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特許7571351触媒、電極、水電解方法および触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】触媒、電極、水電解方法および触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20241016BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241016BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241016BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241016BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241016BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20241016BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20241016BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J37/08
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/091
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021519323
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020017002
(87)【国際公開番号】W WO2020230530
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019090888
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】八木 政行
(72)【発明者】
【氏名】ザキ ナビホ アハメド ザハラン
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0305231(US,A1)
【文献】国際公開第2011/030546(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107892284(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C25B 1/04- 1/044;9/00;11/052;11/054;11/091
H01M 4/90- 4/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の電気分解に用いられる触媒であって、
金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含み、
触媒中において、前記CおよびNからなる化合物は、前記金属硫化物を鞘状に被覆していることを特徴とする触媒。
【請求項2】
水の電気分解に用いられる触媒であって、
金属硫化物と、β-Cとを含み、
触媒中において、前記β-Cは、前記金属硫化物を鞘状に被覆していることを特徴とする触媒。
【請求項3】
前記金属硫化物として硫化ニッケルを含有する請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有する請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
水の電気分解に用いられる触媒であって、
硫化ニッケルと、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成され、
前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有することを特徴とする触媒。
【請求項6】
触媒中において、前記CおよびNからなる化合物は、前記硫化ニッケルの表面に付着した形態で含まれている請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
水の電気分解に用いられる触媒であって、
硫化ニッケルと、β-Cとを含む材料で構成され、
前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有することを特徴とする触媒。
【請求項8】
触媒中において、前記β-Cは、前記金属硫化物の表面に付着した形態で含まれている請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
10mA/cmの電流密度での酸素生成に要する過電圧が150mV以下である請求項1ないし8いずれか1項に記載の触媒。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の触媒を含む水電解用電極であることを特徴とする電極。
【請求項11】
電極は、酸素発生用触媒電極である請求項10に記載の電極。
【請求項12】
請求項10または11の電極を用いて水を電解することを特徴とする水電解方法。
【請求項13】
水の電気分解に用いられる触媒を製造する方法であって、
金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、
金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項14】
水の電気分解に用いられる触媒を製造する方法であって、
金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、
金属硫化物と、β-Cとを含む材料で構成された触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項15】
前記金属材料と前記チオ尿素とを接触させた状態で熱処理を施す請求項13または14に記載の触媒の製造方法。
【請求項16】
前記金属材料を前記チオ尿素の粉末中に埋没させた状態で熱処理を施す請求項13ないし15のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理を複数回施す請求項15または16に記載の触媒の製造方法。
【請求項18】
前記金属材料は、ニッケルである請求項13ないし17のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項19】
