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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】フレーム原子吸光分光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20241016BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
G01N21/31 610B
G01J1/02 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023520821
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2022008679
(87)【国際公開番号】W WO2022239392
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021081877
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 加寿雄
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-281037(JP,A)
【文献】特開平10-160667(JP,A)
【文献】特開2003-161423(JP,A)
【文献】特開2007-078313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
G01J 1/00- 1/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と燃焼ガスとの混合ガスを燃焼させた炎を生成する炎生成部と、
前記炎を噴出させるスリット状の開口を有するバーナヘッドと、
前記開口から噴出する板状の炎の長手方向に、所定波長を含む波長帯を有する測定光を照射する光源と、
前記板状の炎を通過した測定光の強度を測定する測定部と、
前記バーナヘッドの前記開口の長手方向の側方に配置された、前記板状の炎の一方の側面を撮影する撮影部と
前記測定部による測定中に、前記撮影部で撮影される画像を取得して該画像に基づいて前記板状の炎に割れが生じているか否かを判定する判定部と、
前記判定部において前記板状の炎に割れが生じていると判定されたときに前記測定部による測定を中止する操作を行う測定制御部と
を備えるフレーム原子吸光分光光度計。
【請求項2】
さらに、前記判定部において前記板状の炎に割れが生じていると判定されたときに所定の情報を使用者に通知する通知部を備える、請求項に記載のフレーム原子吸光分光光度計。
【請求項3】
前記所定の情報が使用者に前記バーナヘッドのメンテナンスを促す情報である、請求項に記載のフレーム原子吸光分光光度計。
【請求項4】
さらに、前記撮影部で撮影された画像のデータを記憶する記憶部を備える、請求項1に記載のフレーム原子吸光分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーム原子吸光分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーム原子吸光分光光度計では、金属元素を含む溶液を霧状にしたうえで、燃焼ガス(例えばアセチレンガスと酸素又は空気を混合したガス)中に混合して燃焼させることにより、試料中の金属元素を原子化する。その際、炎をスリット状の開口から吹き出させることにより、炎の形状を板状とする(特許文献1参照)。この板状の炎の長手方向に、測定対象の原子に応じた所定波長の測定光を通過させ、炎を通過した測定光の強度を測定し、吸光度を求める。測定光が炎を通過する距離で吸光度を除し、その値を予備実験で求めておいた検量線に当てはめることにより、測定対象の原子を定量する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-160667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶液に不純物が含まれていると、スリットの一部に詰まりが生じ、それによって板状の炎に割れが生じることがある。特許文献1に記載のフレーム原子吸光分光光度計では、スリットの内面を鏡面研磨仕上げすることにより、スリットの詰まりが発生することを抑制しているが、それでもスリットの詰まり及びそれによる炎の割れを完全に防ぐことは困難である。このような炎の割れが生じると、測定条件(測定光が炎を通過する距離や温度等)が予備実験のときから変化してしまうため、正確な定量分析ができなくなる。そのため従来は、不正確な定量分析が行われていないことを確認するために、測定の間中、測定者が炎の状態を監視し続けなければならなかった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、測定者に負担を掛けることなく、不正確な定量分析を回避することができるフレーム原子吸光分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフレーム原子吸光分光光度計は、
