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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】自律移動体および自律移動システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241016BHJP
【FI】
G05D1/43
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020208161
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095064
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託 研究/データ連携・利活用による地域課題解決のための実証型研究開発(第2回)副題「スモールモビリティによるラストワンマイル達成のための混雑環境でもロバストな不可視地図のオープン化」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 功一
(72)【発明者】
【氏名】ミヤグスク レナート
(72)【発明者】
【氏名】竹林 拓海
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-052301(JP,A)
【文献】特開2020-077372(JP,A)
【文献】特開2019-095285(JP,A)
【文献】特開2019-148870(JP,A)
【文献】特開2017-139727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0101855(US,A1)
【文献】国際公開第2020/138460(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められている移動経路に沿って移動する自律移動体であって、
前記移動経路に関する測定データを検出するセンサと、
前記移動経路に関する地図データを記憶する記憶部と、
前記センサで検出した前記測定データと前記地図データとの照合結果に基づいて、前記自律移動体の移動を制御する制御部と、を備え、
前記記憶部に記憶される前記地図データは、
前記自律移動体の要求に基づいて調整され、かつ、前記要求に対応して前記自律移動体に提供されるものであり、
前記地図データは、
可視対象に関する第1地図データと、不可視対象に関する第2地図データと、を含み、
前記センサは、
前記第1地図データと照合される第1測定データを検出する第1センサと、
前記第2地図データと照合される第2測定データを検出する第2センサと、を含み、
前記第1地図データと前記第1測定データとの第1照合結果、および、前記第2地図データと前記第2測定データとの第2照合結果が並列的に求められ、
前記制御部は、
前記第1照合結果と前記第2照合結果の優先度の高い照合結果に基づいて、前記自律移動体の移動を制御する、
ことを特徴とする自律移動体。
【請求項2】
前記要求は、
前記第1センサと前記第2センサのそれぞれの仕様を含み、
前記第1地図データは前記第1センサの前記仕様に対応し、
前記第2地図データは前記第2センサの前記仕様に対応する、
請求項に記載の自律移動体。
【請求項3】
前記第1地図データは、幾何地図データを含み、
前記第2地図データは、磁気地図データおよび電波地図データを含み、
前記第1センサは、前記幾何地図データと照合される測定幾何データを検出する幾何像センサであり、
前記第2センサは、前記磁気地図データと照合される測定磁気データを検出する磁気センサと、前記電波地図データと照合される測定電波データを検出する電波センサである、請求項1または請求項2に記載の自律移動体。
【請求項4】
予め定められている移動経路に沿って移動する自律移動体と、
前記移動経路の移動が予定される前記自律移動体からの要求に応じて地図データを前記自律移動体に送信する地図データ生成装置と、を備え、
前記自律移動体は、
前記移動経路に関する測定データを検出するセンサと、
前記移動経路に関する前記地図データを記憶する記憶部と、
前記センサで検出した前記測定データと前記地図データとの照合結果に基づいて、前記自律移動体の移動を制御する制御部と、を備え、
前記記憶部に記憶される前記地図データは、
前記自律移動体の要求に基づいて前記地図データ生成装置で調整され、かつ、前記要求に対応して前記自律移動体に提供されるものであり、
前記地図データは、
可視対象に関する第1地図データと、不可視対象に関する第2地図データと、を含み、
前記センサは、
前記第1地図データと照合される第1測定データを検出する第1センサと、
前記第2地図データと照合される第2測定データを検出する第2センサと、を含む、
前記第1地図データと前記第1測定データとの第1照合結果、および、前記第2地図データと前記第2測定データとの第2照合結果が並列的に求められ、
前記制御部は、
前記第1照合結果と前記第2照合結果の優先度の高い照合結果に基づいて、前記自律移動体の移動を制御する、
ことを特徴とする自律移動システム。
【請求項5】
前記地図データ生成装置は、
複数の前記自律移動体からの前記要求を受け付け、
複数の前記自律移動体は、
それぞれが備える前記第1センサと前記第2センサの少なくとも一つの仕様が異なる、請求項に記載の自律移動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動体が自律移動するのに必要な地図データを記憶する装置およびこの地図データを含む自律移動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な場面において、多種多様なロボットが活動している。中でも移動中に自己位置を認識しながら、自律移動するロボットは、工場内やオフィス内、病院内などでの人間の手助けになるものとして期待され、その研究が盛んに行われている。
自律移動させるための誘導方式の一つとして磁気を目印とするものが知られている。その一例として、本発明者らは、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4において、移動体が移動する環境に依存する磁気データとこの磁気データが測定された幾何学的な位置データとを対応付けて記憶することを提案する。特許文献1などは、対応付けられた情報である磁気-位置情報を含む地図データと、自己位置を認識する際に測定される磁気とを照合することにより自己位置を認識することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-107924号公報
【文献】特開2011-129049号公報
【文献】特開2011-129072号公報
【文献】特開2012-003298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などによる磁気ナビゲーション法によれば、環境依存して元々生じている磁気を利用して自己位置を認識できるので、磁気マーカを新たに設置する作業が不要などといった利点を有する。
【0005】
自律移動システムにおいて、種類の異なる移動体、例えば移動体A、移動体B…移動体Nが同じ移動経路を移動することがある。これら複数の移動体A…移動体Nにおいて磁気センサが設けられる位置、特に地上からの高さが異なると、同じ移動経路上の位置においてそれぞれの磁気センサが測定する磁気強度が異なるおそれがある。そうすると、移動体A…移動体Nは、共通する同じ地図用データを用いて自律移動することが難しくなる。
そこで本発明は、異なる移動体が同じ移動経路を容易に移動することのできる自律移動体を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の予め定められている移動経路に沿って移動する自律移動体は、移動経路に関する測定データを検出するセンサと、移動経路に関する地図データを記憶する記憶部と、センサで検出した測定データと地図データとの照合結果に基づいて、自律移動体の移動を制御する制御部と、を備える。
記憶部に記憶される地図データは、自律移動体の要求に基づいて調整され、かつ、要求に対応して自律移動体に提供されるものである。
【0007】
本発明の自律移動体に係る地図データは、好ましくは、可視対象に関する第1地図データと、不可視対象に関する第2地図データと、を含む。また、本発明の自律移動体に係るセンサは、好ましくは、第1地図データと照合される第1測定データを検出する第1センサと、第2地図データと照合される第2測定データを検出する第2センサと、を備える。
