(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20241016BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241016BHJP
H01M 8/2483 20160101ALI20241016BHJP
B60L 58/30 20190101ALI20241016BHJP
H01M 8/04291 20160101ALN20241016BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/0438
H01M8/04746
H01M8/2483
B60L58/30
H01M8/04291
(21)【出願番号】P 2022022419
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠一
(72)【発明者】
【氏名】森 誠
(72)【発明者】
【氏名】石川 智隆
(72)【発明者】
【氏名】長沼 良明
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/013453(WO,A1)
【文献】特開2009-152217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04- 8/0668
B60L 58/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のセルを有する燃料電池と、
前記燃料電池の供給口に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ユニットと、
前記燃料ガス供給ユニットの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記燃料ガス供給ユニットは、前記燃料電池の排出口から排出された前記燃料ガスを前記供給口に還流させる還流経路と、前記還流経路に設けられた気液分離器とを有し、
前記制御装置は、
前記燃料電池内に溜まった残留水を前記排出口から排出するための排水処理を実行可能であり、
前記排水処理では、
前記燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達するまで、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する第1の処理と、
前記第1の処理の後に、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる第2の処理と、
が繰り返し実行さ
れ、
前記第2の処理では、前記燃料電池の発電量を前記第1の処理よりも増加させることによって、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる、
燃料電池システム。
【請求項2】
積層された複数のセルを有する燃料電池と、
前記燃料電池の供給口に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ユニットと、
前記燃料ガス供給ユニットの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記燃料ガス供給ユニットは、前記燃料電池の排出口から排出された前記燃料ガスを前記供給口に還流させる還流経路と、前記還流経路に設けられた気液分離器とを有し、
前記制御装置は、
前記燃料電池内に溜まった残留水を前記排出口から排出するための排水処理を実行可能であり、
前記排水処理では、
前記燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達するまで、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する第1の処理と、
前記第1の処理の後に、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる第2の処理と、
が繰り返し実行され、
前記制御装置は、前記第1の処理において、前記燃料電池の水平方向に対する傾斜に応じて、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの流量を変更する、
燃料電池システム。
【請求項3】
積層された複数のセルを有する燃料電池と、
前記燃料電池の供給口に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ユニットと、
