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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241016BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021040006
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139562
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土井 昌志
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】徳崎 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】沈 ▲良▼羽
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/153488(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195677(WO,A1)
【文献】特開2003-255012(JP,A)
【文献】特開平8-070503(JP,A)
【文献】特開2018-050367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタンスと平滑コンデンサの容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータに供給するインバータに前記直流電流を供給する供給路の検査装置であって、
前記モータの停止時に、微小変動を有し、前記モータの駆動時に前記供給路に印加される第1の電圧と異なる第2の電圧が前記供給路に印加された場合における前記LC回路のインピーダンスを測定する測定部と、
前記LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、前記供給路に対する前記第1の電圧の印加によって前記モータが駆動する場合に、前記LC回路のインピーダンスと前記インバータの制御応答の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、
を含む検査装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記LC回路のインピーダンスの測定結果のピークが前記インバータ及び前記モータに等価な負性抵抗値の最小値の絶対値を超過するか否かを判定し、
前記出力部は、前記ピークが前記負性抵抗値の最小値の絶対値を超過すると判定される場合に、前記発振現象が起こり得る旨を出力する
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記第2の電圧の印加時における前記平滑コンデンサの両端間の電圧を測定し、前記第2の電圧に含まれた微小変動の電圧値と、前記平滑コンデンサの両端間の電圧に含まれた前記第2の電圧の微小変動の電圧値に対応する微小変動の電圧値とを用いて前記LC回路のインピーダンスを算出する
請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記供給路に所定の抵抗が接続され、前記第2の電圧が印加された場合に前記抵抗を流れる電流を測定し、前記所定の抵抗の値と、前記第2の電圧に含まれた微小変動の電圧値と、前記電流の値とを用いて前記LC回路のインピーダンスを算出する
請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記モータからの回生エネルギーを吸収するブレーキ抵抗が前記所定の抵抗として前記供給路に接続された場合において前記ブレーキ抵抗を流れる電流を測定する
請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記判定部によって前記発振現象が起こり得ると判定される場合に、前記平滑コンデンサに追加すべき容量を出力する
請求項1から5のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記判定部によって前記ピークが前記負性抵抗値の最小値の絶対値を超過すると判定される場合に、前記LC回路のインピーダンスの目標値と、前記ピークを示す値と、前記ピークにおける角周波数とを用いて、前記平滑コンデンサに追加すべき容量を算出して出力する
請求項2に記載の検査装置。
【請求項8】
