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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】設定方法及び、製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/02 20060101AFI20241016BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20241016BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20241016BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241016BHJP
   B05D 1/30 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
E04C5/02
B05D1/36 Z
B05D7/14 P
B05D7/24 301W
B05D1/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052419
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152253
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【復代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 知子
(72)【発明者】
【氏名】太田 健司
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-087725(JP,A)
【文献】特開平06-297591(JP,A)
【文献】特開2011-147845(JP,A)
【文献】特開2017-043898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/02
B05D 1/36
B05D 7/14
B05D 7/24
B05D 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋棒と、該鉄筋棒の外周の少なくとも一部を被覆する樹脂層と、該樹脂層に付着保持される粒子とを有する防食鉄筋の製造工程において、前記樹脂層に落下させて付着させる前記粒子の落下量の設定方法であって、
前記粒子の落下量を2以上の異なる落下量に設定して前記防食鉄筋を作製する第1のステップと、
前記2以上の異なる落下量で作製した複数の防食鉄筋につき、コンクリートに対する付着強度をそれぞれ測定する第2のステップと、
前記第1のステップで設定した落下量と前記第2のステップで測定した付着強度との関
係に基づいて、前記製造工程における前記粒子の最適落下量を決定する第3のステップと、を含み、
前記第3のステップにおいては、前記粒子の落下量の増加に対して前記付着強度が低下し始める直前の落下量を前記最適落下量とする
ことを特徴とする設定方法。
【請求項2】
前記第2のステップにおいては、樹脂層が被覆されていない無塗装鉄筋のコンクリートに対する付着強度をさらに測定し、
前記第3のステップにおいては、前記無塗装鉄筋のコンクリートに対する付着強度よも高い付着強度を示す落下量のうち、最も少ない落下量を前記最適落下量の下限値とする
請求項1に記載の設定方法。
【請求項3】
前記製造工程において、前記鉄筋棒は軸心まわりに回転しながら軸方向へ送り出されることにより、前記樹脂層の外周に前記粒子が付着され、
前記第3のステップにおいては、前記樹脂層の外周に前記粒子が螺旋状に付着しない落下量のうち、最も少ない落下量を前記最適落下量の下限値とする
請求項1に記載の設定方法。
【請求項4】
前記製造工程において、前記鉄筋棒は軸心まわりに回転しながら軸方向へ送り出されることにより、前記樹脂層の外周に前記粒子が付着され、
前記第3のステップにおいては、前記無塗装鉄筋のコンクリートに対する付着強度よりも高い付着強度を示し、且つ、前記樹脂層の外周に前記粒子が螺旋状に付着しない落下量のうち、最も少ない落下量を前記最適落下量の下限値とする
請求項2に記載の設定方法。
【請求項5】
前記樹脂層がポリビニルブチラールを主成分として含む樹脂層であり、前記粒子が珪砂である
請求項1からの何れか一項に記載の設定方法。
【請求項6】
請求項1からの何れか一項に記載の設定方法で設定した前記最適落下量を用いる前記防食鉄筋の製造方法であって、
