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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241016BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H63/50
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021165798
(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公開番号】P2023056426
(43)【公開日】2023-04-19
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 義明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 善雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 祥吾
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-47080(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0269846(US,A1)
【文献】特開2003-41971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
B60W 10/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に前記駆動力源側からトルクコンバータおよび変速機が直列に配設されており、該変速機は少なくとも前進ギヤ段および後進ギヤ段を備えている一方、運転者の操作で前記変速機を前記前進ギヤ段および前記後進ギヤ段に切り替えることができるシフト操作装置を有する車両に関し、
前記シフト操作装置によって前記変速機を前記前進ギヤ段および前記後進ギヤ段の一方から他方へ切り替える反転シフト操作が行なわれた場合に、前記駆動力源の出力を制御して前記変速機以後のギヤ機構のガタ詰めを行なうガタ詰め制御部、を有する車両の制御装置において、
前記ガタ詰め制御部は、前記トルクコンバータの入力回転速度が予め定められたガタ詰め回転速度に所定時間停滞するように前記駆動力源の出力を制御する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置に係り、特に、変速機が前進ギヤ段および後進ギヤ段の一方から他方へ切り替えられた場合にギヤ機構のガタ詰めを行なうガタ詰め制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動方向が反転するシフト操作が行なわれた場合、ギヤ機構のバックラッシに起因してガタ打ちショック(歯打ち音やトルク変動など)が発生する可能性があるため、駆動力源の出力を制御してギヤ機構のガタ詰めを行なう車両の制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-183504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路にトルクコンバータが配設されている場合、特許文献1に記載のように駆動力源の出力を制御するだけではトルクコンバータの入力回転速度が変化し易く、入力回転速度が変化するとトルクコンバータからギヤ機構に伝達されるトルクも変化し、ガタ詰め速度が変化するため、ガタ打ちショックを適切に抑制することが難しい。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、動力伝達経路にトルクコンバータが配設されている車両において、駆動方向が反転するシフト操作が行なわれた場合に、ギヤ機構のバックラッシに起因して発生するガタ打ちショックが適切に抑制されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に前記駆動力源側からトルクコンバータおよび変速機が直列に配設されており、その変速機は少なくとも前進ギヤ段および後進ギヤ段を備えている一方、運転者の操作で前記変速機を前記前進ギヤ段および前記後進ギヤ段に切り替えることができるシフト操作装置を有する車両に関し、(b) 前記シフト操作装置によって前記変速機を前記前進ギヤ段および前記後進ギヤ段の一方から他方へ切り替える反転シフト操作が行なわれた場合に、前記駆動力源の出力を制御して前記変速機以後のギヤ機構のガタ詰めを行なうガタ詰め制御部、を有する車両の制御装置において、(c) 前記ガタ詰め制御部は、前記トルクコンバータの入力回転速度が予め定められたガタ詰め回転速度に所定時間停滞するように前記駆動力源の出力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両の制御装置においては、トルクコンバータの入力回転速度が予め定められたガタ詰め回転速度に所定時間停滞するように駆動力源の出力が制御されるため、トルクコンバータの出力トルクすなわちギヤ機構に伝達されるトルクが安定し、ガタ打ちショックが抑制されるようにギヤ機構のガタ詰めを適切に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例である制御装置を有するハイブリッド式電動車両の駆動系統を説明する概略構成図で、各種制御の為の制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。
図2図1のハイブリッド式電動車両の電子制御装置が機能的に備えているガレージ制御部およびガタ詰め制御部の作動を具体的に説明するフローチャートである。
図3図2のステップS7でガタ詰め完了を判断する停滞時間tstuffを求めるデータマップの一例である。
図4図2のステップS6で設定されるガタ詰め回転速度Nstuff を求めるデータマップの一例である。
