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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/32 20060101AFI20241016BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F16H61/32
H02K7/116
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020195402
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083837
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 淳人
(72)【発明者】
【氏名】石川 康太
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健太郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147818(JP,A)
【文献】特開平05-256362(JP,A)
【文献】特開平09-009662(JP,A)
【文献】特開2010-203529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/26-61/36
F16H 63/00-63/38
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材と、
ロータおよびステータを有するモータを含み、前記シフト切替部材を駆動させる駆動部と、
前記モータの温度を検知する温度検知部と、
前記温度検知部により検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、前記温度検知部が故障した場合、使用温度範囲の上限温度に対応する上限制御ゲインまたは前記使用温度範囲の下限温度に対応する下限制御ゲインのうち小さい方を前記制御ゲインとして設定する制御を行うように構成されている、シフト装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記モータの駆動の初期において、前記制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のシフト装置。
【請求項3】
前記制御部は、使用温度範囲の上限側温度および前記上限側温度に対応する前記制御ゲインである上限側制御ゲインと、前記使用温度範囲の下限側温度および前記下限側温度に対応する前記制御ゲインである下限側制御ゲインとに基づく線形補間によって、前記温度検知部により検知された温度に対応する前記制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている、請求項1または2に記載のシフト装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度検知部に検知された温度とともに動作の種類に応じて、異なる前記制御ゲインとなるように前記制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載のシフト装置。
【請求項5】
前記シフト切替部材の複数の谷部のいずれかに嵌まり込んだ状態で前記シフト位置を成立させる位置決め部材をさらに備える、
前記制御部は、前記動作の種類として、前記位置決め部材が嵌まり込む前記複数の谷部の各々の谷底位置の学習動作、および、前記位置決め部材が嵌まり込む前記複数の谷部を変えることによる前記シフト位置の切り替え動作に応じて、互いに異なる前記制御ゲインとなるように前記制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている、請求項に記載のシフト装置。
【請求項6】
シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材と、
ロータおよびステータを有するモータを含み、前記シフト切替部材を駆動させる駆動部と、
前記モータの温度を検知する温度検知部と、
前記温度検知部により検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、前記モータの駆動の初期としてのシフト位置切替の要求を受け取った直後の制御周期において、前記制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている、シフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト装置に関し、特に、シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材を備えるシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材を備えるシフト装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、シフト位置に応じた複数の谷部を含むディテントプレート(シフト切替部材)を備えるシフトバイワイヤシステムが開示されている。シフトバイワイヤシステムは、モータを含む回転式アクチュエータと、電子制御ユニットと、上記ディテントプレートを含むシフトレンジ切替装置とを備えている。回転式アクチュエータは、シフトレンジ切替装置のディテントプレートを回転駆動させるように構成されている。電子制御ユニットは、回転式アクチュエータの回転を制御するように構成されている。モータは、ロータと、ステータと、膨張部材とを有している。ロータには、膨張部材を収容する収容穴部が形成されている。膨張部材は、周囲の環境温度に応じて膨張するように構成されている。
【0004】
上記特許文献1の膨張部材は、環境温度が所定温度より高い場合、膨張することにより、収容穴部の内側面と当接する。これにより、モータでは、環境温度が所定温度より高い場合、膨張部材と収容穴部の内側面との間にエアギャップが形成されないので、ロータに磁束が流れやすくなる。この結果、環境温度が所定温度より高いことにより、ステータのコイルの抵抗が大きくなることに起因して磁束が小さくなる場合には、膨張部材によりロータに磁束が流れやすくなる。
【0005】
一方、上記特許文献1の膨張部材は、環境温度が所定温度以下の場合、膨張しないことにより、収容孔部の内側面と当接しない。すなわち、膨張部材と、収容穴部の内側面との間には、エアギャップが形成されている。これにより、モータでは、環境温度が所定温度以下の場合、膨張部材と収容穴部の内側面との間にエアギャップが形成されるので、ロータに磁束が流れにくくなる。この結果、環境温度が所定温度以下であることにより、ステータのコイルの抵抗が小さくなることにより磁束が大きくなる場合には、膨張部材によりロータに磁束が流れにくくなる。
