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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】希釈用菌体分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20241016BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20241016BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20241016BHJP
【FI】
A23L33/135
A23L29/231
A23L29/269
A23L29/256
A23L29/238
A23L29/262
A23L29/244
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021503523
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006303
(87)【国際公開番号】W WO2020179435
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019040237
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509136312
【氏名又は名称】風見 大司
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】風見 大司
(72)【発明者】
【氏名】池田 愼市
(72)【発明者】
【氏名】河野 和巳
(72)【発明者】
【氏名】牛澤 幸司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊郎
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-518830(JP,A)
【文献】特開2010-168309(JP,A)
【文献】特開2007-060919(JP,A)
【文献】特開2019-198314(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集した死菌体又は耐熱性菌体(耐熱芽胞)を水性媒体中にて機械的破砕力で個々の菌体にまで破砕する1次破砕工程と、該菌体分散液中に水性ゲル又は増粘形成の多糖類を分散させた多糖類・菌体分散液を、該多糖類の溶解温度以上にまで加熱・撹拌する溶解工程と、前記多糖類・菌体分散液を水性ゲル又は増粘形成温度以下にまで冷却する冷却工程と、前記冷却された多糖類・菌体分散液を機械的破砕力で再度破砕する2次破砕工程と、前記2次破砕された多糖類・菌体分散液を、水性ゲル又は増粘形成の多糖類が再溶解する手前の温度まで再加熱し、容器に充填する充填工程と、を備えたことを特徴とする希釈用菌体分散液の製造方法。
【請求項2】
凝集した生菌体を水性媒体中にて機械的破砕力で個々の菌体にまで破砕する1次破砕工程と、水性ゲル又は増粘形成の多糖類を水性媒体に分散させた溶液を溶解温度以上にまで加熱・撹拌する溶解工程と、前記多糖類溶液を水性ゲル又は増粘形成の手前の温度まで冷却する工程と、前記1次破砕された菌体分散液と前記冷却された多糖類溶液を非加熱で混合し、機械的破砕力で再度破砕する2次破砕工程と、前記2次破砕された多糖類・菌体分散液を再加熱せず容器に30℃以下で充填する充填工程と、を備えることを特徴とする希釈用菌体分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、水性ゲル形成多糖類は寒天であり、菌体分散液中には0.05~0.5質量%の濃度で添加されることを特徴とする希釈用菌体分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、水性ゲル溶解温度は90℃以上であり、且つ水性ゲル形成温度は30℃以下であることを特徴とする希釈用菌体分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2019年3月6日付け出願の日本国特許出願2019-040237号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は希釈用菌体分散液及びその製造方法、特に希釈分散液中での菌体の分離・沈降を抑制する希釈用菌体分散液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
