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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】スライドレール及び印刷装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/04 20060101AFI20241016BHJP
   F16C 29/12 20060101ALI20241016BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F16C29/04
F16C29/12
B41J2/01 303
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020150197
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022044856
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 雅弘
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-29/12
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ヘッドを支持するヘッド支持部材と、
前記ヘッド支持部材を第一の移動方向に移動可能に支持する第1レール部材と、
前記第1レール部材を前記第一の移動方向に移動可能に支持する第2レール部材と、
を備え、
前記印刷ヘッドを前記第一の移動方向における当該印刷ヘッドの印刷領域内で移動させる場合には、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動し、前記印刷ヘッドを前記印刷領域の外で移動させる場合には、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動し、
前記第2レール部材は、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動すると
きに前記第1レール部材を保持する保持部を有し、
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材との間の摺動抵抗が、前記第1レール部材と前記第2レール部材との間の摺動抵抗よりも大きい、
ことを特徴とするスライドレール。
【請求項2】
前記印刷ヘッドは、前記第一の移動方向における前記印刷領域内での移動において印刷を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のスライドレール。
【請求項3】
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材との間に配置された第1軸受と、
前記第1レール部材と前記第2レール部材との間に配置された第2軸受と、
を備え、
前記第1軸受の軸受隙間が前記第2軸受の軸受隙間よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスライドレール。
【請求項4】
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材は、前記第1軸受の第1転動体が転動する第1転動面を有し、
前記第1レール部材と前記第2レール部材は、前記第2軸受の第2転動体が転動する第2転動面を有し、
前記第1軸受の前記第1転動面は、前記第2軸受の前記第2転動面と同じ形状及び大きさに形成され、
前記第1軸受の前記第1転動体が前記第2軸受の前記第2転動体よりも大きい、
ことを特徴とする請求項3に記載のスライドレール。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のスライドレールと、
前記印刷ヘッドと、を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
前記印刷ヘッドが非印刷時に待機するホームポジションと、
前記印刷ヘッドが印刷を行う前記印刷領域と、を備え、
前記スライドレールは、
前記印刷ヘッドが前記ホームポジションから前記印刷領域内の印刷開始位置に移動するときには、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動せずに、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動し、
前記印刷ヘッドが前記印刷領域内で移動するときには、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動せずに、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動する、
