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特許7571690下水処理プラントの運転状態評価方法及び装置並びに運転条件制御方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】下水処理プラントの運転状態評価方法及び装置並びに運転条件制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20241016BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021139351
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2022046430
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2020152231
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052985(JP,A)
【文献】特開平06-117886(JP,A)
【文献】特開2020-032394(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107741738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 11/00-11/20
G01N 33/18
G05B 23/00-23/02
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得し、
取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行い、
学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力し、
該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルをもとに汚泥状態を評価することを特徴とする下水処理プラントの運転状態評価方法。
【請求項2】
前記取得された画像から画像解析によりフロック部を検出し、
検出されたフロック部の面積の画像全体の面積に対する割合が所定範囲内となるような画像を選別し、
その後の画像解析に用いることを特徴とする請求項1に記載の下水処理プラントの運転状態評価方法。
【請求項3】
前記複数地点が、異なる槽から選択されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の下水処理プラントの運転状態評価方法。
【請求項4】
前記複数地点が、同じ槽から選択されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の下水処理プラントの運転状態評価方法。
【請求項5】
1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得する手段と、
取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行う手段と、
学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力する手段と、
該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求める手段と、
求められた分類確率ベクトルをもとに汚泥状態を評価する手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理プラントの運転状態評価装置。
【請求項6】
1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得し、
取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行い、
学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力し、
該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求め、
求められた分類確率ベクトル、又は該分類確率ベクトルを用いた所定の演算結果に応じて運転を提案することを特徴とする下水処理プラントの運転条件制御方法。
【請求項7】
前記取得された画像から画像解析によりフロック部を検出し、
検出されたフロック部の面積の画像全体の面積に対する割合が所定範囲内となるような画像を選別し、
その後の画像解析に用いることを特徴とする請求項6に記載の下水処理プラントの運転条件制御方法。
【請求項8】
前記複数地点が、異なる槽から選択されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の下水処理プラントの運転条件制御方法。
【請求項9】
前記複数地点が、同じ槽から選択されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の下水処理プラントの運転条件制御方法。
