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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241016BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241016BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241016BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241016BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241016BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20241016BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20241016BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/587
H01M10/058
H01G11/28
H01G11/68
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021565578
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046624
(87)【国際公開番号】W WO2021125148
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019228677
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】針長 右京
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 理史
(72)【発明者】
【氏名】上平 健太
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-22711(JP,A)
【文献】特開2012-129104(JP,A)
【文献】特開2006-216352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/66
H01M 4/587
H01M 10/058
H01G 11/28
H01G 11/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウム又はアルミニウム合金製の負極基材、この負極基材に直接又は間接に積層され、かつ導電剤を含む導電層、及び0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、
上記負極に対向し、正極基材及びこの正極基材に直接又は間接に積層される正極活物質層を有する正極と
を備え、
上記負極活物質層は、上記負極基材に接する領域と上記導電層に接する領域とを含むように上記負極基材及び上記導電層に積層されている蓄電素子。
【請求項2】
上記負極及び上記正極が対向する方向視で、上記導電層の端縁が上記正極活物質層の端縁より外縁側に突出している請求項1記載の蓄電素子。
【請求項3】
外部と導通される負極外部端子及び正極外部端子をさらに備え、
上記負極基材は、上記負極外部端子と接続される負極接続部を有し、
上記負極活物質層の上記負極基材に接する領域が、上記負極基材の上記負極接続部側に位置する請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
上記負極活物質が難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解液二次電池に代表される蓄電素子は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記蓄電素子は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解液を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解液二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子の負極電極材として、アルミニウム箔の表面にカーボンコートを施したものを使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-174577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負極電極材としてアルミニウム箔を使用した蓄電素子において、金属リチウムが析出するほどに負極に過剰な電気量の電流が流れたとしても、リチウム-アルミニウム合金化反応が生じることにより金属リチウムデンドライトの析出を抑制することが可能になる。しかしながら、負極電極材としてアルミニウム箔の表面にカーボンコート等の導電層を施したものを使用した蓄電素子において、通常の使用状態における充電状態を超えた充電(過充電)が行われた場合は、リチウム-アルミニウム合金化反応よりも金属リチウムデンドライトの析出反応が優先的に発生するおそれがある。これは導電層の有無が、リチウムイオンの負極基材上への供給速度には影響を与えるのに対して、リチウムイオンの負極活物質への供給速度には影響を与えないためである。金属リチウムデンドライトが発生した場合、蓄電素子の温度が急激に上昇してしまうおそれがある。