(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】架線金具異常検出装置及び架線金具異常検出方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20241016BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241016BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B60M1/28 R
G06T7/00 610Z
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2023102215
(22)【出願日】2023-06-22
【審査請求日】2024-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一矢
(72)【発明者】
【氏名】川畑 匠朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-133799(JP,A)
【文献】特開2016-168937(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230480(WO,A1)
【文献】特開2024-49413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/28
G06T 7/00
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の走行中に架線金具を魚眼レンズを用いて撮影するカメラであって、前記鉄道車両の進行方向に対して左右に所定の距離を隔てて配設された第1のラインセンサカメラと第2のラインセンサカメラと、
前記第1のラインセンサカメラによって撮影された第1の画像から撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2のラインセンサカメラによって撮影された第2の画像から撮影対象範囲外をトリミングするトリミング部と、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置と、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置とに対して、撮影された架線金具の向きが一致するように、前記トリミングされた第1の画像と前記トリミングされた第2の画像とのうち、いずれか一方の画像を左右反転する左右反転処理部と、を備え、
前記トリミングされた第1の画像又は前記トリミングされた第2の画像のうち、前記左右反転処理部により左右反転されなかった画像と、前記左右反転処理部により左右反転された反転画像とを、前記架線金具の異常を検出するための加工済み画像として提供する、
ことを特徴とする架線金具異常検出装置。
【請求項2】
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する画像左右分割処理部と、
前記第1の画像から分割された分割画像のうち、前記第1のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除するとともに、前記第2の画像から分割された分割画像のうち、前記第2のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除する外側画像削除処理部と、をさらに備え、
前記トリミング部は、
削除されずに残った第1の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、削除されずに残った第2の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転処理部は、
前記トリミングされた第1の分割画像における撮影された架線金具の向きと、前記トリミングされた第2の分割画像における撮影された架線金具の向きとが一致するように、前記第1の分割画像と前記第2の分割画像とのうち、いずれか一方を左右反転する、
ことを特徴とする請求項1に記載の架線金具異常検出装置。
【請求項3】
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する画像左右分割処理部をさらに備え、
前記トリミング部は、
前記第1の画像から左右に分割された第1の左分割画像と第1の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2の画像から左右に分割された第2の左分割画像と第2の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転処理部は、
前記トリミングされた第1の左分割画像と第1の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第1の左分割画像または前記第1の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転するとともに、前記トリミングされた第2の左分割画像と第2の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第2の左分割画像または前記第2の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転する、
ことを特徴とする請求項1に記載の架線金具異常検出装置。
【請求項4】
鉄道車両の進行方向に対して左右に所定の距離を隔てて配設された、魚眼レンズを備えた第1のラインセンサカメラと第2のラインセンサカメラとによって、前記鉄道車両の走行中に架線金具を撮影する工程と、
前記第1のラインセンサカメラによって撮影された第1の画像から撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2のラインセンサカメラによって撮影された第2の画像から撮影対象範囲外をトリミングする工程と、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置と、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置とに対して、撮影された架線金具の向きが一致するように、前記トリミングされた第1の画像と前記トリミングされた第2の画像とのうち、いずれか一方の画像を左右反転する工程と、
前記トリミングされた第1の画像又は前記トリミングされた第2の画像のうち、前記左右反転する工程により左右反転されなかった画像と、前記左右反転する工程により左右反転された反転画像とを、前記架線金具の異常を検出するための加工済み画像として提供する工程と、
を含むことを特徴とする架線金具異常検出方法。
【請求項5】
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する工程と、
