(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エドキサバンを含有する口腔内崩壊錠
(51)【国際特許分類】
A61K 31/444 20060101AFI20241016BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241016BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241016BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20241016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A61K31/444
A61K9/20
A61K47/12
A61K47/18
A61P7/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020181257
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】林田 知大
(72)【発明者】
【氏名】中野 善夫
(72)【発明者】
【氏名】帆足 洋平
(72)【発明者】
【氏名】生田 祥太郎
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-063077(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101373(WO,A1)
【文献】特開2021-017410(JP,A)
【文献】特開2020-196713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、
(B)有機酸とを含み、
少なくとも前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と前記(B)有機酸とが造粒物として、または、さらに崩壊剤を含み、少なくとも前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とが造粒物として、含有されており、
前記(B)有機酸は、フマル酸、グルタミン酸、および、アスパラギン酸からなる群より選ばれるいずれか1つ以上であり、
水溶性高分子を含まない、または
、水溶性高分子を0.1重量%未満含む、口腔内崩壊錠。
【請求項2】
水溶性高分子を0.1重量%未満含み、前記
水溶性高分子は前記造粒物に含有されている、請求項1に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
前記崩壊剤は、水不溶性かつ水膨潤性である、請求項1または請求項2に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
前記造粒物は水不溶性高分子をさらに含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項5】
前記水不溶性高分子は、グルコース環を構成単位として有する腸溶性高分子である、請求項4に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項6】
前記(B)有機酸は、1gまたは1mLの前記(B)有機酸を溶かすのに要する水の量が10mL以上1000mL未満である有機酸である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項7】
前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と前記(B)有機酸とを含む造粒物を得る工程と、
得られた前記造粒物を含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、
前記(B)有機酸は、フマル酸、グルタミン酸、および、アスパラギン酸からなる群より選ばれるいずれか1つ以上であり、
前記造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる、請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項8】
前記(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とを含む造粒物を得る工程と、
得られた前記造粒物と前記(B)有機酸とを含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、
前記(B)有機酸は、フマル酸、グルタミン酸、および、アスパラギン酸からなる群より選ばれるいずれか1つ以上であり、
前記造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる、請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項9】
前記造粒物を得る工程において
、前記口腔内崩壊錠が水溶性高分子を0.1重量%未満含む場合には水溶性高分子を含む溶液又は分散液を用いる湿式造粒を行う、請求項
7または請求項
8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含有する口腔内崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物は、血液凝固カスケードにおいて、プロトロンビンからトロンビンを生成し、フィブリン形成を促進することにより血栓を形成する作用のある活性化血液凝固第X因子(activated blood coagulation factor XまたはFXa)を選択的、可逆的かつ直接的に阻害することにより、血栓形成抑制作用を発現する。
【0003】
エドキサバンは国内外で実施された臨床試験により、膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折手術を含む下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制に、また非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制、並びに静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制に用いられている。
【0004】
エドキサバンは、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制、並びに静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制においては通常、成人には、エドキサバンとして30mg(体重が60kg以下の場合)または60mg(体重が60kgを超える場合)の用量を1日1回経口投与する。なお、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量することもできる。また、下肢整形外科手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制においては、通常、成人には、エドキサバンとして30mgを1日1回経口投与する。
【0005】
エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物、特にエドキサバントシル酸塩は、エドキサバン遊離塩基にトシル酸が付加した化合物であり、酸性水溶液では良好な溶解性を示すが、中性以上のpHの水溶液中ではゲル様の構造体を形成する。そのため、エドキサバントシル酸塩を従来の賦形剤と崩壊剤を配合して製する一般的な口腔内崩壊錠に製すると、中性水溶液領域ではエドキサバントシル酸塩の製剤からの溶出が遅延し、溶解度が低下する。
【0006】
そこで、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出特性を改善することを目的として、国際公開公報第WO2008/129846号(特許文献1)では、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、糖アルコール類および水膨潤性添加剤から選ばれる1種または2種以上とを組み合わせた組成物とすること、また、エドキサバンを含有する医薬組成物をセルロース誘導体、ポリビニル化合物、アクリル酸誘導体及び糖類から選択される1種または2種以上のコーティング剤によりコートすることが提案されている。
【0007】
また、国際公開公報第WO2013/022059号(特許文献2)では、中性領域の溶出特性を改善することを目的として、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、カルボン酸又はエノールまたはその塩を含有する、錠剤またはカプセル剤といった固形製剤が提案されている。
【0008】
また、国際公開公報第WO2018/101373号(特許文献3)では、速やかな崩壊性と、通常の製造、輸送、使用に際して十分な硬度を合わせもつ口腔内崩壊錠を提供することを目的として、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、有機酸と、錠剤の総重量に対して0.1~2.0重量%の水溶性高分子、および、崩壊剤を含有する口腔内崩壊錠が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開公報第WO2008/129846号
【文献】国際公開公報第WO2013/022059号
【文献】国際公開公報第WO2018/101373号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物や特許文献2に記載の固形製剤では、溶出特性の改善のみに着目されており、溶出特性と、水への迅速な崩壊性との両立については考えられていない。また、特に医薬組成物または固形製剤の剤形が口腔内崩壊錠である場合、製造、輸送、使用に際して物理的な衝撃に耐え得る硬度を有していなければならないが、特許文献1に記載の組成物や特許文献2に記載の固形製剤では、適切な溶出特性と、口腔内崩壊錠としての硬度との両立については考えられていない。
【0011】
一方、特許文献3に記載の口腔内崩壊錠は、崩壊性と硬度については考慮されているが、第十七改正日本薬局方に準じて測定された口腔内崩壊時間が約30秒であり、必ずしも崩壊が迅速とはいえない。また、錠剤が大きくなってしまうという問題もある。
【0012】
そこで本発明の目的は、溶出性、崩壊性、および、硬度を両立させた、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含有する口腔内崩壊錠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。そして、水および/または有機溶剤のみを媒体とする湿式造粒ではエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物が塊状の粒子を形成したことから、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物自体に結合剤的な作用があることを知った。そこで、この作用を利用すれば、水溶性高分子などの粘性を有する結合剤を使用しなくても、水および/または有機溶剤を媒体として湿式造粒を行うことによって、錠剤に成形することが可能な、流動性のよいエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の含有粒子(造粒物)を得ることができ、この粒子(造粒物)に崩壊剤や滑沢剤などを混合して錠剤に製した場合、錠剤の崩壊が極度に迅速化されることを見出した。
【0014】
このようにすることにより、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含有する粒子(造粒物)中だけでなく当該粒子に加えて配合する錠剤化用の成分中にも結合剤を用いる必要性がなくなる。水溶性高分子のような粘性を有する結合剤は、錠剤の崩壊性・溶解性に悪影響を及ぼす場合がある。結合剤を用いる必要がなく、粒子(造粒物)同士の水中での分離分散が速くなることによって、錠剤の速崩壊化を達成させることが可能となる。
【0015】
本発明者らのさらなる研究によって、原薬の溶剤による結合力を利用して粒子化すると、速崩壊化は達成されても、中性近辺の水溶液中では粒子からのエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出が抑制されることがわかった。エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物は中性近辺の水溶液中でゲル化し凝集するので、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物がほぐれづらくなるためである。
【0016】
そこで、本発明者らはさらに鋭意研究し、有機酸を口腔内崩壊錠中に含有させることで、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物のゲル化凝集による溶出遅延を改善できることを見出した。口腔内崩壊錠中の有機酸は、中性近辺の水溶液中でゲル化凝集するエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物をほぐして溶出速度を向上させることができる。このようにすることにより、迅速な崩壊速度を維持させながら、同時に、溶出速度を迅速化させることができる。
【0017】
このように、本発明においては、水溶性高分子を結合剤として配合する必要がないため、口腔内崩壊錠の水への分散性がよくなり、錠剤へ圧縮成形する際に添加混合して用いる崩壊剤などの添加量が少なくて済む。結果として、錠剤中に高い含有率でエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含有させることができ、小型化された口腔内崩壊錠が得られる。
【0018】
なお、水溶性高分子などの結合剤を、粘性にほとんど影響を及ぼさず、錠剤の崩壊性にほとんど影響を及ぼさない程度の量、具体的には錠剤の総重量に対して0.1重量%未満配合することは自由であり、造粒用の媒体として用いる水および/または有機溶剤中にその量の結合剤を溶解して使用することができることも言うまでもない。
【0019】