【0008】
本発明の自律移動体に係る要求は、好ましくは、第1センサと第2センサのそれぞれの仕様を含み、第1地図データは第1センサの仕様に対応し、第2地図データは第2センサの仕様に対応する。
【0009】
本発明の自律移動体において、好ましくは、第1地図データと第1測定データとの第1照合結果、および、第2地図データと第2測定データとの第2照合結果が並列的に求められる。制御部は、好ましくは、第1照合結果と第2照合結果の優先度の高い照合結果に基づいて、自律移動体の移動を制御する。
【0010】
本発明の自律移動体において、好ましくは、第1地図データは、幾何地図データを含み、第2地図データは、磁気地図データおよび電波地図データを含む。これに対応する第1センサは、好ましくは、幾何地図データと照合される測定幾何データを検出する幾何像センサであり、第2センサは、好ましくは、磁気地図データと照合される測定磁気データを検出する磁気センサと、電波地図データと照合される測定電波データを検出する電波センサである。
【0011】
本発明は、予め定められている移動経路に沿って移動する自律移動体と、移動経路の移動が予定される自律移動体からの要求に応じて地図データを自律移動体に送信する地図データ生成装置と、を備える自律移動システムを提供する。
この自律移動体は、移動経路に関する測定データを検出するセンサと、移動経路に関する地図データを記憶する記憶部と、センサで検出した測定データと地図データとの照合結果に基づいて、自律移動体の移動を制御する制御部と、を備える。
本発明における地図データは、自律移動体の要求に基づいて地図データ生成装置で調整され、かつ、要求に対応して自律移動体に提供されるものである。
【0012】
本発明の自律移動システムにおいて、地図データは、好ましくは、可視対象に関する第1地図データと、不可視対象に関する第2地図データと、を含み、センサは、好ましくは、第1地図データと照合される第1測定データを検出する第1センサと、第2地図データと照合される第2測定データを検出する第2センサと、を含む。
【0013】
本発明の自律移動システムにおいて、好ましくは、地図データ生成装置は、複数の自律移動体からの要求を受け付け、複数の自律移動体は、それぞれが備える第1センサと第2センサの仕様の少なくとも一つが異なる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の自律移動体は、自律移動体自身からの要求に基づく地図データの供給を受け、この地図データに基づいて自律移動する。したがって、本発明に係る自律移動体によれば、異なる移動体が同じ移動経路を移動する際に、それぞれに適合する地図データの提供を受け、この地図データに基づいて移動経路を容易に移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る自律移動体システムの主要構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る自律移動体の制御部の構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る地図データの一例を示す図表である。
図4】本実施の形態の自律移動体の移動経路の例を示す図である。
図5】本実施形態に係るマルチナビゲータの構成を示す図である。
図6】本実施形態に係るマルチナビゲータの動作を示す図である。
図7】本実施形態に係るマルチナビゲータが幾何地図データを取得する一例を説明する図である。
図8】本実施の形態における自律移動体の向き(姿勢)を制御する方法を示す図である。
図9】本実施形態に係る地図用データ測定装置の構成を説明する図である。
図10】本実施形態に係る地図データ生成装置の構成を説明する図である。
図11】本実施形態に係る地図用データの一例を示す図である。
図12】本実施形態に係る自律移動体と地図データ生成装置のやりとりを示す図である。
図13】本実施形態に係る自律移動体から地図データ生成装置への要求の内容例を示す図である。
図14】本実施形態に係る地図データ生成装置で生成される幾何地図データの一例を示す図である。
図15】本実施形態に係る地図データ生成装置で生成される磁気地図データの一例を示す図である。
図16】本実施形態に係る地図データ生成装置で生成される電波地図データの一例を示す図である。
図17】本実施形態に係る自律移動システムの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔自律移動システム1の概要:図1
[自律移動システム1の構成]
自律移動システム1は、図1に示すように、自律移動体10(10A,10B)と、自律移動体10が自律移動する際に用いられる地図データを記憶するとともに、自律移動体10に送信する地図データ生成装置90と、地図データ生成装置90に記憶されている地図データを測定する地図用データ測定装置70と、を備えている。自律移動システム1は、インターネット100を介して、自律移動体10と地図データ生成装置90とが接続され、かつ、地図データの地図用データ測定装置70と地図データ生成装置90が接続される。なお、図1には2台の自律移動体10A,10Bが示されているが、これは一例に過ぎず、自律移動システム1は、2台を超える複数台の自律移動体10を含むことができる。また、図1には、2台の自律移動体10A,10Bが示されているが、2台の自律移動体10A,10Bが同時に同じ移動経路を移動することもあれば、時を異にして移動することもある。なお、自律移動体10Aと自律移動体10Bを区別する必要があるときを除いて、自律移動体10と表記する。後述するLIDAR21,21A,21Bについても同様に扱われる。
【0017】
[自律移動システム1の地図データ]
本実施形態に係る自律移動システム1は、地図データ(Teaching Data)に基づいて自律移動体10が自律移動する。地図データは、可視地図データと不可視地図データを備える。ここでいう、可視地図データとは人の視力により認識できる対象に関する地図データをいい、不可視とは人の視力により認識できない対象に関する地図データをいう。可視地図データの典型例として幾何地図データ(Geometric Mapping Data)があり、不可視地図データの典型例として磁気地図データと電波地図データがある。
【0018】
[自律移動システム1の動作]
自律移動システム1において、自律移動体10が移動することが予定されている経路(移動経路)に沿って地図用データ測定装置70を移動させつつ可視データと不可視データを測定する。測定された可視データと不可視データを含む地図データは、地図用データ測定装置70から地図データ生成装置90に送信されるとともに地図データ生成装置90に記憶される。可視データは、人の目で視認できる対象(可視対象)に関するものであり、不可視データは、人の目で視認できない対象(不可視対象)に関するものである。
自律移動体10が移動経路を移動する前に、自律移動体10は地図データ生成装置90から当該移動経路に対応する地図データの送信を受けるとともに、自律移動体10が備える第1記憶部51に記憶する。自律移動体10は、第1記憶部51に記憶されている地図データ(可視データと不可視データ)を用いて移動経路を自律移動する。なお、自律移動体10は、地図データ生成装置90から地図データを受信する前には、当該地図データを保有していないものとする。
以下、自律移動システム1について、自律移動体10、地図用データ測定装置70および地図データ生成装置90の順により詳しい内容を説明した後に、その動作について言及する。
【0019】
〔自律移動体10の構成:図1図2
図1を参照して自律移動体10の構成について説明する。なお、自律移動体10は、図中の白抜き矢印の向きに移動するものであり、前(F)と後(B)が図示のように定義される。この前(F)と後(B)は、相対的な意味を含んでいる。また、自律移動体10において、長手方向(L)および高さ方向(H)が図1に示すように定義され、かつ、紙面に垂直な方向を幅方向(W)と定義されるものとする。
自律移動体10Aは、内部に機器の収容空間を備える本体11と、本体11の前(F)の側であって幅方向(W)の両側に設けられる一対の駆動輪13,14と、本体11の後(B)の側であって本体11の幅方向(W)の中央に設けられるキャスタ17と、を備えている。駆動輪13,14は、本体11の内部に設けられ、バッテリ20から電力の供給を受けると駆動モータ15,16によりそれぞれが駆動される。駆動モータ15,16は、制御部30の移動制御部40からの指示に従って駆動、停止がなされる。駆動モータ15,16と駆動輪13,14との間には図示しない減速機を介して回転駆動させることができる。また、駆動モータ15,16には、駆動輪13,14の回転速度(回転数)を検出するためのロータリエンコーダ18,19が夫々付設されている。自律移動体10Aは、本体11の内部に自律移動体10の移動を司る制御部30を備える。制御部30の構成については、後述する。ここでは、ロータリエンコーダ18,19が1つずつ設けられる例が示されているが、自律移動体10の種類によってはロータリエンコーダの数が増えることがある。
