(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】報知方法、報知装置、及び報知プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2022043706
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 純一
(72)【発明者】
【氏名】小見 聡
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-051570(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035118(WO,A1)
【文献】特開2016-055691(JP,A)
【文献】特開2016-085563(JP,A)
【文献】特開2021-125114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60R 21/00 - 21/017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と前記車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、
前記潜在衝突リスクが予見されたことを受けて、前記車両に搭載された外向き報知器を用いて前記車両が走行していることを周囲に知らせる第1の報知を行うことと、
前記車両の進行方向に確認されている顕在交通参加者と前記車両との間の顕在衝突リスクを検知することと、
前記顕在衝突リスクが検知されたことを受けて、前記外向き報知器を用いて前記車両の衝突回避行動を周囲に知らせる第2の報知を行うことと、
前記潜在衝突リスクが存続している間は、前記第2の報知に対して前記第1の報知を優先することと、を含む
ことを特徴とする報知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の報知方法において、
前記潜在衝突リスクを予見することは、前記車両の進行方向に存在する交通参加者の存在の蓋然性が高い領域、或いは、前記車両からの死角となる領域を検知することを含む
ことを特徴とする報知方法。
【請求項3】
請求項2に記載の報知方法において、
前記潜在衝突リスクを予見することは、環境情報に基づいて前記潜在交通参加者の存在の可能性の高さを計算することを含む
ことを特徴とする報知方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の報知方法において、
前記潜在衝突リスクを予見することは、環境情報に基づいて前記潜在交通参加者が存在する前提での前記潜在交通参加者と前記車両との衝突の可能性の高さを計算することを含む
ことを特徴とする報知方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の報知方法において、
前記車両は運転者によって運転される車両であり、
前記潜在衝突リスクを予見することは、前記運転者が前記潜在衝突リスクに対して対応困難であることを検知することを含む
ことを特徴とする報知方法。
【請求項6】
車両の外に向けて出力する外向き報知器と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と前記車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、
前記潜在衝突リスクが予見されたことを受けて、前記外向き報知器を用いて前記車両が走行していることを周囲に知らせる第1の報知を行うことと、
前記車両の進行方向に確認されている顕在交通参加者と前記車両との間の顕在衝突リスクを検知することと、
前記顕在衝突リスクが検知されたことを受けて、前記外向き報知器を用いて前記車両の衝突回避行動を周囲に知らせる第2の報知を行うことと、
前記潜在衝突リスクが存続している間は、前記第2の報知に対して前記第1の報知を優先することと、を実行するように構成された
ことを特徴とする報知装置。
【請求項7】
車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と前記車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、
前記潜在衝突リスクが予見されたことを受けて、前記車両に搭載された外向き報知器を用いて前記車両が走行していることを周囲に知らせる第1の報知を行うことと、
前記車両の進行方向に確認されている顕在交通参加者と前記車両との間の顕在衝突リスクを検知することと、
前記顕在衝突リスクが検知されたことを受けて、前記外向き報知器を用いて前記車両の衝突回避行動を周囲に知らせる第2の報知を行うことと、
