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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】ポリマー電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/12 20060101AFI20241016BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241016BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20241016BHJP
   C08G 75/0254 20160101ALI20241016BHJP
   C08G 75/0213 20160101ALN20241016BHJP
【FI】
H01B1/12 Z
H01M10/0565
C08L81/02
C08G75/0254
C08G75/0213
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021001900
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022031092
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020132837
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】デン 羽皋
(72)【発明者】
【氏名】仲村 博門
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-530166(JP,A)
【文献】特表2019-517712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/12
H01M 10/0565
C08L 81/02
C08G 75/0254
C08G 75/0213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩、電離助剤およびポリアリーレンスルフィドを含有するポリマー電解質であって、
上記ポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、
Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、ポリマー電解質。
【化1】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SOおよびSOから選ばれる。)
【請求項2】
前記電離助剤が、溶媒を有し、
前記溶媒は、25℃における式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上であり、かつ、式(2)で得られる溶媒拡散係数が15以下である、請求項1に記載のポリマー電解質。
【数1】
【数2】
【請求項3】
前記電離助剤が、水、γブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ブチレンカーボネート(BC)、エチレンカーボネート(EC)プロピレンカーボネート(PC)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)、トリグリム(TG)、ダイグリム(DG)、炭酸エチルメチル(EMC)、および炭酸ジメチル(DMC)からなる群より選ばれる1つ以上を含む、請求項1または2に記載のポリマー電解質。
【請求項4】
上記アルカリ金属塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドの少なくとも一方を含む、請求項1~3のいずれかに記載のポリマー電解質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリマー電解質を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池をはじめとするアルカリ二次電池はスマートフォン、携帯電話などの携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び家庭用蓄電器などといった様々な用途に用いられつつあり、それらに関する研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウム二次電池は、特に電気自動車などの用途において、安全性の向上が強く求められている。従来の電解液電池は、可燃性の電解液を使用するため、電池の燃焼や爆発が起きることがあった。そのため、安全性向上に寄与できる固体電解質の研究が活発となっている。
【0004】
固体電解質はイオンを容易に伝導する固体であり、一般的に固体電解質は酸化物系、硫化物系及びポリマー系に分けられる。ポリマー系固体電解質は、生産性、柔軟性などの利点があり注目されているが、室温でのイオン伝導度が低く、その解決が求められている。
【0005】
