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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20241016BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20241016BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20241016BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20241016BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241016BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20241016BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
G06F30/10
G06F30/15
G06F30/20
G06F30/23
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020153818
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047824
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】玉田 良太
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-076404(JP,A)
【文献】特開2018-086892(JP,A)
【文献】特開2016-107760(JP,A)
【文献】特開2010-237023(JP,A)
【文献】特開2006-018454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
G01M 17/02
G06F 30/00 - 30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのシミュレーション方法であって、
走行中のタイヤの温度分布を、コンピュータに入力する工程と、
前記タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルとして、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデル上で走行させるシミュレーション工程とを含み、
前記シミュレーション工程は、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触部における初期の摩擦係数を定義する第1工程と、
前記初期の摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの複数の物理量を計算する第2工程と、
前記第2工程で計算された前記複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる第3工程と、
前記変化させた摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの前記複数の物理量を計算する第4工程とを含み、
前記複数の物理量は、少なくとも前記タイヤモデルの温度を含み、
前記温度は、前記温度分布を考慮して求められる、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第3工程及び前記第4工程を、微小時間ごとに繰り返して行う、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記複数の物理量は、前記接触部での接地圧及び前記接触部での滑り速度をさらに含み、
前記第3工程は、前記接地圧、前記滑り速度及び前記温度の少なくとも2つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる、請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第3工程は、前記接地圧、前記滑り速度及び前記温度基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる、請求項3に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記複数の物理量は、前記タイヤモデルの前後力及び横力の少なくとも一つをさらに含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
タイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を具えた装置であって、
前記演算処理装置は、
走行中のタイヤの温度分布を入力する温度分布入力部と、
前記タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルとして設定するモデル設定部と、
前記タイヤモデルを前記路面モデル上で走行させるシミュレーション計算部とを含み、
前記シミュレーション計算部は、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触部における初期の摩擦係数を定義する第1計算部と、
