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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エアバッグ収納カバー
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/215 20110101AFI20241016BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241016BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20241016BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20241016BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60R21/215
C08L23/10
C08L23/04
C08L53/02
B29C45/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021005063
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109650
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】篠森 裕章
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-056145(JP,A)
【文献】特開2015-193821(JP,A)
【文献】特開平09-202202(JP,A)
【文献】特開2005-133021(JP,A)
【文献】特開2001-206183(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0150261(US,A1)
【文献】特開2018-134121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08L 23/04
C08L 53/02
B29C 45/00
B60R 21/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を、成分(A)100質量部に対して、成分(B)を11~68質量部、成分(C)を1~58質量部の割合で含む熱可塑性エラストマー組成物であり、ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物より作成したノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を加熱条件110℃で1000時間加熱した耐熱試験後の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したIZOD衝撃値が50kJ/m 以上150kJ/m 以下である熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバー
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン系共重合体
成分(C):共役ジエンブロック中の1,4-結合由来の二重結合の水素添加率が、20~80%である、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物
【請求項2】
前記成分(A)がプロピレン系ブロック共重合体である、請求項1に記載のエアバッグ収納カバー
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー組成物における前記成分(C)の含有割合が、前記成分(B)の含有割合よりも少ない、請求項1又は2に記載のエアバッグ収納カバー
【請求項4】
前記成分(B)は110~125℃に結晶溶融ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20~60J/gである、請求項1~のいずれか一項に記載のエアバッグ収納カバー
【請求項5】
ISO 1133に従って、測定温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される前記成分(A)のメルトフローレートが20~150g/10分である、請求項1~のいずれか一項に記載のエアバッグ収納カバー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温耐衝撃性と耐熱性に優れた熱可塑性エラストマー組成物、該熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体、及び該熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアバッグシステムは自動車等の衝突の際に運転手や搭乗者を保護するシステムであり、衝突の際の衝撃を感知する装置とエアバッグ装置とからなる。このエアバッグ装置は、ステアリングホイール、助手席前方のインストルメントパネル、運転席及び助手席のシート、フロント及びサイドピラー等に設置される。
【0003】
エアバッグ装置におけるエアバッグ収納カバーについては、エアバッグ膨張時に設計通り開裂するように、その構造や材質に於いて種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温強度、低温耐衝撃性、離型性、射出成形性等に優れるエアバッグ収納カバー向けの熱可塑性エラストマーとして、スチレン・共役ジエンブロック共重合体としてスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、プロピレン系樹脂及びエチレン・α-オレフィン共重合体からなるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-38925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、安全性の観点からエアバッグの大型化がすすむ一方で、エアバッグ装置については美観の観点から小型化が求められている。そのため、エアバッグ展開時にエアバッグ収納カバーにかかる相対的な出力が強まっており、より優れた低温耐衝撃性が求められている。特許文献1に記載されている熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性に優れるが、耐熱試験後の低温耐衝撃性を評価するために、110℃で1000時間加熱する耐熱試験後に、温度-45℃におけるIZOD衝撃強度を測定したところ、後掲の比較例2に示すように耐熱性が不足しており、この点で改良の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来品における課題を解決し、低温耐衝撃性と耐熱性に優れる熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなるエアバッグ収納カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体、エチレン系共重合体、好ましくはエチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン系共重合体、及びスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物を特定量で含む熱可塑性エラストマー組成物が、低温耐衝撃性と耐熱性に優れ、エアバッグ収納カバーに好適に用いることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の[1]~[7]に存する。