前記燃料ガス供給ユニットの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記燃料ガス供給ユニットは、前記燃料電池の排出口から排出された前記燃料ガスを前記供給口に還流させる還流経路と、前記還流経路に設けられた気液分離器とを有し、
前記制御装置は、
前記燃料電池内に溜まった残留水を前記排出口から排出するための排水処理を実行可能であり、
前記排水処理では、
前記燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達するまで、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する第1の処理と、
前記第1の処理の後に、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる第2の処理と、
が繰り返し実行され、
前記制御装置は、前記燃料電池の運転実績が所定の閾値実績を超えた場合に、前記排水処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料ガス供給ユニットは、前記気液分離器に接続された排出弁を備え、
前記制御装置は、
前記第1の処理では、前記排出弁を閉じたまま保持し、
前記第2の処理では、前記排出弁を開くことによって、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる、請求項1
から3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池は、さらに、
前記排出口と前記複数のセルとを連通させるマニホールドと、
前記マニホールドから前記排出口まで延びるバイパスチューブと、を備える、
請求項1
から4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池内に残留した残留水を除去する燃料電池システムが開示されている。燃料電池システムでは、燃料電池に空気(すなわち、酸化ガス)を供給するコンプレッサと燃料電池に水素(すなわち、燃料ガス)を供給するガス流路とが、第1接続弁を介して接続されている。燃料電池システムは、ガス流路内の残留水を除去する際、第1接続弁を開き、でコンプレッサによって酸化ガスをガス流路内に供給する。その結果、酸化ガスによってガス流路内が加圧され、ガス流路内の残留水が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池システムでは、発電時には燃料ガスが供給されるべきガス流路内の残留水の除去に、酸化ガスが用いられている。このため、残留水を除去している間は、燃料電池の発電が停止される。本明細書では、燃料電池の発電中であっても、残留水の除去を実行し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する燃料電池システムは、積層された複数のセルを有する燃料電池と、前記燃料電池の供給口に燃料ガスを供給する燃料ガス供給ユニットと、前記燃料ガス供給ユニットの動作を制御する制御装置と、を備える。前記燃料ガス供給ユニットは、前記燃料電池の排出口から排出された前記燃料ガスを前記供給口に還流させる還流経路と、前記還流経路に設けられた気液分離器とを有する。前記制御装置は、前記燃料電池内に溜まった残留水を前記排出口から排出するための排水処理を実行可能であり、前記排水処理では、前記燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達するまで、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する第1の処理と、前記第1の処理の後に、前記燃料電池内の前記圧力を低下させる第2の処理と、が繰り返し実行される。
【0006】
上述した燃料電池システムでは、排水処理の第1の処理において、燃料ガス供給ユニットが燃料ガスを燃料電池に供給することによって、燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達するまで燃料電池内が加圧される。これにより、燃料電池内の残留水が、燃料ガスと共に排出口から排出され、気液分離器で燃料ガスと分離される。その結果、分離した燃料ガスが燃料電池の供給口に還流し、分離した残留水が外部に排出される。燃料電池内の圧力が所定の閾値圧力に達すると、燃料ガスが燃料電池内に入りづらくなる。このため、燃料電池システムは、第1の処理の後に実行される第2の処理において、燃料電池内の圧力を低下させる。これにより、燃料ガス供給ユニットは、再び、大量の燃料ガスを燃料電池に供給することができる。このように、本明細書が開示する燃料電池システムは、燃料ガスを利用して燃料電池内の残留水の除去を実行する。このため、燃料電池システムは、燃料電池の発電中であっても、残留水の除去を実行することができる。