近年、ポリマー系固体電解質の中で、ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す。)を代表とするポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す。)系電解質は、難燃性及び機械特性で注目されている。特許文献1のように、PPSは共役ポリマーであって、電子受容性ドーパントを添加することで電子導電することが可能であることが知られているが、近年PPSとアルカリ金属塩の混合物に電子アクセプターをドープした固体電解質が特許文献2~4で開示されている。さらに、特許文献2~4において、PPS固体電解質はPPS、アルカリ金属塩及び電子受容性ドーパント等、各原料を高温で混合させた後に成型する方法で製造されている。
【0006】
また、固体電解質ポリマーに電解液を含有させることでイオン伝導度を向上させる方法が知られている(特許文献5~6)。前記方法で作製した電解質は、Polymer Matrix Eectrolyte(PME)とよばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-157151号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/006308号明細書
【文献】中国特許出願公開第106450424号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0005356号明細書
【文献】台湾特許出願公開202015279号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0177740号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2~4において、PPSを含む固体電解質の結晶化度が高いことがイオン伝導度に重要であることが示されており、結晶化度の高いPPSを用いた固体電解質が開示されている。しかし、結晶化度の高いPPSを使用する場合、300℃前後の高温で加工しなければならず、リチウム塩やドーパントなど含有成分の劣化が起こり、室温でのイオン伝導性の低下や品質の不安定化を引き起こす可能性がある。また、電子受容性ドーパントを含有することで、ポリマーマトリックスが酸化劣化や脆化などの機械特性低下を引き起こす可能性がある。さらに、前記固体電解質を生産する際には、高温加工による機械特性低下が起きると、成膜する際に膜の割れや崩れなどが発生することがあり、生産性に課題がある。特許文献5~6においては、PMEを作製する際にソルベントキャスト法を使用しているため、PMEの製造工程において溶媒を蒸発させる工程が必要となり、生産性に課題がある。また、ポリマーを溶解するための溶剤はポリマー電解質の導電性の向上に貢献しない一方で、原料コストが増加し生産性が低下するとの課題がある。また、蒸発された溶媒が環境に散逸することがあり、環境適性にも課題がある。前記観点から、従来のPME電解質は生産性および環境適性に課題がある。
【0009】
また、特許文献6に記載されたポリイミド(PI)は、ポリマー電解質の基材として、吸湿しやすい課題がある。水を電離助剤としてポリマー電解質が含有する場合に、吸湿により、ポリマー電解質の成分の比率が変化することがあり、このことにより、ポリマー電解質の電位窓が低下し、水が電気分解しやすくなることがある。一方で、有機溶剤を電離助剤として含有するポリマー電解質である場合には、吸湿による電離助剤の電気分解などの劣化が起きる。前記観点から、保管及び貯蔵に課題がある。また、一般的なPI基材は、電気分解の電位窓が2V未満であり、高電圧電池用途に適用しにくい課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、室温での良好なイオン伝導度を示し、且つ、吸湿性が低く、生産性、環境適性、電位窓が広い等の点に優れたポリマー電解質を見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
【0012】
(1)アルカリ金属塩、電離助剤およびポリアリーレンスルフィドを含有するポリマー電解質であって、上記ポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、ポリマー電解質。
【0013】
【化1】
【0014】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SOおよびSOから選ばれる。)
(2)上記電離助剤が、25℃における式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上、かつ式(2)で得られる溶媒拡散係数が15以下となる溶媒を1つ以上含有する、(1)に記載のポリマー電解質。
【0015】
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
(3)上記電離助剤が、少なくとも水、γブチロラクトン、N-メチルピロリドン(NMP)、ブチレンカーボネート(BC)、エチレンカーボネート(EC)プロピレンカーボネート(PC)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)、トリグリム(TG)、ダイグリム(DG)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジメチル(DMC)から選ばれる1つ以上を含む、(1)~(2)に記載のポリマー電解質。
【0018】
(4)上記アルカリ金属塩が、LIFSI及びLITFSIを一つ以上含む、(1)~(3)に記載のポリマー電解質。