【請求項10】
1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得する手段と、
取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行う手段と、
学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力する手段と、
該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求める手段と、
求められた分類確率ベクトル、又は該分類確率ベクトルを用いた所定の演算結果に応じて運転を提案する手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理プラントの運転条件制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理プラントの運転状態評価方法及び装置並びに運転条件制御方法及び装置に係り、特に、活性汚泥画像を用いた画像解析により下水処理プラントの運転状態を高精度に評価し、制御することが可能な、下水処理プラントの運転状態評価方法及び装置並びに運転条件制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む排水の処理には、微生物を使用した生物処理が用いられる。この生物処理において、下水や排水中に含まれる有機物を基質として人為的に培養された微生物の集合体を活性汚泥と呼ぶ。この活性汚泥中では、細菌(従属栄養生物)、糸状菌、酵母、原生生物、後生生物など多様な生物種が相互作用し、水中の有機物、窒素、リンなどが処理される。
【0003】
このような活性汚泥法による下水処理プラントの基本的な下水処理フローを図1に示す。この下水処理プラントは、下水ラインから流入する下水からトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂等を除去するための最初沈殿池10と、微生物群の働きにより有機物や窒素(アンモニア)、リン酸を除去するための生物反応槽20と、活性汚泥と処理水を自然沈降により固液分離するための最終沈殿池30とを主に備えている。
【0004】
下水処理プラントの主要な処理対象物と項目は、有機物は、生物学的酸素要求量BOD、化学的酸素要求量COD、浮遊状固形物SSであり、窒素関係は、全窒素(有機体窒素+無機窒素)T-N、アンモニア性窒素NH4-N、硝酸性窒素NO3-N、亜硝酸性窒素NO2-Nであり、リンは、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リンPO4-Pである。
【0005】
上記のような活性汚泥を利用した排水処理施設では、安定的な操業のため活性汚泥のモニタリングが必要となる。多くの施設では、顕微鏡によって活性汚泥の観察がなされているが、この観察像から得られる情報は観察者の主観による部分が大きく、施設の操業に対して有効に活用されているとは言いがたい。又、この顕微鏡による光学的な観察は、施設内における日常的な試験としては、活性汚泥の状態を把握する唯一の方法でありながら、多様な生物種が複雑に関係している生物反応を定量的に判断することは極めて困難である。
【0006】
汚泥の顕微鏡観察像から処理状態を診断するため、画像解析を利用して生物種を特定する方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
この特許文献1によれば、保存された生物種の画像データから活性汚泥中の生物種特定と計数を自動的に行うものとしている。
【0008】
しかしながら、処理場ごとに流入原水水質・気温などの環境要因や処理フロー・運転思想などの施設の特徴が異なるために、施設ごとに異なる正常な活性汚泥の状態が存在する。
【0009】
又、活性汚泥中の微生物(群)が形成するフロック中の糸状菌を画像解析を用いて検出する方法(特許文献2-4)や、フロックを定量評価する方法(特許文献5)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平8-197084号公報
【文献】特開平5-192678号公報
【文献】特開2015-181374号公報
【文献】特開平2-129765号公報
【文献】特開2019-52985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、糸状菌の定量評価は汚泥の沈降性と相関があると考えられるものの、その他の処理指標(有機物除去・窒素除去など)を予測するのは難しい。
【0012】
又、下水処理施設は通常運転中に処理状況が悪化することはそれほど多くないために、状態の悪い活性汚泥の画像の収集数は少なく、機械学習を利用した画像解析による活性汚泥診断において精度が悪化することが懸念される。
【0013】
教師あり学習を行う場合には、教師データに対してラベリングを実施する必要があるが、状態の良い/悪い汚泥は一義的に定められるものではなく、ラベリングを実施した人の主観が入ってしまう可能性がある。
【0014】