管状炉を用いて、前記熱処理を行う請求項13ないし18のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、電極、水電解方法および触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の水素製造システムとして水電解装置が、非常に注目されている。
水電解装置では、酸素発生アノードと、水素発生カソードが必須であり、各種の酸素発生アノード、水素発生カソードが提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、従来の酸素発生アノードでは、酸素発生過電圧が高いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】P. Zhang, L. Li, D. Nordlund, H. Chen, L. Fan, B. Zhang, X. Sheng, Q. Daniel and L. Sun, Nat. Commun., 2018, 9, 381.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い触媒活性を有する触媒を提供すること、高い触媒活性を有する触媒を含む電極、効率よく水を電解することができる水電解方法、また、前記触媒を好適に製造することができる触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)~(19)に記載の本発明により達成される。
(1) 水の電気分解に用いられる触媒であって、
金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含み、
触媒中において、前記CおよびNからなる化合物は、前記金属硫化物を鞘状に被覆して
いることを特徴とする触媒。
【0008】
(2) 水の電気分解に用いられる触媒であって、
金属硫化物と、β-Cとを含み、
触媒中において、前記β-Cは、前記金属硫化物を鞘状に被覆していることを特
徴とする触媒。
【0010】
) 前記金属硫化物として硫化ニッケルを含有する上記(1)または(2)に記載の触媒。
【0011】
) 前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有する上記()に記載の触媒。
【0012】
(5) 水の電気分解に用いられる触媒であって、
硫化ニッケルと、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成され、
前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNi3S2を含有することを特徴とする触媒。
(6) 触媒中において、前記CおよびNからなる化合物は、前記硫化ニッケルの表面に付着した形態で含まれている上記(5)に記載の触媒。
(7) 水の電気分解に用いられる触媒であって、
硫化ニッケルと、β-Cとを含む材料で構成され、
前記硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有することを特徴とする触媒。
(8) 触媒中において、前記β-Cは、前記金属硫化物の表面に付着した形態で含まれている上記(7)に記載の触媒。
(9) 10mA/cmの電流密度での酸素生成に要する過電圧が150mV以下である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の触媒。
【0013】
(10) 上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の触媒を含む水電解用電極であることを特徴とする電極。
【0015】
11) 電極は、酸素発生用触媒電極である上記(10)に記載の電極。
【0016】
12) 上記(10)または(11)の電極を用いて水を電解することを特徴とする水電解方法。
【0017】
13水の電気分解に用いられる触媒を製造する方法であって、
金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、
金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
【0018】
14水の電気分解に用いられる触媒を製造する方法であって、
金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、
金属硫化物と、β-Cとを含む材料で構成された触媒を得ることを特徴とする触媒の製造方法。
15) 前記金属材料と前記チオ尿素とを接触させた状態で熱処理を施す上記(13)または(14)に記載の触媒の製造方法。
【0019】
16) 前記金属材料を前記チオ尿素の粉末中に埋没させた状態で熱処理を施す上記(13)ないし(15)のいずれかに記載の触媒の製造方法。
17) 前記熱処理を複数回施す上記(15)または(16)に記載の触媒の製造方法。
【0020】
18) 前記金属材料は、ニッケルである上記(13)ないし(17)のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【0021】
19) 管状炉を用いて、前記熱処理を行う上記(13)ないし(18)のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い触媒活性を有する触媒を提供すること、高い触媒活性を有する触媒を含む電極、効率よく水を電解することができる水電解方法、また、前記触媒を好適に製造することができる触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例2で得られた触媒についてのX線回折(XRD)パターンと、原料としてのニッケルの多孔質、金属硫化物としてのNiSおよびNi、β-CについてのX線回折(XRD)パターンとの対応を示す図である。
図2図2は、実施例2で得られた触媒のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図3図3は、実施例2の触媒の製造に用いたニッケルの多孔質(比較例1のサンプルに対応)のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図4図4は、比較例4~6で得られた触媒についてのX線回折(XRD)パターンを示す図である。
図5図5は、実施例2、比較例1、比較例2および比較例3で得られた触媒について、10mA/cmの電流密度で水の電気分解を行った場合の酸素生成に要する過電圧の経時的な変化を示すグラフである。
図6図6は、水の電気分解の前後での実施例2の触媒のX線回折(XRD)パターンを示す図である。
