(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】転落者検知システム、転落者検知方法および転落者検知プログラム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20241016BHJP
G01S 17/88 20060101ALI20241016BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20241016BHJP
G01V 8/18 20060101ALI20241016BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
G01S17/88
G01J1/42 N
G01V8/18
G08B21/02
(21)【出願番号】P 2021004223
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知禎
(72)【発明者】
【氏名】杉立 好正
(72)【発明者】
【氏名】高田 義教
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-017869(JP,A)
【文献】特開2014-095649(JP,A)
【文献】特開2015-168987(JP,A)
【文献】特開昭61-068901(JP,A)
【文献】特開2014-234085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
G01S 17/88
G01J 1/42
G01V 8/18
G08B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームから一対のレールを有する軌道への転落者を検知する転落者検知システムであって、
前記軌道の側方から走査光を射出して前記軌道よりも上方で走査範囲を形成する光走査部と、
前記走査範囲内において、前記一対のレールの間で内側検知エリアを設定し、前記光走査部と前記内側検知エリアとの間で外側検知エリアを設定する検知エリア設定部と、
前記外側検知エリアおよび前記内側検知エリア内で物体を検知した場合に、当該物体のサイズを測定するサイズ測定部と、
前記物体が前記外側検知エリア内で検知された場合には、前記サイズの測定値が所定の外側サイズ閾値以上であれば当該物体が前記転落者であると判定し、前記物体が前記内側検知エリア内に存在する場合には、前記サイズの測定値が前記外側サイズ閾値よりも小さい所定の内側サイズ閾値以上であれば当該物体を前記転落者であると判定する判定部と、
を備える、転落者検知システム。
【請求項2】
前記光走査部が、前記走査範囲を前記軌道より上方の所定高さで略水平面状に形成し、
前記検知エリア設定部は、前記外側検知エリアおよび前記内側検知エリアを、前記走査範囲内に設定し、
前記サイズ測定部は、前記物体の前記所定高さでの略水平面内におけるサイズを測定する、
請求項1に記載の転落者検知システム。
【請求項3】
前記内側サイズ閾値が、前記外側サイズ閾値よりも50~100mm小さい、
請求項2に記載の転落者検知システム。
【請求項4】
前記外側サイズ閾値が150~200mmであり、前記内側サイズ閾値が100~150mmである、
請求項2または3に記載の転落者検知システム。
【請求項5】
前記光走査部は、前記プラットホームの下に配置されている、
請求項1から4のいずれかに記載の転落者検知システム。
【請求項6】
前記軌道が、前記一対のレールを支持する一対の支持部と、前記一対の支持部の間に介在し前記一対の支持部よりも下方に凹んだ中央部とを有する枕木を含む、
請求項1から5のいずれかに記載の転落者検知システム。
【請求項7】
前記軌道がバラスト軌道である、
請求項1から6のいずれかに記載の転落者検知システム。
【請求項8】
プラットホームから一対のレールを有する軌道への転落者を検知する転落者検知システムにおいて用いられる転落者検知方法であって、
前記転落者検知システムは、前記軌道の側方から走査光を射出して前記軌道よりも上方で走査範囲を形成する光走査部を備え、当該転落者検知方法が、
前記走査範囲内において、前記一対のレールの間で内側検知エリアを設定し、前記光走査部と前記内側検知エリアとの間で外側検知エリアを設定する検知エリア設定工程と、
前記外側検知エリアおよび前記内側検知エリア内で物体を検知した場合に、当該物体のサイズを測定するサイズ測定工程と、
前記物体が前記外側検知エリア内で検知された場合には、前記サイズの測定値が所定の外側サイズ閾値以上であれば当該物体が前記転落者であると判定し、前記物体が前記内側検知エリア内に存在する場合には、前記サイズの測定値が前記外側サイズ閾値よりも小さい所定の内側サイズ閾値以上であれば当該物体を前記転落者であると判定する判定工程と、
を備える、転落者検知方法。
【請求項9】
請求項8に記載の転落者検知方法をコンピュータに実行させる、
転落者検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットホームから一対のレールを有する軌道への転落者を検知する転落者検知システム、転落者検知方法および転落者検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
列車が鉄道駅にいない不在状態において、鉄道利用者が、誤ってプラットホームから軌道上へ転落することがある。従来、この軌道転落を検知して、関係者(指令員、駅係員、乗務員など)に発報するシステムが提案されている。
例えば、特許文献1は、レーザを偏向しながら射出して2次元的な走査範囲を形成するレーザスキャナを備えた転落者検知システムを開示している。レーザスキャナは、レーザを水平に射出する姿勢で、プラットホームよりも下方かつ軌道よりも上方の所定高さに設置されている。これにより、水平な走査範囲が当該高さに形成される。
【0003】
不在状態では、軌道転落を検知するための検知エリアが、走査範囲内において、軌道の上方を覆うようにして設定される。物体が検知エリア内に存在すると、物体からの反射光がレーザスキャナに返ってくる。レーザスキャナは、この反射光から、検知エリア内に存在する物体のサイズを検知する。物体のサイズが所定の閾値以上である場合、レーザスキャナは、当該物体を転落者であると検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軌道の表面は、軌道の幅方向において平坦ではない。例えば、バラストがレールの外側で丘状に積まれている場合や、枕木の中央部が、一対のレールを支持する部分に対して下方に凹んでいる場合等がある。
