(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報出力方法及び情報出力プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G05B23/02 302T
G05B23/02 V
(21)【出願番号】P 2021046545
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 尚之
(72)【発明者】
【氏名】山本 徹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 省吾
(72)【発明者】
【氏名】樋口 舞衣
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164368(WO,A1)
【文献】特開2015-184848(JP,A)
【文献】特開2017-021528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアの
うち、分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が閾値以上であるペアを抽出する第1の解析部と、
前記プロセス値の変動量として、前記分析対象とする周期に対応する区間におけるプロセス値の標準偏差が前記区間におけるプロセス値の平均値で除算された変動係数を前記ペアのセンサごとに算出する第2の解析部と、
前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのうち上流側のセンサの変動係数と、下流側のセンサの変動係数との変化比に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する要改善箇所出力部
と、
を有し、
前記第2の解析部は、前記上流側のセンサおよび前記下流側のセンサの間で前記分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が最大となるシフト量のトレンドに基づいて、前記上流側のセンサの変動係数に対する前記下流側のセンサの変動係数の変化比を算出する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記
第1の解析部は、
前記分析対象とする周期に基づいて、前記ペアに含まれる上流側のセンサの時間波形が複製された複製波形を移動させる移動枠の時間長と、前記上流側のセンサの前記移動枠内の複製波形および前記ペアに含まれる下流側のセンサの前記移動枠内の時間波形の間で相互相関係数を算出する計算窓の時間長とを設定し、
前記移動枠が前記計算窓の終端にシフトされるまで、前記上流側のセンサの前記移動枠内の複製波形と、前記下流側のセンサの前記移動枠内の時間波形との間で相互相関係数を算出することにより、前記移動枠のシフト量ごとに相互相関係数を算出し、
前記計算窓内で前記移動枠のシフト量ごとに算出された相互相関係数のうち、絶対値が最大である相互相関係数を移動相互相関係数として抽出し、
前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのうち、前記計算窓が前記センサのペアのプロセスデータの終端までシフトされることにより抽出される移動相互相関係数のトレンドの代表値が閾値以上であるセンサのペアを抽出する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記
第2の解析部は、前記プロセス値の変動量として、前記分析対象とする周期に応じて設定された移動枠が前記センサのプロセスデータの初期位置から終端にシフトされるまでの時刻ごとに前記移動枠内のプロセス値の標準偏差を前記移動枠内のプロセス値の平均値で除算することにより得られる変動係数のトレンドを算出する、ことを特徴とする請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記
第2の解析部は、
前記分析対象とする周期に基づいて、前記ペアに含まれる上流側のセンサの時間波形が複製された複製波形を移動させる移動枠の時間長と、前記上流側のセンサの前記移動枠内の複製波形および前記ペアに含まれる下流側のセンサの前記移動枠内の時間波形の間で相互相関係数を算出する計算窓の時間長とを設定し、
前記移動枠が前記計算窓の終端にシフトされるまで、前記上流側のセンサの前記移動枠内の複製波形と、前記下流側のセンサの前記移動枠内の時間波形との間で相互相関係数を算出することにより、前記移動枠のシフト量ごとに相互相関係数を算出し、
前記計算窓内で前記移動枠のシフト量ごとに算出された相互相関係数のうち、絶対値が最大である移動相互相関係数が算出された移動枠のシフト量を応答時間として抽出し、
前記上流側のセンサの変動係数と、前記計算窓が前記センサのペアのプロセスデータの終端までシフトされることにより抽出される応答時間のトレンドのうち前記上流側のセンサの変動係数が算出された第1の時刻における応答時間を前記第1の時刻からシフトさせた第2の時刻における下流側のセンサの変動係数との変化比を算出する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記要改善箇所出力部は、前記プラントの要改善箇所に関する情報として、前記変化比が降順にソートされたセンサのペアのリスト、前記変化比が最大であるセンサのペア、あるいは前記変化比が最大であるセンサのペアのうちの前記下流側のセンサを出力する、ことを特徴とする請求項
1~4のいずれか1つに記載の情報処理装置。
【請求項6】
プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアの
うち、分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が閾値以上であるペアを抽出し、
前記プロセス値の変動量として、前記分析対象とする周期に対応する区間におけるプロセス値の標準偏差が前記区間におけるプロセス値の平均値で除算された変動係数を前記ペアのセンサごとに算出し、
前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのうち上流側のセンサの変動係数と、下流側のセンサの変動係数との変化比に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する、
