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特許7571643レンズ及びヘッドアップディスプレイ装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】レンズ及びヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20241016BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20241016BHJP
   G02B 3/06 20060101ALI20241016BHJP
   G02B 3/08 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
G02B3/06
G02B3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021050618
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148800
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(72)【発明者】
【氏名】鶴丸 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 覚
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0059859(US,A1)
【文献】国際公開第2019/225572(WO,A1)
【文献】特開2019-215568(JP,A)
【文献】特開2019-215569(JP,A)
【文献】特開2016-218391(JP,A)
【文献】国際公開第2020/161846(WO,A1)
【文献】特開2017-027706(JP,A)
【文献】特開2010-165484(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107209381(CN,A)
【文献】特開2018-146784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23
G02B 3/06
G02B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光の中心光線が通過するレンズ中心点に対して点対称な光学特性を示す光学面を有するレンズであって、
前記光学面は、
前記レンズ中心点を含む範囲に形成され、湾曲する非フレネル領域と、
前記非フレネル領域を挟んで位置し、フレネルレンズ形状をなす第1及び第2のフレネル領域と、を有し、
前記第1のフレネル領域は、前記レンズ中心点よりも前記第2のフレネル領域側に位置する第1中心点を中心とした同心円弧に沿い、前記第1中心点から一定間隔毎に配置される複数の第1の山部を有し、
前記第2のフレネル領域は、前記レンズ中心点よりも前記第1のフレネル領域側に位置する第2中心点を中心とした同心円弧に沿い、前記第2中心点から一定間隔毎に配置される複数の第2の山部を有する、
レンズ。
【請求項2】
前記非フレネル領域は、前記第1及び第2のフレネル領域が並ぶ第1方向及び前記第1方向に交わる第2方向に沿ってそれぞれ異なる曲率で湾曲するトロイダル領域であり、
前記トロイダル領域は、前記第2方向よりも前記第1方向に、長くかつ曲率が大きく形成される、
請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記第1中心点は、前記第2のフレネル領域内に位置し、
前記第2中心点は、前記第1のフレネル領域内に位置する、
請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のレンズと、
前記光源と、
前記レンズを透過した前記光源からの光を受けて表示光を生成する表示パネルと、を備える、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズ及びヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の表示装置は、光源と、光源からの光が透過する第1~第3のレンズと、第1~第3のレンズを経た光を受けて表示光を出射する液晶表示パネルと、液晶表示パネルからの表示光をフロントガラス等の被投射部材に向けて反射させることにより虚像を表示する凹面鏡と、を備える。第3のレンズは、液晶表示パネルに合わせて光を拡散可能なトロイダル面を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-83593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の第3のレンズは、光入射面の全域にわたってトロイダル面を有するため厚くなる。特に、液晶表示パネルのサイズに合わせて第3のレンズの拡散角度を大きくすると、トロイダル面の曲率を大きくする必要があり、第3のレンズが厚くなりやすい。このため、第3のレンズの薄型化が求められていた。また、第3のレンズの製造が容易であることが求められている。