又、異常データの少ない場合もしくは判別が困難な場合には、教師なし学習が用いられるが、一般に教師あり学習に比べ精度が悪く、計算速度も遅いという欠点があった。
【0015】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、活性汚泥画像を用いた画像解析により下水処理プラントの運転状態を高精度に評価可能とすることを第1の課題とする。
【0016】
本発明は、又、運転状態の評価結果を用いて下水処理プラントを的確に制御可能とすることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得し、取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行い、学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力し、該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルをもとに汚泥状態を評価することを特徴とする下水処理プラントの運転状態評価方法により、前記第1の課題を解決するものである。
【0018】
ここで、前記取得された画像から画像解析によりフロック部を検出し、検出されたフロック部の面積の画像全体の面積に対する割合が所定範囲(例えば10~90%内)となるような画像を選別し、その後の画像解析に用いることができる。
【0019】
又、前記複数地点は、異なる槽又は同じ槽から選択することができる。
【0020】
本発明は、又、1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得する手段と、取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行う手段と、学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力する手段と、該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求める手段と、求められた分類確率ベクトルをもとに汚泥状態を評価する手段と、を備えたことを特徴とする下水処理プラントの運転状態評価装置により、同様に前記第1の課題を解決するものである。
【0021】
本発明は、又、1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得し、取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行い、学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力し、該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求め、求められた分類確率ベクトル、又は該分類確率ベクトルを用いた所定の演算結果に応じて運転を提案することを特徴とする下水処理プラントの運転条件制御方法により、前記第2の課題を解決するものである。
【0022】
本発明は、又、1つの下水処理プラントの複数地点から汚泥を採取して画像を取得する手段と、取得した画を用いて該画像から採取地点毎の適合度を予測する教師ありモデルの教師あり学習を行う手段と、学習済みモデルに対して新規汚泥画像を入力する手段と、該学習済みモデルから出力された前記各複数地点に対する処理が良好または正常な状態の画像、又は前記各複数地点に対する処理が不良または異常な状態の画像、との適合度を示す分類確率ベクトルを求める手段と、求められた分類確率ベクトル、又は該分類確率ベクトルを用いた所定の演算結果に応じて運転を提案する手段と、を備えたことを特徴とする下水処理プラントの運転条件制御装置により、同様に前記第2の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、通常のプラント運転では入手しにくい異常画像(そもそも何が異常なのかを定義することが難しい)について、複数地点からサンプルを採取することで模擬的に正常な汚泥画像と異常な汚泥画像を入手でき、汚泥の状態の良い/悪いを示す、教師あり学習用のラベリングを機械的に実施することができる。正常な汚泥画像と異常な汚泥画像をどちらも多く収集できるため、より精度の高い教師あり学習を採用することが可能である。1プラントのフロー中から汚泥画像を入手することで、プラント毎の汚泥の特性差を排除することが可能である。従って、活性汚泥画像を用いた画像解析により下水処理プラントの運転状態を高精度に評価可能となる。従って、評価結果を利用して下水処理プラントを的確に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】下水処理プラントの基本的な下水処理フローを示す図
図2】本発明に係る下水処理プラントの実施形態の全体構成を示す図
図3】本発明の概念を示すブロック図
図4】実施形態で活性汚泥画像から得られる特徴量の例を示す図
図5】実施形態における学習画像とテスト画像(新規画像)の適合度を表すスコア付けの例を示す図
