(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】溶融金属の保持炉
(51)【国際特許分類】
B22D 45/00 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
B22D45/00 B
(21)【出願番号】P 2020207518
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】惠良 直哉
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012131(JP,A)
【文献】特開2020-066037(JP,A)
【文献】実開昭59-045497(JP,U)
【文献】特開平10-054670(JP,A)
【文献】特開2009-045645(JP,A)
【文献】実開平02-123356(JP,U)
【文献】特開平11-108557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の保持炉であって、
前記保持炉の外形を構成する外壁部と、
前記外壁部に囲まれている内壁部であって、前記溶融金属を収容する空間を規定する内面を有し、前記溶融金属の液面の上限よりも上まで及ぶ前記内壁部と、
前記外壁部と前記内壁部との間に設けられ、前記内壁部よりも熱伝導率が低い断熱部と、
前記内壁部の上面の少なくとも一部を覆った状態で
、前記外壁部と前記内壁部と前記断熱部とのうち一つ以上に少なくとも一部が着脱可能に固定されており、前記内壁部よりも熱伝導率が低い熱伝導防止部と、を備える、保持炉。
【請求項2】
請求項1に記載の保持炉であって、更に、
前記外壁部とともに前記保持炉の外形を構成し、前記空間を覆わず、前記熱伝導防止部の上面の少なくとも一部と前記断熱部の上面とを覆っており、前記外壁部の上部に取り外し可能に接続される上板部と、を備える、保持炉。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持炉であって、
前記熱伝導防止部は、互いに組み合わせられる第1部材と第2部材とを備え、組み合わされた状態において、前記第2部材は、前記第1部材とは逆の側の面が前記空間に露出し、前記第1部材は、前記第2部材に対して前記空間とは逆の側に位置して前記空間に露出しない、保持炉。
【請求項4】
請求項3に記載の保持炉であって、
前記第1部材と前記第2部材は、互いに嵌合する、保持炉。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の保持炉であって、
前記第1部材は、前記第2部材よりも熱伝導率が低く、
前記第2部材は、前記第1部材よりも前記溶融金属に対する耐久性が高い、保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融金属の保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の保持炉として、外壁と断熱材と耐火材との3層構造を備えるものが知られている。特許文献1には、断熱材の内面に沿って配され耐火材で構成される第1内張層の上部に、断熱材の内面に沿って配され熱伝導率が低い断熱ボードで構成される第2内張層を備える保持炉が記載されている。第1内張層と第2内張層の接合面は、液面の下限よりも下に位置しており、金属の溶融時には常に溶融金属で覆われている。第2内張層を備えることにより、溶融金属からの放熱を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融金属の液面の昇降によって断熱ボードに金属の酸化物が付着する場合がある。酸化物を除去する場合に、耐火材である第1内張層と断熱ボードである第2内張層との接合面にクラックが生じ、クラックを通じて溶融金属が断熱材に到達するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、溶融金属の保持炉が提供される。この保持炉は、前記保持炉の外形を構成する外壁部と、前記外壁部に囲まれている内壁部であって、前記溶融金属を収容する空間を規定する内面を有し、前記溶融金属の液面の上限よりも上まで及ぶ前記内壁部と、前記外壁部と前記内壁部との間に設けられ、前記内壁部よりも熱伝導率が低い断熱部と、前記内壁部の上面の少なくとも一部を覆った状態で、前記外壁部と前記内壁部と前記断熱部とのうち一つ以上に少なくとも一部が着脱可能に固定されており、前記内壁部よりも熱伝導率が低い熱伝導防止部と、を備える。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、溶融金属の保持炉が提供される。この保持炉は、前記保持炉の外形を構成する外壁部と、前記外壁部に囲まれている内壁部であって、前記溶融金属を収容する空間を規定する内面を有し、前記溶融金属の液面の上限よりも上まで及ぶ前記内壁部と、前記外壁部と前記内壁部との間に設けられ、前記内壁部よりも熱伝導率が低い断熱部と、前記内壁部の上面の少なくとも一部を覆った状態で固定されており、前記内壁部よりも熱伝導率が低い熱伝導防止部と、を備える。
