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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】電動機の制御装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/66 20160101AFI20241016BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20241016BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H02P29/66
B60K1/00
B60L15/20 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021073551
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167625
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 唱
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓夢
(72)【発明者】
【氏名】大河内 利典
(72)【発明者】
【氏名】土田 康隆
(72)【発明者】
【氏名】大上 佳範
(72)【発明者】
【氏名】中根 大樹
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-109816(JP,A)
【文献】特開2020-114167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/66
B60K 1/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されている電動機を制御する制御装置であって、
固定子の温度を特定するための固定子温度特定部からの固定子温度情報、前記電動機の冷却に用いる冷媒の温度を特定するための冷媒温度特定部からの冷媒温度情報、及び回転子の回転数を特定するための回転数特定部からの前記回転子の回転数情報に基づいて前記回転子の温度を推定する回転子温度推定部と、
前記回転子温度推定部が推定した前記回転子の温度に基づいて前記電動機の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する制御部と、
前記車両の電源が遮断された電源遮断時間を特定する電源遮断時間特定部と、
前記電源遮断時間、及び前記回転子温度推定部が推定した前記電源が遮断される直前の前記回転子の温度に基づいて前記電源遮断時間が終了した前記車両の通電時における前記回転子の温度を推定する始動時温度推定部と、
を備え
前記回転子温度推定部が、前回に推定した前記回転子の温度である1制限周期前の前記回転子の温度と、前記固定子温度情報、前記冷媒温度情報、及び前記回転数情報に基づいて算出した前記回転子の温度から、温度変化量を物理量に則った温度変化量に調整して、回転子の推定温度を決定し、
前記温度変化量の調整が、フィルタ処理、レートリミット処理、又は移動平均処理を用いて行われ、
前記車両を始動した際の一周期目における前記1制限周期前の前記回転子の温度が、前記始動時温度推定部が推定した前記車両の通電時における前記回転子の温度である、制御装置。
【請求項2】
前記回転子が、永久磁石を含み、
前記制御部が、前記回転子の温度に基づいて前記永久磁石が減磁しないように前記電動機の前記出力特性及び前記駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記回転子温度推定部が推定した前記回転子の温度が温度閾値に到達するまでは、前記制御部が、前記電動機の生成トルクの最大値が前記電動機が生成可能な最大トルクになるように、前記電動機の前記出力特性及び前記駆動条件のうちの少なくとも一方を制御し、
前記回転子温度推定部が推定した前記回転子の温度が前記温度閾値を超えると、前記制御部が、前記電動機の生成トルクの最大値が前記推定した前記回転子の温度が増加するにしたがって減少するように、前記電動機の前記出力特性及び前記駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する、請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されている電動機を制御する制御装置に関する。また、本開示は、そのような制御装置を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の電動機の制御装置としては、特許文献1に記載されているものがある。この制御装置は、冷却油で冷却される電動機を備える車両に搭載されている。この制御装置は、固定子のコイルの温度と冷却油の油温とに基づいて電動機の出力を制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6026815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動機の回転子に嵌め込み固定されている永久磁石は、所定温度以上の高温になると不可逆の減磁を引き起こし、電動機の性能が低下する。また、電動機が高速回転しているときには、電動機の損失が大きくなるので、電動機の発熱量が高くなって回転子が高温になり易く、電動機の高速回転時に電動機の出力を抑制する必要がある。
【0005】
