間撹拌した。ChemieおよびShinetsuポリマーについては、メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体粉末(1.29g)を、15分間ボルテックスした後、30分間ウォーターバス超音波処理することにより、水(3.716g)およびエタノール(14.864g;Sigma-Aldrich)に溶解させた。完全に溶解させたら、クエン酸トリエチル(TEC)(0.129g)を溶液に加え、2分間撹拌した。CAPポリマーについては、CAP粉末(1.42g)を、15分間ボルテックスした後、30分間水浴超音波処理することにより、水(0.547g)およびトリアセチン(355g;Sigma-Aldrich)に溶解させた。検量線を計算し、ポリマーの溶解を経時的に測定するために、メチレンブルー(40mg;Sigma-Aldrich)を各ポリマー溶液に添加して、視覚化を強化した。
【0055】
ドクターブレードコーティング技術を用いて、薄いポリマーフィルムを形成した(MSK-AFA-II、MTI、USA)。ドクターブレードを用いて、各ポリマー溶液をアクリルシート基板上に広げ、70℃で4時間焼結した。L-100、L-100-55、およびCAP溶液には、0.5mmゲージブレード(Precision Brand)を用い、ChemieおよびShinetsu溶液には、1.25mmゲージブレードを用いて、厚さ50μmの乾燥フィルムを形成した。フィルムが完全に乾いたら、CO2レーザーカッター機を用いて10mmのコーティングされたディスクを切断し、pH緩衝液に導入した。トリプリケートのサンプルを10分間隔で収集し、BMG Clariostarプレートリーダー(BMG Labtech、Germany)を用いて、各サンプルのUV-Visible分光法を実行した。
【0056】
各ポリマーの検量線は、25%、50%、75%、および100%の溶解を表す40mLのpH7.4で満たされた別々の容器を用いて得られた。1枚のディスクを25%の溶解を表す容器に入れ、2枚のディスクを50%の溶解を表す容器に入れ、3枚のディスクを75%の溶解を表す容器に入れ、4枚のディスクを100%の溶解を表す容器に入れた。染料の光分解を避けるために、すべての容器を密封し、アルミニウム箔で覆い、次に完全に溶解するために振とう台の上に置いた。ディスクが完全に溶解したら、200μLの各容器を96ウェルプレートに投与し、BMG Clariostarプレートリーダーで吸光度を測定した。検量線を、メチレンブルーの最大波長(λmax=666nm)にて、pH7.4の緩衝液中の各ポリマーについて計算した。ブランクの緩衝液媒体の吸光度を測定し、色素を装填したポリマーの吸光度から差し引いて、干渉を取り除いた。
【0057】
次に、溶解実験のために、各ポリマー溶液からの4つのコーティングされたディスクを、1.2および3.0(高速および摂食モードでの胃の胃酸性環境を模倣)ならびにpH6.8(小腸のpHを模倣)を含む種々のpHの40mLに沈めた。検量線を取得するために用いた方法と同様に、染料の光分解を避けるために、容器を密封し、アルミニウム箔で覆った。10分間隔で、200μLの溶液を96ウェルプレートに移し、UV-VIS分光計で吸光度値を測定した。以前に得られた各ポリマーの溶解曲線と比較することにより、吸光度データを経時的な溶解パーセンテージに変換した。
図18A~Cは、胃のpH(絶食の場合はpH1.2、摂食モードの場合はpH3.0)および小腸(pH6.8)における各ポリマーコーティングの色素放出プロファイルを示す。
【0058】
pH1.2でのポリマーの溶解プロファイル(
図18A)では、約20分後に部分的に溶解し始め、それぞれ34±1.8%および28±1.7%の溶解を有したChemieおよびShinetsuを除き、すべてのポリマーが無傷のままであった。ChemieおよびShinetsuは、pH3.0で同様の分解を示したが、L100-55、CAP、およびL100は、それぞれ10.4±2.3%、14.2±1.0、および14.3±2.1%の無視し得る溶解を示し、これは、実際の環境に曝した場合に、カプセルへのすべての流入をなお防ぐ(
図18B)。逆に、pH6.8では、L100(32.3±2.6の溶解)を除くすべての有機製剤が2時間以内に完全に溶解した(