試料と燃焼ガスとの混合ガスを燃焼させた炎を生成する炎生成部と、
前記炎を噴出させるスリット状の開口を有するバーナヘッドと、
前記開口から噴出する板状の炎の長手方向に、所定波長を含む波長帯を有する測定光を照射する光源と、
前記板状の炎を通過した測定光の強度を測定する測定部と、
前記バーナヘッドの前記開口の長手方向の側方に配置された、前記板状の炎の一方の側面を撮影する撮影部と
前記測定部による測定中に、前記撮影部で撮影される画像を取得して該画像に基づいて前記板状の炎に割れが生じているか否かを判定する判定部と、
前記判定部において前記板状の炎に割れが生じていると判定されたときに前記測定部による測定を中止する操作を行う測定制御部と
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、炎の側面を撮影部で撮影することにより、画像により炎の状態を監視することができるため、その負担を測定者に掛けることなく、不正確な定量分析を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るフレーム原子吸光分光光度計の一実施形態を示す概略構成図。
図2】本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計において、バーナヘッドのスリットから板状の炎が割れることなく噴出する状態の例を示す図。
図3】本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計において、バーナヘッドのスリットから板状の炎が割れた状態で噴出する例を示す図。
図4】本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図4を用いて、本発明に係るフレーム原子吸光分光光度計の実施形態を示す。
【0010】
(1) 本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計の構成
図1は、本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計1を示す概略構成図である。このフレーム原子吸光分光光度計1は、光源11と、原子化部12と、分光器13と、検出器(測定部)14と、カメラ(撮影部)15と、制御部16と、記憶部17とを備える。原子化部12は、試料収容部120、試料噴霧器121、燃焼ガス源122、バーナチャンバ123、バーナヘッド124とを備え、バーナヘッド124の上面にはスリット125が設けられている。図1では、各構成要素のうち光源11、バーナヘッド124(スリット125を含む)、分光器13、検出器14及びカメラ15は、上側から見た互いの位置関係を示している。
【0011】
光源11は、所定波長を含む波長帯を有する測定光911を発するものである。ここで「所定波長」は、測定対象の原子に吸収される光の波長であって、測定対象の原子の種類によって定まる。所定波長は、例えば測定対象の原子がPb(鉛)である場合には283.3nm、Cd(カドミウム)である場合には228.8nm、Cu(銅)である場合には324.8nmである。測定対象の原子は、試料に含有されていることが既知である原子、試料に含有されているか否かは不明であるがその可能性がある原子、有害物質が含有する原子のように本来は検出されるべきではない原子、等である。「所定波長を含む波長帯を有する測定光」は、当該所定波長のみを有する単色光であってもよいし、当該所定波長を含む、或る程度の幅を持った波長帯を有する光であってもよい。
【0012】