【0020】
自律移動体10Aは、自律移動体10の自律移動に必要なデータ(可視データおよび不可視データ)を測定する複数種のセンサを備える。このセンサで検出される測定データと地図データ生成装置90から提供される地図データとの照合結果に基づいて、自律移動が行われる。なお、自律移動時に自律移動体10Aが測定するデータを測定データと称し、地図データ生成装置90から提供されるデータを地図データと称して、両者を区分する。さらに、地図データ生成装置90から提供される地図データを生成する基になるデータを地図用データと称する。
これらのセンサとして、自律移動体10Aは、周囲の測定幾何データを取得するLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)21、移動経路における測定磁気データを取得する磁気センサ23と、周囲の測定電波データを取得する電波センサ25と、を備える。測定幾何データが可視データに該当し、測定磁気データと測定電波データが不可視データに該当する。LIDAR21は本発明における第1センサに該当し、磁気センサ23および電波センサ25は本発明における第2センサに該当する。LIDAR21により検出される測定幾何データは、本発明における第1測定データに該当し、磁気センサ23および電波センサ25により検出される測定磁気データと測定電波データは本発明における第2測定データに該当する。
LIDAR21、磁気センサ23および電波センサ25は、制御部30と電気的に接続されている。なお、図1に示されるこれらセンサ類の配置位置は一例に過ぎず、その目的を達成できる限り、本体11の他の部位に設けることもできる。また、図2には、LIDAR21、磁気センサ23および電波センサ25が一つずつだけ描かれているが、これもあくまで一例であり、例えば複数のLIDAR21、磁気センサ23、電波センサ25を本体11に設けることもできる。
【0021】
自律移動体10Bの基本的な構成要素は自律移動体10Aと共通するが、自律移動体10Bは二つのLIDAR21AおよびLIDAR21Bを備える。LIDAR21Aは自律移動体10Bの正面を走査し、LIDAR21Bは地面の表面形状を走査する。自律移動体10AにおけるLIDAR21の取り付け位置、自律移動体10BにおけるLIDAR21A,21Bの取り付け位置は、制御部30の例えば記憶部50の第2記憶部52に記憶される。自律移動体10A,10Bが地図データ生成装置90に対して地図データの送信を要求する際に、LIDAR21,21A,21Bの取り付け位置に関する情報は、LIDAR21などの仕様としてこの要求に含まれ、地図データ生成装置90に通知される。
【0022】
また、自律移動体10Aと自律移動体10Bは、磁気センサ23の位置が異なる。具体的には、自律移動体10Aの磁気センサ23に比べて自律移動体10Bの磁気センサ23の位置が低い。地面からの高さが変わると磁気強度が変わることがある。したがって、自律移動体10Aと自律移動体10Bが同じ経路を移動しても、自律移動体10Aと自律移動体10Bとで得られる磁気強度が異なる。このように、自律移動体10Aと自律移動体10Bの設計に基づいて、磁気センサ23の位置が異なることがある。自律移動体10Aにおける磁気センサ23の取り付け位置、自律移動体10Bにおける磁気センサ23の取り付け位置は、制御部30の例えば記憶部50の第2記憶部52に記憶される。自律移動体10A,10Bが地図データ生成装置90に対して地図データの送信を要求する際に、磁気センサ23の取り付け位置に関する情報は磁気センサ23の仕様としてこの要求に含まれ、地図データ生成装置90に通知される。
【0023】
[LIDAR21]
LIDAR21は、レーザ光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を測定し、物体までの距離や方向を測定する。電波に比べて光束密度が高く、短い波長のレーザ光を利用することで高い精度で位置や形状などを検出できる。LIDAR21で取得する幾何データは、制御部30に送られる。LIDAR21は、本発明における幾何像センサに該当する。
【0024】
LIDAR21には、2次元(2D)の測定幾何データを取得するものと、3次元(3D)の測定幾何データを測定するものとが存在する。本実施形態においては、2Dおよび3Dの少なくとも一方のLIDAR21を搭載することができる。幾何地図データとの照合には、2Dによる幾何データが多用されるが、3Dによるデータあっても、指定の高さだけを抜き取ったり、高さデータを合成して2D化したりするなどして、幾何地図データとの照合を行うことができる。3Dによる幾何データはデータ量が膨大なため、2D化の目的は計算処理コストが高くなるのを避けるためである。
【0025】
LIDAR21は、例えば人、自転車および荷運び台車が往来する環境では照合にとって適切な測定データを得ることはできないことがある。そのため、LIDAR21による測定は、人の往来の少ない領域を対象にするのが好ましい。
これに対して、磁気センサ23および電波センサ25は人の影響をほとんど受けない。また、LIDAR21に代えて、または、LIDAR21とともに、CCD(Charge-Coupled Device)、CMOS(Complementary MOS)をイメージセンサとする撮像カメラ29(図2)を用いることができる。
【0026】
[磁気センサ23]
磁気センサ23は、互いに直交する3軸(x軸、y軸、z軸)に沿った直流磁気(以下、単に磁気)を測定する。ここで、磁気センサ23は、x軸が自律移動体10の長手方向Lに沿うように、y軸が幅方向Wに平行でx軸に直交するように、また、z軸が高さ方向Hに平行でx軸に直交するように配置される。得られる測定磁気データは、自己位置推定に用いられる。
磁気センサ23が測定する磁気は、移動経路に置かれる永久磁石のような磁気マーカが発生させる磁気であってもよい。
磁気センサ23は、方位を測定することができ、この方位、つまり自律移動体10の姿勢を測定することについては、図2において方位センサ27として示されている。
また、磁気センサ23は、磁気の他に、角速度を測定できる。角速度は自律移動体10の直進移動制御に用いることができる。
【0027】
[電波センサ25]
例えば自律移動体10が移動する環境下においてWiFiに基づく電波が存在する場合には、WiFiルータ(子機)が電波センサ25として利用される。この電波は、親機をなすWiFiルータから発信され、電波センサ25を構成するWiFiルータの子機が発信された電波を受信することで測定電波データを取得する。
【0028】
WiFi電波の強度は、当該環境下において一定ではなく、当該環境下において電波強度が異なるところがある。電波センサ25としてのWiFiルータ(子機)が受信するWiFi電波の強度の相違は、自律移動体10の自己位置推定に用いられる。制御部30は、WiFi電波の強度を測定する機能を有し、電波センサ25で受信したWiFi電波の強度を測定できる。WiFi電波の強度も、3軸(x軸、y軸、z軸)に区分して測定される。
【0029】
WiFi電波には複数のチャンネルが存在する。例えば、日本国内の電波環境では、2.4GHz帯は14チャンネル、5GHz帯は56チャンネルが割り当てられている。もっとも、図6の電波地図は屋外で検知される2.4GHz帯での電波強度で作成されたものであり、電波強度が緩やかに変化しているため、この変化に基づいて自己位置推定を行うことができる。なお、5GHz帯のように電波周波数が高くなると信号強度は急激に減衰するため、屋外であれば2.4GHz帯から低めの周波数帯の方が適している。ただし、屋内であれば5GHz帯でも電波強度の変化が大きくでるため有用である。したがって、制御部30が前者のコンピュータ装置から構成される場合でかつ屋外であれば、2.4GHz帯の測定電波データおよび電波地図データが用いられる。
【0030】
ここでは、電波データとしてWiFi電波を利用する例を説明したが、これは本実施形態における一例に過ぎず、他の電波、例えば携帯電話の電波、ビーコン(Beacon)などを利用することができる。携帯電話の電波の場合、例えば4G(4th Generation)および5G(5th Generation)についても、WiFi電波の2.4GHz帯および5GHz帯と同様に区別して用いることができる。