【0006】
このように、上記特許文献1のシフトバイワイヤシステムでは、環境温度に応じた膨張部材の膨張を利用して、環境温度に関わらず一定の磁束が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-99180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のシフトバイワイヤシステムでは、環境温度が低温の際、モータ内のグリスの粘度が高くなることに起因してモータの回転抵抗が大きくなった場合、モータ内の磁束が一定であることにより、モータのトルクが小さくなるという不都合がある。また、上記特許文献1のシフトバイワイヤシステムでは、環境温度が高温の際、モータ内のグリスの粘度が低くなることに起因してモータの回転抵抗が小さくなった場合、モータ内の磁束が一定であることにより、モータのトルクが過剰になるという不都合がある。これらの結果、上記特許文献1のシフトバイワイヤシステムでは、環境温度(モータの温度)に起因して、モータのトルクが安定しないという問題点がある。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、モータの温度に関わらず、モータのトルクを安定させることが可能なシフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるシフト装置は、シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材と、ロータおよびステータを有するモータを含み、シフト切替部材を駆動させる駆動部と、モータの温度を検知する温度検知部と、温度検知部により検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部とを備え、制御部は、温度検知部が故障した場合、使用温度範囲の上限温度に対応する上限制御ゲインまたは使用温度範囲の下限温度に対応する下限制御ゲインのうち小さい方を制御ゲインとして設定する制御を行うように構成されている
【0011】
この発明の第1の局面によるシフト装置では、上記のように、温度検知部により検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部を設ける。これにより、温度検知部により検知したモータの温度に基づいて制御ゲインを調整することにより、温度変化に伴うモータのコイルの抵抗の変化およびグリスの粘度の変化に合わせて、モータに供給する電圧を適切に調整することができるので、モータ内を流れる磁束を適切に調整することができる。その結果、モータの温度に関わらず、モータのトルクを安定させることができる。
【0012】
上記第1の局面によるシフト装置において、好ましくは、制御部は、モータの駆動の初期において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0013】
このように構成すれば、制御ゲインの調整をモータの駆動の初期に調整することにより、モータに供給する電圧をモータの駆動の初期から適切に調整することができるので、モータを流れる磁束をモータの駆動の初期から適切に調整することができる。その結果、モータの温度に関わらず、モータが駆動の初期から安定したトルクを出力することができる。
【0016】
上記第1の局面によるシフト装置において、好ましくは、制御部は、使用温度範囲の上限側温度および上限側温度に対応する制御ゲインである上限側制御ゲインと、使用温度範囲の下限側温度および下限側温度に対応する制御ゲインである下限側制御ゲインとに基づく線形補間によって、温度検知部により検知された温度に対応する制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている。
【0017】
このように構成すれば、上限側制御ゲインおよび下限側制御ゲインが記憶部に記憶されていれば制御ゲインを推定することができるので、モータの温度(環境温度)およびモータの温度に対応する制御ゲインに基づくマップにより制御ゲインを推定する場合と比較して、制御部の記憶部に必要な記憶容量を小さくすることができる。
【0018】
上記第1の局面によるシフト装置において、好ましくは、制御部は、温度検知部に検知された温度とともに動作の種類に応じて、異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。なお、動作の種類とは、シフト装置において行われる谷底位置の学習動作およびシフト切替動作などを含む動作である。
【0019】
このように構成すれば、温度検知部に検知された温度だけでなく、動作の種類に応じても制御ゲインを調整することができるので、より適切な制御ゲインに調整することができる。
【0020】
この場合、好ましくは、シフト切替部材の複数の谷部のいずれかに嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させる位置決め部材をさらに備え、制御部は、動作の種類として、位置決め部材が嵌まり込む複数の谷部の各々の谷底位置の学習動作、および、位置決め部材が嵌まり込む複数の谷部を変えることによるシフト位置の切り替え動作に応じて、互いに異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0021】
このように構成すれば、谷底位置の学習動作およびシフト切替動作の際に適切な制御ゲインによりモータを駆動させることができるので、学習動作およびシフト切替動作のいずれであっても、位置決め部材の複数の谷部に確実に位置決め部材を嵌め込むことができる。
また、上記目的を達成するために、この発明の第2の局面におけるシフト装置は、シフト位置に応じた複数の谷部を含むシフト切替部材と、ロータおよびステータを有するモータを含み、シフト切替部材を駆動させる駆動部と、モータの温度を検知する温度検知部と、温度検知部により検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部とを備え、制御部は、モータの駆動の初期としてのシフト位置切替の要求を受け取った直後の制御周期において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0022】
なお、上記第1の局面によるシフト装置において、以下のような構成も考えられる。
【0023】
(付記項1)
すなわち、上記モータの駆動の初期に制御ゲインを調整するシフト装置において、制御部は、モータの駆動の初期のうちモータに対する制御周期の1周期目において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0024】