以上の知見に基づいて、本発明に従った口腔内崩壊錠は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含み、少なくとも(A)と(B)とが造粒物として、または、さらに崩壊剤を含み、少なくとも(A)と崩壊剤とが造粒物として、含有されている。口腔内崩壊錠は、結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む。
【0020】
また、本発明に従った口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物を含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【0021】
本発明に従った別の口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、崩壊剤とを含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物と(B)有機酸とを含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に従えば、溶出性、崩壊性、および、硬度を両立させた、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含有する口腔内崩壊錠を提供することができる。
【0023】
さらに、本発明に従えば、溶出性、崩壊性、および、硬度を両立させ、かつ、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を錠剤重量中に高い含有率で含有する、小型化された口腔内崩壊錠を、複雑な工程や特殊な設備を要することなく、通常の圧縮成形によって製造することが可能な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に従った口腔内崩壊錠は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含み、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と(B)有機酸とが造粒物として、または、さらに崩壊剤を含み少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とが造粒物として、含有されており、結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む。
【0025】
本発明に用いられる「エドキサバン」とは、エドキサバン、その薬理上許容される塩又はそれらの溶媒和物(水和物を含む)であってもよい。エドキサバンの薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物としては、好適には、N1-(5-クロロピリジン-2-イル)-N2-((1S,2R,4S)-4-[(ジメチルアミノ)カルボニル]-2-{[(5-メチル-4,5,6,7-テトラヒドロチアゾロ[5,4-c]ピリジン-2-イル)カルボニル]アミノ}シクロヘキシル)エタンジアミド p-トルエンスルホン酸一水和物(エドキサバントシル酸塩水和物)である。
【0026】
本発明において「口腔内崩壊錠」とは、口中に含んだ際、あるいは水の中に入れた際、速やかな崩壊性を有する圧縮成形物である。具体的には、(a)口腔内での主として唾液による崩壊試験において25秒以内で、好ましくは20秒以内で崩壊する錠剤、(b)第十七改正日本薬局方の崩壊試験装置による崩壊試験において25秒以内で、好ましくは20秒以内で崩壊する錠剤、および/または、(c)口腔内崩壊錠測定装置(トリコープテスタ(登録商標);岡田精工株式会社)による崩壊試験において30秒以内で、好ましくは25秒以内で崩壊する錠剤が、当該速崩壊性の条件を満たす口腔内崩壊錠であると言える。本発明に従った速崩壊性の条件を満たす口腔内崩壊錠は、(a)~(c)の2つ以上に該当する錠剤であり、好ましくは(a)~(c)の全てに該当する錠剤である。
【0027】
本発明の口腔内崩壊錠は、通常の製造、輸送、使用の過程において十分な硬度を有する。例えば、硬度が20N以上、好ましくは30N以上、さらに好ましくは40N以上である口腔内崩壊錠である。
【0028】
従来は製剤の溶出性は、胃内のpH1.2環境で確保できれば良かったが、近年は無酸症との関連も有り、中性付近での溶出性が重要視されている。その上に、エドキサバントシル酸塩のpKaは6.7であるので、その前後での溶解性も含めた物性の変化が大きい化合物であるので、中性領域での溶出特性には特に注意を払う必要がある。
【0029】
本発明における「中性」とはpHが7近辺の領域であることをいう。
【0030】
本発明の口腔内崩壊錠からの薬物の溶出は、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有する必要がある。本願においては、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出性は、吸光度法(290nm)で測定するとき、pH6.8の溶出試験液中においては、溶出試験開始後45分で60%以上であることが好ましく、45分で70%以上であることがより好ましく、45分で75%以上であることがさらに好ましい。また、pH6.0以下の溶出試験液中における平均溶出率が、溶出試験開始後30分で85%以上であることが好ましい。
【0031】
本発明における「有機酸」とは、医薬品添加物として使用可能な酸性を示す有機化合物のことをいう。有機酸としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、エノール、又はそれらの塩が挙げられる。有機酸は、中性近辺の水溶液中でゲル化するエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物をほぐして、溶出遅延を改善し、溶出速度を高めるために配合される。
【0032】
有機酸としては、例えば、アジピン酸、アスパラギン酸、アルギン酸、安息香酸、クエン酸、グルタミン酸、コハク酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、グルコン酸、酢酸又はリンゴ酸、及びそれらの塩、並びにアスコルビン酸又はエリソルビン酸、及びそれらの塩などを列挙できる。
【0033】
そのなかでも、本発明に用いられる有機酸は、水に対する溶解度が特定の範囲内、具体的には、1g又は1mLの有機酸を溶かすのに要する水の量が10mL以上1000mL未満のものが好ましい。この条件に合致する有機酸としては、例えばアジピン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、コハク酸、安息香酸、ソルビン酸、乳酸、グルコン酸、又はフマル酸が挙げられる。
【0034】
1g又は1mLの有機酸の塩を溶かすのに要する水の量が10mL以上1000mL未満である有機酸の塩としては、L-アスパラギン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸一ナトリウム、乳酸カルシウム及びフマル酸一ナトリウムが挙げられる。
【0035】
本発明の口腔内崩壊錠中の有機酸の配合量は特に限定されないが、本明細書中に記載される崩壊性試験、溶出試験、硬度試験の基準を満たすように適宜決定される。好ましくは、口腔内崩壊錠中の有機酸の配合量は、造粒物の全量に対して0.1~35重量%であり、より好ましくは0.1~30重量%である。