菌体を、人を含めた哺乳類、鳥類、魚類、甲殻類に摂取させると、単に栄養素の補給のみならず、免疫性の向上などの優れた効果が発揮され、特に死菌体は摂取のリスクが小さいため、各種食品、飲料等に配合されている。
特に家畜に菌体を投与すると、免疫性の向上に依存して耐病性が高まることが知られているが、農場において濃厚菌体分散液を家畜用の飲料水に添加することも可能であり、菌体粉末を飼料に添加混合することに比べ、コスト、作業性の点から利便性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-259502
【文献】特開2014-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、菌体を飲料水に添加した場合、すぐに沈降をしてしまい、不均一な状態での摂取、配管・吸水口のつまりなどを生じる可能性がある。対策として、多糖類などと配合し、増粘・ゲル化により沈降を抑制する技術がある(特許文献1、特許文献2)が、飲料水に希薄添加する場合には、濃厚菌体分散液を大量の飲料水に添加し、再度分散させる必要があり、しかも飲料水中での再分散状態を長時間にわたり維持しなければならない。このため、菌体が添加された飲料水を常時撹拌する、或いは用時添加などが考えられるが、攪拌機、吸水口まで希釈菌体を運ぶポンプなどが必要となり、数十mに及ぶ飲料水配管の管理は費用が嵩み、実用的とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は飲料水に添加・分散された菌体の水中浮遊時間が延長された希釈用菌体分散液及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
前記目的を達成するために本発明にかかる希釈用菌体分散液は、水性ゲル又は増粘形成の多糖類が菌体周囲に被覆された水性ゲル又は増粘形成被覆菌体と、該ゲル又は増粘被覆菌体が濃厚分散された水性媒体と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、前記分散液の水性ゲル又は増粘形成の多糖類は、寒天、でんぷん、加工デンプン、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、ジェランガム、カードラン、プルラン、グルコマンナン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、CMC、セルロースナノファイバーなどからなる群より選択されることが好適である。
また、前記菌体は、乳酸菌、ビフィズス菌、枯草菌、酪酸菌、酵母などが好適であり、生菌体、死菌体を問わない。
【0009】
本発明において、死菌体ないし耐熱性菌体(耐熱芽胞)を用いる場合の希釈用菌体分散液の製造方法は、凝集した死菌体又は耐熱性菌体(耐熱芽胞)を水性媒体中にて機械的破砕力で個々の菌体にまで破砕する1次破砕工程と、該菌体分散液中に水性ゲル又は増粘形成の多糖類を分散させた多糖類・菌体分散液を、該多糖類の溶解温度以上にまで加熱・撹拌する溶解工程と、前記多糖類・菌体分散液を水性ゲル又は増粘形成温度以下にまで冷却する冷却工程と、前記冷却された多糖類・菌体分散液を機械的破砕力で再度破砕する2次破砕工程と、前記2次破砕された多糖類・菌体分散液を、水性ゲル又は増粘形成の多糖類が再溶解する手前の温度まで再加熱し、容器に充填する充填工程と、を備えたことを特徴とする。該容器は常温保管が可能である。
【0010】
本発明において、生菌体を用いる場合の希釈用菌体分散液の製造方法は、凝集した生菌体を水性媒体中にて機械的破砕力で個々の菌体にまで破砕する1次破砕工程と、水性ゲル又は増粘形成の多糖類を水性媒体に分散させた溶液を溶解温度以上にまで加熱・撹拌する溶解工程と、前記多糖類溶液を水性ゲル又は増粘形成の手前の温度まで冷却する工程と、前記1次破砕された菌体分散液と前記冷却された多糖類溶液を非加熱で混合し、機械的破砕力で再度破砕する2次破砕工程と、前記2次破砕された多糖類・菌体分散液を再加熱せず容器に30℃以下で充填する充填工程と、を備えることを特徴とする。該容器は生菌であるので、冷蔵が望ましい。
【0011】
また、前記死菌体又は生菌体のいずれを用いる方法において、寒天を用いる場合は水性ゲル溶解温度は90℃以上であり、且つ水性ゲル形成温度は、30℃以下であることが好適である。
