(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エアレスタイヤ及びタイヤ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 7/00 20060101AFI20241016BHJP
B29D 30/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60C7/00 H
B29D30/00
(21)【出願番号】P 2020169100
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0136814(US,A1)
【文献】特開2017-185925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0368877(US,A1)
【文献】特表2013-522110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
B29D 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸が固定されるホイールのタイヤ径方向外側に同心円状に配置され、地面と接地する接地面を有するトレッドリングと、
前記トレッドリングのタイヤ径方向内側、且つ前記ホイールの径方向外側に同心円状に配置され、前記ホイールに対して前記トレッドリングを支持するボディと、を有し、
前記トレッドリングは、
タイヤ周方向に延在してタイヤ周方向に剛性を付加する第1補剛部材が、タイヤ幅方向にかけて複数配置された第1補強層と、
タイヤ幅方向における前記トレッドリングの第1端面と第2端面との間に延在してタイヤ幅方向に剛性を付加する第2補剛部材が、タイヤ周方向にかけて複数配置された第2補強層と、を有し、
前記第2補剛部材は、
前記第2補剛部材の一方の端部から他方の端部にかけて、
前記第1補強層までの距離が変化する
エアレスタイヤ。
【請求項2】
前記第1補強層は、前記第2補強層のタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側とにそれぞれ配置されている
請求項1記載のエアレスタイヤ。
【請求項3】
前記第2補剛部材は、
前記第1端面から前記第2端面までの全域に直線状に延在し、タイヤ回転軸に対して傾斜する
請求項1又は2記載のエアレスタイヤ。
【請求項4】
前記第2補剛部材は、
前記第1端面と前記第2端面との中間部で2分割され、それぞれが前記タイヤ回転軸に対して傾斜し、
2分割された前記第2補剛部材は、前記中間部を境に屈曲し、前記タイヤ回転軸に対する傾斜がそれぞれ逆傾斜となる
請求項1又は2記載のエアレスタイヤ。
【請求項5】
前記第2補強層は、
前記第1端面と前記第2端面との間に延在して、タイヤ周方向にかけて複数配置された第3補剛部材をさらに含み、
前記第3補剛部材は、
タイヤ幅方向に沿って前記第1端面から前記第2端面までの全域に直線状に延在し、タイヤ回転軸に対して傾斜し、
前記第3補剛部材のタイヤ回転軸に対する傾斜は、前記第2補剛部材のタイヤ回転軸に対する傾斜に対して逆傾斜となる
請求項3記載のエアレスタイヤ。
【請求項6】
前記第2補剛部材と前記第3補剛部材とは、タイヤ周方向にかけて交互に配置され、
隣り合う関係にある前記第2補剛部材と前記第3補剛部材とは、タイヤ周方向でみたときに平行となるように配列されている
請求項5記載のエアレスタイヤ。
【請求項7】
前記第2補剛部材と、前記第3補剛部材とは、タイヤ周方向にかけて交互に配置され、
隣り合う関係にある前記第2補剛部材と前記第3補剛部材とは、タイヤ周方向でみたときに交差するように配列されている
請求項5記載のエアレスタイヤ。
【請求項8】
未加硫ゴムからなるシート状材料を所定の送り方向に沿って送り出して円筒状の枠体に順番に積層し、積層された材料のそれぞれを加硫してタイヤ構造体を製造する製造方法において、
それぞれが前記送り方向に延在する複数の第1補剛部材と未加硫ゴムとから形成された第1シート状材料を送り出し、前記枠体の外周面に積層する工程と、
未加硫ゴムとから形成された第2シート状材料であって、前記送り方向に沿って延在する稜線を境に逆傾斜となる一対の傾斜面を備えた前記第2シート状材料を送り出し、前記第1シート状材料の外周面に積層する工程と、
