(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】養液栽培システム及び養液栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20241016BHJP
【FI】
A01G31/00 601D
(21)【出願番号】P 2021024419
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡 隆英
(72)【発明者】
【氏名】寺田 圭一
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-108352(JP,U)
【文献】特開2019-146581(JP,A)
【文献】実開平2-70659(JP,U)
【文献】特開平4-20221(JP,A)
【文献】特開2017-175931(JP,A)
【文献】特開2020-36578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0230878(US,A1)
【文献】特開2014-161337(JP,A)
【文献】特開平11-89452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培ベッドと、栽培ベンチとを有する養液栽培システムにおいて、
該栽培ベンチは、上面に勾配を有しており、
該栽培ベッドが、該栽培ベンチの上面に設置されることで、前記栽培ベッドの底面が勾配を有し、
該栽培ベッドの底面に、勾配方向に延在した凸条が設けられ、該凸条の上面が略水平となっており、
該凸条の上面が養液中に没するように該栽培ベッドに養液を溜めるための堰が設けられていることを特徴とする養液栽培システム。
【請求項2】
前記堰により溜められる養液の液面のレベルと前記凸条の上面のレベルとの差が1~10mmである請求項1の養液栽培システム。
【請求項3】
前記凸条が複数列設けられている請求項1又は2の養液栽培システム。
【請求項4】
前記栽培ベッドの底面を覆う防水シートが設けられているが、親水性シートは設けられていない請求項1~3のいずれかの養液栽培システム。
【請求項5】
前記栽培ベッドの上に配置された、複数の植え穴を有する定植パネル板を備え、各植え穴が前記凸条の上方に位置する請求項1~4のいずれかの養液栽培システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの養液栽培システムを用いた養液栽培方法。
【請求項7】
請求項5の養液栽培システムを用いた養液栽培方法であって、前記定植パネル板の植え穴を通して苗根鉢を凸条上に配置し、栽培ベッドに溜めた養液に苗根鉢の下部を浸して植物の栽培を行う養液栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の養液栽培システムと、この養液栽培システムを用いた養液栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養液などを使用する水耕栽培によって葉菜類や果菜類の栽培を行うことが試みられている。水耕栽培は、天候に左右されない安定した野菜の生産が可能であり、栽培場所が限定されない、肥料の流出が少ない栽培が可能であるなどのメリットを有している。
【0003】
水耕栽培装置として、流水勾配を有するように傾斜配置された栽培ベッドと、養液を貯留する養液タンクと、該養液タンクから養液を該栽培ベッドに供給するポンプを有した給液ラインと、該栽培ベッドから養液を該養液タンクに戻す返送ラインとを有したものがある(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の栽培ベッドの底面には、流水勾配方向に延在する凸条部材が設けられており、苗根鉢は該凸条部材上に配置される。養液は凸条部材の側方部分に沿って流下され、苗根鉢には直接には接触しない。これにより、苗根鉢の培地が養液によって洗い流されることが防止される。
【0005】
特許文献1の養液栽培システムにおいては、栽培ベッドの底面及び凸条部材を覆うように親水性シートを敷設し、養液を親水性シートに浸潤させるようにしている。これにより、苗根鉢の培地部分も養液で浸潤され、植物が生育する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
親水性シートを用いる養液栽培システムにあっては、親水性シートの設置、除去、洗浄、消毒などの作業が必要である。
【0008】
本発明は、親水性シートを用いることなく効率よく植物を栽培することができる養液栽培システム及び栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は次の通りである。
【0010】
[1] 栽培ベッドと、栽培ベンチとを有する養液栽培システムにおいて、
該栽培ベンチは、上面に勾配を有しており、
該栽培ベッドが、該栽培ベンチの上面に設置されることで、前記栽培ベッドの底面が勾配を有し、
該栽培ベッドの底面に、勾配方向に延在した凸条が設けられ、該凸条の上面が略水平となっており、
該凸条の上面が養液中に没するように該栽培ベッドに養液を溜めるための堰が設けられていることを特徴とする養液栽培システム。
【0011】
[2] 前記堰により溜められる養液の液面のレベルと前記凸条の上面のレベルとの差が1~10mmである[1]の養液栽培システム。