インダクタンスと平滑コンデンサの容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータに供給するインバータに前記直流電流を供給する供給路を検査する方法であって、
前記モータの停止時に、微小変動を有し、前記モータの駆動時に前記供給路に印加される第1の電圧と異なる第2の電圧が前記供給路に印加された場合における前記LC回路のインピーダンスを測定することと、
前記LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、前記供給路に対する前記第1の電圧の印加によって前記モータが駆動する場合に、前記LC回路のインピーダンスと前記インバータの制御応答の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定することと、
前記判定の結果を出力することと、
を含む検査方法。
【請求項9】
インダクタンスと平滑コンデンサの容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータに供給するインバータに前記直流電流を供給する供給路を検査するプログラムであって、
前記モータの停止時に、微小変動を有し、前記モータの駆動時に前記供給路に印加される第1の電圧と異なる第2の電圧が前記供給路に印加された場合における前記LC回路のインピーダンスを測定することと、
前記LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、前記供給路に対する前記第1の電圧の印加によって前記モータが駆動する場合に、前記LC回路のインピーダンスと前記インバータの制御応答の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定することと、
前記判定の結果を出力することと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検査装置、検査方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流/交流変換を行い、自身に接続されたモータに交流電流を供給する1又は2以上のインバータと、各インバータに対する直流電流の供給路(直流供給路:DCバス又はDCリンクと呼ばれる)とを備えるサーボドライバ(以下、「ドライバ」と称する)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2018/131086号
【文献】国際公開WO2019/230430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドライバのDCバスには、モータからインバータに逆流する回生エネルギーの吸収等を目的とした平滑コンデンサが設けられる。この平滑コンデンサは、DCバスの配線のインダクタンスとLC回路を形成する。ドライバの設計にあたり、平滑コンデンサの容量をドライバの小型化のために小さくすることが考えられる。しかしながら、平滑コンデンサの容量が小さくなると、DCバスに印加される電圧(DCバス電圧)の微小な変動がLC回路のインピーダンスとインバータの制御応答の相互作用により増幅される発振現象が発生し、過電圧が生じる虞があった。
【0005】
本開示は、直流電流の供給路の電圧の発振現象が起こりうるかどうかを事前に把握することができる検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る検査装置は、インダクタンスと平滑コンデンサの容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータに供給するインバータに直流電流を供給する供給路の検査装置である。この検査装置は、モータの停止時に、微小変動を有し、モータの駆動時に供給路に印加される第1の電圧と異なる第2の電圧が供給路に印加された場合におけるLC回路のインピーダンスを測定する測定部と、LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、供給路に対する第1の電圧の印加によってモータが駆動する場合に、LC回路のインピーダンスとインバータの応答制御の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定する判定部と、判定部の判定結果を出力する出力部とを含む。
【0007】