前記第1の画像から分割された分割画像のうち、前記第1のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除するとともに、前記第2の画像から分割された分割画像のうち、前記第2のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除する工程と、をさらに含み、
前記撮影対象範囲外をトリミングする工程は、
削除されずに残った第1の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、削除されずに残った第2の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転する工程は、
前記トリミングされた第1の分割画像における撮影された架線金具の向きと、前記トリミングされた第2の分割画像における撮影された架線金具の向きとが一致するように、前記第1の分割画像と前記第2の分割画像とのうち、いずれか一方を左右反転する、
ことを特徴とする請求項4に記載の架線金具異常検出方法。
【請求項6】
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する工程をさらに含み、
前記撮影対象範囲外をトリミングする工程は、
前記第1の画像から左右に分割された第1の左分割画像と第1の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2の画像から左右に分割された第2の左分割画像と第2の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転する工程は、
前記トリミングされた第1の左分割画像と第1の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第1の左分割画像または前記第1の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転するとともに、前記トリミングされた第2の左分割画像と第2の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第2の左分割画像または前記第2の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転する、
ことを特徴とする請求項4に記載の架線金具異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線金具異常検出装置及び架線金具異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気鉄道設備のうち、架線金具に対する保守点検作業があり、架線金具の異常を検査員が目視で確認して保守を行っている。架線金具とは、電気鉄道設備における車両に電力を供給するための架空電車線(トロリ線、吊架線、補助吊架線;以下「架線」)を所定の位置に保持し、又は複数の架線間を電気的に接続し、若しくは区分するための金具をいう。しかしながら、目視による点検には限界があり、異常を見逃す可能性があった。
【0003】
そこで、特許文献1、2には、鉄道車両の屋根上に搭載されたラインセンサカメラより架線金具の撮影を行って入力画像を生成し、当該入力画像を元に、機械学習を用いて架線金具の異常を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-147129号公報
【文献】特開2020-149286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2では、入力画像を生成する際、撮影された入力画像に対して画像加工を行っていないため、画像内に余分なデータ(本線の外など、撮影対象範囲の外にある金具)が存在していた場合、それらのデータが異常検出の精度に影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
また、撮影対象範囲を絞って撮影を行う場合、鉄道車両の車両限界のほか、ラインセンサカメラの画角や、被写界深度など、機器の設置に対する制約が多く存在するため、機器の選定が大幅に限定されるという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、架線金具の異常の検出精度を向上させるためのデータセットを提供することが可能な架線金具異常検出装置及び架線金具異常検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る架線金具異常検出装置は、
鉄道車両の走行中に架線金具を魚眼レンズを用いて撮影するカメラであって、前記鉄道車両の進行方向に対して左右に所定の距離を隔てて配設された第1のラインセンサカメラと第2のラインセンサカメラと、
前記第1のラインセンサカメラによって撮影された第1の画像から撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2のラインセンサカメラによって撮影された第2の画像から撮影対象範囲外をトリミングするトリミング部と、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置と、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置とに対して、撮影された架線金具の向きが一致するように、前記トリミングされた第1の画像と前記トリミングされた第2の画像とのうち、いずれか一方の画像を左右反転する左右反転処理部と、を備え、
前記トリミングされた第1の画像又は前記トリミングされた第2の画像のうち、前記左右反転処理部により左右反転されなかった画像と、前記左右反転処理部により左右反転された反転画像とを、前記架線金具の異常を検出するための加工済み画像として提供する、
ことを特徴とする。
【0009】
また、上記の課題を解決するための第2の発明に係る架線金具異常検出装置は、第1の発明において、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する画像左右分割処理部と、
前記第1の画像から分割された分割画像のうち、前記第1のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除するとともに、前記第2の画像から分割された分割画像のうち、前記第2のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除する外側画像削除処理部と、をさらに備え、
前記トリミング部は、
削除されずに残った第1の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、削除されずに残った第2の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転処理部は、
前記トリミングされた第1の分割画像における撮影された架線金具の向きと、前記トリミングされた第2の分割画像における撮影された架線金具の向きとが一致するように、前記第1の分割画像と前記第2の分割画像とのうち、いずれか一方を左右反転する、
ことを特徴とする。
【0010】
また、上記の課題を解決するための第3の発明に係る架線金具異常検出装置は、第1の発明において、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する画像左右分割処理部をさらに備え、