ことを特徴とする請求項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドレール及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の印刷装置では、一般に、印刷ヘッドが搭載されたキャリッジを、すべり軸受で軸支したシャフトによって移動させていた。
特許文献1に記載の技術では、キャリッジを支持する軸受の摺動抵抗を減らして、駆動源の負荷を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-42453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸受とシャフトとの間にはその隙間分のガタつきが生じており、これが印刷品位の低下を招来していた。具体的には、印刷時に慣性力によってキャリッジの停止位置がずれることにより印刷精度に誤差が生じたり、カートリッジの往復による振動で共振が生じて印字が波打ったりする場合があった。
また、特許文献1に記載の技術にように単純に軸受の摺動抵抗を減らしてしまうと、キャリッジの位置精度がさらに低下するなど、印刷品位をさらに低下させるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、駆動源の負荷を低減しつつ印刷品位の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スライドレールであって、
印刷ヘッドを支持するヘッド支持部材と、
前記ヘッド支持部材を第一の移動方向に移動可能に支持する第1レール部材と、
前記第1レール部材を前記第一の移動方向に移動可能に支持する第2レール部材と、
を備え、
前記印刷ヘッドを前記第一の移動方向における当該印刷ヘッドの印刷領域内で移動させる場合には、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動し、前記印刷ヘッドを前記印刷領域の外で移動させる場合には、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動し、
前記第2レール部材は、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動するときに前記第1レール部材を保持する保持部を有し、
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材との間の摺動抵抗が、前記第1レール部材と前記第2レール部材との間の摺動抵抗よりも大きい、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動源の負荷を低減しつつ印刷品位の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る印刷装置の内部構成を示す要部斜視図である。
図2】本実施形態に係るスライドレールの斜視図である。
図3】本実施形態に係るスライドレールの分解斜視図である。
図4】本実施形態に係るスライドレールの断面図である
図5】本実施形態に係るインナーレールとアウターレールベースとの保持構造を示す部分拡大図である。
図6】本実施形態に係るスライドレールの斜視図であって、(a)が第1短縮状態のもの、(b)が第2短縮状態のものである。
図7】本実施形態における印刷装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
図8】本実施形態に係る印刷装置の内部構成を示す要部斜視図であって、カートリッジが印刷開始位置(印刷領域の右後端位置)にあるものである。
図9】本実施形態に係る印刷装置の内部構成を示す要部斜視図であって、カートリッジが印刷領域の左前端位置にあるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から図9を参照しつつ、本発明に係る印刷装置の一実施形態について説明する。
なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の実施形態では、印刷装置が手の指の爪を印刷対象としてこれに印刷するネイルプリント装置である場合を例に説明するが、本発明における印刷装置の印刷対象は手の指の爪に限るものではなく、例えば足の指の爪を印刷対象としてもよい。また、ネイルチップや各種アクセサリの表面等、爪以外のものを印刷対象としてもよい。
【0010】
図1は、印刷装置1の内部構成を示す要部斜視図である。
なお、以下の実施形態において、上下、左右及び前後は、図1に示した向きをいうものとする。また、X方向は左右方向、Y方向は前後方向をいうものとする。
【0011】
図1に示すように、印刷装置1は、各種の内部構造物が組み込まれ、図示しない筐体に固定された基台10を備える。
