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特許7571448射出成形用材料の製造方法及び射出成形用材料
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  • 特許-射出成形用材料の製造方法及び射出成形用材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】射出成形用材料の製造方法及び射出成形用材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20241016BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEP
C08J3/20 CFD
B29C45/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020168312
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060697
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 佐登美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰雄
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-089535(JP,A)
【文献】特開平09-205827(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維化されたセルロースと、
疎水性生分解性材料と、
澱粉と、
気流中で相互に拡散させて混合する混合工程を含む、射出成形用材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記疎水性生分解性材料は、PLA、PHB、PCL、PBS、PHBH、PBAC、PBAT、植物由来PBS、酢酸セルロース、シェラック、ロジン、カルナウバロウ、サトウキビワックス、及び、こんにゃく粉から選択される、射出成形用材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記疎水性生分解性材料は、繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有する、射出成形用材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記疎水性生分解性材料は、繊維径が0.1μm以上500.0μm以下の繊維状の粒子形状を有する、射出成形用材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記疎水性生分解性材料は、体積平均粒子径が0.1μm以上1.0mm以下の粉体状の粒子形状を有する、射出成形用材料の製造方法。
【請求項6】
繊維化されたセルロースと、
繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有する疎水性生分解性材料と、
粉体状の粒子形状を有する澱粉と、
を含み、
前記繊維化されたセルロースの集合体中で、前記疎水性生分解性材料と、前記澱粉と、が均一に分布している、射出成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用材料の製造方法及び射出成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、紙皿、紙質のボード等のセルロース繊維を含む成形物の製造方法として、乾式法と称する水を全く又はほとんど用いない方法が期待されている。一般に紙製品を成形する際には、大量の水を用いるため、使用する水を削減する等の観点で、開発がおこなわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、植物性繊維、バインダー(澱粉など)、水、及び金属石鹸を含み、更に材料に含まれる水分の量を少なくするため、水に代わって材料に流動性を与える流動性付与材(グリセリンなど)を含む成形材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-309095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された成形材料は、これを用いて成形した成形物の耐水性が不足することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る射出成形用材料の製造方法の一態様は、
繊維化されたセルロースと、
疎水性生分解性材料と、
澱粉と、
を気中で混合する混合工程を含む。
【0007】
本発明に係る射出成形用材料の一態様は、
繊維化されたセルロースと、
繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有する疎水性生分解性材料と、
粉体状の粒子形状を有する澱粉と、
を含み、
前記繊維化されたセルロースの集合体中で、前記疎水性生分解性材料と、前記澱粉と、が均一に分布している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る製造装置を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.射出成形用材料の製造方法
本実施形態に係る射出成形用材料の製造方法は、繊維化されたセルロースと、疎水性生分解性材料と、澱粉と、を気中で混合する混合工程を含む。以下、原料及び工程の順に説明する。
【0011】
1.1.繊維化されたセルロース
本実施形態の射出成形用材料は、繊維化されたセルロースを含む。繊維化されたセルロースは、射出成形用材料を用いて製造される成形物の一成分であり、成形物の形状の保持に寄与するとともに、成形物の強度等の特性を維持・向上させる成分である。
【0012】
本明細書において「繊維化されたセルロース」とは、パルプ、紙等のセルロースを含むセルロース原料を解繊することなどにより、繊維状となったセルロースを指す。繊維化されたセルロースは、繊維状のセルロース1本のことを指す場合と、複数の繊維状のセルロースの集合体(例えば綿のような状態)のことを指す場合とがある。
【0013】
セルロース原料の繊維化は、機械的処理、化学的処理、離解処理、それらの組み合わせ等により行うことができるが、例えば、乾式でセルロース原料を解繊することにより行うことがより好ましい。繊維化により、セルロース原料中のセルロースが繊維状に解きほぐされる。
【0014】
セルロース原料としては、例えば、パルプ(広葉樹、針葉樹、ケナフ、バガス、カポックなどのシート及びベール)、紙(コピー紙、印刷用紙、厚紙、再生紙など)、古紙類、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、クリーナー、フィルター、液体吸収材、吸音体、緩衝材、マット、段ボールなどを用いることができる。セルロース原料中のセルロースは、絡み合い又は結着されていてもよい。また、セルロース原料には、本実施形態の射出成形用材料により製造した成形物を用いてもよい。さらに、セルロース原料は、天然由来、バイオマス由来であることがより好ましい。また、セルロースは、漂白等の処理が施されたものを用いてもよい。