前記鉄筋棒の外周に前記樹脂層を被覆する工程と、
前記樹脂層を加熱して溶融する工程と、
溶融された前記樹脂層に、前記粒子を前記最適落下量で落下させて付着させる工程と、を含む
ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、設定方法及び、製造方法に関し、特に、防食鉄筋の製造工程において、鉄筋棒を被覆する樹脂層に落下させて付着させる粒子の落下量設定に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート用鉄筋の一例として、鉄筋棒の表面にポリビニルブチラール(以下、PVB)を主成分としたPVB樹脂を塗布すると共に、PVB樹脂層に粒子(例えば、珪砂等)を付着させた防食鉄筋(又は、防錆鉄筋)が実用化されている(例えば、特許文献1,2参照)。防食鉄筋は、PVB樹脂層に付着させた珪砂により、PVB樹脂層の表面に多数の微小突起を形成することにより、コンクリートとの付着強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-043898号公報
【文献】特開2011-147845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、防食鉄筋は、(1)鉄筋棒の表面にブラスト処理を施す第1工程と、(2)鉄筋棒の表面にPVB樹脂を主成分とする粉体を静電粉体塗装により塗布する第2工程と、(3)鉄筋棒に塗布されたPVB樹脂層を高周波加熱装置により加熱して溶融する第3工程と、(4)鉄筋棒の上方から所定量の珪砂を重力落下させてPVB樹脂層に付着させる第4工程と、(5)溶融状態のPVB樹脂層を冷却する第5工程とを順に行うことにより製造される。
【0005】
このようにして製造される防食鉄筋において、コンクリートに対する所望の付着性能や定着性能を得るには、PVB樹脂層に保持させる珪砂の付着量が重要であり、特に上記第4工程にて、珪砂の落下量を適切に管理することが望まれる。
【0006】
防食鉄筋の製造工程において、鉄筋棒は軸心まわりに回転しながら軸方向へと送り出されるため、上記第4工程で珪砂の落下量が不足していると、PVB樹脂層の外周に珪砂が螺旋状に付着することとなり、外観上、好ましくない製品となる。一方、珪砂の落下量を必要以上に増加させても、一部の珪砂がPVB樹脂層に付着せずに無駄となり、製造効率の低下要因となりうる。このため、防食鉄筋の製造においては、上記第4工程の珪砂落下量を最適な落下量に設定することが望ましい。
【0007】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、防食鉄筋の製造工程において、樹脂層に落下させて付着させる粒子の落下量の最適化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の設定方法は、鉄筋棒と、該鉄筋棒の外周の少なくとも一部を被覆する樹脂層と、該樹脂層に付着保持される粒子とを有する防食鉄筋の製造工程において、前記樹脂層に落下させて付着させる前記粒子の落下量の設定方法であって、前記粒子の落下量を2以上の異なる落下量に設定して前記防食鉄筋を作製する第1のステップと、前記2以上の異なる落下量で作製した複数の防食鉄筋につき、コンクリートに対する付着強度をそれぞれ測定する第2のステップと、前記第1のステップで設定した落下量と前記第2のステップで測定した付着強度との関係に基づいて、前記製造工程における前記粒子の最適落下量を決定する第3のステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記第3のステップにおいては、前記粒子の落下量の増加に対して前記付着強度が低下し始める直前の落下量を前記最適落下量とすることが好ましい。
【0010】
また、前記第2のステップにおいては、樹脂層が被覆されていない無塗装鉄筋のコンクリートに対する付着強度をさらに測定し、前記第3のステップにおいては、前記無塗装鉄筋のコンクリートに対する付着強度よりも高い付着強度を示す落下量のうち、最も少ない落下量を前記最適落下量の下限値とすることが好ましい。
【0011】
また、前記製造工程において、前記鉄筋棒は軸心まわりに回転しながら軸方向へ送り出されることにより、前記樹脂層の外周に前記粒子が付着され、前記第3のステップにおいては、前記樹脂層の外周に前記粒子が螺旋状に付着しない落下量のうち、最も少ない落下量を前記最適落下量の下限値とすることが好ましい。
【0012】
また、前記樹脂層がポリビニルブチラールを主成分として含む樹脂層であり、前記粒子が珪砂であってもよい。
