(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】自走式薬剤散布機
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20241016BHJP
B05B 17/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
A01M7/00 E
A01M7/00 J
B05B17/00 101
(21)【出願番号】P 2023117683
(22)【出願日】2023-07-19
(62)【分割の表示】P 2021213879の分割
【原出願日】2019-07-31
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長尾 康史
(72)【発明者】
【氏名】長谷 喜八郎
(72)【発明者】
【氏名】上島 徳弘
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-23041(JP,A)
【文献】特開2009-35086(JP,A)
【文献】特開2014-132879(JP,A)
【文献】実開平7-18578(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2010/0044976(US,A1)
【文献】特開2019-14570(JP,A)
【文献】特開2007-9559(JP,A)
【文献】特開2017-193874(JP,A)
【文献】特公昭61-41283(JP,B2)
【文献】特開2004-150333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
B05B 17/00
B60P 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を走行させる走行車体(A)と、作業者が着座する運転座席(a2)と、作業者の操作を受け付ける操作部(a6)と、油圧シリンダの動作によって移動する薬剤散布部(b1)と、前記油圧シリンダと接続されたアキュムレータと、
前記油圧シリンダへの作動油の給排を切換えて前記油圧シリンダを作動する切換弁と、
前記油圧シリンダと前記アキュムレータとを連通する通路を開閉する開閉弁を備える自走式薬剤散布機において、
前記運転座席(a2)
を囲むキャビン(K)の前方であって視認可能に前記アキュムレータを設けたことを特徴とする自走式薬剤散布機。
【請求項2】
前記アキュムレータを複数個設けたことを特徴とする請求項1に記載の自走式薬剤散布機。
【請求項3】
エンジンの始動停止を行うキースイッチで前記開閉弁の開閉を可能に構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自走式薬剤散布機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の散布を行う自走式薬剤散布機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防除液等の薬剤を噴霧散布する散布ブームを備えた薬剤散布装置を走行車体の前部に搭載した自走式薬剤散布機が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、昇降シリンダの伸長または短縮によって上下動する昇降リンクに昇降フレームが設けられ、この昇降フレームに散布ブームが装着された自走式薬剤散布機が開示されている。
【0004】
ここで、散布ブームは、走行車体に対して一端が支持され、他端が自由端となるように片持ち支持されているため、作業時に圃場の凹凸によって、走行車体が振動すると、その振動が散布ブームに伝達されて激しく振動してしまう。その結果、薬剤の散布にムラが生じ、作業能率及び薬剤散布効率の低下を招くこととなるため、散布ブームの振動を抑止することは従来からの課題であった。
【0005】
そこで、特許文献2には、昇降シリンダに昇降シリンダ内の圧力変動を吸収するアキュムレータを連結することで、アキュムレータによって昇降シリンダにバネ作用を発揮させ、これにより、昇降フレームの振動を低減することで、作業時における散布ブームの振動を抑止する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、昇降シリンダとアキュムレータとの作動油の給排通路に開閉弁を設け、昇降フレームの上下動時においては、開閉弁を閉じて、昇降シリンダとアキュムレータとの作動油の給排を一時的に遮断し、これにより、散布ブームの昇降操作に対する応答性を向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-17310号公報