転落者がレールの内側で倒れた場合には、転落者が中央部の凹みに嵌まる可能性がある。よって、転落者の体のうち検知エリアを横切っている部位のサイズが、転落者がレールの外側で倒れている場合と比べて、小さくなりやすい。
【0006】
そこで、レールの内側で倒れた転落者を検知することができるように、サイズの閾値を小さい値に設定することが考えられる。この場合、レールの外側で倒れた転落者も看過せず検知することできる。
しかし、不在状態では、転落者以外の物体、特に小動物が軌道の周辺に存在している可能性がある。例えば、ネコやイタチのような動物が軌道上を歩行していたり、カラスやハトのような鳥が軌道上に飛来したりする可能性がある。これら小動物が、レールの内側よりも高いレールの外側に存在していると、小動物の体のうち検知エリアを横切っている部位のサイズが、閾値を超える可能性がある。
【0007】
このように、レールの内側で倒れた転落者の捕捉のために閾値を小さく設定すると、レールの外側の小動物を転落者として誤判定するおそれがある。反対に、誤判定の防止のために閾値を大きく設定すると、レールの内側で倒れた転落者を看過するおそれがある。
そこで、本発明は、転落者の検知精度の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る転落者検知システムは、プラットホームから一対のレールを有する軌道への転落者を検知する。転落者検知システムは、光走査部、検知エリア設定部、サイズ測定部および判定部を備える。光走査部は、軌道の側方から走査光を射出して軌道よりも上方で走査範囲を形成する。検知エリア設定部は、走査範囲内において、一対のレールの間で内側検知エリアを設定し、光走査部と内側検知エリアとの間で外側検知エリアを設定する。サイズ測定部は、外側検知エリアおよび内側検知エリア内で物体を検知した場合に、当該物体のサイズを測定する。判定部は、物体が外側検知エリア内で検知された場合には、サイズの測定値が所定の外側サイズ閾値以上であれば当該物体が転落者であると判定する。判定部は、物体が内側検知エリア内に存在する場合には、サイズの測定値が外側サイズ閾値よりも小さい所定の内側サイズ閾値以上であれば当該物体を転落者であると判定する。
【0009】
上記構成では、2つの検知エリアが、レールの内側と外側とに分かれて同時的に設定される。2つの検知エリアは、光走査部により形成される走査範囲内に設定される。物体が検知エリア内に存在すると、物体のうち光走査部と対向する表面上で走査光が走査され、走査光が物体の表面で反射する。物体がいずれの検知エリアに存在していても、当該物体のサイズが測定される。サイズの測定値が各検知エリアに対応する閾値以上であれば、判定部は、その物体が転落者であると判定する。
【0010】
内側検知エリアにおける判定に用いる内側サイズ閾値は、レール外側の領域に設定された外側検知エリアにおける判定に用いる外側サイズ閾値よりも小さい。逆に言えば、外側サイズ閾値は、内側サイズ閾値よりも大きい。
このため、レールの内側に存在する物体のうち、内側検知エリアを横切っている部位のサイズが小さくなりやすい状況下でも、外側サイズ閾値よりも小さい内側サイズ閾値を用いることで、レールの内側で倒れた転落者を看過することなく検知することができる。内側サイズ閾値は相対的に小さいため、レールの内側に小動物がいても、小動物を転落者と誤判定するのを抑制することができる。
【0011】
また、レールの外側に存在する物体のうち、外側検知エリアを横切っている部位のサイズが大きくなりやすい状況下でも、内側サイズ閾値よりも大きい外側サイズ閾値を用いることで、レールの外側に存在する転落者以外の物体(例えば、小動物)を転落者として誤判定することを抑制することができる。転落者がレールの外側に存在するときには、転落者を看過せず検知することができる。
【0012】
光走査部が、走査範囲を軌道より上方の所定高さで略水平面状に形成してもよい。検知エリア設定部は、外側検知エリアおよび内側検知エリアを走査範囲内に設定してもよい。サイズ測定部は、物体の所定高さでの略水平面内でのサイズを測定してもよい。
上記構成では、外側検知エリアおよび内側検知エリアが、軌道の上方の同じ所定高さで略水平面状に設定される。このような場合において、内側サイズ閾値が外側検知エリアよりも小さい。
【0013】
これにより、レールの内側の凹みに転落者が嵌っても、転落者を看過せず検知することができる。更に、レールの外側に小動物が存在しても、小動物を転落者と誤判定するのを抑制することができる。
内側サイズ閾値が、外側サイズ閾値よりも50~100mm小さくてもよい。
上記構成によれば、レールの内側の凹みに嵌った転落者を看過せず検知することと、レールの外側にいる小動物を転落者として誤判定するのを抑制することとを実現することができる。
【0014】
外側サイズ閾値が150~200mmであってもよい。内側サイズ閾値が100~150mmであってもよい。
上記構成によれば、レールの内側の凹みに嵌った転落者を看過せず検知することと、レールの外側にいる小動物を転落者として誤判定するのを抑制することとを実現することができる。
【0015】
光走査部は、プラットホームの下に配置されていてもよい。
上記構成によれば、プラットホームから転落した転落者を検知しやすい。また、検知エリアをプラットホームの下方と軌道の上方との間に設定することを容易に実現することができる。
軌道が、一対のレールを支持する一対の支持部と、一対の支持部の間に介在し一対の支持部よりも下方に凹んだ中央部とを有する枕木を含んでもよい。
【0016】
上記構成では、軌道が枕木を含む場合において、枕木の中央部が下方に凹んでいるため、レールの内側で倒れた転落者が凹みに嵌まる可能性がある。このような場合にあっても、転落者を看過せず検知することができる。
軌道がバラスト軌道であってもよい。
上記構成では、レールの外側にバラストが積まれ、レールの外側がレールの内側よりも高くなる可能性がある。このような場合にあっても、レールの外側にいる小動物を転落者として誤判定するのを抑制することができる。
【0017】
