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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/26 20140101AFI20241016BHJP
   B23K 26/348 20140101ALI20241016BHJP
   B23K 26/242 20140101ALI20241016BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20241016BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241016BHJP
【FI】
B23K26/26
B23K26/348
B23K26/242
B23K9/16 K
B23K26/21 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021032258
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133532
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】達富 正英
(72)【発明者】
【氏名】山内 淳司
(72)【発明者】
【氏名】竹口 貴博
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-144888(JP,A)
【文献】特開2011-037306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の製造方法であって、
金属製の第1板材の端面と前記第1板材の板厚よりも大きな板厚を有する金属製の第2板材の端面とが突き合わされるように、前記第1板材と前記第2板材とを配置する突合せ工程と、
前記第1板材の端面と前記第2板材の端面とが突き合わされた突合せ部を溶接するための溶接工程と、
を有し、
前記溶接工程は、
前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部および前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の一端から予め定められた距離離れた第1位置にて金属を溶融させるエネルギの付与を開始し、前記第1位置から前記突合せ部上の第2位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させる第1工程と、
前記第2位置から、前記突合せ部上の位置であり、前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の他端から予め定められた距離離れた第3位置に向かって前記エネルギの付与位置を前記突合せ部に沿って移動させることによって前記突合せ部を溶接する第2工程と、
前記第3位置から、前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部から予め定められた距離離れた第4位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させて、前記第4位置にて前記エネルギの付与を終了する第3工程と、を有し、
前記溶接工程では、レーザ溶接、または、前記レーザ溶接とアーク溶接とが組み合わされたレーザアークハイブリッド溶接によって前記突合せ部を溶接し、
前記レーザ溶接のレーザ光の焦点スポット径は、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、
前記第1位置と前記突合せ部との距離と前記第4位置と前記突合せ部との距離とのうちの少なくとも一方は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である、金属部材の製造方法。
【請求項2】
金属部材の製造方法であって、
金属製の第1板材の端面と前記第1板材の板厚よりも大きな板厚を有する金属製の第2板材の端面とが突き合わされるように、前記第1板材と前記第2板材とを配置する突合せ工程と、
前記第1板材の端面と前記第2板材の端面とが突き合わされた突合せ部を溶接するための溶接工程と、
を有し、
前記溶接工程は、
前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部および前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の一端から予め定められた距離離れた第1位置にて金属を溶融させるエネルギの付与を開始し、前記第1位置から前記突合せ部上の第2位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させる第1工程と、
前記第2位置から、前記突合せ部上の位置であり、前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の他端から予め定められた距離離れた第3位置に向かって前記エネルギの付与位置を前記突合せ部に沿って移動させることによって前記突合せ部を溶接する第2工程と、
