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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20241016BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B3/00 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023220088
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】前川 一男
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/102900(WO,A1)
【文献】特開2023-133870(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216910(WO,A1)
【文献】特開平11-130355(JP,A)
【文献】国際公開第2008/050415(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-5/28
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ用昇降路を移動する乗りかごを備えるエレベータであって、
前記乗りかごを乗場扉と対向する予め設定された着床位置まで呼び操作に基づいて移動させる通常運転モードと、前記通常運転モードを禁止する禁止モードとを有する運転制御部と、
前記乗場扉の開閉状態を監視する扉監視部と、
を備え、
前記運転制御部は、前記予め設定された着床位置に前記乗りかごが停止していない状態で前記扉監視部を介して前記乗場扉が開いていることを検知した場合に前記禁止モードを実行するとともに、前記禁止モードの実行中に前記扉監視部を介して前記乗場扉が閉じた状態から開いた状態に変化しさらに再度閉じた状態に経時的に変化したことを条件に前記禁止モードを解除する、
エレベータ。
【請求項2】
前記運転制御部は、前記昇降路の外側に設置されている第1操作部を介して所定の復旧操作が行われたことを条件に前記通常運転モードを再開させる、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記運転制御部は、前記昇降路内に設置されている第2操作部を介して所定操作が行われている場合には前記禁止モードを解除しないように設定される、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記運転制御部に電力を供給する電力供給状態または電力を遮断する電力遮断状態のいずれかに切り替え可能に構成された第3操作部を含み、
前記運転制御部は、前記禁止モードの実行中に前記第3操作部を介して前記電力遮断状態とされた場合には、前記電力供給状態に再度変更されたときに前記禁止モードが継続するように設定されている、
請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記乗りかごの運転状態を示す表示部を含み、
前記運転制御部は、前記禁止モードを実行している場合には前記禁止モードの実行中であることを示唆する表示を前記表示部に表示させる、
請求項1に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに関し、特に、エレベータ用昇降路内における保守作業に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータでは、乗場操作盤やかご操作盤を介して行われた呼び操作(行先階操作)に基づいて行先階に向かって乗りかごが昇降路内を逐次昇降と停止を繰り返す通常運転が行われる。また、昇降路内には乗りかごの昇降運転に必要な制御装置などの設備機器が、例えば、昇降路底部のピットや昇降路天井部分などに設置されている。
【0003】
これらの設備機器の保守点検作業を行う場合など保守員が昇降路内に立ち入る必要がある場合には、乗りかごの通常運転を停止させた上で保守員が昇降路内に進入することとなる。例えば、ピットに設備機器が設置されている場合には最下階の乗場扉を開いてピットに進入する必要がある。この乗場扉は、乗りかごが予め設定された着床位置に停止していない状態で開かないように例えばバネなどの弾性部材等により閉じ方向に常時付勢されるとともにロック機構を介して閉じ状態で固定されている。このため、保守員は、専用工具などでロック機構の固定を解除して同扉を開いてピット内に進入して作業を行う必要がある。
【0004】