それぞれが前記送り方向と直交する方向に延在する複数の第2補剛部材と未加硫ゴムとから形成された第3シート状材料を、前記一対の傾斜面のそれぞれに積層する工程と、を有する
タイヤ構造体の製造方法。
【請求項9】
未加硫ゴムからなるシート状材料を所定の送り方向に沿って送り出して円筒状の枠体の外周面に順番に積層し、積層された材料のそれぞれを加硫してタイヤ構造体を製造する製造方法において、
それぞれが前記送り方向に延在する複数の第1補剛部材と未加硫ゴムとから形成された第1シート状材料を送り出し、前記枠体の外周面に積層する工程と、
未加硫ゴムとから形成された第2シート状材料であって、前記送り方向に沿って延在する稜線を境に逆傾斜となる一対の傾斜面を備えた前記第2シート状材料を送り出し、前記第1シート状材料の外周面に積層する工程と、
前記送り方向に沿って交互に並べられた第2補剛部材及び第3補剛部材が前記送り方向に延在する未加硫ゴムに挿通された補剛部材構造体を、前記稜線に沿って積層する工程と、
前記第2補剛部材のそれぞれを前記一対の傾斜面の一方の面に沿って傾斜させ、前記第3補剛部材のそれぞれを前記一対の傾斜面の他方の面に沿って傾斜させる工程と、を有する
タイヤ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレスタイヤ及びタイヤ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、接地面を構成するトレッドゴム層と、そのタイヤ半径内側に配される補強ゴム層とを含むトレッドリングの構造が開示されている。このトレッドリングは、トレッドゴム層の最も近くに設けられた外側補強コード層と、外側補強コード層のタイヤ径方向内側に設けられた内側補強コード層とをさらに備えている。この外側補強コード層と内側補強コード層との間に、補強ゴム層が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された手法は、タイヤ横力、すなわちタイヤ幅方向の力に対するトレッドリングの変形を抑制することができない可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤ幅方向の力に対するトレッドリングの変形を抑制することができるエアレスタイヤ及びエアレスタイヤの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエアレスタイヤは、地面と接地する接地面を有するトレッドリングを備えている。このトレッドリングは、第1補剛部材が、タイヤ幅方向にかけて複数配置された第1補強層と、タイヤ幅方向に剛性を付加する第2補剛部材が、タイヤ周方向にかけて複数配置された第2補強層と、を有している。第2補剛部材は、第2補剛部材の一方の端部から他方の端部にかけて、タイヤ回転軸までの距離が変化する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤ幅方向の力に対するトレッドリングの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るエアレスタイヤを示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すエアレスタイヤの要部を示す斜視断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1のAA線に沿うトレッドリングの断面構造を模式的に示す図であり、
図3(b)は、
図3(a)のBB線に沿うトレッドリングの断面構造を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図3(a)の領域R1を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図3(a)のCC線に沿うトレッドリングの断面構造の主要部を示す図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、第1変形例に係るトレッドリングの構造を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、第1変形例に係るトレッドリングの構造を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、第1変形例に係るトレッドリングの製造工程を示す説明図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、第1変形例に係るトレッドリングの製造工程を示す説明図である。