前記第3位置から、前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部から予め定められた距離離れた第4位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させて、前記第4位置にて前記エネルギの付与を終了する第3工程と、を有し、
前記溶接工程では、レーザ溶接、または、前記レーザ溶接とアーク溶接とが組み合わされたレーザアークハイブリッド溶接によって前記突合せ部を溶接し、
前記レーザ溶接のレーザ光の焦点スポット径は、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、
前記第1位置と前記第2板材の前記一端との距離と、前記第3位置と前記第2板材の前記他端との距離とのうちの少なくとも一方は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である、金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の製造方法に関して、特許文献1には、レーザ溶接において溶融池を良好に形成するために、溶接開始部の入熱量を本溶接部の入熱量以上に設定し、溶接終了部の入熱量を本溶接部の入熱量以下に設定するレーザ溶接制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-039145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した方法では、溶接開始部や溶接終了部における穴空きを抑制するために、溶接開始部や溶接終了部における入熱量を緻密に設定する必要があり、手間がかかる。そのため、より簡易な方法で、溶接開始部や溶接終了部における穴空きを抑制可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、金属部材の製造方法が提供される。この金属部材の製造方法は、金属製の第1板材の端面と前記第1板材の板厚よりも大きな板厚を有する金属製の第2板材の端面とが突き合わされるように、前記第1板材と前記第2板材とを配置する突合せ工程と、前記第1板材の端面と前記第2板材の端面とが突き合わされた突合せ部を溶接するための溶接工程と、を有する。前記溶接工程は、前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部および前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の一端から予め定められた距離離れた第1位置にて金属を溶融させるエネルギの付与を開始し、前記第1位置から前記突合せ部上の第2位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させる第1工程と、前記第2位置から、前記突合せ部上の位置であり、前記突合せ部に沿った方向における前記第2板材の他端から予め定められた距離離れた第3位置に向かって前記エネルギの付与位置を前記突合せ部に沿って移動させることによって前記突合せ部を溶接する第2工程と、前記第3位置から、前記第2板材上の位置であり、前記突合せ部から予め定められた距離離れた第4位置に向かって前記エネルギの付与位置を移動させて、前記第4位置にて前記エネルギの付与を終了する第3工程と、を有する。
この形態の金属部材の製造方法によれば、第1板材の板厚よりも大きな板厚を有する第2板材上の第1位置にてエネルギの付与を開始し、第2板材上の第4位置にてエネルギの付与を終了するので、エネルギの付与を開始する際、および、エネルギの付与を終了する際に、穴空きが生じにくい。そのため、第1位置や第4位置における入熱量を緻密に設定しなくても、穴空きが生じることを抑制できる。
(2)上記形態の金属部材の製造方法において、前記溶接工程では、レーザ溶接、または、前記レーザ溶接とアーク溶接とが組み合わされたレーザアークハイブリッド溶接によって前記突合せ部を溶接してもよい。
この形態の金属部材の製造方法によれば、レーザ溶接、または、レーザアークハイブリッド溶接によって突合せ部を溶接するので、突合せ部を高速で溶接できる。
(3)上記形態の金属部材の製造方法において、前記レーザ溶接のレーザ光の焦点スポット径は、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、前記第1位置と前記突合せ部との距離と前記第4位置と前記突合せ部との距離とのうちの少なくとも一方は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下であってもよい。
この形態の金属部材の製造方法によれば、レーザ光の照射が開始される第1位置と突合せ部との距離やレーザ光の照射が終了される第4位置と突合せ部との距離を十分に確保できるので、レーザ光の照射が開始される際やレーザ光の照射が終了される際にレーザ光の照射によって溶融した金属が突合せ部から落下して穴が空くことを抑制できる。