図7図7は、実施例2で得られた触媒の表面に生成した微細部のTEM(透過型電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]触媒
まず、本発明の触媒について説明する。
【0025】
本発明の触媒は、金属硫化物と、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成されている。
【0026】
より具体的には、本発明の触媒は、金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成されている。
【0027】
また、本発明の触媒は、金属硫化物と、β-C(六方晶窒化炭素)とを含む材料で構成されている。
このような構成により、高い触媒活性を有する触媒を提供することができる。
【0028】
触媒は、金属硫化物およびβ-Cを含んでいるか否かは、例えば、X線回折法(XRD)、X線電子分光法(XPS)、エネルギー分散型X線分析(EDS)等の各種分析法により確認することができる。
【0029】
より具体的には、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すことにより、β-C(六方晶窒化炭素)が含まれていると判断することができる。2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°の回折ピークは、β-C(六方晶窒化炭素)に特有の回折ピークである。β-C(六方晶窒化炭素)は、上記の回折ピークに加えて、さらに、2θ=(32.2±0.5)°および2θ=(40.9±0.5)°にも回折ピークを示す。なお、グラフェン状の窒化炭素では、X線回折法により得られるX線回折パターンにおいて、2θ=(13.0±0.5)°、2θ=(27.0±0.5)°に回折ピークを示すものの、上記の本発明に係るCおよびNからなる化合物、β-Cが示すような2θ=(16.0±0.5)°、2θ=(27.8±0.5)°、2θ=(32.2±0.5)°、2θ=(40.9±0.5)°の回折ピークは示さない。グラフェン状の窒化炭素の2θ=(27.0±0.5)°で回折ピークと、本発明に係るCおよびNからなる化合物、β-Cの2θ=(27.8±0.5)°の回折ピークは、近接した領域にあり、判別が困難である場合もあるが、2θ=(16.0±0.5)°の回折ピークの有無によって、本発明に係るCおよびNからなる化合物、β-Cを含むか否かを判別することができる。
【0030】
以下の説明では、「測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターン」のことを、単に、「X線回折法により得られるX線回折パターン」または「X線回折パターン」ということがある。
【0031】
また、金属硫化物についても、X線回折パターンのデータベースとの比較により、触媒中に含まれる金属硫化物がいかなるものであるかを、好適に特定することができる。
【0032】
以下の説明では、「X線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物」および「β-C(六方晶窒化炭素)」を総称して「所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物」という。
【0033】
金属硫化物を構成する金属元素は、特に限定されず、例えば、Ni、Cu、Mn、Fe、Co、Cr、Ti、Ag、Au等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を含むことができる。
【0034】
金属硫化物を構成する金属元素の種類によって、例えば、触媒の機能等を調整することができる。
【0035】
本発明の触媒の用途としては、水の酸化触媒、水の還元触媒、酸素還元触媒、二酸化炭素還元触媒、水素酸化触媒等が挙げられる。水の酸化触媒は、水から電気化学的に酸素を生成する反応に用いられる触媒であり、エネルギー変換、水素生成等の分野においてアノード触媒等として、好適に使用することができる。水の還元触媒は、水から電気化学的に水素を生成する反応に用いられる触媒であり、エネルギー変換、水素生成等の分野においてカソード触媒等として、好適に使用することができる。
【0036】
例えば、金属硫化物を構成する金属元素としてNi、Cu、Mn、Fe、Co、Cr、Ti、AgおよびAuより選択される1種または2種以上を含むことにより、本発明の触媒は、水の酸化触媒等として機能するものとなる。
【0037】
また、金属硫化物を構成する金属元素としてNi、Cu、Mn、Fe、Co、Cr、Ti、AgおよびAuより選択される1種または2種以上を含むことにより、本発明の触媒は、水の還元触媒等として機能するものとなる。
【0038】
特に、本発明の触媒が金属硫化物として硫化ニッケルを含有するものであると、水の酸化触媒としての機能を特に優れたものとすることができる。
【0039】
本発明の触媒が硫化ニッケルを含むものである場合、硫化ニッケルとして、NiSおよびNiを含有しているのが好ましい。
これにより、水の酸化触媒としての機能をさらに優れたものとすることができる。
【0040】
金属硫化物、および、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物は、本発明の触媒中で、いかなる形態で含まれていてもよいが、触媒中において、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物は、金属硫化物の表面に付着した形態で含まれているのが好ましい。
【0041】
これにより、前述したような触媒としての機能をより安定的に発揮することができる。特に、水電解装置の電極等の電極材料として用いた場合に、安定的に通電性を確保することができ、電極としての機能をより安定的に発揮することができる。
【0042】
触媒中において、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物が、金属硫化物の表面に付着した形態で含まれている場合、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物は、例えば、金属硫化物の表面の一部にのみ付着していてもよいし、金属硫化物の表面全体を被覆していてもよい。
【0043】
また、触媒中において、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物が、金属硫化物の表面に付着した形態で含まれている場合、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物は、例えば、金属硫化物の表面の一部にのみ島状に付着しているものであってもよいし、突起状、繊維状、板状、柱状、梁状等の金属硫化物を鞘状に被覆しているものであってもよい。
