IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-バッテリ検査方法 図1
  • 特許-バッテリ検査方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】バッテリ検査方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20241016BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20241016BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241016BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241016BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20241016BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241016BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60L3/00 S
G01R31/387
G01R31/367
B60L50/60
B60L58/10
H02J7/00 P
H02J7/00 Q
H02J7/00 X
H01M10/48 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021096727
(22)【出願日】2021-06-09
(65)【公開番号】P2022188576
(43)【公開日】2022-12-21
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛史
(72)【発明者】
【氏名】須貝 信一
(72)【発明者】
【氏名】田中 信行
(72)【発明者】
【氏名】大西 健太
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-016163(JP,A)
【文献】特開2018-148720(JP,A)
【文献】特開2005-019019(JP,A)
【文献】特開2011-007564(JP,A)
【文献】特開2010-008338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0355276(US,A1)
【文献】特開2017-195681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリの満充電容量を検査する検査方法であって、
前記車両の使用期間中に前記車両のオンボードコンピュータによって算出された第1の満充電容量を前記オンボードコンピュータから読み出す読み出し工程と、
前記第1の満充電容量が予め定められた所定範囲内であるか否かを判断する判断工程と、
前記第1の満充電容量が前記所定範囲内であることが判断された場合に、前記バッテリを電欠状態から満充電状態まで変化させることによって、第2の満充電容量を算出する算出工程と、
を備える、バッテリ検査方法。
【請求項2】
前記第2の満充電容量は、前記バッテリを電欠状態から満充電状態まで変化させた場合の充電率および電流積算量に基づいて、前記オンボードコンピュータによって算出される、請求項1に記載のバッテリ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、再充電が可能なバッテリの検査方法に関する。特に、満充電容量に関するバッテリ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、経時劣化により満充電容量が変化する。満充電容量とは、充電率100%に対応するバッテリの電気容量を意味する。満充電容量が変化すると、バッテリの充電率(残容量と満充電容量の比)と、バッテリの実際の残容量が整合しなくなる。特許文献1には、車両の日常使用中において、電流積算法を用いて満充電容量を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-85658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、推定された満充電容量の精度について考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するバッテリ検査方法は、車両に搭載されたバッテリの満充電容量を検査する検査方法である。検査方法は、車両の使用期間中に車両のオンボードコンピュータによって算出された第1の満充電容量をオンボードコンピュータから読み出す読み出し工程を備える。検査方法は、第1の満充電容量が予め定められた所定範囲内であるか否かを判断する判断工程を備える。検査方法は、第1の満充電容量が所定範囲内であることが判断された場合に、バッテリを電欠状態から満充電状態まで変化させることによって、第2の満充電容量を算出する算出工程を備える。
【0006】
第1の満充電容量は第2の満充電容量に比して、算出の工数は少ないが精度が低い。本明細書が開示するバッテリ検査方法では、第1の満充電容量に基づいて、満充電容量の劣化度合いを判断することができる。そして満充電容量がある程度劣化していると判断できる場合に、第2の満充電容量を算出することができる。これにより、精度の高い満充電容量が必要な場合にのみ、第2の満充電容量を算出することができる。作業工数の低減と満充電容量の精度向上とを両立することが可能となる。
【0007】
第2の満充電容量は、バッテリを電欠状態から満充電状態まで変化させた場合の充電率および電流積算量に基づいて、オンボードコンピュータによって算出されてもよい。オンボードで第2の満充電容量を算出できるため、バッテリの搭降載の必要がない。第2の満充電容量の測定にかかる作業工数を抑制することが可能となる。
【0008】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】診断システム10および車両20の概略構成のブロック図である。
