(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20241016BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20241016BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20241016BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20241016BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20241016BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20241016BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/90 K
H01L21/205
H01L21/314 A
(21)【出願番号】P 2020082006
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2023-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年12月5日 https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/12/5.htmlに公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年12月1日~令和1年12月6日学会名「2019 MRS Fall Meeting & Exhibit」に公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】矢板 潤也
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-071339(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130546(WO,A1)
【文献】特開2016-096318(JP,A)
【文献】特開平05-339730(JP,A)
【文献】特開2007-157829(JP,A)
【文献】特開2018-049868(JP,A)
【文献】特開2019-019044(JP,A)
【文献】特開平10-081586(JP,A)
【文献】特開平5-148089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/768
H01L 21/205
H01L 21/314
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体積層構造と、
前記半導体積層構造の上に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、
前記半導体積層構造の上に形成され、前記半導体積層構造側の第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、複数のダイヤモンド結晶粒から構成されたダイヤモンド層と、
を有し、
前記ダイヤモンド層は前記ゲート電極、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を覆い、
前記複数のダイヤモンド結晶粒の、前記第1面での個数密度は、前記第2面での個数密度よりも高く、
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での平均粒径は、1μm以下であ
り、
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第2面での平均粒径は、1μm超であり、
前記複数のダイヤモンド結晶粒は、第1ダイヤモンド結晶粒を含み、
前記第1ダイヤモンド結晶粒は、
前記第1面の一部を構成する第3面と、
前記第2面の一部を構成する第4面と、
を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での個数密度は、1×10
8cm
-2以上
であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
一方の面に前記半導体積層構造が形成された基板と、
前記基板の他方の面に接触する第2ダイヤモンド層と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体積層構造と前記ダイヤモンド層との間に形成された絶縁膜を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体積層構造は、
窒化物半導体により形成された電子走行層と、
前記電子走行層の上に、窒化物半導体により形成された電子供給層と、
を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は、高い飽和電子速度及びワイドバンドギャップ等の特徴を有しており、高耐圧及び高出力の半導体デバイスへの適用が検討されている。例えば、窒化物半導体であるGaNのバンドギャップは3.4eVであり、Siのバンドギャップ(1.1eV)及びGaAsのバンドギャップ(1.4eV)よりも大きく、高い破壊電界強度を有する。そのため、GaN等の窒化物半導体は、高電圧動作かつ高出力を得る電源用の半導体デバイスの材料として極めて有望である。窒化物半導体を用いた半導体デバイスとしては、電界効果トランジスタ、特に、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor:HEMT)についての報告が数多くなされている。