【文献】特開2013-102号公報
【文献】特開2017-23041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献2及び特許文献3に開示された先行技術を適用した自走式薬剤散布機によれば、アキュムレータが昇降シリンダ内の圧力変動を吸収してバネ作用を発揮する際、自走式薬剤散布機の走行車体に対して散布ブームは固定されず上下に揺動可能となっている。
【0008】
特許文献2と特許文献3においては、アキュムレータの設置位置に関する構成は記載されていない。
【0009】
アキュムレータからの油漏れなどの故障が発生しても、運転中の作業者は容易に把握できない問題があった。
【0010】
運転座席に着座して操作中に作業者が、アキュムレータの故障を容易に発見できる自走式薬剤散布機を提供することにより、従来の問題点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、機体を走行させる走行車体(A)と、作業者が着座する運転座席(a2)と、作業者の操作を受け付ける操作部(a6)と、油圧シリンダの動作によって移動する薬剤散布部(b1)と、前記油圧シリンダと接続されたアキュムレータと、前記油圧シリンダへの作動油の給排を切換えて前記油圧シリンダを作動する切換弁と、前記油圧シリンダと前記アキュムレータとを連通する通路を開閉する開閉弁を備える自走式薬剤散布機において、前記運転座席(a2)を囲むキャビン(K)の前方であって視認可能に前記アキュムレータを設けたことを特徴とする自走式薬剤散布機とした。
【0012】
請求項2の発明は、前記アキュムレータを複数個設けたことを特徴とする請求項1に記載の自走式薬剤散布機とした。
【0013】
請求項3の発明は、エンジンの始動停止を行うキースイッチで前記開閉弁の開閉を可能に構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自走式薬剤散布機とした。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、アキュムレータの故障の視認が容易となる。
【0015】
また、メンテナンス性も向上する。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、薬剤散布部の制振機能が向上する。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、手動操作により開閉弁を操作する手間が省略できて利便性が向上する。また、作業時に作業者が開閉弁を開く操作を失念することがない。また、開閉弁を入り切りするスイッチが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の好ましい実施形態にかかる自走式薬剤散布機の斜視図である。
【
図5】
図1の自走式薬剤散布機の油圧回路の一部を示す回路図である。
【
図6】
図1の自走式薬剤散布機の正面要部拡大図である。
【
図7】
図5のコントローラによる制御の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図7の散布ブーム昇降処理のコントローラによる手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図5のアキュムレータの作動を示すタイムチャートである。
【
図10】本発明の別実施形態にかかる自走式薬剤散布機の正面図である。
【
図11】
図10の自走式薬剤散布機の油圧回路の一部を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態につき詳細に説明する。なお、実施例の説明においては、機体の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後というが、本発明の構成を限定するものではない。
【0020】
(全体構成)
自走式薬剤散布機1の全体構成例を具体的に説明する。
【0021】
自走式薬剤散布機1は、