基台10上には、印刷対象面に印刷を施す印刷部40が設けられている。ここで、印刷対象面とは印刷対象の表面であり、本実施形態では指の爪の表面である。
印刷部40は、印刷ヘッドとしての機能を有するカートリッジ7、カートリッジ7を保持するカートリッジホルダ71、カートリッジホルダ71をX方向に移動可能に支持するキャリッジ8、X方向移動モータ46及びY方向移動モータ48等を備えて構成されている。
【0012】
カートリッジ7は、上述のとおり印刷ヘッドとして機能するものであり、その下面のインク吐出部から微滴化したインクを印刷対象面に吹き付けて印刷を行うインクジェットヘッドである。本実施形態では、特に限定はされないが、2つのカートリッジ7がX方向に並設されてカートリッジホルダ71に搭載されている。2つのカートリッジ7は、例えば、シアン(C;CYAN)、マゼンタ(M;MAGENTA)、イエロー(Y;YELLOW)等の各色のインク(以下「色インク」という。)を吐出可能なデザイン用ヘッドと、デザインを印刷する前に下地となる液剤を印刷する下地用ヘッドである。
【0013】
カートリッジホルダ71は、カートリッジ7を着脱可能に保持している。
カートリッジホルダ71は、X方向に移動可能なようにキャリッジ8の前部に支持されている。キャリッジ8には、左右方向に延在するガイド軸81と、X方向移動モータ46と、図示しない駆動ベルトとが設けられている。ガイド軸81はカートリッジホルダ71の後部に挿通されている。カートリッジホルダ71は、X方向移動モータ46が駆動して駆動ベルトが回転することによって、キャリッジ8上をガイド軸81に沿ってX方向に移動可能となっている。
【0014】
キャリッジ8は、左右方向(X方向)に延在する矩形箱状に形成され、左右両端部がそれぞれスライドレール2に支持されている。
各スライドレール2は、Y方向に延在しており、キャリッジ8をY方向(第一の移動方向)に移動可能に支持している。
スライドレール2の詳細な構成は、後述する。
【0015】
キャリッジ8の左右両端部の各々には、ベルトクリップ82を介してタイミングベルト83が連結されている。各タイミングベルト83は、Y方向に延在した状態でプーリー84(図1では右側のもののみ図示)に張架されている。左右両側のタイミングベルト83のうち、右側のタイミングベルト83は主動(駆動)側であり、Y方向移動モータ48に連結されている。一方、左側のタイミングベルト83は従動側であり、左右両側のプーリー84を連結する連結シャフト85によって、主動側と回転速度及び回転量が同期化されている。
キャリッジ8は、Y方向移動モータ48が駆動することでプーリー84が回転し、これに伴ってタイミングベルト83が回転することによって、スライドレール2に支持された状態でY方向に移動可能となっている。
【0016】
基台10のうちの前側(手前側)部分であって左右方向のほぼ中央部には、指固定部6が配置されている。指固定部6は、装置前面側に開口する開口部61を有する箱状の部材であり、開口部61から装置内に印刷対象の爪(印刷指)が挿入され、この爪に対して印刷が行われる。
指固定部6の天面奥側(後側)は、開口した窓部63となっている。窓部63からは指固定部6内に挿入された指の爪が露出するようになっている。
【0017】
基台10のうちの後部右側は、非印刷時にカートリッジ7(カートリッジホルダ71)が待機するホームポジションA1となっている。ホームポジションA1には、カートリッジ7下面のインク吐出面を覆って乾燥等から保護するキャップ部(図示省略)が設けられている。
基台10のうちの後部左側は、非印刷時にカートリッジ7のクリーニング等のメンテナンスを行うメンテナンス領域A2となっている。メンテナンス領域A2には、図示は省略するが、パージ(スピット)処理を行うパージ部、インク吐出面をワイプするワイプ部、ワイプ部のワイプ部材に付着したインクを除去するスクレープ部が設けられている。
基台10のうちの前側部分であって左右方向のほぼ中央部は、指固定部6の窓部63に対応する領域であって、印刷時においてカートリッジ7が印刷動作を行う印刷領域A3となっている。
【0018】
続いて、キャリッジ8を支持するスライドレール2の構成について説明する。
図2は、スライドレール2の斜視図であり、図3は、スライドレール2の分解斜視図である。また、図4は、Y方向に垂直な面でのスライドレール2の断面図であり、図5は、後述のインナーレール22とアウターレールベース23との保持構造を示す部分拡大図である。なお、図2は、後述の伸長状態におけるスライドレール2を示している。
図2図4に示すように、スライドレール2は、アウターレールキャリッジ21と、インナーレール22と、アウターレールベース23とを備え、これらによる3段構造の2条レールである。
【0019】
アウターレールキャリッジ21は、本発明に係るヘッド支持部材の一例である。アウターレールキャリッジ21は、Y方向に長尺に形成され、その上面にキャリッジ8が固定されている。
