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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】自動運転車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20241016BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20241016BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/02
G08G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020209878
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096743
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 裕人
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177937(JP,A)
【文献】特開2018-065538(JP,A)
【文献】特開2020-173589(JP,A)
【文献】特開2017-159801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/08
B60W 40/02
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転可能な自動運転車両であって、
前記自動運転車両の周辺にある物体を検知するセンサと、
前記自動運転車両の走行ルートの周辺に存在することが予め分かっている物体を示す物体情報を記憶するメモリと、
自動運転中の前記自動運転車両が歩道側に寄り始めてから寄せ切るまでの間、前記自動運転車両の中央前方の所定距離以内の領域である中央前方領域、前記自動運転車両の歩道側前方の所定距離以内の領域である歩道側前方領域、及び、前記自動運転車両の歩道側側方の所定距離以内の領域である歩道側側方領域の少なくとも1つに、前記センサが検知した前記物体のうちの前記物体情報に含まれない物体である障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を停車させ、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がない場合は、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域以外の前記自動運転車両の周辺の領域に前記障害物対象物体がある場合であっても前記自動運転車両を停車させない運転制御部と、
を備えることを特徴とする自動運転車両。
【請求項2】
前記運転制御部は、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がなく、且つ、前記自動運転車両の中央後方の所定距離以内の領域である中央後方領域、及び、前記自動運転車両の歩道側後方の所定距離以内の領域である歩道側後方領域のいずれかに前記障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を徐行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動運転車両。
【請求項3】
前記障害物対象物体は、車道内を移動可能な物体であり、
前記運転制御部は、
前記センサの検知結果に基づいて、前記自動運転車両の周辺にある前記障害物対象物体の移動方向を検出し、
前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がなく、且つ、前記中央後方領域及び前記歩道側後方領域の少なくとも1つに前記障害物対象物体がある場合であって、当該障害物対象物体の移動方向が前記自動運転車両から離れる方向である、又は、当該障害物対象物体が停止している場合は、前記自動運転車両を徐行させない、
ことを特徴とする請求項2に記載の自動運転車両。
【請求項4】
前記運転制御部は、自動運転中の前記自動運転車両が歩道側に寄せ切ってから停止するまでの間、前記中央前方領域に前記障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を停車させ、前記中央前方領域に前記障害物対象物体がない場合は、前記中央前方領域以外の前記自動運転車両の周辺の領域に前記障害物対象物体がある場合であっても前記自動運転車両を停車させない、