原子化部12の各構成要素を説明する。試料収容部120は、金属元素を含む溶液である試料を収容する容器であって、複数の試料を区分けして収容することができる。試料噴霧器121は、試料収容部120内にある複数の試料のうちの1つを選択して吸引し、霧状にしてバーナチャンバ123内に噴霧するものである。燃焼ガス源122は、アセチレンと酸素を混合した燃焼ガスをバーナチャンバ123内に供給するものである。バーナチャンバ123は、試料噴霧器121から噴霧された霧状の試料と燃焼ガス源122から供給された燃焼ガスを混合した混合ガスを生成したうえで燃焼させるものである。試料噴霧器121、燃焼ガス源122及びバーナチャンバ123を合わせたものが前述の炎生成部に該当する。バーナヘッド124は、バーナチャンバ123で混合ガスが燃焼した炎をスリット(開口)125から上方に噴出させるものである。バーナヘッド124に異常がなければ、図2に示すように、スリット125から板状の炎92が噴出する。光源11とバーナヘッド124の位置関係は、光源11が発する測定光911が板状の炎92の長手方向に向かって該炎92に照射されるように設定されている。
【0013】
分光器13は、炎92を通過した測定光912を分光するものである。バーナヘッド124、分光器13及び検出器14の位置関係は、板状の炎92を通過した測定光912のうち前記所定波長を有する光913が分光器13で分光されて検出器14に入射するように設定されている。検出器14は前述の測定部に相当し、入射する前記所定波長を有する光913を検出し、検出信号を制御部16に送信するものである。
【0014】
カメラ15は前述の撮影部に相当するものであって、バーナヘッド124のスリット125から噴出する板状の炎92の一方の側面921(図2中に斜線のハッチを付した面)を撮影するように、向きが設定されている。なお、板状の炎の「側面」は、板の厚さ方向に対向する2つの面(通常は板が有する面のうち最も広い2つの面)をいい、端面922とは異なる。カメラ15は、板状の炎92の一方の側面921を真正面から(該側面921に垂直な方向から)撮影するようにしてもよいし、該側面921に対して斜め方向から撮影するようにしてもよい。
【0015】
制御部16は、測定制御部161、判定部162、表示制御部163、吸光度算出部164及び原子定量部165を有する。制御部16は、実際には、CPU等のハードウエア、並びに各種制御の処理を行うソフトウエアにより具現化される。
【0016】
制御部16内の各部の詳細は以下の通りである。測定制御部161は、フレーム原子吸光分光光度計1が有する各構成要素の動作を制御するものである。測定制御部161が行う制御には、判定部162が板状の炎92に割れ93(図3参照。詳細は後述。)が発生したと判定したときに測定を中止する操作を行う制御が含まれる。判定部162は、カメラ15で撮影される画像を取得して、該画像に基づいて板状の炎92に割れ93が生じているか否かを判定するものである。表示制御部163は、表示部18に文字や画像等を表示させる制御を行うものである。表示制御部163が行う制御には、後述のように判定部162が板状の炎92に割れ93が発生したと判定したときに表示部18に所定の表示を行う制御が含まれる。吸光度算出部164は、検出器14からの出力信号が示す所定波長の光の検出強度に基づいて吸光度を算出するものである。原子定量部165は、吸光度算出部164で算出された吸光度と記憶部17に記憶された検量線に基づいて分析対象の原子を定量する操作を行うものである。
【0017】
記憶部17は、測定の際に得られた各種データ、及び原子定量部165で定量を行う際に用いる検量線のデータを記憶するものである。前記各種データには、測定中にカメラ15で撮影された板状の炎92の画像データが含まれる。
【0018】
表示部18は、測定条件の設定画面や測定結果を示す画面等を表示する他、後述のように判定部162が板状の炎92に割れが発生したと判定したときに所定の表示を行うものである。なお、表示部18及び表示制御部163は、後述の通知部に相当する。
【0019】
その他、フレーム原子吸光分光光度計1は、使用者が測定条件等を入力する入力部(図示せず)等を備える。
【0020】
(2) 本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計の動作
図4を用いて、本実施形態のフレーム原子吸光分光光度計1の動作を説明する。
【0021】
予め、金属元素を含む(又はその可能性がある)溶液である1又は複数の試料を用意し、試料収容部120に収容しておく。以下では、複数の試料を用意した場合を例に説明する。
【0022】
使用者が入力部を用いて所定の測定開始操作を行うと、試料噴霧器121は、試料収容部120に収容された複数の試料のうちの1つを吸引し、バーナチャンバ123内に噴霧する。それと同時に、燃焼ガス源122は、アセチレンと酸素を混合した燃焼ガスをバーナチャンバ123内に供給する。これにより、霧状の試料と燃焼ガスを混合した混合ガスを生成する。続いて、バーナチャンバ123は点火装置(図示せず)で点火することにより混合ガスを燃焼させる。これにより、バーナヘッド124のスリット125から板状の炎92を噴出させる(ステップ1)。
