(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】カタラーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/08 20060101AFI20241016BHJP
C12Q 1/30 20060101ALI20241016BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20241016BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
C12N9/08 ZNA
C12Q1/30
G01N33/92 C
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2020137404
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-05-01
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03112
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-022862(JP,A)
【文献】特開2009-282044(JP,A)
【文献】特開2016-019498(JP,A)
【文献】特開2007-185196(JP,A)
【文献】特開2017-158441(JP,A)
【文献】特開2010-193821(JP,A)
【文献】特開昭63-246665(JP,A)
【文献】CATALASE from Microorganism,TOYOBO [online],2019年11月19日,インターネット<URL:https://www.toyobousa.com/enzyme-CAO-519.html>, [検索日2024年3月22日]
【文献】Accession No. ABM10281,GenBank [online],2017年,インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ABM10281.1>, [検索日2024年3月22日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/08
G01N 33/92
C12N 1/20
C12Q 1/30
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カタラーゼ及びアデノシン三リン酸(ATP)
を含有するトリグリセリド測定用の試薬であって、
前記カタラーゼは、ATPが共存する緩衝液(pH7.0)中における35℃で24時間保存後のATP残存率が80%以上であ
り、
ペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属する細菌を起源とし、下記(1)~(5)の性質を有し、ATP分解酵素が混入したカタラーゼ
である、トリグリセリド測定用の試薬。
(1)サブユニットのマススペクトル法による分子量が52000~55000の範囲である。
(2)至適温度が30~35℃である。
(3)至適pHがpH6.5~9.0である。
(4)pH5.9~9.7の範囲で、25℃、16時間処理を行った後のカタラーゼ残存活性が90%以上である。
(5)ペルオキシダーゼ活性が、カタラーゼ活性の4×10
-8
%以下である。
【請求項2】
ペナルスロバクター属に属する細菌がペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.) NITE BP-03112である請求項
1に記載の
試薬。
【請求項3】
トリグリセリド測定における反応中にATPが使用される、請求項
1又は2に記載の
試薬。
【請求項4】
測定対象物質が含まれているか、もしくは測定対象物質が含まれていると考えられる試料を用いて、少なくとも1種の酵素による反応を行った後、発色反応を行うことにより生体内に含まれる物質を比色測定する方法において、請求項1~
3のいずれかに記載の
試薬を使用し、当該試薬に含有されるカタラーゼを用いて測定対象物質以外の物質が発生させる過酸化水素を分解する工程を含む、
トリグリセリドの測定方法。
【請求項5】
下記の(a)から(e)を少なくとも構成要素として含有してなる
トリグリセリド測定用試薬キット。
(a)請求項1~
3のいずれかに記載の
試薬
(b)ペルオキシダーゼ
(c)カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素
(d)緩衝剤、および、
(e)色原体。
【請求項6】
(c)カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素が、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、及びリポプロテインリパーゼからなる群より選択される少なくとも1種の酵素である、請求項
5に記載の
トリグリセリド測定用試薬キット。
【請求項7】
(d)緩衝剤が、トリス緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、MES、Bis-Tris、ADA、ACES、BES、PIPES、MOPS、TES、HEPES、Tricine、Bicine、POPSO、TAPS、CHES、及びCAPSのいずれかである、請求項
5又は6に記載の
トリグリセリド測定用試薬キット。
【請求項8】
(e)色原体が、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-m-アニシジン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチル-m-トルジン、N,N-ジメチル-m-アニシジン、N-エチル-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-スルホプロピル-m-トルイジン、N-エチル-スルホプロピル-3,5-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン、フェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジブロモフェノール、及び2,3,4-トリクロロフェノールのいずれかである、請求項