図1に斜視図、
図2に左側面図、
図3に平面図、
図4に正面図をそれぞれ示すように、自走式の走行車体Aと、該走行車体A上に設けられたキャビンKと、薬剤を貯留する薬剤タンクMと、該薬剤タンクMから供給された薬剤を圃場に散布する散布ブームb1を有する薬剤散布装置Bと、を備えて構成されている。
【0022】
走行車体Aは、メインフレームa1と運転座席a2とステアリングハンドルa3と、前輪a4と後輪a5とを含む構成である。メインフレームa1は、走行車体Aの前後に延長して形成されている。運転座席a2は、オペレータが乗用防除機1の運転操作をする際に着座するための座席である。運転座席a2の周囲の適切な位置には、散布ブームb1の開閉や薬剤の散布等の動作を制御するための操作スイッチやキースイッチ等を配した操作盤a6が配置されている。
【0023】
運転座席a2の前に立設するステアリングハンドルa3は、オペレータによる回動操作によって、少なくとも左右の前輪a4,a4を操舵することで、自走式薬剤散布機1の進行方向を変更する。すなわち、前輪a4,a4は、少なくともステアリングハンドルa3の回動操作により操舵される操舵輪である。
【0024】
前輪a4と後輪a5は、ボンネットa7内のエンジンの動力がトランスミッションケース内(図示せず)で適宜変速され、変速された動力が伝達されて回転駆動する。
【0025】
キャビンKは、運転座席a2およびその周辺の機器類、ステアリングハンドル等を囲むことで乗員室を形成するものである。キャビンKは、薬剤タンクMと散布ブームb1との間に配置されている。キャビンKは、キャビンフレームk1、キャビンルーフk2、左右の開閉扉k3L、k3Rなどから構成されている。
【0026】
薬剤タンクMは、薬剤を貯留する容器である。薬剤タンクMは、平面視で
図3に示すように、キャビンKの後側に配置されており、運転座席a2の左右両側および後側を囲むようにコの字状に形成されて、メインフレームa1上に着脱可能に搭載されている。なお、薬剤タンクMに貯留される薬剤は、肥料、農薬等を溶媒(例えば、水)に溶解させた液体、および、肥料、農薬等の固形分を含む液体(例えば、水)等の液状物である。
【0027】
(薬剤散布装置)
薬剤散布装置Bは、圃場に散布する散布ブームb1と、該散布ブームb1を走行車体Aに支架する支架装置b2と、を備えて構成されている。
【0028】
散布ブームb1は、走行車体2の前方に位置するセンターブームb1Fと、両側方に位置するサイドブームb1L,b1Rとから構成されている。
【0029】
センターブームb1Fは、走行車体2の車幅方向に水平に延在されている。また、センターブームb1Fには、薬剤を霧状に噴射するノズルbnが間隔をおいて複数配設されている。
【0030】
サイドブームb1L,b1Rは、センターブームb1Fの左右両側に回動可能に配設される。サイドブームb1L,b1Rには、薬剤を霧状に散布するノズルbnが間隔をおいて複数配設されている。サイドブームb1L,b1Rの回動により、散布ブームb1は、走行車体Aの車幅方向(左右方向)に延びるように全体が略一直線状となる散布姿勢と、サイドブームb1L,b1Rが走行車体2の左右両側に沿う収納姿勢とに切り替え可能となっている。このように構成された散布ブームb1は、散布姿勢においては、自走式薬剤散布機1の前側の左右に幅広く薬剤を散布することができる。
【0031】
支架装置b2は、
図2及び
図3に示されるように、走行車体Aに散布ブームb1を昇降可能に支持する装置であり、昇降シリンダb21の伸長または短縮によって回動する昇降リンクb20と、昇降リンクb20の前端と連結された取付フレームb21と、取付フレームb22に取り付けられて昇降リンクb20の回動によって上下動する昇降フレームb23と、両側方のサイドブームb1L,b1Rを略水平に回動して開閉する開閉シリンダb24,b24と、を備えて構成されている。取付フレームb22は、
図4に示されるように、正面視で矩形の枠形状をなし、下部に設けられたローリング軸Yによって、昇降フレームb23を、ローリング軸Yを中心として、回動自在に枢支するよう構成されている。
【0032】
昇降フレームb23の前部には、センターブームb1(b1F)が取り付けられ、昇降フレームb23の左右両側には、それぞれ、サイドブームb1L,b1Rが車幅方向に展開できるよう回動可能に取り付けられている。このような構成によって、昇降フレームb23が昇降すると、散布ブームb1も昇降するよう構成されている。
