(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 1/04 20190101AFI20241016BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20241016BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20241016BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B62D21/00 A
B62D25/08 C
B62D25/20 C
B62D25/20 D
(21)【出願番号】P 2022146602
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2018127150の分割
【原出願日】2018-07-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】富澤 義仁
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0270029(US,A1)
【文献】国際公開第2012/133101(WO,A1)
【文献】特開平07-117725(JP,A)
【文献】特開平08-282534(JP,A)
【文献】特開2015-003619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00 - 1/04
B62D 17/00 - 25/08
B62D 25/14 - 29/04
H01M 50/20 - 50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室のフロア下に設けられたバッテリユニットと、
前記車室より前方の、前記バッテリユニットの前方に設けられたサスペンションメンバと、を備える車両前部構造であって、
前記フロアを構成するダッシュパネルロアまたはフロアパネルの下面の、前記バッテリユニットの前面より前上方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有する、フロア側拡張部材が突設され、
前記バッテリユニットの前面の、前記フロア側拡張部材の後下方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有する、バッテリ側拡張部材が突設され、
前記サスペンションメンバの後端縁は下方側が後方に位置する後端斜面を有し、
前記フロア側拡張部材の前端斜面は、車両前後方向において前記サスペンションメンバの後端斜面と対向し、前記バッテリ側拡張部材の前端斜面の少なくとも一部は、車両上下方向
および車両幅方向において、前記サスペンションメンバの後端斜面と重なる、
車両前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両前部構造であって、
前記フロア側拡張部材および前記バッテリ側拡張部材の前端斜面は、車両前後方向において前記サスペンションメンバの後端斜面と対向している、
車両前部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両前部構造であって、
前記フロア側拡張部材の前端斜面における前記サスペンションメンバの後端斜面と対向している領域の広さは、前記バッテリ側拡張部材の前端斜面における前記サスペンションメンバの後端斜面と対向している領域の広さより大きい、
車両前部構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の車両前部構造であって、
前記バッテリユニットは、前端部分には、前方側に伸びる高電圧ケーブルが接続され、
前記バッテリ側拡張部材、前記フロア側拡張部材、および前記サスペンションメンバの後端斜面はそれぞれ一対設けられ、
前記フロア側拡張部材は、前記高電圧ケーブルを挟むように車幅方向に沿って一対設けられる、
車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を駆動源とする電気自動車等には、バッテリユニットが搭載される。例えば特許文献1では、車室の床下(フロア下)にバッテリユニットが搭載される。
【0003】