【
図11】
図11(a)は、第2の実施形態に係るエアレスタイヤに適用されるトレッドリングを模式的に示す断面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のDD線に沿うトレッドリングの断面構造を模式的に示す図である。
【
図12】
図12(a)及び
図12(b)は、第1傾斜補剛部材と第2傾斜補剛部材との関係を示す説明図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(c)は、第2変形例に係るエアレスタイヤに適用されるトレッドリングの製造工程の一部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1から
図3を参照して、本実施形態に係るエアレスタイヤ1の構成を説明する。エアレスタイヤ1は、ホイール2と、ボディ3と、トレッドリング4とで構成されている。
【0011】
ホイール2は、車両に設けられたハブを介して車軸に固定される。ホイール2は、円盤形状を有し、ボルトなどの締結手段によってハブに固定される。
【0012】
ボディ3は、トレッドリング4のタイヤ径方向内側、且つ、ホイール2のタイヤ径方向外側に同心円状に配置されている。ボディは、ホイール2及びトレッドリング4にそれぞれ結合されており、ホイール2に対してトレッドリング4を支持する弾性支持部材である。ボディ3は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。ボディ3が弾性変形することで、エアレスタイヤ1は、車両の重量を支えたり、地面から入力される衝撃を吸収したりすることができる。
【0013】
ボディ3は、内周ボディリング31と、複数のスポーク32と、外周ボディリング33とを有している。内周ボディリング31と、複数のスポーク32と、外周ボディリング33とは、一体に形成されている。
【0014】
内周ボディリング31は、ホイール2のタイヤ径方向外側に配置されている。内周ボディリング31は、円筒形状を有し、ホイール2の外周面と結合されている。
【0015】
複数のスポーク32は、内周ボディリング31と、外周ボディリング33とを連結する。複数のスポーク32は、タイヤ周方向に沿って一定のピッチで配置され、タイヤ径方向に沿って放射状に延在している。スポーク32のタイヤ径方向外側の端部は外周ボディリング33に連結され、スポーク32のタイヤ径方向内側の端部は、内周ボディリング31に連結されている。
【0016】
タイヤ周方向に隣り合う一対のスポーク32と、内周ボディリング31と、外周ボディリング33との間には、空間部が形成されているが、ボディ3を形成する材料とは異なる材料が充填されてもよい。
【0017】
外周ボディリング33は、トレッドリング4のタイヤ径方向内側に配置されている。外周ボディリング33は、円筒形状を有しており、外周ボディリング33の外周面にはトレッドリング4が装着される。
【0018】
内周ボディリング31と外周ボディリング33とを連結する場合、複数のスポーク32を放射状に設ける構造に限らない。ハニカム構造を有するセル型、又は、放射形状以外の空隙構造であってもよい。
【0019】
トレッドリング4は、ホイール2のタイヤ径方向外側に、ボディ3を隔てて同心円状に配置されている。トレッドリング4は、円筒形状を有しており、トレッドリング4の外周面は、地面と接地する接地面となる。車両側で発生した力(駆動力又は制動力)は、ホイール2、ボディ3、及びトレッドリング4を介して地面に伝達される。そして、エアレスタイヤが転舵された場合、タイヤ進行方向とタイヤ方向とのずれにより、トレッドリング4は、タイヤ回転軸方向(タイヤ幅方向)の力(横力)を発生させる。
【0020】
このような構造のエアレスタイヤ1において、外周ボディリング33及びトレッドリング4は、互いに結合されており、タイヤ周方向に延在する環状構造体を構成する。この環状構造体において、外周ボディリング33は、環状構造体の内周層に相当し、トレッドリング4は、環状構造体の外周層に相当する。
