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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241016BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241016BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20241016BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20241016BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L50/60
B60L58/18
B60L9/18 P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021014987
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118444
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 郁
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩成
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115192(JP,A)
【文献】特開2018-182874(JP,A)
【文献】特開2012-175770(JP,A)
【文献】特開平11-187577(JP,A)
【文献】国際公開第2018/090853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、個別に制御可能な複数のアクチュエータを備え、複数の前記アクチュエータを作動させて車両挙動を制御する車両の制御装置であって、
第1電源装置、および、第2電源装置の、少なくとも二系統の電源装置と、
前記アクチュエータの出力または動作を制御するコントローラとを備え、
前記アクチュエータは、前記第1電源装置に接続して電力の授受を行う第1モータ、および、前記第2電源装置に接続して電力の授受を行う第2モータの、少なくとも二基のモータを有し、
前記コントローラは、
前記アクチュエータの出力または動作が制限される状態を判断し、
いずれかの前記アクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合に、出力または動作が制限される状態ではない他の前記アクチュエータの出力または動作を制限し、
前記第1モータまたは前記第2モータのいずれか一方の前記モータの出力が制限される状態である場合に、前記第1モータまたは前記第2モータのうちの出力が制限される状態ではない他方の前記モータの出力を制限するとともに、
前記第1電源装置および前記第2電源装置の出力が制限される状態を判断し、
前記第1電源装置または前記第2電源装置のいずれか一方の前記電源装置の出力が制限される状態である場合に、前記第1電源装置または前記第2電源装置のうちの出力が制限される状態ではない他方の前記電源装置に接続している前記モータの出力を制限する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動用モータやブレーキ機構など、車両の駆動力および制動力、ならびに、ローリングやピッチングなどの車両の挙動を制御するための複数のアクチュエータを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動輪の駆動力および制動力を制御して車両を適切に走行させるとともに、車体に発生する複数の挙動を同時に制御することを目的とした車両の制御装置が記載されている。この特許文献1に記載された車両の制御装置は、車両の各車輪にそれぞれ独立して駆動力または制動力を発生させる制駆動力発生機構(アクチュエータ)と、車両のばね下に配置された各車輪をそれぞれ車両のばね上に配置された車体に連結するサスペンション機構と、制駆動力発生機構を制御して各車輪にそれぞれ独立した駆動力または制動力を発生させる制御手段とを備えている。制御手段は、運転者による車両の操作状態、および、車両の走行時に車体に発生する運動状態を検出し、少なくとも車両の操作状態および車体の運動状態に基づいて、車両を走行させるための目標前後駆動力、ならびに、車体の挙動を制御するための複数の目標運動状態量を演算する。そして、算出した目標前後駆動力および複数の目標運動状態量を実現するように、各車輪に配分し、各車輪にそれぞれ独立して発生させる駆動力(目標駆動力)または制動力(目標制動力)を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-86712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された制御装置を搭載する車両は、駆動力および制動力を発生させ、また、車両の挙動(例えば、車両の前後加速度、ローリング、ピッチング、ヨーイング等)を制御するためのアクチュエータとして、例えば、各車輪を直接駆動する駆動モータ(すなわち、いわゆるインホイールモータ)が車輪ごとに設けられている。また、各車輪を独立に制動するブレーキ装置が車輪ごとに設けられている。そして、特許文献1に記載された車両の制御装置では、各車輪の駆動モータ、あるいは、各車輪のブレーキ装置を個別に制御して、上記のようにして算出される目標駆動力または目標制動力を発生させる。例えば、前後の車輪に分配する駆動力または制動力の比率が制御される。あるいは、前後の車輪に分配する駆動力または制動力の比率が制御される。それにより、目標前後駆動力および複数の目標運動状態量を実現させている。
【0005】
しかしながら、上記のような駆動力または制動力の分配を行うアクチュエータは、その作動状態や出力状況によっては、出力や動作に制限がかかる場合がある。例えば、駆動モータの上限トルクや温度によって、駆動モータの出力が制限される場合がある。また、駆動モータに電力を供給するバッテリの出力が制限され、その結果、駆動モータの出力が制限される場合がある。あるいは、ブレーキ装置の摩擦材の温度上昇によって、ブレーキ装置の動作が制限される場合がある。前後のいずれか一方の駆動モータの出力が制限された場合には、前後の駆動力配分のバランス(比率)が崩れてしまう。あるいは、左右いずれか一方のブレーキ装置の動作が制限された場合には、左右の制動力配分のバランス(比率)が崩れてしまう。その結果、車両の挙動が不安定になってしまうおそれがある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目して考え出されたものであり、車両の挙動を制御するアクチュエータの出力や動作に制限がかかる場合であっても、適切に車両の挙動を制御することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、それぞれ、個別に制御可能な複数のアクチュエータを備え、複数の前記アクチュエータを作動させて車両挙動を制御する車両の制御装置であって、第1電源装置、および、第2電源装置の、少なくとも二系統の電源装置と、前記アクチュエータの出力または動作を制御するコントローラとを備え、前記アクチュエータは、前記第1電源装置に接続して電力の授受を行う第1モータ、および、前記第2電源装置に接続して電力の授受を行う第2モータの、少なくとも二基のモータを有し、前記コントローラは、前記アクチュエータの出力または動作が制限される状態を判断し、いずれかの前記アクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合に、出力または動作が制限される状態ではない他の前記アクチュエータの出力または動作を制限し、さらに前記第1モータまたは前記第2モータのいずれか一方の前記モータの出力が制限される状態である場合に、前記第1モータまたは前記第2モータのうちの出力が制限される状態ではない他方の前記モータの出力を制限するとともに、前記第1電源装置および前記第2電源装置の出力が制限される状態を判断し、前記第1電源装置または前記第2電源装置のいずれか一方の前記電源装置の出力が制限される状態である場合に、前記第1電源装置または前記第2電源装置のうちの出力が制限される状態ではない他方の前記電源装置に接続している前記モータの出力を制限することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の車両の制御装置で制御対象にする車両は、例えば、前後・左右の各車輪(四輪)に分配する駆動トルクまたは制動トルクの配分比を制御するいわゆるトルクベクタリング装置、あるいは、前後・左右の各車輪(四輪)に設けられ、各車輪の駆動力を独立して制御可能ないわゆるインホイールモータ、あるいは、前後・左右の各車輪(四輪)に設けられ、各車輪の制動力を独立して制御可能なブレーキ装置、あるいは、前後・左右の各車輪(四輪)に設けられ、各車輪のサスペンションのばね定数および減衰力を独立して制御可能ないわゆるアクティブサスペンション装置などの複数のアクチュエータを備えている。そして、それら複数のアクチュエータをそれぞれ制御して、ローリング、ピッチング、および、ヨーイングなどの車両挙動を制御する。例えば、左右の車輪に対する駆動力または制動力の配分比を制御して、車両のローリング状態を制御する。あるいは、前後の車輪に対する駆動力または制動力の配分比を制御して、車両のピッチング状態(もしくは、スクワットの状態、および、ノーズダイブの状態)を制御する。このように車両挙動を制御する複数のアクチュエータは、その作動状態や出力状況等によっては、出力や動作に制限が加えられる場合がある。そのため、いずれか一つの、あるいは、一部のアクチュエータの出力または動作が制限された場合に、車輪ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れ、車両挙動が不安定になってしまう可能性がある。それに対して、この発明の車両の制御装置では、いずれか一つの、あるいは、一部のアクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合には、出力または動作が制限される状態ではない他のアクチュエータも併せて、その出力または動作を制限する。例えば、何らかの制約条件や、フェールの発生等によって、いずれか一つのアクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合(または、制限された状態である)場合は、その出力または動作が制限される状態であるアクチュエータと共に制御される、正常な、すなわち、出力または動作が制限される状態ではない他のアクチュエータの出力または動作が、出力または動作が制限される状態であるアクチュエータと同程度に制限される。そのため、アクチュエータ全体としての総出力は低下するものの、車輪ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れることによって車両挙動が不安定になってしまうような事態を回避もしくは抑制できる。したがって、この発明の車両の制御装置によれば、いずれかのアクチュエータの出力または動作のみが制限される状態である場合に、車両挙動を制御する駆動力や制動力等のバランスが崩れてしまうことを抑制し、適切に車両挙動を制御することができる。
【0011】
また、この発明の車両の制御装置で制御対象にする車両は、少なくとも、前後または左右で一対となる、第1アクチュエータ、および、第2アクチュエータを備えている。そして、それら第1アクチュエータと第2アクチュエータとをそれぞれ制御して、ローリング、ピッチング、および、ヨーイングなどの車両挙動を制御する。それに加えて、この発明の車両の制御装置では、第1アクチュエータまたは第2アクチュエータのいずれか一方のアクチュエータ(例えば、第1アクチュエータ)の出力または動作が制限される状態である場合には、出力または動作が制限される状態ではない他方のアクチュエータ(例えば、第2アクチュエータ)も併せて、その出力または動作を制限する。例えば、何らかの制約条件、あるいは、フェールの発生等によって、第1アクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合は、第1アクチュエータと対になって制御される、正常な、すなわち、出力または動作が制限される状態ではない第2アクチュエータの出力または動作が、第1アクチュエータと同程度に制限される。そのため、第1アクチュエータと第2アクチュエータとを併せたアクチュエータ全体としての総出力は低下するものの、車輪ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れることによって車両挙動が不安定になってしまうような事態を回避もしくは抑制できる。したがって、この発明の車両の制御装置によれば、第1アクチュエータまたは第2アクチュエータのいずれか一方のみの出力または動作が制限される状態である場合に、車両挙動を制御する駆動力や制動力等のバランスが崩れてしまうことを抑制し、適切に車両挙動を制御することができる。