本発明の一形態に係る転落者検知方法は、プラットホームから一対のレールを有する軌道への転落者を検知する転落者検知システムにおいて用いられる。転落者検知システムは、軌道の側方から走査光を射出して軌道よりも上方で走査範囲を形成する光走査部を備える。転落者検知方法は、検知エリア設定工程、サイズ測定工程および判定工程を備える。検知エリア設定工程では、内側検知エリアが走査範囲内において一対のレールの間に設定され、外側検知エリアが走査範囲内において光走査部と内側検知エリアとの間に設定される。サイズ測定工程では、外側検知エリアおよび内側検知エリア内で物体が検知された場合に、当該物体のサイズが測定される。判定工程では、物体が外側検知エリア内で検知された場合には、サイズの測定値が所定の外側サイズ閾値以上であれば当該物体が転落者であると判定される。また、物体が内側検知エリア内に存在する場合には、サイズの測定値が外側サイズ閾値よりも小さい所定の内側サイズ閾値以上であれば当該物体が転落者であると判定される。
【0018】
本発明の一形態に係る転落者検知プログラムは、上記の転落者検知方法をコンピュータに実行させる。
上記方法およびプログラムは、上記システムの技術的特徴と対応する技術的特徴を具備する。したがって、転落者がレールの内側にいてもレールの外側にいても、転落者を看過することなく検知することができる。同時に、小動物がレールの内側にいてもレールの外側にいても、小動物を転落者として誤判定することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、転落者の検知精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る転落者検知システムを示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る転落者検知システムが適用されたプラットホームおよび軌道を示す平面図である。
【
図3】(A)が、
図2に示す枕木上を通過するIIIA-IIIA線に沿って切断して示す軌道の断面図である。(B)が、
図2に示す枕木間を通過するIIIB-IIIB線に沿って切断して示す軌道の断面図である。
【
図4】検知エリア内に存在する物体のサイズを測定する手法の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る転落者検知方法を示すフローチャートである。
【
図6】第1変形例に係る転落者検知システムが適用されたプラットホームおよび軌道を示す平面図である。
【
図7】第1変形例に係る転落者検知システムが適用された軌道の断面図である。
【
図8】第2変形例に係る転落者検知システムが適用された軌道の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。全図を通じて同一のまたは対応する要素には同一の符号を付して詳細説明の重複を省略する。
(軌道、プラットホーム)
図1は、本発明の実施形態に係る転落者検知システム1を示す。
図2は、軌道90の平面図である。
図3(A)および
図3(B)は、軌道90の断面図である。まず、
図2、
図3(A)および
図3(B)を参照して、転落者検知システム1が適用される鉄道設備(例えば、軌道90および鉄道駅のプラットホームP)について先に説明する。
【0022】
軌道90は、路盤99上に敷設される。列車(図示せず)は、軌道90上を走行する。軌道90は、路盤99上の道床91と、道床91に支持された軌框92とを有する。本実施形態では、軌道90がバラスト軌道である。道床91は、砂利や砕石等のバラストで構成されている。
軌框92は、軌道90の延在方向に間隔をおいて並べられた複数の枕木93と、複数の枕木93上で支持された一対のレール94a,94bとを有する。枕木93の材質は、木に限定されず、コンクリートあるいは合成樹脂でもよい。一対のレール94a,94bは、軌道90の幅方向において互いに離れ、軌道90の延在方向に沿って互いに平行に延びる。レール94a,94bの断面形状は、図示される平底型に限定されない。
【0023】
枕木93は、その上面が露出した状態で、道床91内に埋め込まれている。枕木93は、一対のレール94a,94bをそれぞれ支持する一対の支持部93aと、一対の支持部93aの間に介在する中央部93bとを有する。一対のレール94a,94bは、一対の支持部93aそれぞれの上面に締結装置(図示せず)によって締結される。
以下の説明において、「レール94aの内側面」とは、レール94aの2つの側面のうち、対を成すレール94bと対向する側面である。「レール94aの外側面」とは、レール94aの2つの側面のうち内側面と反対側の側面である。レール94bについても、これと同様である。「レール内側」とは、一対のレール94a,94bの内側面同士の間である。「レール外側」とは、各レール94a,94bから見て、対を成すレール94b,94aと反対側である。レール内側領域は、2つのレール外側領域で挟まれている。
【0024】
軌道90の表面の高さは、幅方向において一様ではない。図示のように路盤99が水平で、軌道90にカントが付いていない場合にも、レール内側領域における軌道90の表面が、レール外側領域における軌道90の表面に対して低い場合がある。本実施形態では、軌道90がバラスト軌道であり、枕木93の中央部93bが凹んでいる。そのため、内側と外側とで高さの違いが顕著である。
【0025】
レール外側領域では、道床91が丘状に盛り上がっている。道床91の表面が、レール94a,94bから軌道90の幅方向外方へ離れるにつれて高くなり、その頂部を境に低くなる。道床91の頂部は、枕木93の支持部93aよりも高い。レール内側領域では、枕木93の中央部93bの上面と、道床91とが、軌道90の延在方向に沿って交互に、軌道90の表面を形成する。中央部93bは、一対の支持部93aに対して下方へ凹んでいる。レール内側領域での軌道90の表面は、支持部93aの上面、ひいては道床91の頂部よりも低い。
【0026】
プラットホームPは、2つのレール外側領域のうち一方に設置され、軌道90と幅方向に隣接している。プラットホームPの長手方向は、軌道90の延在方向と略平行である。プラットホームPの上面は軌道90よりも上方に位置する。
以下の説明において、「第1レール外側領域」は、2つのレール外側領域のうち、プラットホームPが設置されている側の領域である。「第2レール外側領域」は、第1レール外側領域とは反対側のレール外側領域である。レール外側領域は、軌道90の範囲外(例えば、プラットホームPの下方に形成された空間など)を含んでいてもよい。「第1レール94a」は、一対のレール94a,94bのうちプラットホームPに近い側のレールである。「第2レール94b」は、一対のレール94a,94bのうちプラットホームPから遠い側のレールである。