この点に関し、特許文献1には、各乗場扉の開放を個別に検知可能に構成され、乗りかごのかご扉が閉じている状態のときにいずれかの乗場扉が開いていることを検知した場合に乗りかごの自動運転を無効化するエレベータが開示されている。また、上記自動運転が一度無効化された場合には、昇降路の外部にあるリセットスイッチが操作され、さらに、かご扉および乗場扉が閉じた状態であることが確認されるまで自動運転の無効化が継続される点についても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/105008号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のエレベータの構成では、昇降路の外部に設置されたリセットスイッチが操作された場合には、乗場扉およびかご扉が全て閉じている状態であれば自動運転の無効化が解除されることとなる。また、リセットスイッチが操作されたとしても乗場扉が開いた状態であれば上記無効化は解除されないが、上述のように乗場扉は閉じ方向に常時付勢されている。
【0007】
このため、仮に、乗場扉を開放状態で保持するためにドアストッパーなどの固定手段によって扉が閉じるのを防いでいたとしても、何らかの要因により固定手段が外れるなどした場合には乗場扉が閉じてしまうということも起こり得る。このような場合には、昇降路内に保守員がいるにも拘らず自動運転の無効化(禁止)が解除され得ることとなる点で問題がある。
【0008】
本発明では、昇降路内から保守員が退避していることを精度よく判別した上で通常運転の禁止を解除できるエレベータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエレベータは、エレベータ用昇降路を移動する乗りかごを備えるエレベータであり、乗りかごを乗場扉と対向する予め設定された着床位置まで呼び操作に基づいて移動させる通常運転モードと、通常運転モードを禁止する禁止モードとを有する運転制御部と、乗場扉の開閉状態を監視する扉監視部と、を備え、運転制御部は、予め設定された着床位置に乗りかごが停止していない状態で扉監視部を介して乗場扉が開いていることを検知した場合に禁止モードを実行するとともに、禁止モードの実行中に扉監視部を介して乗場扉が閉じた状態から開いた状態に変化しさに再度閉じた状態に経時的に変化したことを条件に禁止モードを解除するものである。
【0010】
ここで、禁止モードの実行中に昇降路内で保守点検作業を行っている保守員が昇降路内から乗場側に出る場合には乗場扉を一度開いて昇降路内から乗場に移動することとなる。
【0012】
本発明のエレベータおいて、運転制御部は、昇降路の外側に設置されている第1操作部を介して所定の復旧操作が行われたことを条件に通常運転モードを再開させてもよい。
【0013】
本発明のエレベータにおいて、運転制御部は、昇降路内に設置されている第2操作部を介して所定操作が行われている場合には禁止モードを解除しないように設定されてもよい。
【0014】
本発明のエレベータにおいて、運転制御部に電力を供給する電力供給状態または電力を遮断する電力遮断状態のいずれかに切り替え可能に構成された第3操作部を含み、運転制御部は、禁止モードの実行中に第3操作部を介して電力遮断状態とされた場合には、電力供給状態に再度変更されたときに禁止モードが継続するように設定されてもよい。
【0015】
本発明のエレベータにおいて、乗りかごの運転状態を示す表示部を含み、運転制御部は、禁止モードを実行している場合には禁止モードの実行中であることを示唆する表示を表示部に表示させてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るエレベータによれば、禁止モードの実行中に乗場扉が閉じた状態から開いた状態に変化後さらに閉じた状態に変化したことを条件に禁止モードが解除される。これにより、昇降路から乗場に保守員が退避するときに必然的に発生する乗場扉の開閉状態の変化に基づいて昇降路内から保守員が退避したことを精度よく判別した上で禁止モードを解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態であるエレベータにおける昇降路底部周辺の構成とともに最下階乗場の予め設定された着床位置に乗りかごが停止しているときの状態を1点鎖線で示す図である。
図2図1に含まれる制御装置を中心とした機能ブロック図である。
図3図3(a)は通常運転モード実行中に図1に含まれる最下階乗場に設置された乗場操作盤のインジケータにおける表示態様の一例を示す図である。図3(b)は禁止モード実行中に図3(a)に示す乗場操作盤のインジケータに表示される保守点検中であることを示す表示態様の一例を示す図である。
