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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241016BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/16 503
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020180358
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071410
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】山本 次郎
(72)【発明者】
【氏名】関口 恭裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 祥嗣
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-083243(JP,A)
【文献】特開2020-097152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、
前記共通流路に連通する供給孔と、
前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、
前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、
前記第1面に接着剤を介して接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、
前記凹部における前記第2方向に前記供給孔と重なる第1部分の底面に凸部が設けられ、
前記第2面における前記凸部と前記第2方向に重なる部分に、溝が設けられたことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記溝の前記第2方向の深さは、前記凹部の前記第2方向の深さよりも深いことを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第2プレートの前記第2方向の厚みは、前記第1プレートの前記第2方向の厚みよりも大きいことを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記溝は、前記凸部と前記第2方向に重なる部分と、前記底面における前記凸部以外の部分と前記第2方向に重なる部分とを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、
前記共通流路に連通する供給孔と、
前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、
前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、
前記第1面に接着剤を介して接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、
前記凹部における前記第2方向に前記供給孔と重なる第1部分の底面に凸部が設けられ、
前記凸部が前記第2面に接着されたことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記凹部の前記底面に、1つの前記凸部が設けられたことを特徴とする、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、
前記共通流路に連通する供給孔と、
前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、
前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、
前記第1面に接着剤を介して接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、
前記凹部における前記第2方向に前記供給孔と重なる第1部分の底面に凸部が設けられ、
前記凹部の前記底面に、複数の前記凸部が設けられたことを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項8】
ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、
前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、
前記共通流路に連通する供給孔と、
前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、
前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、
前記第1面に接着剤を介して接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、
前記凹部における前記第2方向に前記供給孔と重なる第1部分の底面に凸部が設けられ、
