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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】耐熱接着性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/085 20180101AFI20241016BHJP
   G01N 19/04 20060101ALI20241016BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N23/085
G01N19/04 Z
G01N23/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020216858
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102237
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 房恵
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189455(JP,A)
【文献】特開2018-189595(JP,A)
【文献】特開2010-24601(JP,A)
【文献】特開2020-27084(JP,A)
【文献】原野貴幸 ほか,放射光X線を用いた炭素繊維強化プラスチックの顕微化学状態解析,新日鉄住金技報,2017年,number 408,pages 89-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/085
G01N 19/04
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性評価方法であって、
タイヤコードに接着剤組成物を含浸させ、該含浸物を所定の厚みで切断して評価用断面試料を調製する断面試料調製工程;および、
前記断面試料調製工程により得られた断面試料について、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する浸み込み厚み算出工程を含む評価方法。
【請求項2】
前記断面試料調製工程が、含浸物の切断前に該含浸物を樹脂に包埋する包埋物調製工程を含み、該包埋物の切断がコード長さ方向に垂直に行われるものであり;
前記浸み込み厚み算出工程が、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を変化させながら一連のX線吸収係数マッピング像を取得する、スタック画像取得工程;
前記スタック画像から、タイヤコード、接着剤組成物、およびコード包埋用樹脂のXAFSスペクトルを標準スペクトルとした特異値分解を行なうことにより、接着剤組成物のX線吸収係数マッピング像を取得する、接着剤組成物画像調製工程;および
前記接着剤組成物画像より、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する接着剤組成物画像解析工程を含む、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記断面試料調製工程と前記スタック画像取得工程との間に、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を固定して、断面試料上を空間的にスキャンすることにより、そのphoton energyにおけるX線吸収係数マッピング像を取得し、該X線吸収係数マッピング像により、接着剤組成物による吸収強度が強い領域を分析領域として選択する、分析領域選択工程をさらに含む、請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において使用するマイクロXAFS測定装置がSTXMである、請求項3記載の評価方法。
【請求項5】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程におけるX線の輝度が1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上である、請求項3または4記載の評価方法。
【請求項6】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において、着目する元素が、炭素、酸素、および窒素からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項3~5のいずれか一項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤコードのゴム中における耐熱接着性は、耐久性等のタイヤ性能を維持するために非常に重要である。このような耐熱接着性の評価は、これまで、タイヤ成形後のドラム耐久試験の実施や、有機繊維コードとゴムを一緒に加硫した試験片を用いて剥離試験をする等の方法がとられてきた。しかしながら、これらの方法は、試験工数や試験時間を要し、コストがかかるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、タイヤの破壊形態をラボスケールで再現し、タイヤコードゴム複合体の界面接着力の低下を簡便に評価できる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-2780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性を簡便に評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、タイヤコードに接着剤組成物を含浸させ、その浸み込み厚みを所定の方法で測定することにより、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性を簡便かつ定量的に評価することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性評価方法であって、タイヤコードに接着剤組成物を含浸させ、該含浸物を所定の厚みで切断して評価用断面試料を調製する断面試料調製工程;および、前記断面試料調製工程により得られた断面試料について、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する浸み込み厚み算出工程を含む評価方法、