【0010】
[1] 下記成分(A)~(C)を、成分(A)100質量部に対して、成分(B)を11~68質量部、成分(C)を1~58質量部の割合で含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン系共重合体
成分(C):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物
【0011】
[2] 前記成分(A)がプロピレン系ブロック共重合体である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[3] 前記成分(C)の含有割合が、前記成分(B)の含有割合よりも少ない、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[4] 下記成分(A)~(C)を含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、ISO 180を参照し、該熱可塑性エラストマー組成物より作成したノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を加熱条件110℃で1000時間加熱した耐熱試験後の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したIZOD衝撃値が50kJ/m以上である、熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン系共重合体
成分(C):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物
【0014】
[5] 前記成分(B)は110~125℃に結晶溶融ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20~60J/gである、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[6] ISO 1133に従って、測定温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される前記成分(A)のメルトフローレートが20~150g/10分である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体。
【0017】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバー。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低温耐衝撃性と耐熱性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。
【0019】
このため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物或いは本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体はエアバッグ収納カバーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明する。
以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0021】
本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0022】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(C)を、成分(A)100質量部に対して、成分(B)を11~68質量部、成分(C)を1~58質量部の割合で含む熱可塑性エラストマー組成物である。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン系共重合体
成分(C):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物
【0023】
本発明の別の態様の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(C)を含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、ISO 180を参照し、該熱可塑性エラストマー組成物より作成したノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を加熱条件110℃で1000時間加熱した耐熱試験後の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したIZOD衝撃値が50kJ/m以上である熱可塑性エラストマー組成物である。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン系共重合体
成分(C):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物
【0024】
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性と耐熱性に優れた成形体を得ることができるという効果を奏する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、以下のように推察される。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物では、成分(A)により耐熱性を得ると共に、成分(B)及び成分(C)により低温耐衝撃性を得る。このとき、成分(A)の100質量部に対して成分(B)を11~68質量部、成分(C)を1~58質量部の割合で用いることが重要である。後掲の実施例1~4と比較例1及び比較例4の結果より明らかなように、この特定の配合組成において、成分(B)と成分(C)の相互作用により、優れた低温耐衝撃性と耐熱性が得られると考えられる。
【0025】
[成分(A):プロピレン系重合体]
成分(A)のプロピレン系重合体とは、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%よりも多い重合体である。即ち、成分(A)は、プロピレン単位の含有率が50質量%を超え100質量%以下であるポリプロピレン系樹脂である。
【0026】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、その種類は特に制限されず、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン単位に加え、プロピレン以外のα-オレフィン単位(ただし、ここでいう「α-オレフィン」には、エチレンも含むものとする。)やα-オレフィン以外の単量体単位を含有するプロピレン系共重合体であってもよい。プロピレン系共重合体は、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
成分(A)において、プロピレン系重合体成分は剛性、耐熱性に寄与する。
【0027】
プロピレン系共重合体に含まれるプロピレン以外のα-オレフィン単位としては、エチレン及び炭素数4~20のα-オレフィン単位を挙げることができる。炭素数4~20のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられる。プロピレン以外のα-オレフィンとしては、好ましくは、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンであり、より好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。