図2】診断システム10を用いたバッテリ検査のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(診断システム10および車両20の構成)
図1は、診断システム10および車両20が互いに接続されている状態における、概略構成のブロック図である。診断システム10は、車両20の車載機器の故障診断にあたって用いられる、いわゆるダイアグツールである。ダイアグツールの周知事項については、説明を省略又は簡略化する。
【0011】
診断システム10は、診断装置11、タッチパネル12、プリンタ13、コネクタ14を備えている。診断装置11は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、あるいは専用機器である。診断装置11には、タッチパネル12およびプリンタ13が接続されている。診断システム10は、コネクタ14を介して車両20の制御装置30に接続されている。コネクタ14は、例えば、CAN(Controller Area Network)に対してVIM(Vehicle Interface Module)等の通信規格で接続可能なコネクタである。
【0012】
車両20は、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHV)や電気自動車(EV)である。車両20は、モータ25、メインバッテリ21、インバータ26を備えている。
メインバッテリ21には、充放電可能に構成されたリチウムイオン電池などの二次電池が用いられる。インバータ26が、メインバッテリ21の出力電力(直流電力)をモータ25の駆動電力(三相交流電力)に変換する。モータ25は、車両の慣性エネルギを使って回生電力を発電する場合がある。回生電力は、インバータ26にて直流電力に変換されてメインバッテリ21に充電される。
【0013】
また、メインバッテリ21は、家庭用コンセントなどの外部電源50によって充電される場合がある。メインバッテリ21には、高電圧リレー27を介して電力注入口28が接続されている。電力注入口28には、外部電源50が接続され得る。図1では、外部電源50は仮想線で描いてある。
【0014】
メインバッテリ21には降圧コンバータ41も接続されている。降圧コンバータ41は、メインバッテリ21の出力電力の電圧を補器バッテリ42の電圧へ下げる。降圧コンバータ41で降圧された電力は、補器バッテリ42に供給されるとともに、複数の補器43、44に供給される。補器43、44とは、補器バッテリ42の電力で駆動されるデバイスの総称である。
【0015】
車両20は、メインバッテリ21のOCV(Open Circuit Voltage)を計測する電圧センサ22、メインバッテリ21に出入りする積算電流を計測する電流センサ23、メインバッテリ21の温度を計測する温度センサ24、を備えている。センサ22~24の計測値は、制御装置30に送られる。
【0016】
制御装置30は、コンピュータ31、記憶装置32、イグニションオフ時間カウンタ33、コネクタ34を備えている。制御装置30は、車両20の走行駆動系(すなわち、インバータ26)を制御するとともに、センサ22~24の計測値に基づいてメインバッテリ21を制御する装置である。記憶装置32は、例えばEEPROMを備えている。記憶装置32は、満充電容量推定プログラムなどの各種のプログラムや、各種のデータ(例:満充電容量推定値、イグニションオフ時間)を記憶する。イグニションオフ時間カウンタ33は、イグニションスイッチがオフ状態とされている期間(イグニションオフ時間)を計測する装置である。コネクタ34は、診断システム10のコネクタ14と通信可能に接続する部品である。
【0017】
記憶装置32に格納された容量推定プログラムをコンピュータ31が実行するとき、制御装置30は、メインバッテリ21の満充電容量推定値を算出するバッテリ制御装置として機能する。すなわち、満充電容量推定値をオンボードで算出することができる。満充電容量推定値は、センサ22~24の計測値、および、イグニションオフ時間を用いて算出することができる。満充電容量推定値の算出方法には、周知の各種の方法を用いることができるため、ここでは説明を省略する。満充電容量推定値は、ユーザの日々の使用(充電)タイミングで取得することができる。取得された満充電容量推定値は、記憶装置32に記憶される。
【0018】
(バッテリ検査のフロー)
図2を用いて、診断システム10を用いたバッテリ検査のフローについて説明する。図2のフローは、車両20がサービスセンタ等に入庫し、車両20に診断システム10を接続することに応じて開始される。図2のフローは、第1判定フロー(ステップS10~S70)、および、第2判定フロー(ステップS80~S170)を備えている。第1判定フローでは、満充電容量推定値を記憶装置32から読み出すことで、簡易的な判定が可能である。第2判定フローでは、満充電容量実測値を新たに算出することで、詳細な判定が可能である。
【0019】
ステップS10において診断装置11は、第1判定フローの開始指示が入力されたか否かを判断する。例えば、タッチパネル12に表示されている第1判定フローの開始ボタンに、タッチ入力されたか否かを判断してもよい。ステップS10において肯定判断される場合には、ステップS20へ進む。ステップS20において診断装置11は、満充電容量推定値を制御装置30の記憶装置32から読み出す。
【0020】
ステップS30~S70において、診断装置11は、読み出した満充電容量推定値が、予め定められた所定範囲内であるか否かを判断する。具体的に説明する。ステップS30において、診断装置11は、満充電容量推定値が予め定められた第1しきい値以上であるか否かを判断する。第1しきい値は、各国の法規で保証が求められている保証値とすることができる。ステップS30において肯定判断される場合には、ステップS40へ進み、タッチパネル12に正常であることを示す「○」判定結果を示す。そしてフローを終了する。一方、ステップS30において否定判断される場合には、ステップS50へ進む。