【0044】
本発明の触媒は、金属硫化物および所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物に加えて、他の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の触媒は、金属材料を含んでいてもよい。
【0045】
これにより、例えば、触媒全体としての導電性を優れたものとすることができ、本発明の触媒を電極材料等(特に、水電解装置の電極の材料等)として好適に用いることができる。また、本発明の触媒を他の部材に好適に接合することができる。
【0046】
金属材料としては、例えば、単体金属、合金等が挙げられるが、金属材料中には、不純物(例えば、5質量%以下の不純物)が含まれていてもよい。
【0047】
本発明の触媒が金属材料を含んでいる場合、当該金属材料は、前記金属硫化物といかなる関係のものであってもよいが、金属硫化物を構成する金属元素と、共通の金属元素を含んでいるのが好ましい。
【0048】
これにより、金属材料と金属硫化物との親和性を優れたものとすることができ、触媒中において金属材料と金属硫化物とが不本意に分離してしまうことをより効果的に防止することができる。その結果、前述したような触媒としての機能をより安定的に発揮することができる。特に、水電解装置の電極等の電極材料として用いた場合に、安定的に通電性を確保することができ、電極としての機能をより安定的に発揮することができる。
【0049】
また、本発明の触媒が、金属硫化物を構成する金属元素と共通の金属元素を含む金属材料を含むものである場合、例えば、原料としての金属材料の一部のみを硫化させ、未反応の部分を残すことにより、金属材料と金属硫化物とが密着した状態の本発明の触媒を得ることができる。この場合、触媒の製造が容易になるとともに、金属材料と金属硫化物とが密着性をより優れたものとすることができる。
【0050】
本発明の触媒が水の酸化触媒である場合、当該触媒の10mA/cmの電流密度での酸素生成に要する過電圧は、150mV以下であるのが好ましく、100mV以下であるのがより好ましく、50mV以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、例えば、水の酸化による酸素発生反応(例えば、水電解装置の酸素発生アノードでの反応)をより効率よく進行させることができ、酸素の発生効率をより優れたものとすることができる。
【0052】
上記の酸素生成に要する過電圧の測定は、例えば、以下のような条件での水の電気分解を行った際の測定値を採用することができる。すなわち、本発明の触媒を酸素発生アノードとして用いるとともに、水素発生カソードとして白金線を用いて、水電解装置を製造し、当該水電解装置を用いて、1M水酸化カリウム水溶液に、10mA/cmの電流密度で5時間通電することにより、水の電気分解を行った際の通電開始1時間経過時点での過電圧の値を採用することができる。
【0053】
本発明の触媒の形状、大きさは、特に限定されず、当該触媒の用途等に応じて適宜調整することができる。
【0054】
例えば、本発明の触媒の形状としては、粉末状、膜状、板状、ブロック状(塊状)等が挙げられる。
【0055】
本発明の触媒は、緻密体であってもよいが、多孔質体であるのが好ましい。
これにより、触媒の表面積を大きくすることができ、触媒活性をより高いものとすることができる。
【0056】
特に、多孔質体の空孔内に、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物が担持されていることにより、触媒を長期間使用した場合や、過酷な環境で使用した場合であっても、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物の不本意な脱落をより好適に防止することができる。その結果、触媒の耐久性をより優れたものとすることができる。
【0057】
[2]触媒の製造方法
次に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
【0058】
本発明の触媒の製造方法は、金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す熱処理工程を有し、金属硫化物と、前述した所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された触媒を得ることを特徴とする。
【0059】
これにより、金属材料とチオ尿素とを反応させ、前述したような金属硫化物と、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された本発明の触媒を効率良く得ることができる。より具体的には、チオ尿素は、金属材料を硫化させる硫黄源として機能するとともに、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物を生成するための炭素源および窒素源として機能し、金属硫化物および所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物を効率よく生成することができ、本発明の触媒を効率よく製造することができる。また、好ましくない反応が進行することを効果的に防止することができ、製造される触媒の性能の低下を防止する観点、原料の無駄を防止する観点等からも有利である。
【0060】
熱処理工程は、金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で行えばよく、例えば、ブロック状(塊状)のチオ尿素を金属材料と接触させて行ってもよいが、金属材料をチオ尿素の粉末中に埋没させた状態で熱処理を施すのが好ましい。
【0061】
これにより、金属材料の目的とする各部位において、チオ尿素と好適に接触させることができる。より具体的には、金属材料表面に接するチオ尿素濃度をより好適に高めることができ、より効率よく目的とする反応が進行する。特に、金属材料が複雑形状、微細形状を有するものであっても、このような効果が得られる。また、溶媒等に由来する不純物が発生したり、製造される触媒中に含まれたりすることをより効果的に防止することができ、製造される触媒の性能低下の防止、触媒の生産性向上等の観点から有利である。また、金属材料をチオ尿素の粉末中に埋没させた状態で熱処理を施すことにより、例えば、本工程中における、母材(ワーク)としての金属材料の急激な温度変化や、金属材料の各部位での不本意な温度のばらつきをより効果的に防止することができ、製造される触媒における内部応力の発生や不本意な変形等をより効果的に防止することができる。また、粉末状のチオ尿素を用いることにより、市販品を好適に利用することができ、触媒の生産性等を向上させる上で特に有利である。