【0036】
本発明の口腔内崩壊錠は、結合剤を含む必要はないが、結合剤として水溶性高分子を、錠剤の崩壊性にほとんど影響を及ぼさない程度の量、具体的には錠剤の総重量に対して0.1重量%未満に相当する量を配合し、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出性の向上への寄与を期待することは自由であり、造粒用の媒体として用いる水および/または有機溶剤中に、その量を溶解して使用することができることも言うまでもない。また、錠剤中に含有させる糖アルコールや糖類などを、水および/または有機溶剤中に溶解または懸濁して用いることも自由である。
【0037】
ここでいう水溶性高分子としては、ヒプロメロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、ポリビニルアルコール・アクリル酸メタクリル酸メチル共重合体、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、カラヤガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、などを挙げることができる。
【0038】
また、本発明の口腔内崩壊錠は、水不溶性高分子として、具体的には腸溶性高分子の微細粉末、好ましくはグルコース環を構成単位として有する腸溶性高分子を配合することによって、崩壊を遅延させることなく、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出を促進させることができる。腸溶性高分子としては、ヒプロメロースフタレート、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、酢酸フタル酸セルロースなどが挙げられる。これらの腸溶性高分子としては微細粉末を用いることが好ましい。腸溶性高分子は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含む造粒物中に含まれてもよく、造粒物外に含まれてもよい。造粒物中に含まれる場合には、腸溶性高分子は造粒物の重量全体の0.5重量%~10.0重量%含まれていることが好ましく、腸溶性高分子がグルコース環を構成単位として有する腸溶性高分子である場合には、造粒物の重量全体の0.5重量%~8.0重量%含まれていることが好ましい。造粒物外の口腔内崩壊錠中に含まれる場合には、腸溶性高分子は口腔内崩壊錠の重量全体の1.0重量%~8.0重量%含まれていることが好ましく、腸溶性高分子がグルコース環を構成単位として有する腸溶性高分子である場合には、口腔内崩壊錠の重量全体の1.0重量%~6.0重量%含まれていることが好ましい。
【0039】
本発明の口腔内崩壊錠は上記成分に加え、崩壊剤を含むことが好ましい。本発明者らの検討によれば、崩壊剤は、有機酸がゲル化凝集するエドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物をほぐす作用を増強させ、中性近辺の水溶液中での薬物の溶出を速めるのに有用である。
【0040】
崩壊剤としては、水不溶性で水膨潤性のものが好ましく、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、結晶セルロース、粉末セルロース、二酸化ケイ素などから選ばれる1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。中でも、水で単純に膨潤する崩壊剤が好ましく、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、結晶セルロース、粉末セルロース、二酸化ケイ素であり、これらから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0041】
口腔内崩壊錠中の崩壊剤の配合量は、特に限定されないが、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物とともに造粒物に含まれる場合、または、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物および結合剤としての水溶性高分子とともに造粒物に含まれる場合には、造粒物の全量に対して通常0.5~50重量%であり、好ましくは、3~40重量%である。崩壊剤は、造粒物の粒子を膨潤させ、空隙を作り、薬物の溶出を助長し、崩壊速度および溶出速度を高める。
【0042】
本発明の口腔内崩壊錠は上記成分に加え、さらに賦形剤を含んでいてもよい。賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、フラクトオリゴ糖、マルトース、還元麦芽糖、D-マンニトール、エリスリトール、キシリトール、結晶セルロース、粉末セルロース、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、リン酸水素カルシウムなどから選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができるが、好ましくは、マンニトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコール類である。
【0043】
口腔内崩壊錠中の賦形剤の配合量は特に限定されないが、少なくとも、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物および結合剤とともに造粒物に含まれる場合には、例えばD-マンニトールなどを用いる場合、造粒物の全量に対して賦形剤は通常15~50重量%であることが好ましく、より好ましくは、20~45重量%である。
【0044】
本発明の口腔内崩壊錠は、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物、有機酸、結合剤、崩壊剤、賦形剤以外に、滑沢剤、可塑剤、着色剤、着香剤、甘味剤、矯味剤、流動化剤、及び界面活性剤などの添加剤を配合することができる。
【0045】
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、及びタルク(例えば、日本薬局方適合品)から選ばれる1種または2種以上の組み合わせが挙げられ、特に好ましくは、ステアリン酸マグネシウムである。
【0046】
口腔内崩壊錠中の滑沢剤の配合量は、特に限定されないが、口腔内崩壊錠の総重量に対して、好ましくは0.1~3.0重量%である。
【0047】
着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素;食用レーキ色素、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、β-カロチン及びリボフラビンから選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0048】