【0013】
本開示の製造方法は、前記設定方法で設定した前記最適落下量を用いる前記防食鉄筋の製造方法であって、前記鉄筋棒の外周に前記樹脂層を被覆する工程と、前記樹脂層を加熱して溶融する工程と、溶融された前記樹脂層に、前記粒子を前記最適落下量で落下させて付着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示の技術によれば、防食鉄筋の製造工程において、樹脂層に落下させて付着させる粒子の落下量の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る防食鉄筋に用いられる鉄筋棒の一例を示す模式的な斜視図である。
図2】本実施形態に係る防食鉄筋の一例を示す模式的な径方向断面図である。
図3】本実施形態に係る防食鉄筋の製造方法の一例を説明するフロー図である。
図4】本実施形態に係る防食鉄筋の製造ラインの一例を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る製造ラインの一部を構成する珪砂付着装置の模式的な縦断面図である。
図6】本実施形態に係る設定方法の流れを説明するフロー図である。
図7】本実施形態に係る珪砂付着量の計測方法の流れを説明するフロー図である。
図8】本実施形態に係る珪砂付着量の計測方法を説明する模式図である。
図9】本実施形態に係る珪砂付着量の計測方法を説明する模式図である。
図10】本実施形態に係る珪砂付着量の計測方法を説明する模式図である。
図11】各サンプルの付着応力度及び、最大付着応力度を示すグラフである。
図12】各サンプルの付着応力度と、各落下量条件に応じた珪砂落下量との関係を示すグラフである。
図13】各サンプルの付着応力度と、珪砂付着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る設定方法及び、製造方法について説明する。
【0017】
[防食鉄筋]
図1は、本実施形態に係る防食鉄筋に用いられる鉄筋棒11の一例を示す模式的な斜視図であり、図2は、本実施形態に係る防食鉄筋10の一例を示す模式的な径方向断面図である。
【0018】
図1に示すように、鉄筋棒11は、略円柱状の棒本体12と、棒本体12の外周面を軸方向に延びる少なくとも1本以上の縦リブ13と、棒本体12の外周面を周方向に延びると共に、軸方向に所定間隔で設けられた複数本の横リブ14とを備えている。なお、縦リブ13や横リブ14の配列パターンは図示例に限定されず、他の配列パターンであってもよい。また、鉄筋棒11は、リブを有する異形鉄筋に限定されず、丸棒等の他の鉄筋棒であってもよい。
【0019】
本実施形態の防食鉄筋10は、図2に示すように、鉄筋棒11の外周面にPVB樹脂を主成分としたPVB樹脂層20を形成し、該PVB樹脂層20に粒子としての珪砂30を付着保持させることにより製造される。以下、防食鉄筋10の製造方法の詳細を図3~5に基づいて説明する。
【0020】
[製造方法・製造ライン]
図3は、本実施形態に係る防食鉄筋10の製造方法の一例を説明するフロー図であり、図4は、防食鉄筋10の製造ライン50の一例を示す模式図であり、図5は、製造ライン50の一部を構成する珪砂付着装置54の模式的な縦断面図である。
【0021】
図3に示すように、防食鉄筋10の製造は、(1)鉄筋棒11の表面にブラスト処理を施す第1工程と、(2)鉄筋棒11を高周波加熱装置により加熱する第2工程と、(3)鉄筋棒11の表面にPVB樹脂を主成分とする粉体を静電粉体塗装により塗布する第3工程と、(4)溶融したPVB樹脂層20に珪砂を落下させて付着させる第4工程と、(5)溶融したPVB樹脂層20を冷却して固化させる第5工程とを順に行うことにより実施される。なお、防食鉄筋10の製造方法はこれに限定されず、他の方法により製造することもできる。例えば、第2工程と第3工程との順序を入れ替えて行うことも可能である。
【0022】
図4に示すように、製造ライン50は、主として、ブラスト処理装置51と、高周波加熱装置52と、静電塗装装置53と、珪砂付着装置54と、冷却装置59とを備えている。製造ライン50において、鉄筋棒11は、不図示のローラ等を有する回転送り出し機構によって軸心まわりに回転しながら軸方向へと送り出されることにより、各装置51,52,53,54、59を順に通過する。
【0023】
ブラスト処理装置51は、鉄筋棒11の表面にブラスト処理を施すことにより、酸化スケールの除去や塗装下地としての表面処理を行う。
【0024】
高周波加熱装置52は、不図示の高周波加熱コイルを備えており、鉄筋棒11を所定の高温(例えば、200~250℃)で加熱する。