前記初期の摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの複数の物理量を計算する第2計算部と、
前記第2計算部で計算された前記複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる第3計算部と、
前記変化させた摩擦係数を用いて走行中の前記タイヤモデルの前記複数の物理量を計算する第4計算部とを含み、
前記複数の物理量は、少なくとも前記タイヤモデルの温度を含み、
前記温度は、前記温度分布を考慮して求められる、
タイヤのシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを、所定荷重で接地及び転動させるためのシミュレーション方法が記載されている。この方法では、接地面に生じる3分力を、摩擦係数に基づいて要素毎に算出し、タイヤ軸にかかる横力又はコーナリングフォースが算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-96783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、タイヤの走行性能がよりシビアに評価されるようになってきた。このため、タイヤの走行シミュレーションにおいても、より精度の高い計算結果が求められるところ、上記の方法は、算出結果の精度について、更なる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤの走行状態を高い精度で計算することができるシミュレーション方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法であって、タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルとして、コンピュータに入力する工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデル上で走行させるシミュレーション工程とを含み、前記シミュレーション工程は、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触部における初期の摩擦係数を定義する第1工程と、前記初期の摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの複数の物理量を計算する第2工程と、前記第2工程で計算された前記複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる第3工程と、前記変化させた摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの前記複数の物理量を計算する第4工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記第3工程及び前記第4工程を、微小時間ごとに繰り返して行ってもよい。
【0008】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記複数の物理量は、前記接触部での接地圧、前記接触部での滑り速度及び前記タイヤモデルの温度の少なくとも一つを含み、前記第3工程は、前記接地圧、前記滑り速度、及び、前記温度の少なくとも一つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させてもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記第3工程は、前記接地圧、前記滑り速度及び前記温度の少なくとも2つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させてもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記複数の物理量は、前記タイヤモデルの発熱量をさらに含み、前記温度は、前記発熱量を考慮して計算されてもよい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記シミュレーション工程に先立ち、走行中の前記タイヤの温度分布を、前記コンピュータに入力する工程をさらに含み、前記温度は、前記温度分布を考慮して求められてもよい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記複数の物理量は、前記タイヤモデルの前後力及び横力の少なくとも一つをさらに含んでもよい。
【0013】
本発明は、タイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を具えた装置であって、前記演算処理装置は、タイヤ及び路面を、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルとして設定するモデル設定部と、前記タイヤモデルを前記路面モデル上で走行させるシミュレーション計算部とを含み、前記シミュレーション計算部は、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触部における初期の摩擦係数を定義する第1計算部と、前記初期の摩擦係数を用いて、走行中の前記タイヤモデルの複数の物理量を計算する第2計算部と、前記第2計算部で計算された前記複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、前記初期の摩擦係数を変化させる第3計算部と、前記変化させた摩擦係数を用いて走行中の前記タイヤモデルの前記複数の物理量を計算する第4計算部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、上記の工程を採用したことにより、タイヤの走行状態を高い精度で計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】タイヤのシミュレーション方法が実行されるコンピュータ(タイヤのシミュレーション装置)の一例を示すブロック図である。
