(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】走路推定方法及び走路推定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241016BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20241016BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20241016BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241016BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/10
B60W40/02
G06T7/00 650A
(21)【出願番号】P 2021047109
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】武井 翔一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 千加夫
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200501(JP,A)
【文献】特開2016-218539(JP,A)
【文献】特開2018-103863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0191461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノードを接続する道路の概形状が格納された地図データベースと、予め設定された車線形状モデルに基づいて自車両が走行する走路形状を推定するコントローラとを備える走路推定装置の走路推定方法であって、
前記コントローラは、
地図上の自車両の位置を推定し、
前記自車両の周囲の車線区分線を検出し、
前記車線形状モデルと前記道路の概形状との乖離度合い、及び前記車線形状モデルと前記車線区分線との乖離度合いを算出し、
交差点を含む区間において前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、前記交差点を含まない区間において前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、
それぞれの乖離度合いに設定された重みの値を乗算し、これらを加算した統合乖離度合いが所定値以下となるような車線形状モデルを推定し、
推定された前記車線形状モデルに基づいて走路形状を推定する
ことを特徴とする走路推定方法。
【請求項2】
前記交差点を含む区間は前記地図データベースに格納されている情報に基づいて設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の走路推定方法。
【請求項3】
前記交差点を含む区間は、前記自車両から見て所定範囲内に設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の走路推定方法。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記自車両の周囲の道路境界に関する構造物の配列を検出し、
前記車線形状モデルと前記構造物の配列との乖離度合いを算出し、
前記交差点を含まない区間において前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値より前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の走路推定方法。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記交差点を含む区間において前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値より前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の走路推定方法。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記自車両の前方を走行する他車両の移動軌跡を取得し、
前記車線形状モデルと前記他車両の移動軌跡との乖離度合いを算出し、
前記交差点を含まない区間において前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値より前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、
前記交差点を含む区間において前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の走路推定方法。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記自車両の周囲の道路境界に関する構造物の配列を検出し、
前記車線形状モデルと前記構造物の配列との乖離度合いを算出し、
前記交差点を含まない区間において前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値より前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の走路推定方法。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記交差点を含む区間において前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より前記構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する