【0033】
開閉シリンダb24,b24は、伸長または短縮によって、走行車体Aの車幅方向に延びる散布姿勢と、走行車体Aの左右両側に沿う収納姿勢とに切り替え可能とするものであり、昇降フレームb23及びサイドブームb1L,b1Rと連結され、開閉シリンダb24,b24が伸長または短縮すると、両側方のサイドブームb1L,b1Rが回動するよう構成されている。また、開閉シリンダb24,b24の伸長または短縮は、後述するコントローラCにより、制御される。
【0034】
(散布ブーム制振装置)
図4に示されるように、昇降フレームb23上には、昇降シリンダb24内の圧力変動を吸収するアキュムレータUが取り付けられている。
【0035】
図5は、自走式薬剤散布機1の油圧回路の一部を示す回路図である。
【0036】
図5に示されるように、散布ブームb1の制振機構は、アキュムレータUと、昇降シリンダb21とアキュムレータUとを連通する作動油の給排通路に設けられた開閉弁u1と、開閉弁u1の開閉を制御可能なコントローラCを備えて構成される。
【0037】
油圧ポンプである第1~2ポンプP1,P2は、エンジンの動力によって駆動される定容量型のギヤポンプによって構成されている。第1~2ポンプP1,P2から吐出される作動油を流通させる吐出油路100は、一定流量を分流する第1定分流バルブu2と接続されている。第1定分流バルブu2は、第1油路101によって、第2定分流バルブu3と接続されている。第2定分流バルブu3は第3ポンプP3から吐出される吐出油(パイロット油)を流通させる吐出油路100aが接続されている。第2油路102によって、上下動切換弁u4と接続されている。
【0038】
上下動切換弁u4は、電磁切換弁であって、昇降シリンダb21を伸長させる作動位置としての伸長位置u41と、昇降シリンダb21を収縮させる作動位置としての収縮位置u42と、昇降シリンダb24を停止させる停止位置u43と、に切換え可能となっている。
【0039】
上下動切換弁u4は、第2油路102の他、左右の昇降シリンダb21,b21及び開閉弁u1と連通する第3油路103と、作動油タンクTに作動油を戻す排出油路104と連結されている。第2油路102と排出油路104との間には、リリーフバルブu5が設けられており、第2油路102の油圧が設定値を超えた場合に開弁し、排出油路104に油圧を逃がすようになっている。
【0040】
上下動切換弁u4が伸長位置u41に切換えられると、第2油路102及び第3油路103が連通し、これにより、第1~2ポンプP1,P2から吐出される作動油は、吐出油路100、第1油路101、第2油路102及び第3油路103を通じて、昇降シリンダb21,b21のピストン側室b211,b211に流入する。これにより、昇降シリンダb21,b21が伸長するため、これに応じて昇降リンクb20が上方に回動され昇降フレームb23が上方に移動し、散布ブームb1は昇降フレームとともに走行車体2に対して上昇する。
【0041】
上下動切換弁u4が収縮位置u42に切換えられると、排出油路104と第3油路103とが連通される。これにより、昇降シリンダb21,b21のピストン側室b211,b211の作動油が第3油路103と排出油路104とを通じて作動油タンクTに戻される。これにより、昇降シリンダb21が収縮するため、昇降リンクb20が下方に回動され昇降フレームb23が下方に移動し、散布ブームb1は昇降フレームb23とともに走行車体Aに対して下降する。
【0042】
上下動切換弁u4が停止位置u43に切換えられると、第3油路103が閉塞される。これにより、第3油路103を通じてピストン側室b211,b211に出入りする作動油が遮断され、走行車体Aに対する散布ブームb1の高さが保持される。
【0043】
開閉弁u1は、電磁切換弁であって、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUとを連通する連通位置u11と、連通を遮断する遮断位置u12を切換え可能となっている。
【0044】
開閉弁u1が、連通位置u11に切換えられると(開閉弁u1の開制御)、第3油路103とアキュムレータUが連通し、これにより、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUが連通する。これにより、作動油が両者を行き来することにより、アキュムレータUが昇降シリンダb21内の圧力変動を吸収し、バネ作用を発揮するため、散布ブームb1の振動が抑えられて制振機能が発揮される。
