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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】光送信機および光送信機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/516 20130101AFI20241016BHJP
   H04B 10/079 20130101ALI20241016BHJP
【FI】
H04B10/516
H04B10/079 190
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020168148
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060607
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/高スループット・高稼動な通信を提供する順応型光ネットワーク技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 節生
(72)【発明者】
【氏名】小田 祥一朗
(72)【発明者】
【氏名】田島 一幸
(72)【発明者】
【氏名】星田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】谷村 崇仁
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-075878(JP,A)
【文献】特表2019-506037(JP,A)
【文献】特開2016-072942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/516
H04B 10/079
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データを表す光信号を生成する変調部と、
受光器を用いて前記光信号の強度を検出し、検出した強度を表す第1の強度データを出力する二乗検波部と、
前記送信データに基づいて、前記変調部の状態に係わるパラメータを利用して前記変調部により生成される光信号の電界を計算する電界計算部と、
前記電界計算部により計算された電界に基づいて前記光信号の強度を表す第2の強度データを計算する強度計算部と、
前記第1の強度データと前記第2の強度データとの差分が小さくなるように前記パラメータを更新する更新部と、
前記パラメータに基づいて前記変調部の状態を制御する設定部と、
を備える光送信機。
【請求項2】
前記設定部は、前記差分が所定の閾値より小さいときに、前記パラメータに基づいて前記変調部の状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記変調部は、第1のマッハツェンダ変調器、第2のマッハツェンダ変調器、および前記第1のマッハツェンダ変調器と前記第2のマッハツェンダ変調器との間の位相差を調整する位相付加部を含むIQ変調器を備え、
前記パラメータは、前記第1のマッハツェンダ変調器のバイアス電圧のずれを表す第1のパラメータを含み、
前記設定部は、前記差分が前記閾値より小さくなったときの前記第1のパラメータの値に基づいて前記第1のマッハツェンダ変調器のバイアス電圧を制御する
ことを特徴とする請求項に記載の光送信機。
【請求項4】
前記パラメータは、前記第1のマッハツェンダ変調器と前記第2のマッハツェンダ変調器との間の位相差のずれを表す第2のパラメータを含み、
前記設定部は、前記差分が前記閾値より小さくなったときの前記第2のパラメータの値に基づいて前記位相付加部に印加されるバイアス電圧を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の光送信機。
【請求項5】
前記強度計算部により計算される第2の強度データを平均化する低域通過フィルタをさらに備え、
前記更新部は、前記第1の強度データと前記低域通過フィルタにより平均化された第2の強度データとの差分に基づいて前記第1のパラメータを更新する
ことを特徴とする請求項に記載の光送信機。
【請求項6】
前記変調部は、前記送信データから第1の光信号および第2の光信号を生成し、
前記変調部の出力側には、前記第1の光信号および前記第2の光信号を合波して偏波多重光信号を生成する合波器が設けられ、
前記電界計算部は、前記送信データに基づいて前記第1の光信号の電界および前記第2の光信号の電界を計算し、
前記電界計算部と前記強度計算部との間に、前記第1の光信号の電界および前記第2の光信号の電界に対して回転演算を行う偏波回転部を備え、
前記更新部は、前記第1の強度データと前記第2の強度データとの差分に基づいて前記偏波回転部による回転量を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項7】
前記強度計算部により計算される第2の強度データを平均化する低域通過フィルタをさらに備え、
前記二乗検波部が第1のサンプリングレートで前記第1の強度データを生成するときには、前記強度計算部により計算される第2の強度データは、前記低域通過フィルタにより平均化されず、
前記二乗検波部が前記第1のサンプリングレートより遅い第2のサンプリングレートで前記第1の強度データを生成するときには、前記強度計算部により計算される第2の強度データは、前記低域通過フィルタにより平均化される
ことを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項8】
送信データを表す光信号を生成する変調部を含む光送信機を制御する方法であって、
受光器を用いて前記光信号の強度を表す第1の強度データを生成し、
前記送信データに基づいて、前記変調部の状態に係わるパラメータを利用して前記変調部により生成される光信号の電界を計算し、
前記電界に基づいて前記光信号の強度を表す第2の強度データを計算し、
前記第1の強度データと前記第2の強度データとの差分が小さくなるように前記パラメータを更新し、
前記パラメータに基づいて前記変調部の状態を制御する
ことを特徴とする光送信機の制御方法。
【請求項9】
光送信機および光受信機を備える光トランシーバであって、
前記光送信機は、
送信データを表す光信号を生成する変調部と、
受光器を用いて前記光信号の強度を検出し、検出した強度を表す第1の強度データを出力する二乗検波部と、
前記送信データに基づいて、前記変調部の状態に係わるパラメータを利用して前記変調部により生成される光信号の電界を計算する電界計算部と、
前記電界計算部により計算された電界に基づいて前記光信号の強度を表す第2の強度データを計算する強度計算部と、
前記第1の強度データと前記第2の強度データとの差分が小さくなるように前記パラメータを更新する更新部と、
前記パラメータに基づいて前記変調部の状態を制御する設定部と、を備える
ことを特徴とする光トランシーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機および光送信機を制御する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
大容量の通信システムを実現するために、品質の高い光信号を生成する光送信機が求められている。光送信機は、送信データから光信号を生成する光変調器を備える。そして、光送信機は、光変調器により生成される光信号を送信する。
【0003】
