(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】歩容評価装置、歩容評価方法、歩容計測システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/11 210
(21)【出願番号】P 2023534431
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2021026069
(87)【国際公開番号】W WO2023286106
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120807(JP,A)
【文献】特表2018-528044(JP,A)
【文献】特許第6564711(JP,B2)
【文献】特開2019-150329(JP,A)
【文献】特開2009-125270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/103 - 5/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の動きに関するセンサデータに基づいて、安定歩行が行われる歩行セッションを識別する識別手段と、
同一の前記歩行セッションに計測された前記センサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する波形処理手段と、
歩行の周期ごとに抽出された前記対象波形の類似性の推移に応じて前記歩行の動的安定性を評価し、前記歩行の動的安定性の評価結果を出力する安定性評価手段と、を備える歩容評価装置。
【請求項2】
前記波形処理手段は、
前記センサデータの時系列データを用いて、歩行周期と強度が正規化された歩行波形を生成し、
生成された前記歩行波形から、前記評価対象区間に含まれる前記対象波形を抽出する請求項1に記載の歩容評価装置。
【請求項3】
前記安定性評価手段は、
前記歩行セッションの初期段階の基準対象波形と、前記歩行セッションに含まれる一連の前記対象波形との前記類似性の推移に応じて、前記歩行の動的安定性を評価する請求項1または2に記載の歩容評価装置。
【請求項4】
前記安定性評価手段は、
所定歩数未満の第一段階における前記基準対象波形と前記対象波形との前記類似性の代表値と、前記所定歩数以上の第二段階における前記基準対象波形と前記対象波形との前記類似性の代表値とを比較し、
前記第一段階における前記類似性の代表値と、前記第二段階における前記類似性の代表値との比較結果に応じて、前記歩行の動的安定性を評価する請求項3に記載の歩容評価装置。
【請求項5】
同一の前記歩行セッションに含まれる複数の前記対象波形のペアを抽出し、抽出された複数の前記対象波形のペアに関して総当たりで前記類似性を計算し、複数の前記対象波形のペアに関する前記類似性の大小関係を二次元的にマッピングした類似性マトリクスを生成するマトリクス生成手段を備え、
前記安定性評価手段は、
前記類似性マトリクスに表れる特徴に基づいて、前記歩行の動的安定性を評価する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の歩容評価装置。
【請求項6】
前記安定性評価手段は、
前記類似性マトリクスにおいて、前記類似性が基準よりも低い領域の面積が、前記類似性マトリクスの全体の面積に対して所定の割合を超えた場合、前記歩行の動的安定性が低いと判定する請求項5に記載の歩容評価装置。
【請求項7】
前記波形処理手段は、
疲労度の判定対象の筋肉の種別に応じて設定された前記評価対象区間から前記対象波形を抽出し、
前記安定性評価手段は、
前記対象波形の前記類似性の長期的な推移に応じて、前記判定対象の筋肉の疲労度を判定し、
前記判定対象の筋肉の疲労度の判定結果を出力する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の歩容評価装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の歩容評価装置と、
ユーザの履物に配置され、前記ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測し、計測された前記空間加速度および前記空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成された前記センサデータを前記歩容評価装置に出力する計測装置と、を備える歩容計測システム。
【請求項9】
コンピュータが、
足の動きに関するセンサデータに基づいて、安定歩行が行われる歩行セッションを識別し、
同一の前記歩行セッションに計測された前記センサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出し、
歩行の周期ごとに抽出された前記対象波形の類似性の推移に応じて前記歩行の動的安定性を評価し、
前記歩行の動的安定性の評価結果を出力する歩容評価方法。
【請求項10】
足の動きに関するセンサデータに基づいて、安定歩行が行われる歩行セッションを識別する処理と、
同一の歩行セッションに計測された前記センサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する処理と、
歩行の周期ごとに抽出された前記対象波形の類似性の推移に応じて前記歩行の動的安定性を評価する処理と、
前記歩行の動的安定性の評価結果を出力する処理と、をコンピュータに実行させるプログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行における動的安定性を評価する歩容評価装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行パターンに含まれる特徴(歩容とも呼ぶ)を計測し、歩容に応じた情報をユーザに提供するサービスが注目されている。例えば、慣性センサを含む計測装置を靴等の履物に実装し、ユーザの歩容を解析する装置が開発されている。計測装置が実装された履物を履いたユーザの歩行に伴って、計測装置によって計測されるデータ(センサデータとも呼ぶ)を用いて歩行の動的安定性を評価できれば、ユーザの転倒リスク等について予測できる。歩行の動的安定性は、歩行能力と関わる指標である。
【0003】
特許文献1には、履物に実装された計測装置によって計測されるセンサデータを用いて、歩行判定を行う判定装置について開示されている。特許文献1の装置は、重力方向加速度や進行方向加速度の値に応じて歩行状態を判別し、歩行計測におけるモードを切り替える。特許文献1の装置は、重力方向の加速度の値が第1閾値を超えると、省電力モードから判別モードに切り替える。特許文献1の装置は、判別モードにおいて、進行方向加速度の値が第2閾値を超えると、判別モードから歩行計測モードに切り替える。特許文献1の装置は、判別モードにおける進行方向加速度のピーク値のログデータを用いて、ピーク値の変化傾向を検出する。特許文献1の装置は、検出されたピーク値の変化傾向に基づいて、第2閾値を変更する。
【0004】
特許文献2には、モーションキャプチャや足圧分布測定器などの歩行動作計測部の計測結果に基づいて、被験者の歩行動作を分析する歩行動作分析装置について開示されている。特許文献2の装置は、歩行動作計測部の計測結果から、被験者が定常歩行中であるか否かを判定する。例えば、特許文献2の装置は、歩行時の計測対象期間における、歩幅や上腕角度等の所定のパラメータの変動幅(ばらつき)に基づいて、定常歩行が行われているか判定する。例えば、特許文献2の装置は、計測対象期間における所定のパラメータが、一定幅以内に収束する場合には定常歩行と判定し、所定時間が経過しても一定幅以内に収束しない場合には異常歩行と判定する。
【0005】
特許文献3には、ユーザの歩容を推定する歩容推定装置について開示されている。特許文献3の装置は、加速度センサにより計測された加速度データを用いて、歩行時のパワー、ペース、および体のバランスの各々に関する第1~第3の特徴量を計算する。特許文献3の装置は、加速度データの一定区間における加速度ノルム波形に基づいて、第1~3の特徴量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2020/230282号
【文献】特開2009-125270号公報
【文献】特許第6564711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法によれば、判別モードにおける進行方向加速度のピーク値の変化傾向に基づいて第2閾値を変更することによって、歩行状態の変化に柔軟に対応しながら、歩行測定の高効率化と低消費電力化を両立できる。また、特許文献2の手法によれば、計測対象期間における所定のパラメータのばらつきに基づいて、定常歩行や異常歩行を判定できる。しかしながら、特許文献1-2の手法では、歩行の動的安定性に関して判定できなかった。
【0008】
特許文献3の手法では、一定区間ごとの当該区間における加速度ノルム波形の自己相関係数に基づいて、歩行時の体のバランス(動的安定性)に関する第3の特徴量を計算する。すなわち、特許文献3の手法では、1歩ごとの加速度波形の類似性に基づいて、体のバランス能力を評価する。特許文献3の手法では、1歩ごとの加速度波形の類似性に基づいて体のバランス能力を評価するため、歩行時の動的安定性に影響を与える体力的な要因が反映されない。また、特許文献3の手法では、偶発的な歩容の変動によって、第3の特徴量に影響が及びやすい。そのため、特許文献3の手法では、歩行の動的安定性の評価能力や精度を高めることが難しかった。
【0009】
本開示の目的は、歩行の動的安定性を精度よく評価できる歩容評価装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様の歩容評価装置は、足の動きに関するセンサデータに基づいて安定歩行が行われる歩行セッションを識別する識別部と、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する波形処理部と、歩行の周期ごとに抽出された対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価し、歩行の動的安定性の評価結果を出力する安定性評価部と、を備える。
【0011】
本開示の一態様の歩容評価方法においては、コンピュータが、足の動きに関するセンサデータに基づいて安定歩行が行われる歩行セッションを識別し、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出し、歩行の周期ごとに抽出された対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価し、歩行の動的安定性の評価結果を出力する。
【0012】
本開示の一態様のプログラムは、足の動きに関するセンサデータに基づいて安定歩行が行われる歩行セッションを識別する処理と、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する処理と、歩行の周期ごとに抽出された対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価する処理と、歩行の動的安定性の評価結果を出力する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、歩行の動的安定性を精度よく評価できる歩容評価装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る歩容計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る歩容計測システムの計測装置の配置例を示す概念図である。
【