図4】第1実施形態に係るエレベータの制御装置において通常運転モードの実行中に禁止モードに一旦運転モードを切り替えた後に再度通常運転モードを再開するまでの制御処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の第2実施形態であるエレベータにおいて最上階乗場の予め設定された着床位置に乗りかごが停止している状態を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態であるエレベータにおいて、図5に示す最上階乗場の予め設定された着床位置から乗りかごを下降させることで最上階乗場から乗りかごの上に保守員が乗り込めるようにした状態を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係るエレベータの制御装置において通常運転モードの実行中に禁止モードに一旦運転モードを切り替えた後に再度通常運転モードを再開するまでの制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8】本発明の第1実施形態に係る変形例であるエレベータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態であるエレベータ10について、図面を参照しながら説明する。図1は、エレベータ10の昇降路底部周辺の構成を示す図である。図2は、制御装置40を中心とした機能ブロック図である。図1および図2に示すように、エレベータ10は、トラクション方式のロープ式エレベータであり、主ロープ11の一端側に吊り下げられた乗りかご20と、主ロープ11の他端側に吊り下げられた釣合おもり(不図示)と、乗りかご20の運転を制御する制御装置40とを備える。主ロープ11は、巻上機M(図2参照)に架け渡されており、巻上機Mの回転駆動により乗りかご20及び釣合おもり(不図示)を相対的に昇降移動(換言すると、相対的に上下方向に移動とも表現できる)させる役割を有する。巻上機Mは、昇降路12の直上に設けられた機械室(不図示)、または、昇降路12のピット12P(昇降路底部)に設置される。制御装置40は、昇降路12のピット12Pに設置される。
【0019】
図1に示すように、乗りかご20は、両開き式のかご扉22を有する。一方、各階の乗場14A,14B,14C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場「14」と適宜表記)には両開き式の乗場扉16A,16B,16C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場扉「16」と適宜表記)が設けられている。
【0020】
各乗場扉16は、バネなどの弾性部材を介して扉が閉まる方向に常時付勢されており、上部に取り付けられたロック機構17A,17B,17C,…(以下、特に区別する必要がない場合には、ロック機構「17」と適宜表記)を介して閉じた状態で保持されている。そして、上述した乗りかご20が予め設定された着床位置、すなわち、乗場扉16を介して乗客が乗りかご20に乗降可能となる乗場扉16とかご扉22が向かい合う位置に停止している場合にのみ、ロック機構17による固定が解除され開放可能となるように設けられている。また、ロック機構17には乗場扉16の開閉状態を検知する機能を有する戸開センサ18A,18B,18C,…(以下、特に区別する必要がない場合には戸開センサ「18」と適宜表記)が設けられている。
【0021】
また、図1に示すように、乗りかご20の上部には、かご上操作部26が設けられている。かご上操作部26は、乗りかご20の運転モードを後述する通常運転モードから手動運転に切り替える操作を行うための切り替え操作部27(図2参照)と、手動運転時に乗りかご20の昇降操作を行うための昇降操作部28(図2参照)とを含む。これにより、保守点検時に乗りかご20の上に保守員が乗り込んだ状態で乗りかご20を昇降させることができる。
【0022】
図2に示すように、制御装置40は、各種制御プロブラムが記憶されたROM、RAM、およびHDDなどからなる記憶デバイス(記憶部)42や、CPUなどの演算処理装置(不図示)を備え、記憶デバイス42から上記制御プログラムを読み出して演算処理を行うことにより巻上機Mの駆動を制御する運転制御部44、および、上述した戸開センサ18を介して乗場扉16の開閉状態を検知する扉監視部46として機能する。記憶デバイス42は、扉監視部46を介して検知された乗場扉16の開閉状態の経時的変化を履歴情報として記憶する機能を有する。これにより、制御装置40に対する電力供給が一時的に遮断された場合においても電力遮断前における乗場扉16の開閉状態に関する履歴情報が保持され、電力供給の再開後においても電力遮断前における乗場扉16の開閉状態の履歴情報を引き継いで利用することできる。
【0023】