前記潜在衝突リスクが存続している間は、前記第2の報知に対して前記第1の報知を優先することと、を前記車両に搭載されたコンピュータに実行させるように構成された
ことを特徴とする報知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載された報知器を用いて車両の行動状態を車外に報知する報知方法、報知装置、及び報知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動運転車両から歩行者への報知手段が提案されている。提案されている報知手段は、色、テキストメッセージ、音などであり、歩行者に対してのコミュニケーション手段として説明されている。
【0003】
本開示の技術分野或いはそれに関連する技術分野における出願時の技術レベルを示す文献としては、特許文献1の他にも特許文献2が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】英国特許出願公開第2531084号明細書
【文献】特開2020-107163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
見通しの悪い交差点や非優先の交差点では事故が発生しやすい。その少なくとも一部は車両からは見えない潜在交通参加者と車両との衝突事故である。潜在交通参加者は車両によって検知されることで顕在交通参加者となる。しかし、走行する車両にとって、突然現れた交通参加者との衝突を回避することは必ずしも容易ではない。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、車両からは見えない潜在交通参加者と車両との衝突事故の低減に寄与する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は報知方法を提供する。本開示の報知方法は、車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、潜在衝突リスクが予見されたことを受けて車両に搭載された外向き報知器を用いて第1の報知を行うこととを含む。第1の報知は走行している車両が走行していることを周囲に知らせる報知である。第1の報知が行われることで、実際に潜在交通参加者が存在している場合に、潜在交通参加者は走行している車両の存在を知ることができる。
【0008】
本開示の報知方法は、車両の進行方向に確認されている顕在交通参加者と車両との間の顕在衝突リスクを検知することと、顕在衝突リスクが検知されたことを受けて外向き報知器を用いて第2の報知を行うこととを含んでもよい。第2の報知は車両の衝突回避行動を周囲に知らせる報知である。第2の報知が行われることで、顕在交通参加者と車両との間でのコミュニケーション上の誤解が回避される。
【0009】
また、本開示の報知方法は、潜在衝突リスクが存続している間は第2の報知に対して第1の報知を優先することをさらに含んでもよい。第1の報知を優先することで、より重大な衝突事故が起こりうる潜在衝突リスクの回避が優先される。
【0010】
潜在衝突リスクを予見することには、車両の進行方向に存在する交通参加者の存在の蓋然性が高い領域、或いは、車両からの死角となる領域を検知することが含まれてもよい。これらの領域は他の領域に比較して潜在交通参加者が存在している確率が高い。ゆえに、これらの領域の存在を前提として潜在衝突リスクを予見してもよい。
【0011】
潜在衝突リスクを予見することには、環境情報に基づいて潜在交通参加者の存在の可能性の高さを計算することが含まれてもよい。また、潜在衝突リスクを予見することには、環境情報に基づいて潜在交通参加者が存在する前提での潜在交通参加者と車両との衝突の可能性の高さを計算することが含まれてもよい。潜在交通参加者の存在の可能性は環境に左右される。また、潜在交通参加者と車両との衝突の可能性も環境に左右される。ゆえに、これらの可能性の高さを考慮に入れることで、潜在衝突リスクの予見の精度が高められる。
【0012】
車両が運転者によって運転される車両であるならば、潜在衝突リスクを予見することには、運転者が潜在衝突リスクに対して対応困難であることを検知することが含まれてもよい。つまり、仮に潜在衝突リスクがあったとしても運転者が対応可能であれば、運転者に対応を委ねてもよい。
【0013】
また、本開示は報知装置を提供する。本開示の報知装置は、車両の外に向けて出力する外向き報知器と、制御装置とを備える。制御装置は、車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、潜在衝突リスクが予見されたことを受けて外向き報知器を用いて第1の報知を行うこととを実行するように構成されている。
【0014】