前記凸部は、前記第2方向と直交する面において矩形状であることを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記凹部は、前記第1部分と、前記第2方向に前記供給孔と重ならず前記共通流路と重なる第2部分とを含み、
前記第1部分における前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の長さは、前記第2部分における前記第3方向の長さよりも長いことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記供給孔に対して前記第2方向において前記ダンパ室と反対側に、前記供給孔の流入口が設けられたことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記凸部と前記凹部の側壁との間隔は、1mm以下であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、前記共通流路に連通する供給孔と、前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、前記第1面に接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、前記凹部における前記第2方向に前記供給孔と重なる部分の底面に凸部が設けられた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
弾性を有するローラの外周面に接着剤を塗布し、前記外周面を前記第1面に押圧しつつ前記ローラを回転させることで、前記第1面に前記接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程の後、前記第1プレートと前記第2プレートとを積層し、前記接着剤を介して前記第1面に前記第2面を接着する接着工程と、
を備えたことを特徴とする、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記接着剤塗布工程において、前記第2方向と直交する面において前記凸部が延びる方向と直交する方向に前記ローラを移動させることを特徴とする、請求項12に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給孔と重なる位置にダンパ室が設けられた液体吐出ヘッド、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インク供給口(供給孔)と重なる位置にダンパ室が設けられたインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)が示されている。インク供給口は、他の流路部分と比べて大きな面積を有し、当該大きな面積の部分にダンパ室を設けることで、高いダンパ性能を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-231314号公報(図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、ダンパ室を構成する凹部が形成されたダンパプレートの下面は、接着剤を介してスペーサプレートの上面と接着されている。これらプレートの接着は、例えば、弾性を有するローラの外周面に接着剤を塗布し、外周面をダンパプレートの下面に押圧しつつローラを回転させることで、ダンパプレートの下面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、接着剤塗布工程の後、ダンパプレートとスペーサプレートとを積層し、接着剤を介してダンパプレートの下面にスペーサプレートの上面を接着する接着工程とを行うことにより、実現される。
【0005】
しかしながら、特にダンパ室(凹部)のサイズが大きい場合は、接着剤塗布工程において、ローラの外周部が凹部内に入り込み、凹部の底面に接着剤が付着し得る。この場合、接着工程において、ダンパプレートのダンパ室(凹部)の底面がスペーサプレートの上面と接着され、ダンパ室のサイズが所望のサイズよりも小さくなり得る。ひいては、ダンパ室のサイズが所望のサイズと異なる可能性が生じるため、安定したダンパ性能を得ることができない。
【0006】
本発明の目的は、安定したダンパ性能を得ることができる液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、前記共通流路に連通する供給孔と、前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、前記第1面に接着剤を介して接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、前記凹部の底面に凸部が設けられたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法は、ノズルをそれぞれ含み、第1方向に配列された複数の個別流路と、前記複数の個別流路に連通し、前記第1方向に延びる共通流路と、前記共通流路に連通する供給孔と、