【0031】
ここで、自律移動体10Aと自律移動体10Bは、異なる電波センサ25を備えることができる。例えば、いずれの自律移動体10A、10Bの電波センサ25については規格がIEEE802.11gと共通しているものの、自律移動体10Aの電波センサ25は1~14チャンネルの内、一例として2,4,7チャンネルの電波のみ取得でき、自律移動体10Bの電波センサ25は1~14チャンネルの内、一例として3,8チャンネルの電波のみ取得でき、両者で取得できる電波のチャンネルが異なるセンサとすることができる。センサごとの取得可能なチャンネルの情報は、記憶部50の第2記憶部52に記憶される。自律移動体10A、10Bが地図データ生成装置90から地図データの送信を要求する際に、取得可能なチャンネルの情報は地図データ生成装置90に通知される。地図データ生成装置90は1~14チャンネルの測定電波データを保有しているため、この例のように自律移動体10ごとにセンサが異なる場合にも、要求に沿った地図データを提供することができる。
【0032】
〔制御部30:図1,図2
自律移動体10は、図1に示すように、本体11の内部に自律移動体10の移動を司る制御部30を備える。
制御部30は、図2に示すように、移動制御部40と、記憶部50と、演算処理部60を備え、CPU、ROM、RAM等及び入出力回路等を備えたコンピュータ装置から構成される。以下、図2を参照しながら、移動制御部40、記憶部50および演算処理部60を順次説明する。
【0033】
[移動制御部40:図2
移動制御部40は、駆動モータ15,16のそれぞれを独立して駆動を制御することで、各駆動輪13,14を必要な速度で回転させ、自律移動体10を移動させる。移動制御部40は、駆動モータ15,16を異なる回転数で回転させることにより、自律移動体10が移動する向きを変えることができる。
【0034】
[記憶部50:図2
記憶部50は、第1記憶部51と、第2記憶部52と、第3記憶部53とを備えている。これら各記憶部として、公知のデータ記憶手段が採用される。
[第1記憶部51]
第1記憶部51には、自律移動の際に使用される地図データが記憶される。ただし、第1記憶部51はこの地図データは永続的に記憶しているのではなく、後述する地図データ生成装置90に記憶されている地図データを、自律移動する前に自律移動体10が取得する。この地図データは、幾何地図データ、磁気地図データおよび電波地図データと、これら地図データが測定された位置および姿勢とが対応付けられた情報とからなる。その一例を図3に示す。
図3において、位置は、移動経路のスタート地点からの移動距離として示されている。例えば、移動距離dはスタート地点からdだけ離れており、また、移動距離dは位置dからdだけ離れていることを示している。また、図3において、姿勢は、方位を示しており、この方位は、例えば、水平の状態で北向きを0(ゼロ)degと定めることができる。このように、移動距離と方位を基準として位置を特定することで座標変換の際に生じる誤差を少なくできる。
【0035】
地図データは、自律移動体10の移動経路上を連続的に記憶されていることが好ましい。しかし、この方法は現実的ではない場合がある。自律移動体10の移動距離が長くなると、測定磁気データと測定方位データとの比較処理に相当の時間がかかってしまい、移動速度が著しく遅くなるからである。したがって、所定間隔毎、例えば0.01m毎に間欠的に地図データを記憶することができる。
【0036】
ここでは地図データがすでに第1記憶部51に記憶されていることとしているが、これは自律移動体10が移動する準備が整っていることを意味する。つまり、本実施形態における地図データは、後述する地図用データ測定装置70によって測定された後に、地図用データ測定装置70から地図データ生成装置90に送信され、記憶されたデータである。したがって、第1記憶部51に記憶されている地図データは、所定経路を移動する前に自律移動体10が地図データ生成装置90から読み出すことで、第1記憶部51に記憶されるものである。
【0037】
ここで、地図情報は、時間的に変動する要素、つまりノイズを含まないことが望まれる。例えば、当該環境に人が存在すると、人がノイズとして地図情報に含まれるおそれがあるが、この人は地図情報から消去されるべきである。ただし、センサの形式によってはノイズなのか否かの判断が付かないこともある。例えば、人の場合、LIDAR21は物体の存在有無だけしかわからないので、人を見分けることは基本的には困難である。
【0038】
後述するように、自律移動体10は、地図データと測定データが一致するか否かを照合することで、自己位置を推定する。したがって、地図データと測定データのいずれも特徴的なデータでなければ照合できない。たとえば、砂漠のように周囲に幾何データが存在しない広い領域を自律移動体10が自律移動しようとしても、LIDAR21による地図データと測定データの双方に物体の存在を示す特徴的な値がないので、照合はできない。しかし、砂漠の砂中に、永久磁石が散在していれば、磁気地図データと測定磁気データの双方に、磁気の存在を示す特徴的な値が含まれているので、照合が可能である。
【0039】
以上のことから、地図データと測定データの照合には、特徴的な値の有無が前提となる。LIDAR21ならば物体が存在しているか否か、磁気センサ23および電波センサ25ならば位置ごとに変化する領域があるか否かによって、地図データおよび測定データの有用性を判断することができる。たとえば、地図データおよび測定データについて、後述する3つのナビゲータにおいて並列的に求められる照合結果(優先度)を求め、優先度に基づいて、適切なナビゲータを切り替えながら自律移動することができる。
ここで、幾何地図データと測定幾何データとの照合結果が本発明の第1照合結果に該当し、磁気地図データと測定磁気データとの照合結果および電波地図データと測定電波データ照合結果が本発明の第2照合結果に該当する。
【0040】
[第2記憶部52]
第2記憶部52には、移動制御部40、演算処理部60が行う種々の制御に関するプログラムが記憶されている。
また、第2記憶部52には、前述したように、LIDAR21,21A,21Bの取り付け位置、磁気センサ23の取り付け位置、および、電波センサ25の規格に関する情報が記憶されている。これらの取り付け位置、規格に関する情報は、本実施形態において、これらセンサ類の仕様と称される。
【0041】
[第3記憶部53]
また、第3記憶部53には、いくつかのブロックに分けられた移動経路毎に、進むべき向きと距離とが対応付けられた経路情報が記憶されている。例えば、図4を例にして説明する。この例は始点(図示省略)から移動を開始して位置d,d…d,dを経由して終点(図示省略)まで移動することを前提とする。自律移動体10は、位置dまで移動すると次のゴールを位置dに切り替えて移動し、位置dまで移動すると次のゴールを位置dに切り替えて移動するという、いわゆるウェイポイントによる経路情報を基本とする。例えば、位置dまで移動したとすると、自律移動体10は時計回りにθ-θだけ向きを変えた後に位置dに向けて移動する。
図4の例は、これに加えて、磁気地図データと測定磁気データとを比較することにより、自律移動体10は、例えば位置dと位置dの間の位置ずれを修正する。位置d以降でも同様である。
【0042】
[演算処理部60:図2図5
次に、演算処理部60は、図2に示すように、自律移動体10に経路追従を行わせる制御モジュールであるマルチナビゲータ61と、マルチナビゲータ61による比較結果に基づいて後述するいずれかのナビゲータを選択するナビゲータ選択部63を備える。
【0043】
[マルチナビゲータ61:図5
本実施形態に係るマルチナビゲータ61は、図5に示すように、第1ナビゲータ61A、第2ナビゲータ61B、第3ナビゲータ61Cおよび第4ナビゲータ61Dの四つのナビゲータを備える。ここで本実施形態に係るナビゲータとは、自律移動体10に経路追従を行わせる制御モジュールをいう。第1ナビゲータ61A~第4ナビゲータ61Dは、自己位置推定の結果や制御方法に違いを認めている。すなわち、第1ナビゲータ61A~第4ナビゲータ61Dが互いに補間することで、それらを内蔵する自律移動体10の動作の柔軟性や頑健性を発揮できる。
【0044】
自律移動体10が移動する際に、第1ナビゲータ61A~第4ナビゲータ61Dの全てが並列的に動作し、その中で優先度の高いナビゲータがナビゲータ選択部63により選択され、選択されたナビゲータにより自律移動体10の経路追従が行われる。第1ナビゲータ61A~第4ナビゲータ61Dの内容は以下の通りである。優先度について、後述するが、数値の低いほど優先度が高いことを意味している。本実施形態において、優先度は100を基準とし、0は絶対権限を伴う優先度である。また、優先度が同一のときは、第1~第4で示されるナビゲータ番号の若い方が優先される。