運転制御部44は、各階の乗場14に設置されている乗場操作盤15A,15B,15C,…(以下、特に区別する必要がない場合には乗場操作盤「15」と適宜表記)を介して行われた乗りかご20を乗場14に呼ぶ乗場呼びや、乗りかご20内に設置されているかご操作盤24を介して行われる行先階操作、換言するとかご呼び操作に基づいて乗りかご20を各階乗場14まで昇降(移動)させる通常運転モードを実行可能に構成される。
【0024】
かご操作盤24は、上述したかご上操作部26と同様に乗りかご20の運転モードを後述する通常運転モードから手動運転に切り替える操作と手動運転時に乗りかご20の昇降操作を行う機能も具備する。
【0025】
また、運転制御部44は、上述した通常運転モードの実行を禁止する禁止モードも有している。この禁止モードは、乗りかご20が乗場14に停止するときに予め設定されている着床位置、換言すると乗場扉16と向かいあう位置に乗りかご20が停止(着床)していない状態で乗場扉16の開放が扉監視部46を介して検知された場合に実行される。
【0026】
ここで、上述した巻上機M(図2参照)の回転軸にはロータリーエンコーダ(不図示)が取り付けられており、運転制御部44は同ロータリエンコーダの出力値(回転角)に基づいて昇降路12における乗りかご20の上下方向位置を把握できるように設定されている。
【0027】
また、図1に示すように、乗りかご20の底部には着床位置検出ユニット45が取り付けられている。この着床位置検出ユニット45は、図1に示すように各乗場14に対応して昇降路12の壁面に設けられた遮光板47A,47B,47C,…(以下、特に区別する必要がない場合には「遮光板47」と適宜表記)を検出する機能を有する。これにより、運転制御部44は、乗りかご20が予め設定された着床位置に位置しているか否か、或いは、予め設定された着床位置に対して上下方向にどの程度ずれているのかを把握することが可能となる。
【0028】
運転制御部44は、上述した巻上機Mのロータリーエンコーダを介して出力される出力値、または、着床位置検出ユニット45の検出状態の少なくとも一方に基づいて、乗りかご20が予め設定された着床位置に位置していないかどうかを判定すればよい。
【0029】
次に、最下階乗場14Aを例に挙げて禁止モードが実行される条件についてより具体的に説明を行う。例えば、最下階乗場14Aに乗りかご20が停止(着床)する場合に予め設定されている着床位置P(図1に示す1点鎖線部参照)に乗りかご20が位置していない状態で同乗場14Aに設置されている乗場扉16Aの開放が戸開センサ18Aを介して検知されると禁止モードが実行される。
【0030】
また、運転制御部44は、上述した禁止モードの実行中に後述するように、最下階の乗場扉16Aが閉じた状態から一度開いた状態に変化し、その後、再度閉じた状態となることを条件(以下、必要に応じて「退避判定条件」と適宜呼称する)として禁止モードを解除する。
【0031】
続いて、昇降路12のピット12Pにおける保守点検作業時の保守員の移動手順について説明を行う。図1に示すように、最下階乗場14Aの上述した着床位置Pに乗りかご20が位置していない状態でロック機構17Aの固定を解除し乗場扉16Aを開放する。これにより、戸開センサ18Aによって乗場扉16Aの開放が検知され、上述した禁止モードが実行される。そして、保守員は開放した乗場扉16Aからピット12Pに降りて乗場扉16Aを一旦閉める(A:乗場扉16A 戸閉)。それから、ピット12Pで保守点検作業が行われる。そして、保守点検作業が完了すると保守員は最下階の乗場扉16Aを開くとともに(B:乗場扉16A 戸開)、最下階乗場14Aに移動(退避)し乗場扉16Aを閉じる(C:乗場扉16A 戸閉)。
【0032】
上述したように、保守員が開いた乗場扉16Aからピット12Pに進入後、すなわち、禁止モードの実行開始後、同ピット12Pから最下階乗場14Aに退避するまでに乗場扉16Aは(A)閉じた状態、(B)開いた状態、(C)閉じた状態に順に変化することとなる。このことから、禁止モードの実行中に上記(A)~(C)の順に乗場扉16Aの開閉状態が変化、すなわち、退避判定条件を満たすことを以て昇降路12内から保守員が退避したと判定できる。
【0033】
そして、運転制御部44は上記退避判定条件が満たされていることを条件に禁止モードを解除し通常運転モードを再度実行するよう設定される。
【0034】
また、本実施形態において、記憶デバイス42は実行中の運転モードを記憶する機能を有し、制御装置40に対する電力供給が遮断された場合には電力供給の再開時に記憶デバイス42を参照して電力供給の遮断前に実行されていた運転モードを運転制御部44が引き続き実行するように設定することが好ましい。これにより、制御装置40に対する電力供給が一時的に遮断された場合などにおいて遮断前に禁止モードが実行されていれば、電力供給の再開後に禁止モードが引き続き実行されることとなる。このため、制御装置40に対する電力供給を一時的に遮断して行う保守点検作業などが行いやすいという利点がある。
