IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-足場装置 図1
  • 特許-足場装置 図2
  • 特許-足場装置 図3
  • 特許-足場装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】足場装置
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20241016BHJP
   E04G 7/34 20060101ALI20241016BHJP
   E04G 1/36 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H02G1/02
E04G7/34 305A
E04G1/36 302C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020212296
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098728
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】竹下 将平
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一浩
(72)【発明者】
【氏名】下山 武志
(72)【発明者】
【氏名】藪内 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 滉一朗
(72)【発明者】
【氏名】内藤 直敬
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-107001(JP,U)
【文献】特開2007-306723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
E04G 7/34
E04G 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空電線路を構成する立設構造体から前記立設構造体で支持された架空電線の近傍に作業員が身を乗り出して作業するために用いられる足場装置であって、
前記架空電線路上の所望の第1の箇所と前記架空電線路上の所望の第2の箇所との間に架け渡される足場用の線状部材と、
両端が開口して前記線状部材が挿通された筒状の足場用のパイプ部材とを有し、
前記パイプ部材は、当該パイプ部材内にて前記線状部材が挿通された枠形状の中間部と、前記中間部を付勢することで前記線状部材を前記パイプ部材の内面に向けて押す弾性部材とを有する固定機構を備え、
前記弾性部材による前記中間部への付勢により、前記中間部の前記弾性部材側の枠内面と前記パイプ部材の前記弾性部材に対し反対側の内面とで前記線状部材が挟まれて、前記パイプ部材が前記線状部材に固定されることを特徴とする足場装置。
【請求項2】
前記固定機構は、前記弾性部材による前記中間部への付勢を解除することで前記パイプ部材の前記線状部材への固定を解除する固定解除部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の足場装置。
【請求項3】
前足場用線状部材の長手方向の端部に前記架空電線路上の所望の箇所に引き掛けるための引き掛け部材が取り付けられており、
前記引き掛け部材は、前記線状部材が挿通する挿通孔と、前記挿通孔に挿通した前記線状部材の変位の規制とその解除とを行うことで前記挿通孔から前記線状部材の突出する長さを調整する調整機構とを有する長さ調整部を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の足場装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線用鉄塔などの架空電線路を構成する立設構造体から当該立設構造体で支持された架空電線の近傍に作業員が身を乗り出して作業するために用いられる足場装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架空電線路における保守点検や碍子の付属部材の取り換え、電線断路の復旧の作業等において、作業者が送電線用鉄塔から当該送電専用鉄塔で支持された架空電線近傍に身を乗り出して作業をする場合がある。
【0003】
