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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】イオン源アセンブリ及び質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20241016BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241016BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20241016BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20241016BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20241016BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
H01J49/16 400
G01N27/62 G
H01J49/04 180
H01J49/04 630
H01J49/06 300
H01J49/16 800
H01J49/16 500
H01J49/14 500
H01J49/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023185827
(22)【出願日】2023-10-30
(65)【公開番号】P2024091439
(43)【公開日】2024-07-04
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】202211666688.8
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン シャオチィアン
(72)【発明者】
【氏名】ゲン ヂィー
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェンジャン
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0279931(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0026360(US,A1)
【文献】特表2009-508293(JP,A)
【文献】特表2014-521189(JP,A)
【文献】特表2010-522957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の軸方向に沿って延在するセグメント多重極ロッドからなる多重極ロッドアセンブリである軸方向イオンガイドアセンブリ及びイオン出口が隣接する2つのセグメント多重極ロッドの間の間隙に向けて設けられる横方向イオンガイドアセンブリを含むイオンガイド装置と、
径方向に沿ってイオンを拘束するRFフィールドを形成するように少なくとも一部の前記セグメント多重極ロッドに高周波電圧を印加する電源と、
前記軸方向イオンガイドアセンブリの軸方向の一端に設けられる軸方向イオン源と、
ターゲットパネル及びレーザ光源を有し、前記ターゲットパネルは前記横方向イオンガイドアセンブリの前記軸方向イオンガイドアセンブリから離れた側に配置されるとともにその試料載置面が前記横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口に向かって配置され、前記レーザ光源は試料載置面にある試料を脱離させるために前記ターゲットパネルにレーザ光を照射する横方向イオン源とを含む、ことを特徴とするイオン源アセンブリ。
【請求項2】
前記ターゲットパネルは、金属ターゲットパネル又は透明導電層がメッキされた透明ターゲットパネルであることを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項3】
顕微鏡システムをさらに含み、前記顕微鏡システムの顕微鏡対物レンズが、前記ターゲットパネルの前記多重極ロッドアセンブリから離れた側に設置されるとともに前記ターゲットパネルに合焦可能であることを特徴とする請求項2に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項4】
前記電源はさらに、前記セグメント多重極ロッドに直流電圧を印加して、イオンを軸方向に沿って前記軸方向イオンガイドアセンブリを通過させるように駆動する直流電界を形成することを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項5】
前記軸方向イオンガイドアセンブリは、前記軸方向イオン源と結合する真空インタフェースを有し、前記軸方向イオン源が位置する側の気圧は、前記軸方向イオンガイドアセンブリが位置する側の気圧よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項6】