前記第1方向と直交する第2方向に前記供給孔と重なる位置に設けられたダンパ室と、前記第2方向と直交する第1面であって前記ダンパ室を構成する凹部が形成された第1面を有する第1プレートと、前記第1面に接着された第2面を有する第2プレートと、を備え、前記凹部の底面に凸部が設けられた液体吐出ヘッドの製造方法であって、弾性を有するローラの外周面に接着剤を塗布し、前記外周面を前記第1面に押圧しつつ前記ローラを回転させることで、前記第1面に前記接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記接着剤塗布工程の後、前記第1プレートと前記第2プレートとを積層し、前記接着剤を介して前記第1面に前記第2面を接着する接着工程と、を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係るヘッド1を備えたプリンタ100の平面図である。
図2】ヘッド1の分解斜視図である。
図3】ヘッド1に含まれる流路部材10の拡大分解斜視図である。
図4図2のIV-IV線に沿ったヘッド1の拡大断面図である。
図5図2のV-V線に沿ったヘッド1の拡大断面図である。
図6】ダンパプレートの下面13xに設けられた凹部45x及び凸部45yとスペーサプレートの上面に設けられた溝12yとを示す平面図である。
図7】(a)は、接着剤塗布工程を示す図6のVII-VII線に沿った断面図である。(b)は、接着工程を示す図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るヘッドにおける図7(b)に相当する断面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係るヘッドにおける図6に相当する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明において、Z方向は鉛直方向であり、X方向及びY方向は水平方向である。X方向及びY方向は共にZ方向と直交する。X方向はY方向と直交する。Y方向が本発明の「第1方向」に該当し、Z方向が本発明の「第2方向」に該当し、X方向が本発明の「第3方向」に該当する。
【0011】
<第1実施形態>
先ず、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係るヘッド1を備えたプリンタ100の全体構成について説明する。
【0012】
プリンタ100は、4つのヘッド1を含むヘッドユニット1xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。
【0013】
プラテン3の上面に、用紙9が載置される。
【0014】
搬送機構4は、X方向にプラテン3を挟んで配置された2つのローラ対4a,4bを有する。制御部5の制御により搬送モータ(図示略)が駆動されると、ローラ対4a,4bが用紙9を挟持した状態で回転し、用紙9がX方向に沿った搬送方向に搬送される。
【0015】
ヘッドユニット1xは、Y方向に長尺であり、位置が固定された状態でノズル35(図2図5参照)から用紙9に対してインクを吐出するライン式である。4つのヘッド1は、それぞれY方向に長尺であり、Y方向に千鳥状に配列されている。
【0016】
制御部5は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)を有する。ASICは、ROMに格納されたプログラムに従い、記録処理等を実行する。記録処理において、制御部5は、PC等の外部装置から入力された記録指令(画像データを含む。)に基づき、各ヘッド1のドライバIC及び搬送モータ(共に図示略)を制御し、用紙9上に画像を記録する。
【0017】
次いで、図2図6を参照し、ヘッド1の構成について説明する。
【0018】
ヘッド1は、図2に示すように、流路部材10と、フィルタ部材20と、アクチュエータ部材60とを有する。
【0019】
流路部材10は、ノズルプレート11、スペーサプレート12、ダンパプレート13、マニホールドプレート14a,14b、スペーサプレート15,16及びキャビティプレート17の、計8枚のプレートで構成されている。これら8枚のプレートは、それぞれ金属、樹脂、セラミックス等からなり、Z方向に積層されかつ接着剤を介して互いに接着されている。これら8枚のプレートのうち、ダンパプレート13が本発明の「第1プレート」に該当し、スペーサプレート12が本発明の「第2プレート」に該当する。
【0020】
ノズルプレート11には、それぞれノズル35を構成する複数の貫通孔が形成されている。ノズル35は、Y方向に千鳥状に配列され、5つのノズル列を形成している。各ノズル列は、Y方向に並ぶ複数のノズル35で構成される。5つのノズル列は、X方向に並んでいる。
【0021】
キャビティプレート17には、それぞれ圧力室36を構成する複数の貫通孔が形成されている。圧力室36は、ノズル35と同様、Y方向に千鳥状に配列され、5つの圧力室列を形成している。各圧力室列は、Y方向に並ぶ複数の圧力室36で構成される。5つの圧力室列は、X方向に並んでいる。
【0022】