【0028】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・エチレン・1-オクテン共重合体等を例示することができる。好ましくは、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種の単量体とプロピレンとの共重合体である。
【0029】
低温耐衝撃性及び高温強度の観点から特に好ましい成分(A)は、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られるポリプロピレン系ブロック共重合体である。
【0030】
成分(A)のプロピレン単位の含有率は、成分(A)全体に対し、50質量%を超え100質量%以下であり、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。成分(A)のプロピレン単位の含有率が前記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。なお、成分(A)中のプロピレン単位やエチレン等のα-オレフィン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0031】
成分(A)のメルトフローレートは、得られる成形体の外観の観点から、好ましくは1g/10分以上であり、より好ましくは5g/10分以上であり、更に好ましくは10g/10分以上、特に好ましくは20g/10分以上である。また、成分(A)のメルトフローレートは、通常150g/10分以下であり、引張強度の観点から、好ましくは130g/10分以下であり、より好ましくは100g/10分以下である。成分(A)のメルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に従って、測定温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0032】
成分(A)が異なるMFRを有するプロピレン系重合体のブレンド物の場合、成分(A)のMFRは、以下の式(I)によって計算することができる。
log(MFRブレンド)=w1log(MFR1)+w2log(MFR2)+…
……+wilog(MFRi)+…+wnlog(MFRn) …(I)
【0033】
式(I)中、wiは構成成分iの質量分画、MFRiは構成成分iのMFR、nはブレンド中の構成成分の総数である。w1+w2+…+wi+…wn=1である。
【0034】
成分(A)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法を挙げることができる。該多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(A)は市販の該当品を用いることも可能である。成分(A)におけるプロピレン系重合体としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品としては、プライムポリマー社のPrimPolypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、HifaxX(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobilPP、FormosaPlastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealisPP、LGChemical社のSEETECPP、A.Schulman社のASIPOLYPROPYLENE、INEOSOlefins&Polymers社のINEOSPP、Braskem社のBraskemPP、SAMSUNGTOTALPETROCHEMICALS社のSumsungTotal、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTALPETROCHEMICALS社のTOTALPETROCHEMICALSPolypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでもよい。
【0037】
[成分(B):エチレン系共重合体]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)としてエチレン系共重合体を含有する。成分(B)のエチレン系共重合体は、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率が50質量%以上のものであればよく、特に制限はないが、なかでもエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位とα-オレフィン単位との合計の含有率を100質量%としたときに、エチレン単位の含有率が50~80質量%、α-オレフィン単位の含有率が20~50質量%であるものが好ましい。エチレン単位の含有率が上記範囲内であると、他の成分との親和性が良好となって熱可塑性エラストマー組成物の微分散性が向上する傾向にある。
【0038】
エチレン・α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンは限定されないが、具体的には、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが挙げられる。これらのα-オレフィン単位は、成分(B)中に1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。これらの中でも、α-オレフィンとしては炭素数が4~8であるものが好ましく、1-オクテンがより好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体がα-オレフィン単位として1-オクテン単位を含むことで引張強さが良好となる。
【0039】
エチレン・α-オレフィン共重合体としては、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体、エチレン・α-オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、これらの中でもエチレン・α-オレフィンブロック共重合体、特にエチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン・α-オレフィンブロック共重合体が好ましい。
【0040】
本発明で用いる成分(B)のエチレン系共重合体は、110~125℃に結晶溶融ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20~60J/gであることが好ましい。ここで、成分(B)において、110~125℃に結晶融解ピークを有し、その結晶融解熱量が20~60J/gであることは、成分(B)が、結晶性のエチレンからなる重合体ブロックを有することを示す指標である。成分(B)の結晶融解熱量は、高温強度の観点から好ましくは20J/g以上であり、より好ましくは30J/g以上である。また、成分(B)の結晶融解熱量は、低温耐衝撃性の観点から好ましくは60J/g以下であり、より好ましくは50J/g以下である。
【0041】