前記電源が前記セグメント多重極ロッドに印加する高周波電圧を制御するための制御部をさらに含み、前記セグメント多重極ロッドは、前記横方向イオンガイドアセンブリと結合し前記間隙の両側に位置する複数の多重極ロッドセグメントを有し、前記制御部は、少なくとも一部の前記多重極ロッドセグメントに印加される高周波電圧の極性を切り替える極性切替ユニットを含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項7】
前記多重極ロッドアセンブリは四重極ロッドアセンブリであることを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項8】
前記軸方向イオン源は、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン化源、脱離コロナビームイオン源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化源の一種又は複数種の組み合わせであり、前記横方向イオン源は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化源であることを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項9】
前記イオンガイド装置の作動気圧は10-1000Paであることを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン源アセンブリを含むことを特徴とする質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析の技術分野に関する。より具体的には、イオン源アセンブリ及び質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の物質分析機器の一部では、物質を分析する場合、まずイオン源により物質の試料分子をイオン化して試料粒子を得、次にイオンガイド装置により試料粒子中の荷電イオンをイオン流束になるようにガイドし、その後イオン流束を検出して物質の元素組成または分子情報を同定する必要がある。そのうち、イオン源アセンブリはこのような物質分析機器の重要な構成要素である。
【0003】
ところが、物質によって異なるイオン化方式を採用して分析を行う必要があり、又は、同一の物質に対しても、異なるイオン化方式を採用して異なる性質を分析する必要が生じる可能性もある。例えば、マルチオミックスの研究において、プロテオミクス解析には高感度なESI源が必要となるとともに空間オミックス研究にはMALDIイメージングが必要となるため、複数のイオン源を集成可能なイオン源アセンブリの方が有利である。
【0004】
特許文献1には、分離源からのイオンビームを合流できるおよび/または単方向イオンビームを複数の方向へガイドすることができるY型多重極装置が開示されている。しかしながら、単一のイオン源を最適化した従来の多重極イオンガイドに比べて、Y型多重極装置は、軸方向イオン輸送効率が影響を受けやすい。
【0005】
特許文献2には、横方向にイオンを引き込む多重極のイオンガイド構造が開示されており、このような多重極のイオンガイド構造が正負イオンの反応室として用いられる。該多重極イオンガイド構造は、それぞれ軸方向及び横方向からイオンを導入することができ、特許文献2の図7の電気力線図から分かるように、横方向イオンガイドアセンブリのRFフィールドの影響により、軸方向イオンの輸送経路は、横方向イオンと交差する箇所の軸方向RFフィールドが弱く、これは、軸方向イオンの拘束が比較的困難であることを意味する。
【0006】
したがって、従来のイオン源アセンブリの上記問題を解決するための改良案が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US20100176295A1
【文献】US20170229298A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の上記問題に鑑み、本発明の技術案は、軸方向イオン源に対するイオン輸送効率及び拘束力を確保しながら、横方向イオン源を集成することができるイオン源アセンブリ及び質量分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、複数本の軸方向に沿って延在するセグメント多重極ロッドからなる多重極ロッドアセンブリである軸方向イオンガイドアセンブリ、及びイオン出口が隣接する2つのセグメント多重極ロッドの間の間隙に向けて設けられる横方向イオンガイドアセンブリを含むイオンガイド装置と、
径方向に沿ってイオンを拘束するRFフィールドを形成するように少なくとも一部の前記セグメント多重極ロッドに高周波電圧を印加する電源と、
前記軸方向イオンガイドアセンブリの軸方向の一端に設けられる軸方向イオン源と、