処理をコンピュータが実行
し、
前記算出する処理は、前記上流側のセンサおよび前記下流側のセンサの間で前記分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が最大となるシフト量のトレンドに基づいて、前記上流側のセンサの変動係数に対する前記下流側のセンサの変動係数の変化比を算出する処理を含む、
ことを特徴とする情報出力方法。
【請求項7】
プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアの
うち、分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が閾値以上であるペアを抽出し、
前記プロセス値の変動量として、前記分析対象とする周期に対応する区間におけるプロセス値の標準偏差が前記区間におけるプロセス値の平均値で除算された変動係数を前記ペアのセンサごとに算出し、
前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのうち上流側のセンサの変動係数と、下流側のセンサの変動係数との変化比に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する、
処理をコンピュータに実行させ
、
前記算出する処理は、前記上流側のセンサおよび前記下流側のセンサの間で前記分析対象とする周期に対応するプロセス値の時間波形の相関値が最大となるシフト量のトレンドに基づいて、前記上流側のセンサの変動係数に対する前記下流側のセンサの変動係数の変化比を算出する処理を含む、
ことを特徴とする情報出力プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報出力方法及び情報出力プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
連続プロセスは、原料の投入から製品の仕上がりまでの生産活動の流れが連続する。プロセスの変動は、上流から下流までプラント全体に伝播する場合もあるので、プラントにおける生産性や製品品質の不安定化などの悪影響を与える側面がある。
【0003】
このようなプラント変動に着目する技術の1つとして、変動伝播の因果解析を行うプラント状態診断方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。プラント状態診断方法では、プラントの複数の状態に係わる変動伝播の上流と下流の関係を診断することにより、変動の伝播経路が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-184848号公報
【文献】特開2006-65598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のプラント状態診断方法では、依然として、プラント変動に向けた要改善箇所の特定が困難であるので、プラント変動の抑制を支援することが難しい。
【0006】
1つの側面では、本発明は、プラント変動の抑制を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面にかかる情報処理装置は、プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのそれぞれのプロセス値の変動量の大小関係に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する要改善箇所出力部、を有する。
【0008】
1つの側面にかかる情報出力方法では、プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのそれぞれのプロセス値の変動量の大小関係に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する、処理をコンピュータが実行する。
【0009】
1つの側面にかかる情報出力プログラムは、プラントに含まれる複数のセンサのうち前記プラントのフローで互いが連続するセンサのペアのそれぞれのプロセス値の変動量の大小関係に基づいて、前記プラントの要改善箇所に関する情報を出力する、処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
プラント変動の抑制を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態にかかるシステム構成を説明する図である。
【
図4】課題解決アプローチの一側面を示す図である。
【
図5】情報処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図7】移動相互相関解析の入出力の一例を示す図である。
【
図9】移動相互変動解析の入出力の一例を示す図である。
【
図10】移動相互変動解析の動作例を示す図である。
【
図11】要改善箇所に関する情報の一例を示す図である。
【
図12】情報出力処理の手順を示すフローチャートである。
【
図13】変動伝播経路解析の手順を示すフローチャートである。
【
図14】移動変動解析の手順を示すフローチャートである。
【
図15】移動相互変動解析の手順を示すフローチャートである。
【
図16】要改善箇所に関する情報の応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本願に係る情報処理装置、情報出力方法及び情報出力プログラムの実施形態について説明する。各実施形態には、あくまで1つの例や側面を示すに過ぎず、このような例示により数値や機能の範囲、利用シーンなどは限定されない。そして、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0013】
<全体構成>
図1は、実施形態にかかるシステム構成を説明する図である。
図1に示すように、システムは、プロセス制御システム1A、DB(DataBase)サーバ2、情報処理装置10を有する。なお、プロセス制御システム1AとDBサーバ2とは、有線や無線を問わず、専用線などを用いて通信可能に接続される。同様に、DBサーバ2と情報処理装置10は、有線や無線を問わず、インターネットや専用線などのネットワークNWを介して、通信可能に接続される。