【0025】
静電塗装装置53は、接地した鉄筋棒11に対して、不図示の高圧発生器により帯電させた粉体塗料(PVB樹脂を主成分とする粉体)を吹き付ける。この際、鉄筋棒11は回転しながら軸方向に送られるため、鉄筋棒11の外周全面に略均一なPVB樹脂層を形成することができる。PVB樹脂層の膜厚は、例えば、土木工事用であれば220±40μm、建築工事用であれば180±50μmとすればよい。なお、膜厚はこれらの数値に限定されず、その強度と施工性等によって適宜の値とすることができる。
【0026】
珪砂付着装置54は、ホッパー55と、ホッパー55の下方に配された受け部56とを有する。これらホッパー55と受け部56との間には、加熱処理によりPVB樹脂層を溶融させた鉄筋棒11が回転しながら軸方向へと送られる。ホッパー55は、底部55Aが鉄筋棒11の鉛直方向上方に位置するように設けられている。底部55Aには、複数の貫通孔57が穿設されている。これら貫通孔57は、鉄筋棒11の送り出し方向に沿って所定間隔をおいて直列に配置されている。
【0027】
すなわち、図5に示すように、ホッパー55内に投入される珪砂が、各貫通孔57を通過して下方の鉄筋棒11に向けて落下することにより、溶融状態のPVB樹脂層20に珪砂を付着できるようになっている。この際、鉄筋棒11は回転しながら軸方向に送られるため、PVB樹脂層20の外周略全面に珪砂を付着させることができる。PVB樹脂層20に付着できなかった一部の珪砂は、下方の受け部56によって受け止められる。受け部56に溜められた余剰の珪砂は、再度ホッパー55に投入してもよい。
【0028】
図4に戻り、冷却装置59は、溶融状態のPVB樹脂層を空冷又は水冷により冷却することにより、PVB樹脂層を固化させる。PVB樹脂層が固化すると、珪砂がPVB樹脂層に保持されることで防食鉄筋10が完成する。図2に示すように、PVB樹脂層20に保持された珪砂30はその一部が突出し、PVB樹脂層20の表面に多数の微小突起を形成することにより、コンクリートとの付着性能や定着性能を高めることができる。
【0029】
ここで、防食鉄筋10がコンクリートに対する所望の付着強度を得るには、PVB樹脂層20の珪砂30の付着量が重要となる。PVB樹脂層20の珪砂30の付着量を適切に管理するには、前述の第4工程(珪砂付着装置54)において、珪砂30の落下量を最適な値に設定することが望まれる。本発明者等は、鋭意努力により、第4工程で設定する珪砂30の落下量と、防食鉄筋10のコンクリートに対する付着強度との間に所定の相関関係があることを見出した。以下、最適落下量の設定方法について詳述する。
【0030】
[設定方法]
図6は、本実施形態に係る設定方法の流れを説明するフロー図である。
【0031】
図6に示すように、本実施形態の設定方法は、(1)ホッパー55の底部55Aに穿設する貫通孔57の孔径及び個数を適宜の複数パターンとすることにより、珪砂の落下量条件を設定するステップS10(本開示の第1のステップ)と、(2)設定した落下量条件毎に実際の珪砂の落下量を測定するステップS20と、(3)設定した落下量条件毎に作製した防食鉄筋の珪砂付着量を計測するステップS30と、(4)設定した落下量条件毎に作製した防食鉄筋のコンクリートに対する付着強度(付着応力度)を測定するステップS40(本開示の第2のステップ)と、(5)ステップS20で測定した珪砂落下量とステップS40で測定した付着強度との関係から、珪砂の最適落下量を決定するステップS50(本開示の第3のステップ)とを行うことにより実施する。
【0032】
以下、これら各ステップS10~S50の詳細を、実施例に基づいて具体的に説明する。なお、各ステップS10~S50のうち、S20、S30、S40は順不同である。また、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0033】
[落下量条件の設定及び、落下量測定:ステップS10,S20]
ステップS10では、ホッパー55の底部55Aに穿設する貫通孔57の孔径及び個数を適宜のパターンとすることにより、複数の落下量条件を設定する。今回の試験で設定した貫通孔57の孔径及び個数を表1に示す。表1に示すように、今回の試験では、落下量条件として、極少量、少量、中間量、多量、極多量の計5種類を設定した。
【0034】
【表1】
