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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241016BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20241016BHJP
   B41J 11/42 20060101ALI20241016BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 213
B41J2/01 401
B41J2/165 201
B41J2/165 207
B41J11/42
B65H5/06 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021013267
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116868
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】浅田 建也
(72)【発明者】
【氏名】中川 和也
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-062049(JP,A)
【文献】特開2004-175082(JP,A)
【文献】特開2010-253841(JP,A)
【文献】特開2013-151107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0036811(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01- 2/215
11/00-11/70
B65H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、前記主走査方向に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッドと、
第1搬送部材および第2搬送部材を用いて印刷媒体を前記主走査方向に交差する搬送方向へ搬送可能な搬送部と、
前記印刷ヘッドと前記搬送部とを制御することにより、前記印刷媒体において前記主走査方向に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う制御部と、を備え、
前記第1搬送部材は、前記搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流に配設されたローラー対であり、
前記第2搬送部材は、前記搬送方向において前記印刷ヘッドよりも下流に配設されており、
前記制御部は、
前記印刷媒体の前記搬送方向の上流の端部である後端が前記第1搬送部材を通過し、かつ前記印刷媒体が前記第2搬送部材により搬送されている状態で前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる領域を含む前記印刷媒体の領域を第1領域、前記印刷媒体における前記第1領域の下流の領域を第2領域、前記印刷媒体における前記第2領域の下流の領域を第3領域、として、
前記第1領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第1期間では、前記第3領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間に前記搬送部が実行する前記印刷媒体の搬送の速度を遅くし、
前記第1期間では、前記第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間の前記印刷ヘッドの待機時間を長くし、
前記第2領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第2期間では、前記印刷ヘッドへ前記第1領域が近づくにつれて前記待機時間を、前記第3期間における前記待機時間から前記第1期間における前記待機時間へ近づくように変化させる、ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1期間および前記第2期間における単位時間あたりの前記印刷ヘッドのメンテナンス回数を、前記第3期間における単位時間あたりの前記印刷ヘッドのメンテナンス回数よりも多くする、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記搬送方向における前記第2領域の長さは、前記搬送方向における前記第1領域の長さと前記搬送方向における前記第3領域の長さとのうち短い方の長さに近い長さである、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、さらに前記印刷媒体における前記第1領域の上流の領域を第4領域とし、前記印刷媒体における前記第4領域より上流の領域を前記第3領域とし、前記第4領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第4期間では、前記印刷ヘッドへ前記第1領域より上流の前記第3領域が近づくにつれて前記待機時間を、前記第1期間における前記待機時間から前記第3期間における前記待機時間へ近づくように変化させる、ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
印刷方法であって、
主走査方向に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、前記主走査方向に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッドと、前記主走査方向に交差する搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流に配設された第1搬送部材および前記印刷ヘッドよりも下流に配設された第2搬送部材を用いて印刷媒体を前記搬送方向へ搬送可能な搬送部と、を制御して前記印刷媒体において前記主走査方向に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う印刷制御工程を有し、
前記第1搬送部材はローラー対であり、
前記印刷制御工程では、
前記印刷媒体の前記搬送方向の上流の端部である後端が前記第1搬送部材を通過し、かつ前記印刷媒体が前記第2搬送部材により搬送されている状態で前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる領域を含む前記印刷媒体の領域を第1領域、前記印刷媒体における前記第1領域の下流の領域を第2領域、前記印刷媒体における前記第2領域の下流の領域を第3領域、として、
前記第1領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第1期間では、前記第3領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間に前記搬送部が実行する前記印刷媒体の搬送の速度を遅くし、
前記第1期間では、前記第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間の前記印刷ヘッドの待機時間を長くし、
