(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20241016BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C03B37/018 Z
G02B6/02 356A
(21)【出願番号】P 2021025144
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠 浩二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆行
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298287(JP,A)
【文献】特開2007-045643(JP,A)
【文献】特開2005-029399(JP,A)
【文献】特開昭61-072643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0022787(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018
G02B 6/00 - 6/54
C03B 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部において、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域における平均OH基濃度が1ppm以下である種棒を製造する種棒製造工程と、
バーナにガラス原料を供給して生成するガラス微粒子を、回転する前記種棒に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造するガラス微粒子堆積体製造工程と、
前記ガラス微粒子堆積体を脱水ガス中でヒータにより加熱して脱水を行う脱水工程と、
前記脱水工程の後に、前記ガラス微粒子堆積体を前記ヒータにより加熱して透明ガラス母材を得る透明ガラス化工程と、
を備えた、光ファイバ用母材の製造方法
により得られる光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に10mm以内の領域を使用し、
波長1380nmにおける伝送損失が、前記光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバを基準として、40mdB/km未満の増加である光ファイバを製造することを含む、光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記種棒製造工程は、前記先端部において、表面からの距離が0.05mm以上2.0mm以下の領域における平均OH基濃度が3ppm以下である種棒を製造する工程である、請求項1に記載の光ファイ
バの製造方法。
【請求項3】
前記先端部の長さは、前記ヒータの長さの半分以上である、請求項1または請求項2に記載の光ファイ
バの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ用母材の製造方法および光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、VAD法(Vapor Phase Axial Deposition)を用いて、種棒にガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を製造する方法が開示されている。このようにして得られたガラス微粒子堆積体は、その一端に種棒が付いた状態で、脱水工程および焼結による透明ガラス化工程を経て透明ガラス母材となる。そして、得られた透明ガラス母材を線引き等することにより、光ファイバが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法により得られたガラス微粒子堆積体から透明ガラス母材を製造した場合、脱水工程においてガラス微粒子堆積体からOH基を除去しているにも関わらず、透明ガラス母材における種棒に近い部分では、OH基の濃度が高くなっていた。このようなOH基の濃度が高い部分を使用して光ファイバを製造すると、伝送損失が大きくなってしまう。そのため、従来は、透明ガラス母材における種棒に近い部分は廃棄され、光ファイバの製造に用いられることはなかった。透明ガラス母材の一部を廃棄することは、結果として、光ファイバの製造コストを上昇させる一因となっていた。
【0005】
本開示の目的は、透明ガラス母材における種棒に近い部分のOH基の濃度を低減し、透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いた場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバの製造を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光ファイバ用母材の製造方法は、