図2】タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
図4】タイヤモデルの一例を示す断面図である。
図5】シミュレーション工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】摩擦係数テーブルの一例を示す図である。
図7】本発明の他の実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】タイヤの温度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
【0017】
[タイヤのシミュレーション方法(第1実施形態)]
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)では、タイヤの走行状態が、コンピュータを用いて計算される。図1は、タイヤのシミュレーション方法が実行されるコンピュータ(タイヤのシミュレーション装置)の一例を示すブロック図である。
【0018】
[タイヤのシミュレーション装置]
本実施形態のコンピュータ1は、タイヤのシミュレーション装置(以下、単に「シミュレーション装置」ということがある。)1Aとして構成されている。本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とを含んで構成されている。
【0019】
入力部2としては、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3としては、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0020】
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0021】
データ部5は、評価対象のタイヤ及び路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶される初期データ部5Aと、タイヤモデル及び路面モデルが入力されるモデル入力部5Bが含まれる。さらに、データ部5には、シミュレーションの境界条件等が入力される条件入力部5Cと、演算部4Aが計算した物理量等が入力される物理量入力部5Dとが含まれる。
【0022】
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。プログラム部6には、タイヤモデル及び路面モデルを設定するモデル設定部6Aと、タイヤモデルを路面モデル上で走行させるシミュレーション計算部6Bとが含まれる。さらに、本実施形態のプログラム部6には、解析対象のタイヤ(タイヤモデル)の走行性能を評価するための性能評価部6Cが含まれる。
【0023】
シミュレーション計算部6Bには、第1計算部7、第2計算部8、第3計算部9、及び、第4計算部10が含まれる。さらに、本実施形態のシミュレーション計算部6Bには、終了判断部11がさらに含まれる。第1計算部7~第4計算部10、及び、終了判断部11の機能は、シミュレーション方法の後述の各工程において説明される。
【0024】
[タイヤモデル及び路面モデル入力工程]
図2は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤ及び路面が、それぞれ、有限個の要素でモデリングしたタイヤモデル及び路面モデルとして、コンピュータ1に入力される(工程S1)。
【0025】
本実施形態の工程S1では、先ず、図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤ及び路面に関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、モデル設定部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、モデル設定部6Aが、演算部4Aによって実行される。
【0026】
図3は、タイヤモデル13及び路面モデル14の一例を示す斜視図である。図4は、タイヤモデル13の一例を示す断面図である。なお、図3では、タイヤモデル13が簡略化して示されており、トレッド部13aのトレッドパターンや、図4に示した要素F(i)などが省略されている。
【0027】
タイヤモデル13は、解析対象のタイヤ(図示省略)をモデリングしたものである。なお、解析対象のタイヤは、実在するか否かについては問われない。また、解析対象のタイヤとしては、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
【0028】
図4に示されるように、タイヤモデル13は、例えば、解析対象のタイヤ(図示省略)が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)でモデリング(離散化)されることで定義されうる。
【0029】