検査装置において、例えば、判定部は、LC回路のインピーダンスの測定結果のピークがインバータ及びモータに等価な負性抵抗値の最小値の絶対値を超過するか否かを判定し、出力部は、ピークが負性抵抗値の最小値の絶対値を超過すると判定される場合に、発振現象が起こり得る旨を出力するのが好ましい。
【0008】
また、検査装置において、例えば、測定部は、第2の電圧の印加時における平滑コンデンサの両端間の電圧を測定し、第2の電圧に含まれた微小変動の電圧値と、平滑コンデンサの両端間の電圧に含まれた第2の電圧の微小変動の電圧値に対応する微小変動の電圧値とを用いてLC回路のインピーダンスを算出するのが好ましい。
【0009】
また、検査装置において、例えば、測定部は、供給路に所定の抵抗が接続され、第2の電圧が印加された場合に抵抗を流れる電流を測定し、所定の抵抗の値と、第2の電圧に含まれた微小変動の電圧値と、電流の値とを用いてLC回路のインピーダンスを算出してもよい。この場合、例えば、測定部は、モータからの回生エネルギーを吸収するブレーキ抵抗が所定の抵抗として供給路に接続された場合においてブレーキ抵抗を流れる電流を測定してもよい。この場合、既存のブレーキ抵抗を用いてインピーダンスを算出できる。
【0010】
また、検査装置において、出力部は、判定部によって前記発振現象が起こり得ると判定される場合に、前記平滑コンデンサに追加すべき容量を出力する構成を採用してもよい。このようにすれば、発振が起こり得ないように容量を増やすことが可能となる。この場合、出力部は、判定部によってピークが負性抵抗値の最小値の絶対値を超過すると判定される場合に、LC回路のインピーダンスの目標値と、ピークを示す値と、ピークにおける角周波数とを用いて、平滑コンデンサに追加すべき容量を算出して出力するのが好ましい。
【0011】
本開示に係る発明は、上述した検査装置と同様の特徴を有する、検査方法、プログラム、そのようなプログラムを記録した記録媒体なども含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、直流電流の供給路の電圧の発振現象が起こり得るかどうかを事前に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは、ドライバの概略構成図であり、図1Bは、DCバスへの入力電圧を説明するグラフであり、図1Cは、DCバスが備える平滑コンデンサの両端間の電圧を示すグラフである。
図2図2Aは、図1Aに示したドライバ10a及びモータ13-1の等価回路を示す図であり、図2Bは、図2Aに示したLC回路のインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
図3図3は、インピーダンス検査装置の構成例を示す図である。
図4図4A及びBは、測定部によって得られるインピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
図5図5は、平滑コンデンサの電圧の測定方法(第1の方法)の説明図である。
図6図6は、第1の方法を用いたインピーダンスの検査に係る処理を示すフローチャートである。
図7図7は、平滑コンデンサの電圧の測定方法(第2の方法)の説明図である。
図8図8は、第2の方法を用いたインピーダンスの測定方法の説明図である。
図9図9は、第2の方法を用いたインピーダンスの検査に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<適用例>
本開示に係る検査装置は、インダクタンスと平滑コンデンサの容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータに供給するインバータに直流電流を供給する供給路を検査する検査装置である。検査装置は、モータの停止時に、モータの駆動時に供給路に印加される第1の電圧と異なり、且つ微小変動を有する第2の電圧が供給路に印加された場合におけるLC回路のインピーダンスを測定する測定部と、LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、供給路に対する第1の電圧の印加によって前記モータが駆動する場合に、LC回路のインピーダンスとインバータの制御応答の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定する判定部と、判定部の判定結果を出力する出力部とを含む。検査装置によれば、LC回路のインピーダンスの測定結果を用いて、供給路
に第1の電圧を印加した場合に発振現象が起こり得るかどうかをユーザが事前に把握可能となる。第2の電圧は、例えば第1の電圧より小さくされる。また、LC回路のインピーダンスの測定は、1種類の周波数に対して1回行われてもよいが、微小変動の周波数を変えて複数回行われてもよい。