先端部において、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域における平均OH基濃度が1ppm以下である種棒を製造する種棒製造工程と、
バーナにガラス原料を供給して生成するガラス微粒子を、回転する前記種棒に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造するガラス微粒子堆積体製造工程と、
前記ガラス微粒子堆積体を脱水ガス中でヒータにより加熱して脱水を行う脱水工程と、
前記脱水工程の後に、前記ガラス微粒子堆積体を前記ヒータにより加熱して透明ガラス母材を得る透明ガラス化工程と、
を備える。
【0007】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
前記光ファイバ用母材の製造方法により得られる光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に10mm以内の領域を使用し、波長1380nmにおける伝送損失が、前記光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバを基準として、40mdB/km未満の増加である光ファイバを製造することを含む。
【発明の効果】
【0008】
上記開示の構成によれば、従来は廃棄されていた透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いた場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバを製造することが可能になる。結果として、光ファイバの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、透明ガラス化工程における種棒からのOH基の拡散を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る光ファイバ用母材の製造方法を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る種棒の先端部におけるOH基濃度の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示に係る種棒を加熱した場合のOH基の拡散の様子を示すグラフである。
【
図5】
図5は、種棒の赤外吸収スペクトルの一例である。
【
図6】
図6は、各製造例で製造された光ファイバ用母材から製造した光ファイバの伝送損失を示すグラフである。
【
図7】
図7は、種棒の先端部の長さとOHロス増の発生率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、透明ガラス母材における種棒に近い部分においてOH基の濃度が高くなる問題について、その原因を究明するために種々の検討を行った。まず、本発明者らは、脱水工程に着目し、脱水工程における温度や時間、脱水時に導入する塩素ガスの濃度等の条件を変更して実験を行ったが、OH基の濃度が高くなる問題は解決しなかった。また、透明ガラス化工程において炉心管外部から外気が侵入している可能性も検討したが、これは上記問題とは関係ないことが判明した。
【0011】
上記のような種々の検討の結果、本発明者らは、加熱された種棒からOH基が放出されることで上記問題が生じることを突き止めた。
図1は、透明ガラス化工程における種棒10’からのOH基の拡散を示す模式図である。透明ガラス化工程では、一端に種棒10’が付いたガラス微粒子堆積体M1を炉心管31に入れ、ヒータ32により加熱して、透明ガラス母材を得る。この際、種棒10’に含まれていたOH基が加熱により外部へ拡散し、ガラス微粒子堆積体M1のコア部M11やクラッド部M12へ拡散していく。そして、最終的にコア部M11に留まったOH基によって、伝送損失が発生してしまう。本開示は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係る光ファイバ用母材の製造方法は、
先端部において、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域における平均OH基濃度が1ppm以下である種棒を製造する種棒製造工程と、
バーナにガラス原料を供給して生成するガラス微粒子を、回転する前記種棒に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造するガラス微粒子堆積体製造工程と、
前記ガラス微粒子堆積体を脱水ガス中でヒータにより加熱して脱水を行う脱水工程と、