前記第2領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第2期間では、前記印刷ヘッドへ前記第1領域が近づくにつれて前記待機時間を、前記第3期間における前記待機時間から前記第1期間における前記待機時間へ近づくように変化させる、ことを特徴とする印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアルプリンターでは、紙送りローラー対と排紙ローラー対により搬送される用紙に対し、両ローラー対の間に備えられた印刷ヘッドからインクが吐出される方法で印刷が施される。印刷ヘッドを搭載するキャリッジの主走査方向への移動時の印刷ヘッドによるインク吐出と、各ローラーが駆動されることによる紙送りとが交互に行われ、用紙への印刷が進められる(特許文献1参照)。
【0003】
この種のシリアルプリンターでは、用紙の後端が紙送りローラー対から離れる際、この後端が回転する紙送りローラー対に蹴飛ばされる(弾き出される)蹴飛ばし現象が起こっていた。この蹴飛ばし現象によって、実際の紙送り量が、設計上想定されている紙送り量よりも多くなり、搬送方向における用紙の位置精度が低下する。この蹴飛ばし現象の発生を抑制するために、用紙の後端が紙送りローラー対を通る範囲に低速領域を設定し、この低速領域を用紙の後端が通過するときは紙送り速度を通常速度より遅い速度に変更する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004‐175082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蹴飛ばし現象の抑制のために、印刷媒体の紙送り速度を一定期間中は遅くすると、印刷媒体においては領域毎に印刷完了までの過程におけるインクの乾燥時間が異なることになる。このような乾燥時間の相違は、印刷結果における領域毎の濃度の相違、つまり濃度ムラとして視認されてしまう。このような濃度ムラを、できるだけ目立たせないための工夫が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
印刷装置は、主走査方向に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、前記主走査方向に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッドと、第1搬送部材および第2搬送部材を用いて印刷媒体を前記主走査方向に交差する搬送方向へ搬送可能な搬送部と、前記印刷ヘッドと前記搬送部とを制御することにより、前記印刷媒体において前記主走査方向に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う制御部と、を備え、前記第1搬送部材は、前記搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流に配設されたローラー対であり、前記第2搬送部材は、前記搬送方向において前記印刷ヘッドよりも下流に配設されており、前記制御部は、前記印刷媒体の前記搬送方向の上流の端部である後端が前記第1搬送部材を通過し、かつ前記印刷媒体が前記第2搬送部材により搬送されている状態で前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる領域を含む前記印刷媒体の領域を第1領域、前記印刷媒体における前記第1領域の下流の領域を第2領域、前記印刷媒体における前記第2領域の下流の領域を第3領域、として、前記第1領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第1期間では、前記第3領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間に前記搬送部が実行する前記印刷媒体の搬送の速度を遅くし、前記第1期間では、前記第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間の前記印刷ヘッドの待機時間を長くし、前記第2領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第2期間では、前記印刷ヘッドへ前記第1領域が近づくにつれて前記待機時間を、前記第3期間における前記待機時間から前記第1期間における前記待機時間へ近づくように変化させる。
【0007】
印刷方法は、主走査方向に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、前記主走査方向に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッドと、前記主走査方向に交差する搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流に配設された第1搬送部材および前記印刷ヘッドよりも下流に配設された第2搬送部材を用いて印刷媒体を前記搬送方向へ搬送可能な搬送部と、を制御して前記印刷媒体において前記主走査方向に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う印刷制御工程を有し、前記第1搬送部材はローラー対であり、前記印刷制御工程では、前記印刷媒体の前記搬送方向の上流の端部である後端が前記第1搬送部材を通過し、かつ前記印刷媒体が前記第2搬送部材により搬送されている状態で前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる領域を含む前記印刷媒体の領域を第1領域、前記印刷媒体における前記第1領域の下流の領域を第2領域、前記印刷媒体における前記第2領域の下流の領域を第3領域、として、前記第1領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第1期間では、前記第3領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間に前記搬送部が実行する前記印刷媒体の搬送の速度を遅くし、前記第1期間では、前記第3期間よりも、前記パスと当該パスの次のパスとの間の前記印刷ヘッドの待機時間を長くし、前記第2領域が前記印刷ヘッドによる印刷の対象となる第2期間では、前記印刷ヘッドへ前記第1領域が近づくにつれて前記待機時間を、前記第3期間における前記待機時間から前記第1期間における前記待機時間へ近づくように変化させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】装置構成を簡易的に示すブロック図。
図2】印刷媒体と印刷ヘッド等との関係性を上方からの視点により示す図。
図3】印刷媒体と印刷ヘッド等との関係性を主走査方向を向く視点により示す図。
図4】印刷制御処理を示すフローチャート。
図5】搬送方向における相対位置が変化する印刷媒体と印刷ヘッドとを示す図。
図6図6Aは紙送り回数と待機時間との対応関係の一例をグラフにより示す図、図6Bは紙送り回数と待機時間との対応関係の他の例をグラフにより示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0010】
