(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20241016BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C23C18/31 E
(21)【出願番号】P 2021078090
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072481(WO,A1)
【文献】特開2019-056142(JP,A)
【文献】中国実用新案第215481364(CN,U)
【文献】特開2020-152987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00
C23C 18/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含むめっき液が含浸された多孔質膜を、被成膜体に押し当てることにより、前記被成膜体の表面のうち、前記多孔質膜が押し当てられた被成膜面に、前記金属イオンに由来する金属からなる金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜装置であって、
前記成膜装置は、
前記被成膜体が載置される載置台と、
前記載置台に対向する位置に前記多孔質膜が取り付けられ、前記多孔質膜で前記めっき液を封止するように前記めっき液を収容する液収容室が形成された装置本体と、
前記載置台と前記多孔質膜との間に配置され、前記被成膜面が露出するように、前記被成膜体が挿入される挿入孔が形成された第1部材と、
前記多孔質膜と接触するように、前記多孔質膜よりも前記液収容室側に配置され、前記挿入孔と対向する位置において、前記液収容室の前記めっき液が前記多孔質膜に向かって通過する貫通孔が形成された第2部材を備えており、
前記第1部材には、前記載置台側に第1磁石が設けられており、前記第2部材には、前記液収容室側に第2磁石が設けられており、
前記第1および第2磁石の磁力による吸引力により、前記第1部材と前記第2部材とに、前記多孔質膜が挟み込まれるように、前記第1および第2磁石が配置されていることを特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被成膜体の被成膜面に金属皮膜を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば、特許文献1には、金属皮膜の成膜装置が開示されている。この成膜装置は、陽極と、陽極と基材との間に配置される固体電解質膜と、陽極と固体電解質膜との間に配置され金属溶液を収容する溶液室と、陽極と基材との間に電圧を印加する電源部と、を備えている。溶液室は、金属溶液を収容する収容空間を有しかつ収容空間が基材側に開放した開口部を有するハウジングと、ハウジングの開口部に取り付けられた弾性体により形成されており、固体電解質膜は弾性体を介して溶液室に取り付けられており、形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示す成膜装置を利用して、固体電解質膜などの膜として、多孔質膜を用いた場合、基材である被成膜体に多孔質膜を接触させると、多孔質膜にシワが発生し、このシワにより、多孔質膜から均一にめっき液が排出されず、均質な金属皮膜が成膜できないことがある。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多孔質膜のシワの発生を抑えることにより、均質な金属皮膜を成膜することができる金属皮膜の成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、金属イオンを含むめっき液が含浸された多孔質膜を、被成膜体に押し当てることにより、前記被成膜体の表面のうち、前記多孔質膜が押し当てられた被成膜面に、前記金属イオンに由来する金属からなる金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜装置であって、前記成膜装置は、前記被成膜体が載置される載置台と、前記載置台に対向する位置に前記多孔質膜が取り付けられ、前記多孔質膜で前記めっき液を封止するように前記めっき液を収容する液収容室が形成された装置本体と、前記載置台と前記多孔質膜との間に配置され、前記被成膜面が露出するように、前記被成膜体が挿入される挿入孔が形成された第1部材と、前記多孔質膜と接触するように、前記多孔質膜よりも前記液収容室側に配置され、前記挿入孔と対向する位置において、前記液収容室の前記めっき液が前記多孔質膜に向かって通過する貫通孔が形成された第2部材を備えており、前記第1部材には、前記載置台側に第1磁石が設けられており、前記第2部材には、前記液収容室側に第2磁石が設けられており、前記第1および第2磁石の磁力による吸引力により、前記第1部材と前記第2部材とに、前記多孔質膜が挟み込まれるように、前記第1および第2磁石が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成膜時において、第1および第2磁石の吸引力により、第1部材と第2部材とに、多孔質膜が挟み込むことができるため、成膜時に多孔質膜のシワの発生を抑えることができる。これにより、多孔質膜からめっき液が均一に被成膜体の被成膜面に供給されるため、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図2】