【0019】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のポリマー電解質を有する電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、室温状態でも良好なイオン伝導度を示し、且つ吸湿性が低く、生産性及び環境適性に優れた広い電位窓を有するポリマー電解質を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ポリマー電解質の定義)
本発明のポリマー電解質とは、ポリマーマトリックスを有し、外部から電場をかけることで容易にイオンを移動させる物質のことをいう。前記ポリマー電解質は、後述の電離助剤を含有している。本発明のポリマー電解質におけるアルカリ金属イオンの移動しやすさは、25℃におけるイオン拡散係数で判断することができる。アルカリ金属イオンのイオン拡散係数(m/s)は、そのイオンの核磁気共鳴分光法(NMR)で測定してもよい。
【0022】
また、NMRで測定したイオン拡散係数は、同じ温度条件でも複数の値をとる可能性があるため、本発明においてのイオン拡散係数はそのイオンの25℃におけるイオン拡散係数の最大値をいう。イオン伝導度の観点から、本発明のポリマー電解質の25℃におけるイオン拡散係数は10-132/s以上であることが好ましく、10-122/s以上であることがより好ましく、10-112/s以上であることがさらに好ましい。また、本発明のポリマー電解質は、アルカリ金属塩、電離助剤およびポリアリーレンスルフィド(以下、PASと称することがある)を含む。以下、アルカリ金属塩、電離助剤およびPASについて説明を行う。
【0023】
(アルカリ金属塩)
本発明のポリマー電解質はイオン伝導度の観点からアルカリ金属塩を含むことが重要である。本発明におけるアルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンが構成イオンとして含まれる塩をいう。例えばリチウム金属イオン、ナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンなどを含む金属塩があげられる。イオン拡散性の観点から、イオン径が小さい金属イオンが好ましい。
【0024】
アニオンは、イオンへの解離性の高さからHSAB則に基づくやわらかい塩基であることが好ましく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンや、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンであることが好ましい。すなわち、アルカリ金属塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドの少なくとも一方を含むものであることが好ましい。
【0025】
なお、HSAB則(Principle of Hard and Soft Acids and Bases)は、R.G.Pearsonが提唱した酸塩基の強さに関して、かたい、やわらかいという観点で分類したものである。かたい酸はかたい塩基に対して親和性が大きく、やわらかい酸はやわらかい塩基に対して親和性が大きい。かたい酸とは、電子受容体になる原子が小さく、容易に変形する軌道に入った価電子を持たず、大きな正電荷をもつものである。やわらかい酸とは、電子受容体になる原子が大きく、容易に変形する軌道に入った価電子を持ち、電荷がないかあっても小さいものである。かたい塩基とは、価電子が原子に強く結合している塩基であり、やわらかい塩基とは、価電子が容易に分極する塩基である。HSAB則およびHSABの酸塩基の分類は、R.B.HeslopとK.Jones著「Inorganic Chemistry -A Guide to Advanced Study」の9章の酸塩基の15節に記載されている。
【0026】
具体的には、アルカリ金属塩として、リチウム塩類、ナトリウム塩類を含むことが好ましく、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、及びナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、イオンの解離性の高さの観点から、LiTFSI、及びLiFSIより得られる1種以上を含むことがさらに好ましい。
【0027】
また、アルカリ金属塩は複数種類の塩を適宜な比で混合して使用してもよい。
【0028】
イオンの解離度及びイオン伝導度の観点から、ポリマーにおける全構成単位及びアルカリ金属塩のモル比が、100:2~100:400であることが好ましく、100:2~100:100がより好ましく、100:2~100:50がさらに好ましい。
【0029】
(電離助剤)
本発明のポリマー電解質に含まれる電離助剤は、溶媒を含む。そして、アルカリ金属塩の解離及びイオン伝導度の観点から、この溶媒は以下のものであることが重要である。すなわち、この溶媒は、25℃における式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上であり、かつ、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が15以下である。
【0030】
【数3】
【0031】
【数4】
【0032】
