(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電池検査方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241016BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/48 Z
H01M10/42 P
(21)【出願番号】P 2021009761
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】仲西 梓
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053139(JP,A)
【文献】特開2014-143138(JP,A)
【文献】特開2015-153656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0236384(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0149989(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間t0→t1の間の水分透過量に基づいて電池の劣化状態を検査する方法であって、
時間t0→t1の間に前記電池にかかる温度T1及び相対湿度H1を取得する工程と、
取得した前記温度T1及び前記相対湿度H1に基づいて劣化係数aを取得する工程と、
取得した前記劣化係数aを用いて前記時間t1及び前記温度T1における水分透過係数P(t1,T1)を算出する工程と、
算出した前記水分透過係数P(t1,T1)、前記時間t0→t1の間の時間、前記相対湿度H1、及び前記電池の透過抵抗に基づいて、前記時間t0→t1の間の水分透過量を算出する工程と、
算出した水分透過量から前記電池の劣化状態を判断する工程と、を有する、
電池検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は電池検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン電池が実用化されている。リチウムイオン電池は高電圧及び高エネルギー容量を有しているため幅広い分野で使用されているが、電池の構成によっては大気中の水分によって悪影響が生じる場合がある。例えば、固体電池に用いられる硫化物固体電解質は水分によってイオン電導性が低下する。従って、リチウムイオン電池を運用するに際し、電池の劣化状態を判断することは重要な課題である。
【0003】
特許文献1は、硫化物系固体電池の劣化状態を推定あるいは予測する方法であって、硫化物系固体電池の温度と相対湿度とに基づいて、硫化物系固体電池内への透過水分量を算出し、算出した透過水分量に基づいて電池の劣化状態を推定あるいは予測する方法を開示している。また、特許文献1には、具体的な態様として、水分透過量の算出に電池の水分透過速度(水分透過係数)を用いる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1は水分透過量の算出に電池の水分透過係数を用いている。しかし、この水分透過係数は初期状態の電池の水分透過係数である。水分透過係数は電池の劣化に伴って増加するものであるため、特許文献1の技術では電池の劣化後の状態が考慮されておらず、水分透過量の推定制度に改善の余地があった。
【0006】
そこで、本願の目的は、上記実情を鑑み、従来よりも精度良く水分透過量を算出し、電池の劣化状態を判定することができる電池検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、時間t0→t1の間の水分透過量に基づいて電池の劣化状態を検査する方法であって、時間t0→t1の間に電池にかかる温度T1及び相対湿度H1を取得する工程と、取得した温度T1及び相対湿度H1に基づいて劣化係数aを取得する工程と、取得した劣化係数aを用いて時間t1及び温度T1における水分透過係数P(t1,T1)を算出する工程と、算出した水分透過係数P(t1,T1)、時間t0→t1の間の時間、相対湿度H1、及び電池の透過抵抗に基づいて、時間t0→t1の間の水分透過量を算出する工程と、算出した水分透過量から電池の劣化状態を判断する工程と、を有する、電池検査方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電池検査方法は、劣化係数aを用いてP(t1,T1)を算出している。すなわち、電池の劣化後の状態を考慮して水分透過係数を算出している。従って、従来の方法よりも精度良く水分透過量を算出し、電池の劣化状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】温度依存性マップを説明するための図である。
【
図4】電池の水分濃度と抵抗との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の電池検査方法について、一実施形態である電池検査方法10を用いて説明する。
【0011】
電池検査方法10は、時間t0→t1の間の水分透過量に基づいて、電池の劣化状態を検査する方法である。
【0012】
「時間t0→t1」とは検査期間を意味する。電池検査方法10は当該検査期間における電池を検査し、電池の劣化状態を判断する。時間t0は検査期間の始期であり、時間t1は検査期間の終期である。通常、時間t0は初期状態の電池を運転させたときの時間であり、時間t1は工程S1を開始した時間である。すなわち、時間t0→t1は、初期状態の電池を運転させたときから工程S1を開始したときまでの経過時間である。