【0027】
プラットホームPおよびこれに隣接する軌道90の状態は、「不在状態」と「在線状態」とに大別することができる。不在状態は、列車が軌道90上に存在しない状態である。不在状態において、鉄道利用者は、プラットホームPの上面で、列車の到着を待機する。在線状態は、列車が軌道90上で停止している状態である。在線状態において、鉄道利用者は、プラットホームPの端縁と列車との間の隙間を跨ぎ、プラットホームPの上面から列車へ乗り込み、あるいは、列車からプラットホームPの上面へ降りる。
【0028】
(転落者検知システム)
図1を参照して、転落者検知システム1は、在線検知装置2、複数の走査器20、制御装置10および警報装置3を備えている。転落者検知システム1は、上記のような軌道90およびプラットホームPに適用され、不在状態および在線状態の両方で、プラットホームPから誤って転落した転落者を検知する。特に、鉄道利用者が、不在状態においてレール外側領域(更に言えば、第1レール外側領域)へ転落してもレール内側領域へ転落しても、転落者検知システム1は、この軌道転落を精度よく検知する。
【0029】
在線検知装置2は、列車がプラットホームPと隣接した軌道90上で停止しているか否かを検知する。在線検知装置2は、どのように構成されていてもよい。在線検知装置2は、一例として、プラットホームPと隣接する軌道90を検知範囲とする軌道回路であってもよい。在線検知装置2は、プラットホームPの長手方向両端部の屋根構造に設置され、車両の上面または側面の存否を検知するセンサによって構成されてもよい。
【0030】
図1、
図2、
図3(A)および
図3(B)に示すように、走査器20は、プラットホームPと隣接した軌道90の側方、特に、第1レール外側領域に設けられている。走査器20は、例えば、2Dレーザスキャナである。走査器20は、光走査部21、受光部22、検知部23および出力部24を有している(
図1を参照)。
光走査部21は、発光部31および偏向部32を有し、走査器20の筐体内に収容されている。光走査部21は、軌道90の側方から走査光SLを射出し、軌道90よりも上方で走査範囲SRを形成する(
図3(A)を参照)。発光部31は、レーザ光のような走査光SLを発光する。偏向部32は、ガルバノミラーやポリゴンミラーのような偏向器、および偏向器を回転駆動するアクチュエータを有する。発光部31で発光された走査光SLは、偏向部32によって偏向されながら射出される。これにより、2次元的な(すなわち、平面状の)走査範囲SRが形成される(
図2を参照)。
【0031】
図3(A)に示すように、走査器20は、プラットホームPよりも下方かつ軌道90よりも上方に設置されている。プラットホームPの下方には、プラットホームPの端縁から見て内方(軌道90と反対方向)に奥まった空間が形成されることがある。走査器20は、例えばこのような空間内に設置され、上下方向および幅方向における走査器20の位置が調整されている。
【0032】
光走査部21が走査光SLを軌道90に向けて水平に射出して水平面内で偏向する姿勢で、走査器20は設置されている。これにより、光走査部21が、プラットホームPよりも下方かつ軌道90よりも上方に、略水平面状の走査範囲SRを形成する。
走査光SLは、少なくとも第1レール外側領域およびレール内側領域の2つの領域内における軌道90の最高点よりも上方の所定高さにて、略水平に射出されている。これにより、走査光SLが、第1レール外側領域およびレール内側領域の全域で走査され、更には第2レール外側領域へも到達する。
【0033】
走査光SLの高さ位置があまりに高いと、転落者が軌道90上でうずくまっている場合に、走査光SLが転落者よりも上方で走査されてしまい、走査器20が転落者を捕捉することができない。また、走査光SLは、走査器20から離れるほど大きくなるビーム径を有している。走査光SLの高さ位置は、走査器20からの距離に応じたビーム径を考慮して、転落者を捕捉できるよう、走査光SLの下端が第2レール94bの頭頂面から僅かに上方を通過するように設定される。
【0034】
この場合、列車が軌道90上に停止しているときに、走査光SLを第1レール94a上の車輪の側面に照射することもできる。走査器20は、転落者の有無と並行して車輪の有無を検知してもよい。それにより、走査器20の検知結果を在線状態か不在状態かの判定に利用することができる。
図2に示すように、各走査器20において、走査光SLの偏向範囲は概略180度である。走査範囲SRは、平面視において、走査器20から軌道90の幅方向に延びる基準線に対し、線対称の半円形状に形成されている。
【0035】
本実施形態では、走査範囲SRの直径が、プラットホームPの有効長よりも短い。そこで、複数の走査器20がプラットホームPの長手方向(軌道90の延在方向)に沿って間隔をおいて並べられている。複数の走査範囲SRが、互いに部分的にオーバラップされるようにして、プラットホームPの長手方向に並べられる。これにより、プラットホームPの長手方向における全域で、転落者を監視することができる。走査器20の個数は、走査範囲SRの大きさやプラットホームPの長さに応じて、適宜変更可能である。
【0036】
走査範囲SR内には、検知したい物(検知対象物)と、検知対象物を検知する状況(検知状況)とに応じた検知エリアが設定される。検知対象物は、例えば転落者である。検知状況は、例えば在線状態や不在状態である。検知エリアは、走査範囲SR内に設定されるため、走査範囲SRと同じ高さ位置にあり、走査範囲SRと同様に平面状である。検知エリアは、走査範囲SR内で、検知対象物が存在し得る場所あるいは検知対象物の監視を要する場所に設定される(逆に言えば、検知対象物が存在し得ない場所を避けて設定される)。
【0037】
この走査器20では、走査範囲SR内に設定される検知エリアを検知状況に応じて切り替えることができる。そのため、検知状況によって検知対象物が存在し得る場所あるいは検知対象物の監視を要する場所が異なっていても、検知状況の変化に適応して検知対象物を監視し続けることができる。例えば、在線状態と不在状態とで転落者が存在し得る場所(および転落者が存在し得ない場所)が違っても、これに適応可能である。
【0038】
この走査器20では、走査範囲SR内に複数の検知エリアを同時的に設定することができる。そのため、転落者と車輪のように、異なる検知対象物を同時並行で監視することができる。更に、同じ検知対象物を、複数の検知エリアそれぞれで個別に検知することができる。例えば、不在状態という同じ検知状況下で、転落者を複数の検知エリアそれぞれで個別に検知することができる。