図18C)。有機腸溶コーティングの溶解順序は、pKaおよびバックボーン構造によって詳しく説明され得る。例えば、L100はより高いpKa値を有し、かつより高いpH閾値を示すため、pH6.8に部分的に溶解した。CAPの水不溶性バックボーンは、ChemieおよびShinetsuに比べて溶解が遅くなった。全体として、腸溶コーティング製剤の溶解順序は、ChemieはShinetsuにほぼ等しい>L100-55>CAP>L100であった。酸性環境での低溶解および高pH条件での迅速な溶解が好ましいものであったため、L100-55をさらなるカプセル実験のために選択した。
【0059】
ヒドロゲルの合成と特性評価
一実施例では、架橋剤としてのアクリルアミド(4.5g;Sigma-Aldrich)およびN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)(0.15g;Sigma-Aldrich)を、Signature Digital Vortex Mixer 945303(VWR、Radnor,PA,USA)を用いて、溶液を室温で3分間ボルテックスすることにより、10mLの水に溶解した。窒素ガスを10分間バブリングして、重合阻害剤としての溶存酸素を置換することにより、溶液を完全に脱気した。次に、過硫酸アンモニウム(0.1g;Sigma-Aldrich)を、開始剤として溶液に添加した。プレゲル溶液を150μLの容量でPDMSモールドシリンダーに移し、モールドを等温オーブン内に70℃で一晩置いて、アクリルアミドネットワークを形成し、完全に硬化させた。膨潤率については、3つの乾燥した同一のヒドロゲルを秤量し、100rpmの振とう台を備えたインキュベーター内で37℃のpH6.8および7.4の25ml緩衝液に36時間浸漬した。ヒドロゲルを10分間隔で緩衝液から除去し、外面に存在する過剰な緩衝液を、ワイパーで穏やかに吸い取った。各ヒドロゲルの質量を測定した。膨潤比は、膨潤比=(Wt-Wi)/Wiとして定義したが、ここで、WtおよびWiは、それぞれ膨潤したヒドロゲルおよび乾燥したヒドロゲルの重量である。
【0060】
本実施例では、膨潤率および膨潤速度を測定することにより、ヒドロゲルの膨潤速度を調査した。
図19Aは、完全に乾燥したヒドロゲル(左)およびコントラストを高めるためにメチレンブルーを含むpH6.8の緩衝液中で37℃で4時間膨潤したヒドロゲル(右)の写真を示す。
図19Bに示すように、膨潤率実験の結果は、14時間でプラトーに近づく前に、ヒドロゲル鎖間に既存のまたは動的に形成されたギャップへの水の高い拡散性を示す。サンプリング時間が2時間に制限されていることを考えると、膨潤は130%を超えており、これは、ヒドロゲルがサンプリング/密封メカニズムを作動させるのに十分な吸水率を示す。
【0061】
PDMS膜がいつカプセルをブロックするかを決定するために、ヒドロゲルの伸びも調査された。伸び実験では、膨潤率実験と同じ手順に従った。写真を10分間隔で撮影し、ImageJソフトウェアを用いて分析し、長さの変化を測定した。結果は、60分以内に長さが急速に増加してPDMS膜をサンプリング開口部のすぐ近くに移動させることを示す(
図19C)。この時点で、ヒドロゲルはカプセルリザーバーに縦方向に閉じ込められているため、膨潤が続くにつれ、ヒドロゲルはPDMS膜に向かって圧縮力を加え続ける。
【0062】
膨潤中のヒドロゲル圧縮力を、Admet Tensile Testerを用いて記録した。乾燥したヒドロゲルが入ったカプセルを容器に入れ、10Nロードセルに取り付けられたプローブをヒドロゲルの上に置いた。次に、消化管環境の乱れを模倣するために、100rpmでオーバーヘッドミキサー(Model 50006-03、Cole Parmer、IL,USA)で攪拌しながら、容器にpH緩衝液を充填した。各ヒドロゲルについて生成された力を、時間の経過とともに記録し、ヒドロゲルの断面積に基づいて圧力に変換した。2時間以内に、ヒドロゲルから加えられた圧縮力は、7.07mm^2の領域で1.7Nを超えたが、これは、力-圧力の変換後、最大管腔内圧力である100kPaを超えるのに十分な力である。