【0035】
さらに、運転制御部44は、禁止モードの実行中に制御装置40に対する電力供給が遮断されている間は上述した退避判定条件を満たしているか否かの判断を行わないように設定することが好ましい。より具体的には、運転制御部44は、制御装置40に対する電力供給が一時的に遮断された場合には、電力供給の再開後に上記(A)~(C)の順に乗場扉16の開閉状態が変化したことを以て退避判定条件を満たしているか否かの判断を行うようにしてもよいし、電力供給の遮断前に上記(A)を検知している場合には電力供給の再開後に上記(B),(C)を順に検知したことを以て退避判定条件を満たしているか否かの判断を行うようにしてもよい。
【0036】
また、本実施形態において、昇降路12におけるピット12Pの壁面に、所定操作を行うことにより上述した退避判定を運転制御部44が行わないように設定する機能を有する安全操作部(第2操作部)52を設けることが好ましい。この場合には、ピット12P内から保守員が退避するときに上記所定操作を解除するようにすればよい。これにより、ピット12Pで保守点検作業中に上述した運転制御部44による退避判定が行われることをより確実に防止できる。
【0037】
本実施形態において、昇降路12のピット12Pの壁面に、制御装置40や巻上機Mに対する電力供給の遮断機能を有する電源操作部(第3操作部)54を設けてもよい。これにより、電力供給を遮断しなければ実施できない保守点検作業なども行うことが可能となる。
【0038】
また、最下階の乗場14Aには、復旧操作部(第1操作部)56が壁面に設けられている。この復旧操作部56は、運転制御部44において禁止モードの解除が行われている場合に所定の復旧操作を行うことにより運転制御部44において通常運転モードを再開させる機能を有する。このように、禁止モードの解除後に保守員が昇降路12から退避して同昇降路12の外側に位置する乗場14Aで上記復旧操作を行うことにより通常運転モードを再開させることができる。
【0039】
ここで、図3(a)および図3(b)を用いて通常運転モードの実行時と禁止モード実行時とにおける乗場操作盤15Aに設けられたインジケータ19Bの表示態様について説明を行う。図3(a)は、通常運転モード実行中における最下階に設けられた乗場操作盤15Aの表示状態の一例を示す図である。図3(b)は、禁止モード実行中における最下階の乗場操作盤15Aの表示状態の一例を示す図である。
【0040】
図3(a)に示すように、乗場操作盤15Aには、乗りかご20を最下階乗場14Aに呼ぶための乗場呼びボタン19Aが設けられており、同ボタン19Aの上部にインジケータ19Bが設けられている。図3(a)に示すように、通常運転モードの実行時において、運転制御部44は乗りかご20の位置を示す階数表示や昇降状態を示すマークなどをインジケータ19Bに表示させる。
【0041】
一方、図3(b)に示すように、運転制御部44は禁止モードの実行中は、禁止モードの実行中であることを示唆する「×」マークをインジケータ19Bに表示させることが好ましい。これにより、禁止モードが実行されていることを保守員が視覚的に把握しやすくなる。このため、保守員がピット12Pに進入する前にインジケータ19Bの表示を確認することで禁止モードが実行されていることが簡単に確認できる。或いは、上述した復旧操作部56を操作する前に禁止モードが解除されていることをインジケータ19Bの表示を確認することで可能となる。その他、利用予定者がエレベータ10の利用ができない状態であることを視覚的に認識しやすいという利点もある。
【0042】
本実施形態では、最下階の乗場操作盤15Aのインジケータ19Bに禁止モードの実行中であることを示唆する「×」マークを表示する例を挙げて説明しているが、最下階以外の乗場14に設置されている乗場操作盤15のインジケータ(不図示)やかご操作盤24のインジケータ(不図示)にも同様に禁止モードを示唆するマーク等を表示するようにしてもよい。
【0043】
なお、本実施形態では「×」マークを表示しているが、禁止モードの実行中であることが示唆する表示態様であればよく、例えば、「点検中」などの文字情報を表示するようにしてよい。
【0044】
図4は、制御装置40において、運転モードを通常運転モードから禁止モードに切り替えた後に禁止モードを解除するまでの制御処理の流れを示すフローチャートである。図4を用いて昇降路12のピット12P内に保守員が立ち入って保守点検作業を行ってから通常運転モードが再開されるまでの制御装置40における運転モードの切り替え処理の流れについて説明を行う。