インナーレール22は、本発明に係る第1レール部材である。インナーレール22は、アウターレールキャリッジ21よりもY方向に長尺に形成され、アウターレールキャリッジ21をY方向に移動可能に支持している。
アウターレールベース23は、本発明に係る第2レール部材である。アウターレールベース23は、インナーレール22よりもY方向に長尺に形成され、インナーレール22をY方向に移動可能に支持している。また、アウターレールベース23は、印刷装置1の基台10に固定されている。
【0020】
アウターレールキャリッジ21とインナーレール22とは、これらの間に配置された第1軸受24によりY方向に相互に摺動可能となっている。第1軸受24は、直線運動を支持するリニア軸受であり、2条の軌条(摺動部)の各々に配置されている。
具体的に、各第1軸受24は、複数の第1転動体241と、これを保持するリテーナー242とを備えている。複数の第1転動体241は、Y方向に等間隔で配列された状態でリテーナー242に保持され、アウターレールキャリッジ21の外側転動面21aと、インナーレール22の第1内側転動面22aとの間で転動する。
アウターレールキャリッジ21は、インナーレール22の上側半部を覆う左右両側板を有し、その内側面が外側転動面21aとなっている。外側転動面21aは、Y方向に沿った一様断面の凹状の円弧面であり、アウターレールキャリッジ21のY方向の略全長に亘って形成されている。
インナーレール22は、左右両側面の上側半部が第1内側転動面22aとなっている。第1内側転動面22aは、Y方向に沿った一様断面の凹状の円弧面であり、インナーレール22のY方向の略全長に亘って形成されている。第1内側転動面22aは、アウターレールキャリッジ21の外側転動面21aと左右に対向し、その間に複数の第1転動体241が配置されている。
【0021】
インナーレール22とアウターレールベース23とは、これらの間に配置された第2軸受25によりY方向に相互に移動可能となっている。第2軸受25は、直線運動を支持するリニア軸受であり、2条の軌条(摺動部)の各々に配置されている。
具体的に、各第2軸受25は、複数の第2転動体251と、これを保持するリテーナー252とを備えている。複数の第2転動体251は、Y方向に等間隔で配列された状態でリテーナー252に保持され、アウターレールベース23の外側転動面23aと、インナーレール22の第2内側転動面22bとの間で転動する。本実施形態では、第2転動体251は、第1軸受24の第1転動体241と同数が配列され、隣り合うものとの間隔が第1転動体241よりも広い。
アウターレールベース23は、インナーレール22の下側半部を覆う左右両側板を有し、その内側面が外側転動面23aとなっている。外側転動面23aは、Y方向に沿った一様断面の凹状の円弧面であり、アウターレールベース23のY方向の略全長に亘って形成されている。
インナーレール22は、左右両側面の下側半部が第2内側転動面22bとなっている。第2内側転動面22bは、Y方向に沿った一様断面の凹状の円弧面であり、インナーレール22のY方向の略全長に亘って形成されている。第2内側転動面22bは、アウターレールベース23の外側転動面23aと左右に対向し、その間に複数の第2転動体251が配置されている。
【0022】
ここで、図4に示すように、第1軸受24の軸受隙間は、第2軸受25の軸受隙間よりも小さい。すなわち、第1軸受24における第1転動体241と第1内側転動面22a及び外側転動面21aとの隙間が、第2軸受25における第2転動体251と第2内側転動面22b及び外側転動面23aとの隙間よりも小さい。本実施形態では、第1軸受24の第1内側転動面22a及び外側転動面21aと、第2軸受25の第2内側転動面22b及び外側転動面23aとが同じ形状及び大きさに形成され、第1軸受24の第1転動体241が第2軸受25の第2転動体251よりも大きく形成されている。
これにより、アウターレールキャリッジ21とインナーレール22との間の摺動抵抗が、インナーレール22とアウターレールベース23との間の摺動抵抗よりも大きくなっている。
なお、スライドレール2の摺動部の構成は、上記のものに限定されず、アウターレールキャリッジ21とインナーレール22との間の摺動抵抗が、インナーレール22とアウターレールベース23との間の摺動抵抗よりも大きくなるように構成されていればよく、例えば、摩擦抵抗係数の異なる材料を用いて摺動部を構成することで摺動抵抗を異ならせるようにしても良い。また、第1軸受24や第2軸受25は、玉軸受以外の軸受であってもよい。
【0023】
また、図3及び図5に示すように、インナーレール22とアウターレールベース23とは、インナーレール22がアウターレールベース23上をその前端まで移動した状態において相互に保持する保持構造を有している。