【0012】
そして、この発明の車両の制御装置で制御対象にする車両は、第1電源装置、および、第2電源装置の、少なくとも二系統の電源装置を備えている。また、上記の第1電源装置に接続して電力の授受を行う(すなわち、第1電源装置から電力が供給されて駆動されるとともに、第1電源装置に回生電力を供給して第1電源装置を充電する)第1モータ、および、上記の第2電源装置に接続して電力の授受を行う(すなわち、第2電源装置から電力が供給されて駆動されるとともに、第2電源装置に回生電力を供給して第2電源装置を充電する)第2モータの、少なくとも二基のモータを備えている。そして、それら第1モータと第2モータとをそれぞれ制御して、ローリング、ピッチング、および、ヨーイングなどの車両挙動を制御する。それに加えて、この発明の車両の制御装置では、第1モータまたは第2モータのいずれか一方のモータ(例えば、第1モータ)の出力が制限される状態である場合には、出力が制限される状態ではない他方のモータ(例えば、第2モータ)も併せて、その出力を制限する。例えば、モータの上限トルクや温度などの制約条件、あるいは、フェールの発生等によって、第1モータの出力が制限された場合は、第1モータと対になる、正常な、すなわち、出力または動作が制限される状態ではない第2モータの出力が、第1モータと同程度に制限される。また、第1電源装置または第2電源装置のいずれか一方の電源装置(例えば、第1電源装置)の出力が制限される状態である場合に、出力が制限される状態ではない他方の電源装置(例えば、第2電源装置)に接続しているモータ(すなわち、第2モータ)も併せて、その出力を制限する。例えば、バッテリのSOC(State Of Charge)や温度などの制約条件、あるいは、フェールの発生等によって、第1電源装置の出力が制限される状態である場合は、第1電源装置と対になって制御される、正常な、すなわち、出力または動作が制限される状態ではない第2電源装置に接続している第2モータの出力が、第1電源装置の出力の制限によって出力が制限される第1モータと同程度に制限される。そのため、第1モータと第2モータとを併せたアクチュエータ全体としての総出力は低下するものの、車輪ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れることによって車両挙動が不安定になってしまうような事態を回避もしくは抑制できる。したがって、この発明の車両の制御装置によれば、第1電源装置または第2電源装置のいずれか一方のみの出力が制限される状態である場合、ならびに、第1モータまたは第2モータのいずれか一方のみの出力が制限される状態である場合に、車両挙動を制御する駆動力や制動力等のバランスが崩れてしまうことを抑制し、適切に車両挙動を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の車両の制御装置で制御の対象とする車両の構成および制御系統の一例を示す図である。
図2図1に示す車両の構成の各構成要素のうち、「第2モータ(後輪用の駆動モータ)」、および、「第2トルクベクタリング装置(差動制限機構付きの電動トルク配分デファレンシャル装置)」、ならびに、「電動パーキングブレーキ」、および、「オンボードブレーキ装置(電磁ブレーキ)」等の構成および位置関係を俯瞰的に示す図である。
図3】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の一例(いずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪に作用する駆動力または制動力の制御目標値に対して制限をかける制御例)を説明するためのフローチャートである。
図4】この発明の車両の制御装置によって制御される車両挙動(車両に作用する力およびモーメント等)を説明するための図である。(a)は、車両の重心に作用する力およびモーメントを示す図であり、(b)は、車両の車輪に作用する力を示す図である。
図5】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(いずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪に作用する駆動力または制動力の制御入力値、および、車体に作用するモーメントの制御入力値に対して制限をかける制御例)を説明するためのフローチャートである。
図6】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(いずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪に作用する三軸方向の力の制御目標値に対して制限をかける制御例)を説明するためのフローチャートである。
図7】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(いずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪に作用する三軸方向の力の制御入力値、および、車体に作用するモーメントの制御入力値に対して制限をかける制御例)を説明するためのフローチャートである。
図8】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(前後・二系統の電源装置のうちの一方の電源装置(バッテリ)に対して制限がかかる場合に、他方の電源装置(バッテリ)に接続するモータに対して制限をかけ、前後輪のトルク配分を維持する制御例)を説明するためのフローチャートである。
図9図8のフローチャートに示す制御で、モータトルクの上限値を算出する際に適用する「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップのイメージを示す図である。
図10図8のフローチャートに示す制御で実行される「電池制約によるトルク分配補正(前後配分比維持)」の内容および作用・効果を説明するための図である。
図11】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(前後・二系統の電源装置のうちの一方の電源装置(バッテリ)に対して制限がかかる場合に、他方の電源装置(バッテリ)に接続するモータに対する制御内容を補正し、車体に作用するヨーレートを維持する制御例)を説明するためのフローチャートである。
図12図11のフローチャートに示す制御で、ステップS53で肯定的に判断された後に実行される制御内容を説明するためのフローチャートである。
図13図11図12のフローチャートに示す制御で実行される「電池制約によるトルク分配補正(ヨーレート維持)」の内容および作用・効果を説明するための図である。
図14】この発明の車両の制御装置によって実行される制御内容の他の例(“電池制約までの余裕が少ない状態”で、電源装置(バッテリ)の状態に応じて“制約(制限)対応モード”を変更する制御例)を説明するためのフローチャートである。
図15図14のフローチャートに示す制御で、“電池制約までの余裕が少ない状態”を判定する際に用いるマップのイメージを示す図であって、「バッテリ温度の準備エリア」を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0015】
図1に、この発明の実施形態で制御対象とする車両Veの駆動系統および制御系統の一例を示してある。図1に示す車両Veは、主要な構成要素として、第1モータ(MG)1、第2モータ(MG)2、第1トルクベクタリング装置(TVD)3、第2トルクベクタリング装置(TVD)4、第1電源装置(BAT)5、第2電源装置(BAT)6、第1ブレーキ装置7、第2ブレーキ装置8、第3ブレーキ装置9、第4ブレーキ装置10、検出部11、および、コントローラ(ECU)12を備えている。
【0016】
第1モータ1は、電気エネルギを機械的エネルギ(または回転エネルギ)に変換する、もしくは、機械的エネルギ(または回転エネルギ)を電気エネルギに変換する。第1モータ1は、後述する第1トルクベクタリング装置3を介して、左右の前輪(fl)13および前輪(fr)14に、動力伝達可能に連結されている。第1モータ1は、発電機能を有するモータ(いわゆる、モータ・ジェネレータ)であり、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。図1に示す実施形態では、第1モータ1は、前輪13,14の駆動力源として、永久磁石式の同期モータによって構成されている。
【0017】
第2モータ2は、電気エネルギを機械的エネルギ(または回転エネルギ)に変換する、もしくは、機械的エネルギ(または回転エネルギ)を電気エネルギに変換する。第2モータ2は、後述する第1トルクベクタリング装置3を介して、左右の後輪(rl)15および後輪(rr)16に、動力伝達可能に連結されている。第2モータ2は、発電機能を有するモータ(いわゆる、モータ・ジェネレータ)であり、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されている。図1に示す実施形態では、第2モータ2は、後輪15,16の駆動力源として、誘導モータによって構成されている。
【0018】
第1トルクベクタリング装置3は、電動のトルク配分デファレンシャル装置であり、左右の前輪13,14のデファレンシャル装置として機能するとともに、第1モータ1の出力トルクを左右の前輪13,14に分配して伝達する。第1トルクベクタリング装置3は、後述する第2トルクベクタリング装置4と同様に、例えば、二組の遊星歯車機構(図示せず)、それら二組の遊星歯車機構におけるそれぞれのリングギヤ(図示せず)を連結し、かつ、反転させる反転ギヤ機構(図示せず)、第1モータ1からトルクが伝達される入力ギヤ機構(図示せず)、ならびに、左右の前輪13,14にそれぞれ連結する左右の出力軸(図示せず)の差動状態およびトルクの分配状態(配分比)を制御する差動用モータ(図示せず)などから構成されている。また、後述する第2トルクベクタリング装置4と同様に、第1トルクベクタリング装置3には、左右の出力軸の差動状態を制限する差動制限機構(図示せず)を設けてもよい。
【0019】
第2トルクベクタリング装置4は、電動のトルク配分デファレンシャル装置であり、左右の後輪15,16のデファレンシャル装置として機能するとともに、第2モータ2の出力トルクを左右の後輪15,16に分配して伝達する。図2に示すように、第2トルクベクタリング装置4は、例えば、二組の遊星歯車機構4a,4b、それら二組の遊星歯車機構におけるそれぞれのリングギヤ(図示せず)を連結し、かつ、互いに反転させる反転ギヤ機構4c、第1モータ1からトルクが伝達される入力ギヤ機構4d、ならびに、左右の後輪15,16にそれぞれ連結する左右の出力軸(図示せず)の差動状態およびトルクの分配状態(配分比)を制御する差動制御用モータ4eなどから構成されている。また、図2に示す実施形態では、第2トルクベクタリング装置4には、左右の出力軸の差動状態を制限する差動制限機構(無励磁作動型の電磁ブレーキ)4fが設けられている。
【0020】
この発明の実施形態における車両Veは、第1電源装置5、および、第2電源装置6の、少なくとも二系統の電源装置を備えている。そのうち、第1電源装置5は、例えば、インバータ(図示せず)、および、バッテリ(図示せず)を有しており、インバータを介して、バッテリと第1モータ1とが接続されている。第1電源装置5は、第1モータ1に電力を供給して、第1モータ1を駆動する。また、第1モータ1で発電した電力(回生電力)が供給されて、バッテリを充電する。すなわち、第1電源装置5は、第1モータ1が接続され、第1モータ1との間で電力の授受を行う。また、第1電源装置5には、第1トルクベクタリング装置3の差動制御用モータ(図示せず)が接続されており、第1トルクベクタリング装置3の差動制御用モータに電力を供給して、その差動制御用モータを駆動する。
【0021】
一方、第2電源装置6は、例えば、インバータ(図示せず)、および、バッテリ(図示せず)を有しており、インバータを介して、バッテリと第2モータ2とが接続されている。第2電源装置6は、第2モータ2に電力を供給して、第2モータ2を駆動する。また、第2モータ2で発電した電力(回生電力)が供給されて、バッテリを充電する。すなわち、第2電源装置6は、第2モータ2が接続され、第2モータ2との間で電力の授受を行う。また、第2電源装置6には、第2トルクベクタリング装置4の差動制御用モータ4eが接続されており、差動制御用モータ4eに電力を供給して、差動制御用モータ4eを駆動する。
【0022】
第1ブレーキ装置7、第2ブレーキ装置8、第3ブレーキ装置9、第4ブレーキ装置10は、いずれも、車両Veの制動力を発生する装置であり、車両Veの制動時に作動して制動トルクを発生する。図1に示す実施形態では、第1ブレーキ装置7は、車両Veの左側の前輪13に制動力を発生させる。第2ブレーキ装置8は、車両Veの右側の前輪14に制動力を発生させる。第3ブレーキ装置9は、車両Veの左側の後輪15に制動力を発生させる。そして、第4ブレーキ装置10は、車両Veの右側の後輪16に制動力を発生させる。