着香剤としては、例えば、オレンジ、レモン、ストロベリー、ハッカ、メントール、メントールミクロン及び各種香料から選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0049】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、グリチルリチン酸二カリウム、スクラロース、ステビア及びソーマチンから選択される1つまたは2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0050】
矯味剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、イノシン酸二ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム及びハチミツから選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0051】
流動化剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム及びタルクから選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0052】
界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ポリオキシル40、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン及びラウリル硫酸ナトリウムから選択される1つ又は2つ以上の組み合わせを挙げることができる。
【0053】
次に、本発明の口腔内崩壊錠の製造方法について説明する。
【0054】
本発明の1つの実施形態の口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含み、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と(B)有機酸とが造粒物として含有されており、結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む口腔内崩壊錠の製造方法であって、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と(B)有機酸とを含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物を含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【0055】
本発明の別の実施形態の口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含み、さらに崩壊剤を含み、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とが造粒物として、含有されており、結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む口腔内崩壊錠の製造方法であって、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤を含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物と(B)有機酸とを含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【0056】
造粒物を得る工程において、結合剤として水溶性高分子を含む溶液又は分散液を用いる湿式造粒を行うことは任意である。
【0057】
本発明の口腔内崩壊錠の製造方法では、上述の造粒物に、薬物を含有しない造粒物粒子、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤などから選ばれる添加剤を加えて混合し、製錠することにより、錠剤を得ることができる。
【0058】
造粒物を得る工程においては、水および/または有機溶剤、あるいは、水と結合剤として水溶性高分子を含有する溶液または分散液を結合剤液として用いて湿式造粒されることが好ましい。このようにすることにより、粘性を有する水溶性高分子などの結合剤がほとんど存在しない造粒物が得られるため、得られる口腔内崩壊錠の水への分散性が向上する。そのため、錠剤へ圧縮成形する際に添加混合して用いる崩壊剤などの添加量が少なくて済み、小型化された口腔内崩壊錠になし得る。この理由から、造粒物中に含有される結合剤として水溶性高分子の量は、錠剤の総重量に対して0~0.1重量%未満に相当する量であることが必須である。結合剤が錠剤の総重量に対して0.1重量%以上配合されると、口腔内崩壊錠の崩壊遅延が生じ、好ましくない。なお、造粒物が(B)有機酸を含まない場合、その他の成分を用いて造粒物を調製し、(B)有機酸を加えて混合物を得て、得られた混合物を用いて口腔内崩壊錠を製造すればよい。
【0059】
製錠するに際して、上記したような、可塑剤、着色剤、着香剤、甘味剤、矯味剤、流動化剤、及び界面活性剤などの添加剤を配合することができることは言うまでもない。
【0060】
本発明の口腔内崩壊錠の製造方法の各工程は、従来の製剤製造技術で実施されることができる。すなわち、例えば、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物、(B)有機酸、さらに、崩壊剤を造粒物として口腔内崩壊錠に含有させる場合には、例えば、(A),(B)と崩壊剤、賦形剤などを混合し、水および/または有機溶剤、あるいは、錠剤の総重量に対して0.1重量%未満に相当する量の結合剤(水溶性高分子)を含む液を用い湿式造粒・乾燥・篩過整粒して製する。なお、造粒操作の際、水溶性高分子や腸溶性高分子を粉末のまま配合して溶剤で湿式造粒することも自由である。
【0061】
上記製剤化法に関わる造粒操作は、攪拌造粒機、流動層造粒機、転動流動層コーティング造粒機、噴霧乾燥式流動層造粒機、スプレードライヤー、ニーダー、転動造粒機、真空造粒機、流動層乾燥機、棚式乾燥機、真空乾燥機などが使用可能であり、造粒機種や乾燥機種を選ばない。エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の粒子表面を完全に溶剤に濡らし、溶剤に溶解させ、その表面の粘性を利用して造粒物を製するため、攪拌造粒機、ニーダー、転動造粒機などの湿式造粒法が好ましい。
【0062】
本発明の口腔内崩壊錠の圧縮成形は、通常の打錠機を用いて行うことができる。すなわち、打錠用の混合物を、通常のロータリー式打錠機を用いて圧縮成形することにより製造することが可能である。打錠機による成形圧力は通常の錠剤と同程度で良く、錠剤の形状、大きさにもよるが、好ましくは、1~20kN、より好ましくは3~14kN程度である。
【0063】
なお、薬物を含有しない造粒物粒子は、口腔内崩壊錠として望ましい崩壊性と成形性を付与することができる製剤の骨格として機能することが好ましく、結晶セルロース、糖アルコール(例えばD-マンニトール)、崩壊剤(例えばクロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファー化デンプン)などを用い、成型性並びに崩壊性の優れた粒子に製したものであることが望ましい。
【0064】