【0021】
図3(a)、
図3(b)、
図4及び
図5を参照し、トレッドリング4の詳細について説明する。トレッドリング4は、トレッド外周層41と、トレッド内周層42と、トレッド中間層43とで構成されている。
【0022】
トレッド外周層41は、トレッドリング4において最も外側に位置する層である。トレッド外周層41は、円筒形状を有している。トレッド外周層41の外周面には接地面であり、接地面には必要なトレッドパターンが設けられている。
【0023】
トレッド内周層42は、トレッドリング4において最も内側に位置する層である。トレッド内周層42は、円筒形状を有しており、外周ボディリング33の外周面と結合されている。
【0024】
トレッド中間層43は、トレッドリング4においてトレッド外周層41とトレッド内周層42との間に位置する層である。トレッド内周層42は、円筒形状を有しており、トレッド外周層41とトレッド内周層42とそれぞれ結合されている。トレッド中間層43は、タイヤ幅方向及びタイヤ周方向に高い剛性を備えている。
【0025】
トレッド中間層43は、第1環状補強層430と、第2環状補強層440と、傾斜補強層450と、第1及び第2補充層460a、460bとで構成されている。
【0026】
第1環状補強層430は、タイヤ幅方向からみたときに(
図3(b)、
図5)、タイヤ周方向に沿って連続する円環形状を有している。第1環状補強層430は、トレッド中間層43においてタイヤ径方向の最も内側に位置し、トレッド内周層42と結合されている。第1環状補強層430は、タイヤ幅方向においてトレッド中間層43の全域に存在している。第1環状補強層430は、第1環状層形成部431と、第1環状層形成部431によって結合された複数の第1環状補剛部材432とで構成されている。
【0027】
第1環状層形成部431は、タイヤ周方向に延在し、複数の第1環状補剛部材432を結合する。第1環状層形成部431は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。
【0028】
複数の第1環状補剛部材432は、タイヤ幅方向にかけて一定の間隔で配列されている。複数の第1環状補剛部材432は、タイヤ幅方向において第1環状層形成部431の全域に設けられている。複数の第1環状補剛部材432は、タイヤ幅方向にかけて互いに密着するように配列されてもよい。
【0029】
個々の第1環状補剛部材432は、第1環状層形成部431の内部に存在し、第1環状層形成部431と同様にタイヤ周方向に延在している。個々の第1環状補剛部材432は、トレッド中間層43、ひいてはトレッドリング4に対してタイヤ周方向に剛性を付加する部材である。第1環状補剛部材432は、金属の撚り線からなるワイヤ、又は強化繊維材料からなるワイヤなどから構成されている。
【0030】
第2環状補強層440は、タイヤ幅方向からみたときに(
図3(b)、
図5)、タイヤ周方向に沿って連続する円環形状を有している。第2環状補強層440は、トレッド中間層43においてタイヤ径方向の最も外側に位置し、トレッド外周層41と結合されている。第2環状補強層440は、タイヤ幅方向においてトレッド中間層43の全域に存在している。第2環状補強層440は、第2環状層形成部441と、第2環状層形成部441によって結合された複数の第2環状補剛部材442とで構成されている。
【0031】
第2環状層形成部441は、タイヤ周方向に延在し、複数の第2環状補剛部材442を結合する。第2環状層形成部441は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。
【0032】
複数の第2環状補剛部材442は、タイヤ幅方向にかけて一定の間隔で配列されている。複数の第2環状補剛部材442は、タイヤ幅方向おいて第2環状層形成部441の全域に設けられている。複数の第2環状補剛部材442は、タイヤ幅方向にかけて互いに密着するように配列されてもよい。
【0033】
個々の第2環状補剛部材442は、第2環状層形成部441の内部に存在し、第2環状層形成部441と同様にタイヤ周方向に延在している。個々の第2環状補剛部材442は、トレッド中間層43、ひいてはトレッドリング4に対してタイヤ周方向に剛性を付加する部材である。第2環状補剛部材442は、金属の撚り線からなるワイヤ、又は強化繊維材料からなるワイヤなどから構成されている。