【0045】
図4に示すように、運転制御部44は、乗りかご20が着床位置P(図1参照)に位置していない状態で(ステップS1:YES)、最下階の乗場扉16Aが開いた状態であることを検知したこと(ステップS2:YES)を条件に禁止モードを実行する(ステップS3)。これにより、通常運転モードが実行されない状態となる。そして、運転制御部44は、禁止モードを実行している間、乗場操作盤15Aのインジケータ19Bに「×」マークを表示させる(ステップS4)。これにより、運転モードが禁止モードに変更されたことが視覚的に確認できる。
【0046】
さらに、運転制御部44は、扉監視部46を介して禁止モードの実行中に退避判定条件が満たされた場合には(ステップS5:YES)、禁止モードを解除するとともにインジケータ19Bにおける「×」マークの表示を終了させる(ステップS6,S7)。これにより、禁止モードが解除されたことが視覚的に確認できる。
【0047】
次に、最下階乗場14Aに設置されている復旧操作部56(図1参照)を介して復旧操作が行われた場合に(ステップS8:YES)、運転制御部44は通常運転モードの実行を再開し一連の処理を終了する(ステップS9)。
【0048】
なお、上述したステップS5の処理において、運転制御部44は、禁止モードの実行中に退避判定条件を満たしていることを条件に禁止モードを解除する例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、禁止モードの実行中に退避判定条件が満たされているという条件とともにピット12Pの安全操作部52を介して上述した所定操作の解除が行われていることを条件に禁止モードを解除するものとしてもよい。
【0049】
第1実施形態のエレベータ10によれば、禁止モードの実行中に退避判定条件を満たすことにより禁止モードが解除される。ここで、禁止モードの実行中に昇降路12内から保守員が乗場14Aに退避する場合には乗場扉16Aを一旦開く必要がある。従って、ピット12Pから保守員が乗場14Aに退避するときには必然的に退避判定条件を満たすように乗場扉16Aの開閉状態が変化することとなる。このため、退避判定条件を満たすか否かに基づいて昇降路12内からの保守員の退避有無を精度よく判定した上で禁止モードの解除が可能となる。
【0050】
上記第1実施形態では、昇降路12のピット12Pに制御装置40が設置されており、保守点検時に昇降路12のピット12Pに保守員が立ち入って作業を行う場合の例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、昇降路12の天井部分12Tに制御装置が設置されており、保守点検時に昇降路12の天井部分12Tに保守員が立ち入って作業を行う場合に本発明を適用するものとしてもよい。
【0051】
この場合における第2実施形態について図5および図6を用いて説明を行う。以下の第2実施形態に係るエレベータ60の説明において、上記第1実施形態と構成の共通する部分については適宜同一の符号を付して示しつつ適宜説明を省略し、主に構成の異なる部分について説明を行うものとする。図5は、エレベータ60の昇降路12における最上階乗場14F周辺の構成を示す図である。図6は、最上階乗場14Fから乗場扉16Fを開いて保守員が乗りかご20の上部に乗り込むために乗りかご20を図5に示す予め設定された着床位置Qから下降させた状態を示す図である。
【0052】
図5および図6に示すように、第2実施形態に係るエレベータ60は、第1実施形態における制御装置40の代わりに制御装置70を備える。この制御装置70は、昇降路12の天井部分12Tに設置されており、制御装置40とほぼ同一の機能および構成を備える。制御装置70は、上述した記憶デバイス42と同一の構成を具備する記憶デバイス72を有し、運転制御部74および扉監視部76を含む。運転制御部74は上記第1実施形態の運転制御部44と同様の機能を有し、扉監視部76も上記第1実施形態の扉監視部46と同様の機能を有する。
【0053】
また、乗場14Fには上記第1実施形態における復旧操作部56と同一の構成を備える復旧操作部86を設置してもよい。さらに、制御装置70周辺の昇降路12内の壁面には上記第1実施形態における電源操作部54と同一の構成を備える電源操作部84を設置してもよい。
【0054】
ここで、最上階乗場14Fから昇降路12内に保守員が立ち入って保守点検作業を行う場合の保守点検作業の流れについて図5および図6を用いて説明を行う。以下の説明において、乗りかご20が最上階乗場14Fに着床する場合に停止する予め設定された乗客が乗降可能な乗場扉16Fと向かい合う位置を着床位置Q(図5参照)とし、2人の保守員で作業を行う場合を例に挙げて説明を行う。
【0055】