前記トリミング部は、
前記第1の画像から左右に分割された第1の左分割画像と第1の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2の画像から左右に分割された第2の左分割画像と第2の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転処理部は、
前記トリミングされた第1の左分割画像と第1の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第1の左分割画像または前記第1の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転するとともに、前記トリミングされた第2の左分割画像と第2の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第2の左分割画像または前記第2の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転する、
ことを特徴とする。
【0011】
また、上記の課題を解決するための第4の発明に係る架線金具検出方法は、
鉄道車両の進行方向に対して左右に所定の距離を隔てて配設された、魚眼レンズを備えた第1のラインセンサカメラと第2のラインセンサカメラとによって、前記鉄道車両の走行中に架線金具を撮影する工程と、
前記第1のラインセンサカメラによって撮影された第1の画像から撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2のラインセンサカメラによって撮影された第2の画像から撮影対象範囲外をトリミングする工程と、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置と、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置とに対して、撮影された架線金具の向きが一致するように、前記トリミングされた第1の画像と前記トリミングされた第2の画像とのうち、いずれか一方の画像を左右反転する工程と、
前記トリミングされた第1の画像又は前記トリミングされた第2の画像のうち、前記左右反転する工程により左右反転されなかった画像と、前記左右反転する工程により左右反転された反転画像とを、前記架線金具の異常を検出するための加工済み画像として提供する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記の課題を解決するための第5の発明に係る架線金具異常検出方法は、第4の発明において、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する工程と、
前記第1の画像から分割された分割画像のうち、前記第1のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除するとともに、前記第2の画像から分割された分割画像のうち、前記第2のラインセンサカメラの中心位置より車両の外側に相当する分割画像を削除する工程と、をさらに含み、
前記撮影対象範囲外をトリミングする工程は、
削除されずに残った第1の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、削除されずに残った第2の分割画像から前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転する工程は、
前記トリミングされた第1の分割画像における撮影された架線金具の向きと、前記トリミングされた第2の分割画像における撮影された架線金具の向きとが一致するように、前記第1の分割画像と前記第2の分割画像とのうち、いずれか一方を左右反転する、
ことを特徴とする。
【0013】
また、上記の課題を解決するための第6の発明に係る架線金具異常検出方法は、第4の発明において、
前記第1の画像における前記第1のラインセンサカメラの中心位置から、前記第1の画像を左右に分割するとともに、前記第2の画像における前記第2のラインセンサカメラの中心位置から、前記第2の画像を左右に分割する工程をさらに含み、
前記撮影対象範囲外をトリミングする工程は、
前記第1の画像から左右に分割された第1の左分割画像と第1の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングするとともに、前記第2の画像から左右に分割された第2の左分割画像と第2の右分割画像とから前記撮影対象範囲外をトリミングし、
前記左右反転する工程は、
前記トリミングされた第1の左分割画像と第1の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第1の左分割画像または前記第1の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転するとともに、前記トリミングされた第2の左分割画像と第2の右分割画像とにおける架線金具の向きが一致するように、前記第2の左分割画像または前記第2の右分割画像のいずれか一方の画像を左右反転する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、架線金具の異常の検出精度を向上させるためのデータセットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態による架線金具異常検出装置1の略構成を示す模式図である。
【
図2】本第1実施形態において魚眼レンズを用いたラインセンサカメラ10L、10Rの利点を説明するための模式図である。
【
図3】本第1実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本第1実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。
【
図5】本第1実施形態による架線金具異常検出装置1による撮影時の状態を示す模式図である。
【
図6】本第1実施形態による架線金具異常検出装置1による撮影画像を示す模式図である。
【
図7】本第1実施形態によるトリミング範囲を説明するための概念図である。
【
図8】本第1実施形態による左画像50L、右画像50Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。
【
図9】本第1実施形態によるトリミング前の元画像(左画像50L)とトリミング後に得られる左トリミング画像51Lとを示す概念図である。
【
図10】本第1実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像51L及び右トリミング画像51Rを示す概念図である。
【
図11】本第1実施形態において、トリミングを行うことによる学習・推論での利点(効果)を説明するための概念図である。
【
図12】本第1実施形態による左右反転処理を説明するための概念図である。
【