【0039】
物体が走査範囲SR内に存在すると、走査光SLがその物体で反射する。
図1を参照して、受光部22は、この反射光を受光する。検知部23は、受光部22での反射光の入力に基づいて、走査範囲SR内の物体の存否を検知する。検知部23は、走査範囲SR内に物体が存在すると、その物体が所定の検知条件を充足するか否かを判定する。検知条件は、検知エリアごとに個別に設定される。これにより、検知対象物、検知状況および検知エリアの場所に応じて、検体対象物を検知することができる。検知部23は、検知条件が充足されていれば、その物体が検知対象物であると判定する。検知条件およびその成否判定については、後述する。
【0040】
検知部23が走査範囲SR内で検知された物体が検知対象物であると判定すると、出力部24は、検知対象物を検知した旨を示す信号を制御装置10に出力する。本実施形態では、特段断らない限り、検知対象物が、転落者である。
制御装置10は、一例として、CPUと、ROM、RAMおよびEEPROM等のメモリと、入出力インタフェースとを備えるコンピュータによって構成される。コンピュータは、単体でもよいし、物理的に分散された複数のコンピュータの複合でもよい。メモリは、このようなコンピュータに転落者検知方法の一部(
図5を参照)を実行させるための転落者検知プログラムを記憶している。CPUは、転落者検知プログラムに従って転落者検知方法に係る情報処理を行う。メモリは、転落者検知プログラムのほか、転落者検知方法の実行に際して必要な情報またはデータを一時的に記憶することもできる。
【0041】
制御装置10は、転落者検知プログラムを実行することで、記憶部11、検知エリア設定部12および発報制御部13を有している。記憶部11は、前述したメモリによって実現される。
記憶部11は、転落者を検知対象物とする検知エリアとして、軌道検知エリアARおよび隙間検知エリアADを記憶している。軌道検知エリアARは、外側検知エリアARoutと内側検知エリアARinとに分かれている。
【0042】
検知エリア設定部12は、在線検知装置2の検知結果に応じて、走査器20に検知エリアを設定する。在線状態であれば、検知エリア設定部12は、走査器20の走査範囲SR内に隙間検知エリアADを設定する。不在状態であれば、検知エリア設定部12は、走査器20の走査範囲SR内に、軌道検知エリアARを設定する。
詳細図示を省略するが、隙間検知エリアADは、在線状態と対応する。在線状態では、転落者が、プラットホームPと列車との間の隙間に存在し得る。隙間検知エリアADは、この隙間内に設定される。
【0043】
軌道検知エリアARは、不在状態と対応する。不在状態では、列車が軌道90上に存在せず、軌道90の上方が広く開放される。そのため、転落者は、在線状態と比べると幅方向により広い範囲で、軌道90上に存在し得る。そこで、軌道検知エリアARは、隙間検知エリアADよりも広い範囲で軌道90を覆うように設定される。
なお、不在状態と在線状態との間の過渡状態では、専用の検知エリアを準備して転落者検知を行ってもよいし、走査器20の機能を停止して転落者検知を休止してもよい。
【0044】
発報制御部13は、走査器20の出力部24から上記の信号が出力されると、転落が発生したことを関係者(指令員、駅係員および乗務員など)に知らせるために警報装置3に発報させる。
警報装置3は、列車運行を管理する指令所に設けられて指令員に向けて警報を発する警報器を含む。鉄道駅に設けられて駅係員に向けて警報を発する警報器を含む。列車の制御車に設けられて乗務員(運転士あるいは車掌)に向けて警報を発する警報器を含む。警報器は、スピーカまたはブザーでもよく、ディスプレイまたはランプでもよい。関係者は、警報に基づいて、転落への対処、および転落に付随する二次事故を未然に防ぐための措置をとることができる。
【0045】
(外側検知エリア、内側検知エリア)
以下、不在状態での軌道転落の検知についてより詳細に説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る軌道検知エリアARは、外側検知エリアARoutと内側検知エリアARinとに分かれている。前述のとおり、走査器20によって形成される単一の走査範囲SR内に同時的に複数の検知エリアを設定可能である。このため、不在状態において、検知エリア設定部12は、軌道検知エリアARとして、2つに分かれた外側検知エリアARoutと内側検知エリアARinとを走査範囲SR内に同時的に設定することができる。
【0046】
内側検知エリアARinは、軌道90の幅方向において外側検知エリアARoutと隣接している。内側検知エリアARinは、一対のレール94a,94bの間の領域(すなわち、レール内側領域)に設定される。外側検知エリアARoutは、走査器20と内側検知エリアARinとの間に設定される。換言すれば、外側検知エリアARoutは、走査器20と第1レール94aとの間の領域(すなわち、第1レール外側領域)に設定される。
【0047】
図3(A)および
図3(B)に示すように、レール94a,94bの頭頂面は、軌道90の表面のなかでも高い位置にある。本実施形態では、頭頂面が、第1レール外側領域およびレール内側領域における最高点である。内側検知エリアARinは、平面視でこの頭頂面と重ならないように設定されている。内側検知エリアARinは、一対のレール94a,94bの頭頂部の内側面同士の間に設定されている。
【0048】
外側検知エリアARoutは、平面視でこの頭頂面と重ねられてもよい。例えば、外側検知エリアARoutは、第1レール94aの頭頂部の内側面からプラットホームP寄りに設定される。外側検知エリアARoutの走査器20側の稜線は、プラットホームPの端縁と重なっていてもよいし、端縁よりも走査器20側に設定されていてもよい。
外側検知エリアARoutおよび内側検知エリアARinの高さ位置は、対応する走査範囲SRの高さ位置と同等である。外側検知エリアARoutおよび内側検知エリアARinは、同じ走査範囲SR内に設定されている。このため、外側検知エリアARoutの高さ位置は内側検知エリアARinの高さ位置と同じである。
【0049】
(サイズ測定)
図1に示すように、走査器20の検知部23は、位置検知部41、サイズ測定部42および判定部43を有している。