光送信機の状態は、様々な要因により変化し得る。例えば、周囲の温度に依存して光変調器の状態または特性が変化することがある。そして、光送信機の状態が変化すると、光信号の品質が劣化することがある。このため、光送信機の状態をモニタし、モニタ結果に応じて光送信機の状態を制御する方法が提案されている。例えば、コヒーレント受信器を用いて光信号の状態をモニタし、そのモニタ結果に応じて信号を補正する方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。また、関連技術として、分散予等化を行う分散予等化光送信器が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-124893号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ginni Khanna et al. A Robust Adaptive Pre-Distortion Method for Optical Communication Transmitters, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.28, NO.7, APRIL 1, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、光送信機の状態をモニタして制御する回路の消費電力が大きい。例えば、光送信機にコヒーレント受信器を実装する場合、そのコヒーレント受信器の消費電力が大きくなる。加えて、光送信機のコストも高くなる。
【0007】
本発明の1つの側面に係わる目的は、光送信機の状態をモニタして制御する機能の消費電力を削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様に係わる光送信機は、送信データを表す光信号を生成する変調部と、受光器を用いて前記光信号の強度を検出し、検出した強度を表す第1の強度データを出力する二乗検波部と、前記送信データに基づいて、前記変調部の状態に係わるパラメータを利用して前記変調部により生成される光信号の電界を計算する電界計算部と、前記電界計算部により計算された電界に基づいて前記光信号の強度を表す第2の強度データを計算する強度計算部と、前記第1の強度データと前記第2の強度データとの差分が小さくなるように前記パラメータを更新する更新部と、前記パラメータに基づいて前記変調部の状態を制御する設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様によれば、光送信機の状態をモニタして制御する機能の消費電力が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】光送信機に実装される変調部の一例を示す図である。
図2】変調器のバイアス電圧のずれに起因する影響の一例を示す図である。
図3】IQ間の位相差を制御するバイアス電圧のずれに起因する影響の一例を示す図である。
図4】IQ間のゲイン偏差に起因する影響の一例を示す図である。
図5】周波数特性に起因する影響の一例を示す図である。
図6】IQ間スキューに起因する影響の一例を示す図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係わる光送信機の一例を示す図である。
図8】コントローラの動作の一例を示す図である。
図9】コントローラの動作の一例を示すフローチャートである。
図10】光送信機の構成例を示す図である。
図11】第1の実施形態の光送信機のバリエーションを示す図である。
図12】第1の実施形態の光送信機の他のバリエーションを示す図である。
図13】第1の実施形態の光送信機のさらに他のバリエーションを示す図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係わる光送信機の一例を示す図である。
図15】本発明の第3の実施形態に係わる光送信機の一例を示す図である。
図16】本発明の第4の実施形態に係わる光送信機の一例を示す図である。
図17】本発明の実施形態に係わる光送信機を含む光トランシーバの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、光送信機に実装される変調部の一例を示す。この例では、変調部1は、デジタル信号処理器(DSP)2、デジタル/アナログ変換器(DAC)11a、11b、ドライバ12a、12b、IQ変調器13を備える。なお、変調部1は、図1に示していない他の回路または機能を備えてもよい。また、レーザ光源(LD)900は、変調部1の外部に設けられる。
【0012】
データ信号xは、不図示の信号生成器により送信データから生成される。データ信号xは、指定された変調方式に基づいてシンボル毎に生成される。各シンボルは、指定された変調方式に対応するビット数の送信データを表す。例えば、QPSKにおいては各シンボルに2ビットが割り当てられ、16QAMにおいては各シンボルに4ビットが割り当てられる。なお、データ信号xは、複素数で表される。
【0013】
DSP2は、IQ分離部3、遅延調整部4a、4b、および波形整形部5a、5bを備える。ただし、DSP2は、図1に示していない他の機能を備えてもよい。IQ分離部3は、複素数で表されるデータ信号xを、シンボル毎に実数部分と虚数部分とに分離する。以下の記載では、実数部分を「データ信号Re」または「データ信号Re(x)」と呼ぶことがある。虚数部分を「データ信号Im」または「データ信号Im(x)」と呼ぶことがある。
【0014】
遅延調整部4aは、データ信号Reを遅延させる。波形整形部5aは、遅延調整部4aの出力信号の波形を整形する。また、遅延調整部4bは、データ信号Imを遅延させる。波形整形部5bは、遅延調整部4bの出力信号の波形を整形する。遅延調整部4a、4bの遅延量は、不図示のコントローラから指示される。また、波形整形部5a、5bの処理も、不図示のコントローラにより制御される。
【0015】
DAC11aは、DSP2により生成されるデータ信号Reをアナログ信号に変換する。ドライバ12aは、DAC11aから出力されるデータ信号Reを増幅する。同様に、DAC11bは、DSP2により生成されるデータ信号Imをアナログ信号に変換する。ドライバ12bは、DAC11bから出力されるデータ信号Imを増幅する。
【0016】
IQ変調器13は、マッハツェンダ変調器であり、Iアーム導波路およびQアーム導波路を供える。Iアーム導波路上には、I成分変調器14が設けられる。Qアーム導波路上には、Q成分変調器15、固定移相器16、位相付加部17が設けられる。そして、レーザ光源900により生成される連続光がIQ変調器13に入力される。連続光は、Iアーム導波路およびQアーム導波路に導かれる。
【0017】
I成分変調器14は、マッハツェンダ変調器であり、データ信号Reで連続光を変調して光信号Iを生成する。Q成分変調器15は、マッハツェンダ変調器であり、データ信号Imで連続光を変調して光信号Qを生成する。固定移相器16は、Iアーム導波路とQアーム導波路との間に所定の位相差(たとえば、π/2)を与える。ただし、固定移相器16により生成される位相差は、目標値に対して誤差を有することがある。位相付加部17は、Qアーム導波路を通過する光の位相をシフトさせる。位相付加部17の移相量は、バイアス電圧VP(「V90_bias」と表記することがある)により制御される。そして、光信号Iおよび光信号Qを合波することで、送信データを表す変調光信号が生成される。尚、I成分変調器14の動作点は、バイアス電圧VI(「VI_bias」と表記することがある)により制御され、Q成分変調器15の動作点は、バイアス電圧VQ(「VQ_bias」と表記することがある)により制御される。
【0018】
上記構成の変調部1を含む光送信機の状態が正しく制御されているときは、変調部1により生成される光信号の品質は良好である。換言すると、光送信機の状態が正しく制御されていないときには、生成される光信号の品質が劣化することがある。例えば、変調部1のバイアス電圧が最適値からずれると、生成される光信号の品質が劣化する。
【0019】
図2は、変調器のバイアス電圧のずれに起因する影響の一例を示す。ここでは、図1に示すI成分変調器14にバイアス電圧VIが印加されているときの入力電気信号と出力光信号を示す。
【0020】