図13】本第2実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図14】本第2実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。
【
図15】本第2実施形態による画像左右分割処理を説明するための概念図である。
【
図16】本第2実施形態による外側画像削除処理を説明するための概念図である。
【
図17】本第2実施形態による左分割画像54L及び右分割画像53Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。
【
図18】本第2実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像55L及び右トリミング画像55Rを示す概念図である。
【
図19】本第2実施形態において、トリミング後の左トリミング画像55Lと画像反転後の右反転画像56Rを示す概念図である。
【
図20】本第3実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図21】本第3実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。
【
図22】本第3実施形態による画像左右分割処理を説明するための概念図である。
【
図23】本第3実施形態による左分割画像53L、54L及び右分割画像53R、54Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。
【
図24】本第3実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像57L、58L、及び右トリミング画像57R、58Rを示す概念図である。
【
図25】本第3実施形態において、左トリミング反転画像59L、左トリミング画像58L及び右トリミング反転画像59R、右トリミング画像58Rを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、鉄道車両の屋根上に搭載された少なくとも2つのラインセンサカメラから取得された画像に対し、自動で架線金具の検出を行うことを可能とし、後段処理で撮像画像を元に架線金具の異常を検出することで、架線金具に対する保守点検業務の省力化を実現することを目的としている。
【0017】
A.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態による架線金具異常検出装置1の略構成を示す模式図である。
図1において、鉄道車両2の車両屋根21上には、車幅方向に所定の距離だけ離間して魚眼レンズを装着した2つのラインセンサカメラ(第1、第2のラインセンサカメラ)10L、10Rが設置されるとともに、複数の照明11、11、11が上方向に向けて設置されている。ラインセンサカメラ10L、10Rは、車両屋根21に対して垂直方向に画角が向くように設置されている。ラインセンサカメラ10L、10Rは、車両屋根21の上方の、線路に沿って設置された架線金具を撮影する。
【0018】
なお、本発明において、架線金具とは、以下のものを指すものとする。
・ハンガー、ドロッパ、コネクタ、ダブルイヤー
・曲線引架線金具、支持物
これらが本発明に係る架線金具異常検出装置及び架線金具異常検出方法によって検出できるものである。
【0019】
鉄道車両2には、パーソナルコンピュータなどの画像処理装置(以下、車載PCという)12が搭載されている。車載PC12は、ラインセンサカメラ10L、10Rによって撮影された撮像画像を格納するデータ保存部13と、撮像画像に様々な画像処理を施し、機械学習による架線金具の検出及び架線金具の異常(金具の歪み、ネジの有無等)検出を行うための前処理を行う画像処理部14を備えている。
【0020】
なお、本発明では、画像処理部14は、予め取得した架線金具の画像及び架線金具以外の画像を用いて学習した人工知能機能を実装した演算装置を備えており、上述した前処理によって生成した画像に基づいて、画像の中から架線金具を検出し、検出した架線金具の異常を検出する。但し、演算装置による画像の中から架線金具を検出する処理、及び検出した架線金具の異常(金具の歪み、ネジの有無等)を検出する処理については周知であるので説明を省略する。
【0021】
ここで、本発明において、ラインセンサカメラ10L、10Rに、広角レンズではなく魚眼レンズを用いる理由(効果)について説明する。
図2(a)、(b)は、本第1実施形態において魚眼レンズを用いたラインセンサカメラ10L、10Rの利点を説明するための模式図である。
図2(a)には、広角レンズを用いたラインセンサカメラ30の場合におけるカメラ撮像範囲31、撮影対象範囲32、被写界深度33を示している。また、
図2(b)には、魚眼レンズを用いたラインセンサカメラ10Lの場合におけるカメラ撮像範囲34、撮影対象範囲35を示している。また、
図2(a)、(b)において、車両周囲には、車両限界36が設定されている。車両限界36とは、車両が線路上を安全に走行できるためにその幅、高さ等の数値を制限するための基準であり、この車両限界を越えて構造物を設置することはできない。なお、
図2(b)には、ラインセンサカメラ10Rについて示していないが、カメラ撮像範囲34が横方向にずれるだけで魚眼レンズを用いることによる理由(効果)はラインセンサカメラ10Lと同じである。
【0022】
広角レンズを用いたラインセンサカメラ30の場合、広角レンズの画角の関係から、
図2(a)のカメラ撮像範囲31で示すように、ラインセンサカメラ30を斜め方向に傾けて設置する必要がある。この場合、長方形の撮影対象範囲32に対して斜め方向から撮影することとなるため、被写界深度を深くとる必要が生じる。また、広角レンズを用いた場合、ラインセンサカメラ30を車両屋根21の端部に設置する必要があるため、上述した車両限界36に抵触する恐れも生じる。
【0023】
一方、
図2(b)に示すように、魚眼レンズを用いた場合、カメラ撮像範囲34で示すように、ラインセンサカメラ10Lの画角は180°であり、被写界深度が深いという特徴がある。魚眼レンズを用いる場合、ラインセンサカメラ10Lの画角を考慮する必要がなくなるほか、魚眼レンズの特性として、被写界深度が深いことも挙げられるため、広角レンズを用いたラインセンサカメラ30と比較して広いカメラ撮像範囲34を撮影することができる。以上のことから、ラインセンサカメラ10L、10Rに魚眼レンズを用いることで、車両屋根21の端部に設置する必要がなくなり、設置上の制約を大幅に軽減することが可能となる。
【0024】
図3は、本第1実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。また、
図4は、本第1実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。また、
図5は、本第1実施形態による架線金具異常検出装置1による撮影時の状態を示す模式図である。また、
図6は、本第1実施形態による架線金具異常検出装置1による撮影画像を示す模式図である。
【0025】
本第1実施形態では、撮影開始から撮影終了までにラインセンサカメラで所定の時間間隔で撮影した複数の画像に対して(画像枚数分)、以下のステップS10~S16の処理を繰り返す。