【0015】
以下、図面に基づいて本願の実施形態に係るインピーダンスの検査装置について説明する。実施形態の構成は例示であり、実施形態の構成に限定されない。
【0016】
<DC給電システム>
図1Aは、ドライバの概略構成図である。図1Aにおいて、ドライバ10は、ドライバ10に接続されたn個(nは1以上の整数)のモータ13-1~13-n(区別しない場合は「モータ13」と表記)の夫々に交流電流を供給する。
【0017】
ドライバ10は、AC/DC変換器11と、AC/DC変換器11とDCバスを介して接続された、モータ13-1~モータ13-nの夫々に対応するインバータ12-1~12-nとを含む。インバータ12-1~12-nを区別しない場合は、「インバータ12」と表記する。また、ドライバ10は、モータ13-1~13-nの夫々の動作を制御する制御回路(サーボ制御部)を含んでいる。制御回路は、AC/DC変換器11の動作を制御する制御回路、各インバータ12の動作を制御する制御回路などを含む。
【0018】
インバータ12は、モータ駆動用のインバータであり、U相、V相及びW相の三相の電力ケーブルを介してモータ13に接続される。インバータ12は、DCバスから供給される直流電流を交流電流に変換し、電力ケーブルを介して交流電流をモータ13に供給する。
【0019】
インバータ12-1~12-nの夫々は、AC/DC変換器11と行きと戻りの二線を介して接続されており、この二線がインバータ12に直流電流を供給するDCバス(直流電流の供給路)をなす。DCバスには平滑コンデンサCsが接続されており、DCバスには、電圧Vsが印加される。モータ13の運転時に、電圧Vsの値は微小変動する。微小変動はΔVsとして表すことができる(図1Bを参照)。
【0020】
また、DCバスには、インバータ12-1~12-nの夫々からの回生エネルギーの吸収等を目的として、平滑コンデンサC1,C2,…,Cn-1,Cnが設けられている。例えば、AC/DC変換器11とインバータ12-1とを接続するDCバスには、平滑コンデンサC1が接続されている。なお、平滑コンデンサC1~Cnを区別しない場合は、平滑コンデンサCnと表記する。
【0021】
図1Aに示したドライバ10において、ドライバ10の小型化のために、各DCバスにおける平滑コンデンサC1~Cnの容量を小さくすることが考えられる。例えば、平滑コンデンサC1の容量が小さくなると、図1Cのグラフに示すように、DCバス電圧の発振により平滑コンデンサC1の両端間の電圧Vc1が増幅され、過電圧によって平滑コンデンサC1やインバータ12-1が破損する虞があった。
【0022】
発振現象に関する詳細を、図1Aにおいて一点鎖線のブロックで囲まれた、モータ13-1にインバータ12-1を介して電流を供給する部分(「ドライバ10a」と称する)を用いて説明する。ドライバ10a及びモータ13-1に関して、モータ13-1が駆動によって加減速している期間、ドライバ10aに含まれるDCバスへの入力電圧Vsが微小変動する(図1B参照)。微小変動はΔVsとして表すことができる。
【0023】
インバータ12-1及びモータ13-1は、微小変動ΔVsに対して負荷抵抗特性を示
す。このため、ドライバ10a及びモータ13-1は、図2Aに示す等価回路によって表すことができる。等価回路において、AC/DC変換器11及び平滑コンデンサCsは、直流電源Vinと見なすことができる。また、インバータ12-1及びモータ13-1は、電源側(AC/DC変換器11)からの電圧の微小変動に対して、一定の負の抵抗“-R”のように振る舞う。また、等価回路において、DCバスをなす配線等のインダクタンスを示すインダクタL1と平滑コンデンサ(キャパシタ)C1とがLC回路をなす。等価回路中の抵抗r及びrは、インダクタL0及びキャパシタC1の夫々の直列等価抵抗である。このとき、LC回路のインピーダンスZo(s)のピーク値Zo_peakは、以下の式(1)で表すことができる。
【数1】
【0024】
図2Bは、インピーダンスZo(s)の周波数特性を示すグラフである。グラフの横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸はインピーダンスZo(s)の絶対値(|Z|)を示す。周波数特性のグラフは、周波数の上昇に伴い|Z|が上昇し、やがてピーク(Zo_peak)を迎え、その後は低下していく。図2Bのグラフにおいて、抵抗-Rの絶対値|-R|を上回る部分は、DCバス電圧の発振現象が起こり、電圧Vc1が増幅され得る状態(図1C参照)となり、|-R|を下回る部分では発振現象が起こり得ない状態となる。以下の実施形態では、DCバスが有するLC回路のインピーダンスの周波数特性を検査することによって、モータを駆動させる電圧の印加時に発振現象が起こり得るかどうかを判定可能な検査装置について説明する。