【0023】
なお、図2に示す実施形態では、車両Veには、電動パーキングブレーキ装置17、および、オンボードブレーキ装置18が設けられている。電動パーキングブレーキ装置17は、電動モータ(図示せず)または電磁石(図示せず)等によって駆動され、入力ギヤ機構4dの回転をロックして、車両Veの停止状態を維持する。オンボードブレーキ装置18は、例えば、電磁ブレーキ(図示せず)によって構成されており、制動トルクを発生し、その制動トルクを、入力ギヤ機構4dを介して、左右の出力軸に伝達する。
【0024】
検出部11は、車両Veを制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するための機器あるいは装置であり、例えば、電源部、マイクロコンピュータ、センサ、および、入出力インターフェース等を含む。具体的には、この発明の実施形態における検出部11は、
運転者による車両Veの操作状態を検出するためのセンサとして、例えば、運転者によるアクセルペダル(図示せず)の操作量(すなわち、アクセルポジション、または、アクセル開度)や操作速度を検出するアクセルポジションセンサ11a、運転者によるブレーキペダル(図示せず)の操作量や踏力を検出するブレーキストロークセンサ(または、ブレーキスイッチ)11b、ならびに、運転者によるステアリングホイールの操作量およびそれに対応する操舵角を検出するステアリングセンサ(または、舵角センサ)11cを有している。また、車両Veの運動状態(車両挙動)を検出するためのセンサとして、例えば、車速を算出するために各車輪13,14,15,16の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ11d、車両Veの加速度(前後加速度、および、横加速度)を検出する加速度センサ11e、ならびに、車両Veのヨーレートを検出もしくは算出するヨーレートセンサ11fを有している。また、第1モータ1の状態および第2モータ2の状態をそれぞれ検出するためのセンサとして、例えば、第1モータ1の回転数および第2モータ2の回転数をそれぞれ検出するモータ回転数センサ(または、レゾルバ)11g、第1モータ1の温度(または、油温)および第2モータ2の温度(または、油温)をそれぞれ検出するモータ温度センサ11h、ならびに、第1モータ1の負荷(または、トルク)および第2モータ2の負荷(または、トルク)をそれぞれ検出するモータトルクセンサ11iを有している。更に、第1電源装置5の状態および第2電源装置6の状態をそれぞれ検出するためのセンサとして、例えば、第1電源装置5におけるバッテリの温度および第2電源装置6におけるバッテリの温度をそれぞれ検出するバッテリ温度センサ11j、第1電源装置5におけるバッテリのSOCおよび第2電源装置6におけるバッテリのSOCをそれぞれ検出するSOCセンサ11kなどを有している。そして、検出部11は、後述するコントローラ12と電気的に接続されており、上記のような各種センサや機器・装置等の検出値または算出値に応じた電気信号を検出データとしてコントローラ12に出力する。
【0025】
コントローラ12は、例えば、マイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であり、この発明の実施形態におけるコントローラ12は、主に、第1モータ1、第2モータ2、第1トルクベクタリング装置3、第2トルクベクタリング装置4、第1ブレーキ装置7、第2ブレーキ装置8、第3ブレーキ装置9、および、第4ブレーキ装置10などの動作をそれぞれ制御する。コントローラ12には、上記の検出部11で検出または算出された各種データが入力される。コントローラ12は、入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。それとともに、コントローラ12は、その演算結果を制御指令信号として出力し、上記のような、駆動用の各モータ1,2、各トルクベクタリング装置3,4、各ブレーキ装置7,8,9,10などの動作をそれぞれ制御するように構成されている。なお、図1では一つのコントローラ12が設けられた例を示しているが、コントローラ12は、例えば、制御する装置や機器毎に、あるいは、制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
【0026】
上記のように、この発明の実施形態における車両Veは、それぞれ、個別に制御可能な複数のアクチュエータを備えている。すなわち、図1図2に示す実施形態では、前後で一対のアクチュエータとして、前輪13および前輪14を駆動する第1モータ1と、後輪15および後輪16を駆動する第2モータとを備えている。また、前後で一対のアクチュエータとして、第1モータ1の出力トルクを前輪13および前輪14に分配して伝達させる第1トルクベクタリング装置3と、第2モータ2の出力トルクを後輪15および後輪16に分配して伝達させる第2トルクベクタリング装置4とを備えている。更に、前輪13を制動する第1ブレーキ装置7と、前輪14を制動する第2ブレーキ装置8と、後輪15を制動する第3ブレーキ装置9と、後輪16を制動する第4ブレーキ装置10とを備えている。これら四つのブレーキ装置7,8,9,10は、それぞれ、互いに独立させて制御することができ、例えば、第1ブレーキ装置7および第2ブレーキ装置8と、第3ブレーキ装置9および第4ブレーキ装置10とを、前後で一対のアクチュエータとして、制御することができる。あるいは、第1ブレーキ装置7および第3ブレーキ装置9と、第2ブレーキ装置8および第4ブレーキ装置10とを、左右で一対のアクチュエータとして、制御することができる。
【0027】
そして、この発明の実施形態におけるコントローラ12は、上記のような複数のアクチュエータをそれぞれ制御して、車両Veの運動状態、すなわち、車両挙動を制御する。例えば、第1モータ1と第2モータ2とを、それぞれ、独立に制御して、車両Veの前輪13,14と後輪15,16との間の駆動力配分を制御する。あるいは、第1トルクベクタリング装置3と、第2トルクベクタリング装置4とを、それぞれ、独立に制御して、車両Veの左側の前輪13と右側の前輪14との間の駆動力配分、および、車両Veの左側の後輪15と右側の後輪16との間の駆動力配分をそれぞれ制御する。したがって、第1モータ1および第2モータ2、ならびに、第1トルクベクタリング装置3および第2トルクベクタリング装置4を、それぞれ、独立に、また、協調させて制御することにより、各車輪13,14,15,16の間の駆動力配分を制御することができる。また、各ブレーキ装置7,8,9,10を、それぞれ、独立に制御することにより、各車輪13,14,15,16の間の制動力配分(制動力成分を差し引いた駆動力の配分)を制御することができる。そのようにして各車輪13,14,15,16の間の駆動力配分または制動力配分を制御することにより、ローリング、ピッチング、および、ヨーイングなどの車両挙動を制御することができる。例えば、左右の車輪(前輪13および後輪15と前輪14および後輪16)に対する駆動力または制動力の配分比を制御して、車両Veのローリング状態を制御することができる。あるいは、前後の車輪(前輪13,14と後輪15,16)に対する駆動力または制動力の配分比を制御して、車両のピッチング状態(もしくは、スクワットの状態、および、ノーズダイブの状態)を制御することができる。
【0028】
なお、この発明の実施形態における車両の制御装置で制御対象にする車両は、上記のような図1図2に示す車両Veに限定されるものではない。例えば、前述した特許文献1の図1や、特開2019-108104号公報の図1にそれぞれ示されているような、前後・左右の各車輪(四輪)に別個に設けられ、各車輪の駆動力をそれぞれ独立して制御可能ないわゆるインホイールモータを搭載した車両を制御対象にすることができる。あるいは、前後・左右の各車輪(四輪)に別個に設けられ、各車輪のサスペンションのばね定数および減衰力をそれぞれ独立して制御可能ないわゆるアクティブサスペンション装置を搭載した車両を制御対象にすることができる。あるいは、特開2019-108104号公報の図1に示されているような、前後の各車輪に対して別個に設けられ、前輪の舵角および後輪の舵角をそれぞれ独立して制御可能な二組の転舵装置(前輪側の第1転舵用アクチュエータと後輪側の第2転舵用アクチュエータ)を搭載した車両を制御対象にすることができる。
【0029】
前述したように、上記のような車両挙動を制御する複数のアクチュエータは、その作動状態や出力状況等によっては、出力や動作に制限が加えられる場合がある。例えば、各車輪13,14,15,16に対する駆動力要求や制動力要求が異なる場合には、第1モータ1および第2モータにかかる負荷、あるいは、各車輪13,14,15,16のインホイールモータにかかる負荷、あるいは、各車輪13,14,15,16のブレーキ装置7,8,9,10にかかる負荷が異なる。負荷が高くなるいずれかのモータ、あるいは、負荷が高くなるいずれかブレーキ装置は、温度上昇が顕著になり、その出力または動作に制限がかかりやすくなる。また、あるいは、転舵装置に用いられるアクチュエータ(電動モータ)は、車両Veが直進走行する場合に比較して、例えば山間部のワインディングロードやコーナーが頻出する道路を走行する場合に、アクチュエータ(電動モータ)にかかる負荷がより高くなる。前述の特開2019-108104号公報の図1に示されているように、前後に分かれた二組の転舵装置であれば、それら二組の転舵装置におけるそれぞれのアクチュエータ(電動モータ)にかかる負荷に差が出やすくなり、いずれか一方のアクチュエータ(電動モータ)の出力または動作に制限がかかりやすくなる。
【0030】
このように、いずれか一つの、あるいは、一部のアクチュエータの出力または動作が制限された場合には、各車輪13,14,15,16ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れ、車両挙動が不安定になってしまう可能性がある。そこで、この発明の実施形態における車両の制御装置では、いずれか一つの、あるいは、一部のアクチュエータの出力または動作が制限される状態である場合には、出力または動作が制限される状態ではない他のアクチュエータも併せて、その出力または動作を制限するように構成されている。そのためにコントローラ12で実行する制御の一例を、図3のフローチャートに示してある。
【0031】
図3のフローチャートは、四つの車輪13,14,15,16のうちのいずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪13,14,15,16に作用する駆動力または制動力(前後方向の力)の制御目標値に対して制限をかける制御例を示している。先ず、ステップS1では、車両Veに作用する力の入力値(Fx)、および、車両Veに作用するモーメントの入力値(Mx,My,Mz)から、各車輪13,14,15,16で発生させる駆動力および制動力の目標値(F_fl,F_fr,F_rl,F_rr)が算出される。図4の(a)に示すように、入力値Fxは、車両Veに作用する前後方向の力(前後力)である。また、入力値Mxは、車両Veに作用するロール方向のモーメント(ロールモーメント)であり、入力値Myは、車両Veに作用するピッチ方向のモーメント(ピッチモーメント)であり、そして、入力値Mzは、車両Veに作用するヨーイング方向のモーメント(ヨーモーメント)である。
【0032】
上記の駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrは、従来と同様の手法、あるいは、従来と同様の考え方に基づいて算出できる。例えば、下記の(1)式に示すような、各車輪13,14,15,16における駆動力および制動力の入力値と目標値との関係を表す行列式から、下記の(2)式に示すような、(1)式で示す行列式の逆行列を用いて、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrをそれぞれ算出できる。
【数1】

【数2】

上記のような駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrを算出するための演算手法の詳細については、本願出願人は、前述の特許文献1の明細書で開示している。
【0033】
次いで、ステップS2では、算出された駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが上下限に当たるか否かが判断される。具体的には、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが、予め定めた目標値の上限値以上であるか否か、または、予め定めた目標値の下限値よりも小さいか否か、が判断される。
【0034】
駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、いずれも、目標値の上限値よりも小さい、かつ、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、いずれも、目標値の下限値以上である、すなわち、算出された駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれも上下限に当たらないことにより、このステップS2で否定的に判断された場合は、ステップS3へ進む。
【0035】
ステップS3では、算出された駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、制御目標値として出力される。したがって、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrを発生するように、車両Veが制御される。その後、この図3のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0036】
これに対して、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが、目標値の上限値以上である、または、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが、目標値の下限値よりも小さい、すなわち、算出された駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが上下限に当たることにより、上記のステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進む。
【0037】
ステップS4では、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、それぞれ、補正される。すなわち、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのうち、目標値の上限値以上となる、または、目標値の下限値よりも小さくなることによって制限される状態であるいずれかの目標値の補正量(補正係数、制限量)に応じて、制限される状態ではない他の目標値も、同レベルの補正量(補正係数、制限量)で補正される。
【0038】
具体的には、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値F_flが、
F_fl=F_fl_Min≦前回_F_fl+ΔF_fl×β_fl<F_fl_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、F_fl_Minは、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値F_flの下限値であり、F_fl_Maxは、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値F_flの上限値である。それら下限値F_fl_Minおよび上限値F_fl_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔF_flは、今回のルーチンで算出された目標値F_flと、前回のルーチンで算出された目標値F_flとの差分である。そして、β_flは、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値F_flに対する補正係数である。この補正係数β_flは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数β_flとして設定される。
【0039】
同様に、右側の前輪14に対する駆動力および制動力の目標値F_frが、
F_fr=F_fr_Min≦前回_F_fr+ΔF_fr×β_fr<F_fr_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、F_fr_Minは、右側の前輪14に対する駆動力および制動力の目標値F_frの下限値であり、F_fr_Maxは、右側の前輪14に対する駆動力および制動力の目標値F_frの上限値である。それら下限値F_fr_Minおよび上限値F_fr_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔF_frは、今回のルーチンで算出された目標値F_frと、前回のルーチンで算出された目標値F_frとの差分である。そして、β_frは、右側の前輪14に対する駆動力および制動力の目標値F_frに対する補正係数である。この補正係数β_frは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数β_frとして設定される。
【0040】
同様に、左側の後輪15に対する駆動力および制動力の目標値F_rlが、
F_rl=F_rl_Min≦前回_F_rl+ΔF_rl×β_rl<F_rl_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、F_rl_Minは、左側の後輪15に対する駆動力および制動力の目標値F_rlの下限値であり、F_rl_Maxは、左側の後輪15に対する駆動力および制動力の目標値F_rlの上限値である。それら下限値F_rl_Minおよび上限値F_rl_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔF_rlは、今回のルーチンで算出された目標値F_rlと、前回のルーチンで算出された目標値F_rlとの差分である。そして、β_rlは、左側の後輪15に対する駆動力および制動力の目標値F_rlに対する補正係数である。この補正係数β_frは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数β_rlとして設定される。
【0041】
同様に、右側の後輪16に対する駆動力および制動力の目標値F_rrが、
F_rr=F_rr_Min≦前回_F_rr+ΔF_rr×β_rr<F_rr_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、F_rr_Minは、右側の後輪16に対する駆動力および制動力の目標値F_rrの下限値であり、F_rr_Maxは、右側の後輪16に対する駆動力および制動力の目標値F_rrの上限値である。それら下限値F_rr_Minおよび上限値F_rr_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔF_rrは、今回のルーチンで算出された目標値F_rrと、前回のルーチンで算出された目標値F_rrとの差分である。そして、β_rrは、右側の後輪16に対する駆動力および制動力の目標値F_rrに対する補正係数である。この補正係数β_rrは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数β_rrとして設定される。
【0042】
なお、上記の各補正係数β_fl,β_fr,β_rl,β_rrは、車両Veの走行状態や走行環境などに応じて変更してもよい。例えば、車両Veが危険回避モードで運転されている際に、いずれかの車輪の駆動力および制動力に制限がかかった場合は、他の車輪の駆動力および制動力を変化させると、かえって不安定な状態になる可能性があるので、このような場合には、各補正係数β_fl,β_fr,β_rl,β_rrは、いずれも、“0”に設定する。また、車両Veが直進走行で加速している際に、例えば、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値F_flが上限値に達してしまい、制限がかかる場合には、左右の前輪13,14に対しては、駆動力および制動力にアンバランスが生じないことが優先されるが、後輪15,16に対しては、制限をかけることは必須ではない。そのため、このような場合には、例えば、右側の前輪14に対する補正係数β_frを"0”に設定し(すなわち、右側の前輪14に対する駆動力および制動力を、左側の前輪13に対する駆動力および制動力に合わせる)、左側の後輪15に対する補正係数β_rl、および、右側の後輪16に対する補正係数β_rrを、共に、“1.0”に設定してもよい(すなわち、左右の後輪15,16に対する駆動力および制動力の目標値F_rl,F_rrは補正しない)。
【0043】
更に、車両Veが高速で走行している場合は、大きな補正値で制限をかけると、車両挙動のバランスを崩しやすいので、下記の表1(マップ)に示すように、車速が高いほど値が小さくなるように、補正係数β_**(すなわち、各補正係数β_fl,β_fr,β_rl,β_rr)をそれぞれ設定してもよい。
【表1】
【0044】
上記のようにして、ステップS4で、各車輪13,14,15,16に対する駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrがそれぞれ補正されると、ステップS3へ進み、補正された駆動力および制動力の各目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、制御目標値として出力される。したがって、この場合は、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、補正された、すなわち、制限された駆動力および制動力の各目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrを発生するように、車両Veが制御される。そして、その後、この図3のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0045】
図5のフローチャートは、四つの車輪13,14,15,16のうちのいずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪13,14,15,16に作用する駆動力または制動力(前後方向の力)の制御入力値、および、車両Veに作用するモーメントの制御入力値に対して制限をかける制御例を示している。なお、以下でフローチャートに示して説明する制御例において、上述した図3のフローチャート、あるいは、既出のフローチャートで示した制御ステップと制御内容が同じステップについては、図3のフローチャート、あるいは、既出のフローチャートで用いたステップ番号と同じステップ番号を付けてある。
【0046】
この図5のフローチャートに示す制御例では、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが、目標値の上限値以上である、または、駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが、目標値の下限値よりも小さい、すなわち、算出された駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrのいずれかが上下限に当たることにより、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS11へ進む。
【0047】
ステップS11では、各車輪13,14,15,16に対する駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrを算出する際の入力値(Fx,Mx,My,Mz)、すなわち、車両Veに作用する力の入力値(Fx)、および、車両Veに作用するモーメントの入力値(Mx,My,Mz)が、それぞれ、補正される。
【0048】
具体的には、車両Veに作用する前後方向の力(前後力)の入力値Fxが、
Fx=前回_Fx+ΔFx×γ_Fx
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔFxは、今回のルーチンで算出された前後力の入力値Fxと、前回のルーチンで算出された前後力の入力値Fxとの差分である。そして、γ_Fxは、前後力の入力値Fxに対する補正係数である。この補正係数γ_Fxは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Fxとして設定される。
【0049】
同様に、車両Veに作用するロールモーメントの入力値Mxが、
Mx=前回_Mx+ΔMx×γ_Mx
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMxは、今回のルーチンで算出されたロールモーメントの入力値Mxと、前回のルーチンで算出されたロールモーメントの入力値Mxとの差分である。そして、γ_Mxは、ロールモーメントの入力値Mxに対する補正係数である。この補正係数γ_Mxは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Mxとして設定される。
【0050】
同様に、車両Veに作用するピッチモーメントの入力値Myが、
My=前回_My+ΔMy×γ_My
