(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】卵白加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20241016BHJP
【FI】
A23L15/00 B
(21)【出願番号】P 2020058145
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】左座 貴雄
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-060431(JP,A)
【文献】特開昭59-039269(JP,A)
【文献】Shipin Gongye Keji,2015年,Vol.36, No.13,pp.143-149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)卵白にトランスグルタミナーゼ及びゼラチンを混合する工程、
(2)混合した卵白を加熱する工程、及び
(3)凝固卵白を冷凍する工程
を含む冷凍凝固卵白の製造方法であって、
卵白1gに対して、1U~5Uのトランスグルタミナーゼ及び1×10
-2~0.1gのゼラチンを添加する製造方法。
【請求項2】
さらに(4)凝固卵白を細断する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(4)凝固卵白の細断サイズが一辺2mm以上30mm以下のダイス状である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
卵白1gに対して、トランスグルタミナーゼ1U~5U及びゼラチン1×10
-2~0.1gが作用した卵白を含む冷凍凝固卵白。
【請求項5】
一辺が2mm以上30mm以下に細断されたダイス状である、請求項4に記載の冷凍凝固卵白。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゆで卵と同等の食感及び外観を有する凝固卵白及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゆで卵など加熱凝固卵は、タルタルソースやサラダの具材として用いられ、マヨネーズやドレッシング等と和えて使用される。ゆで卵や卵加工品において、特に卵白部分を加熱後冷凍、解凍した場合、離水により食感がスポンジ状になってしまうという問題があった。この問題に対しては、加工澱粉などで食感の改善を試みているが、冷凍の卵白自身がスポンジ状になり、加工澱粉の違和感のある食感も問題となっていた。このように、通常の加熱卵白(ゆで卵や目玉焼きなどの卵白部分)の食感を再現することは困難であった。
【0003】
一方、ゆで卵のような、卵の形状を残した卵加工食品は、製造中や輸送中に破損しやすいという問題が知られている。それに対して生卵やゆで卵をトランスグルタミナーゼを含有する溶液に浸漬することにより、加熱後の卵を適度な硬さに維持でき卵加工食品の製造中や輸送中の破損が低減されることが知られている(特許文献1)が、冷凍処理や冷凍後の卵の食感については何ら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加熱凝固卵白を冷凍後解凍した場合でも離水が抑制され、通常の加熱をした卵白と同等の食感を有し、料理に簡便に利用できる凝固卵白の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、卵白にトランスグルタミナーゼ及びゼラチンを混合し加熱し得られた凝固卵白は冷凍しても解凍後の離水が抑制でき、またゆで卵の食感が維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1](1)卵白にトランスグルタミナーゼ及び副材を混合する工程、及び
(2)混合した卵白を加熱する工程、
を含む凝固卵白の製造方法。
[2]副材がゼラチン又はカゼインナトリウムあるいはそれらの混合物である[1]に記載の方法。
[3]卵白1gに対して、1×10-5U~1×105Uのトランスグルタミナーゼを添加する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]卵白1gに対して、1×10-4~1gの副材を添加する[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]さらに(3)凝固卵白を冷凍する工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]さらに(4)凝固卵白を細断する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]トランスグルタミナーゼ及び副材が作用した卵白を含む凝固卵白。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、市販の賞味期間の短い冷蔵の卵加工品(ゆで卵等)又はゆで卵等を製造してからクラッシュしてタルタルソースなどの具材として使用していた加熱卵白を、カットされた加熱済冷凍原料として使用できるので、作業の大幅な短縮になる。
本発明により、卵白を冷凍化できるので、長期保存が可能になり、フードロス問題の解決に有効である。
本発明により、冷凍卵白に澱粉類を使用することなく、自然な食感を有する加熱済冷凍卵白を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】トランスグルタミナーゼ及びゼラチンの添加の有無による自然解凍後の加熱卵白の形状を示す写真である。
【