図19Dは、ヒドロゲルがPDMS膜に接触してカプセルを密閉し、液体の交換を防止してから約20分後に、ヒドロゲルが最大消化器圧力を効果的に超え得ることを示す。すべての特性評価について、6.8および7.4の2つのpH緩衝液は一貫して同様の傾向を示したが、このことは、小腸全体の種々のpH範囲に対する同様のヒドロゲル挙動を示唆する。
【0063】
タンパク質のサンプリングおよび抽出
サンプリングカプセルのサンプリング性能を評価するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ウシ血清アルブミン(BSA)、およびカルプロテクチン(炎症のバイオマーカー)を含む、類似したサイズおよび分子量を有する3つの異なるタンパク質を試験した。GFPを、ヒドロゲル組成物内のタンパク質捕捉を視覚的に表示するために選択した(
図20A~D)。
【0064】
GFPの装填および特性評価
GFP(Sigma-Aldrich、St.Louis,MO)をPBS(Sigma-Aldrich、St.Louis,MO)で希釈して、100μg/mLのGFP濃度を達成した。溶液をマイクロ遠心チューブに移し、14,000×gで1分間遠心分離して(Sorvall Legend Micro 21 Microcentrifuge、Thermo Fisher Scientific、MA,USA)、GFP凝集体を沈殿させた。ヒドロゲルをGFP上清に2時間導入して、ヒドロゲル構造全体のタンパク質サンプリング効率を定性的に表示した。画像を、High Performance 2UV Transilluminator UVP(Upland、CA,USA)およびデジタル倒立顕微鏡(AMG EVOS fl、Bothell,WA)でキャプチャした。ヒドロゲルのGFP抽出挙動をモニターするために、それらを4mLのPBSに2時間曝露し、BMG Clariostarプレートリーダーを介して30分間隔で蛍光分析(最大488nmでの励起および510nmでの最大発光)を実行した。各時点で、3つの100μLをCorning(NY,USA)から購入したUV透過性の96ウェルマイクロプレートに移し、蛍光を測定した。
【0065】
大きいヒドロゲルの細孔径のため、平均直径5nmのGFPが、
図20Aに示すヒドロゲルマトリックスに浸透し得る。
図20Aは、UV下でのGFP溶液(左)に曝されているヒドロゲルと脱イオン(DI)水(右)に曝されているヒドロゲルとを比較する。同じヒドロゲルから撮影した顕微鏡画像もまた、GFP溶液に2時間曝したサンプル(
図20C)と比較して、脱イオン水に沈めたサンプル(
図20B)に色の変化がないことを確認する。
【0066】
時間の経過に伴うヒドロゲルからのタンパク質抽出も測定された。GFPを装填したヒドロゲルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に導入し、30分間隔で蛍光を測定した。結果は、最初の30分以内に蛍光強度のスパイクを示したが、これは、サンプルからタンパク質が急速に放出されたことを示し、その後、比較的一定の強度で平衡が達成された(
図20C)。この迅速なタンパク質送達は、抽出プロセスを容易にする重合中にヒドロゲル構造内に形成された大きなボイドに起因する。抽出試験は、PBSへの60分の曝露内でのヒドロゲルからのGFPの放出を確認した(
図20D)。
【0067】
BSAの装填および特性評価
次に、BSAタンパク質のサンプリングおよび抽出について調査した。BSAは、約7nmの平均直径を有する。ウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich、St.Louis,MO)を、合計5つの濃度(10、5、2.5、1.25、および0.625mμg/mL)について、PBS(Sigma-Aldrich、St.Louis,MO)で10~0.625mg/mLの2倍連続希釈した。腸溶コーティングを有しないカプセルを、100rpmで2時間、BSA溶液に浸漬した。続いて、カプセルを回収し、分解し、2時間の抽出のためにPBS培地に導入した。抽出PBS溶液中のBSAの存在を確認するために、ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いて、タンパク質含有量を検出した。25μLの各標準サンプルおよび未知のサンプルをマイクロプレートウェルに加え、続いて200μLの作業試薬を加えた。37℃で30分間インキュベートした後、プレートを室温まで冷却し、BMG CLARIOstar Plusマイクロプレートリーダーを用いて562nmでの吸光度を測定した。