ことを特徴とする請求項7に記載の走路推定方法。
【請求項9】
ノードを接続する道路の概形状が格納された地図データベースと、
予め設定された車線形状モデルに基づいて自車両が走行する走路形状を推定するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
地図上の自車両の位置を推定し、
前記自車両の周囲の車線区分線を検出し、
前記車線形状モデルと前記道路の概形状との乖離度合い、及び前記車線形状モデルと前記車線区分線との乖離度合いを算出し、
交差点を含む区間において前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、前記交差点を含まない区間において前記道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より前記車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、
それぞれの乖離度合いに設定された重みの値を乗算し、これらを加算した統合乖離度合いが所定値以下となるような車線形状モデルを推定し、
推定された前記車線形状モデルに基づいて走路形状を推定する
ことを特徴とする走路推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走路推定方法及び走路推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自車両が交差点を走行する際に走行予定の走路を認識する発明が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載された発明は撮像画像内において処理領域を設定し、設定された処理領域内において走行予定の走路を認識する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、交差点出口より先の白線を認識する発明であるため、交差点の規模が大きく白線がない区間が長い場合では、交差点出口より先の情報が少なく、交差点内の走路を認識することができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、自車両が走行する走路形状を推定することが可能な走路推定方法及び走路推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る走路推定方法は、地図上の自車両の位置を推定し、自車両の周囲の車線区分線を検出し、車線形状モデルと道路の概形状との乖離度合い、及び車線形状モデルと車線区分線との乖離度合いを算出し、交差点を含む区間において車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、交差点を含まない区間において道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、それぞれの乖離度合いに設定された重みの値を乗算し、これらを加算した統合乖離度合いが所定値以下となるような車線形状モデルを推定し、推定された車線形状モデルに基づいて走路形状を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自車両が走行する走路形状を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る走路推定装置1の構成図である。
【
図3】
図3は、車線形状モデルを説明する図である。
【
図4】
図4は、車線区分線の検出結果と車線形状モデルとの乖離度合いを説明する図である。
【
図5】
図5は、道路の概形状の検出結果と車線形状モデルとの乖離度合いを説明する図である。
【
図6】
図6は、道路の構造物の配列の検出結果と車線形状モデルとの乖離度合いを説明する図である。
【
図7】
図7は、他車両の移動軌跡の検出結果と車線形状モデルとの乖離度合いを説明する図である。
【
図8】
図8は、走路推定装置1の一動作例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
図1を参照して走路推定装置1の構成例を説明する。走路推定装置1は自動運転機能を有する車両に搭載されてもよく、自動運転機能を有しない車両に搭載されてもよい。また、走路推定装置1は自動運転と手動運転とを切り替えることが可能な車両に搭載されてもよい。また、自動運転機能は操舵制御、制動力制御、駆動力制御などの車両制御機能のうちの一部の機能のみを自動的に制御して運転者の運転を支援する運転支援機能であってもよい。本実施形態では走路推定装置1は自動運転機能を有する車両に搭載されるものとして説明する。
【0011】
図1に示すように、走路推定装置1は、GNSS受信機10と、センサ11と、地図データベース12と、コントローラ20と、各種のアクチュエータ13を備える。各種のアクチュエータ13には例えばステアリングアクチュエータ、アクセルペダルアクチュエータ、ブレーキアクチュエータなどが含まれる
【0012】
GNSS受信機10は人工衛星からの電波を受信することにより、地上における自車両の位置情報を検出する。なお検出する際にカルマンフィルタが用いられてもよい。GNSS受信機10が検出する自車両の位置情報には、緯度情報、及び経度情報が含まれる。なお自車両の位置情報を検出する方法はGNSS受信機10に限定されない。例えばオドメトリと呼ばれる方法を用いて位置を推定してもよい。オドメトリとは、自車両の回転角、回転角速度に応じて自車両の移動量及びと移動方向を求めることにより、自車両の位置を推定する方法である。GNSS受信機10は検出した位置情報をコントローラ20に出力する。