【0014】
プロセス制御システム1Aは、プラント1における生産工程、いわゆるプロセスを制御するシステムである。ここで言う「プラント」には、工場施設、機械施設、生産施設、発電施設、貯蔵施設、石油、天然ガス等を採掘する井戸元における施設などが含まれ得る。あくまで一例として、プロセス制御システム1Aは、DCS(Distributed Control Systems)やPLC(Programmable Logic Controller)として構築され得る。例えば、DCSを例に挙げれば、プラント1のフィールドには、センサなどの測定機器やアクチュエータなどの操作機器などがフィールド機器(不図示)として設置される。このようなフィールド機器を制御するコントローラがプロセスの制御単位である制御ループ、例えば測定、制御演算および測定などのループごとに分散して配置される。
【0015】
DBサーバ2は、プロセス制御システム1Aから収集されるデータを管理するサーバである。例えば、DBサーバ2では、データベース管理システムの一例として、プラント情報管理システム(Plant Information Management System)が実行される。このようなPIMSでは、フィールド機器などからプロセスデータなどをリアルタイムで収集する機能、プロセスデータが時系列に収集された履歴をヒストリアンデータとしてヒストリアンデータベース2Aへ保存する機能が実現される。この他、PIMSでは、収集されたデータやヒストリアンデータを提供する機能なども実現される。
【0016】
情報処理装置10は、プロセス制御システム1AやDBサーバ2などとの間のHMI(Human Machine Interface)として機能するコンピュータの一例である。1つの側面として、情報処理装置10は、プロセス制御システム1A等のエンジニアリングを行うエンジニアを始め、その管理者を含む関係者全般により使用され得る。
【0017】
<背景>
連続プロセスは、プラグフローであるので、原料の投入から製品の仕上がりまでの生産活動の流れが連続する。プロセスの変動は、上流から下流までプラント全体に伝播する場合もあるので、プラントにおける生産性や製品品質の不安定化などの悪影響を与える側面がある。
【0018】
図2は、プラントの理想像の一例を示す図である。
図3は、プラントの現状の一例を示す図である。
図2及び
図3には、プラント1に含まれる5つのプロセスに設置されるフィールド機器の一例としてセンサF1~F5が抜粋して示されているが、これはあくまで模式図であってセンサの実数は図示の例に拘束されない。さらに、
図2及び
図3には、センサF1~F5ごとに当該センサの測定値、すなわちプロセス値の時間波形がプロセスデータとして示されている。
【0019】
プラント1の理想像の1つとして、
図2に示すように、プラント1におけるセンサF1~F5のプロセス値の変動が静かで安定している状態が挙げられる。このような状況下であれば、プラントにおける生産性や製品品質が安定する。このため、運転員の介入も不要となるので、プラント1の全自動化も視野に入れることができる。
【0020】
ところが、現実には、プラント1の設計時からの条件変更が一因となって、
図3に示すように、プラント1におけるセンサF1~F5のプロセス値の変動が大きく不安定な状態が常態化している。例えば、製品の受注状況の変化に応じて生産負荷が設計当初の想定を超えたり、同じ製造ラインで異なる複数の銘柄を製造したり、高頻度の運転条件の変更が発生したり、あるいはプラント1の設備が老朽化したりといった事情が生じる。これらの事情により、プラント1の変動が常態化してしまう。このようなプラント1の変動を改善しようにも、プラント1のセンサの実数は数百から数千にも及ぶ場合もあるので、プラント1の要改善箇所を特定するのは困難な側面がある。
【0021】
このようなプラント変動に着目する技術の1つとして、変動伝播の因果解析を行うプラント状態診断方法が提案されている。プラント状態診断方法では、プラントの複数の状態に係わる変動伝播の上流と下流の関係を診断することにより、変動の伝播経路が特定される。
【0022】
<課題の一側面>
しかしながら、上記のプラント状態診断方法では、依然として、プラント変動の根本原因となるプロセスを特定することが困難であるので、プラント変動の抑制を支援するのが難しい側面がある。
【0023】
例えば、プラントにリサイクルラインが存在する場合、プラントに因果の循環ループが発生する。それ故、上記のプラント状態診断方法のように、相関係数値に基づく因果指標を用いて変動の原因を特定しようとも、プラント変動の根本原因となるプロセスを特定することが困難である一面がある。また、上記のプラント状態診断方法では、外気温や生産量などの外乱等の改善しづらい要因が変動の根本原因であることが想定されていないという一面がある。これらの両面から、上記のプラント状態診断方法では、プラント変動の抑制を支援するのが難しい。
【0024】
<課題解決アプローチの一側面>
そこで、本実施形態にかかる情報処理装置10は、分析目標とする変動の周期やその周期に対応する変動が伝播する経路の特定に加え、変動が増加する経路を特定して要改善箇所を出力する情報出力機能を有する。
【0025】
図4は、課題解決アプローチの一側面を示す図である。
図4には、あくまで一例として、
図3に示されたセンサF1~F5のプロセスデータから抑制目標とする周期に対応する変動が伝播する変動伝播経路が示されている。
図4に示すように、変動伝播経路には、センサF1からセンサF2への経路、センサF2からセンサF3への経路、センサF2からセンサF4への経路が含まれる。さらに、変動伝播経路には、センサF3からセンサF5への経路、センサF4からセンサF5への経路、センサF4からセンサF1への経路が含まれる。このような変動伝播経路には、センサF1からセンサF2への経路と、センサF2からセンサF4への経路と、センサF4からセンサF1への経路とを結ぶリサイクルラインが存在する。それ故、上記のプラント状態診断方法では、相関係数値に基づく因果指標を用いて変動の原因を特定しようとも、プラント変動の根本原因となるプロセスを特定しきれない。
【0026】
一方、本実施形態にかかる情報処理装置10は、変動が増加する経路を特定する。例えば、