5~
7のいずれかに記載の
トリグリセリド測定用試薬
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカタラーゼに関する。より具体的には、ATP分解酵素のコンタミネーションが少ないカタラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
カタラーゼ(EC1.11.1.6)は、プロトヘムを作用基とするヘム蛋白質で、過酸化水素を分解する下記反応を触媒する酵素である。
反応式(1) 2H2O2 → 2H2O+O2
また、カタラーゼは反応式(2)で示されるペルオキシダーゼ型の活性を僅かながら持っている事も知られている。
反応式(2) 2AH2+H2O2 → A+2H2O
【0003】
カタラーゼは動物、植物、微生物の好気的な細胞中に存在し、動物では肝臓・血球・腎臓に多く含まれ、植物では葉緑体に含まれているが、同一個体中でも臓器・組織によって酵素の多様化が見られている。微生物由来のカタラーゼとして、例えば、バチラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来の低温での反応性に優れたカタラーゼ(特許文献1)、サーモマイセス(Thermomyces)属菌由来の熱安定性に優れたカタラーゼ(特許文献2)、バチラス・エスピー(Bacillus sp.)由来の高活性で安定性の優れたカタラーゼ(特許文献3)、アスペルギルス・カーボナリウス(Aspergillus carbonarius)由来の強酸性pHの条件下で安定性の優れたカタラーゼ(特許文献4)、アスペルギルス・テレウス(Aspergilus terreus)、アクレモニウム・アラバメンシス(Acremonium alabamensis)、サーモアスカス・オーランチアカス(Thermoascus aurantiacu)由来の耐熱性で弱アルカリ性に於ける反応性に優れたカタラーゼ(特許文献5)などが挙げられる。また、アルカリゲネス・ドゥレイア(Alkaligenes deleya)、アルカリゲネス・ミクロシラ(Alkaligenes microcilla)由来のカタラーゼ(特許文献6)も知られている。
【0004】
このように、カタラーゼは自然界に非常に広く分布していながら、酵素の安定性・反応性・基質特異性などの性質が給源によって大きく異なり、産業上利用できるものは希少である。特に、臨床診断薬用途を始めとする生化学分野、分析化学の分野では、中性付近の緩衝液、特にグッド・バッファー中に希薄な濃度に溶解したときの安定性に優れること、カタラーゼが本質的に有しているペルオキシダーゼ型活性が極めて低いことが望まれており、従来ウシ肝臓由来のカタラーゼがこのような用途に適した特性を有していため、例えば、中性脂肪測定試薬やクレアチニン測定試薬において妨害物質の消去系の中に使用されてきた。
【0005】
一方で一部の臨床診断薬においては、その成分としてアデノシン三リン酸(ATP)が使用される。例えば中性脂肪測定試薬であれば、以下の反応式に示す妨害物質(この場合はグリセロール)の消去系において、ATPは測定試薬に含まれる酵素の基質として用いられる必須成分となっている。
反応式(3)グリセロール + ATP → (グリセロキナーゼ) → グリセロリン酸 + ADP
反応式(4)グリセロリン酸 + O2 → (グリセロリン酸オキシダーゼ) → ジヒドロキシアセトンリン酸 + H2O2
反応式(5)2H2O2 → (カタラーゼ) → O2 + 2H2O
【0006】
臨床診断薬の原料として用いられる酵素は、一般的には生体からの抽出や、微生物による組換え等により生産されるが、生体や組換え宿主が本来保持しているATPを基質とする酵素(以下、「ATP分解酵素」とも称する。)が混入しており、それらを完全に除去することは困難である。一方、近年主流となっている液状の臨床診断薬で、例えば上記のような中性脂肪測定試薬においては、反応に用いられる一連の酵素とATPとを溶液中で長期間共存させておく必要がある。ここで、酵素に由来するATP分解酵素が多量に存在した場合、試薬中のATPが徐々に分解されてしまうため、試薬としての安定性が大きく低下する。このため臨床診断薬用として使用される酵素は、混入するATP分解酵素を極力低いレベルに抑制する必要があった。
【0007】
加えて、ATP分解酵素は一種または少数の類似した酵素を指すのではなく、ATPを基質として利用する多種多様な酵素群から成る。酵素群に含まれる各個の酵素はそれぞれ構造も物理特性も大きく異なるため、単純な精製法により一括して除去することは困難であり、また抽出元の生体の状態によってその存在量が大きく変動する可能性があった。事実、上述したウシ肝臓由来のカタラーゼや、その他市販されている微生物由来のカタラーゼは、臨床診断薬の原料として用いられるグレードの製品であってもATP分解酵素が一定量混在しており、更に製造ロット毎に混在量も異なるため、使用に当たってはロット毎にATP分解酵素量を評価し、よりATP分解酵素の少ないロットを選択して使用するといったことが行われているが、このような特性を十分に満たすようなカタラーゼは現状では見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-246092号公報
【文献】特開平10-257883号公報
【文献】特開2001-275669号公報
【文献】特開平11-46760号公報
【文献】特開平5-153975号公報
【文献】特表2000-513574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、臨床診断薬用途を始めとする生化学分野、分析化学の分野への利用に適した、ATP分解活性が低レベルに抑制されたカタラーゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ATP分解活性が低レベルかつ安定的に抑制されるカタラーゼ、例えばATPが共存する緩衝液(pH7.0)中における35℃で24時間保存後のATP残存率が80%以上であるカタラーゼを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
項1.