具体的に、インナーレール22は、Y方向両端部の左右両側面に、保持台部221を有している。各保持台部221は、上下方向の略中間の高さにおいて側方に突設されている。アウターレールベース23は、前端部と後部との左右両側部に、弾性突起231を有している。弾性突起231のY方向の位置は、インナーレール22がアウターレールベース23の前端に位置した状態における、インナーレール22の保持台部221の位置に対応している。各弾性突起231は、左右方向の外側に弾性変形可能となっており、自身の弾性力によって左右方向の内側(インナーレール22の内側)に付勢されている。
これにより、インナーレール22がアウターレールベース23上をその前端まで移動したときに、アウターレールベース23の各弾性突起231がインナーレール22の保持台部221によって側方に押圧され、弾性変形しつつ当該保持台部221上に乗り上げる。そのため、インナーレール22は、アウターレールベース23の弾性突起231によって前後両端部が左右に挟持されるようにして強固に保持される。
なお、この保持構造は、本実施形態のものに限定されない。
【0024】
以上の構成を具備するスライドレール2は、アウターレールキャリッジ21、インナーレール22、アウターレールベース23が、Y方向に伸び切った伸長状態(図2の状態)と、伸長状態からインナーレール22がアウターレールベース23上の移動範囲を前端まで移動した第1短縮状態(図6(a)の状態)と、第1短縮状態からアウターレールキャリッジ21がインナーレール22上の移動範囲を前端まで移動した第2短縮状態(図6(b)の状態)とを取りえるように構成されている。
伸長状態から第1短縮状態までのインナーレール22の移動は、印刷範囲(印刷領域A3)外でのキャリッジ8(カートリッジ7)の移動に対応している。また、第1短縮状態から第2短縮状態までのアウターレールキャリッジ21の移動は、キャリッジ8(カートリッジ7)の印刷領域A3内の移動に対応している。本実施形態では、第1短縮状態におけるカートリッジ7のY方向位置が、印刷開始位置のY方向位置に対応している。印刷開始位置とは、本実施形態では印刷領域A3のうちの右後端位置である。なお、第1短縮状態から第2短縮状態までのアウターレールキャリッジ21の移動は、その移動に伴うカートリッジ7の印刷可能範囲が印刷領域A3を含んでいればよい。
【0025】
続いて、印刷装置1の制御構成について説明する。
図7は、印刷装置1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、本実施形態の印刷装置1は、上述の印刷部40と、印刷対象の画像を取得する撮影部50と、操作部12と、表示部13と、通信部14と、制御装置30等とを備える。
【0026】
撮影部50は、撮影装置51と、照明装置52とを備えている。
撮影装置51は、例えば200万画素程度以上の画素を有する固体撮影素子とレンズ等を備えて構成された小型カメラである。また、照明装置52は、例えば白色LED等の照明灯である。
撮影部50は、指固定部6に載置された印刷指の爪を照明装置52によって照明する。そして、撮影装置51によってその印刷指を撮影して、印刷指の爪の画像である爪画像(爪画像を含む指の画像)を得る。
【0027】
操作部12は、ユーザの操作に応じて各種の入力・設定等を行えるようになっており、当該操作部12が受けた操作に対応した入力信号を制御装置30に送信する。
表示部13は、例えばLCD、有機ELDその他のフラットディスプレイ等で構成され。制御装置30からの表示指令に応じて各種情報を表示させる。
通信部14は、ネットワーク回線等を通じた有線又は無線でのデータ通信を行うものである。
【0028】
制御装置30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサにより構成される制御部31(図2参照)と、ROM(Read Only Memory)321及びRAM(Random Access Memory)322等(いずれも図示せず)で構成される記憶部32とを備えるコンピュータである。
【0029】
記憶部32には、印刷装置1を動作させるための各種プログラムや各種データ等が格納されている。
具体的に、記憶部32のROM321には、印刷処理を行うための印刷プログラム等の各種プログラムが格納され、これらのプログラムが制御装置30によって実行されることで印刷装置1の各部が統括制御される。
【0030】
制御部31は、機能的に見た場合、撮影制御部311、印刷制御部312、通信制御部313等を備えている。これら各機能部の機能は、制御部31のCPUと記憶部32のROM321に記憶されたプログラムとの協働によって実現される。
【0031】
撮影制御部311は、撮影部50の撮影装置51及び照明装置52を制御し、指固定部6に保持された印刷指の画像を撮影させる。撮影部50により取得された画像データは記憶部32に記憶される。
通信制御部313は、通信部14の動作を制御し、各種データ通信を行う。
【0032】