I成分変調器14は、強度変調器として動作する。したがって、ドライバ12aの出力電圧に対応する強度の光信号が生成される。ここで、I成分変調器14の動作点は、バイアス電圧VIによって調整される。そして、バイアス電圧VIが目標値VI0に調整されると、データ信号が「0」のときに、I成分変調器14の出力光の強度は実質的にゼロになる。ところが、バイアス電圧VIが目標値VI0からずれると、図2に示すように、データ信号が「0」のときにI成分変調器14の出力光の強度はゼロにならない。すなわち、出力光信号の消光比が悪くなる。なお、この問題は、I成分変調器14およびQ成分変調器15において同様に発生し得る。
【0021】
図3は、IQ間の位相差を制御するバイアス電圧のずれに起因する影響の一例を示す。なお、図3では、変調部1は、16QAM光信号を生成する。すなわち、各シンボルに4ビットが割り当てられる。このとき、各シンボルは、割り当てられた4ビットの値に応じて、図3に示す16個の信号点のうちの1つにマッピングされる。なお、各信号点は、光信号の振幅および位相を表す。
【0022】
バイアス電圧VPが適切に制御されているときには、IQ間の位相差は90度であり、図3(a)に示すように、信号点は、I軸およびQ軸に対してそれぞれ対称に分布する。ところが、バイアス電圧VPが適切に制御されていないときには、図3(b)に示すように、位相平面上での信号点の位置がシフトする。ここで、θは、固定移相器16における「90度」に対する誤差である。φは、位相付加部17により付加される位相を表す。そして、理想的には、「θ+φ」がゼロであることが好ましい。なお、図3(b)に示すように、送信シンボルがマッピングされる信号点の振幅及び/又は位相が目標値からずれると、受信ノードにおいて誤りが発生する確率が高くなる。
【0023】
図4は、IQ間のゲイン偏差に起因する影響の一例を示す。ゲイン偏差は、I成分変調器14に与えられる駆動信号(即ち、データ信号Re)の振幅とQ成分変調器15に与えられる駆動信号(即ち、データ信号Im)の振幅との比に相当する。図4に示す例では、データ信号Imの振幅よりデータ信号Reの振幅の方が大きい。この場合、16個の信号点の分布が、正方形ではなく、長方形になる。なお、図4に示すように、送信シンボルがマッピングされる信号点の振幅及び/又は位相が目標値からずれると、受信ノードにおいて誤りが発生する確率が高くなる。
【0024】
図5は、周波数特性に起因する影響の一例を示す。ここでは、グラフ3に示すように、所定の周波数領域において信号の強度がフラットである特性が要求されるものとする。この場合、伝達関数(DACのアナログ出力回路、ドライバ、および変調器)の周波数特性が要求を満たさないときは、波形整形部5a、5bにおいてシンボル波形が補正される。例えば、グラフ1に示すように、高周波数領域で信号の強度が低下するものとする。この場合、波形整形部5a、5bは、周波数特性を補償する関数(グラフ2)を提供する。そして、この関数でデータ信号を処理することにより、要求された周波数特性が得られる。
【0025】
図6は、IQ間スキューに起因する影響の一例を示す。IQ間スキューは、I成分変調器14にデータ信号Reが与えられるタイミングとQ成分変調器15にデータ信号Imが与えられるタイミングとの差分を表す。図6に示す例では、データ信号Reに対してデータ信号Imが遅れている。この場合、I成分変調器14により生成される光信号Iに対してQ成分変調器15により生成される光信号Qが遅延する。そして、IQ間スキューが大きくなると、図6に示すように、実質的なシンボル時間が短くなる。
【0026】
このように、光送信機(特に、変調部1)の状態が適切に制御されていないときは、光信号の品質が劣化することがある。したがって、光送信機は、自分の状態(特に、変調部1の状態)をモニタして制御する機能を備えることが好ましい。
【0027】
一例として、光送信機がコヒーレント受信器を備える構成が考えられる。この場合、このコヒーレント受信器は、光送信機から出力される光信号を受信することにより、その光信号の電界情報を検出する。そして、コントローラは、検出された電界情報に基づいて光送信機の状態を制御する。しかし、コヒーレント受信器の消費電力は大きく、また、コヒーレント受信のために使用されるレーザ光源は高価である。ここで、光送信機および光受信機を含む光トランシーバモジュールにおいては、光受信機内のコヒーレント受信器を利用して光送信機の状態を制御することも可能である。ただし、この場合、インサービス中に光送信機の状態を制御することはできない。なお、コヒーレント受信器を用いて光送信機の出力光信号をモニタする構成は、例えば、上述した文献Ginni Khanna et al.に記載されている。
【0028】
他の例として、光信号にテスト信号(または、ディザリング信号)を重畳する方式が考えられる。この場合、出力光信号からテスト信号を検出し、検出したテスト信号に基づいて光変調器の状態がモニタされる。この方式においては、コヒーレント受信器等の消費電力の大きい回路は不要である。しかし、この方式では、光信号にテスト信号が重畳されるので、光信号の品質が悪くなるおそれがある。この問題は、データ信号とは異なるタイムスロットにテスト信号を挿入すれば解決され得る。しかし、この場合、データの送信効率が低下する。なお、テスト信号またはディザリング信号を使用する方式は、例えば、下記の文献に記載されている。
C.R.S. Fludger et al. Low Cost Transmitter Self-Calibration of Time Delay and Frequency Response for High Baud-Rate QAM Transceivers, OFC2017, Th1D.3.
Y. Fan et al. Overall Frequency Response Measurement of DSP-based Optical Transmitter using Built-in Monitor Photodiode, ECOC2016.
【0029】
本発明の実施形態においては、これらの問題が解決または緩和される。すなわち、本発明の実施形態によれば、光送信機の状態を制御する機能の消費電力が削減される。また、本発明の実施形態によれば、インサービス中に、光送信機の状態をモニタして制御することができる。
【0030】
<第1の実施形態>
図7は、本発明の第1の実施形態に係わる光送信機の一例を示す。第1の実施形態に係わる光送信機100は、変調部1、光分岐器21、二乗検波部22、およびコントローラ30を備える。なお、光送信機100は、図7に示していない他の回路または機能を備えてもよい。また、図7に示す変調部1は、図1に示す変調部1に相当する。したがって、変調部1は、送信データを表す光信号を生成する。
【0031】
光分岐器21は、変調部1の出力光信号を分岐して二乗検波部22に導く。なお、光分岐器21は、例えば、光カプラにより実現される。
【0032】
二乗検波部22は、光分岐器21から導かれてくる光信号を検出する。ここで、二乗検波部22は、例えば、受光器およびアナログ/デジタル変換器(ADC)を含む。この場合、受光器は、光信号の強度を表す電気信号を生成する。ADCは、受光器の出力信号をデジタル信号に変換する。よって、二乗検波部22は、変調部1により生成される光信号の強度を表す強度データを出力する。なお、二乗検波部22は、特に限定されるものではないが、この実施例では、送信シンボルごとに、光信号の強度を表す強度データを出力する。
【0033】
コントローラ30は、モデル部40、比較部43、判定部44、更新部45、読み出し部46、記憶部47、パラメータ制御部48、設定部49を備える。なお、コントローラ30は、図7に示していない他の機能を備えてもよい。また、コントローラ30は、例えば、プロセッサおよびメモリを含むプロセッサシステムにより実現される。この場合、プロセッサは、メモリに格納されているプログラムを実行することでコントローラ30の機能を提供する。ただし、コントローラ30の機能の一部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0034】