図3】第1の実施形態に係る歩容計測システムの計測装置に設定される座標系について説明するための概念図である。
【
図4】第1の実施形態に係る歩容計測システムの説明で用いられる歩行周期の一例について説明するための概念図である。
【
図5】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置の評価対象である対象波形の類似性の推移について説明するための概念図である。
【
図6】第1の実施形態に係る計測システムの計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】第1の実施形態に係る計測システムの歩容評価装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置の評価対象である対象波形の類似性の推移の一例である。
【
図9】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置の評価対象である対象波形の類似性の推移の別の一例である。
【
図10】第1の実施形態に係る歩容計測システムの利用シーンの一例を示す概念図である。
【
図11】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図12】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置による波形生成処理の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図13】第1の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置による動的安定性評価処理の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図14】第2の実施形態に係る歩容計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】第2の実施形態に係る計測システムの歩容評価装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図16】第2の実施形態に係る計測システムの歩容評価装置によって生成される類似性マトリクスの一例を示す概念図である。
【
図17】第2の実施形態に係る計測システムの歩容評価装置によって生成される類似性マトリクスの別の一例を示す概念図である。
【
図18】第2の実施形態に係る歩容計測システムの利用シーンの一例を示す概念図である。
【
図19】第2の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図20】第2の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置による波形生成処理の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図21】第2の実施形態に係る歩容計測システムの歩容評価装置による動的安定性評価処理の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図22】第3の実施形態に係る歩容評価装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図23】各実施形態に係る処理を実行するハードウェア構成の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る歩容計測システムの構成の一例について図面を参照しながら説明する。本実施形態の歩容計測システムは、ユーザの履く履物に設置された計測装置によって、足の動きに関する物理量(センサデータ)を計測する。計測装置は、加速度センサや角速度センサを含む。例えば、足の動きに関する物理量は、加速度センサによって計測される3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)を含む。本実施形態の歩容計測システムは、計測されたセンサデータを用いて、歩行の動的安定性を評価する。
【0017】
(構成)
図1は、本実施形態の歩容計測システム1の構成を示すブロック図である。歩容計測システム1は、計測装置11および歩容評価装置12を備える。歩容評価装置12は、計測装置11に有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、計測装置11および歩容評価装置12は、単一の装置で構成されてもよい。また、歩容計測システム1は、計測装置11を除き、歩容評価装置12のみで構成されてもよい。
【0018】
計測装置11は、足部に設置される。例えば、計測装置11は、靴等の履物に設置される。例えば、計測装置11は、足弓の裏側の位置に配置される。計測装置11は、加速度センサおよび角速度センサを含む。計測装置11は、履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度センサによって計測される加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。計測装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、位置(軌跡)も含まれる。計測装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。計測装置11は、変換後のセンサデータを歩容評価装置12に送信する。例えば、センサデータには、センサデータが取得された時刻に対応するタイムスタンプを含まれる。タイムスタンプは、センサデータに付与された時系列の番号である。例えば、計測装置11は、ユーザによって携帯される携帯端末(図示しない)を介して、歩容評価装置12に接続される。
【0019】
携帯端末(図示しない)は、ユーザによって携帯可能な通信機器である。例えば、携帯端末は、スマートフォンやスマートウォッチ、携帯電話等の通信機能を有する携帯型の通信機器である。携帯端末は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを計測装置11から受信する。携帯端末は、受信されたセンサデータを、歩容評価装置12が実装されたサーバやクラウド等に送信する。なお、歩容評価装置12の機能は、携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されていてもよい。その場合、携帯端末は、受信されたセンサデータを、自身にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって処理する。
【0020】
計測装置11は、例えば、加速度センサと角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸方向の加速度を計測する加速度センサと、3軸周りの角速度を計測する角速度センサを含む。また、計測装置11は、VG(Vertical Gyro)やAHRS(Attitude Heading)などの慣性計測装置によって実現されてもよい。また、計測装置11は、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)によって実現されてもよい。
【0021】
図2は、計測装置11を靴100の中に配置する一例を示す概念図である。
図2の例では、計測装置11は、足弓の裏側に当たる位置に配置される。例えば、計測装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに配置される。例えば、計測装置11は、靴100の底面に配置される。例えば、計測装置11は、靴100の本体に埋設されてもよい。計測装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。なお、計測装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に配置されてもよい。また、計測装置11は、ユーザが履く靴下や、ユーザが装着するアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、計測装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
図2においては、右足側の靴100に計測装置11が配置される例を示すが、両足分の靴100に計測装置11が配置されてもよい。両足分の靴100に計測装置11が配置されれば、両足分の足の動きに基づいて、歩容を計測できる。
【0022】
図3は、計測装置11を足弓の裏側に設置する場合に、計測装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。本実施形態においては、計測装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。なお、ローカル座標系や世界座標系の軸の向きは、
図3の向きに限定されず、互いに変換可能であればよい。
【0023】
図4は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。
図4は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする、右足の一歩行周期を表す。
図4の歩行周期は、右足の一歩行周期を0~100パーセント(%)として、正規化されている。歩行周期の各%のタイミングを歩行フェーズとも呼ぶ。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。一般に、歩行周期は、立脚相が60%を占め、遊脚相が40%を占める。例えば、立脚相が60%を占め、遊脚相が40%を占めるように、歩行周期が正規化されてもよい。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、および遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、および遊脚終期T7に細分される。立脚初期T1や、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7などの区間を歩行ピリオドとも呼ぶ。立脚相や遊脚相などの区間も、歩行ピリオドに含まれる。なお、一歩行周期分の歩行波形は、踵が地面に着地した時点を起点としなくてもよい。例えば、一歩行周期分の歩行波形は、踵が持ち上がる時点を起点および終点としてもよい。
【0024】
一歩行周期には、複数の事象(歩行イベントと呼ぶ)が発生する。
図4(a)は、右足の踵が着地した事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図4(b)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。
図4(c)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。
図4(d)は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。
図4(e)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。
図4(f)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。
図4(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。
図4(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。
図4(h)は、