アデノシン三リン酸(ATP)が共存する緩衝液(pH7.0)中における35℃で24時間保存後のATP残存率が80%以上である、カタラーゼ。
項2.
微生物を起源とする、項1に記載のカタラーゼ。
項3.
微生物が細菌である、項2に記載のカタラーゼ。
項4.
細菌がペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属する細菌である、項3に記載のカタラーゼ。
項5.
ペナルスロバクター属に属する細菌がペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.) NITE BP-03112である項4に記載のカタラーゼ。
項6.
生体成分測定用である項1~5のいずれかに記載のカタラーゼ。
項7.
生体成分が、クレアチニン、トリグリセリド、無機リン、クレアチン、コレステロールエステル、シアル酸、α-アミラーゼ、GOT、GPT、グアナーゼ、及びリン脂質からなる群より選択される少なくとも1種である、項6に記載のカタラーゼ。
項8.
生体成分がトリグリセリドである、項7に記載のカタラーゼ。
項9.
生体成分測定における反応中にATPが使用される、項6~8のいずれかに記載のカタラーゼ。
項10.
項1~9のいずれかに記載のカタラーゼを含有する生体成分測定用の試薬。
項11.
測定対象物質が含まれているか、もしくは測定対象物質が含まれていると考えられる試料を用いて、少なくとも1種の酵素による反応を行った後、発色反応を行うことにより生体内に含まれる物質を比色測定する方法において、項1~9のいずれかに記載のカタラーゼを用いて測定対象物質以外の物質が発生させる過酸化水素を分解する工程を含む、生体成分の測定方法。
項12.
下記の(a)から(e)を少なくとも構成要素として含有してなる生体成分測定用試薬キット。
(a)項1~9のいずれかに記載のカタラーゼ
(b)ペルオキシダーゼ
(c)カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素
(d)緩衝剤、および、
(e)色原体。
項13.
生体成分がトリグリセリドである、項12に記載の生体成分測定用試薬キット。
項14.
(c)カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素が、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、及びリポプロテインリパーゼからなる群より選択される少なくとも1種の酵素である、項12又は13に記載の生体成分測定用試薬キット。
項15.
(d)緩衝剤が、トリス緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、MES、Bis-Tris、ADA、ACES、BES、PIPES、MOPS、TES、HEPES、Tricine、Bicine、POPSO、TAPS、CHES、及びCAPSのいずれかである、項12~14のいずれかに記載の生体成分測定用試薬キット。
項16.
(e)色原体が、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-m-アニシジン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチル-m-トルジン、N,N-ジメチル-m-アニシジン、N-エチル-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-スルホプロピル-m-トルイジン、N-エチル-スルホプロピル-3,5-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジン、フェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジブロモフェノール、及び2,3,4-トリクロロフェノールのいずれかである、項12~15のいずれかに記載の生体成分測定用試薬
項17.
ペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.) NITE BP-03112を起源とするカタラーゼ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ATP分解酵素の混入が低レベルに抑制されたカタラーゼが提供され、ひいては該カタラーゼを用いることにより、長期保存性に優れた臨床診断薬を提供することができる。臨床診断薬は液状試薬が主流である現在、液状で長期間安定な臨床診薬は非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られたカタラーゼの至適温度を示す図である。
【
図2】実施例1で得られたカタラーゼのpH反応性を示す図である。
図2中、KPBはリン酸カリウム緩衝液を示し、Trisはトリスヒドロキシメチルアミノメタン・塩酸緩衝液を示す。
【
図3】実施例1で得られたカタラーゼのpH安定性を示す図である。