以上のように、本発明により、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、口腔内あるいは水の中に入れたとき、口腔内での迅速な崩壊性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する錠剤を製造することが可能となる。
【0065】
本発明の製造方法に従って製造された口腔内崩壊錠では、口腔内崩壊時間を迅速化することができ、錠剤からの薬物の溶出速度を同時に迅速化させうる。
【0066】
本発明の製造方法に従って製造された口腔内崩壊錠では、粘性を有する結合剤である水溶性高分子を造粒物中にも口腔内崩壊錠中にも配合する必要がない。そのため、口腔内崩壊錠の水への分散性が向上することにより、錠剤へ圧縮成形する際に添加混合して用いる崩壊剤などの添加量が少なくて済み、小型化された錠剤になし得る。
【0067】
かくして得られる本発明の口腔内崩壊錠は、口腔内あるいは水の中に入れた際に崩壊性、溶解性に優れ、かつ物理的、化学的安定性に優れている。
【0068】
本発明の製造方法によって製造された口腔内崩壊錠は、(a)口腔内での主として唾液による崩壊試験において25秒以内で、好ましくは20秒以内で崩壊する錠剤、(b)第十七改正日本薬局方の崩壊試験装置による崩壊試験において25秒以内で、好ましくは20秒以内で崩壊する錠剤、および、(c)口腔内崩壊錠測定装置(トリコープテスタ(登録商標);岡田精工株式会社)による崩壊試験において30秒以内で、好ましくは25秒以内で崩壊する錠剤の2つ以上に該当する錠剤であり、好ましくは(a)~(c)の全てに該当する錠剤である。
【0069】
一方、本発明の口腔内崩壊錠の硬度は、一定の温度、湿度の条件下(例えば、温度25℃、相対湿度75%、開放系、1週間)の安定性試験の後にも、十分な硬度を有する。従って、製剤の製造工程及び流通過程において崩れない硬度を有し、一定の温度、湿度の条件下での保存においても実用的な硬度を有し、保存安定性にも優れている。
【0070】
本発明の口腔内崩壊錠は、高齢者、小児や嚥下困難な患者にとっても服用し易い製剤として、また、一般成人用の安全な製剤として、病気の治療に用いることができる。
【0071】
本発明を要約すると以下の通りである。
【0072】
(1)本発明に従った口腔内崩壊錠は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と、(B)有機酸とを含み、少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と(B)有機酸とが造粒物として、または、さらに崩壊剤を含み少なくとも(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とが造粒物として、含有されており、結合剤として水溶性高分子を含まない、または、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含む。
【0073】
(2)上記(1)に従った口腔内崩壊錠は、結合剤として水溶性高分子を0.1重量%未満含み、結合剤は造粒物に含有されていることが好ましい。
【0074】
(3)上記(1)または(2)に従った口腔内崩壊錠においては、崩壊剤は、水不溶性かつ水膨潤性であることが好ましい。
【0075】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに従った口腔内崩壊錠においては、造粒物は水不溶性高分子をさらに含むことが好ましい。
【0076】
(5)上記(4)に従った口腔内崩壊錠においては、水不溶性高分子は、グルコース環を構成単位として有する腸溶性高分子であることが好ましい。
【0077】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに従った口腔内崩壊錠においては、(B)有機酸は、1gまたは1mLの(B)有機酸を溶かすのに要する水の量が10mL以上1000mL未満である有機酸であることが好ましい。
【0078】
(7)上記(6)に従った口腔内崩壊錠においては、(B)有機酸は、フマル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アジピン酸、および、コハク酸からなる群より選ばれるいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0079】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と(B)有機酸とを含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物を含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【0080】
(9)上記(1)~(7)のいずれかの口腔内崩壊錠の製造方法は、(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物と崩壊剤とを含む造粒物を得る工程と、得られた造粒物と(B)有機酸とを含む打錠用混合物を打錠する工程とを含み、造粒物を得る工程において造粒用の媒体として水および/または有機溶剤を用いる。
【0081】
(10)上記(8)または(9)に従った口腔内崩壊錠の製造方法は、造粒物を得る工程においては、結合剤として水溶性高分子を含む溶液又は分散液を用いる湿式造粒を行うことが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0083】
実験に用いた製剤原料は次のとおりである。ヒプロメロース(TC-5E、信越化学工業)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達株式会社)、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(AQOAT AS-LF、信越化学工業)、D-マンニトール(ペアリトール50C、ロケットジャパン)、D-マンニトール(マンニットQ、三菱フードテック)、D-マンニトール(グラニュトールR、フロイント産業株式会社)、結晶セルロース(セオラスKG-1000、旭化成株式会社)、結晶セルロース(セオラスUF-711、旭化成株式会社)、部分アルファー化デンプン(PCS、旭化成株式会社)、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業)、フマル酸(富士フィルム和光純薬株式会社)、L-アスパラギン酸(富士フィルム和光純薬株式会社)、L-グルタミン酸(ナカライテスク株式会社)、コハク酸(ナカライテスク株式会社)、アルギン酸(株式会社キミカ)、アスコルビン酸(富士フィルム和光純薬株式会社)、エリソルビン酸(扶桑化学工業株式会社)、マレイン酸(富士フィルム和光純薬株式会社)、リンゴ酸(ナカライテスク株式会社)、ポリビニルピロリドン(プラスドンK29/30、ASHL AND)、クロスポビドン(ポリプラスドンXL-10、Ashland)、カルメロース(NS-300、ニチリン化学)、カルメロースカルシウム(ECG-505、五徳薬品)、クロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol、ウイルバー・エリス)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC NBD、信越化学工業)、コーンスターチ(日本食品加工株式会社)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101、フロイント産業株式会社)。