式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)は電離助剤、温度、イオン濃度、イオン種類によって変わることがある。ここでイオン解離度は、温度が25℃、イオン濃度が0.2mol/L、且つカチオンがリチウムイオン、アニオンがN(SOCF である場合のイオン解離度をいう。
【0033】
なお、式(1)及び式(2)の表記は下記通りの数値を表す。σimp:イオン伝導度、e:電子電量、N:アボガドロ定数、k:ボルツマン定数、T:温度、DLithium:リチウムイオンの拡散係数、DAnion:N(SOCF の拡散係数、(1-ξ):イオン解離度、Dsolvent:溶媒拡散係数、c:境界条件定数、η:粘度、ra:拡散半径。
【0034】
上記電離助剤は、ポリマー電解質の界面、または非結晶部分でリチウムイオンと結合し、ポリマーマトリックスよりもイオン導電性に優れた第三の相を形成することができる。前記第三の相により、導電通路が形成され、ポリマー電解質のイオン導電性を向上させることができる。
【0035】
式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)は、イオン解離の割合を示す。アルカリ金属塩の解離を促進させる観点から、上記溶媒の式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)は、0.1以上であることが好ましい。
【0036】
また、式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、溶媒の粘性を示しており、この数値が低いほどアルカリ金属イオンのイオン伝導度が高くなる傾向にある。上記観点から、上記溶媒の式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、15以下であること好ましい。
【0037】
上記観点から、上記電離助剤式(1)で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上、かつ式(2)で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が15以下となる溶媒を1つ以上、含有することが好ましい。
【0038】
また、同様な観点から、上記の電離助剤は、水、γブチロラクトン(GBL)、n-メチルピロリドン(NMP)、ブチレンカーボネート(BC)、エチレンカーボネート(EC)プロピレンカーボネート(PC)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)、トリグリム(TG)、ダイグリム(DG)、炭酸エチルメチル(EMC)、および炭酸ジメチル(DMC)からなる群より選ばれる1つ以上を含有することが好ましい。なかでも、電解質の電位窓の観点から、上記電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)およびn-メチルピロリドン(NMP)の少なくとも何れか一方を含有するものであることがより好ましく、前述のポリマーとの親和性の観点から、上記電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)を含有するものであることが最も好ましい。
【0039】
(ポリアリーレンスルフィド)
本発明におけるPAS(アリーレン基を「Ar」と略す。)は、式-(Ar-S)-を構成単位とするポリマーである。また、上記の構成単位-(Ar-S)-のArは化学式(1)の(A)の構成単位、および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する。融点や分子量を制御する観点で、特に、Arが化学式(1)の(B)の構成単位、または化学式(1)の(C)の構成単位を有することが好ましい。
【0040】
【化2】
【0041】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SOおよびSOから選ばれる。)
また、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対し、共重合単位(-(Ar-S)-のArが化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有するものは、1モル%以上50モル%以下であることが好ましく。3モル%以上30モル%以下がより好ましく、5モル%以上25モル%以下がいっそう好ましい。共重合単位が1モル%以上であることで、PASの融点が大きく低下し、固体電解質を作製する際の加工温度を低くすることができ、ポリマー電解質のイオン伝導度や品質安定性の向上につながる。一方、50モル%以下であることで、PAS共重合体の重合反応終了後の反応液からPAS共重合体を回収する際に、回収を効率的に行えるようになる傾向にある。なお、PAS共重合体中の共重合単位の含有比率は、重合時に添加する化学式(2)の(A’)~(G’)で表されるジハロゲン化芳香族化合物全量に対する、共重合成分として添加する(B’)~(G’)の化合物の添加量の比率、と同じである。
【0042】
【化3】
【0043】
上記-(Ar-S)-で表される単位を主要構成単位とする限り、下記の化学式(3)の(H)~(J)で表される分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0044】
【化4】