〔2〕前記断面試料調製工程が、含浸物の切断前に該含浸物を樹脂に包埋する包埋物調製工程を含み、該包埋物の切断がコード長さ方向に垂直に行われるものであり;前記浸み込み厚み算出工程が、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を変化させながら一連のX線吸収係数マッピング像を取得する、スタック画像取得工程;前記スタック画像から、タイヤコード、接着剤組成物、およびコード包埋用樹脂のXAFSスペクトルを標準スペクトルとした特異値分解を行なうことにより、接着剤組成物のX線吸収係数マッピング像を取得する、接着剤組成物画像調製工程;および前記接着剤組成物画像より、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する接着剤組成物画像解析工程を含む、〔1〕記載の評価方法、
〔3〕前記断面試料調製工程と前記スタック画像取得工程との間に、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を固定して、断面試料上を空間的にスキャンすることにより、そのphoton energyにおけるX線吸収係数マッピング像を取得し、該X線吸収係数マッピング像により、接着剤組成物による吸収強度が強い領域を分析領域として選択する、分析領域選択工程をさらに含む、〔2〕記載の評価方法、
〔4〕前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において使用するマイクロXAFS測定装置がSTXMである、〔3〕記載の評価方法、
〔5〕前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程におけるX線の輝度が1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上である、〔3〕または〔4〕記載の評価方法、
〔6〕前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において、着目する元素が、炭素、酸素、および窒素からなる群から選ばれる少なくとも1つである、〔3〕~〔5〕のいずれかに記載の評価方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、煩雑な剥離試験やドラム耐久試験等を実施することなく、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性を簡便かつ定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】287eVのX線マイクロビームを照射して得られたコード1の断面試料のX線吸収係数マッピング像である。
図2】炭素K吸収端付近における、包埋用樹脂のXAFS標準スペクトルである。
図3】炭素K吸収端付近における、接着剤組成物1のXAFS標準スペクトルである。
図4】炭素K吸収端付近における、PETコードのXAFS標準スペクトルである。
図5】特異値分解後の(a)包埋樹脂、(b)接着剤組成物1、(C)PETコード、および(d)前記3成分のX線吸収係数マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のタイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性評価方法は、タイヤコードに接着剤組成物を含浸させ、該含浸物を所定の厚みで切断して評価用断面試料を調製する断面試料調製工程;および前記断面試料調製工程により得られた断面試料について、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する浸み込み厚み算出工程を含む。
【0011】
好ましくは、前記断面試料調製工程が、含浸物の切断前に該含浸物を樹脂に包埋する包埋物調製工程を含み、該包埋物の切断がコード長さ方向に垂直に行われるものであり;前記浸み込み厚み算出工程が、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を変化させながら一連のX線吸収係数マッピング像を取得する、スタック画像取得工程;前記スタック画像から、タイヤコード、接着剤組成物、およびコード包埋用樹脂のXAFSスペクトルを標準スペクトルとした特異値分解を行なうことにより、接着剤組成物のX線吸収係数マッピング像を取得する、接着剤組成物画像調製工程;および前記接着剤組成物画像より、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する接着剤組成物画像解析工程を含む。
【0012】
より好ましくは、前記断面試料調製工程と前記スタック画像取得工程との間に、前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、着目する元素の吸収端近傍の領域内でX線の光子エネルギー(photon energy)を固定して、断面試料上を空間的にスキャンすることにより、そのphoton energyにおけるX線吸収係数マッピングを取得し、該X線吸収係数マッピング像により、接着剤組成物による吸収強度が強い領域を分析領域として選択する、分析領域選択工程をさらに含む。
【0013】
前記分析領域選択工程で選択された分析領域は、タイヤコードを構成するフィラメントのうち、外側から数えて二層目より内側のフィラメントを含む領域であることが好ましい。