【0025】
図3は、検査装置の構成例を示す図である。図3において、検査装置20(検査装置の一例)は、図1Aに示したドライバ10が備えるAC/DC変換器11(の制御回路)と通信線24を介して接続される。また、検査装置20は、ドライバ10が備えるインバータ12-1~12-nの夫々(の制御回路)と通信線25を介して接続されている。
【0026】
検査装置20は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)、或いは、パー
ソナルコンピュータ(PC)などを用いて構成される。検査装置20は、プログラム及びデータを記憶したメモリ、プログラムを実行するプロセッサ(CPUなど)、入力装置、出力装置(ディスプレイなど)、及び通信装置を備える。
【0027】
検査装置20は、プログラムの実行によって、測定部21、判定部22、及び出力部23を備えた装置として動作する。検査装置20は、図1に示すドライバ10において、モータ13-1~13-nの夫々に対するDCバス毎に、DCバスが有するLC回路のインピーダンスZo(s)の事前検査に使用される。
【0028】
検査装置20の測定部21は、モータ13が運転停止の状態で、AC/DC変換器11の出力電圧Vsを、例えば、運転時におけるVopより小さい電圧Vtsに設定する。測定部21は、検査対象のDCバスに、微小変動ΔVtsを有する電圧Vtsを、その変動(振動)の周波数を変化させながら発生させる。測定部21は、電圧Vtsの供給中において、DCバスのLC回路を形成する平滑コンデンサCnの両端間の電圧Vcnの微小変動ΔVcnを計測し、インバータ12側から見た出力インピーダンスZon(s)を算出する。そして、インピーダンスZon(s)のゲイン特性(周波数特性)が推定される。
【0029】
図4A及び図4Bは、測定部21によって得られるインピーダンスZon(s)の周波数特性を示すグラフである。電圧の振動ΔVtsの周波数は低い値から高い値へ変化する
ように与えられ、インピーダンスの最大値(ピーク)が求められる。判定部22は、インピーダンスZon(s)の周波数特性を示すグラフを用いて、インピーダンスのピークZon_peakと、ドライバの出力容量から算出され得る負性抵抗値-Rの最小値Rn_min(事前に用意される)とを比較する。
【0030】
Rn_minは、例えば、以下の式(2)で表される。
【数2】

ここに、“Vop_min”は、インバータ動作可能電圧の最小値であり、“Pn_max”は、インバータnの最大出力である。
【0031】
比較において、図4Aに示すように、Zon_peakがRn_minを超えない場合には、判定部22は“OK”(発振現象は起こり得ない)との判定を行う。これに対し、Zon_peakがRmin_nを超過する場合には、判定部22は“NG”(発振現象が起こり得る)との判定を行う。出力部23は、判定の結果を、ディスプレイに表示するなどによって出力し、ドライバ10及びモータ13のユーザに報知する。
【0032】
判定部22の判定結果がNGの場合に、出力部23は、インピーダンスの推定結果と各サーボドライバの機種情報から平滑コンデンサCnの容量を呼び出し、配線のインダクタンスを逆算して、安定動作(発振が起こり得ない動作)に必要な追加のコンデンサ容量を計算する。追加のコンデンサ容量は、平滑コンデンサCnに追加するコンデンサ容量の推定値であり、図4Bに示すように、インピーダンスのピークがRn_minより小さい図中のZon_impとなるように計算される。追加のコンデンサの容量は、出力部23によって出力される。追加のコンデンサの量に従って平滑コンデンサCnの容量が増加されることで、微小変動ΔVsの発振による増幅が抑圧される。なお、出力部23は、追加の容量を出力する場合にはNGの旨の出力を省略してもよい。
【0033】
図5は、平滑コンデンサの電圧の測定方法(第1の方法)の説明図である。測定方法の一例(第1の方法)として、平滑コンデンサC1~Cnの夫々に対応する電圧計30を設け、電圧Vsとして微小振動ΔVtsを有する電圧Vtsを印加している場合の平滑コンデンサC1~Cnの電圧Vc1~Vcnを測定する。
【0034】