図4には、変動伝播経路のうち変動が維持されている経路が破線で示される一方で、変動が増加している経路が太線の実線で示されている。
図4に示すように、リサイクルラインの中でも、センサF2からセンサF4への経路で変動が増加していることを特定できるので、変動が増加したセンサF4に対応するプロセスを変動の根本原因と識別できる。このようなプラント変動の根本原因となるプロセスをプラントの要改善箇所として出力する。これにより、センサF1やセンサF2に対応するプロセスに変動が伝播するのを抑制できる結果、プラント変動の抑制の支援が実現される。
【0027】
<機能構成>
図5は、情報処理装置10の機能構成例を示すブロック図である。
図5には、情報処理装置10が有する機能に対応するブロックが模式化されている。
図5に示すように、情報処理装置10は、表示部11と、変動周期設定部12と、変動伝播経路解析部13と、変動増減経路解析部14と、要改善箇所出力部15とを有する。
【0028】
これら変動周期設定部12、変動伝播経路解析部13、変動増減経路解析部14および要改善箇所出力部15などの機能部は、ハードウェアプロセッサにより仮想的に実現される。なお、
図5には、上記の出力機能に関連する機能部が抜粋されているに過ぎず、図示以外にも既存のコンピュータがデフォルトまたはオプションで装備する機能部が情報処理装置10に備わることとしてもよい。
【0029】
表示部11は、各種の情報を表示する機能部である。あくまで一例として、表示部11は、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどにより実現され得る。なお、表示部11は、図示しない入力部と一体化することにより、タッチパネルとして実現されることとしてもよい。
【0030】
変動周期設定部12は、分析目標とする変動の周期を設定する処理部である。あくまで一例として、変動周期設定部12は、図示しない入力部等を介して要改善箇所のリクエストを受け付けた場合に処理を起動する。例えば、変動周期設定部12は、PIMSにより管理されるヒストリアンデータベース2Aから、プラント1に含まれる複数のセンサの各々に対応する複数のプロセスデータを取得する。ここで、変動周期設定部12がプロセスデータを取得する情報ソースは、任意の情報ソースであってよく、ネットワークNWを介する通信に限定されない。例えば、変動周期設定部12は、プロセス制御システム1Aの一例として実現され得るDCSからプロセスデータを取得することもできる。この他、変動周期設定部12は、情報処理装置10が有するストレージ、あるいは情報処理装置10に着脱可能なリムーバブルメディア、例えばメモリカードやUSB(Universal Serial Bus)メモリなどからプロセスデータを取得することとしてもよい。
【0031】
続いて、変動周期設定部12は、分析目標とする変動の周期を特定する側面から、プロセスデータに対する周波数解析もしくは自己相関解析を実行する。この際、変動周期設定部12は、周波数解析もしくは自己相関解析を適用するプロセスデータを複数のプロセスデータのうちの一部に絞り込むことができる。例えば、生産量や製品品質に悪影響を与える変動を抑制目標とする場合、プラント1に含まれるセンサのうち生産量を測定するセンサから収集されたプロセスデータに周波数解析もしくは自己相関解析を適用することができる。これにより、抑制目標とする変動の定常周期がパワースペクトルとして検出される。このようにして得られたパワースペクトルのピークのうち振幅のピークのいずれかに対応する周期の選択を受け付けることにより、変動周期設定部12は、抑制目標とする変動の周期を設定できる。
【0032】
図6は、変動周期設定画面の一例を示す図である。
図6に示すように、変動周期設定画面200には、プルダウンメニュ210と、時間波形の表示ウィンドウ220と、周波数解析のボタン230と、キャンセルボタン240と、パワースペクトルの表示ウィンドウ250とが含まれる。
【0033】
プルダウンメニュ210では、プラント1に含まれるタグのうち時間波形の表示ウィンドウ220にプロセスデータを表示させるタグを選択することができる。ここで言う「タグ」とは、1つの側面として、フィールド機器の識別情報として付与される。
図6に示す例で言えば、プルダウンメニュ210に含まれるタグのリストの中から、生産量のセンサに紐づけられたタグ名「タグN」が選択される例が示されている。このようにプルダウンメニュ210でタグ名「タグN」が選択されると、時間波形の表示ウィンドウ220には、タグ名「タグN」に対応するセンサから収集されたプロセス値の時間波形h1が表示される。さらに、時間波形の表示ウィンドウ220には、プロセス値の時間波形h1から高周波成分がローパスフィルタにより除去されたプロセス値の時間波形h2が表示される。
【0034】
さらに、タグ名「タグN」が選択された状態で周波数解析のボタン230に対する操作が行われた場合、プロセス値の時間波形h1およびプロセス値の時間波形h2に対する周波数解析が実行される。これにより、プロセス値の時間波形h1およびプロセス値の時間波形h2は、周波数領域へ変換される。その結果がプロセス値の時間波形h1に関するパワースペクトルf1およびプロセス値の時間波形h2に関するパワースペクトルf2として表示ウィンドウ250へ表示される。さらに、パワースペクトルf1に含まれる振幅のピークのそれぞれに対応する周期の選択ボタンP1~P4が表示される。これら周期の選択ボタンP1~P4のうちいずれかの選択を受け付けることにより、抑制目標とする変動の周期を設定することができる。
【0035】
あくまで一例として、シンプルには、振幅が最強であるピークに対応する周期を選択することができる。他の一例として、プロセスの正常な運転に周期的な運動、例えばピストン運動が含まれる場合、当該周期的な運動に対応する周期を除外して残りのピークに対応する周期の中から振幅が最強であるピークに対応する周期を選択することもできる。
【0036】
変動伝播経路解析部13は、変動周期設定部12により設定された周期に対応する変動が伝播する経路を解析する処理部である。以下、プラント1のフローで隣接または連続する2つのプロセスのうち上流側のプロセスに対応するタグのことを「上流側タグ」と識別し、下流側のプロセスに対応するタグのことを「下流側タグ」と識別する。プラント1にリサイクルラインが含まれる場合、下流側から上流側へ還流する経路では、次のようなタグのペアが抽出される場合がある。すなわち、あるペアで上流側タグとして選択されていたタグが別のペアで下流側タグとして選択されたり、あるペアで下流側タグとして選択されていたタグが別のペアで上流側タグとして選択されたりする。