【0062】
チオ尿素の粉末を構成する粒子の平均粒径は、1.0μm以上10mm以下であるのが好ましく、5.0μm以上3.0mm以下であるのがより好ましく、10μm以上1.0mm以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
これにより、チオ尿素の粉末の取り扱いが容易であるとともに、チオ尿素の粉末の流動性をより優れたものとすることができ、様々な形状の母材(ワーク)としての金属材料とより好適に接触させることができ、前述した反応をより好適に進行させることができる。
【0064】
なお、本明細書において、「平均粒径」とは、特に断りがない限り、個数基準の平均粒径のことを指す。
【0065】
熱処理工程に供される金属材料の形状、大きさは、特に限定されないが、通常、製造すべき触媒の大きさ、形状により決定される。
【0066】
また、熱処理工程に供される金属材料は、緻密体であってもよいし、多孔質体であってもよいが、多孔質体であるのが好ましい。
【0067】
これにより、金属材料の比表面積を大きくすることができ、チオ尿素との反応性を高めることができるだけでなく、製造される触媒の触媒活性もより高いものとすることができる。また、空孔内に、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物を好適に担持することができ、製造される触媒を長期間使用した場合や、過酷な環境で使用した場合であっても、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物の不本意な脱落をより好適に防止することができる。その結果、触媒の耐久性をより優れたものとすることができる。
【0068】
金属材料としては、製造すべき触媒の金属硫化物を構成する金属元素を含むものであればよく、例えば、各種の単体金属や各種の合金(例えば、ステンレス鋼、真鍮(黄銅)、青銅等)等を用いていることができる。また、金属材料中には、不純物(例えば、5質量%以下の不純物)が含まれていてもよい。
【0069】
中でも、熱処理工程に供される金属材料は、ニッケルであるのが好ましい。
これにより、前述したような熱処理工程での反応をより好適に進行させることができる。また、金属硫化物として硫化ニッケルを含有する、水の酸化触媒としての機能に優れる触媒を好適に製造することができる。
【0070】
なお、本工程で用いる金属部材は、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、金属材料は、基部と当該基部とは異なる組成の被膜とを有するものであってもよいし、複数の層を有する積層体であってもよいし、構成材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0071】
また、本工程でチオ尿素との反応に供される母材(ワーク)としての部材は、例えば、チオ尿素との反応性を有する金属材料に加え、当該金属材料以外の材料で構成された部位を有するものであってもよい。例えば、本工程でチオ尿素との反応に供される母材(ワーク)としての部材は、チオ尿素との反応性を有する部位としての金属材料で構成された部位と、チオ尿素との反応性を有さない部位としてのセラミックス材料で構成された部位とを有するものであってもよい。
【0072】
また、本工程でチオ尿素との反応に供される母材(ワーク)としての部材は、その一部が、マスクにより被覆されたものであってもよい。
【0073】
これにより、例えば、最終的に得られる触媒を、表面が金属材料で構成された部位を有するものとして好適に製造することができる。その結果、例えば、外部の配線と接続し、電極への通電性をより好適に確保することができる。
【0074】
本発明の触媒の製造方法において、熱処理は、少なくとも1回行えばよいが、複数回行うのが好ましい。
【0075】
これにより、金属材料の硫化反応、および、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物の生成反応をより好適に進行させることができる。
【0076】
特に、先の熱処理の後に、チオ尿素を補充して後の熱処理を施すことにより、先の熱処理で、金属材料との反応に加え、分解、昇華等により消失したチオ尿素を好適に補充することができ、全体として、金属材料の硫化反応、および、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物の生成反応をより好適に進行させることができ、触媒の生産性をより優れたものとすることができる。
【0077】
本工程は、いかなる雰囲気で行ってもよく、例えば、大気雰囲気下や真空等の減圧下で行ってもよいが、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0078】
これにより、チオ尿素が昇華により過剰に系内から除去されるのをより効果的に防止しつつ、好ましくない反応により、金属硫化物、および、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物以外の成分が生成することをより効果的に防止することができる。
【0079】
本工程での加熱温度は、金属材料の種類や、金属材料とチオ尿素との共存状態の形態等により異なるが、250℃以上800℃以下であるのが好ましく、300℃以上750℃以下であるのがより好ましく、350℃以上700℃以下であるのがさらに好ましい。
【0080】
これにより、母材(ワーク)としての金属材料の不本意な変形等を効果的に防止しつつ、目的とする反応をより好適に進行させることができる。
【0081】
また、本工程での加熱時間(特に、350℃以上での加熱時間の総和)は、10分間以上1200分間以下であるのが好ましく、30分間以上900分間以下であるのがより好ましく、60分間以上600分間以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
これにより、目的とする反応をより好適に進行させることができるとともに、触媒の生産性をより優れたものとすることができる。ただし、上記のように、複数回の熱処理を行う場合、これらの熱処理の加熱時間の総和が、上記の条件を満足するのが好ましい。
【0083】
本工程では、例えば、異なる温度で処理を行ってもよい。より具体的には、第1の加熱温度で所定時間保持した後、第1の温度とは異なる第2の温度にして、さらに所定時間保持してもよい。
【0084】
また、本工程では、過剰量のチオ尿素を用いるのが好ましい。