【0005】
本開示は、上記実状を鑑みてなされたものであり、製造を容易としつつ薄型化を図ることができるレンズ及びヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の第1の観点に係るレンズは、光源からの光の中心光線が通過するレンズ中心点に対して点対称な光学特性を示す光学面を有するレンズであって、前記光学面は、前記レンズ中心点を含む範囲に形成され、湾曲する非フレネル領域と、前記非フレネル領域を挟んで位置し、フレネルレンズ形状をなす第1及び第2のフレネル領域と、を有し、前記第1のフレネル領域は、前記レンズ中心点よりも前記第2のフレネル領域側に位置する第1中心点を中心とした同心円弧に沿い、前記第1中心点から一定間隔毎に配置される複数の第1の山部を有し、前記第2のフレネル領域は、前記レンズ中心点よりも前記第1のフレネル領域側に位置する第2中心点を中心とした同心円弧に沿い、前記第2中心点から一定間隔毎に配置される複数の第2の山部を有する。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の第2の観点に係るヘッドアップディスプレイ装置は、前記レンズと、前記光源と、前記レンズを透過した前記光源からの光を受けて表示光を生成する表示パネルと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、製造を容易としつつ薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置が搭載された車両の模式図である。
図2】本開示の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の模式的な断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係るX方向に見た光線の経路を示す概略図である。
図4】本開示の一実施形態に係るY方向に見た光線の経路を示す概略図である。
図5】本開示の一実施形態に係る第3のレンズの模式的な断面図である。
図6】本開示の一実施形態に係る第1~第3のレンズ及び基板の斜視図である。
図7】本開示の一実施形態に係る第3のレンズの斜視図である。
図8】本開示の一実施形態に係る第3のレンズの正面図である。
図9】本開示の一実施形態に係る第3のレンズの平面図である。
図10】本開示の一実施形態に係る第3のレンズの斜視図である。
図11図8の範囲Aを拡大した図である。
図12】第1比較例に係る第3のレンズと液晶表示パネルの模式図である。
図13】第2比較例に係る第3のレンズと液晶表示パネルの模式図である。
図14】第1比較例に係る虚像の輝度分布を示す図である。
図15】本開示の一実施形態に係る虚像の輝度分布を示す図である。
図16】比較例に係る虚像の輝度分布を示す図である。
図17】本開示の一実施形態に係る虚像の輝度分布を示す図である。
図18】第4比較例に係る等高線が示されたトロイダルレンズの平面図である。
図19】第4比較例に係る等高線が示されたトロイダルレンズの平面図である。
図20】第4比較例に係る等高線が示された第3のレンズの平面図である。
図21】本開示の一実施形態に係る等高線が示された第3のレンズの平面図である。
図22】本開示の一実施形態に係る第3のレンズを成形する金型の断面図である。
図23】本開示の一実施形態に係る金型の第1~第3の分割部材と第3のレンズの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係るレンズ、ヘッドアップディスプレイ装置及び金型の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置100は、例えば、車両200のダッシュボード内に設置される。ヘッドアップディスプレイ装置100は、車両200のウインドシールド201に向けて画像を表す表示光Lを射出し、ウインドシールド201で反射した表示光Lによって虚像Vを表示する。
【0011】
図2に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置100は、表示部10と、凹面鏡20と、ハウジング30と、放熱部材40と、を備える。
【0012】