図4(a)から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。なお、歩行イベントが発現するタイミングは、人物の身体や歩行の状態に応じて異なるため、想定される歩行周期と完全に一致するとは限らない。
【0025】
歩行ピリオドと歩行イベントは、下記のように対応付けられる。立脚初期T1は、踵接地HSから反対足爪先離地OTOまでの期間である。立脚中期T2は、反対足爪先離地OTOから踵持ち上がりHRまでの期間である。立脚終期T3は、踵持ち上がりHRから反対足踵接地OHSまでの期間である。遊脚前期T4は、反対足踵接地OHSから爪先離地TOまでの期間である。遊脚初期T5は、爪先離地TOから足交差FAまでの期間である。遊脚中期T6は、足交差FAから脛骨垂直TVまでの期間である。遊脚終期T7は、脛骨垂直TVから踵接地HSまでの期間である。
【0026】
歩容評価装置12は、計測装置11からセンサデータを受信する。歩容評価装置12は、受信したセンサデータに基づいて、安定歩行の開始を検出する。例えば、歩容評価装置12は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値と閾値(第1閾値とも呼ぶ)の関係に応じて、安定歩行の開始を検出する。例えば、歩容評価装置12は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値が第1閾値を3回超えると、安定歩行の開始を検出するように構成できる。歩容評価装置12は、安定歩行の開始が検出された時点から、安定歩行の終了が検出される時点までの区間(歩行セッションとも呼ぶ)において、歩行の動的安定性評価を行う。歩行セッションは、歩行バウト(Walking bouts)とも呼ばれる。
【0027】
歩容評価装置12は、安定歩行の開始を検出すると、同一の歩行セッションに関して、計測装置11によって計測されたセンサデータの時系列データを生成する。また、歩容評価装置12は、センサデータの時系列データを生成に合わせて、ユーザの歩数を計測する。歩容評価装置12は、歩行の周期に合わせて、センサデータの時系列データから波形を切り出す。例えば、歩容評価装置12は、一歩行周期分のセンサデータの時系列データから、一歩行周期分の波形を切り出す。例えば、歩容評価装置12は、一歩分のセンサデータの時系列データから、一歩分の波形を切り出してもよい。例えば、歩容評価装置12は、一ストライド分のセンサデータの時系列データから、一ストライド分の波形を切り出してもよい。歩容評価装置12は、切り出された波形の横軸(時間)を、0~100%の歩行周期に正規化する。また、歩容評価装置12は、切り出された波形の縦軸(強度)を正規化する。例えば、歩容評価装置12は、切り出された波形の縦軸(強度)を、最大の強度を基準として正規化する。
【0028】
歩容評価装置12は、正規化された一歩行周期分の波形(歩行波形とも呼ぶ)から、歩行の動的安定性の評価対象の波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する。例えば、歩容評価装置12は、対象波形として、遊脚相の期間に含まれる波形を抽出する。歩容評価装置12は、一つの歩行セッションにおける、全ての歩行周期における対象波形を抽出する。歩容評価装置12は、歩行セッションにおける対象波形の類似性の変化に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、同一の歩行セッションにおいて、短期、中期、および長期の対象波形の類似性を追跡する。
【0029】
歩容評価装置12は、同一の歩行セッションにおける、基準となる歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形(基準対象波形とも呼ぶ)と、それ以外の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算する。例えば、歩容評価装置12は、同一の歩行セッションにおける、一歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算する。例えば、歩容評価装置12は、同一の歩行セッションにおける、数歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算してもよい。例えば、歩容評価装置12は、同一の歩行セッションにおける、数歩行周期分の歩行波形から抽出された対象波形の代表値と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形の代表値との類似性を計算してもよい。なお、歩容評価装置12は、ストライドや歩数ごとの類似性を計算してもよい。歩容評価装置12による類似性の計算方法については、後述する。
【0030】
図5は、一歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形(基準対象波形とも呼ぶ)と、後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性(相関係数)の変化を示すグラフである。
図5の例では、一歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形を基準対象波形とする。例えば、歩行開始から数歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形を、基準対象波形としてもよい。例えば、歩行開始から数歩行周期目の歩行波形から抽出された複数の対象波形を平均化した波形を、基準対象波形としてもよい。
図5のグラフの横軸は、ストライド数である。
図5のグラフの縦軸は、一歩目の歩行波形から抽出された対象波形と、歩数ごとに抽出された対象波形との相関係数である。
図5には、対象波形の類似性のベースラインを破線で示す。対象波形の類似性の変化は、一歩ごとの変動が大きいので、一歩ごとに類似性を検証することが難しい。しかしながら、長期にわたる対象波形の類似性の変化には、歩行の動的安定性に関わる傾向がみられる。例えば、対象波形の類似性は、ストライド数が増えるにつれて低下する傾向がある。歩容評価装置12は、長期にわたる対象波形の類似性の変化に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。
【0031】
図5のように、ストライド数が増えるにつれて、対象波形の類似性の低下率(ベースラインの傾き)は、増加する傾向がある。0~40歩程度の期間(歩行初期)において、ベースラインの傾きは、ほぼ0である。すなわち、歩行初期においては、類似性の変化を検証することが難しい。40~80歩程度の期間においては、ベースラインに負の傾きが見られる。80歩を超えた期間においては、ベースラインの傾きの絶対値が大きくなる。このように、対象波形の類似性の低下傾向は、歩行の進行に応じて変化する。例えば、対象波形の類似性の低下傾向は、主に筋肉の疲労に起因しており、個人の属性や体調に依存する。例えば、若年層と比べて老年層の方が、歩行の進行に応じた対象波形の類似性の低下が顕著になる傾向がある。例えば、疲労しているほど、歩行の進行に応じた対象波形の類似性の低下が顕著になる傾向がある。
【0032】
歩容評価装置12は、ユーザの歩行に伴う対象波形の類似性の推移に応じて、そのユーザの歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、対象波形の類似性の低下傾向に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、対象波形の類似性の低下率が所定の閾値を下回った場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。例えば、歩容評価装置12は、所定の期間、対象波形の類似性の低下率が所定の閾値を下回った場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。例えば、歩容評価装置12は、対象波形の類似性のベースラインの傾きの絶対値が所定の値を超えた場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。例えば、歩容評価装置12は、対象波形の類似性のベースラインの傾きの絶対値が急激に増大した場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。歩容評価装置12による歩行の動的安定性の評価の詳細については、後述する。
【0033】
例えば、歩容評価装置12は、歩行の進行に伴う類似性の変化に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との相違に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、平均値や最頻値、中央値などの代表値を比べて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、相加平均や相乗平均、調和平均、対数平均などの平均値を比べて、歩行の動的安定性を評価する。
【0034】
例えば、歩容評価装置12は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との差に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との差の絶対値が、所定の閾値を越えていない場合、歩行の動的安定性が高いと判定する。例えば、歩容評価装置12は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との差の絶対値が、所定の閾値を越えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。
【0035】
例えば、歩容評価装置12は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との比に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置12は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との比が、所定の閾値を越えていない場合、歩行の動的安定性が高いと判定する。例えば、歩容評価装置12は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との比が、所定の閾値を越えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。
【0036】
歩容評価装置12は、センサデータの時系列データが安定歩行の基準を満たさなくなったら、計測を終了させる。例えば、歩容評価装置12は、進行方向加速度(Y方向加速度)の値が10秒間第1閾値を越えなかったら、安定歩行の終了を検知するように構成される。歩容評価装置12は、安定歩行の終了の検知に応じて、計測を終了させる。
【0037】
対象波形の類似性の変化は、歩行セッションの終了でリセットされる。例えば、異なる歩行セッション間で、ユーザが停止したり、姿勢を変えたりすると、歩行条件が変化することによって、対象波形の類似性の変化傾向が変わる。例えば、異なる歩行セッション間で、ユーザが運動をすると、ユーザの疲労度に応じて、対象波形の類似性の変化傾向が変わる。例えば、異なる歩行セッション間で、ユーザが休憩をすると、ユーザの体力が回復することによって、対象波形の類似性の変化傾向が変わる。また、ユーザの体力の回復の度合は、年齢や性別などの属性の影響を受ける。そのため、歩容評価装置12は、単一の歩行セッションの中で対象波形の類似性の変化を検証する。
【0038】