【0037】
あくまで一例として、変動伝播経路解析部13は、上流側タグのオリジナル波形が複製された複製波形を移動させる「移動枠」の時間長を設定する。ここで、複製には、初期位置の移動枠内の上流側タグのオリジナル波形が用いられることとする。さらに、変動伝播経路解析部13は、移動枠内の上流側タグの複製波形および移動枠内の下流側タグのオリジナル波形の間で相互相関係数を算出する「計算窓」の時間長を設定する。これら「計算窓」および「移動枠」の時間長は、変動周期設定部12により設定された変動周期に基づいて設定される。例えば、「計算窓」の時間長は、変動周期の2倍の長さに設定される一方で、「移動枠」の時間長は、変動周期の等倍の長さに設定される。
【0038】
その後、変動伝播経路解析部13は、タグのペアの組合せ数に対応する回数の分、計算窓がプロセスデータの終端にシフトされるまで次のような処理を繰り返す。さらに、変動伝播経路解析部13は、移動枠が計算窓の終端にシフトされるまで次のような処理を繰り返す。例えば、変動伝播経路解析部13は、初期位置の移動枠内の上流側タグのオリジナル波形が複製された複製波形と、移動枠内の下流側タグのオリジナル波形との間で相互相関係数を算出する。続いて、変動伝播経路解析部13は、計算窓内で移動枠をシフトさせる。その後、移動枠が計算窓の終端にシフトされることにより、移動枠のシフト量ごとに相互相関係数が得られる。そして、変動伝播経路解析部13は、計算窓内で移動枠のシフト量ごとに算出された相互相関係数の極値のうち、絶対値が最大である相互相関係数を移動相互相関係数として保存する。さらに、変動伝播経路解析部13は、絶対値が最大である移動相互相関係数が算出された移動枠のシフト量を応答時間として保存する。そして、変動伝播経路解析部13は、2つのタグのプロセスデータ上で計算窓をシフトさせる。その後、計算窓がプロセスデータの終端にシフトされることにより、移動相互相関係数トレンドMCRおよび応答時間トレンドMCTが得られる。その上で、変動伝播経路解析部13は、移動相互相関係数トレンドMCRの代表値、例えば中央値や平均値の絶対値が閾値th1以上であるか否かを判定する。このとき、閾値th1以上である場合、変動伝播経路解析部13は、当該タグのペアを変動伝播経路として抽出する。
【0039】
図7は、移動相互相関解析の入出力の一例を示す図である。
図7に示すように、移動相互相関解析が実行される場合、あくまで一例として、上流側タグのプロセスデータX、下流側タグのプロセスデータY、移動枠幅および計算窓幅が入力として用いられ得る。このような入力の下、変動伝播経路解析部13は、上流側タグのプロセスデータX、下流側タグのプロセスデータY、移動枠幅および計算窓幅に基づいて移動相互相関解析を実行する。このような移動相互相関解析の結果、移動相互相関係数トレンドMCR
X,Yおよび応答時間トレンドMCT
X,Yが出力される。
【0040】
図8は、移動相互相関解析の動作例を示す図である。
図8には、計算窓W1の幅が変動周期の2倍の長さに設定されると共に移動枠M1の幅が変動周期の等倍の長さに設定される例が示されている。
図8に示すように、変動伝播経路解析部13は、計算窓W1内で移動枠M1をシフトさせつつ、初期位置の移動枠M1内の上流側タグのオリジナル波形が複製された複製波形と、移動枠M1内の下流側タグのオリジナル波形との間で相互相関係数を算出する。その後、移動枠M1が計算窓W1の終端までシフトされることにより、移動枠M1のシフト量Τおよび相互相関係数CR
X,Yの対応関係を示すグラフG1が得られる。そして、変動伝播経路解析部13は、計算窓W1内で移動枠M1のシフト量Τごとに算出された相互相関係数の極値のうち、絶対値が最大である相互相関係数を移動相互相関係数CR
X,Y(Τex)として保存する。さらに、変動伝播経路解析部13は、絶対値が最大である移動相互相関係数CR
X,Y(Τex)が算出された移動枠M1のシフト量を応答時間Τ
exとして保存する。そして、計算窓W1がプロセスデータの終端にシフトされることにより、移動相互相関係数トレンドMCR
X,Yおよび応答時間トレンドMCT
X,Yが得られる。
【0041】
変動増減経路解析部14は、変動伝播経路解析部13による解析で得られた変動伝播経路のうち変動が増減する経路を解析する処理部である。
【0042】
1つの側面として、変動増減経路解析部14は、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、ペアに含まれる上流側タグ及び下流側タグごとに次の処理を繰り返す。すなわち、変動増減経路解析部14は、移動枠M1が初期位置から上流側タグまたは下流側タグのプロセスデータの終端にシフトされるまで、移動枠M1内のプロセス値の時間波形から移動変動係数を算出する。ここで言う「移動変動係数」は、プロセス値の時間波形の各時刻における変動の大きさが定量化された変動量のあくまで一例である。例えば、移動変動係数MVは、移動枠M1内のプロセス値の標準偏差σを移動枠M1内のプロセス値の平均値XバーまたはYバーで除算することにより算出することができる。これにより、各時刻における変動の大きさを数値化できる。そして、移動枠M1が上流側タグまたは下流側タグのプロセスデータの終端までシフトされることにより、移動変動係数トレンドMVが得られる。
【0043】
他の側面として、変動増減経路解析部14は、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、次のような処理を繰り返す。さらに、変動増減経路解析部14は、上流側タグおよび下流側タグの移動変動係数の個数Mの分、次のような処理を繰り返す。例えば、変動増減経路解析部14は、応答時間トレンドに含まれる応答時間のうち、ループ処理中の時刻に対応する応答時間を参照する。そして、変動増減経路解析部14は、ループ処理中の時刻の上流側タグの移動変動係数と、ループ処理中の時刻から応答時間トレンドを参照して得られた応答時間をシフトさせた時刻における下流側タグの移動変動係数との変化比を移動相互変動係数として算出する。これにより、各時刻における変動の大きさの変化を数値化できる。その後、上流側タグおよび下流側タグの移動変動係数の個数Mごとに移動相互変動係数の算出が繰り返されることにより、移動相互変動係数トレンドが得られる。