図4は、位置検知部41およびサイズ測定部42における処理の説明図である。ここでは、人体あるいは軌道90上に存在し得るその他の物体を模擬して、円柱80が軌道90上に存在している。円柱80は、中心軸が鉛直に向く基準姿勢から、軌道90の幅方向の仮想軸周りに回転されており、基準姿勢に対して軌道90の延在方向へ傾斜している。なお、円柱80は、軌道90の延在方向の仮想軸周りには回転されていない。
【0050】
円柱80は、その表面として、円形の上面80aと外周面80bとを有する。走査器20から軌道90の幅方向に見たとき、外周面80bは長方形を呈し、上面80aが長方形の辺を成す。
走査光SLが、円柱80の外周面80b上で水平に走査されている。円柱80の中心軸は、走査範囲SRが成す水平面(以下、走査面)の法線に対して傾斜している。このため、外周面80bを走査面上に投影すると、外周面80bが楕円として表される。
図4では、この楕円のうち、走査光SLが照射された部分が実線の楕円弧で示され、走査光SLが届かなかった部分が破線の楕円弧で示されている。
【0051】
走査光SLは偏向角を連続的に変化させながら偏向される。
図4では、複数本の走査光SLが、走査器20における偏向角の分解能ΔθRごとに離散的に示されている。図示の便宜上、
図4では分解能ΔθRが1度であるが、分解能ΔθRは、実際にはこれよりも小さい(例えば、1/6度)。複数本の走査光SLのうち、円柱80に照射されたものは実線で示され、円柱80の外を通過したものは破線で示されている。
【0052】
位置検知部41は、受光部22で所定光量以上の反射光が入力されると、走査光SLが照射されて反射光が生成された位置(以下、反射位置p)を検知する。反射光は、走査範囲SR内に物体(円柱80)が存在するとき、ある偏向角で射出された走査光SLが当該物体(円柱80)で反射することで生成され、反射位置pは、当該物体の表面(外周面80b)上にある。位置検知部41は、反射を生じさせた走査光SLの偏向角(あるいは、偏向器の回転位置またはアクチュエータの動作位置)に基づいて、走査器20から見た反射位置の方位を検知する。位置検知部41は、当該偏向角で走査光SLを射出してからその反射光を受光するまでの飛行時間と、既知の走査光SLの伝播速度とに基づいて、走査器20から反射位置pまでの距離を検知する。
【0053】
位置検知部41は、偏向角および飛行時間(方位および距離)に基づいて、走査範囲SR内で反射位置pを検知する。このようにして、検知部23は、走査範囲SR内の物体(円柱80)の存否を検知し、物体(円柱80)が存在する場合にその物体(円柱80)の位置を検知する。
位置検知部41は、検知された反射位置pが、現在設定されている1以上の検知エリア内に入っているか否かを判定する。このようにして、検知部23は、走査範囲SR内に物体(円柱80)が存在する場合に、その物体(円柱80)が検知エリア内にあるか否かを検知する。
【0054】
転落者(人間)をはじめ、物体はある程度の幅を有する。また、走査器20における偏向角の分解能ΔθRは、物体(円柱80)の幅を基準にすれば極めて小さい。このため、物体(円柱80)が走査範囲SR内に存在すると、複数の反射位置pが、ある程度の偏向角の範囲(15度)内で連続的に検知される。
図4では、位置検知部41が、外周面80b上で16点の反射位置pを検知する旨を示しているが、実際の分解能ΔθRは図示より小さく、位置検知部41は実際には図示の数倍の反射位置pを検知する。これら複数の反射位置pが走査面上に投影されると、複数の反射位置pが、走査光SLが照射された物体の表面(外周面80b)に沿って線状に連続するようにして、微小間隔をあけて並べられる。
【0055】
サイズ測定部42は、検知エリア内で連続するように微小間隔をあけて並べられた複数の反射位置pに基づいて、検知エリア内の物体(円柱80)のサイズを測定する。本実施形態では、「サイズ」は、走査面内での物体のサイズ(単位:mm)である。
例えば、サイズ測定部42は、検知エリア内で連続した複数の反射位置pから、その両端の反射位置p1,p2(楕円上の2接点)を抽出する。抽出された2点p1,p2間の直線距離(弦p1p2)が、サイズの測定値Sm(単位:mm)として測定される。その他、サイズ測定部42は、物体の表面(外周面80b)のプロファイルのうち走査光SLが照射された部分(実線楕円弧)の長さを測定値Smとして測定してもよい。このようにして、検知部23は、各検知エリア内に存在する物体(円柱80)のサイズ、特に、走査光SLが走査されている所定高さでの水平面内における物体(円柱80)のサイズ(長さ)を測定する。
【0056】
(サイズ判定)
位置検知部41によって物体が検知エリア内に存在すると検知されると、判定部43は、その物体が当該検知エリアと対応する検知条件を充足するか否かを判定する。検知条件は、検知エリア内に存在する物体のサイズが、所定のサイズ閾値以上であるとの「サイズ条件」と、物体が所定の時間閾値THt以上検知エリア内に存在し続けているとの「時間条件」との2つの条件を含む。2つの条件が両方成立すると、判定部43は、検知条件が充足したと判定する。2つの条件の少なくともいずれか一方が非成立であると、判定部43は、検知条件が充足しないと判定する。
【0057】
判定部43は、サイズ判定部51および時間判定部52を有している。サイズ判定部51は、サイズ条件の成否を判定する。サイズ判定部51は、サイズ測定部42で測定されたサイズの測定値Smを、検知エリアと対応するサイズ閾値と対比する。時間判定部52は、時間条件の成否を判定する。
本実施形態では、走査範囲SR内に設定される検知エリアとして、外側検知エリアARout、内側検知エリアARinおよび隙間検知エリアADの3つの検知エリアがある。時間閾値THtは、3つの検知エリアで共通でもよいし、検知エリアごとに異なっていてもよい。隙間検知エリアAD用のサイズ閾値(隙間サイズ閾値THD)は、外側検知エリアARout用のサイズ閾値(外側サイズ閾値THRout)と同じでもよい。内側検知エリアARin用のサイズ閾値(内側サイズ閾値THRin)と同じでもよい。軌道検知エリアAR用のサイズ閾値とは異なる値でもよい。
【0058】
外側サイズ閾値THRoutは、内側サイズ閾値THRinよりも大きい。内側サイズ閾値THRinは、外側サイズ閾値THRoutよりも50~100mm小さい。外側サイズ閾値THRoutは、150~200mmである(一例として、200mm)。内側サイズ閾値THRinは、100~150mmである(一例として、150mm)。児童の頭幅の平均値がおよそ150mmである。閾値がこのように設定されることで、転落者が児童であっても看過せずに検知することができる。また、小動物の幅はこれよりも小さいことが多く、そのため小動物を転落者として誤検知することを好適に抑制することができる。