【0023】
次に、カメラ15は、板状の炎92の一方の側面921を撮影し(ステップ2:1回目の撮影)、得られた画像のデータを測定制御部161に送信する。測定制御部161は、画像のデータを判定部162及び記憶部17にそれぞれ送信する。判定部162では次に述べる判定を行い、記憶部17では画像データを記憶する。なお、記憶部17への画像データの記憶は、板状の炎92が正常な状態で測定が行われたことの証拠を残すために行うものである。
【0024】
判定部162は、受信した画像データに基づき、一般的な画像解析の手法により、板状の炎92に割れ93が発生しているか否かを判定する(ステップ3)。バーナヘッド124の状態が正常であれば、図2に示すように、一様な側面を有する板状の炎92の画像が得られる。それに対してバーナヘッド124のスリット125に異物が詰まること等の異常が生じると、図3に示すように、割れ93を有する板状の炎92の画像が得られる。
【0025】
判定部162が板状の炎92に割れ93が発生していると判定した場合(ステップ3においてYes)には、ステップ10として以下の2つの操作を同時に又は1つずつ順に行う。第1の操作として、測定制御部161は、試料噴霧器121からの試料の噴霧及び燃焼ガス源122からの燃焼ガスの供給を停止する制御を行うことにより、測定を終了(中止)させる(ステップ10)。第2の操作として、表示制御部163は、異常により測定が停止した旨、及びバーナヘッド124のメンテナンスを行うよう促す旨等の異常発生情報を示す文字や画像等を表示部18に表示させる。そのうえで、測定全体の動作を終了する。
【0026】
判定部162が板状の炎92に割れ93が発生していないと判定した場合(ステップ3においてNo)には、ステップ4として以下のように吸光分光測定の操作を実行する。光源11は板状の炎92に平行に測定光911を照射する。分光器13は、板状の炎92を通過した測定光912を分光する。検出器14は、分光器13で分光された所定波長の光、すなわち分析対象の原子が吸収する波長の光を所定時間(通常は数秒間)検出する。検出器14は前記所定時間の全体に亘って検出信号を測定制御部161に送信し、測定制御部161は受信した検出信号を吸光度算出部164に送信する。吸光度算出部164は、受信した検出信号の強度を前記所定時間積算した値から、前記所定波長の光の強度を求め、さらに該所定波長の光の吸光度を算出する。原子定量部165は、吸光度算出部164で算出された吸光度を板状の炎92の長手方向の長さ94(この値は既知である)で除した値を、記憶部17に記憶された検量線のデータに当てはめることにより、試料に含まれる分析対象の原子を定量する。
【0027】
このように吸光分光測定の操作を実行した後、カメラ15は、板状の炎92の一方の側面を撮影し(ステップ5:2回目の撮影)、得られた画像のデータを測定制御部161に送信する。測定制御部161は、画像のデータを判定部162及び記憶部17にそれぞれ送信する。判定部162は、1回目の撮影の際と同様の方法により、板状の炎92に割れ93が発生しているか否かを判定する(ステップ6)。
【0028】
判定部162が、板状の炎92に割れ93が発生していると判定した場合(ステップ6においてYes)には、前述したものと同じステップ10の操作を行ったうえで、測定を終了(中止)する。
【0029】
一方、判定部162が、板状の炎92に割れ93が発生していないと判定した場合(ステップ6においてNo)には、吸光度算出部164が吸光度の値を表示制御部163及び記憶部17に送信すると共に、原子定量部165が分析対象の原子の定量値を表示制御部163及び記憶部17に送信する。表示制御部163では吸光度の値及び分析対象の原子の定量値を表示部18に表示する制御を行い、記憶部17ではそれらの値を記憶する(ステップ7)。その後、他に分析対象の試料があれば(ステップ8においてYes)、ステップ1に戻って、ここまでに述べた一連の操作を再度行う。一方、他に分析対象の試料がなければ(ステップ8においてNo)、測定制御部161は、試料噴霧器121からの試料の噴霧及び燃焼ガス源122からの燃焼ガスの供給を停止する制御を行って測定を停止させ(ステップ9)、一連の測定操作を終了する。
【0030】