数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。要素F(i)には、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点15を含んで構成されている。各要素F(i)には、要素番号、節点15の番号、節点15の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等)などの数値データが定義される。
【0030】
工程S1では、例えば、解析対象のタイヤ(図示省略)のトレッドゴム等を含むゴム部分、タイヤの骨格をなすカーカスプライ、及び、カーカスプライのタイヤ半径方向外側に配されるベルトプライが、要素F(i)でそれぞれ離散化(モデリング)される。これにより、タイヤモデル13には、ゴム部材モデル(例えば、トレッドゴムモデルなど)16、カーカスプライモデル17、及び、ベルトプライモデル18が設定される。
【0031】
図3に示されるように、工程S1では、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S1では、路面をモデリングした路面モデル14が設定される。
【0032】
要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点19が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点19の座標値等の数値データが定義される。
【0033】
本実施形態では、平滑な表面を有する路面モデル14が定義されているが、このような態様に限定されない。例えば、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられた路面モデル14(図示省略)が定義されてもよい。タイヤモデル13及び路面モデル14は、モデル入力部5B(即ち、コンピュータ1)に記憶される。
【0034】
[シミュレーション工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、タイヤモデル13を路面モデル14上で走行させる(シミュレーション工程S2)。
【0035】
本実施形態のシミュレーション工程S2では、先ず、図1に示されるように、モデル入力部5Bに記憶されているタイヤモデル13及び路面モデル14(図3に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、条件入力部5Cに記憶されている境界条件(内圧条件及び荷重条件を含む)と、シミュレーション計算部6B(第1計算部7~第4計算部10及び終了判断部11を含む)とが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、シミュレーション計算部6Bが、演算部4Aによって実行される。
【0036】
ところで、走行中のタイヤでは、例えば、接地圧等の物理量の影響を受けて、路面との間の摩擦係数が時々刻々と変化している。このような摩擦係数の変化は、コンピュータ1を用いたタイヤの走行状態の計算において、考慮されるのが望ましい。本実施形態のシミュレーション工程S2では、摩擦係数の変化を考慮して、タイヤモデル13を路面モデル14上で走行させた状態が計算される。図5は、シミュレーション工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0037】
[第1工程]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤモデル13と路面モデル14との接触部21における初期の摩擦係数が定義される(第1工程S21)。第1工程S21では、図1に示したシミュレーション計算部6Bに含まれる第1計算部7が、演算部4Aによって実行される。この第1計算部7は、図3に示したタイヤモデル13と路面モデル14との接触部21における初期の摩擦係数を定義するためのものである。
【0038】
本実施形態の第1工程S21では、先ず、図4に示されるように、タイヤのリム(図示省略)をモデリングしたリムモデル22によって、タイヤモデル13のビード部13c、13cが拘束される。そして、内圧条件(境界条件に含まれる)に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル13の変形が計算される。これにより、第1工程S21では、内圧充填後のタイヤモデル13が計算される。内圧条件は、適宜設定されうる。例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧が、内圧条件として設定されるのが望ましい。
【0039】
タイヤモデル13の変形計算(後述する転動計算を含む)は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間)T(x)(x=0、1、…)毎に計算される。これにより、タイヤモデル13の変形計算が行われる。微小時間の長さは、求められるシミュレーション精度に基づいて、適宜設定(例えば、1μ秒)される。
【0040】
タイヤモデル13の変形計算(後述する転動計算を含む)には、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。なお、微小時間T(x)は、求められるシミュレーション精度に応じて、適宜設定される。
【0041】
次に、本実施形態の第1工程S21では、図3に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル13が、路面モデル14に接触される。タイヤモデル13と路面モデル14との間には、従来のシミュレーションと同様に、すり抜けを防ぐ条件(本実施形態では、初期の摩擦係数とは異なる条件)が予め定義される。