係る背景において、特許文献1の電動機の制御では、電動機の回転数を考慮せずに電動機の出力制御を行うので、電動機が低速回転しているときでも電動機の高速回転を想定した制御を行わなければならない。よって、電動機の低速回転領域で電動機の出力を過剰に制限し易く、電動機の低速回転領域で電動機を効率的に動作させにくい。
【0006】
そこで、本開示の目的は、電動機を効率的に動作させ易い車両の制御装置、及びそのような制御装置を備える車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示に係る制御装置は、車両に搭載されている電動機を制御する制御装置であって、固定子の温度を特定するための固定子温度特定部からの固定子温度情報、前記電動機の冷却に用いる冷媒の温度を特定するための冷媒温度特定部からの冷媒温度情報、及び回転子の回転数を特定するための回転数特定部からの前記回転子の回転数情報に基づいて前記回転子の温度を推定する回転子温度推定部と、前記回転子温度推定部が推定した前記回転子の温度に基づいて前記電動機の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する制御部と、を備える。
【0008】
なお、上記電動機は、動力を生成できる一方、電力を生成できない構成でもよい。又は、電動機は、所謂モータジュネレータでもよく、動力及び電力の両方を生成できる構成でもよい。
【0009】
また、上記各種温度特定部は、温度検出対象に設置された温度センサであってもよいのは当然のこと、温度検出対象以外の部分に設置された1以上の温度センサと、その1以上の温度センサが検出した1以上の温度、及び記憶部に記憶されているマップ等の情報又はプログラム(ソフトウエア)に基づいて、温度検出対象の温度を推定する制御部とを含んでもよい。又は、上記各種温度特定部は、温度検出対象に設置された温度センサ以外の1以上のセンサ、例えば、温度検出対象に設置されなかった1以上の温度センサ、電流センサ、電圧センサ、及び回転数検出センサのうちの1以上のセンサと、その1以上の温度センサが検出した1以上の物理情報、及び記憶部に記憶されているマップ等の情報又はプログラムに基づいて、温度検出対象の温度を推定する制御部とを含んでもよい。要は、上記各種温度特定部は、温度検出対象の温度を検出できるか又は温度検出対象の温度を推定できる如何なる構成を含んでもよい。
【0010】
また、回転数特定部も、回転子の回転数を直接検出する回転数検出センサ、例えば、レゾルバや、パルサリングを含む回転数検出センサ等で構成されてもよいのは、当然のこと、回転数検出センサ以外の1以上のセンサ、例えば、温度センサ、電流センサ、電圧センサのうちの1以上のセンサと、その1以上のセンサが検出した1以上の物理情報、及び記憶部に記憶されているマップ等の情報又はプログラムに基づいて、回転子の回転数を推定する制御部とを含んでもよい。要は、上記回転数特定部は、回転子の回転数を検出できるか又は回転子の回転数を推定できる如何なる構成を含んでもよい。
【0011】
本開示によれば、制御装置が、固定子温度情報、及び冷媒温度情報に加えて、回転子の回転数も考慮して、電動機の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する。したがって、電動機が低速回転しているときの出力を過剰に制限することを抑制でき、電動機を低速回転時と高速回転時の両方で効率的に動作させることができる。
【0012】
また、本開示において、前記回転子が、永久磁石を含み、前記制御部が、前記回転子の温度に基づいて前記永久磁石が減磁しないように前記電動機の前記出力特性及び前記駆動条件のうちの少なくとも一方を制御してもよい。
【0013】
本構成によれば、回転子の永久磁石の減磁を効果的に抑制又は防止できる。
【0014】
また、本開示において、前記車両の電源が遮断された電源遮断時間を特定する電源遮断時間特定部と、前記電源遮断時間、及び前記回転子温度推定部が推定した前記電源が遮断される直前の前記回転子の温度に基づいて前記電源遮断時間が終了した前記車両の通電時における前記回転子の温度を推定する始動時温度推定部と、を備えてもよい。
【0015】
本構成によれば、車両始動時の回転子の温度を推定できる。したがって、車両始動時から電動機を効率的に動作させることができて、電動機に車両始動時から高いトルクを出力させることができるので、車両始動時から操作に対する応答性に優れる動力機構を実現できる。
【0016】
また、前回の回転子の推定温度を特定できると、フィルタ処理やレートリミット処理等を用いて回転子の温度を高精度に推定できるが、車両始動時には、前回の回転子の推定温度が存在せず、回転子の温度を高精度に推定できない。これに対し、本構成によれば、車両始動時においても車両始動時の回転子の温度を推定できるので、車両始動時から回転子の温度を高精度に推定し易い。
【0017】
また、本開示の車両は、本開示の制御装置を備える。
【0018】
本開示によれば、電動機が低速回転時に出力するトルクを大きくできる。
【発明の効果】
【0019】
本開示に係る車両の電動機の制御装置によれば、電動機を効率的に動作させることができ、特に、電動機が低速回転時に出力するトルクを大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態に係る電動車両の概略構成図である。
図2】比較例の制御装置の回転子温度の特定方法を説明するグラフである。
図3】上記電動車両の制御装置が特定する回転子温度と回転子の回転速度との関係を表すグラフである。
図4】回転子が高速回転しているときの、回転子の実温度と、制御装置が特定した回転子の温度と、比較例の制御装置が特定した回転子の温度との関係を示すグラフである。