【0007】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の燃料電池システム100のブロック図を示す。
【
図3】第1実施形態の制御装置40によって排水処理が実行される場合の各値の変化を示す。
【
図4】第1実施形態の制御装置40が実行する処理のフロー図を示す。
【
図5】第2実施形態の制御装置40によって排水処理が実行される場合の各値の変化を示す。
【
図6】第2実施形態の制御装置40が実行する処理のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本技術の一実施形態では、前記燃料ガス供給ユニットは、前記気液分離器に接続された排出弁を備えてもよい。その場合、前記制御装置は、前記第1の処理では、前記排出弁を閉じたまま保持し、前記第2の処理では、前記排出弁を開くことによって、前記燃料電池内の前記圧力を低下させてもよい。このような構成によると、短時間に排出弁の開閉を繰り返すことによって、大量の燃料ガスを短時間で燃料電池内に供給することができる。その結果、例えば、燃料電池が水平方向に対して傾斜して配置されている場合等、残留水を排出しにくい状況であっても、大量の燃料ガスを利用して、残留水を排出することができる。
【0010】
本技術の一実施形態では、前記制御装置は、前記第2の処理では、前記燃料電池の発電量を前記第1の処理よりも増加させることによって、前記燃料電池内の前記圧力を低下させてもよい。このような構成によると、残留水を排出する燃料ガスが発電に利用されるため、燃料ガスを無駄にすることなく、残留水を排出することができる。
【0011】
本技術の一実施形態では、前記燃料電池は、さらに、前記排出口と前記複数のセルとを連通させるマニホールドと、前記マニホールドから前記排出口まで延びるバイパスチューブと、を備えてもよい。このような構成によると、燃料ガスが排出口から排出されることに起因して、バイパスチューブ内が局所的に負圧となりやすい。このため、バイパスチューブを介して、残留水を排出口から排出することができる。
【0012】
本技術の一実施形態では、前記制御装置は、前記第1の処理において、前記燃料電池の水平方向に対する傾斜に応じて、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの流量を変更してもよい。燃料電池が水平方向に対する傾斜して配置されている場合、燃料電池に燃料ガスを供給しても、残留水が燃料電池内から排出されないことがある。このような構成によると、傾斜に応じて燃料ガスの流量を変更することによって、燃料電池が水平方向に対する傾斜して配置されている場合であっても、残留水を燃料電池内から排出することができる。
【0013】
本技術の一実施形態では、前記制御装置は、前記燃料電池の運転実績が所定の閾値実績を超えた場合に、前記排水処理を実行してもよい。但し、別の実施形態では、例えば、所定の周期ごとに排水処理が実行されてもよい。
【0014】
(実施例)
図面を参照して実施例の燃料電池システムについて説明する。
図1は、実施例の燃料電池システム100のブロック図を示す。燃料電池システム100は、電気自動車(図示省略)に搭載される。燃料電池システム100は、燃料電池20を備える。燃料電池システム100は、燃料電池20を利用して発電するためのシステムである。燃料電池システム100は、発電した電力を、電気自動車の走行用モータ(図示省略)に供給する。あるいは、燃料電池システム100は、発電した電力によって、電気自動車のバッテリ(図示省略)を充電する。
【0015】
燃料電池20は、燃料ガス(すなわち、水素ガス)を取り入れるアノード供給口22aと、酸化ガス(すなわち、空気)を取り入れるカソード供給口22kと、複数のセル26(
図2参照)と、を備える。燃料電池20は、アノード供給口22aから取り入れた水素ガスと、カソード供給口22kから取り入れた空気内の酸素と、を複数のセル26で化学反応させることによって発電する。燃料電池20が発電する際に起こる化学反応については、既知であるため詳しい説明は省略する。
【0016】