歩容評価装置12は、歩行の動的安定性に関する情報を出力する。例えば、歩容評価装置12は、歩行の動的安定性に関する情報を、表示装置(図示しない)や携帯端末(図示しない)に出力する。表示装置に出力された情報は、表示装置や携帯端末の画面に表示される。例えば、歩容評価装置12は、歩行の動的安定性に関する情報を外部システム(図示しない)に出力する。歩容評価装置12から出力される情報は、任意の用途に使用できる。歩容評価装置12が情報を出力する通信機能については、特に限定を加えない。
【0039】
例えば、歩容評価装置12は、図示しないサーバ等に実装される。例えば、歩容評価装置12は、アプリケーションサーバによって実現されてもよい。例えば、歩容評価装置12は、携帯端末(図示しない)にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されてもよい。
【0040】
〔計測装置〕
次に、計測装置11の詳細構成について図面を参照しながら説明する。
図6は、計測装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。計測装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、およびデータ送信部115を有する。なお、計測装置11は、図示しない電源を含む。
【0041】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0042】
角速度センサ112は、3軸方向の角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0043】
制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々から、3軸方向の加速度と3軸周りの角速度を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度をデジタルデータに変換し、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)をデータ送信部115に出力する。センサデータには、デジタルデータに変換された加速度データと、デジタルデータに変換された角速度データとが少なくとも含まれる。加速度データは、3軸方向の加速度ベクトルを含む。角速度データは、3軸周りの角速度ベクトルを含む。なお、加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成してもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸周りの角度データを生成してもよい。
【0044】
例えば、制御部113は、計測装置11の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングでデータ送信部115に出力される。
【0045】
データ送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。データ送信部115は、取得したセンサデータを歩容評価装置12に送信する。データ送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを歩容評価装置12に送信してもよいし、無線通信を介してセンサデータを歩容評価装置12に送信してもよい。例えば、データ送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを歩容評価装置12に送信するように構成される。なお、データ送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0046】
〔歩容評価装置〕
次に、歩容評価装置12の詳細構成について図面を参照しながら説明する。
図7は、歩容評価装置12の構成の一例を示すブロック図である。歩容評価装置12は、識別部121、波形処理部123、記憶部125、および安定性評価部127を有する。実際には、計測装置11からセンサデータを受信する受信部や、安定性評価部127による評価結果を出力する出力部などの通信インターフェースが設けられる。
図7の構成においては、通信インターフェースについては省略する。
【0047】
識別部121は、計測装置11によって計測されたセンサデータを取得する。識別部121は、受信したセンサデータに基づいて、安定歩行の開始を検出する。例えば、識別部121は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値と閾値(第1閾値)の関係に応じて、安定歩行の開始を検出する。例えば、識別部121は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値が第1閾値を3回超えると、安定歩行の開始を検出するように構成される。
【0048】
識別部121は、センサデータの時系列データが安定歩行の基準を満たさなくなったら、計測を終了させる。例えば、識別部121は、進行方向加速度(Y方向加速度)の値が10秒間閾値を越えなかったら、安定歩行の終了を検知する。識別部121は、安定歩行の終了の検知に応じて、計測を終了させる。
【0049】
波形処理部123は、識別部121による安定歩行の開始の検出に応じて、同一の歩行セッションに関して、計測装置11によって計測されたセンサデータの時系列データを生成する。また、波形処理部123は、センサデータの時系列データを生成に合わせて、ユーザの歩数を計測する。例えば、波形処理部123は、センサデータの時系列データから、一歩行周期分の波形を切り出す。例えば、波形処理部123は、センサデータの時系列データから、一歩分の波形を切り出す。例えば、波形処理部123は、センサデータの時系列データから、一ストライド分の波形を切り出す。波形処理部123は、切り出された波形の横軸(時間)を、0~100%の歩行周期に正規化する。また、波形処理部123は、切り出された波形の縦軸(強度)を、最大の強度を基準として正規化する。
【0050】
波形処理部123は、正規化された一歩行周期分の波形(歩行波形とも呼ぶ)から、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する。例えば、波形処理部123は、対象波形として、遊脚相の期間の波形を抽出する。遊脚相の期間においては、計測装置11が宙に浮いているため、加速度のバリエーションが多く、歩数ごとの差が出やすい。歩行の動的安定性の変化は、歩数ごとの差が出やすい区間に表れやすい。そのため、遊脚相の期間の波形は、類似性の推移の検証に適している。
【0051】
例えば、波形処理部123は、センサデータの時系列データから検出される歩行イベントに基づいて、評価対象区間に含まれる歩行ピリオドに対応する対象波形を抽出してもよい。例えば、波形処理部123は、歩行波形から、爪先離地、足交差、脛骨垂直、および踵接地を検出する。例えば、波形処理部123は、爪先離地と足交差の間の区間を遊脚初期として特定する。例えば、波形処理部123は、足交差と脛骨垂直の間の区間を遊脚中期として特定する。例えば、波形処理部123は、脛骨垂直と踵接地の間の区間を遊脚終期として特定する。
【0052】
歩行の動的安定性の変化は、歩行に関わる筋肉の疲労度に依存する傾向がある。例えば、波形処理部123は、疲労度の判定対象の筋肉の種別に応じて設定された評価対象区間(歩行ピリオド)に含まれる対象波形を抽出してもよい。例えば、疲労度の判定対象の筋肉が外転筋である場合、足の分回しの特徴が表れる遊脚中期が評価対象区間に設定されることが好ましい。この場合、波形処理部123は、評価対象区間である遊脚中期に含まれる対象波形を抽出する。例えば、疲労度の判定対象の筋肉が腸腰筋である場合、大体を前方に振り出す動作の特徴が表れる遊脚初期が評価対象区間に設定されることが好ましい。この場合、波形処理部123は、評価対象区間である遊脚初期に含まれる対象波形を抽出する。
【0053】
波形処理部123は、安定歩行の開始の検出から、安定歩行の終了の検出までの区間(歩行セッションとも呼ぶ)における全ての歩行周期における対象波形を抽出する。波形処理部123は、抽出された対象波形を記憶部125に記憶させる。なお、波形処理部123は、抽出された対象波形を、安定性評価部127に出力するように構成されてもよい。また、波形処理部123は、抽出された対象波形を、外部のサーバ(図示しない)やデータベース(図示しない)に送信するように構成されてもよい。
【0054】
記憶部125には、波形処理部123によって抽出された対象波形が記憶される。記憶部125に記憶された対象波形は、安定性評価部127による類似性の評価に用いられる。なお、波形処理部123から安定性評価部127に対象波形を出力するように構成する場合や、波形処理部123から外部のサーバやデータベースに送信する場合、記憶部125を省略してもよい。
【0055】
安定性評価部127は、類似性の評価に用いられる対象波形を記憶部125から取得する。波形処理部123は、歩行セッションにおける対象波形の類似性の変化に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。なお、安定性評価部127は、波形処理部123から対象波形を取得するように構成されてもよい。
【0056】
安定性評価部127は、同一の歩行セッションにおける、基準となる歩行周期の歩行波形から抽出された基準対象波形と、それ以外の一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算する。例えば、安定性評価部127は、同一の歩行セッションにおける、一歩行周期目の歩行波形から抽出された基準対象波形と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算する。例えば、安定性評価部127は、同一の歩行セッションにおける、数歩行周期目の歩行波形から抽出された基準対象波形と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形との類似性を計算してもよい。例えば、安定性評価部127は、同一の歩行セッションにおける、数歩行周期分の歩行波形から抽出された対象波形の代表値と、それに後続する一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形の代表値との類似性を計算してもよい。なお、安定性評価部127は、ストライドや歩数ごとの類似性を計算してもよい。
【0057】
例えば、安定性評価部127は、同一のセッションにおける、基準となる歩行周期の歩行波形から抽出された基準対象波形と、それ以外の一連の歩行周期の歩行波形から抽出された対象波形とのピアソン線形相関係数を、類似性として計算する。例えば、安定性評価部127は、対象波形をベクトルとし、ベクトル間の角度に応じて、類似性を計算してもよい。例えば、異なる二つの対象波形が相似の関係にある場合、それらの対象波形のベクトル間の角度は0度になる。例えば、異なる二つの対象波形の相似性が小さくなるほど、それらの対象波形のベクトル間の角度が大きくなる。例えば、安定性評価部127は、対象波形を一つのデータ群とし、二つの対象波形の級内相関係数を、類似性として計算してもよい。例えば、安定性評価部127は、二つの対象波形の級内相関係数が完全一致した場合、それらの対象波形が一致すると判定する。例えば、安定性評価部127は、二つの対象波形の級内相関係数が完全一致しない場合、それらの対象波形が不一致であると判定する。
【0058】