極少量は、ホッパー55の底部55Aに、孔径φ:1.5mmの貫通孔57を1個設けたものである。少量は、ホッパー55の底部55Aに、孔径φ:2.0mmの貫通孔57:計2個を、鉄筋棒11の送り出し方向に所定間隔で配列したものである。中間量は、ホッパー55の底部55Aに、孔径φ:2.0mmの貫通孔57:計3個を、鉄筋棒11の送り出し方向に所定間隔で配列したものである。多量は、ホッパー55の底部55Aに、孔径φ:3.5mmの貫通孔57:計5個を、鉄筋棒11の送り出し方向に所定間隔で配列したものである。極多量は、ホッパー55の底部55Aに、孔径φ:1.5~3.5mmの貫通孔57:計13個を、鉄筋棒11の送り出し方向に隣接する各孔57が互いに干渉しない最小間隔となるように配列したものである。
【0035】
これら5種類につき、ホッパー55に珪砂を投入し、実際の珪砂落下量m、具体的には、ホッパー55の貫通孔57から単位時間(1分)当たりに落下する珪砂の質量をそれぞれ測定した。ホッパー55に投入する珪砂には8号珪砂を用いた。この8号珪砂は、例えば、粒径0.15mm未満であって粒径0.05mm以上の粒子が70%以上占める粒度分布を有する。珪砂落下量mの測定結果を以下の表2に示す。
【0036】
【表2】
表2に示す単位時間当たりの珪砂落下量mから、鉄筋棒の1m当たりの珪砂落下量A1及び、鉄筋棒の1m当たりの珪砂落下量A2をそれぞれ算出した。具体的には、珪砂落下量A1については以下の数式(1)、珪砂落下量A2については以下の数式(2)に基づいて算出した。
【0037】
A1=m/a ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
A2=m/(a×l) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
但し、A1:鉄筋棒:1m当たりの珪砂落下量(g/m)
A2:鉄筋棒:1m当たりの珪砂落下量(g/m
m :ホッパーからの落下量(g/min)
a :鉄筋棒の軸方向への送り出し速度(m/min)
l :鉄筋棒の公称周長(cm)
製造ラインにおいて、送り出し速度aは、母材となる鉄筋棒の径によって異なり、鉄筋径が小径になるほど速い速度で設定される。これは、第2工程で静電塗装法により被覆されるPVB樹脂の膜厚は、鉄筋径によらず略一定(例えば、約220±40μm)となり、鉄筋径が小径の母材を遅い速度で送り出すと、PVB樹脂層を溶融する第3工程で、PVB樹脂層が焼付いてしまうためである。各鉄筋径(呼び名)と送り出し速度aとの関係を表3に示す。
【0038】
【表3】
今回の試験では、母材となる鉄筋棒に、JIS G 3112:2010(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定されたD19(公称周長:6.0cm)を用いた。このため、上記数式(1),(2)に代入する送り出し速度aは、2.2であり、公称周長lは、6.0である。なお、送り出し速度aは、被覆するPVB樹脂層の膜厚や、高周波加熱装置52の熱容量等に応じて適宜の値に設定することが可能である。
【0039】
上記数式(1),(2)により算出した珪砂落下量A1,A2を表4に纏める。なお、表4において、右欄の評価結果は、実際に作製した防食鉄筋10の外観を目視により観察した評価結果である。評価は、PVB樹脂層20の外周全面に珪砂が略一様に付着しているものを良評価、PVB樹脂層20の外周に珪砂が螺旋状又は疎らに付着しているものを不可評価とした。
【0040】
【表4】
ここで、中間量、多量及び、極多量について良評価が得られ、極少量及び、少量について不可評価となった理由について考察する。
【0041】
図5に示す珪砂付着装置54において、ホッパー55からPVB樹脂層20に向けて落下する珪砂30は、PVB樹脂層20の外周面のうち、貫通孔57の鉛直方向下方に位置する部位に付着する。このため、極少量や少量のように、貫通孔57の個数が少ないと、送り出し速度aに対して珪砂30の落下量が不足することで、PVB樹脂層20の外周面に珪砂が螺旋状に付着してしまうと考えられる。このような螺旋状の付着を防止すべく、送り出し速度aを遅く設定すると、先に述べたように、第3工程においてPVB樹脂層が焼付いてしまう。一方、中間量、多量及び、極多量については、送り出し速度aに対して珪砂30の落下量が十分に確保されており、PVB樹脂層20の外周全面に珪砂を略一様に付着できたものと考えられる。すなわち、製品外観の観点からは、最適落下量は中間量以上にすることが望ましいことを確認できた。
【0042】
[珪砂付着量の計測:ステップS30]
ステップS30では、前述の5種類の落下量条件で作製した防食鉄筋10につき、PVB樹脂層20に付着している珪砂30の付着量を計測する。今回の試験では、珪砂30の付着量を、図7に示す手順に従って計測した。