成分(B)は、結晶性を有するエチレンからなる重合体ブロックを有することに加え、エチレン・α-オレフィン共重合体ブロックによる非晶性を有することが好ましい。この非晶性はガラス転移温度により表すことができ、成分(B)のDSC法によるガラス転移温度は好ましくは-80℃以上であり、より好ましくは-75℃以上であり、一方、好ましくは-50℃以下であり、より好ましくは-60℃以下である。成分(B)がこのような構造を有することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に高温強度及び低温耐衝撃性の効果が付与される。
【0042】
成分(B)の結晶融解ピーク、結晶融解熱量、及びガラス転移温度のそれぞれの値は示差走査熱量測定法(DSC)によって得られる。結晶融解ピークは、示差走査熱量計により得られる融解ピークのトップ温度である。結晶融解熱量は、示差走査熱量計により得られる融解ピークの面積から求めることができる。また、ガラス転移温度は、示差走査熱量計によって得られるベースラインと変曲点での接線の交点である。
これらの値を求める際の具体的な測定条件は次のとおりである。
即ち、サンプル量10mgを採り、DSCを用い、25℃から200℃まで100℃/分の昇温速度で融解させ、200℃で1分間保持した後、-130℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、-130℃で10分間保持した後、10℃/分の昇温速度で200℃まで測定して求める。
【0043】
成分(B)におけるエチレンからなる重合体ブロックは、エチレン単位を主体とするものであるが、エチレン単位に加え他の単量体単位を有していてもよい。ここで「主体とする」とは、全体の50質量%以上、特に60~100質量%を占めることをさす。他の単量体としては、1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンを例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンである。成分(B)におけるエチレンからなる重合体ブロックがこれらの末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3~8のα-オレフィン単位を含む場合、α-オレフィンの1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。
【0044】
成分(B)におけるエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックのα-オレフィンとしては、1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンを例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンである。
成分(B)におけるエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックは、エチレン単位及びα-オレフィン単位に加え、非共役ジエンに基づく単量体単位(非共役ジエン単位)等の他の単量体単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネンのような環状非共役ジエン等が挙げられる。好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0045】
成分(B)のエチレン単位の含有率は、成分(B)全体に対して、50~80質量%であることが好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有率は、成分(B)のブロッキングによる融着防止のためには多い方が好ましく、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形したときの低温耐衝撃性の観点では少ない方が好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有率の下限は、より好ましくは55質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。一方、成分(B)のエチレン単位の含有率の上限は、より好ましくは75質量%以下である。なお、成分(B)におけるエチレン単位の含有率及びα-オレフィン単位の含有率は、それぞれ赤外分光法により求めることができる。
【0046】
また、成分(B)が非共役ジエン単位等の他の単量体単位を有する場合、その含有率は成分(B)全体に対して、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。非共役ジエン単位の含有率についても、赤外分光法により求めることができる。
【0047】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(B)として具体的には、エチレンからなる重合体ブロックと、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン系ブロック共重合体を例示することができる。
成分(B)中に、これらのエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックは1種で用いられてもよく、2種以上組み合わせ用いられてもよい。これらの中でも、成分(B)は、エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・1-オクテン共重合体ブロックとを含むエチレン系ブロック共重合体であることが最も好ましい。
【0048】
成分(B)のメルトフローレートは限定されないが、通常、10g/10分以下であり、強度の観点から、好ましくは8.0g/10分以下、より好ましくは5.0g/10分以下、更に好ましくは3.0g/10分以下である。また、成分(B)のメルトフローレートは、通常0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上、より好ましくは0.10g/10分以上である。成分(B)のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0049】
成分(B)の密度は低温耐衝撃性の観点から、好ましくは0.880g/cm以下であり、より好ましくは0.875g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.850g/cm以上である。成分(B)の密度は、ISO 1183-A法に従って測定温度23℃で測定される。
【0050】
成分(B)は、特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示された方法に従って合成することができる。例えば、第1のオレフィン重合触媒と、同等の重合条件下で第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質又は物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、鎖シャトリング剤とを組み合わせて得られる混合物又は反応生成物を含む組成物を準備し、上記エチレンとα-オレフィンとを、付加重合条件下で、該組成物と接触させる工程を経て製造することができる。
【0051】
成分(B)の重合には、好ましくは連続溶液重合法が適用される。連続溶液重合法は、触媒成分、鎖シャトリング剤、モノマー類、並びに場合により溶媒、補助剤、捕捉剤および重合助剤が反応ゾーンに連続的に供給され、ポリマー生成物はそこから連続的に取り出される。また、ブロックの長さは、前記触媒の比率および種類、鎖シャトリング剤の比率および種類、重合温度等を制御することによって変化させることができる。
【0052】
なお、成分(B)のオレフィン系ブロック共重合体の合成方法において、その他の条件は特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示されている。