ターゲットパネル及びレーザ光源を有し、前記ターゲットパネルは前記横方向イオンガイドアセンブリの前記軸方向イオンガイドアセンブリから離れた側に配置されるとともにその試料載置面が前記横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口に向かって配置され、前記レーザ光源は試料載置面にある試料を脱離させるために前記ターゲットパネルにレーザ光を照射する横方向イオン源とを含むイオン源アセンブリを提供する。
【発明の効果】
【0010】
当該技術案によれば、軸方向イオンガイドアセンブリは、軸方向に沿って延在する多段多重極ロッドであり、軸方向イオンの輸送経路は直線であり、軸方向イオン源を単独で使用する場合のイオン輸送効率に対する影響はほとんどない。さらに、横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口は、隣接する2つのセグメント多重極ロッドの間の間隙に向かうため、横方向イオンガイドアセンブリは、軸方向RFフィールドに影響を与えず、マルチイオン源の集成を実現すると同時に、軸方向イオン源に対するイオン輸送効率及び拘束力も確保できた。
【0011】
選択的な技術案として、前記ターゲットパネルは金属ターゲットパネル又は透明導電層がメッキされた透明ターゲットパネルである。
【0012】
この技術案によれば、導電性の金属ターゲットパネル又は透明ターゲットパネルを採用することにより、ターゲットパネルに加速電界を印加することで横方向イオン源のイオン輸送を速めることができる。透明ターゲットパネルを用いるのはターゲットパネル表面の試料を他方側から直接観察することにも適しており、生物組織の光学イメージングに適合する。
【0013】
選択的な技術案として、前記イオン源アセンブリは顕微鏡システムをさらに含み、前記顕微鏡システムの顕微鏡対物レンズが、前記ターゲットパネルの前記多重極ロッドアセンブリから離れた側に設置されるとともに前記ターゲットパネルに合焦可能である。
【0014】
当該技術案によれば、顕微鏡システムを増設することにより、オペレータはリアルタイムに試料光学顕微鏡像及び試料分子分布画像を取得することができ、例えば、生物組織切片に対してマスイメージング解析を行う過程において、まず高倍率光学顕微鏡による観察で試料の特定領域を精確にロックオンし、引き続いてマスイメージングにより該領域の試料分子分布画像を取得する。従来の高解像度生体組織マスイメージングは、数十マイクロメートルの画素点を用いてターゲットパネル全体を逐一走査する必要があり、手間がかかってしまう。それに比べて、本技術案は分析時間を大幅に節約することができる。
【0015】
選択的な技術案として、前記電源はさらに前記セグメント多重極ロッドに直流電圧を印加して、イオンを軸方向に沿って前記軸方向イオンガイドアセンブリを通過させるように駆動する直流電界を形成する。
【0016】
当該技術案によれば、セグメント多重極ロッドに沿って上昇または低下する直流電圧を印加することにより、イオンを軸方向に移動させるように駆動するする直流電界を形成することができ、さらに、横方向イオンガイドアセンブリから軸方向イオンガイドアセンブリに進入したイオンを偏向させるように駆動することができる。
【0017】
選択的な技術案として、前記軸方向イオンガイドアセンブリは、前記軸方向イオン源と結合する真空インタフェースを有し、前記軸方向イオン源が位置する側の気圧は、前記軸方向イオンガイドアセンブリが位置する側の気圧より高い。
【0018】
当該技術案によれば、気圧差により気流を軸方向イオンガイドアセンブリに沿って継続的に流れるように駆動することで、軸方向イオンガイドアセンブリ内のイオンを軸方向に沿って移動させる。同様に、気流も横方向イオンガイドアセンブリから軸方向イオンガイドアセンブリに進入したイオンを偏向させるように駆動することができる。
【0019】
選択的な技術案として、前記イオン源アセンブリは、前記電源が前記セグメント多重極ロッドに印加する高周波電圧を制御するための制御部をさらに含み、前記セグメント多重極ロッドは、前記横方向イオンガイドアセンブリと結合し前記間隙の両側に位置する複数の多重極ロッドセグメントを有し、前記制御部は、少なくとも一部の前記多重極ロッドセグメントに印加される高周波電圧の極性を切り替える極性切替ユニットを含む。
【0020】
この技術案によれば、一部の多重極ロッドセグメントに印加される高周波電圧の極性を切り替えることにより、軸方向イオン源及び横方向イオン源のイオンのイオンガイド装置内の輸送効率をさらに向上させることができる。
【0021】
選択的な技術案として、前記多重極ロッドアセンブリは四重極ロッドアセンブリである。
【0022】
当該技術案によれば、複数の四重極ロッドが軸方向に沿って軸方向イオンガイドアセンブリになり、隣接する二つの四重極ロッドが横方向においても4本ロッド構造であるため、横方向イオンガイドアセンブリは隣接の四重極ロッドのうち横方向にある4本のロッドに対応して設置することができ、それによって、横方向イオンガイドの四重極ロッドチャネルが形成され、横方向イオンガイドアセンブリにおけるイオン輸送を容易にする。