最初に、第1の保守員が最上階乗場14Fの乗場操作盤15Fを操作するなどして乗りかご20を最上階乗場14Fに移動させる。そして、第1の保守員が乗りかご20のかご内に乗り込み、かご操作盤24(図2参照)を用いて通常運転モードから手動運転に切り替える。さらに、かご操作盤24を操作して乗場14Fに残っている第2の保守員が乗りかご20の上部に乗り込みやすい位置まで乗りかご20を下降させる(図6参照)。これにより、乗りかご20が乗場14Fに停止するために予め設定された着床位置Qに位置していない状態となる。
【0056】
次に、第2の保守員が最上階乗場14Fのロック機構17Fを解除して乗場扉16Fを開く。これにより、運転制御部74において禁止モードが実行され、通常運転モードが実行されない状態となる。この状態で、第2の保守員が乗りかご20の上に乗り込んで乗場扉16Fを閉じる(A:乗場扉16F 戸閉)。その後、第2の保守員は、かご上操作部26の切り替え操作部(第2操作部)27(図2参照)を操作し手動運転に切り替える。ここで、切り替え操作部27は上記第1実施形態の安全操作部52と同様の機能も有するものとすることが好ましい。この場合には、切り替え操作部27を介して手動運転に切り替えられている間は運転制御部74において禁止モードが実行されることとなる。これにより、より確実に禁止モードを実行させることができる。
【0057】
さらに、第2の保守員は、かご上操作部26の昇降操作部28(図2参照)を操作して乗りかご20を制御装置70に対する作業が行いやすい位置まで上昇させるとともに保守点検作業を実施する。保守点検作業完了後に、昇降操作部28を介して乗りかご20を下降させ、切り替え操作部27(図2参照)を手動運転から通常運転モードに切り替える。その後、ロック機構17Fの固定を解除して乗場扉16Fを開き、乗りかご20の上部から乗場14Fに第2の保守員が移動(退避)する(B:乗場扉16F 戸開)。次に、乗場扉16Fを閉じ保守点検作業が完了する(C:乗場扉16F 戸閉)。
【0058】
上記のように、禁止モードの実行後、保守点検作業の終了までの間に、上記第1実施形態における乗場扉16Aと同様に、乗場扉16Fは(A)閉じた状態、(B)開いた状態、(C)閉じた状態に順に変化することとなる。
【0059】
続いて、図7を用いて最上階乗場14Fから昇降路12内に保守員が立ち入って保守点検作業を行ってから通常運転モードを再開するまでの制御装置70における運転モード切り替えの流れについて説明を行う。図7は、制御装置70において、通常運転モードの実行中に禁止モードに切り替えてから通常運転モードを再開するまでの制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
図7に示すように、運転制御部74は、乗りかご20が着床位置Qに位置していない状態で(ステップS11:YES)、最上階の乗場扉16Fが開いた状態であることを検知した場合に(ステップS12:YES)、禁止モードを実行する(ステップS13)。図3(b)に示すように、運転制御部74は、禁止モードの実行中は乗場操作盤15のインジケータ19Bに「×」マークを表示させる(ステップS14)。これにより、運転モードが禁止モードに設定されたことが視覚的に確認できる。
【0061】
さらに、運転制御部74は、扉監視部76を介して禁止モードの実行中に退避判定条件が満たされた場合に(ステップS15:YES)、禁止モードを解除するとともにインジケータ19Bにおける「×」マークの表示を終了させる(ステップS16,S17)。これにより、禁止モードが解除されたことが視覚的に確認できる。
【0062】
次に、最上階乗場14Fに設置されている復旧操作部86(図5参照)を介して復旧操作が行われた場合に(ステップS18:YES)、運転制御部74は通常運転モードを再開し一連の処理を終了する(ステップS19)。
【0063】
第2実施形態のエレベータ60によれば、禁止モードの実行中に退避判定条件を満たすことを条件として禁止モードが解除される。ここで、禁止モードの実行中に昇降路12内から保守員が乗場14Fに退避する場合には乗場扉16Fを一旦開く必要がある。このため、上述した退避判定条件を満たすか否かに基づいて昇降路12内からの保守員の退避を精度よく判別することが可能となる。この結果、昇降路12から保守員が退避したことを精度よく判別した上で禁止モードを解除できる。
【0064】