モデル部40は、仮想変調部41および仮想二乗検波部42を含む。そして、モデル部40は、数式モデルを用いて、変調部1の出力信号および二乗検波部22の出力信号を計算する。すなわち、モデル部40において、変調部1および二乗検波部22が仮想的に実現される。
【0035】
仮想変調部(電界計算部)41は、送信データに基づいて、変調部1により生成される光信号の電界を計算する。計算された電界を表す信号を「電界情報信号」と呼ぶことがある。仮想二乗検波部(強度計算部)42は、仮想変調部41により生成される電界情報信号に基づいて、変調部1により生成される光信号の強度を表す強度データを計算する。
【0036】
仮想変調部41は、変調部1にデータ信号xが与えられたときにI成分変調器14から出力される光信号Iの電界Iを計算する。電界Iは、(1)式で表される。
【0037】
【数1】
【0038】
Iは、DAC11aのアナログ出力回路、ドライバ12a、およびI成分変調器14の伝達関数を表す。伝達関数gIは、DAC11aの特性、ドライバ12aの特性、I成分変調器14の特性などに基づいて予め作成されているものとする。ΔReは、I成分変調器14のバイアス電圧のずれを表す。tは、時間を表す。WIは、I成分のシンボル波形の特性関数を表す。特性関数WIは、たとえば、光変調器の駆動信号(ここでは、データ信号Re)の振幅および周波数特性を表す。ΔtIは、遅延調整部4aの出力からI成分変調部14までの電気信号の伝搬時間を表す。ΔtIは、例えば、予め測定されるようにしてもよい。ΔτIは、遅延調整部4aによる遅延時間を表す。
【0039】
また、仮想変調部41は、変調部1にデータ信号xが与えられたときにQ成分変調器15から出力される光信号Qの電界Qを計算する。電界Qは、(2)式で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
Qは、DAC11bのアナログ出力回路、ドライバ12b、およびQ成分変調器15の伝達関数を表す。伝達関数gQは、DAC11bの特性、ドライバ12bの特性、Q成分変調器15の特性などに基づいて予め作成されているものとする。ΔImは、Q成分変調器15のバイアス電圧のずれを表す。θは、固定移相器16により付加される位相の誤差を表す。φは、位相付加部17により付加される位相を表す。なお、φは、バイアス電圧VPにより制御される。WQは、Q成分のシンボル波形の特性関数を表す。特性関数WQは、たとえば、光変調器の駆動信号(ここでは、データ信号Im)の振幅および周波数特性を表す。ΔtQは、遅延調整部4bの出力からQ成分変調部15までの電気信号の伝搬時間を表す。ΔtQは、例えば、予め測定されるようにしてもよい。ΔτQは、遅延調整部4bによる遅延時間を表す。
【0042】
仮想二乗検波部42は、仮想変調部41により計算される複素数に対して二乗演算を実行する。この結果、変調部1により生成される光信号の強度を表す強度データが生成される。具体的には、(3)式により強度データPが計算される。
【0043】
【数3】
【0044】
図7の説明に戻る。比較部43は、二乗検波部22により生成される強度データと仮想二乗検波部42により生成される強度データとを比較する。二乗検波部22により生成される強度データ(以下、「第1の強度データ」と呼ぶことがある。)は、変調部1により実際に生成される光信号の強度を表す。一方、仮想二乗検波部42により生成される強度データ(以下、「第2の強度データ」と呼ぶことがある。)は、モデル部40において数式モデルを利用して計算される光信号の強度を表す。なお、第1の強度データおよび第2の強度データは、適切に正規化されていることが好ましい。
【0045】
判定部44は、第1の強度データと第2の強度データとの差分が所定の閾値より小さいか否かを判定する。そして、この判定結果は、更新部45または読み出し部46に通知される。なお、閾値は、十分に小さい値であることが好ましい。この場合、判定部44は、第1の強度データと第2の強度データとの差分が実質的にゼロとみなせるか否かを判定する。
【0046】
第1の強度データと第2の強度データとの差分が閾値以上であるときには、更新部45は、この差分を小さくするように変調部1の状態に係わるパラメータを更新する。「変調部1の状態に係わるパラメータ」は、仮想変調部41において使用される下記のパラメータを含む。ただし、「変調部1の状態に係わるパラメータ」は、これらに限定されるものではない。
(1)I成分変調器14に印加されるバイアス電圧のずれ量ΔRe
(2)Q成分変調器15に印加されるバイアス電圧のずれ量ΔIm
(3)IQ間位相差の誤差を補償する位相量φ
(4)データ信号Reに対する遅延量ΔτI
(5)データ信号Imに対する遅延量ΔτQ
(6)I成分変調器14の駆動信号のゲインWI
(7)Q成分変調器15の駆動信号のゲインWQ
【0047】
更新部45は、第1の強度データと第2の強度データとの差分が閾値より小さくなるまで、上記パラメータを更新する。このとき、更新部45は、任意の順番でパラメータを更新してもよい。例えば、更新部45は、ΔRe以外のパラメータを固定した状態で、差分が最小になるΔReの値を検出する。つづいて、更新部45は、ΔIm以外のパラメータを固定した状態で、差分が最小になるΔImの値を検出する。以下、同様に、更新部45は、差分が閾値より小さくなるまで、パラメータを1つずつ順番に選択して更新する処理を繰り返す。
【0048】
或いは、位相回復(phase retrieval)アルゴリズムを用いて変調部1の伝達関数Hを推定してもよい。例えば、入力信号xに対して二乗検波部22の出力信号がyであるものとする。この場合、出力信号yは、(4)式で表される。
【0049】
【数4】
【0050】
ここで、xは、データ信号であり、既知である。また、yは、二乗検波部22の出力をモニタすることで得られる。よって、伝達関数Hを計算することができる。なお、位相回復アルゴリズムは、例えば、下記の文献に記載されている。
J. Liang et al. Phase Retrieval via the Alternating Direction Method of Multipliers, IEEE Signal Process. Lett. 25(1), 5-9 (2018)
【0051】
第1の強度データと第2の強度データとの差分が閾値よりも小さくなると、判定部44は、仮想変調部41が変調部1の状態を表していると判定する。すなわち、仮想変調部41において更新されたパラメータが変調部1の状態を表していると判定する。そうすると、判定部44は、読み出し部46に対して読出し指示を与える。
【0052】
読み出し部46は、判定部44から読出し指示を受け取ると、仮想変調部41に設定されている最新のパラメータを読み出す。すなわち、更新部45により更新されたΔRe、ΔIm、φ、ΔτI、ΔτQ、WI、WQが読み出される。
【0053】
パラメータ制御部48は、読み出し部46により読み出されたパラメータおよび記憶部47に保存されている情報に基づいて、変調部1に設定すべきパラメータを決定する。ここで、記憶部47には、現在の変調部1の状態を表す情報が保存されている。例えば、記憶部47には下記の情報が保存されている。
(1)I成分変調器14に印加されるバイアス電圧
(2)Q成分変調器15に印加されるバイアス電圧
(3)位相付加部17に印加されるバイアス電圧
(4)遅延調整部4aにおけるデータ信号Reに対する遅延量
(5)遅延調整部4bにおけるデータ信号Imに対する遅延量
(6)波形整形部5aにおけるデータ信号Reに対するゲイン
(7)波形整形部5bにおけるデータ信号Imに対するゲイン
【0054】
設定部49は、パラメータ制御部48により決定されたパラメータを変調部1に設定する。すなわち、パラメータ制御部48および設定部49は、モデル部40において更新されたパラメータに基づいて変調部1の状態を制御する。
【0055】