(4)上記形態の金属部材の製造方法において、前記レーザ溶接のレーザ光の焦点スポット径は、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、前記第1位置と前記第2板材の前記一端との距離と、前記第3位置と前記第2板材の前記他端との距離とのうちの少なくとも一方は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下であってもよい。
この形態の金属部材の製造方法によれば、レーザ光の照射位置と第2板材の一端や他端との距離を十分に確保できるので、レーザ光の照射によって溶融した金属が第2板材の一端や他端から落下して穴が空くことを抑制できる。
本開示は、金属部材の製造方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、レーザ溶接方法、レーザ溶接装置、レーザアークハイブリッド溶接方法、レーザアークハイブリッド溶接装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の金属部材の概略構成を示す斜視図。
図2】第1実施形態の溶接装置の概略構成を示す説明図。
図3】第1実施形態の金属部材の製造方法の内容を示すフローチャート。
図4】溶接工程におけるレーザ光およびアークの移動経路を示す上面図。
図5】溶接工程におけるレーザ光の移動速度および出力を示す説明図。
図6】第1実施形態の溶接工程の様子を示す説明図。
図7】比較例の溶接工程の様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における金属部材10の概略構成を示す斜視図である。金属部材10は、薄板部11と、厚板部12と、溶接継手部13とを有している。薄板部11および厚板部12は、板状に構成されている。厚板部12の板厚t2は、薄板部11の板厚t1よりも大きい。溶接継手部13は、薄板部11と厚板部12とを互いに固定している。
【0009】
薄板部11および厚板部12は、同じ種類の金属材料で形成されている。本実施形態では、薄板部11および厚板部12の材料は、鋼である。薄板部11および厚板部12の材料は、鋼に限られず、例えば、アルミニウム合金や、チタン合金や、マグネシウム合金でもよい。なお、薄板部11と厚板部12とが互いに異なる種類の金属材料で形成されてもよい。例えば、薄板部11が鋼で形成され、厚板部12がアルミニウム合金で形成されてもよい。
【0010】
金属部材10は、板厚t1と同じ板厚を有する金属製の第1板材20と、板厚t2と同じ板厚を有する金属製の第2板材30とを突合せ溶接することによって製造される。薄板部11は、第1板材20で形成され、厚板部12は、第2板材30で形成される。溶接継手部13は、第1板材20と第2板材30とを突合せ溶接することによって形成される。本実施形態では、第1板材20および第2板材30は、平板である。なお、他の実施形態では、第1板材20と第2板材30との少なくともいずれか一方は、平板ではなく、曲面板でもよい。
【0011】
図2は、本実施形態における金属部材10の製造に用いられる溶接装置100の概略構成を模式的に示す説明図である。本実施形態では、溶接装置100は、レーザ溶接部110と、アーク溶接部120と、溶接位置変更部130と、ステージ140と、制御部150とを備えている。ステージ140には、ワークWKとして、第1板材20と第2板材30とが固定される。第1板材20の端面と第2板材30の端面とが突き合わされるように、第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定される。
【0012】
レーザ溶接部110は、レーザ発振器111と、レーザヘッド115とを備えている。レーザ発振器111は、レーザ光LSを発生させる。本実施形態では、レーザ発振器111の発生させるレーザ光LSは、ファイバレーザである。レーザ発振器111の発生させるレーザ光LSは、例えば、ディスクレーザや半導体レーザやYAGレーザ等の、ファイバレーザ以外の固体レーザでもよい。レーザ発振器111の発生させるレーザ光LSは、固体レーザではなく、例えば、炭酸ガスレーザ等の気体レーザでもよい。
【0013】
レーザヘッド115は、光ファイバ112によってレーザ発振器111に接続されている。レーザ発振器111の発生させるレーザ光LSは、光ファイバ112によってレーザ発振器111からレーザヘッド115に伝送され、レーザヘッド115からワークWKに向かって射出される。レーザ発振器111の発生させるレーザ光LSが炭酸ガスレーザである場合には、光ファイバ112ではなく、ベンドミラーによってレーザ発振器111からレーザヘッド115にレーザ光LSが伝送されてもよい。図2では図示を省略しているが、レーザヘッド115には、シールドガスとして、アルゴンガス等が供給される。
【0014】