【0015】
セルロースは、植物由来で豊富な天然素材であり、環境問題や埋蔵資源の節約等にさらに好適に対応することができるとともに、射出成形用材料やそれを用いて製造される成形物の安定供給、コスト低減等の観点からも好ましい。また、セルロースは、各種繊維の中でも、理論上の強度が特に高いものであり、成形物の強度のさらなる向上の観点からも有利である。さらにセルロースは、良好な生分解性を有する。
【0016】
繊維化されたセルロースの平均長さは、特に限定されないが、0.1mm以上50.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上5.0mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上3.0mm以下であることがさらに好ましい。繊維化されたセルロースの長さは、ばらつき(分布)を有してもよい。
【0017】
これにより、射出成形用材料を用いて製造される成形物の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。
【0018】
繊維化されたセルロースの平均太さは、特に限定されないが、0.005mm以上0.5mm以下であることが好ましく、0.010mm以上0.05mm以下であることがより好ましい。繊維化されたセルロースの太さは、ばらつき(分布)を有してもよい。
【0019】
これにより、射出成形用材料を用いて製造される成形物の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、射出成形用材料を用いて製造される成形物の表面に凹凸が生じることをさらに抑制することができる。
【0020】
繊維化されたセルロースの平均アスペクト比、すなわち、平均太さに対する平均長さは、特に限定されないが、10以上1000以下であることが好ましく、15以上500以下であることがより好ましい。
【0021】
これにより、射出成形用材料を用いて製造される成形物の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、射出成形用材料を用いて製造される成形物の表面に凹凸が生じることをさらに抑制できる。
【0022】
繊維化されたセルロースは、水酸基を有しており、繊維化されたセルロースと、後述する澱粉との間で、水素結合を形成しやすく、繊維化されたセルロースと澱粉との接合強度、射出成形用材料を用いて製造される成形物全体としての強度、例えば、シート状の成形物の比引張強度等をより優れたものとすることができる。
【0023】
射出成形用材料中における繊維化されたセルロースの含有率は、特に限定されないが、20.0質量%以上99.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以上98.0質量%以下であることがより好ましく、28.0質量%以上97.0質量%以下であることがさらに好ましい。射出成形用材料中における繊維化されたセルロースの含有率は、後述する混合工程での混合量により調節できる。
【0024】
これにより、射出成形用材料を用いて製造される成形物の形状の安定性や強度等の特性をより優れたものとすることができる。また、成形物の製造時の成形性をより優れたものとすることができ、成形物の生産性を向上させる上でも有利である。
【0025】
1.2.疎水性生分解性材料
本実施形態の射出成形用材料は、疎水性生分解性材料を含む。疎水性生分解性材料は、射出成形用材料を用いて製造される成形物において、繊維化されたセルロース同士を結合する結合材としての機能を有する。また、疎水性生分解性材料は、射出成形用材料によって成形された成形物に、耐水性を付与する機能を有する。
【0026】
疎水性生分解性材料としては、疎水性及び生分解性を有する物質であればよい。疎水性生分解性材料の例としては、PLA、PHB、PCL、PBS、PHBH、PBAC、PBAT、植物由来PBS、酢酸セルロース、ロジン、ダンマル、マスチック、コーパル、琥珀、シェラック、麒麟血、サンダラック、コロホニウム、カルナウバロウ、サトウキビワックス、及び、こんにゃく粉などが挙げられ、これらを単独又は適宜混合したものが挙げられ、また、これらは適宜変性されていてもよい。なお、本明細書では、酢酸セルロースは、上述の繊維化されたセルロースではないものとする。
【0027】
疎水性生分解性材料のより好適な例としては、PLA、PHB、PCL、PBS、PHBH、PBAC、PBAT、植物由来PBS、酢酸セルロース、シェラック、ロジン、カルナウバロウ、サトウキビワックス、及び、こんにゃく粉を挙げることができる。また、これらのうち、PLA、PHB、PCL、PBS、PHBH、PBAC、PBAT及び植物由来PBSは、エステル構造を有しており、共重合体となっていてもよいしエステル交換した構造のものであってもよい。以下に略称の意味を記載する。
【0028】
・PLA:ポリ乳酸(例えば、Boehringer Ingelheim社、Echochem社、株式会社島津製作所、Cargill社当から入手可能。)
・PHB:ポリヒドロキシ酪酸(P3HB:ポリ-3-ヒドロキシブチレート)
・PCL:ポリカプロラクトン(ポリ-ε-カプロラクトン)(例えば、ダイセル化学社、SOLVAY社当から入手可能。)
・PBS:ポリブチレンサクシネート
・PHBH:ヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(ポリ(3HB-co-3HHx)
・PBAC:ポリブチレンアジペートカプロラクタム(例えば、Bayer社から入手可能。)
・PBAT:ポリブチレンアジペートテレフタレート(例えば、BASF社から入手可能。)
【0029】
疎水性生分解性材料は、繊維化されたセルロースの集合体中で均一に分布できる範囲で任意の性状とすることができる。疎水性生分解性材料の性状としては、例えば、粒子の外形形状が、球状、円盤状、繊維状、不定形等の形状とすることができる。また、セルロースの集合体中で均一な分布を形成しやすい点で、疎水性生分解性材料は、繊維又は粉体の性状であることが好ましい。また、疎水性生分解性材料は、繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有してもよい。
【0030】
疎水性生分解性材料が繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有すると、疎水性生分解性材料がセルロースに対してさらに均一に分布させることができるので、成形物の耐水性をさらに高めることができる。またこれにより射出成形により好適な射出成型用材料とすることができる。
【0031】
疎水性生分解性材料が繊維状の粒子形状を有する場合、その繊維径は0.1μm以上500.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上300.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以上100.0μm以下であることがさらに好ましい。繊維径がこのような範囲であると、セルロースに対してさらに均一に分布させることができる。
【0032】