前記脱水工程の後に、前記ガラス微粒子堆積体を前記ヒータにより加熱して透明ガラス母材を得る透明ガラス化工程と、
を備える。
この構成によれば、透明ガラス母材における種棒に近い部分のOH基の濃度を低減し、透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いた場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバを製造することが可能になる。結果として、光ファイバの製造コストを低減することができる。
【0013】
前記光ファイバ用母材の製造方法において、
前記種棒製造工程は、前記先端部において、表面からの距離が0.05mm以上2.0mm以下の領域における平均OH基濃度が3ppm以下である種棒を製造する工程であることが好ましい。
この構成によれば、透明ガラス母材における種棒に近い部分のOH基の濃度を更に低減することが可能である。結果として、透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いて光ファイバを製造した場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバを安定的に製造することが可能になる。
【0014】
前記光ファイバ用母材の製造方法において、
前記先端部の長さは、前記ヒータの長さの半分以上であることが好ましい。
この構成によれば、透明ガラス母材における種棒に近い部分のOH基の濃度を更に低減することが可能である。結果として、透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いて光ファイバを製造した場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバを安定的に製造することが可能になる。
【0015】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、
前記光ファイバ用母材の製造方法により得られる光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に10mm以内の領域を使用し、波長1380nmにおける伝送損失が、前記光ファイバ用母材の、前記種棒先端から軸方向に100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバを基準として、40mdB/km未満の増加である光ファイバを製造することを含む。
この構成によれば、従来は廃棄されていた透明ガラス母材における種棒に近い部分を用いた場合でも、OH基に由来する伝送損失が少ない光ファイバを製造することが可能になる。結果として、光ファイバの製造コストを低減することができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、異なる図面であっても同一又は相当の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
(光ファイバ用母材の製造方法)
図2は、本開示の一実施形態に係る光ファイバ用母材(以下、「透明ガラス母材」とも称する)M2の製造方法を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態に係る光ファイバ用母材M2の製造方法は、工程1から工程4を備える。
【0018】
工程1は、種棒10を製造する種棒製造工程である。種棒10は、少なくとも先端部11(先端P2と位置P1の間の部分)において、平均OH基濃度に関する後述の条件1を満たしている。先端部11の軸方向の長さaは、例えば、ヒータ32の軸方向の長さbの半分以上であることが好ましい。これは、後述の工程4(透明ガラス化工程)において、種棒10の先端P2がヒータ32の中心付近まで下降することが好ましいためである。この場合、先端P2から軸方向へ長さb/2いった位置までが、透明ガラス化工程においてヒータ32のヒートゾーンに侵入することになる。ヒートゾーンに侵入した部分は、種棒10の他の部分よりも強く加熱されるため、OH基が透明ガラス母材M2に拡散しやすくなるが、先端部11の長さaがヒータ32の長さbの半分以上であることにより、このような拡散を防止できる。
【0019】
図3は、種棒10の先端部11におけるOH基濃度の一例を示すグラフである。種棒10は、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域R1における平均OH基濃度が1ppm以下という条件1を満たす。従来において伝送損失の原因となっていたOH基は、主に領域R1に存在していたOH基によるものである。よって、領域R1の平均OH基濃度が1ppm以下とすることで、透明ガラス母材M2に種棒10由来のOH基が拡散して残留することを抑制できる。種棒10は、条件1に加えて、表面からの距離が0.05mm以上2.0mm以下の領域R2における平均OH基濃度が3ppm以下という条件2を満たすことが好ましい。