図6】深層学習を使用した場合の処理手順を示す流れ図
図7】画像学習モデルの最適化を実施するプロセスを示す図
図8】多変量解析を利用した場合の処理手順を示す流れ図
図9】好気槽と嫌気槽から汚泥を採取する第1実施例の処理手順を示す流れ図
図10】最終沈殿池の2地点から汚泥を採取する第2実施例を示す図
図11】第2実施例における汚泥画像の例を示す図
図12】第2実施例の処理手順を示す流れ図
図13】3地点以上から汚泥を採取する第3実施例の処理手順を示す流れ図
図14】同じ槽から処理状態の異なる泥を採取する第4実施例の処理手順を示す流れ図
図15】第4実施例で学習に使用していない活性汚泥画像を画像解析した結果を示す図表
図16】活性汚泥の画像取得方法の第1実施例を示す流れ図
図17】同じく画像の例を示す図
図18】同じくフロック割合の例を示す図
図19】活性汚泥の画像取得方法の第2実施例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0026】
本発明の実施形態の構成を図2に示す。
【0027】
本実施形態は、従来と同様の、下水ライン8から下水が流入する最初沈殿池10と、該最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続された生物反応槽20と、最終沈殿池30とを主に備えている。
【0028】
なお、最初沈殿池10の入側に、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプ等を保護するための沈砂池(図示省略)が設けられる。
【0029】
前記生物反応槽20は、細胞内のリンを放出し、PHAを細胞内に合成するための嫌気槽22と、硝酸内の酸素を用いて有機物を酸化分解し、硝酸を窒素ガスに還元するための無酸素槽24と、溶存酸素を用いて有機物を酸化分解し、アンモニアを硝酸化、PHAを分解して、リン酸を細胞内に過剰蓄積させることによってリンを除去するための好気槽26とを備えている。
【0030】
前記最終沈殿池30の出側には、処理水を消毒して河川等に放流するための処理水ライン32と、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するための汚泥返送ライン34と、余剰汚泥を脱水して排出するための余剰汚泥ライン36とが設けられている。
【0031】
前記汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38及び流量計39が設けられており、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の入側に戻される。この返送ポンプ38による返送汚泥量の調整により、MLSS(汚泥濃度)の維持や調整が図られる。
【0032】
前記余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40及び流量計41が設けられており、余剰汚泥は脱水されて排出される。この余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量の調整により、系内の汚泥量の調整、汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間を制御する。
【0033】
前記好気槽26には、空気ブロワ42と空気量計43が設けられ、空気を吹き込むようにされている。この空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持及び制御に用いられる。
【0034】
前記生物反応槽20の好気槽26の出側には、硝化液を無酸素槽24に循環させるための硝化液循環ライン44が設けられており、この硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられている。この硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0035】
前記流入ライン12には水量センサ14が設けられ、前記嫌気槽22には例えばDO(溶存酸素濃度)センサ、pHセンサ、ORP(酸化還元電位)センサからなるセンサ52が設けられ、前記無酸素槽24には、例えばDOセンサ、pHセンサ、ORPセンサからなるセンサ54が設けられ、前記好気槽26には、例えばDOセンサ、MLSS(汚泥濃度)センサ、pHセンサ、ORPセンサからなるセンサ56が設けられ、処理水ライン32には水質センサ58が設けられている。
【0036】
前記各センサ14、52、54、56、58の出力は、コンピュータ60に入力され、コンピュータ60による演算処理結果に基づいて、各ポンプやブロワなどのアクチュエータが制御される。本実施形態では、前記コンピュータ60にデータベース62、64が接続されている。
【0037】
ここで、pHは、環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22と無酸素槽24では例えばpH7~8、好気槽26では例えばpH6~7に保たれる。
【0038】