また、疎水性生分解性材料が粉体状の粒子形状を有する場合には、その粉体としての体積平均粒子径は、0.1μm以上1.0mm以下が好ましく、1.0μm以上800.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上500.0μm以下がより好ましい。体積平均粒子径がこのような範囲であると、セルロースに対してさらに均一に分布させることができる。
【0033】
なお粒子の体積平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)が挙げられる。
【0034】
疎水性生分解性材料は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、二本ロール、三本ロール、連続式ニーダー、連続式二本ロールなどを用いて混練した後、適宜の方法でペレタイズし、粉砕することにより製造してもよい。疎水性生分解性材料には様々な大きさの粒子、繊維が含まれている場合もあり、公知の分級装置を用いて分級してもよい。
【0035】
射出成形用材料の総量にする疎水性生分解性材料の含有率は、2.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上40.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。射出成形用材料中における疎水性生分解性材料の含有率は、後述する混合工程での混合量により調節できる。また、射出成形用材料における疎水性生分解性材料の含有率は、熱重量分析等の分析により測定することができ、必要に応じて適宜の前処理手法を用いて測定できる。
【0036】
1.3.澱粉
本実施形態の射出成形用材料は、澱粉を含む。澱粉は、射出成形用材料を用いて製造される成形物の一成分であり、成形物の形状の保持に寄与するとともに、成形物の強度等の特性を維持・向上させる成分である。澱粉は、射出成形用材料を用いて製造される成形物において、繊維化されたセルロース同士を結合する結合材として機能する成分である。
【0037】
澱粉は、複数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した高分子材料である。澱粉は、直鎖状であってもよいし、分岐を含んでもよい。
【0038】
澱粉は、各種植物由来のものを用いることができる。澱粉の原料としては、トウモロコシ、小麦、米等の穀類、ソラマメ、緑豆、小豆等の豆類、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ等のイモ類、カタクリ、ワラビ、葛等の野草類、サゴヤシ等のヤシ類が挙げられる。
【0039】
また、澱粉として加工澱粉、変性澱粉を用いてもよい。加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、アセチル化澱粉、酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸物エステル化リン酸架橋澱粉、尿素リン酸化エステル化澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、高アミロースコーンスターチ等が挙げられる。また、変性澱粉としては、α化澱粉、デキストリン、ラウリルポリグルコース、カチオン化澱粉、熱可塑性澱粉、カルバミン酸澱粉等が挙げられる。
【0040】
射出成形用材料の総量にする澱粉の含有率は、2.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上65.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であることがさらに好ましい。なお、澱粉の含有率は、NMR法等の成分分析により測定することができ、必要に応じて酵素分解等の前処理手法を用いて測定できる。射出成形用材料中における澱粉の含有率は、後述する混合工程での混合量により調節できる。
【0041】
1.4.混合工程
本実施形態の射出成形用材料の製造方法は、上述の繊維化されたセルロースと、上述の疎水性生分解性材料と、上述の澱粉と、を気中で混合する混合工程を含む。
【0042】
本明細書において「気中で混合する」とは、気流の作用により混ぜ合わせることを指す。混合工程における混ぜ合わせ処理は、気流中にセルロース、疎水性生分解性材料、及び澱粉を導入して気流中で相互に拡散させる方法(乾式)であり、流体力学的な混合処理となっている。混合工程は、セルロース、疎水性生分解性材料、及び澱粉を同時に混合してもよいし、逐次的に混合してもよい。混合工程を各材料に関して逐次的に行う場合には、その順序も特に限定されない。また逐次的に行う場合には、セルロースに対して疎水性生分解性材料や澱粉を混合するようにすると、セルロースの集合体中により均一に疎水性生分解性材料や澱粉を配置しやすいので好ましい。
【0043】
混合工程では、大量の液体の水を媒体として混合するのではなく、空気や窒素等の気体中で混合する。すなわち、混合工程は、水のない完全な乾燥状態で混合してもよいし、液体の水が少量存在する又は水蒸気が存在する状態で混合してもよい。
【0044】
混合工程において水又は水蒸気を意図的に添加してもよいが、その場合には、後の工程において、かかる水を加熱等により除去するためのエネルギーや時間が大きくなりすぎない程度に添加することが好ましい。
【0045】
混合工程は、例えば、FMミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなど公知
の装置を用いて行うことができる。また装置としては、高速回転する羽根により攪拌するものであってもよいし、V型ミキサーのように容器の回転を利用するものであってもよい。さらにバッチ式の装置であっても連続式の装置であってもよい。連続式の装置の例としては、後述する製造装置の混合部を挙げることができ好ましい。
【0046】
1.5.その他の工程
射出成形用材料の製造方法は、混合工程の他に準備工程、加工工程等を有してもよい。
【0047】
1.5.1.準備工程
準備工程は、混合工程の前に、混合する物質を準備する工程である。準備工程としては、繊維化されたセルロースを準備するための繊維化工程、粉体状の疎水性生分解性材料や粉体状の澱粉を得るための粉砕工程、繊維状の疎水性生分解性材料を得るための紡糸工程等が挙げられる。
【0048】
(繊維化工程)
繊維化工程は、例えば、セルロース原料を乾式で解繊すること、セルロース原料を水中で離解することにより行うことができる。繊維化工程は、混合工程を乾式で行う点で、乾式で解繊して行うことがより好ましい。解繊は、例えば、後述の製造装置の解繊部により行うことができる。
【0049】
(粉砕工程)
粉砕工程は、公知の手法で行うことができ、例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ナノジェットマイザーなど公知の装置を用いて行うことができる。さらにバッチ式の装置であっても連続式の装置であってもよい。
【0050】
(紡糸工程)
紡糸工程は、公知の手法で行うことができ、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸等を例示できる。また、疎水性生分解性材料の糸を入手し、これを粉砕、切断して、繊維状の疎水性生分解性材料としてもよい。
【0051】
1.5.2.加工工程