図5】シフトレバーのR→Dシフト操作時に図2のフローチャートに従ってガレージ制御およびガタ詰め制御が行なわれた場合の各部の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、駆動力源として回転機を備えている電動車両に好適に適用されるが、駆動力源としてエンジンのみを備えているエンジン駆動車両にも適用され得る。電動車両は、駆動力源として回転機のみを備えている電気自動車や、駆動力源としてエンジンおよび回転機を備えているハイブリッド式電動車両である。回転機としては、電動機および発電機として択一的に用いることができるモータジェネレータが好適に用いられるが、発電機の機能が得られない電動機を採用することもできる。車両は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の後輪駆動車両や、途中に前輪側へ動力を分配するトランスファが設けられた前後輪駆動車両、トランスアクスル等のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の前輪駆動車両など、種々の駆動型式の車両が対象となる。
【0010】
動力伝達経路にトルクコンバータと直列に設けられる変速機は、少なくとも前進ギヤ段および後進ギヤ段を備えており、遊星歯車式や平行軸式等の有段変速機が好適に用いられるが、前後進切替装置であっても良い。この変速機は、ギヤ段を電気的に切り替えることができる自動変速機でも、運転者のシフトレバー操作等に従って機械的にギヤ段が切り替えられる手動変速機でも良い。変速機以後のギヤ機構は、変速機を含めた駆動輪側のギヤ機構で、例えば左右の駆動輪に動力分配するディファレンシャルギヤなど、噛合歯車を有する種々の動力伝達機構を含む。ガタ詰め回転速度は、一定値が定められても良いが、トルクコンバータの作動油の油温、変速機のギヤ段の種類等の車両状態に基づいて可変設定されても良い。
【0011】
本発明は、例えば(a) 前記変速機は、複数の係合装置の係合開放状態が電気的に切り替えられることにより前記前進ギヤ段および前記後進ギヤ段を成立させる自動変速機であり、(b) 前記反転シフト操作が行なわれた場合に、その反転シフト操作に従って前記自動変速機を前記前進ギヤ段による前進走行が可能なDレンジおよび前記後進ギヤ段による後進走行が可能なRレンジの一方から他方へ電気的に切り替える反転レンジ切替を実行するガレージ制御部と、(c) 前記自動変速機が前記Dレンジまたは前記Rレンジの走行レンジにおいて、駆動要求量が略0で且つ車速が予め定められたクリープ車速以下の低車速時または車両停止時に、所定のクリープトルクが得られるように前記駆動力源により前記トルクコンバータの入力回転速度を制御するクリープ制御部と、を備えており、(d) 前記ガレージ制御部は、前記クリープ制御部による制御に優先して前記トルクコンバータの入力回転速度が略0になるように前記駆動力源の出力を制御し、その入力回転速度が略0の状態で前記反転レンジ切替を実行する一方、(e) 前記ガタ詰め制御部は、前記反転レンジ切替が実行された後に前記トルクコンバータの入力回転速度が前記ガタ詰め回転速度となるように前記駆動力源の出力を制御してガタ詰め制御を実行する、ように構成される。但し、トルクコンバータの入力回転速度を0にすることなく、例えばガタ詰め回転速度に保持した状態でガレージ制御部による反転レンジ切替が行なわれても良いなど、種々の態様が可能である。また、クリープ制御部は必ずしも必要なく、駆動力要求があるまでトルクコンバータの入力回転速度をガタ詰め回転速度に保持したり、ガタ詰め制御が終了した後にトルクコンバータの入力回転速度を一旦0としても良いなど、種々の態様が可能である。
【0012】
また、例えば(a) 前記ガレージ制御部は、前記複数の係合装置のうち前記反転レンジ切替の際に係合させる係合側係合装置の係合指示圧をステップ的に増加させてその係合側係合装置を速やかに係合させる高速ガレージ制御と、前記係合指示圧を漸増させて前記係合側係合装置を緩やかに係合させる通常ガレージ制御と、を実行可能であり、(b) 前記ガレージ制御部は、前記入力回転速度が略0とされた状態で前記反転レンジ切替を行なう際には、前記高速ガレージ制御を実行する、ように構成される。但し、通常ガレージ制御だけで反転レンジ切替を行なうガレージ制御部が用いられ、前記入力回転速度が略0とされた状態で前記反転レンジ切替を行なう際に前記通常ガレージ制御が実行されても良いなど、ガレージ制御部によるガレージ制御の態様は適宜定められる。トルクコンバータの入力回転速度を、例えばガタ詰め回転速度よりも低い所定の高速切替許容回転速度以下にした状態で、高速ガレージ制御が実行されても良い。
【実施例
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や角度、形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0014】
図1は、本発明の一実施例である車両の制御装置として電子制御装置90を有するハイブリッド式電動車両10(以下、単に電動車両10という。)の駆動系統の概略構成図で、電動車両10における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。図1において、電動車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン12および回転機MGを備えているパラレル型のハイブリッド式電動車両である。また、電動車両10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。駆動輪14は左右の後輪で、電動車両10はFR型の後輪駆動車両である。