【0084】
以下の実施例および比較例における錠剤の硬度の測定は錠剤硬度計(MultiTest 50;フロイント産業株式会社)を用いてN=3で行った。
【0085】
以下の実施例および比較例における崩壊試験は、次の3つの方法で行った。(a)口腔内に水なしで錠剤を含ませ錠剤が口腔内の唾液のみで崩壊、溶解するまでの時間を測定した(N=3)。測定された崩壊時間を、「口腔内崩壊時間」と称する。(b)第十七改正日本薬局方の崩壊試験法に準じて測定した。測定された崩壊時間を「日局崩壊時間」と称する。(c)口腔内崩壊錠測定装置(トリコープテスタ(登録商標);岡田精工株式会社)により、人工唾液、37℃、6mL/minの滴下速度で崩壊時間を測定した(N=3)。測定された崩壊時間を「トリコープテスタによる崩壊時間」と称する。
【0086】
以下の実施例および比較例における溶出試験は、自動6連溶出試験器(富山産業社製)を用いて、日本薬局方第2法に従い溶出試験を行った。試験液は、エドキサバントシル酸塩水和物が溶解しにくい中性領域の溶液に相当するものとして、日本薬局方溶出試験第2液(pH6.8)900mLを用いた。なお、パドルの回転数は50rpmとした。溶出量の測定は、UV法(290nm)にて実施した。溶出試験開始後30分、45分および60分の溶出量を溶出率で求めた。
【0087】
[試験例1]
水を造粒媒体として(A)エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含む造粒物を造る際に、造粒物中に配合される(B)有機酸と、崩壊剤の影響について検討した。
【0088】
表1に示す処方に準じて、造粒用の各成分それぞれについて、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、造粒媒体として適量の水を添加して撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し篩過して得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて表1に示す圧力で打錠し、重量240mgの錠剤に製した。
【0089】
実施例1~3及び比較例1~2で得られた錠剤について、溶出試験、崩壊試験、口腔内崩壊試験及び硬度試験について評価を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
造粒物あるいは混合後末の中に有機酸を配合した実施例1~実施例3の錠剤は、口腔内崩壊時間が20秒以内、日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が25秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率が45分で60%以上であり、効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。一方、比較例1~3の錠剤においては、口腔内崩壊時間、日局崩壊時間、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間ともに実施例1~3に劣らないものではあったが、45分後の溶出率が60%に届かず、効能効果発現に適した溶出性を有さないものであった。これらの結果から、有機酸は、造粒物中に含まれていても造粒物の外に含まれていてもよいが、有機酸が造粒物の外のみに含まれる場合には、造粒物中に崩壊剤を含む必要があることがわかった(実施例2、比較例2)。また、造粒物中に崩壊剤が含まれていても、有機酸が造粒部物の内外いずれにも含まれていない場合(比較例3)には、溶出率が低かった。
【0092】
[試験例2]
有機酸の種類について検討した。
【0093】
表2に示す処方に準じて、表3に示す有機酸を用い、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、水を添加して撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し篩過して得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて重量240mgの錠剤に製した。
【0094】
実施例4-1~4-4で得られた錠剤について、溶出試験、崩壊試験、口腔内崩壊試験及び硬度試験について評価を実施した。結果を表4に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
実施例4-1~4-4の錠剤は、口腔内崩壊時間が20秒以内、日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で70%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。
【0099】
[試験例3]
国際公開公報2018/101373号(特許文献3)に提示された処方に準じて錠剤を製し、本発明の口腔内崩壊錠と比較した。本発明の口腔内崩壊錠には、錠剤の崩壊遅延に影響しない量の水溶性高分子を配合した。
【0100】
表5に示す処方に準じて、造粒用の各成分それぞれ(ヒドロキシプロピルセルロースとヒプロメロースを除く)について、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、HPC-Lを水に溶解した溶液を結合剤液として添加し、撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し篩過して造粒物を得た。得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、実施例5と比較例5は、直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて重量240mgの錠剤に、実施例6と比較例6は、直径10mm(隅角平面)の杵を用いて重量360mgの錠剤に、また実施例7と比較例7は、直径10mm(隅角平面)の杵を用いて重量400mgの錠剤に製した。溶出試験、崩壊試験、口腔内崩壊試験及び硬度試験について評価を実施した。結果を表5に示す。
【0101】
【0102】
本発明による方法で製した実施例5~7の錠剤は、口腔内崩壊時間、日局崩壊時間ともに25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で70%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。
【0103】
一方、比較例5~7の錠剤は、溶出率は45分で80%以上であったが、口腔内崩壊時間及び口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以上、日局崩壊時間が25秒以上であり、実施例に比べて明らかに遅延した崩壊速度を有していた。なお、この結果は、国際公開公報2018/101373号(特許文献3)に示されている結果を再現するものであった。
【0104】