【0012】
以下、本発明の具体的な構成について説明する。
本発明において、菌体としては乳酸菌、ビフィズス菌、枯草菌、酪酸菌、酵母などが好適であり、生菌体、死菌体を問わない。
希釈用菌体分散液中の菌体濃度は、0.01~1.0質量%が好適であり、該希釈用菌体分散液は、水性媒体による100~1,000,000倍希釈により菌体濃度が0.01~10.0ppmとなる飲料水とされ、さらに飼料等に散布されてもよい。
【0013】
また、本発明において水性ゲル又は増粘形成の多糖類としては、寒天、でんぷん、加工デンプン、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、ジェランガム、カードラン、プルラン、グルコマンナン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、CMC、セルロースナノファイバーなど、加熱溶解、冷却により水性ゲル又は増粘形成の多糖類が好適であり、特に水性ゲル溶解温度と水性ゲル形成温度の差が大きいことから寒天であることが好ましい。
【0014】
水性ゲル又は増粘形成の多糖類の希釈用菌体分散液中での濃度は0.01~1質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。寒天を用いた場合、寒天による水媒体全体のゲル化濃度は、おおよそ1質量%以上であるが、本発明においては水性媒体全体をゲル化させる必要はなく、0.05~0.5質量%であっても菌体周囲に水性ゲルを被覆することができる。
【0015】
本発明にかかる希釈用菌体分散液の製造方法において、特に好適に用いられる寒天は、おおよそ90℃で溶解し、おおよそ30℃まで冷却するとゲル化するので、ミキサー2次破砕で、個別粒子間のゆるいゲル結合を切り離し、保存性向上のため、再度70℃まで加熱し、容器に充填する。再度80~90℃まで加熱すると、容器充填後冷却時再度ゲル化して、個別粒子間のゲルが再度結合し、沈降しやすくなる可能性があり、好ましくない。このように、特に好適に用いられる寒天は、保存のための容器充填時加熱温度帯(70℃)とゲルが再度溶解・再ゲル化しない上限温度帯が一致している。
【0016】
また、本発明において破砕工程では、破砕翼の撹拌速度は1,000rpm以上であることが好ましく、一般的な混合時の撹拌速度(数十~数百rpm)と比較しはるかに速い。1,000rpm以下であると、破砕が十分に行われず、希釈飲料水中での菌体沈降防止効果が満足のいくものとはなり難い。
【0017】
また、本発明においてその他の添加物としては、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アスコルビン酸、コハク酸、醸造酢、酢酸、乳酸などが挙げられ、死菌体分散液を70℃達温で容器に充填し、常温で保存する場合にはpH4.6以下となるように調整することが好ましい。生菌体分散液は70℃達温による容器充填できず、常温充填となるため冷蔵保管が望ましい。
また、本発明にかかる菌体分散液は、家畜用には混合飼料、家畜飲料水に用いられ、人体に提供する場合にはドリンク剤とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、死菌体・生菌体などの菌体を、水性ゲル又は増粘形成の多糖類により被覆することにより、水性媒体中での分散性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】[試験例4]の1-1、1-8の菌体分散液の顕微鏡写真である。
図2】[試験例5]の豚飼育中の乳酸菌添加の有無によるIgGの濃度変化である。
図3】[試験例5]の豚飼育中の乳酸菌添加の有無によるIgAの濃度変化である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の実施形態において、配合量は質量%で示す。
本発明者らは表1、表4に示す希釈用菌体分散液を調製し、その沈降テストを行った。
【0021】
[試験例1]
複数の水性ゲル又は増粘形成の多糖類を用い、全ての区でミキサー1次破砕を実施後、ミキサー2次破砕実施の有無による、菌体沈降テストを実施した。
ミキサー1次破砕は、凝集した乳酸菌体を細かく個々に引き離すため、乳酸菌HS-1死菌体粉末(Lactobacillus sakeiHS-1)0.2%を水中に分散させ、ミキサー3,000rpm2分間破砕処理した。