各DCバスが有するLC回路のインピーダンスZonは、以下の式(3)で表すことができる。但し、式(3)はZonの一例として、ドライバ10aのインダクタL1及び平滑コンデンサC1からなるLC回路のインピーダンスZo1を求める式を示す。また、式(4)は、平滑コンデンサC1の電圧Vc1に含まれる微小変動ΔVc1を示す式である。電圧ΔVc1は、電圧Vc1の測定によって求めることができる。
【数3】
【0035】
上記の式(3)に示すインピーダンスZ’o1は、平滑コンデンサC1より前段におけるDCバスのインピーダンスを示し、上記の式(4)は式(5)に変形でき、さらに式(6)に変形することができる。そして、インピーダンスZo1は、式(7)で表すことができる。
【0036】
図6は、検査装置20の処理例を示すフローチャートである。図6には、第1の方法に従ってインピーダンスを算出する場合の処理例が示されている。図6に示す処理は、例えば、検査装置20が備えるプロセッサ(CPU等)がプログラムを実行することによって行われる。但し、図6に示す処理は、集積回路等のハードウェアによって行われてもよい。
【0037】
また、図6の説明において、LC回路のインピーダンスZonの算出の一例として、ドライバ10aのLC回路のインピーダンスZo1の算出を一例として示す。図6に示す処理は、モータ13-1以外のモータ13-2~13-nの夫々に対応するLC回路のインピーダンスZo2~ZoNの夫々の検査についても適用可能である。
【0038】
ステップS001では、検査装置20は、検査対象のLC回路を有するドライバ10aが備えるモータ13-1の制御回路に対し、モータ13-1の運転を停止する指示を与える。
【0039】
ステップS002では、検査装置20の測定部21は、AC/DC変換器11の制御回路に対し、所定周波数の振動ΔVsを有する電圧Vsでの通電を指示する。これによって、DCバスに電圧が印加され、この電圧に応じた電流が流れる。
【0040】
ステップS003では、測定部21は、平滑コンデンサC1の電圧Vc1を測定し、上
述した式(2)~(6)に従ってインピーダンスZo1を算出する。
【0041】
ステップS004では、測定部21は、インピーダンスZo1の算出を終了するか否かを判定する。このとき、インピーダンスZo1の算出を終了しないと判定される場合には、処理がステップS003に戻り、ΔVsの周波数を変更して、ステップS002及びS003の処理が行われる。このループ処理によって、各周波数に対するインピーダンスZo1が算出される。ステップS004において、インピーダンスZo1の算出を終了すると判定される場合には、処理がステップS005に進む。なお、ΔVsの周波数の変更、及び各周波数に対するインピーダンスZo1の測定はオプションであり、一種類のΔVsに対するインピーダンスZo1の測定が1回行われる構成であってもよい。
【0042】
ステップS005では、判定部22は、インピーダンスZo1のピークZo1_peakをインピーダンスZo1の測定結果から求めるとともに、Zo1_peakを閾値R1_min(既知。Rn_minに相当)と比較する。
【0043】
ステップS006では、判定部22は、Zo1_peakがR1_minを超過するか否かを判定する。Zo1_peakがR1_minを超過すると判定される場合には、モータ13-1の駆動時にDCバス電圧の発振が起こり得ると扱われ、処理がステップS007に進む。これに対し、Zo1_peakがR1_min以下と判定される場合には、上記したDCバス電圧の発振が起こり得ないとして扱われ、処理がステップS009に進む。
【0044】
ステップS007では、出力部23が、平滑コンデンサC1に係る追加のコンデンサ容量を算出する。すなわち、出力部23は、出力インピーダンスの目標値Z*on_imp
を負性抵抗の最小値Rn_minと、ゲイン余裕GM[dB]とから算出する。Z*on
_impは、以下の式(8)及び(9)で表すことができる。すなわち、Z*on_im
pは、式(7)に示すように、出力インピーダンスの最大値(ビーク値)Zon_peakと、最大値(ピーク)における角周波数ωn_peakと、追加すべきコンデンサ容量Cn_addとから求めることができ、式(9)を変形した式(10)から容量Cn_addを算出することができる。但し、式(8)~(10)の内容は、平滑コンデンサCnの一例である平滑コンデンサC1に追加すべきコンデンサ容量C1_addを求める内容となっている。
【数4】
【0045】
ステップS008では、出力部23が、NGの旨と、追加のコンデンサ容量を報知(デ