【0015】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン12は、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置、点火装置等を含むエンジン制御機器50が電子制御装置90によって制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。回転機MGは、電力から機械的な動力を発生させる電動機としての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有するモータジェネレータで、例えばロータに永久磁石が配置された三相交流同期モータ等であり、インバータ52を介してバッテリ54に接続されている。回転機MGは、電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、回転機MGのトルクであるMGトルクTmgや回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmgが制御される。回転機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。回転機MGはまた、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により回転駆動される際に、発電機として機能するように回生制御されることにより発電を行うとともに、駆動輪14に連結されている場合には回生ブレーキを発生する。回転機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、回転機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。
【0016】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側からK0クラッチ20、トルクコンバータ22、および自動変速機24を直列に備えており、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に回転機MGが連結されている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と回転機MGとの間に設けられたクラッチで、回転機MGとエンジン12との間を接続遮断するエンジン断接装置である。トルクコンバータ22は、回転機MGと自動変速機24との間に設けられ、流体である作動油OIL を介して動力伝達する流体式伝動装置であり、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された一対のドライブシャフト32等を備えている。また、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結するMG連結軸36等を備えており、MG連結軸36に回転機MGのロータが連結されている。上記自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30は、電動車両10が被駆動走行から駆動走行に変化する場合、或いは駆動方向が反転する場合すなわち前後進が切り替えられる場合に、歯車のバックラッシに起因して歯打ち音やトルク変動等のガタ打ちショックが生じるギヤ機構に相当する。
【0017】
K0クラッチ20は、例えばアクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式または乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ20の入力側部材は、エンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の出力側部材は、MG連結軸36と連結されており、MG連結軸36と一体的に回転させられる。K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介して回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。一方で、K0クラッチ20の開放状態では、回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12との間の動力伝達が遮断される。
【0018】
回転機MGは、ケース18内において、MG連結軸36に動力伝達可能に連結されている。回転機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、回転機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。トルクコンバータ22および自動変速機24は、各々、エンジン12および回転機MGの駆動力源からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0019】
トルクコンバータ22は、MG連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、および自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。MG連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0020】
LUクラッチ40は、油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が開放された状態である完全開放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全開放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。また、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22aおよびタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0021】