熱伝導防止部は内壁部の上面に設けられている。すなわち、熱伝導防止部と内壁部との接合面は、溶融金属の液面の上限よりも上側に位置する。そのため、内壁部に付着した酸化物を除去する場合に、溶融金属の液面より下の部位において外壁部より内側の構造にクラックが生じることを抑制できる。
(2)上記形態の保持炉において、更に、前記外壁部とともに前記保持炉の外形を構成し、前記空間を覆わず、前記熱伝導防止部の上面の少なくとも一部と前記断熱部の上面とを覆っており、前記外壁部の上部に取り外し可能に接続される上板部と、を備えていてもよい。
このような態様とすれば、上板部によって、保持炉の上部を保護できる。また、上板部を取り外せるため、熱伝導防止部に溶融金属が付着した場合に、熱伝導防止部を容易に交換できる。
(3)上記形態の保持炉において、前記熱伝導防止部は、互いに組み合わせられる第1部材と第2部材とを備え、組み合わされた状態において、前記第2部材は、前記第1部材とは逆の側の面が前記空間に露出し、前記第1部材は、前記第2部材に対して前記空間とは逆の側に位置して前記空間に露出しなくてもよい。
このような態様とすれば、熱伝導防止部に溶融金属が付着した場合に、第2部材のみを交換できる。そのため、熱伝導防止部の交換におけるコストを低減することができる。
(4)上記形態の保持炉において、前記第1部材と前記第2部材は、互いに嵌合してもよい。
このような態様とすれば、第1部材と第2部材とを互いに他の部材を使用することなく容易に固定することができる。
(5)上記形態の保持炉において、前記第1部材は、前記第2部材よりも熱伝導率が低く、前記第2部材は、前記第1部材よりも前記溶融金属に対する耐久性が高くてもよい。
このような態様とすれば、第1部材によって、溶融金属からの放熱を抑制しつつ、第2部材を交換する頻度を低減することができる。
【0007】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、溶融金属の保持炉の炉壁構造や、溶融金属の保持炉の断熱材等の態様で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】溶融金属の保持炉の概略構成を示す図である。
【
図2】第2実施形態における保持炉の概略構成を示す説明図である。
【
図3】第3実施形態における保持炉の概略構成を示す説明図である。
【
図4】第4実施形態における保持炉の概略構成を示す説明図である。
【
図5】第5実施形態における保持炉の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の一実施形態における溶融金属MMの保持炉100の概略構成を示す図である。保持炉100は、溶融金属MMを収容する炉である。溶融金属MMは、例えば、アルミニウムやマグネシウム、銅等である。保持炉100は、外壁部10と、内壁部30と、断熱部20と、熱伝導防止部40と、を備える。金属の溶融時には、保持炉100の上部に蓋200が設置される。蓋200は、溶融金属MMから保持炉100の外への放熱を抑制するために、溶融金属MMを収容する空間31の少なくとも一部を覆う。
【0010】
外壁部10は、保持炉100の外形を構成する。外壁部10は、上方に開口しており、凹部を備える。外壁部10は、例えば、鉄やステンレス鋼(SUS)で形成される。外面を鉄で覆われた外壁部10を鉄皮ともいう。
【0011】
内壁部30は、外壁部10に囲まれている。より具体的には、内壁部30は、外壁部10の凹部に収容されている。内壁部30は、上方に開口しており、溶融金属MMを収容する空間31を規定する内面32を有する。内面32は、溶融金属MMと直接接触する。内壁部30は、溶融金属MMを収容する空間31における液面の上限LSより上まで及ぶ。上限LSとは、保持炉100が収容する溶融金属MMの最大容量として予め定められた液面の位置である。
【0012】