アーク溶接部120は、溶接用電源装置121と、アークトーチ125とを備えている。溶接用電源装置121は、パワーケーブル122によってアークトーチ125に電気的に接続されている。溶接用電源装置121は、アースケーブル123によってワークWKに電気的に接続される。溶接用電源装置121は、アークトーチ125とワークWKとの間に電圧を印加して、アークトーチ125とワークWKとの間にアークACを発生させる。
【0015】
アークトーチ125は、MIG溶接用、炭酸ガスアーク溶接用、あるいは、MAG溶接用のアークトーチとして構成されている。つまり、図2では図示を省略しているが、アークトーチ125には、電極として、ワークWKの材料と同じ材料を主成分とする溶接ワイヤが供給され、シールドガスとして、アルゴンガス、炭酸ガス、あるいは、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等が供給される。なお、アークトーチ125は、TIG溶接用のアークトーチとして構成されてもよい。
【0016】
溶接位置変更部130は、ワークWKに対するレーザヘッド115およびアークトーチ125の相対位置を変更する。本実施形態では、溶接位置変更部130は、ロボットアームによって構成されている。より具体的には、溶接位置変更部130は、6つの回転軸J1~J6を有する垂直多関節ロボットによって構成されている。溶接位置変更部130の先端部には、固定部材135を介して、レーザヘッド115とアークトーチ125とが固定されている。溶接位置変更部130は、固定部材135に固定されたレーザヘッド115とアークトーチ125とを一体として移動させることによって、ワークWKに対するレーザヘッド115およびアークトーチ125の相対位置を変更する。なお、溶接位置変更部130は、垂直多関節ロボットではなく、例えば、水平多関節ロボットによって構成されてもよい。溶接位置変更部130は、ロボットアームではなく、例えば、電動リニアアクチュエータ等が組み合わされて構成されてもよい。
【0017】
他の実施形態では、溶接位置変更部130は、レーザヘッド115とアークトーチ125とを一体として移動させるのではなく、レーザヘッド115とアークトーチ125とを互いに独立して移動させてもよい。溶接位置変更部130は、レーザヘッド115およびアークトーチ125を移動させずに、ステージ140を移動させることによって、ワークWKに対するレーザヘッド115およびアークトーチ125の相対位置を変更してもよい。また、溶接位置変更部130は、レーザヘッド115、アークトーチ125、および、ステージ140を移動させることによって、ワークWKに対するレーザヘッド115およびアークトーチ125の相対位置を変更してもよい。
【0018】
制御部150は、CPUと、メモリと、入出力インターフェースとを備えたコンピュータとして構成されている。本実施形態では、制御部150は、レーザ溶接部110を制御してレーザヘッド115からワークWKにレーザ光LSを照射するとともに、アーク溶接部120を制御してアークトーチ125からワークWKにアークACを照射することによって、金属を溶融させるエネルギをワークWKに付与する。制御部150は、溶接位置変更部130を制御してワークWKに対するレーザヘッド115およびアークトーチ125の相対位置を変更することによって、ワークWK上におけるレーザ光LSやアークACの照射位置、換言すれば、ワークWK上におけるエネルギの付与位置を移動させる。なお、制御部150は、コンピュータではなく、複数の回路の組み合わせによって構成されてもよい。
【0019】
図3は、本実施形態における金属部材10の製造方法の内容を示すフローチャートである。図4は、レーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路を示す上面図である。図3に示すように、まず、ステップS110にて、第1板材20の端面と第2板材30の端面とが互いに突き合わされるように、第1板材20と第2板材30とが配置される。本実施形態では、第1板材20の端面と第2板材30の端面とが互いに突き合わされるように、第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定される。この際、第1板材20または第2板材30には、アースケーブル123が接続される。第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定された状態で、第1板材20の端面と第2板材30の端面とが接触していてもよいし、第1板材20の端面と第2板材30の端面との間に所定の幅の隙間が設けられてもよい。
【0020】
本実施形態では、第1板材20の底面と第2板材30の底面とが面一になるように第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定される。なお、第1板材20の上面と第2板材30の上面とが面一になるように第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定されてもよいし、第1板材20の上面と第2板材30の上面との間に段差が形成され、かつ、第1板材20の底面と第2板材30の底面との間に段差が形成されるように第1板材20と第2板材30とがステージ140に固定されてもよい。