【0045】
また、本発明におけるPAS共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0046】
本発明の固体電解質用PAS共重合体の合成方法は特に限定されるものではなく、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させて得る方法や、ジヨード芳香族化合物と硫黄を無溶媒下で溶融反応させて得る方法などが挙げられるが、工業的に生産されている前者の重合方法を採用するのが汎用性の観点で好ましい。
【0047】
(結晶化度)
ここで、ポリマー電解質の結晶化度は、電離助剤を含有しない状態の結晶化度をいう。本発明のポリマー電解質は融点、加工性及び電離助剤の含浸の観点から、本発明のポリマー電解質に含まれるポリマーの結晶化度が20%以下であることが好ましい。
【0048】
結晶化度は一般的に、ポリマー全体における結晶領域が占める割合をいうが、ここでは、電離助剤を含浸する前のポリマー電解質の結晶融解熱量を、パラフェニレンスルファイド完全結晶の融解熱量(146.2J/g)にて除した値をポリマーの結晶化度とみなす。
【0049】
特許文献1等において、ポリマー電解質は結晶化度が高いことがイオン伝導度に重要であることが知られているが、結晶化度を低くすることで、ポリマーの融点が低くなる傾向にあり、低温加工することが可能になり、リチウム塩の分解や、ポリマーの酸化、架橋などが抑制され、電離助剤との親和性が高くなり、導電通路が形成しやすくなるため、低結晶化度でも高いイオン伝導度に至ることができる。
【0050】
また、結晶化度が低い場合、ポリマー電解質を成型させるのに必要な温度が低くなる。特にアルカリ金属塩などの成分を含有する場合、成分の混合と成型のプロセスを連続して又は同時に行うことができる。
【0051】
以上の観点から、本発明におけるポリマー電解質の結晶化度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。また、本発明におけるポリマー電解質の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)で測定することができる。具体的に、ポリマー電解質を窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃にて2時間保持する。その後400℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピークを融解ピークとみなし、融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を146.2(J/g)で除した値を結晶化度(%)とする。
【0052】
(融点)
ここでいうポリマー電解質の融点は、電離助剤を含有しない状態の融点をいう。ポリマー電解質の融点は、成型性、生産性、及び品質安定性の観点から、融点が200℃以上320℃以下であることが好ましい。ポリマー電解質の融点が低いことによって、より低温で混合することができ、原料の昇華や変質を防ぐことができる。また、溶融状態で昇華しやすい原料がある場合、昇華を防ぐために各々の原料とポリマーとをそれぞれ混合する必要があるが、ポリマー電解質の融点が低いことによって、一度で溶融混合することができる。このようなことによって、プロセスを単純化できる。以上の観点から、本発明におけるポリマー電解質の融点が200℃以上、320℃以下であることが好ましく、200℃以上、280℃以下であることがより好ましく、200℃以上、250℃以下であることがさらに好ましい。本発明におけるポリマー電解質の融点は、以下とおり測定する。ポリマー電解質を窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃にて2時間保持する。その後400℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピークを融解ピークとみなし、融解ピークのピーク温度を融点とする。
【0053】
(イオン伝導度)
本発明のポリマー電解質は電池用途の電解質としてのイオン伝導度や電池の充放電性能の観点から、本発明のポリマー電解質のイオン伝導度は10-6S/cm以上であることが好ましい。また、同様の観点から、10-5S/cm以上であることがより好ましく、10-4S/cm以上であることがさらに好ましい。なお、上記のポリマー電解質のイオン伝導度は、25℃におけるものをいう。
【0054】
イオン伝導度の測定は次の方法により行うことができる。ポリマー電解質を直径10mmの円形にサンプリングし、測定用試料とする。この試料の厚さをマイクロメーターで測定後、サンプルホルダーに設置し、高周波インピーダンス測定システム(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて、100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法によるイオン伝導度を測定する。本発明におけるリチウムイオンの伝導度は、固体電池の内部抵抗及びレート特性等の観点から10-6S/cm以上であることが好ましく、10-5S/cm以上であることがより好ましい、10-4S/cm以上が最も好ましい。
【0055】
(原料の微粒化)