【0013】
電池検査方法10に用いる電池は、電極要素を外装体で封止した電池を用いる。電極要素とは、正極、負極、電解質層、正極集電体、及び負極集電体等の公知の電極要素である。外装体は、例えば、公知のラミネートシール材である。このような電池は外装体の内部に電池要素を収容した後、外装体の端部を溶着することによって作製することができる。
【0014】
電池の内部に封止される電極要素の種類は特に限定されず、液系電池の電極要素であっても、固体電池の電極要素であっても良い。すなわち、電池検査方法10に用いる電池は、液系電池であっても、固体電池であってもよい。ただし、検査の必要性の観点から、透過する水分によって、劣化が生じる電池要素を含む電池であることが好ましい。例えば、電池が固体電池であれば、硫化物固体電解質を含む固体電池が挙げられる。硫化物固体電解質は水分によってイオン電導性が低下するためである。電池の構成は公知の構成を採用することができる。
【0015】
通常、外装体(シール部)はその材料物性値として、所定の水分透過係数を有している。また、外装体は電池の置かれている環境の負荷(温度、相対湿度)によって劣化し、それに伴って水分透過係数が増加することが知られている。そのため、電池に透過した水分量を精度よく推定するためには、電池の劣化(外装体の劣化)を考慮して、水分透過係数を補正する必要がある。
【0016】
電池検査方法10では、後述するように、電池の劣化後の状態を考慮して水分透過係数を算出している。従って、従来の方法よりも精度良く水分透過量を算出し、電池の劣化状態を判定することができる。以下、電池検査方法10の各工程について説明する。
【0017】
図1に電池検査方法10のフローチャートを示した。
図1に示した通り、電池検査方法10は工程S1~S5を有している。また、電池検査方法10は、工程S5の後に工程S6を有していてもよい。
【0018】
<工程S1>
工程S1は、時間t0→t1の間に電池にかかる温度T1及び相対湿度H1を取得する工程である。ここで、本明細書において、「温度」とは、電池が配置された環境の温度である。「相対湿度」とは、電池が配置された環境の相対湿度である。温度及び相対湿度は公知の測定機器によって測定することができる。測定頻度は任意の頻度を設定することができる。例えば1時間毎、或いは1日毎である。時間t0→t1の間に電池にかかる温度T1及び相対湿度H1とは、それぞれ平均相対温度及び平均相対湿度を意味する。
【0019】
<工程S2>
工程S2は、工程S1において取得した温度T1及び相対湿度H1に基づいて劣化係数aを取得する工程である。劣化係数aとは、時間t0における電池の水分透過係数を、劣化した状態の電池の水分透過係数に補正するための係数である。このような劣化係数aは、例えば劣化係数マップから取得することができる。
【0020】
劣化係数マップは、事前に取得しておくものである。劣化係数マップは、例えば次のように得ることができる。まず、電池検査方法10に用いる電池と同一の構成の電池を用いて、所定の温度及び相対湿度の環境に電池を所定の時間保存する試験(保存試験)を行う。次に、保存試験後の電池の水分透過係数を算出する。このような操作を電池の温度及び相対湿度を変化させて複数回行う。そして、得られた試験後の電池の水分透過係数を用いて、所定の温度における初期状態の電池の水分透過係数に対する試験後の電池の水分透過率の増加率を算出し、その増加率を劣化係数とする。得られた劣化係数を電池の温度及び相対湿度に関係づける。これにより、劣化係数マップを得ることができる。このような劣化係数マップは、各温度における初期状態の電池の水分透過係数に対する劣化係数マップを取得しておく必要がある。水分透過係数は温度依存性を有するためである。
【0021】
図2に、劣化係数マップの具体例を示した。
図2の左図は、相対湿度50%RHのときの、25℃における初期状態の電池の水分透過係数に対する試験後の電池の水分透過率の増加率(劣化係数)を説明する図である。
図2の右図は、横軸に保存温度、縦軸に保存相対湿度を取ったグラフにおいて、得られた劣化係数をマッピング(不図示)した劣化係数マップを概略的に示したものである。ここで、
図2右図のような劣化係数マップは、
図2左図と同様の図であって、相対湿度を変化させて得られる図を複数得ることにより、作成することができる。この劣化係数マップは25℃における初期状態の電池の水分透過係数の劣化係数マップ(25℃の劣化係数マップ)である。上述したように、水分透過係数は温度依存性を有するため、各温度での劣化係数マップを得ておく必要がある。
【0022】
次に、劣化係数マップから劣化係数aを取得する方法を説明する。まず、工程S1で取得した温度T1が25℃、相対湿度H1が50%RHである場合、25℃の劣化係数マップを選択する(
図2)。そして、
図2から、保存温度25℃、保存相対湿度50%RHに対応する劣化係数aを取得する。このように、温度T1に基づいて劣化係数マップを選択し、温度T1及び相対湿度H1に対応する劣化係数aを取得する。
【0023】
<工程S3>
工程S3は、工程S2において取得した劣化係数aを用いて時間t1及び温度T1における水分透過係数P(t1,T1)を算出する工程である。水分透過係数P(t1,T1)を算出する具体的な方法は、例えば次の2つの方法がある。
【0024】
1つ目は、劣化係数aと時間t0、温度T1のおける水分透過係数P(t0,T1)との積から水分透過係数P(t1,T1)を算出する方法である(P(t1,T1)=a×P(t0,T1))。時間t0、温度T1のおける水分透過係数P(t0,T1)は、予め得ておくものである。具体的には、温度T1、相対湿度H1の恒温恒湿槽の中に電池を任意の期間放置した後(劣化の影響が出ない程度の期間)、電池中の水分量(水分透過量)を測定し、後述の式(1)から求めることができる。