【0021】
次に、ステップS120にて、図4に示す第2板材30上の第1位置P1に向けてレーザ光LSおよびアークACの照射が開始され、第1位置P1から図4に示す突合せ部40上の第2位置P2に向かってレーザ光LSおよびアークACの照射位置が移動される。本実施形態では、制御部150がレーザ溶接部110を制御することによってレーザヘッド115からのレーザ光LSの照射が開始され、制御部150がアーク溶接部120を制御することによってアークトーチ125からのアークACの照射が開始される。レーザ光LSの焦点スポット径Dは、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下である。焦点スポット径Dとは、焦点スポットの直径のことを意味する。本実施形態では、制御部150が溶接位置変更部130を制御してステージ140に対してレーザヘッド115およびアークトーチ125を移動させることによって、レーザ光LSおよびアークACの照射位置が移動される。
【0022】
第1位置P1は、第1板材20と第2板材30とが突き合わされている突合せ部40から所定距離離れた位置であり、かつ、突合せ部40に沿った方向における第2板材30の一端から所定距離離れた位置である。本実施形態では、第1位置P1と突合せ部40との距離L1は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。第1位置P1と第2板材30の一端との距離L2は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。
【0023】
第2位置P2は、第2板材30の一端から所定距離離れた位置である。本実施形態では、第2位置P2と第2板材30の一端との距離L3は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。
【0024】
図3のステップS130にて、第2位置P2から図4に示す突合せ部40上の第3位置P3に向かって、レーザ光LSおよびアークACの照射位置が突合せ部40に沿って移動されることによって、第1板材20と第2板材30とが溶接される。
【0025】
第3位置P3は、突合せ部40に沿った方向における第2板材30の他端から所定距離離れた位置である。本実施形態では、第3位置P3と第2板材30の他端との距離L4は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。
【0026】
図3のステップS140にて、第3位置P3から図4に示す第2板材30上の第4位置P4に向かってレーザ光LSおよびアークACの照射位置が移動された後、第4位置P4にてレーザ光LSおよびアークACの照射が終了される。本実施形態では、制御部150がレーザ溶接部110を制御することによって、レーザヘッド115からのレーザ光LSの照射が終了され、制御部150がアーク溶接部120を制御することによって、アークトーチ125からのアークACの照射が終了される。
【0027】
第4位置P4は、突合せ部40から所定距離離れた位置であり、かつ、第2板材30の他端から所定距離離れた位置である。本実施形態では、第4位置P4と突合せ部40との距離L5は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。第4位置P4と第2板材30の他端との距離L6は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。
【0028】
上述したステップS120からステップS140までの工程のことを溶接工程と呼ぶ。溶接工程のうち、ステップS120の工程のことを第1工程と呼び、ステップS130の工程のことを第2工程と呼び、ステップS140の工程のことを第3工程と呼ぶ。図4には、第1工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R1と、第2工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R2と、第3工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R3とが表されている。本実施形態では、第1工程における移動経路R1は、第2板材30の一端に平行である。上方から視て突合せ部40が一直線状に形成されているので、第2工程における移動経路R2は、一直線状である。第3工程における移動経路R3は、第2板材30の他端に平行である。第1工程から第3工程では、これらの移動経路R1~R3に沿って一筆書きのようにしてレーザ光LSおよびアークACが照射される。なお、他の実施形態では、第1工程における移動経路R1は、第2板材30の一端に交差する方向に平行でもよいし、第3工程における移動経路R3は、第2板材30の他端に交差する方向に平行でもよい。
【0029】