この場合、例えば特許文献1の図3及び図7に示されるように、作業者が送電線用鉄塔から完全に離れるかたちで架空電線の近傍に移動することができるように、梯子型足場が用いられることがある。この梯子型足場は、長手方向の一方端部側を送電専用鉄塔に係止させると共に、長手方向の他方端側に設けた係止フックを架空電線に係止させることにより、例えば碍子連の傍に当該碍子連に並列したかたちで設置されて碍子連に対する作業を可能としている。もっとも、前記特許文献1の梯子型足場は、アルミニウム等の金属製であるため重量があり、作業現場まで運搬し持ち上げるのに不便であるという不具合を有する。
【0004】
これに対し、特許文献1の図8に示されるように、前記梯子型足場より軽量なロープ式足場が用いられる場合がある。このロープ式足場は、長手方向の両端を送電線用鉄塔や架空電線に係止することにより、例えば碍子連の傍に当該碍子連に並列したかたちで設置されて碍子連に対する作業を可能としている。更に、特許文献2に示されるように、ロープ式足場のロープを両端が開口した筒状部に挿通させ、筒状部の外側周面を主たる足場とする足場装置も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-90667号公報
【文献】特許第6561722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、特許文献2に示される足場装置では、筒状部が風等で揺れないように先端部分を碍子連等に引き掛ける揺れ防止部材を有しているが、作業員が筒状部に足を載せたときに、筒状部材が、ロープの軸方向に不用意にずれたり、ロープを軸心として回転したりしてしまい、作業員の体勢が崩れる等の不都合が考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、足場用の線状部材を足場用のパイプ部材に挿通させて、足場用のパイプ部材を作業員の足場としても、足場用のパイプ部材が、足場用の線状部材を軸方向に不用意にずれたり、足場用の線状部材を軸心として回転したりしないようにした足場装置を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る足場装置は、架空電線路を構成する立設構造体から前記立設構造体で支持された架空電線の近傍に作業員が身を乗り出して作業するために用いられる足場装置であって、前記架空電線路上の所望の第1の箇所と前記架空電線路上の所望の第2の箇所との間に架け渡される足場用の線状部材と、両端が開口して前記線状部材が挿通された筒状の足場用のパイプ部材とを有し、前記パイプ部材は、当該パイプ部材内にて前記線状部材が挿通された枠形状の中間部と、前記中間部を付勢することで前記線状部材を前記パイプ部材の内面に向けて押す弾性部材とを有する固定機構を備え、前記弾性部材による前記中間部への付勢により、前記中間部の前記弾性部材側の枠内面と前記パイプ部材の前記弾性部材に対し反対側の内面とで前記線状部材が挟まれて、前記パイプ部材が前記線状部材に固定されることを特徴としている(請求項1)。架空電線路を構成する立設構造体は、例えば送電線用の鉄塔であるが、電柱等も含めることができる。所望の第1の箇所は、例えば送電線用の鉄塔の腕金や架空電線である。所望の第2の箇所は、例えば架空電線である。足場用の線状部材は、例えばロープやワイヤである。
【0009】
これにより、例えば送電用の鉄塔の腕金と架空電線との間に架け渡された足場用の線状部材は、当該足場用の線状部材の径よりも太い直線状の足場用のパイプ部材を有するため、作業員が足の裏を載せる足場としての接触面積が大きくなり、線状部材に直接に乗る場合のように撓みも生じないので、足場用の線状部材のみの場合に比し、作業員の安全性、作業の効率性が高まる。そして、弾性部材による付勢力が発揮されているとき(通常時)には、足場用のパイプ部材は、固定機構により、中間部の弾性部材側の枠内面とパイプ部材の弾性部材に対し反対側の内面とで挟まれて、足場用の線状部材に固定されているので、パイプ部材が不用意に線状部材の軸方向に沿ってずれたり、パイプ部材が線状部材を軸心として回転したりすることが防止される。
【0010】
そして、本発明に係る足場装置にあって、前記固定機構は、前記弾性部材による前記中間部への付勢を解除することで前記パイプ部材の前記線状部材への固定を解除する固定解除部を更に有することを特徴としている(請求項2)。パイプ部材の線状部材への固定の解除は、例えば固定解除部を押す操作のみで行なわれる。これにより、簡易な操作で、足場用のパイプ部材の足場用の線状部材への固定が解除されて、パイプ部材を線状部材の軸方向に移動させることが可能となる。
【0011】