各圧力室36は、スペーサプレート15,16、マニホールドプレート14a,14b、ダンパプレート13及びスペーサプレート12に形成された貫通孔37を介して、各ノズル35と連通している。また、各圧力室36は、スペーサプレート16に形成された連通孔38と、スペーサプレート15に形成された接続流路40とを介して、5つの共通流路7のうち対応する1つの共通流路7と連通している(図2図4参照)。
【0023】
流路部材10には、接続流路40、連通孔38、圧力室36、貫通孔37を介してノズル35に至る個別流路30が複数形成されている。個別流路30は、ノズル35及び圧力室36と同様、Y方向に千鳥状に配列され、5つの個別流路列を形成している。各個別流路列は、Y方向に並ぶ複数の個別流路30で構成される。5つの個別流路列は、X方向に並んでいる。
【0024】
マニホールドプレート14a,14bには、5つの共通流路7を構成する貫通孔が形成されている。5つの共通流路7は、それぞれY方向に延び、かつ、X方向に並んでいる。5つの共通流路7は、5つの個別流路列のそれぞれと連通している。各共通流路7は、5つの個別流路列のうち対応する個別流路列に属する複数の個別流路30と連通している。
【0025】
ダンパプレート13の上面は、5つの共通流路7の底面を構成している。ダンパプレート13の下面13xには、ダンパ室45を画定する凹部45xが形成されている(図2図4参照)。ダンパ室45(凹部45x)は、5つの共通流路7とZ方向に重なっている。ダンパ室45(凹部45x)を設けたことで、ノズル35からのインク吐出時に圧力室36内で生じた圧力が共通流路7に伝播しても、ダンパプレート13における凹部45xの底部(薄膜)が弾性変形することにより圧力が減衰され、当該圧力が他の圧力室36に伝搬する現象(所謂クロストーク)を防止することができる。
【0026】
ダンパプレート13の下面(第1面)13xにおける凹部45xの底面には、複数の凸部45yが設けられている。また、スペーサプレート12の上面(第2面)12xにおける各凸部45yとZ方向に重なる部分には、複数の溝12yが設けられている。これについては、後に詳述する。
【0027】
キャビティプレート17及びスペーサプレート15,16のY方向の一端には、図2に示すように、それぞれ供給孔47を構成する4つの貫通孔が形成されている。供給孔47は、X方向に並んでいる。供給孔47は、図2の左から順に、ブラックインクが供給される供給孔47aと、イエローインクが供給される供給孔47bと、マゼンタインクが供給される供給孔47cと、シアンインクが供給される供給孔47dとで構成されている。
【0028】
5つの共通流路7のうち、図2の左から1番目及び2番目の2つの共通流路7aは、供給孔47aと連通している。5つの共通流路7のうち、図2の左から3番目の共通流路7bは、供給孔47bと連通している。5つの共通流路7のうち、図2の左から3番目の共通流路7bは、5つの共通流路7のうち、図2の左から4番目の共通流路7cは、供給孔47cと連通している。5つの共通流路7のうち、図2の左から5番目の共通流路7dは、供給孔47dと連通している。各供給孔47a,47b,47c,47dと、各共通流路7a,7b,7c,7dのY方向の一端とは、Z方向に重なっている。
【0029】
カラーインクが供給される供給孔47b,47c,47dはそれぞれ1つの共通流路7b,7c,7dと連通しているのに対し、ブラックインクが供給される供給孔47aは2つの共通流路7aと連通している。これは、モノクロ記録時の記録速度をカラー記録の場合よりも速くしたときに、ブラックインクの単位時間当りの消費量がカラーインクの単位時間当たりの消費量より多くなることを考慮したものである。
【0030】
フィルタ部材20は、4つの供給孔47を覆うように、流路部材10の上面(キャビティプレート17の上面)に接着剤を介して接着されている。フィルタ部材20は、供給孔47a,47b,47c,47dのそれぞれとZ方向に重なる4つのフィルタ20a,20b,20c,20dを含む。インクタンク(図示略)から供給される各色インクは、フィルタ20a,20b,20c,20dを通過する際に異物(粉塵等)が除去された後、供給孔47a,47b,47c,47dに流入し、共通流路7a,7b,7c,7dに供給される。このように、供給孔47a,47b,47c,47dに対して上側(Z方向においてダンパ室45と反対側)に、供給孔47a,47b,47c,47dの流入口を構成するフィルタ20a,20b,20c,20dが設けられている。
【0031】
アクチュエータ部材60は、流路部材10の上面(キャビティプレート17の上面)におけるフィルタ部材20が配置されない領域に、接着剤を介して接着されている。アクチュエータ部材60は、詳細な図示を省略するが、振動板と、共通電極と、複数の圧電体と、複数の個別電極61とを含む。振動板及び共通電極は、流路部材10の上面(キャビティプレート17の上面)に配置され、キャビティプレート17に形成された全ての圧力室36を覆っている。一方、圧電体及び個別電極61は、圧力室36毎に設けられており、圧力室36のそれぞれとZ方向に重なっている。
【0032】