印刷制御部312は、画像データに基づいて印刷用データを生成する。また、印刷制御部312は、印刷用データに基づいて印刷部40に制御信号を出力し、印刷用データに対応した印刷を施すように印刷部40のX方向移動モータ46、Y方向移動モータ48、カートリッジ7等を制御する。
【0033】
続いて、印刷処理を実行する際の印刷装置1の動作について説明する。
図8及び図9は、印刷装置1の内部構成を示す要部斜視図であって、図8はカートリッジ7が印刷開始位置(印刷領域A3の右後端位置)にあるもの、図9はカートリッジ7が印刷領域A3の左前端位置にあるものである。
図1に示すように、印刷処理が実行される前では、カートリッジ7はホームポジションA1に待機している。このとき、スライドレール2は伸長状態(図2の状態)となっている。
【0034】
印刷処理が実行され、撮影部50により指固定部6の印刷指が撮影されると、印刷制御部312が画像データに基づいて印刷用データを生成する。それから、印刷制御部312は、印刷部40のX方向移動モータ46とY方向移動モータ48を制御し、図8に示すように、カートリッジ7をホームポジションA1から印刷領域A3の印刷開始位置まで移動させる。
【0035】
このとき、キャリッジ8を支持するスライドレール2は、伸長状態から第1短縮状態(図6(a)の状態)となるまで、インナーレール22がアウターレールベース23上を移動する。つまり、アウターレールキャリッジ21とインナーレール22との間よりも小さい摺動抵抗で、アウターレールベース23に対してインナーレール22が移動する。
これにより、印刷領域A3外では、相対的に小さい摺動抵抗でキャリッジ8(カートリッジ7)を移動させてY方向移動モータ48の負荷を低減できるため、キャリッジ8の移動速度を上げて印刷処理の時間短縮等を図ることができる。
【0036】
そして、スライドレール2が第1短縮状態になると、アウターレールベース23の各弾性突起231がインナーレール22の保持台部221によって側方に押圧され、弾性変形しつつ当該保持台部221上に乗り上げる。これにより、インナーレール22は、アウターレールベース23の弾性突起231によって前後両端部が左右に挟持されるようにして強固に保持される。
【0037】
次に、印刷制御部312は、印刷部40のカートリッジ7、X方向移動モータ46及びY方向移動モータ48を制御し、印刷領域A3においてカートリッジ7を移動させつつインクを吐出させ、指固定部6の印刷指の爪を印刷する。このとき、カートリッジ7は、図8に示す印刷開始位置から、図9に示す印刷領域A3の左前端位置までの範囲内を移動する。
【0038】
この印刷時には、スライドレール2は、第1短縮状態から第2短縮状態(図6(b)の状態)までの間で、アウターレールキャリッジ21がインナーレール22上を移動する。つまり、インナーレール22とアウターレールベース23との間よりも大きい摺動抵抗で、インナーレール22に対してアウターレールキャリッジ21が移動する。
これにより、印刷領域A3内では、相対的に大きい摺動抵抗でキャリッジ8(カートリッジ7)を移動させることで、マルチパス印刷時等のキャリッジ8の瞬停時の慣性力による停止位置ズレや、カートリッジ7が吐出しながら移動するときの振動を抑制できる。
またこのときには、インナーレール22がアウターレールベース23に強固に保持されているため、インナーレール22とアウターレールベース23との間のガタがアウターレールキャリッジ21の移動に悪影響を及ぼすことはない。
こうして、印刷指への印刷が実行される。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、キャリッジ8(カートリッジ7)をY方向における印刷領域A3内で移動させる場合には、インナーレール22に対してアウターレールキャリッジ21が移動し、キャリッジ8を印刷領域A3の外で移動させる場合には、アウターレールベース23に対してインナーレール22が移動する。また、アウターレールキャリッジ21とインナーレール22との間の摺動抵抗が、インナーレール22とアウターレールベース23との間の摺動抵抗よりも大きい。
これにより、印刷領域A3外では、相対的に小さい摺動抵抗でキャリッジ8を移動させてY方向移動モータ48の負荷を低減できる。また、印刷領域A3内では、相対的に大きい摺動抵抗でキャリッジ8を移動させることで、マルチパス印刷時等のキャリッジ8の瞬停時の慣性力による停止位置ズレや、カートリッジ7が吐出しながら移動するときの振動を抑制できる。
したがって、駆動源の負荷を低減しつつ印刷品位の低下を抑制することができる。
【0040】
また本実施形態では、インナーレール22に対してアウターレールキャリッジ21が移動するときにインナーレール22を保持する弾性突起231が、アウターレールベース23に設けられている。
これにより、インナーレール22とアウターレールベース23との間のガタがアウターレールキャリッジ21の移動に影響することを抑制できる。
【0041】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0042】