具体的には、硫化されるべき金属材料に対するチオ尿素の使用量は、質量比で、10倍量以上であるのが好ましく、20倍量以上であるのがより好ましく、30倍量以上であるのがさらに好ましい。なお、熱処理を複数回行う場合、これらの熱処理で用いるチオ尿素の使用量の総和が、上記の条件を満足するのが好ましい。
【0085】
本工程は、いかなる手段で、熱処理を行ってもよく、例えば、各種の電気炉を用いて好適に行うことができる。中でも、管状炉を用いて、熱処理を行うのが好ましい。
【0086】
これにより、熱処理工程での温度制御が容易で、炉内の各部位での温度の均一性も優れたものとすることができる。また、熱処理工程での雰囲気の調整も容易である。以上のようなことから、触媒の製造条件をより好適に管理することができ、高品質の触媒をより安定的に製造することができる。
【0087】
また、本工程は、例えば、母材(ワーク)としての金属材料の表面の一部が、チオ尿素との接触が阻害された状態で行ってもよい。より具体的には、例えば、金属材料の表面の一部をマスクで被覆した状態で行ってもよい。
【0088】
これにより、母材(ワーク)としての金属材料の表面のうち、チオ尿素との接触が阻害されていない部位(例えば、マスクで被覆されていない部位)において、選択的に前述したような反応を進行させることができ、表面の一部に金属材料が露出している触媒を好適に製造することができる。その結果、例えば、触媒への通電をより好適に行うことができる。また、例えば、他の導電性部材(例えば、端子、配線等)への触媒の接合をより好適に行うことができる。
【0089】
マスクの構成材料は、マスクの被覆部位において、金属材料とチオ尿素との接触を阻害する機能を有するものであれば特に限定されないが、熱処理工程後の除去が容易なものであるのが好ましい。
このような材料としては、例えば、各種樹脂材料等が挙げられる。
【0090】
[3]電極
次に、本発明の電極について説明する。
【0091】
本発明の電極は、前述した本発明の触媒を含むことを特徴とする。
すなわち、本発明の電極は、金属硫化物と、前述した所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された触媒を含んでいる。
これにより、高い触媒活性を有する触媒を含む電極を提供することができる。
【0092】
本発明の電極は、前述した本発明の触媒を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。言い換えると、前述した本発明の触媒は、それ単独でそのまま本発明の電極として用いてもよいし、他の材料と組み合わせて本発明の電極として用いてもよい。
【0093】
また、本発明の電極は、主として前述した本発明の触媒を含む部位と、主として本発明の触媒以外の成分を含む部位とを有していてもよい。より具体的には、例えば、本発明の電極は、主として前述した本発明の触媒を含む部位に加えて、本発明の触媒に接合された、主として金属材料や黒鉛等の導電性炭素系材料で構成された部位を有していてもよい。
【0094】
ただし、本発明の電極において、その表面に、本発明の触媒の少なくとも一部が露出しているのが好ましい。
これにより、前述したような本発明による効果がより好適に発揮される。
【0095】
本発明の電極の用途は、通電により本発明の触媒の機能が発揮されるものであれば、いかなるものであってもよいが、例えば、水電解用電極、酸素発生用触媒電極、二酸化炭素分解用電極、一酸化炭素発生用電極、アンモニア発生電極等が挙げられる。
【0096】
本発明の電極を水電解用電極として用いる場合、アノードとして用いることにより、例えば、エネルギー変換、水素生成等の分野において、水から電気化学的に酸素を生成する反応に好適に用いることができる。このように、本発明の電極を水電解用のアノードとして用いる場合、当該電極は、酸素発生用触媒電極であるとも言える。
【0097】
また、本発明の電極を水電解用電極として用いる場合、カソードとして用いることにより、例えば、エネルギー変換、水素生成等の分野において、水から電気化学的に水素を生成する反応に好適に用いることができる。このように、本発明の電極を水電解用のカソードとして用いる場合、当該電極は、水素発生用触媒電極であるとも言える。
【0098】
本発明の電極は、水電解用電極以外の形態で、酸素発生用触媒電極として用いてもよい。
【0099】
本発明の電極は、前述した本発明の触媒の製造方法を適用することにより、好適に製造することができる。すなわち、本発明の電極は、金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す熱処理工程を有する方法を用いて、好適に製造することができる。
【0100】
熱処理工程で得られた部材を、そのまま、本発明の電極として用いてもよいし、熱処理工程で得られた部材に対して、後処理を施してもよい。例えば、熱処理工程で得られた部材の表面に設けられた、金属硫化物と、前述した所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された領域の一部を除去することにより、未反応の金属材料を露出させる工程を有していてもよい。これにより、外部の配線を金属材料と好適に接続することができ、本発明の電極への通電性をより好適に確保することができる。
【0101】
熱処理工程で得られた部材の表面に設けられた、金属硫化物と、前述した所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された領域の一部を除去する方法としては、例えば、切削、研削、研磨等が挙げられる。研磨としては、例えば、機械研磨、化学研磨、化学機械研磨等が挙げられる。
【0102】
また、熱処理工程に先立ち、金属材料の表面の一部を非金属材料でマスクし、熱処理工程の後に、当該マスクを除去してもよい。これにより、熱処理工程で得られた部材の表面の一部に未反応の金属材料を好適に露出させることができ、外部の配線を金属材料と好適に接続することができ、本発明の電極への通電性をより好適に確保することができる。
【0103】
[4]水電解方法
次に、本発明の水電解方法について説明する。
【0104】
本発明の水電解方法は、前述した本発明の電極を用いて水を電解することを特徴とする。
これにより、効率よく水を電解することができる水電解方法を提供することができる。
【0105】
本発明の水電解方法において、本発明の電極は、カソードとして用いてもよいし、アノードとして用いてもよい。
【0106】
本発明の電極をカソードとして用いることにより、前述したように、本発明の電極は、水素発生用触媒電極として機能し、本発明の電極をアノードとして用いることにより、前述したように、本発明の電極は、酸素発生用触媒電極として機能する。