回路上、回転電機とバッテリユニットとの間には、昇圧/降圧を行うDC/DCコンバータや交直変換を行うインバータを含む電力変換ユニットが設けられる。回転電機および電力変換ユニットが車両前方のエンジンコンパートメントに搭載される。
【0004】
また、エンジンコンパートメントの両側には前輪が設けられ、エンジンコンパートメントの下方には前輪を懸架する骨格部材であるサスペンションメンバが設けられる。フロア下にバッテリユニットが搭載される場合、サスペンションメンバはバッテリユニットの前方に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の前面衝突(以下適宜、前突と記載する)の際に、サスペンションメンバが障害物に押されて後退させられる。このとき、サスペンションメンバがバッテリユニットに衝突し、バッテリユニットの破損に繋がるおそれがある。そこで本発明は、前突時に、サスペンションメンバとバッテリユニットとの衝突を回避可能な、車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両前部構造は、車室のフロア下に設けられたバッテリユニットと、前記車室より前方の、前記バッテリユニットの前方に設けられたサスペンションメンバと、を備える車両前部構造であって、前記フロアを構成するダッシュパネルロアまたはフロアパネルの下面の、前記バッテリユニットの前面より前上方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有する、フロア側拡張部材が突設され、前記バッテリユニットの前面の、前記フロア側拡張部材の後下方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有する、バッテリ側拡張部材が突設され、前記サスペンションメンバの後端縁は下方側が後方に位置する後端斜面を有し、前記フロア側拡張部材の前端斜面は、車両前後方向において前記サスペンションメンバの後端斜面と対向し、前記バッテリ側拡張部材の前端斜面の少なくとも一部は、車両上下方向および車両幅方向において、前記サスペンションメンバの後端斜面と重なる。
【0008】
前記フロア側拡張部材および前記バッテリ側拡張部材の前端斜面は、車両前後方向において前記サスペンションメンバの後端斜面と対向しているとよい。
【0009】
前記フロア側拡張部材の前端斜面における前記サスペンションメンバの後端斜面と対向している領域の広さは、前記バッテリ側拡張部材の前端斜面における前記サスペンションメンバの後端斜面と対向している領域の広さより大きいとよい。
【0010】
前記バッテリユニットは、前端部分には、前方側に伸びる高電圧ケーブルが接続され、前記バッテリ側拡張部材、前記フロア側拡張部材、および前記サスペンションメンバの後端斜面はそれぞれ一対設けられ、前記フロア側拡張部材は、前記高電圧ケーブルを挟むように車幅方向に沿って一対設けられるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前突時に、サスペンションメンバとバッテリユニットとの衝突を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る車両前部構造を例示する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る車両前部構造を例示する分解斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る車両前部構造の後方部分を例示する斜視図である。
【
図5】前突時のサスペンションメンバの挙動を説明する側面図である。
【
図6】前突時のメンバ側エクステンション、フロア側エクステンションおよびバッテリ側エクステンションの周辺の様子を説明する側面図(1/2)である。
【
図7】前突時のメンバ側エクステンション、フロア側エクステンションおよびバッテリ側エクステンションの周辺の様子を説明する側面図(2/2)である。
【
図8】バッテリユニットの上方を開放した様子を示す図である。
【
図9】ブラケットを利用したサスペンションメンバとボディー側の接続を示す図である。
【
図10】本実施形態の別態様に係る車両前部構造を例示する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には、本実施形態に係る車両前部構造の斜視図が例示され、また
図2にはその分解斜視図が例示されている。
【0014】
なお、