自動変速機24は、例えば1組または複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0022】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合させられることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni /AT出力回転速度No )が異なる複数の前進ギヤ段および後進ギヤ段を形成することができる有段変速機である。自動変速機24は、電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等の運転状態に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。また、複数の係合装置CBが総て開放されると、動力伝達を遮断するニュートラルになる。AT入力回転速度Ni は、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Ni は、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。AT出力回転速度No は、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0023】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合させられた場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、MG連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、回転機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、MG連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0024】
電動車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、回転機MG)により回転駆動されて動力伝達装置16にて用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP60専用の電動機である。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動されて作動油OIL を吐出するもので、電動車両10の停止時を含めた任意のタイミングで作動油OIL を吐出することができる。MOP58やEOP60が吐出した作動油OIL は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58および/またはEOP60が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを出力する。作動油OIL は、トルクコンバータ22に供給されて動力伝達に用いられる他、各部の潤滑や冷却にも用いられる。作動油OIL は、ケース18の下部に設けられたオイルパン等の油溜に蓄積されるとともに、MOP58および/またはEOP60により汲み上げられて油圧制御回路56へ供給される。
【0025】
電動車両10は、各種の制御を実行する制御装置として電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより電動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、MG制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0026】
電子制御装置90には、電動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86、レバーポジションセンサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、AT入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、車速Vに対応するAT出力回転速度No 、回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg、運転者の駆動要求量を表すアクセル操作量等のアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキON信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat 、油圧制御回路56内の作動油OIL の温度である油温THoil 、電動車両10に備えられたシフトレバー64の操作ポジションPOSshを表す信号など)が、それぞれ供給される。MG回転速度Nmgはトルクコンバータ22の入力回転速度Ntci と同値で、タービン回転速度Nt はトルクコンバータ22の出力回転速度Ntco と同値である。
【0027】
シフトレバー64は運転席の近傍に配置され、自動変速機24の動力伝達状態であるシフトレンジを切り替えるために運転者によって操作されるシフト操作部材で、複数の操作ポジションPOSshを備えている。操作ポジションPOSshとして、例えばP、R、N、Dの複数のポジションが設けられている。Pポジションは、自動変速機24が動力伝達を遮断するニュートラル状態とされ且つ機械的に変速機出力軸26の回転が阻止される駐車用のP(パーキング)レンジを選択する操作ポジションである。ニュートラル状態は、例えば自動変速機24の総ての係合装置CBが開放された状態である。Rポジションは、自動変速機24が後進ギヤ段とされる後進走行用のR(リバース)レンジを選択する操作ポジションである。Nポジションは、Pポジションと同様に自動変速機24がニュートラル状態とされるN(ニュートラル)レンジを選択する操作ポジションである。Dポジションは、例えば自動変速機24の複数の前進ギヤ段を車速Vやアクセル開度θacc 等の運転状態に応じて自動的に切り替えて走行する前進走行用のD(ドライブ)レンジを選択する操作ポジションである。シフトレバー64は、P、R、N、Dの各操作ポジションPOSshに位置決め保持されるものでも良いが、所定のホームポジションへ自動的に戻される自動復帰型でも良い。また、シフト操作部材として、上記各シフトレンジを選択する押釦スイッチ等が用いられても良い。
【0028】