【0042】
次に、本実施形態の第1工程S21では、荷重条件Lやキャンバー角(境界条件に含まれる)に基づいて、タイヤモデル13の変形が計算される。これにより、第1工程S21では、路面モデル14に接地した荷重負荷後のタイヤモデル13が計算される。
【0043】
荷重条件Lは、適宜設定されうる。例えば、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている正規荷重が、荷重条件Lとして設定されるのが望ましい。
【0044】
そして、本実施形態の第1工程S21では、タイヤモデル13と路面モデル14との接触部21(図3に示す)に、初期の摩擦係数が定義される。本実施形態では、接触部21を構成する要素F(i)毎に、初期の摩擦係数がそれぞれ定義される。初期の摩擦係数は、適宜特定されうる。本実施形態の第1工程S21では、予め定められた摩擦係数テーブルを用いて、初期の摩擦係数が取得される。図6は、摩擦係数テーブル23の一例を示す図である。
【0045】
摩擦係数テーブル23は、摩擦係数と、摩擦係数に影響を及ぼす(依存性を有する)物理量との関係を示したものである。この物理量には、摩擦係数に影響を及ぼすものが適宜選択される。本実施形態の物理量には、接触部21(図3に示す)での接地圧、接触部21での滑り速度、及び、タイヤモデル13の温度の少なくとも一つが含まれる。
【0046】
図6では、接地圧、及び、滑り速度と、摩擦係数との関係を示した小テーブル24が、タイヤモデル13の温度毎に、複数設けられている。各小テーブル24において、縦軸の値が接地圧であり、横軸の値が滑り速度である。そして、縦軸及び横軸に対応する値が、摩擦係数である。
【0047】
タイヤモデル13の温度毎に設定された小テーブル24の集合体により、接触部21での接地圧、接触部21での滑り速度、及び、タイヤモデル13の温度と、摩擦係数との関係を示す摩擦係数テーブル23が構成される。このような摩擦係数テーブル23では、接地圧、滑り速度及び温度が特定されることによって、それらの物理量に対応する摩擦係数が一意に求められる。
【0048】
摩擦係数テーブル23は、適宜取得されうる。本実施形態では、摩擦係数テーブル23を取得するために、先ず、評価対象のタイヤのトレッドゴムと同一配合を有するゴム片(図示省略)が取得される。次に、そのゴム片に与えられる物理量(ゴム片の接地圧、ゴム片の滑り速度、及び、ゴム片の温度)の組み合わせを異ならせた複数の条件において、摩擦係数がそれぞれ測定される。これにより、摩擦係数テーブル23が取得されうる。なお、摩擦係数テーブル23は、ゴム片を用いた実測に代えて、コンピュータ1によるシミュレーションによって求められてもよい。
【0049】
本実施形態の摩擦係数テーブル23は、摩擦係数を特定するための(摩擦係数に影響を及ぼす)物理量として、接触部21での接地圧、接触部21での滑り速度、及び、タイヤモデル13の温度を全て含んでいるが、このような態様に限定されない。これらの物理量のうち、少なくとも1つの物理量が含まれるものでもよい。なお、摩擦係数を精度良く特定するためには、これらの接地圧、滑り速度及び温度のうち、少なくとも2つの物理量を含むのが望ましく、これらの全ての物理量が含まれるのがさらに望ましい。また、これらの物理量(接地圧、滑り速度及び温度)とは別に、摩擦係数に影響を及ぼす他の物理量に基づいて、摩擦係数テーブル23が取得されてもよい。
【0050】
また、摩擦係数テーブル23に代えて、摩擦係数関数が求められてもよい。この摩擦係数関数は、例えば、物理量(本例では、接地圧、滑り速度及び温度)を変数として、摩擦係数を求めるためのものであり、摩擦係数テーブル23の物理量及び摩擦係数に近似(フィッティング)させることで求められうる。このような摩擦係数関数が求められることにより、実際には測定されていない摩擦係数を補完して求めることが可能となる。
【0051】
本実施形態では、シミュレーション方法が実施される前に、摩擦係数テーブル23(又は、摩擦係数関数)が求められており、条件入力部5C(図1に示す)に予め記憶されている。そして、第1工程S21の開始時に、摩擦係数テーブル23が作業用メモリ4C(図1に示す)に読み込まれる。
【0052】
そして、本実施形態の第1工程S21では、摩擦係数テーブル23(図6に示す)に基づいて、接触部21(図3に示す)における初期の摩擦係数が定義される。本実施形態の初期の摩擦係数は、接触部21を構成する要素F(i)(図4に示す)毎に求められる。
【0053】
各要素F(i)の初期の摩擦係数は、摩擦係数テーブル23の摩擦係数のうち、各要素F(i)の物理量(本実施形態では、接地圧、滑り速度、及び、温度)に一致する摩擦係数によって特定される。摩擦係数を特定するための各要素F(i)の物理量には、例えば、タイヤモデル13の角速度V1(走行速度V3)や、外気の温度条件(いずれも境界条件に含まれる)に基づいて、任意の値がそれぞれ設定されうる。また、初期の摩擦係数として、静止状態(転動していない状態)のタイヤの摩擦係数が特定される場合には、滑り速度がゼロに設定されてもよい。特定された初期の摩擦係数は、物理量入力部5D(図1に示す)に記憶される。
【0054】