【0021】
ステップS50において、診断装置11は、満充電容量推定値が予め定められた第2しきい値以下であるか否かを判断する。第2しきい値は、第1しきい値よりも、満充電容量推定値のばらつき分だけ低い値である。これにより、満充電容量推定値が第2しきい値以下である場合には、満充電容量推定値が保証値を満たしていないことが確実に判断できる。ステップS50において肯定判断される場合には、ステップS60へ進み、タッチパネル12に異常であることを示す「×」判定結果を示す。この場合、メインバッテリ21に対して保証(例:交換、返品、修理)を行ってもよい。
【0022】
一方ステップS50において否定判断される場合には、診断装置11は、満充電容量推定値が第2しきい値と第1しきい値との間の所定範囲内であると判断する。この場合は、満充電容量推定値が保証値以上であるか否かを確実に判断できない場合であり、満充電容量実測値を用いた詳細な判定が必要となる場合である。よってステップS70へ進み、詳細な判定が必要であることを示す「△」判定結果、および、第2判定フローの開始ボタンを、タッチパネル12に表示する。そしてステップS80へ進む。
【0023】
ステップS80において診断装置11は、第2判定フローの開始指示が入力されたか否かを判断する。例えば、第2判定フローの開始ボタンにタッチ入力されたか否かを判断してもよい。ステップS10において肯定判断される場合には、ステップS90へ進む。
【0024】
ステップS90において、診断装置11は、メインバッテリ21を放電する。次に、メインバッテリ21を電欠状態から満充電状態まで変化させる。そして、バッテリを電欠状態から満充電状態まで変化させた場合における、センサ22~24の計測値およびイグニションオフ時間に基づいて、制御装置30は満充電容量実測値を算出する。算出された満充電容量実測値は、記憶装置32に記憶される。なお、満充電容量実測値の算出方法には、周知の各種の方法を用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0025】
ステップS100において、診断装置11は、満充電容量実測値の制御装置30における算出作業が成功したか否かを判断する。例えば、満充電容量推定の精度悪化につながる何らかの要因(例:所定時間内に算出作業が終了しない)が発生した場合に、算出作業が成功しなったと判断する。ステップS100において肯定判断される場合には、ステップS110へ進む。ステップS110において診断装置11は、満充電容量実測値を制御装置30の記憶装置32から読み出す。満充電容量実測値は、パック内最小値でもよい。
【0026】
ステップS120において、満充電容量実測値が予め定められた第3しきい値以上であるか否かが判断される。第3しきい値は、各国の法規で保証が求められている保証値とすることができる。第3しきい値は、第1しきい値と同じ値としてもよい。ステップS120において肯定判断される場合には、ステップS130へ進み、タッチパネル12に「○」判定結果を示す。一方、ステップS120において否定判断される場合には、ステップS140へ進み、タッチパネル12に「×」判定結果を示す。
【0027】
またステップS100において、算出作業が成功していないと判断された場合(S100:NO)には、ステップS150へ進む。そして診断装置11は、過去に満充電容量実測値を算出しているか否かを判断する。例えば、過去の算出履歴が記憶装置32に記憶されており、この履歴を読み出すことで判断してもよい。また診断装置11は、過去の満充電容量実測値が有効であるか否かを判断する。有効な満充電容量実測値とは、例えば、有効期限(例:3か月)内に測定された満充電容量実測値である。有効な満充電容量実測値が記憶されている場合(S150:YES)には、ステップS160へ進み、有効な満充電容量実測値を記憶装置32から読み出す。そしてステップS120以降の処理を行う。一方、有効な満充電容量実測値が記憶されていない場合(S150:NO)には、ステップS170へ進む。そして、算出結果が無効であることを示す「-」判定結果、算出に失敗した原因、および、第2判定フローを再実行するための開始ボタンを、タッチパネル12に表示する。そしてステップS80へ戻る。
【0028】
(効果)
車両の使用期間中のデータを用いる満充電容量推定値は、電欠状態から満充電までのデータを用いる満充電容量実測値に比して、算出の工数は少ないが精度が低い。本明細書の技術では、第1判定フロー(ステップS10~S70)において、満充電容量推定値に基づいて満充電容量の劣化度合いを判断することができる。そして満充電容量がある程度劣化していると判断できる場合に、第2判定フロー(ステップS80~S170)を実行し、満充電容量実測値を算出することができる。これにより、精度の高い満充電容量が必要な場合にのみ、満充電容量実測値を算出することができる。作業工数の低減と満充電容量の精度向上とを両立することが可能となる。
【0029】
第1判定フロー(ステップS10~S70)では、ユーザの使用期間中に算出され記憶されている満充電容量推定値を記憶装置32から読み出す(ステップS30)ことで、簡易に判定することができる。これにより、満充電容量実測値を新たに算出する場合に比して、迅速に判定結果をユーザに明示することが可能になる。
【0030】
第2判定フロー(ステップS80~S170)では、制御装置30によって満充電容量実測値を算出する(ステップS90)。これにより、オンボードで満充電容量実測値を算出できるため、メインバッテリ21の搭降載の必要がない。満充電容量実測値の測定にかかる作業工数を抑制することが可能となる。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0032】
10:診断システム 11:診断装置 12:タッチパネル 14、34:コネクタ 20:車両 21:メインバッテリ 22:電圧センサ 23:電流センサ 24:温度センサ 25:モータ 26:インバータ 30:制御装置 31:コンピュータ 32:記憶装置 33:イグニションオフ時間カウンタ
図1
図2