ィスプレイに表示)する処理を行う。ユーザは、追加のコンデンサ容量を見て、Cnの容量を追加する作業を行うことができる。ステップS009に処理が進んだ場合、出力部23が、OKの旨をディスプレイに表示する処理を行う。ステップS008又はS009が終了すると、図6に示した処理が終了する。
【0046】
図7は、平滑コンデンサの電圧の測定方法(第2の方法)の説明図である。図7は、一インバータ12とモータ13との接続部分の構成を示す。インバータ12は、モータ13のU相、V相及びW相の夫々に電力ケーブルを介して交流電流を供給するための複数のスイッチング素子を有している。U相の電力ケーブルには、モータ13からの回生エネルギーを熱として消費するためのブレーキ抵抗17とスイッチ16aとが接続されている。なお、V相の電力ケーブルにも、スイッチ16bとブレーキ抵抗18が接続されている。
【0047】
測定部21は、インバータ12が有するスイッチング素子S1及びS2、並びにスイッチ16aをオンにする指示を出す。スイッチング素子S1及びS2のオン、並びにスイッチ16aのオン(短絡)によって、DCバスを流れる電流がスイッチング素子S1→スイッチ16a→ブレーキ抵抗17→スイッチング素子S2の順で流れる流路が形成される。流路が形成された状態において、上記した微小変動ΔVsを含む電圧Vsで直流電流を流し、ブレーキ抵抗17を流れる電流を測定する。この電流の測定値を用いてLC回路のインピーダンスを算出することができる。
【0048】
図8は、第2の方法を用いた、LC回路のインピーダンスZonの測定方法の説明図である。LC回路の一例として、ドライバ10aに含まれるLC回路のインピーダンスZo1の測定方法について説明する。測定部21は、インバータ12-1が有するスイッチング素子S1及びS2と、スイッチ16aとの夫々をオンにする指示を与える。これによって、図7に示したようなブレーキ抵抗17を通過する電流の流路が形成される。電流の流路は、図8に示すように、ドライバ10aのDCバスに対し、ブレーキ抵抗17に相当する抵抗Rが接続された状態と等価である。その後、測定部21は、AC/DC変換器11に対し、微小変動ΔVsを有する電圧VsでDCバスに電流を流す指示を与える。これにより、電流が流路を流れる。測定部21は、流路を流れる電流Ib1を測定する。
【0049】
電圧Vsの微小変動ΔVsは、以下の式(11)で表すことができ、ドライバ10aのDCバスが備えるLC回路のインピーダンスZo_1は、式(11)を変形した式(12)で表すことができる。電圧ΔVsと抵抗Rの値は既知であるため、電流ΔIb1を測定することで、測定部21はインピーダンスZo1を算出することができる。なお、ドライバ10a以外のドライバに含まれるLC回路のインピーダンスZo2~ZoNについても、同様の手法で算出することができる。
【数5】
【0050】
図9は、第2の方法を用いたインピーダンスの検査に係る検査装置20の処理例を示すフローチャートである。図9に示す処理は、検査装置20が備えるプロセッサ(CPU等)がプログラムを実行することによって行われる。但し、図9に示す処理も、集積回路等のハードウェアによって行われてもよい。図9の説明は、インピーダンスZonの一例としてインピーダンスZo1を求める場合について説明する。
【0051】
図9において、ステップS001及びS002処理は、図6に示したステップS001
及びS002の処理と同じである。このため、これらの説明は省略する。図9に示す処理では、ステップS001とステップS002との間に、ステップS001Aの処理が挿入されている。ステップS001Aでは、検査装置20の測定部21は、ドライバ10が備える制御回路に対し、検査対象のDCバスに対応するスイッチング素子S1及びS2、並びにスイッチ16aをオンにする指示を与える。これによって、抵抗Rを含む電流の流路(図8参照)が形成される。
【0052】
また、図9の処理では、ステップS003の代わりに、ステップS003Aの処理が実行される。ステップS003Aでは、測定部21は、ステップS001Aの処理によって形成された流路を流れる電流(電流Ib1に相当)を測定し、電流Ib1の値と、既知のΔVs及びRの値とを用いて、式(5)に従いインピーダンスZo1を算出する。
【0053】
図9に示すステップS004~S009の処理は、図6に示したステップS004~S009の処理と同じであるため説明を省略する。第2の方法のように、ブレーキ抵抗17を流れる電流の測定によっても、インピーダンスZonを求めることができる。第2の方法では、既存のドライバ回路の構成に改変を加えずに済むという利点がある。
【0054】