[第2工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、初期の摩擦係数を用いて、走行中のタイヤモデル13(図3に示す)の複数の物理量が計算される(第2工程S22)。第2工程S22では、図1に示したシミュレーション計算部6Bに含まれる第2計算部8が、演算部4Aによって実行される。この第2計算部8は、初期の摩擦係数を用いて、走行中のタイヤモデル13の複数の物理量を計算するためのものである。
【0055】
本実施形態の第2工程S22では、図3に示されるように、タイヤモデル13の回転軸25に、角速度V1が設定される。さらに、路面モデル14には、並進速度V2が設定される。これらの角速度V1及び並進速度V2は、予め定められた走行速度V3(境界条件に含まれる)に基づいて設定される。これにより、路面モデル14の上を走行(直進走行)しているタイヤモデル13が計算される。なお、タイヤモデル13にスリップ角や横力等(図示省略)が定義されることにより、旋回走行中のタイヤモデル13が計算されてもよい。
【0056】
本実施形態の第2工程S22では、走行中のタイヤモデル13の計算が開始されてから(静止状態のタイヤモデル13に角速度V1及び並進速度V2が設定されてから)、一つの微小時間(例えば、1μ秒)が経過した走行中のタイヤモデル13が計算される。この走行中のタイヤモデル13(即ち、一つの微小時間が経過した後のタイヤモデル13)は、初期の摩擦係数に基づいて、路面モデル14で走行している。そして、この計算された走行中のタイヤモデル13から、複数の物理量(即ち、初期の摩擦係数を用いた複数の物理量)が計算される。
【0057】
第2工程S22で計算される複数の物理量は、適宜設定されうる。本実施形態では、次の第3工程S23において初期の摩擦係数を変化させるために、摩擦係数に影響を及ぼす物理量(本実施形態では、接触部21での接地圧、接触部21での滑り速度、及び、タイヤモデル13の温度)が求められる。これらの物理量は、初期の摩擦係数を用いて走行状態が計算されたタイヤモデル13において、接触部21の要素F(i)毎に求められる。なお、接地圧、滑り速度、及び、温度は、例えば、上記の特許文献1や従来のシミュレーション方法の記載等に基づいて、適宜計算することができる。これらの物理量は、例えば、上記のアプリケーションソフトが用いられることで、適宜計算することができる。
【0058】
なお、タイヤモデル13の温度を高い精度で計算するには、タイヤモデル13(タイヤ)の発熱量が考慮されることが重要である。このため、走行中のタイヤモデル13で計算される複数の物理量には、タイヤモデル13の発熱量が含まれてもよい。これにより、シミュレーション工程S2では、タイヤモデル13の発熱量を考慮して、タイヤモデル13の温度を計算することが可能となる。
【0059】
本実施形態では、例えば、従来のシミュレーション方法と同様に、走行状態のタイヤモデル13の各要素F(i)の歪と、各要素F(i)の損失正接tanδとを用いて、各要素F(i)の発熱量が計算される。また、発熱量の計算には、接触部21の摩擦ネルギーがさらに考慮されてもよい。このような発熱量の計算は、上記のアプリケーションソフトを用いて適宜計算することができる。
【0060】
また、タイヤモデル13の温度を高い精度で計算するには、タイヤモデル13の発熱量とともに、タイヤモデル13(タイヤ)の放熱量も考慮されるのが望ましい。本実施形態では、例えば、特開2017-226392号公報と同様の手順に基づいて、タイヤモデル13の外面及びタイヤ内腔面にそれぞれ設定される熱伝達率、外気の温度、及び、各要素F(i)の熱伝導率等を用いて、各要素F(i)の放熱量が計算される。
【0061】
本実施形態では、各要素F(i)の発熱量及び放熱量の熱収支が計算されることにより、例えば、空気(流体)をモデル化した流体シミュレーションを実行しなくても、タイヤモデル13の温度(接触部21の温度を含む)を短時間で計算することができる。
【0062】
本実施形態では、解析対象のタイヤ(タイヤモデル13)の走行性能を予測する(評価する)ために、複数の物理量として、タイヤモデル13の前後力及び横力の少なくとも一つが含まれるのが望ましい。タイヤモデル13の前後力及び横力は、従来のシミュレーションと同様に、上記のアプリケーションソフトを用いて適宜に計算することができる。第2工程で計算された複数の物理量は、物理量入力部5D(図1に示す)に記憶される。
【0063】
[第3工程]
次に、本実施形態のシミュレーション工程S2では、第2工程で計算された複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、初期の摩擦係数が変化される(第3工程S23)。第3工程S23では、図1に示したシミュレーション計算部6Bに含まれる第3計算部9が、演算部4Aによって実行される。この第3計算部9は、第2計算部8で計算された複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、初期の摩擦係数を変化させるためのものである。
【0064】
本実施形態の第3工程S23では、図3に示した接触部21を構成する各要素F(i)(図4に示す)において、初期の摩擦計算がそれぞれ変化される。本実施形態では、第2工程S22で計算された物理量(接触部21での接地圧、接触部21での滑り速度、及び、タイヤモデル13の温度)と、図6に示した摩擦係数テーブル23とが用いられる。そして、摩擦係数テーブル23の摩擦係数のうち、各要素F(i)の物理量(接地圧、滑り速度、及び、温度)に一致する摩擦係数が、各要素F(i)の新たな摩擦係数として、それぞれ更新(変化)される。変化された摩擦係数は、物理量入力部5D(図1に示す)に記憶される。
【0065】