【0045】
開閉弁u1が、遮断位置u12に切換えられると(開閉弁u1の閉制御)、第3油路103とアキュムレータUの連通が遮断され、これにより、昇降シリンダb21のピストン側室b211と、アキュムレータUとの連通が遮断される。これにより、アキュムレータUによる制振機能を停止し、散布ブームb1を昇降させる際の応答性を向上できる。なお、応答性とは、詳細には、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチが操作されてから、散布ブームb1の昇降動作が開始されるまでの迅速性のことをいう。
【0046】
コントローラCは、上下動切換弁u4及び開閉弁u1を制御可能な制御装置であり、CPU、ROM、RAM等を含んで構成され、所定の制御用プログラムが記憶されている。また、上下動切換弁u4及び開閉弁u1は、コントローラCと電気的に接続され、コントローラCに制御されてポジションが切換可能となっている。なお、コントローラCは、CPU、ROM、RAM等を用いず、タイマ、リレー等を用いて上下動切換弁u4及び開閉弁u1のポジションを制御可能な構成としてもよい。
【0047】
コントローラCは、操作盤a6と電気的に接続されており、操作盤a6に設けられた各種操作スイッチの操作を信号として取得可能となっている。すなわち、作業者による操作盤a6の操作情報を取得可能となっている。操作盤a6には、少なくとも、走行車体Aに対して散布ブームb1を上昇させる際に操作される図示しないブーム上昇スイッチ及び走行車体Aに対して散布ブームb1を上昇させる際に操作されるブーム下降スイッチ、自走式薬剤散布機1に電源を入れる際に操作されるキースイッチが設けられる。なお、キースイッチは、オンとオフが切換え可能な操作スイッチであり、キースイッチがオン状態であることが、自走式薬剤散布機1のエンジン作動の条件となっている。したがって、作業者は、キースイッチをオン操作した後、所定の操作をすることで、自走式薬剤散布機1のエンジンを作動させることができる。コントローラCは、操作盤a6からの信号に基づいて後述の制御を実行し、上下動切換弁u4及び開閉弁u1のポジションを切換える。また、コントローラCには、計時手段としてタイマc1と、キースイッチの操作を検知して回路中の接点切替を行うリレーc2が接続されている。
【0048】
図6は、自走式薬剤散布機1の正面要部拡大図である。
【0049】
アキュムレータUは、
図6に示されるように、キャビンKの前方の、昇降フレームb23の左右略中央に配設され、走行車体2の車幅方向における略中央線上に位置している。これにより、走行車体Aの略中央に配設されたアキュムレータUがセンタマーカとなり、作業者は、自走式薬剤散布機1の直進操作が容易となる。また、アキュムレータUの故障の視認が容易となり、メンテナンス性も向上する。
【0050】
また、開閉弁u1は、
図6に示されるアキュムレータUの下部に配設された筐体X1に収容されており、上下動切換弁u4は筐体X1の側方に近接して配設された筐体X2に収容されている。なお、アキュムレータUは筐体X1に着脱可能に構成してもよい。
図6に示されるように、筐体X1及び筐体X2は、昇降フレームb23上に近接して取り付けられて固定されており、開閉弁u1及び上下動切換弁u4は、近接して配置されている。なお、筐体X1及び筐体X2を一つの筐体で構成し、この一つの筐体に開閉弁u1と上下動切換弁u4を収容するように構成してもよい。このように、開閉弁u1及び上下動切換弁u4を一体的に直装する構成によれば、組立性も良好であり、組立工数を削減できるとともに、配設スペースをコンパクトにすることができる。
【0051】
このアキュムレータUと筐体X1と筐体X2は、走行車体2の機体の前部に設ける構成としている。具体的には機体の最前部に設ける構成としている。これにより、保守管理が容易となる。また、ノズルbnが取り付けられた散布ブームb1は昇降フレームb23を昇降させることで、任意の位置に昇降できる構成としている。この昇降フレームb23に対して、アキュムレータUと筐体X1と筐体X2を取り付ける構成としている。
【0052】
これにより、アキュムレータUと筐体X1と筐体X2は、それぞれの位置関係を保持した状態で任意の位置に昇降させることができるので、配管に影響を与えることがなく、また、保守管理が容易となる。