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMyは、今回のルーチンで算出されたピッチモーメントの入力値Myと、前回のルーチンで算出されたピッチモーメントの入力値Myとの差分である。そして、γ_Myは、ピッチモーメントの入力値Myに対する補正係数である。この補正係数γ_Myは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Myとして設定される。
【0051】
同様に、車両Veに作用するヨーモーメントの入力値Mzが、
Mz=前回_Mz+ΔMz×γ_Mz
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMzは、今回のルーチンで算出されたヨーモーメントの入力値Mzと、前回のルーチンで算出されたヨーモーメントの入力値Mzとの差分である。そして、γ_Mzは、ヨーモーメントの入力値Mzに対する補正係数である。この補正係数γ_Mzは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Mzとして設定される。
【0052】
なお、上記の各補正係数γ_Fx,γ_Mx,γ_My,γ_Mzは、車両Veの走行状態や走行環境などに応じて変更してもよい。例えば、車両Veが危険回避モードで運転されている際に、いずれかの車輪の駆動力および制動力に制限がかかった場合は、他の車輪の駆動力および制動力を変化させると、かえって不安定な状態になる可能性があるので、このような場合には、各補正係数γ_Fx,γ_Mx,γ_My,γ_Mzは、いずれも、“0”に設定する。
【0053】
また、車両Veが高速で走行している場合は、大きな補正値で制限をかけると、車両挙動のバランスを崩しやすいので、下記の表2(マップ)に示すように、車速が高いほど値が小さくなるように、補正係数γ_**(すなわち、各補正係数γ_Fx,γ_Mx,γ_My,γ_Mz)をそれぞれ設定してもよい。
【表2】
【0054】
次いで、ステップS12では、補正された入力値Fx,Mx,My,Mzに基づいて、各車輪13,14,15,16に対する駆動力および制動力の目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが算出される。ここでは、前述した図3のフローチャートにおけるステップS1と同様の制御内容で、新たに、目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが算出される。
【0055】
上記のようにして、ステップS12で、各車輪13,14,15,16に対する駆動力および制動力の各目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrがそれぞれ算出されると、ステップS3へ進み、新たに算出された駆動力および制動力の各目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrが、制御目標値として出力される。したがって、この場合は、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、補正された、すなわち、制限された各入力値Fx,Mx,My,Mzに基づいて算出された駆動力および制動力の各目標値F_fl,F_fr,F_rl,F_rrを発生するように、車両Veが制御される。そして、その後、この図5のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0056】
図6のフローチャートは、四つの車輪13,14,15,16のうちのいずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪13,14,15,16に作用する三軸方向の力の制御目標値に対して制限をかける制御例を示している。先ず、ステップS21では、車両Veに作用する力およびモーメントの入力値(Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mz)から、各車輪13,14,15,16で発生させる三軸方向の力の目標値(Fx_**,Fy_**,Fz_**)が算出される。
【0057】
図4の(a)に示すように、入力値Fxは、車両Veの重心Cgに作用する前後方向(x軸方向)の力である。また、入力値Fyは、車両Veの重心Cgに作用する横方向(y軸方向)の力である。そして、入力値Fzは、車両Veの重心Cgに作用する上下方向(z軸方向)の力である。一方、入力値Mxは、車両Veに作用するロール方向のモーメント(ロールモーメント)である。また、入力値Myは、車両Veに作用するピッチ方向のモーメント(ピッチモーメント)である。そして、入力値Mzは、車両Veに作用するヨーイング方向のモーメント(ヨーモーメント)である。
【0058】
そして、図4の(b)に示すように、各車輪13,14,15,16に作用する三軸方向の力の目標値Fx_**(すなわち、目標値Fx_fl,Fx_fr,Fx_rl,Fx_rr)、目標値Fy_**(すなわち、目標値Fy_fl,Fy_fr,Fy_rl,Fy_rr)、および、目標値Fz_**(すなわち、目標値Fz_fl,Fz_fr,Fz_rl,Fz_rr)は、従来と同様の手法、あるいは、従来と同様の考え方に基づいて算出できる。すなわち、前述した図3のフローチャートにおけるステップS1と同様に、また、前述した特許文献1の明細書で開示されている演算手法と同様にして、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**をそれぞれ算出できる。
【0059】
次いで、ステップS22では、算出された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが上下限に当たるか否かが判断される。具体的には、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが、予め定めた目標値の上限値以上であるか否か、または、予め定めた目標値の下限値よりも小さいか否か、が判断される。
【0060】
各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、いずれも、目標値の上限値よりも小さい、かつ、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、いずれも、目標値の下限値以上である、すなわち、算出された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれも上下限に当たらないことにより、このステップS22で否定的に判断された場合は、ステップS23へ進む。
【0061】
ステップS23では、算出された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、制御目標値として出力される。したがって、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**を発生するように、車両Veが制御される。その後、この図6のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0062】
これに対して、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが、目標値の上限値以上である、または、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが、目標値の下限値よりも小さい、すなわち、算出された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが上下限に当たることにより、上記のステップS22で肯定的に判断された場合には、ステップS24へ進む。
【0063】
ステップS24では、三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、それぞれ、補正される。すなわち、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のうち、目標値の上限値以上となる、または、目標値の下限値よりも小さくなることによって制限される状態であるいずれかの目標値の補正量(補正係数、制限量)に応じて、制限される状態ではない他の目標値も、同レベルの補正量(補正係数、制限量)で補正される。
【0064】
具体的には、各車輪13,14,15,16に対する前後方向の力(前後力)の目標値Fx_**が、
Fx_**=Fx_**_Min≦前回_Fx_**+ΔFx_**×βx_**<Fx_**_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、Fx_**_Minは、各車輪13,14,15,16に対する前後方向の力の目標値Fx_**の下限値であり、Fx_**_Maxは、各車輪13,14,15,16に対する前後方向の力の目標値Fx_**の上限値である。それら下限値Fx_**_Minおよび上限値Fx_**_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔFx_**は、今回のルーチンで算出された目標値Fx_**と、前回のルーチンで算出された目標値Fx_**との差分である。そして、βx_**は、各車輪13,14,15,16に対する前後方向の力の目標値Fx_**に対する補正係数である。この補正係数βx_**は、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数βx_**として設定される。
【0065】
同様に、各車輪13,14,15,16に対する横方向の力(横力)の目標値Fy_**が、
Fy_**=Fy_**_Min≦前回_Fy_**+ΔFy_**×βy_**<Fy_**_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、Fy_**_Minは、各車輪13,14,15,16に対する横方向の力の目標値Fy_**の下限値であり、Fy_**_Maxは、各車輪13,14,15,16に対する横方向の力の目標値Fy_**の上限値である。それら下限値Fy_**_Minおよび上限値Fy_**_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔFy_**は、今回のルーチンで算出された目標値Fy_**と、前回のルーチンで算出された目標値Fy_**との差分である。そして、βy_**は、各車輪13,14,15,16に対する横方向の力の目標値Fy_**に対する補正係数である。この補正係数βy_**は、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数βy_**として設定される。
【0066】
同様に、各車輪13,14,15,16に対する上下方向の力(接地荷重)の目標値Fz_**が、
Fz_**=Fz_**_Min≦前回_Fz_**+ΔFz_**×βz_**<Fz_**_Max
の演算式に基づいて補正される。ここで、Fz_**_Minは、各車輪13,14,15,16に対する上下方向の力の目標値Fz_**の下限値であり、Fz_**_Maxは、各車輪13,14,15,16に対する上下方向の力の目標値Fz_**の上限値である。それら下限値Fz_**_Minおよび上限値Fz_**_Maxは、それぞれ、例えば、実車による走行実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。また、ΔFz_**は、今回のルーチンで算出された目標値Fz_**と、前回のルーチンで算出された目標値Fz_**との差分である。そして、βz_**は、各車輪13,14,15,16に対する上下方向の力の目標値Fz_**に対する補正係数である。この補正係数βz_**は、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数βz_**として設定される。
【0067】
なお、上記の各補正係数βx_**,βy_**,βz_**は、車両Veの走行状態や走行環境などに応じて変更してもよい。例えば、車両Veが危険回避モードで運転されている際に、いずれかの車輪の駆動力および制動力に制限がかかった場合は、他の車輪の駆動力および制動力を変化させると、かえって不安定な状態になる可能性があるので、このような場合には、各補正係数βx_**,βy_**,βz_**は、いずれも、“0”に設定する。また、車両Veが直進走行で加速している際に、例えば、左側の前輪13に対する駆動力および制動力の目標値Fx_flが上限値に達してしまい、制限がかかる場合には、左右の前輪13,14に対しては、駆動力および制動力にアンバランスが生じないことが優先されるが、後輪15,16のに駆動力および制動力や、舵角に対しては、制限をかけることは必須ではない。そのため、このような場合には、例えば、右側の前輪14に対する補正係数βx_frを“0”に設定し(すなわち、右側の前輪14に対する駆動力および制動力を、左側の前輪13に対する駆動力および制動力に合わせる)、それ以外の補正係数βx_rl,βx_rr,βy_**,βz_**を、いずれも、“1.0”に設定してもよい(すなわち、左右の後輪15,16に対する前後方向の力の目標値Fx_rl,Fx_rr、ならびに、各車輪13,14,15,16に対する横方向および上下方向の目標値Fy_fl,Fy_fr,Fy_rl,Fy_rr,Fz_fl,Fz_fr,Fz_rl,Fz_rrは補正しない)。