【0020】
なお、表面からの距離が0mm以上0.05mm未満の領域R3は、平均OH基濃度に関する条件はなく、例えば、平均OH基濃度が数千ppmに達していてもよい。領域R3に含まれるOH基は、工程2(脱水工程)において、種棒10からガラス微粒子堆積体M1へと拡散し、更にガラス微粒子堆積体M1から除去されるからである。
【0021】
図4は、種棒10を加熱した場合のOH基の拡散の様子を示すグラフであり、拡散方程式により算出した理論上のグラフである。
図4に示すように、表面からの距離が0.5mmを超える領域に存在するOH基は、4時間加熱をした場合でも種棒10の内部に留まり、種棒10の外部へ拡散する恐れが少ない。このことから、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域R1の平均OH基濃度が最も重要であることが分かる。
【0022】
種棒10の平均OH基濃度は、従来公知の方法を用いて測定することができる。例えば、赤外吸収スペクトルにおけるSi-OHにおけるO-H伸縮振動を観測することで、種棒10の平均OH基濃度を算出することができる。
【0023】
図5は、種棒の赤外吸収スペクトルの一例である。種棒の平均OH基濃度は、
図5に示すO-H伸縮振動に対応する波数3670cm
-1における吸収ピークIと、ベースライン上のベースI
0とを用いて、下記式(1)のLambert-Beerの式により算出することができる。
C
OH=α/εt・・・(1)
【0024】
上記式(1)において、吸光度αは「α=Log10(I0/I)」により求められる。モル吸光係数εは、G.Stephensonらの論文(G.Stephenson,et al.,Trans. Br. Ceram.Soc.,59, 397(1960))に記載されている値「ε=77.5L/mol・cm」を用いることができる。サンプル厚さtは、ノギス等で測定可能である。
【0025】
種棒10の径方向におけるOH基濃度の分布は、例えば、下記の方法により算出することができる。まず、上記式(1)によって種棒10の径方向の透過率を測定し、種棒10の径方向における平均OH基濃度を求める。次に、種棒10をフッ酸溶液に浸すこと等により種棒10の表面をエッチングする。その後、再度、上記式(1)によって種棒10の平均OH基濃度を求める。エッチング前後の種棒10の外径と平均OH基濃度から、エッチングされた部分のOH基濃度を下記式(2)により算出する。同様の手順で順次エッチングと測定を繰り返すことで、種棒10の径方向のOH基濃度の分布を求めることができる。
(DC-D’C’)/(D-D’)・・・(2)
【0026】
なお、上記式(2)において、「D」は、エッチング前の種棒10の外径である。「D’」は、エッチング後の種棒10の外径である。「C」は、エッチング前の種棒10の平均OH基濃度である。「C’」は、エッチング後の種棒10の平均OH基濃度である。
【0027】
種棒10は、電気溶融法で製造した溶融石英ガラス、又はスート法で製造した合成石英ガラスのガラスロッドを乾燥雰囲気で熱処理し、領域R1における平均OH基濃度を1ppm以下まで低減させることによって製造できる。種棒10としては、火炎溶融法や直接法で製造した石英ガラスも用いることができるが、ガラス中に含まれるOH基濃度が高いため、平均OH濃度の低減に時間がかかる。また、スート法において真空中で焼結した合成石英ガラスは、領域R1の平均OH濃度が低いものが得られやすく、好ましい。さらに、スート法において脱水処理を行って焼結した合成石英ガラスは、領域R1だけでなく中心付近(例えば、領域R2)の平均OH基濃度も低いものが得られるため好ましい。
【0028】
種棒製造工程は、種棒10の表面を火炎研磨する工程を含んでもよい。火炎研磨を行うことで、種棒10の表面が清浄化、平滑化され、堆積するガラス微粒子との界面が結晶化したり気泡が残留したりすることを防ぐことができる。結晶化や気泡の残留は割れの原因となるため、これらの発生は防止することが好ましい。
【0029】
なお、火炎研磨は、バーナ火炎を種棒10の表面に当てるものであるため、火炎研磨をすることで種棒10の表面のOH基濃度は増加する。しかし、このOH基濃度の増加は、種棒10の表面から0.05mm以内の範囲である。上述のように、この範囲であれば脱水工程時の加熱によって種棒10の表面から放出され、透明ガラス化工程時にはOH基濃度が低減しているため、光ファイバの伝送損失への影響はない。
【0030】
以下、