このため、過充電状態における蓄電素子の安全性のさらなる向上が望まれる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、過充電時における安全性をさらに向上できる蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一側面は、純アルミニウム又はアルミニウム合金製の負極基材、この負極基材に直接又は間接に積層され且つ導電剤を含む導電層、及び0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、上記負極に対向し、正極基材及びこの正極基材に直接又は間接に積層される正極活物質層を有する正極とを備え、上記負極活物質層は、上記負極基材に接する領域と上記導電層に接する領域とを含むように上記負極基材及び上記導電層に積層されている蓄電素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、過充電時における安全性をさらに向上できる蓄電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子の外観を示す模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子の電極体を概略的に示す模式的斜視図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子の電極体の一部を概略的に示す部分的断面図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係る蓄電素子の電極体の一部を概略的に示す部分的断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、純アルミニウム又はアルミニウム合金製の負極基材、この負極基材に直接又は間接に積層され、かつ導電剤を含む導電層、及び0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、上記負極に対向し、正極基材及びこの正極基材に直接又は間接に積層される正極活物質層を有する正極とを備え、上記負極活物質層は、上記負極基材に接する領域と上記導電層に接する領域とを含むように上記負極基材及び上記導電層に積層されている。
【0011】
当該蓄電素子によれば、過充電時における安全性をさらに向上できる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。当該蓄電素子においては、負極活物質層が負極基材に接する領域と導電層に接する領域とを含むように上記負極基材及び上記導電層に積層されている。また、当該蓄電素子は、純アルミニウム又はアルミニウム合金製の負極基材を備え、負極活物質層が0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能、すなわち高電流密度で充電した際に金属リチウムが析出する可能性がある負極活物質を含有するので、当該蓄電素子の充電状態が大きくなると負極活物質層が負極基材に接する領域で負極電位がリチウム-アルミニウム合金化反応が生じる電位よりも下がりやすくなる。このため、当該蓄電素子が過充電された場合に、負極活物質層が負極基材に接する領域で上記リチウム-アルミニウム合金化反応が進行しやすくなり、金属リチウムが析出することが抑制されるので、蓄電素子の過充電時における安全性をさらに向上できる。
【0012】
上記負極及び上記正極が対向する方向視で、上記導電層の端縁が上記正極活物質層の端縁より外縁側に突出していることが好ましい。負極活物質層のうち導電層上に形成された領域においては、導電層を介する分、負極基材におけるリチウム-アルミニウム合金化反応が生じることが抑制される。また、通常の使用状態においては、正極活物質層と負極活物質層とが対向している領域でリチウムイオンが移動する。上記負極及び上記正極が対向する方向視で、上記導電層の端縁が上記正極活物質層の端縁より外縁側に突出していることで、正極活物質層と対向する負極活物質層の領域は導電層が積層されるため、通常の使用状態において、負極基材にリチウムイオンが到達することが抑制され、負極基材におけるリチウム-アルミニウム合金化反応が生じることが抑制される。リチウム-アルミニウム合金化反応は、高電流密度での充電時に生じやすいため、例えば、5C以上の条件で充電を行う場合に特に有効である。
【0013】
外部と導通される負極外部端子及び正極外部端子をさらに備え、上記負極基材は、上記負極外部端子と接続される負極接続部を有し、上記負極活物質層の上記負極基材に接する領域が、上記負極基材の上記負極接続部側に位置することが好ましい。当該蓄電素子によれば、上記負極外部端子と接続される負極接続部側において、負極基材のリチウム-アルミニウム合金化反応が進行することにより負極基材の電気抵抗が大きく上昇する。上記負極外部端子と接続される負極接続部側において、負極基材の電気抵抗が大きく上昇することで、過充電時にさらなる充電電流が生じることに対する阻害効果が向上し、過充電時における安全性をより高めることができる。
【0014】
上記負極活物質が難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素であることが好ましい。難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素は、リチウム-アルミニウム合金化反応が生じる電位よりも高い電位における放電容量が天然黒鉛又は人造黒鉛等の他の炭素材料と比較して大きい。上記負極活物質が難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素であることで、負極基材に純アルミニウム又はアルミニウム合金を使用した場合において、当該蓄電素子の容量密度を高めることができる。
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る蓄電素子について図面を参照しつつ詳説する。
【0016】
<蓄電素子>
以下、当該蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池である蓄電素子について説明する。当該蓄電素子は、負極及び正極が積層された電極体と、上記負極基材と接合される負極集電体と、リチウムイオンを含む非水電解液と、上記電極体、上記負極集電体及び上記非水電解液を収容するケースとを備える。電極体は、例えばセパレータを介して積層された正極及び負極を巻きつけた巻回型電極体又は正極、負極及びセパレータを備える複数のシート体を重ねた積層体から形成される積層型電極体を形成する。
【0017】
〈蓄電素子の具体的構成〉
次に、本発明の第一実施形態の蓄電素子の具体的構成の一例として、非水電解質二次電池について説明する。図1は、蓄電素子の一例としての角型の非水電解質二次電池の外観を示す模式図である。図1に示すように、蓄電素子1は、扁平な直方体状のケース3と、ケース3の中に収容される電極体2と、ケース3に設けられる負極外部端子5及び正極外部端子4とを備えている。ケース3は、有底角筒状のケース本体31と、ケース本体31の細長い矩形状の開口部を閉鎖可能である細長い矩形板状のケース蓋体32とを有している。