1.装置構成:
図1は、本実施形態にかかる印刷装置10の構成を簡易的に示している。
印刷装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、通信IF15、印刷部16等を備える。印刷部16は、搬送部17、キャリッジ18、印刷ヘッド19、メンテナンス部27等を備える。IFは、インターフェイスの略である。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、RAM11c等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0011】
制御部11では、プロセッサーつまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存された一つ以上のプログラム12に従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより、印刷装置10を制御する。なお、プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0012】
表示部13は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路とを含む構成であってもよい。操作受付部14は、ユーザーによる操作を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部13の一機能として実現されるとしてもよい。
【0013】
表示部13や操作受付部14は、印刷装置10の構成の一部であってもよいが、印刷装置10に対して外付けされた周辺機器であってもよい。通信IF15は、印刷装置10が公知の通信規格を含む所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部と接続するための一つまたは複数のIFの総称である。
【0014】
印刷部16は、インクジェット方式により印刷を行う機構である。
搬送部17は、所定の搬送方向へ用紙等の印刷媒体を搬送するための手段であり、ローラーや、ローラー等を回転させるモーターを含む。印刷媒体は、液体による印刷が可能な媒体であれば、紙以外の素材による媒体であってもよい。搬送方向の上流、下流を、単に、上流、下流とも言う。印刷ヘッド19は、複数のノズル20を有する。印刷ヘッド19は、制御部11によって生成された、画像を印刷するための印刷データに基づいて、ノズル20からインク等の液体のドットを吐出したり吐出しなかったりすることにより、印刷媒体へ画像を印刷する。印刷ヘッド19は、例えば、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インク、ブラック(K)インク等の各色インクを吐出可能である。むろん、印刷ヘッド19は、CMYK以外の色のインクや液体も吐出するとしてもよい。
【0015】
キャリッジ18は、不図示のキャリッジモーターによる動力を受けて所定の主走査方向に沿って往復移動可能な機構である。主走査方向は、搬送方向に対して交差している。ここで言う交差は、直交あるいはほぼ直交と解してよい。キャリッジ18は印刷ヘッド19を搭載している。つまり、印刷ヘッド19は、キャリッジ18とともに、主走査方向に沿って往復移動する。
【0016】
図2は、印刷媒体30と印刷ヘッド19等との関係性を上方からの視点により簡易的に示している。キャリッジ18に搭載された印刷ヘッド19は、キャリッジ18とともに主走査方向D1の一端から他端へ向かう移動(往路移動)や、他端から一端へ向かう移動(復路移動)をする。
【0017】
図2では、ノズル面21におけるノズル20の配列の一例を示している。ノズル面21は、印刷ヘッド19の下面である。ノズル面21内の一つ一つの小さな丸がノズル20である。印刷ヘッド19は、インクカートリッジやインクタンク等と呼ばれる不図示の液体保持手段から各色のインクの供給を受けてノズル20から吐出する構成において、インク色別のノズル列26を備える。図2は、CMYKインクを吐出する印刷ヘッド19の例を示している。Cインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Cである。同様に、Mインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26M、Yインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Y、Kインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Kである。ノズル列26C,26M,26Y,26Kは、主走査方向D1に沿って並んでいる。
【0018】
夫々のノズル列26は、搬送方向D2におけるノズル20同士の間隔であるノズルピッチが一定或いはほぼ一定とされた複数のノズル20により構成される。ノズル列26を構成する複数のノズル20が並ぶ方向が、ノズル列方向D3である。図2の例では、ノズル列方向D3は、搬送方向D2と平行である。ノズル列方向D3が搬送方向D2と平行な構成においては、ノズル列方向D3と主走査方向D1とは直交する。ただし、ノズル列方向D3は、搬送方向D2と平行でなく、主走査方向D1に対して斜めに交差する構成であってもよい。
【0019】
主走査方向D1に沿ったキャリッジ18の往路移動に伴い印刷ヘッド19がインク等の液体を吐出する動作や、主走査方向D1に沿ったキャリッジ18の復路移動に伴い印刷ヘッド19がインク等の液体を吐出する動作を、主走査、あるいはパスと呼ぶ。往路移動のパスを往路パス、復路移動のパスを復路パスと呼んでもよい。印刷部16は、パスと、搬送部17による印刷媒体30の搬送方向D2への一定量の搬送(以下、紙送り)とを組み合わせることにより、印刷媒体30への印刷を行う。より具体的には、印刷部16は、1回のパスを終えて次回のパスを開始するまでの間に紙送りを1回実行し、パスについては、往路パスと復路パスを交互に実行する。パスを終えて次回のパスを開始するまでの間は、キャリッジ18および印刷ヘッド19にとっては待機時間となる。キャリッジ18および印刷ヘッド19の待機時間を、単に、待機時間とも言う。
【0020】
図1に示す印刷装置10の構成は、一台のプリンターによって実現されてもよいし、互いに通信可能に接続した複数の装置により実現されてもよい。
つまり、印刷装置10は、実態として印刷システム10であってもよい。印刷システム10は、例えば、制御部11として機能する印刷制御装置と、印刷制御装置により制御される印刷部16に該当するプリンターと、を含む。このような印刷装置10または印刷システム10により、本実施形態の印刷方法が実現される。
【0021】
図3は、印刷媒体30と印刷ヘッド19等との関係性を、主走査方向D1を向く視点により簡易的に示している。キャリッジ18に搭載された印刷ヘッド19のノズル面21は、プラテン22と相対している。プラテン22は、搬送される印刷媒体30を印刷ヘッド19よりも下方の位置で支持する。プラテン22は、印刷媒体30の搬送路の一部である。
【0022】