上記構成の光送信機100において、変調部1の状態は、例えば温度または経年により変化し得る。具体的には、I成分変調器14およびQ成分変調器15の入力電圧-光出力特性が変化し得る。I成分変調器14とQ成分変調器15との間の位相差(すなわち、IQ間位相差)が変化し得る。DSP2から各変調器14までの伝搬時間、及び、DSP2からQ成分変調器15までの伝搬時間が変化し得る。I成分変調器14およびQ成分変調器15の駆動信号の電圧が変化し得る。そして、変調部1の状態が変化すると、変調部1により生成される光信号の品質が劣化する。
【0056】
そこで、光送信機100において、コントローラ30は、変調部1の状態をモニタし、そのモニタ結果に応じて変調部1の状態を制御する。ただし、コントローラ30は、コヒーレント受信器等の消費電力の大きい回路を使用することなく、消費電力の小さい二乗検波回路により検出結果を利用して変調部1の状態をモニタする。以下、コントローラ30の動作を説明する。
【0057】
図8は、コントローラ30の動作の一例を示す。ここでは、ある時刻において、変調部1が理想的な状態に制御されているものとする。例えば、図8(a)に示すように、データ信号x(t)に対応する送信シンボルの振幅および位相が信号点P1で表される。このとき、変調部1において、I成分変調器14に印加されるバイアス電圧VIが「1.0」に制御されている。なお、図8に係わる記載では、説明を簡単にするために、変調部1の他のパラメータについては省略する。
【0058】
仮想変調部41は、変調部1の状態を表している。即ち、仮想変調部41において、I成分変調器14のバイアス電圧((1)式中のVI)が「1.0」に制御されている。I成分変調器14のバイアス電圧の「ずれ」を表すΔReはゼロである。なお、説明を簡単にするために、仮想変調部41に設定される他のパラメータについての省略をする。
【0059】
二乗検波部22の出力信号は、変調部1により生成される光信号の強度を表す。したがって、図8(a)に示す実施例では、二乗検波部22により生成される第1の強度データは、位相平面の原点と信号点P1との間の距離を表す。一方、モデル部40は、(1)~(3)式に基づいて、変調部1により生成される光信号の強度を表す第2の強度データを生成する。そして、図8(a)において、第1の強度データおよび第2の強度データの差分が実質的にゼロであるものとする。すなわち、仮想変調部41は、変調部1の状態を正確に表している。
【0060】
この後、光送信機1の周囲の温度の変化等に起因して、変調部1の状態が変化するものとする。例えば、図8(b)に示すように、データ信号x(t)に対応する送信シンボルの振幅および位相が信号点P2で表される。即ち、変調部1の状態の変化に起因して、送信シンボルの振幅/位相が変化している。なお、送信シンボルの振幅/位相が理想的な状態からシフトすると、変調部1により生成される光信号の品質が劣化する。
【0061】
図8(b)示す状態において、コントローラ30は、二乗検波部22により生成される第1の強度データとモデル部40から出力される第2の強度データとを比較する。このとき、第1の強度データは、位相平面の原点と信号点P2との間の距離を表す。一方、仮想変調部41のパラメータが更新される前は、第2の強度データは、位相平面の原点と信号点P1との間の距離を表す。すなわち、第1の強度データと第2の強度データとの間で誤差が発生する。
【0062】
コントローラ30は、第1の強度データと第2の強度データとの間の差分を小さくするように仮想変調部41のパラメータを更新する。ここでは、説明を簡単にするために、I成分変調器14のバイアス電圧に係わるパラメータのみが更新されるものとする。すなわち、I成分変調器14のバイアス電圧のずれ量を表すパラメータΔReが更新される。そして、図8(c)に示すように、(1)~(3)式においてパラメータΔReを「ゼロ」から「0.2」に更新することにより、第1の強度データと第2の強度データとの間の差分が実質的にゼロになる。
【0063】
第1の強度データと第2の強度データとの間の差分が実質的にゼロであるときは、仮想変調部41が変調部1の状態を正確に表していると推定される。ここで、図8(a)に示す状態から図8(c)に示す状態に移行する過程で、ΔReが「ゼロ」から「0.2」に更新されている。したがって、コントローラ30は、温度変化に起因して、変調部1において「ΔRe=0.2」に対応する状態変化が発生したと推定する。
【0064】
コントローラ30は、変調部1の状態が理想的な状態に戻るように、仮想変調部41のパラメータに基づいて変調部1を制御するパラメータを決定する。ここで、仮想変調部41のパラメータの変化量は、変調部1の状態の変化量を表す。よって、仮想変調部41のパラメータの変化量を補償するように変調部1の状態を変化させれば、変調部1の状態が理想的な状態に戻ると考えられる。
【0065】
そこで、パラメータ制御部48は、図8(d)に示すように、I成分変調器14のバイアス電圧を「0.2」だけ小さくする。即ち、I成分変調器14のバイアス電圧を「1」から「0.8」に変化させる。そして、設定部49は、パラメータ制御部48による決定に基づいて変調部1を制御する。すなわち、I成分変調器14のバイアス電圧が「0.8」に制御される。この結果、データ信号x(t)の送信シンボルは、信号点P1に配置される。
【0066】
この後、仮想変調部41のパラメータは、変調部1の状態を表すように更新される。この例では、変調部1のI成分変調器14のバイアス電圧が「1」から「0.8」に更新されているので、図8(e)に示すように、仮想変調部41において(1)~(3)式で使用するバイアス電圧VIも「1」から「0.8」に更新される。また、変調部1のI成分変調器14のバイアス電圧の「ずれ」が解消されたので、(1)~(3)式で使用するパラメータΔReは「ゼロ」に更新される。
【0067】
なお、図8に示す例では、1つのパラメータのみが更新されるが、実際には、仮想変調部41において複数のパラメータが更新される。そして、各パラメータの更新に応じて変調部1が制御される。
【0068】
たとえば、IQ変調器13を構成するマッハツェンダ変調器(14、15)の特性が変化すると、図2に示すように、出力光信号の消光比が劣化する。この場合、マッハツェンダ変調器の動作点が最適点からずれるので、光強度の差分を小さくする処理において、少なくとも、更新部45によりパラメータΔRe及び/又はΔImが更新されると考えられる。したがって、図8を参照した説明した手順で変調部1のパラメータが決定される。具体的には、(5)式を満足するように、I成分変調器14のバイアス電圧が調整される。また、Q成分変調器15においても同様の調整が行われる。
【0069】
【数5】
【0070】
I成分変調器14とQ成分変調器15との間の位相差(即ち、IQ間位相差)が変化すると、図3に示すように、コンスタレーションの対称性が劣化する。このとき、IQ間位相差の変化は、(2)式においてθで表される。そして、光強度の差分を小さくする処理においては、θの変化を補償するように、更新部45によりパラメータφが更新されると考えられる。一例としては、(6)式を満足するように、位相付加部17に印加されるバイアス電圧が調整される。なお、パラメータφは、バイアス電圧VPの関数である。
【0071】
【数6】
【0072】
I成分変調器14の駆動信号の振幅とQ成分変調器15の駆動信号の振幅とが一致しないときは、図4に示すように、I成分の信号点間距離およびQ成分の信号点間距離が互いに異なってしまう。ここで、I成分変調器14の駆動信号の振幅が変化すると、光強度の差分を小さくする処理において、振幅の変化を補償するように、(1)式中でパラメータWIが更新される。また、Q成分変調器15の駆動信号の振幅が変化すると、光強度の差分を小さくする処理において、振幅の変化を補償するように、(2)式中でパラメータWQが更新される。
【0073】
この後、モデル部40において更新されたパラメータWI、WQに基づいて、変調部1の波形整形部5a、5bのゲインが調整される。例えば、図4に示すI成分振幅とQ成分振幅との比を検出または推定できるときは、その比が「1:1」になるように波形整形部5a、5bのゲインが調整される。