【0018】
蓄電素子1は、ケース3に収容された電極体2と、電極体2の両端部にそれぞれ電気的に接続される正極集電体60及び負極集電体70とを備える。負極集電体70の固定部71から延びる脚部72が、電極体2の負極基材22に接合される。また、正極集電体60の固定部61から延びる脚部62が電極体2の正極基材21に接合される。これにより、負極外部端子5が負極集電体70を介して電極体2と電気的に接続され、正極外部端子4が正極集電体60を介して電極体2と電気的に接続される。より具体的には、負極集電体70の脚部72と負極基材22と、及び正極集電体60の脚部62と正極基材21とは、溶接等の接合方法によって接合され、固定される。
【0019】
ケース蓋体32には、外部と導通される負極外部端子5及び正極外部端子4が設けられている。負極外部端子5及び正極外部端子4は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料で形成されている。板状の上部絶縁部材41が、正極外部端子4とケース蓋体32との間に設けられ、板状の上部絶縁部材51が負極外部端子5とケース蓋体32との間に設けられることで、負極外部端子5及び正極外部端子4をケース蓋体32から電気的に絶縁する。また、板状の下部絶縁部材42がケース蓋体32と正極集電体60との間に設けられ、板状の下部絶縁部材52がケース蓋体32と負極集電体70との間に設けられることで、正極集電体60及び負極集電体70をケース蓋体32から電気的に絶縁する。上部絶縁部材41、上部絶縁部材51、下部絶縁部材42及び下部絶縁部材52はいずれも、電気的な絶縁性を有する樹脂等の材料から作製される。
【0020】
(ケース)
ケース3はケース本体31とケース蓋体32とを有する。ケース本体31は、電極体2、正極集電体60及び負極集電体70を収容するための上面が開放された直方体状の筐体である。また、ケース3は、1つの電極体2等を内部に収容後、ケース蓋体32とケース本体31とが溶接等されることにより、内部を密封することができるものとなっている。なお、ケース蓋体32及びケース本体31の材質は、特に限定されないが、例えばステンレス鋼、純アルミニウム、アルミニウム合金など溶接可能な金属であるのが好ましい。
【0021】
(電極体)
図2は、当該蓄電素子1における電極体2を概略的に示す模式図である。図2に示すように、電極体2は、負極12、正極11及びセパレータ25を備えるシート体を、巻芯8を中心として扁平状に巻きつけた巻回型電極体である。電極体2は、正極活物質層24を備える正極11と、負極活物質層23を備える負極12とが、セパレータ25を介して扁平状に巻きつけられることにより形成されている。すなわち、電極体2において、帯状の負極12の外周側に帯状のセパレータ25が形成され、このセパレータ25の外周側に帯状の正極11が形成され、この正極11の外周側に帯状のセパレータ25が形成されている。
【0022】
このように構成された電極体2において、より具体的には、負極12と正極11とは、セパレータ25を介し、巻回軸方向に互いにずらして巻きつけられている。そして、負極基材22は、巻回軸方向の一端部に負極活物質層23が形成されていない負極基材22の露出領域を有する。負極基材22のこの露出領域が上記負極外部端子5と接続される負極接続部となる。また、正極基材21は、巻回軸方向の他端部に正極活物質層24が形成されていない正極基材21の露出領域を有する。正極基材21のこの露出領域が上記正極外部端子4と接続される正極接続部となる。
【0023】
図3は、当該蓄電素子1の電極体2の一部を概略的に示す部分的断面図である。図3に示すように、電極体2は、負極12と、この負極12に対向する正極11とを備える。電極体2においては、負極12と正極11とがセパレータ25を介して配置される。負極12は、負極基材22、導電層9及び負極活物質層23を有し、負極活物質層23が負極基材22の両面側に積層されている。上記負極活物質層23は、上記負極基材22に接する領域と上記導電層9に接する領域とを含むように上記負極基材22及び上記導電層9に積層されている。また、正極11は、正極基材21及びこの正極基材21に直接又は間接に積層される正極活物質層24を有する。本実施形態においては、正極11は、正極基材21及び正極活物質層24を有し、正極活物質層24が正極基材21の両面に積層されている。
【0024】
上述したように、負極基材22は、負極外部端子5と接続される負極接続部を有し、負極活物質層23が負極基材22に接する領域が、負極基材22の負極接続部側に位置することが好ましい。上記負極活物質層の上記負極基材に接する領域が、上記負極外部端子と接続される負極接続部側に位置することで、過充電時にさらなる充電電流が生じることに対する阻害効果が向上し、過充電時における安全性をより高めることができる。
【0025】
また、当該蓄電素子1は、負極12及び正極11が対向する方向視で、導電層の端縁が正極活物質層24の端縁より外縁側に突出していることが好ましい。図4は、他の実施形態に係る電極体7の一部を概略的に示す部分的断面図である。負極活物質層のうち導電層上に形成された領域においては、導電層を介する分、負極基材におけるリチウム-アルミニウム合金化反応が生じることが抑制される。また、通常の使用状態においては、正極活物質層と負極活物質層とが対向している領域でリチウムイオンが移動する。上記負極12及び上記正極11が対向する方向視で、上記導電層19の端縁が上記正極活物質層24の端縁より外縁側に突出していることで、正極活物質層24と対向する負極活物質層23の領域は導電層が積層されているため、通常の使用状態において、負極基材にリチウムイオンが到達することが抑制され、負極基材におけるリチウム-アルミニウム合金化反応が生じることが抑制される。リチウム-アルミニウム合金化反応は、高電流密度での充電時に生じやすいため、例えば、5C以上の条件で充電を行う場合に特に有効である。このため、高電流密度での充電性能が求められるハイブリッド電気自動車用電源又はアイドリングストップ車用エンジン始動用電源として用いられる蓄電素子において、負極12及び正極11が対向する方向視で、導電層の端縁が正極活物質層24の端縁より外縁側に突出していることが特に好ましい。