図1~
図10において、車両前後方向を記号FRで表される軸で示し、車幅方向(車両幅方向)を記号RWで表される軸で示し、鉛直方向を記号UPで表される軸で示す。記号FRはFrontの略であり、前後方向軸FRは車両前方を正方向とする。記号RWはRight Widthの略であり、幅方向軸RWは右幅方向を正方向とする。また高さ軸UPは上方向を正方向とする。
【0015】
図1に示されているように、これらFR軸、RW軸、UP軸は互いに直交する。以下、本実施形態に係る車両前部構造を説明する際には、これら3軸を基準に適宜説明する。例えば「前端」は任意の部材のFR軸正方向側の端部を指し、「後端」は任意の部材のFR軸負方向側の端部を指す。「幅内側」はRW軸に沿って相対的に車両の幅方向内側を指すものとし、「幅外側」はRW軸に沿って相対的に車両の幅方向外側を指すものとする。また特に断りのない限り、「幅方向」とは車両幅方向を指すものとする。さらに「上側」は相対的にUP軸の正方向側を指し、「下側」は相対的にUP軸の負方向側を指す。
【0016】
図1、
図2に示す車両前部構造は、回転電機10を駆動源とする、電気自動車に搭載される。車両前部構造は、フロントサイドメンバ12,12、高電圧系アセンブリ14、サスペンションメンバ16、およびバッテリユニット18を備える。
【0017】
フロントサイドメンバ12,12は、車両の幅方向両側(左右)に設けられる一対の骨格部材であって、それぞれ、車両の前端から後方に延設される。例えばフロントサイドメンバ12,12は、車両前方のエンジンコンパートメント20から、その後方の車室22(キャビン)の前方部分まで延設される。
【0018】
エンジンコンパートメント20には、高電圧系アセンブリ14およびサスペンションメンバ16が搭載される。高電圧系アセンブリ14は複数の高電圧機器を組み付けた組立体である。高電圧系アセンブリ14は、回転電機10、充電器24、および電力変換ユニット26がコンパートメントクロス28に組み付けられて構成される。
【0019】
回転電機10は車両の駆動源であって、例えばコンパートメントクロス28の下方に組み付けられる。回転電機10は例えば永久磁石型同期モータから構成される。
【0020】
充電器24および電力変換ユニット26はコンパートメントクロス28の上方に組み付けられる。充電器24は例えば図示しない充電コネクタに接続され、車外の充電スタンド等からの充電が可能となっている。
【0021】
電力変換ユニット26は回転電機10とバッテリユニット18との間に接続され、電力変換を行う。例えば電力変換ユニット26は電力の交直変換を行うインバータや電力の昇圧/降圧を行うDC/DCコンバータを含んで構成される。電力変換ユニット26は例えば直方体形状のケース内にインバータやDC/DCコンバータを収容する。さらに当該ケースの後面には、バッテリユニット18と接続される高電圧ケーブル30が接続される。また、ケースの底面には、回転電機10と接続される高電圧ケーブル(図示せず)が接続される。
【0022】
コンパートメントクロス28は、左右一対のフロントサイドメンバ12,12に固定される骨格部材である。コンパートメントクロス28は、例えば略ロ字形状の枠部材であって、中心に上下に貫通する開口が形成される。この開口に、回転電機10と電力変換ユニット26とを結ぶ高電圧ケーブル(図示せず)が配索される。
【0023】
コンパートメントクロス28に、回転電機10、充電器24、および電力変換ユニット26が組み付けられて高電圧系アセンブリ14が構成される。車両の組立工程において、高電圧系アセンブリ14は例えば下方からリフトアップされる。そしてコンパートメントクロス28とフロントサイドメンバ12,12の上下位置が合わされた後に、図示しないブラケットによってコンパートメントクロス28をフロントサイドメンバ12,12に締結させる。この組み立てにより、
図1に例示されるように、電力変換ユニット26はフロントサイドメンバ12よりも上方に配置される。
【0024】
電力変換ユニット26を含む高電圧系アセンブリ14の下方に、サスペンションメンバ16が配置される。また
図1に示されているように、サスペンションメンバ16はバッテリユニット18の前方に設けられる。つまりサスペンションメンバ16はバッテリユニット18と高さ位置(上下方向位置)が揃うような位置関係となっている。
【0025】