【0034】
傾斜補強層450は、タイヤ幅方向からみたときに(
図3(b)、
図5)、タイヤ周方向に沿って連続的に設けられている。傾斜補強層450は、トレッド中間層43において第1環状補強層430と第2環状補強層440との間に位置している。傾斜補強層450は、タイヤ幅方向においてトレッド中間層43の全域に存在している。傾斜補強層450は、傾斜層形成部451と、傾斜層形成部451によって結合された複数の傾斜補剛部材452とで構成されている。
【0035】
傾斜層形成部451は、タイヤ周方向に延在し、複数の傾斜補剛部材452を結合する。傾斜層形成部451は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。
【0036】
複数の傾斜補剛部材452は、タイヤ周方向にかけて一定の間隔で配列されている。複数の傾斜補剛部材452は、タイヤ周方向において傾斜層形成部451の全域に設けられている。複数の傾斜補剛部材452は、タイヤ幅方向にかけて互いに密着するように配列されてもよい。
【0037】
個々の傾斜補剛部材452は、傾斜層形成部451の内部に存在し、タイヤ幅方向と平行に延在している。個々の傾斜補剛部材452は、トレッド中間層43、ひいてはトレッドリング4に対してタイヤ幅方向に剛性を付加する部材である。傾斜補剛部材452は、金属の撚り線からなるワイヤ、又は強化繊維材料からなるワイヤなどから構成されている。
【0038】
傾斜補剛部材452は、タイヤ幅方向におけるトレッドリング4の第1端面4aから第2端面4bまでの全域に設けられている。傾斜補剛部材452は、直線状に延在しており、タイヤ回転軸を含む断面でみたとき(
図3(b)、
図5)タイヤ回転軸に対して傾斜している。第1端面4a側に位置する傾斜補剛部材452の一方の端部は、第1環状補強層430に近接し、第2端面4b側に位置する傾斜補剛部材452の他方の端部は、第2環状補強層440に近接している。すなわち、傾斜補剛部材452は、一方の端部から他方の端部にかけて、タイヤ回転軸までの距離が変化している。
【0039】
第1及び第2補充層460a、460bのそれぞれは、タイヤ幅方向からみたときに、タイヤ周方向に沿って連続的に設けられている。第1補充層460aは、トレッド中間層43において第1環状補強層430と傾斜補強層450との間に位置している。第2補充層460bは、トレッド中間層43において傾斜補強層450と第2環状補強層440との間に位置している。タイヤ回転軸を含む平面で捉えた場合、第1及び第2補充層460a、460bの断面は、それぞれ略三角形状を有しており、層間の隙間を補充する役割を担っている。第1及び第2補充層460a、460bのそれぞれは、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。
【0040】
このような構成のトレッドリング4によれば、第1及び第2環状補強層430、440における第1及び第2環状補剛部材432、442の面積比率を増やすことで、第1及び第2環状補強層430、440のタイヤ周方向の剛性を向上させることができる。
【0041】
また、傾斜補強層450を第1及び第2環状補強層430、440で挟み込む構成とすることで、一対の環状補強層430、440のタイヤ径方向の間隔を広くとることができる。トレッドリング4の縦剛性を高めることができるので、円筒状のトレッドリング4にタイヤ回転軸と直交方向の力が作用してもトレッドリング4の変形を抑えることが可能になる。これにより、転がり抵抗の低減と操縦安定性とを両立させることができる。
【0042】
また、傾斜補強層450における傾斜補剛部材452の面積比率を増やすことで、傾斜補強層450のタイヤ幅方向の剛性を向上させることができる。
【0043】
加えて、傾斜補強層450を設けているので、傾斜補剛部材452が、第1端面4aから第2端面4bまでの全域に延在し、タイヤ回転軸に対して傾斜する。
【0044】
このような構造にすることで、タイヤ接地面に作用するタイヤ横力に対して、第1及び第2環状補強層430、440のせん断変形を抑制することができる。すなわち、せん断剛性を高めることができるので、タイヤ幅方向の力に対するトレッドリング4の変形を抑制することができる。これにより、単位横すべり角あたりのタイヤの横力であるコーナリングパワーの低下を抑制することができるので、転がり抵抗の低減と操縦安定性とを両立させることができる。