【0053】
(開閉弁の開閉制御)
図7は、コントローラCによる制御の手順を示すフローチャートである。
【0054】
コントローラCは、
図7のフローチャートに示される手順に従って、開閉弁u1及び上下動切換弁u4を制御する。なお、初期条件として、キースイッチはオフ操作されており、開閉弁u1は、遮断位置u12に切換えられている。
【0055】
コントローラCは、キースイッチがオン操作された信号を取得すると(ステップS101)、開閉弁u1を連通位置u11に切換えるよう制御する(ステップS102)。これにより、アキュムレータUによる制振機能が発揮され、散布ブームb1の振動が抑えられる。このように、作業者によるキースイッチのオン操作と連動して開閉弁u1を開く構成によれば、電源のみオンでエンジン停止中の状態またはエンジン作動中の状態、あるいは作業時において、確実に開閉弁u1が開状態となる。これにより、従来のように、作業者が手動操作により開閉弁u1を開く手間が省略されるため、利便性が向上する。また、作業時に作業者が手動操作により開閉弁u1を開く操作を失念することもない。また、開閉弁u1を入り切りするためのスイッチが不要となる。
【0056】
次に、コントローラCは、ブーム上昇スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された信号を取得すると(ステップS103)、後述する散布ブームb1の昇降処理を実行する(ステップS104)。
【0057】
また、コントローラCは、ステップS102において、開閉弁u1を連通位置u11に切換えるよう制御した後、キースイッチがオフ操作された信号を取得すると(ステップS105)、開閉弁u1を遮断位置u12に切換えるよう制御する(ステップS106)。これにより、キースイッチがオフ操作と連動して、アキュムレータUによる制振機能が停止される。このようにして、非作業時においては、アキュムレータUによる制振機能を自動でオフにすることで、走行車体Aに対して散布ブームb1を固定する構成によれば、例えば、自走式薬剤散布機1を輸送するときなどの非作業時に、散布ブームb1が上下に揺動して外部の障害物に接触するおそれを防止できる。また、アキュムレータUを外して保守管理を行う際、開閉弁u1は遮断位置u12に切り換えられているため、塵などが油圧回路内に侵入するのを防止できる。
【0058】
図8は、
図7の散布ブーム昇降処理(ステップS104)のコントローラCによる手順を示すフローチャートである。コントローラCは、ステップS103において、ブーム上昇スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された信号を取得すると、ブーム上昇スイッチがオン操作された信号を取得した場合は、上下動切換弁u4を伸長位置u41に切換え、散布ブームb1を上昇させる。ブーム下方スイッチがオン操作された信号を取得した場合は、上下動切換弁u4を収縮位置u42に切換え、散布ブームb1を下降させる(ステップS201)。
【0059】
同時に、開閉弁u1を遮断位置u12に即座に切換える(ステップS202)。これにより、続く散布ブームb1の昇降の応答性を向上させることができる。
【0060】
ここで、コントローラCは、散布ブームb1の昇降開始と同時に、タイマc1を起動し、設定時間tをカウントする(ステップS203)。この設定時間tは、所定の短時間が予め設定されており、例えば、1秒程度である。
【0061】
次に、コントローラCは、設定時間tが経過すると、開閉弁u1を連通位置u11に切換える(ステップS204)。すなわち、コントローラCは、散布ブームb1の昇降動作の開始直後の短時間のみ開閉弁u1を遮断位置u12に即座に切換え、昇降開始後の散布ブームb1の昇降動作中においては、開閉弁u1を連通位置u11に切換える。これにより、散布ブームb1の昇降操作時に迅速な応答性を確保でき、さらに、続く昇降開始後の散布ブームb1の昇降動作中においては、アキュムレータUによる制振機能を発揮して散布ブームb1の振動を低減できる。その結果、散布ブームb1の動作が安定し、安全性を向上できる。すなわち、従来のように、散布ブームb1の昇降動作が完了した後、開閉弁u1を開制御する構成によれば、開閉弁u1を開いたときに昇降シリンダb21とアキュムレータUとの作動油の圧力差によって、昇降シリンダb21からアキュムレータU側に急速に作動油が流れ込み、その結果、昇降シリンダb21が伸長または短縮して、散布ブームb1が停止位置よりも下降して動作が不安定となるおそれがあったが、散布ブームb1の昇降動作中に開閉弁u1を開制御することにより、昇降シリンダb21とアキュムレータUとの作動油の圧力差を解消して、散布ブームb1の安定した動作を実現できる。ここで、設定時間tは、0.5秒~3秒以内に設定されることが望ましく、0.5秒~1秒以内に設定されることがさらに望ましい。