図3中、KPBはリン酸カリウム緩衝液を示し、Trisはトリスヒドロキシメチルアミノメタン・塩酸緩衝液を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカタラーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)が共存する緩衝液(pH7.0)中における35℃で24時間保存後のATP残存率が80%以上であり、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。このような特性のカタラーゼは、特にATPを用いた生体成分の測定において極めて有用である。
る。
【0015】
[ATP残存率]
ATP残存率は次に示す方法で決定される。
20mMの塩化カリウム及び6mMの塩化マグネシウムを含有した100mMのPIPES緩衝液(pH7.0)に、ATP(終濃度1.5mM)及びカタラーゼ(終濃度40,000U/mL)を混合した混合液を35℃で24時間静置し、混合直後の混合液中のATP量と24時間静置後の混合液中のATP量を次の測定法により吸光度でそれぞれ定量し、混合直後の混合液中のATP量に相当する吸光度強度に対する24時間静置後のATP量に相当する吸光度強度の割合により残存率(%)を算出する。
【0016】
[ATP量]
ATP量は次に示す方法で決定される。
2mMのp-クロロフェノール、0.5U/mLのグリセロールキナーゼ、3.5U/mLのグリセロール-3-リン酸キナーゼ、0.44U/mLの西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.1mMの4-アミノアンチピリン、及び3mMのグリセロールを含有する50mMのグッド緩衝液(pH6.3)と前記混合液とを容積比10:1の割合で混合し、37℃、5分後に吸光度(505nm)を測定する。
【0017】
カタラーゼの性質
本発明のカタラーゼは、例えば以下のような性質を有することを特徴とするものが挙げられる。
(1)サブユニットのマススペクトル法による分子量が52000~55000の範囲であるである。
(2)至適温度が30~35℃である。
(3)至適pHがpH6.5~9.0である。
(4)pH5.9~9.7の範囲で、25℃、16時間処理を行った後のカタラーゼ残存活性が90%以上である。
(5)ペルオキシダーゼ活性が、カタラーゼ活性の4×10-8%以下である。
【0018】
本発明において用いられるカタラーゼのサブユニットの分子量は、マススペクトル法により得られる分子量として、52,000~55,000であることが好ましく、52,500~54,500がより好ましく、53,000~54,000が特に好ましい。
【0019】
本発明において用いられるカタラーゼは、至適pHがpH6.5~9.0であることが好ましく、より好ましくはpH7.2~8.5である。
【0020】
本発明において用いられるカタラーゼは、該カタラーゼの有するペルオキシダーゼ活性が、カタラーゼ活性の4×10-8%以下であるものが好ましい。より好ましくは3×10-8%以下、更に好ましくは2×10-8%以下である。
【0021】
[カタラーゼ活性]
カタラーゼ活性は、寺西らの方法(Agric.Biol.Chem.,38,1213(1974))を改良した、次に示す方法で決定される。
【0022】
試験管に0.25mlの基質溶液(16mM H2O2となるように10mM リン酸緩衝液(pH7.0)で希釈したもの)を取り、25℃で約5分間予備加温する。次いで酵素溶液0.25mlを加え反応を開始し、25℃で正確に5分間反応させた後、チタン溶液(1gの酸化チタンと10gの硫酸カリウムを150mlの濃硫酸に溶解し、180~220℃で2~3時間加温した後、蒸留水で1.5Lに希釈したもの)2.5mlを加えて反応を停止する。この反応停止液の410nmにおける吸光度を測定する(ODtest)。一方、盲検は酵素液の代わりに酵素希釈液(0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.4))を添加し、ODtestの場合と同様の方法にて吸光度を測定する(ODblank)。ODtest及びODblankの吸光度の差より分解された過酸化水素量を算出し、カタラーゼ活性を算出する。上記条件で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を分解する酵素量を1単位(U)とする。計算式は、以下に示す通りである。
【0023】
(数1)
U/mL={ΔOD(ODblank-ODtest)×Vt×df}/(F×t×1.0×Vs)
【0024】
Vt:トータル液量(3.0mL)
Vs:サンプル液量(0.25mL)
F:酸化チタンのミリモル分子吸光係数(0.7)
t:反応時間(5分)
df:希釈倍率
1.0:セル光路長(1cm)
【0025】
[ペルオキシダーゼ活性]
ペルオキシダーゼ活性は次に示す方法で決定される。