本実施形態に係るフレーム原子吸光分光光度計1では、1つの試料に対する吸光度の測定の開始時と終了時の2回、板状の炎92に割れ93が発生しているか否かを判定し、割れ93が発生している場合には測定を中止し、2回とも割れ93が発生していないときのみ、吸光度及び原子の定量値を取得(記憶部17に保存、及び表示部18に表示)する。1つの試料に対する吸光度の測定が通常は数秒間で終了すること、及び不純物が詰まること等によって割れ93が一度発生すると通常は直ぐには解消しないことから、本実施形態のように開始時と終了時の双方において割れ93が発生していないことを確認すれば、その測定の間に割れ93が発生することが無かったとみなすことができる。
【0031】
仮に板状の炎92に割れ93が発生したまま測定を行ってしまうと、測定光911が板状の炎92の長手方向に通過する際に光路上に炎が存在しない部分(図3中に符号95を付した部分)が存在し、それによって測定光911が炎を通過する距離や温度等が変化してしまうため、分析が不正確になってしまう。しかしながら、本実施形態に係るフレーム原子吸光分光光度計1によれば、開始時と終了時の双方において割れ93が発生していないことを確認することでその間に割れ93が発生することが無かったとみなすことができるため、測定者が炎の状態を監視していなくとも、分析の正確さを担保することができる。
【0032】
(変形例)
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では画像の撮影及び割れ93の発生の有無の判定を、1つの試料に対する測定の開始時と終了時の合わせて2回行っているが、これら撮影及び判定を、1つの試料に対する測定の間に3回以上行うようにしてもよい。あるいは、撮影及び判定の回数を特定せずに、それらを所定時間毎に行うようにしてもよい。また、1つの試料に対する測定時間が十分に短い場合には、これら撮影及び判定を1つの試料につき1回のみ行うようにしても差し支えない。カメラ15は静止画像を撮影するものであってもよいし、動画を撮影するものであってもよい。動画を撮影する場合には、得られた動画中の1コマである静止画像を用いて判定を行ってもよいし、動画のままで判定を行ってもよい。
【0034】
上記実施形態では撮影した画像の画像データを記憶部17に記憶している。このように保存された画像は、前述のように、板状の炎92が正常な状態で測定が行われたことの証拠となる。但し、本実施形態では板状の炎92に割れ93が生じたときには測定を中止することから、測定が行われた場合には確実に板状の炎92が正常な状態であったことになるため、記憶部17への画像データの記憶は省略してもよい。
【0035】
上記実施形態では、板状の炎92に割れ93が生じたときに、表示部18に異常発生情報を表示しているが、その代わりに、警告音を発出したり、異常を示す表示灯を点灯させるようにしてもよい。また、異常発生情報を通知するための構成は省略してもよい。
【0036】
あるいは、判定部162を省略し、以下のように事後的に検証を行うようにしてもよい。この場合には、全ての測定が完了した後に、測定中に得られた画像を画像解析によって又は人が眼で見て確認することにより、板状の炎92の割れ93の有無を判定する。そして、割れ93が生じていたときに得られたデータは不正確なものとして廃棄する。
【0037】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0038】
(第1項)
第1項に係るフレーム原子吸光分光光度計は、
試料と燃焼ガスとの混合ガスを燃焼させた炎を生成する炎生成部と、
前記炎を噴出させるスリット状の開口を有するバーナヘッドと、
前記開口から噴出する板状の炎の長手方向に、所定波長を含む波長帯を有する測定光を照射する光源と、
前記板状の炎を通過した測定光の強度を測定する測定部と、
前記板状の炎の一方の側面を撮影する撮影部と
を備える。
【0039】
前記「所定波長」は、測定対象の原子(試料に含有されていることが既知である原子、試料に含有されている可能性がある原子、有害物質が含有する原子のように本来は検出されるべきではない原子、等)吸収される光の波長であって、原子の種類によって定まる。例えば、測定対象の原子がPb(鉛)である場合には283.3nm、Cd(カドミウム)である場合には228.8nm、Cu(銅)である場合には324.8nmである。前記「所定波長を含む波長帯を有する測定光」は、当該所定波長のみを有する単色光であってもよいし、当該所定波長を含む、或る程度の幅を持った波長帯を有する光であってもよい。
【0040】