【0053】
また、成分(B)は市販の該当品を用いることもでき、例えばダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)-XLTシリーズやINFUSE(登録商標)シリーズが挙げられる。なお、成分(B)のうち、エチレン・オクテン共重合体ブロックを有するものについては、INFUSE(登録商標)シリーズが2007年に、Engage(登録商標)-XLTシリーズが2011年に、それぞれダウ・ケミカル社において商業的に生産開始されるまで、製品として入手することができなかったものである。
【0054】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでいてもよい。
【0055】
[成分(C):スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物]
成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物における好適な共役ジエンはブタジエン、イソプレン又はこれらの混合物である。成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物としては、例えば、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(以下、単に「S-B-B-S」と略記することがある。)を挙げることができる。
【0056】
スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物のスチレン単位含有率は特に制限されないが、強度と耐熱性の観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また、スチレン単位含有率は、柔軟性と耐衝撃性の観点から、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0057】
成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物の共役ジエンはイソプレン単体でもよく、ブタジエン単体でもよく、またイソプレンとブタジエンの混合物でもよい。
【0058】
成分(C)における上記共役ジエンブロック中の1,4-結合由来の二重結合の水素添加率は、20~80%、好ましくは30~70%である。1,4-結合由来の二重結合の水素添加率が20%以上であれば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐候性および耐熱性が良好となる傾向があり、水素添加率が80%以下であれば、低温耐衝撃性の改良が十分となる傾向がある。また、上記共役ジエンブロック中の1,2-結合および3,4-結合由来の二重結合の水素添加率は、85%以上、好ましくは90%以上である。1,2-結合および3,4-結合由来の二重結合の水素添加率が85%以上であれば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐候性および耐熱性が良好となる傾向がある。
【0059】
成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物の重量平均分子量(Mw)は、離型性の観点から、好ましくは50,000以上であり、より好ましくは80,000以上、更に好ましくは90,000以上である。また、Mwは流動性の観点から、500,000以下が好ましく、より好ましくは450,000以下、更に好ましくは400,000以下、特に好ましくは350,000以下である。
【0060】
成分(C)のMwはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)により測定されるものであり、例えば、下記条件により測定することができる。
機器:東ソー株式会社製「HLC-8220GPC(R)」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgelSuperHM-M(6.0mmI.D×15cm×2+G)」
検出器:示差屈折率検出器(RI/内蔵)
溶媒:クロロホルム
温度:40℃
流速:0.25mL/分
注入量:0.1質量%×20μL
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式(双曲線)
排除限界設定時間:12分
【0061】
成分(C)の密度は成形性の観点から、好ましくは1.00g/cm以下であり、より好ましくは0.95g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.85g/cm以上である。成分(C)の密度は、ASTM D792に従って測定温度23℃で測定される。
【0062】
成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体は、例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒を用いて不活性溶媒中で製造することができる。また、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物は、このようにして製造したスチレン・共役ジエンブロック共重合体を、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭60-79005号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加することで製造することができる。
【0063】
成分(C)のスチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物の市販品としては、例えば、旭化成株式会社製「タフテック(登録商標)P」が挙げられる。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでいてもよい。
【0065】
[含有割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)の含有量は、得られる成形体の低温特性、耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常11質量部以上であり、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上、特に好ましくは30質量部以上である。また、成分(B)の含有量は、得られる成形体の耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常68質量部以下であり、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは55質量部以下、特に好ましくは50質量部以下である。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)の含有量は、得られる成形体の低温耐衝撃性と耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常1質量部以上であり、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。また、成分(C)の含有量は、得られる成形体の低温耐衝撃性と耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常58質量部以下であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、特に好ましくは35質量部以下である。