燃料電池システム100は、燃料電池20に加え、さらに、燃料ガス供給ユニット10と、酸化ガス供給ユニット30と、制御装置40と、を備える。燃料ガス供給ユニット10は、水素タンク1と、減圧弁2と、供給管3と、中圧側圧力センサ4と、インジェクタ6と、エジェクタ8と、還流管5と、低圧側圧力センサ12と、排出管7と、気液分離器14と、排気排水弁16と、ポンプ18と、排気排水管9と、を備える。燃料ガス供給ユニット10は、水素タンク1内に貯留された水素ガスを、燃料電池20に供給するためのユニットである。水素タンク1は、供給管3を介して、燃料電池20のアノード供給口22aと接続される。これにより、水素タンク1内の水素ガスが、供給管3を介して燃料電池20に供給される。なお、
図1では、理解しやすいように、水素ガスが循環する各管3、5、7にドット(点群)を記載している。
【0017】
供給管3には、中圧側圧力センサ4と、減圧弁2と、インジェクタ6と、エジェクタ8と、低圧側圧力センサ12と、が接続される。減圧弁2は、水素タンク1内の高圧の水素ガスを、所定の圧力に減圧する。中圧側圧力センサ4は、減圧弁2によって減圧された圧力を検出する。インジェクタ6は、エジェクタ8に供給する水素ガスの量を調整する電磁弁である。インジェクタ6が大きく開くほど、インジェクタ6の出力が大きくなり、エジェクタ8に供給される水素ガスの量が増加する。エジェクタ8は、インジェクタ6から供給される水素ガスの圧力を利用して、還流管5から水素ガスを取り入れる。低圧側圧力センサ12は、エジェクタ8から燃料電池20に供給される水素ガスの圧力を検出する。すなわち、低圧側圧力センサ12は、燃料電池20内の圧力を検出する。
【0018】
燃料ガス供給ユニット10の排出管7は、燃料電池20のアノード排出口24aと接続される。アノード排出口24aから排出されるオフガスは、排出管7を介して、気液分離器14に流入する。ここでオフガスは、燃料電池20における上述の化学反応で余った水素ガスを含む。
【0019】
気液分離器14は、アノード排出口24aから排出されるオフガスを水素ガスと不純物とに分離する。例えば、気液分離器14は、気液分離器14内のオフガスを水素ガス、窒素ガス、水などに分離する。窒素ガスは、例えば、カソード供給口22kに供給される空気に含まれている窒素が、複数のセル26の電解質膜(図示省略)を通過してアノード側に達したものである。ポンプ18は、気液分離器14がオフガスから分離した水素ガスを、還流管5を介してエジェクタ8に供給する。これにより、水素ガスが、エジェクタ8を介して再び燃料電池20のアノード供給口22aに供給される。このように、燃料ガス供給ユニット10は、オフガスに含まれる水素ガス(すなわち、燃料ガス)を還流させる。なお、変形例では、燃料ガス供給ユニット10は、ポンプ18を備えなくてもよい。その場合、エジェクタ8に生じる負圧により、還流管5内の水素ガスがエジェクタ8に供給されてもよい。
【0020】
気液分離器14は、排出管7を介して燃料電池20と接続されている。排気排水弁16は、気液分離器14及び排出管7を介して燃料電池20と接続されている。排気排水弁16が開かれると、気液分離器14がオフガスから分離した窒素ガス等の不純物が、排気排水管9に排出される。
【0021】
酸化ガス供給ユニット30は、燃料電池20に空気(酸素)を供給する。酸化ガス供給ユニット30は、コンプレッサ32と、供給管33と、バイパス管35と、排出管37と、弁34、36、38と、を備えている。コンプレッサ32は、外気を圧縮し、供給管33を介して燃料電池20のカソード供給口22kに空気を供給する。排出管37は、カソード排出口24kに接続される。バイパス管35は、供給管33と排出管37とを弁38を介して接続する。弁34と弁36とは、いわゆる調圧弁であり、各弁34、36により、燃料電池20に供給される空気の圧力が調整される。
【0022】
制御装置40は、CPU、メモリを有するコンピュータである。制御装置40は、燃料電池車両のアクセル開度、速度等の走行情報に基づいて、各ユニット10、30を制御する。これにより、燃料電池20は走行情報に基づいた電力を発電する。
【0023】
図2を参照して、燃料電池20の構造の詳細について説明する。燃料電池20は、複数のセル26に加え、さらにケース21と、供給側マニホールド23と、排出側マニホールド27と、バイパスチューブ29と、を備える。ケース21は、矩形形状を有しており、複数のセル26を収容する。複数のセル26は、各セルを、ケース21の長手方向に積層することによって構成される。ケース21の長手方向の一方の側面には、アノード供給口22aとアノード排出口24aとが配置されている。以下では、理解を助けるため、燃料電池20の長手方向の一方側を正面側と称し、他方側を裏面側と称することがある。
【0024】