このように構成すれば、制御周期の1周期目に制御ゲインを調整することにより、モータに供給する電圧をモータの駆動開始時点から適切に調整することができるので、モータを流れる磁束をモータの駆動開始時点から適切に調整することができる。その結果、モータの温度に関わらず、モータが駆動開始時点から安定したトルクを出力することができる。
【0027】
(付記項3)
上記線形補間により温度検知部により検知された温度に対応する制御ゲインを推定する制御部を備えるシフト装置において、制御部は、上限側温度としての上限温度および上限側制御ゲインとしての上限制御ゲインと、温度検知部により検知された温度および制御ゲインにより規定された相関関係式の傾きが変化する温度である変化点および変化点に対応する制御ゲインである変化点制御ゲインと、変化点と上限側温度との間の所定温度および所定温度に対応する制御ゲインである所定制御ゲインと、下限側温度としての下限温度および下限側制御ゲインとしての下限制御ゲインとに基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている。
【0028】
このように構成すれば、上限側制御ゲインおよび下限側制御ゲインに、変化点制御ゲインおよび所定制御ゲインを追加して線形補間により制御ゲインを推定することができるので、より適切な制御ゲインを推定することができる。
【0029】
(付記項4)
この場合、制御部は、温度検知部により検知された温度が所定温度以上上限温度以下である場合には、上限温度および上限制御ゲインと、所定温度および所定制御ゲインとにより取得される第1相関関係式に基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されており、制御部は、温度検知部により検知された温度が変化点以上所定温度未満である場合には、所定温度および所定制御ゲインと、変化点および変化点制御ゲインとにより取得される第2相関関係式に基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されており、制御部は、温度検知部により検知された温度が下限温度以上変化点未満である場合には、下限温度および下限制御ゲインと、変化点および変化点制御ゲインとにより取得される第3相関関係式に基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている。
【0030】
このように構成すれば、第1相関関係式、第2相関関係式および第3相関関係式により制御ゲインを推定することにより、モータの温度(環境温度)およびモータの温度に対応する制御ゲインに基づくマップにより制御ゲインを推定する場合と比較して、制御部の記憶部に必要な記憶容量を小さくしつつ、より適切な制御ゲインを推定することができる。
【0031】
(付記項5)
上記第1の局面によるシフト装置において、制御部は、モータの目標回転角度およびモータの回転角度に基づいて、モータの目標回転角速度を算出する第1制御部と、目標回転角速度およびモータの回転角速度に基づいて、モータの目標トルクを算出する第2制御部とを有し、制御部は、温度検知部により検知された温度に基づいて、第1制御部および第2制御部の各々に含まれる制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0032】
このように構成すれば、第1制御部および第2制御部の制御ゲインを温度に応じた制御ゲインに調整することができるので、より適切な値のモータの目標回転角速度およびモータの目標トルクを算出することができる。
【0033】
(付記項6)
この場合、制御部は、第2制御部により算出された目標トルク、モータの回転角速度、モータの回転角度、および、モータに流れた電流に基づいて、モータの駆動を制御する電流ベクトル制御部をさらに有し、制御部は、温度検知部により検知された温度に基づいて、電流ベクトル制御部の制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0034】
このように構成すれば、電流ベクトル制御部の制御ゲインを温度に応じた制御ゲインに調整することができるので、より適切にモータの駆動制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態によるシフト装置の分解斜視図である。
図2】一実施形態によるシフト装置の断面図である。
図3】一実施形態によるシフト装置の駆動力伝達機構と駆動側部材との接続を示した斜視図である。
図4】一実施形態によるシフト装置のモータ制御のブロック線図である。
図5】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における電流ベクトル制御のブロック線図である。
図6】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第1制御部のブロック線図である。
図7】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第2制御部のブロック線図である。
図8】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第1制御部および第2制御部に適用される線形補間の相関関係式の一例を示した模式図である。
図9】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第3制御部のブロック線図である。
図10】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第4制御部のブロック線図である。
図11】一実施形態によるシフト装置のモータ制御における第3制御部および第4制御部に適用される線形補間の相関関係式の一例を示した模式図である。
図12】一実施形態によるシフト装置の制御ゲイン調整処理を示したフローチャートである。
図13】一実施形態の変形例によるシフト装置の制御ゲイン調整処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1図11を参照して、電気自動車などの車両に搭載されるシフト装置100の構成について説明する。
【0038】
図1および図2に示すように、車両では、乗員(運転者)がシフトレバー(またはシフトスイッチ)などの操作部を介してシフト切替操作を行った場合に、変速機構部に対する電気的なシフト切替制御が行われる。すなわち、操作部に設けられたシフトセンサを介してシフトレバーの位置がシフト装置100に入力される。そして、シフト装置100に設けられた専用の制御部(制御基板)から送信される制御信号に基づいて、乗員のシフト操作に対応したP(パーキング)位置、R(リバース)位置、N(ニュートラル)位置およびD(ドライブ)位置のいずれかのシフト位置に変速機構部が切り替えらえる。このようなシフト切替制御は、シフトバイワイヤと呼ばれる。なお、P、R、NおよびD位置の各々は、特許請求の範囲の「シフト位置」の一例である。
【0039】