例えば、本実施形態では、カートリッジ7(印刷ヘッド)がインクジェット方式のものであることとしたが、印刷ヘッドの構成(印刷方式)はこれに限定されない。少なくとも一方のカートリッジ7が、例えばペンプロッタ方式等、インクジェット方式以外の構成であってもよい。
【0043】
また、本実施形態では、印刷装置1の操作部12や表示部13によってユーザが印刷装置1を操作することとしたが、例えば通信部14を通じて印刷装置1と通信可能な端末装置によって印刷装置1が操作されることとしてもよい。
【0044】
以上本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
〔付記〕
<請求項1>
印刷ヘッドを支持するヘッド支持部材と、
前記ヘッド支持部材を第一の移動方向に移動可能に支持する第1レール部材と、
前記第1レール部材を前記第一の移動方向に移動可能に支持する第2レール部材と、
を備え、
前記印刷ヘッドを前記第一の移動方向における当該印刷ヘッドの印刷領域内で移動させる場合には、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動し、前記印刷ヘッドを前記印刷領域の外で移動させる場合には、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動し、
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材との間の摺動抵抗が、前記第1レール部材と前記第2レール部材との間の摺動抵抗よりも大きい、
ことを特徴とするスライドレール。
<請求項2>
前記印刷ヘッドは、前記第一の移動方向における前記印刷領域内での移動において印刷を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のスライドレール。
<請求項3>
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材との間に配置された第1軸受と、
前記第1レール部材と前記第2レール部材との間に配置された第2軸受と、
を備え、
前記第1軸受の軸受隙間が前記第2軸受の軸受隙間よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスライドレール。
<請求項4>
前記ヘッド支持部材と前記第1レール部材は、前記第1軸受の第1転動体が転動する第1転動面を有し、
前記第1レール部材と前記第2レール部材は、前記第2軸受の第2転動体が転動する第2転動面を有し、
前記第1軸受の前記第1転動面は、前記第2軸受の前記第2転動面と同じ形状及び大きさに形成され、
前記第1軸受の前記第1転動体が前記第2軸受の前記第2転動体よりも大きい、
ことを特徴とする請求項3に記載のスライドレール。
<請求項5>
前記第2レール部材は、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動するときに前記第1レール部材を保持する保持部を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスライドレール。
<請求項6>
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスライドレールと、
前記印刷ヘッドと、を備える、
ことを特徴とする印刷装置。
<請求項7>
前記印刷ヘッドが非印刷時に待機するホームポジションと、
前記印刷ヘッドが印刷を行う前記印刷領域と、を備え、
前記スライドレールは、
前記印刷ヘッドが前記ホームポジションから前記印刷領域内の印刷開始位置に移動するときには、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動せずに、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動し、
前記印刷ヘッドが前記印刷領域内で移動するときには、前記第2レール部材に対して前記第1レール部材が移動せずに、前記第1レール部材に対して前記ヘッド支持部材が移動する、
ことを特徴とする請求項6に記載の印刷装置。
【符号の説明】
【0045】
1 印刷装置
2 スライドレール
21 アウターレールキャリッジ(ヘッド支持部材)
21a 外側転動面
22 インナーレール(第1レール部材)
22a 第1内側転動面
22b 第2内側転動面
221 保持台部
23 アウターレールベース(第2レール部材)
23a 外側転動面
231 弾性突起
24 第1軸受
241 第1転動体
242 リテーナー
25 第2軸受
251 第2転動体
252 リテーナー
30 制御装置
46 X方向移動モータ
48 Y方向移動モータ
A1 ホームポジション
A3 印刷領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9