アノード供給口22aは、アノード排出口24aの上方に位置している。供給管3は、アノード供給口22aを介して、供給側マニホールド23と接続される。供給側マニホールド23は、供給管3と複数のセル26とを連通する空間である。供給側マニホールド23は、燃料電池20の正面側ではケース21の外部に開放されており、燃料電池20の裏面側ではケース21によって閉鎖されている。供給管3内の水素ガスは、供給側マニホールド23を介して複数のセル26に供給される。
【0025】
同様に、排出管7は、アノード排出口24aを介して、排出側マニホールド27と接続される。排出側マニホールド27は、排出管7と複数のセル26とを連通する空間である。排出側マニホールド27は、燃料電池20の正面ではケース21の外部に開放されており、燃料電池20の裏面側ではケース21によって閉鎖されている。複数のセル26を通過したオフガスは、アノード排出口24aを介して、排出管7に排出される。
【0026】
バイパスチューブ29は、円筒形状を有しており、その両端が開放されている。バイパスチューブ29は、排出側マニホールド27の底面に配置される。バイパスチューブ29は、排出側マニホールド27の底面に沿って、アノード排出口24aまで延びている。バイパスチューブ29の裏面側の端は、排出側マニホールド27の裏面側の端部に位置する。バイパスチューブ29の断面積は、排出側マニホールド27の断面積よりも小さい。このため、バイパスチューブ29を通過するオフガスの流速は、排出側マニホールド27を通過するオフガスの流速よりも速い。バイパスチューブ29内では、マニホールド圧損及び動圧差が生じ、バイパスチューブ29の入口と出口とに差圧が発生する。このため、バイパスチューブ29は、比較的短時間で残留水Wをアノード排出口24aから燃料電池20の外部に排出することができる。
【0027】
排出側マニホールド27は、燃料電池20のケース21の底面に沿って、燃料電池20の裏面側から正面側に、長手方向に延びている。このため、排出側マニホールド27には、化学反応により生成される水が残留しやすい。特に、例えば燃料電池システム100が搭載される燃料電池車両が傾斜する斜面を走行しており、燃料電池20が地面GLに対して角度A1で傾斜する場合、
図2に示されるように、燃料電池20の排出側マニホールド27の裏面側の端部に、残留水Wが溜まりやすい。以下では、制御装置40が、残留水Wを燃料電池20内から排出するために実行する排水処理について説明する。
【0028】
図3及び
図4を参照して、第1実施形態の制御装置40が実行する排水処理について説明する。
図3は、燃料電池20内の圧力値Pの変化(
図3(A))と、排気排水弁16の状態の変化(
図3(B))と、燃料電池20に供給される水素ガスの流量Vの変化(
図3(C))と、を経時的に示す。
図3(A)では、制御装置40が燃料ガス供給ユニット10に対して送信する燃料電池20内の圧力指令値Pdを実線で示し、低圧側圧力センサ12(
図1参照)の実際の検出値Pr(すなわち、燃料電池20内の圧力値P)を破線で示す。
【0029】
制御装置40は、第1の期間T1にわたって第1の処理を実行し、その後、第2の期間T2にわたって第2の処理を実行する。
図3(A)の実線のグラフに示されるように、第1の処理では、制御装置40は第1の期間T1にわたって、燃料ガス供給ユニット10に対して、圧力指令値Pdとして閾値圧力値P2を送信する。具体的には、第1の処理では、制御装置40は、燃料電池20内の圧力値Pが閾値圧力値P2となるまで、燃料ガス供給ユニット10の減圧弁2、インジェクタ6、ポンプ18を制御して、燃料電池20に供給される燃料ガスの流量Vを増加させる。ここで、閾値圧力値P2は、燃料電池20が燃料ガスを供給可能な状態であることを判定するための圧力値であり、燃料電池20のサイズ、燃料ガス供給ユニット10の各管のサイズ等に応じて算出される。その結果、
図3(C)に示されるように、第1の期間T1では、燃料電池20内に供給される水素ガスの流量Vは、通常時流量V1から排水時流量V2に増加する。
【0030】
このため、第1の期間T1にわたって、燃料電池20内の各マニホールド23、27を水素ガスが通過する。この際、排出側マニホールド27内に溜まった残留水W(
図2参照)がアノード排出口24aを介して、排出管7に排出される。
【0031】
また、
図3(B)に示されるように、制御装置40は、第1の処理では第1の期間T1にわたって、排気排水弁16を閉じたままに保持する。別言すれば、第1の期間T1では、供給管3、燃料電池20、排出管7、還流管5等が密閉された状態で、燃料ガスが燃料電池20に供給される。このため、
図3(A)の破線のグラフで示されるように、第1の期間T1では、燃料電池20内の実際の圧力値Pは、通常時圧力値P1から閾値圧力値P2に増加する。