【0026】
<撮影処理>
まず、架線金具異常検出装置1は、車両走行中に、ラインセンサカメラ10L、10Rによって撮影を行う(ステップS10)。ラインセンサカメラ10L、10Rが撮像した撮像画像は、
図4に示すように、データ保存部13に保存される。
【0027】
ここで、
図5は、本実施形態において、車両屋根21、ラインセンサカメラ10L、10R、及び架線A~Cとの位置関係を示す模式図である。撮影時、車両屋根21、ラインセンサカメラ10L、10R、及び架線A~Cとの位置関係は、
図5に示すようになっている。架線Aは、トロリ線40Aと該トロリ線40Aを吊り下げる吊架線41Aと、トロリ線40Aと吊架線41Aとを結合するための架線金具42Aとから構成され、架線Bは、トロリ線40Bと該トロリ線40Bを吊り下げる吊架線41Bと、トロリ線40Bと吊架線41Bとを結合するための架線金具42Bとから構成されている。ラインセンサカメラ10L、10Rによる該撮影対象範囲35に架線A、Bが含まれるようになっている。そして、撮影対象範囲35に含まれる架線A、Bの架線金具42A、42Bが異常検出対象である。一方、撮影対象範囲35に含まれない架線Cの架線金具42Cは、異常検出対象外の撮影非対象金具である。
【0028】
ラインセンサカメラ10L、10Rによって、
図5に示すような位置に存在する架線A、Bを撮影した場合、
図6に示すような左画像(第1の画像)50Lと右画像(第2の画像)50Rとが撮影される。ラインセンサカメラ10Lでは、
図6の上段に示す左画像50Lが撮影され、ラインセンサカメラ10Rでは、
図6の下段に示す右画像50Rが撮影される。
図6において、左画像50Lと右画像50Rとの横方向は、車両屋根21の横方向に相当する。つまり、ラインセンサカメラ10Rとラインセンサカメラ10Lとの配設位置の違い分だけ横方向にずれた画像として撮影される。
【0029】
ラインセンサカメラ10Lで撮影された左画像50Lでは、カメラ中心の左側に架線Aが撮影され、カメラ中心の右側に架線Bが撮影される。このとき、ラインセンサカメラ10Lを鉛直方向に向けていることから、架線Aの架線金具42A1、42A2の上部と、架線Bの架線金具42B1、42B2の上部とがカメラ中心側に位置するように撮影される。また、ラインセンサカメラ10Rで撮影された右画像50Rでは、カメラ中心の左側に架線A、Bが撮影され、カメラ中心の右側に架線Cが撮影される。このとき、ラインセンサカメラ10Rを鉛直方向に向けていることから、架線Bの架線金具42B1、42B2の上部と、架線Cの架線金具42C1、42C2の上部とがカメラ中心側に位置するように撮影される。なお、架線Cの架線金具42C1、42C2は、異常検出対象外であるため、機械学習用のデータには含まれないことが好ましく、後述するトリミングにて削除される。
【0030】
<トリミング処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、画像処理部14により、撮像画像(左画像50L、右画像50R)に対して撮影対象範囲外トリミングを行う(ステップS12)。より具体的には、
図4に示すように、画像処理部14は、撮影対象範囲外トリミング部(トリミング部)141によって、データ保存部13に保存された撮像画像(左画像50L、右画像50R)に対して撮影対象範囲外の画像を除去するためのトリミングを行い、トリミング後の画像(以下、トリミング画像と称する)をデータ保存部13に保存する。該撮影対象範囲外トリミングは、撮影対象範囲外の、異常検出対象外である架線Cの一部画像を切り取るためであり、余分なデータを削減することで、機械学習・推論処理の負担を軽減することができる。
【0031】
ここで、
図7は、本第1実施形態によるトリミング範囲を説明するための概念図である。なお、
図7では、ラインセンサカメラ10Lについてのみ説明するが、ラインセンサカメラ10Rについても同様である。また、
図8は、本第1実施形態による左画像50L、右画像50Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。
【0032】
トリミング範囲については、ラインセンサカメラ10L、10Rの位置(以下、単にカメラ位置と称する)と撮影対象範囲35との関係から決定する。カメラ位置と撮影対象範囲35との関係を見るために、撮影上不要な範囲と実画像上でのピクセル位置との位置関係を照合させる。位置関係の照合では、
図7に示すように、撮影対象範囲35Lの最低高さ60の左右端に目印(白マーカなど)61L、62Lを設置し、それが実画像上のどのピクセル位置に現れるかを確認する。
図7の下段に、左画像50Lにおけるトリミング範囲63L、64Lと撮影対象範囲35L、及び右画像50Rにおけるトリミング範囲63R、64Rと撮影対象範囲35Rを示す。目印61L、62Lまたは目印61R、62Rのピクセル位置より外側の範囲が、トリミングを行うトリミング範囲63L、64L、及びトリミング範囲63R、64Rとなる。これを
図6に示す撮像された左画像50Lと右画像50Rとに当てはめると、
図8に示すように、左画像50Lに対しては、トリミング範囲63L、64Lで、右画像50Rに対しては、トリミング範囲63R、64Rでトリミングを行うこととなる。
【0033】
図9は、本第1実施形態によるトリミング前の元画像(左画像50L)とトリミング後の左トリミング画像51Lとを示す概念図である。なお、
図9には、元画像として左画像50L、左画像50Lをトリミングした後の左トリミング画像(トリミングされた第1の画像)51Lを示しているが、右画像50Rでも同様である。
図9に示すように、撮影直後の元画像、つまり左画像50Lでは、学習・推論対象のデータである、架線Aの架線金具42A1、42A2及び架線Bの架線金具42B1、42B2と、学習・推論対象ではない非対象データである架線Cの架線金具42C1、42C2とが同一の形状で混在している。これに対して、トリミング後の左トリミング画像51Lでは、学習・推論対象ではない非対象データである架線Cの架線金具42C1、42C2の一部がトリミングされ、切り取られる。
【0034】
図10は、本第1実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像51L及び右トリミング画像51Rを示す概念図である。
図10に示すように、トリミングすることにより、左トリミング画像51L及び右トリミング画像(トリミングされた第2の画像)51Rの双方において、学習・推論対象ではない非対象データである架線Cの一部がトリミングされ、切り取られる。これにより、左トリミング画像51Lでは、学習・推論対象のデータである、架線Aの架線金具42A1、42A2及び架線Bの架線金具42B1、42B2と、学習・推論対象ではない非対象データである架線Cの架線金具42C1、42C2とを異なる形状として区別することが可能となる。
【0035】
また、それだけでなく、画像圧縮時により多くの画像特徴を残すことが可能となる。機械学習では、処理の都合上、画像を正方形にリサイズしたのち、学習・推論を行う。本第1実施形態では、画像の横幅をトリミングすることによって、不要な情報を削減することが可能とするとともに、画像を正方形にリサイズした際に、効率的な学習・推論を行うことを可能としている。