又、前記ORP(酸化還元電位)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22では例えば-300~-400mV未満に維持され、無酸素槽24では例えば0~-200mV未満に維持される。
【0039】
又、前記DO(溶存酸素濃度)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22や無酸素槽24では例えば0.2mg/L未満、好気槽26では例えば1.0~2.0mg/Lに保たれる。
【0040】
又、前記MLSS(汚泥濃度)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられ、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2,000~3,000mg/Lに保たれる。
【0041】
汚泥性状としては、例えば前記MLSS、1Lメスシリンダで30分沈殿させた場合の汚泥界面の目盛である活性汚泥沈殿率SV30、30分沈降後の汚泥1gが占める容積である汚泥沈降目標SVI(=SV30×10,000/MLSS)が分析される。
【0042】
以下、図3を参照しつつ、生物反応槽20の嫌気槽22と好気槽26から画像データを収集する場合を例にとって、本発明の概念を説明する。
【0043】
まず、例えば嫌気槽22及び好気槽26から画像データを収集し(ステップ100)、画像取得位置、DOなどのセンサデータ及び運転条件とともに、それぞれデータベース62、64に保存する(ステップ110~112)。
【0044】
次いで、画像を解析し、判定する(ステップ120)。
【0045】
次いで、取得した画像を学習させ、例えば機械学習によって特徴量を抽出する(ステップ130)。活性汚泥画像の特徴量(パラメータ)には、図4に例示する如く、フロックの大きさ、フロックの色、フロックの数、フロックの形状、糸状菌の数、糸状菌の長さ、水の色、フロック近傍の水の色、原生生物の種類、原生生物の数などがある。
【0046】
そして、取得場所の情報、運転データと画像情報から機械学習によって得られた情報をデータベース62、64に保存する。
【0047】
次いで、新しい画像データを画像解析し(ステップ140)、データベース62、64の情報を元に学習画像とテスト画像(新規画像)の適合度を表すスコアを付ける(ステップ150)。
【0048】
具体的には、図5に例示するように、嫌気槽画像及び好気槽画像を、例えば好気槽26から取得した新規画像と比較し、その類似性に応じて、例えばスコアを70(%)とする。
【0049】
そして、該スコアに基づき、好気槽26における汚泥の状態を判断して運転条件を提案する(ステップ160)。具体的には、例えばスコアが90(%)以上なら現在の運転条件を維持し、90(%)未満なら空気の吹込量を増やす。
【0050】
深層学習を使用した場合の処理手順を図6に示す。
【0051】
画像データxは、ピクセルの横方向座標×ピクセルの縦方向座標の位置情報とそれぞれのピクセルの色データ(例えばRGBカラー方式)からなる。
【0052】
画像データxは、後述するような画像から得られる、フロックの大きさや数等の特徴量パラメータをもとにしたデータセットとすることもできる。この場合、適切な特徴量パラメータを選択して学習し、モデルを構築することで、計算速度を早くすることができる。
【0053】
画像データxを入力データとしてA,B,・・・のどの地点から採取した汚泥の画像であるかの確率を示すベクトルy(yn:n地点から採取した画像である確率)を出力するニューラルネットワークを用いた教師あり画像学習モデルを構築する(ステップ200)。ニューラルネットワークとしては例えば、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いたモデル(LeNet、AlexNet、GoogLeNet、Inception、VGGNet、ResNetなど)が選択されうる。
【0054】
この際、図7のようなプロセスでモデルの最適化を実施する(ステップ210)。
【0055】
ここで、損失関数は、出力データと教師データとの差を評価するための関数であり、例えば、交差エントロピー誤差や二乗誤差などが採用される。この損失関数を最小化するように深層学習の各層のパラメータが更新される。
【0056】
そして、精度がある程度担保されたモデルに対して、新規画像(ここでは地点Aの画像)を入力する(ステップ220)。
【0057】
出力されたベクトルyを分析して運転条件を調整する(ステップ230~260)。
【0058】
具体的には、例えば単純にyAが閾値θ以上であれば(ステップ230)、問題がない
として運転条件を維持する(ステップ240)。反対に閾値θ未満であれば(ステップ250)、運転条件を変更する(ステップ260)。
【0059】
なお、本発明にはCNNのような深層学習だけでなく、多変量解析のような統計的手法も適用できる。この多変量解析を利用した場合の処理手順を図8に示す。
【0060】
ある画像データから、画像解析(セグメンテーションなど)を用いて特徴量を数値化する(ステップ300)。
【0061】