印刷ヘッド19よりも上流には、第1搬送部材としての搬送ローラー対23が配設されている。搬送ローラー対23は、ローラー23a,23bによる対であり、ローラー23a,23bによって印刷媒体30を挟持して回転することにより、印刷媒体30を搬送する。ローラー対23を構成するローラー23a,23bのいずれか一方は不図示のモーターにより駆動され、他方は従動ローラーとして回転する。また、印刷ヘッド19よりも下流には、第2搬送部材としての排出ローラー対24が配設されている。排出ローラー対24は、ローラー24a,24bによる対であり、ローラー24a,24bによって印刷媒体30を挟持して回転することにより、印刷媒体30を搬送する。ローラー対24を構成するローラー24a,24bのいずれか一方は搬送ローラー対23と同じ不図示のモーターにより駆動され、他方は従動ローラーとして回転する。
【0023】
搬送ローラー対23および排出ローラー対24は、それぞれが搬送部17の一部である。図3の例では、搬送部17は、搬送ローラー対23および排出ローラー対24の両方あるいはいずれか一方を用いて印刷媒体30を搬送方向D2へ搬送する。なお、第2搬送部材は、印刷媒体30を、印刷ヘッド19よりも下流へ搬送可能な手段であればよく、ローラー対に限定しなくてもよい。また、搬送部17は、搬送ローラー対23よりも上流の位置や、排出ローラー対24よりも下流の位置にも、印刷媒体30を搬送するための図示しないローラー等を有する構成であってもよい。
【0024】
印刷ヘッド19よりも上流には、印刷媒体センサー25が配設されている。図3の例では、印刷媒体センサー25は、搬送ローラー対23のやや上流の位置に在る。印刷媒体センサー25は、搬送される印刷媒体30の前端や後端を検出することが可能である。本実施形態では、印刷媒体30やその他の物、構造等に関して、下流の端部を前端と呼び、上流の端部を後端と呼ぶ。図3では、印刷媒体30の前端は図示していなが、印刷媒体30の後端は符号31により示している。
【0025】
図3では、搬送ローラー対23のやや上流の所定位置から搬送ローラー対23のやや下流の所定位置までの範囲を、搬送方向D2における低速範囲Lに設定している。制御部11は、搬送部17による印刷媒体30の紙送りの通常の速度を、速度VU、印刷媒体30の後端31が低速範囲Lを通過する期間における紙送りの速度を、速度VLとし、速度VU>速度VLとする。つまり、後端31が搬送ローラー対23を通過するときに上述の蹴飛ばし現象が生じないように、制御部11は、後端31が低速範囲Lを通過する期間は、搬送部17による紙送りの速度を、速度VUから速度VLへ落とす。
【0026】
2.印刷制御処理:
図4は、制御部11がプログラム12に従って実行する印刷制御処理をフローチャートにより示している。この印刷制御処理は、本実施形態の「印刷制御工程」を含んでいる。ここでは説明を簡単にするために、ページ単位で予め切断された単票紙を印刷媒体30として使用し、1ページ分の印刷データに基づいて1枚の単票紙へ印刷する場面を想定する。複数ページ分の印刷を行う場合は、図4のフローチャートを繰り返し実行すればよい。本実施形態では、制御部11は、印刷ヘッド19と搬送部17とを制御することにより、印刷媒体30において主走査方向D1に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う。ラスターラインは、印刷データの状態では、主走査方向D1に沿って並ぶ複数の画素からなる画素列である。
【0027】
制御部11は、搬送部17による印刷媒体30の頭出しを終えた状態で図4のフローチャートを開始する。頭出しとは、印刷ヘッド19による1回目のパスを受けることが可能な所定位置まで印刷媒体30を搬送する処理である。制御部11は、不図示の給紙トレイにセットされた印刷媒体30の搬送を搬送部17に開始させ、例えば、印刷媒体30の前端が印刷媒体センサー25により検出されたタイミングを基準にして、そこから所定の距離だけ印刷媒体30を搬送させることにより、頭出しを終える。
【0028】
ステップS100では、制御部11は、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、印刷媒体30に対するパスを1回実行する。ステップS100で実行するパスは、第3期間のパスである。第3期間については、後述する。
ステップS110では、制御部11は、ステップS100で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、「下流調整領域」の紙送りであるか否かを判定する。
【0029】
ここで、図5を参照して、印刷媒体30における下流調整領域を含む各領域について説明する。図5は、後端31を含む印刷媒体30の一部分と、搬送方向D2における印刷媒体30との相対位置が変化する印刷ヘッド19とを示している。図2に示したように、印刷ヘッド19は、キャリッジ18に搭載されて且つノズル列26を有するが、図5では、印刷ヘッド19を単なる矩形で簡易に示している。
【0030】
図5に示す印刷ヘッド19は、全て同じ一つの印刷ヘッド19であり、搬送方向D2における印刷ヘッド19の位置は実際には不変である。つまり、図5では、印刷媒体30が搬送方向D2へ1回紙送りされる度に、搬送方向D2における印刷媒体30と印刷ヘッド19との相対位置が変化する様子を示している。図5によれば、1回の紙送りによる搬送量は“F”である。図5において、印刷ヘッド19に対して括弧書きで記した#N等の数字は、パス番号である。パス番号は、1枚の印刷媒体30に対する何回目のパスであるかを示す数字である。つまり、パス番号=#Nの印刷ヘッド19は、N回目のパスを実行するときの印刷ヘッド19である。図5では、スペースの都合上、パス番号=#N+5以降の印刷ヘッド19については、パス番号のみを記載し、符号19の記載を省略している。
【0031】
搬送量Fは、例えば、搬送方向D2におけるノズル列26の長さの1/4に相当する。また、図5では、単純に、搬送方向D2における印刷ヘッド19の長さ=搬送方向D2におけるノズル列26の長さと解する。このような例では、印刷ヘッド19は、印刷媒体30の同じ領域を、4回のパスで印刷する。例えば、印刷媒体30内のある領域45は、パス番号=N+1~N+4の計4回のパスで印刷される。領域45へは、印刷データに基づいて、複数本のラスタラーラインが搬送方向D2に並んでなる画像、つまりラスターラインの束が印刷される。一本一本のラスターラインが、複数回のパス、図5の例で言えば4回のパスで印刷される。むろん、マルチパス印刷における、ラスターラインの印刷完了に要するパス回数は、4回に限定されるものではない。
【0032】
図5では、印刷媒体30内を搬送方向D2において領域40,41,42,43,44に区切って示している。領域42を「低速印刷領域42」と呼ぶ。低速印刷領域42は、後端31が低速範囲Lを通過する期間に印刷ヘッド19によって印刷される領域である。つまり、低速印刷領域42は、後端31が第1搬送部材を通過し、かつ印刷媒体30が第2搬送部材により搬送されている状態で印刷ヘッド19による印刷の対象となる領域を含む印刷媒体30の「第1領域」の具体例である。制御部11にとって、搬送方向D2における低速範囲Lや印刷ヘッド19の位置や大きさは、既知の情報である。また、印刷媒体30への印刷を開始するに際し、印刷媒体30のサイズも制御部11にとって既知の情報である。従って、これら情報に基づいて、制御部11は、印刷媒体30の低速印刷領域42を計算で特定することができる。制御部11は、例えば、後端31が低速範囲Lの後端に位置するときにノズル列26の前端に対応する印刷媒体30内の位置から、後端31が低速範囲Lの前端に位置するときにノズル列26の後端に対応する印刷媒体30内の位置までを、低速印刷領域42とする。