【0026】
[負極]
負極12は、負極基材22と、この負極基材22に直接又は間接に積層され且つ導電剤を含む導電層9と、負極活物質層23とを有する。
【0027】
(負極基材)
負極基材22は導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が1×10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×10Ω・cm超であることを意味する。
【0028】
負極基材22は純アルミニウム又はアルミニウム合金製である。上記負極基材22が、純アルミニウム又はアルミニウム合金製であることで、過放電に対する耐久性が良好となり、軽量で加工性に優れる。
【0029】
「純アルミニウム」とは、アルミニウムの純度が99.00質量%以上のものをいい、例えばJIS-H4000(2014)に規定の1000番台のアルミニウムが挙げられる。また、「アルミニウム合金」とは、最も多く含まれる含有成分がアルミニウムである金属であってアルミニウムの純度が99.00質量%未満のものをいい、例えば上記JISに規定の1000番台以外のアルミニウムが挙げられる。上記JISに規定の1000番台以外のアルミニウムとは、例えば上記JISに規定の2000番台のアルミニウム、3000番台のアルミニウム、4000番台のアルミニウム、5000番台のアルミニウム、6000番台のアルミニウム、7000番台のアルミニウム等が挙げられる。
【0030】
負極基材22のアルミニウム純度としては85%質量以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95%質量以上がさらに好ましい。負極基材22としては、例えばJIS-H4000(2014)に規定される1000番台の純アルミニウム、3000番のアルミニウム-マンガン系合金、5000番台のアルミニウム-マグネシウム系合金等を用いることができる。
【0031】
負極基材22の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。
【0032】
負極基材22の平均厚さの上限としては、例えば30μmであってもよいが、20μmが好ましく、15μmがより好ましい。負極基材22の平均厚さを上記上限以下とすることで、エネルギー密度をより高めることができる。一方、この平均厚さの下限としては、例えば1μmであってよく、5μmであってもよい。なお、「基材の平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。後述する「正極基材」の平均厚さについても、同様に定義される。
【0033】
[導電層]
上記導電層9は、負極基材22の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材22と負極活物質層23との接触抵抗を低減する。また、純アルミニウム又はアルミニウム合金製の負極基材22は、負極合剤の塗工性が劣るが、導電層を備えることで、負極合剤の塗工性を向上できる。従って、上記導電層9を有することで、蓄電素子の性能を向上できる。導電層9の構成は特に限定されず、例えばバインダー及び導電剤を含有する組成物により形成できる。
【0034】
導電層9に含有される導電剤としては、導電性を有する限り、特に限定されない。導電剤としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然又は人造の黒鉛、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤としては、これらの中でも、カーボンブラックが好ましい。導電剤の形状は、通常、粒子状である。
【0035】
導電層9における導電剤の含有量の下限としては、例えば20質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。導電層9における導電剤の含有量が上記下限以上であることにより、通常使用時に良好な導電性を発現することができる。導電層9における導電剤の含有量の上限としては、例えば90質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。導電層9における導電剤の含有量の上限が上記範囲であることで、負極基材22と負極活物質層23との接触抵抗を低減する効果と負極合剤の塗工性を向上させる効果とを両立できる。
【0036】
(バインダー)
導電層9におけるバインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;セルロース系樹脂、キトサン系樹脂等の多糖類高分子;アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、セルロース系樹脂、キトサン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。これらのバインダーは、非水電解質(非水電解液)に対して膨潤し難く、通常使用時における負極基材のリチウム-アルミニウム合金化反応を効果的に抑制することができる。セルロース系樹脂及びキトサン系樹脂は、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化、硫酸エステル化等がなされたセルロース誘導体又はキトサン誘導体であってもよい。例えば、セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、塩であってもよい。アクリル系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリ(メタ)アクリロイルモルホリン、ポリN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリグリセリン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0037】