データを解析するステップ310の入力データは、これらの数値データで構成されたベクトルxである。
【0062】
これに対して、出力yを画像をAと分類する確率、Bと分類する確率として重回帰分析を行う方法が考えられる。
【0063】
出力する目的値yは、これ以外にもセンサデータ(曝気槽のDO値)、処理水質(COD、アンモニアなど)、流入水質などを割り当てても良い。
【0064】
1,w2,・・・,v1,v2,・・・は重回帰分析によって得られた各パラメータに対する係数である。
【0065】
以下は図6と同様に、A地点から得た画像に対して画像解析を行いベクトルxの各パラメータ値を得る(ステップ220)。
【0066】
そして、上記係数を元にyA,yB,・・・を求め、画像を定量的に分析し運転を提案する(ステップ230~260)。
【0067】
なお、重回帰分析のほかに、非線形的な回帰分析手法としてサポートベクトルマシン、多層パーセプトロン、または決定木(XGBoost、LightGBM、ExtraRandomTree)などの機械学習手法を使用することもできる。
【0068】
[第1実施例]
異なる槽である好気槽26と嫌気槽22から汚泥を採取する第1実施例を図9に示す。
【0069】
図6と同様のステップ210で作成した深層学習のモデルに対して、新規の好気槽画像を入力する(ステップ222)。
【0070】
適合度を示す分類確率ベクトルyを出力し、yAの値が大きいほど正常な状態に近いと判断できる。
【0071】
例えば閾値θを0.8と設定し、この値以上であれば(ステップ232)、曝気風量を維持あるいは抑制しても(ステップ242)問題ないと判断できる。一方で閾値θが0.8未満(ステップ252)、あるいはyBの値が大きい値である場合には、好気槽26の
汚泥に異常が起きている、または嫌気槽22の汚泥と似ている(曝気量が十分ではない)と判断できるため、好気槽26の曝気風量を増加させる(ステップ262)ことが推奨される。
【0072】
[第2実施例]
次に、図10を参照して、同じ槽である最終沈殿池30の2地点より汚泥を採取する第2実施例を説明する。
【0073】
この第2実施例では、最終沈殿池30に沈殿した汚泥のうち、沈殿物上層部あるいは上澄み水(終沈槽上層と称する)30Aと沈殿物下層部(終沈槽下層と称する)30Bについて汚泥を採取し、汚泥画像を撮影してスコア付けする。
【0074】
汚泥画像の例を図11に示す。図11(A)に例示する終沈槽上層30Aの汚泥は、糸状菌の数が多く、合計長さが長い、小さなフロック(ピンフロック)数が多い、フロックの色が薄く緻密でない等の理由で沈降性が悪い。
【0075】
一方、図11(B)に例示する終沈槽下層30Bの汚泥は、糸状菌の数が少なく、合計長さが短い、ピンフロック数が少ない、大きなフロックが多い、フロックの色が濃く緻密である等の理由で沈降性が良い。
【0076】
第2実施例の処理手順を図12に示す。
【0077】
最終沈殿池30の汚泥について、図9と同様に深層学習による分類モデルを構築する(ステップ210)。
【0078】
そして、図11(C)に例示したような終沈槽流入水の汚泥画像(新規画像)に対して構築したモデルを適用する(ステップ224)。
【0079】
Aが閾値以上あるいはyBが閾値以下の場合(ステップ234)、終沈槽流入水中の汚泥沈降性が不良であることを示唆する。例えば、終沈槽流入水が図11(C)に示した例のようであり、yA=0.6、yB=0.4のように診断されれば、沈降性の悪化が懸念される。そこで、終沈槽滞留時間を延長するあるいは好気槽曝気量を増加させるなどの運転条件変更を提案する(ステップ244)。
【0080】
上記と逆の場合(ステップ254)は、汚泥沈降性が良好であることを示すため、終沈槽滞留時間を短縮可能である(ステップ264)。
【0081】
これらの運転パラメータ決定のためのy値の条件は任意に定めることができる。運転パラメータ変更幅がy値の関数となることも考えうる。
【0082】
[第3実施例]
次に図13を参照して、3地点以上、例えば好気槽上流地点A、好気槽中流地点B、好気槽下流地点Cの3地点から画像を採取する場合の第3実施例を説明する。
【0083】
この第3実施例でも、図9と同様にモデルを構築(ステップ210)した後、例えば好気槽下流の画像を入力する(ステップ226)。
【0084】
この時、yCの値に応じて処理状況の判断が可能である。
【0085】
例えばyA+yB≦yCである時(ステップ236)、好気槽下流での処理状況は良好で
あると判断できる。この時、好気槽26の曝気風量を維持する、下水流入量を増加させる(ステップ246)などの運転パラメータの変更を提案する。逆の場合(ステップ256)は、曝気風量の増加や下水流入量の減少を提案する(ステップ266)。
【0086】
[第4実施例]
次に、図14を参照して、同じ槽である好気槽26終端部より汚泥を採取し、その時の処理状況をもとに処理状態毎に画像を分類した場合の第4実施例を示す。
【0087】
ここでは処理状況の指標として処理水SSを採用した場合の例を示している。
【0088】
図6と同様のステップ210で作成した深層学習のモデルに対して、新規の好気槽終端部の画像を入力する(ステップ222)。