【0033】
また、上述したように、搬送部17による1回の紙送りの搬送量Fが判っている状況では、制御部11は、例えば、頭出し終了時点を基準にして何回目から何回目までのパスが、低速印刷領域42が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間(以下、第1期間)に該当するかを計算で求めることができる。ここでは図5を参照し、制御部11は、例えば、パス番号=#N+5~#N+8の各パスが第1期間に該当すると判断したとする。
【0034】
制御部11は、印刷媒体30における低速印刷領域42の下流と上流のそれぞれに調整領域41,43を設定する。ここでは、印刷媒体30への印刷に用いる1ページ分の印刷データが、印刷媒体30の前端から後端に亘ってほぼ全面に何らかの画像を印刷させるデータであると仮定する。調整領域41は「第2領域」に該当し、調整領域43は「第4領域」に該当する。以下では、調整領域41を下流調整領域41と呼び、調整領域43を上流調整領域43と呼ぶ。制御部11は、下流調整領域41、上流調整領域43それぞれの搬送方向D2における長さを、低速印刷領域42の搬送方向D2における長さと、例えば同じにする。
【0035】
また、制御部11は、印刷媒体30における下流調整領域41の下流の領域を通常領域40とし、上流調整領域43の上流の領域を通常領域44とする。通常領域40,44は、それぞれが「第3領域」に該当する。以下では、通常領域40を下流通常領域40と呼び、通常領域44を上流通常領域44と呼ぶ。
【0036】
図4の説明に戻る。ステップS110では、制御部11は、ステップS100で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、下流調整領域41の紙送りであるか否かを判定する。図5を参照し、制御部11は、例えば、パス番号=#N-2~#N+4の各パスが、下流調整領域41が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間(以下、第2期間)に該当すると判断したとする。この場合、制御部11は、ステップS100で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、第2期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS110の“Yes”の判定からステップS130へ進めばよい。一方、ステップS100で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、下流通常領域40の紙送りであれば、ステップS110の“No”の判定からステップS120へ進む。上述の例のように、パス番号=#N-2~#N+4の各パスを第2期間とした場合、制御部11は、パス番号=#1~#N-3の各パスを、下流通常領域40が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間(以下、第3期間)として扱う。そこで、制御部11は、ステップS100で実行したパスの後に実行すべき紙送りが第3期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS110で“No”と判定すればよい。
【0037】
制御部11は、第4領域である上流調整領域43が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間(以下、第4期間)に該当する各パスおよび、上流の第3領域である上流通常領域44が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間に該当する各パスのそれぞれについても、同様に特定しておく。上流通常領域44が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間も、通常領域の印刷期間であるため第3期間の一種と言える。ただし、下流通常領域40が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間(第3期間)と区別するために、上流通常領域44が印刷ヘッド19による印刷の対象となる期間を、便宜上、第5期間と呼ぶ。つまり時系列では、第3期間、第2期間、第1期間、第4期間、第5期間という順番で進む。なお、制御部11は、例えば第3期間の最後のパスと第2期間の最初のパスとの関係のように、連続する一方の期間(領域)の最後のパスと他方の期間(領域)の最初のパスとの間の、紙送りについては、一方の期間(領域)の紙送りと扱っても、他方の期間(領域)の紙送りと扱ってもどちらでもよい。
【0038】
ステップS120では、制御部11は、搬送部17を制御して、速度VUによる紙送りを1回実行させる。また、制御部11は、紙送りに伴い、キャリッジ18および印刷ヘッド19を、次のパス実行まで待機させる。ステップS120における待機時間を「通常待機時間」と呼ぶ。通常待機時間は、第3期間における待機時間に該当する。通常待機時間の詳細については特に言及しないが、単純に、速度VUによる1回の紙送りに要する時間を、通常待機時間と捉えてもよい。制御部11は、ステップS120を経て、ステップS100を行う。
【0039】
ステップS130では、下流調整領域用の待機時間を設定する。下流調整領域用の待機時間は、第2期間における待機時間に該当する。制御部11は、第2期間では、印刷ヘッド19へ第1領域(低速印刷領域42)が近づくにつれて待機時間を、第3期間における待機時間(通常待機時間)から第1期間における待機時間(低速待機時間)へ近づくように変化させる。
【0040】
図6Aは、紙送り回数と待機時間との対応関係をグラフにより示している。紙送り回数とは、印刷媒体30への最初のパスの直後の紙送りを1回目としてカウントする、何回目の紙送りであるかを意味する数である。例えば、パス番号=#N+1のパスとパス番号=#N+2のパスとの間に実行する紙送りは、紙送り回数=N+1の紙送りである。TUは通常待機時間であり、TLは低速待機時間である。図6Aから明らかなように、通常待機時間TU<低速待機時間TLである。
【0041】
範囲Raは、第3期間における紙送り回数の範囲である。第3期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間は、毎回、通常待機時間TUである。範囲Rcは、第1期間における紙送り回数の範囲である。第1期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間は、毎回、低速待機時間TLである。低速待機時間の詳細については特に言及しないが、単純に、速度VLによる1回の紙送りに要する時間を、低速待機時間としてもよい。