【0043】
具体的には、図7に示すように、珪砂付着量は、(1)計測用サンプルを作製するステップS31と、(2)計測用サンプルの長さを測定するステップS32と、(3)計測用サンプルを有機溶剤に浸漬して静置することにより、樹脂層を溶解するステップS33と、(4)ろ紙を乾燥処理して該ろ紙の単体乾燥質量を測定するステップS34と、(5)溶解液をろ紙に注入してろ過することにより、珪砂をろ別するステップS35と、(6)ろ紙及び珪砂を乾燥処理して、これらろ紙及び珪砂の合計乾燥質量を測定するステップS36と、(7)合計乾燥質量から単体乾燥質量を差し引いて得られる珪砂の質量を防食鉄筋10の外周面の1m当たりの付着量に換算するステップS37とを順に行うことにより計測した。以下、各ステップS31~S37の詳細について具体的に説明する。
【0044】
(計測用サンプルの作製:ステップS31)
ステップS31では、PVB樹脂層に珪砂が付着保持された防食鉄筋を所定の長さに切断することにより、計測用サンプル(好ましくは複数本)を作製する。母材である鉄筋棒には、JIS G 3122:2010の表4に規定された呼び名の各鉄筋棒を用いることができる。切断方法は、特に限定されないが、PVB樹脂層の熱溶融を防止する観点からは、切断面に熱を生じさせない(或いは、熱の発生を抑えられる)切断方法を選択することが望ましい。熱を生じさせない切断方法としては、例えば、バンドソウ等により切断する態様が挙げられる。
【0045】
計測用サンプルの軸方向長さは、特に限定されないが、最大長さは、後述するステップS33で用いる容器の容量(高さ)を考慮し、容器内に収まる長さにすることが好ましい。また、鉄筋棒が図1に示すような異形鉄筋の場合、計測用サンプルを短くしすぎると、リブ13,14(特に横リブ14)の影響を受けやすくなる。このような観点から、計測用サンプルの最小長さは、横リブ14が複数含まれる適宜の長さとすることが好ましい。
【0046】
(計測用サンプルの長さ測定:ステップS32)
ステップS32では、図8に示すように、前述のステップS31で作成した計測用サンプルSの軸方向長さLを測定する。軸方向長さLは、ノギス(例えば、マイクロメータ)を用いて0.01mm単位まで測定することが望ましい。ここで、計測用サンプルSの両端に形成された切断面は、軸心方向に対して垂直とならない場合があり、1点のみの測定では精度を担保できない可能性がある。係る観点から、軸方向長さLは、径方向に直交する少なくとも2点の長さL1,L2を測定し、これらの平均値(L=(L1+L2)/2)を計測用サンプルSの軸方向長さLとすることが好ましい。
【0047】
なお、ステップS32は、後述するステップS35の完了後、PVB樹脂が溶解して除去された状態の鉄筋棒11を用いて行うことも可能である。
【0048】
(樹脂層の溶解:ステップS33)
ステップS33では、図9に示すように、計測用サンプルSを容器500に投入し、計測用サンプルSが完全に浸漬するまで有機溶剤を注入する。有機溶剤を注入したならば、キャップ510により容器500の開口を閉塞して密閉し、有機溶剤の蒸発や逸散を防止する。容器500を密閉したならば、計測用サンプルSのPVB樹脂層が完全に溶解するまで、安定した温度環境の室内等にて静置保管する。
【0049】
ここで、有機溶剤の種類は、PVB樹脂を溶融可能な溶剤であれば特に限定されないが、樹脂溶解性や取り扱い容易性の観点から、アルコール、特にイソプロピルアルコール(イソプロパノール)を用いることが好ましい。アルコールの濃度は適宜調整すればよいが、純度98質量%以上であることが好ましい。静置する温度は、常温(例えば、約23℃)であればよい。静置保管する時間は特に限定されないが、イソプロピルアルコールを用いる場合には、少なくとも4間以上であることが好ましく、12時間以上がより好ましい。PVB樹脂を溶融可能な溶剤としては、アルコール類であれば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、グリコール類であれば、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール、カルビトール、エーテル類であれば、ジオサキン、THF、セロソルブ類であれば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エステル類であれば、メトキシプロピルアセテート、酪酸エチル、グリコール酸n-ブチルエステル、DBE、ケトン類であれば、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンを用いることができる。