本発明における原料の微粒化する方法は、本発明の効果を損ない限り限定されないが、ボールミル、ジェットミル、クライオミルなどの方法があげられる。また、原料を微粒化してから混合してもよいが、混合してから微粒化するのもよい。混合の均一性の観点から、微粒化した平均粒子径は20マイクロメーター以下であることが好ましく、10マイクロメーター以下がより好ましい。
【0056】
(ポリマー電解質の厚み)
本発明におけるポリマー電解質の厚みは、電気抵抗の観点から、200マイクロメーター以下であることが好ましい、100マイクロメーター以下がより好ましく、30マイクロメーター以下がさらに好ましい。本発明におけるポリマー電解質の厚みは、JISK6250(2019)に従って、定圧厚さ測定器で測定する。
【0057】
(吸湿度)
本発明における吸湿度は、ポリマー電解質の吸湿能力をいう。具体的に、ポリマー電解質を露点-40℃以下の乾燥室から取り出し、25℃、相対湿度80%状態1時間処理する。処理前後の重量増加を処理前のポリマー電解質の重量で割った値を吸湿度とする。ポリマー電解質の保管の観点から、電解質の吸湿が成分比率変化・電解質の劣化につながることがある。前記観点から、本発明におけるポリマー電解質の吸湿度は0%以上20%以下が好ましく、0%以上10%以下がより好ましい。
【0058】
(電池)
本発明の電池は、本発明のポリマー電解質を含むことが好ましい。本発明の効果を損ない限り限定されない、公知の方法で製造することができる。例えば、まずポリマー電解質フィルムと正極材、負極材を捲回機で巻き取り、捲回体を得る。その後得た捲回体を外装材で密封し、ポリマー電解質を有する電池を得る。
【実施例
【0059】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0060】
(結晶化度の測定)
ここでいうポリマー電解質の結晶化度は、電離助剤を含有しないフィルムの結晶化度をいう。本発明におけるポリマー電解質の結晶化度は、示差走査量熱計(DSC)で測定した。まずクライオミルでポリマー電解質を平均粒子径が0.5mm以下に粉砕した。2.5mgのポリマー電解質をアルミ製サンプルホルダーに充填し、サンプル台に設置した。ポリマー電解質を窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃にて2時間保持した。その後400℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピークを融解ピークとみなし、融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を146.2(J/g)で除した値を結晶化度(%)とした。
【0061】
(融点の測定)
ポリマー電解質の融点は、示差走査量熱計(DSC)で測定した。クライオミルで平均粒子径約0.5mm以下に粉砕した2.5mgのポリマー電解質をアルミ製サンプルホルダーに充填し、サンプル台に設置した。ポリマー電解質を窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃にて2時間保持した。その後400℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピークを融解ピークとみなし、融解ピークのピーク温度を融点とした。
【0062】
(イオン伝導度の測定)
本発明におけるイオン伝導度の測定は次の方法で測定した。ポリマー電解質フィルムの厚みを測定したあと、径10mmになるようサンプリングし、面積(S)を78.5mmと算出した。ポリマー電解質フィルムを直径10mmのサンプルホルダー(Hohsen社製KP-SolidCell)に入れた。その後高周波インピーダンス測定システム(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて、100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法によるインピーダンスを測定した。得たインピーダンスから、抵抗値(R)を算出し、測定した厚み(D)、面積(S)と合わせて、下記の式(3)でイオン伝導度(σ)を算出した。
【0063】
【数5】
【0064】
(イオン拡散係数の測定)
ここでいうポリマー電解質のイオン拡散係数は、電離助剤、ポリマー及びアルカリ金属塩を含有するフィルムのイオン拡散係数をいう。本発明におけるイオン拡散係数はPFG-NMR(パルス磁場勾配核磁気共鳴分光法)で測定した。Bruker Biospin社製のAVANCE III HD400を用い、乾燥窒素雰囲気下、25℃にて測定した。観測はLi、155.6MHzで行った。拡散プロットから、最小二乗法を用い、二成分でフィッテングした。得られた値のうち、最大のものをイオン拡散係数とした。
【0065】
(フィルムの厚みの測定)
本発明におけるポリマー電解質フィルムの厚みは、JISK6250(2019)に従って、定圧厚さ測定器で測定した。
【0066】
(アルカリ金属塩を含有するフィルム)
本発明におけるアルカリ金属塩を含有するフィルムは、アルカリ金属塩とポリマーを溶融混錬した後、成膜工程でフィルムを作製した。本発明における成膜手法は、公知の手法で成膜してもよい。本発明における成膜手法は延伸工程を含んでもよいが、フィルムが延伸することによってPASが結晶化することがあり、後記電離助剤が含有しにくくなることがある。前記観点から、本発明における成膜手法は延伸工程を含まないことが好ましい。