【0023】
選択的な技術案として、前記軸方向イオン源は、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン化源、脱離コロナビームイオン源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化源のうち一種又は複数種の組み合わせであり、前記横方向イオン源はマトリックス支援レーザ脱離イオン化源である。
【0024】
選択的な技術案として、前記イオンガイド装置の作動気圧は10-1000Paである。
【0025】
当該技術案によれば、イオンガイド装置の作動気圧の設定により、イオンガイド装置の入口及び出口と外部機器との間に圧力差を形成して、さらにイオンガイド装置内部に駆動気流を形成することができる。
【0026】
本発明の別の態様は、上記のいずれか1つまたは複数の技術案の組み合わせに係るイオン源アセンブリを有する質量分析装置をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリの構造模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るイオンガイド装置の斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリのイオン輸送経路の模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る顕微鏡システム付きのイオン源アセンブリの構造模式図である。
図5】本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリが軸方向に沿ってイオンを輸送する際の電気力線の模式図である。
図6】本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリが横方向に沿ってイオンを輸送する際の電気力線の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態の図面を参照しながら本発明の実施形態における技術案を明瞭かつ十分に説明する。説明された実施形態は、本発明の一部の実施形態に過ぎず、全ての実施形態ではないのは明らかなことである。本発明の実施形態に基づいて、当業者は、創造的な労働をせずに得られたすべての他の実施形態も、本発明の保護範囲に属する。
【0029】
なお、本発明の説明において、「軸方向」、「径方向」、「横方向」、「内」、「外」等の位置関係を示す用語は、図面に示される方向又は位置関係に基づくものとする。これらは、当業者が本発明をより鮮明に理解するためのものであり、装置又は構成要素が特定の方位を有していることや、特定の向きで構成、操作することを指示又は暗示するものではないため、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。ここで、「軸方向」及び「径方向」とは、両者の間の位置関係が直交することを指し、特に装置又は物体が「水平」又は「垂直」方向にあることを指さない。「横方向」とは、「軸方向」と交差する方向、即ち「軸方向」の側面から放射される直線方向を指し、「軸方向」に直交する方向に限定されない。
【0030】
本実施形態はイオン源アセンブリを提供し、図1は本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリの構造模式図である。図1に示すように、本実施形態に係るイオン源アセンブリは、イオンガイド装置1、電源5、軸方向イオン源2及び横方向イオン源3を含む。
【0031】
なお、図2は本発明の実施形態に係るイオンガイド装置1の斜視図である。図1及び図2を参照すると、イオンガイド装置1は、軸方向イオンガイドアセンブリ11及び横方向イオンガイドアセンブリ12を含み、軸方向イオンガイドアセンブリ11は、軸方向に延在する複数本のセグメント多重極ロッドからなる多重極ロッドアセンブリであり、軸方向イオン源2から放出されたイオンは、軸方向イオンガイドアセンブリ11の電界及び/又は気流によってガイドされて図1におけるl方向即ち軸方向に沿って輸送され、軸方向イオンガイドアセンブリ11を通過した後、イオンガイド装置のイオン出口13から脱する。横方向イオン源3から放出されたイオンは、横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口121から横方向イオンガイドアセンブリ12に入り、横方向イオンガイドアセンブリ12の電界及び/又は気流によってガイドされて図1におけるl方向即ち横方向に沿って横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口122に輸送される。
【0032】