【0045】
また、この構成によれば、傾斜補剛部材452が、第1端面4aの近傍及び第2端面4bの近傍まで延在している。トレッドリング4の全体でタイヤ横力に対する変形を抑制することができるので、タイヤ横力をタイヤ接地面全体で発生させることができる。これにより、タイヤのコーナリングパワーの低下を抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、傾斜補剛部材452は、タイヤ回転軸に対して直線状に傾斜している。しかしながら、傾斜補剛部材452は、直線状の傾斜に限定されない。
【0047】
また、傾斜補剛部材452は、第1端面4aから第2端面4bにかけてタイヤ回転軸までの距離が変化していればよい。以下、傾斜層形成部451及び傾斜補剛部材452を含む傾斜補強層450のバリエーションを説明する。
【0048】
まず、
図6(a)及び
図6(b)を参照し、第1変形例に係るエアレスタイヤ1のトレッドリング4を説明する。第1変形例では、傾斜補強層450が、第1端面4aと第2端面4bとの中央部(中間部の一例)で分割されている。2つに分割された傾斜補強層450は、タイヤ幅方向の中央部を境に屈曲しており、互いに逆傾斜となるように、タイヤ回転軸に対してそれぞれ傾斜している。
【0049】
図6(a)に示す例では、分割された傾斜補強層450の屈曲点は、トレッド内周層42側に設定されている。そして、傾斜補強層450は、この屈曲点からトレッド外周層41側に向かうように傾斜している。一方、
図6(b)に示す例では、分割された傾斜補強層450の屈曲点は、トレッド外周層41側に設定されている。そして、傾斜補強層450は、この屈曲点からトレッド内周層42側に向かうように傾斜している。
【0050】
図6(a)及び
図6(b)に示す例では、タイヤ幅方向の中央部で分割された傾斜補強層450(以下「分割型の傾斜補強層450」という)を、トレッド中間層43に1層のみ設けている。しかしながら、分割型の傾斜補強層450を、トレッド中間層43に複数層設けてもよい。
【0051】
図7(a)に示す例では、分割型の傾斜補強層450が、タイヤ径方向の内側と外側とにそれぞれ設けられている。
図7(a)に示す例では、2つの分割型の傾斜補強層450は、屈曲点がタイヤ径方向の中央で近接するように互いに逆傾斜で設けられている。2つの分割型の傾斜補強層450は、屈曲点がタイヤ径方向の中央で近接するように互いに逆傾斜で設けられている。また、2つの分割型の傾斜補強層450の間には、層間の隙間を補充する第3補充層460cが設けられている。
【0052】
2つの分割型の傾斜補強層450は、屈曲点とは反対側の端部がタイヤ径方向の中央で近接するように互いに逆傾斜で設けられていてもよい。
【0053】
また、
図7(b)に示すように、2つに分割された傾斜補強層450をタイヤ幅方向に隔離して、その間に、第3環状補強層455を設けてもよい。第3環状補強層455は、第1環状補強層430及び第2環状補強層440と対応する構成である。
【0054】
第1変形例の構成によれば、傾斜補強層450は、タイヤ幅方向の中央に対して略対称の構造となる。このため、左方向又は右方向といったタイヤ横力の向きの違いによらず、タイヤ幅方向の力に対するトレッドリング4の変形を抑制することができる。
【0055】
図8から
図10を参照し、
図6(b)に示す構造のトレッドリング4の製造方法を説明する。タイヤ構造体であるトレッドリング4は、未加硫ゴムからなるシート状材料を所定の送り方向に沿って送り出して円筒状の枠体200の外周面に順番に積層し、積層されたシート状材料のそれぞれを加硫することで製造される。なお、以下に示す工程では、トレッド外周層41、トレッド内周層42を積層する工程は、便宜上省略されている。
【0056】
第1工程では、第1シート状材料を送り出し、枠体200の外周面に積層する。第1シート状材料は、それぞれが送り方向に延在する複数の第1環状補剛部材432と、未加硫ゴム(第1環状層形成部431)から形成されている。
図8(a)に示すように、第1シート状材料は、第1環状補強層430に対応する。
【0057】
第2工程では、第2シート状材料を送り出し、第1シート状材料の外周面に積層する。第2シート状材料は、送り方向に沿って延在する稜線を境に逆傾斜となる一対の傾斜面を備えており、未加硫ゴムから形成されている。第2シート状材料は、一対の傾斜面が上向きとなる状態で送り出される。