上記第1実施形態では、運転制御部44は、巻上機Mのロータリーエンコーダを介して出力される出力値、或いは、着床位置検出ユニット45の検出状態の少なくとも一方に基づいて乗りかご20が予め設定された着床位置に位置していないかどうかを判定する例を挙げて説明している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、昇降路12内に配置された磁気スケール90(後段にて詳述)を介して乗りかご20の上下方向位置を検出することで乗りかご20が予め設定された着床位置に位置しているか否かを判定するようにしてもよい。図8は、この場合の変形例に係るエレベータ100の構成を示す図である。以下の説明において、上記第1実施形態に係るエレベータ10と構成が共通する部分については適宜同一の符号を付して示しつつ説明を省略し、構成が異なる部分についてのみ説明を行うものとする。
【0065】
図8に示すように、エレベータ100は、昇降路12における上下方向の絶対位置を検出する機能を有する磁気スケール90を備える。この磁気スケール90は、昇降路12の天井部分12T(図1参照)からピット12Pに至る間の絶対位置(距離)情報を、例えば、0.5mmの分解能で磁気パターン(磁気目盛り)として記録した磁気テープ92と、磁気テープ92から磁気目盛りを読み取る読取ユニット94を有する。磁気テープ92は、一定の張力が作用した状態で昇降路12の壁面に上下方向が長手方向となるように取り付けられている。本例において、磁気テープ92は目盛りの値が下から上に向かって大きくなるように、すなわち、上側ほど磁気目盛りの値が大きくなるように設定されている。
【0066】
読取ユニット94は、乗りかご20に取り付けられている。そして、読取ユニット94は、乗りかご20の昇降に伴い磁気テープ92に沿って移動可能に配置され、磁気テープ92に記録された磁気目盛りを読みるとともに読み取った磁気目盛りの値を運転制御部44に送信する機能を有する。
【0067】
そして、運転制御部44は、磁気スケール90の読取ユニット94を介して取得される乗りかご20の上下方向の位置情報に基づいて乗りかご20が予め設定された着床位置に位置していないか否かを判定可能に構成される。
【0068】
この場合の変形例に係るエレベータ100においても、上記第1実施形態に係るエレベータ10と同様の効果を得ることができる。
【0069】
上記第1実施形態では、運転制御部44は、図4に示すステップS7の処理においてインジケータ19Bに「×」マークの表示を終了させる例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、運転制御部44は、ステップS7においてインジケータ19Bに「×」マークの表示を終了させてからステップS8の処理において復旧操作が行われるまでインジケータ19Bに「×」マークと異なる表示をさせるようにしてもよい。すなわち、運転制御部44は、禁止モードが解除され且つ通常運転モードが再開前の状態であることを示唆する表示をインジケータ19Bに表示させる。より具体的には、「*」マークなど禁止モードの実行中や通常運転モードの実行時と異なる表示態様の表示をインジケータ19Bに表示させることが考えられる。これにより、乗りかご20の運転状態をより一層把握しやすくなり通常運転モードの復旧に必要な残りの手順を保守員が視覚的に確認しやすくできる。
【0070】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0071】
10,60,100 エレベータ
11 主ロープ
12 昇降路
12P ピット
12T 天井部分
14,14A,14B,14C,14F 乗場
15,15A,15B,15C,15F 乗場操作盤
16,16A,16B,16C,16F 乗場扉
17,17A,17B,17C,17F ロック機構
18,18A,18B,18C,18F 戸開センサ
19A 乗場呼びボタン
19B インジケータ(表示部)
20 乗りかご
24 かご操作盤
26 かご上操作部
27 切り替え操作部(第2操作部)
40,70 制御装置
42,72 記憶デバイス
44,74 運転制御部
46,76 扉監視部
52 安全操作部(第2操作部)
54,84 電源操作部(第3操作部)
56,86 復旧操作部(第1操作部)
P,Q 着床位置
S1~S19 ステップ
【要約】
【課題】昇降路内から保守員が退避していることを精度よく判定した上で通常運転の禁止を解除できるエレベータを提供する。
【解決手段】エレベータ10は、乗りかご20を乗場14に設けられている乗場扉16を介して乗客が乗降可能な所定の着床位置まで呼び操作に基づいて昇降させる通常運転モードと、通常運転モードの実行を禁止する禁止モードとを有する運転制御部44(図2参照)と、乗場扉16の開閉状態を監視する扉監視部46(図2参照)とを備え、運転制御部44は禁止モードの実行中に扉監視部46を介して乗場扉16が閉じた状態から開いた状態に変化し、さらに、再度閉じた状態に変化したことを条件に禁止モード解除する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8