第1項に係るフレーム原子吸光分光光度計では、測定の際に、バーナヘッドのスリット状の開口から噴出する板状の炎の一方の面(炎を板に見立てたときの、表裏両面のいずれか一方の面)を撮影部で撮影する。撮影部は、該一方の面をその正面から撮影してもよいし、斜め方向から撮影してもよい。撮影した画像中の板状の炎に割れが生じていなければ炎が正常な状態で定量分析がなされており、画像中の板状の炎に割れが生じていれば不正確な定量分析が行われていることを意味する。撮影した画像の評価は、測定部による測定中に画像解析によって行ってもよい(第2項参照)し、撮影した画像を記憶部に記憶させておいたうえで事後的に画像解析によって又は人の目で判断することによって行ってもよい。
【0041】
第1項に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、炎の画像を撮影部で撮影することにより、炎の状態を監視し続けるという負担を測定者に掛けることなく、不正確な定量分析を回避することができる。
【0042】
(第2項)
第2項に係るフレーム原子吸光分光光度計は、第1項に係るフレーム原子吸光分光光度計においてさらに、
前記測定部による測定中に、前記撮影部で撮影される画像を取得して該画像に基づいて前記板状の炎に割れが生じているか否かを判定する判定部と、
前記判定部において前記板状の炎に割れが生じていると判定されたときに前記測定部による測定を中止する操作を行う測定制御部と
を備える。
【0043】
第2項に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、測定部による測定中に、撮影部で撮影される画像に基づいて板状の炎に割れが生じているか否かを判定し、割れが生じていると判定されたときに測定を中止する。これにより、正確な定量分析が行えない状態で無駄な測定が継続されることが防止されるため、試料及び測定に要する時間を無駄に消費することを防ぐことができる。
【0044】
(第3項)
第3項に係るフレーム原子吸光分光光度計は、第2項に係るフレーム原子吸光分光光度計においてさらに、前記判定部において前記板状の炎に割れが生じていると判定されたときに所定の情報を使用者に通知する通知部を備える。
【0045】
第3項に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、板状の炎に割れが生じているときに所定の情報を使用者に通知することにより、使用者が割れの発生によって測定が中止されたことを知ることができるため、早期に測定再開のための処置を取ることができる。所定の情報の通知は、例えば測定が中止された旨をディスプレイに表示される文字や画像、音声等で行ってもよいし、言語を伴わない音や光で行ってもよい。
【0046】
(第4項)
第4項に係るフレーム原子吸光分光光度計は、第3項に係るフレーム原子吸光分光光度計において、前記所定の情報が使用者に前記バーナヘッドのメンテナンスを促す情報である。
【0047】
板状の炎に割れが生じる主な原因は、試料中に含まれる不純物がバーナヘッドのスリットで詰まることにある。第4項に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、使用者にバーナヘッドのメンテナンスを促す情報を通知することにより、使用者がこのようなスリットでの詰まりを解消するメンテナンスを行い、早期に測定を再開させることができる。
【0048】
(第5項)
第5項に係るフレーム原子吸光分光光度計は、第1項~第4項のいずれか1項に係るフレーム原子吸光分光光度計において、さらに、前記撮影部で撮影された画像のデータを記憶する記憶部を備える。
【0049】
第5項に係るフレーム原子吸光分光光度計によれば、前記撮影部で撮影された画像のデータを記憶部に記憶させることにより、炎の割れが生じない状態で正しい分析が行われたことを示す証拠を残すことができる。
【符号の説明】
【0050】
1…フレーム原子吸光分光光度計
11…光源
12…原子化部
120…試料収容部
121…試料噴霧器
122…燃焼ガス源
123…バーナチャンバ
124…バーナヘッド
125…スリット
13…分光器
14…検出器
15…カメラ
16…制御部
161…測定制御部
162…判定部
163…表示制御部
164…吸光度算出部
165…原子定量部
17…記憶部
18…表示部
911…測定光
912…炎を通過した測定光
913…分光器で分光された光
92…板状の炎
921…板状の炎の側面
922…板状の炎の端面
93…炎の割れ
94…板状の炎の長手方向の長さ
95…測定光の光路上に炎が存在しない部分
図1
図2
図3
図4