【0068】
更に、車両Veが高速で走行している場合は、大きな補正値で制限をかけると、車両挙動のバランスを崩しやすいので、下記の表3(マップ)に示すように、車速が高いほど値が小さくなるように、補正係数βx_**,βy_**,βz_**をそれぞれ設定してもよい。
【表3】
【0069】
上記のようにして、ステップS24で、各車輪13,14,15,16に対する三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**がそれぞれ補正されると、ステップS23へ進み、補正された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、制御目標値として出力される。したがって、この場合は、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、補正された、すなわち、制限された三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**を発生するように、車両Veが制御される。そして、その後、この図6のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0070】
図7のフローチャートは、四つの車輪13,14,15,16のうちのいずれか一つの車輪に対して制限がかかる場合に、各車輪13,14,15,16に作用する三軸方向の力の制御入力値、および、車両Veに作用するモーメントの制御入力値に対して制限をかける制御例を示している。
【0071】
この図7のフローチャートに示す制御例では、各車輪13,14,15,16に作用する三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが、目標値の上限値以上である、または、各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが、目標値の下限値よりも小さい、すなわち、算出された各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**のいずれかが上下限に当たることにより、ステップS22で肯定的に判断された場合には、ステップS31へ進む。
【0072】
ステップS31では、各車輪13,14,15,16に対する三軸方向の力の目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**を算出する際の入力値Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzが、それぞれ、補正される。
【0073】
具体的には、車両Veに作用する前後方向の力の入力値Fxが、
Fx=前回_Fx+ΔFx×γ_Fx
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔFxは、今回のルーチンで算出された前後方向の力の入力値Fxと、前回のルーチンで算出された前後方向の力の入力値Fxとの差分である。そして、γ_Fxは、前後方向の力の入力値Fxに対する補正係数である。この補正係数γ_Fxは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Fxとして設定される。
【0074】
同様に、車両Veに作用する横方向の力の入力値Fyが、
Fy=前回_Fy+ΔFy×γ_Fy
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔFyは、今回のルーチンで算出された横方向の力の入力値Fyと、前回のルーチンで算出された横方向の力の入力値Fyとの差分である。そして、γ_Fyは、横方向の力の入力値Fyに対する補正係数である。この補正係数γ_Fyは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Fyとして設定される。
【0075】
同様に、車両Veに作用する上下方向の力の入力値Fzが、
Fz=前回_Fz+ΔFz×γ_Fz
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔFzは、今回のルーチンで算出された上下方向の力の入力値Fzと、前回のルーチンで算出された上下方向の力の入力値Fzとの差分である。そして、γ_Fzは、上下方向の力の入力値Fzに対する補正係数である。この補正係数γ_Fzは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Fzとして設定される。
【0076】
同様に、車両Veに作用するロールモーメントの入力値Mxが、
Mx=前回_Mx+ΔMx×γ_Mx
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMxは、今回のルーチンで算出されたロールモーメントの入力値Mxと、前回のルーチンで算出されたロールモーメントの入力値Mxとの差分である。そして、γ_Mxは、ロールモーメントの入力値Mxに対する補正係数である。この補正係数γ_Mxは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Mxとして設定される。
【0077】
同様に、車両Veに作用するピッチモーメントの入力値Myが、
My=前回_My+ΔMy×γ_My
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMyは、今回のルーチンで算出されたピッチモーメントの入力値Myと、前回のルーチンで算出されたピッチモーメントの入力値Myとの差分である。そして、γ_Myは、ピッチモーメントの入力値Myに対する補正係数である。この補正係数γ_Myは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Myとして設定される。
【0078】
同様に、車両Veに作用するヨーモーメントの入力値Mzが、
Mz=前回_Mz+ΔMz×γ_Mz
の演算式に基づいて補正される。ここで、ΔMzは、今回のルーチンで算出されたヨーモーメントの入力値Mzと、前回のルーチンで算出されたヨーモーメントの入力値Mzとの差分である。そして、γ_Mzは、ヨーモーメントの入力値Mzに対する補正係数である。この補正係数γ_Mzは、0から1.0までの範囲の数値であり、制限される状態であるいずれかの目標値の制限レベルに応じて設定される。例えば、制限される状態であるいずれかの目標値の制限値(係数)に近似する数値が、補正係数γ_Mzとして設定される。
【0079】
なお、上記の各補正係数γ_Fx,γ_Fy,γ_Fz,γ_Mx,γ_My,γ_Mzは、車両Veの走行状態や走行環境などに応じて変更してもよい。例えば、車両Veが危険回避モードで運転されている際に、いずれかの車輪の駆動力および制動力に制限がかかった場合は、他の車輪の駆動力および制動力を変化させると、かえって不安定な状態になる可能性があるので、このような場合には、各補正係数γ_Fx,γ_Fy,γ_Fz,γ_Mx,γ_My,γ_Mzは、いずれも、“0”に設定する。
【0080】
また、車両Veが高速で走行している場合は、大きな補正値で制限をかけると、車両挙動のバランスを崩しやすいので、下記の表4(マップ)に示すように、車速が高いほど値が小さくなるように、補正係数γ_*(すなわち、各補正係数γ_Fx,γ_Fy,γ_Fz,γ_Mx,γ_My,γ_Mz)をそれぞれ設定してもよい。
【表4】
【0081】
次いで、ステップS32では、補正された入力値Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzに基づいて、各車輪13,14,15,16に対する三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が算出される。ここでは、前述した図3のフローチャートにおけるステップS1と同様の制御内容で、新たに、目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が算出される。
【0082】
上記のようにして、ステップS32で、各車輪13,14,15,16に対する三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**がそれぞれ算出されると、ステップS23へ進み、新たに算出された三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**が、制御目標値として出力される。したがって、この場合は、各車輪13,14,15,16で、それぞれ、補正された、すなわち、制限された各入力値Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzに基づいて算出された三軸方向の力の各目標値Fx_**,Fy_**,Fz_**を発生するように、車両Veが制御される。そして、その後、この図7のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0083】
図8のフローチャートは、前後・二系統の電源装置5,6のうちの一方の電源装置(バッテリ)に対して制限がかかる場合に、他方の電源装置(バッテリ)に接続するモータに対して制限をかけ、前後輪13,14,15,16のトルク配分を維持するようにした制御例を示している。先ず、ステップS41では、Fr電池温度が所定値A以上であるか否か、すなわち、前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、所定値A以上であるか否か、が判断される。所定値Aは、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であるか否かを判断するための閾値であり、例えば、実機による運転実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。第1電源装置5におけるバッテリの温度が所定値A以上である場合に、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断される。
【0084】
前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度が、所定値Aよりも低いことにより、このステップS41で否定的に判断された場合、すなわち、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態ではないと判断された場合は、ステップS42へ進む。
【0085】
ステップS42では、Rr電池温度が所定値B以上であるか否か、すなわち、後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度が、所定値B以上であるか否か、が判断される。所定値Bは、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であるか否かを判断するための閾値であり、例えば、実機による運転実験やシミュレーション等の結果を基に予め設定されている。第2電源装置6におけるバッテリの温度が所定値B以上である場合に、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断される。
【0086】
後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度が、所定値Bよりも低いことにより、このステップS42で否定的に判断された場合、すなわち、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態ではないと判断された場合は、以降の制御を実行することなく、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0087】
これに対して、前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度が、所定値A以上であることにより、上記のステップS41で肯定的に判断された場合、すなわち、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断された場合には、ステップS43へ進む。
【0088】
ステップS43では、Frモータトルク上限値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第1電源装置5に接続する、前輪13,14側の第1モータ1の出力トルクの上限値が算出される。例えば、図9に示すような、「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップから、第1モータ1の出力トルクの上限値を求めることができる。
【0089】