電子制御装置90からは、電動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御機器50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se 、回転機MGを制御するためのMG制御指令信号Smg、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御指令信号Seop など)が、それぞれ出力される。油圧制御回路56には、CB油圧制御指令信号Scb、K0油圧制御指令信号Sk0、およびLU油圧制御指令信号Sluに従って油路を切り替えたり油圧を制御したりする複数のソレノイドバルブが設けられている。
【0029】
電子制御装置90は、電動車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御部92、変速制御部94、クリープ制御部96、およびガタ詰め制御部98を機能的に備えている。
【0030】
ハイブリッド制御部92は、回転機MGおよびエンジン12の作動を協調して制御する機能を有する。ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、運転者による電動車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem等である。ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、トルクコンバータ22のトルク比、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout 等を考慮して、例えば上記要求駆動トルクTrdemを実現するために必要なトルクコンバータ22の入力トルクである要求入力トルクTindem を求め、その要求入力トルクTindem が得られるように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Se を出力するとともに、回転機MGを制御するMG制御指令信号Smgを出力する。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout は、例えばバッテリ温度THbat およびバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態すなわち蓄電残量を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat およびバッテリ電圧Vbat などに基づいて算出できる。
【0031】
ハイブリッド制御部92は、回転機MGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合には、バッテリ54からの電力のみで回転機MGを駆動して走行するモータ走行モードであるBEV(Battery Electric Vehicle)走行モードとする。BEV走行モードでは、K0クラッチ20を開放状態としてエンジン12を停止させ、回転機MGのみを駆動力源として用いて走行するBEV走行を行う。このBEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem を実現するようにMGトルクTmgを制御する。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求入力トルクTindem を賄えない場合には、エンジン走行モードであるHEV(Hybrid Electric Vehicle )走行モードとする。HEV走行モードでは、K0クラッチ20を係合状態として少なくともエンジン12を駆動力源として用いて走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。このHEV走行モードにおいては、要求入力トルクTindem の全部または一部を実現するようにエンジントルクTe を制御し、要求入力トルクTindem に対してエンジントルクTe では不足するトルク分を補うようにMGトルクTmgを制御する。他方で、ハイブリッド制御部92は、回転機MGの出力のみで要求入力トルクTindem を賄える場合であっても、エンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。このように、ハイブリッド制御部92は、要求入力トルクTindem 等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
【0032】
変速制御部94は、電動車両10が略停止状態でシフトレバー64が操作された場合に、そのシフト操作で選択された操作ポジションPOSshに応じて自動変速機24のシフトレンジを切り替えるガレージ制御部94aを備えている。ガレージ制御部94aは、シフトレバー64がDポジションおよびRポジションの一方から他方へ切り替える反転シフト操作が行なわれた場合に、その反転シフト操作に従って自動変速機24をDレンジおよびRレンジの一方から他方へ切り替える反転レンジ切替を実行する他、PレンジおよびNレンジの非走行レンジとDレンジおよびRレンジの走行レンジとの間でシフトレンジを切り替える各種のレンジ切替を実行する。反転シフト操作は、具体的にはDポジションからRポジションへ操作するD→Rシフト操作、またはRポジションからDポジションへ操作するR→Dシフト操作で、Nポジションを経由しても良い。D→Rシフト操作が行なわれると、ガレージ制御部94aは自動変速機24をDレンジからRレンジに切り替えるための反転レンジ切替、すなわち前進ギヤ段から後進ギヤ段に切り替えるためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力するD→Rレンジ切替を実行する。また、R→Dシフト操作が行なわれると、ガレージ制御部94aは自動変速機24をRレンジからDレンジに切り替えるための反転レンジ切替、すなわち後進ギヤ段から前進ギヤ段に切り替えるためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力するR→Dレンジ切替を実行する。
【0033】