さらに、本開示は報知プログラムを提供する。本開示の報知プログラムは、車両の進行方向に潜む潜在交通参加者と車両との間の潜在衝突リスクを予見することと、潜在衝突リスクが予見されたことを受けて車両に搭載された外向き報知器を用いて第1の報知を行うこととを車両に搭載されたコンピュータに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、潜在衝突リスクが予見されたことを受けて第1の報知が行われることで、潜在交通参加者は走行している車両の存在を知ることができる。これにより、潜在交通参加者と車両との衝突事故は低減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施形態に係る報知装置が適用された車両の外部センサの搭載例を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る報知装置が適用された車両の表示パネルの搭載例を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る報知装置のシステム構成例を示す図である
【
図4】本開示の実施形態に係る報知装置による報知方法の概要を説明する図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る報知装置による報知方法の概要を説明する図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る報知装置による報知方法の概要を説明する図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る報知装置による報知方法の概要を説明する図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る報知プログラムの自動運転用のロジックを示すフローチャートである。
【
図9】本開示の実施形態に係る報知プログラムの手動運転用のロジックを示すフローチャートである。
【
図10】報知プログラムに含まれる顕在衝突リスク判定処理ルーチンのロジックを示すフローチャートである。
【
図11】報知プログラムに含まれる潜在衝突リスク判定処理ルーチンのロジックを示すフローチャートである。
【
図12】報知プログラムに含まれる運転者状態リスク判定処理ルーチンのロジックを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本発明に必ずしも必須のものではない。
【0018】
1.報知装置の構成
まず、本実施形態に係る報知装置の構成について説明する。本実施形態に係る報知装置は自律走行が可能な自動運転車両に適用される。
【0019】
図1は、本実施形態に係る報知装置が適用された自動運転車両10の外部センサの搭載例を示す図である。
図1に示す自動運転車両10は路線バスやオンデマンド交通で用いられるバス型の車両である。以下、自動運転車両10を単に車両10と称する。車両10に搭載される外部センサは、典型的には、カメラ、LIDAR、及びレーダである。
図1において実線で示す検知範囲はカメラの検知範囲の例、破線で示す検知範囲はLIDARの検知範囲の例、一点鎖線で示す検知範囲はレーダの検知範囲の例である。
【0020】
図1に示す例では、車載カメラとして前方を撮影するカメラ20が搭載されている。また、車載LIDARとして前方を検知する前方LIDAR22F、左前方を検知する左前方LIDAR22FL、右前方を検知する右前方LIDAR22FR、後方を検知する後方LIDAR22R、左後方を検知する左後方LIDAR22RL、及び右後方を検知する右後方LIDAR22RRが搭載されている。また、車載レーダとして左前方を検知する左前方レーダ24FL、右前方を検知する右前方レーダ24FR、左後方を検知する左後方レーダ24RL、及び右後方を検知する右後方レーダ24RRが搭載されている。
【0021】
車両10の自動運転システムは、上記の複数種類の外部センサを用いて周辺状況を認識し、その認識結果に基づいて車両10を自律走行させる。具体的には、自動運転システムはLIDARからの情報を基礎として地図情報との比較で自己位置の推定を行う。また、レーダとLIDARの情報より動的な障害物のトラッキングを行うとともに、それらのフュージョンの結果に基づいてレーン判別を実施する。このとき、基本的な立体物の認識はLIDARで行われ、移動物体との距離の測定にはレーダが使用される。そして、自己位置推定結果、レーン判別結果、走行経路を含む地図情報、カメラで認識された信号情報、ナビゲーションシステムで決定された目標経路などに基づき、車両10を交通規則に従いながら安全に走行させるための走行計画を作成する。
【0022】