ことを特徴とする請求項1に記載の自動運転車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、自車両の周辺にある物体を検知するセンサを搭載した自動運転車両を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転が可能な自動運転車両が提案されている。自動運転車両には、自車両の周辺にある物体を検知するためのセンサが設けられている場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動運転車両に設けられたセンサが障害物を検知した場合に、当該障害物を避けるような軌道で自動運転車両を走行させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-206327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動運転車両に設けられたセンサが自動運転車両の周辺に物体を検知した場合に、自動運転車両を直ちに停止させる制御を行うことが考えられる。しかしながら、そのような制御を行うとすると、自動運転車両を歩道側に寄せる場合(その一例として自動運転車両がバスであり停留所に止まろうとする場合)に、自動運転車両の進行方向以外の方向にセンサが物体を検知すると、不要に自動運転車両が停止してしまうという問題が生じ得る。
【0006】
本明細書で開示される自動運転車両の目的は、自動運転車両を歩道側に寄せる場合に当該自動運転車両を不要に停止させてしまうことを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される自動運転車両は、自動運転可能な自動運転車両であって、前記自動運転車両の周辺にある物体を検知するセンサと、前記自動運転車両の走行ルートの周辺に存在することが予め分かっている物体を示す物体情報を記憶するメモリと、自動運転中の前記自動運転車両が歩道側に寄り始めてから寄せ切るまでの間、前記自動運転車両の中央前方の所定距離以内の領域である中央前方領域、前記自動運転車両の歩道側前方の所定距離以内の領域である歩道側前方領域、及び、前記自動運転車両の歩道側側方の所定距離以内の領域である歩道側側方領域の少なくとも1つに、前記センサが検知した前記物体のうちの前記物体情報に含まれない物体である障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を停車させ、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がない場合は、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域以外の前記自動運転車両の周辺の領域に前記障害物対象物体がある場合であっても前記自動運転車両を停車させない運転制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、自動運転中の自動運転車両が歩道側に寄り始めてから寄せ切るまでの間、自動運転車両の進行方向である領域に障害物対象物体がない場合は、自動運転車両の進行方向ではない領域に障害物対象物体があったとしても、自動運転車両を停止させないようにすることができる。
【0009】
前記運転制御部は、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がなく、且つ、前記自動運転車両の中央後方の所定距離以内の領域である中央後方領域、及び、前記自動運転車両の歩道側後方の所定距離以内の領域である歩道側後方領域のいずれかに前記障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を徐行させるとよい。
【0010】
かかる構成によれば、自動運転車両の進行方向ではない領域(具体的には、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれか)にある障害物対象物体が、自動運転車両に衝突するおそれがある場合に、自動運転車両を停止させずに、当該障害物対象物体と自動運転車両が衝突する可能性を低減させることができる。
【0011】
前記障害物対象物体は、車道内を移動可能な物体であり、前記運転制御部は、前記センサの検知結果に基づいて、前記自動運転車両の周辺にある前記障害物対象物体の移動方向を検出し、前記中央前方領域、前記歩道側前方領域、及び前記歩道側側方領域に前記障害物対象物体がなく、且つ、前記中央後方領域及び前記歩道側後方領域の少なくとも1つに前記障害物対象物体がある場合であって、当該障害物対象物体の移動方向が前記自動運転車両から離れる方向である、又は、当該障害物対象物体が停止している場合は、前記自動運転車両を徐行させないとよい。
【0012】
かかる構成によれば、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体があっても、当該障害物対象物体が自動運転車両に衝突する可能性が低い場合には、不要に自動運転車両を徐行させないようにすることができる。
【0013】