図5】回転子が低速回転しているときの、回転子の実温度と、制御装置が特定した回転子の温度と、比較例の制御装置が特定した回転子の温度との関係を示すグラフである。
図6】電動機の回転数と、各回転数で電動機が生成することを許容される最大のトルクとの関係を表すグラフである。
図7】電動車両における回転子の温度推定の手順について説明するフローチャートである。
図8図7のステップS4の温度調整の前後における回転子の推定温度の変化の概要を説明する図である。
図9】上記制御装置が電動機の出力特性の制御を行う際の動作手順について説明するフローチャートである。
図10】トルク制限マップとして利用できる温度とトルクとの関係の一例を示すグラフであり、温度とその温度で生成可能な最大のトルクとの関係を表すグラフである。
図11】磁石温度と、電動機への電源が遮断されている電源遮断時間との相関関係を示すグラフである。
図12】電源遮断時間と、固定子や冷媒の温度変化値との相関関係を示すグラフである。
図13】上記制御装置が電動機の駆動条件の制御を行う際の動作手順について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0022】
図1は、本開示の一実施形態に係る電動車両1の概略構成図である。図1に示すように、電動車両1は、車両駆動用の電動機10、バッテリ20、バッテリ20の直流電力を交流電力に変換して電動機10に供給するインバータ30、電動機10が生成した回転動力によって車輪44を駆動する駆動機構40、電動機10を冷却する冷却装置50、及び電動機10の出力を制御する制御装置60を備える。
【0023】
電動機10は、ケーシング11、ケーシング11内に取り付けられた環状の固定子12、固定子12の径方向内方に固定子12に間隔をおいて配置される回転子14、回転子14と略同一の中心軸を有して回転子14と同期回転する回転軸16を有する。固定子12には、コイル13が巻回されている。コイル13には、コイル温度Tstを検出する第1温度センサ17が取り付けられている。
【0024】
第1温度センサ17は、例えば、抵抗が温度に依存するサーミスタ素子と、サーミスタ素子を被覆する樹脂被覆部を含む。第1温度センサ17は、固定子12の如何なる箇所に取り付けられてもよく、例えば、コイル13がY結線されている場合には中性線等に取り付けられてもよい。なお、第1温度センサが、サーミスタ素子を含む場合について説明したが、温度センサは、熱電対、又は白金測温抵抗体等を含んでもよく、それ以外の温度検出素子を含んでもよい。
【0025】
回転子14は、例えば、円柱形状を有して複数の電磁鋼板が積層された積層構造を含む。回転子14は、更に、その円柱形状の積層構造の外周側の内部に埋め込み固定されると共に周方向に間隔をおいて配置される複数の永久磁石15を含む。回転軸16の一端には、レゾルバ18が取り付けられている。レゾルバ18は、回転子14の回転角θ及び回転数Rを検出する回転数検出センサである。なお、本開示では、回転子14の回転数Rを検出するのにレゾルバ18を用いたが、レゾルバ18の代わりに回転子14の回転数Rを検出できる他の如何なる回転数検出センサを用いてもよく、例えば、パルサリングと磁力検出部を有する回転数検出センサ等を用いてもよい。
【0026】
バッテリ20は、充放電可能な二次電池であり、例えば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等で構成される。バッテリ20の正極と負極の夫々は、高圧電路31、グランド電路32を介してインバータ30に電気的に接続されている。高圧電路31とグランド電路32との間には、バッテリ20の電圧Vbを検出する電圧センサ33が取り付けられている。
【0027】
インバータ30は、電界効果トランジスタ(FET)等で構成されるスイッチング素子を内部に複数備え、制御装置60から入力されるPWM信号によってスイッチング素子をオン・オフ動作させ、高圧電路31とグランド電路32から入力されたバッテリ20からの直流電力を交流電力に変換して交流電路35を介して電動機10に供給する。また、インバータ30は、制御装置60から入力されるPWM信号によってスイッチング素子をオン・オフ動作させ、交流電路35から入力される電動機10の交流の回生電力を直流電力に変換して高圧電路31とグランド電路32を介してバッテリ20に充電する。交流電路35は、U相電路35u、V相電路35v、及びW相電路35wの3本の電路で構成される。V相電路35vには、V相電流Ivを検出する電流センサ36が取り付けられ、W相電路35wには、W相電流Iwを検出する電流センサ37が取り付けられている。
【0028】
冷却装置50は、電動機10の下方に配置されて冷却油等の冷却液21を貯留するオイルパン22、オイルパン22に貯留された冷却液21を加圧する電動のオイルポンプ23、加圧された冷却液21を電動機10のケーシング11中を循環させる冷却液循環管24、及びオイルパン22に貯留された冷却液21の温度Trを検出する第2温度センサ25を有する。
【0029】
なお、本実施形態では、第2温度センサ25が、オイルパン22に取り付けられて、冷却液21の温度Trを検出するが、第2温度センサ25は、冷却液21の温度Trを検出できれば如何なる箇所に設置されてもよく、例えば、オイルポンプ23に設置されてもよい。第2温度センサ25は、例えば、抵抗が温度に依存するサーミスタ素子と、サーミスタ素子を被覆する樹脂被覆部を含んでもよく、熱電対、又は白金測温抵抗体等を含んでもよく、それ以外の温度検出素子を含んでもよい。冷却液21は、オイルポンプ23によってオイルパン22から汲み上げられ、冷却液循環管24を通った後、ケーシング11の上部から電動機10内に流入する。
【0030】