横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口122は、多重極ロッドアセンブリになる軸方向イオンガイドアセンブリ11のうち隣接する2本の多重極ロッドの間の間隙112に正対する。具体的には、本実施形態において、軸方向イオンガイドアセンブリ11の各本の多重極ロッドは、いずれもセグメント多重極ロッドであり、横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口122は、隣接する二本の多重極ロッドの間の間隙だけでなく、セグメント多重極ロッドの軸方向に沿った隣接する二つのセグメントの間の間隙にも正対し、このような設置方式は、イオンを効率的に輸送することができるより均一な電界を容易に印加することができる。
【0033】
本発明の実施形態において、横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口122の一端は、側面から軸方向イオンガイドアセンブリ11の中部に接続され、なお、ここでの中部を厳密な幾何学上の中心とする必要はなく、適宜前又は後にシフトしても構わない。このようなアクセス方式により、軸方向イオンガイドアセンブリ11の輸送経路が完全な直線経路のまま、直線経路によりその中のイオンのガイドの加速を容易にし、または気流の補助で軸方向に沿ったイオンの輸送効率をさらに向上させる。
【0034】
本実施形態では、軸方向lと横方向lとは互いに直交しているが、他の実施形態では、lと、lとは、互いに傾斜していてもよく、両者の間の角度は限定されない。
【0035】
本実施形態において、軸方向イオンガイドアセンブリ11及び横方向イオンガイドアセンブリ12は、いずれも四重極ロッドアセンブリである。具体的には、軸方向イオンガイドアセンブリ11に使用される四重極ロッドは、曲面が内側に向かう4本のセグメントロッド電極に囲まれて形成されるものであり、図2における四重極ロッドの例では、4本の電極のうち対向する2本の電極が接続されて一対のX電極及び一対のY電極を構成し、四重極ロッドの一対のX電極及び一対のY電極に高周波電圧を印加することにより、四重極ロッド電極に囲まれて形成される空間内に四重極電界が発生され、その内部を通過するイオンの径方向運動が制限される。それによって、四重極ロッド内部のイオンが集束し軸方向に沿って輸送されるイオンビームを形成する。一方、横方向イオンガイドアセンブリ12が2本のセグメント多重極ロッドの間の間隙112に向かって設置されるため、軸方向セグメント多重極ロッド内部の電界の影響が小さい。本実施形態におけるイオン源アセンブリは、軸方向イオンの安定的な輸送と径方向の拘束を実現することができる。
【0036】
本実施形態において、軸方向イオンガイドアセンブリ11の中部は四つの電極を介して横方向イオンガイドアセンブリ12の四重極ロッド構造と結合し、該四つの電極と横方向イオンガイドアセンブリ12の四重極ロッド構造のサイズをほぼ等しくしてもよく、それらの位置は互いに対応している。この際イオンが横方向イオンガイドアセンブリから軸方向イオンガイドアセンブリ11に進入する間隙112は、隣接する2本のセグメント多重極ロッドの間の間隙でも、軸方向に隣接する2本のセグメント多重極ロッドの間の間隙でもある。以上により、イオンを効率的に輸送することができるより均一な電界の印加が容易となる。
【0037】
電源5は、交流電源であってもよく、具体的には、高周波電源であってもよく、さらに、交流電圧成分と直流電圧成分とを同時に含む高周波電源であってもよい。電源5は、少なくとも一部のセグメント多重極ロッドに高周波電圧を印加して、径方向にイオンを拘束するRFフィールドを形成する。
【0038】
好ましくは、電源5は、セグメント多重極ロッドに沿って持続的に上昇又は持続的に低下する直流電圧を印加することにより、直流電界を形成することができる。直流電界は、軸方向イオンガイドアセンブリのイオン入口111から入ったイオンを駆動して軸方向に沿って移動させることができ、横方向イオンガイドアセンブリ12から軸方向イオンガイドアセンブリ11に入るイオンを偏向させる直流電界を形成することもでき、それによって、同時に又は異なるタイミングで2つのイオン源のイオンをいずれもイオンガイド装置のイオン出口13までガイドし、機械的な切り替えを必要としない2つのイオン源の集成を実現する。
【0039】
電源5は、連続するセグメント多重極ロッドに段階的に上昇又は段階的に低下する直流電圧を印加することで、持続的に駆動する直流電界を形成し、軸方向イオンの輸送効率を向上させることができる。
【0040】
軸方向イオン源2は、軸方向イオンガイドアセンブリ11の軸方向の一端、即ち図1における軸方向イオンガイドアセンブリのイオン入口111に設置されることで、軸方向イオン源2で発生したイオンは、軸方向イオンガイドアセンブリのイオン入口111からイオンガイド装置1に入り、軸方向に沿ってセグメント多重極ロッドを介してイオンガイド装置のイオン出口13まで輸送されることができ、イオン輸送効率が高い。好ましくは、軸方向イオン源2は、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン化源、脱離コロナビームイオン源、マトリックス支援レーザ脱離イオン化源の1種又は複数種の組み合わせである。