[第4工程]
次に、本実施形態のシミュレーション工程S2では、変化させた摩擦係数を用いて、走行中のタイヤモデル13の複数の物理量が計算される(第4工程S24)。第4工程S24では、図1に示したシミュレーション計算部6Bに含まれる第4計算部10が、演算部4Aによって実行される。この第4計算部10は、変化させた摩擦係数を用いて、走行中のタイヤモデル13の複数の物理量を計算するためのものである。
【0066】
第4工程S24で計算される複数の物理量は、適宜設定されうる。本実施形態の第4工程S24では、第2工程S22で計算される物理量と同一のものが計算されうる。
【0067】
第4工程S24では、変化させた摩擦係数に基づいて、前回の工程(次の工程S25が実行される前では、第2工程S22)で計算された走行中のタイヤモデル13から、一つの微小時間(例えば、1μ秒)が経過した走行中のタイヤモデル13が計算される。そして、この計算された走行中のタイヤモデル13(すなわち、一つの微小時間が経過した後のタイヤモデル13)から、複数の物理量(即ち、変更された摩擦係数を用いた複数の物理量)が計算される。
【0068】
本実施形態のシミュレーション工程S2では、初期の摩擦係数を用いて計算された複数の物理量(第2工程S22)に基づいて、初期の摩擦係数を変化させ(第3工程S23)、変化させた摩擦係数を用いて、複数の物理量が計算される(第4工程S24)。したがって、シミュレーション工程S2では、時々刻々と変化する摩擦係数の変化を考慮して、物理量を計算することができるため、タイヤモデル13の走行状態を高い精度で計算することができる。第4工程で計算された複数の物理量は、物理量入力部5D(図1に示す)に記憶される。
【0069】
[終了判断工程]
次に、本実施形態のシミュレーション工程S2では、予め定められた終了条件が、満たされたか否かが判断される(工程S25)。工程S25では、図1に示したシミュレーション計算部6Bに含まれる終了判断部11が、演算部4Aによって実行される。この終了判断部11は、終了条件を満たすか否かを判断するためのものである。
【0070】
終了条件は、適宜設定することができる。この終了条件には、例えば、タイヤモデル13の回転総数や、計算終了時間などが設定される。
【0071】
工程S25において、終了条件を満たすと判断された場合(工程S25で「Y」)、シミュレーション工程S2の一連の処理が終了し、次の工程S3(図2に示す)が実施される。一方、工程S25において、終了条件を満たさないと判断された場合(工程S25で「N」)、第3工程S23、第4工程S24及び工程S25が再度実施される。
【0072】
再度実施される第3工程S23では、第4工程S24で計算された複数の物理量の少なくとも一つに基づいて、前回の第3工程S23で変化させた摩擦係数が、さらに変化させられる。そして、次に実施される第4工程S24では、第3工程S23でさらに変化させた摩擦係数を用いて、走行中のタイヤモデル13の複数の物理量が計算される。
【0073】
このように、本実施形態のシミュレーション工程S2では、第3工程S23及び第4工程S24が、微小時間(例えば、1μ秒)ごとに繰り返して行われる。このため、シミュレーション工程S2では、摩擦係数を微小時間ごとに変化させながら、走行中のタイヤモデル13の複数の物理量を計算することができる。これにより、本実施形態のシミュレーション工程S2では、実際のタイヤの摩擦係数と同様に、接地圧等の物理量の影響を受けて、時々刻々と変化する摩擦係数を考慮することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A)では、摩擦係数とともに時々刻々と変化する前後力や横力の過渡応答を計算でき、より精度の高い計算結果が得られる。
【0074】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図2に示されるように、解析対象のタイヤ(図3に示したタイヤモデル13)の走行性能が、良好か否かが判断される(工程S3)。工程S3では、先ず、図1に示されるように、物理量入力部5Dに記憶されているタイヤモデル13の物理量(本実施形態では、タイヤモデルの前後力及び横力の少なくとも一つ)が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、性能評価部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、性能評価部6Cが、演算部4Aによって実行される。
【0075】
工程S3において、解析対象のタイヤ(タイヤモデル13)の走行性能が、良好か否かの判断については、適宜判断されうる。例えば、タイヤモデル13の物理量(本実施形態では、タイヤモデルの前後力及び横力)と、その物理量に対して予め定められている閾値との比較によって、走行性能の良否が判断されうる。閾値は、解析対象のタイヤに求められる走行性能等に基づいて、適宜設定されうる。
【0076】
工程S3において、解析対象のタイヤ(タイヤモデル13)の走行性能が良好であると判断された場合(工程S3で「Y」)、タイヤモデル13の作成に用いたタイヤの設計因子(タイヤに関する情報)に基づいて、タイヤが設計及び製造される(工程S4)。一方、工程S3において、解析対象のタイヤ(タイヤモデル13)の走行性能が良好でないと判断された場合(工程S3で「N」)、タイヤの設計因子の少なくとも1つが変更され(工程S5)、工程S1~工程S3が再度実施される。
【0077】