【0045】
[第1ナビゲータ61A(オドメトリ)]:
第1ナビゲータ61Aは、駆動輪13,14の回転量による位置推定に基づいて経路追従を行う。つまり、第1ナビゲータ61Aは、オドメトリ(odometry)による自己位置推定を行いながら、経路追従を行う。第1ナビゲータ61Aは、LIDAR21、磁気センサ23および電波センサ25のいずれとも独立して経路追従を行う。
第1ナビゲータ61Aが、時刻tにおいて自己位置推定を行った結果、自律移動体10はn番目のノードに存在し、姿勢がθであると推定されたとする。このとき、オドメトリに基づく第1ナビゲータ61Aは以下の偏差eをゼロになるように角速度を制御する。このように、第1ナビゲータ61Aは、姿勢推定の結果に基づいて経路追従を行わせる。
偏差e-θ
【0046】
第1ナビゲータ61Aの優先度は、一例して、100~90とされる。
第1ナビゲータ61Aは、第2ナビゲータ61B~第4ナビゲータ61Dの他のナビゲータが実行されている間は、自己位置推定が正常なので優先度が90となる。ただし、他のナビゲータの優先度が90を下回った場合には、第1ナビゲータ61Aにおける自己位置推定の精度が低下していると判断し、移動距離に応じて優先度を最終的には100まで落とし、第1ナビゲータ61Aは最終的には停止する。
【0047】
[第2ナビゲータ61B(幾何データ利用)]:
第2ナビゲータ61Bは、幾何データ(幾何地図データと測定幾何データ)に基づく位置推定に基づいて経路追従を行う。
第2ナビゲータ61Bにおいて取得する幾何データの一例を図7に示す。自律移動体10の前方に搭載されたLIDAR21に対して、距離r、角度αの測定範囲を左右に設定する。 この範囲に存在する障害物までの最小の垂直距離を、左右それぞれg,gとし、この2つの値を幾何データとする。データベースの構築時にも同様の測定を行い、n番目のノードに記憶される幾何データgを(g,gと定める。なお、周囲に障害物が存在せず、幾何データが得られない場合には、これらの情報は利用されなくなる。
今、時刻tにおいて幾何データとしてg,、g,tを測定していたとき、幾何データに基づく第2ナビゲータ61Bは、以下の偏差eの各成分を零にするように角速度を制御する。
= (e - g, + g, , g, - g,)
【0048】
幾何データに基づく第2ナビゲータ61Bは位置推定の結果を補正するように移動制御を行うため、自律移動体10の姿勢に関する偏差も成分として含むことができる。
【0049】
第2ナビゲータ61Bの優先度は、一例して、100~70とされる。
LIDAR21による第2ナビゲータ61Bは、他のナビゲータ(第1ナビゲータ61A、第3ナビゲータ61Cおよび第4ナビゲータ61D)よりも自己位置精度が高い。特に、周囲にランドマークが多く存在し、地図データとの照合の評価値が高いときには、優先度は70となる。これを最高にして、評価基準に応じて優先度を更新する。
【0050】
[第3ナビゲータ61C(磁気データ利用)]:
第3ナビゲータ61Cは、磁気データ(磁気地図データと測定磁気データ)に基づく位置推定に基づいて経路追従を行う。
自律移動体10は平坦な地面を移動すると仮定し、磁気センサ23は地面と水平面の磁気方位とセンサの成す角mθを測定できるものとする。今、時刻tにおいて、磁気センサがmθtを測定していたとき、磁気データに基づくナビゲータは、以下の偏差eを零にするように角速度を制御する。
=mθ,n-mθ,t
【0051】
磁気データに基づく第3ナビゲータ61Cは、姿勢推定の結果に関わらず、磁気方位を用いて姿勢修正のみを行いながら移動制御を行う。特許文献1に開示される磁気ナビゲーョン法とは異なり、本実施形態においては、指定経路の左右の磁気データおよび移動制御を行う際に使用するパラメータが存在しない。そのため、地面と水平面の磁気方位のみを用いて自律移動体10を制御する。
【0052】
第3ナビゲータ61Cの優先度は、一例して、100~80とされる。
第3ナビゲータ61Cは、移動による磁気強度の変化から自己位置推定を行うものであり、位置精度は高くない。したがって、優先度の最高値は第2ナビゲータ61Bを超えない80とされる。次の第4ナビゲータ61Dも同様である。
【0053】
第2ナビゲータ61Bと第3ナビゲータ61Cを組み合わせることができる。この場合、以下の偏差egmを零にするように角速度を制御する。
gm = (e- gl,n + gl,t, gr,n - gr,t
【0054】
[第4ナビゲータ61D(電波データ利用)]:
第4ナビゲータ61Dは、電波データ(電波地図データと測定電波データ)による位置推定に基づいて経路追従を行う。
第3ナビゲータ61Cは測定磁気データを利用するものであるが、信号の扱いとしては、測定磁気データも測定電波データも同様の方法で自己位置推定および自律移動制御を行うことが可能である。そこで、信号強度の傾向や変化の場所は磁気データとは異なるので、測定磁気データを利用する第3ナビゲータ61Cに加えて測定電波データを利用する第4ナビゲータ61Dを備えることで、不足の状況を互いに補間することができる。
第4ナビゲータ61Dにおいて、測定電波データとして測定されるチャンネルごとにナビゲータを定義することもできる。例えば、ある特定の電波チャンネルの変化で動作するナビゲータとは別に、他のチャンネルで動作するナビゲータの存在を認めている。
【0055】
[ナビゲータ選択部63:図2図5図6
ナビゲータ選択部63は、第1ナビゲータ61A、第2ナビゲータ61B、第3ナビゲータ61Cおよび第4ナビゲータ61Dの中で最も高い優先度を呈するナビゲータを選択する。優先度がもっとも高いのが第1ナビゲータ61Aであれば、自律移動体10は第1ナビゲータ61Aを用いて自律移動する。ナビゲータ選択部63は、継続的に優先度の評価を行い、第1ナビゲータ61Aより例えば第2ナビゲータ61Bの精度が高くなれば、ナビゲータ選択部63は第2ナビゲータ61Bを選択し、その後は第2ナビゲータ61Bを用いて自律移動がなされる。さらに、第2ナビゲータ61Bより例えば第3ナビゲータ61Cの精度が高くなれば、ナビゲータ選択部63は第3ナビゲータ61Cを選択し、その後は第3ナビゲータ61Cを用いて自律移動がなされる。
【0056】
ここで、ナビゲータ選択部63で選択されなかったナビゲータにおいても自律移動のための自己位置推定は継続して行われる。つまり、図6に示すように、第2ナビゲータ61Bは、LIDAR21で取得する測定幾何データと幾何地図データ(第1地図データ)とを用いて、自律移動体10の自己位置推定を行う。また、第3ナビゲータ61Cは、磁気センサ23で取得する測定磁気データと磁気地図データ(第2地図データ)とを用いて、自律移動体10の自己位置推定を行う。さらに、第4ナビゲータ61Dは、電波センサ25で取得する測定電波データと電波地図データ(第2地図データ)とを用いて自律移動体10の自己位置推定を行う。このように同時に継続して行われる第2ナビゲータ61B~第4ナビゲータ61Dのそれぞれによる自己位置推定が、選択の有無に関わらず、継続して行われる。なお、ここでは、第1ナビゲータ61Aについての記載を省略したが、第2ナビゲータ61B~第4ナビゲータ61Dと同様に、第1ナビゲータ61Aにおける自己位置推定も継続して行われる。
図6において、複数の電波地図データが示されているのは、前述した通りに、アクセスポイントごとに電波地図データが提供されるからである。
【0057】
また、複数のナビゲータが、自分が使用するセンサに応じて、それに適した地図を選択し、行動計画を立案できる。
ナビゲータの概念では、位置演算部(自己位置認識演算)は複数でも構わない。また、それが同じデータであることも前提としていない。
すなわち、それぞれのナビゲータでもある自己位置認識演算部(プログラム)が、それぞれの手法で自己位置認識を行うことを許容する。そして、それぞれのナビゲータによる自己位置推定の結果は、図6に示すように、異なることがある。
その認識データに基づいて行動を実行するが、自己位置認識で適切な計算ができなくなったときに、優先度を下げる処理が行われる。ナビゲータ選択部では結果的に選択されず、優先度の高い行動を適用することになる。この優先度の高い行動の根拠は自己位置推定が正しく行われていることと判断するしかないためである。
【0058】
マルチナビゲータ61は、第1ナビゲータ61A~第4ナビゲータ61Dを備えるのに加えて、以下説明する移動距離演算機能および位置演算機能を備える。この二つの機能は、ここではマルチナビゲータ61に含まれるものとして説明するが、マルチナビゲータ61から独立してもよいし、後述する移動制御部40が備えてもよい。