【0013】
センサ11は自車両の周囲に存在する物体(歩行者、自転車、二輪車、他車両など)、及び自車両の周囲の情報(区画線、信号機、標識、横断歩道、交差点など)を検出するために用いられる。センサ11にはカメラ、ライダ、レーダ、レーザレンジファインダ、ソナーなどが含まれる。センサ11は検出した情報をコントローラ20に出力する。
【0014】
地図データベース12はカーナビゲーション装置などに記憶されているデータベースであって、道路情報、施設情報など経路案内に必要となる地図情報が記憶されている。本実施形態における地図データベース12は高精度な情報を有していない。高精度な情報とは、例えばセンチメートル単位の精度を持つ、車線単位の情報である。しかしながら本実施形態に係る地図データベース12はそのような高精度な情報を有していない。地図データベース12が有する情報は、例えば、ノード及びリンクから構成される道路の概形状に関する情報である。
【0015】
コントローラ20は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータには、走路推定装置1として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは走路推定装置1が備える複数の情報処理回路として機能する。なおここでは、ソフトウェアによって走路推定装置1が備える複数の情報処理回路を実現する例を示すが、もちろん以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して情報処理回路を構成することも可能である。また複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。コントローラ20は、複数の情報処理回路の一例として、自車位置推定部21と、車線区分線検出部22、構造物検出部23と、物体検出追跡部24と、区間設定部25と、重み設定部26と、モデルパラメータ推定部27と、走路形状推定部28とを備える。
【0016】
自車位置推定部21はGNSS受信機10から取得した情報に基づいて地図データベース12上における自車両の位置を推定する。また自車位置推定部21は取得した自車両の位置に基づいて自車両周囲の道路の概形状を取得する。
【0017】
車線区分線検出部22はセンサ11から取得した情報を用いて自車両の周囲の車線区分線を検出する。車線区分線とは片側2車線以上の道路において複数の車線を区切るために用いられる線であり、車線境界線、区画線ともよばれる。
【0018】
構造物検出部23はセンサ11から取得した情報を用いて自車両の周囲の構造物の配列を検出する。本実施形態において構造物とは縁石、中央分離帯、路側帯などの道路境界に関するものをいう。
【0019】
物体検出追跡部24はセンサ11から取得した情報を用いて自車両の前方を走行する他車両(先行車両)を検出し、追跡する。また物体検出追跡部24は他車両の移動軌跡を取得する。追跡方法の一例としてパーティクルフィルタなどのフィルタリング方法が挙げられるが、この方法に限定されず周知の方法を用いて追跡可能である。
【0020】
区間設定部25は、地図データベース12上の道路に区間を設定する。本実施形態において区間とは所定の大きさを有する概念として区間であり、地図データベース12上の道路に設定される。本実施形態では区間は交差点と、交差点を除く道路に設定されるものとして説明する。交差点に区間を設定する場合、例えば地図データベース12上に交差点、あるいは交差点に設置された信号機の情報が格納されていればその場所を交差点区間として設定すればよい。また、地図データベース12上における道路の概形状が交差する点を中心として、所定の倍率で拡大を行い交差点区間を設定してもよい。なお、1つの区間の長さが長く、車線形状モデルで表現できないと判断される場合は、区間を分割してもよい。車線形状モデルで表現できるか否かの判断としては、モデルパラメータの推定によって乖離度合いが所定値以下かどうかで判断する方法が挙げられるがこれに限定されない。車線形状モデルについては後述する。なお、区間を設定する際、区間設定部25は先に案内経路上に走路推定範囲を設定し、その範囲内において区間を設定する。案内経路とはユーザによって入力された目的地までの経路をいう。
【0021】
ここで
図2を参照して交差点区間について説明する。本実施形態において交差点区間とは
図2に示す符号30で囲まれた領域を意味する。つまり本実施形態において交差点区間とは交差点のすべてを含む領域である。「交差点のすべて」の定義の一例は、
図2に示すように停止線と横断歩道との間に線を引いた場合、その線の内側と定義される。ただしこの定義はあくまで一例であり、別の定義としては横断歩道上に線を引きその線の内側と定義されてもよい。本実施形態において区間設定部25によって設定される区間は、「交差点区間」と、「それ以外の区間」とに分類されるが、「それ以外の区間」は交差点を含まない。以下では「それ以外の区間」について「交差点区間以外の区間」とよぶ。
【0022】
重み設定部26は、区間設定部25によって設定された区間が交差点区間か、交差点区間以外の区間かに応じて重みを設定する。
【0023】
モデルパラメータ推定部27は、予め設定された車線形状モデルのパラメータを推定する。車線形状モデルにおいて形状(車線区分線の形状)は、例えば3次関数で表現される。具体的にはf(x)=ax
3+bx
2+cxで表現される。ただしこれは一例であり車線形状モデルはこれ以外の関数で表現されてもよい。ここで