【0062】
続いて、コントローラCは、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチがオフ操作された信号を取得すると(ステップS205)、上下動切換バルブu4を停止位置u43に切換えるよう制御する(ステップS206)。これにより、散布ブームb1の昇降が停止し、
図7における散布ブームb1昇降処理(ステップS104)が完了する。
【0063】
なお、
図7及び
図8には図示されていないが、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチを所定時間(約0.5秒から1秒程度)に連続操作すると、散布ブームb1の昇降は行わずに、開閉弁u1を手動で閉じる構成とする。この場合において、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチの替わりに、他のスイッチやレバー類が設けられてもよい。これにより、作業者の判断により、アキュムレータUを作動させる必要がない状況(例えば、路面の凹凸が少ない状況)において、アキュムレータUの作動停止が容易に可能となる。なお、アキュムレータUを再び作動させる場合には、ブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチを所定時間(約0.5秒から1秒程度)に連続操作する。これにより、開閉弁u1を入り切りするためのスイッチが不要となる。
【0064】
また、機体に振動センサを設け、機体の振動が所定以内の数値であって、所定時間以上続くと、自動で開閉弁u1を閉じてアキュムレータUを作動停止にしてもよい。ただし、少なくとも数回所定値以上の振動数値が続くと、自動で開閉弁u1を開いてアキュムレータを作動させる構成とする。
【0065】
また、ブーム上昇スイッチ及びブーム下降スイッチは、キャビンK内の運転座席a2に着座した状態で操作可能な位置に設けられているが、キャビンK外にも設ける構成としている。
図2に示すように、開閉扉k3Lの側方をサイドブームb1Lが通過しているため、乗降時にサイドブームb1Lの下方を潜って乗り降りすることも可能であるが、乗降時にサイドブームb1Lを昇降させることで乗り降りがし易くなる。そこで、キャビンK外に設けているブーム上昇スイッチまたはブーム下降スイッチを操作してサイドブームb1Lを昇降可能に構成している。
【0066】
サイドブームb1L、b1Rは、昇降フレームb23に対して独立して昇降可能に構成されており、
図5の油圧回路とは独立した電気式の油圧シリンダESで昇降可能に構成している。この場合、エンジンは停止して油圧は作動していなくても、サイドブームb1L、b1Rは、キャビンK外のブーム上昇スイッチ及びブーム下降スイッチを操作することで、バッテリーの電源を利用して電気式の油圧シリンダESを駆動することで昇降する。これにより、キャビンK内への乗降が容易となる。
【0067】
図9は、
図5のアキュムレータUの作動を示すタイムチャートである。
【0068】
なお、
図9において、アキュムレータUのオン時、開閉弁u1は、連通位置u11にあり、アキュムレータUのオフ時、遮断位置u12にある。
図9に示されるように、キースイッチオンのとき、通常、アキュムレータUはオンとなるが、ブーム上昇スイッチがオン操作またはブーム下降スイッチがオン操作された直後から設定時間tの間、アキュムレータUはオフとなるよう構成される。なお、設定時間tは、上述の通り、予め短時間(例えば、1秒程度)が設定されているが、散布ブームb1の重量や作業者のニーズに合わせた散布ブームb1の昇降の応答性を実現するため、操作盤a6の操作により、所定範囲(例えば、0.5秒~3秒程度)で調整可能となっている。
【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0070】
例えば、前記実施形態においては、