前記運転制御部は、自動運転中の前記自動運転車両が歩道側に寄せ切ってから停止するまでの間、前記中央前方領域に前記障害物対象物体がある場合は、前記自動運転車両を停車させ、前記中央前方領域に前記障害物対象物体がない場合は、前記中央前方領域以外の前記自動運転車両の周辺の領域に前記障害物対象物体がある場合であっても前記自動運転車両を停車させないとよい。
【0014】
かかる構成によれば、自動運転中の前記自動運転車両が歩道側に寄せ切ってから停止するまでの間も、自動運転車両の進行方向である領域に障害物対象物体がない場合は、自動運転車両の進行方向ではない領域に障害物対象物体があったとしても、自動運転車両を停止させないようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する自動運転車両によれば、自動運転車両を歩道側に寄せる場合に当該自動運転車両を不要に停止させてしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る自動運転車両の斜視図である。
図2】自動運転車両に設けられた複数のセンサを示す概略平面図である。
図3】自動運転車両の周辺領域の呼称を示す図である。
図4】運転制御装置の機能ブロック図である。
図5】自動運転車両が歩道側に寄って停止するまでの動きを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して自動運転車両10の構成について説明する。なお、以下で参照する各図面において、「FR」、「UP」、「LH」は、それぞれ、車両前後方向前側、上下方向上側、車幅方向左側(前側を向いたときの左側)を示している。
【0018】
図1は、自動運転車両10を斜め前方から見た斜視図である。この自動運転車両10は、特定の敷地内において、予め定められたルートに沿って走行しながら、乗客を輸送するバスとして利用される。ただし、本明細書で開示する自動運転車両10の利用形態は、適宜、変更可能である。例えば、当該自動運転車両10を、移動可能なビジネススペースとして利用してもよい。例えば、自動運転車両10は、各種商品を陳列販売する小売店や、飲食物を調理提供する飲食店などの店舗として用いられてもよい。また、別の形態として、自動運転車両10は、事務作業や顧客との打ち合わせなどを行うためのオフィスとして用いられてもよい。また、自動運転車両10は、顧客や荷物を輸送するタクシー、運送用車両として用いられてもよい。また、自動運転車両10の利用シーンは、ビジネスに限らず、例えば、自動運転車両10は、個人の移動手段として用いられてもよい。また、自動運転車両10の走行パターンや走行速度も、適宜変更されてもよい。
【0019】
この自動運転車両10は、原動機として走行用モータを有した電気自動車であり、自動運転車両10の床下には、この走行用モータに電力を供給するためのメインバッテリ(不図示)が搭載されている。また、自動運転車両10は、図1に示す通り、ボンネット及びトランクを有しておらず、前面及び後面が略鉛直に立ち上がる略長方形の外形を有している。箱型のボディ12は、例えば、車両上下方向に延びるピラー14や、自動運転車両10の側面及び天面の境界において前後方向に延びるレール16などを有している。自動運転車両10の側面には、大きな窓部18が設けられている。また、自動運転車両10の左側面中央には、車両の前後方向にスライドして開閉する両開きスライドタイプのドア20が設けられている。
【0020】
自動運転車両10の前面には、ウィンドシールドとして機能する窓部22と、当該窓部22の下側に配されたランプ配置部24と、が設けられている。ランプ配置部24には、自動車の存在及び挙動を光によって車外者に知らせるための信号用ランプ26が配置されている。自動運転車両10の後面も、車両の前面とほぼ同じ構成となっており、窓部22とランプ配置部24が上下に並んでいる。
【0021】
自動運転車両10には、前端近傍に一対、後端近傍に一対の車輪28が配置されている。なお、本実施形態では、平面視で四隅にあるピラー14の下端部が車幅方向外側に膨出した膨出部30となっており、各膨出部30の下側に各車輪28が配置されている。これにより、車輪28が車幅方向外側に寄せられて配置されることになり、自動運転車両10の車内空間をより広く取ることを可能にしている。
【0022】
自動運転車両10は、自動運転可能な車両である。具体的には、自動運転車両10は、自動運転モード、半自動運転モード、及び手動運転モードを含む複数の運転モードで運転することが可能となっている。自動運転モード及び半自動運転モードは、自動運転車両10が自動運転するモードであり、手動運転モードは、自動運転車両10をオペレータが手動運転するモードである。
【0023】