ハウジング30は、遮光性樹脂等で箱状に形成され、表示部10及び凹面鏡20を収納する。ハウジング30には、ウインドシールド201(図1参照)に高さ方向に対向する位置に開口部30cが形成されている。ハウジング30は、開口部30cに嵌め込まれ、表示光Lが透過するアクリル等の透光性樹脂からなる湾曲板状に形成される窓部31を備える。
【0013】
放熱部材40は、表示部10が発する熱を外部に放出する部材である。放熱部材40は、例えばアルミニウム等の金属等で形成されるフィン型の構造体である。放熱部材40は、ヘッドアップディスプレイ装置100の外部に一部が露出するようにハウジング30の嵌合孔部32に嵌め込まれている。
【0014】
表示部10は、表示光Lを出射する。表示部10の具体的な構成については後述する。
凹面鏡20は、表示部10からの表示光Lをウインドシールド201に向けて反射させる。
【0015】
次に、表示部10の具体的な構成について説明する。
図2に示すように、表示部10は、バックライトユニット11と、表示パネルユニット13と、を備える。
バックライトユニット11は、液晶表示パネル18を照明する装置である。バックライトユニット11は、第1~第3のレンズ51~53と、複数の光源19と、基板16と、第1のケース体14と、を備える。基板16及び第1~第3のレンズ51~53は、光源19が発する光の進行方向に沿って並べられる。以下では、この光の進行方向はZ方向と規定し、基板16及び第1~第3のレンズ51~53におけるZ方向に直交する長手方向をX方向と規定し、短手方向をY方向と規定する。
【0016】
各光源19は、例えば、LED(Light Emitting Diode)からなる。複数(本例では12個)の光源19は、基板16の第1のレンズ51に対向する面に設けられている。具体的には、Y方向が行方向であって、X方向が列方向である場合、光源19は2行×6列のマトリックス状に配置される。
第1のケース体14は、遮光性樹脂等にてZ方向に延びる矩形筒状に形成され、基板16及び第1~第3のレンズ51~53を収容する。
【0017】
図6に示すように、第1~第3のレンズ51~53は、光源19に近い方から第1のレンズ51、第2のレンズ52及び第3のレンズ53の順で配置されている。光源19からの光は、第1のレンズ51、第2のレンズ52及び第3のレンズ53の順でそれらの厚さ方向に透過する。
【0018】
図3及び図4に示すように、第1のレンズ51は、透明光学樹脂又は光学ガラスにより形成されている。第1のレンズ51は、光源19から放射された光をZ方向に平行化する。第1のレンズ51は、複数の凸レンズ部51aを備える。複数の凸レンズ部51aは、上述した光源19と同様に2行×6列のマトリックス状に配置されている。
【0019】
図3に示すように、第2のレンズ52は、透明光学樹脂又は光学ガラスにより形成され、第1のレンズ51を透過した光をY方向に拡散する機能を有する。第2のレンズ52は、例えば、レンチキュラレンズである。詳しくは、第2のレンズ52は、光が入射する入射面52iと、第2のレンズ52をその厚さ方向に通過した光が射出する射出面52oと、を備える。
【0020】
第2のレンズ52の入射面52iには、複数(本例では11個)のシリンドリカルレンズ部52aが形成されている。第2のレンズ52の射出面52oには、複数(本例では11個)のシリンドリカルレンズ部52bが形成されている。各シリンドリカルレンズ部52a,52bは、凸状、例えば半円柱状に形成され、X方向に沿って延び、Y方向に配列されている。
【0021】
図7に示すように、第3のレンズ53は、透明光学樹脂又は光学ガラスにより形成されている。第3のレンズ53は、光源19からの第2のレンズ52を経た光の中心光線が通過するレンズ中心点53Dに対して点対称な光学特性を示す光学面を有する。図4に示すように、第3のレンズ53は、第2のレンズ52を透過した光源19からの光を液晶表示パネル18に合わせてX方向に拡散させる。
【0022】
詳しくは、図9に示すように、第3のレンズ53は、レンズ本体部54と、外枠部55と、を備える。
外枠部55は、レンズ本体部54の外周を囲む枠状をなす。外枠部55は、入射面54iと同じ高さに位置する。外枠部55は、X方向に延びる両辺それぞれに形成される凸状板部55cを備える。凸状板部55cは、X方向に長い長方形板状をなす。
【0023】
外枠部55は、複数のピン通過孔部55bを備える。複数のピン通過孔部55bは、外枠部55の厚さ方向に貫通する孔を有する。各ピン通過孔部55bには、図示しない位置決めピンが挿通される。この位置決めピンは、第1のケース体14(図2参照)に設けられる。複数、本例ではピン通過孔部55bは、各凸状板部55cに1つずつ設けられる。また、各ピン通過孔部55bは、第3のレンズ53のX方向の中央に位置する。
【0024】