図4に示されるように、取付フレームb22の下部に設けられたローリング軸Yによって、昇降フレームb23を、ローリング軸Yを中心として、回動自在に枢支するよう構成したが、
図10に示されるように、単動式ロール用シリンダb25を、昇降フレームb23の左右一端側に配設し、左右他端側に、ダンパb26を配設して、単動式ロール用シリンダb25の伸長または短縮によって、昇降フレームb23をローリング制御する構成としてもよい。このとき、左右他端側に配設されたダンパb26により単動式ロール用シリンダb25の戻し動作を行うことにより、圧縮スプリング等の弾性体を用いる場合に比べ、昇降フレームのローリング方向の揺れ振動が抑制でき、安定したロール制御が可能となる。
【0071】
図11は、別の実施形態に係る自走式薬剤散布機1の油圧回路の一部を示す回路図である。別の実施形態に係る自走式薬剤散布機1の油圧回路は、
図5で示した油圧回路の構成に加え、第1定分流バルブu2に第4油路105を接続し、さらに、第4油路105に、単動式ロール用シリンダb25を、伸長させる作動位置としての伸長位置u51と、収縮させる作動位置としての収縮位置u52と、停止させる停止位置u53と、に切換え可能な電磁切換弁である単動式ロール用シリンダ切換弁u5を接続する。昇降フレームb23は、ローリング軸Yを中心として回動自在に枢支されており、昇降フレームb23のローリング方向の制振をアキュムレータU2で行う構成としている。
【0072】
図11に示されるように、単動式ロール用シリンダ切換弁u5は、第5油路106と接続され、第5油路106は、単動式ロール用シリンダb25のピストン側室b251と、ロール用アキュムレータU2とを連通する連通位置u71と、連通を遮断する遮断位置u72とを切換え可能な第2開閉弁u7と接続される。コントローラCは、キースイッチがオン操作された信号を取得すると、開閉弁u7を連通位置u71に切換えるよう制御する。これにより、アキュムレータU2による制振機能が発揮され、昇降フレームb23のローリング方向の振動が抑えられる。また、アキュムレータU2を外して保守管理を行う際、開閉弁u7は遮断位置u72に切り換えられているため、塵などが油圧回路内に侵入するのを防止できる。
【0073】
なお、単動式ロール用シリンダ切換弁u5は、作動油タンクTに作動油を戻す第2排出油路107と接続され、第4油路105及び第2排出油路107との間には、リリーフバルブu6が設けられている。また、図示されていないが、単動式ロール用シリンダ切換弁u5及び第2開閉弁u7は、コントローラCと接続され、コントローラCによってポジションが制御可能となっている。なお、単動式ロール用シリンダ切換弁u5及び第2開閉弁u7は、
図10で示される筐体X3内に収容される。
【0074】
ここで、機体の平面視において、機体進行方向中心線に対して、左側又は右側のいずれか一方側にアキュムレータU、U2を配置し、他方側に油圧バルブを配置するように構成してもよい。このように、重量の重いアキュムレータと油圧バルブを、機体進行方向中心線に対して左右に振り分けて配置することで、機体の左右バランスが向上する。
【0075】
また、アキュムレータU、U2への開閉弁が開いており、アキュムレータU、U2が作動可能な状態を知らせる表示灯をキースイッチの近くや操作部のハンドル周辺に設ける構成としてもよい。これにより、作業者が、停車中や走行中(作業、移動)に、アキュムレータU、U2の作動状況を容易に確認できるようになる。このような構成によれば、特に、アキュムレータU、U2の作動の入切スイッチが無い場合(キースイッチの入切に連動してアキュムレータU、U2の作動を自動で行う構成)に有効である。
【符号の説明】
【0076】
A 走行車体
a1 メインフレーム
a2 運転座席
a3 ステアリングハンドル
4 前輪
a5 後輪
a6 操作盤
a7 ボンネット
B 薬剤散布装置
bn ノズル
b1 散布ブーム
b2 支架装置
b 20 昇降リンク
b21 昇降シリンダ
b22 取付フレーム
b23 昇降フレーム
b24 開閉シリンダ
b25 単動式ロール用シリンダ
K キャビン
k1 キャビンフレーム
k2 キャビンルーフ
k3L,k3R 開閉扉
T 作動油タンク
U アキュムレータ
U2 ロール用アキュムレータ
P1 第1ポンプ
P2 第2ポンプ
u1 開閉弁
u2 第1定分流バルブ
u3 第2定分流バルブ
u4 上下動切換弁
u5 単動式ロール用シリンダ切換弁
u6 リリーフバルブ
u7 第2開閉弁
Y ローリング軸