図2に戻って工程2から工程4の説明をする。工程2は、ガラス微粒子堆積体M1を製造するガラス微粒子堆積体製造工程である。ガラス微粒子堆積体製造工程では、例えば、VAD法を用いてガラス微粒子堆積体M1を製造する。具体的には、コア用バーナ21にガラス原料ガスG1を供給し、火炎加水分解反応により生成したコア用ガラス微粒子を回転する種棒10に堆積させる。また、クラッド用バーナ22にガラス原料ガスG2を供給して、火炎加水分解反応により生成したクラッドコア用のガラス微粒子を、コア用ガラス微粒子上に堆積させる。このようにして、ガラス微粒子堆積体M1が製造される。
【0031】
また、ガラス微粒子堆積体M1は、OVD(Outside vapor deposition)法を用いて製造してもよい。OVD法では、パイプ状の種棒にマンドレルを挿入し、種棒とマンドレルの外側にガラス微粒子を堆積させ、ガラス微粒子の堆積が終了したのち、マンドレルを引き抜き、その一端に種棒が付いた状態で、脱水工程および焼結による透明ガラス化工程を経て透明ガラス母材を製造する。よって、OVD法を用いる場合、パイプ状の種棒の内面および外周の両方の表面において、表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域の平均OH基濃度を1ppm以下とする。
【0032】
ガラス原料ガスG1は、例えば、四塩化ケイ素(SiCl4)又はシロキサンに加えて、四塩化ゲルマニウム(GeCl4)等のドーパントを含むコア用のガスである。また、ガラス原料ガスG2は、例えば、四塩化ケイ素またはシロキサンを含み、ドーパントを含まないクラッド用のガスである。ガラス微粒子堆積体製造工程においては、従来公知の構成を適宜採用できる。
【0033】
工程3は、ガラス微粒子堆積体M1を脱水する脱水工程である。脱水工程では、炉心管31内にガラス微粒子堆積体M1を入れる。そして、炉心管31に脱水ガスG3(例えば、窒素等の不活性ガスと塩素ガスとの混合ガス)を供給し、ガラス微粒子堆積体M1を炉心管31内で下降させていく。ガラス微粒子堆積体M1は、脱水ガスG3を含む雰囲気中で、炉心管31の周囲に配置されたヒータ32により加熱され、脱水処理がなされる。脱水処理によって、ガラス微粒子堆積体M1等に含まれるOH基が除去される。脱水工程における温度や時間等の条件は、従来公知の条件に基づいて適宜設定できる。
【0034】
工程4は、ガラス微粒子堆積体M1をヒータ32により加熱して透明ガラス母材M2を得る透明ガラス化工程である。透明ガラス化工程では、脱水工程において炉心管31の下方へ移動していたガラス微粒子堆積体M1を、炉心管31の上部へと上昇させる。そして、炉心管31に不活性ガスG4(例えば、窒素やヘリウム等)を供給し、ガラス微粒子堆積体M1を炉心管31内で下降させていく。ガラス微粒子堆積体M1は、不活性ガスG4を含む雰囲気中でヒータ32により加熱されて焼結され、透明ガラス母材M2となる。透明ガラス化工程では、種棒10の先端P2をヒータ32の中心付近まで下降させることが好ましい。透明ガラス化工程における温度や時間等の条件は、従来公知の条件に基づいて適宜設定できる。
【0035】
上記の工程1から工程4を経て製造された透明ガラス母材M2は、従来の製法で製造した場合よりも種棒10に近い領域M21のOH基濃度が低くなっている。よって、従来は廃棄していた領域M21も光ファイバの母材として使用することができる。なお、領域M21は、位置P5と位置P6の間の領域である。位置P5は、種棒10の先端P2に対応する位置である。位置P6は、例えば、位置P5から軸方向の下方へ100mmの距離にある位置である。
【0036】
(光ファイバの製造方法)
以下、本実施形態に係る光ファイバの製造方法について説明する。本実施形態に係る光ファイバの製造方法は、上述の光ファイバ用母材の製造方法によって得られた光ファイバ用母材M2の種棒10の先端P2から軸方向に10mm以内の領域を使用し、波長1380nmにおける伝送損失が、光ファイバ用母材M2の、種棒10の先端P2から軸方向に100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバを基準として、40mdB/km未満の増加である光ファイバを製造する製造方法である。なお、基準から40mdB/km未満の増加とは、伝送損失が基準よりも減少している場合も含む。
【0037】
光ファイバ用母材M2は、例えば、線引き工程等の透明ガラス母材M2から光ファイバを製造するための従来公知の工程を経て、光ファイバとなる。上述の光ファイバ用母材の製造方法によって得られた光ファイバ用母材M2の領域M21は、平均OH基濃度が低いため、種棒10の先端P2から軸方向に10mm以内の領域を使用して得られた光ファイバの波長1380nmにおける伝送損失(以下、伝送損失T
10とも称する)が、種棒10の先端P2から軸方向に100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバの伝送損失(以下、伝送損失T