図10に示すように、外枠部55は、複数のスペーサ55aを備える。複数、本例では4つのスペーサ55aは、外枠部55の裏面に形成され、Z方向に沿って延びる柱状をなす。図6に示すように、外枠部55の裏面は、第2のレンズ52に対向する面である。複数のスペーサ55aは、X方向においてピン通過孔部55bを挟み込むように位置する。各スペーサ55aの先端面が第2のレンズ52の外周枠部52cに接触することにより第2のレンズ52と第3のレンズ53の間の距離が規定される。
【0025】
図8に示すように、レンズ本体部54は、光が入射する入射面54iと、第3のレンズ53の内部をその厚さ方向に通過した光が射出する上記光学面の一例である射出面54oと、を備える。
図7に示すように、射出面54oは、トロイダル領域54Tと、フレネル領域54L,54Rと、を備える。
トロイダル領域54Tは、X方向及びY方向に異なる曲率で形成されるトロイダル面を有する。例えば、トロイダル領域54Tは、X方向に沿って凹状に湾曲しており、Y方向に沿って凸状に湾曲している。トロイダル領域54TにおいてX方向において中央部に近づくにつれてZ方向(第3のレンズ53の厚さ方向)に低い位置となる。トロイダル領域54TにおいてY方向において中央部に近づくにつれてZ方向に高い位置となる。トロイダル領域54Tの最低位置P1は、トロイダル領域54TのX方向の中心で、かつトロイダル領域54TのY方向の両端の位置となる。トロイダル領域54Tの最高位置P2は、トロイダル領域54TのY方向の中心で、かつロイダル領域54TのX方向の両端の位置となる。
トロイダル領域54TのX方向の曲率は、トロイダル領域54TのY方向の曲率よりも大きく形成されている。
図9に示すように、トロイダル領域54Tは、X方向に長い略長方形で形成され、詳しくは、この略長方形のY方向に沿って延びる両辺が外側に湾曲した形状をなす。
【0026】
フレネル領域54L,54Rは、レンズ本体部54のX方向の両側に位置し、フレネルレンズ形状をなす。フレネル領域54L,54Rは、トロイダル領域54Tを挟み込むように配置されている。フレネル領域54L,54Rは、それぞれトロイダル領域54Tに接する辺が凹状に湾曲した略四角形状をなす。フレネル領域54L,54Rは、Y方向に凸状に湾曲しており、Y方向の中央にて最も高くなる。
【0027】
図11に示すように、フレネル領域54L,54Rは、それぞれ複数の山部54Yを備える。複数の山部54YはY方向に沿って湾曲して延び、X方向に並べられている。山部54Yの横断面形状は、三角形状、本例では、直角三角形状をなす。山部54Yの光学面は、X方向に傾斜した第1辺541と、山部54YのX方向の外側に位置する第2辺542と、を備える。第2辺542はZ方向に沿って延びる。
【0028】
図9に示すように、フレネル領域54Lの各山部54Yは、中心点O1を中心とした同心円弧上に沿って延びる。フレネル領域54Lの各山部54Yは、中心点O1を中心とした径方向に一定間隔K毎(図11参照)に配置される。一定間隔Kは、山部54Yの底辺と同じ長さとなる。中心点O1は、レンズ中心点53Dよりもフレネル領域54Rに近い位置に設けられ、本例では、フレネル領域54R内に位置する。詳しくは、中心点O1は、フレネル領域54R内のX方向の中央よりも外側(図9の右側)に位置する。
【0029】
フレネル領域54Rの山部54Yは、中心点O2を中心とした同心円弧上に沿って延びる。フレネル領域54Rの各山部54Yは、中心点O2を中心とした径方向に一定間隔K毎に配置される。中心点O2は、レンズ中心点53Dよりもフレネル領域54Lに近い位置に設けられ、本例では、フレネル領域54L内に位置する。詳しくは、中心点O2は、フレネル領域54L内のX方向の中央よりも外側(図9の左側)に位置する。
レンズ中心点53Dは、X方向に中心点O1,O2と並ぶように位置する。
【0030】
図5に示すように、入射面54iは、レンチキュラ領域54A,54B,54Cを備える。
各レンチキュラ領域54A,54B,54Cは、複数のシリンドリカルレンズ部54Sを備える。複数のシリンドリカルレンズ部54Sは、それぞれY方向に沿って延びる半円柱状に形成され、X方向に配列されている。
レンチキュラ領域54Aは、第3のレンズ53の表裏においてフレネル領域54Lに対応する領域に形成される。レンチキュラ領域54Bは、第3のレンズ53の表裏においてフレネル領域54Rに対応する領域に形成される。レンチキュラ領域54Cは、第3のレンズ53の表裏においてトロイダル領域54Tに対応する領域に形成される。
レンチキュラ領域54A,54Bは、X方向においてレンチキュラ領域54Cを挟み込むように位置する。レンチキュラ領域54Cの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率は、レンチキュラ領域54A,54Bの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率よりも大きく設定されている。複数のシリンドリカルレンズ部54Sのピッチは、各レンチキュラ領域54A,54B,54Cで同じに設定される。