【0067】
耐熱性の観点から、前記成分(C)と成分(B)は、成分(C)の含有割合が、成分(B)の含有割合よりも少ないように配合することが好ましい。
具体的には、成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量がW質量部で、成分(C)の含有量がW質量部である場合、W-W(質量部)が1質量部以上、特に15質量部以上となることが好ましい。一方、成分(B)の含有量を確保する観点から、W-W(質量部)は60質量部以下、特に40質量部以下であることが好ましい。
【0068】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて以下の添加剤、無機フィラー、有機フィラーや成分(A)~(C)以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称する。)等の任意成分を配合することができる。
【0069】
添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、耐候助剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、分散剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性剤、分子量調整剤、防菌剤、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。これらの添加剤は通常、成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、それぞれの添加剤を0.01~2質量部の範囲で配合して用いることができる。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得るその他の樹脂としては、ポリエステルエラストマー、ウレタンエラストマー、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂(ただし、成分(C)に該当するものを除く。)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂(ただし、成分(A),(B)に該当するものを除く。)、前記以外の各種エラストマー等が挙げられる。上記で挙げたその他の樹脂は1種のみを含有しても2種以上を含有してもよい。
【0071】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)~(C)やその他の成分を通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出機等で混練して製造する際には通常160~240℃、好ましくは180~220℃に加熱した状態で溶融混練することによって製造することができる。更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、下記の架橋剤や架橋助剤を配合して動的に熱処理することにより、部分的に架橋させてもよい。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を部分的に架橋させるための架橋剤としては、有機過酸化物を用いることが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシベンゾイル)-3-ヘキシン、ジクミルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0073】
これらの有機過酸化物により部分的に架橋させる際に用いられる架橋助剤としては、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、トルイレンビスマレイミド、P-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のラジカル重合性の炭素間二重結合を有する化合物と、成分(B)の炭素直鎖の部分と反応する官能基をもった化合物を挙げることができる。
【0074】
[熱可塑性エラストマー組成物の低温耐衝撃性]
本発明において、ISO 180(2013年)に従って測定された-45℃におけるノッチ付きIZOD衝撃強度を、低温耐衝撃性の指標とする。このノッチ付きIZOD衝撃強度の測定方法の詳細は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物について測定された-45℃におけるノッチ付きIZOD衝撃強度は、50kJ/m以上であることが好ましく、55kJ/m以上であることがより好ましく、60kJ/m以上であることが更に好ましく、70kJ/m以上であることが特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のノッチ付きIZOD衝撃強度の上限は特に制限されないが、通常150kJ/m以下である。
【0075】
[熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性]
本発明において、加熱条件110℃で1000時間加熱した耐熱試験後に、上記の低温耐衝撃性の評価と同様にして測定されたノッチ付きIZOD衝撃強度を、耐熱性の指標とする。この耐熱試験方法及びその後のノッチ付きIZOD衝撃強度の測定方法の詳細は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物について耐熱試験後に測定された-45℃におけるノッチ付きIZOD衝撃強度は、50kJ/m以上であることが好ましく、52kJ/m以上であることがより好ましく、57kJ/m以上であることが更に好ましく、60kJ/m以上であることが特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐熱試験後のノッチ付きIZOD衝撃強度の上限は特に制限されないが、通常150kJ/m以下である。
【0076】
〔成形体・エアバッグ収納カバー〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を通常の射出成形法又は、必要に応じて、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法を用いて成形体とすることができ、本発明のエアバッグ収納カバーを製造することができる。特に、本発明のエアバッグ収納カバーは射出成形により製造することが好ましく、射出成形を行う際の成形条件は以下の通りである。
エアバッグ収納カバーを射出成形する際の成形温度は一般に150~300℃であり、好ましくは160~280℃である。射出圧力は通常、5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。また、金型温度は通常0~80℃であり、好ましくは20~60℃である。
【0077】
このようにして得られたエアバッグ収納カバーは、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適に用いられる。
本発明のエアバッグ収納カバーは、運転席用エアバッグ収納カバー、助手席用エアバッグ収納カバー、歩行者用エアバッグ収納カバー、ニー・エアバッグ収納カバー、サイド・エアバッグ収納カバー、カーテン・エアバッグ収納カバー等のいずれにも好適に用いることができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0079】
<原料>
[成分(A)]