【0032】
制御装置40は、燃料電池20内の圧力値Pが閾値圧力値P2に達したときに、第2の処理を開始する。第2の処理では、制御装置40は、第2の期間T2にわたって、排気排水弁16を開く。また、第2の期間T2では、
図3(A)に示されるように、制御装置40は、燃料ガス供給ユニット10に対して、圧力指令値Pdとして閾値圧力値P2よりも低い通常時圧力値P1を送信する。その結果、第2の期間T2では、
図3(C)に示されるように、燃料電池20に供給される燃料ガスの流量Vは、排水時流量V2から通常時流量V1に低下する。さらに、
図3(A)の破線のグラフに示されるように、第2の期間T2では、燃料電池20内の圧力値Pは、閾値圧力値P2から通常時圧力値P1まで低下する。
【0033】
このように、第2の処理では、燃料電池20内の圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下する。この結果、制御装置40は、再び第1の処理を実行することによって、燃料電池20内に水素ガスを供給することができる。すなわち、再び、燃料電池20内の残留水Wが排出される。このように、制御装置40は、第1の処理と第2の処理とを交互に繰り返すことによって、燃料電池20の排出側マニホールド27に溜まった残留水Wをアノード排出口24aから排出することができる。
【0034】
次に、
図4を参照して、制御装置40が実行する排水処理について説明する。制御装置40は、例えば、電気自動車の走行中に
図4の処理を実行する。このため、
図4の排水処理を開始する時点では、制御装置40は、圧力指令値Pdとして通常時圧力値P1を燃料ガス供給ユニット10に送信しており、減圧弁2及びインジェクタ6(
図1参照)は開かれ、通常時流量V1の水素ガスが燃料電池20に供給されている。すなわち、排水処理を開始する時点では、燃料電池20は発電を実行している。
【0035】
ステップS2では、制御装置40は、燃料電池20の運転実績が閾値実績以上であるか否かを判定する。具体的には、制御装置40は、燃料電池20の発電した電力量が閾値電力量であるか否かを判定する。燃料電池20内に溜まる残留水W(
図2参照)の量は、燃料電池20の発電量に比例する。このため、燃料電池20が発電した電力量が閾値電力量よりも小さい場合、残留水Wの量は少ないことが推測される。この場合、制御装置40は、燃料電池20の運転実績が閾値実績に達していないと判定して(S2:NO)、再度ステップS2の処理を実行する。すなわち、制御装置40は、燃料電池20が発電した電力量が閾値電力量以上となるまで(すなわち、残留水Wの量が所定の量を超えたと推測されるまで)、ステップS2の処理を繰り返す
【0036】
制御装置40は、発電した電力量が閾値電力量以上である場合に、燃料電池20の運転実績が閾値実績以上であると判定して(S2:YES)、ステップS4の処理に進み、第1の処理を開始する。ステップS4では、
図3(A)を参照して説明したように、制御装置40は、圧力指令値Pdとして閾値圧力値P2を燃料ガス供給ユニット10に送信する。次いで、これにより、インジェクタ6、ポンプ18の出力が増加する。その結果、燃料電池20に供給される水素ガスの流量Vが排水時流量V2に増加する。
【0037】
なお、先に述べたように、制御装置40は、電気自動車の走行情報を受信している。このため、制御装置40は、例えば、電気自動車が斜面を走行している場合、モータのトルク、回転数、走行速度等の情報から、当該斜面の水平方向に対する角度A1(
図2参照)を推測することができる。ステップS2およびステップS4の処理において、制御装置40は、推測した角度A1に応じて、閾値圧力値P2の大きさを調整する。具体的には、角度A1が大きいほど、閾値圧力値P2を大きくする。これにより、角度A1が大きいほど、インジェクタ6の出力が大きくなり、大量の水素ガスが燃料電池20に供給される。このため、傾斜した燃料電池20内の残留水を排出することができる。
【0038】
ステップS6において、制御装置40は、ステップS4の処理において決定したインジェクタ6の出力と、経過時間とから除去水量W2を算出する。次いで、制御装置40は、ステップS8において、ステップS2の運転実績から算出された残留水量W1と、ステップS6で算出した除去水量W2とを比較する。ここで、残留水量W1は、運転実績に基づいて算出される燃料電池20に残存すると推測される残留水Wの量である。残留水量W1の残留水Wが全て除去されれば、燃料電池20内の排水が完了したと推測される。このため、除去水量W2が残留水量W1よりも大きい場合(S8:YES)、制御装置40は、残留水Wの排出が完了したと判定して、ステップS10に進み、圧力指令値Pdとして通常時圧力値P1を燃料ガス供給ユニット10に送信する。この結果、インジェクタ6の出力が小さくなる。これにより、燃料電池20に供給される水素ガスの流量Vが通常時流量V1まで低下する。その後、制御装置40は、排水処理を終了する。