【0050】
なお、図示例において、計測用サンプルSは容器500内に縦向きで投入されているが、容器500の形状に応じて横向きに投入してもよい。横向きで投入する場合は、計測用サンプルSの両端を支持手段で支持して有機溶剤内に吊り下げればよい。
【0051】
(ろ紙の乾燥、乾燥質量の測定:ステップS34)
ステップS34では、ろ紙を乾燥炉又は、電気炉等の乾燥施設に投入し、乾燥後のろ紙の質量(以下、単体乾燥質量mAという)を測定する。ろ紙の乾燥処理は、質量減少が約0.01g未満となるまで行うことが好ましい。この際、乾燥温度は90℃以上とし、乾燥時間は30分以上とすることが望ましい。なお、ステップS34は、ステップS33の終了後から開始する必要はなく、ステップS33の終了前から、該ステップS33と並行して行ってもよい。
【0052】
(溶解液のろ過、珪砂のろ別:ステップS35)
図10に示すように、ステップS35では、ろ紙600をろ過器具610(例えば、漏斗)にセットし、PVB樹脂が溶解した溶解液をろ紙600でろ過することにより、溶解液から珪砂をろ別する。この際、容器500を傾けるのみでは、容器500の底部側に沈殿した珪砂や、計測用サンプルSの表面に付着する珪砂がそれらに残存し、残存する珪砂をろ紙600で回収できない可能性がある。このような残存珪砂を確実に回収すべく、容器500及び計測用サンプルSを洗浄液で洗浄し、係る洗浄液をろ紙600に注入することが好ましい。
【0053】
ここで、洗浄液に蒸留水を用いると、溶解液中のPVB樹脂が再度固化して珪砂をろ別できなくなる。このため、洗浄液には、上述のステップS33で用いる有機溶剤と同じ溶剤(本実施形態ではイソプロピルアルコール)を用いることが好ましい。
【0054】
(ろ紙及び珪砂の乾燥処理、乾燥質量の測定:ステップS36)
ステップS36では、ろ紙及びろ紙に回収された珪砂を乾燥炉又は、電気炉等の乾燥施設に投入し、乾燥後のろ紙及び珪砂の合計質量(以下、合計乾燥質量mBという)を測定する。ろ紙及び珪砂の乾燥処理は、質量減少が約0.01g未満となるまで行うことが好ましい。この際、加熱温度は90℃以上とし、乾燥時間は30分以上とすることが望ましい。
【0055】
(珪砂の質量演算及び換算:ステップS37)
ステップS37では、ステップS36で取得した合計乾燥質量mBから、ステップS34で取得した単体乾燥質量mAを差し引く以下の数式(3)に従って、計測用サンプルSに付着していた珪砂の質量mを演算する。
【0056】
m=mB-mA ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
但し、 m : 珪砂の質量(g)
mA: 単体乾燥質量(g)
mB: 合計乾燥質量(g)
次いで、得られた珪砂の質量mを、以下の数式(4)に従って、防食鉄筋10の外周面の1m当たりの付着量Mに換算する。
【0057】
M=α×Ms ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
但し、 M : 1m当たりの珪砂の付着量(g)
α : 1m当たりの換算係数
α=1/D
D : 測定サンプルSの外周面の総面積(m
D=d×L
d : 測定サンプルの鉄筋棒の公称周長(m)
L : 測定サンプルの軸方向長さ(m)
Ms: 濾過した珪砂の総質量(g)
Ms=Σm
以上の計測方法に基づいて珪砂付着量を計測することで、実際の計測用サンプルSと、別途作製するPVB樹脂のみを被覆したサンプルとを比較する手法に比べ、質量が重い鉄筋棒11の影響を効果的に排除できるようになり、計測精度を確実に向上することが可能になる。また、PVB樹脂のみを被覆したサンプルを別途作製する必要がないため、手間や労力を効果的に削減することも可能になる。
【0058】
[付着強度(付着応力度)の測定:ステップS40]
図6に戻り、ステップS40では、前述の落下量条件に基づいて複数本の防食鉄筋を作製し、これら防食鉄筋のコンクリートに対する付着強度を測定する。今回の試験では、防食鉄筋の基端部分をコンクリートブロックに埋設することにより供試体を作製し、該供試体に対して防食鉄筋の引き抜き試験を行うことにより、コンクリートに対する付着応力度を測定した。引き抜き試験は、土木学会規準JSCE-E516「エポキシ樹脂塗装鉄筋の付着強度試験方法」を参考に行った。
【0059】
また、試験では、前述の5種類の落下量条件で作製した試験サンプルに加え、比較例として、樹脂を被覆していない無塗装鉄筋、エポキシ樹脂のみを被覆したエポキシ樹脂被覆鉄筋及び、PVB樹脂のみを被覆したPVB樹脂被覆鉄筋についても、コンクリートとの付着応力度を測定した。