【0022】
前記菌体分散液に、各々水性ゲル又は増粘形成の多糖類、クエン酸を加え、加熱冷却後、そのまま(ミキサー2次破砕なし)、又は再度ミキサー3,000rpm2分間で破砕し(ミキサー2次破砕)、加温して70℃で容器に100g充てんした。
【0023】
乳酸菌分散液の配合(乳酸菌0.2%)
【0024】
【表1】
【0025】
沈降テストは以下のとおり行った。
該容器を軽く振とうし、その後静置にて室温放置し、菌体沈降の様子を目視観察した。
該乳酸菌分散液(乳酸菌0.2%)において、ジェランガム区は4日後も沈降は見られなかった。ゼラチン区は2次破砕なし区では1時間で沈降し、2次破砕有区でも3時間で沈降した。それ以外の区は2日後に半分程度沈降が見られた。結果を表2に示す。
【0026】
乳酸菌分散液の沈降確認テスト(乳酸菌0.2%)
【0027】
【表2】
菌体浮遊:○ 菌体半分程度沈降:△ 菌体全部沈降:×
【0028】
[試験例2]
表1の乳酸菌分散液(乳酸菌0.2%)を透明なガラスシリンダー中の水500mlに0.5%(2.5g)添加し、よく撹拌後静置し(乳酸菌0.001%)、暗室にてシリンダーにペンライトをあて、側面部分では光の乱反射による菌体の浮遊状況と、底面部分では菌体の沈降状況を、それぞれ目視観察により判定した。結果を表3に示す。
【0029】
2次破砕をした寒天区では3日間、カラギーナン区、ジェランガム区、ペクチン区、キサンタンガム区、グアーガム区では2日間、菌体は沈降せず、水中を浮遊していることが分かった。
【0030】
乳酸菌分散液の沈降確認テスト(乳酸菌0.001%)
【0031】
【表3】
菌体浮遊:○ 菌体半分程度沈降:△ 菌体全部沈降:×
【0032】
[試験例3]
[試験例2]で一番沈降防止効果のあった寒天区について、さらに以下の試験を実施した。各試験例の製造方法は、以下の通りである。配合を表4に示す。
1-1~1-8のうち、1-5、1-6、1-7、1-8で、加熱前最初に乳酸菌HS-1死菌粉末と水のみでミキサー3,000rpm2分間破砕処理して、凝集した乳酸菌体を細かく個々に引き離した(ミキサー1次破砕)。1-1、1-2、1-3、1-4はミキサー1次破砕せずそのまま使用した。
次に寒天添加の有無によらず、すべての区で混合撹拌して90℃(寒天溶解温度)10分加熱し、その後30℃(寒天ゲル形成温度)まで冷却した。寒天添加区は1-3、1-4、1-7、1-8である。寒天無添加区は1-1、1-2、1-5、1-6である。
その後すべての区でクエン酸を添加した。
1-1、1-3、1-5、1-7はそのまま70℃まで加温し、該温度で容器に充填した。1-2、1-4、1-6、1-8はミキサー3,000rpm2分間破砕処理後(ミキサー2次破砕)、同様に70℃まで加温し、該温度で容器に100g充填した。
【0033】
該乳酸菌分散液(乳酸菌0.2%)の沈降テストは、以下の通りに行った。
1-1~1-8までの該乳酸菌分散液容器を軽く振とうし、透明なガラスシリンダー中の水500mlに0.5%(2.5g)添加し、よく撹拌後静置し(乳酸菌0.001%)、暗室にてシリンダーにペンライトをあて、側面部分では光の乱反射による菌体の浮遊状況と、底面部分では菌体の沈降状況を、それぞれ目視観察により判定した。結果を表5に示す。
【0034】
寒天使用区の内、1次破砕・2次破砕をした1-8は3日間、2次破砕のみの1-4は2日間、1次破砕のみの1-7は1日間、それぞれ菌体は沈降せず水中を浮遊することが分かった。以上から、寒天を添加し、ミキサー1次破砕のみより2次破砕のみほうが良く、さらに1次・2次破砕を合わせることで、特に長時間沈降防止を可能にすることを見出した。
【0035】
該容器入りの高濃度の乳酸菌溶液(原液、乳酸菌0.2%)では菌体が短時間で沈降すること自体は問題なく、ただし、該容器を軽く振とうし、原液0.5%(200倍希釈)を飲料水希釈タンクに添加混合し、その後は撹拌混合なく長時間飲料水中を菌体成分が沈降せず浮遊することが重要であり、その試験例が1-8である。
【0036】
乳酸菌分散液の配合(0.2%)
【0037】
【表4】
【0038】
乳酸菌分散液の沈降確認テスト(乳酸菌0.001%)
【0039】
【表5】
菌体浮遊:○ 菌体半分程度沈降:△ 菌体全部沈降:×
【0040】
[試験例4]
さらに本発明者らは、菌体の平均粒径と菌体凝集・分散状態の関係について検討を行った。
前記の試作例1-1~1-8それぞれについて平均粒径を共焦点レーザー顕微鏡(ZEISS LSM510)にて測定した。1-1、1-8の結果を図1に示す。