【0067】
(電離助剤の含浸)
本発明における電離助剤の含浸は、密閉容器内で前記アルカリ金属塩を含有するフィルムフィルムと電離助剤を一定条件で含浸させた。前記含浸条件は、含浸時の温度、圧力等の条件を含み、PAS、アルカリ金属塩及び電離助剤の種類によって適宜選択した。例えば、リチウム塩を含有するPPSフィルムにGBLを含浸させる場合、フィルムとGBLを密閉容器に入れて、常圧、120℃でオーブン1時間加熱した。また、減圧する場合、リチウム塩を含有するPPSフィルムとGBLを開放容器に入れて、120℃にて真空オーブンにて真空引きしながら1時間加熱した。
【0068】
(吸湿度の測定)
本発明における吸湿度は、ポリマー電解質の吸湿能力をいう。具体的に、ポリマー電解質を露点-40℃以下の乾燥室から取り出し、25℃、相対湿度80%状態1時間処理した。処理前後の重量増加を処理前のポリマー電解質の重量で割った値を吸湿度とした。
【0069】
(ポリマー1)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を85モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位15モル%とからなる共重合ポリマー。
【0070】
(ポリマー2)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を90モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位10モル%とからなる共重合ポリマー。
【0071】
(ポリマー3)
-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位のみからなるポリマー(東レ社製ポリフェニレンスルファイド“トレリナ“(登録商標)E2080)。
【0072】
(ポリマー4)
-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位84モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位15モル%(H)で表される分岐単位を1モル%とからなる共重合ポリマー。
【0073】
(ポリマー5)
ポリマー1とポリマー3を構成換算したモル比1:1で混合したもの。
【0074】
(ポリマー6)
ポリエチレン(PE)。
【0075】
(ポリマー7)
ポリエチレンテレフタラート(PET)。
【0076】
(ポリマー8)
ポリスチレン(PS)。
【0077】
(ポリマー9)
ポリピロメリトイミド(PI)(デュポン株式会社製“カプトン”(登録商標))。
【0078】
(アルカリ金属塩1)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業社製)。
【0079】
(アルカリ金属塩2)
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(東京化成工業社製)。
【0080】
(アルカリ金属塩3)
水酸化リチウム(Alfa Aesar社製)。
【0081】
(実施例1)
ポリマー1を平均粒子径が20マイクロメーター以下になるように粉砕した。その後、粉砕した粉末をアルカリ金属塩1と混合した。この際、ポリマー1に含まれる構成単位の数と、アルカリ金属塩1とのモル比が100:45.4になるように調合した。具体的には、ポリマー1の粉末100gに対し、アルカリ金属塩1を121gの比率にて調合した。
【0082】
混合物粉末を露点-40℃のドライルーム条件で溶融混錬機に投入し、260℃混錬した。その後、空冷で25℃に冷却した。得たサンプルを再度平均粒子径が20マイクロメーター以下になるように粉砕した。得た粉末を公知の方法で成膜し、延伸を行わなかった。前記方法で30マイクロメーターのフィルムを得た。得たフィルムを少量サンプリングし、クライオミルでポリマー電解質を直径が0.5mm以下となるまで粉砕し、結晶化度と融点を測定した。
【0083】
得たフィルムとγブチロラクトン(GBL)を容器に入れて、圧力を0.5atmに調整するよう真空オーブンに120℃、1時間含浸させた。冷却した後、表面に残存する導電助剤を拭き取った。得たポリマー電解質フィルムのイオン伝導度及び吸湿度を25℃で測定した。測定結果を表2に示す。実施例1はポリマーの融点が低いため、260℃の比較的低温で混錬でき、原料の分解や劣化が発生せず、生産性に優れていた。すなわち、実施例1のポリマー電解質は、室温での良好なイオン伝導度及び生産性に優れたものであった。
【0084】
(実施例2~17、比較例1~5)
ポリマー種類、アルカリ金属塩種類、混錬温度、延伸倍率、圧力及びポリマーとアルカリ金属塩のモル比を表1のとおりとした以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を実施した。評価結果を表2に示す。実施例10に示した混合電離助剤の各成分の質量比はEC(30):PC(30):EMC(40)であった。
【0085】