第1板材20と第2板材30とが溶接によって一体化されることによって、金属部材10が製造される。その後、金属部材10がステージ140から取り外される。金属部材10のうち、第2位置P2に対して一端側の部分、および、第3位置P3に対して他端側の部分には、レーザ光LSおよびアークACが照射されておらず、溶接継手部13が形成されていない。本実施形態では、金属部材10がステージ140から取り外された後、金属部材10のうち、第2位置P2に対して一端側の部分、および、第3位置P3に対して他端側の部分が切断によって除去される。
【0030】
図5は、上述したステップS120からステップS140において移動するレーザ光LSの照射位置の移動速度とレーザ光LSの出力とを示す説明図である。図5において、横軸は、ワークWK上の位置を表しており、縦軸は、レーザ光LSの照射位置の移動速度とレーザ光LSの出力とを表している。
【0031】
本実施形態では、第1位置P1から第2位置P2までレーザ光LSの照射位置を移動させる際には、制御部150は、第1位置P1から第2位置P2に向かうほどレーザ光LSの照射位置の移動速度を速くし、第1位置P1から第2位置P2に向かうほどレーザ光LSの出力を大きくする。より具体的には、制御部150は、所定出力Pw1で第1位置P1に向けてレーザ光LSの照射を開始するとともに、第1位置P1から第2位置P2に向かってレーザ光LSの照射位置の移動を開始する。この際、制御部150は、初速度ゼロで移動を開始したレーザ光LSの照射位置の移動速度が第2位置P2の近傍にて所定速度V1になり、第2位置P2の近傍にてレーザ光LSの出力が所定出力Pw2になるように、レーザ光LSの照射位置の移動速度、および、レーザ光LSの出力を線形に増加させる。なお、他の実施形態では、制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度やレーザ光LSの出力を非線形に増加させてもよい。
【0032】
第2位置P2から第3位置P3までレーザ光LSの照射位置を移動させる際には、制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度、および、レーザ光LSの出力を一定に保つ。より具体的には、制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度を速度V1に保ち、レーザ光LSの出力を出力Pw2に保つ。
【0033】
第3位置P3から第4位置P4までレーザ光LSの照射位置を移動させる際には、制御部150は、第3位置P3から第4位置P4に向かうほどレーザ光LSの照射位置の移動速度を遅くし、第3位置P3から第4位置P4に向かうほどレーザ光LSの出力を小さくする。より具体的には、制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度が第4位置P4にてゼロになり、第4位置P4にてレーザ光LSの出力が出力Pw1になるように、レーザ光LSの照射位置の移動速度、および、レーザ光LSの出力を線形に減少させる。なお、他の実施形態では、第4位置P4におけるレーザ光LSの出力は、出力Pw2より小さく、かつ、出力Pw1よりも大きい出力でもよいし、出力Pw1よりも小さい出力でもよい。制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度やレーザ光LSの出力を非線形に減少させてもよい。
【0034】
本実施形態では、制御部150は、第1位置P1および第4位置P4におけるレーザ光LSの照射位置の移動速度をゼロにするので、レーザ光LSの照射開始位置や照射終了位置がずれることを抑制できる。また、制御部150は、レーザ光LSの照射位置を第2位置P2から第3位置P3に移動させる際の移動速度を、第1位置P1から第2位置P2に移動させる際の移動速度や、第3位置P3から第4位置P4に移動させる際の移動速度よりも速くするので、溶接にかかる時間が長くなることを抑制できる。また、制御部150は、レーザ光LSの照射位置を第2位置P2から第3位置P3に移動させる際に、レーザ光LSの照射位置の移動速度とレーザ光LSの出力を一定に保つので、突合せ部40の位置ごとに溶接品質のばらつきが生じることを抑制できる。また、制御部150は、レーザ光LSの照射位置の移動速度やレーザ光LSの出力を線形に変化させることによってレーザ光LSの照射位置の移動速度やレーザ光LSの出力を調整するので、簡易な制御でレーザ光LSの照射位置の移動速度やレーザ光LSの出力を調整することができる。
【0035】
図6は、本実施形態における溶接工程の様子を模式的に示す説明図である。図7は、比較例における溶接工程の様子を模式的に示す説明図である。図6には、第1位置P1に向けてレーザ光LSおよびアークACの照射を開始した後、レーザ光LSおよびアークACの照射位置を第1位置P1から第2位置P2を経由して第3位置P3に向かって移動させる様子が表されている。図7には、突合せ部40の端部に向けてレーザ光LSおよびアークACの照射を開始した後、突合せ部40の一端から他端に向かってレーザ光LSおよびアークACの照射位置を移動させる様子が表されている。
【0036】