【0003】
このような窒化物半導体を用いたHEMTでは、高電圧が印加され、大電流が流れるため発熱が大きいことから、効率よく放熱することが求められている。例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法を用いてダイヤモンド層を堆積する技術が知られている。具体的には、レーザダイオード等の発熱量の大きい半導体デバイスや、ガリウムナイトライド(GaN)等の窒化物半導体を用いた半導体デバイスが設けられた基板の裏面に、CVD法を用いて合成したダイヤモンドを接合する技術が知られている(例えば、特許文献1)。また、同様の半導体デバイスが設けられた基板の表面に、TiCやAlC等の絶縁膜を成膜した後、ダイヤモンド層を積層する技術が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-539510号公報
【文献】特開2007-157829号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Diamond Relat. Mater. 10, 744 (2001)
【文献】Appl. Phys. Lett. 111, 041901 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されているように、基板の裏面にダイヤモンドを設けても、効率のよい放熱がなされず、また、特許文献2に記載されているように、基板の表面に絶縁膜を形成し、絶縁膜の上にダイヤモンド層を形成した場合では、絶縁膜において熱伝導が阻害され、効率のよい放熱がなされない。
【0007】
このため、効率よく放熱のなされる半導体装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の一観点によれば、半導体積層構造と、前記半導体積層構造の上に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、前記半導体積層構造の上に形成され、前記半導体積層構造側の第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、複数のダイヤモンド結晶粒から構成されたダイヤモンド層と、を有し、前記ダイヤモンド層は前記ゲート電極、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を覆い、前記複数のダイヤモンド結晶粒の、前記第1面での個数密度は、前記第2面での個数密度よりも高く、前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での平均粒径は、1μm以下であり、前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第2面での平均粒径は、1μm超であり、前記複数のダイヤモンド結晶粒は、第1ダイヤモンド結晶粒を含み、前記第1ダイヤモンド結晶粒は、前記第1面の一部を構成する第3面と、前記第2面の一部を構成する第4面と、を備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、効率のよい放熱をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る半導体装置の構造図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程図(1)である。
【
図3】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程図(2)である。
【
図4】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程図(3)である。
【
図5】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程図(4)である。
【
図6】半導体装置におけるシート抵抗の説明図である。
【
図7】シート抵抗の測定に用いた半導体装置の構造図(1)である。
【
図8】シート抵抗の測定に用いた半導体装置の構造図(2)である。
【
図12】第2実施形態に係る半導体装置の構造図である。
【
図13】第3実施形態に係る半導体装置の構造図である。
【
図14】第4実施形態に係るディスクリートパッケージを示す図である。
【
図15】第5実施形態に係るPFC回路を示す結線図である。
【
図16】第6実施形態に係る電源装置を示す結線図である。
【
図17】第7実施形態に係る増幅器を示す結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0012】
(第1実施形態)
ところで、ダイヤモンドは、高い熱伝導率を有する材料の1つである。高い熱伝導率を有するダイヤモンド層を、半導体デバイス等の発熱体を含む基板に設けることで、基板で発生する熱を、ダイヤモンド層を通じて放熱することが考えられている。しかし、GaN等の窒化物半導体を用いた半導体デバイスが設けられた基板の表面にCVD法により、ダイヤモンド層を成膜する場合、ダイヤモンド層を成膜する際に用いる水素ガスにより、GaN等の窒化物半導体よりGaが脱離し、窒化物半導体にダメージを与え、半導体装置として特性が変化してしまい、良好な特性を得ることができなくなる。