サスペンションメンバ16は、図示しない前輪を懸架する骨格部材である。サスペンションメンバ16は略井桁形状であって、前端部の幅方向両側および後端部の幅方向両側が幅方向外側に張り出すような形状となっている。この、張り出された前端部両側および後端部両側に支持部材32A,32Bが締結される。支持部材32A,32Bはフロントサイドメンバ12の底面にも締結される。つまりサスペンションメンバ16は支持部材32A,32Bを介してフロントサイドメンバ12に吊り支持される。
【0026】
また、サスペンションメンバ16の後端には、一対のメンバ側エクステンション34,34(メンバ側拡張部材)が設けられる。
図4に例示するように、メンバ側エクステンション34は、サスペンションメンバ16の上面後端16Aから後面上端16Bにかけて取り付けられ、サスペンションメンバ16の後端に鉤状に引っ掛けられた状態で締結される。
【0027】
例えばメンバ側エクステンション34はアルミ等の金属材料から構成される略箱形状の剛性部材であり、箱の開口をサスペンションメンバ16の上面後端16Aおよび後面上端16Bにて覆うことで閉断面構造が形成される。
【0028】
メンバ側エクステンション34は、ボルト・ナット等の締結部材によりサスペンションメンバ16に締結されてもよく、また溶接等によりサスペンションメンバ16に接合されてもよい。また、サスペンションメンバ16の一部分として、つまりその後端を上方に隆起させるように加工することで、メンバ側エクステンション34を構成してもよい。
【0029】
メンバ側エクステンション34はサスペンションメンバ16の上面から上方に突設される。また
図1に例示されるように、メンバ側エクステンション34,34は、サスペンションメンバ16の後端縁16Cのうち、フロア側エクステンション36,36(フロア側拡張部材)と車両前後方向で対向する位置に配置される。なお、サスペンションメンバ16は、その車幅方向の両側において後方に伸びて延長部分16Dを構成している。従って、メンバ側エクステンション34,34が設けられるサスペンションメンバ16の後端縁16Cは、車幅方向の両側における後縁端の延長部分16Dより前方側に位置する。
図4を参照して、サスペンションメンバ16の上面後端16Aと後面上端16Bとの境界を規定する稜線であって、当該稜線上に、メンバ側エクステンション34,34が配置される。また、
図3を参照して、メンバ側エクステンション34,34は、高電圧ケーブル30を挟むようにして車両幅方向に沿って設けられる。
【0030】
図4を参照して、メンバ側エクステンション34には、フロア側エクステンション36と車両前後方向で対向する対向面34Aが形成される。対向面34Aは、車両後方に向かって下方に傾斜する傾斜面となっている。後述するように、対向面34Aを傾斜面とすることで、前突時にサスペンションメンバ16を車両の下方に落とし込むことが可能となる。
【0031】
またメンバ側エクステンション34の対向面34Aの、水平面に対する傾斜角θ1は、フロア側エクステンション36の対向面36Aの、水平面に対する傾斜角θ2より大きくなるように構成される。言い換えると、メンバ側エクステンション34の対向面34Aは、フロア側エクステンション36の対向面36Aよりも水平寄りに傾斜される。
【0032】
このように、メンバ側エクステンション34の対向面34Aを、フロア側エクステンション36の対向面36Aよりも水平寄りに寝かせた構成とすることで、後述するように前突時にサスペンションメンバ16の後端が下方に傾いてメンバ側エクステンション34の対向面34Aが下を向いたときに、フロア側エクステンション36の対向面36Aと、メンバ側エクステンション34の対向面34Aとが側面視で平行に揃えられる。
【0033】
図1を参照して、車室22はフロアパネル38およびダッシュパネル40により区画される。ダッシュパネル40は上部パネルであるダッシュパネルアッパ40Aと下部パネルであるダッシュパネルロア40Bを備える。
【0034】
ダッシュパネルアッパ40Aは略垂直に立設される。ダッシュパネルロア40Bはその上端がダッシュパネルアッパ40Aの下端に接続され、さらにそこから側面視で曲線状に延設され、垂直から円弧状または傾斜状に曲げられてその後端は略水平となり、フロアパネル38の前端に接続される。
【0035】
ダッシュパネルロア40Bは前席に座る乗員の足が置かれるいわゆるトーボードとして機能する。このような機能から、車室22の床板は、ダッシュパネルロア40Bとフロアパネル38によって構成される。