アクチュエータ部材60の上面には、配線部材70(図4参照)が配置されている。配線部材70の配線は、各個別電極61及び共通電極と電気的に接続されている。
【0033】
制御部5(図1参照)は、配線部材70に搭載されたドライバICを制御し、共通電極の電位をグランド電位に維持する一方、個別電極61の電位を駆動電位とグランド電位との間で変化させる。このとき、振動板及び圧電体において個別電極61と圧力室36とで挟まれた部分が、圧力室36に向かって凸となるように変形することにより、圧力室36の容積が変化し、圧力室36内のインクに圧力が付与され、ノズル35からインクが吐出される。
【0034】
次いで、図2図5及び図6を参照し、ダンパプレート13の下面13xに設けられた凹部45x及び凸部45yと、スペーサプレート12の上面12xに設けられた溝12yとについて詳細に説明する。
【0035】
凹部45xは、ダンパプレート13の下面13xにハーフエッチングを施すことで形成されたものである。凸部45yは、当該ハーフエッチングの際に凸部45yに対応する部分をエッチングしないことで形成されたものである。溝12yは、スペーサプレート12の上面12xにハーフエッチングを施すことで形成されたものである。
【0036】
凹部45xは、図2に示すように、Z方向に4つの供給孔47のそれぞれと重なる4つの第1部分P1と、Z方向に供給孔47と重ならず5つの共通流路7のそれぞれと重なる5つの第2部分P2とを含む。各第1部分P1の幅(X方向の長さ)W1は、各第2部分P2の幅(X方向の長さ)W2よりも長い。
【0037】
凸部45yは、第1部分P1に設けられている。具体的には、4つの第1部分P1のそれぞれに、3つの凸部45yが設けられている。3つの凸部45yは、それぞれZ方向と直交する面においてX方向に長い矩形状であり、Y方向に並んでいる。
【0038】
各凸部45yと凹部45x(第1部分P1)の側壁とのX方向の間隔S1(図6参照)は、1mm以下である。各凸部45yは、間隔S1が一定になるよう、凹部45x(第1部分P1)におけるX方向の中央に配置されている。
【0039】
3つの凸部45yのうち凹部45x(第1部分P1)のY方向の一端に最も近い凸部45yと、凹部45x(第1部分P1)の側壁とのY方向の間隔S2(図6参照)は、1mm以下である。3つの凸部45y同士のY方向の間隔S3も、1mm以下である。3つの凸部45yは、凹部45x(第1部分P1)のY方向の一端から等間隔S2,S3で配置されている。
【0040】
溝12yは、各凸部45yに対応して設けられており、各凸部45yとZ方向に重なっている。溝12yは、凸部45yと同様にZ方向と直交する面においてX方向に長い矩形状であり、凸部45yよりも大きくかつ凹部45x(第1部分)よりも小さいサイズを有する。即ち、溝12yは、凸部45yとZ方向に重なる部分と、凹部45x(第1部分P1)の底面における凸部45y以外の部分とZ方向に重なる部分とを含む。
【0041】
図5に示すように、スペーサプレート12のZ方向の厚みは、ダンパプレート13のZ方向の厚みよりも大きい(例えば、スペーサプレート12の厚みは100μm、ダンパプレート13の厚みは50μmである)。凹部45x及び溝12yは、それぞれ、各プレート13,12の厚みの略半分の深さを有する。つまり、溝12yのZ方向の深さD2は、凹部45xのZ方向の深さD1よりも深い。凸部45yの高さは、凹部45xの深さD1と同じである。
【0042】
次いで、図7を参照し、ダンパプレート13とスペーサプレート12とを接着する工程について説明する。
【0043】
当該工程では、図7(a)に示すローラ90を用いる。ローラ90は、軸90aと、軸90aの周囲に配置された外周部90bとを含む。外周部90bは、ウレタン(例えば、密度1.92-7kg/mm3)等からなり、弾性を有する。
【0044】
先ず、図7(a)に示すように、外周部90bの外周面90xに接着剤Aを塗布し、外周面90xをダンパプレート13の下面13xに押圧しつつ、X方向に沿った軸90aを中心として外周部90bを回転させることで、下面13xに接着剤Aを塗布する(接着剤塗布工程)。このときの押圧力は、例えば500kPaである。また、このときローラ90を、下面13xに対し、Y方向に沿った転写方向T(図6参照)に移動させる。転写方向Tは、Z方向と直交する面において凸部45yが延びる方向(X方向)と直交する方向である。
【0045】
ここで、外周部90bは、弾性を有するため、接着剤塗布工程で下面13xに押圧されたときに変形し、凹部45x(第1部分P1)内に入り込み得る。例えば、凹部45x(第1部分P1)の底面に凸部45yが設けられていない場合は、外周部90bが凹部45x(第1部分P1)内に入り込み、凹部45x(第1部分P1)の底面に接着剤Aが付着し易い。しかしながら、本実施形態では、凹部45x(第1部分P1)の底面に凸部45yを設け、間隔S1を小さくしたことで(S1<W1)、凹部45x(第1部分P1)の底面に接着剤Aが付着し難くなっている。一方、凸部45yの先端面は、凹部45x(第1部分P1)の底面よりも下方に位置する(本実施形態では、下面13xと同じレベルにある)ため、外周面90xに塗布された接着剤Aが付着する(図7(b)参照)。