【0044】
図9は、移動相互変動解析の入出力の一例を示す図である。
図9に示すように、移動相互変動解析が実行される場合、あくまで一例として、上流側タグの移動変動係数トレンドMV
X、下流側タグの移動変動係数トレンドMV
Yおよび応答時間トレンドMCT
X,Yが入力として用いられ得る。このような入力の下、変動増減経路解析部14は、上流側タグの移動変動係数トレンドMV
X、下流側タグの移動変動係数トレンドMV
Yおよび応答時間トレンドMCT
X,Yに基づいて移動相互変動解析を実行する。このような移動相互変動解析の結果、移動相互変動係数トレンドMCV
X,Yが出力される。
【0045】
図10は、移動相互変動解析の動作例を示す図である。
図10に示すように、上流側タグの移動変動係数MV
Xおよび下流側タグの移動変動係数MV
Yの個数Mごとに次のような処理を繰り返す。例えば、変動増減経路解析部14は、応答時間トレンドMCT
X,Yに含まれる応答時間のうち、ループ処理中の時刻Τ
1に対応する応答時間MCT
X,Y(Τ
1)を参照する。そして、変動増減経路解析部14は、ループ処理中の時刻Τ
1の上流側タグの移動変動係数MV
X(Τ
1)と、ループ処理中の時刻Τ
1から応答時間MCT
X,Y(Τ
1)をシフトさせた時刻Τ
1+MCT
X,Y(Τ
1)における下流側タグの移動変動係数MV
Y(Τ
1+MCT
X,Y(Τ
1))との変化比、すなわち「MV
Y(Τ
1+MCT
X,Y(Τ
1)/MV
X(Τ
1))」を計算する。このような変化比の計算により、移動相互変動係数MCV
X,Y(Τ
1)が算出される。その後、上流側タグおよび下流側タグの移動変動係数の個数Mごとに移動相互変動係数の算出が繰り返されることにより、移動相互変動係数トレンドMCV
X,Yが得られる。
【0046】
要改善箇所出力部15は、プラントの要改善箇所に関する情報を出力する処理部である。1つの側面として、要改善箇所出力部15は、抽出ペア、すなわち変動伝播経路の移動相互変動係数トレンドMCVX,Yに基づいてソートされた変動伝播経路のリストを出力することができる。例えば、要改善箇所出力部15は、移動相互変動係数トレンドMCVX,Yの代表値、例えば中央値や平均値の降順にソートされた変動伝播経路のランキングを表示部11に表示することができる。
【0047】
図11は、要改善箇所に関する情報の一例を示す図である。
図11には、あくまで一例として、移動相互変動係数トレンドMCV
X,Yの中央値の降順にソートされた6つの変動伝播経路のランキングが示されている。
図11に示すように、変動伝播経路には、タグ名「AF001.PV」からタグ名「AF002.PV」への経路と、タグ名「BP202.PV」からタグ名「AF001.PV」への経路と、タグ名「AF002.PV」からタグ名「BP202.PV」への経路とを結ぶリサイクルラインが存在する。このようにリサイクルラインが存在する場合でも、変動伝播経路の変化比に応じて変動伝播経路に優先順位を設定できるので、プラント1の要改善箇所を識別させることができる。例えば、
図11に示す例で言えば、タグ名「AF001.PV」からタグ名「AF002.PV」への経路の改善が優先されることが順位および変化比から明らかである。
【0048】
さらに、ランキング表示の際、要改善箇所出力部15は、移動相互変動係数トレンドMCV
X,Yの代表値が閾値、例えば「1」を超える変動伝播経路をさらにピックアップして表示させることができる。これにより、変動伝播経路として抽出されたタグのペアの中でも変動が増加しているタグのペアが表示されるので、プラント1の要改善箇所が絞り込まれた情報提供を実現できる。
図11に示す例で言えば、6つの変動伝播経路の表示から、タグ名「AF001.PV」からタグ名「AF002.PV」への経路、タグ名「BF201.PV」からタグ名「CF302.PV」への経路、タグ名「AF002.PV」からタグ名「BF201.PV」への経路、タグ名「CF302.PV」からタグ名「CL302.PV」への経路の4つの変動伝播経路の表示へ絞り込まれる。
【0049】
この他、要改善箇所出力部15は、必ずしもタグのペア、すなわち変動伝播経路の単位でプラント1の要改善箇所を表示せずともよく、下流側タグのみを要改善箇所として表示することもできる。例えば、タグ名「AF001.PV」からタグ名「AF002.PV」への経路の例で言えば、変動が増加しているタグ名「AF002.PV」を要改善箇所として表示させることができる。
【0050】
<処理の流れ>
図12は、情報出力処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、あくまで一例として、要改善箇所のリクエストを受け付けた場合に処理を起動できる。
図12に示すように、変動周期設定部12は、ヒストリアンデータベース2Aから、プラント1に含まれる複数のセンサの各々に対応するプロセスデータを取得する(ステップS101)。
【0051】
そして、変動周期設定部12は、ステップS101で取得されたプロセスデータに対する周波数解析もしくは自己相関解析の結果に基づいて抑制目標とする変動の周期を手動または自動で設定する(ステップS102)。
【0052】
続いて、変動伝播経路解析部13は、ステップS102で設定された周期に対応する変動が伝播する変動伝播経路を解析する「変動伝播経路解析」を実行する(ステップS103)。そして、変動増減経路解析部14は、ステップS103で得られた変動伝播経路に含まれる上流側タグ及び下流側タグごとに各時刻における変動の大きさが定量化された移動変動係数を解析する「移動変動解析」を実行する(ステップS104)。
【0053】
その後、変動増減経路解析部14は、変動伝播経路ごとにステップS104で得られた移動変動係数に基づいて各時刻における変動の大きさの変化が定量化された移動相互変動係数を解析する「移動相互変動解析」を実行する(ステップS105)。
【0054】
そして、要改善箇所出力部15は、プラントの要改善箇所に関する情報の一例として、変動伝播経路の移動相互変動係数トレンドに基づいてソートされた変動伝播経路のリストを表示部11に表示させ(ステップS106)、処理を終了する。