冷却液21は、固定子12のコイル13を冷却した後、ケーシング11下部からオイルパン22に戻る。ケーシング11の下部には、冷却液21が溜まっている。固定子12の下部及び回転子14の下部は、ケーシング11中に溜まった冷却液21中に没している。駆動機構40は、駆動軸41、ディファレンシャルギヤ42、及び車輪44を含む。駆動軸41は、電動機10の回転軸16に接続され、電動機10の駆動力が伝達される。ディファレンシャルギヤ42は、駆動軸41の回転動力を、車軸43を回動させる回転動力に変換する。車輪44は、車軸43に取り付けられ、車軸43と同期回転する。電動車両1は、更に、車両電源スイッチ3、タイマー5、及びアクセルセンサ8を備える。車両電源スイッチ3は、車両電源のオン・オフを特定できる信号を制御装置60に出力し、タイマー5は、制御装置60と双方向の情報のやり取りを行い、アクセルセンサ8は、アクセル開度を表す信号を制御装置60に出力する。
【0031】
制御装置60は、コンピュータ、例えば、マイクロコンピュータによって好適に構成され、制御部62と、記憶部64を含む。制御部62、すなわち、プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。また、記憶部64は、ハードディスクドライブ(HDD)や、半導体メモリ等で構成され、半導体メモリは、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリや、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリで構成される。記憶部64は、一つのみの記憶媒体で構成されてもよく、複数の異なる記憶媒体で構成されてもよい。CPUは、記憶部64に予め記憶されたプログラム等を読み出して実行する。また、不揮発性メモリは、制御プロラムや所定の閾値等を予め記憶する。また、揮発性メモリは、読み出したプログラムや処理データを一時的に記憶する。
【0032】
制御部62は、回転子温度推定部62a、電源遮断時間特定部62b、始動時温度推定部62c、及び電動機制御部62dを含む。制御装置60は、レゾルバ18、電圧センサ33、電流センサ36,37、第1温度センサ17、第2温度センサ25、車両電源スイッチ3、タイマー5、及びアクセルセンサ8から、回転子14の回転角θ及び回転数Nを表す信号、バッテリ20の電圧Vbを表す信号、V相電流Ivを表す信号、W相電流Iwを表す信号、コイル温度Tstを表す信号、冷却液21の温度Trを表す信号、電源遮断時間を表す信号、及び指令トルクを表す信号を受信する。
【0033】
制御装置60は、受信したそれらの複数の物理量を表す信号と記憶部64に記憶されているプログラム及び情報とに基づいて電動機10等の機器を制御する。例えば、制御装置60は、第1及び第2温度センサ17,25からの信号と、レゾルバ18からの信号と、記憶部64に記憶されているプログラム及び情報とに基づいてインバータ30にPWM信号を出力することで電動機10に供給する電流を制御し、電動機10が生成するトルクを制御する。回転子温度推定部62a、電源遮断時間特定部62b、始動時温度推定部62c、及び電動機制御部62dの動作については、下記の図2図13を用いて詳細に説明する。
【0034】
次に図2図4を用いて、本開示の制御装置60による回転子温度の推定方法について説明する。図2は、比較例の制御装置の回転子温度の特定方法を説明するグラフであり、図3は、制御装置60が特定する回転子温度と回転子14の回転速度との関係を表すグラフである。比較例の制御装置は、A、B、Cを定数、Troを比較例の制御装置が推定する回転子の温度、Tstを第1温度センサ17が検出したコイル13の検出温度、Trを第2温度センサ25が検出した冷媒温度(冷却液温度)したとき、次の式(1)に基づいて、Troを推定する。
Tro=A・Tr+B・Tst+C・・・(1)
【0035】
すなわち、図2に示すように、比較例の制御装置では、Troは、TroをZ軸、TstをX軸、TrをY軸とする3次元空間における1の平面上に位置し、Tst及びTrが決まると一意に特定されるようになっている。
【0036】
これに対し、本開示の制御装置60は、A、B、Cを定数、Troを制御装置60が推定する回転子の温度、Tstを第1温度センサ17が検出したコイル13の検出温度、Trを第2温度センサ25が検出した冷媒温度(冷却液温度)、Nをレゾルバ18が検出した回転子14の回転数Nとしたとき、次の式(2)に基づいて、Troを推定するようになっている。なお、Cは、正の定数であり、C>0を満足している。
Tro=A・Tr+B・Tst+C・N・・・(2)
【0037】
すなわち、図3に示すように、本開示の制御装置60では、Troは、TroをZ軸、TstをX軸、TrをY軸とする3次元空間で静止する1の平面上のみに位置することはなく、回転数Nが大きな値になると、Troが位置する平面が3次元空間上を矢印Aで示す上側に移動して、回転子14の推定温度が高くなり、逆に、回転数Nが小さな値になると、Troが位置する平面が3次元空間上を下側に移動して、回転子14の推定温度が低くなる。
【0038】
図4は、回転子14が高速回転しているときの、回転子14の実温度と、制御装置60が推定した回転子14の推定温度と、比較例の制御装置が推定した回転子14の推定温度との関係を示すグラフである。また、図5は、回転子14が低速回転しているときの、回転子14の実温度と、制御装置60が推定した回転子14の推定温度と、比較例の制御装置が推定した回転子14の推定温度との関係を示すグラフである。
【0039】