【0036】
ダッシュパネルロア40Bおよびフロアパネル38の幅方向中央にはフロアトンネル39が形成される。車両に内燃機関が搭載されている場合には、このフロアトンネル39に排気管が通される。一方、内燃機関が搭載されない電気自動車においては、排気管が不要となるため、フロアトンネル39には例えばバッテリの監視や制御を行う電池ECU42等が配置される。
【0037】
また、
図3を参照して、フロアトンネル39は、トンネルリーンフォース44と呼ばれる補強部材によって補強される。トンネルリーンフォース44はフロアトンネル39を覆うとともに、幅方向ではフロアトンネル39の両側の床板領域(ダッシュパネルロア40Bおよびフロアパネル38の上面)まで延設される。
図3に示されているようにこの延設部分の下にフロア側エクステンション36,36が配置される。つまり、床板を構成するダッシュパネルロア40Bおよびフロアパネル38の少なくとも一方のうち、その上面に補強部材(トンネルリーンフォース44)が設けられた部分の下に、フロア側エクステンション36,36が配置される。
【0038】
図1に戻り、車室のフロア下、つまりフロアパネル38の下方にバッテリユニット18が配置される。バッテリユニット18は筐体状ケース18Bと、その内部に配置されるバッテリ群18Cを含む。バッテリ群18Cは、複数のバッテリセル(単電池)を含み、バッテリセルは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池、または全固体電池から構成される。例えばこれらのバッテリセルが複数個並列接続してバッテリグループを構成し、さらに複数のバッテリグループが直列接続されてバッテリ群18Cが構成される。なお、この例では、バッテリECU42もケース18B内(フロアトンネルの下方)に配置されている。
【0039】
バッテリユニット18は、前端部分の下側(
図4参照)の幅方向中央には、高電圧ケーブル30が接続される。高電圧ケーブル30は、バッテリユニット18の前面18Aから上方かつ前方に延設され、高電圧系アセンブリ14の電力変換ユニット26に接続される。例えば
図1に例示するように、高電圧ケーブル30は左側を車両前方とする側面視で前方に向けて斜め上方に至るように配索される。なお、高電圧ケーブル30は、バッテリ群18Cからの電力を回転電機10に供給する。
【0040】
車室22のフロアを構成する床板の一部であるダッシュパネルロア40Bの下面には、一対のフロア側エクステンション36,36(フロア側拡張部材)が設けられる。フロア側エクステンション36,36は、バッテリユニット18の前面18Aより前方に設けられる。例えば
図4に示されるように、フロア側エクステンション36は、少なくともメンバ側エクステンション34と対向する対向面36Aが、バッテリユニット18の前面18Aより前方となるように、ダッシュパネルロア40Bの下面に取付られる。
【0041】
なお、
図1の例では、ダッシュパネルロア40Bの下面にフロア側エクステンション36,36を設けたが、本実施形態はこのような形態に限られない。要するに車室22のフロア下面の、バッテリユニット18の前面18Aより前方にフロア側エクステンション36,36が設けられればよい。具体的には、車室22のフロアを構成するダッシュパネルロア40Bおよびフロアパネル38の少なくとも一方の下面の、バッテリユニット18の前面18Aより前方にフロア側エクステンション36,36が設けられればよい。例えばフロアパネル38の下面にフロア側エクステンション36,36を設けてもよいし、ダッシュパネルロア40Bおよびフロアパネル38の両者に跨がってこれらの下面にフロア側エクステンション36,36を設けてもよい。
【0042】
フロア側エクステンション36は、ダッシュパネルロア40Bの下面から下方に、その対向面36Aとメンバ側エクステンション34の対向面34Aとが車両前後方向に対向するように突設される。例えばフロア側エクステンション36,36はアルミ等の金属材料から構成される略箱形状の剛性部材であり、箱の開口をダッシュパネルロア40Bにて覆うことで閉断面構造が形成される。
【0043】
図4を参照して、フロア側エクステンション36の対向面36Aは、車両後方に向かって下方に傾斜するような傾斜面となっている。後述するように、この傾斜面は前突時にサスペンションメンバ16を下方に落とし込むための滑り面として機能する。傾斜角θ2の角度はサスペンションを落とし込みたい量で決まる。