自動運転モードとは、運転制御の大部分を自動運転車両10に搭載されたコンピュータ(運転制御部(後述))が行う運転モードである。本明細書においては、運転制御とは、ギア変更制御、車速制御(発進制御及び停止制御含む)、あるいはステアリング制御を含む概念である。自動運転車両10は、複数の自動運転車両10を管理及び制御する管理センタと通信可能となっており、自動運転モードにおいては、自動運転車両10は、管理センタの制御により予め定められたルートを走行する。自動運転モードにおいては、管理センタからの運転指示に従ってコンピュータによって運転制御が行われるが、停止状態からの発進制御だけはオペレータの操作によって行われる。当該発進制御は、例えば自動運転車両10内に設けられたタッチパネル(図1において不図示)を操作することによって行う。
【0024】
半自動運転モードとは、自動運転モード同様に、自動運転車両10の運転制御の大部分を運転制御部が行う運転モードである。半自動運転モードにおいては、管理センタからの運転指示に依らず、自動運転車両10が有するセンサ(詳細後述)による検知結果に基づいて運転制御部が運転制御を行う。半自動運転モードにおいても、停止状態からの発進制御だけはオペレータの操作によって行われる。
【0025】
手動運転モードにおいては、オペレータは、自動運転車両10内に設けられた機械式操作部(不図示)あるいはタッチパネルを操作することで、自動運転車両10を手動運転する。
【0026】
上述のように、自動運転車両10は、特定の敷地内において規定のルートに沿って走行するが、本実施形態では、自動運転車両10は、規定のルートに沿って走行している間は基本的に自動運転モードで走行する。自動運転車両10が待機場所から規定のルート内まで移動する間、及び、規定のルートから外れて待機場所まで移動する間などに、半自動運転モード又は手動運転モードが利用される。
【0027】
自動運転車両10には、自動運転車両10の周辺にある物体を検知するセンサが設けられる。図2には、自動運転車両10に設けられたセンサ40を示す概略平面図である。図2に示されるように、自動運転車両10の側面に複数のセンサ40が配置される。複数のセンサ40の検知信号に基づいて、自動運転車両10は、自動運転車両10から見て複数の方向にある物体を検知することができるようになっている。センサ40は、半自動運転モード時に運転制御部が運転制御を行うために用いられる他、後述するように、自動運転中の自動運転車両10が歩道側に寄って停止するまでの間に、自動運転車両10を停止又は徐行させる制御のために用いられる。
【0028】
センサ40の代表例は、カメラ、ライダ、ミリ波レーダ、あるいはクリアランスソナーなどである。ライダは、光を使ったリモートセンシング技術を用いて物体検知や対象物までの距離を計測するセンサである。ミリ波レーダは、電波であるミリ波を用いて物体を検知するセンサである。クリアランスソナーは、超音波を用いて物体を検知するセンサである。なお、センサ40としては、自動運転車両10の周辺にある物体を検知可能な限りにおいてどのようなものであってもよい。
【0029】
センサ40がカメラであれば、自動運転車両10は、センサ40が取得した画像データに基づいて、自動運転車両10の周辺にある物体が人物であることを検出することができる。画像データから人物を検出する処理は、既知の技術を用いることができる。例えば、画像データ内の局所領域における画素値(色値や輝度値)の勾配方向をヒストグラム化した特徴量であるHOG(Histograms of Oriented Gradients)特徴量を用いた人物検出処理により、センサ40が取得した画像データから人物を検出することができる。
【0030】
また、自動運転車両10は、センサ40の検知結果に基づいて、物体の移動方向を検出することができる。例えば、ある時点においてセンサ40に検知された物体の位置に対する、その直後に当該センサ40により検知された物体の位置に基づいて、当該物体の移動方向を検出することができる。また、センサ40がカメラである場合には、センサ40が取得した画像データから人物を検出した上で、当該人物の向き(例えば体の向きや顔の向き)に基づいて、当該人物の移動方向を検出することができる。
【0031】
自動運転車両10の運転制御装置の説明をする前に、本明細書における自動運転車両10の周辺領域の呼称を明らかにしておく。図3は、歩道Pに沿った位置にある自動運転車両10の周辺領域の呼称を示す図である。車両前後方向において、自動運転車両10の前端より前を「前方」と呼び、自動運転車両10の後端より後を「後方」と呼び、自動運転車両10の前端から後端までの間を「側方」と呼ぶ。また、車幅方向において、自動運転車両10の歩道P側側端より歩道P側を「歩道側」と呼び、自動運転車両10の車道側(つまり車幅方向において歩道P側とは反対方向)側端より車道側を「車道側」と呼び、自動運転車両10の歩道P側側端から車道側側端までの間を「中央」と呼ぶ。
【0032】