自動運転システムは走行計画を基礎として目標軌跡を生成する。目標軌跡は最終的に車両10が採るべき走行軌跡であり、外部センサで検知された車両10の前方の障害物との衝突を考慮した上で決定される。目標軌跡は、車両10が走行する道路内における車両10の目標位置の集合と、目標位置毎の目標速度とを含む。自動運転システムは、目標軌跡に車両10を追従させるために、車両10と目標軌跡との間の偏差(横偏差、ヨー角偏差、速度偏差など)を算出し、その偏差が減少するように車両10の操舵、制動、又は駆動を制御する。
【0023】
本実施形態に係る報知装置は、車両10の周辺状況に関する情報を取得する情報取得装置として、自動運転システムが使用する上記の複数種類の外部センサを使用する。情報取得装置としての外部センサの中でも、車両10の周辺の立体物の検知には主にLIDARが用いられる。ただし、LIDARに代えてカメラやレーダを検知手段として用いてもよいし、LIDARと併せてカメラやレーダを検知手段として用いてもよい。
【0024】
本実施形態に係る報知装置は車両10の外に向けて報知を行う外向き報知器を備える。本実施形態では、外向き報知器は視覚情報を提示する表示パネルとして構成される。
図2は車両10への表示パネルの搭載例を示す図である。
【0025】
図2Aには右前方から見た車両10の外観が模式的に描かれている。
図2Aに示すように、車両10の前面12Fには、前表示パネル30Fが取り付けられている。前表示パネル30Fはヘッドライト間に拡がる車両10の幅方向に広い表示パネルである。また、車両10の右側面12SRには、右横表示パネル30SRが取り付けられている。右横表示パネル30SRは、右前輪14FRから右後輪14RRまでの範囲に拡がる車両10の前後方向に広い表示パネルである。
【0026】
図2Bには左後方から見た車両10の外観が模式的に描かれている。
図2Bに示すように、車両10の後面12Rには、後表示パネル30Rが取り付けられている。後表示パネル30Rは尾灯間に拡がる車両10の幅方向に広い表示パネルである。また、車両10の左側面12SLには、左横表示パネル30SLが取り付けられている。左横表示パネル30SLは、左前輪14FLから左後輪14RLまでの範囲に拡がる車両10の前後方向に広い表示パネルである。左横表示パネル30SLは乗車ドア16において複数枚に分割されている。
【0027】
上述のように、外向き報知器を構成する4つの表示パネル30F,30R,30SR,30SLは、互いに異なる方向に向けて取り付けられている。これにより、車両10の周囲に存在する交通参加者は、どの方向からでも少なくとも1枚の表示パネル30F,30R,30SR,30SLを見ることができる。上記の各表示パネル30F,30R,30SR,30SLは、例えば、液晶表示パネル、有機EL表示パネル、LED表示パネルなどの表示内容を変化させることが可能な表示パネルである。
【0028】
図3は、本開示の実施形態に係る報知装置のシステム構成を示す図である。報知装置は制御装置100を備える。車両10に搭載された複数種類の外部センサ、すなわち、カメラ20、LIDAR22F,22FL,22FR,22R,22RL,22RR、レーダ24FL,24FR,24RL,24RRで得られた情報は制御装置100に送信される。各外部センサは制御装置100に車内ネットワークによって接続されている。また、車両10に搭載された各表示パネル30F,30R,30SR,30SLもまた車内ネットワークによって制御装置100に接続されている。各表示パネル30F,30R,30SR,30SLの表示内容は、制御装置100から送信される制御信号によって個別に制御される。
【0029】
制御装置100には、データ通信モジュール42、ナビゲーションシステム44、及び自動/手動切替スイッチ46等のデバイスが接続されている。データ通信モジュール42は通信ネットワークを介してサーバに接続し、サーバ上の道路特徴地図、トラッキング用地図、交通ルール地図、及び走行経路地図から自動運転に必要な地図情報を取得して制御装置100に提供する。ナビゲーションシステム44はナビゲーション用地図からルートプランを作成して制御装置100に提供する。自動/手動切替スイッチ46は自動運転と手動運転とを切り替えるスイッチである。切り替えは自動運転システムからの要求で行われることもあれば、運転者が自身の判断で行うこともできる。
【0030】
制御装置100はプロセッサ102とメモリ104とを備える車載コンピュータである。制御装置100は単一のECU(Electronic Control Unit)で構成されてもよいし複数のECUの集合体であってもよい。また、制御装置100は、自動運転システムを構成するECUと共通のECUでもよいし、別のECUでもよい。メモリ104には、プロセッサ102で実行可能な種々のプログラム106とそれに関連するデータが記憶されている。ここで言うメモリ104には、RAM(Random Access Memory)のような狭義のメモリに加えて、HDDなどの磁気ディスク、DVDなどの光学ディスク、SSDなどのフラッシュメモリ記憶装置などのデータ保存装置が含まれてもよい。