図2】トランスグルタミナーゼ及びゼラチンの添加の有無による自然解凍後の加熱卵白をキッチンペーパーに置き離水の違いを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(1)卵白にトランスグルタミナーゼ(以下TGと略することもある)及び副材を混合する工程及び(2)卵白混合物を加熱する工程を含む凝固卵白の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称する)を提供する。
【0011】
本発明に用いる卵白としては、卵を割卵し、卵黄を分離して得られる液状の生卵白、これを濃縮処理もしくは凍結処理、乾燥処理したものを通常の液状卵白に戻したもの、加熱殺菌処理、脱糖処理もしくは脱リゾチーム処理など種々の処理を施した卵白を使用することができる。
【0012】
本発明における凝固卵白とは、卵白にトランスグルタミナーゼ及び副材を混合させて得られた液状卵白混合物(スラリー)を任意の方法で完全に加熱凝固させゲル状にしたものをいう。具体的には、目視で観察したとき加熱後凝固卵白の表面ばかりでなく中身も凝固し、全体において凝固していない部分、即ち、半熟状の部分が殆ど観察されない状態にあるものを凝固卵白という。
【0013】
本発明における卵とは、鳥類、特に家禽類の卵を意味し、ニワトリ、うずら等の卵が例示される。ニワトリとしては、採卵に用いられるものであれば特に制限されず、白色レグホン、ロードアイランドレッド、名古屋コーチン、比内鶏、白色プリマスロック、シャモ種、アローカナ、烏骨鶏等が挙げられる。
【0014】
(1)卵白にトランスグルタミナーゼ及び副材を混合する工程とは、混合することにより卵白にトランスグルタミナーゼを作用させることを含む概念であり、同様に副材も作用させることを含む。
例えば副材がゼラチンの場合、卵白にトランスグルタミナーゼ及びゼラチンを混合する順序としては、トランスグルタミナーゼ及びゼラチンが卵白と共存していれば、同時でも時間差で投与してよいが、ゼラチンにもトランスグルタミナーゼを作用させるという観点から、同時またはゼラチンを混合後トランスグルタミナーゼを混合するという順序が好ましい。
また卵白にトランスグルタミナーゼ及びゼラチンを混合する温度としては、ゼラチンが溶解しかつ卵白が変性しない温度であってトランスグルタミナーゼが失活しない温度であれば特に限定されないが、通常60℃以下である。
混合する手段としては、凝固卵白の食感を維持するという観点から、混合時に空気を含むような手段でなければ特に限定されないが、ミキサーやサイレントカッターなどの切断・混合する機械を用いて混合することが挙げられる。
トランスグルタミナーゼ及びゼラチンが添加された卵白の混合に要する時間は、スラリーの状態になるまでの時間であり、通常10秒~30分であり、30秒~30分が好ましい。
また混合後には、副材の種類や量にもよるが、一晩冷蔵して静置することが好ましい。
【0015】
トランスグルタミナーゼは、蛋白質中のグルタミン残基を供与体、リジン残基を受容体とするアシル基転移反応を触媒する活性を有する酵素をいう。トランスグルタミナーゼとしては、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のものなど、種々の起源のものが知られているが、それらいずれの起源のものを用いてもよい。トランスグルタミナーゼとして、具体的には、味の素(株)より「アクティバ(登録商標)TG」という商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼ製剤が挙げられる。
【0016】
トランスグルタミナーゼの添加量としては、離水を抑制し食感を好ましくする観点から、卵白1gに対して、通常1×10-5~1×105U、好ましくは1×10-4~1×104U、より好ましくは1×10-3~1×103U、さらに好ましくは1×10-2~1×102U、特に好ましくは0.1~10U、最も好ましくは1~5Uである。
【0017】
トランスグルタミナーゼの酵素活性は、以下のようにして測定することができる。ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質としてトランスグルタミナーゼを作用させ、ヒドロキサム酸を生成させる。ヒドロキサム酸にトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmでの吸光度を測定し、ヒドロキサム酸の量を検量線より求め、酵素活性を算出する。37℃、pH6.0で1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義する。
【0018】
トランスグルタミナーゼを添加する場合には、直接卵白に添加してもよいが、水や緩衝液などの溶媒に溶解してから添加してもよい。溶媒に溶解したトランスグルタミナーゼの溶液のpHは、凝固卵白の硬さの調整の点から、通常中性領域である。
【0019】
本発明に用いる副材としては、ゼラチン、カゼインナトリウム、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、キサンタンガム、カシアガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、グルコマンナン、タマリンドガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、アルギン酸塩、ペクチン、カードランなどが挙げられる。なかでもゼラチン、カゼインナトリウムが好ましく、ゼラチンは、よりゆで卵の食感に近づくという観点からより好ましい。ゼラチンとしては、魚、牛及び豚由来のゼラチンが挙げられるが、魚由来のゼラチンが好ましい。
【0020】