【0060】
ここで、母材が図1に示すような異形鉄筋の場合、最大付着応力度は、鉄筋棒とコンクリートとの付着強度のみならず、リブ13,14(特に横リブ14)の影響により、コンクリート自体の強度にも依存することになる。すなわち、コンクリートが破壊した時点を最大付着応力として測定してしまうことになり、珪砂による付着性能を正しく評価できない可能性がある。係る観点から、今回の試験では、すべり量が0.002D(D:鉄筋棒の公称直径)における付着応力度及び、最大付着応力度を測定することにより比較を行った。
【0061】
試験結果を、図11,12,13に示す。図11は、各サンプルの付着応力度及び、最大付着応力度を示すグラフである。
【0062】
図11に示されるように、樹脂のみを被覆したエポキシ樹脂被覆鉄筋及び、PVB樹脂被覆鉄筋は、無塗装鉄筋よりも付着応力度が低くなる結果となった。一方、極少量であっても、PVB樹脂層に僅かながらでも珪砂が付着していれば、無塗装鉄筋よりも付着応力度が高くなることを確認できた。
【0063】
図12は、各サンプルの付着応力度と、各落下量条件に応じた珪砂落下量(前述のステップS20で測定)との関係を示すグラフである。
【0064】
図12に示されるように、コンクリートとの付着応力度は、珪砂落下量の増加に伴い高くなるが、極多量については、多量よりも付着応力度が低下する結果となった。すなわち、落下量条件を極多量に設定しても、コンクリートとの付着応力度が必ずしも最も高い値にならない結果となった。このような要因は、落下量条件を極多量としても、実際にPVB樹脂層の表面に付着できる珪砂の量が、落下量条件を多量とした場合よりも少ないことが推測される。
【0065】
図13は、各サンプルの付着応力度と、珪砂付着量(前述のステップS30で計測)との関係を示すグラフである。
【0066】
図13に示されるように、落下量条件を極多量とした場合は、珪砂の落下量が多いにもかかわらず、PVB樹脂層に対する珪砂付着量が、落下量条件を多量とした場合よりも少なくなる結果となった。
【0067】
以上より、珪砂落下量と付着応力度(付着強度)との間には、珪砂落下量の増加に伴い付着応力度も高くなるが、珪砂落下量が所定の閾値量を超えると、実際の珪砂付着量が減少することにより、付着応力度も低下する関係があることを確認できた。すなわち、コンクリートとの付着応力度が最も高くなるピーク値に対応する珪砂落下量を実験等によって求めれば、当該求めた落下量を製造工程における珪砂の最適落下量に設定できることが確認できた。
【0068】
このようにして求めた最適落下量を前述の製造工程(第4工程)の珪砂落下量とすれば、コンクリートに対して所望の付着性能を発揮できる防食鉄筋を安定的に製造することが可能になる。また、製造工程においては、PVB樹脂層に付着できずに落下する余剰の珪砂を効果的に削減できるようになり、製造効率の向上を図ることも可能になる。
【0069】
ここで、最適落下量は、必ずしも付着応力度のピーク値に対応する一点のみにする必要はなく、所定の範囲として設定してもよい。具体的には、最適落下量の下限は、無塗装鉄筋よりも高い付着応力度が得られ、且つ、外観上に螺旋状の珪砂付着が生じない珪砂落下量とすればよい。本実施例では、中間量が最適落下量の下限に相当する。また、最適落下量の上限は、コンクリートとの付着応力度(又は、珪砂付着量)が所定の閾値よりも低下し始める直前の珪砂落下量とすればよい。本実施例では、極多量の直前の多量が最適落下量の上限に相当する。
【0070】
また、最適落下量は、毎回実験を行うことにより求める必要はなく、予め複数回の実験を異なる条件(送り出し速度、溶融温度等)で行うことにより、これら異なる条件の最適落下量をデータベースとして構築し、実験を行っていない条件の最適落下量については、データベースから得られるモデル式(線形近似式等)に基づいて演算できるようにしてもよい。このようなデータベースを構築すれば、製造ラインの変更時や新たな製造ラインの設置時に役立てることが可能になる。
【0071】
また、鉄筋棒11を被覆する樹脂層はPVB以外の他の樹脂層でもよく、また、粒子は珪砂以外の他の粒子であってもよい
【符号の説明】
【0072】
10 防食鉄筋
11 鉄筋棒
20 PVB樹脂層(樹脂層)
30 珪砂(粒子)
50 製造ライン
51 ブラスト処理装置
52 高周波加熱装置
53 静電塗装装置
54 珪砂付着装置
55 ホッパー
56 受け部
57 貫通孔
59 冷却装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13