(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】干渉検知装置、干渉検知方法及び干渉検知プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/345 20150101AFI20241016BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20241016BHJP
【FI】
H04B17/345
H04B17/391
(21)【出願番号】P 2020205770
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】西川 由明
(72)【発明者】
【氏名】堺 淳
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074305(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195842(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0166461(US,A1)
【文献】国際公開第2020/183544(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0367639(US,A1)
【文献】特開2008-167200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0161035(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/345
H04B 17/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線電波を受信する受信部と、
受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算する分布計算部と、
前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算する信号成分計算部と、
前記信号成分から特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する記録部と、
蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する処理部と、
を備える干渉検知装置。
【請求項2】
前記受信電力分布から受信電力確率密度関数の微分値に基づいて閾値を決定するノイズ閾値計算部をさらに備え、
前記信号成分計算部は、前記受信電力分布のうち前記ノイズ閾値計算部で計算した閾値を上回る部分を前記信号成分として計算する、
請求項1に記載の干渉検知装置。
【請求項3】
前記ノイズ閾値計算部は、前記受信電力分布の微分値が最小となる点、又は、前記受信電力分布の微分値の符号が変わる、微分値が0となる点、あるいは、それらに定数を加減乗除した点を閾値として決定する、
請求項2に記載の干渉検知装置。
【請求項4】
前記受信電力分布から統計モデルのパラメータを推定し、ノイズ分布のパラメータを計算するノイズ分布計算部をさらに備え、
前記信号成分計算部は、前記受信電力分布から前記ノイズ分布を減算することにより前記信号成分を計算する、
請求項1に記載の干渉検知装置。
【請求項5】
前記ノイズ分布計算部は、統計モデルとして、正規分布、指数分布、カイ2乗分布、レイリー分布、仲上分布、仲上m分布、ガンマ分布、一般化ガンマ分布のいずれかを用いる、
請求項4に記載の干渉検知装置。
【請求項6】
前記正常範囲は、1つのクラス分の正常データの集合を学習させ、識別境界を決定することで設定される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の干渉検知装置。
【請求項7】
前記干渉判定マスクを用いて、受信した無線電波に干渉があるか否かの判定を行う判定部をさらに備える、
請求項1~5のいずれか1項に記載の干渉検知装置。
【請求項8】
受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算し、
前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算し、
前記信号成分から特徴量を抽出し、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、
蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する、
干渉検知方法。
【請求項9】
受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算する処理と、
前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算する処理と、
前記信号成分から特徴量を抽出する処理と、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する処理と、
蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉検知装置、干渉検知方法及び干渉検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波を用いた無線通信は、様々な分野で活用されているが、その中でも特に重要とされる警察無線や鉄道無線等の通信は重要無線通信と呼ばれる。重要無線通信に対して妨害が生じた場合、人命にもかかわる事態に発展する可能性があるため、これらの通信に用いられる電波の発射状況に対して異常検知(監視)を行うことは非常に重要である。