このようであるから、図3に示すように、自動運転車両10の前方且つ車道側を「車道側前方」と呼び、自動運転車両10の前方且つ中央を「中央前方」と呼び、自動運転車両10の前方且つ歩道P側を「歩道側前方」と呼び、自動運転車両10の車道側の側方を「車道側側方」と呼び、自動運転車両10の歩道P側の側方を「歩道側側方」と呼び、自動運転車両10の後方且つ車道側を「車道側後方」と呼び、自動運転車両10の後方且つ中央を「中央後方」と呼び、自動運転車両10の後方且つ歩道P側を「歩道側後方」と呼ぶ。
【0033】
図4は、自動運転車両10に搭載される運転制御装置50の機能ブロック図である。運転制御装置50は、タッチパネル52、通信部54、運転モード選択部56、ブレーキ装置58、及び運転制御部60を含んで構成される。運転モード選択部56及び運転制御部60は、プロセッサなどのハードウェア、及び、当該ハードウェアを動作させるためのソフトウェアの協働により実現される。
【0034】
タッチパネル52は、自動運転車両10の車室内に設けられる。タッチパネル52には種々のボタンが表示され、オペレータは、タッチパネル52に表示されたボタンによって、自動運転車両10に対する制御指示を入力することができる。例えば、タッチパネル52によって、自動運転車両10の運転モードの変更指示や運転制御指示を入力することができる。本実施形態では、運転制御指示のうち、自動運転車両10を停止状態から走行を開始させる走行開始指示をタッチパネル52から入力することができる。もちろん、走行開始指示の運転制御指示をタッチパネル52から入力できるようになっていてもよい。また、本実施形態では、タッチパネル52によって、運転制御指示の他、自動運転車両10が備える機器(ウィンカ、ホーン、ヘッドライト、エアコン、ワイパなど)に対する機器制御指示も入力することができるようになっている。
【0035】
通信部54は、例えばネットワークアダプタなどから構成され、インターネットなどの通信回線62を介して管理センタ64と通信する機能を発揮する。通信部54は、自動運転車両10に関する情報を管理センタ64に送信する。例えば、通信部54は、間欠的に(例えば1秒間隔で)、自動運転車両10の現在位置及び速度や、自動運転車両10を識別する車両識別情報などを管理センタ64に送信する。また、通信部54は、自動運転車両10の運転モードが変更された際に、変更後の運転モードを示す情報を管理センタ64に送信する。さらに、通信部54は、管理センタ64から運転制御指示などを受信する。
【0036】
運転モード選択部56は、オペレータがタッチパネル52から入力した運転モードの変更指示に基づいて、自動運転モード、半自動運転モード、及び手動運転モードの中から自動運転車両10の運転モードを選択する。上述の通り、運転モード選択部56が自動運転モード又は半自動運転モードを選択した場合、自動運転車両10は自動運転を行う。
【0037】
ブレーキ装置58は、ブレーキアクチュエータ、及び、車輪28(図1参照)に取り付けられ車輪28(すなわち自動運転車両10)を制動するブレーキホイールシリンダなどを含んで構成される。ブレーキアクチュエータは、電動アクチュエータであってよく、ブレーキホイールシリンダの油圧を調節し、ブレーキホイールシリンダが車輪28に付与する制動力を調整する。ブレーキアクチュエータは、運転制御部60から受ける制動指示に基づいてブレーキホイールシリンダの制動力を調整することができる。これにより、ブレーキ装置58は、運転制御部60からの制動指示に基づいて、自動運転車両10を減速させる。
【0038】
運転制御部60は、タッチパネル52から入力された運転制御指示、管理センタ64から受信した運転制御指示、センサ40による検知結果などに基づいて、自動運転車両10を自動運転させる自動運転制御を行う。
【0039】
自動運転車両10の運転モードが自動運転モード又は半自動運転モードであって自動運転車両10が停止している場合、オペレータがタッチパネル52から走行開始指示を入力すると、運転制御部60は、自動運転車両10の自動運転での走行を開始させる。その後、運転制御部60は、管理センタ64から受信した運転制御指示に従って(自動運転モードの場合)、又は、センサ40の検知信号に従って(半自動運転モードの場合)自動運転を行う。
【0040】
運転制御部60は、自動運転中、換言すれば、自動運転車両10の運転モードが自動運転モード又は半自動運転モードであって自動運転車両10が走行している場合、絶えずセンサ40の検知結果をモニタしておく。その上で、安全のため、運転制御部60は、自動運転車両10から所定距離内の領域に、センサ40が検知した物体のうちの障害物対象物体がある場合は、原則として、ブレーキ装置58を制御して自動運転車両10を直ちに停止させる。
【0041】
ここでの所定距離は、自動運転車両10の管理者などによって予め定められていてよい。センサ40の検知可能距離が比較的短い場合(例えばセンサ40がクリアランスソナーなどである場合)は、センサ40の検知可能距離を所定距離としてもよい。
【0042】