【0041】
好ましい実施形態として、軸方向イオンガイドアセンブリ11は、軸方向イオン源2と結合する真空インタフェース113をさらに有し、軸方向イオン源2が位置する側の気圧は、軸方向イオンガイドアセンブリ11が位置する側の気圧より高く、気圧差によって気流を軸方向イオンガイドアセンブリ11に沿って持続的に流すように駆動し、それによって、軸方向イオンガイドアセンブリ11内のイオンを軸方向に沿って移動させ、上記直流電圧と同様に、気流が横方向イオンガイドアセンブリ12から軸方向イオンガイドアセンブリ11に進入したイオンを偏向させるように駆動することもできる。ここで、イオンガイド装置1の作動気圧は10-1000Paである。軸方向イオン源2と軸方向イオンガイドアセンブリ11との気圧差は、軸方向イオン源2と軸方向イオンガイドアセンブリ11を、真空インタフェース113によって連通する異なるチャンバにそれぞれ置いてチャンバの気圧を調整することによって形成されてもよく、軸方向イオン源2を大気圧環境に置くとともに軸方向イオンガイドアセンブリ11を真空インタフェース113を有するチャンバ内に置いて、チャンバの気圧を調節することによって形成されてもよい。
【0042】
引き続き図1及び図2を参照する。横方向イオン源3は、ターゲットパネル31とレーザ光源32とを有し、そのうち、ターゲットパネル31が横方向イオンガイドアセンブリ12の軸方向イオンガイドアセンブリ11から離れた側に配置され、ターゲットパネル31の試料載置面311は横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口121に向かって配置され、それによって、ターゲットパネル31の試料載置面311上の試料が解離して得たイオンが横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口121に進入可能となる。好ましくは、ターゲットパネル31は金属ターゲットパネル又は透明導電層がメッキされた透明ターゲットパネルであり、それによって、ターゲットパネル31に加速電界を印加することにより、ターゲットパネル31の試料載置面311における試料イオンの横方向イオンガイドアセンブリ12への輸送を速めることができる。レーザ光源32はターゲットパネル31にレーザ光を照射し、試料載置面311に位置する試料を脱離する。本実施形態において、レーザ光源32とターゲットパネル31はイオンガイド装置1を隔て対向して設置されるが、透明ターゲットパネル31の試料載置面311の裏面に設置されてもよく、ここでは特に限定しない。好ましくは、横方向イオン源3は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化源である。
【0043】
例えば、図3は、本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリのイオン輸送経路の模式図である。本実施形態に係るイオン源アセンブリは、例えば、MALDIイオン源とESIイオン源とが集成されたものであり、且つ異なるイオン源の間の切り替えは電界の切り替えのみで実現でき、機械的なプロセスを必要とせず、即ち、アセンブリの位置を移動したり、又は組立関係を変更したりする必要がないため、タンパク質、ポリペプチドなどの生体試料の分析を効率的に行うことができる。図1及び図3を参照すると、生物試料を分析する場合、まず横方向イオン源3によって生物試料に対してマトリックス支援レーザ脱離イオン化を行い、イオン化したイオン、中性粒子及びイオンフラグメントはターゲットパネル31の試料載置面311から横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口121に散逸し、ターゲットパネル31と横方向イオンガイドアセンブリ12との電圧差によって荷電イオンが横方向イオンガイドアセンブリ12に進入し2本の多重極ロッドの間隙112から軸方向イオンガイドアセンブリ11に入り、軸方向イオンガイドアセンブリ11において、イオンはRF電界による径方向の拘束力を受け、さらに直流電界及び/又は気流による軸方向に沿った駆動力を受けてその径方向に沿った運動の速度が低下するとともに軸方向に沿った運動を始め、それによって、イオンの偏向を実現する。偏向したイオンは軸方向に沿って集束したイオンビームとなり、イオンガイド装置のイオン出口13を介してイオン源アセンブリから排出されて他の分析装置に入って分析に供する。以上により、生物試料の空間オミックスを分析・研究することができる。以上の過程において、イオンは横方向イオン輸送経路bに沿って移動する。
【0044】