【0059】
不在状態で、鉄道利用者が誤ってプラットホームPから軌道90へ転落したとする。意図的ではないため、直立姿勢で落下したとしても、転落者が両足裏で軌道90上に着地することは困難である。転落者は、尻もちあるいは膝を付いた状態で事態の理解にある程度の時間をかける。時間閾値THtは数秒(例えば、1.5秒)に設定される。このため、転落者が軌道90を脱するまでに、時間条件が成立する。この時間条件の成否判定は、転落者が検知エリア内に存在していることを前提として実行される。
【0060】
この点、転落者が第1レール外側領域に転落し、転落者が第1レール外側領域内の軌道90上で尻もちを付いていると仮定する。第1レール外側領域における軌道90の表面の高さと、外側検知エリアARoutの高さ位置(走査範囲SRの高さ位置)と、軌道90上の転落者の体格および姿勢との関係から、外側検知エリアARoutが、転落者の体のうち、臀部から胴体下部までのどこかを水平に通過する。
【0061】
外側サイズ閾値THRoutが上記のように相対的に大きい値に設定されていても、転落者が成人であり、その体格が50パーセンタイル値である場合において、サイズ条件は確実に成立する。成人転落者の体格が50パーセンタイル値未満であっても、また、転落者が子供であっても、サイズ条件を成立させることができる。
転落者がレール内側領域に転落していると仮定する。レール内側領域における軌道90の表面の高さは、第1レール外側領域における軌道90の表面の高さよりも低い。転落者は、レール内側の凹みに嵌った状態となる。これに対し、本実施形態では、内側検知エリアARinの高さ位置は、走査範囲SRの高さ位置であり、外側検知エリアARoutの高さ位置と同じである。
【0062】
このため、転落者の体格および姿勢が上記と同様であっても、内側検知エリアARinは、転落者の体のうち、外側検知エリアARoutが通過し得る部分よりも上方の部分を通過する。例えば、内側検知エリアARinは、転落者の体のうち胴体上部から頸部にかけての部位のどこかを水平に通過する。転落者に照射された走査光SLの射出方向が、転落者の体の左右方向に略一致した場合には、サイズの測定値Smが、胴体部の前面から背面までの小さい値となる可能性もある。また、レール内側領域にいる転落者は、頭部がいずれかのレール94a,94bに載った状態で倒れている場合もある。この場合、内側検知エリアARinは、転落者の体のうち頭部を水平に通過する。このように、転落者がレール内側領域で倒れたときには、転落者の体のうち内側検知エリアARinを通過する部分のサイズが、第1レール外側領域で倒れた場合に外側検知エリアARoutを通過する部分のサイズと比べ、小さくなりやすい。
【0063】
そこで、内側サイズ閾値THRinは、上記のように相対的に小さい値に設定されている。このため、転落者が成人であり、その体格が50パーセンタイル値である場合において、サイズ条件は確実に成立する。成人転落者の体格が50パーセンタイル値未満であっても、また、転落者が子供であっても、サイズ条件を成立させることができる。
転落者が第1レール外側領域に転落した場合とレール内側領域に転落した場合とのどちらのケースにおいても、サイズ条件および時間条件が成立し、そのため、検知条件が充足する。したがって、検知部23(判定部43)は、転落者を看過せずに検知することができ、出力部24は、転落者を検知した旨の信号を制御装置10に出力することができる。制御装置10は、この信号を受け、警報装置3を適正に動作させることができる。
【0064】
一方、不在状態では、転落者以外の小動物が軌道90の周辺に存在し得る。レール内側領域において、ネコやカラスのような小動物が、軌道90の表面上で歩行または立っているとする。これら小動物の体格あるいは歩行姿勢に照らし、内側検知エリアARinは、小動物の頭部をかすめる。このため、内側サイズ閾値THRinが上記のように相対的に小さい値に設定されていても、サイズ条件が成立しない。
【0065】
第1レール外側領域において、小動物が軌道90の表面上で歩行または立っているとする。これら小動物の体格あるいは歩行姿勢に照らし、外側検知エリアARoutは、小動物の頭部を通過する可能性がある。しかし、外側サイズ閾値THRoutが、人間の体格に合わせて上記のように相対的に大きい値に設定されている。このため、外側検知エリアARoutが小動物の体を通過したとしても、サイズ条件が成立しない。
小動物が第1レール外側領域に存在する場合とレール内側領域に存在する場合とのどちらのケースにおいても、時間条件が成立することはあってもサイズ条件は成立しない。そのため、検知条件は充足しない。したがって、検知部23(判定部43)は、その小動物を転落者として誤検知しない。警報装置3の誤発報を抑制することができる。
【0066】
(転落者検知方法)
図5を参照して、本実施形態に係る転落者検知方法を説明する。転落者検知方法は、転落者検知システム1において所定の制御周期で繰り返し実行される。まず、検知エリア設定部12が、在線検知装置2の検知結果に基づいて不在状態であるか否かを判定する(S1)。
【0067】
不在状態でなければ(S1:N)、転落者検知システム1が、プラットホームPおよび軌道90の状態に応じた処理を実行し(S9)、ここで処理が終了する。この処理S9では、例えば、在線状態であれば、検知エリア設定部12が、隙間検知エリアADを走査器20に設定する。走査器20は、隙間検知エリアAD内の転落者の有無を判定する。
不在状態であれば(S1:Y)、検知エリア設定部12が、検知状況の一つである不在状態に応じた検知エリアを設定する(検知エリア設定工程S2)。検知エリア設定工程S2では、内側検知エリアARinがレール内側領域に設定され(S21)、外側検知エリアARoutが第1レール外側領域に設定される(S22)。
【0068】
次に、位置検知部41が、物体が内側検知エリアARinに存在するか、外側検知エリアARoutに存在するか、いずれにも存在しないのかを判定する(S3、S4)。物体がいずれにも存在しなければ(S3:NかつS4:N)、ここで処理が終了する。
物体がいずれかに存在すれば(S3:YまたはS4:Y)、サイズ測定部42が、その物体の検知エリア内でのサイズを測定する(サイズ測定工程S5)。物体が内側検知エリアARinに存在する場合における測定処理S51aも、物体が外側検知エリアARoutに存在する場合における測定処理S51bも、同様にして実行される。測定処理S51a,S51bの具体的内容は、