障害物対象物体とは、センサ40が検知した物体の全てを含むものではない。障害物対象物体とは、車道内を移動可能な物体、あるいは、自動運転車両10が予め定められたルートに沿って走行する中で、自動運転車両10の周辺に来ることが予見できない物体である。障害物対象物体には、人物、他の車両(バイク、自転車など含む)、動物、あるいは管理センタ64が把握していない障害物(落石、事故車など)が含まれる。一方、障害物対象物体には、移動せず、自動運転車両10が予め定められたルートに沿って走行する中で、自動運転車両10の周辺に来ることが予め分かっている物体、例えば、縁石、標識、信号機、停留所、あるいは電柱などは含まれない。
【0043】
障害物対象物体に含まれない物体に関する物体情報は地図情報などに基づいて得ることができ、当該物体情報は運転制御装置50内のメモリに記憶される。したがって、運転制御部60は、当該物体情報に基づいて、センサ40が検知した物体が障害物対象物体に該当するか判定した上で、自動運転車両10から所定距離内の領域に障害物対象物体がある場合は、原則として、ブレーキ装置58を制御して自動運転車両10を停止させる。
【0044】
なお、センサ40の検知信号に基づいて、自動運転車両10が歩道を検出可能である場合には、自動運転車両10は、歩道上にある物体(例えば歩行者)を障害物対象物体から除外するようにしてもよい。
【0045】
自動運転車両10が自動運転中、換言すれば、自動運転車両10の運転モードが自動運転モード又は半自動運転モードであって自動運転車両10が走行している場合、運転制御部60は、自動運転車両10を歩道側に寄せる幅寄せ制御を行う場合がある。本実施形態では、図5に示すように、自動運転車両10がバスとして利用されており、停留所Sに到着する直前に幅寄せ制御が行われることを想定する。図5において、幅寄せ制御は、自動運転車両10を図5の符号10aが示す位置から符号10bが示す位置まで移動させる制御である。なお、本実施形態では、自動運転車両10を歩道P側に寄せきってから(すなわち幅寄せ制御の後)、歩道Pに沿って自動運転車両10を停止させる幅寄せ後停止制御(符号10bに示す位置にある自動運転車両10を符号10cに示す位置に停止させる制御)を行っている。ただし、幅寄せ制御が行われるシチュエーションは、上記の場合に限られない。例えば、自動運転車両10が歩道Pに侵入する場合、自動運転車両10が左折する場合、自動運転車両10を歩道に沿った路上パーキングに停止させる場合、あるいは、タクシーとしての自動運転車両10が乗客を乗降させる場合などに幅寄せ制御が行われる。
【0046】
幅寄せ制御が行われている間、換言すれば、自動運転車両10が歩道P側に寄り始めてから寄せ切るまでの間(自動運転車両10が図5の符号10aが示す位置から符号10bが示す位置まで移動する間)、自動運転車両10の中央前方の所定距離内の領域である中央前方領域、自動運転車両10の歩道側前方の所定距離以内の領域である歩道側前方領域、及び、自動運転車両10の歩道側側方の所定距離以内の領域である歩道側側方領域の少なくとも1つに障害物対象物体がある場合は、運転制御部60は、原則通り、ブレーキ装置58を制御して、自動運転車両10を直ちに停止させる。これは、自動運転車両10が歩道P側に寄っている間は、中央前方領域、歩道側前方領域、及び歩道側側方領域は、自動運転車両10の進行方向にあるから、ここに障害物対象物体があると、自動運転車両10と衝突するおそれがあるためである。
【0047】
一方、自動運転車両10が歩道P側に寄り始めてから寄せ切るまでの間、中央前方領域、歩道側前方領域、及び、歩道側側方領域のいずれにも障害物対象物体がない場合は、中央前方領域、歩道側前方領域、及び、歩道側側方領域以外の領域の自動運転車両10の周辺の領域(すなわち、車道側前方、車道側側方、車道側後方、中央後方、及び歩道側後方)に障害物対象物体があったとしても、運転制御部60は自動運転車両10を停止させない。これは、自動運転車両10が歩道P側に寄っている間は、中央前方領域、歩道側前方領域、及び歩道側側方領域以外の領域は、自動運転車両10の進行方向ではないため、ここに障害物対象物体があっても、自動運転車両10と衝突する可能性が低いためである。これにより、自動運転車両10を歩道P側に寄せる場合に、自動運転車両10を不要に停止させてしまうことが抑制される。
【0048】
運転制御部60は、自動運転車両10が歩道P側に寄り始めてから寄せ切るまでの間、中央前方領域、歩道側前方領域、及び、歩道側側方領域のいずれにも障害物対象物体がなく、且つ、自動運転車両10の中央後方の所定距離以内の領域である中央後方領域、及び、自動運転車両10の歩道側後方の所定距離以内の領域である歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体がある場合は、ブレーキ装置58を制御して、自動運転車両10を徐行(時速が10km程度以下の速度)させるとよい。
【0049】