【0013】
このため、窒化物半導体の上に保護膜として絶縁膜を成膜し、成膜された絶縁膜の上に、ダイヤモンド層を成膜することが考えられるが、ダイヤモンド層を成膜する際に、窒化物半導体にダメージを与えないようにするためには、ある程度の厚さの絶縁膜が必要となる。しかしながら、絶縁膜はダイヤモンドに比べて熱伝導率が低いため、放熱が効率よくなされない。なお、ダイヤモンド層による放熱を効率よく行うため、絶縁膜を薄くした場合には、絶縁膜もダイヤモンド積層時に用いる水素ガスによってエッチングされ、窒化物半導体がダメージを受け、半導体装置において、良好な特性を得ることができなくない。
【0014】
〔半導体装置〕
次に、第1実施形態に係る半導体装置について、
図1に基づき説明する。第1実施形態に係る半導体装置100は、基板10の上に、核形成層11、バッファ層12、電子走行層21、電子供給層22等の窒化物半導体層が、有機金属気相成長(metal organic vapor phase epitaxy:MOVPE)法により形成されている。核形成層11、バッファ層12、電子走行層21及び電子供給層22等の窒化物半導体層が窒化物の半導体積層構造20に含まれる。本実施形態においては、窒化物半導体層をMOCVD法により形成する場合について説明するが、電子線エピタキシー(molecular beam epitaxy:MBE)法により成膜してもよい。
【0015】
電子走行層21において、電子走行層21と電子供給層22との界面近傍には、2DEG21aが生成される。また、電子供給層22の上には、ゲート電極31、ソース電極32、ドレイン電極33が形成されている。なお、電子供給層22の上に、不図示のキャップ層を形成し、キャップ層の上に、ゲート電極31、ソース電極32、ドレイン電極33形成してもよい。
【0016】
基板10には、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア(Al2O3)、シリコン(Si)、GaN、酸化亜鉛(ZnO)等が用いられる。核形成層11は、例えば、膜厚が160nmのAlNにより形成されており、バッファ層は、例えば、成膜に伴いAlの組成比を徐々に変化させた膜厚が500nmのAlGaNにより形成されている。
【0017】
電子走行層21は、膜厚が約1μmのi-GaNにより形成されている。電子供給層22は、膜厚が約20nmのAl0.2Ga0.8Nにより形成されている。電子供給層22は、InAlNや、InAlGaNにより形成してもよい。
【0018】
半導体積層構造20の上にダイヤモンド層50が形成されている。ダイヤモンド層50は、半導体積層構造20側の第1面50Aと、第1面50Aとは反対側の第2面50Bとを有し、複数のダイヤモンド結晶粒51から構成されている。ダイヤモンド層50の厚さは、例えば1μm以上である。
【0019】
複数のダイヤモンド結晶粒51は、第1ダイヤモンド結晶粒61と、第2ダイヤモンド結晶粒62とを含む。第1ダイヤモンド結晶粒61は、第1面50Aの一部を構成する第3面61Aと、第2面50Bの一部を構成する第4面61Bと、を備える。第2ダイヤモンド結晶粒62は、第1ダイヤモンド結晶粒61よりも高さが小さく、第1面50Aの一部を構成する面62Aを備えるが、第2面50Bの一部を構成する面を備えない。複数のダイヤモンド結晶粒51に、第2ダイヤモンド結晶粒62の上に位置し、第1ダイヤモンド結晶粒61よりも高さが小さく、第1面50Aの一部を構成する面も第2面50Bの一部を構成する面も備えない他のダイヤモンド結晶粒が含まれてもよい。
【0020】
複数のダイヤモンド結晶粒51の、第1面50Aでの個数密度は、第2面50Bでの個数密度よりも高い。例えば、複数のダイヤモンド結晶粒51の第1面50Aでの個数密度は1×108cm-2以上であり、複数のダイヤモンド結晶粒51の第2面50Bでの個数密度は1×108cm-2未満である。複数のダイヤモンド結晶粒51の第1面50Aでの個数密度は、例えば1×108cm-2以上1×1012cm-2以下であってもよい。
【0021】
複数のダイヤモンド結晶粒51の第1面50Aでの平均粒径は、1μm以下である。複数のダイヤモンド結晶粒51の第1面50Aでの平均粒径は、例えば5nm以上1μm以下であってもよい。複数のダイヤモンド結晶粒51の第1面50Aでの平均粒径は、好ましくは5nm以上100nm以下であり、より好ましくは5nm以上20nm以下である。
【0022】
複数のダイヤモンド結晶粒51の第2面50Bでの平均粒径は、1μm超である。
【0023】
第1実施形態に係る半導体装置100では、半導体積層構造20に直接接触するようにダイヤモンド層50が設けられているため、半導体装置100の動作時に2DEG21aを含むチャネルにおいて生じた熱を効率よく放熱することができる。
【0024】
なお、平均粒径が5nm程度の平均粒径の小さなダイヤモンドにより形成されたダイヤモンド層の熱伝導率は、10W/m・K程度である。これに対し、平均粒径が1μmを超える平均粒径の大きなダイヤモンドにより形成されたダイヤモンド層の熱伝導率は、2000W/m・K程度である。このため、複数の第2ダイヤモンド結晶粒62は薄い層状に設けられていることが好ましい。例えば、製造方法の説明は後述するが、複数の第2ダイヤモンド結晶粒62は、第1ダイヤモンド結晶粒61を形成する際に、半導体積層構造20にダメージを与えない範囲で、できるだけ薄い層状に形成されていることが好ましい。