【0014】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において使用するマイクロXAFS測定装置はSTXMであることが好ましい。
【0015】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程におけるX線の輝度は1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上であることが好ましい。
【0016】
前記分析領域決定工程および前記スタック画像取得工程において、着目する元素は、炭素、酸素、および窒素からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
本開示の一実施形態である耐熱接着性評価方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0018】
<断面試料調製工程>
タイヤコードに接着剤組成物を含浸させ、該含浸物を所定の厚みで切断して評価用断面試料を調製する工程である。
【0019】
(タイヤコードの作製)
タイヤコードとしては、タイヤ工業において一般的に使用可能なものであれば特に制限されず、例えば、有機繊維コード、ガラス繊維コード、スチールコード等が挙げられる。有機繊維コードの材質としては特に制限はないが、熱可塑性プラスチックスが好ましい。熱可塑性プラスチックスとしては、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、ポリアミドおよびポリエステルが好ましい。スチールコードとしては、1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等が挙げられる(nは1~27の整数、kは1~10の整数、mは1~3の整数など)。
【0020】
接着剤組成物としては、タイヤコードとゴムとの接着に使用可能なものであれば特に制限されず、例えば、エポキシ化合物、ブロックドイソシアネート、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)、p-クロロフェノール・レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物、アリルヒドロキシフェニルエーテル・レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物、およびそれらの混合物が挙げられる。前記の接着剤組成物を、公知の方法によりタイヤコードに含浸させる。
【0021】
タイヤコードに接着剤組成物を含浸させた後の乾燥は、公知の方法により実施される。乾燥温度は、通常120~300℃であり、150~250℃が好ましい。乾燥時間は、通常1~10分であり、2~5分が好ましい。
【0022】
(断面試料の調製)
タイヤコードに含浸した接着剤組成物を含む、厚さ数mm程度(好ましくは5~10mm程度)のコード片を切り出し、該コード片を樹脂に包埋し、該包埋物をクライオミクロトームでコード長さ方向に垂直に所定の厚みで切断して断面試料を得る。なお、前記のコード片は、前記の接着剤組成物が含浸したタイヤコードから切り出したもののみならず、接着剤組成物が含浸したタイヤコードを未加硫ゴムに埋設し、加硫してタイヤコードとゴムを一体化したタイヤコードゴム複合体から切り出したものであってもよい。
【0023】
<浸み込み厚み算出工程>
前記断面試料調製工程により得られた断面試料について、タイヤコード表面からの前記接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する工程である。該浸み込み厚みを測定する方法は特に限定されないが、本開示では、マイクロXAFS測定装置を用いた浸み込み厚みの算出方法について以下に説明する。
【0024】
(マイクロXAFS測定)
前記断面試料をTEM用グリッド上に保持したものをマイクロXAFS測定に供する。マイクロXAFS測定装置としては、例えば、走査型透過X線顕微鏡(STXM: Scanning Transmission X-ray Microscopy)、X線光電子顕微鏡(XPEEM:X-ray Photoemission electron microscopy)等が挙げられるが、試料のX線による損傷を防止する観点から、STXMが好ましい。X線の輝度は、1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上が好ましく、1012(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上がより好ましく、1014(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上がさらに好ましい。また、試料がX線損傷に弱いものである場合は、マイクロXAFS測定の際、例えば、試料を-80℃以下に冷却することでX線損傷を低減することができる。
【0025】
STXM法は、ゾーンプレートで集光した高輝度X線を切片状の試料上で走査しながら、入射光と試料を抜けた光(透過光)を同時に測定することで、微小領域のX線吸収量を測定し、X線吸収端近傍微細構造(NEXAFS: Near edge X-ray absorption Fine Structure)の2次元マッピングを行う手法である。最高数十nmレベルの空間分解能で、多種の元素の化学状態解析を行うことができ、特に軟X線領域に吸収端がある炭素、窒素、酸素などの元素ないし化学状態別のマッピングに好適に用いることができる。照射するX線の光子エネルギー(photon energy)の範囲は、着目する元素によって適宜選択できる。例えば、有機材料の場合、炭素K吸収端領域のphoton energy(280~320eV程度)、酸素K吸収端領域のphoton energy(520~570eV程度)等での測定が好適に選択されるが、これに限定されない。