【0068】
1:10に希釈した試験環境濃度のUV-Visible分光法吸収が、562nmに吸光度ピークを示したため、吸光度を測定する波長として562nmを選択した(
図21Aを参照)。BSAのサンプリング抽出の検量線を取得するために、ポリマーコーティングのない3連のカプセルを、蠕動運動による妨害を考慮して、種々の試験環境濃度で2時間、100rpmで攪拌し、サンプルを捕捉した。抽出のために、その後、カプセルを取り出し、開封し、PBSに2時間導入した。抽出溶液中のBSAの総濃度を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いて決定した。種々の濃度の抽出PBS溶液で観察された吸光度を、
図21Bに示し、異なるBSA濃度の試験環境に沈めたカプセルから抽出したBSAの量を、
図21Cに示す。理解され得るように、抽出されたBSAの量は、試験環境のBSA濃度に対して確実に線形の傾向を示す。
【0069】
カルプロテクチンのローディングおよび特性評価
カルプロテクチン(MyBioSource、San Diego,CA)を、Tris緩衝液(20mM Tris、100mM NaCl、pH7.4)で1mg/mLの濃度に再構成した。タンパク質溶液を、4つの異なる濃度にさらに希釈した。バイアルを100rpmで攪拌しながら、完全に組み立てられたカプセルを各濃度の4mLに2時間浸した。その後、カプセルを開け、内容物を4mLの緩衝液に移し、100rpmで再度2時間抽出した。カルプロテクチンの測定は、標準的な製造者のプロトコル(4~240ng/mL)に従い、BUHLMANN fCAL ELISAを用いて分析された酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であった。抽出緩衝液を、捕捉抗体でコーティングされた96ウェルプレートに装填した。30分間のインキュベーションおよび洗浄の後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合した検出抗体を添加すると、検出抗体がカルプロテクチンに付着した。インキュベーションおよび洗浄の後、テトラメチルベンジジン(TMB)を添加し(青色形成)、その後、停止溶液(黄色に変化)を添加した。吸光度を、BMG CLARIOstar Plusマイクロプレートリーダーを用いて、450nmで測定した。
【0070】
抽出のために、100rpmで撹拌しながら、カプセル内容物をTris緩衝液に2時間にわたって緩衝液交換した。カルプロテクチン標準曲線(
図21D)に従って、抽出されたカルプロテクチン濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で分析し、試験環境濃度と比較した(
図21E)。BSAおよびカルプロテクチンについてそれぞれ2.6%および3.2%である抽出された濃度/試験環境濃度(E値)を伴う、BSAおよびカルプロテクチンの両方のサンプリング抽出実験(
図21C、
図21E)から得られた線形傾向は、抽出された環境濃度と試験環境濃度との間の信頼し得る相関関係を示す。
【0071】
インビトロ色素サンプリング
実際の消化管移行時間でカプセルのサンプリング性能を評価するために、完全に組み立てたカプセルを、
図22A(左から右)に示すpH7、3、6.8、および
図22Aに示す7.4で、異なる水性色および緩衝液中で組み立てた。これらのpH環境は、消化管に沿ったpH変化のモデル化を助ける。消化管滞留時間に基づいて、3つのカプセルの群を、前述の各pH緩衝液中に、1分、2時間、2時間、および18時間ずつ順番に導入した。各タイムスロットの後、カプセルを開け、液体の浸透またはヒドロゲルの色の変化を観察した。胃(pH3)中で2時間保持した後に開けたカプセルは、無傷の腸溶コーティングを示し、ヒドロゲルの色の変化およびハウジング内の液体内容物を生じなかった(