蒸留水14ml、5% ピロガロール水溶液2ml、0.147M 過酸化水素水1ml及び100mM リン酸緩衝液(pH6.0)を順次混合した後、20℃にて5分間予備温調し、サンプル溶液1mlを加え、酵素反応を開始した。20秒間反応を行った後、2N 硫酸水溶液1mlを加えることにより反応を停止し、生成したプルプロガリンをエーテル15mlにて5回抽出する。抽出液を合わせた後、全量100mlとし、波長420nmにおける吸光度を測定する(ODtest)。一方、盲検は蒸留水14ml、5% ピロガロール水溶液2ml、0.147M 過酸化水素水1ml及び100mM リン酸緩衝液(pH6.0)を順次混合した後、2N 硫酸水溶液1mlを加えて混和し、酵素液、次いでサンプル溶液1mlを加えて調製する。この液につき、ODtestの場合と同様にエーテル抽出を行って吸光度を測定する(ODblank)。ODtest及びODblankの吸光度の差より生成するプルプロガリン量を算出し、ペルオキシダーゼ活性を算出する。上記条件で20秒間に1.0mgのプルプロガリンを生成する酵素量を1プルプロガリン単位(U)とする。計算式は、以下に示す通りである。
【0026】
(数2)
U/mL={ΔOD(ODblank-Odtest)×df}/(F×1.0)
【0027】
F:1mg%プルプロガリンエーテル溶液の420nmにおける吸光度(0.117)
t:反応時間(5分)
df:希釈倍率
1.0:セル光路長(1cm)
【0028】
さらには、本発明において用いられるカタラーゼは、H2O2に対するKm値が約5.5mMであることが好ましい。比活性は、約35,000U/mg-蛋白質以上であることが好ましい。また、N末アミノ酸配列は”Thr-Ala-Ile-Ser-Thr-Thr-Gln-Ser-Gly-Ala-”の配列を有することが特に好ましい。
【0029】
カタラーゼの由来
本発明に用いるカタラーゼは、微生物に由来するものが挙げられる。微生物の種類は特に限定されるものではないが、ペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属する微生物が挙げられ、ペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.) NITE BP-03112が好ましい。ペナルスロバクター・エスピー NITE BP-03112は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、受託日は2020年1月27日である。
【0030】
カタラーゼの製造方法
本発明において用いられるカタラーゼは、具体的には、例えばペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属する微生物由来のカタラーゼを培養して得られる培養物から抽出及び精製することにより得られる。このような方法としては、特に限定されるものではないが、例えば特開昭63-207384号公報に記載される方法がある。カタラーゼ生産菌の培養にあたって使用する培地としては、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素物、その他必要な栄養素を適量含有するものを、合成培地、天然培地のいずれであっても使用できる。培養は通常、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行い、培養温度は20~40℃、培養pHは5~9の範囲で行うことが好ましい。培養期間は1~5日で生育し、菌体内にカタラーゼが生産蓄積される。
【0031】
本発明に使用するカタラーゼの精製は、例えば以下の様にして行うことができる。菌体からの抽出法として、超音波破砕、ガラスビーズなどを用いる機械的な破砕、フレンチプレス、界面活性剤処理が挙げられる。さらに抽出液については、硫安などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムなどの金属凝集法、プロタミンやポリエチレンイミンなどの凝集法、さらにはDEAE(ジエチルアミノメチル)-セファロース、CM(カルボキシメチル)-セファロースなどのイオン交換クロマト法などにより精製することができる。このようにして得られたカタラーゼは通常、比活性16kU/A280以上で得ることができる。
【0032】
カタラーゼの用途
本発明に用いられるカタラーゼは、種々の生体成分を酵素反応により定量する際に有用である。生体成分の定量における測定原理としては、特に限定されるものではないが、測定対象の生体成分が含まれているか、もしくは測定対象の生体成分が含まれていると考えられる試料を用いて、少なくとも1種の酵素による反応を行った後、発色反応を行うことにより生体内に含まれる生体成分を比色測定する方法であってよい。この方法において、一般的には、測定対象の生体成分以外の生体成分に由来する過酸化水素をカタラーゼで分解することにより、測定対象の生体成分の正確な定量を実現するために用いられる。このような原理を用いた、本発明の生体成分測定用試薬キットは、本発明のカタラーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素、緩衝剤、ならびに色原体を少なくとも含有する。
このようなカタラーゼの利用法は、いわゆる「消去系」として当技術分野で汎用される方法であり、種々の公知技術が存在する。さらにその具体的な態様を以下に例示する。
【0033】
すなわち本発明によれば、体液中の生体成分を測定するに当たり、体液中に含まれる妨害物質(例;遊離グリセロール)に、
下記(1)および(3)の酵素、
下記(2)および(3)の酵素、または
下記(1)、(2)および(3)の酵素
を含む試薬を適用して、体液中の妨害物質または該妨害物質に由来する物質から生成した過酸化水素を消去し(消去系)、