【0026】
(分析領域選択工程)
前記断面試料について、マイクロXAFS測定装置により、接着剤組成物中の着目する化学状態(元素ないし官能基ないし化合物)の吸収端近傍の領域内で、照射するX線の光子エネルギー(photon energy)を固定して、断面試料上のある範囲(例えば、20~50μm角の領域)で空間的にスキャンすることにより、そのphoton energyにおける、X線吸収係数の分布像(X線吸収係数マッピング像)を得る。得られたX線吸収係数マッピング像により、接着剤組成物によるX線吸収量が大きい領域を分析領域として選択する。例えば、後記実施例においては、図1がX線吸収係数マッピング像の一例である。図1において、1で示す黒い領域が接着剤組成物によるX線吸収量が大きい領域である。また、2で示す丸い領域がフィラメントである。なお、該分析領域は、タイヤコードを構成するフィラメントのうち、外側から数えて二層目より内側のフィラメントを含む領域が好ましい。その方が、よりよい耐熱接着性の評価ができる傾向があるためである。
【0027】
(スタック画像取得工程)
マイクロXAFS測定装置を用い、前記断面試料に対し、選択した分析領域内において、着目する元素(好ましくは炭素)の吸収端近傍の領域内で、照射するX線の光子エネルギー(photon energy)を固定して空間的にスキャンすることにより、そのphoton energyにおける、X線吸収係数マッピング像を得る。次いで、該X線の光子エネルギー(photon energy)を、着目する元素の吸収端近傍の領域内で、例えば、0.1~1.0eVの間隔で変化させながら、各photon energyにおけるX線吸収係数マッピング像を上記と同様に取得する。こうして、一連のphoton energyでのX線吸収係数マッピング像のセット(スタック画像)を取得する。
【0028】
(接着剤組成物画像調製工程)
得られたスタック画像から、タイヤコード、接着剤組成物、およびコード包埋用樹脂のXAFSスペクトルを標準スペクトルとした特異値分解を行なうことにより、タイヤコード、接着剤組成物、および包埋用樹脂のX線吸収係数マッピング像をそれぞれ取得する。このうち、接着剤組成物のX線吸収係数マッピング像を、次工程にて使用する。該標準スペクトルは、マイクロXAFS測定装置を用い、予め前記のタイヤコード、接着剤組成物、および包埋用樹脂のそれぞれについて取得してもよいし、前記スタック画像の特徴的な領域から、前記のタイヤコード、接着剤組成物、および包埋用樹脂の標準スペクトルをそれぞれ抽出してもよい。
【0029】
(接着剤組成物画像解析工程)
特異値分解した接着剤組成物のX線吸収係数マッピング像をスケールバー入りで保存し、画像解析ソフトを用いて、コード部分に含浸した接着剤組成物の浸み込み厚みを算出する。具体的には、前記X線吸収係数マッピング像中の吸収強度(輝度)が最大となる点を結んだ線をタイヤコード表面とし、その線の垂直方向をタイヤコードの厚み方向とする。タイヤコード表面を表す線上の任意の点から、輝度がゼロとなる点までの距離を、コード部分に含浸した接着剤組成物の浸み込み厚みとし、その最大値および最小値を測定する。なお、浸み込み厚みは、複数の分析領域を選択し、その平均値をとることでその精度を高めることができる。
【0030】
浸み込み厚みの最小値は90nm以上が好ましく、95nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましい。浸み込み厚みの最小値が上記の範囲であると、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性が良好であると評価できる。
【0031】
浸み込み厚みの最大値と最小値の差は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。浸み込み厚みの最大値と最小値の差が上記の範囲であると、厚みのムラが少なく、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性が良好であると評価できる。
【実施例
【0032】
本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0033】
以下に、実施例および比較例において使用した各種薬品をまとめて示す。なお、各種薬品は必要に応じて常法に従い精製を行った。
接着剤組成物1:粘度150(mPa・s)の脂肪族エポキシ樹脂とブロックイソシアネートとを混合した接着剤
接着剤組成物2:粘度5000(mPa・s)の脂肪族エポキシ樹脂とブロックイソシアネートを混合した接着剤
接着剤組成物3:粘度2600(mPa・s)の脂肪族エポキシ樹脂とブロックイソシアネートを混合した接着剤
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のBR150B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351
オイル:ENEOS(株)製のプロセスオイルX-140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の「銀嶺R」
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0034】
(実施例)
<タイヤコードの作製>
110dtex/2、コード径0.54nm、より数48のPETコードを、上記接着剤組成物1~3にディップし、150℃で2分間乾燥し、引き続き240℃で2分間熱処理し、コード1~3をそれぞれ作製した。
【0035】
<コード断面試料の作製>
コード1~3について、コードに含浸した接着剤組成物を含む、厚さ5~10mm程度のコード片を切り出し、各コード片を包埋用樹脂に包埋した後、該包埋物をクライオミクロトームでコード長さ方向に垂直に厚み200nmでカットした。カットしたコード1~3の断面試料をTEM用のCu製グリッドにマウントした。