【0036】
図11は、本第1実施形態において、トリミングを行うことによる学習・推論での利点(効果)を説明するための概念図である。なお、
図11には、元画像として左画像50L、左画像50Lをトリミングした後の左トリミング画像51Lを示しているが、右画像50Rでも同様である。
図10の上段には、トリミングを行っていない左画像50Lを、学習・推論の効率化のために正方形にリサイズしたときの架線金具部分を拡大した画像Aを示し、同図の下段には、トリミング後の左トリミング画像51Lを、正方形にリサイズしたときの架線金具部分を拡大した画像Bを示している。画像Aと画像Bとを比較すると分かるように、本第1実施形態では、左トリミング画像51Lを正方形にリサイズしたときの方が、トリミング前の左画像50Lを正方形にリサイズしたときよりも多くの金具情報(高精細な画像;コイル状の金具の間隔が広い)を残すこと、すなわち、圧縮によるデータの損失が小さくすることが可能となる。
【0037】
<左右反転処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、トリミング後の右トリミング画像51Rの左右反転を行う(ステップS14)。より具体的には、
図4に示すように、画像処理部14は、画像左右反転処理部142によって、データ保存部13に保存されたトリミング後の右トリミング画像51Rに対して左右反転を行い、右反転画像52Rとしてデータ保存部13に保存する。
【0038】
元画像である右画像50Rでは、前述した
図6に示すように、ラインセンサカメラ10Rの設置位置の関係上、架線Bの架線金具42Bの上部が画像中心に近い方向に撮像される。機械学習においては、架線金具の形状のほか、画像上のピクセル情報も精度に影響してくるため、同じ位置の架線金具については、左右の画像で同じ向きで撮像されることが望ましい。しかしながら、前述した
図10に示すように、トリミング後の左トリミング画像51Lと右トリミング画像51Rとでは、左右でトリミングする範囲が異なるため、左右の画像位置によって架線金具の向きが異なってしまう。
図10の例では、左トリミング画像51Lと右トリミング画像51Rとでは、架線金具42B1、42B2の向きが異なっている。そのため、画像座標情報と架線金具42B1、42B2の向き情報とが一致しない事態が発生する。これを防ぐため、トリミング後の左トリミング画像51Lと右トリミング画像51Rとのうち、右トリミング画像51Rに対して左右反転処理を行う。
【0039】
図12は、本第1実施形態による左右反転処理を説明するための概念図である。
図12に示すように、右トリミング画像51Rに対して左右反転処理を行うと、左トリミング画像51L、右反転画像(反転画像)52Rにおけるカメラ中心位置が統一されるため、左右カメラ中心に対して、左側の画像における架線金具42A1、42A2の上部が必ず右に位置し、右側の画像における架線金具42A1、42A2、42B1、42B2の上部が必ず左に位置することになる。このため、画像のピクセル上の位置関係と架線金具42B1、42B2の向きとの関係も統一され、機械学習の精度も向上させることができる。
【0040】
<加工済み画像提供処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、トリミング後の左トリミング画像51Lと、左右反転処理後の右反転画像52Rとを、加工済み画像として図示しない機械学習システム(演算装置)に供給する(ステップS16)。図示しない機械学習システムでは、加工済み画像であるトリミング後の左トリミング画像51Lと、左右反転処理後の右反転画像52Rとに基づいて、機械学習を行うとともに、架線金具の異常(金具の歪み、ネジの有無等)を検出する。
【0041】
上述した第1実施形態によれば、トリミングにより、不要なデータを削減することができ、学習・推論に対する処理負担を軽減することができる。また、トリミングにより、正方形へのリサイズ時における架線金具情報の損失を緩和することができる。また、画像反転により、画像のピクセル上の位置関係と架線金具の向きとの関係を統一させることができ、機械学習の精度を向上させることができる。そして、これらの効果により、架線金具の異常検出時における精度を向上させることが可能となる。
【0042】
B.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
架線金具異常検出装置1の構成は、
図1と同様であるので説明を省略する。
図13は、本第2実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。また、
図14は、本第2実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。なお、
図4に対応する部分には同一の符号を付けて説明を省略する。
【0043】
本第2実施形態では、撮影開始から撮影終了までにラインセンサカメラで所定の時間間隔で撮影した複数の画像に対して(画像枚数分)、ステップS20~S30の処理を繰り返す。
【0044】
<撮影処理>
まず、架線金具異常検出装置1は、車両走行中に、ラインセンサカメラ10L、10Rによって撮影を行う(ステップS20)。より具体的には、ラインセンサカメラ10L、10Rが撮像した撮像画像は、
図14に示すように、データ保存部13に保存される。撮像画像は、前述した
図6に示すように、ラインセンサカメラ10Lで撮影された左画像50L、及びラインセンサカメラ10Rで撮影された右画像50Rとなる。
【0045】
<画像左右分割処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、画像処理部14により、撮像画像(左画像50L、右画像50R)のそれぞれを、カメラ中心で左右に分割する分割処理を行う(ステップS22)。より具体的には、
図14に示すように、画像処理部14は、画像左右分割処理部143により、データ保存部13に保存された撮像画像(左画像50L、右画像50R)に対して、それぞれのカメラ中心で画像を左右に分割し、それぞれ分割画像としてデータ保存部13に保存する。ここで、
図15は、本第2実施形態による画像左右分割処理を説明するための概念図である。
図15に示すように、左画像50L、右画像50Rのそれぞれを、カメラ中心で左右に分割し、左分割画像(分割された画像)53L、54L、及び右分割画像(分割された画像)53R、54Rとする。
【0046】
<外側画像削除処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、左右分割画像に対して、カメラ中心より車両の外側に当たる部分の一部画像を削除する(ステップS24)。より具体的には、
図14に示すように、画像処理部14は、外側画像削除処理部144により、データ保存部13に保存された左分割画像、及び右分割画像のうち、カメラ中心より車両の外側に当たる部分の画像を削除し、残した左分割画像及び右分割画像をデータ保存部13に保存する。
【0047】
図16は、本第2実施形態による外側画像削除処理を説明するための概念図である。