加工工程は、混合工程の後に、例えば射出成形用材料の取り扱いを容易にするために行ってもよい。混合工程を経ることにより射出成形用材料が得られるが、さらに加工工程により成形してシート状、粗砕片状、ペレット状としてもよい。すなわち、加工工程を行うことによりシート状、粗片状、ペレット状の射出成形用材料が得られる。
【0052】
(成形工程)
成形工程は、例えば、後述する製造装置の成形部により行うことができ、この場合にはシート状の射出成形用材料を得ることができる。さらに必要に応じてシート状の射出成形用材料をシュレッダー等により裁断してもよく、この場合には粗片状の射出成形用材料を得ることができる。また、公知のペレタイザーを用いて加工工程を行ってもよく、この場合にはペレット状の射出成形用材料を得ることができる。
【0053】
1.6.射出成形用材料
上述のように、本実施形態に係る射出成形用材料は、繊維化されたセルロースと、繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有する疎水性生分解性材料と、粉体状の粒子形状を有する澱粉と、を含み、前記繊維化されたセルロースの集合体中で、前記疎水性生分解性材料と、前記澱粉と、が均一に分布している。
【0054】
本明細書において、「均一」との文言は、均一な分散や混合という場合には、2種以上
又は2相以上の成分を定義できる物体において、1つの成分の他の成分に対する相対的な存在位置が、系全体において一様、又は系の各部分において互いに同一若しくは実質的に等しいことを指す。また、一様とは、全ての成分の離間距離が同じでない場合も含む。
【0055】
上述したように、射出成形用材料は、繊維化されたセルロースとともに、疎水性生分解性材料、澱粉を含むが、疎水性生分解性材料、澱粉は、繊維化されたセルロースを結着していてもよいし、付着しているだけでもよい。
【0056】
また、射出成形用材料は、セルロース、疎水性生分解性材料、澱粉の他に、例えば、エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等の天然ガム糊;エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維素誘導糊;グリコーゲン、ヒアルロン酸、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等の多糖類;アルギン酸ソーダ、寒天等の海藻類;コラーゲン、ゼラチン、加水分解コラーゲン等の動物性蛋白質;サイズ剤;繊維化されたセルロース由来の不純物;澱粉由来の不純物;ヘミセルロース;リグニン;レーヨン、リヨセル、キュプラ、ビニロン、アクリル樹脂、ナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド等の合成高分子を含んでもよい。しかし、射出成形用材料やその成形物の環境適合性の点では、これらを含む場合には生分解性を有する物質であることが好ましい。
【0057】
ただし、射出成形用材料中における繊維化されたセルロース、疎水性生分解性材料及び澱粉以外の成分の含有率は、10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
射出成形用材料は、水分を含んでも含まなくてもよい。射出成形用材料を27℃/98%RHの環境下に2時間放置した場合の水分率は、例えば、10質量%以上55質量%以下である。
【0059】
なお水分率は、例えば、射出成形用材料を0.7g取り分けて、パール金属株式会社製、ラフィネ ステンレス製自動粉ふるいMを用いて射出成形用材料をクッキングペーパー上に円盤状に篩積層させ、そのクッキングシートごとステンレス製ピシャット網かご(新越ワークス社製)に載せ、恒温槽(エスペック株式会社製、恒温恒湿器プラチナス(登録商標)KシリーズPL―3KPHを用いて、27℃/98%RHに環境設定した状態に2時間放置した条件で、加熱乾燥式水分計(A&B株式会社製、MX-50)を用いること等により測定することができる。
【0060】
1.7.射出成形
本実施形態の射出成形用材料は、射出成形に用いられる。射出成形は、公知の射出成形機により行うことができる。本実施形態の射出成形用材料は、疎水性生分解性材料が溶融することにより射出成形に適した流動性を発現することができる。また射出成形の際に、射出成形用材料に水を添加してもよく、これにより澱粉の軟化や糊化を行ってもよい。これによりセルロースと澱粉との間の水素結合を形成しやすくなる。また、セルロース同士の水素結合も形成しやすくなる。
【0061】
射出成形用材料を用いて射出成形を行う場合に、射出成形用材料に添加される水分量は、水分率として70質量%程度であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。なお、射出成形時の温度は、50.0℃以上200.0℃以下が好ましい。
【0062】
1.8.成形物
射出成形用材料を射出成形して得られる成形物は、所定の型により、所定の形状に成形されたものである。これにより、かかる成形物は、耐水性、生分解性に優れている。また、この成形物は、リサイクル性や機械的強度等にも優れている。
【0063】
成形物の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、ブロック状、球状、三次元立体形状等、いかなる形状であってもよい。
【0064】
成形物は、その少なくとも一部が前述した射出成形用材料で構成されていればよく、射出成形用材料で構成されていない部位を有するものであってもよい。成形物の用途についても、特に限定されない。
【0065】
2.射出成形用材料の製造装置
次に、射出成形用材料の製造方法に好適に適用することができる製造装置について説明する。図1は、製造装置の好適な例を示す概略側面図である。
【0066】
なお、以下では、図1の上側を「上」又は「上方」、下側を「下」又は「下方」と言うことがある。また、図1は、概略構成図であり、製造装置100の各部の位置関係は、実際の位置関係とは異なる場合がある。また、各図において、セルロース原料M1、粗砕片M2、解繊物M3、第1選別物M4-1、第2選別物M4-2、第1ウェブM5、細分体M6、混合物M7、第2ウェブM8、シートSが搬送される方向、すなわち、矢印で示す方向を搬送方向とも言う。また、矢印の先端側を搬送方向下流側、矢印の基端側を搬送方向上流側とも言う。
【0067】
図1に示す製造装置100は、セルロース原料M1を粗砕、解繊し、添加剤供給部171から添加剤として疎水性生分解性材料及び澱粉を供給し、混合部17により、繊維化されたセルロース、疎水性生分解性材料及び澱粉を気中で混合し、堆積させ、堆積物を成形部20によって成形することでシート状の成形物を得る装置である。混合部17を経た時点で射出成形用材料が製造されるが、製造装置100では、射出成形用材料としてシート状の成形物を形成する。
【0068】
以下の説明では、セルロース原料M1として、古紙を用い、製造される成形物が、再生紙であるシートSである場合について中心的に説明する。
【0069】
図1に示す製造装置100は、シート供給装置11と、粗砕部12と、解繊部13と、選別部14と、第1ウェブ形成部15と、細分部16と、混合部17と、分散部18と、第2ウェブ形成部19と、成形部20と、切断部21と、ストック部22と、回収部27と、これらの作動を制御する制御部28と、を備えている。粗砕部12、解繊部13、選別部14、第1ウェブ形成部15、細分部16、混合部17、分散部18、第2ウェブ形成部19、成形部20、切断部21及びストック部22の各々が、シートを処理する処理部である。