【0107】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0108】
例えば、本発明の触媒の製造方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
【0109】
より具体的には、例えば、前記熱処理工程の後に、得られた生成物を洗浄する洗浄工程を有していてもよい。
【0110】
また、前記熱処理工程の後に、得られた生成物を粉砕または解砕する粉砕解砕工程を有していてもよい。
【0111】
これにより、粉末状の触媒をより好適に得ることができる。また、粉砕解砕条件を適宜調整することにより、得られる触媒粉末の粒径等を調整することができる。
【0112】
なお、洗浄工程および粉砕解砕工程の両方を行う場合、その順番は特に限定されず、粉砕解砕工程の後に洗浄工程を行ってもよいし、洗浄工程の後に粉砕解砕工程を行ってもよい。また、例えば、湿式粉砕法を採用することにより、洗浄工程と粉砕解砕工程とを同時進行的に行ってもよい。
【0113】
また、前記熱処理工程の後に、得られた生成物に対し、例えば、切削、研磨等の機械加工を施す工程を有していてもよい。
【0114】
また、例えば、本発明の触媒は、金属硫化物と、所定の条件を満たすCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成されていればよく、前述した方法以外の方法で製造されたものであってもよい。
【0115】
また、本発明の電極は、本発明の触媒を含む材料で構成されていればよく、前述した方法以外の方法で製造されたものであってもよい。
【実施例
【0116】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に温度条件を示していない処理、測定については、20℃で行った。
【0117】
[5]触媒の製造
(実施例1)
まず、金属Niで構成されたニラコ社製のNI-318161(純金属 ニッケル 多孔体 1.6×100×110mm)を用意し、これから、1cm×2cmのシート状の試験片(ワークとしての金属材料)を5枚切り出した。
【0118】
次に、前記試験片を、4gの粉末状のチオ尿素中に埋没させ、この状態で、電気炉である管状炉(アズワン社製、プログラム管状電気炉 TMF-700N)を用いて、窒素ガスの雰囲気中で、室温から450℃まで5時間かけて昇温し、450℃で1時間保持し(熱処理工程)、その後、自然冷却した。
【0119】
その後、前記と同量のチオ尿素を補充した状態として上記と同様の熱処理をさらに2回繰り返して行った。350℃以上での加熱時間の総和は、600分間であった。
これにより、触媒を得た。
【0120】
(実施例2)
熱処理工程での熱処理回数を2回に変更した以外は、前記実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0121】
(実施例3)
熱処理工程での熱処理回数を4回に変更した以外は、前記実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0122】
(実施例4)
熱処理工程での加熱温度(最高温度)を400℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0123】
(実施例5)
熱処理工程での加熱温度(最高温度)を700℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして触媒を製造した。
【0124】
また、前記各実施例では、金属硫化物およびβ-Cに加えて金属材料としてのNiで構成された部位を有するものであった。
【0125】
(比較例1)
前記実施例1で用いたニラコ社製のNI-318161(純金属 ニッケル 多孔体 1.6×100×110mm)から、前記と同様にして、1cm×2cmのシート状の試験片を切り出し、当該試験片に対して熱処理を施すことなく、そのまま、触媒として用いることにした。
【0126】
(比較例2)
まず、前記実施例1で用いたニラコ社製のNI-318161(純金属 ニッケル 多孔体 1.6×100×110mm)から、前記と同様にして、1cm×2cmのシート状の試験片を切り出した。
【0127】
一方、0.1M水酸化ナトリウム水溶液を入れたビーカーに、ヘキサクロロイリジウム酸(H[IrCl])を投入し、攪拌混合することにより、H[IrCl]を加水分解した。なお、このときの水酸化ナトリウム水溶液の量は、NaOHがIrに対して50当量であった。
【0128】
その後、前記の加水分解で得られた反応混合物を含む溶液をディッピングにより前記試験片に付与した。
【0129】
次に、80℃で加熱することにより、前記試験片に付与された溶液から溶媒を除去し、さらに、大気中で350℃×60分間の熱処理を施し、その後、自然冷却することにより、ニッケル製の基材の表面に、酸化イリジウムの被膜が設けられてなる触媒が得られた。なお、最高温度までの昇温速度は、5℃/分間とした。
【0130】
(比較例3)
チオ尿素の粉末の代わりに尿素の粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にして触媒を製造した。これにより、基材上にβ-Cが形成された触媒を得た。
【0131】
(比較例4)
まず、前記実施例1で用いたニラコ社製のNI-318161(純金属 ニッケル 多孔体 1.6×100×110mm)から、前記と同様にして、1cm×2cmのシート状の試験片を切り出した。
【0132】
次に、1Mのチオ尿素の水溶液をディッピングにより前記試験片に付与した。
その後、80℃で加熱することにより、前記試験片に付与された溶液から溶媒を除去し、さらに、電気炉である管状炉(アズワン社製、プログラム管状電気炉 TMF-700N)を用いて、窒素ガスの雰囲気中で、室温から450℃まで5時間かけて昇温し、450℃で1時間保持し、その後、自然冷却することにより、触媒を得た。
【0133】
(比較例5)
1Mのチオ尿素の水溶液への試験片のディッピングを4回行った以外は、前記比較例4と同様にして触媒を製造した。
【0134】
(比較例6)
1Mのチオ尿素の水溶液の代わりに、3Mのチオ尿素の水溶液を用いた以外は、前記比較例5と同様にして触媒を製造した。
【0135】
前記各実施例および各比較例で得られた触媒について、X線回折法(XRD)、X線電子分光法(XPS)およびエネルギー分散型X線分析(EDS)による分析を行った。
【0136】
その結果、前記各実施例の触媒では、金属硫化物としてのNiSおよびNiと、β-Cとを含む材料で構成されたものであることが確認されたのに対し、各比較例では、金属硫化物とβ-Cとの共存状態が確認されなかった。
【0137】