例えば、安定性評価部127は、対象波形の加速度や角速度、速度、位置、角度などの値に基づいて、比較対象の区間の波形を比較する。例えば、安定性評価部127は、評価対象の筋肉の部位や動作などに応じて、比較対象の強度を選択してもよい。例えば、安定性評価部127は、左右方向加速度(X方向加速度)、進行方向加速度(Y方向加速度)、および垂直方向加速度(Z方向加速度)の強度に基づいて、比較対象の区間の波形を比較する。歩行の動的安定性は、左右方向加速度(X方向加速度)に特徴が表れる。そのため、安定性評価部127は、左右方向加速度(X方向加速度)の強度に基づいて、比較対象の区間の波形を比較してもよい。例えば、安定性評価部127は、左右方向加速度(X方向加速度)、進行方向加速度(Y方向加速度)、および垂直方向加速度(Z方向加速度)の強度のうち、左右方向加速度(X方向加速度)の重みを大きくして、比較対象の区間の波形を比較してもよい。
【0059】
安定性評価部127は、ユーザの歩行に伴う対象波形の類似性の推移に応じて、そのユーザの歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、対象波形の類似性の低下傾向に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、対象波形の類似性の低下率が所定の閾値を下回った場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。例えば、安定性評価部127は、所定の期間、対象波形の類似性の低下率が所定の閾値を下回った場合、歩行の動的安定性が低下したと判定する。
【0060】
例えば、安定性評価部127は、歩行の進行に伴う類似性の変化に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との相違に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、平均値や最頻値、中央値などの代表値を比べて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、相加平均や相乗平均、調和平均、対数平均などの平均値を比べて、歩行の動的安定性を評価する。
【0061】
例えば、安定性評価部127は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との差に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との差の絶対値が、所定の閾値を越えていない場合、歩行の動的安定性が高いと判定する。例えば、安定性評価部127は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との差の絶対値が、所定の閾値を越えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。
【0062】
例えば、安定性評価部127は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値との比に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部127は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との比が、所定の閾値を越えていない場合、歩行の動的安定性が高いと判定する。例えば、安定性評価部127は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との比が、所定の閾値を越えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。
【0063】
安定性評価部127は、歩行の動的安定性に関する情報を出力する。例えば、歩行の動的安定性に関する情報は、表示装置(図示しない)や携帯端末(図示しない)に出力される。表示装置に出力された情報は、表示装置や携帯端末の画面に表示される。例えば、歩行の動的安定性に関する情報は、外部システム(図示しない)に出力される。歩行の動的安定性に関する情報は、任意の用途に使用できる。歩行の動的安定性に関する情報が出力される通信機能については、特に限定を加えない。
【0064】
図8は、歩行者の年齢による対象波形の変化の違いを示すグラフである。
図8には、30代と50代の被検者について検証された対象波形の推移を示す。
図8は、午前中の体調のよい時間帯において、200メートル(m)の歩行で計測されたセンサデータの時系列データのうち、立脚終期から遊脚終期までの区間における対象波形の類似性の推移に関する。
図8の例では、一歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形が基準対象波形である。
図8のグラフの横軸は、ストライド数である。
図8のグラフの縦軸は、一歩目の歩行波形から抽出された対象波形と、歩数ごとに抽出された対象波形との相関係数である。立脚終期から遊脚終期までの区間は、計測装置11が宙に浮いているため、加速度のバリエーションが多く、歩数ごとの差が出やすい。そのため、立脚終期から遊脚終期までの区間は、長期的な変化を評価するのに適している。
【0065】
図8には、30代の被検者の歩行における対象波形の類似性のベースラインを実線で示し、50代の被検者の歩行における対象波形の類似性のベースラインを破線で示す。
図8のように、年齢に関係なく、ストライド数が増えるにつれて、対象波形の類似性の低下率(ベースラインの傾き)は、大きくなる傾向がある。
図8の例では、100歩の手前辺りまでは、30代と50代の対象波形の類似性の推移に顕著な相違は見られない。しかしながら、100歩を超えたあたりから、30代の被検者と比べて、50代の被検者では対象波形の類似性の低下傾向が大きい。対象波形の類似性の低下は、歩行の動的安定性の低下に対応する。すなわち、年齢に応じた歩行の動的安定性の相違は、歩行セッションの後半に表れる傾向がみられる。
【0066】
図9は、歩行者の体調の違いによる対象波形の変化の違いを示すグラフである。
図9には、30代の被検者について検証された対象波形の推移を示す。
図9は、200メートル(m)の歩行で計測されたセンサデータの時系列データのうち、立脚終期から遊脚終期までの区間における対象波形の類似性の推移に関する。
図9の例では、一歩行周期目の歩行波形から抽出された対象波形が基準対象波形である。
図9のグラフの横軸は、ストライド数である。
図9のグラフの縦軸は、一歩目の歩行波形から抽出された対象波形と、歩数ごとに抽出された対象波形との相関係数である。
【0067】
図9には、午前中の体調のよい時間帯(通常時)、筋力トレーニングで外転筋を疲労させた直後(疲労時)、および筋力トレーニングの後に4時間休憩した後(回復時)における、対象波形の推移の違いを示す。
図9には、通常時における対象波形の推移の違いを実線で示し、疲労時における対象波形の推移の違いを点線で示し、回復時における対象波形の推移の違いを二重線で示す。
図9のように、体調に関係なく、ストライド数が増えるにつれて、対象波形の類似性が低下する傾向がある。
図9の例では、60歩辺りまでは、対象波形の類似性の推移に顕著な相違は見られない。しかしながら、70歩を超えたあたりから、他の調子と比べて、疲労時における相関係数の低下が目立っている。そして、100歩を超えたあたりから、疲労時における相関係数の低下がより顕著になっている。対象波形の類似性の低下は、歩行の動的安定性の低下に対応する。すなわち、体調に応じた歩行の動的安定性の相違は、歩行セッションの後半に表れる傾向がみられる。
【0068】
図8や
図9の例のように、安定性評価部127は、短期間における対象波形の類似性ではなく、一歩行セッション内における長期的な対象波形の類似性に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。そのため、安定性評価部127は、短期的な変化では検証できない、長期的な歩行の動的安定性を評価できる。
【0069】
図10は、歩容計測システム1の利用シーンの一例を示す概念図である。
図10は、計測装置11が設置された靴100を履いたユーザの携帯端末160の画面に、そのユーザの歩行の動的安定性の評価結果に関する情報を表示させる例である。
図10の例では、歩容計測システム1の評価結果に応じて、「筋肉に疲労があるようです。転倒リスクが高まっています。転倒しないように注意してください。」という情報を、歩行の動的安定性の評価結果として、携帯端末160の画面に表示させる。携帯端末160の画面に表示された情報を確認したユーザは、その情報に応じた行動をとることができる。例えば、携帯端末160の画面に表示された情報を確認した歩行者は、その情報の内容に応じて、転倒に注意ながら歩行を継続させたり、転倒のリスクを回避して休憩したりすることができる。
【0070】
(動作)
次に、歩容計測システム1の動作について、図面を参照しながら説明する。計測装置11の動作については、説明を省略する。以下においては、計測装置11によって計測されたセンサデータの取得に応じて、その都度、歩行の動的安定性評価を行う例について説明する。以下の歩容計測システム1の動作は、上記の構成に関する説明とは異なる動作を含むこともある。
【0071】
図11は、歩容評価装置12の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図11のフローチャートに沿った説明においては、歩容評価装置12に含まれる、識別部121、波形処理部123、および安定性評価部127を動作主体として説明する。
【0072】
図11において、識別部121は、足の動きの物理量に関するセンサデータを取得する(ステップS11)。
【0073】
識別部121によって歩行セッションの開始(安定歩行開始)が検出されると(ステップS12においてYes)、波形処理部123は、波形生成処理を実行する(ステップS13)。ステップS13の波形生成処理については、後述する(
図12)。歩行セッションの開始(安定歩行開始)が検出されていない場合(ステップS12においてNo)、ステップS11に戻る。
【0074】
ステップS13の次に、安定性評価部127は、動的安定性評価処理を実行する(ステップS14)。ステップS14の動的安定性評価処理の詳細については、後述する(
図13)。
【0075】
識別部121によって歩行セッションの終了(安定歩行終了)が検出されると(ステップS15においてYes)、安定性評価部127は、歩行の動的安定性の評価結果に関する情報を出力する。識別部121によって歩行セッションの終了(安定歩行終了)が検出されていない場合(ステップS15においてNo)、ステップS14に戻る。
【0076】
ステップS16の後、処理が継続される場合(ステップS17でYes)、ステップS11に戻る。処理が継続されない場合(ステップS17でNo)、
図11のフローチャートに沿った処理は終了である。処理の継続の有無は、予め設定された基準に基づいて判定されればよい。
【0077】
〔波形生成処理〕
図12は、波形生成処理(
図11のステップS13)について説明するためのフローチャートである。
図12のフローチャートに沿った処理の説明においては、歩容評価装置12に含まれる波形処理部123を動作主体として説明する。
【0078】
図12において、まず、波形処理部123は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の波形を切り出す(ステップS111)。
【0079】
次に、波形処理部123は、一歩行周期分の波形の時間(横軸)を、0~100%の歩行周期に正規化する(ステップS112)。
【0080】
次に、波形処理部123は、一歩行周期分の波形の強度(縦軸)を、最大の強度に基づいて正規化する(ステップS113)。例えば、波形処理部123は、最大の強度を1として、一歩行周期分の波形の強度を正規化する。
【0081】
次に、波形処理部123は、正規化された波形から、歩行の動的安定性の評価対象の波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する(ステップS114)。
【0082】