更に、本発明に係る足場装置は、前足場用線状部材の長手方向の端部に前記架空電線路上の所望の箇所に引き掛けるための引き掛け部材が取り付けられており、前記引き掛け部材は、前記線状部材が挿通する挿通孔と、前記挿通孔に挿通した前記線状部材の変位の規制とその解除とを行うことで前記挿通孔から前記線状部材の突出する長さを調整する調整機構とを有する長さ調整部を備えたことを特徴としている(請求項3)。足場用の線状部材の長手方向の端とは、線状部材の長手方向の一方の端のみの場合と両方の端の場合のいずれも含む。長さ調整部は、引き掛け部材間の足場用の線状部材の長さや足場用のパイプ部材から引き掛け部材までの足場用の線状部材の長さを短くするように調整される。
【0012】
これにより、引き掛け部材の長さ調整部の調整機構により挿通孔から突出する線状部材の長さを調整することで、引き掛け部材間の足場用の線状部材の長さや足場用のパイプ部材から引き掛け部材までの足場用の線状部材の長さを好適な長さにして、架空電線路上の所望の第1の箇所と架空電線路上の所望の第2の箇所との間に架け渡された線状部材が、作業員が乗るのに危険な緩んだ状態となるのを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上に述べたように、本発明によれば、弾性部材による付勢力が発揮されているときには、足場用のパイプ部材は、固定機構により、中間部の弾性部材側の枠内面とパイプ部材の弾性部材に対し反対側の内面とで挟まれて、足場用の線状部材に固定されているので、パイプ部材が不用意に線状部材の軸方向に沿ってずれたり、パイプ部材が線状部材を軸心として回転したりすることを防止することができる。よって、作業員が足場用のパイプ部材に足を乗せても、作業員が体勢を崩すことが防止され、作業員の安全性や作業の効率性が向上する。
【0014】
特に、請求項2に記載の発明によれば、固定解除部を操作するのみで、足場用のパイプ部材の足場用の線状部材への固定が解除されるようにすることができ、このような簡易な操作で、パイプ部材を線状部材の軸方向に移動させることが可能となる。
【0015】
特に、請求項3に記載の発明によれば、引き掛け部材の長さ調整部の調整機構により、線状部材の挿通孔から突出する長さを調整することで、引き掛け部材間の足場用の線状部材の長さや足場用のパイプ部材から引き掛け部材までの足場用の線状部材の長さを好適な長さにして、架空電線路上の所望の第1の箇所と架空電線路上の所望の第2の箇所との間に架け渡された線状部材が、作業員が乗るのに危険な緩んだ状態となるのを防止するのが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の足場装置の全体構成を示す説明図である。
図2図2は、本発明の足場装置の固定機構の一例を示す説明図であり、(a)及び(b)は、足場用の線状部材を固定した状態の断面図、(c)及び(d)は、足場用線状部材の固定を解除した状態の断面図である。
図3図3は、本発明の足場装置の引き掛け部材の一例を示す説明図であり、(a)は、引き掛け部材の断面図、(b)は、足場用の線状部材の引き掛け部材間の長さを短くする方向への移動に対しては長さ調整部によるロックが働かない状態を示す作動図、(c)は、足場用の線状部材の引き掛け部材間の長さを伸ばす方向への移動に対しては長さ調整部によるロックが働く状態を示す作動図である。
図4図4は、本発明の足場装置の使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1から図4において、本発明の足場装置1の構成の一例及び足場装置1の使用例が示されている。
【0019】
足場装置1は、図1に示されるように、足場用の線状部材(以下、線状部材)2と、両端が開口して線状部材2が挿通される足場用のパイプ部材(以下、パイプ部材)3とを少なくとも有して構成されている。
【0020】
線状部材2は、例えば金属製の複数の線材を縒り合せて成り、足場としての利用に適したワイヤや、繊維等からなる複数の糸を縒り合せて成り足場としての利用に適したロープ等が用いられる。線状部材2の端部は、後述する引き掛け部材5に装着されている。なお、図1図4では、線状部材2の両端部が引き掛け部材5に装着されている状態が図示されているが、必ずしもこれに限定されず、線状部材2の一方の端部のみが引き掛け部材5に装着されても良い。
【0021】