【0044】
また上述したように、フロア側エクステンション36の対向面36Aの、水平面に対する傾斜角θ2は、メンバ側エクステンション34の対向面34Aの、水平面に対する傾斜角θ1より大きくなるように構成される。
【0045】
図3を参照して、フロア側エクステンション36,36は、高電圧ケーブル30を挟むようにして、ダッシュパネルロア40Bの下面に車両幅方向に沿って設けられる。例えば車室22の床面の、フロアトンネル39との境界部分にフロア側エクステンション36,36が設けられる。
【0046】
<バッテリ側エクステンションの構成>
図4を参照して、フロア側エクステンション36,36の斜め下後方には、バッテリユニット18のケース18Bの前部の下面に取り付けられて、バッテリ側エクステンション50,50(バッテリ側拡張部材:図においては1つだけ示してある)が設けられている。このバッテリ側エクステンション50の前端は、バッテリユニット18の前面より前方に位置する。そして、バッテリ側エクステンション50は、前方側にメンバ側エクステンション34の対向面34Aに対応する斜面50Aを有する。メンバ側エクステンション34が後方に進み、フロア側エクステンション36の対向面36Aを下後方に向けてすべり、さらに後方に移動した場合において、メンバ側エクステンション34に対向してこれをさらに下後方に導く。これによって、サスペンションメンバ16およびそれに付随する部品がバッテリユニット18に衝突して、バッテリ群18C等を破壊することを防止することができる。なお、この際にバッテリ側エクステンション50は上方側後方に移動する。
【0047】
バッテリ側エクステンション50は、その機能は、フロア側エクステンション36とよく似ており、同様の材料で、同様の形状にできる。メンバ側エクステンション34のフロア側エクステンション36への衝突によって、フロア側エクステンション36が上方に移動するため、バッテリ側エクステンション50も上方に持ち上げられるが、メンバ側エクステンション34は下方に向けて移動するため、斜面50Aの角度もθ2とほぼ同様でよい。なお、ダッシュパネルロア40Bなどの構造によって、変形の仕方は異なるので、適宜最適な形状とするとよい。また、バッテリ側エクステンション50の取付部は後方に向けて余裕があるため、フロア側エクステンション36に比べ後部が長い形状にするとよい。
【0048】
ここで、
図8には、バッテリユニット18の上側を開放した図を示してある。このように、ケース18Bの前方側にバッテリECU42が配置され、後方側にバッテリ群18Cが配置される。また、ケース18Bの下側の両側の下面側にバッテリ側エクステンション50が取り付けられている。なお、バッテリ側エクステンション50は、ケース18Bの下側の両側でなく、片側でもよい。そして、バッテリ側エクステンション50が取り付けられている、ケース18Bの床面上には、部品は配置されておらず、この部分が空洞になっている。つまり、車両幅方向にずれた位置にバッテリECU42などの部品が配置される。従って、バッテリ側エクステンション50にメンバ側エクステンション34が衝突して、バッテリ側エクステンション50が上方に移動しても、部品に対する影響を少なくできる。なお、ケース18Bは、通常筐体状であり、上側が閉じている。
【0049】
<ブラケットの構成>
図2を参照して、サスペンションメンバ16の車幅方向両側の後端には、後方に伸びる細長板状の延長部分16Dが形成されている。そして、この延長部分16Dにはブラケット60の一端が固定されている。
【0050】
図9は、ブラケット60の締結状態を示している。このように、ブラケット60の前端は、サスペンションメンバ16の延長部分16Dにボルト締めされ、後端は、ボディー側のサイドメンバなどの下面にボルト締めされる。従って、このブラケット60によっても、サスペンションメンバ16がバッテリユニット18に向けて移動することを抑制することができる。なお、ブラケット60の後端は、ボディー側の強度のある部材であれば、サイドメンバでなく他の部材でもよい。
【0051】
ここで、車高が高い車両と、車高が低い車両とで、車台などのプラットフォームを共有する場合がある。このような場合に、ボディー側とサスペンションメンバ16の高低差に違いが生じる。ブラケット60は、サスペンションメンバ16とボディー側を接続するものであり、このブラケット60の形状を変更することで、車高が高い車両と、車高が低い車両でのプラットフォームの共有のための調整が行える。