シフト装置100は、アクチュエータ1と、シフト切替部材21を含むシフト切替機構2(図3参照)とを備えている。
【0040】
アクチュエータ1は、乗員(運転者)のシフトの切替操作に基づいて、シフト切替部材21(図3参照)を駆動させる駆動装置である。アクチュエータ1は、ハウジング11と、外蓋12と、中蓋13と、駆動部14と、出力軸15と、制御部16と、接続端子17とを含んでいる。ここで、駆動部14は、シフト切替部材21を駆動させるように構成されている。具体的には、駆動部14は、モータ14aおよび駆動力伝達機構14bを有している。
【0041】
ハウジング11および外蓋12は、モータ14a、制御部16および駆動力伝達機構14bを収容する収容空間18を構成している。中蓋13は、収容空間18の内部に収容されているとともに、駆動力伝達機構14bと、制御部16との間に配置されている。
【0042】
モータ14aは、IPM(Interior Permanent Magnet)式のブラシレス三相モータである。モータ14aは、締結部材により中蓋13に固定されている。
【0043】
モータ14aは、ロータ141と、ステータ142と、シャフト143とを有している。ここで、シャフト143の延びる方向をZ方向とし、Z方向のうちの外蓋12側をZ1方向とし、Z方向のうちのハウジング11側をZ2方向とする。
【0044】
ロータ141内には、永久磁石としてのN極磁石およびS極磁石がシャフト143の回転軸線回りに等角度間隔で交互に埋め込まれている。ステータ142は、通電により磁力を発生する複数相(U相、V相およびW相)の励磁コイルを有している。シャフト143は、ロータ141とともに回転軸線回りに回転するように構成されている。
【0045】
駆動力伝達機構14bは、シャフト143に接続され、モータ14aから出力軸15に駆動力を伝達するように構成されている。ここで、駆動力伝達機構14bは、減速機構部として構成されている。
【0046】
出力軸15は、モータ14aの駆動力をシフト切替部材21(図3参照)に出力するように構成されている。出力軸15は、Z方向に延びている。出力軸15は、駆動力伝達機構14bの出力側に接続されている。出力軸15は、シフト切替部材21の入力側に接続されている。これにより、出力軸15と、シフト切替部材21とは、一体的に動作する。
【0047】
制御部16は、モータ14aを制御するように構成されている。制御部16は、基板に電子部品が実装された制御基板である。制御部16は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を有する記憶部と、温度検知部16aと、回転角度センサ16bとを有している。記憶部には、モータ14aを制御するためのモータ制御プログラムが記憶されている。モータ制御プログラムについては、後に詳細に説明する。
【0048】
温度検知部16aは、モータ14aの温度を検知するように構成されている。詳細には、温度検知部16aは、収容空間18内のモータ14a付近の環境温度(雰囲気温度)を検知している。回転角度センサ16bは、シャフト143の回転量(回転角度)を検知するセンサである。
【0049】
接続端子17は、外部機器としての制御装置と制御部16とを接続するバスバーである。接続端子17は、配線ケーブルに電気的に接続されることにより、制御装置と制御部16とを電気的に接続している。
【0050】
図3に示すように、シフト切替機構2は、変速機構部(図示せず)内の油圧制御回路部(図示せず)における油圧バルブボディのマニュアルスプール弁(図示せず)とパーキング機構部(図示せず)とに接続されている。変速機構部は、シフト切替機構2が駆動されることにより、シフト状態(P位置、R位置、N位置およびD位置)が機械的に切り替えられるように構成されている。
【0051】
シフト切替機構2は、上記シフト切替部材21と、ピン22aを有する位置決め部材22とを含んでいる。シフト切替部材21は、ディテントプレートである。シフト切替部材21は、シフト位置(P位置、R位置、N位置およびD位置)に対応するように設けられた複数(4つ)の谷部21aを有している。位置決め部材22は、アクチュエータ1の駆動により回動するシフト切替部材21の複数の谷部21aのいずれかにピン22aが嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させるように構成されている。位置決め部材22は、ディテントスプリングである。位置決め部材22は、シフト位置(P位置、R位置、N位置およびD位置)に対応する回動角度でディテントプレートを保持するように構成されている。
【0052】
(モータ制御プログラム)
図4に示すように、制御部16は、モータ制御プログラムの機能ブロックとして、速度演算部161と、第1制御部162と、第2制御部163と、電流ベクトル制御部164とを有している。速度演算部161は、モータ14aの回転角度Apに基づいて、モータ14aの回転角速度Mvを算出するように構成されている。
【0053】
第1制御部162は、モータ14aの目標回転角度Rpおよびモータ14aの回転角度Apに基づいて、モータ14aの目標回転角速度Rvを算出するように構成されている。具体的には、第1制御部162は、比例制御部(P制御部)である。すなわち、第1制御部162は、モータ14aの目標回転角度Rpとモータ14aの回転角度Apとの差に基づいて、第1比例ゲインKp1(図6参照)により、モータ14aの目標回転角速度Rvを算出するように構成されている。
【0054】
第2制御部163は、目標回転角速度Rvおよびモータ14aの回転角速度Mvに基づいて、モータ14aの目標トルクRtを算出するように構成されている。具体的には、第2制御部163は、比例制御部(P制御部)である。すなわち、第2制御部163は、モータ14aの目標回転角速度Rvとモータ14aの回転角速度Mvとの差に基づいて、第2比例ゲインKp2(図7参照)により、モータ14aの目標トルクRtを算出するように構成されている。
【0055】
電流ベクトル制御部164は、第2制御部163により算出された目標トルクRtと、モータ14aの回転角速度Mvと、モータ14aの回転角度Apと、モータ14aに流れた電流Iu、電流Ivおよび電流Iwとに基づいて、モータ14aの駆動を制御する制御を行うように構成されている。
【0056】
具体的には、図5に示すように、電流ベクトル制御部164は、モータ制御プログラムの機能ブロックとして、3相2相変換部164aと、トルク-電流ベクトル変換部164bと、第3制御部164cと、第4制御部164dと、非干渉制御部164eと、2相3相変換部164fと、デューティ比演算部164gとを有している。
【0057】
3相2相変換部164aは、電流Iu、電流Ivおよび電流Iwと、回転角度Apとに基づいて、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルのそれぞれに流れる電流Iu、電流Ivおよび電流Iwを、2相の電流Iqおよび電流Idに変換するように構成されている。トルク-電流ベクトル変換部164bは、目標トルクRtを目標電流RIqおよび目標電流RIdに変換するように構成されている。