【0055】
図13は、変動伝播経路解析の手順を示すフローチャートである。この処理は、
図12に示されたステップS103の処理に対応する。
図13に示すように、変動伝播経路解析部13は、上流側タグのオリジナル波形が複製された複製波形を移動させる「移動枠」および時間長を設定する。さらに、変動伝播経路解析部13は、移動枠内の上流側タグの複製波形および移動枠内の下流側タグのオリジナル波形の間で相互相関係数を算出する「計算窓」の時間長を設定する(ステップS301)。
【0056】
その後、変動伝播経路解析部13は、タグのペアの組合せ数に対応する回数の分、ステップS302からステップS308までの処理を繰り返すループ処理1を開始する。なお、ここでは、ループ処理が行われる例を挙げるが、ステップS302からステップS308までの処理は並列して実行されてもよい。
【0057】
さらに、変動伝播経路解析部13は、ループ処理1のサブルーチンとして、計算窓がプロセスデータの終端にシフトされるまでステップS302からステップS306までの処理を繰り返すループ処理2を開始する。加えて、変動伝播経路解析部13は、ループ処理2のサブルーチンとして、移動枠が計算窓の終端にシフトされるまでステップS302およびステップS303の処理を繰り返すループ処理3を開始する。
【0058】
例えば、変動伝播経路解析部13は、初期位置の移動枠内の上流側タグのオリジナル波形が複製された複製波形と、移動枠内の下流側タグのオリジナル波形との間で相互相関係数を算出する(ステップS302)。
【0059】
続いて、変動伝播経路解析部13は、計算窓内で移動枠をシフトさせる(ステップS303)。その後、移動枠が計算窓の終端にシフトされることによりループ処理3が終了すると、移動枠のシフト量ごとに相互相関係数が得られる。
【0060】
そして、変動伝播経路解析部13は、計算窓内で移動枠のシフト量ごとに算出された相互相関係数の極値のうち、絶対値が最大である相互相関係数を移動相互相関係数として保存する(ステップS304)。さらに、変動伝播経路解析部13は、絶対値が最大である移動相互相関係数が算出された移動枠のシフト量を応答時間として保存する(ステップS305)。
【0061】
そして、変動伝播経路解析部13は、2つのタグのプロセスデータ上で計算窓をシフトさせる(ステップS306)。その後、計算窓がプロセスデータの終端にシフトされることによりループ処理2が終了すると、移動相互相関係数トレンドMCRおよび応答時間トレンドMCTが得られる。
【0062】
その上で、変動伝播経路解析部13は、移動相互相関係数トレンドMCRの代表値、例えば中央値や平均値の絶対値が閾値th1以上であるか否かを判定する(ステップS307)。
【0063】
このとき、移動相互相関係数トレンドMCRの代表値の絶対値が閾値th1以上である場合(ステップS307Yes)、変動伝播経路解析部13は、当該タグのペアを変動伝播経路として抽出する(ステップS308)。一方、移動相互相関係数トレンドMCRの代表値の絶対値が閾値th1以上でない場合(ステップS307No)、ステップS308の処理をスキップする。
【0064】
その後、タグのペアの組合せ数に対応する回数までステップS302からステップS308までの処理が繰り返されるとループ処理1を終了し、変動伝播経路解析も終了する。
【0065】
図14は、移動変動解析の手順を示すフローチャートである。この処理は、
図12に示されたステップS104の処理に対応する。
図14に示すように、変動増減経路解析部14は、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、ステップS501からステップS503までの処理を繰り返すループ処理1を開始する。
【0066】
さらに、変動増減経路解析部14は、ループ処理1のサブルーチンとして、抽出ペアに含まれる上流側タグ及び下流側タグごとに、ステップS501からステップS503までの処理を繰り返すループ処理2を開始する。
【0067】
加えて、変動増減経路解析部14は、ループ処理2のサブルーチンとして、移動枠M1が初期位置から上流側タグまたは下流側タグのプロセスデータの終端にシフトされるまで、ステップS501及びステップS502までの処理を繰り返すループ処理3を開始する。
【0068】
例えば、変動増減経路解析部14は、移動枠M1内のプロセス値の時間波形から移動変動係数を算出する(ステップS501)。例えば、移動変動係数MVは、移動枠M1内のプロセス値の標準偏差σを移動枠M1内のプロセス値の平均値XバーまたはYバーで除算することにより算出することができる。これにより、各時刻における変動の大きさを数値化できる。
【0069】
そして、変動増減経路解析部14は、移動枠M1をシフトする(ステップS502)。その後、移動枠M1が上流側タグまたは下流側タグのプロセスデータの終端までシフトされることによりループ処理3が終了すると、移動変動係数トレンドMVが得られる。すると、変動増減経路解析部14は、移動変動係数トレンドMVを保存する(ステップS503)。
【0070】
その後、上流側タグ及び下流側タグごとにステップS501からステップS503までの処理が繰り返されることによりループ処理2が終了する。そして、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、ステップS501からステップS503までの処理が繰り返されることによりループ処理1が終了する。
【0071】
図15は、移動相互変動解析の手順を示すフローチャートである。この処理は、
図12に示されたステップS105の処理に対応する。
図15に示すように、変動増減経路解析部14は、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、ステップS701からステップS703までの処理を繰り返すループ処理1を開始する。
【0072】
さらに、変動増減経路解析部14は、ループ処理1のサブルーチンとして、上流側タグおよび下流側タグの移動変動係数の個数Mの分、ステップS701およびステップS702の処理を繰り返すループ処理2を開始する。
【0073】