【0070】
また、シート供給装置11と、粗砕部12又は解繊部13とにより、シート処理装置10Aが構成される。また、シート処理装置10Aと、第2ウェブ形成部19とにより、繊維体堆積装置10Bが構成される。
【0071】
また、製造装置100は、加湿部231と、加湿部232と、加湿部233と、加湿部234と、加湿部235と、加湿部236とを備えている。その他、製造装置100は、ブロアー261と、ブロアー262と、ブロアー263とを備えている。
【0072】
また、加湿部231~加湿部236及びブロアー261~ブロアー263は、制御部28と電気的に接続されており、制御部28によってその作動が制御される。すなわち、本実施形態では、1つの制御部28によって製造装置100の各部の作動が制御される構成である。ただし、これに限定されず、例えば、シート供給装置11の各部の作動を制御する制御部と、シート供給装置11以外の部位の作動を制御する制御部と、をそれぞれ有する構成であってもよい。
【0073】
また、製造装置100では、原料供給工程と、粗砕工程と、解繊工程と、選別工程と、第1ウェブ形成工程と、分断工程と、混合工程と、放出工程と、堆積工程と、シート形成工程と、切断工程とが実行される。このうち混合工程が、射出成形用材料の製造方法における混合工程に相当する。
【0074】
以下、各部の構成について説明する。シート供給装置11は、粗砕部12にセルロース原料M1を供給する原料供給工程を行う部分である。セルロース原料M1は、セルロースを含むものを用いる。また、セルロース原料M1として、繊維化されたセルロースと、当該繊維化されたセルロースに付着している疎水性生分解性材料及び澱粉とを含む射出成形用材料の成形物を用いてもよい。
【0075】
粗砕部12は、シート供給装置11から供給されたセルロース原料M1を大気中等の気中で粗砕する粗砕工程を行う部分である。粗砕部12は、一対の粗砕刃121と、シュート122とを有している。
【0076】
一対の粗砕刃121は、互いに反対方向に回転することにより、これらの間でセルロース原料M1を粗砕して、すなわち、裁断して粗砕片M2にすることができる。粗砕片M2の形状や大きさは、解繊部13における解繊処理に適していることが好ましく、例えば、1辺の長さが100mm以下の小片であることが好ましく、10mm以上70mm以下の小片であることがより好ましい。
【0077】
シュート122は、一対の粗砕刃121の下方に配置され、例えば漏斗状をなすものとなっている。これにより、シュート122は、粗砕刃121によって粗砕されて落下してきた粗砕片M2を受けることができる。
【0078】
また、シュート122の上方には、加湿部231が一対の粗砕刃121に隣り合って配置されている。加湿部231は、シュート122内の粗砕片M2を加湿するものである。この加湿部231は、水分を含むフィルターを有し、フィルターに空気を通過させることにより、湿度を高めた加湿空気を粗砕片M2に供給する気化式の加湿器で構成されている。加湿空気が粗砕片M2に供給されることにより、上記説明した加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、粗砕片M2が静電気によってシュート122等に付着するのを抑制することができる。
【0079】
シュート122は、管241を介して、解繊部13に接続されている。シュート122に集められた粗砕片M2は、管241を通過して、解繊部13に搬送される。
【0080】
解繊部13は、粗砕片M2を気中で、すなわち、乾式で解繊する解繊工程を行う部分である。この解繊部13での解繊処理により、粗砕片M2から解繊物M3を生成することができる。ここで「解繊する」とは、複数の繊維化されたセルロースが結着されてなる粗砕片M2を、繊維1本1本に解きほぐすことをいう。そして、この解きほぐされたものが解繊物M3となる。解繊物M3の形状は、線状や帯状である。また、解繊物M3同士は、絡み合って塊状となった状態、すなわち、いわゆる「ダマ」を形成している状態で存在してもよい。
【0081】
解繊部13は、例えば本実施形態では、高速回転する回転刃と、回転刃の外周に位置するライナーとを有するインペラーミルで構成されている。解繊部13に流入してきた粗砕片M2は、回転刃とライナーとの間に挟まれて解繊される。
【0082】
また、解繊部13は、回転刃の回転により、粗砕部12から選別部14に向かう空気の流れ、すなわち、気流を発生させることができる。これにより、粗砕片M2を管241から解繊部13に吸引することができる。また、解繊処理後、解繊物M3を、管242を介して選別部14に送り出すことができる。
【0083】
管242の途中には、ブロアー261が設置されている。ブロアー261は、選別部14に向かう気流を発生させる気流発生装置である。これにより、選別部14への解繊物M3の送り出しが促進される。
【0084】
選別部14は、解繊物M3を、繊維化されたセルロースの長さの大小によって選別する選別工程を行う部分である。選別部14では、解繊物M3は、第1選別物M4-1と、第1選別物M4-1よりも大きい第2選別物M4-2とに選別される。第1選別物M4-1は、その後のシートSの製造に適した大きさのものとなっている。その平均長さは、1μm以上30μm以下であることが好ましい。一方、第2選別物M4-2は、例えば、解繊が不十分なものや、解繊された繊維化されたセルロース同士が過剰に凝集したもの等が含まれる。
【0085】
選別部14は、ドラム部141と、ドラム部141を収納するハウジング部142とを有する。
【0086】
ドラム部141は、円筒状をなす網体で構成され、その中心軸回りに回転する篩である。このドラム部141には、解繊物M3が流入してくる。そして、ドラム部141が回転することにより、網の目開きよりも小さい解繊物M3は、第1選別物M4-1として選別され、網の目開き以上の大きさの解繊物M3は、第2選別物M4-2として選別される。第1選別物M4-1は、ドラム部141から落下する。
【0087】
一方、第2選別物M4-2は、ドラム部141に接続されている管243に送り出される。管243は、ドラム部141と反対側、すなわち、上流側が管241に接続されている。この管243を通過した第2選別物M4-2は、管241内で粗砕片M2と合流して、粗砕片M2とともに解繊部13に流入する。これにより、第2選別物M4-2は、解繊部13に戻されて、粗砕片M2とともに解繊処理される。
【0088】
また、ドラム部141から落下した第1選別物M4-1は、気中に分散しつつ落下して、ドラム部141の下方に位置する第1ウェブ形成部15に向かう。第1ウェブ形成部15は、第1選別物M4-1から第1ウェブM5を形成する第1ウェブ形成工程を行う部分である。第1ウェブ形成部15は、メッシュベルト151と、3つの張架ローラー152と、吸引部153とを有している。
【0089】
メッシュベルト151は、無端ベルトであり、第1選別物M4-1が堆積する。このメッシュベルト151は、3つの張架ローラー152に掛け回されている。そして、張架ローラー152の回転駆動により、メッシュベルト151上の第1選別物M4-1は、下流側に搬送される。
【0090】
第1選別物M4-1は、メッシュベルト151の目開き以上の大きさとなっている。これにより、第1選別物M4-1は、メッシュベルト151の通過が規制され、よって、メ