例えば自動変速機24の複数の係合装置CBの中、第1係合装置CB1および第2係合装置CB2が係合状態とされることで、複数の前進ギヤ段の中で例えば変速比γatが最も大きい第1速ギヤ段が形成されて自動変速機24がDレンジとされ、第2係合装置CB2および第3係合装置CB3が係合状態とされることで、後進ギヤ段が形成されて自動変速機24がRレンジとされる場合、前記D→Rレンジ切替では、第1係合装置CB1を開放するとともに第3係合装置CB3を係合させるようにそれ等の油圧PRcb1 、PRcb3 が制御される。また、前記R→Dレンジ切替では、第3係合装置CB3を開放するとともに第1係合装置CB1を係合させるようにそれ等の油圧PRcb3 、PRcb1 が制御される。
【0034】
ここで、ガレージ制御部94aは、反転レンジ切替を含むレンジ切替の際に複数の係合装置CBの何れかを係合させる場合、その係合側係合装置CBcon の油圧PRcon の係合指示圧を漸増させてその係合側係合装置CBcon を滑らかに係合させる通常ガレージ制御の他に、係合側係合装置CBcon の油圧PRcon の係合指示圧をステップ的に増加させてその係合側係合装置CBcon を速やかに係合させ、レンジ切替を短時間で実行する高速ガレージ制御を実行する機能を有する。例えば、前記D→Rレンジ切替では第3係合装置CB3が係合側係合装置CBcon であり、その第3係合装置CB3の油圧PRcb3 の係合指示圧を、通常ガレージ制御では所定の増加率で漸増させる一方、高速ガレージ制御ではステップ的に増加させるのである。また、R→Dレンジ切替では第1係合装置CB1が係合側係合装置CBcon であり、その第1係合装置CB1の油圧PRcb1 の係合指示圧を、通常ガレージ制御では所定の増加率で漸増させる一方、高速ガレージ制御ではステップ的に増加させるのである。図5は、R→Dシフト操作に伴ってR→Dレンジ切替が高速ガレージ制御で実施された場合のタイムチャートの一例で、開放側係合装置CBopである第3係合装置CB3の油圧PRcb3 を低下させた後に、係合側係合装置CBcon である第1係合装置CB1の油圧PRcb1 の係合指示圧をステップ的に増加させることにより、その第1係合装置CB1を速やかに係合させてR→Dレンジ切替を短時間で実行することができる。図5では、時間t2で第1係合装置CB1が略係合状態になる。
【0035】
変速制御部94はまた、Dレンジが選択された場合に、例えば車速Vやアクセル開度θacc 等の運転状態を変数として予め定められた変速マップ等を用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の複数の前進ギヤ段を自動的に切り替えるためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する変速制御を実行する。
【0036】
クリープ制御部96は、シフトレバー64がDポジションまたはRポジションの走行ポジションで自動変速機24がDレンジまたはRレンジの走行レンジとされた状態において、駆動要求量に対応するアクセル開度θacc が略0で且つ車速Vが予め定められたクリープ車速以下の低車速時または車両停止時に、電動車両10の駆動トルクTr として所定のクリープトルクTcreep が得られるように、前記駆動力源によりトルクコンバータ22の入力回転速度Ntci (=Nmg)を制御するクリープトルク制御を実行する。本実施例では、K0クラッチ20を開放してエンジン12を動力伝達経路から切り離した状態で、回転機MGを制御してトルクコンバータ22を介してクリープトルクTcreep を発生させる。すなわち、LUクラッチ40が完全開放状態でトルクコンバータ22を介してMG連結軸36から変速機入力軸38側へ動力が伝達される状態において、トルクコンバータ22の入力回転速度Ntci が予め定められたクリープ回転速度Ncreep となるようにMGトルクTmgを制御することにより、所定のクリープトルクTcreep を発生させることができる。クリープ回転速度Ncreep は、例えばエンジン12のアイドル回転速度Neidlと同程度の回転速度が定められるが、アイドル回転速度Neidlとは関係なく独自に設定しても良い。また、DレンジとRレンジとで異なるクリープ回転速度Ncreep が定められても良いし、トルクコンバータ22内を流通する作動油OIL の油温THoil 等に応じて可変設定されても良い。なお、K0クラッチ20を係合させてエンジン12をアイドル回転速度Neidl等で作動させることにより、所定のクリープトルクTcreep を発生させることもできる。
【0037】
ガタ詰め制御部98は、シフトレバー64がD→RまたはR→Dの反転シフト操作が行なわれた場合に、前記駆動力源の出力を制御してギヤ機構である自動変速機24やディファレンシャルギヤ30のガタ詰めを行なう。すなわち、本実施例では駆動要求量に対応するアクセル開度θacc が略0で且つ車速Vが予め定められたクリープ車速以下の低車速時または車両停止時には、クリープ制御部96によって回転機MGが制御されることにより所定のクリープトルクTcreep が発生させられるため、D→RまたはR→Dの反転レンジ切替に伴って自動変速機24の前後進ギヤ段が切り替えられる際にクリープトルクTcreep が反転し、自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30の各部のバックラッシに起因してガタ打ちショックが発生する可能性がある。このため、クリープトルクTcreep を一時的に制限して自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30を滑らかにガタ詰めするガタ詰め制御を実行する。具体的には、トルクコンバータ22の入力回転速度Ntci を、クリープトルクTcreep が得られるクリープ回転速度Ncreep よりも低い予め定められたガタ詰め回転速度Nstuff に所定時間停滞するようにMGトルクTmgを制御するガタ詰め制御を実行する。このように入力回転速度Ntci が低下させられると、トルクコンバータ22の出力トルクすなわち自動変速機24やディファレンシャルギヤ30に伝達されるトルクが低下し、回転方向の反転に伴うバックラッシのガタ詰め速度が低減されてガタ打ちショックが抑制される。ガタ詰め回転速度Nstuff は、バックラッシのガタ詰めが滑らかに行なわれるように、実験やシミュレーション等によって適当に定められる。
【0038】