図9に示すように、レンチキュラ領域54A,54Bとレンチキュラ領域54Cの境界線BL1は、フレネル領域54L,54Rとトロイダル領域54Tの境界線BL2のうちY方向の中央部を通過する。なお、本例に限らず、境界線BL1は、境界線BL2のY方向の端部を通過してもよい。
【0031】
図2に示すように、表示パネルユニット13は、液晶表示パネル18と、光拡散部材17と、第2のケース体15と、を備える。
第2のケース体15は、光拡散部材17及び液晶表示パネル18を外周から保持する枠状をなし、ハウジング30内に固定されている。
光拡散部材17は、液晶表示パネル18の第3のレンズ53に対向する側に設けられている。光拡散部材17は、第3のレンズ53からの光を拡散して液晶表示パネル18に出射する。
【0032】
液晶表示パネル18は、バックライトユニット11からの照明光を受けて画像を表す表示光Lを凹面鏡20に向けて射出する。液晶表示パネル18は、TFT(Thin Film Transistor)型の液晶パネルである。
以上で、ヘッドアップディスプレイ装置100の構成の説明を終了する。
【0033】
次に、本実施形態に係る第3のレンズ53の構成に想到するまでの経緯について説明する。
図12に示すように、第1比較例に係る第3のレンズ153の光出射面153oは全域にわたってトロイダル面形状をなす。このため、第1比較例に係る第3のレンズ153が厚くなるという課題があった。特に、昨今、ヘッドアップディスプレイ装置では、表示光を出射する表示部をコンパクトにしつつ、虚像のサイズを大きくすることやアイボックス(虚像を視認できる空間)を大きくすることが要求されている。よって、第3のレンズ153を透過する光の拡散角度θを大きくするために、光出射面153oの曲率を大きくする必要があり、これにより、第3のレンズ153が厚くなるという課題がより顕著になっていた。
この課題を解決するために、図13に示すように、第2比較例に係る第3のレンズ253の光出射面253oの外側をフレネル領域54L,54Rで形成することにより、第3のレンズ253の薄型化を図った。
第1比較例に係る第3のレンズ153の構成では、X方向の最外側の光線Lzが液晶表示パネル18を通過する。このため、図14に示すように、視認者がアイボックスの中央から視認したときの虚像の輝度のバラツキは小さい。
一方、第2比較例に係る第3のレンズ253の構成では、薄型化を図った結果、光出射面253oが液晶表示パネル18から遠ざかる。このため、最外側の光線Lzが液晶表示パネル18を超えた範囲を通過するおそれがある。このため、図15に示すように、視認者がアイボックスの中央から視認したときの虚像の左右方向の外側の端部E1,E2の輝度が低くなり、虚像の輝度のバラツキが大きくなる。
この課題を解決するために、本実施形態では、図5に示すように、レンチキュラ領域54A,54Bの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率は、レンチキュラ領域54Cの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率よりも小さく設定されている。この構成では、最外側の光線Lzの拡散角度θ(屈折量)を小さくすることができ、光線Lzを液晶表示パネル18に通過させることができる。本実施形態における虚像の輝度が図17に示され、各シリンドリカルレンズ部の全ての曲率が同一である第3比較例の輝度が図16に示される。図16図17を比較すると、図17に示す本実施形態の虚像の左右方向の外側の端部E1,E2の輝度を、図16に示す第3比較例の虚像の左右方向の外側の端部E1,E2の輝度よりも高くすることができる。よって、本実施形態では、第3比較例に比べて、虚像の輝度のバラツキを小さくすることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係るフレネル領域54L,54Rの構成に想到するまでの経緯について説明する。
図18及び図19に示すように、第4比較例において、トロイダルレンズの理想的な光学面190は、X方向及びY方向で異なる曲率を持ち、楕円形の等高線Laとなる曲面を有する。光学面190において、図20に示すように、レンズ中心点190Cを中心に同心円上にフレネルの山部194を形成したとする。この場合には、各山部194における高低差が大きくなりやすい。例えば、図20の矢印J1で示すように、山部194aは、最高位置PHから2つの等高線Laを跨ぐ位置まで低くなっている。