【0074】
DSP2とI成分変調器14との間の伝搬時間とDSP2とQ成分変調器15との間の伝搬時間とが一致しないときは、図6に示すように、IQ間スキューが発生し、実質的なシンボル時間が短くなる。このとき、DSP2とI成分変調器14との間の伝搬時間の変化は、(1)式においてΔtIで表される。そして、光強度の差分を小さくする処理においては、ΔtIの変化を補償するように、更新部45によりパラメータΔτIが更新されると考えられる。DSP2とQ成分変調器15との間の伝搬時間の変化は、(2)式においてΔtQで表される。そして、光強度の差分を小さくする処理においては、ΔtQの変化を補償するように、更新部45によりパラメータΔτQが更新されると考えられる。
【0075】
この後、モデル部40において更新されたパラメータΔτI、ΔτQに基づいて、変調部1の遅延調整部4a、4bの遅延時間が調整される。例えば、(7)式の関係を満足するように遅延調整部4aまたは4bの少なくとも一方の遅延量が調整される。この結果、IQ間スキューがゼロになる。
【0076】
【数7】
【0077】
図9は、コントローラ30の動作の一例を示すフローチャートである。なお、コントローラ30および変調部1に同じデータ信号が入力される。
【0078】
S1において、コントローラ30は、データ信号を取得する。この実施例では、コントローラ30は、シンボル毎にデータ信号を取得する。
【0079】
S2において、仮想変調部41は、入力データ信号に基づいて、変調部1により生成される光信号を表す電界を計算する。この電界は、(1)~(2)式により計算される。そして、仮想変調部41は、計算した電界を表す電界情報信号を出力する。
【0080】
S3において、仮想二乗検波部42は、仮想変調部41により生成される電界情報信号に基づいて、変調部1の出力光信号の強度(即ち、第2の強度データ)を計算する。第2の強度データは、(3)式により計算される。このとき、二乗検波部22は、実際の光信号の強度(第1の強度データ)を検出する。
【0081】
S4~S5において、比較部43は、第1の強度データと第2の強度データとを比較する。すなわち、実際の光信号の強度とモデル部40において計算される強度とが比較される。そして、第1の強度データと第2の強度データとの差分が所定の閾値以上であるときは、コントローラ30の処理はS6に進む。
【0082】
S6において、更新部45は、第1の強度データと第2の強度データとの差分が小さくなるように、仮想変調部41のパラメータを更新する。即ち、(1)~(2)式で使用されるパラメータが更新される。このとき、更新部45は、複数のパラメータのうちの1つのパラメータのみを更新してもよいし、2以上のパラメータを同時に更新してもよい。この後、コントローラ30の処理はS1に戻る。すなわち、コントローラ30は、次のデータ信号に対してS1~S6の処理を実行する。
【0083】
S1~S6の処理は、第1の強度データと第2の強度データとの差分が閾値より小さくなるまで繰り返し実行される。そして、この差分が閾値より小さくなると、コントローラ30の処理はS11に進む。なお、第1の強度データと第2の強度データとの差分が閾値より小さいときは、仮想変調部41が変調部1の状態を精度よく表している。すなわち、この差分が閾値より小さいときは、(1)~(2)式は、変調部1の出力信号の電界を精度よく表している。
【0084】
S11において、読み出し部46は、モデル部40のパラメータを取得する。即ち、更新されたパラメータが得られる。
【0085】
S12において、パラメータ制御部48は、モデル部40のパラメータに基づいて、変調部1の状態を制御するパラメータを決定する。変調部1の状態を制御するパラメータを決定する手順の一例は、図8を参照して説明した通りである。なお、変調部1の現在の制御状態(各変調器14、15のバイアス電圧、位相付加部17のバイアス電圧、遅延調整部4a、4bの遅延量、波形整形部5a、5bによるゲイン)は、例えば、記憶部47に保存されている。この場合、パラメータ制御部48は、変調部1の現在の制御状態およびモデル部40のパラメータの変化量に基づいて、変調部1の状態を制御するパラメータを決定してもよい。
【0086】
S13において、設定部49は、パラメータ制御部48が決定したパラメータを変調部1に設定する。すなわち、パラメータ制御部48および設定部49は、変調部1の状態を制御する。この後、変調部1に設定されたパラメータは、記憶部47に保存される。すなわち、現在の変調部1の制御状態を表す情報が記憶部47に保存される。
【0087】
S14において、コントローラ30は、モデル部40のパラメータが変調部1の状態と一致するように、モデル部40のパラメータを更新する。例えば、(1)式において、VIは、I成分変調器14のバイアス電圧値に更新される。(2)式において、VQは、Q成分変調器15のバイアス電圧値に更新され、VPは、位相付加部17のバイアス電圧値に更新される。また、ΔRe、ΔIm、φは初期化される。
【0088】
図10は、光送信機100の構成例を示す。なお、コントローラ30xは、図7に示す判定部44、更新部45、読み出し部46、記憶部47、パラメータ制御部48、設定部49に相当する。
【0089】
遅延要素601は、DSP2の出力信号を遅延させる。FIFO602は、モデル部40に与えられるデータ信号を一時的に保存する。そして、コントローラ30xは、比較部43において同じシンボルの強度データが比較されるように、遅延要素601、FIFO602、比較部43を制御する。なお、図10に示す破線矢印は、同期を制御する信号を表す。
【0090】
コントローラ30xは、比較部43による比較結果に基づいて、バイアス制御部603に対してバイアス設定値を与える。バイアス設定値は、I成分変調器14を制御するバイアス電圧、Q成分変調器15を制御するバイアス電圧、位相付加部17のバイアス電圧を指示する。なお、コントローラ30xは、バイアス制御部603の現在値を取得する機能を備えてもよい。
【0091】
コントローラ30xは、比較部43による比較結果に基づいて、DSP2による信号処理を制御する。具体的には、コントローラ30xは、DSP2にIQ間補償量、周波数特性補償量、振幅情報を与える。IQ間補償量は、遅延調整部4a、4bの遅延量を表す。周波数特性補償量および振幅情報は、波形整形部5a、5bの信号処理を指示する。尚、コントローラ30xは、DSP2に設定されているパラメータの現在値を取得する機能を備えてもよい。
【0092】
図11は、第1の実施形態の光送信機のバリエーションを示す。図11に示す光送信機100Bは、偏波多重光信号を送信する。よって、光送信機100Bは、図7に示す変調部1の代わりに(または、図7に示す変調部1として)、X偏波変調部1X、Y偏波変調部1Y、合波器23を備える。X偏波変調部1XおよびY偏波変調部1Yの構成は、それぞれ、図1に示す変調部1と実質的に同じである。合波器23は、X偏波変調部1Xの出力光信号およびY偏波変調部1Yの出力光信号を合波して偏波多重光信号を生成する。なお、合波器23は、例えば、偏波ビームコンバイナにより実現される。
【0093】
モデル部40は、X偏波変調部1X、Y偏波変調部1Y、合波器23に対応して、仮想X偏波変調部41X、仮想Y偏波変調部41Y、仮想合波器61を備える。仮想X偏波変調部41Xおよび仮想Y偏波変調部41Yは、それぞれ、仮想変調部41と同様の計算を実行する。仮想合波器61は、仮想X偏波変調部41Xの計算結果および仮想Y偏波変調部41Yの計算結果を足し合わせる。そして、仮想二乗検波部42は、仮想合波器61の出力信号を二乗する。
【0094】
パラメータを更新する処理は、図7に示す光送信機100および図11に示す光送信機100Bにおいて実質的に同じである。すなわち、二乗検波部22により検出される第1の強度データとモデル部40により計算される第2の強度データとの差分が閾値より小さくなるようにモデル部40のパラメータが更新される。そして、更新されたパラメータに基づいてX偏波変調部1XおよびY偏波変調部1Yが制御される。