【0031】
メモリ104に記憶されたプログラム106には、報知プログラム110が含まれる。報知プログラム110は、車載の報知装置、すなわち、表示パネル30F,30R,30SR,30SLを用いた報知を制御装置100に実行させるプログラムである。報知プログラム110は、報知判定ルーチン112、顕在衝突リスク判定ルーチン114、潜在衝突リスク判定ルーチン116、及び運転者状態リスク推定ルーチン118を含む。これらのルーチン112,114,116,118を含む報知プログラム110がプロセッサ102によって実行されることにより、本実施形態に係る報知方法が報知装置によって実行される。
【0032】
2.報知方法の概要
次に、本実施形態に係る報知装置による報知方法の概要について
図4乃至
図7を用いて説明する。なお、
図4乃至
図7に示す各例では、車両10は自動運転システムによって自律走行しているものとする。
【0033】
図4に示す例では、車両10が走行している道路の前方に交差点54がある。交差点54に接続する脇道は見通しが悪く、車両10からは死角となる領域ができる。その死角領域に歩行者や自転車などの交通参加者がいたとしても車両10の外部センサでは検知することができない。車両10が交差点54を通過する際、検知されていなかった交通参加者が突然飛び出してきたときには、車両10はその交通参加者との衝突を回避できないおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態に係る報知方法によれば、制御装置100は、車両10の前方に交差点54が存在する場合、その交差点54には潜在交通参加者52が存在すると判断する。そして、制御装置100は、潜在交通参加者52と車両10との間の潜在衝突リスクを判定する。潜在衝突リスクは潜在的に存在する衝突リスクであって、潜在交通参加者52は車両10の前に実在する交通参加者ではない。このため、車両10に搭載された衝突回避システムによる衝突回避行動は取られない。ゆえに、制御装置100は、潜在衝突リスクを予見した場合、潜在衝突リスクを回避するための第1の報知を行う。第1の報知は車両10が走行していることを周囲に知らせる報知である。具体的には、表示パネルに「通過」或いは「発進」と目立つように表示する。このような表示が行われることで、潜在交通参加者52が車両10の存在に気付いたとき、潜在交通参加者52は、車両10が走行していること、つまり、自身が止まらなければ危険であることをいち早く認識することができる。
【0035】
図5に示す例では、車両10が走行している道路の前方を歩行者が歩いている。歩行者は車両10の外部センサによって存在が確認されている顕在交通参加者50である。顕在交通参加者50の存在が確認されると、顕在交通参加者50と車両10との間の顕在衝突リスクが判定される。顕在衝突リスクは既に顕在化している衝突リスクであるので、車両10にとっては回避するための行動が求められる。ゆえに、顕在衝突リスクが検知された場合、衝突回避システムは顕在交通参加者50に対する衝突回避行動を取る。具体的には、顕在交通参加者50の前方から車両10を減速させていき、顕在交通参加者50の近傍で車両10を徐行或いは停止させ、衝突のおそれがなくなったら車両10を発進させる。
【0036】
本実施形態に係る報知方法によれば、制御装置100は、衝突回避システムによる衝突回避行動と並行して、顕在衝突リスクを回避するための第2の報知を行う。第2の報知は車両10の衝突回避行動を周囲に知らせる報知である。具体的には、車両10の減速中は表示パネルに「減速」と表示し、車両10の徐行中は表示パネルに「徐行」と表示し、車両10の停車中は表示パネルに「停車」と表示し、車両10が発車するときは発車の数秒前から表示パネルに「発車」と表示する。このような表示が行われることで、顕在交通参加者50と車両10との間でのコミュニケーション上の誤解は回避される。
【0037】
図6に示す例では、車両10が走行している道路の前方に交差点54があり、その交差点54には潜在交通参加者52が隠れている。また、交差点54よりもさらに前方に顕在交通参加者50が検知されている。この場合、潜在交通参加者52と車両10との間の潜在衝突リスクが予見され、続いて、顕在交通参加者50と車両10との間の顕在衝突リスクも検知されることになる。
【0038】
本実施形態に係る報知方法によれば、潜在衝突リスクが存続している間は第2の報知に優先して第1の報知が行われる。
図6に示す例では、顕在衝突リスクのみであれば表示パネルに「減速」が表示される位置でも、潜在衝突リスクがある場合には表示パネルに「通過」或いは「発進」が表示される。そして、車両10が交差点54に入って潜在衝突リスクが消失した時点で、表示パネルの表示が「通過」或いは「発進」から「減速」に切り替えられる。このように第1の報知を優先することで、より重大な衝突事故が起こりうる潜在衝突リスクの回避が優先される。