【0036】
<STXM測定>
下記の条件で、含浸工程前のPETコード、接着剤組成物、包埋用樹脂、およびコード1~3の断面試料についてSTXM測定を行った。
(測定場所)自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設 BL4U
(測定条件)
X線輝度:1×1016(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)
分光器:グレーティング
(測定エネルギー)282~294eV(炭素K吸収端領域)
(STXM測定データ解析ソフト)aXis2000(フリーソフト)
【0037】
まず、包埋用樹脂、接着剤組成物1~3、および接着剤組成物含浸前のPETコードの、炭素K殻吸収端付近におけるXAFS標準スペクトルをそれぞれ測定した(図2図3図4)。
【0038】
コード1~3の断面試料に対し、287eVのX線マイクロビームを照射し、分析領域選択用のX線吸収係数マッピング像を取得した。図1にコード1の断面試料のX線吸収係数マッピング像を示す。タイヤコードを構成するフィラメントのうち、該X線吸収係数マッピング像の接着剤組成物によるX線吸収量が大きい領域(図1では黒い領域)を含む、外側から数えて二層目より内側のフィラメントを含む領域を、分析領域として選択した。
【0039】
次に、コード1~3の断面試料に対し、選択した分析領域内において、287eVに固定してX線マイクロビームを照射し、X線吸収係数マッピング像を取得した。さらに、282~294eVの範囲で、0.2eVの間隔でphoton energyを変化させながらX線マイクロビームを照射して、同様にX線吸収係数マッピング像を取得し、それらのセットをスタック画像とした。
【0040】
得られたスタック画像と、前記標準スペクトルとを用いて特異値分解を行なうことにより、包埋用樹脂、接着剤組成物1~3、およびPETコードのX線吸収係数マッピング像をそれぞれ取得した。図5において、(a)は包埋用樹脂のX線吸収係数マッピング像、(b)接着剤組成物1のX線吸収係数マッピング像、(c)PETコードのX線吸収係数マッピング像を示し、(d)は前記3成分を色分けしたX線吸収係数マッピング像を示す。
【0041】
特異値分解した接着剤組成物1~3のX線吸収係数マッピング像をスケールバー入りで保存し、画像解析ソフトを用いて、コード1~3に含浸した接着剤組成物1~3の浸み込み厚みを算出した。具体的には、前記X線吸収係数マッピング像中の吸収強度(輝度)が最大となる点を結んだ線をタイヤコード表面とし、その線の垂直方向をタイヤコードの厚み方向とした。タイヤコード表面を表す線上の任意の点から、輝度がゼロとなる点までの距離を、コード部分に含浸した接着剤組成物の浸み込み厚みとし、その最大値および最小値を測定した。なお、浸み込み厚みは、3~4個の分析領域を選択し、その平均値をとることにより求めた。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(比較例)
<タイヤコードゴム複合試験片の作製>
表2に示す配合に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が58%になるように(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーに充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練した。得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。なお、表2の硫黄の配合量は、不溶性硫黄(硫黄分+オイル分)の配合量を示す。得られた未加硫ゴム組成物からゴムシートを作成し、該ゴムシートを用いて上記のコード1~3をそれぞれ上下から被覆し、140℃で40分間プレス加硫し、比較例1~3の各タイヤコードゴム複合試験片を得た。
【0044】
【表2】
【0045】
<湿熱劣化および剥離試験>
JIS K 7277:1998「プラスチック-湿熱、水噴霧及び塩水ミストに対する暴露効果の測定方法」に準拠し、温度80℃、湿度95%の条件下で150時間湿熱劣化させた比較例1~3の各タイヤコードゴム複合試験片について、日本ゴム協会誌第63巻第4号(1990)「低温プラズマ処理によるPETタイヤコード繊維の接着性改良」の2.4.4に記載の方法に準じて剥離試験を行い、剥離後のゴム被覆率(繊維コードとゴム間を剥離した時の剥離面のゴムの覆われている割合)を目視で測定した。接着力の評価は下記の基準で行い、評点の大きい方が、耐熱接着性が良好であることを示す。
[評価基準]
5点:剥離面のゴム被覆率が100%
4点:剥離面のゴム被覆率が75%以上100%未満
3点:剥離面のゴム被覆率が50%以上75%未満
2点:剥離面のゴム被覆率が25%以上50%未満
1点:剥離面のゴム被覆率が0%超25%未満
0点:剥離面のゴム被覆率が0%
【0046】
【表3】
【0047】
表1および表3の結果より、本開示の評価方法により測定した接着剤組成物の浸み込み厚みの最小値が大きくなるほど、また、浸み込み厚みの最大値と最小値の差が小さくなるほど、剥離試験による耐熱接着性が向上しており、本開示の評価方法は、剥離試験による耐熱接着性の評価とよく相関していることがわかる。また、本開示の評価方法は、耐熱接着性の定量的な評価に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、煩雑な剥離試験やドラム耐久試験等を実施することなく、タイヤコードとゴム組成物との耐熱接着性を簡便かつ定量的に評価することができる。したがって、本発明は、耐熱接着性の改善したタイヤの開発を促進する上で有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 接着剤組成物によるX線吸収量が大きい領域
2 フィラメント
図1
図2
図3
図4
図5