例えば、変動増減経路解析部14は、応答時間トレンドに含まれる応答時間のうち、ループ処理中の時刻に対応する応答時間を参照する(ステップS701)。そして、変動増減経路解析部14は、ループ処理中の時刻の上流側タグの移動変動係数と、ループ処理中の時刻からステップS701で参照された応答時間をシフトさせた時刻における下流側タグの移動変動係数との変化比を移動相互変動係数として算出する(ステップS702)。これにより、各時刻における変動の大きさの変化を数値化できる。
【0074】
その後、上流側タグおよび下流側タグの移動変動係数の個数MごとにステップS701およびステップS702の処理が繰り返されることによりループ処理2が終了すると、移動相互変動係数トレンドが得られる。そして、変動伝播経路、すなわち抽出ペアの個数Lに対応する回数の分、ステップS701からステップS703までの処理が繰り返されることによりループ処理1が終了する。
【0075】
上述してきたように、本実施形態にかかる情報処理装置10は、分析目標とする変動の周期やその周期に対応する変動が伝播する経路の特定に加え、変動が増加する経路を特定して要改善箇所を出力する情報出力機能を有する。このような情報出力機能により、プラント変動の根本原因となるプロセスをプラントの要改善箇所として出力できる。したがって、本実施形態にかかる情報処理装置10によれば、プラント変動の抑制を支援できる。
【0076】
<応用例>
上記の実施形態は一例を示したものであり、種々の応用が可能である。
【0077】
(1)要改善箇所の表示
上記の実施形態では、プラント1の要改善箇所に関する情報の例として、要改善箇所、要改善箇所を含む変動伝播経路、あるいはこれらのリストやランキングを表示させる例を挙げたが、これに限定されない。例えば、要改善箇所出力部15は、プラント1に含まれるタグのトポロジが描画された図面上に変動伝播経路や要改善箇所をマッピングすることもできる。
【0078】
図16は、要改善箇所に関する情報の応用例を示す図である。
図16には、プラント1のトポロジが描画された図面に
図11に示された変動伝播経路がマッピング表示される例が示されている。
図16に示すように、変動伝播経路がマッピング表示を実行する際、移動相互変動係数トレンドMCV
X,Yの代表値が大きくなるに連れて変動伝播経路の強調度合いを大きくすることができる。さらに、
図16に示すように、プラント1のトポロジに含まれるタグの移動変動係数トレンドの代表値が大きくなるに連れてタグに関連付ける同心円の半径のサイズを大きくすることができる。
【0079】
(2)MCRおよびMCTの代表値の妥当性
情報処理装置10は、移動相互相関係数トレンドMCRの代表値および応答時間トレンドMCTの代表値が妥当であるか否かを判定することもできる。例えば、情報処理装置10は、移動相互相関係数トレンドMCRから移動相互相関係数のヒストグラムを生成する。このように生成された移動相互相関係数のヒストグラムが単峰性を有する場合、情報処理装置10は、中央値や平均値などの統計値が代表値として妥当と判定する。その一方で、移動相互相関係数のヒストグラムが単峰性を有さない場合、情報処理装置10は、中央値や平均値などの統計値が代表値として妥当でないと判定する。そして、中央値や平均値などの統計値が代表値として妥当でないと判定された場合、情報処理装置10は、移動相互相関係数のヒストグラムのピークに対応する移動相互相関係数ごとに後続する処理を分岐させた上で並列処理させることができる。なお、応答時間トレンドMCTについても、移動相互相関係数トレンドMCRや移動相互相関係数を応答時間トレンドMCTや応答時間に読み替えることで、同様の処理を実現できる。
【0080】
<システム>
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0081】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0082】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0083】
<ハードウェア>
次に、情報処理装置10のハードウェア構成例を説明する。
図17は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図17に示すように、情報処理装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図17に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0084】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図5に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0085】
プロセッサ10dは、
図5に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図5等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、情報処理装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、変動周期設定部12、変動伝播経路解析部13、変動増減経路解析部14および要改善箇所出力部15等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、変動周期設定部12、変動伝播経路解析部13、変動増減経路解析部14および要改善箇所出力部15等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0086】
このように、情報処理装置10は、プログラムを読み出して実行することで情報出力方法を実行する情報処理装置として動作する。また、情報処理装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、情報処理装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0087】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 プラント
1A プロセス制御システム
2 DBサーバ
2A ヒストリアンデータベース
10 情報処理装置
11 表示部
12 変動周期設定部
13 変動伝播経路解析部
14 変動増減経路解析部
15 要改善箇所出力部