内壁部30は、溶融金属MMへの耐久性を有する耐火材で形成される。溶融金属MMへの耐久性は、溶融金属MMによって変形することがない性質である。より具体的には、溶融金属MMによって、溶けたり焦げたりすることがない性質である。耐久性は、例えば、溶融金属MMの中に試験体を入れ、溶解するか否か、および、溶解するまでの時間を計測することで、試験を行うことができる。耐火材として、例えば、カルデリス社製のALKON(商品名)が採用される。本実施形態において、内壁部30の溶融金属MMへの耐久性は、外壁部10や断熱部20、熱伝導防止部40の溶融金属MMへの耐久性よりも高い。
【0013】
断熱部20は、外壁部10と内壁部30との間に設けられている。より具体的には、断熱部20は、外壁部10の凹部に収容されており、内壁部30を収容する。断熱部20は、溶融金属MMから外壁部10や保持炉100の外への放熱を抑制する断熱材で形成される。断熱材として、例えば、ニチアス社のルミボード(商品名)が採用される。断熱部20の熱伝導率は、外壁部10や内壁部30の熱伝導率よりも低い。
【0014】
熱伝導防止部40は、内壁部30の上面33と、断熱部20の上面23とを覆った状態で固定されている。本実施形態において、熱伝導防止部40は、内壁部30の上面33の全部を覆うように設けられているが、これに限らず、熱伝導防止部40は、上面33の少なくとも一部を覆うように設けられていればよい。熱伝導防止部40は、内壁部30よりも熱伝導率が低い部材で形成される。熱伝導防止部40は、断熱部20と同じ部材でもよく、断熱部20よりも溶融金属MMへの耐久性が高い材料でもよい。
【0015】
以上で説明した本実施形態の保持炉100によれば、熱伝導防止部40は内壁部30の上面33に設けられている。すなわち、熱伝導防止部40と内壁部30との接合面は、溶融金属MMの液面の上限LSよりも上側に位置する。そのため、内壁部30に付着した酸化物を除去する場合に、溶融金属MMの液面より下の部位において外壁部10より内側の構造にクラックが生じることを抑制できる。また、溶融金属MMを取り除くことなく、熱伝導防止部40を交換できる。従って、メンテナンスの煩雑さを抑制できる。すなわち、メンテナンスのコストを低減できる。
【0016】
また、熱伝導防止部40は、内壁部30よりも熱伝導率が低い部材で形成される。そのため、熱伝導防止部40によって、溶融金属MMから外壁部10や保持炉100の外への放熱を抑制できる。
【0017】
B.第2実施形態:
図2は、第2実施形態における保持炉100Bの概略構成を示す説明図である。第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。本実施形態において、保持炉100Bは、上板部50を備える点が第1実施形態における保持炉100と異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。
【0018】
上板部50は、外壁部10とともに保持炉100の外形を構成する。本実施形態において、上板部50は、空間31を覆わず、熱伝導防止部40の上面43の一部と断熱部20の上面23とを覆っている。これに限らず、上板部50は、空間31を覆わなければ、熱伝導防止部40の全部を覆っていてもよい。上板部50の上には、蓋200が配置される。本実施形態において、上板部50は、外壁部10と同じ材料で構成されている。
【0019】
本実施形態において、上板部50は、接続部材51によって外壁部10の上部に取り外し可能に接続されている。接続部材51は、断熱部20に固定されてもよく、熱伝導防止部40に固定されてもよい。接続部材51を介して上板部50に溶融金属MMから熱が伝導することを抑制するために、接続部材51は、内壁部30以外に設けられていることが好ましい。本実施形態において、接続部材51は、ボルトであり、外壁部10に設けられたナット52によって固定される。
【0020】
以上で説明した本実施形態の保持炉100Bによれば、上板部50を備えるため、保持炉100Bの上部を保護できる。また、保持炉100Bの強度の向上を図ることができる。また、上板部50を取り外せるため、熱伝導防止部40に溶融金属MMが付着した場合に、熱伝導防止部40を容易に交換できる。
【0021】
なお、上板部50がナット52を備え、外壁部10が接続部材51としてボルトを備えていてもよい。また、上板部50は、接続部材51によって、外壁部10が備えるブラケットに固定されてもよい。
【0022】
C.第3実施形態:
図3は、第3実施形態における保持炉100Cの概略構成を示す説明図である。第3実施形態の説明において、第2実施形態と同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。本実施形態において、保持炉100Cは、熱伝導防止部40Cが、互いに組み合わせられる第1部材41と第2部材42とを備える点が第2実施形態における保持炉100Bと異なり、他の構成は第2実施形態と同じである。但し、上板部50は省略してもよい。この点は後述する他の実施形態も同様である。
【0023】
第1部材41は、第1部材41と第2部材42とが組み合わされた状態において、第2部材42に対して空間31とは逆の側である断熱部20側に位置し、空間31に露出しない。第2部材42は、第1部材41と第2部材42とが組み合わされた状態において、第1部材41に対して空間31側である内壁部30側に位置し、第1部材41とは逆の面42pが空間31に露出する。本実施形態において、第1部材41と第2部材42とは、互いに嵌合するように形成されている。より具体的には、第2部材42における内壁部30側は、第1部材41に向かって突出している。第1部材41における内壁部30側は、第2部材42の突出部分を収容するように窪んでいる。第1部材41における第2部材42の突出部分を収容する部分の上部は、第2部材42に向かって突出している。
【0024】
本実施形態において、第1部材41は、第2部材42よりも熱伝導率が低い。第2部材42は、第1部材41よりも溶融金属MMに対する耐久性が高い。なお、第1部材41と第2部材42とは同じ材料でもよく、第2部材42が第1部材41よりも熱伝導率が低くてもよい。
【0025】
以上で説明した本実施形態の保持炉100Cによれば、熱伝導防止部40に溶融金属MMが付着した場合に、第2部材42のみを交換できる。そのため、熱伝導防止部40の交換におけるコストを低減することができる。
【0026】
また、第1部材41と第2部材42とは互いに嵌合するように形成されているため、第1部材41と第2部材42とを互いに他の部材を使用することなく容易に固定することができる。
【0027】
また、第1部材41は、第2部材42よりも熱伝導率が低く、第2部材42は、第1部材41よりも溶融金属MMに対する耐久性が高い。このため、第1部材によって、溶融金属からの放熱を抑制しつつ、第2部材を交換する頻度を低減することができる。
【0028】
D.第4実施形態:
図4は、第4実施形態における保持炉100Dの概略構成を示す説明図である。第4実施形態は、熱伝導防止部40Dの形状が第2実施形態と異なり、他の構成は第2実施形態と同じである。上述した第1実施形態や第2実施形態において、熱伝導防止部40は、断熱部20の上面23と内壁部30の上面33とを覆うように設けられていたが、熱伝導防止部40は、内壁部30の上面33の少なくとも一部のみを覆うように設けられていればよい。第4実施形態では、
図4に示すように、熱伝導防止部40Dは、断熱部20の上面を覆わず、内壁部30の上面33の一部のみを覆うように設けられている。この第4実施形態も、第1実施形態や第2実施形態とほぼ同様の効果を有する。
【0029】
E.第5実施形態:
図5は、第5実施形態における保持炉100Eの概略構成を示す説明図である。第4実施形態は、熱伝導防止部40Eの形状が第3実施形態と異なり、他の構成は第3実施形態と同じである。上述した第3実施形態において、第1部材41と第2部材42とは、互いに嵌合するように形成されている。第5実施形態では、
図5に示すように、熱伝導防止部40Eにおける第1部材41と第2部材42とは互い組み合わされているが、互いに嵌合するように形成されていない。この場合、第1部材41と第2部材42とは、他の部材によって固定されてもよい。この第5実施形態も、第3実施形態とほぼ同様の効果を有する。但し、上述した第3実施形態では、第1部材41と第2部材42とが互いに嵌合するように形成されているので、より容易に固定することができるという利点がある。
【0030】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述した課題を解決するために、あるいは上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
10…外壁部、20…断熱部、23…上面、30…内壁部、31…空間、32…内面、33…上面、40、40C、40D、40E…熱伝導防止部、41…第1部材、42…第2部材、42p…面、43…上面、50…上板部、51…接続部材、52…ナット、100、100B、100C、100D、100E…保持炉、200…蓋、MM…溶融金属、LS…上限