図3を参照して車線形状モデルについて説明する。車線形状モデルは、
図3に示すように区間(区間設定部25によって設定された区間)における車線(L
1、L
2、L
3、L
4)のスタート点(V
1、V
2、V
3、V
4、V
9、V
10)、ゴール点(V
5、V
6、V
7、V
8、V
11)、及び車線区分線(f
1、f
2、f
3、f
4、f
5)で構成される。なお、
図3で示されるように、車線(L
1、L
2、L
3、L
4)は車線区分線(f
1、f
2、f
3、f
4、f
5)で区画された領域を意味し、車線区分線の形状は上述の通りf(x)=ax
3+bx
2+cxで表現される。スタート点及びゴール点は局所的な座標系で表現される。また、ゴール点は、道路進行方向の次の区間のスタート点として表現される。各点V
iがパラメータとして、その座標値x
s,y
sと形状パラメータa,b,c及びゴール点の座標値x
e,y
eを有しているとすると、センサ11から取得した情報を用いてそれらのパラメータが推定される。なおx
sとx
eについては設定された区間のスタートとゴールに対応した初期値あるいは固定値としてもよい。また3次関数はf(x)=ax
3+bx
2+cx+dで表現されてもよい。この場合パラメータdはy座標となる。x座標はリンクの座標系をオフセットすれば求めることができる。また車線数については、地図データベース12、車線区分線検出部22による車線区分線の検出結果から取得してもよい。あるいは車線数をパラメータとして設定しておき、1車線(自車線)以上の複数の車線数を初期値としてセンサ11から取得した情報を用いて車線形状モデルと合わせて推定してもよい。
【0024】
パラメータの推定方法について
図4~7を参照して説明する。
図4では入力データは車線区分線検出部22によって検出された車線区分線である。
図4に示す符号41は車線区分線の検出結果である。車線区分線の検出結果に基づいてパラメータ(具体的にはx
s,y
s,a,b,c,x
e,y
eであり、以下では単にパラメータと記載する)が推定され、車線形状モデル(車線形状モデルを用いて推定された車線区分線)が生成される。生成された車線形状モデルは符号40で示される。符号41と符号40との差を、本実施形態では乖離度合いと呼ぶ。この乖離度合いが小さいほど、精度よく走路形状が推定されたことになる。符号41と符号40との乖離度合いをC
RPとした場合、C
RPは式1で表現される。
【0025】
【数1】
ここでE
RP(P
m,p
d)は最近傍点間のノルムである。
【0026】
図5では入力データは道路の概形状である。
図5に示す符号42は道路の概形状を地図データベース12から取得し、各スタート点に概形状を生成した結果である。道路の概形状の生成結果に基づいてパラメータが推定され、車線形状モデルが生成される。生成された車線形状モデルは符号40で示される。符号42と符号40との乖離度合いをC
SDとした場合、C
SDは式2で表現される。なおここで、道路の概形状とは、通常、道路幅方向中心に沿った線分として地図データベース12に記憶された、ノード点を接続するリンクの形状であり、
図5における符号42はリンク形状をスタート点(V
1、V
2、V
3、V
4)に合わせてオフセットした線分である。
【0027】
【数2】
ここでE
SD(P
m,p
s)は最近傍点間のノルムである。
【0028】
図6では入力データは道路の構造物の配列(縁石、中央分離帯などの配列)である。すなわち
図6に示す通り、道路に沿って配列した構造物の配列(線分で示すことができる配列)であり、以下では単に道路の構造物、あるいは構造物と記載する場合がある。
図6に示す符号43は道路の構造物の配列の検出結果である。道路の構造物の配列の検出結果に基づいてパラメータが推定され、車線形状モデルが生成される。生成された車線形状モデルは符号40で示される。符号43と符号40との乖離度合いをC
RFとした場合、C
RFは式3で表現される。
【0029】
【数3】
ここでE
RF(P
m,p
f)は最近傍点間のノルムである。
【0030】
図7では入力データは他車両の移動軌跡である。
図7に示す符号45は他車両の移動軌跡の検出結果である。他車両の移動軌跡を他車両の車幅あるいは予め定められた車線幅に基づいて符号45を車線幅方向にオフセットして符号44の点群が算出される。他車両の移動軌跡の検出結果に基づいてパラメータが推定され、車線形状モデルが生成される。生成された車線形状モデルは符号40で示される。符号44と符号40との乖離度合いをC
TLとした場合、C
TLは式4で表現される。
【0031】
【数4】
ここでE
TL(P
m,p
tl)は最近傍点間のノルムである。
【0032】
モデルパラメータ推定部27は、これらの乖離度合いを最小化するようにパラメータを最適化する。乖離度合いについて各乖離度合いの総和を計算すればよいが、この際に重み設定部26によって設定された重みの値を用いる。各乖離度合いの総和をCとした場合、統合乖離度合いCは式5で表現される
【0033】
【数5】
λ
1,λ
2,λ
3,λ
4は重み設定部26によって設定される重みの値である。
【0034】