ッシュベルト151上に堆積することができる。また、第1選別物M4-1は、メッシュベルト151上に堆積しつつ、メッシュベルト151ごと下流側に搬送されるため、層状の第1ウェブM5として形成される。
【0091】
また、第1選別物M4-1には、例えば塵や埃等が混在しているおそれがある。塵や埃は、例えば、粗砕や解繊によって生じることがある。そして、このような塵や埃は、回収部27に回収されることとなる。
【0092】
吸引部153は、メッシュベルト151の下方から空気を吸引するサクション機構である。これにより、メッシュベルト151を通過した塵や埃を空気ごと吸引することができる。
【0093】
また、吸引部153は、管244を介して、回収部27に接続されている。吸引部153で吸引された塵や埃は、回収部27に回収される。
【0094】
回収部27には、管245がさらに接続されている。また、管245の途中には、ブロアー262が設置されている。このブロアー262の作動により、吸引部153で吸引力を生じさせることができる。これにより、メッシュベルト151上における第1ウェブM5の形成が促進される。この第1ウェブM5は、塵や埃等が除去されたものとなる。また、塵や埃は、ブロアー262の作動により、管244を通過して、回収部27まで到達する。
【0095】
ハウジング部142は、加湿部232と接続されている。加湿部232は、気化式の加湿器で構成されている。これにより、ハウジング部142内には、加湿空気が供給される。この加湿空気により、上記の加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、第1選別物M4-1を加湿することができ、よって、第1選別物M4-1がハウジング部142の内壁に静電力によって付着してしまうのを抑制することもできる。
【0096】
選別部14の下流側には、加湿部235が配置されている。加湿部235は、水を噴霧する超音波式加湿器で構成されている。これにより、第1ウェブM5に水分を供給することができ、よって、第1ウェブM5の水分量が調整される。この調整により加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、静電力による第1ウェブM5のメッシュベルト151への吸着を抑制することができる。これにより、第1ウェブM5は、メッシュベルト151が張架ローラー152で折り返される位置で、メッシュベルト151から容易に剥離される。
【0097】
加湿部235の下流側には、細分部16が配置されている。細分部16は、メッシュベルト151から剥離した第1ウェブM5を分断する分断工程を行う部分である。細分部16は、回転可能に支持されたプロペラ161と、プロペラ161を収納するハウジング部162とを有している。そして、回転するプロペラ161により、第1ウェブM5を分断することができる。分断された第1ウェブM5は、細分体M6となる。また、細分体M6は、ハウジング部162内を下降する。
【0098】
ハウジング部162は、加湿部233と接続されている。加湿部233は、気化式の加湿器で構成されている。これにより、ハウジング部162内には、加湿空気が供給される。この加湿空気により加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、細分体M6がプロペラ161やハウジング部162の内壁に静電力によって付着してしまうのを抑制することもできる。
【0099】
細分部16の下流側には、混合部17が配置されている。混合部17は、細分体M6と添加剤とを混合する混合工程を行う部分である。この混合部17は、添加剤供給部171と、管172と、ブロアー173とを有している。
【0100】
管172は、細分部16のハウジング部162と、分散部18のハウジング182とを接続しており、細分体M6と添加剤との混合物M7が通過する流路である。
【0101】
管172の途中には、添加剤供給部171が接続されている。添加剤供給部171は、添加剤が収容されたハウジング部170と、ハウジング部170内に設けられたスクリューフィーダー174とを有している。スクリューフィーダー174の回転により、ハウジング部170内の添加剤がハウジング部170から押し出されて管172内に供給される。管172内に供給された添加剤は、細分体M6と混合されて混合物M7となる。
【0102】
ここで、添加剤供給部171から供給される添加剤としては、例えば、繊維同士を結着させる結着剤や、繊維を着色するための着色剤、繊維の凝集を抑制するための凝集抑制剤、繊維等を燃えにくくするための難燃剤、シートSの紙力を増強するための紙力増強剤、解繊物等が挙げられ、これらのうちの一種又は複数種を組み合わせて用いることができる。以下では、添加剤が疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1である場合について説明する。
【0103】
添加剤供給部171から疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1を供給することにより、セルロース原料M1中における澱粉の含有率が比較的低い場合や、セルロース原料M1中に含まれていた澱粉のうち比較的多くの割合のものが製造装置100を用いた処理により除去されてしまう場合であっても、好適な射出成形用材料を得ることができる。すなわち、射出成形用材料中における疎水性生分解性材料及び澱粉の含有率を所定の範囲とすることができる。
【0104】
また疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1は、上記説明した射出成形用材料の構成成分としての疎水性生分解性材料及び澱粉と同様の条件を満足するものであることが好ましい。
【0105】
また、管172の途中には、添加剤供給部171よりも下流側にブロアー173が設置されている。ブロアー173が有する羽根等の回転部の作用により、細分体M6と疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1との混合が促進される。また、ブロアー173は、分散部18に向かう気流を発生させることができる。この気流により、管172内で、細分体M6と疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1とを撹拌することができる。混合物M7中の細分体M6は、管172内を通過する過程でほぐされて、より細かい繊維状となる。これにより、混合物M7は、細分体M6がほぐされ、かつ、疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物P1とが均一に分散した状態となる。すなわち、混合部17を経ることにより、繊維化されたセルロースの集合体中で、疎水性生分解性材料と、澱粉と、が均一に分布している射出成形用材料が生成する。
【0106】
本実施形態では射出成形用材料である混合物M7をシート状に成形するので、混合物M7は、さらに分散部18に搬送される。なお、本実施形態では混合物M7、第2ウェブM8、シートSは、いずれも射出成形用材料に該当する。
【0107】
なお、ブロアー173は、制御部28と電気的に接続されており、その作動が制御される。また、ブロアー173の送風量を調整することにより、ドラム181内に送り込む空気の量を調整することができる。
【0108】