実施形態に係る検査装置20は、インダクタンスL1と平滑コンデンサC1の容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータ13-1に供給するインバータ12-1に直流電流を供給する供給路であるDCバスが備えるLC回路のインピーダンスを検査する検査装置として動作する。
【0055】
検査装置20は、モータ13-1の停止時に、モータ13-1の駆動時(運転時)にDCバスに印加される第1の電圧Vopより小さく且つ微小変動ΔVsを有する第2の電圧VsがDCバスに印加された場合におけるDCバスのインピーダンスを、微小変動ΔVsの周波数を変えて複数回測定する測定部21を含む。また、検査装置20は、インピーダンスの測定結果を用いて、第1の電圧Vopでモータ13-1を動作させる場合に、DCバス電圧の発振現象が起こり得るかどうかを判定する判定部22を含む。本実施形態では、判定部22は、インピーダンスの測定結果のピークZo1_peakがインバータ12-1及びモータ13-1に等価な負性抵抗値“-R”の最小値R1_min(絶対値)を超過するか否かを判定する。さらに、検査装置20は、判定部22の判定結果を出力する出力部23を含む。出力部23は、ピークZo1_peakがR1_minを超過すると判定される場合に、発振現象が起こり得る旨(NG)を出力し、そうでなければOKを出力する。検査装置20によれば、DCバス電圧の発振現象が起こり得るかどうかを事前に把握することができる。
【0056】
測定部21は、第2の電圧Vsの印加時における平滑コンデンサC1の両端間の電圧Vc1を測定し、第2の電圧Vsに含まれた微小変動ΔVsの電圧値と、平滑コンデンサC1の両端間の電圧Vc1に含まれた第2の電圧の微小変動ΔVsの電圧値に対応する微小変動の電圧値ΔVc1とを用いてLC回路のインピーダンスを算出することができる。
【0057】
また、測定部21は、モータ13-1からの回生エネルギーを吸収するブレーキ抵抗17が所定の抵抗RとしてDCバスに接続された場合において、ブレーキ抵抗17を流れる電流を測定する。但し、所定の抵抗Rはブレーキ抵抗17以外であってもよい。そして、測定部21は、第2の電圧Vsが印加された場合に所定の抵抗Rを流れる電流Ib1を測定し、所定の抵抗Rの値と、第2の電圧Vsに含まれた微小変動ΔVsの電圧値と、電流Ib1の値とを用いてLC回路のインピーダンスを算出することもできる。
【0058】
検査装置20は、判定部22によって発振現象が起こり得ると判定される場合に、平滑コンデンサC1に追加すべき容量C1_addを出力する出力部23を含む。出力部23
は、例えば、判定部22によってピークZo1_peakが負性抵抗値の最小値R1_minを超過すると判定される場合に、LC回路のインピーダンスの目標値Z*o1_im
pと、ピークZo1_peakを示す値と、ピークZo1_peakにおける角周波数ω1_peakとを用いて、平滑コンデンサC1に追加すべき容量C1_addを算出し、出力することができる。追加すべき容量C1_addは、出力部23によって出力することができ、ユーザが追加すべき容量を把握することができる。実施形態の構成は発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更及び組み合わせが可能である。
【0059】
<付記>
インダクタンス(L1)と平滑コンデンサ(C1)の容量とからなるLC回路を有し、直流電流から変換した交流電流をモータ(13-1)に供給するインバータ(12-1)に前記直流電流を供給する供給路の検査装置(20)であって、
前記モータ(13-1)の停止時に、微小変動(ΔVs)を有し、前記モータ(13-1)の駆動時に前記供給路に印加される第1の電圧(Vop)と異なる第2の電圧(Vs)が前記供給路に印加された場合における前記LC回路のインピーダンス(Zo1)を測定する測定部と、
前記LC回路のインピーダンス(Zo1)の測定結果を用いて、前記供給路に対する前記第1の電圧(Vop)の印加によって前記モータが駆動する場合に、前記LC回路のインピーダンスと前記インバータの制御応答の相互作用に起因する発振現象が起こり得るかどうかを判定する判定部(22)と、
前記判定部(22)の判定結果を出力する出力部(23)と、
を含む検査装置(20)。
【符号の説明】
【0060】
10、10a・・・サーボドライバ
11・・・AC/DC変換器
12・・・インバータ
13・・・モータ
20・・・検査装置
21・・・測定部
22・・・判定部
23・・・出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9