図22B)。このことは、酸性環境での溶解に抵抗するポリマーの効率を証明する。逆に、小腸(pH6.8緩衝液)に2時間閉じ込めた後に開いたカプセルは、完全に溶解した腸溶コーティングを示し、サンプリングリザーバー内の緩衝液内容物を有する膨潤した青いヒドロゲルを生じた(
図22C)。サンプリング前後のカプセルの密封の性能を評価するために、緩衝液内にカプセルを導入する前後に緩衝液の吸光度を検出した。結果は、ピークの追加がないこと(すなわち、流体交換がないこと)を明らかにし、このことは、カプセルの適切な密封を示唆する(
図22D~F)。
【0072】
BSAおよびカルプロテクチンのインビトロサンプリング
BSAおよびカルプロテクチンのサンプリングにおけるカプセル効率を研究するために、2つの実験をインビトロで実施した。4つの異なるpH緩衝液を提供した:pH7、3、6.8、および7.4。タンパク質を、pH6.8の緩衝液(小腸をシミュレートする緩衝液)内にのみ注入した。
【0073】
最初の実験では、BSAをターゲット分析物として用い、pH 6.8溶液(小腸をシミュレート)中でサンプリングした。すべてのインビトロ研究では、3つのカプセルを使用し、抽出し分析物の平均を報告した。実験でカプセルを回収した後、ヒドロゲル中のサンプリングされた分析物をカプセルから取り出し、バイアルを含む別のPBSに2時間導入することによって抽出した。ヒドロゲルから抽出されたBSAの量を、BCAアッセイおよびUV-vis分光法によって決定し、これは、以前の緩衝液試験条件で実行された抽出濃度と比較して同様の抽出濃度を示した(
図23A)。2番目の実験では、カルプロテクチンをサンプリング対象の目的化合物として用いて、シミュレートしている小腸(pH6.8)溶液に添加し、出力をELISAによって特定した。通常のカルプロテクチンレベル(<100μg/mL)での試験環境濃度から抽出した結果は、インビトロ試験条件でのカプセルサンプリング性能の信頼性をサポートする緩衝液実験の濃度と一致した(
図23B)。
【0074】
エクスビボカルプロテクチンサンプリング
次に、エクスビボ実験を実施することにより、カプセルのサンプリング性能に対する腸液の複雑さの影響を調査した。カルプロテクチンを、新たに解剖したブタの小腸に加え、続いてサンプリング抽出手順を行った(
図24A~C)。
図24Aは、内部に2つのサンプリングカプセルを備えた、カルプロテクチンが装填された腸液で満たされた小腸のセグメントを示す。
図24Bは、カプセルの回収を示す。
図24Cは、2時間の抽出のためにTris緩衝液に入れられたサンプリングされた腸液を有する、分解されたカプセルを示す。
図24Dに示すように、2つの試験環境濃度を、通常(113μg/mL)および上昇(745.5μg/mL)の両方のカルプロテクチンレベルが試験されるように選択した。エクスビボでの3.85μg/mLおよび27.5μg/mLの抽出値は、緩衝液およびインビトロ実験で達成された2.6%のE値に対して有意差を示さない。全体として、サンプリングカプセルは、小腸からカルプロテクチンを部位特異的に捕捉してそれをカプセルが体から排泄されるまで効果的に保護し得る、信頼し得るデバイスであると思われる。本実施例では、デバイスは、小腸に入ってから1時間の腸溶コーティング溶解時間、ならびに1.4時間の膨潤およびカプセル密封時間のヒドロゲルを含んでいた。小腸の滞留時間は通常4~6時間であるので、平均2.4時間のサンプリング時間を選択して1.6時間の残り時間を可能にすることにより小腸内部でのカプセルのサンプリングプロセス中に発生し得るすべての不要な長い段階を許容した。
【0075】
本開示の様々な態様は、単独で、組み合わせて、または前述の実施形態で具体的に説明されていない様々な配列で使用され得、したがって、その適用において、前述の説明に示されたまたは図面に図示された構成要素の詳細および配列に限定されない。例えば、一実施形態に記載の態様は、他の実施形態に記載の態様と任意の方法で組み合わされ得る。したがって、本教示は、様々な実施形態および例と併せて説明されてきたが、本教示がそのような実施形態または実施例に限定されることを意図するものではない。それどころか、本発明の教示は、当技術分野の技術者によって理解されるように、様々な代替案、修正、および同等物を包含する。したがって、前述の記載および図面は、例としてのみのものである。