【0046】
次に、図7(a)に示す接着剤塗布工程の後、図7(b)に示すように、ダンパプレート13とスペーサプレート12とを積層し、接着剤Aを介してダンパプレート13の下面13xにスペーサプレート12の上面12xを接着する(接着工程)。このとき、ダンパプレート13とスペーサプレート12との間に、ダンパ室45が形成される。特に、供給孔47(図2参照)とZ方向に重なる部分においては、スペーサプレート12の上面12xに溝12yが設けられているため、凸部45yが上面12xに接着されず、凸部45yと溝12yとの間の空間を含むダンパ室45が形成される。
【0047】
なお、本実施形態のように凸部45yが上面12xに接着されない構成は、例えばインク粘度2~5cps、駆動周波数25~30kHzの場合に好適な構成である。
【0048】
以上に述べたように、本実施形態によれば、ダンパ室45を構成する凹部45x(第1部分P1)の底面に、凸部45yが設けられている。この場合、接着剤塗布工程(図7(a))において、凸部45yの先端面には接着剤Aが付着し易い一方、凹部45x(第1部分P1)の底面の凸部45y以外の部分には接着剤Aが付着し難い。これにより、予期せぬ部位に接着剤Aが付着して所望のサイズのダンパ室を形成できないという問題を抑制できる。即ち、接着剤Aが付着し易い凸部45yをあえて設け、凹部(第1部分P1)の底面の凸部45y以外の部分には接着剤Aが付着しないようにすることで、所望のサイズのダンパ室45を形成でき、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0049】
凹部45xは、図2に示すように、Z方向に供給孔47と重なる第1部分P1と、Z方向に供給孔47と重ならず共通流路7と重なる第2部分P2とを含む。第1部分P1の幅(X方向の長さ)W1は、第2部分P2の幅(X方向の長さ)W2よりも長い。この場合、凹部45x(第1部分P1)の底面に凸部45yが設けられていないと、接着剤塗布工程(図7(a))においてローラ90をY方向に移動させるときに、ローラ90の外周部90bが凹部45x(第1部分P1)内に入り込み易く、凹部45x(第1部分P1)の底面に接着剤Aが付着する問題が特に生じ易くなる。本実施形態では、このように幅W1が比較的大きい場合において、凹部45x(第1部分P1)の底面に凸部45yを設け、間隔S1を小さくしたことで(S1<W1)、凹部45x(第1部分P1)の底面に接着剤Aが付着し難く、上記問題を抑制できる。
【0050】
供給孔47に対して上側(Z方向においてダンパ室45と反対側)に、供給孔47の流入口(フィルタ20a,20b,20c,20d)が設けられている(図2及び図5参照)。この場合、流入口からのインクの流入により、供給孔47内に高い圧力が生じるが、当該圧力をダンパ室45により減衰させ、吐出に悪影響が出るのを抑制できる。また、このように高い圧力を減衰させる必要のあるダンパ室45について、安定したダンパ性能が得られることで、高流量での吐出を実現できる。
【0051】
スペーサプレート12の上面12xにおける凸部45yとZ方向に重なる部分に、溝12yが設けられている(図5参照)。この場合、接着工程(図7(b))において、凸部45yをスペーサプレート12に接着させないことができる。これにより、凸部45yを含む凹部45x全体としてダンパ室45のサイズを確保でき、高いダンパ性能を得ることができる。
【0052】
溝12yのZ方向の深さD2は、凹部45xのZ方向の深さD1よりも深い(図5参照)。この場合、接着工程(図7(b))において、プレート12,13がたわみ変形した場合でも、凸部45yをスペーサプレート12に接着させないことができる。これにより、より確実に、凸部45yを含む凹部45x全体としてダンパ室45のサイズを確保でき、高いダンパ性能を得ることができる。
【0053】
スペーサプレート12のZ方向の厚みは、ダンパプレート13のZ方向の厚みよりも大きい(図5参照)。この場合、上記のように溝12yが深い構成をより確実に実現できる。
【0054】
溝12yは、凸部45yとZ方向に重なる部分と、凹部45x(第1部分P1)の底面における凸部45y以外の部分とZ方向に重なる部分とを含む(図6参照)。この場合、接着工程(図7(b))において、プレート12,13間の位置ずれが生じた場合でも、凸部45yをスペーサプレート12に接着させないことができる。これにより、より確実に、凸部45yを含む凹部45x全体としてダンパ室45のサイズを確保でき、高いダンパ性能を得ることができる。
【0055】
凹部45xの底面に、複数の凸部45yが設けられている(図6参照)。この場合、凹部45xの底面の凸部45y以外の部分に接着剤Aがより確実に付着し難くなる。これにより、より確実に、所望のサイズのダンパ室45を形成でき、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0056】
凸部45yと凹部45xの側壁との間隔S1,S2(図6参照)は、1mm以下である。この場合、凹部45xの底面の凸部45y以外の部分に接着剤Aがより確実に付着し難くなる。これにより、より確実に、所望のサイズのダンパ室45を形成でき、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0057】