【0003】
特許文献1には、人間及び機械の活動に伴う周期的に繰り返す電波受信障害の原因を推定する技術が開示されている。特許文献1では、過去に蓄積された、周期的異常時及び正常時の電波情報、位置情報、電波情報、空間情報、周辺情報を入力データとして、教師データとしてのその周期的な異常が生じる原因を与えて周期的異常原因推定モデルを構築している。現実の運用においては、周期的異常が検出された時の位置情報、電波情報、空間情報、周辺情報を入力データとして、周期的異常原因推定モデルに基づいて現在の状態の周期的異常の発生原因を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、電波の受信レベルの頻度や確率を干渉検知に利用する場合、受信レベルにノイズ部分が含まれると、ノイズ部分の変化に起因して干渉検知してしまう。これを防止するために、ある電波の受信レベルに対して閾値を設定し、受信レベルが閾値を超えた部分をノイズとして除去する、ノイズ除去処理が実行される。
【0006】
しかしながら、このノイズは受信機器の状態に依存して変化するため、固定的な閾値設定では適切にノイズ除去できないという問題がある。
【0007】
本開示の目的は、上述した問題を鑑み、適切にノイズを除去することで、干渉検知の精度を向上させることが可能な、干渉検知装置、干渉検知方法及び干渉検知プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る干渉検知装置は、無線電波を受信する受信部と、受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算する分布計算部と、前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算する信号成分計算部と、前記信号成分から特徴量を抽出する特徴量抽出部と、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する記録部と、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する処理部とを備えるものである。
【0009】
本発明の一態様に係る干渉検知方法は、受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算し、前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算し、前記信号成分から特徴量を抽出し、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する。
【0010】
本発明の一態様に係る干渉検知プログラムは、受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算する処理と、前記受信電力分布からノイズを除去して、信号成分を計算する処理と、前記信号成分から特徴量を抽出する処理と、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する処理と、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する処理と、をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適切にノイズを除去することで、干渉検知の精度を向上させることが可能な、干渉検知装置、干渉検知方法及び干渉検知プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る干渉検知装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
【
図3】実施の形態2に係る干渉検知装置の構成を示す図である。
【
図4】
図3の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
【
図5】実施の形態3に係る干渉検知装置の構成を示す図である。
【
図6】
図5の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
【
図7】実施の形態3において、受信電力分布からノイズ成分を差し引くイメージを説明する図である。
【
図8】実施の形態4に係る干渉検知装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回線で構成することができる。
【0014】
実施の形態は、ノイズ成分が変化したとしても、適切にノイズ除去して、干渉検知を行うことが可能な技術に関する。以下の説明では、400MHz帯の電波を受信する例について説明する。無線電波を受信する場合、ある幅の周波数帯の電波が受信される。ここでは、周波数幅が40MHzであるものとする。また、受信する時間は10秒間であるものとする。
【0015】
このように周波数帯が設定された機器を用いて、400MHz±20MHzの電波が10秒間受信される。10秒間の内0.1秒間ごとにフーリエ変換することで、無線電波が周波数毎の電力に変換され、周波数毎の電力の分布が得られる。
【0016】
対象の周波数帯で無線電波が放射されている場合には受信電力値は高い値となり、放射されていない場合には受信電力値は受信機器に由来する低い値となる。このため一定期間取得した受信電力の頻度分布は、無線電波が放射されていない場合の受信機器に由来する低い値の部分と無線電波が放射されている場合の高い値の部分が混ざった分布として得られる。この受信機器に由来する部分をノイズ成分と呼び、無線電波が放射されている場合の受信電力値が高い成分を信号成分と呼ぶ。