図4を参照して前述したとおりである。
【0069】
次に、判定部43が、検知エリア内に存在する物体が転落者であるか否かを判定する(判定工程S6)。判定工程S6では、物体が内側検知エリアARinに存在する場合には、サイズ判定部51が、測定処理S51aで得られたサイズの測定値Smが内側サイズ閾値THRin以上であるか否かを判定する(S61a)。時間判定部52が、その物体が内側検知エリアARin内に時間閾値THt以上留まっているか否かを判定する(S62a)。
【0070】
2つの判定処理のうちのいずれかが非成立であれば(S61a:NまたはS62a:N)、その物体は転落者ではないと判定され、処理が終了する。2つの判定処理が両方とも成立すれば(S61a:YかつS62a:Y)、その物体が転落者であると判定される(S63)。出力部24は、その旨を示す信号を制御装置10に出力する。この信号を受けて、警報装置3が動作する(S7)。これで、処理が終了する。
【0071】
物体が外側検知エリアARoutに存在する場合も、処理の手順は上記同様である。サイズ判定部51が、測定処理S51bで得られたサイズの測定値Smが外側サイズ閾値THRout以上であるか否かを判定する(S61b)。時間判定部52が、その物体が外側検知エリアARout内に時間閾値THt以上留まっているか否かを判定する(S62b)。ただし、外側サイズ閾値THRoutが、内側サイズ閾値THRinよりも大きい。
【0072】
2つの判定処理のうちのいずれかが非成立であれば(S61b:NまたはS62b:N)、その物体は転落者ではないと判定され、処理が終了する。2つの判定処理が両方とも成立すれば(S61b:YかつS62b:Y)、その物体が転落者であると判定される(S63)。出力部24は、その旨を示す信号を制御装置10に出力する。この信号を受けて、警報装置3が動作する(S7)。これで、処理が終了する。
【0073】
以上の転落者検知方法が実行されることで、前述したとおり、転落者がレール94a,94bの内側にいても外側にいても、転落者を看過することなく検知することができる。これと同時に、小動物がレール94a,94bの内側にいても外側にいても、小動物を転落者として誤判定することを抑制することができる。このように、プラットホームPから一対のレール94a,94bを有する軌道90への転落者を精度よく検知することができる。
【0074】
特に、本実施形態では、軌道90がバラスト軌道であり、枕木93の中央部93bが下方に凹んでいる。このため、軌道90の表面の幅方向における起伏が大きい。そして、走査器20の走査範囲SR内の同じ高さ位置で、平面状の軌道検知エリアARが軌道90を覆うように設定される。このような状況下において、軌道検知エリアARが2つに分かれ、2つに分かれた検知エリアそれぞれに適合した検知条件が設定されている。これにより、転落者がどこで倒れていても、転落者検知システム1は、転落者とそれ以外とを精度よく判別することができる。
【0075】
(変形例)
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成および方法は、本発明の範囲内で適宜変更、削除および/または追加可能である。
図6および
図7に示す第1変形例では、軌道検知エリアARが、第2レール外側領域にも設定されている。この場合、上記実施形態における「外側検知エリアARout」は、当該変形例において第1レール外側領域に設定される第1外側検知エリアARout1に変更される。軌道検知エリアARは、第1外側検知エリアARout1および内側検知エリアARinと併せて、第2レール外側領域に設定される第2外側検知エリアARout2を含む。第2外側検知エリアARout2と対応するサイズ閾値は、内側サイズ閾値THRinよりも大きくてもよい。第2外側検知エリアARout2と対応するサイズ閾値は、第1外側検知エリアARout1と対応するサイズ閾値と同じ値でもよく、異なる値でもよい。
【0076】
上記実施形態では、走査範囲SRが略水平面状に設定され、検知エリアも同様に略水平面状に設定され、そのため、検知エリアを横切る物体のサイズは、走査範囲SRが形成する平面内での長さである。走査範囲SRは、鉛直方向の成分を有していてもよく、検知エリアがこれに伴って3次元的に設定されてもよい。
図8に示す第2変形例では、走査器2Aの光走査部21が、走査光SLの射出方向を上下方向に傾けることができる。この場合、複数の走査範囲が形成されるため、走査器20Aは、検知エリアを横切る物体のサイズとして、鉛直方向のサイズ(長さ)を測定することができる。鉛直方向の長さのみが測定されてもよい。鉛直方向の長さと水平方向の長さとの両方を個別に測定してもよく、面積値が測定されてもよい。転落者(人間)と小動物とは、高さが大きく異なるため、鉛直方向のサイズを考慮することで、転落者とそれ以外とを判別する精度が向上する。
【0077】
上記実施形態では、外側検知エリアARoutと内側検知エリアARinとが、同一の光走査部21によって形成される単一の走査範囲SR内に設定されている。2つの検知エリアは、別の光走査部によって形成される2つの走査範囲にそれぞれ設定されてもよい。
上記実施形態では、サイズ判定部51が、検知エリア内の物体のサイズが、所定のサイズ閾値以上であれば、サイズ条件が成立したと判定する。物体のサイズが、第1のサイズ閾値以上かつ第2のサイズ閾値未満であるときに、サイズ条件が成立してもよい。つまり、検知対象物のサイズが、下限値(第1のサイズ閾値)と上限値(第2のサイズ閾値)とで規定される範囲内にあるときに、サイズ条件が成立してもよい。
【0078】
転落者検知システム1は、バラスト軌道以外の軌道、例えばスラブ軌道にも適用可能である。転落者検知システム1は、道床が無い軌道にも適用可能である。転落者検知システム1は、平坦な枕木を有する軌道にも適用可能であり、枕木のない軌道にも適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 転落者検知システム
12 検知エリア設定部
21 光走査部
42 サイズ測定部
43 判定部
90 軌道
91 バラスト
93 枕木
93a 支持部
93b 中央部
94a,94b レール
AR 軌道検知エリア
ARin 内側検知エリア
ARout 外側検知エリア
Sm サイズの測定値
THRin 内側サイズ閾値
THRout 外側サイズ閾値
S2 検知エリア設定工程
S5 サイズ測定工程
S6 判定工程