ステップS44では、前後分配要求値が算出される。ここで、前後分配要求値は、前輪13,14側の駆動トルクと、後輪15,16側の駆動トルクとの配分比を決めるものであり、今回のルーチンで求められる、前輪13,14側の第1モータ1の出力トルク(Frモータトルク)と、後輪15,16側の第2モータ2の出力トルク(Rrモータトルク)と比率である。すなわち、前後分配要求値は、
前後分配要求値=Frモータトルク÷Rrモータトルク
として算出される。
【0090】
ステップS45では、Rrモータトルク補正値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態ではない第2電源装置6に接続する、後輪15,16側の第2モータ2の出力トルクに対する補正値(または、制限値)が算出される。具体的には、上記の各ステップで算出されたFrモータトルク上限値および前後分配要求値から、Rrモータトルク補正値は、
Rrモータトルク補正値=Frモータトルク上限値÷前後分配要求値
として算出される。それとともに、算出されたRrモータトルク補正値に基づいて、第2モータ2の出力トルクが補正される。すなわち、第2モータ2の出力が制限される。そして、その後、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0091】
一方、後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、所定値B以上であることにより、前述のステップS42で肯定的に判断された場合、すなわち、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断された場合には、ステップS46へ進む。
【0092】
ステップS46では、Rrモータトルク上限値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第2電源装置6に接続する、後輪15,16側の第2モータ2の出力トルクの上限値が算出される。例えば、図9に示すような、「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップから、第2モータ2の出力トルクの上限値を求めることができる。
【0093】
ステップS47では、前後分配要求値が算出される。この前後分配要求値は、前述のステップS43で算出される前後分配要求値と同じものであり、したがって、前後分配要求値は、
前後分配要求値=Frモータトルク÷Rrモータトルク
として算出される。
【0094】
ステップS48では、Frモータトルク補正値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態ではない第1電源装置5に接続する、前輪13,14側の第1モータ1の出力トルクに対する補正値(または、制限値)が算出される。具体的には、上記の各ステップで算出されたRrモータトルク上限値および前後分配要求値から、Frモータトルク補正値は、
Frモータトルク補正値=Rrモータトルク上限値×前後分配要求値
として算出される。それとともに、算出されたFrモータトルク補正値に基づいて、第1モータ1の出力トルクが補正される。すなわち、第1モータ1の出力が制限される。そして、その後、この図8のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0095】
上記のようにして、前後・二系統の電源装置5,6のうちの一方の電源装置(バッテリ)に対して制限がかかる場合に、他方の電源装置(バッテリ)に接続するモータの出力が制限することにより、前後輪13,14,15,16のトルク配分が維持される。例えば、図10に示すように、前輪13,14側(Fr)の駆動力と、後輪15,16側(Rr)の駆動力との比率、すなわち、前後分配が、“40:60”である状態で、後輪15,16側(Rr)の駆動力の比率が“40”に制限された場合には、前輪13,14側(Fr)の駆動力の比率が“26”に制限される。これにより、第1モータ1と第2モータ2とを併せたアクチュエータ全体としての総出力は低下するものの、前輪13,14と後輪15,16との間の駆動力のバランスが崩れることによって車両挙動が不安定になってしまうような事態を回避もしくは抑制できる。
【0096】
図11図12のフローチャートは、車両Veの旋回走行中、あるいは、車両Veが所定の舵角以上で操舵されている際に、前後・二系統の電源装置5,6のうちの一方の電源装置(バッテリ)に対して制限がかかる場合に、他方の電源装置(バッテリ)に接続するモータに対する制御内容を補正し、図13に示すように、車両Veの車体に作用するヨーレートを維持するようにした制御例を示している。先ず、図11のフローチャートに示すステップS51では、ヨーレート値α(目標値)が検出される。車両Veのヨーレートを維持するように制御するために、ここでは、ヨーレート値αが、制御の目標値あるいは基準値として検出もしくは算出される。
【0097】
ステップS52では、Fr電池温度が所定値A以上であるか否か、すなわち、前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、所定値A以上であるか否か、が判断される。前述の図8のフローチャートにおけるステップS41と同様に、所定値Aは、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であるか否かを判断するための閾値である。第1電源装置5におけるバッテリの温度が所定値A以上である場合に、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断される。
【0098】
前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度が、所定値Aよりも低いことにより、このステップS52で否定的に判断された場合、すなわち、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態ではないと判断された場合は、ステップS53へ進む。
【0099】
ステップS53では、Rr電池温度が所定値B以上であるか否か、すなわち、後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、所定値B以上であるか否か、が判断される。前述の図8のフローチャートにおけるステップS42と同様に、所定値Bは、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であるか否かを判断するための閾値である。第2電源装置6におけるバッテリの温度が所定値B以上である場合に、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断される。
【0100】
後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度が、所定値Bよりも低いことにより、このステップS53で否定的に判断された場合、すなわち、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態ではないと判断された場合は、以降の制御を実行することなく、この図11図12のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0101】
これに対して、前輪13,14側の第1電源装置5におけるバッテリの温度が、所定値A以上であることにより、上記のステップS52で肯定的に判断された場合、すなわち、第1電源装置5の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断された場合には、ステップS54へ進む。
【0102】
ステップS54では、Frモータトルク上限値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第1電源装置5に接続する(前輪13,14側の)第1モータ1の出力トルクの上限値が算出される。例えば、前述の図9に示すような、「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップから、第1モータ1の出力トルクの上限値を求めることができる。
【0103】
ステップS55では、Frモータトルクが所定値減算される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第1電源装置5に接続する(前輪13,14側の)第1モータ1の出力トルクが、上記のステップS54で算出された上限値を下回るように低下させられる。
【0104】
ステップS56では、ヨーレート値β(現在値)が検出される。ここでは、上記のように第1モータ1の出力トルクが上限値まで低下させられることによって変化する車両Veのヨーレートの最新の値(ヨーレート値β)が検出される。低下される第1モータ1の出力トルクに基づいて、推定して算出されてもよい。
【0105】
ステップS57では、ヨーレート値βがヨーレート値αよりも大きいか否かが判断される。すなわち、車両Veの旋回中あるいは操舵中に、第1モータ1の出力トルクが低下したことによって、車両Veのヨーレートが増大したか否かが判断される。
【0106】
ヨーレート値βがヨーレート値αよりも大きいこと、すなわち、車両Veのヨーレートが増大したことにより、このステップS57で肯定的に判断された場合は、ステップS58へ進む。
【0107】
ステップS58では、外輪トルクが所定値減算され、かつ、内輪トルクが所定値加算される。すなわち、増大した(増大する)ヨーレートを、当初のヨーレート(ヨーレート値α)に維持するため、旋回中の車両Veの外輪になる車輪13,15(または、車輪14,16)の出力トルクが低下させられる。それとともに、旋回中の車両Veの内輪になる車輪14,16(または、車輪13,15)の出力トルクが増大させられる。その後、前述のステップS56に戻り、そのステップS56以降の従前の制御が実行される。
【0108】
そして、ヨーレート値βがヨーレート値α以下であること、すなわち、車両Veのヨーレートは増大していないことにより、上記のステップS57で否定的に判断された場合には、ステップS59へ進む。要するに、第1モータ1の出力トルクが上限値に向けて低下させられたことにより、車両Veのヨーレート(ヨーレート値β)が増大した際には、その増大分が再び低下するまで、上記のステップS58の制御が繰り返される。
【0109】
ステップS59では、Frモータトルクが上限値に到達したか否かが判断される。すなわち、第1電源装置5が出力制限される(または、出力制限された)状態であることにより、上記のステップS54で上限値が設定された第1モータ1に対して、その出力トルクが上限値まで低下したか否かが判断される。
【0110】
未だ、Frモータトルクが上限値に到達していないこと、すなわち、第1モータ1の出力トルクが、上記のステップS54で設定した上限値を上回っていることにより、このステップS59で否定的に判断された場合は、前述のステップS55に戻り、そのステップS55以降の従前の制御が実行される。
【0111】
これに対して、Frモータトルクが上限値に到達したこと、すなわち、第1モータ1の出力トルクが、上記のステップS54で設定した上限値以下になったことにより、ステップS59で肯定的に判断された場合には、ステップS60へ進む。
【0112】
ステップS60では、内外輪モータトルクが決定される。また、モータトルクの左右分配が決定される。すなわち、第1モータ1の出力トルクが上限値で制限された状態で、旋回中の車両Veの外輪になる車輪13,15(または、車輪14,16)の出力トルク、および、旋回中の車両Veの内輪になる車輪14,16(または、車輪13,15)の出力トルク、ならびに、それら左右の車輪(車輪13,15と、車輪14,16と)のトルク配分比が確定する。そして、それに基づいて各モータ1,2、および、各トルクベクタリング装置3,4が制御される。そして、その後、この図11図12のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0113】
一方、後輪15,16側の第2電源装置6におけるバッテリの温度が、所定値B以上であることにより、上記のステップS53で肯定的に判断された場合、すなわち、第2電源装置6の出力が制限される(または、制限された)状態であると判断された場合には、図12のフローチャートに示すステップS61へ進む。
【0114】
ステップS61では、Rrモータトルク上限値が算出される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第2電源装置6に接続する(後輪15,16側の)第2モータ2の出力トルクの上限値が算出される。例えば、前述の図9に示すような、「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップから、第2モータ2の出力トルクの上限値を求めることができる。
【0115】