導電層9におけるバインダーの含有量の下限としては、10質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。この含有量の上限としては、80質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。導電層9におけるバインダーの含有量を上記範囲とすることで、十分な結着性を良好に発現することができると共に、通常使用時における負極基材のリチウム-アルミニウム合金化反応を効果的に抑制することができる。
【0038】
導電層9の平均厚さとしては、特に限定されないが、下限としては、0.1μmが好ましく、0.3μmがより好ましい。この平均厚さの上限としては、3μmが好ましく、2μmがより好ましい。導電層9の平均厚さを上記下限以上とすることで、通常使用時の負極基材のリチウム-アルミニウム合金化反応を抑制する効果と負極合剤の塗工性を向上させる効果とを両立できる。導電層9の平均厚さを上記上限以下とすることで、リチウムイオンが導電層を透過しやすくし、過充電時の負極基材上でのリチウム-アルミニウム合金化反応が阻害されにくい負極とすることができる。導電層9の平均厚さとは、上記導電層9の厚さをランダムに20点以上測定し平均した値をいう。
【0039】
[負極活物質層]
負極活物質層23は、負極基材22の少なくとも一方の面に沿って導電層9を介して配置される。負極活物質層23は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。
【0040】
上記負極活物質層23は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0041】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。本実施形態に係る蓄電素子1は、0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含有する。負極活物質層23が0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含有することで、蓄電素子の充電状態が大きくなった場合に、金属リチウムが析出する可能性がある。本実施形態に係る蓄電素子1は、負極活物質層が負極基材に接する領域で上記リチウム-アルミニウム合金化反応が進行しやすくなり、金属リチウムが析出することが抑制されるので、蓄電素子の過充電時における安全性をさらに向上できる。
【0042】
上記負極活物質としては、例えば炭素材料が挙げられる。上記炭素材料としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛や非黒鉛質炭素が挙げられる。上記非黒鉛質炭素としては、例えば難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)や、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)や、非晶質炭素(アモルファスカーボン)などが挙げられる。「難黒鉛化性炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法から測定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.36nm以上(例えば0.36nm以上0.42nm以下)の炭素質材料である非黒鉛質炭素をいう。難黒鉛化性炭素は、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い(例えば常圧下で3300K付近の超高温まで加熱しても黒鉛に変換し難い)。上記難黒鉛化性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、フラン樹脂焼成体、フルフリルアルコール樹脂焼成体、コールタール焼成体、コークス焼成体、植物焼成体等を挙げることができる。また、「易黒鉛化性炭素」とは、上記平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.36nm未満の炭素質材料である。易黒鉛化性炭素は、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い(例えば常圧下で3300K付近の高温処理によって黒鉛に変換し易い)。上記易黒鉛化性炭素としては、コークス、熱分解炭素等を挙げることができる。「黒鉛」とは、上記平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0043】
上記負極活物質としては、難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素であることが好ましい。難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素は、リチウム-アルミニウム合金化反応が生じる電位よりも高い電位における放電容量が天然黒鉛又は人造黒鉛等の他の炭素材料と比較して大きい。上記負極活物質が難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素であることで、蓄電素子1の容量密度を高めることができる。
【0044】
上記負極活物質の総質量に対する上記炭素材料の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。炭素材料の含有量を上記下限以上とすることで、蓄電素子1の容量密度をより高めることができる。一方、上記負極活物質の総質量に対する上記炭素材料の含有量の上限としては、例えば100質量%であってもよい。
【0045】
(他の負極活物質)
負極活物質層23は、炭素材料以外のその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記炭素材料以外に含まれていてもよい他の負極活物質としては、0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質であれば、特に限定されない。0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な材料としては、例えば、Si、Sn等の金属又は半金属、Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物が挙げられる。「リチウムイオンを吸蔵可能」とは、蓄電素子の通常の使用状態において、リチウムイオンを吸蔵可能であることを意味し、通常の使用状態を超えて蓄電素子を充電(過充電)した場合に限ってリチウムイオンが吸蔵される場合は含まれない。