次いで体液中の測定対象の生体成分(例;トリグリセリド)に、
下記(1)、(3)、(4)、(5)の酵素および(6)色原体、
下記(2)、(3)、(4)、(5)の酵素および(6)色原体、、あるいは
下記(1)、(2)、(3)(4)、(5)の酵素および(6)色原体
を含む試薬を作用させて、体液中の測定対象の生体成分から妨害物質を生成させ、該妨害物質または該妨害物質に由来する物質から過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を発色させた後、その発色強度を測定することを特徴とする体液中の生体成分の測定方法において、各分析試薬の組成中でATPの分解を抑制し、試薬性能を安定的に維持することができる。
(1)妨害物質に作用して過酸化水素を生成する酵素
(2)妨害物質に作用して該妨害物質に由来する物質(例;グリセロール-3-リン酸)を生成する酵素(例;グリセロールキナーゼ)および該妨害物質に由来する物質に作用して過酸化水素を生成する酵素(例;グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ)
(3)カタラーゼ
(4)該測定対象の生体成分に作用して妨害物質(例;トリグリセリド由来のグリセロール)を生成する酵素(例;リポプロテインリパーゼ)
(5)カタラーゼ
(6)色原体
【0034】
また本発明は、
上記(1)および(3)の酵素、
上記(2)および(3)の酵素、または
上記(1)、(2)および(3)の酵素
を含有する第1試薬、ならびに、
上記(1)、(3)、(4)、(5)の酵素および(6)色原体、
上記(2)、(3)、(4)、(5)の酵素および(6)色原体、、あるいは
上記(1)、(2)、(3)(4)、(5)の酵素および(6)色原体
を含有する第2試薬を少なくとも含む体液中の生体成分測定試薬であってよい。
本発明の生体成分測定試薬はATPの分解が抑制されているため、試薬性能を長期間安定的に維持することができる。
【0035】
本発明の生体成分測定用試薬キットは、下記の(a)から(e)を少なくとも構成要素として含有してなる生体成分測定用試薬キット。
(a)カタラーゼ
(b)ペルオキシダーゼ
(c)カタラーゼおよびペルオキシダーゼ以外の1種以上の酵素
(d)緩衝剤、および、
(e)色原体。
【0036】
トリグリセリドの測定
本発明のカタラーゼを用いた生体成分の測定方法は、例えば少なくともカタラーゼを含有する公知のトリグリセリドの測定方法において、該カタラーゼを本発明のカタラーゼに替えた測定方法であってよい。本発明のカタラーゼを用いた生体成分の測定方法に関する一実施態様は、体液中のトリグリセリドを測定するに当たり、体液中に含まれるグリセロール(妨害物質)に、ATP存在下にてグリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼおよび本発明のカタラーゼを作用させて、グリセロールから生成した過酸化水素を消去し、次いで体液中のトリグリセリドに、ATP存在下にてリポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼ、グルセロール-3-リン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよび色原体を作用させて、トリグリセリドからグリセロールを生成させ、ATPとグリセロールからグリセロール-3-リン酸を生成させ、グリセロール-3-リン酸から過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を発色させた後、その発色強度を測定することを特徴とする体液中のトリグリセリド測定方法である。
【0037】
トリグリセリド測定方法に使用する試薬としては、ATP、グリセロールキナーゼ、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼおよび本発明のカタラーゼを含む第1試薬、およびリポプロテインリパーゼ、ペルオキシダーゼおよび色原体を含む第2試薬からなる体液中のトリグリセリド測定試薬がある。
【0038】
上記トリグリセリド測定試薬に用いられるグリセロールキナーゼとしては、防腐性の高いものが好ましく、具体的にはセルロモナス(Cellulomonas)属に属する微生物由来のものが特に好ましい。また、リポプロテインリパーゼとしては、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物由来のものが特に好ましい。
【0039】
本発明における試料としては、例えば尿、血清、唾液、膵液などの体液等が挙げられる。また、試料が、測定対象の生体成分以外の物質に起因して過酸化水素を発生するものであれば、測定対象の生体成分は、特に限定されない。測定対象の生体成分はとしては、例えばトリグリセリドが代表的であるが、他にクレアチニン、クレアチン、無機リン、コレステロールエステル、シアル酸、α-アミラーゼ、GOT、GPT、グアナーゼ、リン脂質などを挙げることができる。
【0040】
本発明において妨害物質または妨害物質に由来する物質に作用して過酸化水素を生成する酵素としては、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ウリカーゼ、グリセロールオキシダーゼなどがあり、過酸化水素を発生する酸化酵素であれば、いかなる起源のものでも良い。