【0058】
第3制御部164cは、モータ14aの目標電流RIqおよび電流Iqに基づいて、電圧Vq1を算出するように構成されている。具体的には、第3制御部164cは、比例積分制御部(PI制御部)である。すなわち、第3制御部164cは、モータ14aの目標電流RIqと電流Iqとの差に基づいて、第3比例ゲインKp3(図9参照)および第1積分ゲインKi1(図9参照)により、電圧Vq1を算出するように構成されている。
【0059】
第4制御部164dは、モータ14aの目標電流RIdおよび電流Idに基づいて、電圧Vd1を算出するように構成されている。具体的には、第4制御部164dは、比例積分制御部(PI制御部)である。すなわち、第4制御部164dは、モータ14aの目標電流RIdと電流Idとの差に基づいて、第4比例ゲインKp4(図10参照)および第2積分ゲインKi2(図10参照)により、電圧Vd1を算出するように構成されている。
【0060】
非干渉制御部164eは、モータ14aの回転角速度Mvと、電流Iqおよび電流Idとに基づいて、2相3相変換部164fにおいて2相の電圧を3相に変換する際の干渉の影響を抑制する電圧Vq2および電圧Vd2を算出するように構成されている。2相3相変換部164fは、回転角度Apと、2相の電圧である電圧Vq1+電圧Vq2および電圧Vd1+電圧Vd2とに基づいて、2相の電圧である電圧Vq1+電圧Vq2および電圧Vd1+電圧Vd2を、3相の電圧Vu、電圧Vvおよび電圧Vwに変換するように構成されている。デューティ比演算部164gは、3相の電圧Vu、電圧Vvおよび電圧Vwに基づいて、デューティ比Du、デューティ比Dvおよびデューティ比Dwを算出するように構成されている。
【0061】
〈制御ゲインの調整〉
図6図11に示すように、本実施形態の制御部16は、コイルの抵抗およびグリスの粘度などにより変化するモータ14aの温度特性に合った、デューティ比Du、デューティ比Dvおよびデューティ比Dwを算出可能なように構成されている。すなわち、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。詳細には、制御部16は、温度検知部16aにより検知されるモータ14aの温度(環境温度)に応じて、制御ゲインとしての第1比例ゲインKp1、第2比例ゲインKp2、第3比例ゲインKp3、第4比例ゲインKp4、第1積分ゲインKi1および第2積分ゲインKi2を変更する制御を行うように構成されている。
【0062】
まず、図6図8を参照して、第1制御部162の第1比例ゲインKp1および第2制御部163の第2比例ゲインKp2の調整について説明する。
【0063】
図6および図7に示すように、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、第1制御部162および第2制御部163の各々に含まれる制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、第1制御部162の第1比例ゲインKp1および第2制御部163の第2比例ゲインKp2を調整する制御を行うように構成されている。以下では、第1比例ゲインKp1の調整の一例について説明する。なお、第2比例ゲインKp2の調整は、第1比例ゲインKp1の調整と同様の処理であるので、説明は省略する。
【0064】
具体的には、図8に示すように、制御部16は、使用温度範囲(たとえば、-40℃~120℃)の上限側温度および上限側温度に対応する制御ゲインである上限側制御ゲインと、使用温度範囲の下限側温度および下限側温度に対応する制御ゲインである下限側制御ゲインとに基づく線形補間により、温度検知部16aにより検知された温度に対応する第1比例ゲインKp1(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。
【0065】
詳細には、制御部16は、上限温度Tmaxおよび上限制御ゲインKmaxと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcと、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnと、下限温度Tminおよび下限制御ゲインKminとに基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている。
【0066】
ここで、上限温度Tmaxは、上限側温度の一例である。上限温度Tmaxは、たとえば、120℃である。上限制御ゲインKmaxは、上限側制御ゲインの一例である。変化点Tcは、温度検知部16aにより検知された温度および制御ゲインにより規定された相関関係式の傾きが変化する温度である。変化点Tcは、たとえば、-10℃である。変化点制御ゲインKcは、変化点Tcに対応する制御ゲインである。所定温度Tnは、変化点Tcと上限温度Tax(上限側温度)との間の温度である。所定温度Tnは、たとえば、20℃である。所定制御ゲインKnは、所定温度Tnに対応する制御ゲインである。下限温度Tminは、下限側温度の一例である。下限温度Tminは、たとえば、-40℃である。下限制御ゲインKminは、下限側制御ゲインの一例である。
【0067】
すなわち、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が所定温度Tn以上上限温度Tmax以下である場合には、上限温度Tmaxおよび上限制御ゲインKmaxと、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnとにより取得される第1相関関係式に基づく線形補間により、第1比例ゲインKp1(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第1相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第1相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが小さくなる。
【0068】
また、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が変化点Tc以上所定温度Tn未満である場合には、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcとにより取得される第2相関関係式に基づく線形補間により、第1比例ゲインKp1(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第2相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第2相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが小さくなる。