【0046】
(その他の任意成分)
上記炭素材料も導電性を有するが、負極活物質層は導電剤を含んでもよい。導電剤としては、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電材の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。負極活物質層において導電剤を使用する場合、負極活物質層全体に占める導電剤の割合は、およそ8.0質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0047】
バインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0048】
負極活物質層におけるバインダーの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダーの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質粒子を安定して保持することができる。
【0049】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0050】
フィラーは、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。負極活物質層においてフィラーを使用する場合、負極活物質層全体に占めるフィラーの割合は、およそ8.0質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0051】
[正極]
正極11は、正極基材21と、正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極活物質を含有するとともにこの正極基材21の少なくとも一方の面に沿って直接又は図示しない導電層を介して積層される。
【0052】
上記正極基材21は、導電性を有する。正極基材21の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材21の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材21としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0053】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0054】
正極活物質層24は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。また、正極活物質層24は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0055】
上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン非水電解質二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi1-x]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記リチウム遷移金属複合酸化物は、ポリアニオン化合物等と比較して金属リチウムデンドライトが生じた場合に伴う急激な温度上昇が生じやすいことから、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合、過充電時における安全性を高める観点から本実施形態の構成を適用することがより好ましい。
【0056】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0057】
上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、上記負極で例示した材料から選択できる。導電剤を使用する場合、正極活物質層全体に占める導電剤の割合は、およそ1.0質量%から20質量%とすることができ、通常はおよそ2.0質量%から15質量%(例えば3.0質量%から6.0質量%)とすることが好ましい。
【0058】
上記バインダーとしては、上記負極で例示した材料から選択できる。バインダーを使用する場合、正極活物質層全体に占めるバインダーの割合は、およそ0.50質量%から15質量%とすることができ、通常はおよそ1.0質量%から10質量%(例えば1.5質量%から3.0質量%)とすることが好ましい。
【0059】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。増粘剤を使用する場合、正極活物質層全体に占める増粘剤の割合は、およそ8質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0060】
上記フィラーとしては、上記負極で例示した材料から選択できる。フィラーを使用する場合、正極活物質層全体に占めるフィラーの割合は、およそ8.0質量%以下とすることができ、通常はおよそ5.0質量%以下(例えば1.0質量%以下)とすることが好ましい。
【0061】
上記導電層は、正極基材21の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材21と正極活物質層24との接触抵抗を低減する。負極12と同様、導電層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0062】
[非水電解質]
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。なお、上記非水電解質は、固体電解質等であってもよい。
【0063】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95から50:50とすることが好ましい。
【0064】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0065】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0066】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0067】