移動距離演算機能は、ロータリエンコーダ18、19からそれぞれ入力されるパルスを別々にカウントし、カウントした値に1パルス当りの移動量を乗算してそれまでの移動距離を求める。ここでは2つの移動距離が求められるが、その平均値が移動距離Sとして位置演算部67へ出力される。
【0059】
位置演算機能は、自律移動体10の位置情報を求める。この位置情報は、前述したように、θ(方位)とl(距離)の極座標で表現される。
位置演算機能は、第3記憶部53から経路情報を読み出す。この経路情報は、前述したように、向き情報と移動距離情報とが対応付けられている(例えば、(-φ1°、DA-B))。位置演算機能は、移動距離演算機能から取得した移動距離Sと移動距離情報とからルートの終点に到達するまでの残移動距離を求める。この残移動距離は、移動制御部40へ出力される。
【0060】
位置演算機能は、図8に示すように、マルチナビゲータ61の第3ナビゲータ61Cから取得する磁気に関する偏差(ΔGx、ΔGy、ΔGz)、方位に関する偏差(Δθ)がともに0(ゼロ)になり、偏差が解消されるように、自律移動体10が向きを変える角度(回転角)を求める。この回転角は、移動制御部40へ出力される。この向きの調整は、フィードバック制御により行うことができる。
【0061】
位置演算機能は、また、自律移動体10がルートの終点に到達すると、マルチナビゲータ61から取得したルートに対する向き(角度θ)情報と経路情報の中の向き情報とから、経由地において自律移動体10が向きを変える角度(回転角)を求める。この回転角は、移動制御部40へ出力される。
【0062】
以上では、測定磁気データと磁気地図データとを比較する例について説明したが、測定電波データと電波地図データとを比較して、自律移動体10が各ルートを移動することもできる。この場合、磁気に関する偏差(ΔGx、ΔGy、ΔGz)が電波に関する偏差(ΔRx、ΔRy、ΔRz)に代替される。
【0063】
[移動の制御]
自律移動体10が各経路を移動する際には、以下のようにして自律移動体10の移動が制御される。この制御は、第1ナビゲータ61A、第2ナビゲータ61B、第3ナビゲータ61Cおよび第4ナビゲータ61Dのいずれかを用いて、移動が制御される。
以下では、地図データとして磁気地図データを利用する場合について説明する。
マルチナビゲータ61は、第1記憶部51に記憶されている磁気地図データを読み込む。そして、方位センサ27を含む磁気センサ23で測定される測定磁気データと磁気地図データとを比較し、その偏差を求める。磁気に関する偏差(ΔGx、ΔGy、ΔGz)、方位に関する偏差(Δθ)は、図8に示すように、正規のルートに対する自律移動体10の向きに偏差があるために生ずる。マルチナビゲータ61は、磁気に関する偏差(ΔGx、ΔGy、ΔGz)、方位に関する偏差(Δθ)に基づいてモータへの指令値を計算し、これをナビゲータ選択部63に送る。
【0064】
[移動制御部40]
移動制御部40は、位置演算機能で求められた残移動距離に基づいて、自律移動体10をルートに沿って次の経由地まで移動するように、駆動モータ15、16に駆動指令を出力する。また、移動制御部40は、位置演算機能で求められた回転角に基づいて、経由地に到達すると、自律移動体10の向きを次のルートに合うように変えるために、駆動モータ15、16に駆動指令を出力する。
【0065】
〔地図用データ測定装置70:図1図9
次に、地図用データ測定装置70について説明する。
特許文献1などの開示は、自律移動体が地図データ(磁気地図データおよび電波地図データ)の測定を行い、測定した地図データを記憶する。これに対して本実施形態は、地図データの測定は、自律移動体10とは独立した地図用データ測定装置70が行う。これは、以下の理由による。つまり、詳細な地図データを測定するためには、できるだけ多くの各種センサが必要であるとともに、高性能なコンピュータ装置が必要である。これらセンサおよびコンピュータ装置が仮に自律移動体10に搭載されると、自律移動体10の移動は緩慢になる。したがって、自律移動体10には自律移動に必要最低限のセンサ類とコンピュータ装置を搭載する代わりに、地図用データ測定装置70には詳細な地図データを測定するのに必要なセンサ類、コンピュータ装置を搭載させる。地図用データ測定装置70で測定された地図データは、後述する地図データ生成装置90に記憶される。前述したように、自律移動体10は、所定の移動経路を移動する前に、当該移動経路に対応する地図データを、インターネット100を介して地図データ生成装置90から読み出す。
【0066】
図9を参照しながら、地図用データ測定装置70の構成について説明する。本実施形態における地図用データ測定装置70は、駆動モータ15、16で移動可能である点で自律移動体10と共通するところがある。そこで、図9の地図用データ測定装置70において、自律移動体10と同じ構成部分については自律移動体10と同じ符号を付してその説明を省略することがある。ただし、これは説明の便宜のためであって、実際の自律移動体10と地図用データ測定装置70とが必ずしも共通するところがあることを限定するものではない。また、地図用データ測定装置70は、駆動モータ15、16で移動する以外に、人の手押しによる移動ができることが好ましい。
【0067】
地図用データ測定装置70は、本体11の内部に制御部77を備える。制御部77は、後述する各種センサから各種データを受信するとともに、受信した各種データから地図データを生成する。生成された地図データは、地図データ生成装置90に送信され、地図データ生成装置90に記憶される。地図データについては後述する。
【0068】
地図用データ測定装置70は、図9に示すように、その前(F)の側に、幾何地図用データを取得するために、2台のLIDAR71A,71Bを備える。LIDAR71A,71Bは、一例として、地上からの高さが異なる位置に配置されている。LIDAR71A,71Bで測定された幾何地図用データは、地図データ生成装置90に送られる。幾何地図用データは、本発明における第1地図用データに該当する。
このように複数台のLIDAR71A,71Bを設けるのは、以下の理由による。つまり、自律移動システム1に複数種類の自律移動体10が存在する場合には、それぞれの自律移動体10によってLIDAR21を設ける位置(高さ)が異なることがあることに対応するためである。次に説明する磁気センサ73A、73B、73Cに同様に当てはまる。
ここでは、本体11の前(F)の側に2台のLIDAR71A,71Bを備えているが、さらにLIDARを増設してもよい。増設する位置は、本体11の幅方向(W)の両側面であってもよい、本体11の後(B)の側でもよい。これも、次に説明する磁気センサ73A、73B、73Cに同様に当てはまる。
【0069】
地図用データ測定装置70は、図9に示すように、その前(F)の側に、磁気地図用データを取得するために、3台の磁気センサ73A、73B、73Cを備える。磁気センサ73A、73B、73Cは、地上からの高さが異なる位置に配置されている。磁気センサ73A、73B、73Cで測定された磁気地図用データは地図データ生成装置90に送られる。磁気地図用データは、本発明における第2地図用データに該当する。
【0070】
次に、地図用データ測定装置70は、電波センサ75を備える。電波センサ75は、電波地図用データを取得するために設けられる。
電波センサ75は、WiFi信号を受信するとともに、その強度を測定する。測定されたWiFi信号に関する電波地図用データは地図データ生成装置90に送られる。電波地図用データは、磁気地図用データとともに本発明における第2地図用データに対応する。
【0071】
〔地図データ生成装置90:図1図10図13
地図データ生成装置90は、地図用データを記憶する。この地図用データは、地図用データ測定装置70で生成されたものと一致する。ただし、地図用データ測定装置70で生成された地図用データを、地図データ生成装置90において加工して記憶することもできる。
地図データ生成装置90は、図10に示すように、インターネット100を介して、地図用データを地図用データ測定装置70から受信するとともに、地図データを自律移動体10に送信する送受信部91と、地図用データを記憶する記憶部93と、を備える。また、地図データ生成装置90は、地図用データを調整して地図データを生成するとともに、送受信部91と記憶部93の動作を制御する制御部95を備える。以下、地図データ生成装置90の中で特徴的な構成である記憶部93および制御部95について順に説明する。
【0072】