なお、図示はしないが、管172は、ドラム181側の端部が2股に分岐しており、分岐した端部は、ドラム181の端面に形成された図示しない導入口にそれぞれ接続されている。
【0109】
図1に示す分散部18は、混合物M7における、互いに絡み合った繊維同士をほぐして放出する放出工程を行う部分である。分散部18は、解繊物である混合物M7を導入及び放出するドラム181と、ドラム181を収納するハウジング182と、ドラム181を回転駆動する駆動源183と、を有する。
【0110】
ドラム181は、円筒状をなす網体で構成され、その中心軸回りに回転する篩である。ドラム181が回転することにより、混合物M7のうち、網の目開きよりも小さい繊維等が、ドラム181を通過することができる。その際、混合物M7がさらにほぐされて空気とともに放出される。すなわち、ドラム181が、繊維を含む材料を放出する放出部として機能する。
【0111】
駆動源183は、図示はしないが、モーターと、減速機と、ベルトと、を有する。モーターは、モータードライバーを介して制御部28と電気的に接続されている。また、モーターから出力された回転力は、減速機によって減速される。ベルトは、例えば、無端ベルトで構成されており、減速機の出力軸及びドラムの外周に掛け回されている。これにより、減速機の出力軸の回転力がベルトを介してドラム181に伝達される。
【0112】
また、ハウジング182は、加湿部234と接続されている。加湿部234は、気化式の加湿器で構成されている。これにより、ハウジング182内には、加湿空気が供給される。この加湿空気により、ハウジング182内を加湿することができ、加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、混合物M7がハウジング182の内壁に静電力によって付着してしまうのを抑制することもできる。
【0113】
また、ドラム181で放出された混合物M7は、気中に分散しつつ落下して、ドラム181の下方に位置する第2ウェブ形成部19に向かう。第2ウェブ形成部19は、混合物M7を堆積させて堆積物である第2ウェブM8を形成する堆積工程を行う部分である。第2ウェブ形成部19は、メッシュベルト191と、張架ローラー192と、吸引部193とを有している。
【0114】
メッシュベルト191は、メッシュ部材であり、図示の構成では、無端ベルトで構成される。また、メッシュベルト191には、分散部18が分散、放出した混合物M7が堆積する。このメッシュベルト191は、4つの張架ローラー192に掛け回されている。そして、張架ローラー192の回転駆動により、メッシュベルト191上の混合物M7は、下流側に搬送される。
【0115】
なお、図示の構成では、メッシュ部材の一例としてメッシュベルト191を用いる構成であるが、本発明ではこれに限定されず、例えば、平板状をなすものであってもよい。
【0116】
また、メッシュベルト191上のほとんどの混合物M7は、メッシュベルト191の目開き以上の大きさである。これにより、混合物M7は、メッシュベルト191を通過してしまうことが規制され、よって、メッシュベルト191上に堆積することができる。また、混合物M7は、メッシュベルト191上に堆積しつつ、メッシュベルト191ごと下流側に搬送されるため、層状の第2ウェブM8として形成される。
【0117】
吸引部193は、メッシュベルト191の下方から空気を吸引するサクション機構である。これにより、メッシュベルト191上に混合物M7を吸引することができ、よって、
混合物M7のメッシュベルト191上への堆積が促進される。
【0118】
吸引部193には、管246が接続されている。また、この管246の途中には、ブロアー263が設置されている。このブロアー263の作動により、吸引部193で吸引力を生じさせることができる。
【0119】
分散部18の下流側には、加湿部236が配置されている。加湿部236は、加湿部235と同様の超音波式加湿器で構成されている。これにより、第2ウェブM8に水分を供給することができ、よって、第2ウェブM8の水分量が調整される。この調整により、加湿工程を行うことができ、上記のような効果を得ることができる。また、静電力による第2ウェブM8のメッシュベルト191への吸着を抑制することができる。これにより、第2ウェブM8は、メッシュベルト191が張架ローラー192で折り返される位置で、メッシュベルト191から容易に剥離される。
【0120】
なお、加湿部231~加湿部236までに加えられる合計水分量は、特に限定されないが、加湿工程終了時における混合物の水分率、すなわち、加湿部236で加湿された状態の第2ウェブM8の質量に対する、当該第2ウェブM8が含む水分の質量の割合は、15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、18質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。また、射出成形用材料としての第2ウェブM8やシートSを射出成形に適する性状となるように、加湿部234及び加湿部236は必要に応じて稼働する。
【0121】
第2ウェブ形成部19の下流側には、成形部20が配置されている。成形部20は、混合物である第2ウェブM8からシートSを形成するシート形成工程を行う部分である。この成形部20は、加圧部201と、加熱部202とを有している。
【0122】
加圧部201は、一対のカレンダーローラー203を有し、カレンダーローラー203の間で第2ウェブM8を加熱せずに加圧することができる。これにより、第2ウェブM8の密度が高められる。この第2ウェブM8は、加熱部202に向けて搬送される。なお、一対のカレンダーローラー203のうちの一方は、図示しないモーターの作動により駆動する主動ローラーであり、他方は、従動ローラーである。
【0123】
加熱部202は、一対の加熱ローラー204を有し、加熱ローラー204の間で第2ウェブM8を加熱しつつ、加圧することができる。これにより、シートSが形成される。そして、このシートSは、切断部21に向けて搬送される。なお、一対の加熱ローラー204の一方は、図示しないモーターの作動により駆動する主動ローラーであり、他方は、従動ローラーである。
【0124】
成形部20の下流側には、切断部21が配置されている。切断部21は、シートSを切断する切断工程を行う部分である。この切断部21は、第1カッター211と、第2カッター212とを有する。
【0125】
第1カッター211は、シートSの搬送方向と交差する方向、特に直交する方向にシートSを切断するものである。
【0126】
第2カッター212は、第1カッター211の下流側で、シートSの搬送方向に平行な方向にシートSを切断するものである。この切断は、シートSの幅方向の両側端部の不要な部分を除去して、シートSの幅を整えるものであり、切断除去された部分は、いわゆる「みみ」と呼ばれる。
【0127】
このような第1カッター211と第2カッター212との切断により、所望の形状、大きさのシートSが得られる。そして、このシートSは、さらに下流側に搬送されて、ストック部22に蓄積される。
【0128】
なお、成形部20としては、上記のようにシートSに成形する構成に限定されず、例えば、ブロック状、球状等の成形物に成形する構成であってもよい。また成形部20は、図示せぬシュレッダーを備えてもよく、シートSをシュレッダー片状の射出成形用材料としてもよい。
【0129】