【0017】
実施の形態では、このようにして得られた受信電力分布からノイズ成分を除去して信号成分を得ることで、信号成分に注目して干渉検知を行うことができる。このように、受信電力分布からノイズ成分を除去し、信号成分に基づく干渉検知を行う手法について以下説明する。
【0018】
実施の形態1
図1は、無線電波の干渉検知をするための干渉判定マスクを生成する干渉検知装置の構成について説明する。実施の形態1に係る干渉検知装置の構成を機能ブロックとして示す図である。
図1を参照すると、干渉検知装置100は、受信部101、特徴量抽出部102、記録部103、処理部104、前処理部110を含む。前処理部110は、分布計算部111、信号成分計算部112を含む。
【0019】
受信部101は、無線電波を受信して、受信結果を前処理部110に出力する。前処理部110は、受信結果を前処理する。特徴量抽出部102は、前処理部110で前処理された信号成分から特徴量を抽出する。ここで抽出される「特徴量」とは、信号が電波干渉を受けているか否かを判定するための特徴量である。
【0020】
特徴量としては、例えば、振幅確率分布(APD:Amplitude Probability Distribution)、周波数スペクトラムなどを挙げることができる。振幅確率分布は、ある計測時間内において、測定対象の信号の瞬時振幅がある振幅閾値を超える時間率である。また、特徴量として、振幅ヒストグラム、確率分布のモーメント、標準偏差、歪度、尖度、ピーク係数などの統計量を算出してもよい。
【0021】
記録部103は、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する。処理部104は、記録部103に蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定する。そして、処理部104は、判定結果に基づいて、無線電波の干渉を検知するための複数の特徴量に関する閾値を設定した干渉判定マスクを生成する。
【0022】
干渉判定マスクは、「多元特徴量マスク」と「多元異常判定マスク」の2つの例を含み得る。多元特徴量マスクとは、干渉検知の判定基準として用いる、複数の特徴量を1つのベクトルとする多次元ベクトル空間における、正常範囲と異常範囲の境界面(しきい値)を設定したものである。また、多元異常判定マスクとは、干渉検知の判定基準として用いる、複数の特徴量のしきい値をそれぞれ個別に設定したマスクである。
【0023】
前処理部110では、具体的には、分布計算部111と信号成分計算部112とにより前処理が実行される。分布計算部111は、受信した無線電波から、所定の周波数帯における受信電力分布を計算する。そして、信号成分計算部112は、受信電力分布からノイズを除去し、信号成分を計算する。
【0024】
ここでは、あらかじめ設定された閾値が利用される。事前の調査により受信機器に由来するノイズ成分は-200dBmに現れることが分かっていたものとする。信号成分計算部112では、例えば、閾値が-180dBmに設定される。信号成分計算部112は、この閾値を下回る成分をノイズ成分として除去し、閾値以上の部分を信号成分として抽出する。
【0025】
次に、
図2を参照して実施の形態1の干渉検知方法について説明する。
図2は、
図1の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
図2に示すように、まず、受信部101が電波を受信する(ステップS101)。そして、分布計算部111が、受信した電波から受信電力分布を計算する(ステップS102)。その後、信号成分計算部112が、受信電力分布から信号成分を計算する(ステップS103)。上述したように、ここでは、予め設定された閾値を用いて、閾値を下回る成分がノイズ成分として除去される。これにより、信号成分が抽出される。
【0026】
そして、特徴量抽出部102は、信号成分に基づいて特徴量を抽出する(ステップS104)。記録部103は、特徴量と周波数帯を関連付けて記録する(ステップS105)。処理部104は、記録部103に記録された特徴量と周波数帯を入力として、正常状態を判定する干渉判定マスクを生成する(ステップS106)。
【0027】
具体的には、ステップS106において、処理部104は、まず、記録部103に蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得する。そして、この取得した複数の特徴量を用いて、教師なし機械学習により閾値を設定した干渉判定マスクが生成される。
【0028】
この生成手法の一つとして、機械学習のアルゴリズム、例えば、外れ値検知の手法であるOne-Class SVM(Support Vector Machine)を用いることができる。One-Class SVMでは、1つのクラス分の正常データの集合を学習させ、識別境界(閾値)を決定することで、その境界を基準に外れ値が検出される。具体的には、特徴量が正常か否かを判断するための正常データを用いて、取得した特徴量が正常範囲内か否かが判定される。
【0029】
取得した特徴量が正常範囲内であると判定された場合、判定結果に応じて閾値のレベルの変更が実行され干渉判定マスクが生成される。また、取得した特徴量が正常範囲内でないと判定された場合には、閾値のレベルの変更は実行されず、処理が終了する。なお、One-Class SVMは一般的な内容であるため、詳細な説明については省略する。
【0030】
このように、実施の形態1によれば、特徴量を記録する前にノイズ成分を除去し、信号成分のみを取得するように構成されている。これにより、信号成分に注目した干渉検知を行うための干渉判定マスクを作成することができる。この干渉判定マスクを用いて、受信した無線電波の干渉検知を行うことにより、干渉検知の精度を向上させることが可能となる。