【0095】
図12は、第1の実施形態の光送信機の他のバリエーションを示す。図11に示す光送信機100Bにおいては、偏波多重光信号の強度を利用してモデル部40のパラメータが更新される。これに対して、図12に示す光送信機100Cにおいては、偏波ごとの強度を利用して偏波ごとにモデル部40のパラメータが更新される。
【0096】
X偏波変調部1Xにより生成される光信号XおよびY偏波変調部1Yにより生成される光信号Yは、合波される前に、光分岐器21Xおよび21Yにより個々に分岐される。そして、二乗検波部22Xおよび22Yは、光信号Xの強度および光信号Yの強度をそれぞれに検出する。
【0097】
モデル部40においては、X偏波変調部41Xの計算結果およびY偏波変調部41Yの計算結果は、それぞれ、仮想二乗検波部42Xおよび仮想二乗検波部42Yに渡される。そして、仮想二乗検波部42Xおよび42Yは、それぞれ、X偏波の強度およびY偏波の強度を計算する。そして、比較部43Xは、X偏波について、検出される強度と計算される強度とを比較する。また、比較部43Yは、Y偏波について、検出される強度と計算される強度とを比較する。
【0098】
モデル部40のパラメータを更新する処理は、図7に示す光送信機100および図12に示す光送信機100Cにおいて実質的に同じである。ただし、光送信機100Cにおいては、偏波ごとに、モデル部40のパラメータが更新される。そして、偏波ごとに、更新されたパラメータに基づいて、X偏波変調部1XおよびY偏波変調部1Yが制御される。
【0099】
このように、図12に示す光送信機100Cにおいては、偏波ごとに変調部(1X、1Y)が制御される。よって、図11に示す光送信機100Bと比べて、光送信機100Cにおいては、光信号の品質の向上が期待される。ただし、受光器およびADCを含む二乗検波部の数が増加する。
【0100】
図13は、第1の実施形態の光送信機のさらに他のバリエーションを示す。図12に示す光送信機100Cにおいては、2個の二乗検波部(22X、22Y)を備える。これに対して、図13に示す光送信機100Dにおいては、光送信機100Cに実装される2個の二乗検波部が、光スイッチ24および1個の二乗検波部22に置き換えられる。
【0101】
光スイッチ24は、X偏波変調部1Xにより生成される光信号XまたはY偏波変調部1Yにより生成される光信号Yを選択して二乗検波部22に導く。そして、二乗検波部22は、光スイッチ24により選択された光信号の強度を検出する。
【0102】
モデル部40においては、X偏波変調部41Xの計算結果またはY偏波変調部41Yの計算結果を選択するセレクタ62を備える。光スイッチ24およびセレクタ62は、互いに同期して動作する。そして、仮想二乗検波部42は、セレクタ62により選択された計算結果に対して二乗演算を行って強度を計算する。
【0103】
モデル部40のパラメータを更新する処理は、図7に示す光送信機100および図13に示す光送信機100Dにおいて実質的に同じである。ただし、光送信機100Dにおいては、偏波ごとに、モデル部40のパラメータが更新され、X偏波変調部1XおよびY偏波変調部1Yが個々に制御される。加えて、図12に示す光送信機100Cと比較して二乗検波部の個数が少ないので、コストが削減される。
【0104】
<第2の実施形態>
第1の実施形態に係わる光送信機100においては、例えば、シンボルごとに強度データが生成される。このため、二乗検波部22は、帯域の広い受光器および高速サンプリング可能なADCを備える。ただし、帯域の広い受光器および高速サンプリング可能なADCは高価である。また、高速サンプリング可能なADCの消費電力は大きい。
【0105】
図14は、本発明の第2の実施形態に係わる光送信機の一例を示す。なお、図7に示す光送信機100および図14に示す光送信機200において共通する要素または機能については、その説明を省略する。
【0106】
第2の実施形態に係わる光送信機200は、図7に示す二乗検波部22の代わりに、二乗検波部22Lを備える。二乗検波部22と同様に、二乗検波部22Lも、受光器およびADCを備える。ただし、第1の実施形態の受光器と比較して、二乗検波部22Lの受光器の帯域は狭い。すなわち、二乗検波部22Lの受光器は、連続するN個のシンボルの平均光強度を検出できる帯域を有する。また、第1の実施形態のADCと比較して、二乗検波部22LのADCのサンプリングレートは低い。すなわち、二乗検波部22LのADCは、連続するN個のシンボルに対してサンプリング可能であればよい。したがって、光送信機200において生成される第1の強度データは、N個シンボルの平均強度を表す。Nは、特に限定されるものではないが、例えば、2である。
【0107】
モデル部40は、仮想変調部41および仮想二乗検波部42に加えて、低域通過フィルタ(LPF)71を備える。LPF71は、N個のシンボルに対して、仮想二乗検波部42の出力値の平均を計算する。よって、モデル部40により計算される第2の強度データは、N個の送信シンボルの平均強度を表す。
【0108】
モデル部40のパラメータを更新する処理は、図7に示す光送信機100および図14に示す光送信機200において実質的に同じである。但し、光送信機200においては、Nシンボルごとにモデル部40のパラメータが更新され、その更新結果に基づいて変調部1が制御される。したがって、第1の実施形態と比べて、第2の実施形態によれば、低コスト化および低消費電力化が実現される。
【0109】
なお、第2の実施形態においても、位相回復アルゴリズムを利用して伝達関数を推定してもよい。ただし、第2の実施形態においては、LPF71の伝達関数も考慮して変調部1の伝達関数が推定される。
【0110】
<第3の実施形態>
図11に示す光送信機100Bは、偏波多重光信号を送信する。ただし、この構成においては、合波器23から光分岐器21に至る経路で光信号の偏波が回転することがある。そして、合波器23から光分岐器21に至る経路で光信号の偏波が回転するケースでは、モデル部40が変調部1Xおよび1Yの状態を精度よく表さないことがある。すなわち、変調部1Xおよび1Yが精度よく制御されないことがある。
【0111】
図15は、本発明の第3の実施形態に係わる光送信機の一例を示す。なお、図11に示す光送信機100Bおよび図15に示す光送信機300において共通する要素または機能については、その説明を省略する。
【0112】
光送信機300においては、光分岐器21は、合波器23から出力される偏波多重光信号を分岐して偏波分離器25に導く。偏波分離器25は、入力光を互いに直交する1組の偏波成分に分離する。二乗検波部22Xおよび22Yは、各偏波成分の強度を検出する。これにより、各偏波成分について第1の強度データが得られる。
【0113】
モデル部40において、偏波回転部72は、仮想合波器61の出力信号の位相を回転させる。この回転処理は、例えば、(8)式の回転ベクトルにより実現される。なお、位相回転量は、更新部45により更新される。
【0114】
【数8】
【0115】
偏波分離器73は、偏波回転部72の出力信号を互いに直交する1組の偏波成分に分離する。仮想二乗検波部42Xおよび42Yは、(3)式を用いて各偏波成分の強度を計算する。これにより、各偏波成分について第2の強度データが得られる。そして、比較部43Xは、一方の偏波について、第1の強度データと第2の強度データとを比較する。比較部43Yは、他方の偏波について、第1の強度データと第2の強度データとを比較する。
【0116】
モデル部40のパラメータを更新する処理は、図7に示す光送信機100および図15に示す光送信機300において実質的に同じである。但し、光送信機300においては、更新部45は、各仮想変調部(41X、41Y)のパラメータを更新すると共に、偏波回転部72の回転量を更新する。具体的には、更新部45は、比較部43X、43Yにおいて偏波ごとに比較される強度データの差分を小さくするように、各仮想変調部(41X、41Y)のパラメータを更新すると共に、偏波回転部72の回転量を更新する。この更新処理は、双方の差分がそれぞれ閾値より小さくなるまで継続される。そして、双方の差分がそれぞれ閾値より小さくなると、コントローラ30は、仮想変調部41Xおよび41Yのパラメータに基づいて変調部1Xおよび1Yを制御する。