参考までに、インタビューフォームに示されている配合成分との類似性から、リクシアナOD錠60mg(ロットNo.UNA0047:エドキサバントシル酸塩水和物として80.8mgを含有する)の口腔内崩壊時間、日局崩壊時間、および口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間を測定したところ、口腔内崩壊時間は33秒、日局崩壊時間は33秒、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間は45秒であり、本実施例に比べて明らかに遅延した崩壊速度であった。また、日本薬局方溶出試験第2液(pH6.8)での溶出試験を実施したところ、45分の溶出量は78.3%、60分の溶出量は81.9%であった。
【0105】
さらに、実施例1~5の錠剤は、表1,4及び5に示すように、薬物含有量80.8mgに対し、仕上がりの錠剤重量が240mgであり、比較例7に示す国際公開第WO2018/101373号(特許文献3)に準じて製した錠剤と比べて、重量で約40%減じて小型化されており、アドヒアランスが向上された製剤だといえる。
【0106】
[試験例4]
崩壊剤の種類の影響を検討した。
【0107】
水不溶性水膨潤性崩壊剤で、かつ水で単純に膨潤する崩壊剤を用いて、実施例8-1~8-6の口腔内崩壊錠を製した。
【0108】
表6に示す処方に準じて、造粒用の各成分それぞれについて、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、水を添加して撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し篩過して得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、直径8.5mm(平面隅角)の杵を用いて重量240mgの錠剤に製した。
【0109】
実施例8-1~8-6で得られた錠剤について、試験例1と同様に、溶出試験、崩壊試験、口腔内崩壊試験及び硬度試験を実施した。結果を表6に示す。
【0110】
【0111】
実施例8-1~8-6の錠剤は、口腔内崩壊時間が25秒以内、日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で70%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。このことから、水不溶性水膨潤性崩壊剤で、かつ水で単純に膨潤する崩壊剤は、エドキサバン、その薬理上許容される塩、又はそれらの溶媒和物の溶出促進に寄与することがわかった。
【0112】
[試験例5]
結合剤の含有量が及ぼす影響を検討した。
【0113】
結合剤として水溶性高分子であるポリビニルピロリドン(プラスドンK29/30.ASHLAND)を用い、添加量を錠剤重量の0~0.1重量%の範囲で変化させ、崩壊性と溶出性に及ぼす影響を検討した。
【0114】
表7に示す処方で、造粒用の各成分のそれぞれについて、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、造粒媒体として適量の水、または、ポリビニルピロリドンを水に溶解した溶液を添加して撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し、篩過して得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて2kNの圧力で打錠し、重量240mgの錠剤に製した。実施例9-1では水溶性高分子を用いず、水のみを造粒媒体として用いた。結果を表7に示す。
【0115】
【0116】
結合剤を使用しなかった実施例9-1の錠剤と、結合剤の使用量が錠剤重量の0.1重量%未満である実施例9-2,9-3は、口腔内崩壊時間及び日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で約70%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。これに対して、結合剤の使用量が錠剤重量の0.1重量%である比較例9-1の錠剤は、口腔内崩壊時間、日局崩壊時間、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間ともに26~30秒であり、速崩壊性が得られなかった。また、ポリビニルピロリドンを微量配合した場合、薬物の溶出速度が速くなることが示唆された。
【0117】
[試験例6]
結合剤と、水不溶性高分子、特に、腸溶性高分子の配合に関して検討した。
【0118】
水不溶性高分子として腸溶性高分子であるグルコース環を構成単位として有するAQOAT(AS-LF)の粉末を混合し、造粒用の溶剤として水を用いて、錠剤の崩壊性と溶出性に及ぼす影響を検討した。
【0119】
表8に示す処方で、造粒用の各成分のそれぞれについて、50錠相当分を乳鉢中に秤取し、造粒媒体として適量の水、または、HPC-Lを水に溶解した溶液を添加して撹拌し湿塊としたものを、通風乾燥機にて60℃で乾燥し、篩過して得られた造粒物に、混合用の添加剤を秤取、混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢として用い、直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて打錠し、重量240mgの錠剤に製した。結果を表8に示す。
【0120】
【0121】
AQOATの粉末を薬物とともに配合して製した実施例10-2の錠剤は、口腔内崩壊時間及び日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で80%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するものであった。また、水溶性高分子としてHPC-Lを微量配合した実施例10-3においても、崩壊時間の遅延は認めなかった。また、実施例10-1と比較するとき、0.1重量%未満の量の結合剤および/または任意の量の腸溶性高分子の配合は、口腔内崩壊時間をほとんど遅延させず、薬物の放出速度を向上させることがわかった。
【0122】
[試験例7]
造粒媒体としてエタノールを用いて、口腔内崩壊錠を製した。
実施例4-1、4-2、及び4-3と同じ配合処方で、造粒媒体として水の代わりにエタノールを用いて造粒物を製し、錠剤に製した。直径8.5mm(隅角平面)の杵を用いて表9に示す圧力で打錠し、重量240mgの錠剤に製した。
【0123】
有機酸としてフマル酸を用いたものを実施例11-1、グルタミン酸を用いたものを実施例11-2、アスパラギン酸を用いたものを実施例11-3とし、試験例1と同様に、溶出試験、崩壊試験、口腔内崩壊試験及び硬度試験を実施した。結果を表9に示す。
【0124】
【0125】
実施例11-1~実施例11-3の錠剤は、口腔内崩壊時間及び日局崩壊時間が25秒以内、口腔内崩壊錠測定装置による崩壊時間が30秒以内であり、優れた崩壊特性を有するものであると同時に、錠剤からの薬物の溶出率も45分で65%以上であり、医薬品の効能効果発現に適した溶出性を有するもので、造粒媒体としてのエタノールの有効性が確認された。
【0126】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。