【0031】
実施の形態2
図3は、実施の形態2に係る干渉検知装置の構成を示す図である。実施の形態2において、実施の形態1と異なる点は、前処理部110が、ノイズ閾値計算部113をさらに備える点である。実施の形態2では、受信結果に基づいてノイズ閾値が自動的に設定される。以下の説明では、特に実施の形態1との差分を中心に説明する。
【0032】
図3を参照すると、前処理部110は、分布計算部111、信号成分計算部112、ノイズ閾値計算部113を含む。ノイズ閾値計算部113は、受信電力分布から、受信電力確率密度関数の微分値に基づいてノイズ閾値を決定する。信号成分計算部112は、ノイズ閾値計算部113で計算したノイズ閾値以上の部分を信号成分として計算する。
【0033】
上述したように、受信電力分布は、電力値に対する頻度分布として得られる。このため、受信電力分布の微分値は受信電力分布の傾きを表す。ノイズ閾値計算部113は、この受信電力分布の微分値が最小となる電力値(例えば、-180dBm)をノイズ閾値として設定することができる。信号成分計算部112は、ノイズ閾値計算部113により決定されたノイズ閾値-180dBmを下回る成分をノイズとして除去し、閾値以上の部分を信号成分として抽出する。
【0034】
なお、ここでは受信電力分布の微分値が最小となる電力値をノイズ閾値として設定したが、これに所定の定数、例えば5dBを加減算した値をノイズ閾値としてもよい。又は、受信電力分布の微分値が最小となる電力値を所定の定数で乗除算した値をノイズ閾値とすることも可能である。さらには、受信電力分布の微分値の符号が変わる点、例えば負から正に変化する、微分値が0となる点をノイズ閾値としてもよい。このようにノイズ閾値を設定することで、受信機器の環境変化により受信機器に由来する受信電力値に変化があった場合でも、適切な閾値を設定することができる。
【0035】
次に、
図4を参照して実施の形態2の干渉検知方法について説明する。
図4は、
図3の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
図4において、ステップS203~S204以外のステップは、
図2と同一であるため詳細な説明は省略する。ここでは、実施の形態1との差分について説明する。
【0036】
ノイズ閾値計算部113は、ステップS202において計算された受信電力分布から受信電力確率密度関数の微分値に基づいてノイズ閾値を決定する(ステップS203)。そして、ステップS203で決定されたノイズ閾値を用いて、ノイズ閾値以上の部分を信号成分として計算する(ステップS204)。
【0037】
このように、実施の形態2では、ノイズ閾値を計算し、ノイズ閾値以上の部分を信号成分として計算するように構成されているため、受信機器の環境変化により受信機器に由来する受信電力値に変化があった場合でも、適切な閾値を設定することができる。これにより、さらに干渉検知の精度を向上させることが可能となる。
【0038】
実施の形態3
図5は、実施の形態3に係る干渉検知装置の構成を示す図である。実施の形態3において、実施の形態1と異なる点は、前処理部110が、ノイズ分布計算部114をさらに備える点である。実施の形態3では、統計モデルのパラメータ推定を用いてノイズを除去する。以下の説明では、特に実施の形態1との差分を中心に説明する。
【0039】
図5を参照すると、前処理部110は、分布計算部111、ノイズ分布計算部114、信号成分計算部112を備える。ノイズ分布計算部114は、分布計算部111が計算した受信電力分布から統計モデルのパラメータを推定し、ノイズ分布のパラメータを計算する。ここで、統計モデルとは、例えば、正規分布、指数分布、カイ2乗分布、レイリー分布、ガンマ分布などのすでに定義されたモデルである。これらはそれぞれにパラメータが定義されており、このパラメータを推定することで分布を再現することができる。ノイズ分布計算部114は、受信電力分布からノイズ成分にフィットするパラメータを計算することでノイズ分布を計算する。
【0040】
受信電力分布は、受信機器に由来するノイズ成分と対象となる信号を受信したことに由来する信号成分とで構成される。信号成分計算部112は、受信電力分布からノイズ分布を差し引くことで、残った部分を信号成分として計算する。
【0041】
次に、
図6を参照して、実施の形態3の干渉検知方法について説明する。
図6は、
図5の干渉検知装置により実行される、干渉判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
図4において、ステップS303~S304以外のステップは、
図2と同一であるため詳細な説明は省略する。ここでは、実施の形態1との差分について説明する。
【0042】
まず、ノイズ分布計算部114は、ステップS302において計算された受信電力分布からノイズ分布のパラメータを計算する(ステップS303)。そして、ステップS303で計算されたパラメータからノイズ分布が計算される。信号成分計算部112は、このノイズ分布を受信電力分布から減算することで信号成分を計算する(ステップS304)。
【0043】
ここで、
図7を用いて受信電力分布からノイズ分布を減算するという意味について説明する。
図7は、実施の形態3において、受信電力分布からノイズ成分を減算するイメージを説明する図である。
図7の上側のグラフにおいて、実線が受信電力分布を、左側の一点鎖線がノイズ分布を、右側の破線が信号分布を示している。
図7の上側のグラフに示すように、受信電力分布はノイズ成分と信号成分の確率密度関数の和に見える。
【0044】