【0025】
平均粒径の小さなダイヤモンド結晶粒は、平均粒径の大きなダイヤモンド結晶粒よりも、低温で形成することができ、また、場合によってはラジカルな水素等に晒されることなく形成することが可能である。このため、半導体積層構造20の上に平均粒径の小さな複数のダイヤモンド結晶粒を設けておき、これらダイヤモンド結晶粒の一部から平均粒径の大きなダイヤモンド結晶粒を成長させることにより、半導体積層構造20にダメージを与えることなく、ダイヤモンド層50を形成することができる。これにより、ダイヤモンド層50を形成する際の半導体装置100の特性の低下を抑制することができる。
【0026】
〔半導体装置の製造方法〕
次に、第1実施形態に係る半導体装置100の製造方法について説明する。
【0027】
最初に、
図2に示されるように、例えばMOVPE法又は分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy:MBE)法等の結晶成長法により、基板10の上に、核形成層11、バッファ層12、電子走行層21、電子供給層22等を含む半導体積層構造20を形成する。核形成層11、バッファ層12、電子走行層21、電子供給層22等の半導体積層構造20をMOVPE法により成膜する際には、原料ガスとして、トリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、及びアンモニアガスの混合ガスを用いる。形成する窒化物半導体層の組成に応じて、Al源であるトリメチルアルミニウムガス、Ga源であるトリメチルガリウムガスの供給の有無及び流量を調整して成膜を行う。なお、供給されるアンモニアガスの流量は、100ccm~10LMである。また、半導体積層構造20を形成する際のチャンバ内の圧力は約7kPa(50Torr)~約40kPa(300Torr)であり、成膜温度は1000℃~1200℃である。なお、電子供給層22をInAlGaNにより形成する場合には、チャンバ内の圧力は、約7kPa(50Torr)~約27kPa(200Torr)であり、成膜温度は650℃~800℃である。Inを含む半導体層の成長の際には、トリメチルインジウムガスを用いることができる。
【0028】
次に、
図3に示されるように、半導体積層構造20の上に、ゲート電極31、ソース電極32及びドレイン電極33を形成する。
【0029】
次に、
図4に示されるように、半導体積層構造20、ゲート電極31、ソース電極32及びドレイン電極33の上に、複数のナノダイヤモンド粒子71からなるダイヤモンド層70を形成する。ナノダイヤモンド粒子71はダイヤモンド粒子の一例である。具体的には、半導体積層構造20等の上に、複数のナノダイヤモンド粒子71を付着させることによりダイヤモンド層70を形成する。例えば、複数のナノダイヤモンド粒子71が分散している水溶液等に、電子供給層22等が形成されたものを浸すことにより、半導体積層構造20等の上に付着させることによりダイヤモンド層70を形成する。例えば、ナノダイヤモンド粒子71の平均粒径は5nm以上1μm以下であり、ダイヤモンド層70の半導体積層構造20側の面におけるナノダイヤモンド粒子71の個数密度は、1×10
8cm
-2~1×10
12cm
-2である。ダイヤモンド層70を形成する他の方法として、バイアス促進核形成(bias enhanced nucleation:BEN)法が挙げられる。ただし、上記のように水溶液等に分散しているナノダイヤモンド粒子71を半導体積層構造20等の表面に付着させる方法の方が、半導体積層構造20へのダメージが少ないため、好ましい。
【0030】
次に、
図5に示されるように、CVD法によりナノダイヤモンド粒子71を成長核として、ダイヤモンドの結晶粒を成長させることにより、複数のダイヤモンド結晶粒51から構成されるダイヤモンド層50を形成する。原料ガスとしては、メタンガス及び水素ガスの混合ガスを用いる。成長条件等によっては、CVDチャンバ内に酸素ガス又は窒素ガス等を供給してもよい。水素ガスに対するメタンガスの割合は0.05体積%~10体積%程度とする。成長圧力は0.5kPa~100kPa程度、成長温度は350℃~1200℃程度とする。結晶成長は異方性を有しており、ダイヤモンド層50の形成途中では、一部のダイヤモンド結晶粒同士が接触して、それらの間に位置するダイヤモンド結晶粒の成長が妨げられるようになる。そして、他のダイヤモンド結晶粒に妨げられることなく成長できたダイヤモンド結晶粒が第1ダイヤモンド結晶粒61となり、第1ダイヤモンド結晶粒61に成長を妨げられたダイヤモンド結晶粒が第2ダイヤモンド結晶粒62となる。上記のように、複数のダイヤモンド結晶粒51に、第2ダイヤモンド結晶粒62の上に位置し、第1ダイヤモンド結晶粒61よりも高さが小さく、第1面50Aの一部を構成する面も第2面50Bの一部を構成する面も備えない他のダイヤモンド結晶粒が含まれてもよい。
【0031】
このようにして、第1実施形態に係る半導体装置100を製造することができる。
【0032】
ところで、半導体積層構造20の上のナノダイヤモンドの密度が低い場合、ナノダイヤモンドを核として結晶成長する間に、ダイヤモンドの結晶成長に用いられる水素ガスによって、長時間、半導体積層構造20の表面が水素ガスに晒されてしまう。このため、本実施形態においては、半導体積層構造20の上に、1×10
8cm
-2~1×10
12cm