図16の上段に示すように、左分割画像(第1の画像から分割された分割画像)53L、54Lのうち、カメラ中心より車両の外側に当たる左分割画像(外側に相当する画像)53Lを削除するとともに、右分割画像(第2の画像から分割された分割画像)53R、54Rのうち、カメラ中心より車両の外側に当たる右分割画像(外側に相当する画像)54Rを削除する。換言すれば、左画像50Lに対しては右半分の左分割画像54Lを残し、右画像50Rに対しては左半分の右分割画像53Rを残す。
【0048】
一般的に、架線金具は、多くが車両中心付近(
図5、
図6における架線Bの位置)に設置されている。また先述のように、架線金具42A、42Bの上部は、
図6に示すように、画像中心に位置するような形で撮影される。このことから、架線金具42A、42Bの画像上の上下向きを統一させるため、撮影対象の架線金具が比較的少ない、カメラ中心より車両の外側に当たる部分(架線Bが映っていない側)の画像を削除する。これにより、従来、左右のラインセンサカメラ10L、10Rで行っていた異常検出を、
図16の下段に示すように、一方のラインセンサカメラ10Rでのみ行うエリアが発生するものの、元画像1枚の画像中における架線金具の向きを完全に統一することが可能となる。
【0049】
図16の例では、ラインセンサカメラ10Lに対しては、左分割画像54L中の架線B、Cの架線金具42B1、42B2、42C1、42C2の向きが一致しており、ラインセンサカメラ10Rに対しては、右分割画像53R中の架線A、Bの架線金具42A1、42A2、42B1、42B2の向きが一致している。そして、この場合、架線Aの架線金具42A1、42A2に対しては、ラインセンサカメラ10Rのみで異常を検出する。また、架線Bの架線金具42B1、42B2に対しては、左右のラインセンサカメラ10L、10Rの双方で異常を検出する。また、撮影対象範囲の右端は、この場合、架線が存在しないが、仮に架線が存在する場合には、ラインセンサカメラ10Lのみで異常を検出する。
【0050】
<トリミング処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、上述した第1実施形態と同様に、画像処理部14により、左右分割・外側画像削除後の左分割画像54L及び右分割画像53Rに対して、撮影対象範囲外トリミングを行う(ステップS26)。より具体的には、
図14に示すように、画像処理部14は、撮影対象範囲外トリミング部141によって、データ保存部13に保存された外側画像削除された左分割画像及び右分割画像に対して撮影対象範囲外トリミングを行い、左トリミング画像及び右トリミング画像としてデータ保存部13に保存する。
【0051】
図17は、本第2実施形態による左分割画像54L及び右分割画像53Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。トリミング処理は、基本的に上述した第1実施形態と同様である。第2実施形態によるトリミング範囲は、左分割画像54Lの右端のトリミング範囲(撮影対象範囲外)64L、及び右分割画像53Rの左端のトリミング範囲(撮影対象範囲外)64Rの2か所となる。
【0052】
図18は、本第2実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像55L及び右トリミング画像55Rを示す概念図である。左分割画像(第1の分割画像)54L及び右分割画像(第2の分割画像)53Rに対してトリミングすることにより、
図18に示すように、撮影対象範囲外の、異常検出対象外である架線Cの一部画像を切り取ることができる。
【0053】
<画像反転処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、上述した第1実施形態と同様に、画像処理部14により、トリミング後の右トリミング画像55Rの左右反転を行う(ステップS28)。より具体的には、
図14に示すように、画像処理部14は、画像左右反転処理部142によって、データ保存部13に保存されたトリミング後の右トリミング画像に対して左右反転を行い、右反転画像としてデータ保存部13に保存する。
【0054】
図19は、本第2実施形態において、トリミング後の左トリミング画像55Lと画像反転後の右反転画像56Rを示す概念図である。
図19の上段には、左側のラインセンサカメラ10Lの撮影画像から得られたトリミング後の左トリミング画像55Lを示しており、同図の下段には、トリミング・反転処理済みの右反転画像56Rを示している。本第2実施形態においても、トリミング後の右トリミング画像55Rに対して左右反転を行うことで、
図19に示すように、左トリミング画像55Lにおける架線Bの架線金具42B1、42B2の向きと、右反転画像56Rにおける架線Aの架線金具42A1、42A2及び架線Bの架線金具42B1、42B2との向きとが統一され、機械学習の精度も向上させることができる。
【0055】
<加工済み画像提供処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、トリミング後の左トリミング画像55Lと、トリミング・反転処理済みの右反転画像56Rとを、加工済み画像として図示しない機械学習システム(演算装置)に供給する(ステップS30)。図示しない機械学習システムでは、加工済み画像であるトリミング後の左トリミング画像55Lと、トリミング・反転処理済みの右反転画像56Rとに基づいて、機械学習を行うとともに、架線金具の異常(金具の歪み、ネジの有無等)を検出する。
【0056】
上述した第2実施形態によれば、第1実施形態と比較して、架線金具の向きを完全に統一することができ、機械学習の精度をさらに向上させることができる。また、正方形へのリサイズ時における架線金具情報の損失を緩和することができる。また、外側画像削除処理により、不要なデータをさらに削減することができ、学習・推論に対する処理をより軽減することができる。
【0057】
C.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
架線金具異常検出装置1の構成は、
図1と同様であるので説明を省略する。
図20は、本第3実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのフローチャートである。また、
図21は、本第3実施形態による架線金具異常検出装置1の動作を説明するためのデータ移行を示す概念図である。なお、
図14に対応する部分には同一の符号を付けて説明を省略する。
【0058】
本第3実施形態では、撮影開始から撮影終了までにラインセンサカメラで所定の時間間隔で撮影した複数の画像に対して(画像枚数分)、ステップS40~S48の処理を繰り返す。
【0059】
<撮影処理>
まず、架線金具異常検出装置1は、車両走行中に、ラインセンサカメラ10L、10Rによって架線金具の撮影を行う(ステップS40)。より具体的には、ラインセンサカメラ10L、10Rが撮像した撮像画像は、
図21に示すように、データ保存部13に保存される。撮像画像は、前述した
図6に示すように、ラインセンサカメラ10Lで撮影された左画像50L、及びラインセンサカメラ10Rで撮影された右画像50Rとなる。