【0041】
本発明において測定対象の生体成分に作用して妨害物質を生成する酵素としては、グリロキナーゼ、リパーゼ、リポプロテインリパーゼ、ホスフォリパーゼD、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、プリンヌクレオチドフォスフォリラーゼなどが挙げられる。また本発明において妨害物質に由来する物質とは、妨害物質に酵素または基質および他の物質を作用させて生成する物質であって、該物質に作用する酵素の作用によって過酸化水素が生成するものである。例えばグリセロール-3-リン酸、ザルコシン、キサンチンなどが挙げられる。
【0042】
本発明に使用するペルオキシダーゼとしては、西洋ワサビをはじめとする植物や、アルスロマイセス(Arthromyces)属、またはコプリヌス(Coprinus)属に属する微生物由来のものが挙げられる。
【0043】
本発明に使用する緩衝剤としては、特に限定されるものではないが、トリス緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、MES、Bis-Tris、ADA、ACES、BES、PIPES、MOPS、TES、HEPES、Tricine、Bicine、POPSO、TAPS、CHES、CAPSなどが挙げられる。
【0044】
本発明に使用する色原体としては、過酸化水素により分光学的に吸収の変化を生じさせるものであればいかなるものでもよい。ペルオキシダーゼの存在下、例えば4-アミノアンチピリンとアニリン誘導体、4-アミノアンチピリンとフェノール誘導体、3-メチル-2-ベンゾチアゾリンとアニリン誘導体または4-アミノアンチピリン単独、アニリン誘導体単独、フェノール誘導体単独を使用できる。アニリン誘導体としては、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチル-m-トルジン、N,N-ジメチル-m-アニシジン、N-エチル-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホエチル)-m-トルイジン、N-エチル-N-スルホプロピル-m-トルイジン、N-エチル-スルホプロピル-3,5-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-アニシジンなどがある。フェノール誘導体としては、フェノール、p-クロロフェノール、2,4-ジクロロフェノール、2,4-ジブロモフェノール、2,3,4-トリクロロフェノールなどがある。
【0045】
本発明の方法では、まず体液中の生体成分を測定するに当たり、体液中に含まれる妨害物質に、該妨害物質に作用して過酸化水素を生成する酵素および本発明のカタラーゼを作用させて、または該妨害物質から他の物質(妨害物質に由来する物質)を誘導し、該物質に作用して過酸化水素を生成する酵素および該カタラーゼを作用させて、該妨害物質または該妨害物質に由来する物質から生成した過酸化水素を消去する。次いで、測定対象の生体成分に、該生体成分に作用して妨害物質を生成する酵素、該妨害物質または該妨害物質に由来する物質に作用して過酸化水素を生成する酵素、ペルオキシダーゼおよび色原体を含む試薬を作用させて、測定対象の生体成分から妨害物質を生成させ、該妨害物質または該妨害物質に由来する物質から過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を発色させた後、その発色強度を測定する。
【0046】
過酸化水素を発色させた後、例えば生成したキノン色素の吸光度を、通常540~650nmの波長で測定する。測定法としては、例えばエンド法もしくはレート法が挙げられる。
【0047】
本発明の測定試薬は通常、2試薬系から成り、色原体が4-アミノアンチピリンまたは3-メチル-2-ベンゾチアゾリルノンヒドラジン等とアニリン誘導体またはフェノール誘導体から構成されている場合、その内の1種、好ましくはアニリン誘導体またはフェノール誘導体は、必ず第2試薬に含まれなければならないが、他の1種は第1試薬または第2試薬のどちらかに含まれていても良い。
【0048】
本発明の測定試薬が2試薬系の場合には、第1試薬および第2試薬には前記成分に加えてペルオキシダーゼ、緩衝液および必要により測定対象の生体成分に作用して過酸化水素を生成する酸化酵素、ペルオキシダーゼ以外の酵素、これらの酵素の基質、界面活性剤、安定化剤、各種妨害物質等を含んでいても良い。ペルオキシダーゼは第1、第2試薬どちらに含まれても良いが、第2試薬に含まれる方が好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
ペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属する微生物からのカタラーゼの精製