図2は、ガレージ制御部94aによって実行されるガレージ制御、およびガタ詰め制御部98によって実行されるガタ詰め制御、を具体的に説明するフローチャートで、ステップS1~S9(以下、ステップを省略して単にS1~S9と言う。)に従って信号処理が実行される。ここでは、クリープ制御部96によるクリープトルク制御に優先して、ガレージ制御部94aによりトルクコンバータ22の入力回転速度Ntci が略0となるようにMGトルクTmgが制御され、その入力回転速度Ntci が略0の状態でガレージ制御部94aにより反転レンジ切替が実行される。その後、ガタ詰め制御部98によりガタ詰め制御が実行され、入力回転速度Ntci がクリープ回転速度Ncreep よりも低い予め定められたガタ詰め回転速度Nstuff に所定時間停滞するようにMGトルクTmgが制御される。そして、ガタ詰め制御が終了すると、クリープ制御部96等による通常の制御が許可される。図2のS2~S4およびS9はガレージ制御部94aに相当し、S6およびS7はガタ詰め制御部98に相当する。
【0039】
図2は、クリープトルクTcreep に起因してガタ打ちショックが発生する可能性がある運転状態、例えば駆動要求量に対応するアクセル開度θacc が略0で且つ車速Vが予め定められたクリープ車速以下の低車速時または車両停止時に、実行される。図2のS1では、シフトレバー64の操作ポジションPOSshを切り替えるシフト操作が行なわれたか否かを、例えば操作ポジションPOSshに基づいて判断し、シフト操作が行なわれなければそのまま終了するが、シフト操作が行なわれた場合はS2以下を実行する。S2では、クリープ制御部96によるクリープトルク制御に優先してクリープトルクTcreep を略0にするクリープカットが可能か否かを、予め定められたクリープカット許可条件を満たすか否かによって判断する。クリープカット許可条件は、例えばクリープカットにより電動車両10がずり下がらないようにブレーキON信号Bonが供給されている場合、路面勾配が所定値以下の場合、車速Vが所定車速以下の場合、等である。
【0040】
上記クリープカット許可条件を満たさない場合、すなわちS2の判断がNO(否定)の場合は、S9を実行し、クリープカットを行なうことなくガレージ制御部94aによって通常ガレージ制御でレンジ切替が行なわれる。すなわち、シフト操作に伴ってレンジ切替を実行する際に、何れかの係合装置CBを係合させる必要がある場合には、その係合側係合装置CBcon の係合指示圧を漸増させて係合側係合装置CBcon を滑らかに係合させる。
【0041】
S2の判断がYES(肯定)の場合、すなわちクリープカット許可条件を満たす場合には、S3を実行し、トルクコンバータ22の入力回転速度Ntci が0になるようにMGトルクTmgを制御する。すなわち、前記クリープ制御部96によるクリープトルク制御に優先して、入力回転速度Ntci が予め定められた変化率で低下して0になるようにMGトルクTmgを制御する。これにより、クリープトルクTcreep が0になり、電動車両10の駆動トルクTr =0になるとともに、動力伝達経路の自動変速機24やディファレンシャルギヤ30に伝達されるトルクも0になる。そして、その状態でS4の高速ガレージ制御を実行する。具体的には、シフト操作に伴ってレンジ切替を実行する際に、何れかの係合装置CBを係合させる必要がある場合には、その係合側係合装置CBcon の係合指示圧をステップ的に増加させて係合側係合装置CBcon を速やかに係合させる。例えば、反転シフト操作に伴ってRレンジとDレンジとを切り替える反転レンジ切替を行なう場合には、開放側係合装置CBopの油圧PRopを低下させた後に、係合側係合装置CBcon の油圧PRcon の係合指示圧をステップ的に増加させることにより、その係合側係合装置CBcon を速やかに係合させて反転レンジ切替を短時間で実行することができる。
【0042】
図5は、R→Dシフト操作に伴ってR→Dレンジ切替が図2のフローチャートに従って実行された場合の各部の作動状態の変化を示すタイムチャートの一例で、時間t1はシフトレバー64によりR→Dシフト操作が行なわれた時間である。図5は、クリープカット許可条件を満たしている場合で、S2の判断がYESとなり、S3で回転機MGの制御により入力回転速度Ntci が予め定められた変化率で0まで低下させられ、クリープトルクTcreep が0になる。また、S4で高速ガレージ制御が実行され、開放側係合装置CBopである第3係合装置CB3の油圧PRcb3 が低下させられた後に、係合側係合装置CBcon である第1係合装置CB1の油圧PRcb1 の係合指示圧がステップ的に増加させられる。これにより、その第1係合装置CB1が速やかに係合させられ、R→Dレンジ切替が短時間で実行される。クリープトルクTcreep が0で、自動変速機24の伝達トルクが0であるため、第1係合装置CB1の急係合に拘らず変速ショック等を生じる恐れはない。時間t2は、第1係合装置CB1が係合状態となり、Dレンジに切り替えられた時間である。なお、入力回転速度Ntci は必ずしも完全に0である必要はなく、トルクコンバータ22の出力トルクすなわち自動変速機24の伝達トルクが略0になれば、係合側係合装置CBcon の急係合によるショックを十分に低減できる。
【0043】
図2に戻って、次のS5では駆動方向が反転するか否か、すなわちシフトレバー64のシフト操作が反転シフト操作か否かを判断し、反転シフト操作でなければ直ちにS8を実行して入力回転速度Ntci を目標入力回転速度Ntcitまで上昇させる。目標入力回転速度Ntcitは、例えば自動変速機24のレンジ切替後のシフトレンジや要求駆動トルクTrdem等に基づいて定められるが、本実施例ではクリープ制御部96によるクリープトルク制御が許可されることにより、例えばDレンジまたはRレンジの走行レンジでアクセル開度θacc が0の場合にはクリープ回転速度Ncreep が目標入力回転速度Ntcitとされる。
【0044】