【0060】
<画像左右分割処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、本第2実施形態と同様に、画像処理部14により、撮像画像(左画像50L、右画像50R)のそれぞれを、カメラ中心で左右に分割する分割処理を行う(ステップS42)。より具体的には、
図21に示すように、画像処理部14は、画像左右分割処理部143により、データ保存部13に保存された撮像画像(左画像50L、右画像50R)に対して、それぞれのカメラ中心で画像を左右に分割し、左右分割画像としてデータ保存部13に保存する。
【0061】
図22は、本第3実施形態による画像左右分割処理を説明するための概念図である。
図22に示すように、左画像50L、右画像50Rのそれぞれを、カメラ中心で左右に分割し、左分割画像(第1の左分割画像、第1の右分割画像)53L、54L、及び右分割画像(第2の左分割画像、第2の右分割画像)53R、54Rとする。
【0062】
<トリミング処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、上述した第1、第2実施形態と同様に、画像処理部14により、左右分割後の左分割画像53L、54L、及び右分割画像53R、54Rに対して、撮影対象範囲外トリミングを行う(ステップS44)。より具体的には、
図21に示すように、画像処理部14は、撮影対象範囲外トリミング部141によって、データ保存部13に保存された左分割画像と、右分割画像とに対して撮影対象範囲外トリミングを行い、トリミング後のトリミング画像をデータ保存部13に保存する。
【0063】
図23は、本第3実施形態による左分割画像53L、54L及び右分割画像53R、54Rに対するトリミング範囲を説明するための概念図である。トリミング処理は、基本的に上述した第1実施形態と同様である。第3実施形態のトリミング処理によるトリミング範囲は、左分割画像53Lの左端のトリミング範囲63L、左分割画像54Lの右端のトリミング範囲64L、また、右分割画像53Rの左端のトリミング範囲63R、右分割画像54Rの右端のトリミング範囲64Rの合計4か所となる。
【0064】
図24は、本第3実施形態におけるトリミング後の左トリミング画像57L、58L、及び右トリミング画像57R、58Rを示す概念図である。
図24に示すように、左分割画像53Lの左端と左分割画像54Lの右端、及び右分割画像53Rの左端と右分割画像54Rの右端をトリミングしたことにより、撮影対象範囲外の、異常検出対象外である架線Cの一部画像を切り取ることができる。
【0065】
<画像反転処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、上述した第1、第2実施形態と同様に、画像処理部14により、分割・トリミング後の一部の画像、すなわち左トリミング画像57Lと右トリミング画像57Rとに対して左右反転を行う(ステップS28)。より具体的には、
図21に示すように、画像処理部14は、画像左右反転処理部142によって、データ保存部13に保存された分割・トリミング後の左トリミング画像と右トリミング画像とに対して左右反転を行い、それぞれ左トリミング画像と、右トリミング画像としてデータ保存部13に保存する。
【0066】
図25は、本第3実施形態において、左トリミング反転画像59L、左トリミング画像58L及び右トリミング反転画像59R、右トリミング画像58Rを示す概念図である。
図25の上段には、トリミング後の左トリミング画像58Lと、トリミング後にさらに反転処理した左トリミング反転画像59Lとを示し、トリミング後の右トリミング画像58Rと、トリミング後にさらに反転処理した右トリミング反転画像59Rとを示している。本第3実施形態においても、
図25に示すように、左トリミング反転画像59Lにおける架線Aの架線金具42A1、42A2の向きと、左トリミング画像58Lにおける架線Bの架線金具42B1、42B2の向きと、右トリミング反転画像59Rにおける架線Aの架線金具42A1、42A2の向きと、架線Bの架線金具42B1、42B2の向きとが全て統一されるので、機械学習の精度も向上させることができる。なお、
図25の右トリミング画像58Rのように、画像内に検出対象となる架線金具が存在しない場合、学習データセットに使用しない。
【0067】
<加工済み画像提供処理>
次に、架線金具異常検出装置1は、左トリミング反転画像59L、左トリミング画像58Lと、右トリミング反転画像59R、右トリミング画像58Rとを、加工済み画像として図示しない機械学習システム(演算装置)に供給する(ステップS48)。図示しない機械学習システムでは、加工済み画像である左トリミング反転画像59Lと左トリミング画像58L、及び右トリミング反転画像59Rに基づいて、機械学習を行うとともに、架線金具の異常(金具の歪み、ネジの有無等)を検出する。
【0068】
このように構成される本実施形態による架線金具異常検出装置及び架線金具異常検出方法によれば、架線金具の異常の検出精度を向上させることが可能となる。また、トリミングによりデータ量を削減することにより、機械学習・推論処理の負担を軽減することが可能となる。さらに、ラインセンサカメラ10L、10Rに魚眼レンズを用いることにより、設置条件に左右されにくい機器構成が可能となる。
【0069】
なお、上述した第1乃至第3実施形態では、右画像を反転するとしたが、これに限らず、カメラ中心に対して、架線金具の向きが一致するように、いずれか一方の画像を反転するようにしてもよい。
【0070】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 架線金具異常検出装置
2 鉄道車両
21 車両屋根
10L、10R ラインセンサカメラ
11、11、11 照明
12 車載PC
13 データ保存部
14 画像処理部
141 撮影対象範囲外トリミング部
142 画像左右反転処理部
143 画像左右分割処理部
144 外側画像削除処理部
A~C 架線
40A~40C トロリ線
41A~41C 吊架線
42A~42C 架線金具
42A1、42A2、42B1、42B2、42C1、42C2 架線金具
51L 左トリミング画像
51R 右トリミング画像
52R 右反転画像
53L、54L 左分割画像
53R、54R 右分割画像
【要約】
【課題】架線金具の異常の検出精度を向上させるためのデータセットを提供することを可能とした線条金具異常検出装置及び線条金具異常検出方法を提供する。
【解決手段】、車両屋根に配設された、魚眼レンズを備えるラインセンサカメラ10L、10Rと、ラインセンサカメラ10Lによって撮影された画像50Lとラインセンサカメラ10Rによって撮影された画像50Rとから撮影対象範囲外をトリミングするトリミング部141と、ラインセンサカメラ10L、10Rの中心位置に対して、撮影された架線金具の向きが一致するように、トリミングされた画像50Lとトリミングされた画像50Rとのうち、いずれか一方の画像を左右反転する画像左右反転処理部142とを備え、トリミングされた画像のうち、左右反転されなかった画像と、左右反転された反転画像とを、架線金具の異常を検出するための加工済み画像として提供する。
【選択図】
図1