一歩行周期目の場合(ステップS115でYes)、波形処理部123は、抽出された対象波形(基準対象波形)を記憶部125に記憶させる(ステップS116)。ステップS116で、
図12のフローチャートに沿った処理は終了である(
図11のステップS14に進む)。また、一歩行周期目ではない場合(ステップS115でNo)も、
図12のフローチャートに沿った処理は終了である。
【0083】
〔動的安定性評価処理〕
図13は、動的安定性評価処理(
図11のステップS14)について説明するためのフローチャートである。
図13には、所定歩数の前後で段階に分けて類似性を計算し、段階ごとに算出された類似性を比較することによって、歩行の動的安定性を評価する例を示す。
図13のフローチャートに沿った処理の説明においては、歩容評価装置12に含まれる安定性評価部127を動作主体として説明する。
【0084】
図13において、まず、安定性評価部127は、第一段階の対象波形と、基準対象波形との類似性S1を計算する(ステップS121)。第一段階は、安定歩行の検出から、所定の歩数までの間の区間の段階である。
【0085】
所定の歩数に到達した場合(ステップS122でYes)、安定性評価部127は、第二段階の対象波形と、基準対象波形との類似性S2を計算する(ステップS123)。所定の歩数に到達していない場合(ステップS122でNo)、ステップS121に戻る。
【0086】
ステップS123の次に、安定性評価部127は、類似性S1と類似性S2の数値に応じて、歩行の動的安定性を評価する(ステップS124)。例えば、安定性評価部127は、類似性S1と類似性S2の代表値に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。ステップS124で、
図13のフローチャートに沿った処理は終了である(
図11のステップS15に進む)。
【0087】
図11~
図13の説明においては、計測装置11によって計測されたセンサデータの取得に応じて、その都度、歩行の動的安定性評価を行う例について説明した。歩行セッションが予め判明しているセンサデータ群について、歩行の動的安定性を評価する場合は、安定歩行の検出/終了を省略して、波形生成処理と動的安定性評価処理を行ってもよい。
【0088】
以上のように、本実施形態の歩容計測システムは、計測装置と歩容評価装置を備える。計測装置は、ユーザの履物に配置される。計測装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。計測装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。計測装置は、生成されたセンサデータを歩容評価装置に出力する。歩容評価装置は、識別部、波形処理部、および安定性評価部を有する。識別部は、足の動きに関するセンサデータに基づいて、安定歩行が行われる歩行セッションを識別する。波形処理部は、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する。安定性評価部は、歩行の周期ごとに抽出された対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価する。安定性評価部は、歩行の動的安定性の評価結果を出力する。
【0089】
本実施形態では、同一の歩行セッションに含まれる歩行の周期ごとの評価対象区間から抽出される対象波形の類似性の推移に応じて、歩行の動的安定性を評価する。本実施形態では、歩行の周期ごとの対象波形を個々に比較するのではなく、対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価する。そのため、本実施形態によれば、偶発的な歩容変動の影響を受けずに、歩行の動的安定性を精度よく評価できる。また、本実施形態によれば、歩行セッションごとに評価するため、歩行セッション間における体調の変化に応じて、歩行の動的安定性を適切に評価できる。
【0090】
本実施形態の一態様において、波形処理部は、センサデータの時系列データを用いて、歩行周期と強度が正規化された歩行波形を生成する。波形処理部は、生成された歩行波形から、評価対象区間に含まれる対象波形を抽出する。本態様によれば、対象波形が正規化されるため、対象波形の類似性をより正確に検証できる。そのため、本態様によれば、歩行の動的安定性をより精度よく評価できる。
【0091】
本実施形態の一態様において、安定性評価部は、歩行セッションの初期段階の基準対象波形と、歩行セッションに含まれる一連の対象波形との類似性の推移に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部は、基準対象波形と、一連の対象波形との級内相関係数を類似性の指標として用いる。本態様によれば、単一の基準対象波形を基準して、一連の対象波形の類似性の推移を検証できる。そのため、本態様によれば、歩行の動的安定性をより精度よく評価できる。
【0092】
本実施形態の一態様において、安定性評価部は、所定歩数未満の第一段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値と、所定歩数以上の第二段階における基準対象波形と対象波形との類似性の代表値とを比較する。安定性評価部は、第一段階における類似性の代表値と、第二段階における類似性の代表値との比較結果に応じて、歩行の動的安定性を評価する。本態様によれば、第一段階および第二段階における対象波形の類似性の代表値の比較結果に応じて、歩行の動的安定性を評価することにより、所定歩数の前後における類似性の変化を明確に検証できる。
【0093】
本実施形態の一態様において、波形処理部は、疲労度の判定対象の筋肉の種別に応じて設定された評価対象区間から対象波形を抽出する。安定性評価部は、対象波形の類似性の長期的な推移に応じて、判定対象の筋肉の疲労度を判定する。安定性評価部は、判定対象の筋肉の疲労度の判定結果を出力する。本態様によれば、疲労度の判定対象の筋肉の種別に応じて、判定に適した対象波形を抽出することによって、判定対象の筋肉の疲労度を適切に判定できる。
【0094】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る歩容計測システム2について図面を参照しながら説明する。本実施形態の歩容計測システム2は、単一の基準対象波形を基準とするのではなく、異なる対象波形のペア間の類似性がマッピングされた類似性マトリクスを用いて、歩行の動的安定性を評価する点において、第1の実施形態とは異なる。
【0095】
(構成)
図14は、本実施形態の歩容計測システム2の構成を示すブロック図である。歩容計測システム2は、計測装置21および歩容評価装置22を備える。歩容評価装置22は、計測装置21に有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、計測装置21および歩容評価装置22は、単一の装置で構成されてもよい。また、歩容計測システム2は、計測装置21を除き、歩容評価装置22のみで構成されてもよい。
【0096】
計測装置21は、第1の実施形態の計測装置11と同様の構成である。計測装置21は、足部に設置される。計測装置21は、履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度センサによって計測される加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。計測装置21が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、位置(軌跡)も含まれる。計測装置21は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。計測装置21は、変換後のセンサデータを歩容評価装置22に送信する。
【0097】
歩容評価装置22は、計測装置21からセンサデータを受信する。歩容評価装置22は、受信したセンサデータに基づいて、安定歩行の開始を検出する。例えば、歩容評価装置22は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値と閾値(第1閾値とも呼ぶ)の関係に応じて、安定歩行の開始を検出する。例えば、歩容評価装置22は、進行方向加速度(Y方向加速度)のピーク値が第1閾値を3回超えると、安定歩行の開始を検出するように構成される。歩容評価装置22は、安定歩行の開始が検出された時点から、安定歩行の終了が検出される時点までの区間(歩行セッションとも呼ぶ)において、歩行の動的安定性評価を行う。
【0098】
歩容評価装置22は、安定歩行の開始を検出すると、計測装置21によって計測されたセンサデータの時系列データを生成する。また、歩容評価装置22は、センサデータの時系列データを生成に合わせて、ユーザの歩数を計測する。歩容評価装置22は、一歩行周期分のセンサデータの時系列データから、一歩行周期分の波形を切り出す。歩容評価装置22は、一歩行周期分の波形の横軸(時間)を、0~100%の歩行周期に正規化する。また、歩容評価装置22は、一歩行周期分の波形の縦軸(強度)を、最大の強度を基準として正規化する。
【0099】
歩容評価装置22は、正規化された一歩行周期分の波形(歩行波形とも呼ぶ)から、歩行の動的安定性の評価対象の波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する。例えば、歩容評価装置22は、対象波形として、遊脚相の期間の波形を抽出する。歩容評価装置22は、一つの歩行セッションにおける、複数の歩行周期における対象波形を抽出する。歩容評価装置22は、歩行セッションにおける対象波形の類似性の変化に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、歩容評価装置22は、同一の歩行セッションにおいて、短期、中期、および長期の対象波形の類似性を追跡する。
【0100】
歩容評価装置22は、同一の歩行セッションにおいて抽出された複数の対象波形に関して、総当たりで類似性を計算する。歩容評価装置22は、類似性が計算された複数の対象波形のペアに関する、類似性のマトリクス(類似性マトリクスとも呼ぶ)を生成する。類似性マトリクスの詳細については、後述する。歩容評価装置22は、類似性マトリクスに表れる特徴に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。
【0101】
歩容評価装置22は、センサデータの時系列データが安定歩行の基準を満たさなくなったら、計測を終了させる。例えば、歩容評価装置22は、進行方向加速度(Y方向加速度)の値が10秒間第1閾値を越えなかったら、安定歩行の終了を検知する。歩容評価装置22は、安定歩行の終了の検知に応じて、計測を終了させる。
【0102】
歩容評価装置22は、歩行の動的安定性に関する情報を出力する。例えば、歩容評価装置22は、歩行の動的安定性に関する情報を、表示装置(図示しない)や携帯端末(図示しない)に出力する。表示装置に出力された情報は、表示装置や携帯端末の画面に表示される。例えば、歩容評価装置22は、歩行の動的安定性に関する情報を外部システム(図示しない)に出力する。歩容評価装置22から出力される情報は、任意の用途に使用できる。歩容評価装置22が情報を出力する通信機能については、特に限定を加えない。
【0103】
例えば、歩容評価装置22は、図示しないサーバ等に実装される。例えば、歩容評価装置22は、アプリケーションサーバによって実現されてもよい。例えば、歩容評価装置22は、携帯端末(図示しない)にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されてもよい。定歩行の終了の検知に応じて、計測を終了させる。
【0104】
〔歩容評価装置〕
次に、歩容評価装置22の詳細構成について図面を参照しながら説明する。