[記憶部93に記憶される地図用データ]
記憶部93は、幾何地図用データ、磁気地図用データおよび電波地図用データを記憶する。これらの幾何地図用データ、磁気地図用データおよび電波地図用データは、移動経路ごとに区別されて記憶される。
【0073】
図11は、記憶部93に記憶される地図用データの一例を示している。
図11に示される地図用データは、第n移動経路、第n移動経路および第n移動経路と3移動経路を示している。実際には、さらに複数の移動経路についての地図用データを記憶することができる。第n移動経路、第n移動経路および第n移動経路のそれぞれの地図用データは、幾何地図用データ、磁気地図用データおよび電波地図用データを備えている。それぞれの地図用データは、種別および位置に区分される。種別には、2次元(2D)または3次元(3D)が区別されている。
また、位置は、2Dの地図用データに対応しており、地図用データ測定装置70のLIDAR71A,71Bおよび磁気センサ73A,73B,73Cの位置に対応する高さをH11,H21などとして記述されている。そして、それぞれの位置に対応して地図用データが記憶されている。例えば、幾何地図用データの位置については、LIDAR71Aで測定されたデータが記憶されている。また、磁気地図用データの位置については、磁気センサ73Bで測定されたデータが記憶されている。この磁気地図用データは、測定された複数の位置と、それぞれの位置における磁気強度が対応付けられたデータである。さらに、電波地図用データは、電波センサ75で測定されたデータが記憶されている。この電波地図用データは、測定された複数の位置と、それぞれの位置における電波強度が対応付けられたデータである。
【0074】
地図データは、自律移動体10に搭載された各種センサに合わせたデータ形式とする必要がある。そのため、センサの種類、運用に応じて多様な地図データの形式が必要になる。
したがって、地図データ生成装置90は、様々な形式に変換可能な基礎的な地図用データを保有しながら、自律移動体10のセンサに応じる形式に変換し、さらに、その自律移動体10の行動とその範囲に応じて地図データを提供することが好ましい。
【0075】
ここで、地図用データは以下の二つの形態で記憶される。幾何地図用データは、第1形態で記憶され、磁気地図用データおよび電波地図用データは、第2形態で記憶される。
【0076】
第1形態:占有格子地図(occupancy grid map)に情報を記憶。占有格子地図には、2Dおよび3Dがある。
第2形態:ランドマークの座標とそれに関連する情報で記憶。
【0077】
第1形態は自律移動体10の行動領域が定義できれば、データ量の増減はない。ただし、占有格子の寸法の定義によってデータ量は変化する。
自律移動体10の制御分解能は地図データの分解能に依存するので、例えば、10cm程度の位置決めを行うのであれば、占有格子の体積も10cm以下とする。地図データを粗くするのは技術的には容易なので、地図データはなるべく細かく持つべきである。
第2形態は、発信源もしくは測定源の位置と信号の方向・強度を記憶する。そのため発信源もしくは測定源が増えることによってデータ量が増えることになる。
座標移動による信号強度の変化は関数で連続的に表現されるので、高い分解能で地図を表現することができる。ただし、自律移動体10の現実的な処理を想定すると、第1形態の占有格子に変換した方が適切である。
【0078】
たとえば、自律移動システム1を広い面積を有する例えば公園などに適用したとすると、自律移動体10は障害物に衝突しなければよく、また、最終的な到達地点の位置が正確である必要はない。この場合には、高分解能、例えば10cm以下の地図よりも、多少粗い、例えば50cm程度の分解能で、広い範囲の地図(この例なら1方向で5倍、面積で25倍の範囲をカバー)を持った方が有利である。
逆に、走行することに意味があるような場合は、例えば田植えであったり、清掃作業(芝刈りで隙間を埋めてスキャン走行する場合)であったりすると、おそらく範囲も限定的である。例えば、田植えであれば自律移動体10の位置精度は10cm以下が求められるかもしれない。
また、自律移動体10の寸法によっても異なることもある。室内移動する小型の自律移動体10であれば、数センチの分解能が求められるが、幅の広い道路や、砂漠、放牧地であれば、数メートルの分解能で足りることもある。
【0079】
幾何地図用データは、第2形態で記憶することも可能である。直線関数などの明確に定義される幾何データを占有格子空間に記憶することは第2形態による記憶に該当するといえる。したがって、幾何地図用データは、第1形態と第2形態の両方で記憶されるのが好ましい。つまり、地図用データ測定装置70において、地図用データ測定装置70が管理する占有格子空間にデータをプロットするときは第1形態の方の利便性が高い。一方、建物の図面、道路標識の図面など、正確な設置位置と物体の形状が特定されているのであれば、第2形態の方の利便性が高い。
【0080】
また、磁気の発信源と磁気強度の拡散状況の変化がわかれば、これを占有格子空間に記憶することは第1形態に該当する。
さらに、WiFi信号による電波地図を占有格子空間上で電波強度を記憶することは第1形態に該当する。
【0081】
[自律移動体10からの地図データの要求:図12図13
地図データ生成装置90は様々な形式に変換可能な基礎的な地図用データを保有しており、自律移動体10は地図データ生成装置90に対して、自身に対して必要なデータを要求(リクエスト)できる。以下、図12および図13を参照しながら説明する。
自律移動体10Aおよび自律移動体10Bは、図12に示すように、地図データ生成装置90に対して、それぞれの自律移動に対して必要なデータの送信をリクエストする。このリクエストは、自律移動する移動経路と各種センサの仕様を含んでいる。
リクエストの一例が図13に示されている。このリクエストは、第n移動経路に関する要求である。そして、幾何地図データについては2Dであって当該位置のものを要求し、磁気地図データについては2Dであって当該位置のものを要求し、電波地図データについては2Dのものを要求している。このリクエストは、LIDAR21、磁気センサ23および電波センサ25の仕様を含んでいる。
【0082】
[地図データ生成装置90からの地図送信:図12
上記する自律移動体10からの要求を受けて、地図データ生成装置90は以下の手順により、自律移動体10に合わせて地図データを生成し、自律移動体10に送信する。
手順A:保有する幾何占有格子地図(高精細なデータ)を自律移動体10の位置認識分解能に合わせて調整する。
手順B:第2形態で管理されているデータに基づく地図データを生成。
B-1:第2形態で記憶されている幾何地図用データ(建物の正確な寸法など)を手順Aの地図データに追加する。
B-2:第2形態で記憶されている磁気地図用データを手順Aと同サイズ、同占有格子の寸法のデータに磁気強度を変換し、さらにガウス分布に基づいて、隙間データの補間を行って磁気地図データを生成する。
B-3:第2形態で記憶されている電波地図用データを手順Aと同サイズ、同占有格子の寸法のデータに磁気強度を変換し、さらにガウス分布に基づいて、隙間データの補間を行って電波地図データを生成する。この場合はデータ補間ではなく、モデル推定で電波の強度の分布を算出する。また、電波地図データは電波発信源ごとに生成される。
【0083】
図14図15および図16は、それぞれ、地図データ生成装置90で生成された幾何地図データ、磁気地図データおよび電波地図データの一例を示している。
図15に示される3つの磁気地図データは、それぞれ測定位置(高さ)が相違する。また、図16に示される3つの電波地図データは、平面方向の異なる位置で測定されるものである。
【0084】
[自律移動システム1の動作:図17
次に、図16を参照しながら、自律移動システム1の動作を説明する。
まず、自律移動システム1において自律移動体10が所定の移動経路を自律移動するための自律移動システム1の全体としての動作を説明する。なお、前述したように、自律移動体10は移動経路を移動する前には、当該移動経路についての地図データを保持していないものとする。
【0085】
[地図データ測定,サーバ送信:図17 S101]
移動経路を自律移動するためには、はじめに地図用データ測定装置70を用いて地図データを測定する。測定は、移動経路に沿って地図用データ測定装置70を移動させながら、LIDAR21、磁気センサ23および電波センサ25を作動させる。これにより、地図用データ測定装置70は、幾何地図データ、磁気地図データおよび電波地図データを測定する。測定された幾何地図データ、磁気地図データおよび電波地図データは、地図用データ測定装置70の制御部77を介して、地図データ生成装置90に送信される。