S5の判断がYESの場合、すなわちシフトレバー64のシフト操作が反転シフト操作で、S4で反転レンジ切替が実行された場合には、S6を実行する。S6では、入力回転速度Ntci を前記クリープ回転速度Ncreep よりも低い予め定められたガタ詰め回転速度Nstuff まで予め定められた変化率で上昇させるようにMGトルクTmgを制御する。また、S7ではガタ詰め完了か否か、本実施例ではガタ詰め回転速度Nstuff に予め定められた停滞時間tstuffだけ継続して維持されたか否かを判断し、停滞時間tstuffに達するまでS6を実行することにより、入力回転速度Ntci =Nstuff の状態が継続されるようにMGトルクTmgを制御する。そして、停滞時間tstuffに達したらS8を実行し、入力回転速度Ntci を予め定められた変化率で目標入力回転速度Ntcitまで変化させる。このように、トルクコンバータ22の入力回転速度Ntci がクリープ回転速度Ncreep よりも低いガタ詰め回転速度Nstuff に所定時間停滞することにより、トルクコンバータ22の出力トルクすなわち自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30に伝達されるトルクが安定し、ガタ打ちショックが抑制されるようにそれ等の自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30のガタ詰めを適切に行なうことができる。なお、S7のガタ詰め完了判断を、停滞時間tstuffではなく、例えば入力回転速度Ntci を制御する回転機MGのMGトルクTmgの変化等で行なうこともできる。
【0045】
図5の時間t3は、S6の実行で入力回転速度Ntci がガタ詰め回転速度Nstuff まで上昇させられた時間で、時間t4は、入力回転速度Ntci =Nstuff の状態が停滞時間tstuffに達した時間である。その時間t3~t4の間で、バックラッシがR側からD側へ変化しており、これがバックラッシのガタ詰めを表している。その後、図5では目標入力回転速度Ntcitがクリープ回転速度Ncreep とされ、そのクリープ回転速度Ncreep まで予め定められた変化率で入力回転速度Ntci が上昇させられるようにMGトルクTmgが制御されることにより、所定のクリープトルクTcreep が得られるようになる。
【0046】
ここで、ガタ詰め回転速度Nstuff および停滞時間tstuffは、それぞれ予め一定値が定められても良いが、トルクコンバータ22に供給される作動油OIL の油温THoil が低いと粘性が高くなり、トルクコンバータ22の出力トルクが大きくなって、自動変速機24等のギヤ機構に伝達されるトルクが大きくなるとともにガタ詰め速度が速くなる。このため、ガタ詰め回転速度Nstuff および停滞時間tstuffの少なくとも一方が、作動油OIL の油温THoil に応じて定められるようにしても良い。例えば図3に示すように油温THoil が低い場合は高い場合に比較してガタ詰めを行なう停滞時間tstuffを連続的または段階的に短くすることにより、ガタ詰め所要時間を短くすることができる。また、ガタ詰め速度が速くなるとガタ打ちショックが発生し易くなるため、例えば図4に示すように油温THoil が低い場合は高い場合に比較してガタ詰め回転速度Nstuff を連続的または段階的に低くすることにより、ガタ打ちショックが確実に抑制されるようにすることができる。ガタ打ちショックを抑制しつつガタ詰め所要時間が短くなるように、ガタ詰め回転速度Nstuff および停滞時間tstuffの両方を作動油OIL の油温THoil に応じて最適値となるように変更しても良い。
【0047】
また、前進ギヤ段および後進ギヤ段の変速比γatが異なる場合には、それに伴って自動変速機24以後のギヤ機構に伝達されるトルクが変化し、ガタ詰め速度が変化する。このため、ガタ詰め回転速度Nstuff および停滞時間tstuffの少なくとも一方が、反転レンジ切替の種類、すなわちR→Dレンジ切替かD→Rレンジ切替か、に応じて定められるようにしても良い。例えば後進ギヤ段の変速比γatが前進ギヤ段よりも大きい場合、D→Rレンジ切替では自動変速機24以後のギヤ機構に伝達されるトルクが比較的大きくなってガタ詰め速度が速くなるため、R→Dレンジ切替に比較して停滞時間tstuffを短くすることにより、ガタ詰め所要時間を短くすることができる。また、ガタ詰め速度が速くなるとガタ打ちショックが発生し易くなるため、D→Rレンジ切替ではR→Dレンジ切替に比較してガタ詰め回転速度Nstuff を低くすることにより、ガタ打ちショックが確実に抑制されるようにすることができる。すなわち、変速比γatが大きい方のガタ詰め制御の停滞時間tstuffを、変速比γatが小さい方のガタ詰め制御に比較して短くしたり、変速比γatが大きい方のガタ詰め制御のガタ詰め回転速度Nstuff を、変速比γatが小さい方のガタ詰め制御に比較して低くしたりすれば良い。ガタ打ちショックを抑制しつつガタ詰め所要時間が短くなるように、ガタ詰め回転速度Nstuff および停滞時間tstuffの両方を反転レンジ切替の種類に応じて最適値となるように変更しても良い。
【0048】
このように本実施例の電動車両10の電子制御装置90のガタ詰め制御部98は、トルクコンバータ22の入力回転速度Ntci が予め定められたガタ詰め回転速度Nstuff に所定時間停滞するようにMGトルクTmgが制御されるため、トルクコンバータ22の出力トルクすなわちギヤ機構である自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30に伝達されるトルクが安定し、ガタ打ちショックが抑制されるようにそれ等の自動変速機24およびディファレンシャルギヤ30のガタ詰めを適切に行なうことができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
10:ハイブリッド式電動車両(車両) 12:エンジン(駆動力源) 14:駆動輪 16:動力伝達装置(動力伝達経路) 22:トルクコンバータ 24:自動変速機(変速機、ギヤ機構) 30:ディファレンシャルギヤ(ギヤ機構) 64:シフトレバー(シフト操作装置) 90:電子制御装置(制御装置) 98:ガタ詰め制御部 MG:回転機(駆動力源) Ntci :入力回転速度 Nstuff :ガタ詰め回転速度 tstuff:停滞時間(所定時間)
図1
図2
図3
図4
図5