-2の高個数密度のナノダイヤモンド粒子71から構成されるダイヤモンド層70を形成し、半導体積層構造20の表面を略覆う。これにより、半導体積層構造20が水素ガスに晒されることを防ぐことができ、半導体積層構造20のダメージを防ぎ、製造される半導体装置100の特性の低下を抑制することができる。なお、
図4では、説明の便宜上、ナノダイヤモンド粒子71の間に隙間が存在するが、平均粒径が5nm以上1μm以下のナノダイヤモンド粒子71が1×10
8cm
-2~1×10
12cm
-2の個数密度で設けられると、隣り合うナノダイヤモンド粒子71同士は接触するようになる。また、半導体積層構造20の積層方向で重なり合うナノダイヤモンド粒子71があってもよい。
【0033】
図6は、各々の半導体装置におけるシート抵抗を示す。半導体装置6Aは、
図7に示されるように半導体積層構造20等の上にダイヤモンド層が形成されていない半導体装置である。半導体装置6Bは、
図1に示されるように、第1実施形態に係る半導体装置100であり、ダイヤモンド層50が形成された半導体装置である。半導体装置6Cは、
図8に示されるように、第1ダイヤモンド結晶粒61と同等の大きな複数のダイヤモンド結晶粒81から構成されたダイヤモンド層950が形成された半導体装置である。この半導体装置6Cでは、平均粒径が小さいナノダイヤモンド粒子を設けることなく、CVD法によりダイヤモンド結晶粒81を半導体積層構造20上に成長させ、ダイヤモンド層950を形成してある。
【0034】
図6に示されるように、半導体装置6Bに示される第1実施形態に係る半導体装置100においては、半導体積層構造20におけるシート抵抗は、半導体装置6Aと同程度であり、シート抵抗の増加が抑制されている。このことから、第1実施形態に係る半導体装置100では、ダイヤモンド層50が形成されていても、ダイヤモンド層50の形成に伴うダメージが半導体積層構造20に生じていないことが確認できる。
【0035】
半導体装置6Cでは、シート抵抗が著しく大きくなっている。これは、ダイヤモンド層950を形成する際に、半導体積層構造20が、長時間水素ガスに晒され、半導体積層構造20がGaの脱離等のダメージを受けるためである。シート抵抗の増加はオン抵抗の増加につながる。
【0036】
図9は、窒化物半導体層の上に形成された、第1ダイヤモンド結晶粒61及び第2ダイヤモンド結晶粒62を含むダイヤモンド層50の断面走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)像であり、
図10は、
図9中の矢印で示すダイヤモンド層50を上面から見たSEM像である。
図9及び
図10に示されるダイヤモンド層50の形成では、ダイヤモンド層70を形成した後、約7時間の結晶成長を行った。このダイヤモンド層50の厚さは約2.5μmである。
図9及び
図10に示されるように、ダイヤモンド層50を構成する複数のダイヤモンド結晶粒51の第2面50Bでの平均粒径は、1μm超であることが確認される。
【0037】
図11は、ダイヤモンド層70を形成した後、約10分間、ダイヤモンドを結晶成長させた時点でのダイヤモンド層の断面SEM像である。ダイヤモンド層70を構成しているナノダイヤモンド粒子71は、平均粒径が10nm程度であり、SEMでは確認することはできないが、10分間結晶成長させることによりダイヤモンドの結晶粒が大きくなり、SEMにより確認可能となる。
図11に示されるように、この状態のダイヤモンドの結晶粒は小さく、その平均粒径は50nm~100nm程度であるが、長時間結晶成長させることにより、
図10に示されるような平均粒径が1μm超のダイヤモンド結晶粒が得られる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る半導体装置について説明する。第2実施形態に係る半導体装置200では、
図12に示されるように、半導体積層構造20の上に絶縁膜140が形成され、絶縁膜140の上にダイヤモンド層50が形成されている。絶縁膜140の厚さは、例えば0.5nm以上10nm以下である。熱伝導の観点からは、絶縁膜140はない方が好ましい。その一方で、ダイヤモンドの結晶成長の際に、半導体積層構造20が受けるダメージをより一層抑制するために、半導体積層構造20の上に絶縁膜140を成膜し、絶縁膜140の上にダイヤモンド層50を形成してもよい。
【0039】
絶縁膜140の材料としては、SiN(窒化シリコン)、SiO2(酸化シリコン)、AlN(窒化アルムニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)等が挙げられる。
【0040】
他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る半導体装置について説明する。第3実施形態に係る半導体装置300では、
図13に示されるように、基板10の一方の面10aに形成された半導体積層構造20の上にダイヤモンド層50が形成され、他方の面10bに裏面ダイヤモンド層250が形成されている。これにより、より高い放熱効果を得ることができる。裏面ダイヤモンド層250は第2ダイヤモンド層の一例である。
【0042】
基板10の裏面となる他方の面10bに形成される裏面ダイヤモンド層250は、多結晶であっても単結晶であってもよい。裏面ダイヤモンド層250は、ダイヤモンド層50と同様に、成長核の形成と結晶成長とにより形成してもよい。裏面ダイヤモンド層250として、単結晶ダイヤモンド又は多結晶ダイヤモンドを面10bに接合してもよい。裏面ダイヤモンド層250の厚さは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2.5μmである。