【0012】
[3] 前記凸条が複数列設けられている[1]又は[2]の養液栽培システム。
【0013】
[4] 前記栽培ベッドの底面を覆う防水シートが設けられているが、親水性シートは設けられていない[1]~[3]のいずれかの養液栽培システム。
【0014】
[5] 前記栽培ベッドの上に配置された、複数の植え穴を有する定植パネル板を備え、各植え穴が前記凸条の上方に位置する[1]~[4]のいずれかの養液栽培システム。
【0015】
[6] [1]~[5]のいずれかの養液栽培システムを用いた養液栽培方法。
【0016】
[7] [5]の養液栽培システムを用いた養液栽培方法であって、前記定植パネル板の植え穴を通して苗根鉢を凸条上に配置し、栽培ベッドに溜めた養液に苗根鉢の下部を浸して植物の栽培を行う養液栽培方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の養液栽培システム及び栽培方法によると、栽培ベッド上に親水性シートを敷設しないので、親水性シートの設置、除去、洗浄、消毒などの作業が不要となり、植物を効率よく栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る養液栽培システムの栽培ベッドの断面斜視図である。
【
図2】栽培ベッドの、
図1のII-II線に沿う断面図である。
【
図3】栽培ベッドの、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~5を参照して実施の形態について説明する。なお、本発明において、「養液」とは、植物の栽培に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、窒素、リン酸、カリウムなど何れかの肥料成分を含有する水であることが好ましい。
【0020】
図1の通り、この養液栽培システム1は、それぞれ発泡スチロール等の発泡プラスチック製の栽培ベッド2及び定植パネル板3と、栽培ベッド2上に敷設された防水シート(図示略)等を有する。親水性シートは用いられていない。
【0021】
栽培ベッド2の底面には、栽培ベッド2の長手方向に延在する凸条2tが設けられている。この実施の形態では、凸条2tは平行に複数条設けられているが、1条であってもよい。この凸条2tの上に植物(苗根鉢9)が載置される。
【0022】
苗根鉢とは、個別のポットやセルトレイで育苗される植物の根が、培地を抱え込むように網状に生長したものである。根が十分に生長し、しっかりと巻いた状態では、苗をポットやセルトレイから抜いても、苗根鉢に守られて培地が崩れにくい状態となることから、定植することが可能となる。培地は粒状であってもよい。
【0023】
栽培ベッド2は、上面が開放した一方向に延在する長函状であり、1対の長側壁2a,2aと底板部2bとを有した上向きコの字形断面形状を有している。
【0024】
長側壁2a,2aの上端面と内側面との交差角縁部は切欠状の段部2dとなっており、この段部2dに定植パネル板3の側縁が係合する。
【0025】
本実施形態の栽培ベッド2は、底板部2bの上面(栽培ベッド2の底面のうち、凸条2t以外の面)の長手方向に勾配(流水勾配)をもたせるように、勾配が設けられた栽培ベンチ(図省略)上に設置され、凸条2tの上面が略水平に設置される形態としている。従って、
図4に示す流水勾配下流側の凸条高さh
1は上流側の凸条高さh
2よりも大きい。凸条2tの上面は水平であることが好ましいが、ごくわずかな勾配(1/66以内)を有していてもよい。
【0026】
凸条2tの幅w
1(
図4)は15~55mm、特に25~45mm程度が好ましい。また、凸条2t同士の間隔w
2は60~90mm特に65~85mm程度が好ましい。
【0027】
凸条2t以外の栽培ベッド2の底板部2b上を流水させるために、栽培ベンチに設ける勾配は1/70~1/150特に1/75~1/120程度が好ましい。
【0028】
栽培ベッド2の長手方向に間隔をおいて、堰2fが設けられている。堰2fは、栽培ベッド2の幅方向に延在している。堰2f同士の間隔は、好ましくは0.8~1.2m特に0.9~1.1mである。
【0029】
堰2fの高さは、当該堰2fよりも流水勾配上流側に溜まる液中に凸条2tが水没するように設定されている。好ましくは、該凸条2tの上面と液面との距離(凸条2t上面の水深)は、1~5mm特に1~3mmである。このような形態にすることで、定植後の苗を育てることに好適に用いることができる。
【0030】
栽培ベッド2及び定植パネル板3の長手方向の長さは限定されないが、例えば、5m以上が好ましく、10m以上がより好ましい。また、該長さは、50m以下が好ましく、30m以下がより好ましい。
【0031】
定植パネル板3には、各凸条2tの上方位置に、長手方向に間隔をおいて複数の植え穴3aが設けられている。長手方向における植え穴3a同士の間隔は、栽培される植物の種類などにより適宜設計することができ限定されないが、例えば60~100mm特に75~90mm程度が好ましい。図示の実施の形態では、凸条2tが5条設けられているので、植え穴3aの列も5列となっているが、凸条2tの数及び植え穴3aの数はこれに限定されない。
【0032】
植え穴3aの形状は、図示するような、円筒形状のほか、角柱形状や、その他の形状であってもよい。
【0033】