【0086】
以上の地図データの測定および地図データ生成装置90への送信は、複数の異なる移動経路があるのであれば、異なる移動経路ごとに行われる。例えば、自律移動体10について、第1移動経路、第2移動経路、第3移動経路、…、第N移動経路と異なるN通りの移動経路が予定されているのであれば、N通りの移動経路について地図データの測定、地図データ生成装置90への送信が行われる。
【0087】
[地図データ受信、記憶:図17 S103]
地図データ生成装置90は、地図データを受信すると、当該データを記憶部93に記憶する。記憶部93に記憶される地図データは、当該データの要求があるまで、記憶部93において待ち受ける。
記憶は移動経路ごとに区分されて行われる。例えば、第1移動経路、第2移動経路、第3移動経路、…、第N移動経路についていえば、第1移動経路についての第1地図データ、第2移動経路についての第2地図データ、第3移動経路についての第3地図データ、…、第N移動経路についての第N地図データは、それぞれが異なるファイルとして記憶部93に記憶される。
【0088】
[地図データ要求:図17 S105]
自律移動体10が移動経路を移動する際には、移動に先立って当該移動経路に対応する地図データを地図データ生成装置90に対して要求する。
自律移動体10がこれから移動しようとするのが、例えば、第1移動経路だとすると、第1地図データを送信するように、自律移動体10から地図データ生成装置90に要求する。また、自律移動体10からの要求は、移動経路に対応する地図データのデータ形式などを含んでいる。
自律移動体10が地図データ生成装置90に対して地図データを要求するのは、地図データ生成装置90に地図データが記憶された直後のこともあれば相当の日時が経過してからのこともある。
【0089】
[要求地図データ調整・送信:図17 S107]
地図データ生成装置90は、地図データ送信の要求があると、前述した手順で地図用データを調整して地図データを生成し、自律移動体10に向けて送信する。
【0090】
[自律移動:図17 S109]
自律移動体10は、地図データ生成装置90から受信した地図データに基づいて、自律移動する。
【0091】
[自律移動システム1の効果]
以上説明した自律移動システム1が奏する効果を説明する。
自律移動システム1によれば、自律移動体10の移動経路に関する地図データを地図データ生成装置90が備え、この地図データ生成装置90は移動経路の移動が予定される自律移動体10からの要求を受信すると当該要求に応じて地図データを自律移動体10に送信する。したがって、本実施形態に係る自律移動体10は、移動を開始する前に地図データを備える必要がないので、保持する地図データのデータ量を抑えることができる。
しかも、本発明によれば、自律移動体10からの要求に応じて調整された地図データを自律移動体10に送信するので、自律移動体10を適切に移動させることができる。
【0092】
本実施形態に係る地図データ生成装置90によれば、移動経路の移動が予定される自律移動体10からの要求に基づいて地図データ用データを調整して地図データを生成し、自律移動体に送信する。したがって、本実施形態に係る地図データ生成装置90によれば、同じ地図用データしか備えていなくても、異なる自律移動体10A,10B…を同じ移動経路を移動させることができる。
自律移動体10A,10B…のそれぞれにおいて、移動経路に沿って磁気などを測定して地図データを生成すれば自律移動できる。しかし、自律移動の前において、自律移動体10A,10B…のそれぞれについて地図データを生成することは負担が極めて大きい。
【0093】
次に、自律移動システム1によれば、地図用データ測定装置70が地図用データの測定を行い、この地図用データに基づいて地図データ生成装置90が地図データを生成する。これにより、自律移動体10は地図用データを測定する必要がないのに加えて、地図用データを生成する必要がない。したがって、本実施形態に係る自律移動体10は、移動に対する最小限の装備で足りる。
【0094】
また、自律移動システム1は、自律移動するのに可視データに加えて不可視データを用いる。可視データである幾何データだけを用いると、例えば人によってLIDAR21の視野が塞がれてしまって、測定幾何データとの照合ができずに、自己位置の推定を誤るおそれがある。これに対して、不可視データは、そもそも人を認識しないので、人が原因で自己位置の推定を誤るおそれがなく、人混み環境においてロバストな自律移動を実現できる。
【0095】
また、自律移動システム1は、不可視データとして磁気データと電波データを用いる。したがって、磁気データでは自己位置推定が困難な場合には電波データを用い、逆に電波データでは自己位置推定が困難な場合には磁気データを用いることにより、自己位置推定が可能になる。
【0096】
また、自律移動システム1において、地図用データ測定装置70が複数のLIDAR71A,71Bおよび磁気センサ73A,73B,73Cを備え、それぞれで地図用データを測定し、地図データ生成装置90がそれぞれの地図用データを記憶する。したがって、異なる仕様の自律移動体10が複数台存在していても、それぞれの自律移動体10に整合する地図用データを用いて地図データを自律移動体10に提供できる。これにより、本実施形態の自律移動システム1は、自律移動体10を高い精度で移動させることができる。
【0097】
さらに、自律移動システム1は、マルチナビゲータ61を備え、ナビゲータ選択部63が優先度の高いナビゲータを選択する。したがって、自律移動するのに最も適した地図データおよび測定データを用いるので、自律移動体10の移動の精度を確保できる。
【0098】
さらにまた、自律移動体10が移動する実環境では、人の往来や、他の自律移動体、一時的に設置された物体や構造など、静的な情報だけとは限らない。そのため、高さ方向を含めた三次元的なスキャン測定によって確率的に変化のない構造の検知と、三次元的な地図との照合により自己位置計算が行われているが、そのために膨大な計算が必要となる。
これに対しては、二次元的地図と、磁気データによって表現される質的に異なる地図を持った場合、質的な違いからデータの齟齬が補間しやすくなる。そのため、人の往来等を許容した環境での安定した自己位置計算が可能となる。
【0099】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
【0100】
例えば、以上の実施形態では、地図用データ測定装置70が地図用データを測定し、地図データ生成装置90がこの地図用データを調整して地図データを生成することにしている。しかし、本発明は、地図用データ測定装置70が地図用データを測定するとともに、測定した地図用データを調整して地図データを生成した後に、地図データ生成装置90に送信してもよい。
【0101】
また、以上の実施形態では、1台の地図データ生成装置90に対して1台の自律移動体10が対応することを示している。しかし、本発明においては、1台の地図データ生成装置90に対して複数台の自律移動体10が対応することもできる。この場合、複数台の自律移動体10は、地図データ生成装置90から同じ移動経路についての地図データを受信することができるし、異なる移動経路についての地図データを受信することもできる。
【0102】
また、以上の実施形態では、1台の地図データ生成装置90に対して1台の地図用データ測定装置70が対応することを示している。しかし、本発明においては、1台の地図データ生成装置90に対して複数台の地図用データ測定装置70が対応することもできる。この場合、複数台の地図用データ測定装置70は、異なる移動経路についての地図用データを測定し、地図データ生成装置90に送信できる。
【符号の説明】
【0103】
1 自律移動システム
10 自律移動体
11 本体
13,14 駆動輪
15,16 駆動モータ
17 キャスタ
18,19 ロータリエンコーダ
20 バッテリ
21 LIDAR
23 磁気センサ
25 電波センサ
30 制御部
40 移動制御部
50 記憶部
51 第1記憶部
52 第2記憶部
53 第3記憶部
60 演算処理部
61 マルチナビゲータ
61A 第1ナビゲータ
61B 第2ナビゲータ
61C 第3ナビゲータ
61D 第4ナビゲータ
63 ナビゲータ選択部
70 地図用データ測定装置
71A,71B LIDAR
73A,73B,73C 磁気センサ
75 電波センサ
77 制御部
90 地図データ生成装置
91 送受信部
92 制御部
93 記憶部
95 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17