図4に示すように、高回転領域では、測定開始時刻から初期の期間において、本開示の手法を用いて推定した回転子14の推定温度が回転子14の実温度と略一致する一方、比較例の手法を用いて推定した回転子14の推定温度は回転子14の実温度よりも上振れしている。したがって、高回転領域における測定開始時刻から初期の期間においては、本開示の手法の方が比較例の手法よりも回転子14の実温度を高精度に推定できる。また、時間が測定開始時刻から経過すると、本開示の手法と比較例の手法は、回転子14の推定温度が略一致し、推定温度は、回転子14の実温度より同程度に上振れする傾向がある。
【0040】
これに対し、図5に示すように、低回転領域では、比較例の手法を用いて推定した回転子14の推定温度が、測定開始時刻から全ての期間で回転子14の実温度よりも大きく上振れしている。一方、本開示の手法を用いて推定した回転子14の推定温度は、測定開始時刻から全ての期間で回転子14の実温度よりも上振れしてはいるものの、上振れの大きさは、測定開始時刻から全ての期間で比較例の手法を用いたときの上振れの大きさの半分程度に大幅に低減されている。したがって、低回転領域では、本開示の手法を用いて回転子14の温度を推定すれば、比較例の手法を用いて回転子14の温度を推定したときとの比較で回転子14の温度を正確に推定することができる。
【0041】
次に、本開示の手法が、比較例の手法よりも低回転領域において回転子14の温度推定性能に優れる理由について説明する。図6は、電動機10の回転数と、各回転数で電動機10が生成することを許容される最大のトルクとの関係を表すグラフである。なお、図6において、点線は、回転子14の温度Tα℃のときの回転数と最大のトルクとの関係を表す線であり、実線は、回転子14の温度がTβ℃(Tβ>Tα)のときの回転数と最大のトルクとの関係を表す線である。
【0042】
電動機10を高温で駆動させたり、電動機10に許容トルクよりも高いトルクを生成させたりすると、熱振動による磁気モーメントのゆらぎや反転によって磁束が減少し、磁束が前の状態に回復しない減磁が生じることが知られている。実線が、点線よりも下方に位置する理由は、電動機10の温度が高い場合、より小さな生成トルクで減磁が発生するためである。
【0043】
図6に示すように、生成が許容されるトルクは電動機10の回転数が高くなるにしたがって小さくなっている。つまり、電動機10の回転数が高くなると、電動機10が生成するトルクの最大値を制限する必要が生じる。係る背景において、比較例の手法、すなわち、電動機10の回転数を考慮せずに、回転子14の温度を推定する手法では、減磁を引き起こさないように、回転数が低い状態でも、回転数が高い状態になっていることを想定して、電動機10が生成するトルクを制限する必要がある。その結果、比較例の手法では、高いトルクが許容される低回転数領域でも、生成するトルクを過剰に制限することになって、低回転数領域で電動機10の性能を十分に活かすことができず、低回転数領域で電動機10を効率的に駆動させることができなかった。
【0044】
これに対し、本開示の手法では、電動機10の回転数を考慮して回転子14の温度を推定するようになっている。よって、図5に示すように、低速回転領域において、回転子14の推定温度を比較例の手法の推定温度よりも格段に低くてかつ回転子14の実温度によりも高い温度にでき、その結果、低速回転領域において生成可能な最大トルクを格段に大きくできて電動機10を格段に効率的に駆動させることができる。
【0045】
電動車両1においては、電動機10を高速回転で動作させるのは、高速道路の走行等、限られた場合であり、通常の走行、すなわち、街中の走行等においては電動機10を低速回転で動作させること多い。したがって、本開示の制御装置60を車両(電動車両1に限らずハイブリッド車でもよい)に搭載すると、走行の多くを占める低速回転領域で生成可能な最大トルクを格段に大きくでき、電動機10を格段に効率的に駆動させることができ、顕著な作用効果を獲得することができる。
【0046】
図7は、電動車両1における回転子14の温度推定の手順について説明するフローチャートである。図7を参照して、電動車両1が始動して電動機10に電力が供給されると、フローがスタートし、ステップS1で、レゾルバ18が回転子14の回転数Nを検出し、続く、ステップS2で、第1温度センサ17がコイル温度Tstを検出し、第2温度センサ25が冷媒温度Trを検出する。続く、ステップS3では、制御装置60の回転子温度推定部62aが、回転数N、コイル温度Tc、冷媒温度Trと、記憶部64に記憶されている上記式(2)に基づいて回転子14の温度Tro(永久磁石15の温度に一致)を算出する。続くステップS4では、回転子温度推定部62aが、前回に推定した温度Tro、すなわち、1制限周期前のTroと、ステップS3で算出した温度Troから、温度変化量を物理量に則った温度変化量に調整して、今回の回転子14の推定温度Troを決定する。
【0047】
この調整は、例えば、フィルタ処理、レートリミット処理、又は移動平均処理等を用いて行うことができる。この調整を行うことで、回転子14の温度Troが一回前の推定値から急激に上昇することが抑制される。フィルタ処理を行う場合、例えば、公知のカルマンフィルタ等を用いて、ステップS3で算出した温度Troと、前回推定した回転子14の温度Troとに基づいて、今回の回転子14の最終的な推定温度Troを決定してもよい。
【0048】
また、レートリミット処理を行う場合には、一次関数を定義する。そして、前回の推定温度Troに対するステップS3で算出したTroの温度変化率がその一次関数の変化率を上回るとき、前回の推定温度Troに対する今回の最終的な推定温度Troの温度変化率をその一次関数の変化率に置き換える。また、移動平均処理は、前回の温度Troのみならず今回以前の複数回の温度TroとステップS3で算出したTroとの平均を算出することで今回の最終的な推定温度Troを推定する。