図1に示す成膜装置の第1および第2部材を示す模式的斜視図であり、(a)は、第1および第2部材の模式的斜視図であり、(b)は、第1および第2部材の平面図である。
【
図3】(a)は、
図1の変形例に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図であり、(b)は、第1および第2部材の平面図である。
【
図4】
図1の変形例に係る金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図5】比較となる金属皮膜の成膜装置の模式的断面図である。
【
図6】(a)~(c)は、比較となる金属皮膜の成膜装置で成膜する一連の工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本実施形態に係る金属皮膜の成膜装置を説明する。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、金属イオンを含むめっき液Lが含浸された多孔質膜50を、被成膜体Wに押し当てることにより、前記被成膜体Wの表面のうち、めっき液Lが接触した被成膜面Fに、前記金属イオンに由来する金属からなる金属皮膜を成膜する金属皮膜の成膜装置である。
【0011】
図1に示すように成膜装置1は、被成膜体Wが載置される載置台16を備えており、載置台16には、被成膜体Wを収容する収容凹部16aが形成されている。成膜装置1は、装置本体10を備えており、装置本体10は、載置台16に対向する位置に多孔質膜50が取り付けられ、多孔質膜50でめっき液Lを封止するようにめっき液Lを収容する液収容室11が形成されている。
【0012】
装置本体10は、載置台16の対向面(多孔質膜50の表面)に対して直交する回転軸周りを回転自在となっている。載置台16は、装置本体10に対して、昇降自在となっている。装置本体10の回転および載置台16の昇降は、リニアガイドなどの直動装置、モータおよび減速機など回転装置など、一般的に知られた装置により、実現可能である。
【0013】
ここで、装置本体10の液収容室11には、めっき液Lが収容されており、例えば、被成膜体Wを無電解めっきにより、金属皮膜を成膜する際には、めっき液Lとして無電解めっき液が収容されている。さらに、電解めっきにより、金属皮膜を成膜する場合には、液収容室11に、被成膜体Wと対向する位置に陽極(図示せず)が配置されている。被成膜体Wを陰極として、陽極と被成膜体W(陰極)に電源(図示せず)が接続されており、成膜時にこれらの間に電圧が印加される。
【0014】
さらに、本実施形態では、載置台16を囲うように、筐体18が配置されていてもよく、成膜時に筐体18の内部の空気を吸引することにより、筐体18内部を負圧にする吸引ポンプ30が接続されていてもよい。これにより、被成膜体Wに多孔質膜50を成膜することができる。
【0015】
多孔質膜50は、膜厚方向に、めっき液が透過する微細孔が形成された多孔質膜であり、20~100nm程度の孔径を有した膜であり、多孔構造(すなわちイオンクラスター構造)を有している。該多孔構造の細孔は非常に小さく、平均細孔径は例えば0.1μm以上100μm以下である。圧力を掛けることにより固体電解質膜中に無電解めっき液を含浸させることができる。電解めっきを行う場合には、多孔質膜50は、金属イオンが透過する固体電解質膜であり、例えば、デュポン社製のナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)等のイオン交換機能を有する樹脂を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。多孔質膜50の膜厚は、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上160μm以下であることがより好ましい。
【0016】
めっき液Lに含有される金属イオンは、例えば、銅イオン、ニッケルイオン、銀イオン、または金イオンなどの金属イオンである。無電解めっき液である場合には、無電解めっき液は、いわゆる置換型無電解めっき液であることが好ましい。無電解めっき液は、例えば、金属化合物及び錯化剤を含み、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、pH緩衝剤又は安定剤等が挙げられる。めっき液が電解めっき液である場合には、硫酸または硝酸等により、金属皮膜となる金属がイオンの形態で溶解している電解液であることが好ましい。
【0017】
本実施形態では、第1部材15と第2部材12とをさらに備えている。第1部材15は、載置台16と多孔質膜50との間に配置され、被成膜面Fが露出するように、被成膜体Wが挿入される挿入孔17が形成された部材である。第1部材15は、多孔質膜50と接触した際に、金属皮膜が成膜されない材料であり、後述する第1および第2磁石21A、22A等の磁束が流れ、相互に吸引可能となる材料であれば、特に限定されるものではない。
【0018】
第1部材15は、筐体18の上部開口を塞ぐように配置されている。これにより、筐体18には、密閉空間が形成されており、吸引ポンプ30を吸引することにより、筐体18内を負圧にすることができる。
【0019】
第2部材12は、多孔質膜50と接触するように、多孔質膜50よりも液収容室11側に配置され、挿入孔17と対向する位置において、液収容室11のめっき液Lが多孔質膜50に向かって通過する貫通孔13が形成された部材である。第2部材12は、円板状の部材であり、めっき液Lにより溶解しない材料であり、後述する第1および第2磁石21A、22A等の磁束が流れ、相互に吸引可能となる材料であれば、特に限定されるものではない。