【0069】
制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が下限温度Tmin以上変化点Tc未満である場合には、下限温度Tminおよび下限制御ゲインKminと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcとにより取得される第3相関関係式に基づく線形補間により、第1比例ゲインKp1(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第3相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第3相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが小さくなる。
【0070】
ここで、たとえば、モータ14aの温度が温度T1である場合、第3相関関係式により、制御ゲインK1はK1=Kmax+(Kc-Kmax)・(T1-Tmin)/(Tc-T1)という計算により算出される。算出された制御ゲインK1が、第1比例ゲインKp1として第1制御部162に適用される。第1相関関係式および第2相関関係式も同様にして、モータ14aの温度に対応する制御ゲインが算出される。
【0071】
次に、図9図11を参照して、第3制御部164cの第3比例ゲインKp3および第3制御部164cの第1積分ゲインKi1と、第4制御部164dの第4比例ゲインKp4および第4制御部164dの第2積分ゲインKi2との調整について説明する。
【0072】
図9および図10に示すように、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、電流ベクトル制御部164の制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、第3制御部164cおよび第4制御部164dの各々に含まれる制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、第3制御部164cの第3比例ゲインKp3、第3制御部164cの第1積分ゲインKi1、第4制御部164dの第4比例ゲインKp4、および、第4制御部164dの第2積分ゲインKi2を調整する制御を行うように構成されている。以下では、第3比例ゲインKp3の調整の一例について説明する。なお、第3制御部164cの第1積分ゲインKi1、第4制御部164dの第4比例ゲインKp4、および、第4制御部164dの第2積分ゲインKi2の調整は、第3比例ゲインKp3の調整と同様の処理であるので、説明は省略する。
【0073】
具体的には、図11に示すように、制御部16は、使用温度範囲(たとえば、-40℃~120℃)の上限側温度および上限側温度に対応する制御ゲインである上限側制御ゲインと、使用温度範囲の下限側温度および下限側温度に対応する制御ゲインである下限側制御ゲインとに基づく線形補間により、温度検知部16aにより検知された温度に対応する第3比例ゲインKp3(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。
【0074】
詳細には、制御部16は、上限温度Tmaxおよび上限制御ゲインKmaxと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcと、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnと、下限温度Tminおよび下限制御ゲインKminとに基づく線形補間により、制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている。
【0075】
すなわち、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が所定温度Tn以上上限温度Tmax以下である場合には、上限温度Tmaxおよび上限制御ゲインKmaxと、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnとにより取得される第4相関関係式に基づく線形補間により、第3比例ゲインKp3(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第4相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第4相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが大きくなる。
【0076】
また、制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が変化点Tc以上所定温度Tn未満である場合には、所定温度Tnおよび所定制御ゲインKnと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcとにより取得される第5相関関係式に基づく線形補間により、第3比例ゲインKp3(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第5相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第5相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが大きくなる。
【0077】
制御部16は、温度検知部16aにより検知された温度が下限温度Tmin以上変化点Tc未満である場合には、下限温度Tminおよび下限制御ゲインKminと、変化点Tcおよび変化点制御ゲインKcとにより取得される第6相関関係式に基づく線形補間により、第3比例ゲインKp3(制御ゲイン)を推定する制御を行うように構成されている。第6相関関係式は、温度と制御ゲインとの相関関係を示した1次式である。第6相関関係式では、温度が高くなるにしたがって、制御ゲインが大きくなる。
【0078】
ここで、たとえば、モータ14aの温度が温度T2である場合、第6相関関係式により、制御ゲインK2はK2=Kmin+(Kc-Kmin)・(T2-Tmin)/(Tc-Tmin)という計算により算出される。算出された制御ゲインK2が、第3比例ゲインKp3として第3制御部164cに適用される。第4相関関係式および第5相関関係式も同様にして、モータ14aの温度に対応する制御ゲインが算出される。
【0079】