【0039】
図7に示す例では、車両10が走行している道路の前方に顕在交通参加者50が検知されている。また、顕在交通参加者50よりもさらに前方に交差点54があり、その交差点54には潜在交通参加者52が隠れている。この場合、顕在交通参加者50と車両10との間の顕在衝突リスクが検知され、続いて、潜在交通参加者52と車両10との間の潜在衝突リスクが予見されることになる。
【0040】
本実施形態に係る報知方法によれば、顕在衝突リスクの検知により第2の報知が行われている場合であっても、潜在衝突リスクが予見された場合には、第2の報知に優先して第1の報知が行われる。
図7に示す例では、顕在衝突リスクのみが検知されている間は表示パネルに「減速」が表示されている。しかし、潜在衝突リスクが予見された時点で、表示パネルの表示が「減速」から「通過」或いは「発進」に切り替えられる。このように第1の報知を優先することで、より重大な衝突事故が起こりうる潜在衝突リスクの回避が優先される。
【0041】
以上のように本実施形態に係る報知方法によれば、潜在衝突リスクが予見された場合、車両10が走行していることを周囲に知らせる第1の報知が行われる。
図4、
図6及び
図7に示す例では、第1の報知として表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示される。この表示が潜在交通参加者52の目に入ったとき、潜在交通参加者52は走行している車両10の存在を瞬間的に認識することができる。これにより、車両10からは見えない潜在交通参加者52と車両10との衝突事故は低減される。また、潜在衝突リスクが存続している間は第2の報知に対して第1の報知が優先されるので、より重大な衝突事故が起こりうる潜在衝突リスクが優先的に回避される。
【0042】
3.報知方法の詳細
本実施形態に係る報知方法は、報知プログラム110がプロセッサ102により実行されることによって制御装置100により実施される。以下、本実施形態に係る報知方法を実施するための報知プログラム110のロジックについて説明する。
【0043】
図8及び
図9は報知プログラム110のロジックを示すフローチャートである。このうち
図8は自動運転用のロジックを示し、
図9は手動運転用のロジックを示している。車両10が自動運転システムによって自動運転される場合には自動運転用のロジックが選択され、車両10が運転者によって手動運転される場合には手動運転用のロジックが選択される。自動運転用のロジックと手動運転用のロジックとは多くが共通し、一部にのみ違いがある。
【0044】
まず、自動運転用のロジックについて
図8を用いて説明する。
図8に示すフローチャートによれば、まず、ステップS01において顕在衝突リスク判定処理が行われる。顕在衝突リスク判定処理は、報知プログラム110のサブルーチンである顕在衝突リスク判定ルーチン114によって行われる。
【0045】
図10は顕在衝突リスク判定ルーチン114のロジックを示すフローチャートである。このフローチャートによれば、まず、ステップS21において車両10の外部センサが交通参加者を認識しているかどうかが判定される。交通参加者が認識されていない場合、顕在衝突リスクはないと判定されて顕在衝突リスク判定ルーチン114は終了する。
【0046】
交通参加者が認識されている場合、ステップS22において減速度が一定値よりも低いかどうか判定される。一定値は車両10が制動による減速中であると判断できる限界の減速度である。減速度が一定値よりも低いことは車両10が制動による減速中であることを意味する。認識された交通参加者に対する衝突のリスクがあれば、衝突回避システムにより衝突回避行動がとられる。よって、車両10が減速されていないのであれば、顕在衝突リスクはないと判定されて顕在衝突リスク判定ルーチン114は終了する。
【0047】
車両10が減速されている場合、ステップS23において顕在衝突リスクの確率演算が行われる。具体的には、認識された交通参加者の動きから交通参加者の一定時間先の動きが予測される。交通参加者の一定時間先の動きは、過去の移動履歴の影響を含めたガウス分布に従うとみなすことができる。そして、予測された一定時間先の動きから交通参加者が車両10の前に出てくる確率が計算される。
【0048】
再び
図8に戻り、報知プログラム110のフローチャートについて説明を続ける。ステップS02では、ステップS01で認識された交通参加者に対して急制動が行われるかどうかが判定される。具体例としては、ステップS01で認識された交通参加者が車両10に到着するまでの時間であるTTR(Time to Reach)と、車両10と交通参加者との衝突までの時間であるTTC(Time to Collision)とが比較される。比較の結果、TTRがTTCよりも大きければ急制動が起きないと判定され、TTRがTTC以下であれば急制動が起きると判定される。ステップS01で交通参加者が認識されていないのであれば、急制動が起きないと判定される。