【0020】
具体的には、
図2に示すように、第2部材12は、装置本体10内に配置されており、装置本体10とともに、多孔質膜50の表面と直交する回転軸R周りを回転する。第2部材12は、多孔質膜50と接触することにより、挿入孔17が形成された部分が、めっき液Lに接触している。貫通孔13は、第1部材15に形成された挿入孔17とほぼ同じ大きさであり、
図2に示すように、装置本体10を回転させると、貫通孔13と挿入孔17とが一致する位置に、貫通孔13と挿入孔17が形成されている。
【0021】
さらに本実施形態では、第1部材15には、載置台16側に第1磁石21A、21Bが設けられており、第2部材12は、液収容室11側に第2磁石22A、22Bが設けられている。具体的には、第1磁石21A、21Bは、載置台16の内部に配置されており、第1部材15に当接している。第2磁石22A、22Bは、液収容室11内に配置されており、第2部材12に当接している。
【0022】
本実施形態では、第1磁石21A(21B)および第2磁石22A(22B)の磁力による吸引力により、第1部材15と第2部材12とに多孔質膜50が挟み込まれるように、第1部材15と第2部材12には、第1および第2磁石21A、22Aが配置されている。具体的には、
図2(a)、(b)に示すように、第1磁石21Bと第2磁石22Bとは、回転軸Rに沿って配置されており、第1磁石21Aと第2磁石22Aとは、回転軸Rからオフセットした第1部材15および第2部材12の縁部近傍に配置されている。
【0023】
ところで、
図5に示す、比較となる成膜装置9は、成膜時に、多孔質膜50にシワが発生しないように、第1部材15に支持部材80を設けて、支持部材80に取り付けられた張力付与機構(図示せず)等により、多孔質膜50に張力を付与することも考えられる。しかしながら、このような支持部材80と張力付与機構を設けた場合には、成膜装置9自体の大きさが大きくなってしまう。これに加えて、張力付与機構に多孔質膜50を取り付ける際に、多孔質膜50に取る付け用の穴を設けるなければならず、多孔質膜50に張力を付与した場合には、この穴から多孔質膜50が破損するおそれもある。
【0024】
そこで、
図6(a)に示すように、被成膜体Wを押し当てる方向も考えられるが、この場合には、被成膜体Wに接触する以外の多孔質膜50の部分から、めっき液が滲み出すおそれがあり、被成膜体Wと多孔質膜50との間に空気が噛み込むおそれがある。そこで、
図6(b)に示すように、載置台16を囲うように筐体18を設け、成膜前に、これらを吸引することも考えられるが、この場合には、
図6(c)に示すように、装置本体10の内部と、筐体18の内部の圧力差により、多孔質膜50が、ばたつくおそれがある。
【0025】
しかしながら、本実施形態では、成膜前に
図2(a)、(b)に示すように、第1磁石21Aと第2磁石22Aの位置合わせをする。この位置合わせにより、第2部材12の貫通孔13と、第1部材15の挿入孔17が一致する。この状態で、吸引ポンプ30により筐体18内の空気を吸引し、その後、載置台16を装置本体10に向かって上昇させ、多孔質膜50に、被成膜体Wを接触させる。なお、第1磁石21Aと第2磁石22Aの位置合わせを、多孔質膜50に、被成膜体Wを接触させてから行ってもよい。その後、加圧ポンプ19で液収容室11のめっき液Lを加圧する。
【0026】
第1および第2磁石21A、22Aの磁力による吸引力により、第1部材15と第2部材12とに、多孔質膜50を挟み込むことができるため、成膜時に多孔質膜50のシワの発生を抑えることができる。これにより、多孔質膜50からめっき液Lが均一に被成膜体Wの被成膜面Fに供給されるため、均質な金属皮膜を成膜することができる。
【0027】
さらに、第1および第2磁石21A、22Aの磁力による吸引力により、第1部材15と第2部材12との位置を適正位置に保持することができる。これに加えて、多孔質膜50に、機器に取り付けるための取付け孔等を設ける必要がないので、多孔質膜50の損傷を回避することができる。
【0028】
ここで、
図2に示す実施形態では、第1磁石21Bと第2磁石22Bとを、回転軸Rに沿って配置し、第1磁石21Aと第2磁石22Aを、回転軸Rからオフセットした第1部材15および第2部材12の縁部近傍に配置したが、例えば、
図3(a)および(b)に示す変形例の如く、回転軸Rを挟んで、載置台16側に第1磁石21A、21Aを配置し、回転軸Rを挟んで、液収容室11側に第2磁石22A、22Aを配置してもよい。
【0029】
さらに、
図4に示すように、
図3(a)に示す変形例に対して、第1磁石21A、21Aに、載置台16側にU字状の磁性材料からなるさらにヨーク23を取り付けて、第2磁石22A、22Aに、液収容室11側にもヨーク23を取り付けてもよい。これにより、第1磁石21A、21Aおよび第2磁石22A、22Aの磁力を高めることができる
【0030】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0031】
1:成膜装置、10:装置本体、11:液収容室、12:第2部材、13:貫通孔、16:載置台、15:第1部材、17:挿入孔、21A、21B:第1磁石、22A、22B:第2磁石、F:被成膜面、L:めっき液、W:被成膜体。