前記各実施例および各比較例で得られた触媒について、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行ったところ、前記各実施例の触媒では、原料であるニッケルの多孔質に比べて網目構造の隙間(網目)が小さくなっていることが確認された。これは、金属材料であるNiの硫化反応により金属硫化物が生成し、膨張したためであると考えられる。また、前記各実施例の触媒では、表面に繊維状、綿状の物質が付着していた。これは、ニッケルの硫化物の表面に、β-Cが付着したものであることが確認された。
【0138】
実施例2で得られた触媒についてのX線回折(XRD)パターンと、原料としてのニッケルの多孔質、金属硫化物としてのNiSおよびNi、β-CについてのX線回折(XRD)パターンとの対応を示す図を図1に示し、実施例2で得られた触媒のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図2に示し、実施例2の触媒の製造に用いたニッケルの多孔質(比較例1のサンプルに対応)のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図3に示し、比較例4~6で得られた触媒についてのX線回折(XRD)パターンを図4に示し、実施例2で得られた触媒の表面に生成した微細部のTEM(透過型電子顕微鏡)写真を図7に示した。図2および図7と、図3との比較から、実施例2で得られた触媒では、ニッケルの硫化物の表面に、β-Cが付着していること、特に、金属硫化物の表面をβ-Cが鞘状に被覆していることが確認された。また、図示は省略するが、他の実施例で得られた触媒についても同様の構成を有することが確認された。なお、図1中、ニッケルの多孔質を「NF」で示した。
【0139】
[6]評価
[6-1]触媒としての機能の高さ(酸素生成に要する過電圧)
前記各実施例および各比較例で得られた触媒を酸素発生アノードとして用いるとともに、水素発生カソードとして白金線を用いて、水電解装置を製造した。
【0140】
この水電解装置を用いて、1M水酸化カリウム水溶液に、10mA/cmの電流密度で5時間通電することにより、水の電気分解を行い、酸素発生アノードでの酸素生成に要する過電圧の経時的な変化を求めた。
【0141】
その結果、本発明では、いずれも、酸素生成に要する過電圧が50mV以下であった。これに対して、比較例では、いずれも、酸素生成に要する過電圧が220mV以上であった。
【0142】
実施例2、比較例1、比較例2および比較例3で得られた触媒について、上記のような条件で水の電気分解を行った場合の酸素生成に要する過電圧の経時的な変化を図5に示す。
【0143】
[6-2]触媒の耐久性
前記[6-1]で水電解装置の製造に用いた前記各実施例に係る触媒(酸素発生アノード)について、電気分解を6時間行った後に、X線回折法(XRD)による分析を行い、水の電気分解の前後でのX線回折(XRD)パターンの比較を行った。その結果、各実施例では、水の電気分解の前後でのX線回折(XRD)パターンの装置は実質的に認められなかった。このことから、本発明の触媒は、水の電気分解による劣化が生じにくいものであることが分かる。
【0144】
実施例2の触媒についての、水の電気分解の前後でのX線回折(XRD)パターンを図6に示す。
【0145】
また、ワークとしての金属材料として、Niで構成されたものの代わりに、Cuで構成されたもの、Tiで構成されたもの、Agで構成されたもの、ステンレス鋼(SUS316L)で構成されたものを用いた以外は、前記各実施例と同様にして触媒の製造を行ったところ、前記と同様に、金属硫化物とβ-Cとを含む材料で構成された触媒が得られた。そして、これらの触媒は、金属硫化物、β-Cのうち少なくとも一方を含まない材料で構成された材料に比べて、触媒としての機能が十分に高いものであることが確認された。
【0146】
また、ワークとしての金属材料として、多孔質体の代わりに、緻密体で構成されたものを用いた以外は、前記各実施例と同様にして触媒の製造を行ったところ、前記と同様に、金属硫化物とβ-Cとを含む材料で構成された触媒が得られた。そして、これらの触媒は、金属硫化物、β-Cのうち少なくとも一方を含まない材料で構成された材料に比べて、触媒としての機能が十分に高いものであることが確認されたが、多孔質体を用いて製造したものに比べると、触媒としての機能は低かった。
【0147】
また、ワークとしての金属材料の一部を、樹脂製のマスクで被覆した状態で熱処理工程を行った以外は、前記各実施例と同様にして触媒の製造を行ったところ、前記と同様に、金属硫化物とβ-Cとを含む材料で構成された触媒が得られたが、マスクで被覆されていた部位には、金属硫化物およびβ-Cが含まれていなかった。そして、これらの触媒は、金属硫化物、β-Cのうち少なくとも一方を含まない材料で構成された材料に比べて、触媒としての機能が十分に高いものであることが確認された。
【0148】
また、電気分解の時間を6時間から7時間に変更した以外は、前記各実施例と同様にして触媒の製造を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の触媒は、金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成されたものである。また、本発明の触媒は、金属硫化物と、β-Cとを含む材料で構成されたものである。これにより、高い触媒活性を有する触媒を提供することができる。
【0150】
また、本発明の電極は、本発明の触媒を含む。これにより、高い触媒活性を有する触媒を含む電極を提供することができる。
【0151】
また、本発明の水電解方法は、本発明の電極を用いて水を電解する。これにより、効率よく水を電解することができる水電解方法を提供することができる。
【0152】
また、本発明の触媒の製造方法は、金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、金属硫化物と、測定用X線にCuのKα線を用いたX線回折法により得られるX線回折パターンで、2θ=(16.0±0.5)°および2θ=(27.8±0.5)°に回折ピークを示すCおよびNからなる化合物とを含む材料で構成された触媒を得る。また、本発明の触媒の製造方法は、金属材料とチオ尿素とを共存させた状態で熱処理を施す工程を有し、金属硫化物と、β-Cとを含む材料で構成された触媒を得る。これにより、高い触媒活性を有する触媒を好適に製造することができる触媒の製造方法を提供することができる。
【0153】
したがって、本発明の触媒、電極、水電解方法および触媒の製造方法は、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7