図6に示すように、ワークWKに対してレーザ光LSおよびアークACが照射されることによって、ワークWKが溶融して溶融金属MMからなる溶融池が形成される。一般に、ワークWKの端部に近いほどワークWKの端部から溶融金属MMが落下しやすいので、ワークWKの端部に近いほどワークWKに穴が空きやすい。突合せ部40では第1板材20と第2板材30との間から溶融金属MMが落下することがあるので、突合せ部40では突合せ部40以外の部分に比べて穴が空きやすい。突合せ部40以外の部分では板厚が小さいほど穴が空きやすい。したがって、図7に示すように、突合せ部40の端部に向けてレーザ光LSの照射を開始した後、突合せ部40の一端から他端に向かってレーザ光LSの照射位置を移動させた場合には、ワークWKに穴HLが空きやすい。
【0037】
これに対して、以上で説明した本実施形態における金属部材10の製造方法によれば、溶接工程において、図6に示すように第1板材20の板厚t1よりも大きな板厚t2を有する第2板材30上の第1位置P1にてワークWKへのエネルギの付与を開始し、かつ、第2板材30上の第4位置P4にてワークWKへのエネルギの付与を終了するので、ワークWKへのエネルギの付与を開始する際、および、ワークWKへのエネルギの付与を終了する際の穴空きを生じにくくできる。そのため、第1位置P1や第4位置P4における入熱量を緻密に設定しなくても、ワークWKに穴空きが生じることを抑制できる。特に、本実施形態では、レーザ溶接とアーク溶接とが組み合わされたレーザアークハイブリッド溶接によってワークWKを溶接する。つまり、レーザ光LSおよびアークACの照射によってワークWKにエネルギを付与する。そのため、アーク溶接のみによって溶接する形態に比べて高速で溶接することができる。さらに、レーザ溶接のみによって溶接する形態に比べて広範囲を溶融させることができるので、突合せ部40における第1板材20と第2板材30との隙間の管理を容易化できる。
【0038】
また、本実施形態では、レーザ光LSの焦点スポット径Dは、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、レーザ光LSの照射が開始される第1位置P1と突合せ部40との距離L1、および、レーザ光LSの照射が終了される第4位置P4と突合せ部40との距離L5は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。そのため、レーザ光LSの照射を開始する際やレーザ光LSの照射を終了する際に、レーザ光LSの照射によって溶融した金属が突合せ部40から落下して穴が空くことを抑制できる。
【0039】
また、本実施形態では、レーザ光LSの焦点スポット径Dは、0.5ミリメートル以上、かつ、1.2ミリメートル以下であり、第1位置P1と第2板材30の一端との距離L2、第2位置P2と第2板材30の一端との距離L3、第3位置P3と第2板材30の他端との距離L4、および、第4位置P4と第2板材30の他端との距離L6は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。そのため、レーザ光LSの照射位置と第2板材30の一端や他端との距離を十分に確保できるので、レーザ光LSの照射によって溶融した金属が第2板材30の一端や他端から落下して穴が空くことを抑制できる。特に、本実施形態では、上述したとおり、第1板材20と第2板材30とを溶接することによって製造された金属部材10のうち、突合せ部40を溶接されていない部分である、第2位置P2に対して第2板材30の一端側の部分と、第3位置P3に対して第2板材30の他端側の部分とが切断によって除去される。第2位置P2と第2板材30の一端との距離L3や、第3位置P3と第2板材30の他端との距離L4を5.0ミリメートル以下にすることによって、切断によって除去される部分の面積を小さくすることができるので、歩留まりが悪くなることを抑制できる。
【0040】
B.他の実施形態:
(B1)上述した実施形態の金属部材10の製造方法では、レーザ溶接とアーク溶接とが組み合わされたレーザアークハイブリッド溶接によって第1板材20と第2板材30とが溶接されることによって、金属部材10が製造される。これに対して、アーク溶接と組み合わされていないレーザ溶接によって第1板材20と第2板材30とが溶接されることによって金属部材10が製造されてもよい。レーザ溶接と組み合わされていないアーク溶接によって第1板材20と第2板材30とが溶接されることによって金属部材10が製造されてもよいし、電子ビーム溶接によって第1板材20と第2板材30とが溶接されることによって金属部材10が製造されてもよい。
【0041】
(B2)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法では、上方から視て突合せ部40が一直線状に形成されており、溶接工程の第2工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R2は、一直線状である。これに対して、金属部材10の製造方法では、上方から視て突合せ部40が曲線部分を有しており、第2工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R2は、突合せ部40に沿った曲線部分を有してもよい。例えば、上方から視て突合せ部40が波状に形成されており、第2工程におけるレーザ光LSおよびアークACの照射位置の移動経路R2は、突合せ部40に沿った波状であってもよい。