防水シート(図示略)は、栽培ベッド2の長側壁2a,2aの上端面及び内側面、及び底板部2b上面を覆うように設けられている。防水シートは、栽培ベッド2の流水勾配上流端から下流端まで連続して敷設されている。防水シートは堰2fを乗り越えるようにして敷設されている。
【0034】
栽培ベッド2は、複数個突き合わせるようにして直列に繋ぎ合わされてもよい。この場合、防水シートは各栽培ベッド2に跨って連続して敷設される。これにより、栽培ベッド2同士の突き合わせ面からの漏水が防止される。
【0035】
最下流端の栽培ベッド2の下流端に排水路部材5(
図2,3)が設置される。最下流端の堰2fをオーバーフローした養液が該排水路部材5に流入する。
【0036】
本発明の一実施形態においては、各栽培ベッド2に被せられた定植パネル板3の植え穴3aを通して苗根鉢9を凸条2tの上に載せ、栽培ベッド2に溜められた養液中に苗根鉢9の下部を浸すことにより植物Pを堪液水耕栽培する。湛液水耕は養液に根を浸す方式である。養液中に苗根鉢9の下部を1~10mm、特に1~5mm程度浸すことが好ましい。このように、堪液水耕栽培において、栽培ベンチに勾配を設けて、栽培ベッドの底板部2bが勾配を有するようにすると、栽培終了後の栽培ベッドの洗浄する際、洗浄後の汚水が勾配に沿って排水されるため、洗浄が容易になる。
【0037】
凸条2tの上面が水平となるよう、栽培ベンチ上に栽培ベッド2を設置することにより、各苗根鉢9の浸水深さが均一となる。このとき、苗根鉢9の浸水する部分と、定植パネル板3と水面との間の空間である湿気空間に維持される部分との高さの比率を1:10~1:5とすることで、苗根鉢9へ養液が供給される領域に加えて、苗根鉢9から湿気中根が発生する領域が確保され、湿気中根の生育が安定する。また、凸条2t間の栽培ベッド底板部2bに流水勾配をもたせるよう設置するので、養液が淀むことなく栽培ベッド2上をゆっくりと流水勾配に従って流れる。
【0038】
これにより、苗根鉢9の培地が、養液により洗い流されにくくなり、安定した栽培を実現することができる。特に、通常、湛液水耕栽培において、栽培ベッドの底面が勾配を有するように設置することはないため、上記のように、苗根鉢の培地が勾配を有することに起因して、流されやすくなることがなく、このような凸条2tを設ける必要がない。また、隣接する堰2f、2f間に保持する養液は10~15Lとし、供給する養液量を2~5L/分とすることで、3~5分間で養液が全量交換され、養液の汚染(微生物の繁殖など)を抑制することができる。隣接する堰2f,2f間における養液の平均流量は2~12L/分特に5~10L/分程度が好適である。前記範囲内であることで、凸条2t上と、栽培ベッドの底面の、凸条2t同士の間での流速が異なるため、苗根鉢9の培地がさらに洗い流されにくくなっている。
【0039】
上記の栽培ベッドに、タンク、配管、ポンプなどを有する養液循環機構を配置することにより、養液栽培システムとすることができる。
図5は、養液栽培システムの一例を示す平面図である。
【0040】
図5では、ハウス内に複数の栽培ベッド2を複数個直列に接続して栽培ベッド列10とし、この栽培ベッド列10を複数列(図示では4列)配列して栽培ベッド群20としている。なお、1つの栽培ベッド列10にあっては、複数個の栽培ベッド2を直列に配列し、各栽培ベッド2に跨って防水シートを敷いている。これにより、栽培ベッド2同士の繋ぎ合わせ面からの漏水を防止している。1つの栽培ベッド列10を構成する栽培ベッド2の数は5~100個程度であるが、これに限定されない。
【0041】
各々の栽培ベッド列10は、栽培ベッド2の凸条2t以外の底板部2bが、長手方向の一端部から他端部に向けて流水勾配を有するように、栽培ベンチ(図示略)の上に設置されている。
【0042】
1つの栽培ベッド群20に1個のタンク33が付随して設置されている。この養液栽培システムには、循環する養液を貯留するタンク33があり、タンク33内の養液は、ポンプ34、配管35及び弁36を介して各栽培ベッド列10に供給される。
【0043】
植物が吸水した養液量に相当する水量をタンク33に補給するために、原水タンク(図省略)、供給制御弁25a、及び配管25が設けられており、タンク33に貯留される液量が常に一定となるように、フロートバルブであるボールタップ31にて、タンク33への給水量が制御される。
【0044】
各栽培ベッド列10の末端部の排水路部材5から養液がタンク33に戻るように流出流路37が設けられている。
【0045】
この養液栽培システムでは、タンク33に液肥を供給するために、濃厚液肥を貯留するタンク(図省略)、該液肥を供給するための供給制御弁24a、及び配管24が設けられている。循環養液の総肥料濃度は電気伝導度(EC)によって表わされる。タンク33に、EC値を計測するセンサー部が装備されており、タンク33内の養液のECが一定値以下になった場合には、濃厚液肥が補給される。なお、養液栽培システムの液肥を供給する系統は、2種以上の濃厚液肥を貯留する2つのタンクから液肥が補給されることが好ましい。
【0046】
この養液栽培システムにあっては、親水性シートを用いていないので、親水性シートの設置、除去、洗浄、消毒などの作業が不要であり、植物Pを効率よく栽培することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 養液栽培システム
2 栽培ベッド
2b 底板部
2f 堰
2t 凸条
3 定植パネル板
3a 植え穴
9 苗根鉢
10 栽培ベッド列
20 栽培ベッド槽群
31 ボールタップ
33 タンク
34 ポンプ