【0049】
急制動が起きると判定された場合、ステップS08の処理が実行される。ステップS08では、通過表示が実行される。通過表示とは、表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示することである。ステップS02の判定が否定の場合、衝突回避システムにより衝突回避のための急制動が行われる。しかし、表示パネルの表示を「減速」や「停止」とした場合、交通参加者を安心させてしまい、交通参加者の回避行動に遅れを生じさせるおそれがある。これに対し、表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示することで、接近してくる車両10の存在を交通参加者に知らしめ、交通参加者に回避行動を促すことが期待できる。
【0050】
ステップS02で急制動が起きないと判定された場合、ステップS03の処理が実行される。ステップS03では顕在衝突リスクがあるかどうか判定される。顕在衝突リスクの有無はステップS01において行われた顕在衝突リスクの確率演算の結果に基づいて判断される。顕在衝突リスクの確率値が一定値以上であれば顕在衝突リスクがあると判定される。顕在衝突リスクがないと判定された場合、表示パネルによる報知は行われることなく本ルーチンは終了する。
【0051】
ステップS03で顕在衝突リスクがあると判定された場合、ステップS04において潜在衝突リスク判定処理が行われる。潜在衝突リスク判定処理は、報知プログラム110のサブルーチンである潜在衝突リスク判定ルーチン116によって行われる。潜在衝突リスク判定ルーチン116では潜在衝突リスクの確率値が演算される。
【0052】
図11は潜在衝突リスク判定ルーチン116のロジックを示すフローチャートである。このフローチャートによれば、まず、ステップS31において、車両10の進行方向に存在する交通参加者の存在の蓋然性が高い領域、或いは、車両10からの死角となる領域が検知される。
図4に示す例のような交差点の他にも、横断歩道が存在する領域、信号が存在する領域、道路幅が狭い領域などが検知対象に含まれる。これらの領域は他の領域に比較して潜在交通参加者が存在している確率が高い。ゆえに、これらの領域の存在を前提として潜在衝突リスクのベース確率値が演算される。
【0053】
次に、ステップS32では、潜在交通参加者の存在の可能性の高さが車両10の環境情報に基づいて計算される。潜在交通参加者の存在の確率は環境に左右される。潜在交通参加者の存在の確率が高い環境の例としては、学校、駅、及び住宅を挙げることができる。ベース確率値にかけるべき重みづけの数値が学校等の存在の有無に応じて決定される。また、重みづけの数値は学校等からの距離が近いほど大きくされる。
【0054】
次に、ステップS33では、潜在交通参加者が存在する前提での潜在交通参加者と車両との衝突の可能性の高さが車両10の環境情報に基づいて計算される。潜在交通参加者と車両との衝突の確率も環境に左右される。衝突の確率が高まる環境の例としては、交差点に接続する脇道の遮蔽物を挙げることができる。ベース確率値にかけるべき重みづけの数値が遮蔽物の存在の有無に応じて決定される。また、重みづけの数値は遮蔽物の高さが一定値以上である場合に大きくされる。
【0055】
そして、ステップS34では、ステップS31乃至S33の計算結果に基づいて、車両10からは見えない潜在交通参加者が車両10の前に出てくる確率が計算される。具体的には、ステップS31で計算されたベース値にステップS32及びS33で計算された重みづけの数値をかけることによって潜在衝突リスクの確率値が演算される。
【0056】
再び
図8に戻り、報知プログラム110のフローチャートについて説明を続ける。ステップS05では潜在衝突リスクがあるかどうか判定される。潜在衝突リスクの有無はステップS04において行われた潜在衝突リスクの確率演算の結果に基づいて判断される。潜在衝突リスクの確率値が一定値以上であれば潜在衝突リスクがあると判定される。
【0057】
潜在衝突リスクがないと判定された場合、ステップS06の処理が実行される。ステップS06では、顕在衝突リスクに対応するための通常の報知処理が行われる。通常の報知処理は、報知プログラム110のサブルーチンである報知判定ルーチン112によって行われる。報知判定ルーチン112による報知処理では、車両10と顕在交通参加者との距離に応じて表示パネルの表示を「減速」から「徐行」又は「停車」に変化させ、さらに「発車」に変化させることが行われる(
図5参照)。
【0058】