【0042】
範囲Rbは、第2期間に実行する紙送り回数の範囲である。図6Aに示すように、制御部11は、第2期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間を、紙送り回数を重ねるにつれて、通常待機時間TUから低速待機時間TLに近づくように、長くする。
【0043】
図6Bは、紙送り回数と待機時間との対応関係を図6Aとは異なるグラフにより示している。図6Bは、範囲Rbおよび範囲Rdにおける待機時間の変化態様のみが、図6Aと異なる。第2期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間は、前回の紙送りに伴う待機時間より必ず長くなければいけない訳ではない。図6Bの範囲Rbに示すように、階段状に変化してもよい。つまり、第2期間において、ある回の紙送りに伴う待機時間は、前回の紙送りに伴う待機時間と同じであってもよい。いずれにしても、このような図6Aまたは図6Bに従うと、ステップS130では、制御部11は、前回の紙送りに伴う待機時間以上の待機時間を 下流調整領域用の待機時間として設定する。
【0044】
ステップS140では、制御部11は、搬送部17を制御して、速度VUによる紙送りを1回実行させる。また、制御部11は、紙送りに伴い、キャリッジ18および印刷ヘッド19を、次のパス実行まで待機させる。ステップS140における待機時間は、ステップS130で設定した待機時間である。
【0045】
なお、制御部11は、ステップS110の判定やステップS130の設定を、ステップS100で実行するパスと並行して実行しておき、ステップS100のパスが終了したら即座に、ステップS120またはステップS140を実行するとしてもよい。また、このようなステップS100とステップS110,S130とを並行して行う構成は、後述の、ステップS150とステップS160,S130との関係性や、ステップS180とステップS190,S200との関係性や、ステップS220とステップS230,S200との関係性にも、同様に適用することができる。
【0046】
制御部11は、ステップS140を経て、ステップS150において、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、印刷媒体30に対するパスを1回実行する。ステップS150で実行するパスは、第2期間のパスである。
ステップS160では、制御部11は、ステップS150で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、低速印刷領域42の紙送りであるか否かを判定する。
【0047】
図5を参照して説明したように、制御部11は、パス番号=#N+5~#N+8の各パスを、第1期間に該当すると判断したとする。この場合、ステップS150で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、第1期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS160の“Yes”の判定からステップS170へ進めばよい。一方、ステップS150で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、下流調整領域41の紙送り、つまり第2期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS160で“No”と判定し、再びステップS130を実行する。ステップS160の“No”を経たステップS130では、上述の説明の通り、制御部11は、図6Aまたは図6Bのグラフの範囲Rbを参照して、前回のステップS130で設定した待機時間以上の待機時間を設定する。
【0048】
ステップS140における印刷媒体30の紙送りの速度は、ステップS120と同じ速度VUである。一方で、ステップS140における待機時間は、ステップS120で採用する通常待機時間TUよりも長い。従って、ステップS120と、その後のステップS100との関係では、例えば、紙送りが終了したら即座にパスが開始されるのに対し、ステップS140と、その後のステップS150との関係では、紙送りが終了した後もしばらくキャリッジ18および印刷ヘッド19の待機が継続した上で、パス実行へ移行することになる。
【0049】
ステップS170では、制御部11は、搬送部17を制御して、速度VLによる紙送りを1回実行させる。また、制御部11は、紙送りに伴い、キャリッジ18および印刷ヘッド19を、次のパス実行まで待機させる。ステップS170における待機時間は、低速待機時間TLである。
【0050】
制御部11は、ステップS170を経て、ステップS180において、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、印刷媒体30に対するパスを1回実行する。ステップS180で実行するパスは、第1期間のパスである。
ステップS190では、制御部11は、ステップS180で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、上流調整領域43の紙送りであるか否かを判定する。制御部11は、ステップS180で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、第4期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS190の“Yes”の判定からステップS200へ進めばよい。一方、ステップS180で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、低速印刷領域42の紙送り、つまり第1期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS190で“No”と判定し、再びステップS170を実行する。
【0051】
ステップS200では、上流調整領域用の待機時間を設定する。上流調整領域用の待機時間は、第4期間における待機時間に該当する。制御部11は、第4期間では、印刷ヘッド19へ第1領域(低速印刷領域42)より上流の第3領域(上流通常領域44)が近づくにつれて待機時間を、第1期間における待機時間(低速待機時間TL)から第3期間における待機時間(通常待機時間TU)へ近づくように変化させる。
【0052】
再び図6A,6Bを参照する。範囲Rdは、第4期間に実行する紙送り回数の範囲であり、範囲Reは、第5期間に実行する紙送り回数の範囲である。第5期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間は、毎回、通常待機時間TUである。図6Aに示すように、制御部11は、第4期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間を、紙送り回数を重ねるにつれて、低速待機時間TLから通常待機時間TUに近づくように、短くする。ただし、第4期間においてパス間で実行する紙送りに伴う待機時間は、前回の紙送りに伴う待機時間より必ず短くなければいけない訳ではなく、図6Bの範囲Rdに示すように、階段状に変化してもよい。つまり、第4期間において、ある回の紙送りに伴う待機時間は、前回の紙送りに伴う待機時間と同じであってもよい。いずれにしても、図6Aまたは図6Bに従うと、ステップS200では、制御部11は、前回の紙送りに伴う待機時間以下の待機時間を 上流調整領域用の待機時間として設定する。