(A-1):プロピレン系ブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
MFR(ISO 1133):65g/10分
(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン系重合体成分の含有率:92質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:8質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:43質量%
(A-2):LyondellBasell社製HifaxX(登録商標)1956A(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
MFR(ISO 1133):1.1g/10分
(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン系重合体成分の含有率:70質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:30質量%、
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:65質量%
【0080】
[成分(B)]
(B-1):ダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)XLT8677(エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・1-オクテン共重合体ブロックとを有するエチレン系ブロック共重合体)
結晶融解ピーク温度:119℃
結晶融解熱量:37J/g
ガラス転移温度(DSC法):-67℃
MFR(ASTM D1238):0.5g/10分
(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)
密度(ISO 1183-A法):0.872g/cm(測定温度:23℃)
【0081】
[成分(C)]
(C-1):旭化成社製タフテック(商標登録)P1083(スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体)
スチレン単位含有率:20質量%(カタログ値)
ブタジエン・ブチレン含有率:80質量%(カタログ値)
ブタジエン・ブチレン重合体における1,4-結合量:63%
1,4-結合の重合体部の水素添加率:65%
1,2-結合の重合体部の水素添加率:97%
重量平均分子量(Mw):95,000
密度(ISO 1183):0.89g/cm(カタログ値)
【0082】
[比較成分]
(C’-1):LCY社製Globalprene(商標登録)3411(スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体)
スチレン単位含有率:30質量%(カタログ値)
共役ジエン単位含有率:70質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):240,000
密度(ASTM D792):0.94g/cm(カタログ値)
【0083】
<評価方法>
1) 低温耐衝撃性(ノッチ付きIZOD衝撃強度)
得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、IZOD衝撃強度測定用の試験片として、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmに成形し、試験片を得た。その後、ダンベルにノッチを入れ(ノッチの寸法と評価方法はISO 180(2013年)に準拠)、温度-45℃でIZOD衝撃強度を測定した。IZOD衝撃値が大きいものほど、低温耐衝撃性に優れるものと評価される。
【0084】
2) 耐熱性(耐熱試験)
上記1)で得られたノッチ付き試験片をオーブン(エスペック社製「パーフェクトオーブン」)に入れ、110℃で1000時間静置した。その後、試験片を取り出し、常温環境下に静置したものを耐熱試験用試験片として用い、上記1)と同様にして温度-45℃でIZOD衝撃強度を測定した。耐熱試験後のIZOD衝撃値が大きいものほど、耐熱性に優れるものと評価される。
【0085】
<実施例/比較例>
[実施例1]
(A-1)75質量部、(A-2)25質量部、(B-1)61質量部、(C-1)8質量部、(A-1)、(B-1)、(C-1)の合計100質量部に対して酸化防止剤0.2質量部(内訳(BASFジャパン社製商品名イルガノックス(登録商標)1010)0.1質量部と(BASFジャパン社製商品名イルガフォス(登録商標)168)0.1質量部)、耐候助剤(BASFジャパン社製商品名チヌビン(登録商標)XT855FF)0.2質量部及び着色剤(黒色顔料、カーボン濃度40質量%品)1.5質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドし、同方向2軸押出機(神戸製鋼製「TEX30α」、L/D=45、シリンダブロック数:13)へ20kg/hrの速度で投入し、180~210℃の範囲で昇温させ、溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、前記1)~2)の評価を行った。それらの評価結果を表-1に示す。
【0086】
[実施例2~4及び比較例1~4]
表-1に示す配合にした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た(ただし、酸化防止剤、耐候助剤及び着色剤の配合量の記載については表-1においては省略した。)。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表-1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
[評価結果の考察]
表-1に示すとおり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に該当する実施例1~4の熱可塑性エラストマー組成物は、-45℃のIZOD衝撃強度の値が50kJ/m以上であり、低温耐衝撃性に優れることがわかる。また、耐熱試験後に於いても-45℃のIZOD衝撃強度の値が50kJ/m以上である。これらのことから、実施例1~4の熱可塑性エラストマー組成物は低温耐衝撃性と耐熱性に優れることがわかる。
【0089】
比較例1は成分(C)を使用しない例であり、耐熱性が劣る。
比較例2は成分(C)の代りに、水素添加していない成分(C’-1)を25質量部配合した例であり、耐熱性が劣る。
比較例3、4は成分(C-1)の配合量が58質量部を超える例であり、低温耐衝撃性と耐熱性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性と耐熱性に優れ、各種用途に好適に用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は例えば、エアバッグ収納カバー、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップ、ハンドル等の自動車内装部品、マッドガード・クロメット等の自動車外装部品、家電部品、建材、家具等として有用である。これらの中でも本発明の熱可塑性エアストマー組成物はエアバッグ収納カバーとして特に有用であり、このエアバッグ収納カバーの中でも、例えば、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開によって乗員を保護するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適である。