(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】冷却液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
C09K5/10 F
(21)【出願番号】P 2022148580
(22)【出願日】2022-09-16
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-146043(JP,A)
【文献】特開2021-094489(JP,A)
【文献】特開2022-025572(JP,A)
【文献】特開2021-070785(JP,A)
【文献】特開2021-034576(JP,A)
【文献】特開2021-031597(JP,A)
【文献】特開2021-031593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として鉱物油
を90[質量%]と、
界面活性剤と
して、
非イオン性界面活性剤であって、凝固点が-15[℃]未満且つ環状構造を有し、アルキル基が直鎖または分岐構造の脂肪酸エステルであるショ糖脂肪酸エステルを5[質量%]と、
水を5[質量%]と、
を含有する冷却液組成物であって、
前記冷却液組成物の導電率が、0.
0009[μS/cm」未満であり、
前記冷却液組成物の-15[℃]粘度が40[mm
2
/s]未満である、
ことを特徴とする冷却液組成物
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、潤滑油に界面活性剤を添加し、水を分散させた含水潤滑剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたような含水潤滑剤は、通常の油タイプの潤滑剤よりも難燃性であることからニーズがある。一方、含水潤滑剤を、例えば、電動車両で冷却液として適用する際には、極低温でも流動性があることを求められる。前記含水潤滑剤や含水切削油は、結露などによって水が混入しても油中に水を分散可能であるが、常温以上で使用されることが多く、界面活性剤の凝固点に着目されていない。そのため、極低温環境下では、界面活性剤の固化によって全体の流動性が失われてしまい、冷却液として機能しなくなる。また、界面活性剤を含有していない潤滑油では、結露などによって水が混入した場合、水と油とが分離するため、水の部分で通電が起こって求められる絶縁性を維持できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、水が混入しても絶縁性を維持できるとともに、極低温環境下でも流動性を維持することができる冷却液組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る冷却液組成物は、鉱物油または合成油と、界面活性剤と、を含有する冷却液組成物であって、前記冷却液組成物の導電率が、0.1[μS/cm」未満であり、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であって、凝固点が-15[℃]未満且つ環状構造を有する脂肪酸エステルである、ことを特徴とするものである。
【0007】
これにより、本発明に係る冷却液組成物は、油中に界面活性剤を入れることによって、水が混入しても均一に乳化して分離させないため、水単独で存在せずに絶縁性を維持することができる。さらに、本発明に係る冷却液組成物は、界面活性剤として凝固点が-15[℃]未満のものを選定することによって、極低温環境下でも流動性を維持することができ、冷却液使用環境に適応した冷却液組成物を得ることができる。
【0008】
また、上記の発明において、前記脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタンモノオレエート、または、ソルビタンセスキオレエートであり、前記脂肪酸エステルのアルキル基が、直鎖または分岐構造であるものを用いるのが好ましい。
【0009】
これにより、界面活性剤として、非イオン性界面活性剤であり、凝固点が-15[℃]未満且つ環状構造を有する脂肪酸エステルを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る冷却液組成物は、水が混入しても絶縁性を維持できるとともに、極低温環境下でも流動性を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る冷却液組成物の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
実施形態に係る冷却液組成物は、例えば、電動車両に設けられた、バッテリ、インバータ、オイルクーラ、及び、ラジエータなどの冷却液に適用され、絶縁性に優れるとともに冷却性能にも優れている。
【0013】
実施形態に係る冷却液組成物は、鉱物油または合成油と、界面活性剤と、を含有する。実施形態に係る冷却液組成物の導電率は、0.1[μS/cm」未満である。また、前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であって、凝固点が-15[℃]未満且つ環状構造を有する脂肪酸エステルである。前記脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタンモノオレエート、または、ソルビタンセスキオレエートである。また、前記脂肪酸エステルのアルキル基は、直鎖または分岐構造からなる。
【0014】
実施形態に係る冷却液組成物は、例えば、電動車両での使用時に結露などによって水が混入しても、含有する界面活性剤の乳化作用によって均一に乳化して水と油とを分離させないため、水単独で存在せず、求める絶縁性を維持することができる。求める絶縁性としては、例えば、電動車両の事故時などでの冷却液漏洩時などに、冷却液がバッテリ端子に接触してショートすることを抑制することができる程度の絶縁性である。実施形態に係る冷却液組成物においては、例えば、冷却液組成物の導電率が0.1[μS/cm]未満であることによって、求める絶縁性を得られる。なお、冷却液組成物の導電率としては、0.0009[μS/cm]未満であることがより好ましい。
【0015】
また、実施形態に係る冷却液組成物においては、界面活性剤の他に所望の添加剤を含有してもよい。前記添加材としては、例えば、抗酸化剤、錆止め剤、粘度指数改良剤、流動点硬化剤、分散剤、表面活性剤、耐摩耗添加剤、消泡材、または、流動帯電防止剤の1種類以上を用いることができる。
【0016】
また、実施形態に係る冷却液組成物においては、ポンプなどを用いて強制対流で使用する場合、冷却液組成物の粘度を40[℃]で10[mm2/s]以下に設定するのが好ましい。この際、例えば、含有させる鉱物油の粘度を下げる、または、含有させる鉱物油の含有量[質量%]によって、冷却液組成物の粘度の調整を行えばよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を用いて本実施形態をさらに具体的に説明する。
【0018】
(調整方法)
下記表1及び表2に記載の組成で各材料を混合するなどして、実施例1~3及び比較例1~8の冷却液組成物を調整した。
【0019】
(実施例1)
実施例1では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてショ糖脂肪酸エステル5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ショ糖脂肪酸エステルの凝固点は、-15[℃]未満である。
【0020】
(実施例2)
実施例2では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてソルビタンモノオレエート5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ソルビタンモノオレエートの凝固点は、-15[℃]未満である。