凸部45yは、Z方向と直交する面において矩形状である(図6参照)。この場合、凸部45yと凹部45xの側壁との間隔S1,S2を一定にし易く、凹部45xの底面の凸部45y以外の部分に接着剤Aが付着し難い構成をより確実に実現できる。
【0058】
接着剤塗布工程(図7(a))において、Z方向と直交する面において凸部45yが延びる方向(X方向)と直交する方向(転写方向T:図6参照)に、ローラ90を移動させる。この場合、ダンパプレート13の下面13xとローラ90の外周面90xとの接触部において、凸部45yとその周縁部(別の凸部45y、又は、凹部45xの側壁)との間隔(本実施形態では、凸部45yと凹部45xの側壁とのX方向の間隔S1)が小さくなり、凹部45xの底面の凸部45y以外の部分に接着剤Aがより確実に付着し難くなる。これにより、より確実に、所望のサイズのダンパ室45を形成でき、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0059】
<第2実施形態>
続いて、図8を参照し、本発明の第2実施形態に係るヘッドについて説明する。
【0060】
第1実施形態(図7(b))では、スペーサプレート12の上面12xに溝12yが設けられており、ダンパプレート13の凸部45yが上面12xに接着されない。これに対し、第2実施形態(図8)では、スペーサプレート12の上面12xに溝12yが設けられておらず、ダンパプレート13の凸部45yが接着剤Aを介して上面12xに接着される。
【0061】
なお、本実施形態のように凸部45yが上面12xに接着される構成は、例えばインク粘度4cps、駆動周波数20~25kHzの場合に好適な構成である。
【0062】
本実施形態によれば、凸部45yをスペーサプレート12の上面12xに接着させることで、所望のサイズのダンパ室45を形成でき、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0063】
<第3実施形態>
続いて、図9を参照し、本発明の第3実施形態に係るヘッドについて説明する。
【0064】
第1実施形態(図6)では、凹部45x(第1部分P1)の底面に、複数の凸部45yが設けられている。これに対し、第3実施形態(図9)では、凹部45x(第1部分P1)の底面に、1つの凸部45yが設けられている。また、第3実施形態では、第2実施形態(図8)と同様、スペーサプレート12の上面12xに溝12yが設けられておらず、ダンパプレート13の凸部45yが接着剤Aを介して上面12xに接着される。
【0065】
本実施形態によれば、凸部45yに接着剤A(図8参照)を確実に付着させることができる。具体的には、複数の凸部45yが設けられた場合、複数の凸部45yのうちのいくつかに、接着剤Aが付着しない場合があり得る。これに対し、本実施形態のように1つの凸部45yが設けられた場合、当該凸部45yに接着剤Aを確実に付着させることができる。ひいては、より確実に、凸部45yをスペーサプレート12の上面12xに接着させ、安定したダンパ性能を得ることができる。
【0066】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0067】
凸部のサイズや位置は、ローラの外周部の弾性率、接着剤塗布工程でのローラの押圧力、必要とされるダンパ性能等によって決定されてよい。
【0068】
凸部は、第2方向と直交する面において、矩形状に限定されず、台形状、円形状等であってもよい。
【0069】
上述の実施形態(図6)では、複数の凸部が一方向(Y方向)に配列されているが、複数の凸部が2方向にマトリクス状に配列されてもよい。
【0070】
凸部の先端面は、第1プレートの第1面と同じレベルにあることに限定されない。例えば、上述の実施形態(図5)において、凸部45yの高さは凹部45xの深さD1と同じであり、凸部45yの先端面はダンパプレート13の下面13xと同じレベルであるが、これに限定されず、凸部45yの高さが凹部45xの深さD1よりも小さく、凸部45yの先端面が下面13xよりも上方(凹部45xの底面の近く)に位置してもよい。
【0071】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出装置)にも適用可能である。さらに、本発明は、液体吐出装置以外の任意の装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ヘッド(液体吐出ヘッド)
7 共通流路
12 スペーサプレート(第2プレート)
12x 上面(第2面)
12y 溝
13 ダンパプレート(第1プレート)
13x 下面(第1面)
30 個別流路
35 ノズル
45 ダンパ室
45x 凹部
45y 凸部
47 供給孔
90 ローラ
90x 外周面
A 接着剤
P1 第1部分
P2 第2部分
X 第3方向
Y 第1方向
Z 第2方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9