次に、軸方向イオン源2、具体的にはエレクトロスプレーイオン源により生物試料をイオン化し、イオン化したイオンが軸方向イオンガイドアセンブリ11に入り、セグメント多重極ロッドのRF電界においてイオン流束になるように集束し、軸方向に沿ってイオンガイド装置のイオン出口13に輸送されて他の分析装置に入り、分析に供する。以上により、生物試料、例えばタンパク質、ポリペプチド試料に対してオミックス研究を行うことができる。この過程でイオンがイオン輸送経路aに沿って移動する。イオン輸送経路aとイオン輸送経路bとの切り替えは、印加する電界を切り替えることで実現でき、各部品の位置を機械的に移動させたり、組み立て関係を調整したりする必要がない。
【0045】
なお、図3では、同一の図に示すように、イオンの異なる輸送経路を示したが、本発明の実施形態において、イオン輸送経路aとイオン輸送経路bは択一的に選択されてもよく、同時に使用されてもよく、特に限定されない。
【0046】
また、本発明に係るイオン源アセンブリの横方向イオン源3は、ターゲットパネル31及びレーザ光源32を更に有するが、本発明の実施形態において、光学顕微鏡装置と集成されてもよい。図4は、本発明の実施形態に係る顕微鏡システム4付きのイオン源アセンブリの構造模式図である。図4に示すように、好ましい実施形態として、イオン源アセンブリは顕微鏡システム4をさらに含み、顕微鏡システム4の顕微鏡対物レンズ41は、ターゲットパネル31の多重極ロッドアセンブリから離れた側に設置されるとともにターゲットパネル31に合焦可能である。
【0047】
本実施形態において、顕微鏡システム4を増設することにより、オペレータはリアルタイムに試料光学顕微鏡像及び試料分子分布画像を取得することができる。例えば、生物組織切片に対してマスイメージング解析を行う過程において、まず高倍率光学顕微鏡による観察で試料の特定領域を精確にロックオンし、引き続いてマスイメージングにより該領域の試料分子分布画像を取得する。従来の高解像度生体組織マスイメージングは、数十マイクロメートルの画素点を用いてターゲットパネル全体を逐一走査する必要があり、手間がかかってしまう。それに比べて、本実施形態は分析時間を大幅に節約することができる。
【0048】
図5は本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリが軸方向に沿ってイオンを輸送する際の電気力線の模式図であり、図6は、本発明の実施形態に係るイオン源アセンブリが横方向に沿ってイオンを輸送する際の電気力線の模式図である。図1図5及び図6をまとめて参照すると、好ましい実施形態として、イオン源アセンブリは、電源5がセグメント多重極ロッドに印加する高周波電圧を制御するための制御部をさらに含み、セグメント多重極ロッドは、横方向イオンガイドアセンブリ12と結合し間隙112の両側に位置するロッドA、ロッドB、ロッドAの裏面に対応するロッドC、及びロッドBの裏面に対応するロッドDを有し、制御部は極性切替ユニットを含み、極性切替ユニットは、ロッドA及びロッドCに印加される高周波電圧の極性の切替に好ましく用いられる。図6に示すように、特定の多重極ロッドの電圧の正負を切り替えることにより、軸方向イオンガイドアセンブリ11の横方向入口(横方向イオンアセンブリのイオン出口122に対応する)をオン/オフすることができ、軸方向イオン輸送経路aと横方向イオン輸送経路bとの間の相互切り替えを実現する。このようにして、単一方向の輸送効率の最大化を実現することができるとともに、電界の切り替え方式が簡便かつ迅速になる。

【0049】
実際の応用シーンに応じて、本発明のイオン源アセンブリが適用される物質検出機器は、各種の質量分析装置、イオン移動度分光装置、クロマトグラフ、分光計、電気化学分析装置などを含んでもよく、或いはそれらと置き換えてもよい。
【0050】
本発明の他の実施形態では、上記のいずれかの実施形態におけるイオン源アセンブリのイオン出口に連通し、イオン出口から流出したイオン、イオンフラグメントまたは原子を検出・分析することができる質量分析装置をさらに提供する。
【0051】
以上、図面を参照して本発明の技術案を説明したが、本発明の保護範囲はこれらの具体的な実施形態に限定されないのは当業者にとって自明なことである。本発明の原理を逸脱しない前提で、当業者は技術特徴に対して同等の変更又は置換を行うことができ、これらの変更又は置換後の技術案はいずれも本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0052】
1-イオンガイド装置;11-軸方向イオンガイドアセンブリ;111-軸方向イオンガイドアセンブリのイオン入口;112-間隙;113-真空インタフェース;12-横方向イオンガイドアセンブリ;121-横方向イオンガイドアセンブリのイオン入口;122-横方向イオンガイドアセンブリのイオン出口;13-イオンガイド装置のイオン出口;2-軸方向イオン源;3-横方向イオン源;31-ターゲットパネル;311-試料載置面;32-レーザ光源;4-顕微鏡システム;41-顕微鏡対物レンズ;42-イメージング装置;a-軸方向イオン輸送経路;b-横方向イオン輸送経路;5-電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6