上記した線形補間を用いた制御ゲインの調整は、制御部16の処理負荷の増大の抑制のため、モータ14aの制御の初期にのみ行われる。すなわち、制御部16は、モータ14aの駆動の初期において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。詳細には、制御部16は、モータ14aの駆動の初期のうちモータ14aに対する制御周期の1周期目において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部16は、制御装置からのシフト位置切替の要求を受け取った直後の制御周期のみ、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。
【0080】
また、上記した線形補間を用いた制御ゲインの調整では、温度検知部16aが故障した場合、適切な制御ゲインが算出されないので、安全のため最も小さな制御ゲインが適用される。すなわち、制御部16は、温度検知部16aが故障した場合、温度検知部16aにより検知される高温側温度に対応する高温側制御ゲインおよび温度検知部16aにより検知される低温側温度に対応する低温側制御ゲインのうち小さい方に制御ゲインを設定する制御を行うように構成されている。ここで、温度検知部16aが故障した場合とは、センサの出力値が上限値または下限値に固着した場合である。詳細には、制御部16は、第1制御部162および第2制御部163において、温度検知部16aが故障した場合、使用温度範囲の上限温度Tmaxに対応する下限制御ゲインKminを制御ゲインとして設定する制御を行うように構成されている。また、制御部16は、第3制御部164cおよび第4制御部164dにおいて、温度検知部16aが故障した場合、使用温度範囲の下限温度Tminに対応する下限制御ゲインKminを制御ゲインとして設定する制御を行うように構成されている。
【0081】
このような線形補間を用いた制御ゲインの調整は、シフト装置100の動作の種類に応じて異なるゲインに調整される。すなわち、制御部16は、温度検知部16aに検知された温度とともに動作の種類に応じて、異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。詳細には、制御部16は、動作の種類として、位置決め部材22が嵌まり込む複数の谷部21aの各々の谷底位置の学習動作(位置学習)、および、位置決め部材22が嵌まり込む複数の谷部21aを変えることによるシフト位置の切り替え動作に応じて、互いに異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている。すなわち、制御ゲインごとに学習動作の際に適用される第1~第6相関関係式が記憶部に記憶されているとともに、制御ゲインごとにシフト切替動作の際に適用される別の第1~第6相関関係式が記憶部に記憶されている。
【0082】
谷底位置の学習動作は、車両の工場出荷時およびディーラーでの点検などで行われる。ここで、作業者が谷底位置の学習動作モードを選択したことに基づいて、制御装置から制御部16に谷底位置の学習動作が行われることが通知される。シフト切替動作は、ユーザーが行う通常の運転の際に行われる。ここで、作業者が谷底位置の学習動作モードからシフト切替動作モードに切り替えたことに基づいて、制御装置から制御部16にシフト切替動作が行われることが通知される。
【0083】
(制御ゲイン調整処理)
以下に、図12を参照して、制御部16による制御ゲイン調整処理について説明する。制御ゲイン調整処理は、モータ14aの周りの環境温度(雰囲気温度)に応じて制御ゲインを調整する処理である。
【0084】
ステップS1において、温度検知部16aが故障しているか否かが判断される。すなわち、温度検知部16aの出力値が上限値または下限値に固着しているか否かが判断される。温度検知部16aが故障していない場合にはステップS2に進み、温度検知部16aにより計測された計測値が取得される。また、温度検知部16aが故障している場合にはステップS3に進み、温度検知部16aにより計測された計測値としての環境温度を120℃または-40℃に固定する。詳細には、第1制御部162および第2制御部163において、環境温度が120℃に固定される。また、第3制御部164cおよび第4制御部164dにおいて、環境温度が-40℃に固定される。
【0085】
ステップS4において、制御周期の1周期目か否かが判断される。制御周期の1周期目でない場合には制御ゲイン調整処理を終了する。また、制御周期の1周期目である場合にはステップS5に進む。
【0086】
ステップS5において、制御装置から通知されたシフト装置100の動作の種類がシフト切替動作か否かが判断される。シフト装置100の動作の種類がシフト切替動作でない場合は、ステップS6に進み、シフト装置100の動作の種類がシフト切替動作である場合は、ステップS7に進む。ステップS7において、制御ゲインが調整される。すなわち、シフト切替動作の際に適用される第1~第6相関関係式と、温度検知部16aから取得した温度とに基づいて、第1比例ゲインKp1、第2比例ゲインKp2、第3比例ゲインKp3、第4比例ゲインKp4、第1積分ゲインKi1および第2積分ゲインKi2が調整される。また、温度検知部16aが故障している場合には、第1比例ゲインKp1、第2比例ゲインKp2、第3比例ゲインKp3、第4比例ゲインKp4、第1積分ゲインKi1および第2積分ゲインKi2が最も小さい制御ゲインに調整される。そして、ステップS7の後、制御ゲイン調整処理が終了する。
【0087】
ステップS6において、制御装置から通知されたシフト装置100の動作の種類が位置学習動作か否かが判断される。シフト装置100の動作の種類が位置学習動作でない場合は、制御ゲイン調整処理が終了し、シフト装置100の動作の種類が位置学習動作である場合は、ステップS8に進む。ステップS8において、制御ゲインが調整される。すなわち、位置学習動作の際に適用される第1~第6相関関係式と、温度検知部16aから取得した温度とに基づいて、第1比例ゲインKp1、第2比例ゲインKp2、第3比例ゲインKp3、第4比例ゲインKp4、第1積分ゲインKi1および第2積分ゲインKi2が調整される。また、温度検知部16aが故障している場合には、第1比例ゲインKp1、第2比例ゲインKp2、第3比例ゲインKp3、第4比例ゲインKp4、第1積分ゲインKi1および第2積分ゲインKi2が最も小さい制御ゲインに調整される。そして、ステップS8の後、制御ゲイン調整処理が終了する。
【0088】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0089】
本実施形態では、上記のように、温度検知部16aにより検知された温度に基づいて、制御ゲインを調整する制御を行うように構成された制御部16を設ける。これにより、温度検知部16aにより検知したモータ14aの温度に基づいて制御ゲインを調整することにより、温度変化に伴うモータ14aのコイルの抵抗の変化およびグリスの粘度の変化に合わせて、モータ14aに供給する電圧を適切に調整することができるので、モータ14a内を流れる磁束を適切に調整することができる。この結果、モータ14aの温度に関わらず、モータ14aのトルクを安定させることができる。