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0068】
上記非水電解質における上記電解質塩の濃度の下限としては、0.1mol/dmが好ましく、0.3mol/dmがより好ましく、0.5mol/dmがさらに好ましく、0.7mol/dmが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/dmが好ましく、2.0mol/dmがより好ましく、1.5mol/dmがさらに好ましい。
【0069】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体などを用いることもできる。
【0070】
[セパレータ]
上記セパレータ25としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータ25の主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0071】
なお、セパレータ25と正極11との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面又は両方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0072】
[蓄電素子の製造方法]
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、例えば上述の負極基材及びこの負極基材に直接又は間接に積層され且つ導電剤を含む導電層、及び負極活物質層を有する負極と正極とが積層された電極体と、リチウムイオンを含む非水電解液とをケースに収容することを備える。上記負極活物質層は、負極合剤ペーストを上述の負極基材及び導電層の表面に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。上記負極合剤ペーストは、通常、負極活物質以外に、バインダー及び分散媒を含み、その他の任意成分を含む。上記分散媒としては、通常有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、エタノール等の極性溶媒や、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の無極性溶媒を挙げることができ、極性溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。負極合剤ペーストは、上記の各成分を混合することにより得ることができる。上述したように、負極活物質層は、0.05V vs.Li/Li以下の電位においてリチウムイオンを吸蔵可能な負極活物質を含む。また、上記負極基材が純アルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0073】
当該蓄電素子の製造方法は、その他の工程として、例えば、セパレータを介して上記負極及び上記正極を積層することを備える。セパレータを介して上記負極及び上記正極を積層することにより、電極体が形成される。
【0074】
上記電極体、非水電解液等をケースに収容する方法は、公知の方法により行うことができる。
【0075】
当該蓄電素子によれば、過充電時における安全性及び蓄電素子の性能を向上できる。
【0076】
[その他の実施形態]
本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0077】
本発明の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、上述の角型電池以外に、例えば円筒型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0078】
上記実施の形態においては、蓄電素子が非水電解液二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解液二次電池としては、リチウムイオン非水電解液二次電池が挙げられる。
【0079】
本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。また、本発明の蓄電素子(セル)を単数又は複数個用いることにより蓄電ユニットを構成することができ、さらにこの蓄電ユニットを用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0080】
図5に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット80をさらに集合させた蓄電装置90の一例を示す。蓄電装置90は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット80を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット80又は蓄電装置90は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の蓄電素子は、ハイブリッド電気自動車用電源又はアイドリングストップ車用エンジン始動用電源の他、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解液二次電池をはじめとした蓄電素子として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0082】
1 蓄電素子
2、7 電極体
3 ケース
4 正極外部端子
5 負極外部端子
8 巻芯
9、19 導電層
11 正極
12 負極
21 正極基材
22 負極基材
23 負極活物質層
24 正極活物質層
25 セパレータ
31 ケース本体
32 ケース蓋体
41 上部絶縁部材
42 下部絶縁部材
51 上部絶縁部材
52 下部絶縁部材
60 正極集電体
61 固定部
62 脚部
70 負極集電体
71 固定部
72 脚部
80 蓄電ユニット
90 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5