パイプ部材3は、軸方向の両側が開口した直線に延びる円筒状の形状をなし、足場としての利用に適した強度を有するもので、アルニウムや銅等の金属が素材として用いられている。パイプ部材3の軸方向の寸法は、作業員が作業時に移動するのに適した寸法が取られている。パイプ部材3の内径寸法は、線状部材2を挿通させることができることは勿論のこと、更に、作業員がパイプ部材3の軸方向と交差する方向でその上面を踏み、且つ、下記する固定機構4を収容するのに適した寸法が取られている。なお、パイプ部材3の形状は、上記した条件を満たすことが可能な筒状体であれば円筒状に限定されない。更に、パイプ部材3の円形状の側方周面に、雨等で濡れても足が滑らないように、ゴム製の帯状部材を巻き付け、或いはゴム製の筒状部材を外挿するようにしても良い。
【0022】
固定機構4は、パイプ部材3が線状部材2の軸方向に不用意に移動したり、パイプ部材3が線状部材2を軸心として回転したりしないようにパイプ部材3を線状部材2固定するためのものである。固定機構4は、本実施例では、図1等に示されるように、パイプ部材3の軸方向の両端近傍において、側方(周面)に開口した開口部31、31を設け、大部分をパイプ部材3内に収容し、その一部を開口部31から出し入れ可能としたかたちで組み付けられている。すなわち、固定機構4は、パイプ部材3の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置されている。
【0023】
固定機構4の一例が図2に示されている。図2に示される固定機構4は、線状部材2が挿通された枠形状の中間部41と、中間部41を付勢することで当該中間部41を介して線状部材2をパイプ部材3の内面に向けて押す弾性部材42と、弾性部材42による中間部41への付勢を解除することで線状部材2への固定を解除する固定解除部43とを有して構成されている。固定解除部43、中間部41、弾性部材42は、適宜一体化された構成としても、それぞれ別部材として、固定解除部43、中間部41、弾性部材42の順に重ねて配置した構成としても良い。
【0024】
中間部41は、図2(a)、図2(b)に示されるように、パイプ部材3の開口部31から、当該開口部31の内側面31aとの間に大きな隙間を形成しないかたちで、パイプ部材3の径方向に沿って稼働して、その一部をパイプ部材3の外面に突出させることができ、且つ、弾性部材42との当接面積を確保する等から、この実施例では、四角形の枠形状となっている。もっとも、中間部41について、図示しないが、円形の枠形状等とすることも可能である。中間部41の枠体の内幅は、図2(c)、図2(d)に示されるように、線状部材2を挿通させたときに、線状部材2の軸方向への移動時に当該中間部41が妨げとならないように、線状部材2の円状の側方周面との間に空間が確保することができる寸法が採られている。
【0025】
弾性部材42は、パイプ部材3の開口部31の軸線上に位置する内面に一端が取り付けられ、他端が中間部41の開口部31とは反対側の外側の側面に少なくとも接面し、或いは接着剤等で固定されており、中間部41に対し開口部31に向け、更に開口部31からパイプ部材3外に出る方向に押す付勢力が常時働くものとなっている。弾性部材42の主な構成要素は、図2では、Z字状若しくは横倒しのM字状に、複数に折り曲げた板バネとして示されているが、上記した線状部材2を押すための付勢力が常時働くものであれば限定されない。図示しないが、弾性部材42は、コイルバネや伸縮可能なブロック体状の弾性ゴム等であっても良い。そして、本実施例では、弾性部材42からの付勢力を中間部41の下面全体に伝えやすくするために、板状部42aが取り付けられている。弾性部材42の付勢力が発揮されているときには、図2(a)、図2(b)に示されるように、線状部材2の開口部31側は、パイプ部材3の開口部31に対し軸方向の両側となる内面に押圧され、且つ、線状部材2の開口部31と反対側は、中間部41の弾性部材42側の内面に当接しつつ当該中間部41で開口部31側に押圧されて挟まれることで固定状態となる。
【0026】
固定解除部43は、中間部41の弾性部材42に対し反対側の外側の側面に配置されて、図2に示されるように、少なくとも通常時では、その一部がパイプ部材3の側方の開口部31から外側に突出している。そして、固定解除部43をパイプ部材3内に押し込むことにより、図2(c)、図2(d)に示されるように、中間部41を介して弾性部材42がその付勢力に抗するかたちで収縮し(弾性部材42による付勢が解除され)、これに伴い、中間部41も、パイプ部材3の中心又はその近傍に位置し、線状部材2は、パイプ部材3の開口部31側の内面と中間部41の枠内面との双方から離れた状態となる。すなわち、パイプ部材3の開口部31側の内面と中間部41の弾性部材42側の枠内面とで挟まれたことによる線状部材2の固定状態が解除される。