そこで、本実施形態では、図9に示すように、フレネル領域54Lの各山部54Yとフレネル領域54Rの各山部54Yとで、中心点O1,O2をX方向にずらしている。これにより、図21に示すように、各山部54Yが等高線Laに沿うため、各山部54Yの高低差を小さくすることができる。これにより、各山部54Yの曲率が小さくなり、図9に示すように、フレネル領域54L,54Rの端面幅Wを小さくすることができる。端面幅Wは、トロイダル領域54Tに最も近い山部54YのX方向の振幅である。よって、端面幅Wを小さくすることにより、山部54Yが複数の等高線を跨ぐように形成されることが抑制され、各山部54Yの高低差を小さくすることができる。また、これにより、図9に示すように、フレネル領域54L,54Rのトロイダル領域54Tに近い角部の角度αを小さくすることができる。
【0035】
次に、第3のレンズ53の製造方法について説明する。図22に示すように、金型300により第3のレンズ53が製造される。
金型300は、第1型の一例である下型301と、第2型の一例である上型302と、を備える。
下型301は、金型300のキャビティ308内に形成された第3のレンズ53の入射面54iに対向する位置に設けられる。上型302は、金型300のキャビティ308内に形成された第3のレンズ53の射出面54oに対向する位置に設けられる。
上型302は、下型301に対して接近又は離間するように移動可能に構成される。
上型302は、XY方向に分割された第1~第3の分割部材303~305を備える。
第1の分割部材303は、第3のレンズ53のフレネル領域54Lを形成するための部材である。第2の分割部材304は、第3のレンズ53のフレネル領域54Rを形成するための部材である。第3の分割部材305は、第3のレンズ53のトロイダル領域54Tを形成するための部材である。
【0036】
図23に示すように、第3の分割部材305と第1及び第2の分割部材303,304の境界線Lbは、トロイダル領域54Tとフレネル領域54L,54Rの境界付近を通過するように湾曲する。
第3の分割部材305と第1及び第2の分割部材303,304の境界線Lbに沿って第3のレンズ53にはパーティングライン54Pが形成される。パーティングライン54Pは、第3の分割部材305と第1及び第2の分割部材303,304の分割により射出成形された第3のレンズ53に形成される線状の凸部をいう。
【0037】
例えば、図11に示すように、パーティングライン54Pは、フレネル領域54L,54Rそれぞれの最もトロイダル領域54Tに近い位置の山部54Y1の頂点に位置する。山部54Y1の傾斜面はトロイダル領域54Tの一部を構成する。パーティングライン54Pは山部54Y1の頂点に沿って延びる。
【0038】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1-1)光源19からの光を表示パネルの一例である液晶表示パネル18に向けて拡散するレンズの一例である第3のレンズ53は、第3のレンズ53の面方向に沿い、かつ互いに交わる第1方向の一例であるX方向及び第2方向の一例であるY方向においてそれぞれ湾曲するトロイダル面を有するトロイダル領域54Tと、トロイダル領域54TのX方向の両側に形成され、フレネルレンズ形状を有するフレネル領域54L,54Rと、を備える。
この構成によれば、フレネル領域54L,54Rをトロイダル領域54Tの両側に形成することにより、第3のレンズ53の光の拡散角度を維持しつつ薄型化を図ることができる。
【0039】
(1-2)第3のレンズ53は、第3のレンズ53のトロイダル領域54T及びフレネル領域54L,54Rが形成されている面の裏面に形成され、Y方向に沿って延び、X方向に並べられる複数のシリンドリカルレンズ部54Sを備える。複数のシリンドリカルレンズ部54Sのうちトロイダル領域54Tに対応するシリンドリカルレンズ部54Sの曲率は、複数のシリンドリカルレンズ部54Sのうちフレネル領域54L,54Rに対応するシリンドリカルレンズ部54Sの曲率よりも大きく形成される。
この構成によれば、各シリンドリカルレンズ部54Sの全ての曲率が同一である構成と比べて、最外側の光線Lz(図5参照)の拡散角度θを液晶表示パネル18のサイズに合うように維持することができ、光線Lzが液晶表示パネル18を超えることが抑制され、光源19からの光が無駄となることが抑制される。
【0040】
(1-3)ヘッドアップディスプレイ装置100は、第3のレンズ53と、光源19と、第3のレンズ53を透過した光源19からの光を受けて表示光Lを生成する液晶表示パネル18と、を備える。
この構成によれば、第3のレンズ53の薄型化を通じてヘッドアップディスプレイ装置100の小型化を図ることができる。また、第3のレンズ53が薄くても第3のレンズ53を透過した光の拡散角度θが維持されるため、表示光Lが被投射部材の一例であるウインドシールド201に投射されることにより表示される虚像Vのサイズを維持することができる。
【0041】