【0039】
一方、除去水量W2が残留水量W1よりも小さい場合(S8:NO)、制御装置40は、まだ燃料電池20内に残留水Wが溜まっている、すなわち、燃料電池20内の排水が完了していないと判定して、ステップS12において、燃料電池20の圧力値Pと閾値圧力値P2とを比較する。圧力値Pが閾値圧力値P2に達していない場合(S12:NO)、制御装置40は、再びステップS6の処理に戻り、除去水量W2を推測する。制御装置40は、再びステップS8の処理を実行し、残留水量W1と除去水量W2とを比較する。この場合、燃料電池20内の残留水量W1は、ステップS4の処理によって減少している。制御装置40は、残留水量W1が所定の閾値水量を下回るまで、もしくは、圧力値Pが閾値圧力値P2に達するまで、ステップS6及びS8の処理を繰り返す。ここで、閾値水量は、燃料電池20内に残留していても問題ないと判断される残留水Wの量である。閾値水量は、燃料電池20のサイズ、発電量等に応じて算出される。
【0040】
圧力値Pが閾値圧力値P2に達した場合(S12:YES)、制御装置40は、ステップS14の処理に進み、第2の処理を開始する。ステップS14の処理では、
図3(A)を参照して説明したように、制御装置40は、圧力指令値Pdとして通常時圧力値P1を燃料ガス供給ユニット10に送信する。これにより、
図3(C)を参照して説明したように、燃料電池20に供給される水素ガスの流量Vが通常時流量V1に低下する。さらに、ステップS16では、
図3(B)を参照して説明したように、制御装置40は、排気排水弁16を開く。これにより、燃料電池20内の圧力値Pが低下する。
【0041】
次いで、ステップS18では、制御装置40は、圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下したか否かを判定する。圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下していない場合(S18:NO)、制御装置40は、再びステップS18の処理に戻り、圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下したか否かを監視する。すなわち、制御装置40は、圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下するまで、ステップS18の処理を繰り返す。
【0042】
圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下した場合(S18:YES)、制御装置40は、再びステップS4の処理を実行し、圧力指令値Pdとして閾値圧力値P2を燃料ガス供給ユニット10に送信する。すなわち、圧力値Pが通常時圧力値P1まで低下した場合、制御装置40は、再び、第1の処理を実行する。
【0043】
このように、本実施形態の制御装置40は、第1の処理で圧力値Pが閾値圧力値P2に達した場合に、第2の処理で排気排水弁16を開くことによって、燃料電池20内の圧力値Pを低下させる。このため、比較的容易に燃料電池20内の圧力値Pを低下させることができる。これにより、比較的短時間内に、大量の溜まった残留水Wを排出することができる。
【0044】
(第2実施形態)
図5及び
図6を参照して、第2実施形態の燃料電池システム100について説明する。第2実施形態の燃料電池システム100は、第1実施形態の燃料電池システム100と比較すると、第2の処理において異なる処理を実行するが、それ以外の点については同様の構成を有する。
【0045】
図5は、燃料電池20内の圧力値Pの変化(
図5(A))と、燃料電池20の発電電流値Iの変化(
図5(B))と、燃料電池20に供給される水素ガスの流量Vの変化(
図5(C))と、を経時的に示す。
図5(A)は、
図3(A)と同様であり、
図5(C)は、
図3(C)と同様である。第2実施形態の制御装置40は、第2の処理において、第2の期間T2にわたって、燃料電池20の発電電流値Iを通常時電流値I1から排水時電流値I2まで増加させる。制御装置40は、第2の期間T2にわたって、排水時電流値I2に対応する酸素を供給するように酸化ガス供給ユニット30を制御する。これにより、燃料電池20内の燃料ガスが、発電によって消費される。その結果、