【0027】
しかるに、パイプ部材3は、上記した固定機構4を備えることで、パイプ部材3に線状部材2を挿通し、図2(a)、図2(b)に示されるように、弾性部材42の付勢力が発揮した状態(通常時)では、固定機構4によりロックされるので、パイプ部材3が不用意に線状部材2の軸方向に沿って不用意にずれたり、パイプ部材3が線状部材2を軸心として回転したりすることが防止される。よって、パイプ部材3を作業員の足場としても、作業員の安全を確保することが可能となる。
【0028】
一方、パイプ部材3の位置を線状部材2の軸方向に沿って移動させたい場合には、固定解除部43をパイプ部材3内に押し込む操作をした後、パイプ部材3を所望の方向、所望の距離にて移動させ、パイプ部材3が所望の位置に到達したら固定解除部43への押し込みを止めるのみで良い。その操作も、足で固定解除部43を踏んだり手で押さえたりする操作によって行うことが可能である。よって、パイプ部材3に対する固定の解除も簡易な操作で良いので、この点でも、作業員の安全性、効率性を確保することが可能となる。
【0029】
引き掛け部材5の一例が図3に示されている。図3に示される引き掛け部材5は、架空電線路上の所望の箇所に引き掛けることができるフック部6と、線状部材2の所定範囲の長さを調整するための長さ調整部7とを有して構成されている。
【0030】
フック部6は、図3(a)に示されるように、長さ調整部7の一部でもある基部51と、基部51の先端に設けられた台部61と、架空電線路上の所望の箇所に引き掛けるためのフック本体62と、フック本体62が架空電線路上の所望の箇所から外れるのを防止するための外れ防止部63とを有して構成されている。
【0031】
台部61は、先端が二股に分かれた略V字状の基部51のうち一方の部位(以下、二股の一方側部位)51aの端部に設けられている。
【0032】
フック本体62は、台部61の左右方向の一方端側から基部51に対し反対側に延びる延出部位62a、延出部位62aの先端から弧状に曲がった円弧状部位62b、及び円弧状部位62bの先端から台部61側に延びつつ台部61との間に後述する架空電線101や腕金102等の架空電線路を構成するものを通すことが可能な通過用空間部を有するストッパ部位62cから成っている。架空電線101や腕金102等の架空電線路を構成するものが円弧状部位62bの内側に当接することで、架空電線101や腕金102等の架空電線路を構成するものにフック本体62は引き掛けられる。
【0033】
外れ防止部63は、台部61の左右方向のフック本体62の延出部位62aとは反対側となる他方端側に設けられた回転軸部63aと、この回転軸部63aから延びる板状部63bとを有する。板状部63bは、回転軸部63aを中心に回転しつつ、少なくとも、フック本体62のストッパ部位62cの内側に当たることで、その回転範囲が規制されている。更に、板状部63bは、回転軸部63aに収容されたバネ機構63cにより、図3(a)の矢印方向(ストッパ部位62cの内側に当たる方向)に付勢されている。なお、板状部63bに対し図3(a)の矢印方向への付勢力が発揮することができる構造であれば、バネ機構63cに限定されない。
【0034】
このようなフック部6の構成により、例えば後述する架空電線101に引き掛け部材5を引き掛ける場合には、架空電線101が外れ防止部63をバネ機構63cの付勢力に抗して押し、フック本体62で囲まれた空間内に入り、フック本体62の円弧状部位62bの内側に当接するように操作する。これにより、フック本体62ひいては引き掛け部材5が架空電線101に引き掛けられる。しかも、ストッパ部位62cと台部61との間の通過用空間部は、バネ機構63cの付勢力(復元力)により、外れ防止部63の板状部63bで塞がれるので、引き掛け部材5が架空電線101から外れるのも防止される。
【0035】
図3に示される長さ調整部7は、幾つかある線状部材2の長さ調整のための構造のうちの一例であり、基部51の二股に分かれた部位51a、51bのうちフック部6の台部61が設けられていない側の部位(以下、二股の他方側部位)51b側に主に配置されている。長さ調整部7は、基部51の二股の部位51a、51bの双方の基端となる側から二股の他方側部位51bの先端に向けて延びる挿通孔71と、この挿通孔71内に配置された調整機構8とを有して構成されている。
【0036】