【0042】
(B3)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法では、レーザ光LSの照射が開始される第1位置P1と突合せ部40との距離L1、および、レーザ光LSの照射が終了される第4位置P4と突合せ部40との距離L5は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。これに対して、レーザ光LSの照射が開始される第1位置P1と突合せ部40との距離L1と、レーザ光LSの照射が終了される第4位置P4と突合せ部40との距離L5とのうちの少なくとも一方は、1.0ミリメートル未満でもよいし、5.0ミリメートルを超えてもよい。
【0043】
(B4)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法では、第1位置P1と第2板材30の一端との距離L2、第2位置P2と第2板材30の一端との距離L3、第3位置P3と第2板材30の他端との距離L4、および、第4位置P4と第2板材30の他端との距離L6は、1.0ミリメートル以上、かつ、5.0ミリメートル以下である。これに対して、第1位置P1と第2板材30の一端との距離L2と、第2位置P2と第2板材30の一端との距離L3と、第3位置P3と第2板材30の他端との距離L4と、第4位置P4と第2板材30の他端との距離L6とのうちの少なくともいずれか1つは、1.0ミリメートル未満でもよいし、5.0ミリメートルを超えてもよい。
【0044】
(B5)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法において、制御部150は、第1位置P1から第2位置P2に向かう方向にレーザヘッド115を移動させながら、移動中のレーザヘッド115からのレーザ光LSの照射を第1位置P1にて開始させてもよい。この場合、第2位置P2から第3位置P3に向かう方向にレーザヘッド115を移動させながら、移動中のレーザヘッド115からのレーザ光LSの照射を第2位置P2にて開始させる形態とは異なり、レーザ光LSの照射開始タイミングが意図せず早くなったとしてもレーザ光LSの照射開始位置と第2板材30の一端との距離にずれが生じにくい。そのため、レーザ光LSの照射開始位置と第2板材30の一端との距離が意図せず近くなって穴空きが生じることを抑制できる。
【0045】
(B6)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法において、制御部150は、第3位置P3から第4位置P4に向かう方向にレーザヘッド115を移動させながら、レーザヘッド115からのレーザ光LSの照射を第4位置P4にて終了させてもよい。この場合、第2位置P2から第3位置P3に向かう方向にレーザヘッド115を移動させながら、レーザヘッド115からのレーザ光LSの照射を第3位置P3にて終了させる形態とは異なり、レーザ光LSの照射終了タイミングが意図せず遅くなったとしてもレーザ光LSの照射終了位置と第2板材30の他端との距離にずれが生じにくい。そのため、レーザ光LSの照射終了位置と第2板材30の他端との距離が意図せず近くなって穴空きが生じることを抑制できる。
【0046】
(B7)上述した各実施形態の金属部材10の製造方法の溶接工程において、移動経路R1と移動経路R2との接続部分、および、移動経路R2と移動経路R3との接続部分は、微分可能な線を描くように設けられてもよい。この場合、移動経路R1と移動経路R2との接続部分や移動経路R2と移動経路R3との接続部分が微分不可能な線を描くように設けられた形態、例えば、移動経路R1と移動経路R2とが直角に折れ曲がるように接続された形態に比べて、溶接位置変更部130の制御が容易になる。そのため、第2位置P2や第3位置P3の近傍においてレーザ光LSの照射位置の移動速度が遅くなることに起因して第2位置P2や第3位置P3の近傍に穴空きが生じることを抑制できる。
【0047】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10…金属部材、11…薄板部、12…厚板部、13…溶接継手部、20…第1板材、30…第2板材、40…突合せ部、100…溶接装置、110…レーザ溶接部、111…レーザ発振器、112…光ファイバ、115…レーザヘッド、120…アーク溶接部、121…溶接用電源装置、122…パワーケーブル、123…アースケーブル、125…アークトーチ、130…溶接位置変更部、135…固定部材、140…ステージ、150…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7