図15は、歩容評価装置22の構成の一例を示すブロック図である。歩容評価装置22は、識別部221、波形処理部223、記憶部225、マトリクス生成部226、および安定性評価部227を有する。実際には、計測装置21からセンサデータを受信する受信部や、安定性評価部227による評価結果を出力する出力部などの通信インターフェースが設けられる。
図15の構成においては、通信インターフェースについては省略する。
【0105】
識別部221は、第1の実施形態の識別部121と同様の構成である。識別部221は、計測装置21によって計測されたセンサデータを取得する。識別部221は、受信したセンサデータに基づいて、安定歩行の開始を検出する。また、識別部221は、センサデータの時系列データが安定歩行の基準を満たさなくなったら、計測を終了させる。
【0106】
波形処理部223は、第1の実施形態の波形処理部123と同様の構成である。波形処理部223は、識別部221による安定歩行の特徴の検出に応じて、計測装置21によって計測されたセンサデータの時系列データを生成する。また、波形処理部223は、センサデータの時系列データを生成に合わせて、ユーザの歩数を計測する。波形処理部223は、一歩行周期分のセンサデータの時系列データから、一歩行周期分の波形を切り出す。波形処理部223は、一歩行周期分の波形の横軸(時間)を、0~100%の歩行周期に正規化する。また、波形処理部223は、一歩行周期分の波形の縦軸(強度)を、最大の強度を基準として正規化する。
【0107】
波形処理部223は、正規化された一歩行周期分の波形(歩行波形とも呼ぶ)から、歩行の動的安定性の評価対象の波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する。波形処理部223は、全ての歩行周期に関して、対象波形を抽出する。波形処理部223は、抽出された対象波形を記憶部225に記憶させる。なお、波形処理部223は、抽出された対象波形を、安定性評価部227に出力するように構成されてもよい。また、波形処理部223は、抽出された対象波形を、外部のサーバ(図示しない)に送信したり、外部のデータベース(図示しない)に送信したりするように構成されてもよい。
【0108】
記憶部225は、第1の実施形態の記憶部125と同様の構成である。記憶部225には、波形処理部223によって抽出された対象波形が記憶される。記憶部225に記憶された対象波形は、安定性評価部227による類似性の評価に用いられる。なお、波形処理部223から安定性評価部227に出力するように構成する場合や、波形処理部223から外部のサーバやデータベースに送信する場合、記憶部225を省略してもよい。
【0109】
マトリクス生成部226は、類似性の評価に用いられる対象波形を記憶部225から取得する。マトリクス生成部226は、同一の歩行セッションにおいて抽出された複数の対象波形のペアに関して、総当たりで類似性を計算する。歩容評価装置22は、類似性が計算された複数の対象波形のペアに関する類似性を、二次元的にマッピングしたマトリクス(類似性マトリクスとも呼ぶ)を生成する。類似性マトリクスでは、対象波形の類似性の大小関係を明暗(濃淡)で表す。例えば、類似性マトリクスにおいては、対象波形の類似性が大きいほど明るく(白)なり、対象波形の類似性が小さいほど暗く(黒)なるように表現される。なお、対象波形の類似性の大小関係は、明暗(濃淡)ではなく、色の違いで表示されてもよい。
【0110】
図16は、マトリクス生成部226によって生成される類似性マトリクスの一例を示す概念図である。
図16の類似性マトリクスは、同一の歩行セッションにおいて抽出された全てのストライド数iの対象波形と、全てのストライド数jの対象波形との類似性をマッピングしたものである(i、jは自然数)。
図16は、歩行者の年齢による対象波形の類似性の変化の違いを示す。
図16には、30代の被検者に関する類似性マトリクス(左側)と、50代の被検者に関する類似性マトリクス(右側)とを示す。
図16は、午前中の体調のよい時間帯において、200メートル(m)の歩行で計測されたセンサデータの時系列データのうち、立脚終期から遊脚終期までの区間における対象波形の類似性マトリクスである。同一のストライド数(i=j)の対象波形は同一であるため、それらの類似性は最大の明るさで表示される。そのため、類似性マトリクスの左上から右下にかけて、明るい対角線が表れる。また、類似性マトリクスには、同じストライド数の組み合わせが対角線に関して線対称の位置に表れる。すなわち、類似性マトリクスは、左上から右下にかけての対角線に関して、線対称である。以下においては、対角線を挟んで右上の領域に着目して説明する。
【0111】
図16の類似性マトリクスにおいては、30代の被検者(左側)と50代の被検者(右側)の双方に関して、ストライド数の増大に連れて、対象波形の類似性が低下してていく(暗くなっていく)傾向がみられる。30代の被検者(左側)と比べて、50代の被検者(右側)の方が、類似性マトリクスの右上の暗い領域の面積が大きい。これは、30代の被検者と比べて、50代の被検者の方が、対象波形の類似性の低下が早い段階から始まっていることを示す。対象波形の類似性の低下は、外転筋などの筋力に依存する傾向がある。
図16の類似性マトリクスには、年齢の違いによる筋力の違いが反映されていると推測される。
【0112】
図17は、マトリクス生成部226によって生成される類似性マトリクスの別の一例を示す概念図である。
図17には、30代の被検者に関する類似性マトリクスを示す。
図17は、歩行者の体調の違いによる対象波形の類似性の違いを示す。
図17には、午前中の体調のよい時間帯(通常時)に計測されたセンサデータに基づく類似性マトリクス(左側)と、筋力トレーニングで外転筋を疲労させた直後(疲労時)に計測されたセンサデータに基づく類似性マトリクス(右側)とを示す。
図17は、200メートル(m)の歩行で計測されたセンサデータの時系列データのうち、立脚終期から遊脚終期までの区間における対象波形の類似性マトリクスである。
図17の類似性マトリクスは、
図16の類似性マトリクスと同様の手順で生成されたものである。
【0113】
図17の類似性マトリクスにおいて、通常時(左側)と疲労時(右側)の双方に関して、ストライド数の増大に連れて、対象波形の類似性が低下してていく(暗くなっていく)傾向がみられる。通常時(左側)と比べて、疲労時(右側)の方が、類似性マトリクスの右上の暗い領域の面積が大きい。これは、通常時(左側)と比べて、疲労時(右側)の方が、対象波形の類似性の低下が早い段階から始まっていることを示す。対象波形の類似性の低下は、外転筋などの筋力に依存する傾向がある。
図17の類似性マトリクスには、筋力の疲労度の違いが反映されていると推測される。
【0114】
安定性評価部227は、類似性マトリクスの特徴に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部227は、類似性マトリクスに表れる特徴の変化に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部227は、類似性マトリクスの暗い部分に関して、歩行の動的安定性が低下していると判定する。例えば、安定性評価部227は、類似性マトリクスの暗い領域の面積に応じて、歩行の動的安定性を評価する。例えば、安定性評価部227は、類似性が基準よりも低い領域(暗い領域)の面積が、類似性マトリクスの全体の面積に対して所定の割合を超えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。例えば、安定性評価部227は、類似性マトリクスの全体の面積に対する暗い領域の面積が所定の割合を超えた場合、疲労が蓄積されていると判定する。例えば、安定性評価部227は、類似性マトリクスの全体の面積に対する暗い領域の面積の割合に応じて、ユーザの年齢を推定する。例えば、安定性評価部227は、通常時に計測されたセンサデータに関して、類似性マトリクスの全体の面積に対する暗い領域の面積の割合に応じて、ユーザの年齢を推定するように構成されてもよい。
【0115】
安定性評価部227は、歩行の動的安定性に関する情報を出力する。例えば、安定性評価部227は、歩行の動的安定性に関する情報として、類似性マトリクスを出力してもよい。例えば、歩行の動的安定性に関する情報は、表示装置(図示しない)や携帯端末(図示しない)に出力される。表示装置に出力された情報は、表示装置や携帯端末の画面に表示される。例えば、歩行の動的安定性に関する情報は、外部システム(図示しない)に出力される。歩行の動的安定性に関する情報は、任意の用途に使用できる。歩行の動的安定性に関する情報が出力される通信機能については、特に限定を加えない。
【0116】
図18は、歩容計測システム2の利用シーンの一例を示す概念図である。
図18は、計測装置21が設置された靴200を履いたユーザの携帯端末260の画面に、そのユーザの歩行の動的安定性の評価結果に関する情報を表示させる例である。
図18の例では、そのユーザに関して生成された類似性マトリクスを、携帯端末
260の画面に表示させる。また、
図18の例では、表示された類似性マトリクスに対応させて、「筋肉に疲労があるようです。転倒リスクが高まっています。転倒しないように注意してください。」という情報を、歩行の動的安定性の評価結果として、携帯端末260の画面に表示させる。携帯端末260の画面に表示された情報を閲覧したユーザは、類似性マトリクスに表れた特徴や、その類似性マトリクスに対応する情報に応じた行動をとることができる。例えば、携帯端末260の画面に表示された情報を閲覧した歩行者は、その情報の内容に応じて、転倒に注意ながら歩行を継続させたり、転倒のリスクを回避して休憩したりすることができる。
【0117】
(動作)
次に、歩容計測システム2の動作について、図面を参照しながら説明する。計測装置21の動作については、説明を省略する。以下においては、計測装置21によって計測されたセンサデータ用いて携帯端末側で対象波形を生成し、対象波形に基づいてサーバ側で歩行の動的安定性評価を行う例について説明する。以下の歩容計測システム2の動作は、上記の構成に関する説明とは異なる動作を含むこともある。
【0118】
図19は、歩容計測システム2の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図19のフローチャートに沿った説明においては、歩容計測システム2を動作主体として説明する。なお、
図19のフローチャートに沿った説明においては、歩容計測システム2に含まれる構成のうち、マトリクス生成部226と安定性評価部227がサーバ側に配置されているものとする。
【0119】
図19において、歩容計測システム2は、足の動きの物理量に関するセンサデータを取得する(ステップS21)。
【0120】
歩容計測システム2は、歩行セッションの開始(安定歩行開始)を検出すると(ステップS22においてYes)、波形生成処理を実行する(ステップS23)。ステップS23の波形生成処理については、後述する(
図20)。歩行セッションの開始(安定歩行開始)が検出されていない場合(ステップS22においてNo)、ステップS21に戻る。
【0121】
歩容計測システム2は、歩行セッションの終了(安定歩行終了)を検出すると(ステップS24においてYes)、波形生成処理によって生成された対象波形をサーバに送信する(ステップS25)。歩行セッションの終了(安定歩行終了)が検出されていない場合(ステップS24においてNo)、ステップS23に戻る。
【0122】
ステップS25の次に、歩容計測システム2は、動的安定性評価処理を実行する(ステップS26)。ステップS26の動的安定性評価処理の詳細については、後述する(
図21)。