【0049】
この調整には、少なくとも、前回の推定温度Troが必要になるが、電動車両1を駆動した後の最初の温度推定時には、前回の推定温度Troが存在しない。このような場合、例えば、第1温度センサ17が検出したコイル温度を駆動時(電源投入時)の推定温度Troとしてもよく、第2温度センサ25が検出した冷媒温度を駆動時の推定温度Troとしてもよい。しかし、高精度に駆動時の推定温度Troを推定してもよい。そのような駆動時の推定温度Troの推定法については、後で詳細に説明する。
【0050】
この温度変化量の調整は、次の理由で行う。例えば、ドライバーが誤って瞬間的にアクセスを踏みすぎた場合においてホイルスピンが生じると、回転数が一瞬だけ急激に上がることになり、それに伴い回転子14の推定温度も一瞬高ぶれしてしまう。しかし、回転子14の回転数が一瞬のみ高くなっただけでは、回転子14の実温度は高くならない。この温度変化量の調整は、そのような場合を排除するために行う。
【0051】
図8は、ステップS4の温度調整の前後における推定温度の変化の概要を説明する図である。なお、図8において、点線は、ステップS4の温度調整前の推定温度を表し、実線は、ステップS4の温度調整後の推定温度を表す。図8に示すように、ステップS4を行うことで、時間に関する推定温度の変動を表すグラフにおける局所的な凹凸を低減できて、グラフを平滑化でき、推定温度の精度を上げることができる。
【0052】
次に、制御装置60における電動機10の制御について説明する。図9は、制御装置60が電動機10の出力特性の制御を行う際の動作手順について説明するフローチャートである。図9を参照して、電動車両1が始動して電動機10に電力が供給されると、フローがスタートし、ステップS11で、電動機制御部62dが、例えば、アクセルセンサ8(図1参照)からの信号に基づいて指令トルクTraを取得する。続く、ステップS12では、図7を用いて説明した手順で、回転子温度推定部62aが回転子14の温度を推定し、ステップS13に移行する。
【0053】
ステップS13では、電動機制御部62dが、回転子温度推定部62aが推定した回転子14の温度Troが、記憶部64に記憶されている温度閾値T1よりも高いか否かを判定する。ステップS13で否定判定されて、電動機制御部62dが、温度Troが温度閾値T1以下であると判定すると、ステップS14に移行して、電動機制御部62dがトルクTraを生成するPWM信号をインバータ30に出力し、電動機10がトルクTraを生成する。その後、制御がリターンとなって、ステップS11以下が繰り返される。
【0054】
他方、ステップS13で肯定判定されて、電動機制御部62dが、温度Troが温度閾値T1を超えていると判定すると、ステップS15に移行して、回転子14の推定温度Troでの許容トルクTrbを算出する。具体的には、トルク制限マップを用いて許容トルクTrbを算出する。図10は、トルク制限マップとして利用できる温度とトルクとの関係の一例を示すグラフであり、温度とその温度で生成可能な最大のトルクとの関係を表すグラフである。図10において、TrAは、電動機10が生成可能な最大トルクであり、TrBは、回転子14の推定温度がT2であるときの制限トルクである。また、T1は、トルク制限開始温度である。
【0055】
図10に示す例では、回転子14の温度が温度閾値T1に到達するまでは、電動機10の生成トルクの最大値TrAが、電動機10が生成可能な最大トルクになっている。一方、回転子14の温度が温度閾値T1を超えると、電動機10の生成トルクの最大値が、温度が増加するにしたがって一次関数的に減少するようになっている。このトルク制限マップを用いると、回転子14の推定温度が高い領域で生成可能な最大トルクを単純な制御で制限でき、回転子14に埋め込み固定された永久磁石15の減磁も確実に防止できる。
【0056】
なお、回転子14の温度が温度閾値T1を超えると、電動機10の生成トルクの最大値が、温度が増加するにしたがって一次関数的に減少する場合について説明した。しかし、回転子14の温度が温度閾値T1を超えると、電動機10の生成トルクの最大値は、温度が増加するにしたがって一次関数以外の如何なる関数に従った減少をしてもよい。例えば、回転子14の温度が温度閾値T1を超えると、電動機10の生成トルクの最大値は、温度が増加するにしたがって踊り場を持つような折れ線の関数に従った減少をしてもよく、又は、2次以上の高次の関数に従った減少をしてもよい。
【0057】
再度、図9に示すフローチャートに戻って、ステップS15の後のステップS16では、電動機制御部62dがステップS15で算出したトルクTrbを生成するPWM信号をインバータ30に出力し、電動機10がトルクTrbを生成する。その後、制御がリターンとなって、ステップS11以下が繰り返される。図9に示す電動機10の制御は、例えば、電動車両1が目的地について電動機10への電力が遮断されると終了する。
【0058】
次に、電動車両1の電源が遮断された後に電動車両1を始動した際の一周期目の電動機10の制御について説明する。上述のように、回転子14の推定温度を平滑化する際にフィルタ処理やレートリミット処理を行う際、現在よりも前の制御周期の推定温度を参照しなければならない。しかし、電動車両1を始動した際の一周期目には、参照する初期温度が存在せず、初期温度を推定する手段が必要になる。
【0059】