λ1,λ2,λ3,λ4の設定の一例について説明する。設定の考え方として、センサ11から入力される情報の信頼度あるいは重要度が高ければ重みの値を大きくする。例えば交差点区間以外の区間においては、車線区分線は重要な情報であるが、遠方における道路の概形状の精度は低いためλ1を0.8,λ2を0.2とする。交差点区間においては、車線区分線は通常ない場合が多いが誘導線などがあり得ると考える場合は、λ1を0.1,λ2を0.9とする。交差点区間以外の区間の構造物は縁石など形状を特定するのに有用であるため、λ1を0.7,λ3を0.2,λ2を0.1とする。交差点区間においては、縁石などの情報が直進や右左折の形状特定に利用できるためλ1を0.1,λ3を0.2,λ2を0.7とする。他車両の移動軌跡が得られる場合、車線レベルの情報であることから、車線区分線よりは重みが低いものの交差点区間以外の区間では、λ1を0.6,λ4を0.3,λ2を0.1とする。また交差点区間においては、車線区分線は通常ない場合が多く、他車両の移動軌跡は重要な情報であるため、λ1を0.05,λ4を0.8,λ2を0.15とする。車線区分線、道路の概形状、構造物、及び他車両の移動軌跡の4つを考慮する場合交差点区間以外の区間ではλ1を0.5,λ4を0.25,λ3を0.15,λ2を0.1とする。交差点区間においては、λ1を0.05,λ4を0.7,λ3を0.1,λ2を0.15とする。なお、扱いやすさから重みは0~1の値に設定したがこれに限定されない。
【0035】
モデルパラメータ推定部27はこのように設定された重みの値を用いて統合乖離度合いCが最小化となるようにパラメータを推定する。なお最小化する手法は周知であるため詳細な説明は省略する。最小化する手法として例えば最小2乗法が挙げられる。なお必ずしも最小化となるようにパラメータを推定する必要はない。所定値以下となるようにパラメータを推定できれば足りる。所定値は実験、シミュレーションを通じて求めることができる。
【0036】
走路形状推定部28は、走路推定範囲の各区間におけるモデルパラメータ推定結果に基づいて走路形状を推定する。走路形状推定部28は区間ごとに所定の離散間隔で走路形状を推定し、推定した走路形状に沿って走行するようにアクチュエータ13を制御する。
【0037】
次に、
図8のフローチャートを参照して、走路推定装置1の一動作例を説明する。
【0038】
ステップS101において、コントローラ20は地図データベース12から地図情報を取得する。処理はステップS103に進み、自車位置推定部21はGNSS受信機10から取得した情報に基づいて地図データベース12上における自車両の位置を推定する。処理はステップS105に進み、車線区分線検出部22はセンサ11から取得した情報を用いて自車両の周囲の車線区分線を検出する。処理はステップS107に進み、区間設定部25は案内経路上に走路推定範囲を設定する。
【0039】
処理はステップS109に進み、区間設定部25は走路推定範囲において、交差点と交差点以外に区間を設定する。処理はステップS111に進み、コントローラ20は自車両が走行している場所が交差点区間か交差点区間以外の区間かを取得する。自車両が走行している場所が交差点区間以外の区間である場合(ステップS113でYES)、処理はステップS115に進み重み設定部26は道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。一方、自車両が走行している場所が交差点区間である場合(ステップS113でNO)、処理はステップS117に進み重み設定部26は車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。
【0040】
ステップS119において、モデルパラメータ推定部27はそれぞれの乖離度合いに設定された重みの値を乗算し、これらを加算した統合乖離度合いが最小化となるようにパラメータを推定する。処理はステップS121に進み、コントローラ20は案内経路上の次の区間を取得する。区間が推定範囲内である場合(ステップS123でYES)、処理はステップS113に戻る。一方、区間が推定範囲内でない場合(ステップS123でNO)、処理はステップS125に進み走路形状推定部28はステップS119で推定されたモデルパラメータを用いて走路形状を推定する。
【0041】
(変形例)
上述では「交差点区間」と「交差点区間以外の区間」とに分類して重みを変更すると説明した。しかしながら重みを変更する方法はこれに限定されない。例えば、「交差点を含む区間」と「交差点を含まない区間」とに分類して重みを変更してもよい。交差点を含む区間は地図データベース12に格納されている情報に基づいて設定されてもよく、自車両から見て所定範囲内に設定されてもよい。所定範囲は一例として自車両を基準として前方100m先の範囲であってもよい。100m先の範囲において交差点を少しでも含む場合は「交差点を含む区間」となる。100m先の範囲において
図2に示す符号30の領域すべてが含まれる場合、重みの設定は上述した交差点区間と同じとなる。100m先の範囲において
図2に示す符号30の一部が含まれる場合、重複する割合に応じて重みを変更すればよい。例えば重複する割合に応じた係数を重みに掛ければよい。
【0042】
また、上述した実施形態においては道路の概形状、車線区分線、構造物、及び他車両の移動軌跡を考慮する例を示した。しかしながら、少なくとも道路の概形状及び車線区分線のみを考慮し、車線形状モデルと車線区分線との乖離度合い(CRP)と、車線形状モデルと道路の概形状との乖離度合い(CSD)と、に基づいてパラメータを推定してもよい。すなわち、車線形状モデルと車線区分線との乖離度合い(CRP)、及び車線形状モデルと道路の概形状との乖離度合い(CSD)のみを用いて、交差点区間か交差点区間以外の区間かに基づいて各乖離度合いに乗算する重み付け係数(λ1,λ2)を設定し、設定した重み付け係数を乗算した乖離度合いを加算して統合乖離度合いCを算出(C=λ1CRP+λ2CSD)し、統合乖離度合いCが所定値以下となるようにパラメータを推定してもよい。ただし、上述した実施形態のように、車線形状モデルと車線区分線及び道路の概形状との乖離度合いに加えて、車線形状モデルと構造物との乖離度合い(CRF)、車線形状モデルと他車両の移動軌跡との乖離度合い(CTL)を考慮して統合乖離度合いCを算出することにより、より精度の高いパラメータ推定が可能となる。