潜在衝突リスクがあると判定された場合、ステップS07の処理が実行される。ステップS07では、表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示する通過表示が実行される。表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示されることで、潜在交通参加者52が車両10の存在に気付いたとき、潜在交通参加者52は、車両10が走行していること、つまり、自身が止まらなければ危険であることをいち早く認識することができる。
【0059】
次に、手動運転用のロジックについて
図9を用いて説明する。手動運転用のロジックの自動運転用のロジックとの違いは、ステップS10及びS11の処理が追加されたことである。
図9に示すフローチャートによれば、ステップS05で潜在衝突リスクがあると判定された場合、そのままステップS07の処理が実行されるのではなく、ステップS10において運転者状態リスク推定処理が行われる。運転者状態リスク推定処理は、報知プログラム110のサブルーチンである運転者状態リスク推定ルーチン118によって行われる。
【0060】
図12は運転者状態リスク推定ルーチン118のロジックを示すフローチャートである。このフローチャートによれば、ステップS41において、運転者の瞼の動作と視線より運転者の眠気が判定される。また、ステップS42では、運転者によるアクセルペダル、ブレーキペダル、及びステアリングの各操作状況が判定され、ステップS43では、運転者の顔の向きが判定される。そして、ステップS44では、ステップS41乃至S43の判定結果に基づいて運転者状態リスクの確率演算が行われる。運転者状態リスクとは、運転者が潜在衝突リスクに対して対応することが困難であることを意味する。
【0061】
再び
図9に戻り、報知プログラム110のフローチャートについて説明を続ける。ステップS11では運転者状態リスクがあるかどうか判定される。運転者状態リスクの有無はステップS10において行われた運転者状態リスクの確率演算の結果に基づいて判断される。運転者状態リスクの確率値が一定値以上であれば運転者状態リスクがあると判定される。
【0062】
運転者状態リスクがないと判定された場合、ステップS06の処理が実行される。すなわち、ステップS05で潜在衝突リスクがあると判定された場合であっても、運転者が潜在衝突リスクに対して対応可能な状態であるならば、通常の報知処理が行われる。つまり、手動運転時には、仮に潜在衝突リスクがあったとしても運転者が対応可能であれば、運転者に対応が委ねられる。
【0063】
そして、運転者状態リスクがあると判定された場合、ステップS07の処理が実行される。すなわち、ステップS05で潜在衝突リスクがあると判定され、且つ、運転者が潜在衝突リスクに対して対応困難な状態である場合、表示パネルに「通過」或いは「発進」と表示する通過表示が実行される。手動運転時には、運転者が対応困難であることを含めて潜在衝突リスクとして予見され、運転者が対応困難である場合にのみ第1の報知が行われる。
【0064】
以上の内容の報知プログラム110がプロセッサ102により所定の実行周期で実行されることで、報知装置を構成する制御装置100により本実施形態に係る報知方法が実行される。本実施形態に係る報知方法が実行されることで、潜在衝突リスクが予見されたことを受けて第1の報知が行われる。これにより、潜在交通参加者は走行している車両の存在を知ることができる、車両からは見えない潜在交通参加者と車両との衝突事故は低減される。
【0065】
4.その他
上記実施形態に係る報知装置はバス型の自動運転車両に適用されている。しかし、本開示の報知装置が適用される自動運転車両は、例えば、個人所有の車両でもよいし、複数人が一緒に乗り合わせるライドシェア車両でもよいし、バスやタクシーのような公共交通車両でもよい。さらに、本開示の報知装置は、遠隔オペレータによって遠隔運転される遠隔運転車両にも適用可能である。
【0066】
また、上記実施形態に係る報知装置は表示パネルを備えているが、1又は複数のスピーカを有する音声出力器が報知器として用いられてもよい。つまり、音による報知が行われてもよい。例えば、異なる方向を向いた複数の指向性スピーカを有する音声出力器を設けて、潜在交通参加者の方向に限定して第1の報知を行ってもよい。表示パネルを用いた報知と音声出力器を用いた報知とを併せて行ってもよい。
【0067】
上記実施形態に係る報知装置は、車両の周辺状況に関する情報を車載の外部センサで取得している。しかし、周辺状況情報はインフラ設備との路車間通信、他の車両との車車間通信、或いは、歩行者との歩車間通信によって取得してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 車両
30F,30R,30SR,30SL 表示パネル
50 顕在交通参加者
52 潜在交通参加者
54 交差点
100 制御装置
102 プロセッサ
104 メモリ
106 プログラム
110 報知プログラム