図19のフローチャートに沿った処理においては、動的安定性評価処理がサーバ側で実行されるが、携帯端末側で動的安定性評価処理が実行されてもよい。携帯端末側で動的安定性評価処理が実行される場合は、ステップS25を省略し、ステップS23の後にステップS26が実行されればよい。
【0123】
次に、安定性評価部227は、歩行の動的安定性の評価結果を出力する(ステップS27)。ステップS27の後、処理が継続される場合(ステップS28でYes)、ステップS21に戻る。処理が継続されない場合(ステップS28でNo)、
図19のフローチャートに沿った処理は終了である。処理の継続の有無は、予め設定された基準に基づいて判定されればよい。
【0124】
〔波形生成処理〕
図20は、波形生成処理(
図19のステップS23)について説明するためのフローチャートである。
図20のフローチャートに沿った処理の説明においては、歩容評価装置12に含まれる波形処理部223を動作主体として説明する。
【0125】
図20において、まず、波形処理部223は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の波形を切り出す(ステップS211)。
【0126】
次に、波形処理部223は、一歩行周期分の波形の時間(横軸)を、0~100%の歩行周期に正規化する(ステップS212)。
【0127】
次に、波形処理部223は、一歩行周期分の波形の強度(縦軸)を、最大の強度に基づいて正規化する(ステップS213)。例えば、波形処理部223は、最大の強度を1として、一歩行周期分の波形の強度を正規化する。
【0128】
次に、波形処理部223は、正規化された波形から、歩行の動的安定性の評価対象の波形(対象波形とも呼ぶ)を抽出する(ステップS214)。
【0129】
波形処理部223は、抽出された対象波形(対象波形)を記憶部225に記憶させる(ステップS215)。
【0130】
全ての対象波形が抽出された場合(ステップS216でYes)、
図20のフローチャートに沿った処理は終了である(
図19のステップS24に進む)。全ての対象波形が抽出されていない場合(ステップS216でNo)、ステップS211に戻る。
【0131】
〔動的安定性評価処理〕
図21は、動的安定性評価処理(
図19のステップS26)について説明するためのフローチャートである。
図21のフローチャートに沿った処理の説明においては、歩容評価装置22に含まれるマトリクス生成部226と安定性評価部227を動作主体として説明する。
【0132】
図21において、まず、マトリクス生成部226は、歩行セッションに含まれる全ての対象波形の組み合わせに関して類似性を計算する(ステップS221)。
【0133】
次に、マトリクス生成部226は、歩行セッションに含まれる全ての対象波形の組み合わせに関する類似性マトリクスを生成する(ステップS222)。
【0134】
次に、安定性評価部127は、類似性マトリクスに表れた特徴に基づいて、歩行の動的安定性を評価する(ステップS223)。ステップS223の後は、
図19のステップS27に進む。
【0135】
以上においては、歩行セッションに含まれる全ての対象波形の組み合わせに関して類似性を計算する例を示したが、代表的な対象波形の組み合わせを抽出し、抽出された対象波形の組み合わせに関して類似性を計算するようにしてもよい。例えば、奇数番目の歩行周期の対象波形の組み合わせを抽出したり、偶数番目の歩行周期の対象波形の組み合わせを抽出したりしてもよい。例えば、数歩行周期ごとの対象波形の組み合わせを抽出してもよい。代表的な対象波形の組み合わせの抽出に関しては、特に限定を加えない。
【0136】
以上のように、本実施形態の歩容計測システムは、計測装置と歩容評価装置を備える。計測装置は、ユーザの履物に配置される。計測装置は、ユーザの歩行に応じて空間加速度および空間角速度を計測する。計測装置は、計測された空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成する。計測装置は、生成されたセンサデータを歩容評価装置に出力する。歩容評価装置は、識別部、波形処理部、マトリクス生成部、および安定性評価部を有する。識別部は、足の動きに関するセンサデータに基づいて、安定歩行が行われる歩行セッションを識別する。波形処理部は、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する。マトリクス生成部は、同一の歩行セッションに含まれる複数の対象波形のペアを抽出する。マトリクス生成部は、抽出された複数の対象波形のペアに関して総当たりで類似性を計算する。マトリクス生成部は、複数の対象波形のペアに関する類似性の大小関係を二次元的にマッピングした類似性マトリクスを生成する。安定性評価部は、類似性マトリクスに表れる特徴に基づいて、歩行の動的安定性を評価する。
【0137】
本実施形態の手法では、同一の歩行セッションに含まれる歩行の周期ごとの評価対象区間から抽出される対象波形の類似性の推移を、類似性マトリクスによって可視化できる。本実施形態によれば、歩行の周期ごとの対象波形を総当たりで比較した類似性を、類似性マトリクスに漏れなく反映できるため、歩行の動的安定性をより精度よく評価できる。また、本実施形態によれば、類似性マトリクスによって可視化された対象波形の類似性の推移に基づいて、歩行の動的安定性の変化をより精密に検証できる。
【0138】
本実施形態の一態様において、安定性評価部は、類似性マトリクスにおいて、類似性が基準よりも低い領域の面積が、類似性マトリクスの全体の面積に対して所定の割合を超えた場合、歩行の動的安定性が低いと判定する。本態様によれば、類似性マトリクスに基づいて、歩行の動的安定性を定量的に評価できる。また、本態様によれば、類似性マトリクスに基づいて、外転筋等の筋肉の疲労度を検証できる。
【0139】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る歩容評価装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の歩容評価装置は、第1~第2の実施形態の歩容評価装置を簡略化した構成である。
【0140】
図22は、本実施形態の歩容評価装置32の構成の一例を示すブロック図である。歩容評価装置32は、識別部321、波形処理部323、および安定性評価部327を備える。識別部321は、足の動きに関するセンサデータに基づいて安定歩行が行われる歩行セッションを識別する。波形処理部323は、同一の歩行セッションに計測されたセンサデータの時系列データから、歩行の動的安定性の評価対象区間に含まれる対象波形を、歩行の周期ごとに抽出する。安定性評価部327は、歩行の周期ごとに抽出された対象波形の類似性の推移に応じて歩行の動的安定性を評価する。安定性評価部327は、歩行の動的安定性の評価結果を出力する。
【0141】
本実施形態によれば、同一の歩行セッションに含まれる歩行の周期ごとの評価対象区間から抽出される対象波形の類似性の推移に応じて評価することによって、偶発的な歩容変動の影響を受けずに、歩行の動的安定性を精度よく評価できる。
【0142】
(ハードウェア)
ここで、本開示の各実施形態に係る処理を実行するハードウェア構成について、
図23の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、
図23の情報処理装置90は、各実施形態の処理を実行するための構成例であって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0143】
図23のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。
図23においては、インターフェースをI/F(Interface)と略記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して、互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0144】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを、主記憶装置92に展開する。プロセッサ91は、主記憶装置92に展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、各実施形態に係る処理を実行する。
【0145】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92には、プロセッサ91によって、補助記憶装置93等に格納されたプログラムが展開される。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリによって実現される。また、主記憶装置92として、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリが構成/追加されてもよい。
【0146】
補助記憶装置93は、プログラムなどの種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって実現される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0147】
入出力インターフェース95は、規格や仕様に基づいて、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0148】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器が接続されてもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成としてもよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0149】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0150】
また、情報処理装置90には、ドライブ装置が備え付けられてもよい。ドライブ装置は、プロセッサ91と記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータやプログラムの読み込み、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。ドライブ装置は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0151】
以上が、本発明の各実施形態に係る処理を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図23のハードウェア構成は、各実施形態に係る処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体によって実現されてもよい。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現されてもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0152】
各実施形態の構成要素は、任意に組み合わせてもよい。また、各実施形態の構成要素は、ソフトウェアによって実現されてもよいし、回路によって実現されてもよい。
【0153】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0154】
1、2 歩容計測システム
11、21 計測装置
12、22、32 歩容評価装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 データ送信部
121、221、321 識別部
123、223、323 波形処理部
125、225 記憶部
127、227、327 安定性評価部
226 マトリクス生成部