図8(b)に示すように、第2シート状材料は、第1補充層460aに相当する。
【0058】
第3工程では、第3シート状材料を送り出し、第2シート状材料の一方の傾斜面に積層する。
図9に示すように、第3シート状材料は、それぞれが送り方向と直交する方向に延在する複数の傾斜補剛部材452と未加硫ゴム(傾斜層形成部451)とから形成されている。
図8(c)及び
図10(a)に示すように、第3シート状材料は、分割された傾斜補強層450の一方に対応する。そして、第2シート状材料の他方の傾斜面にも、分割された傾斜補強層450の他方に対応する第3シート状材料が積層される。
【0059】
第4工程では、第4シート状材料を送り出し、第3シート状材料の外周面に積層する。第4シート状材料は、第3シート状材料の一対の傾斜面と対応する凹面を備えており、未加硫ゴムから形成されている。
図10(b)に示すように、第4シート状材料は、第2補充層460bに相当する。
【0060】
第5工程では、第5シート状材料を送り出し、第4シート状材料の外周面に積層する。第5シート状材料は、それぞれが送り方向に延在する複数の第2環状補剛部材442と、未加硫ゴム(第2環状層形成部441)から形成されている。
図10(c)に示すように、第5シート状材料は、第2環状補強層440に対応する。
【0061】
このような一連の工程を経て、未加硫ゴムと補剛材料とによって円筒状にトレッドリング4が成形され、このトレッドリング4に熱及び圧力を加えた加硫を行うことで、積層された各シート状材料が結合し、
図6(b)に示す構造のトレッドリング4が完成する。
【0062】
トレッドリング4が製造されると、ホイール2とトレッドリング4との間に、ボディ3を圧入、接合することでエアレスタイヤ1を製造することができる。ボディ3は、例えば、ポッディング、射出成形、3Dプリンタなどの各種の手法で形成される。
【0063】
この製造方法によれば、傾斜補剛部材452が、タイヤ回転軸までの距離が変化するように、タイヤ幅方向を横断する。これにより、タイヤのコーナリングパワーの低下を抑制し、転がり抵抗の低減と操縦安定性とを両立させることができるエアレスタイヤを製造することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係るエアレスタイヤ1を説明する。第2の実施形態に係るエアレスタイヤ1が、第1の実施形態のそれと相違する点は、トレッドリング4の構造である。以下、説明の便宜上、第1の実施形態で示した傾斜補剛部材452を、第1傾斜補剛部材452aという。
【0065】
図11に示すように、傾斜補強層450は、複数の第1傾斜補剛部材452aと、複数の第2傾斜補剛部材452bとで構成されている。第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとは、タイヤ周方向にかけて交互に配置されている。第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとの間には、層間の隙間を補充する第3補充層460cが設けられている。
【0066】
第1傾斜補剛部材452aの構成は、第1の実施形態に示す通りである。第2傾斜補剛部材452bの構成も、第1傾斜補剛部材452aの構成と基本的に同じであるが、第2傾斜補剛部材452bのタイヤ回転軸に対する傾斜が、第1傾斜補剛部材452aのタイヤ回転軸に対する傾斜に対して逆傾斜となる点において相違している。
【0067】
図12(a)において、yはタイヤ軸方向における原点からの距離、rはタイヤ径方向における原点からの距離、θはタイヤ回転角度である。本実施形態では、
図12(a)で示すように、隣り合う関係にある第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bは、タイヤ周方向でみたときに平行となるように配列されている。
【0068】
この構成によれば、第1傾斜補剛部材452a及び第2傾斜補剛部材452bが、第1端面4aの近傍及び第2端面4bの近傍まで延在する。このため、タイヤ横力に対するトレッドリング4全体の変形を抑制することができるので、タイヤ横力をタイヤ接地面全体で発生させることができる。これにより、タイヤのコーナリングパワーの低下を抑制することができる。