図5(A)に示されるように、第2の期間T2では、圧力値Pが通常時圧力値P1に低下する。第1の処理によって燃料電池20内の圧力値Pが上昇した場合であっても、本実施形態の燃料電池システム100は、再び燃料電池20に水素ガスを供給することができる。
【0046】
図6を参照して、本実施形態の制御装置40が実行する処理について説明する。
図6は、ステップS26の処理が、
図5のステップS16とは異なるが、それ以外の点においては、
図5と同様である。圧力値Pが閾値圧力値P2に達した場合(S12:YES)、制御装置40は、ステップS14で圧力指令値Pdとして通常時圧力値P1を燃料ガス供給ユニット10に送信して第2の処理を開始した後、ステップS26の処理に進む。ステップS26では、制御装置40は、燃料電池20の発電電流値Iを通常時電流値I1から排水時電流値I2まで増加させる。これにより、
図5(A)に示されるように、燃料電池20内の圧力値Pが低下する。
【0047】
このように、本実施形態の制御装置40は、圧力値Pが閾値圧力値P2に達した場合に、燃料電池20の発電電流値Iを通常時電流値I1から排水時電流値I2まで増加させることによって、圧力値Pを低下させる。増加した発電量は、電気自動車のバッテリ(図示省略)に充電される。このため、水素ガスを無駄にすることなく、残留水Wを排出することができる。
【0048】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。上記の実施形態の変形例を以下に列挙する。
【0049】
(変形例1)上述した第1実施形態の制御装置40は、燃料電池20の発電中に排水処理を実行したが、本変形例の制御装置40は、燃料電池20が発電を停止している間に排水処理を実行してもよい。その場合、例えば、
図4のステップS16の処理において、インジェクタ6を閉じてもよい。
【0050】
(変形例2)制御装置40は、第1の処理において、インジェクタ6の出力を変更せずに、ポンプ18のみの出力を変更して、水素ガスを燃料電池20に供給してもよい。また、さらなる変形例では、制御装置40は、第1の処理において、ポンプ18の出力を変更せずに、インジェクタ6の出力のみを変更して、水素ガスを燃料電池20に供給してもよい。
【0051】
(変形例3)第1実施形態の制御装置40は、ステップS6の処理において、中圧側圧力センサ4の検出値とインジェクタ6を開いた時間とに基づいて、除去水量W2を算出してもよい。
【0052】
(変形例4)第1実施形態の制御装置40は、ステップS18の処理において、圧力値Pと通常時圧力値P1との比較をすることに代えて、低圧側圧力センサ12の低加速度から排気量積算値を推定し、当該排気量積算値が所定の閾値を超えた場合に、再び第1の処理を開始してもよい。
【0053】
(変形例5)第2実施形態の制御装置40は、ステップS18の処理において、圧力値Pと通常時圧力値P1との比較をすることに代えて、発電電流値が所定の閾値発電電流値を超えた場合に、再び第1の処理を開始してもよい。
【0054】
(変形例6)燃料電池20は、バイパスチューブ29を備えなくてもよい。
【0055】
(変形例7)第1実施形態の制御装置40は、ステップS4の処理において、燃料電池20の傾斜する角度A1に応じて、インジェクタ6の出力を変更しなくてもよい。すなわち、本変形例の制御装置40は、燃料電池20の傾斜する角度A1に応じて水素ガスの供給量を変更しなくてもよい。
【0056】
(変形例8)制御装置40は、ステップS2の処理において、燃料電池20の運転実績に応じて排水処理を開始しなくてもよい。制御装置40は、所定の期間毎に開始してもよいし、ユーザからの指示に応じて排水処理を実行してもよい。
【0057】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0058】
1 :水素タンク
2 :減圧弁
3、33 :供給管
4 :高圧側圧力センサ
5 :戻し管
6 :インジェクタ
7、37 :排出管
8 :エジェクタ
9 :排気排水管
10 :燃料ガス供給ユニット
12 :低圧側圧力センサ
14 :気液分離器
16 :排気排水弁
18 :ポンプ
20 :燃料電池
21 :ケース
22a :アノード供給口
22k :カソード供給口
23 :供給側マニホールド
24a :アノード排出口
24k :カソード排出口
26 :複数のセル
27 :排出側マニホールド
29 :バイパスチューブ
30 :酸化ガス供給ユニット
32 :コンプレッサ
34、36、38 :弁
35 :バイパス管
40 :制御装置
100 :燃料電池システム
A1 :角度
W :残留水