【0089】
クラス分類確率yを出力し、yAの値が大きいほど正常な状態に近いと判断できる。
【0090】
Aの値が閾値θを下回った場合(ステップ250)には、処理水SSの悪化が疑われるため、曝気風量の増加や、終沈地滞留時間延長などの運転条件の変更が提案できる(ステップ260)。
【0091】
閾値θは、画像を分類した処理状況のパラメータと画像解析の結果得られる適合度との相関を元に定めることができる。例えば、日々の処理水SSとその時の画像に対するクラス分類確率yAを記録しておき、その相関を取ることによってyAに対応する処理水SSを予測する。この予測された処理水SSが運転管理値を超過しないような閾値θを設定することができる。
【0092】
図15に、第4実施例で学習で使用していない活性汚泥画像を画像解析した結果を示す。
【0093】
閾値θ=0.7と設定すると、yAが0.7以上であれば、汚泥性状は良好であるため、運転条件を変更する必要はないと判断される。一方で0.7未満の場合には汚泥性状が悪化しているため運転条件の変更が提案される。
【0094】
図15に示した結果では、活性汚泥3、4、6では画像解析の結果から運転条件の変更が必要であると判断される。この時、下水処理場の操業では処理水SSは処理基準、例えば60mg/Lを超過しており、画像解析の結果通り運転条件の変更が必要であった。
【0095】
[画像取得方法の第1実施例]
活性汚泥の画像取得方法の第1実施例を図16に示す。
【0096】
画像収集装置を用いて下水処理施設で撮影した画像(1次画像と称する)を、保管する(ステップ410)。
【0097】
次いで1次画像について画像解析(1次画像解析と称する)して(ステップ420)、フロック部の面積が例えば全体の10%~90%の範囲内であるか否か判別し(ステップ430)、判別結果が否であれば、その画像を削除する。一方、ステップ430での判別結果が正である画像(2次画像と称する)を保管する(ステップ440)。そして画像解析(2次画像解析と称する)して、例えばCNNを用いたモデル(LeNet、AlexNet、GoogLeNet、Inception、VGGNet、ResNetなど)により画像を解析し(ステップ450)、解析結果を出力して(ステップ460)、操業パラメータを決定する(ステップ470)。
【0098】
ステップ420の1次画像解析の画像例を図17に、1次画像におけるフロック割合の例を図18に示す。図18から明らかなように、例えばフロック割合10%未満と90%超の画像を排除することで、類似度の高い画像を得ることができる。
【0099】
なお、フロック割合の判定基準を10%、90%以外としたり、図16のステップ420で1次画像から特徴量注出を行い、ステップ410~430を省略して、フロック割合による選別を省略することもできる。
【0100】
[画像取得方法の第2実施例]
活性汚泥の画像取得方法の第2実施例を図19に示す。図19(B)白飛び、(C)背景が暗い場合のように、汚泥部と水部のコントラスト差が低い場合にノイズが乗って解析精度が下がる。又、図19(D)高画素の場合のように、高画素時の汚泥部と水部の境界があいまいな場合に判別精度が下がる。
【0101】
そこで、画像撮影時に、水部の輝度が例えば200~250(255段階)となり、フロック部の輝度が例えば50~200(255段階)となるように絞り又は照明光量を調整する。
【0102】
更に取得した画像に対してコントラスト調整を行い、水部と汚泥部のコントラスト差が例えば30以上となるよう画像前処理を実施することもできる。
【0103】
なお、前記実施形態においては、本発明が、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リンを除去するための、生物反応槽20が嫌気槽22、無酸素槽24及び好気槽26を備えた下水処理プラントに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理プラントや、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理プラントや、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理プラントにも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0104】
8…下水ライン
10…最初沈殿池
12…流入ライン
14…水量センサ
20…生物反応槽
22…嫌気槽
24…無酸素槽
26…好気槽
30…最終沈殿池
30A…終沈槽上層
30B…終沈槽下層
32…処理水ライン
34…汚泥返送ライン
36…余剰汚泥ライン
38…返送ポンプ
39、41…流量計
40…余剰汚泥ポンプ
42…空気ブロワ
43…空気量計
44…硝化液循環ライン
46…硝化液循環ポンプ
52、54、56…センサ
58…水質センサ
60…コンピュータ
62、64…データベース
y…分離確率ベクトル(適合度)
図1
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