【0043】
他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0044】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、HEMTのディスクリートパッケージに関する。
図14は、第4実施形態に係るディスクリートパッケージを示す図である。
【0045】
第4実施形態では、
図14に示すように、第1~第3実施形態のいずれかと同様の構造を備えた半導体装置1210の裏面がはんだ等のダイアタッチ剤1234を用いてランド(ダイパッド)1233に固定されている。また、ドレイン電極108が接続されたドレインパッド1226dに、Alワイヤ等のワイヤ1235dが接続され、ワイヤ1235dの他端が、ランド1233と一体化しているドレインリード1232dに接続されている。ソース電極107に接続されたソースパッド1226sにAlワイヤ等のワイヤ1235sが接続され、ワイヤ1235sの他端がランド1233から独立したソースリード1232sに接続されている。ゲート電極109に接続されたゲートパッド1226gにAlワイヤ等のワイヤ1235gが接続され、ワイヤ1235gの他端がランド1233から独立したゲートリード1232gに接続されている。そして、ゲートリード1232gの一部、ドレインリード1232dの一部及びソースリード1232sの一部が突出するようにして、ランド1233及び半導体装置1210等がモールド樹脂1231によりパッケージングされている。
【0046】
このようなディスクリートパッケージは、例えば、次のようにして製造することができる。まず、半導体装置1210をはんだ等のダイアタッチ剤1234を用いてリードフレームのランド1233に固定する。次いで、ワイヤ1235g、1235d及び1235sを用いたボンディングにより、ゲートパッド1226gをリードフレームのゲートリード1232gに接続し、ドレインパッド1226dをリードフレームのドレインリード1232dに接続し、ソースパッド1226sをリードフレームのソースリード1232sに接続する。その後、トランスファーモールド法にてモールド樹脂1231を用いた封止を行う。続いて、リードフレームを切り離す。
【0047】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、HEMTを備えたPFC(Power Factor Correction)回路に関する。
図15は、第5実施形態に係るPFC回路を示す結線図である。
【0048】
PFC回路1250には、スイッチ素子(トランジスタ)1251、ダイオード1252、チョークコイル1253、コンデンサ1254及び1255、ダイオードブリッジ1256、並びに交流電源(AC)1257が設けられている。そして、スイッチ素子1251のドレイン電極と、ダイオード1252のアノード端子及びチョークコイル1253の一端子とが接続されている。スイッチ素子1251のソース電極と、コンデンサ1254の一端子及びコンデンサ1255の一端子とが接続されている。コンデンサ1254の他端子とチョークコイル1253の他端子とが接続されている。コンデンサ1255の他端子とダイオード1252のカソード端子とが接続されている。また、スイッチ素子1251のゲート電極にはゲートドライバが接続されている。コンデンサ1254の両端子間には、ダイオードブリッジ1256を介してAC1257が接続される。コンデンサ1255の両端子間には、直流電源(DC)が接続される。そして、本実施形態では、スイッチ素子1251に、第1~第3実施形態のいずれかと同様の構造を備えた半導体装置が用いられている。
【0049】
PFC回路1250の製造に際しては、例えば、はんだ等を用いて、スイッチ素子1251をダイオード1252及びチョークコイル1253等に接続する。
【0050】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は、サーバ電源に好適な、HEMTを備えた電源装置に関する。
図16は、第6実施形態に係る電源装置を示す結線図である。
【0051】
電源装置には、高圧の一次側回路1261及び低圧の二次側回路1262、並びに一次側回路1261と二次側回路1262との間に配設されるトランス1263が設けられている。
【0052】
一次側回路1261には、第5実施形態に係るPFC回路1250、及びPFC回路1250のコンデンサ1255の両端子間に接続されたインバータ回路、例えばフルブリッジインバータ回路1260が設けられている。フルブリッジインバータ回路1260には、複数(ここでは4つ)のスイッチ素子1264a、1264b、1264c及び1264dが設けられている。
【0053】
二次側回路1262には、複数(ここでは3つ)のスイッチ素子1265a、1265b及び1265cが設けられている。
【0054】
本実施形態では、一次側回路1261を構成するPFC回路1250のスイッチ素子1251、並びにフルブリッジインバータ回路1260のスイッチ素子1264a、1264b、1264c及び1264dに、第1~第3実施形態のいずれかと同様の構造を備えた半導体装置が用いられている。一方、二次側回路1262のスイッチ素子1265a、1265b及び1265cには、シリコンを用いた通常のMIS型FET(電界効果トランジスタ)が用いられている。