上述の通り、ノイズ分布のパラメータを計算することで、ノイズ分布の形状を計算することができる。このため、受信電力分布からノイズ分布を減算すると、
図7の下側のグラフに示すように、一点鎖線で示されるノイズ成分が消え、実線で示される信号成分のみが残ることとなる。
【0045】
このように、実施の形態3では、受信電力分布からノイズ分布を減算した分布を信号成分とするように構成されている。これにより、信号成分に注目した干渉検知を行うことが可能となる。
【0046】
ここで、統計モデルのパラメータ推定を用いて、ノイズを除去する例について説明する。この例では、ノイズ成分、信号成分を、統計モデルの1つである、ガンマ分布、一般化ガンマ分布とそれぞれ仮定する。ガンマ分布の確率密度関数はk>0かつθ>0の二つのパラメータを持つため、ノイズ成分の確率密度関数をfn(x;k、θ)と記載することができる。一方、一般化ガンマ分布の確率密度関数はa>0、d>0かつp>0の三つのパラメータを持つため、信号成分の確率密度関数をfs(x;a、d、p)と記載することができる。
【0047】
つまり受信電力確率密度関数のモデルは
f(x)=α*fn(x;k、θ)+(1-α)*fs(x;a、d、p)
と表すことができる。ここでαは混合比率である。
【0048】
ここで、実際に受信した受信電力の確率密度関数をg(x)とすると、損失関数Loss=|f(x)-g(x)|を最小とするパラメータ群α、k、θ、a、d、pを計算することで、確率密度関数fn(x;k、θ)とfs(x;a、d、p)を得ることができる。
【0049】
次に、計算したパラメータα、k、θを用いて、実際の信号成分をg(x)-α*fn(x;k、θ)の式により求めることができる。このように、ノイズ成分と信号成分が混ざった受信電力分布g(x)から、推定したノイズ成分α*fn(x;k、θ)を減算することで、実際に受信した信号成分を推定することができる。
【0050】
なお、ここでは、ノイズ成分と信号成分をガンマ分布と一般化ガンマ分布でモデル化したが、これに限らない。例えばノイズ成分の振幅が正規分布で得られることが分かっていれば、正規分布の二乗(例えば、fn(x;μ、σ)=(N(μ、σ))^2)でノイズ成分をモデル化してもよい。ただし、関数N(μ、σ)は正規分布の確率密度関数とする。
【0051】
また、ここでは統計モデルのパラメータを計算する方法の例として、Loss=|f(x)-g(x)|を最小とするパラメータ群α、k、θ、a、d、pを計算したがこれに限らない。Lossとして、その他の距離関数や情報量を求める関数などを用いてもよい。パラメータ計算手法としては、一般的な回帰手法を用いることができる。
【0052】
このようにして得た信号成分から特徴量を抽出し(ステップS305)、特徴量と周波数帯とを関連付けて記録する(ステップS306)。そして、記録部103に記録された特徴量と周波数帯を入力として、正常状態を判定する干渉判定マスクを生成する(ステップS307)。
【0053】
実施の形態4
上述した手法により生成された干渉判定マスクを用いて無線電波の干渉を検知する、干渉検知装置について
図8を参照して説明する。
図8では、
図1に示す干渉検知装置100の構成に判定部105を加えた例が示されているが、これに限定されるものではない。なお、検知結果の表示を行う表示部や、検知結果の記録を行う記録部をさらに備えてもよい。
【0054】
受信部101は、無線電波を受信して、受信結果を前処理部110に出力する。前処理部110は、受信結果を前処理する。特徴量抽出部102は、前処理部110で前処理された信号成分から特徴量を抽出して、抽出結果を判定部105に入力する。判定部105は、上述した手法で生成された干渉判定マスクを用いて、無線電波の干渉があるか否かの判定を行い、検知結果を出力する。
【0055】
判定部105は、受信した無線電波から抽出された特徴量が、生成された干渉判定マスクに設定された閾値を超えた場合に、受信した無線電波に干渉が生じていると判定することができる。これにより、多面的に干渉を検知することが可能となり、干渉検知の精度を向上させることが可能となる。
【0056】
上述した実施の形態は、任意の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。従って、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0057】
上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-Transitory computer Readable Medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage Medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(Transitory computer Readable Medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0058】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、干渉判定マスクの生成手法については、上述した手法に限定されるものではなく、機械学習に関する種々の技術を適宜用いることが可能である。上述した技術は、電波の干渉検知に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
100 干渉検知装置
101 受信部
102 特徴量抽出部
103 記録部
104 処理部
105 判定部
110 前処理部
111 分布計算部
112 信号成分計算部
113 ノイズ閾値計算部
114 ノイズ分布計算部