【0021】
(実施例3)
実施例3では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてソルビタンセスキオレエート5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ソルビタンセスキオレエートの凝固点は、-15[℃]未満である。
【0022】
(比較例1)
比較例1では、基油として鉱物油95[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。
【0023】
(比較例2)
比較例2では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてC8/C10トリグリセライド5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、C8/C10トリグリセライドの凝固点は、-15[℃]以上である。
【0024】
(比較例3)
比較例3では、冷却液組成物をLLC(トヨタ純正、商品名:スーパーロングライフクーラント、エチレングリコールと添加剤を含む。)100[質量%]とした。
【0025】
(比較例4)
比較例4では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてオクチルアミン5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、オクチルアミンの凝固点は、-15[℃]以上である。
【0026】
(比較例5)
比較例5では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてポリオキシアルキレンラウリエーテル5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ポリオキシアルキレンラウリエーテルの凝固点は、-15[℃]以上である。
【0027】
(比較例6)
比較例6では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてポリオキシプロピレングリコールモノアルキルエーテル5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ポリオキシプロピレングリコールモノアルキルエーテルの凝固点は、-15[℃]以上である。
【0028】
(比較例7)
比較例7では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(アニオン性)5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ドデシル硫酸ナトリウム(アニオン性)の凝固点は、-15[℃]以上である。
【0029】
(比較例8)
比較例8では、基油として鉱物油90[質量%]と、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウム塩化物(カチオン性)5[質量%]と、水5[質量%]とを混合して、冷却液組成物を調整した。なお、ドデシルトリメチルアンモニウム塩化物(カチオン性)の凝固点は、-15[℃]以上である。
【0030】
(導電率)
実施例1~3及び比較例1~8の冷却液組成物における導電率は、20[℃]に調温した各冷却液組成物を導電率測定機(横河電機株式会社製、パーソナルSCメータSC72、検出器:SC72SN-11)を用いて測定した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0031】
(-15[℃]粘度)
実施例1~3及び比較例1~8の冷却液組成物における-15[℃]粘度は、-15[℃]に調温した各冷却液組成物を、キャノンフェンスケ粘度計に入れて動粘度を計測した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
実施例1~3のいずれの冷却液組成物も、導電率が0.0009[μS/cm]未満であり、優れた絶縁性を有していた。また、実施例1の冷却液組成物の-15[℃]粘度は、39[mm2/s]であった。また、実施例2の冷却液組成物の-15[℃]粘度は、33[mm2/s]であった。また、実施例3の冷却液組成物の-15[℃]粘度は、35[mm2/s]であった。すなわち、実施例1~3のいずれの冷却液組成物も、-15[℃]粘度が40[mm2/s]未満であり、-15[℃]の極低温環境下でも優れた流動性を有していた。また、実施例1~3のいずれの冷却液組成物も、油中の水の乳化性が乳化可である。そのため、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入しても均一に乳化して水と油とを分離させないため、水単独で存在せず、求める絶縁性を維持することができる。
【0035】
一方、比較例1の冷却液組成物は、導電率が0.2[μS/cm]であって0.1[μS/cm]以上であり、求める絶縁性が不十分であった。また、比較例1の冷却液組成物は、水が固化して-15[℃]粘度が測定不可であり、-15[℃]の極低温環境下での流動性が不十分であった。また、比較例1の冷却液組成物は、界面活性剤を含有していないため、油中の水の乳化性が乳化不可であり、水と油とが分離して水が単独で存在する。そのため、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入すると、求める絶縁性を維持することができない。
【0036】
比較例2の冷却液組成物は、導電率が0.0009[μS/cm]未満であり、優れた絶縁性を有していた。また、比較例2の冷却液組成物は、油中の水の乳化性が乳化可であり、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入しても、求める絶縁性を維持することができる。しかしながら、比較例2の冷却液組成物は、界面活性剤が固化して-15[℃]粘度が測定不可であり、-15[℃]の極低温環境下での流動性が不十分であった。
【0037】
比較例3の冷却液組成物は、導電率が0.0009[μS/cm]未満であり、優れた絶縁性を有していた。しかしながら、比較例2の冷却液組成物は、水が固化して-15[℃]粘度が測定不可であり、-15[℃]の極低温環境下での流動性が不十分であった。また、比較例3の冷却液組成物は、界面活性剤を含有していないため、油中の水の乳化性が乳化不可であり、水と油とが分離して水が単独で存在する。そのため、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入すると、油と分離して単独で存在する水の部分で通電が起こって求める絶縁性を維持することができなくなる。
【0038】
比較例4~8のいずれの冷却液組成物も、導電率が0.0009[μS/cm]未満であり、優れた絶縁性を有していた。しかしながら、比較例4~8のいずれの冷却液組成物も、水が固化して-15[℃]粘度が測定不可であり、-15[℃]の極低温環境下での流動性が不十分であった。また、比較例4~8のいずれの冷却液組成物も、油中の水の乳化性が乳化不可であり、水と油とが分離して水が単独で存在する。そのため、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入すると、油と分離して単独で存在する水の部分で通電が起こって求める絶縁性を維持することができなくなる。
【0039】
以上の結果より、実施形態に係る冷却液組成物(実施例1~3の冷却液組成物)が、優れた絶縁性を有し、例えば、電動車両での使用時に結露などで水が混入しても求める絶縁性を維持できるとともに、極低温環境下でも流動性を維持できることが実証された。