(2-1)第3のレンズ53は、光源19からの光の中心光線が通過するレンズ中心点53Dに対して点対称な光学特性を示す光学面の一例である射出面54oを有する。射出面54oは、レンズ中心点53Dを含む範囲に形成され、レンズ中心点53Dを中心に湾曲する非フレネル領域の一例であるトロイダル領域54Tと、トロイダル領域54Tを挟んで位置し、フレネルレンズ形状をなす第1及び第2のフレネル領域の一例であるフレネル領域54L,54Rと、を有する。フレネル領域54Lは、レンズ中心点53Dよりもフレネル領域54R側に位置する第1中心点の一例である中心点O1を中心とした同心円弧に沿い、中心点O1から一定間隔K毎に配置される複数の第1の山部の一例である山部54Yを有する。フレネル領域54Rは、レンズ中心点53Dよりもフレネル領域54L側に位置する第2中心点の一例である中心点O2を中心とした同心円弧に沿い、中心点O2から一定間隔K毎に配置される複数の第2の山部の一例である山部54Yを有する。
この構成によれば、上記(1-1)に記載したように、第3のレンズ53の薄型化を図ることができる。また、フレネル領域54L,54Rの端面幅W(図9参照)を小さくすることができる。これにより、フレネル領域54L,54Rの各山部54Yの高低差を小さくすることができる。ここで、第3のレンズ53は、金型300により製造される。このため、山部54Yの高低差が小さいと、金型300、ひいては第3のレンズ53の製造が容易となる。
【0042】
(2-2)トロイダル領域54Tは、フレネル領域54L,54Rが並ぶX方向及びX方向に交わるY方向に沿ってそれぞれ異なる曲率で湾曲する。トロイダル領域54Tは、Y方向よりもX方向に、長くかつ曲率が大きく形成される。
この構成によれば、フレネル領域54L,54RがX方向にトロイダル領域54Tを挟み込むように位置するため、フレネル領域54L,54RがY方向にトロイダル領域54Tを挟み込むように位置する構成に比べて、フレネル領域54L,54Rの各山部54Yの高低差を小さくすることができる。
【0043】
(2-3)中心点O1は、フレネル領域54R内に位置する。中心点O2は、フレネル領域54L内に位置する。
この構成によれば、フレネル領域54L,54Rの端面幅W、ひいてはフレネル領域54L,54Rの各山部54Yの高低差を小さくすることができる。
【0044】
(3-1)第3のレンズ53は、光源19からの光の中心光線が通過するレンズ中心点53Dを含み、曲面形状を有する非フレネル領域の一例であるトロイダル領域54Tと、トロイダル領域54Tを挟んで位置するフレネル領域54L,54Rと、トロイダル領域54Tとフレネル領域54L,54Rの間に形成されるパーティングライン54Pと、を備える。
この構成によれば、パーティングライン54Pがトロイダル領域54Tとフレネル領域54L,54Rを横断することが抑制される。このため、第3のレンズ53を透過する光強度のバラツキを抑制することができる。特に、第3のレンズ53をヘッドアップディスプレイ装置100に適用した場合には、虚像Vの表示品位を高めることができる。
【0045】
(3-2)フレネル領域54L,54R及びトロイダル領域54Tは、第1方向の一例であるX方向に並べられる。フレネル領域54L,54Rは、それぞれX方向に並べられ、Y方向に湾曲して延びる複数の山部54Yを有する。パーティングライン54Pは、フレネル領域54L,54Rそれぞれの最もトロイダル領域54Tに近い位置の山部54Yの頂点に位置する。
この構成によれば、パーティングライン54Pを山部54Yの頂点に形成することにより、山部54Yの頂点をより鋭くすることができる。これにより、第3のレンズ53を透過する光強度のバラツキを抑制することができる。
【0046】
(3-3)第3のレンズ53を製造するための金型300は、第3のレンズ53のフレネル領域54L,54Rを形成するための第1及び第2の分割部材303,304と、トロイダル領域54Tを形成するための第3の分割部材305と、を備える。
この構成によれば、金型300を第1~第3の分割部材303~305に分割することにより、パーティングライン54Pをトロイダル領域54Tとフレネル領域54L,54Rの間に形成することができる。
【0047】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、変形の一例を説明する。
【0048】
(変形例)
上記実施形態においては、レンチキュラ領域54A,54Bの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率はそれぞれ同一であり、レンチキュラ領域54Cの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率はそれぞれ同一であった。しかしながら、レンチキュラ領域54A,54B,54Cの各シリンドリカルレンズ部54Sの曲率はX方向において中央部から外側に向かうにつれて徐々に小さくなるように形成されてもよい。この場合には、X方向の最も外側に位置するシリンドリカルレンズ部54Sの曲率が最も小さくなる。この構成によれば、フレネル領域54L,54Rは、それぞれ外側に向かうほど、光線Lzの拡散角度θが大きくなり、光線Lzが液晶表示パネル18から外れやすいため、シリンドリカルレンズ部54Sの曲率を徐変させることにより、効率的に照明光を液晶表示パネル18へ照射することができる。