【0041】
顕微鏡観察の結果、ミキサー1次・2次破砕とも実施しない1-1と1-3は、平均粒度4.1μm前後で、死菌体凝集体が多くみられるのに対し(1-1の写真)、ミキサー1次破砕又は2次破砕をした1-2、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8は死菌個体1.8~2.0μmが多くみられた(1-8の写真)。
【0042】
以上のことから、本発明による沈降速度抑制は、単に菌体分散粒子の微細化、或いは寒天による粘度上昇により得られるものではなく、特に試験例1-8のごとく、製造工程中死菌体個別粒子表面のゲル同士が弱い結合状態にあったものを、ミキサー2次破砕により個別粒子間のゲルが切り離され、個別粒子を覆うゲルの作用により浮遊しやすくなったものと推察される。
【0043】
[試験例5]
[試験例3]の1-8の実施形態を用いれば、攪拌機、ポンプなどの動力を使用せず、水圧差を利用した簡易な飲料水配給設備で均一に菌体を摂取させることが可能となる。例えば、ドサトロン(登録商標:岩谷産業株式会社製 投薬配合器)を利用した20Lタンクに、乳酸菌体分散液(試験例3、1-8、乳酸菌0.2%)100g入容器を軽く振とう後に添加し、最初に撹拌・混合するのみで、投薬配合器(乳酸菌0.001%)からさらに500倍に希釈された菌体分散液の状態(乳酸菌0.02ppm)で吸引され、均一に飲料水に添加・希釈・混合されて吸水口まで運ばれ、飼育動物は飲水時一定の濃度で菌体を摂取することができる。
【0044】
上記条件にて、2018年秋から2019年まで日本国内の養豚場にてフィールド試験を実施した。
該乳酸菌体分散液(乳酸菌0.2%)100gをドサトロン20Lに添加した試験区、無添加の対照区とも、各区10頭とし、離乳直後の21日齢から150日齢まで、同じ飼料で飼育試験を行い、飲料水は自由供与とした。
なお、前記乳酸菌の濃度は、兵庫県畜産センター設楽修氏の論文に基づき、乳酸菌HS-1(死菌体粉末)を豚の飼料に添加して増体・下痢の抑制等に効果のあった同濃度(0.02ppm)を、試験区の飲料水に添加した。兵庫農技総セ(畜産)Bull.Hyogo.Pre.Tech.Cent.Agri.Forest.Fish.(Animal Husbandry)48,17-22(2012)〔論文〕
【0045】
両区の21日齢、50日齢、70日齢、90日齢、150日齢の豚血清中IgG、IgAの測定をした。
1.使用試薬キット
IgG測定は、Pig IgG ELISA Kit (Cat. No.E101-102) Bethyl Laboratories,Inc. を、IgA測定は、Pig IgA ELISA Kit (Cat. No.E101-104) Bethyl Laboratories,Inc.を用いた。
【0046】
2.測定サンプル
HS-1死菌体を含む乳酸菌死菌体分散液を給水して飼育した21日、50日、70日、90日齢および150日齢の豚(試験区とする)より採取した血漿サンプルを試薬キットに付属の希釈液を用いて、測定に必要な倍数に希釈したものを被験サンプルとして測定した。IgGは、500,000倍、IgAは、30,000倍に希釈した。なお、HS-1死菌体を含まない飲料水を給水して飼育した21日、50日、70日、90日齢および150日齢の豚を対照区として、上記と同様に測定した。血漿は、日齢ごと異なる豚n=10から溶血検体を除きピックアップしたn=6の血漿検体にて測定した。
【0047】
3.測定装置
ELISAキットは、マルチ検出モード マイクロプレートリーダーInfinite 200 PROを用いて測定した。吸光度の測定波長は、450nm。 検量線は、IgG及びIgAそれぞれの抗原系列濃度と吸光度より、希釈近似曲線の多項式近似式(いずれも4次式)を選択し、相関r2が1に近い次数を決定した。
【0048】
4.測定結果
IgGの測定結果を図2に、IgAの測定結果を図3に示す。
21日、50日、70日、90日、150日齢の血漿検体IgG、IgA測定を実施したところ、血漿中IgG値(mg/ml)は50日、70日、90日とほぼ同等なレベルで推移した後、150日では大きく上昇した。
一方、IgA値(mg/ml)は、21日より徐々に増加傾向を示し、150日には大きな増加が見られた。
またIgG及びIgAとも、全ての日齢において試験区は対照区よりも濃度の高い測定結果が得られた。

図1
図2
図3