調整機構8は、線状部材2の軸方向とは交差する側に延び、その一端が基部51の二股の他方側部位51bの内面に連結部材82により連結されたリンクバー81と、線状部材2の軸方向に並行に延び、その一端が基部51の二股の他方側部位51bの内面への取り付けも兼ねる連結部材84によりリンクバー81の他端に連結されたリンクバー83と、一端がリンクバー83の他端に回転軸86を介して軸支されたリンクバー85とを有して構成されている。リンクバー85の他端側には線状部材2のパイプ部材3方向への変位を止める押し係合部87が形成されている。押し係合部87は、リンクバー81側に延びつつ線状部材2側に膨らんだ略円弧状の部位を有し、かかる部位の外周縁に、線状部材2の円状の側方周面に噛むことができる複数の略三角状の止め歯が形成されて、通常時では図3(a)に示されるように線状部材の円状の側方周面に接する程度の位置にある。
【0037】
このような調整機構8の構成とすることにより、図3(b)の白抜き矢印に示されるように、線状部材2をパイプ部材3とは反対方向(線状部材2の先端の挿通孔71からの突出寸法が長くなる方向)に引っ張る場合には、リンクバー85は、図3(b)の矢印方向に回転軸86を中心に回転し、押し係合部87の止め歯が線状部材2から離れる方向に動く。このため、押し係合部87の止め歯で線状部材2をロックすることなく、線状部材2の前記方向への移動が可能となる。その一方で、図3(c)の白抜き矢印に示されるように、線状部材2をパイプ部材3の方向(線状部材2の先端の挿通孔71からの突出寸法が短くなる方向)に引っ張る場合には、リンクバー85は、図3(c)の矢印方向に回転軸86を中心に回転し、押し係合部87の止め歯が線状部材2に向かって動く。このため、押し係合部87の止め歯で線状部材2をロックするので、線状部材2の前記方向への移動が規制される。なお、引き掛け部材5への線状部材2の初期時の装着を可能とするために、図示しないが、調整機構8によるロックを解除する解除装置を有していても良い。
【0038】
以上により、長さ調整部7の調整機構8により、線状部材2を引き掛け部材5の挿通孔71から出た寸法が長くなる方向に引っ張ることで、引き掛け部材5、5間の線状部材2の長さや、パイプ部材3から引き掛け部材5までの線状部材2の長さを好適な長さに調整して、架け渡された線状部材2が、作業員が乗るのに危険な緩んだ状態となるのを防止することが可能となる。そして、長さ調整部7の調整機構8では、線状部材2を引き掛け部材5の挿通孔71から出た寸法が短くなる方向に引っ張ってもロックされて、線状部材2はその方向には変位しないので、誤操作による事故を防止することが可能である。
【0039】
図4において、本発明の足場装置1の架空電線路100上での使用例が示されている。架空電線路100は、架空状態の電線(架空電線)101を、送電専用の鉄塔や鉄柱、鉄筋コンクリート柱、木柱などの立設構造物で支持する電線路であり、図4では、立設計構造物の一例として、送電専用の鉄塔の、しかも複数の碍子103が連結された碍子装置104及び引留クランプ105を介して架空電線101を取り付けるための腕金102が、部分的に示されている。
【0040】
このような架空電線路100においては、足場装置1は、一方の引き掛け部材5を鉄塔の腕金102に引き掛け、他方の引き掛け部材5を架空電線101に引き掛けることで、線状部材2が挿通されたパイプ部材3を碍子装置104の斜め下方となる近傍部位に配置して、作業員Aはこのパイプ部材3に足を乗せることで碍子装置104に対する作業を行うことが可能である。しかも、パイプ部材3は線状部材2に確実に固定されているため、碍子装置104に対する作業に当たって、パイプ部材3が線状部材2をその軸方向に不用意にずれたり、パイプ部材3が線状部材2を軸心として回転したりすることがないので、作業員Aの安全性、作業の効率性を高めることができる。そして、作業において足場の位置を変更したい場合には、固定解除部43を押すのみで、パイプ部材3の線状部材2への固定が解除されるので、パイプ部材3を線状部材2の軸方向に沿って任意の方向に且つ任意の寸法にて動かすことができる。しかも、パイプ部材3の線状部材2への固定状態に戻すのも、固定解除部43を押す状態を停止するのみで良い。よって、この点からも作業の効率性を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 足場装置
2 足場用の線状部材
3 足場用のパイプ部材
31 開口部
31a 内側面
4 固定機構
41 中間部
42 弾性部材
43 固定解除部
5 引き掛け部材
6 引き掛け部
7 長さ調整部
71 挿通孔
8 調整機構
100 架空電線路
101 架空電線
102 送電線用の鉄塔の腕金(立設構造体)
図1
図2
図3
図4