【0049】
上記実施形態においては、トロイダル領域54Tは、X方向に沿って凹状に湾曲しており、Y方向に沿って凸状に湾曲していたが、これに限らず、X方向及びY方向の両方向に凹状に湾曲していてもよいし、X方向及びY方向の両方向に凸状に湾曲していてもよい。また、トロイダル領域54Tは、X方向に沿って凸状に湾曲しており、Y方向に沿って凹状に湾曲していてもよい。
【0050】
上記実施形態においては、中心点O1は、フレネル領域54R内に位置し、中心点O2は、フレネル領域54L内に位置していたが、これに限らない。例えば、中心点O1,O2は、トロイダル領域54T内に位置していてもよいし、X方向に第3のレンズ53から外れて位置していてもよい。
また、中心点O1,O2は、Y方向においてレンズ中心点53Dからずれた位置に設けられていてもよい。
また、第3のレンズ53は表裏反対に設けられていてもよい。
【0051】
上記実施形態においては、トロイダル領域54Tは、Y方向よりもX方向に、長くかつ曲率が大きく形成されていたが、これに限らず、X方向よりもY方向に長く形成されていてもよいし、X方向よりもY方向に曲率が大きく形成されていてもよい。
さらに、トロイダル領域54Tは、X方向とY方向において互いに同じ長さで形成されてもよいし、X方向とY方向において互いに同じ曲率で形成されていてもよい。
【0052】
上記実施形態においては、フレネル領域54L,54Rは、X方向においてトロイダル領域54Tを挟み込むように配置されていたが、これに限らず、Y方向においてトロイダル領域54Tを挟み込むように配置されてもよい。また、フレネル領域54L,54Rは、X方向及びY方向の両方向からトロイダル領域54Tを挟み込むように配置されてもよい。
【0053】
上記実施形態では、第1~第3のレンズ51~53は長方形板状で形成されていたが、これに限らず、例えば、正方形、円、楕円又は多角形の板状で形成されてもよい。
上記実施形態において、ヘッドアップディスプレイ装置100は、表示部10からの表示光Lを凹面鏡20に向けて反射する平面鏡又は凹面鏡を備えていてもよい。
【0054】
上記実施形態では、光学面190の等高線Laが光学面190の短手方向に細長い形状を示していた。しかし、等高線Laは図示されるほどの細長さではなく、より円に近い形状であってもよい。この場合、第3のレンズの最高位置は、図20に示されるように光学面190の短手方向中央付近には現れず、長辺上(第2方向に位置する端面付近)に現れる場合もある。逆に、等高線Laは、より細長い楕円形状を示してもよい。
【0055】
上記実施形態では、ヘッドアップディスプレイ装置100は車両200に搭載されていたが、車両200に限らず、飛行機、船等のその他の乗り物に搭載されてもよい。表示光Lが投射される被投射部材はウインドシールド201に限らず、専用のコンバイナであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 表示部
11 バックライトユニット
13 表示パネルユニット
14 第1のケース体
15 第2のケース体
16 基板
17 光拡散部材
18 液晶表示パネル
19 光源
20 凹面鏡
30 ハウジング
30c 開口部
31 窓部
32 嵌合孔部
40 放熱部材
51~53 第1~第3のレンズ
51a 凸レンズ部
52a,52b,54S シリンドリカルレンズ部
52c 外周枠部
52i,54i 入射面
52o,54o 射出面
53,153,253 第3のレンズ
53D,190C レンズ中心点
153o,253o 光出射面
54 レンズ本体部
54A,54B,54C レンチキュラ領域
54L,54R フレネル領域
54P パーティングライン
54T トロイダル領域
54Y,54Y1,194,194a 山部
541 第1辺
542 第2辺
55 外枠部
55a スペーサ
55b ピン通過孔部
55c 凸状板部
100 ヘッドアップディスプレイ装置
190 光学面
200 車両
201 ウインドシールド
300 金型
301 下型
302 上型
303~305 第1~第3の分割部材
308 キャビティ
θ 拡散角度
K 一定間隔
L 表示光
O1,O2 中心点
P1 最低位置
P2,PH 最高位置
E1,E2 端部
V 虚像
W 端面幅
La 等高線
BL1,BL2,Lb 境界線
Lz 光線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23