【0053】
ステップS210では、制御部11は、搬送部17を制御して、速度VUによる紙送りを1回実行させる。また、制御部11は、紙送りに伴い、キャリッジ18および印刷ヘッド19を、次のパス実行まで待機させる。ステップS210における待機時間は、ステップS200で設定した待機時間である。
【0054】
制御部11は、ステップS210を経て、ステップS220において、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、印刷媒体30に対するパスを1回実行する。ステップS220で実行するパスは、第4期間のパスである。
ステップS230では、制御部11は、ステップS220で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、上流通常領域44の紙送りであるか否かを判定する。
【0055】
制御部11は、ステップS220で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、第5期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS230の“Yes”の判定からステップS240へ進めばよい。一方、ステップS220で実行したパスの後に実行すべき紙送りが、上流調整領域43の紙送り、つまり第4期間のパスとパスとの間の紙送りであれば、ステップS230で“No”と判定し、再びステップS200を実行する。ステップS230の“No”を経たステップS200では、上述の説明の通り、制御部11は、図6Aまたは図6Bのグラフの範囲Rdを参照して、前回のステップS200で設定した待機時間以下の待機時間を設定する。
【0056】
ステップS210における印刷媒体30の紙送りの速度は、ステップS120と同じ速度VUである。一方で、ステップS210における待機時間は、通常待機時間TUよりも長い。従って、ステップS210と、その後のステップS220との関係では、紙送りが終了した後もしばらくキャリッジ18および印刷ヘッド19の待機が継続した上で、パス実行へ移行することになる。
【0057】
ステップS240では、制御部11は、搬送部17を制御して、速度VUによる紙送りを1回実行させる。また、制御部11は、紙送りに伴い、キャリッジ18および印刷ヘッド19を、次のパス実行まで待機させる。ステップS240における待機時間は、通常待機時間TUである。つまり、ステップS240は、ステップS120と同じ処理である。
【0058】
制御部11は、ステップS240を経て、ステップS250において、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、印刷媒体30に対するパスを1回実行する。ステップS250で実行するパスは、第5期間のパスである。図4では、破線の矢印にて簡単に示しているが、制御部11は、印刷媒体30への印刷に用いる1ページ分の印刷データに基づく最後のパスを実行するまで、ステップS240,S250を繰り返す。最後のパスに該当するパスをステップS250で実行したことに応じて、制御部11は、図4のフローチャートを終える。言うまでもなく、制御部11は、最後のパスを終えた後の印刷媒体30を、搬送部17を制御して印刷ヘッド19よりも下流に搬送して、不図示の排紙トレイ等へ排出することができる。
【0059】
3.効果の説明:
このように本実施形態によれば、印刷装置10は、主走査方向D1に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、主走査方向D1に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッド19と、第1搬送部材および第2搬送部材を用いて印刷媒体30を主走査方向D1に交差する搬送方向D2へ搬送可能な搬送部17と、印刷ヘッド19と搬送部17とを制御することにより、印刷媒体30において主走査方向D1に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う制御部11と、を備える。第1搬送部材は、搬送方向D2において印刷ヘッド19よりも上流に配設されたローラー対であり、第2搬送部材は、搬送方向D2において印刷ヘッド19よりも下流に配設されている。そして、制御部11は、印刷媒体30の搬送方向D2の上流の端部である後端31が第1搬送部材を通過し、かつ印刷媒体30が第2搬送部材により搬送されている状態で印刷ヘッド19による印刷の対象となる領域を含む印刷媒体30の領域を第1領域、印刷媒体30における第1領域の下流の領域を第2領域、印刷媒体30における第2領域の下流の領域を第3領域、として、第1領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第1期間では、第3領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第3期間よりも、パスとパスとの間に搬送部17が実行する印刷媒体の搬送の速度を遅くし、第1期間では、第3期間よりも、パスとパスとの間の印刷ヘッド19の待機時間を長くし、第2領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第2期間では、印刷ヘッド19へ第1領域が近づくにつれて待機時間を、第3期間における待機時間(通常待機時間TU)から第1期間における待機時間(低速待機時間TL)へ近づくように変化させる。
【0060】
前記構成によれば、印刷媒体30の後端31が第1搬送部材を通過する際に蹴飛ばし現象が起きることを抑制するために、第1期間において紙送りの速度を低下させ、これに伴い第1期間では他の期間よりも待機時間が長くなる。マルチパス印刷を行う構成では、待機時間は、先のパスで印刷媒体30へ吐出された液体のドットに対して後のパスで吐出される液体のドットが重なったり接したりするまでの乾燥時間となる。このような乾燥時間の違いは、印刷結果における濃度の差異を生む。このような状況で、制御部11は、第1領域の下流において、第3領域と第1領域との間に第2領域を設け、第2領域が印刷対象となる第2期間では、紙送りの回数を重ねるにつれて待機時間を長くする。これにより、第3領域と第1領域とを繋ぐ第2領域では乾燥時間が徐々に長くなって、印刷結果の濃度がグラテーション状に変化する。そのため、乾燥時間が短い第3領域と乾燥時間が長い第1領域との濃度差による濃度ムラが、このようなグラテーション状の濃度変化の影響で目立たなくなり、実質的に濃度ムラが軽減される。
【0061】
また、本実施形態によれば、制御部11は、さらに印刷媒体30における第1領域の上流の領域を第4領域とし、印刷媒体30における第4領域より上流の領域を第3領域とし、第4領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第4期間では、印刷ヘッド19へ第1領域より上流の第3領域が近づくにつれて待機時間を、第1期間における待機時間(低速待機時間TL)から第3期間における待機時間(通常待機時間TU)へ近づくように変化させる。