ペナルスロバクター(Paenarthrobacter)属に属するペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.。受託番号;NITE BP-03112)を、LB(1% ポリペプトン,0.5% 酵母エキス,1% NaCl;pH7.5)寒天培地にて培養した後、滅菌した50mlの種培地(1.6% ポリペプトン,0.2% 酵母エキス,0.5%,肉エキス,0.22% リン酸1カリウム,0.58% リン酸2カリウム,0.1% 硫酸マグネシウム,4.4% 塩化コリン)に一白金耳を植菌し、30℃で24時間培養をした。次に、この培養液を滅菌した本生産培地(1.6% ポリペプトン,0.2% 酵母エキス,2.5%,肉エキス,0.22% リン酸1カリウム,0.58% リン酸2カリウム,0.1% 硫酸マグネシウム,4.4% 塩化コリン,0.08% アデカノール)に全量植菌して、30℃にて30~40時間通気・攪拌培養し、カタラーゼ活性の生産量の増加が停止した時点で培養を終了し、遠心分離により菌体を回収した。この時の生産性は約4,000U/ml-bであった。回収された菌体は50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に懸濁し、以後の精製に供した。
【0051】
回収した菌体からの精製は、以下の通りに実施した。上記菌体懸濁液をダイノミル破砕し、遠心分離により上清液を回収した。選られた粗酵素抽出液にポリエチレンイミン溶液を添加して除核酸処理を行ない遠心分離して上清液を回収した。得られた上清液を硫安分画した後、セファデックスG-25(GEヘルスケアバイオサイエンス製)ゲル濾過により脱塩し、DEAEセファロースCL-6B(GEヘルスケアバイオサイエンス製)カラムクロマトグラフィーにより精製し、2回目の硫安分画、2回目のセファデックスG-25(GEヘルスケアバイオサイエンス製)ゲル濾過を実施して、精製酵素標品を得た。該方法により得られたカタラーゼ標品はSDS-PAGE的にほぼ均一なバンドを示し、こ
の時の比活性は約18,000U/A280であった。また、得られたカタラーゼ標品は同一サブユニットから構成される四量体であり、サブユニットの分子量をマススペクトル(MALDI-TOF MS分析)にて測定したところ、53400であった。
【0052】
実施例2
実施例1で得られたカタラーゼの酵素特性
先に記載したカタラーゼ活性の測定方法を用いて、実施例1で得られたカタラーゼの至適温度(
図1)と、pH反応性(
図2)を定法により調べた。また、実施例1で得られたカタラーゼのpH安定性(
図3)は、各pHの10mM緩衝液(リン酸カリウム緩衝液(KPB)又はトリスヒドロキシメチルアミノメタン・塩酸緩衝液(Tris))にて25℃,200U/mlに希釈した精製酵素溶液を16時間処理した後の残存活性を測定することにより調べた。
【0053】
カタラーゼの至適温度は、相対活性が95%以上である温度範囲として定義でき、
図1においては少なくとも30~35℃の範囲であれば至適であると判断できる。
【0054】
カタラーゼの至適pHは、相対活性が95%以上であるpH範囲として定義でき、
図2においては少なくともpH6.5~9.0の範囲であれば至適であると判断できる。
【0055】
カタラーゼの熱安定性については、10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)にて200U/mlに希釈した精製酵素溶液を各温度で30分処理した後の残存活性が95%以上である温度範囲として定義できる。
【0056】
カタラーゼのpH安定性については、各pHの10mM緩衝液にて25℃,200U/mlに希釈した精製酵素溶液を16時間処理した後の残存活性が90%以上である温度範囲として定義でき、
図3においては、測定した各pHにおいて90%以上であるため、少なくともpH5.9~9.7では良好なpH安定性を示すと判断できる。
【0057】
実施例3
実施例1で得られたカタラーゼおよび市販の臨床診断薬用カタラーゼのATP分解酵素活性の測定
上記のATP残存率の測定方法により、実施例1で得られたカタラーゼ(ロットA~G)及び表1に示した2種の臨床診断薬用のカタラーゼのATP残存率を測定した。結果を表1に示す。なお、残存率測定において使用したATPはロシュ製であり、ATP量測定において使用したグリセロールキナーゼは東洋紡製のGYK-301であり、グリセロール-3-リン酸キナーゼは東洋紡製のG3O-311であり)、西洋ワサビペルオキシダーゼは東洋紡製のPEO-301)である。
【0058】
【0059】
牛肝臓由来カタラーゼや、他の微生物由来カタラーゼをATPと共存させた場合、ATP量の大きな減少が見られたのに対し、ペナルスロバクター属由来カタラーゼではATPはほぼ保持されており、また複数ロット間でも差異がほとんど見られなかった。ペナルスロバクター属由来カタラーゼはATP分解酵素のコンタミが極めて低いレベルに抑えられ、かつロット間での品質も非常に安定していると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
現在、臨床診断薬はその大半が溶液状態で製品化・流通・保存されている状況下において、本発明に用いられるカタラーゼは、ATP共存下での保存安定性に優れた臨床診断薬を提供するうえで特に有用である。
【受託番号】
【0061】
ペナルスロバクター・エスピー(Paenarthrobacter sp.):NITE BP-03112
【配列表】