【0052】
<車両前突時の挙動>
図4~
図7を参照して、本実施形態に係る車両前部構造の、車両前突時の挙動について説明する。
図5に例示されるように、車両前面が障害物46(バリア)に衝突すると、フロントサイドメンバ12の前端が障害物を受けて折れ変形(座屈)する。この折れ変形に伴って、サスペンションメンバ16をフロントサイドメンバ12に支持する支持部材32Aが後退させられる。これに伴ってサスペンションメンバ16の前端が上方に持ち上がり、その後端は下方に傾く。
【0053】
サスペンションメンバ16後端の傾きに伴い、メンバ側エクステンション34の対向面34Aが下向きにされ、当該対向面34Aとフロア側エクステンション36の対向面36Aとが側面視で平行となる。この平行状態が維持されながらサスペンションメンバ16がさらに後退させられ、
図7に例示するようにメンバ側エクステンション34の対向面34Aがフロア側エクステンション36の対向面36Aに衝突する。
【0054】
この衝突の際に、メンバ側エクステンション34の衝突を受けるフロア側エクステンション36には、車室内にめり込むような荷重が入力される。ここで上述したように、フロア側エクステンション36は、補強部材であるトンネルリーンフォース44の下部に設けられている。言い換えると、フロア側エクステンション36は、トンネルリーンフォース44に裏張りされている。したがってフロア側エクステンション36の車室22内への荷重がトンネルリーンフォース44に受け止められ、フロア側エクステンション36の車室22内への進入が抑制される。
【0055】
さらに前突が進行すると、傾斜面であるメンバ側エクステンション34の対向面34Aとフロア側エクステンション36の対向面36Aとがサスペンションメンバ16を下方にガイドする。つまりメンバ側エクステンション34がフロア側エクステンション36に対して下方かつ後方に滑り、これによってサスペンションメンバ16が下方かつ後方に落ち込む。これにより、サスペンションメンバ16の車室22内への進入が回避可能となる。
【0056】
サスペンションメンバ16が下方かつ後方に移動すると、
図7に例示するように、メンバ側エクステンション34の対向面34Aがバッテリ側エクステンション50の斜面50Aに衝突する。バッテリ側エクステンション50の斜面50Aは、進行してきたメンバ側エクステンション34の対向面34Aとほぼ合致する傾斜となっておりメンバ側エクステンション34が斜面50Aに下方かつ後方にガイドされて、サスペンションメンバ16はさらに下方かつ後方に進行する。この際、サスペンションメンバ16の延長部分16Dなどは、大きく変形するが、サスペンションメンバ16がさらに下方かつ後方に移動するので、サスペンションメンバ16とバッテリユニット18との衝突が回避可能となる。
【0057】
このように、フロア側エクステンション36の下方かつ後方のバッテリユニット18のケース18Bの前部の下面にバッテリ側エクステンション50を設けることで、メンバ側エクステンション34が、フロア側エクステンション36、バッテリ側エクステンション50に順次衝突して、サスペンションメンバ16を下方かつ後方に案内して、車室への浸入およびバッテリユニット18との衝突を回避することができる。
【0058】
<本実施形態の別態様>
ここで、上述の実施形態では、フロア側エクステンション36とバッテリ側エクステンション50の両方を設けたが、フロア側エクステンション36を省略してもよい。
【0059】
すなわち、
図10に示すように、バッテリ側エクステンション50の斜面50Aをメンバ側エクステンション34の対向面34Aに対向して位置させる。これによって、前突によってサスペンションメンバ16が後方に移動した際に、メンバ側エクステンション34の対向面34Aがバッテリ側エクステンション50の斜面50Aによって、下方かつ後方に案内され、サスペンションメンバ16の車室内への進入およびバッテリユニット18との衝突を回避することが可能となる。
【0060】
[付記]
本明細書において開示されている車両前部構造の特徴について下記する。