【0025】
2つ目は、温度依存性マップを用いて水分透過係数P(t1,T1)を算出する方法である。詳しくは、まずは水分透過係数の温度依存性を取得し、基準温度Tにおける劣化後の水分透過係数を取得し、次に温度依存性マップからT1における水分透過係数を算出する方法である。
【0026】
水分透過係数の温度依存性とは、例えば、
図3左図のような関係である。
図3左図の縦軸は透過係数であり、横軸は温度を示している。また、実線は劣化前の温度と水分透過係数との関係であり、破線は劣化後の温度と水分透過係数との関係を示している。劣化後の温度と水分透過係数(破線)は、劣化前の温度と水分透過係数に劣化係数aを掛けたものである。基準温度Tとは、温度依存性マップの基準となる温度である。
図3では25℃としている。温度依存性マップとは、
図3右図のようなものである。
図3右図の横軸は温度であり、縦軸は基準温度Tを25℃とした場合の、各温度での劣化後の水分透過係数を示している。左図と右図との違いは次のとおりである。左図はある劣化をさせたときにおける初期と劣化後での水分透過係数の変化の一例を示したものであり、右図は、系統的に劣化をさせて基準温度25℃での透過係数が変化したときのそれぞれの温度での透過係数をマップ的に示すものである。
【0027】
具体的には、次のように水分透過係数P(t1,T1)を算出する。まず、劣化係数aと時間t0、基準温度Tのおける水分透過係数P(t0,T)との積から、基準温度Tにおける劣化後の水分透過係数P(t1,T)を算出する(P(t1,T)=a×P(t0,T))。基準温度Tのおける水分透過係数P(t0,T)は上述のP(t0,T1)を得る方法と同様の方法から得られる。次に、温度依存性マップから、温度T1における水分透過係数P(t1,T1)を取得する。
【0028】
ここで、2つ目の方法を用いる場合、工程S2において、基準温度の劣化係数マップだけを取得すればよいという利点がある。具体的には、工程S2において、基準温度の劣化係数マップを用いて、温度T1における劣化係数aを取得すればよい。このように、2つ目の方法を用いる場合、各温度での劣化係数マップを予め作成する必要はない。
【0029】
<工程S4>
工程S4は、工程S3において算出した水分透過係数P(t1,T1)、時間t0→t1の間の時間(経過期間)、相対湿度H1、及び電池の透過抵抗に基づいて、時間t0→t1の間の水分透過量を算出する工程である。透過抵抗とは、電池固有の物理量であり、シール長(透過長さ)L/シール断面積(透過断面積)Sから求められる。シール長は外装体を溶着した部分(シール部)の幅(電池の外部から内部までのシール部の長さ)であり、シール断面積はシール部の厚み×シールされた外周の長さである。
【0030】
具体的には、次の式(1)により水分透過量を算出する。
水分透過量=水分透過係数×経過期間×相対湿度/透過抵抗・・・(1)
【0031】
<工程S5>
工程S5は、工程S4において算出した水分透過量から電池の劣化状態を判断する工程である。具体的には、まず水分透過量から電池内の水分濃度を算出し、次に当該水分濃度から時間t0→t1の間の抵抗増加量を算出する。そして、算出された抵抗増加量が所定の閾値を超えているか否かを判断する。
【0032】
水分透過量から電池内の水分濃度を算出する方法は公知の方法により行うことができる。例えば、時間t0における電池内の水分量と工程S4において算出された水分透過量とを合算し、電池体積で割ることにより、時間t1における水分濃度を算出することができる。また、時間t0→t1の間の抵抗増加量は、事前に電池内の水分濃度と抵抗との関係を得ておき、時間t0における水分濃度から得られる抵抗値と、時間t1における水分濃度から得られる抵抗値との差から、抵抗増加量を算出することができる。
図4に電池内の水分濃度と抵抗との関係の一例を示した。
図4は上述の保存試験により得ることができる。所定の閾値は、電池の劣化状態を判断するための指標であり、目的とする電池性能に基づいて設定することができる。
【0033】
工程S5において、抵抗増加量が所定の閾値を超えている(抵抗増加量>閾値)と判断された場合、十分に劣化が進行していると判断し、工程S6を行う。工程S5において、抵抗増加量が所定の閾値を超えていない(抵抗増加量≦閾値)と判断された場合、十分に劣化が進行していないと判断し、再度工程S1を行う。
【0034】
<工程S6>
工程S6は任意の工程であり、工程S5において、抵抗増加量が所定の閾値を超えている(抵抗増加量>閾値)と判断された場合に、電池制御を変更する工程である。電池制御の変更は特に限定されず、電池を搭載する機器等に応じて適宜設定することができる。例えば、次のようなものがある。第1に、電池の交換ダイアグラムを立てる。これにより、電池交換を促すことができる。第2に、電池が車両に搭載されている場合、工程S5において算出した抵抗増加量を容量劣化量に置き換えて、航続距離を補正する。第3に、工程S5において算出した抵抗増加量に基づいて、Liが析出しない最大電流値の補正を行う。
【0035】
以上、本開示の電池検査方法について、一実施形態である電池検査方法10を用いて説明した。本開示の電池検査方法は、劣化係数aを用いてP(t1,T1)を算出している。すなわち、電池の劣化後の状態を考慮して水分透過係数を算出している。従って、従来の方法よりも精度良く水分透過量を算出し、電池の劣化状態を判定することができる。