制御装置60では、始動時温度推定部62cが次のように回転子14の初期温度を推定する。図11、すなわち、回転子14の永久磁石15の磁石温度と、電動機10への電源が遮断されている電源遮断時間との関係に示すように、磁石温度と電源遮断時間とは相関関係がある。始動時温度推定部62cは、電源遮断が実行される直前の回転子14の推定温度Troの情報と、タイマー5からの電源遮断時間の情報と、記憶部64に予め記憶されていて、磁石温度と電源遮断時間との相関関係を規定するマップ情報とに基づいて、電動車両1を再始動した際に参照する回転子14の初期温度を推定する。
【0060】
本開示の技術によれば、始動時温度推定部62cによって電動車両1を再始動した際に参照する回転子14の初期温度を正確に推定できる。したがって、図11にaで示す線のように永久磁石の初期温度を予想せずに前回値を保持した場合と異なり、永久磁石15の推定温度が実温度よりも過度に高くなることがなく、電動機10を再始動したときから効率的に動作させ易い。また、図11にbで示す線のように永久磁石の初期温度を予想せずに一定温度とした場合と異なり、永久磁石15の推定温度が実温度よりも低くなることを抑制でき、永久磁石15の磁力を保護できる。
【0061】
なお、タイマー5を用いて電源遮断時間を推定する場合について説明したが、固定子12の温度を検出する第1温度センサ17、冷媒温度を検出する第2温度センサ25、又はそれ以外の電動車両1に搭載される各種温度センサの温度変化量から電源遮断時間を推定してもよい。例として、第1温度センサ17又は第2温度センサ25の検出値を用いる場合について説明する。図12に示すように、電源遮断時間と、固定子12や冷媒の温度変化値とは、相関関係がある。したがって、それらの温度変化値を第1温度センサ17又は第2温度センサ25で検出することで、電源遮断時間を推定することができる。よって、タイマー5を用いなくても初期温度を推定できるので、タイマー5を削減して製造コストを低減してもよい。
【0062】
なお、第1温度センサ17の検出温度や、第2温度センサ25の検出温度を1つだけ用いて回転子14の初期温度を推定してもよい。しかし、複数のセンサの検出値に基づいて推定した複数の回転子14の初期温度の平均を算出してその平均値を初期温度とすると、初期温度と電源再始動時の回転子14の実温度との差を小さくし易く、回転子14の初期温度を高精度に推定できる。
【0063】
次に、制御装置60が推定した回転子温度を用いて電動機10の駆動条件を制御する方法について説明する。制御装置60が、推定した回転子温度を用いて電動機10の出力特性を制御する方法については上記図9を用いて説明した。しかし、制御装置60は、推定した回転子温度を用いて電動機10の駆動条件を制御してもよい。
【0064】
詳しくは、図13、すなわち、制御装置60が電動機10の駆動条件の制御を行う際の動作手順について説明するフローチャートに示すように、電動車両1が始動して電動機10に電力が供給されてフローがスタートすると、ステップS21で、制御装置60が、要求性能値C1を取得してもよい。ここで、要求性能値C1には、例えば、電動機10に印加する電圧、PWM制御においてパルス幅変調周期を決定するキャリア周波数、オイルポンプ23の始動スイッチのオン・オフ制御で循環させるオイル量、ラジエータファンのデューティ比に基づく冷却空気の流動量、ウォータポンプのデューティ比に基づく冷却水の循環量、又はグリルシャッターの開閉に基づく車両内を通過する空気量のうちの1以上が含まれてもよい。
【0065】
続く、ステップS22では、図7を用いて説明した手順で、回転子温度推定部62aが回転子14の温度を推定し、ステップS23に移行する。ステップS23では、制御装置60が、回転子温度推定部62aが推定した回転子14の温度Troが、記憶部64に記憶されている温度閾値T2よりも高いか否かを判定する。ステップS23で否定判定されて、制御装置60が、温度Troが温度閾値T2以下であると判定すると、ステップS24に移行して、制御装置60が要求性能値C1を実現する制御を行い、その後、制御がリターンとなって、ステップS21以下が繰り返される。
【0066】
他方、ステップS23で肯定判定されて、制御装置が、温度Troが温度閾値T2を超えていると判定すると、ステップS25に移行して、回転子14の推定温度Troでの許容性能値C2を算出する。具体的には、許容電圧値、許容キャリア周波数、オイルポンプ23を駆動させるか否か、ラジエータファンの許容デューティ比、ウォータポンプの許容デューティ比、グリルシャッターを開くか否かを、記憶部64に記憶されているプログラム、データ、及びマップのうちの少なくとも1つを用いて算出又は決定する。ステップS25の後のステップS26では、制御装置が許容性能値C2を実現する制御を行い、その後、制御がリターンとなって、ステップS21以下が繰り返される。
【0067】
電動機10に印加する電圧を下げると、電動機10で生成するジュール熱を低下させることができるので、電動機10の温度を低下させることができる。また、許容キャリア周波数を変えたり、オイルポンプ23を駆動させたり、ラジエータファンの許容デューティ比を増加させたり、ウォータポンプの許容デューティ比を増加させたり、グリルシャッターを開くことによっても電動機10の温度を低下させることができる。よって、この制御を行えば、電動機10における生成可能な最大のトルク値を大きくできて、特に、低速回転領域で生成可能な最大のトルク値を格段に大きくでき、電動機10を効率的に動作させることができる。
【0068】
以上、本開示の制御装置60は、電動車両1に搭載されている電動機10を制御する。また、制御装置60は、固定子12の温度を特定するための第1温度センサ(固定子温度特定部)17からの固定子温度情報、電動機10の冷却に用いる冷媒の温度を特定するための第2温度センサ(冷媒温度特定部)25からの冷媒温度情報、及び回転子14の回転数を特定するためのレゾルバ(回転数特定部)18からの回転子14の回転数情報に基づいて回転子14の温度を推定する回転子温度推定部62aと、回転子温度推定部62aが推定した回転子14の温度に基づいて電動機10の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する電動機制御部62dを備える、制御装置。