車両前部構造は、車室のフロア下に設けられたバッテリユニットと、前記車室より前方の、前記バッテリユニットの前方に設けられたサスペンションメンバと、を備える車両前部構造であって、前記フロアを構成するダッシュパネルロアおよびフロアパネルの少なくとも一方の下面の、前記バッテリユニット前面より前方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有するフロア側拡張部材が突設され、前記バッテリユニットの前面の、前記フロア側拡張部材の後下方には、下方側が後方に位置する前端斜面を有するバッテリ側拡張部材が突設され、前記サスペンションメンバの後端縁の前記フロア側拡張部材と車両前後方向で対向する位置に、下方側が後方側に位置する後端斜面を有するメンバ側拡張部材が突設される。
【0061】
上記構成によれば、前突時にサスペンションメンバが後退させられたときに、まずメンバ側拡張部材とフロア側拡張部材とが衝突する。そして、さらにサスペンションメンバが後退したときには、メンバ側拡張部材とバッテリ側拡張部材とが衝突し、サスペンションメンバの後面が下方に向けて移動して、バッテリユニットとの衝突を回避することが可能となる。
【0062】
また上記発明において前記フロア側拡張部材の下端は、前記バッテリ側拡張部材の上端より下方に位置するとよい。
【0063】
上記構成によれば、フロア側拡張部材とメンバ側拡張部材とが衝突した後、その対向面の傾斜に沿って、サスペンションメンバが下方かつ後方に(斜め下に)入り込むとともに、フロア側拡張部材が持ち上げられる。これにより、メンバ側拡張部材の斜面とバッテリ側拡張部材の斜面とが対向し、両者がスライドすることになりサスペンションメンバとバッテリユニットとの衝突を防止可能となる。
【0064】
また上記発明において、メンバ側拡張部材の対向面は、一対のフロア側拡張部材の対向面よりも、水平寄りに傾斜されてもよい。
【0065】
サスペンションメンバの支持構造に起因して、前突時にはサスペンションメンバの後端が下方に傾けられるようにして、つまりメンバ側拡張部材の対向面が下に向くようにして後退させられる場合がある。そこで、予め、メンバ側拡張部材の対向面を、フロア側拡張部材の対向面よりも水平寄りに寝かせることで、サスペンションメンバの後退時に、メンバ側拡張部材の対向面とフロア側拡張部材の対向面とを平行にできる。
【0066】
また、本発明の別態様に係る車両前部構造は、車室のフロア下に設けられたバッテリユニットと、前記車室より前方の前記バッテリユニットの前方に設けられたサスペンションメンバと、を備える車両前部構造であって、前記バッテリユニットの前部には、下方側が後方に位置する前端斜面を有するバッテリ側拡張部材が突設され、前記サスペンションメンバの後端縁の前記バッテリ側拡張部材と車両前後方向で対向する位置に、下方側が後方側に位置する後端斜面を有するメンバ側拡張部材が突設される。
【0067】
上記構成によれば、サスペンションメンバが後方に移動した場合に、メンバ側拡張部材とバッテリ側拡張部材とが衝突し、その対向面の傾斜に沿って、サスペンションメンバが下方かつ後方に(斜め下に)入り込む。これにより、サスペンションメンバとバッテリユニットとの衝突を防止可能となる。
【0068】
また、上記発明において、前記バッテリユニットは、バッテリ群とバッテリ群を収容するケースを含み、前記バッテリ側拡張部材は、前記ケースの前部下面に設けられるとともに、前記ケース内の前記バッテリ側拡張部材の周辺部分は、空洞状態になっているとよい。
【0069】
上記構成によれば、メンバ側拡張部材とバッテリ側拡張部材とが衝突した際に、ケースが変形してもそこに部品が搭載されていないため、部品を傷めることなく衝撃を吸収できる。
【符号の説明】
【0070】
10 回転電機、12 フロントサイドメンバ、14 高電圧系アセンブリ、16 サスペンションメンバ、16A サスペンションメンバの上面後端、16C サスペンションメンバの後面上端、18 バッテリユニット、18A バッテリユニット前面、20 エンジンコンパートメント、22 車室、24 充電器、26 電力変換ユニット、28 コンパートメントクロス、30 高電圧ケーブル、32A,32B 支持部材、34 メンバ側エクステンション(拡張部材)、34A メンバ側エクステンションの対向面、36 フロア側エクステンション(拡張部材)、36A フロア側エクステンションの対向面、37 フロア側突出部、38 フロアパネル、39 フロアトンネル、40A ダッシュパネルアッパ、40B ダッシュパネルロア、42 電池ECU、44 トンネルリーンフォース(補強部材)、46 障害物、50 バッテリ側エクステンション(拡張部材)、60 ブラケット。