このような製造装置100が備える各部は、制御部28と電気的に接続されている。そして、これら各部の作動は、制御部28によって制御される。
【0130】
射出成形用材料の製造に用いる製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0131】
また、射出成形用材料の製造方法は、前述した混合工程を有していればよく、製造装置100を用いる場合に限らず、いかなる装置を用いて行ってもよい。
【0132】
3.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0133】
3.1.評価試料の作成
実施例1~実施例3については、表1に示す配合で、繊維化されたセルロース、澱粉、疎水性生分解性材料を気中で混合して射出成形用材料を作成し、射出成型前に射出成型用材料に対し50%の水を添加し射出成型に用いた。また、比較例については、表1に示す配合成分を水中で混合した。表1中、気中で混合した実施例には「乾式」、水中で混合した比較例には「湿式」と記載した。なお比較例では、繊維化されたセルロースを500g、澱粉を250g、疎水性生分解性材料を250g、及び水を500g計量しFMミキサー(日本コークス社製)で10分間混合攪拌し射出成形用材料とした。
【0134】
【表1】
【0135】
また、表1中、繊維化されたセルロースは、上記実施形態で述べた製造装置の解繊部でパルプシートを解繊して得た。澱粉は、コーンスターチ(三和澱粉社製)を用いた。また、疎水性生分解性材料は、実施例1及び比較例では脱色シェラック(岐阜シェラック社製)の粗粉砕品(ハイスピードミルで粗粉砕後、70メッシュでふるい処理)を用い、実施例2では脱色シェラック(岐阜シェラック社製)の微粉処理品(ジェットミル処理)を用い、実施例3ではポリ乳酸短繊維(ユニチカ社製)を用いた。
【0136】
3.2.評価方法
3.2.1.成形物の作成
日精樹脂工業社製、小型射出成形機を用いて、各例の射出成形用材料を用いて中空形状のコーン形状の成形物を成形した。成形物の寸法は、底面直径12cm、上面直径2cm、高さ3cm、厚さ2mmとした。成形温度は、加熱筒70℃以上~100℃以下、金型温度160℃とした。
【0137】
3.2.2.成形物の均一性の評価
成形物の表面を目視で観察し、径1mm以上のムラが4個以下の場合を「A」、5個以上9個以下の場合を「B」、10個以上の場合を「C」とし、評価結果を表1に記載した。
【0138】
3.2.3.成形物の耐水性の評価
各例の成形物を、5分間水中に浸漬し、取り出した後、100gの金属製重り(底面積50cmのステンレス板)を成形物の上面に乗せ、室温で1時間静置した。その後、重りを除去し、成形物の上面の高さを計測した。当初成形物の高さ(3cm)に対し、荷重負荷後の成形物の高さの変化の割合が、10%未満の場合を「A」、10%以上20%未満の場合を「B」、20%以上の場合を「C」とし、評価結果を表1に記載した。
【0139】
3.3.評価結果
繊維化されたセルロースと、疎水性生分解性材料と、澱粉と、を気中で混合して製造した各実施例の射出成形用材料は、セルロースに対して疎水性生分解性材料及び澱粉が均一に分散した射出成形用材料を得ることができ、これを射出成形して得られる成形物の耐水性が良好であった。
【0140】
これに対して水中で混合して得た比較例の材料は、射出成形して得られる成形物において表面にムラが多かった。これは比較例の材料が水中で混合された結果、疎水性生分解性材料が凝集したことに起因すると考えられる。また耐水性も劣っており、これも疎水性生分解性材料の凝集に起因すると考えられる。
【0141】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0142】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0143】
射出成形用材料の製造方法は、
繊維化されたセルロースと、
疎水性生分解性材料と、
澱粉と、
を気中で混合する混合工程を含む。
【0144】
この製造方法によれば、セルロースに対して疎水性生分解性材料及び澱粉が均一に分散した射出成形用材料を得ることができる。また得られる射出成形用材料は、少量の水を添加することにより、耐水性の良好な成形物を形成することができる。
【0145】
上記製造方法において、
前記疎水性生分解性材料は、PLA、PHB、PCL、PBS、PHBH、PBAC、PBAT、植物由来PBS、酢酸セルロース、シェラック、ロジン、カルナウバロウ、サトウキビワックス、及び、こんにゃく粉から選択される1種以上を含んでもよい。
【0146】
この製造方法によれば、さらに射出成形用途に適し、より強度の良好な成形物を形成できる射出成形用材料を製造することができる。
【0147】
上記製造方法において、
前記疎水性生分解性材料は、繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有してもよい。
【0148】
この製造方法によれば、疎水性生分解性材料がセルロースに対してさらに均一に分布させることができるので、さらに射出成形に好適な射出成型用材料を製造することができる。
【0149】
上記製造方法において、
前記疎水性生分解性材料は、繊維径が0.1μm以上500.0μm以下の繊維状の粒子形状を有してもよい。
【0150】
上記製造方法において、
前記疎水性生分解性材料は、体積平均粒子径が0.1μm以上1.0mm以下の粉体状の粒子形状を有してもよい。
【0151】
射出成形用材料は、
繊維化されたセルロースと、
繊維状及び粉体状の一方又は両方の粒子形状を有する疎水性生分解性材料と、
粉体状の粒子形状を有する澱粉と、
を含み、
前記繊維化されたセルロースの集合体中で、前記疎水性生分解性材料と、前記澱粉と、が均一に分布している。
【0152】
この射出成形用材料によれば、少量の水を添加することにより、耐水性の良好な成形物を形成することができる。
【符号の説明】
【0153】
100…製造装置、10A…シート処理装置、10B…繊維体堆積装置、11…シート供給装置、12…粗砕部、13…解繊部、14…選別部、15…第1ウェブ形成部、16…細分部、17…混合部、18…分散部、19…第2ウェブ形成部、20…成形部、21…切断部、22…ストック部、27…回収部、28…制御部、121…粗砕刃、122…シュート、141…ドラム部、142…ハウジング部、151…メッシュベルト、152…張架ローラー、153…吸引部、161…プロペラ、162…ハウジング部、170…ハ
ウジング部、171…添加剤供給部、172…管、173…ブロアー、174…スクリューフィーダー、181…ドラム、182…ハウジング、183…駆動源、191…メッシュベルト、192…張架ローラー、193…吸引部、201…加圧部、202…加熱部、203…カレンダーローラー、204…加熱ローラー、211…第1カッター、212…第2カッター、231…加湿部、232…加湿部、233…加湿部、234…加湿部、235…加湿部、236…加湿部、241…管、242…管、243…管、244…管、245…管、246…管、261…ブロアー、262…ブロアー、263…ブロアー、281…CPU、282…記憶部、M1…繊維原料、M2…粗砕片、M3…解繊物、M4-1…第1選別物、M4-2…第2選別物、M5…第1ウェブ、M6…細分体、M7…混合物、M8…第2ウェブ、S…シート、P1…疎水性生分解性材料及び澱粉の混合物
図1