【0069】
本開示によれば、制御装置60が、固定子温度情報、及び冷媒温度情報に加えて、回転子14の回転数も考慮して、電動機10の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御する。したがって、電動機10が低速回転しているときの出力を過剰に制限することを抑制でき、電動機10を低速回転時と高速回転時の両方で効率的に動作させることができる。
【0070】
また、回転子14が、永久磁石15を含んでもよい。そして、図9及び図10を用いて説明したように、制御部62が、回転子14の温度に基づいて永久磁石15が減磁しないように電動機10の出力特性及び駆動条件のうちの少なくとも一方を制御してもよい。
【0071】
本構成によれば、回転子14の永久磁石15の減磁を効果的に抑制又は防止できる。
【0072】
また、制御装置60は、電動車両1の電源が遮断された電源遮断時間を特定する電源遮断時間特定部62bと、電源遮断時間、及び回転子温度推定部62aが推定した電源が遮断される直前の回転子14の温度に基づいて電源遮断時間が終了した電動車両1の通電時における回転子14の温度を推定する始動時温度推定部62cを備えてもよい。
【0073】
本構成によれば、車両始動時の回転子14の温度を推定できる。したがって、車両始動時から電動機10を効率的に動作させることができて、電動機10に車両始動時から高いトルクを出力させることができるので、車両始動時から操作に対する応答性に優れる動力機構を実現できる。
【0074】
また、前回の回転子14の推定温度を特定できると、フィルタ処理やレートリミット処理等を用いて回転子14の温度を高精度に推定できるが、車両始動時には、前回の回転子14の推定温度が存在せず、回転子14の温度を高精度に推定できない。これに対し、本構成によれば、車両始動時においても車両始動時の回転子14の温度を推定できるので、車両始動時から回転子14の温度を高精度に推定し易い。
【0075】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態では、回転子14の温度を推定するのに上記(2)式を用い、暫定的なTroを算出する数式に回転数Nに比例する項を追加した。しかし、暫定的なTroを算出する数式は、上記(2)式に定数を追加したものでもよい。又は、暫定的なTroを算出する数式は、回転数Nで定義されると共に一次関数でない関数F(N)を含んでもよく、例えば、F(N)は、2次以上の高次の関数を含んでもよく、三角関数、指数関数、対数関数、及び特殊関数のうちの1以上の関数を含んでもよい。
【0077】
また、図9を用いて回転子温度推定部62aが推定した回転子14の温度に基づいて電動機10の出力特性を制御する場合について説明し、図13を用いて回転子温度推定部62aが推定した回転子14の温度に基づいて電動機10の駆動条件を制御する場合について説明した。しかし、本開示の制御装置は、回転子温度推定部が推定した回転子の温度に基づいて電動機の出力特性及び駆動条件の両方を制御してもよい。
【0078】
また、固定子温度特定部が第1温度センサ17であり、冷媒温度特定部が第2温度センサ25であり、回転数特定部がレゾルバ18である場合について説明した。しかし、固定子温度特定部、冷媒温度特定部、及び回転数特定部は、電動機に関連する1以上の物理情報、例えば、電動機に印加する電圧、電動機が供給する電力、電動機に供給する電流、ラジエータファンのデューティ比、及びウォータポンプのデューティ比のうちの1以上の物理情報と、ソフトウエアとに基づいて、固定子の温度、冷媒の温度、回転子の回転数のうちの1以上の物理情報を推定してもよい。また、車両が、電動車両1である場合について説明したが、車両は、電動機に加えて内燃機関も備えるハイブリッド車でもよい。
【0079】
また、電動機10が、永久磁石15を備える場合について説明した。しかし、電動機は、永久磁石を備えない電動機、例えば、誘導モータやSR(Switched Reluctance)モータ等でもよい。電動機においては、回転子内の導体温度上昇に伴う効率低下が一般的に知られている。したがって、本開示の技術を用いることで、例えば、永久磁石を備えない電動機においても、回転子の温度推定を行って、一定温度超過時に冷却用ポンプを作動させることで、電動機の効率低下を効果的に抑制又は防止できる。電動機の回転子は、回転により発生する鉄損と、固定子からの受熱で温度上昇する。本開示の技術を用いることで、電動機が永久磁石を備えるか否かに限らず、電動機の構成部品を熱害から確実に保護でき、鋼板の温度特性による強度低下も確実に防止できる。
【符号の説明】
【0080】
1 電動車両、 3 車両電源スイッチ、 5 タイマー、 8 アクセルセンサ、 10 電動機、 12 固定子、 13 コイル、 14 回転子、 15 永久磁石、 16 回転軸、 17 第1温度センサ、 18 レゾルバ、 20 バッテリ、 21 冷却液、 22 オイルパン、 23 オイルポンプ、 25 第2温度センサ、 30 インバータ、 40 駆動機構、 50 冷却装置、 60 制御装置、 62 制御部、 62a 回転子温度推定部、 62b 電源遮断時間特定部、 62c 始動時温度推定部、 62d 電動機制御部、 64 記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13