このように、本実施形態のシミュレーション方法は、走行性能が良好と判断されるまで、タイヤの設計因子が変更されるため、走行性能が良好なタイヤを、確実に設計及び製造することができる。
【0078】
[タイヤのシミュレーション方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル13の発熱量に基づいて、タイヤモデルの温度が計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、走行中のタイヤの温度分布を考慮して、タイヤモデル13の温度が計算されてもよい。
【0079】
図7は、本発明の他の実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8は、タイヤの温度分布の一例を示す図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号が付され、説明が省略されることがある。
【0080】
この実施形態のシミュレーション方法では、シミュレーション工程S2に先立ち、走行中のタイヤの温度分布が、コンピュータに入力される(工程S6)。この実施形態の工程S6は、タイヤモデル13及び路面モデル14を入力する工程S1に先立って実行されているが、工程S1の後に実行されてもよい。
【0081】
走行中のタイヤの温度分布は、適宜取得することができる。本実施形態では、タイヤを路面に走行させたときのタイヤの温度(接触部の温度を含む)が、温度センサー等に基づいて測定されることで取得されうる。
【0082】
温度分布を求めるためのタイヤの走行条件は、シミュレーション工程S2でのタイヤモデル13の走行条件(例えば、内圧条件、荷重条件L及び走行速度V3(図3に示す)等)と同一に設定されるのが望ましい。これにより、タイヤモデル13の温度を精度良く予測することができる。
【0083】
また、この実施形態では、タイヤの温度が変化しなくなる状態(平衡状態)まで走行させたときの温度分布が求められてもよいし、時々刻々と変化する温度分布が、複数取得されてもよい。温度分布は、図1に示したデータ部5の温度分布入力部(図示省略)に入力される。
【0084】
この実施形態のシミュレーション工程S2において、図5に示した第2工程S22及び第4工程S24では、タイヤの温度分布(図8に示す)を考慮して、タイヤモデル13の各要素F(i)の温度が計算される。本実施形態では、各要素F(i)の位置(座標値)と、温度分布でのタイヤの位置(座標値)とを対応させることにより、各要素F(i)の温度が求められる。そして、第3工程S23では、求められた各要素F(i)の温度を含む物理量と、摩擦係数テーブル(図6に示す)とに基づいて、各要素F(i)の新たな摩擦係数が求められる。
【0085】
この実施形態のシミュレーション方法では、走行中のタイヤの温度分布(図8に示す)が用いられることにより、タイヤモデル13の発熱量等が計算されなくても、タイヤモデル13の各要素F(i)の温度を求めることができる。したがって、この実施形態のシミュレーション方法では、タイヤの走行状態の計算精度を維持しつつ、計算時間を短縮することが可能となる。
【0086】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0087】
図2に示した処理手順に基づいて、走行中のタイヤモデルの物理量が計算された(実施例1~2)。実施例1~2では、図5に示した処理手順に基づいて、摩擦係数を変化させながら、走行中のタイヤモデルの物理量(前後力)が計算された。
【0088】
実施例1及び実施例2では、接触部での接地圧、接触部での滑り速度及びタイヤモデルの温度に基づいて、摩擦係数が変化された。実施例1のタイヤモデルの温度には、タイヤモデルの発熱量を考慮せずに、予め定められた温度が設定された。一方、実施例2のタイヤモデルの温度は、タイヤモデルの発熱量を考慮して計算された。
【0089】
比較のために、予め定められた摩擦係数に基づいて、摩擦係数を変化させることなく、走行中のタイヤモデルの物理量(前後力)が計算された(比較例)。比較例の走行条件は、実施例1及び実施例2と同一である。
【0090】
実施例1~2及び比較例と同一の走行条件で、実際のタイヤを路面に走行させたときの物理量(前後力)が測定された(実験例)。そして、実験例の物理量と、実施例1~2及び比較例の物理量とが比較された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/65R15 91H
リムサイズ:15×6J
内圧条件:230kPa
荷重条件:4.24kN
物理量;前後軸力
テスト結果が、表1に示される。
【0091】
【表1】
【0092】
表1では、実施例1~2及び比較例の物理量(前後力)が、実験例の物理量(前後力)を100とする指数で示されている。指数が100に近いほど、タイヤの走行状態が高い精度で計算されていることを示している。
【0093】
テストの結果、摩擦係数を変化させる実施例1~2は、摩擦係数を変化させない比較例に比べて、実験例の物理量に近似させることができ、タイヤの走行状態を高い精度で計算できた。また、タイヤモデルの発熱量が考慮された実施例2は、タイヤモデルの発熱量が考慮されない実施例1に比べて、実験例の物理量に近似させることができ、タイヤの走行状態をさらに高い精度で計算できた。
【符号の説明】
【0094】
S21 第1工程
S22 第2工程
S23 第3工程
S24 第4工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8