自動運転車両10が幅寄せ制御を行っている間に、自動運転車両10の進行方向ではない領域(具体的には、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれか)にある障害物対象物体が自動運転車両10に衝突する可能性が考えられる。例えば、歩道側後方領域にある障害物対象物体(例えばバイクや自転車)が自動運転車両10の幅寄せに気付かず、前方への移動を続ける場合がある。また、自動運転車両10が幅寄せ制御を開始した際に、中央後方領域にある障害物対象物体(例えばバイク)が自動運転車両10を歩道P側から追い抜こうとすることも考えられる。このような場合、幅寄せ中の自動運転車両10に、歩道側後方領域又は中央後方領域にある障害物対象物体が衝突する可能性がある。一方、中央後方領域及び歩道側後方領域は、幅寄せをする自動運転車両10の進行方向ではないため、中央前方領域、歩道側前方領域、及び歩道側側方領域のいずれかに障害物対象物体がある場合に比して、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体がある場合は、自動運転車両10を停止までさせる必要性は低いと言える。したがって、運転制御部60は、できるだけ自動運転車両10を不要に停止させないようにしつつ、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかにある障害物対象物体との衝突の可能性を低減すべく、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体がある場合は、自動運転車両10を徐行させている。
【0050】
上述のように、運転制御部60は、センサ40の検知結果に基づいて、自動運転車両10の周辺にある障害物対象物体の移動方向を検出することができる。ここで、運転制御部60は、中央前方領域、歩道側前方領域、及び、歩道側側方領域のいずれにも障害物対象物体がなく、且つ、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体がいる場合であって、当該障害物対象物体の移動方向が自動運転車両10から離れる方向である、又は、当該障害物対象物体が停止している場合は、自動運転車両10を徐行させないようにしてもよい。これは、中央後方領域及び歩道側後方領域のいずれかに障害物対象物体がある場合であっても、当該障害物対象物体の進行方向が自動運転車両10から離れる方向であるか、当該障害物対象物体が停止している場合には、上述のような、歩道側後方領域にある障害物対象物体が前方への移動を続けることや、中央後方領域にある障害物対象物体が自動運転車両10を歩道P側から追い抜こうとすることによって当該障害物対象物体が自動運転車両10に衝突する可能性がかなり低いからである。これにより、自動運転車両10が不要に徐行することが抑制される。
【0051】
運転制御部60は、幅寄せ後停止制御が行われている間、換言すれば、自動運転車両10を歩道P側に寄せ切ってから停止するまでの間(自動運転車両10が図5の符号10bが示す位置から符号10cに示す位置で停止するまでの間)、中央前方領域に障害物対象物体がある場合は、原則通り、ブレーキ装置58を制御して、自動運転車両10を直ちに停止させる。一方、運転制御部60は、自動運転車両10を歩道P側に寄せ切ってから停止するまでの間、中央前方領域に障害物対象物体がない場合は、中央前方領域以外の領域の自動運転車両10の周辺の領域(すなわち、車道側前方、車道側側方、車道側後方、中央後方、歩道側前方、歩道側側方、及び歩道側後方)に障害物対象物体があったとしても、自動運転車両10を停止させない。これは、自動運転車両10を歩道P側に寄せ切ってから停止するまでの間は、中央前方が自動運転車両10の進行方向となるためである。これにより、自動運転車両10を歩道P側に寄せ切ってから停止するまでの間に、自動運転車両10を不要に停止させてしまうことが抑制される。
【0052】
このように、運転制御部60は、幅寄せ制御が行われている場合と幅寄せ後停止制御が行われている場合との間において、障害物対象物体がある場合に自動運転車両10を直ちに停止させる対象となる停止対象領域を変更している。具体的には、幅寄せ制御が行われている場合の停止対象領域は、中央前方領域、歩道側前方領域、及び、歩道側側方領域であり、幅寄せ後停止制御が行われている場合の停止対象領域は、中央前方領域のみである。これは、幅寄せ制御が行われている場合と幅寄せ後停止制御とが行われている場合で、自動運転車両10の進行方向が異なることに起因するものである。
【0053】
以上、本開示に係る自動運転車両の実施形態を説明したが、本開示に係る自動運転車両は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 自動運転車両、40 センサ、50 運転制御装置、52 タッチパネル、54 通信部、56 運転モード選択部、58 ブレーキ装置、60 運転制御部。
図1
図2
図3
図4
図5