【0043】
(作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る走路推定装置1の走路推定方法によれば、以下の作用効果が得られる。
【0044】
走路推定装置1はノードを接続する道路の概形状が格納された地図データベース12と、予め設定された車線形状モデルに基づいて自車両が走行する走路形状を推定するコントローラ20とを備える。コントローラ20は、地図上の自車両の位置を推定し、自車両の周囲の車線区分線を検出し、車線形状モデルと道路の概形状との乖離度合い、及び車線形状モデルと車線区分線との乖離度合いを算出する。コントローラ20は、交差点を含む区間において車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定し、交差点を含まない区間において道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。コントローラ20は、それぞれの乖離度合いに設定された重みの値を乗算し、これらを加算した統合乖離度合いが所定値以下となるような車線形状モデルを推定し、推定された車線形状モデルに基づいて走路形状を推定する。交差点を含まない区間において、車線区分線の情報は重要であるため、その重みの値を大きくする。一方、交差点を含む区間において、車線区分線がない場合が多く、また横断歩道、交差側の車線区分線がある場合もあり、車線区分線の検出結果の信頼性を評価することが難しい。そのため、交差点を含む区間においては車線区分線の重みの値を小さくし、道路の概形状の重みの値を大きくする。このように交差点を含む区間かあるいは交差点を含まない区間かに応じて優位な情報に重み付けを行うことにより、どちらの区間においても走路形状を推定することが可能となる。
【0045】
また、コントローラ20は、自車両の周囲の道路境界に関する構造物の配列を検出し、車線形状モデルと構造物の配列との乖離度合いを算出する。コントローラ20は、交差点を含まない区間において道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。構造物は縁石、中央分離帯などの道路境界に関する配列であり、交差点を含まない区間においては地図データベース12から取得した道路の概形状よりも構造物の配列の検出結果による道路上の境界情報の方が道路幅を含み信頼性の高い情報であるため、精度よく走路形状を推定することが可能となる。
【0046】
また、コントローラ20は、交差点を含む区間において車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値より道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。交差点を含む区間では構造物として縁石、中央分離帯がある場所に関して直進もしくは右左折の走路推定に有用な情報があり、誤認識の可能性がある車線区分線よりも構造物の配列の重みを大きくするため、精度よく走路形状を推定することが可能となる。
【0047】
また、コントローラ20は、自車両の前方を走行する他車両の移動軌跡を取得し、車線形状モデルと他車両の移動軌跡との乖離度合いを算出する。コントローラ20は、交差点を含まない区間において道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。コントローラ20は、交差点を含む区間において車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。他車両の移動軌跡は走行車線を推定できるため、車線レベルの情報を有する。交差点を含む区間及び交差点を含まない区間のそれぞれにおいて、車線レベルの情報がない道路の概形状よりも重みを大きくすることにより、精度よく走路形状を推定することが可能となる。
【0048】
また、コントローラ20は、交差点を含まない区間において道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値より車線区分線の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。これにより精度よく走路形状を推定することが可能となる。
【0049】
コントローラ20は、交差点を含む区間において車線区分線の乖離度合いに係る重みの値より構造物の配列の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように、かつ、道路の概形状の乖離度合いに係る重みの値より他車両の移動軌跡の乖離度合いに係る重みの値が大きくなるように重みの値を設定する。これにより精度よく走路形状を推定することが可能となる。
【0050】
上述の実施形態に記載される各機能は、1または複数の処理回路により実装され得る。処理回路は、電気回路を含む処理装置等のプログラムされた処理装置を含む。処理回路は、また、記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や回路部品等の装置を含む。
【0051】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0052】
1 走路推定装置
10 GNSS受信機
11 センサ
12 地図データベース
13 アクチュエータ
20 コントローラ
21 自車位置推定部
22 車線区分線検出部
23 構造物検出部
24 物体検出追跡部
25 区間設定部
26 設定部
27 モデルパラメータ推定部
28 走路形状推定部