【0055】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。第7実施形態は、HEMTを備えた増幅器に関する。
図17は、第7実施形態に係る増幅器を示す結線図である。
【0056】
増幅器には、ディジタル・プレディストーション回路1271、ミキサー1272a及び1272b、並びにパワーアンプ1273が設けられている。
【0057】
ディジタル・プレディストーション回路1271は、入力信号の非線形歪みを補償する。ミキサー1272aは、非線形歪みが補償された入力信号と交流信号とをミキシングする。パワーアンプ1273は、第1~第3実施形態のいずれかと同様の構造を備えた半導体装置を備えており、交流信号とミキシングされた入力信号を増幅する。なお、本実施形態では、例えば、スイッチの切り替えにより、出力側の信号をミキサー1272bで交流信号とミキシングしてディジタル・プレディストーション回路1271に送出できる。この増幅器は、高周波増幅器、高出力増幅器として使用することができる。高周波増幅器は、例えば、携帯電話基地局用送受信装置、レーダー装置及びマイクロ波発生装置に用いることができる。
【0058】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0059】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0060】
(付記1)
半導体積層構造と、
前記半導体積層構造の上に形成され、前記半導体積層構造側の第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、複数のダイヤモンド結晶粒から構成されたダイヤモンド層と、
を有し、
前記複数のダイヤモンド結晶粒の、前記第1面での個数密度は、前記第2面での個数密度よりも高く、
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での平均粒径は、1μm以下であることを特徴とする半導体装置。
(付記2)
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での個数密度は、1×108cm-2以上あることを特徴とする付記1に記載の半導体装置。
(付記3)
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での平均粒径は、5nm以上100nm以下であることを特徴とする付記1又は2に記載の半導体装置。
(付記4)
前記複数のダイヤモンド結晶粒の前記第1面での平均粒径は、5nm以上20nm以下であることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記5)
前記ダイヤモンド層の厚さは、1μm以上であることを特徴とする付記1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記6)
一方の面に前記半導体積層構造が形成された基板と、
前記基板の他方の面に接触する第2ダイヤモンド層と、
を有することを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記7)
前記半導体積層構造と前記ダイヤモンド層との間に形成された絶縁膜を有することを特徴とする付記1乃至6のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記8)
前記絶縁膜の厚さは、0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする付記7に記載の半導体装置。
(付記9)
前記半導体積層構造は、
窒化物半導体により形成された電子走行層と、
前記電子走行層の上に、窒化物半導体により形成された電子供給層と、
を有し、
前記電子供給層の上に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を有することを特徴とする付記1乃至8のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記10)
半導体積層構造の上に、前記半導体積層構造側の第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有し、複数のダイヤモンド結晶粒から構成されたダイヤモンド層を形成する工程を有し、
前記ダイヤモンド層を形成する工程は、
前記半導体積層構造の上に、平均粒径が1μm以下の複数のダイヤモンド粒子を設ける工程と、
前記複数のダイヤモンド粒子の一部を成長核として結晶成長させる工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
(付記11)
付記1乃至9のいずれか1項に記載の半導体装置を有することを特徴とする増幅器。
(付記12)
付記1乃至9のいずれか1項に記載の半導体装置を有することを特徴とする電源装置。
【符号の説明】
【0061】
10:基板
20:半導体積層構造
50:ダイヤモンド層
50A:第1面
50B:第2面
51:ダイヤモンド結晶粒
61:第1ダイヤモンド結晶粒
61A:第3面
61B:第4面
62:第2ダイヤモンド結晶粒
62A:面
70:ダイヤモンド層
71:ナノダイヤモンド粒子
81:ダイヤモンド結晶粒
100、200、300:半導体装置
140:絶縁膜
250:裏面ダイヤモンド層