【0069】
また、第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとを逆傾斜で配置することで、タイヤ横力が右側へ発生する場合でも、左側へ発生する場合でも、トレッドリングの変形を同じにすることができる。よって、タイヤ横力の方向の違いに対するコーナリングパワーの変化を抑制することができる。
【0070】
なお、
図12(b)に示すように、隣り合う関係にある第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとは、タイヤ周方向でみたときに交差するように配列されていてもよい。この構成によれば、第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとにより、タイヤ周方向の剛性を上げることができる。これにより、転がり抵抗の低減を図ることができる。
【0071】
つぎに、
図11に示す構造のトレッドリング4の製造方法を説明する。第2の実施形態に係る製造方法も、基本的な流れは第1の実施形態に示す通りであり、第1工程、第2工程及び第5工程は同じである。
【0072】
第3工程を具体的に説明する。
図13(a)に示すように、補剛部材構造体を用意する。補剛部材構造体は、送り方向に沿って交互に並べられた第1傾斜補剛部材452a及び第2傾斜補剛部材452bが、送り方向に延在する未加硫ゴム470に挿通されたものである。そして、
図13(b)に示すように、補剛部材構造体を、第1補充層460aに相当する第2シート状材料の稜線に沿って積層する。
【0073】
つぎに、第1傾斜補剛部材452aのそれぞれを、一対の傾斜面の一方の面に沿って傾斜させる。また、第2傾斜補剛部材452bのそれぞれを、一対の傾斜面の他方の面に沿って傾斜させる。
【0074】
最後に、
図13(c)に示すように、第1傾斜補剛部材452aと第2傾斜補剛部材452bとの隙間に、送り方向に延在する未加硫ゴム(第3補充層460c)を、送り方向と直交する方向から挿入する。
【0075】
そして、第4工程では、第4シート状材料を送り出し、補剛部材構造体の外周面に積層する。第4シート状材料は、送り方向に沿って延在する稜線を境に逆傾斜となる一対の傾斜面を備えており、未加硫ゴムから形成されている。第4シート状材料は、一対の傾斜面が下向きとなる状態で送り出される。第2シート状材料は、第2補充層460bに相当する。
【0076】
以上の工程を経て、未加硫ゴムと補剛材料とによって円筒状にトレッドリング4が成形され、このトレッドリング4に熱及び圧力を加えた加硫を行うことで、積層された各シート状材料が結合し、
図11に示す構造のトレッドリング4が完成する。
【0077】
図13(c)では、隣り合う第1傾斜補剛部材452aの間、並びに、隣り合う第2傾斜補剛部材452bの間に隙間があるが、未加硫のトレッドリング4加硫することでその空間は無くなり、傾斜補強層450の内部に空間ができることはない。
【0078】
この製造方法によれば、第1傾斜補剛部材452a及び第2傾斜補剛部材452bが、タイヤ回転軸までの距離が変化するように、タイヤ幅方向を横断する。これにより、タイヤのコーナリングパワーの低下を抑制し、転がり抵抗の低減と操縦安定性とを両立させることができるエアレスタイヤを製造することができる。
【0079】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0080】
1 エアレスタイヤ
2 ホイール
3 ボディ
4 トレッドリング
4a 第1端面
4b 第2端面
31 内周ボディリング
32 スポーク
33 外周ボディリング
41 トレッド外周層
42 トレッド内周層
43 トレッド中間層
430 第1環状補強層(第1補強層)
431 第1環状層形成部
432 第1環状補剛部材(第1補剛部材)
440 第2環状補強層(第1補強層)
441 第2環状層形成部
442 第2環状補剛部材(第1補剛部材)
450 傾斜補強層(第2補強層)
451 傾斜層形成部
452 傾斜補剛部材(第2補剛部材)
452a 第1傾斜補剛部材(第2補剛部材)
452b 第2傾斜補剛部材(第3補剛部材)
455 第3環状補強層
460a 第1補充層
460b 第2補充層
460c 第3補充層
200 枠体