【0117】
このように、第3の実施形態では、合波器23から光分岐器21に至る経路で光信号の偏波の回転を考慮して変調部1Xおよび1Yが制御される。したがって、光送信機300により生成される変調光信号の品質が改善する。
【0118】
なお、第2の実施形態および第3の実施形態を組み合わせてもよい。例えば、図15に示す仮想二乗検波部42Xおよび42Yの出力側に、それぞれ、図14に示すLPF71を設けてもよい。この場合、光送信機300においても、受光器およびADCを含む二乗検波部の消費電力/コストが抑制される。
【0119】
<第4の実施形態>
第1の実施形態に係わる光送信機100においては、例えば、シンボルごとに強度データが生成される。このため、二乗検波部22は、帯域の広い受光器および高速サンプリング可能なADCを備える。ただし、通信システムが通常の動作を行っているときは、光送信機の状態が急激に変化することは稀である。すなわち、光送信機が通常の動作を行っているときは、二乗検波部22は、必ずしも高速動作は要求されない。
【0120】
図16は、本発明の第4の実施形態に係わる光送信機の一例を示す。なお、図7に示す光送信機100および図16に示す光送信機400において共通する要素または機能については、その説明を省略する。
【0121】
モード切り替え部80は、光送信機400の動作モードに応じて、二乗検波部81および可変LPF74に指示を与える。たとえば、光送信機400の動作開始時、変調方式の変更時、およびボーレートの変更時には、光送信機400の周波数特性が設定/変更される。図1に示す変調部1においては、波形整形部5a、5bにより、DAC11a、11b、ドライバ12a、12b、IQ変調器13の周波数特性が補償される。そして、モード切り替え部80は、周波数特性が設定/変更されたときから所定時間が経過するまで、二乗検波部81に対して高速サンプリングの実行を指示する。他の期間は、モード切り替え部80は、二乗検波部81に対して低速サンプリングの実行を指示する。
【0122】
二乗検波部81は、受光器およびADCを備える。そして、二乗検波部81は、モード切り替え部80から与えられる指示に応じてADCのサンプリングレートを切り替える。すなわち、高速サンプリングを表す指示が与えられたときは、二乗検波部81は、シンボルごとに光信号の強度をサンプリングする速度でADCを動作させる。低速サンプリングを表す指示が与えられたときは、二乗検波部81は、ADCのサンプリングレートをN分の1に下げる。Nは、例えば、2以上の整数である。
【0123】
なお、二乗検波部81は、高速受光器および低速受光器を備えてもよい。この場合、高速サンプリングを表す指示が与えられたときは、高速受光器を用いて光信号が電気信号に変換され、低速サンプリングを表す指示が与えられたときは、低速受光器を用いて光信号が電気信号に変換される。
【0124】
可変LPF74は、高速サンプリングを表す指示が与えられたときは、LPF演算を実行しない。この場合、仮想二乗検波部42の演算結果が比較部43に導かれる。一方、低速サンプリングを表す指示が与えられたときは、可変LPF74は、仮想二乗検波部42の演算結果に対してLPF演算を実行する。この場合、平均化された強度データが比較部43に導かれる。
【0125】
このように、第4の実施形態によれば、高速サンプリングが必要でないときは、二乗検波部81の動作速度を下げることができる。よって、第1の実施形態と比較して、消費電力が削減される。
【0126】
<光送受信機>
図17は、本発明の実施形態に係わる光送信機を含む光トランシーバの一例を示す。本発明の実施形態に係わる光トランシーバ500は、光受信機600および光送信機700を含む。光送信機700は、例えば、第1~第4の実施形態に係わる光送信機(100、100B、100C、100D、200、300、または400)により実現される。
【0127】
光受信機600は、デジタルコヒーレント受信器であり、偏波ビームスプリッタPBS1、PBS2、レーザ光源LD、90度光ハイブリッド回路601、602、受光器PD1~PD4、ADC1~ADC4を備える。偏波ビームスプリッタPBS1は、入力光信号を互いに直交する偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路601および602に導く。偏波ビームスプリッタPBS2は、レーザ光源LDにより生成される連続光を互いに直交する偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路601および602に導く。90度光ハイブリッド回路601は、連続光を利用して、入力光からI成分およびQ成分を抽出して受光器PD1およびPD2に導く。受光器PD1およびPD2は、それぞれ、入力光信号を電気信号に変換する。ADC1およびADC2は、それぞれ、受光器PD1およびPD2の出力信号をデジタル信号に変換する。90度光ハイブリッド回路602、受光器PD3およびPD4、ADC3およびADC4の動作は、90度光ハイブリッド回路601、受光器PD1およびPD2、ADC1およびADC2と実質的に同じである。DSP800は、受信信号(HI、HQ、VI、VQ)からデータを再生する。
【0128】
光送信機700は、図示しないが、図1に示す変調部1を備える。また、光送信機700は、二乗検波部として使用される受光器PD5およびADC5を備える。なお、この実施例では、図1に示すDSP2は、DSP800により実現される。また、この実施例では、光受信機600および光送信機700によりDSP800が共有されるが、光受信機600および光送信機700がそれぞれDSPを備えてもよい。
【0129】
なお、光トランシーバ500がシリコンフォトニクス等の光集積技術で実装されるケースでは、受光器およびADCから構成される受信セットを追加することは容易である。この実施例では、光受信機600に4個の受信セットが実装され、光送信機700に1個の受信セットが実装されている。受光器PD1~PD5は、同じ製造工程で同時に形成される。ADC1~ADC5の構成は互いに同じである。そして、光送信機700に実装される受信セットは、二乗検波部として使用される。
【0130】
また、光集積技術を利用すれば、容易に、合波器23の入力側に光分岐器21を設けることができる。すなわち、図12に示す光送信機100Cを含む光トランシーバを容易に製造することができる。
【0131】
さらに、光集積技術を利用すれば、容易に、チップ上に光スイッチを設けることができる。よって、図13に示す光送信機100Dを含む光トランシーバを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 変調部
1X X偏波変調部
1Y Y偏波変調部
2 デジタル信号処理器(DSP)
4a、4b 遅延調整部
5a、5b 波形整形部
11a、11b デジタル/アナログ変換器(DAC)
12a、12b ドライバ
13 IQ変調器
14 I成分変調器
15 Q成分変調器
16 固定移相器
17 位相付加部
22、22L 二乗検波部
30 コントローラ
40 モデル部
41 仮想変調部
42 仮想二乗検波部
43 比較部
44 判定部
45 更新部
46 読み出し部
47 記憶部
48 パラメータ制御部
49 設定部
71 低域通過フィルタ(LPF)
72 偏波回転部
74 可変LPF
80 モード切り替え部
81 二乗検波部
100、100B、100C、100D、200、300、400 光送信機
500 光トランシーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17