【0090】
また、本実施形態では、上記のように、制御部16を、モータ14aの駆動の初期において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成する。これにより、制御ゲインの調整をモータ14aの駆動の初期に調整することにより、モータ14aに供給する電圧をモータ14aの駆動の初期から適切に調整することができるので、モータ14a内を流れる磁束をモータ14aの駆動の初期から適切に調整することができる。この結果、モータ14aの温度に関わらず、モータ14aが駆動の初期から安定したトルクを出力することができる。
【0091】
また、本実施形態では、上記のように、制御部16を、温度検知部16aが故障した場合、温度検知部16aにより検知される高温側温度に対応する高温側制御ゲインおよび温度検知部16aにより検知される低温側温度に対応する低温側制御ゲインのうち小さい方に制御ゲインを設定する制御を行うように構成する。これにより、温度検知部16aが故障した場合、高温側制御ゲインおよび低温側制御ゲインのうち小さい方が制御ゲインとして適用されるので、モータ14aの駆動力を小さくすることができる。この結果、シフト切替部材21をゆっくりと動かすことができるので、温度検知部16aが故障した場合であったとしても、シフト切替部材21のシフト位置に応じた回転角度までの移動が過剰になってしまう(オーバーシュートする)ことを抑制することができる。
【0092】
また、本実施形態では、上記のように、制御部16を、上限側温度および上限側制御ゲインと、下限側温度および下限側制御ゲインとに基づく線形補間により、温度検知部16aにより検知された温度に対応する制御ゲインを推定する制御を行うように構成する。これにより、上限側制御ゲインおよび下限側制御ゲインが記憶部に記憶されていれば制御ゲインを推定することができるので、モータの温度およびモータの温度に対応する制御ゲインに基づくマップにより制御ゲインを推定する場合と比較して、制御部16の記憶部に必要な記憶容量を小さくすることができる。
【0093】
また、本実施形態では、上記のように、制御部16を、温度検知部16aに検知された温度とともに動作の種類に応じて、異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成する。これにより、温度検知部16aに検知された温度だけでなく、動作の種類に応じても制御ゲインを調整することができるので、より適切な制御ゲインに調整することができる。
【0094】
また、本実施形態では、上記のように、シフト装置100に、シフト切替部材21の複数の谷部21aのいずれかに嵌まり込んだ状態でシフト位置を成立させる位置決め部材22を設ける。制御部16を、動作の種類として、谷底位置の学習動作、および、シフト位置の切り替え動作に応じて、互いに異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成する。これにより、谷底位置の学習動作およびシフト切替動作の際に適切な制御ゲインによりモータ14aを駆動させることができるので、学習動作およびシフト切替動作のいずれであっても、位置決め部材22の複数の谷部21aに確実に位置決め部材22を嵌め込むことができる。
【0095】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0096】
たとえば、上記実施形態では、制御部16は、モータ14aの駆動の初期において、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部は、モータの駆動ごとに、制御ゲインを調整する制御を行うように構成されていてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、制御部16は、温度検知部16aが故障した場合、温度検知部16aにより検知される高温側温度に対応する高温側制御ゲインに制御ゲインを設定する制御を行うように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部は、温度検知部が故障した場合、制御動作を停止させてもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、制御部16は、上限側温度および上限側制御ゲインと、下限側温度および下限側制御ゲインとに基づく線形補間により、温度検知部16aにより検知された温度に対応する制御ゲインを推定する制御を行うように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部は、モータの温度(環境温度)および制御ゲインに基づくテーブルにより、温度検知部により検知された温度に対応する制御ゲインを推定する制御を行うように構成されていてもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、制御部16は、温度検知部16aに検知された温度とともに動作の種類に応じて、異なる制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部は、温度検知部に検知された温度とともに動作の種類に応じて、同じ制御ゲインとなるように制御ゲインを調整する制御を行うように構成されていてもよい。
【0100】
また、上記実施形態では、制御部16は、制御装置から通知されたシフト装置100の動作の種類がシフト切替動作か否か、および、学習動作か否かの両方を判断するように構成されているが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部は、制御装置から通知されたシフト装置の動作の種類がシフト切替動作か否かのみを判断するように構成されていてもよい。すなわち、図13に示すように、図12に示すステップS1~S4と同じステップS1~S4の後、ステップS205においてシフト切替動作か否かを判断する。ここで、シフト切替動作である場合にはステップS206に進み制御ゲインを調整した後、制御ゲイン調整処理を終了する。シフト切替動作でない場合には、そのまま制御ゲイン調整処理を終了する。
【0101】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、制御部16の制御処理を、処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部の制御処理を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0102】
14 駆動部
14a モータ
16 制御部
16a 温度検知部
21 シフト切替部材
21a 谷部
22 位置決め部材
100 シフト装置
141 ロータ
142 ステータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13