前記構成によれば、制御部11は、第1領域の上流において、第3領域と第1領域との間に第4領域を設け、第4領域が印刷対象となる第4期間では、紙送りの回数を重ねるにつれて待機時間を短くする。これにより、第1領域と上流の第3領域とを繋ぐ第4領域では乾燥時間が徐々に短くなって、印刷結果の濃度がグラテーション状に変化する。そのため、乾燥時間が長い第1領域と乾燥時間が短い上流の第3領域との濃度差による濃度ムラが、このようなグラテーション状の濃度変化の影響で目立たなくなり、実質的に濃度ムラが軽減される。
【0062】
なお、印刷データに基づく印刷媒体30への印刷が印刷媒体30におけるどの位置で終了するか、つまり最後のパスが印刷媒体30のいずれの領域に対するパスになるかは、印刷データに依存する。図4では特に示していないが、印刷データ次第では、ステップS100,S150,S180,S220のいずれかのパスが最後のパスとなることもある。そのため、例えば、第1領域を対象としたパスが、印刷媒体30に対する最後のパスになることも有り得る。第1領域を対象としたパスが印刷媒体30に対する最後のパスになる場合は、第4領域や第4領域の上流の第3領域を対象としたパスや紙送りや待機時間を制御することも当然不要となる。
【0063】
本実施形態は、印刷装置、印刷システムを開示する。さらに、本実施形態は、これら装置やシステムが実行する方法や、これら方法をプロセッサーに実行させるプログラム12の発明を開示する。
印刷方法は、主走査方向D1に沿った往路移動と共に液体を吐出するパスと、主走査方向D1に沿った復路移動と共に液体を吐出するパスと、を実行可能な印刷ヘッド19と、主走査方向D1に交差する搬送方向D2において印刷ヘッド19よりも上流に配設された第1搬送部材および印刷ヘッド19よりも下流に配設された第2搬送部材を用いて印刷媒体30を搬送方向D2へ搬送可能な搬送部17と、を制御して印刷媒体30において主走査方向D1に沿うラスターラインを複数回のパスで印刷するマルチパス印刷を行う印刷制御工程を有する。第1搬送部材はローラー対であり、印刷制御工程では、印刷媒体30の搬送方向D2の上流の端部である後端31が第1搬送部材を通過し、かつ印刷媒体30が第2搬送部材により搬送されている状態で印刷ヘッド19による印刷の対象となる領域を含む印刷媒体30の領域を第1領域、印刷媒体30における第1領域の下流の領域を第2領域、印刷媒体30における第2領域の下流の領域を第3領域、として、第1領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第1期間では、第3領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第3期間よりも、パスとパスとの間に搬送部17が実行する印刷媒体の搬送の速度を遅くし、第1期間では、第3期間よりも、パスとパスとの間の印刷ヘッド19の待機時間を長くし、第2領域が印刷ヘッド19による印刷の対象となる第2期間では、印刷ヘッド19へ第1領域が近づくにつれて待機時間を、第3期間における待機時間(通常待機時間TU)から第1期間における待機時間(低速待機時間TL)へ近づくように変化させる。
【0064】
4.その他の説明:
搬送方向D2における第2領域の長さは、搬送方向D2における第1領域の長さと搬送方向D2における第3領域の長さとのうち短い方の長さに近い長さである。
蹴飛ばし現象が起きることを抑制するために一時的に紙送り速度が遅くなる期間に印刷される第1領域は、印刷媒体30の一部分に過ぎないため、多くの場合、第1領域は第3領域よりも搬送方向D2における長さが短くなる。図5の例でも、低速印刷領域42は、下流通常領域40よりも搬送方向D2における長さが短い。このような状況に従い、図5の例では、制御部11は、下流調整領域41、上流調整領域43それぞれについて、搬送方向D2における長さを低速印刷領域42と同等としている。なお、下流調整領域41、上流調整領域43のそれぞれと、低速印刷領域42とは、搬送方向D2における長さが一致していなくてもよい。このような構成とすることにより、印刷媒体30における印刷結果の中で、濃度がグラテーション状に変化する領域ができるだけ広くならないようにしている。仮に、低速印刷領域42が下流通常領域40よりも搬送方向D2における長さが長くなるようであれば、制御部11は、搬送方向D2における長さについて、下流調整領域41や上流調整領域43のそれぞれを、下流通常領域40と同等とすればよい。
【0065】
これまでの説明から解るように、第1期間や第2期間では、第3期間と比べて待機時間が長い。待機時間中は、印刷ヘッド19のメンテナンスを行うことができる。そのため、制御部11は、第1期間および第2期間における単位時間あたりの印刷ヘッド19のメンテナンス回数を、第3期間における単位時間あたりの印刷ヘッド19のメンテナンス回数よりも多くする。ここで言うメンテナンスとは、例えば、ノズル面21の汚れを除去する掃除や、各ノズル20から強制的に液体吐出をさせて吐出不良を改善するフラッシング等である。メンテナンス部27は、このようなメンテナンスに必要な部材の少なくとも一部であり、例えば、ノズル面21を掃除するためのワイパーや、フラッシングにより各ノズル20から吐出されるドットを受け止める吸収材や受け皿等である。かかる構成によれば、第1期間や第2期間における、相対的に長い待機時間を有効利用して、印刷ヘッド19のメンテナンスを行うことができる。
【0066】
制御部11は、キャリッジ18および印刷ヘッド19に必ずしも往路パスおよび復路パスを実行させなくてもよい。制御部11は、例えば、往路パスのみで印刷媒体30への印刷を行うとしてもよい。この場合、往路パスと、次の往路パスとの間に、液体吐出を行わない空パスとしての復路移動を、キャリッジ18に実行させる必要がある。あるいは、制御部11は、復路パスのみで印刷媒体30への印刷を行うとしてもよい。この場合、復路パスと、次の復路パスとの間に、液体吐出を行わない空パスとしての往路移動を、キャリッジ18に実行させる必要がある。制御部11は、空パスとしての復路移動あるいは往路移動を、紙送りに伴う待機時間内に実行させる。つまり、待機時間といっても、キャリッジ18や印刷ヘッド19を全く動かさない時間という意味ではなく、印刷ではない上述のメンテナンスに関連する動作や、次のパス開始までに必要な動作をキャリッジ18や印刷ヘッド19に実行させる時間でもある。
【符号の説明】
【0067】
10…印刷装置(印刷システム)、11…制御部、11a…CPU、11b…ROM、11c…RAM、12…プログラム、16…印刷部、17…搬送部、18…キャリッジ、19…印刷ヘッド、20…ノズル、21…ノズル面、23…搬送ローラー対、24…排出ローラー対、26…ノズル列、27…メンテナンス部、30…印刷媒体、31…後端、40…下流通常領域、41…下流調整領域、42…低速印刷領域、43…上流調整領域、44…上流通常領域、TU…通常待機時間、TL…低速待機時間

図1
図2
図3
図4
図5
図6