実施例2~17は実施例1と同様、低温で成型でき、生産性及びイオン伝導度に優れている。すなわち、これらの実施例のポリマー電解質は、実施例1のポリマー電解質と同様に、室温での良好なイオン伝導度を示し、且つ成形性、生産性、及び品質安定性に優れたものであった。実施例18は、ポリマーとアルカリ金属塩を成膜した後に二軸延伸し、結晶化度が延伸により増加した。結晶化度の増加により、電離助剤の含浸量が低下し、イオン伝導度に少し劣っていた。なお、比較例1は、Arが(B)~(G)から選ばれる少なくとも一つの構造である構成単位を有しない。よって、高温で成型しなければならない。アルカリ金属塩が高温より劣化が発生し、イオン伝導度に劣っていた。比較例2~4は、PAS以外のポリマーを使用し、アルカリ金属塩及び電離助剤との親和性がPASより低いため、イオン伝導度が劣っている。比較例5は、電離助剤を含有しないため、アルカリ金属塩の解離と伝導が不十分であり、イオン伝導度が劣る。
【0086】
(実施例18)
ポリマー1を平均粒子径が20マイクロメーター以下になるように粉砕した。その後、粉砕した粉末をアルカリ金属塩1と混合した。この際、ポリマー1に含まれる構成単位の数と、アルカリ金属塩1とのモル比が100:5.1になるように調合した。具体的には、ポリマー1の粉末100gに対し、アルカリ金属塩1を13.53gの比率にて調合した。
【0087】
混合物粉末を露点-40℃のドライルーム条件で溶融混錬る機に投入し、260℃混錬した。得られたサンプルを再度平均粒子径が20マイクロメーター以下になるように粉砕した。得られた粉末を260℃に加熱したプレス機でプレスしたのち、温度15℃のステンレス板で挟んで急冷することで、厚み30マイクロメーターのフィルムを得た。得られたフィルムを少量サンプリングし、結晶化度と融点を測定した。
【0088】
ついで、得られたフィルムと電気抵抗率が0.5MΩ(メガオーム)の純水を容器に入れて、恒温恒湿槽で1.0atm下、60℃、1時間処理し、純水を含浸させた。フィルムは、含浸前の重量を測定しておき、含浸処理後に表面を拭き取ったのち、含浸後の重量を測定した。含浸前と含浸後の重量変化から、アルカリ金属塩1:純水のモル比で、5.1:71.7の比率で含浸されていることが分かった。
【0089】
得られたポリマー電解質フィルムのイオン伝導度を25℃で測定した。測定結果を表2に示す。
【0090】
(実施例19)
恒温恒湿槽での含浸処理条件を、70℃とした以外は、実施例18と同様にして固体電解質を得た。含浸前と含浸後の重量変化から、アルカリ金属塩1:純水のモル比で、5.1:90.5の比率で含浸されていることが分かった。
【0091】
得られたポリマー電解質フィルムのイオン伝導度を25℃で測定した。結果を表2に示す。
【0092】
(実施例20)
恒温恒湿槽での含浸処理条件を、80℃とした以外は、実施例18と同様にして固体電解質を得た。含浸前と含浸後の重量変化から、アルカリ金属塩1:純水のモル比で、5.1:136.7の比率で含浸されていることが分かった。
【0093】
得られたポリマー電解質フィルムのイオン伝導度を25℃で測定した。結果を表2に示す。
【0094】
(比較例6)
比較例6は、ポリマーをPI(ポリマー9)としたが、溶融温度が400℃以上となった。一方で、リチウム塩(Li塩)の分解温度が380℃以下のため、Li塩と混合する際、Li塩の気化分解が発生し、溶融混合することができなかった。
【0095】
(比較例7)
比較例7は、LiTFSIとPI(ポリマー9)をモル比1:2になるよう、NMP溶液に溶解した。その後、LiTFSIとPIの溶液をPET基板上にキャストし、120℃の真空オーブンで3時間乾燥した。残留のNMPが4wt%であった。得た電解質フィルムのイオン伝導度及び吸湿度を測定した。本比較例につき、実施例と同等なレベルな初期イオン伝導度を達したが、吸湿度が高いため、水分の電気分解が起こりやすいことがあった。
【0096】
(ポリマーの製造方法)
[参考例1]
攪拌機付きのオートクレーブに硫化ナトリウム9水和物6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.787kg(9.6モル)およびNMP(N-メチルピロリドン)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4-ジクロロベンゼン3.712kg(25.25モル)ならびにNMP2.4kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに80℃の熱水で30分の洗浄を3回繰り返した。これを濾過し、酢酸カルシウムを10.4g入れた水溶液25リットル中に投入し、密閉されたオートクレーブ中で192℃、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、ポリマー3を得た。
【0097】
[参考例2]
参考例1を参考としながら、1,4-ジクロロベンゼン3.155kg(21.46モル)及び1,3-ジクロロベンゼン0.557kg(3.79モル)を同時に加えることで、ポリマー1を得た。
【0098】
[参考例3]
参考例1を参考としながら、1,4-ジクロロベンゼン3.341kg(22.72モル)及び1,3-ジクロロベンゼン0.371kg(2.53モル)も同時に添加することで、ポリマー2を得た。
【0099】
[参考例4]
参考例1を参考としながら、1,4-ジクロロベンゼン3.155kg(21.46モル)、1,3-ジクロロベンゼン0.557kg(3.79モル)及び1,2,4-トリクロロベンゼン0.048kg(0.26モル)も同時に添加することで、ポリマー4を得た。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】