100とも称する)に比べて40mdB/km未満の増加となる。すなわち、「T
10-T
100<40mdB/km」となる。なお、本実施形態に係る光ファイバの製造方法は、種棒10の先端P2から軸方向に10~100mm以内の領域や、
図2に示す領域M21の下方の領域を用いて光ファイバを製造することも含む。
【0038】
[実施例]
以下、本開示に係る実施例を示して、本開示をさらに詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(製造例1~5)
スート法で製造した合成石英ガラスを乾燥雰囲気で熱処理して、低OH種棒を3本製造し、そのうちの1本で、上述の条件1を満たし、条件2を満たさないことを確認した。また、スート法で製造した合成石英ガラスを乾燥雰囲気で熱処理して脱水し、低OH種棒を3本製造し、そのうちの1本で、上述の条件1及び条件2を満たすことを確認した。また、電気溶融法で製造した市販の溶融石英ガラスである通常種棒を2本用意した。そのうちの1本から、通常種棒は、先端部において表面からの距離が0.05mm以上0.5mm以下の領域における平均OH基濃度が130ppmであることを確認した。
【0040】
低OH種棒4本および通常種棒1本のそれぞれについて、上述のガラス微粒子堆積体製造工程、脱水工程、及び透明ガラス化工程を同条件で実施し、5つの透明ガラス母材M2を製造した。次に、得られた各透明ガラス母材M2をすべて同じ条件で線引きし、光ファイバを製造した。得られた各光ファイバについて、1380nmにおける伝送損失を測定した。結果を
図6に示す。なお、製造例1及び2は、条件1を満たし、条件2を満たさない低OH種棒を用いた製造例である。製造例3及び4は、条件1及び条件2を満たす低OH種棒を用いた製造例である。製造例5は、通常種棒を用いた製造例である。
【0041】
図6は、各製造例で製造された光ファイバ用母材M2から製造した光ファイバの伝送損失を示すグラフである。
図6のグラフの各プロット点は、グラフの上部に示した透明ガラス母材M2と対応関係にある。例えば、位置P6を母材として製造された光ファイバの伝送損失は、位置P6を示す線上の値である。
【0042】
図6から、条件1を満たさない通常種棒を用いた場合、領域M21を用いて製造された光ファイバは、伝送損失に顕著な増加が見られる。一方で、条件1を満たす低OH種棒を用いた場合、領域M21を用いて製造された光ファイバであっても、伝送損失に顕著な増加は見られない。特に、条件1及び条件2を満たす低OH種棒を用いた製造例3及び4では、伝送損失が低い値を示している。なお、T
10-T
100の値を具体的に示すと、製造例1が3mdB/km、製造例2が3mdB/km、製造例3が3mdB/km、製造例4が3mdB/km、製造例5が46mdB/kmである。また、製造例1~4では、領域M21を用いて製造された光ファイバの伝送損失が、0.31dB/km以下となっている。
【0043】
(製造例6~10)
種棒10の先端部11の長さaを、ヒータ32の長さbの0.1倍、0.2倍、0.5倍、0.8倍、1倍にそれぞれ変更したこと以外は同様の条件にて、透明ガラス母材M2を製造した。なお、透明ガラス化工程では、種棒10の先端P2をヒータ32の中心付近まで下降させた。
【0044】
次に、得られた各透明ガラス母材M2をすべて同じ条件で線引きし、光ファイバを製造した。各透明ガラス母材M2において、位置P5から軸方向の下方へ10mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバについて、OHロス増(OH基による伝送損失)の発生の有無を判定した。OHロス増は、位置P5から軸方向の下方へ100mmの位置にある部分を用いて製造された光ファイバを基準として、1380nmにおける伝送損失が40mdB/km以上の上昇をした場合に、OHロス増ありと判定した。
【0045】
先端部11の長さaに関する上記の各条件による透明ガラス母材M2の製造を複数回実施し、各条件におけるOHロス増の発生率(同一条件で製造された透明ガラス母材M2のうち、OHロス増が発生した数/同一条件で製造された透明ガラス母材M2の数)を算出した。結果を
図7に示す。
【0046】
図7から、先端部11の長さaがヒータ32の長さbの0.5倍以上とすることで、OHロス増の発生率を低減できることが分かる。
【0047】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
10’,10:種棒
11:先端部
21:コア用バーナ
22:クラッド用バーナ
31:炉心管
32:ヒータ
G1,G2:ガラス原料ガス
G3:脱水ガス
G4:不活性ガス
M1:ガラス微粒子堆積体
M11:コア部
M12:クラッド部
M2:透明ガラス母材(光ファイバ用母材)
M21:領域
R1,R2,R3:領域