ステップS62では、Rrモータトルクが所定値減算される。すなわち、出力が制限される(または、制限された)状態である第2電源装置6に接続する(後輪15,16側の)第2モータ2の出力トルクが、上記のステップS61で算出された上限値を下回るように低下させられる。
【0116】
ステップS63では、ヨーレート値γ(現在値)が検出される。ここでは、上記のように第2モータ2の出力トルクが上限値まで低下させられることによって変化する車両Veのヨーレートの最新の値(ヨーレート値γ)が検出される。低下される第2モータ2の出力トルクに基づいて、推定して算出されてもよい。
【0117】
ステップS64では、ヨーレート値γがヨーレート値αよりも小さいか否かが判断される。すなわち、車両Veの旋回中あるいは操舵中に、第2モータ2の出力トルクが低下したことによって、車両Veのヨーレートが減少したか否かが判断される。
【0118】
ヨーレート値γがヨーレート値αよりも小さいこと、すなわち、車両Veのヨーレートが減少したことにより、このステップS64で肯定的に判断された場合は、ステップS65へ進む。
【0119】
ステップS65では、外輪トルクが所定値加算され、かつ、内輪トルクが所定値減算される。すなわち、減少した(減少する)ヨーレートを、当初のヨーレート(ヨーレート値α)に維持するため、旋回中の車両Veの外輪になる車輪13,15(または、車輪14,16)の出力トルクが増大させられる。それとともに、旋回中の車両Veの内輪になる車輪14,16(または、車輪13,15)の出力トルクが低下させられる。その後、前述のステップS63に戻り、そのステップS63以降の従前の制御が実行される。
【0120】
そして、ヨーレート値γがヨーレート値α以上であること、すなわち、車両Veのヨーレートは減少していないことにより、上記のステップS64で否定的に判断された場合には、ステップS66へ進む。要するに、第2モータ2の出力トルクが上限値に向けて低下させられたことにより、車両Veのヨーレート(ヨーレート値β)が減少した際には、その減少分が再び増大するまで、上記のステップS65の制御が繰り返される。
【0121】
ステップS66では、Rrモータトルクが上限値に到達したか否かが判断される。すなわち、第2電源装置6が出力制限される(または、出力制限された)状態であることにより、上記のステップS61で上限値が設定された第2モータ2に対して、その出力トルクが上限値まで低下したか否かが判断される。
【0122】
未だ、Frモータトルクが上限値に到達していないこと、すなわち、第2モータ2の出力トルクが、上記のステップS61で設定した上限値を上回っていることにより、このステップS66で否定的に判断された場合は、前述のステップS62に戻り、そのステップS62以降の従前の制御が実行される。
【0123】
これに対して、Frモータトルクが上限値に到達したこと、すなわち、第2モータ2の出力トルクが、上記のステップS61で設定した上限値以下になったことにより、ステップS66で肯定的に判断された場合には、ステップS67へ進む。
【0124】
ステップS67では、内外輪モータトルクが決定される。また、モータトルクの左右分配が決定される。すなわち、第2モータ2の出力トルクが上限値で制限された状態で、旋回中の車両Veの外輪になる車輪13,15(または、車輪14,16)の出力トルク、および、旋回中の車両Veの内輪になる車輪14,16(または、車輪13,15)の出力トルク、ならびに、それら左右の車輪(車輪13,15と、車輪14,16と)のトルク配分比が確定する。そして、それに基づいて各モータ1,2、および、各トルクベクタリング装置3,4が制御される。そして、その後、この図11図12のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0125】
図14のフローチャートは、“電池制約までの余裕が少ない状態”で、電源装置(バッテリ)の状態に応じて“制約(制限)対応モード”を変更する制御例を示している。すなわち、この図14のフローチャートで示す制御は、第1電源装置5、または、第2電源装置6が、“電池制約までの余裕が少ない状態”である場合に実行される。“電池制約までの余裕が少ない状態”とは、第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、第1電源装置5の出力が制限される温度、すなわち、前述の所定値Aに近い温度まで上昇している状態、および、第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、第2電源装置6の出力が制限される温度、すなわち、前述の所定値Bに近い温度まで上昇している状態である。例えば、第1電源装置5におけるバッテリの温度、または、第2電源装置6におけるバッテリの温度が、図15に示すような、「電池温度-トルク上限値特性」に基づいて設定されるマップで、“準備エリア”として示す温度領域内にある場合に、“電池制約までの余裕が少ない状態”であると判断される。
【0126】
図14のフローチャートにおいて、先ず、ステップS71では、Fr電池温度準備エリアであるか否かが判断される。すなわち、第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、図15に示すマップで、“準備エリア”の温度領域まで上昇しているか否かが判断される。
【0127】
未だ、Fr電池温度準備エリアでないこと、すなわち、第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、“準備エリア”の温度領域まで上昇していないことにより、このステップS71で否定的に判断された場合は、ステップS72へ進む。
【0128】
ステップS72では、Rr電池温度準備エリアであるか否かが判断される。すなわち、第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、図15に示すマップで、“準備エリア”の温度領域まで上昇しているか否かが判断される。
【0129】
未だ、Rr電池温度準備エリアでないこと、すなわち、第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、“準備エリア”の温度領域まで上昇していないことにより、この ステップS72で否定的に判断された場合は、ステップS73へ進む。
【0130】
ステップS73では、“通常モード”が設定される。すなわち、車両Veの走行モードが、いずれの電源装置5,6も出力が制限される状態ではない通常時の走行モードに設定される。“通常モード”では、前述の図11図12で示したようなヨーレート制御を実行する際に、前輪13,14側と後輪15,16側とに分けて行う前後分配型、および、左側の車輪13,15と右側の車輪14,16とに分けて行う左右分配型のいずれかが選択される。この発明の実施形態における車両Veでは、前後分配型は、第1電源装置5と第2電源装置6との間を跨いで、駆動力を分配する。左右分配型は、第1電源装置5と第2電源装置6との間を跨がずに、駆動力を分配する。
【0131】
この“通常モード”では、上記のような前後分配型と左右分配型とが、車両Veの走行状態等に応じて、適宜、選択される。通常、車両が加速または減速しながら旋回走行する際には、車両の動荷重が前後方向に移動する。そのため、荷重の大きいほうがグリップ力が強くなり、路面に駆動力または制動力をより多く伝達できる。また、コーナーへの進入の際には、後輪駆動寄りの駆動力配分とすることによって車両のアンダーステアを抑制し、コーナーの途中以降では、車両のオーバーステアを抑制するために、前輪駆動寄りの駆動力配分として、車両挙動を安定させる制御技術が、従来知られている。このステップS73で、“通常モード”が設定されると、その後、この図14のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0132】
これに対して、Fr電池温度準備エリアであること、すなわち、第1電源装置5におけるバッテリの温度(電池温度)が、“準備エリア”の温度領域まで上昇していることにより、上記のステップS71で肯定的に判断された場合には、ステップS74へ進む。
【0133】
ステップS74では、“制約対応モード”が設定される。“制約対応モード”では、前述の図11図12で示したようなヨーレート制御を実行する際に、主として、左右分配型が選択され、従属的に、前後分配型が選択される。すなわち、主に、第1電源装置5と第2電源装置6との間を跨がずに駆動力を分配する状態で、ヨーレート制御が実行される。その後、この図14のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0134】
また、Rr電池温度準備エリアであること、すなわち、第2電源装置6におけるバッテリの温度(電池温度)が、“準備エリア”の温度領域まで上昇していることにより、上記のステップS72で肯定的に判断された場合には、ステップS75へ進む。
【0135】
ステップS74では、上記のステップS74と同様に、“制約対応モード”が設定される。そして、その後、この図14のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。
【0136】
このように、この図14のフローチャートで示す制御では、車両Veが旋回走行する際に、制約を受けると予想される電源系統の分配トルクを低下させることが可能なヨーレート制御のモードに、事前に切り替えておくことができる。そのため、車両Veが旋回を開始した後に、スムーズで安定性の高い車両挙動を実現することができる。
【0137】
以上のように、この発明の実施形態における車両の制御装置では、この発明の車両の制御装置では、いずれか一つの、あるいは、一部のアクチュエータ(例えば、第1モータ1、または、第2モータ2)の出力または動作が制限される状態である場合には、出力または動作が制限される状態ではない他のアクチュエータも併せて、その出力または動作を制限する。例えば、何らかの制約条件や温度条件、あるいは、フェールの発生等によって、いずれか一つのアクチュエータ(例えば、第1モータ1)の出力または動作が制限される状態である場合(または、制限された状態である)場合は、その出力または動作が制限される状態であるアクチュエータ(第1モータ1)と共に制御される、正常な、すなわち、出力または動作が制限される状態ではない他のアクチュエータ(例えば、第2モータ2)の出力または動作が、出力または動作が制限される状態であるアクチュエータ(第1モータ1)と同程度に制限される。そのため、アクチュエータ全体としての総出力は低下するものの、車輪13,14,15,16ごとの駆動力や制動力等のバランスが崩れることによって車両挙動が不安定になってしまうような事態を回避もしくは抑制できる。したがって、この発明の実施形態における車両の制御装置によれば、いずれかのアクチュエータ(第1モータ1、または、第2モータ2)の出力または動作のみが制限される状態である場合に、車両挙動を制御する駆動力や制動力等のバランスが崩れてしまうことを抑制し、適切に車両挙動を制御することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 第1モータ(MG;アクチュエータ)
2 第2モータ(MG;アクチュエータ)
3 第1トルクベクタリング装置(TVD;アクチュエータ)
4 第2トルクベクタリング装置(TVD;アクチュエータ)
4a(第2トルクベクタリング装置の)遊星歯車機構
4b(第2トルクベクタリング装置の)反転ギヤ機構
4c(第2トルクベクタリング装置の)反転ギヤ機構
4d(第2トルクベクタリング装置の)入力ギヤ機構
4e(第2トルクベクタリング装置の)差動制御用モータ
4f(第2トルクベクタリング装置の)差動制限機構
5 第1電源装置(BAT;電源装置)
6 第3電源装置(BAT;電源装置)
7 第1ブレーキ装置(アクチュエータ)
8 第2ブレーキ装置(アクチュエータ)
9 第3ブレーキ装置(アクチュエータ)
10 第4ブレーキ装置(アクチュエータ)
11 検出部
11a(検出部の)アクセルポジションセンサ
11b(検出部の)ブレーキストロークセンサ(または、ブレーキスイッチ)
11c(検出部の)ステアリングセンサ(または、舵角センサ)
11d(検出部の)車輪速センサ
11e(検出部の)加速度センサ
11f(検出部の)ヨーレートセンサ
11g(検出部の)モータ回転数センサ(または、レゾルバ)
11h(検出部の)モータ温度センサ
11i(検出部の)モータトルクセンサ
11j(検出部の)バッテリ温度センサ
11k(検出部の)SOCセンサ
12 コントローラ(ECU)
13 前輪(fl;左側)
14 前輪(fr;右側)
15 後輪(rl;左側)
16 後輪(rr;右側)
17 電動パーキングブレーキ装置
18 オンボードブレーキ装置
Ve 車両
図1
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図3
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図10
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図15