例えば、ゼラチンは、卵白1gに対して、食感の観点から、通常1×10-4~1g、好ましくは1×10-3~0.5g、より好ましくは1×10-2~0.1gである。
【0021】
ゼラチンを添加する場合には、直接卵白に添加してもよいが、水や緩衝液などの溶媒に溶解してから添加してもよい。溶媒に溶解したゼラチンの溶液のpHは、凝固卵白の硬さの調整の点から、pHは通常中性領域である。
【0022】
またはトランスグルタミナーゼとゼラチンを含むトランスグルタミナーゼ製剤を卵白に添加してもよい。トランスグルタミナーゼ製剤は市販のものでも、上記それぞれの割合で調製してもよい。
【0023】
卵白混合物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加物等の各種原料を適宜選択し、混合してもよい。
【0024】
(2)卵白混合物を加熱する工程は、卵白混合物を加熱することにより凝固させる工程であり、これにより、凝固卵白が得られる。
加熱する方法としては、凝固卵白が得られれば特に限定されないが、卵白混合物をトレイ、ケーシング、レトルト包材およびバット等の容器に移し、熱水や蒸気等により加熱処理を行なう方法、蒸煮、通電加熱、マイクロ波加熱等により加熱処理を行なう方法、あるいは耐熱性のポリ袋等の容器に卵白混合物を充填密封し加熱処理を行なう方法等が挙げられる。
卵白の混合物を加熱する温度及び時間は、卵白の量や加熱手段によって適宜設定されるが、通常ゆで卵を製造するのと同様の条件が挙げられる。例えば、卵白混合物の芯温が70~75℃になるように加熱することが挙げられる。具体的には、通常75~100℃、好ましくは87~97℃で3~60分間、好ましくは5~40分間加熱することが挙げられる。
【0025】
本発明は、さらに(3)凝固卵白を冷凍する工程を含んでもよい。
加熱後得られた凝固卵白は、冷却後、通常-18℃以下で冷凍する。冷凍に要する時間は、芯まで凍れば特に限定されないが、通常10分~24時間である。
【0026】
本発明は、さらに(4)凝固卵白を細断する工程を含んでもよい。
細断する工程は、加熱工程の後でも、冷凍工程の後でもよい。カットの容易性の観点から、冷凍工程の後が好ましい。
細断の方法としては、包丁やナイフ、フードカッター、スライサー、メッシュ等により定形あるいは不定形の大きさや形状に細断することが挙げられる。
凝固卵白の細断のサイズとしては、用途によって異なるが、通常は一辺が2mm以上30mm以下であり、3mm以上20mm以下が好ましく、前記範囲のダイス状に切断することが好ましい。
【0027】
本発明で得られた凝固卵白は、離水が抑制され、ゆで卵と同等の食感が再現され得る。
【0028】
本発明の方法で得られた凝固卵白は、ゆで卵の卵白と同等の食感を有し、さらに冷凍しても解凍後の食感はゆで卵と同等であるので、タルタルソースなどのソース類やドレッシング類、ポテトサラダ、卵サラダなどの各種サラダ、ピザやグラタンなどのトッピング具材、卵黄と卵白を別加工して製造される冷凍目玉焼きの卵白などの料理に手軽に使用することができる。
【0029】
本発明の方法によれば、混合後に卵白を投入する容器によっても様々な形状に凝固成形でき、加熱後の凝固卵白も自由な形に細断することにより様々な形状に加工することができる。
【0030】
また、トランスグルタミナーゼが作用した卵白及びゼラチン等の副材を含む凝固卵白も本発明に含まれる。本発明の凝固卵白は、冷凍後解凍しても離水が抑制され、ゆで卵と同じ外観及び食感を有するので、単独で食するだけでなく各種ソース類や料理に手軽に使用することができる。各種定義や好適範囲は既述に準じる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0032】
1.凝固卵白の製造方法
(1)冷凍卵白300gを解凍し、ボウルにいれる。
(2)試料2~4は、表1に記載の割合で、微生物由来のトランスグルタミナーゼ(味の素株式会社)及びゼラチンを加えて、カッターで泡立たないように30秒~1分程度撹拌する。試料1としては、トランスグルタミナーゼ(TG)及びゼラチンを入れない卵白を同様に処理した。
(3)成形トレイに流し込み、一晩冷蔵保管をする。
(4)スチーマーに成形トレイに入れた卵白を入れて90℃5分加熱する。
(5)スチーム加熱後冷却し、-18℃の冷凍庫で冷凍する。
(6)冷凍後包丁を用いてダイス状(10~15mm)にカットする。
(7)自然解凍又は80℃で10分間ゆでたカット凝固卵白を下記のように評価した。
【0033】
2.評価1(離水)
自然解凍させたカット凝固卵白をキッチンペーパーに載せて、10~20分間放置したのちに、キッチンペーパーに染み出た水分を目視で確認した。
【0034】
3.評価2(食感)
自然解凍させたカット凝固卵白及び上記のようにゆでた凝固卵白の食感を4人のパネラーにより下記基準に従い官能評価した:
×:一般的なゆで卵の食感には程遠い
〇:一般的なゆで卵の食感に近い
◎:一般的なゆで卵の食感とほぼ同等。
【0035】
4.評価3(離水)
自然解凍させたカット凝固卵白を目視で確認した。
【0036】
【0037】
5.結果
評価1~3の結果を表1に示す。
また自然解凍させたカット凝固卵白(試料3)の外観を
図1に示した。TG及びゼラチンを入れた凝固卵白は通常のゆで卵と同じ外観を示したが、試料1ではスポンジ状の外観を示した。
また
図2に示すように、ダイス状の凝固卵白をキッチンペーパーに載せると、試料1では離水が激しいことが確認された。一方、試料3では、離水はほとんど確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、冷凍後解凍しても通常の加熱卵白と同等の食感を有する凝固卵白を提供することができる。